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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】超親水膜とその製造方法及び光学部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/02 20190101AFI20240423BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240423BHJP
   G02B 1/18 20150101ALN20240423BHJP
   G02B 1/10 20150101ALN20240423BHJP
   G02B 1/115 20150101ALN20240423BHJP
【FI】
B32B7/02
B32B7/023
G02B1/18
G02B1/10
G02B1/115
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020028990
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021133523
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 一成
(72)【発明者】
【氏名】水町 靖
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-217394(JP,A)
【文献】特開平01-208475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G02B 1/10-1/18
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも一層のナトリウム含有層を有する超親水膜であって、
前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を有し、
前記水接触角制御層が、ナトリウム非含有層であるか又はマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素を含有する層であり、
前記基板と前記ナトリウム含有層との間に、少なくとも一つの反射率調整層ユニットを有することを特徴とする超親水膜。
【請求項2】
基板上に、少なくとも一層のナトリウム含有層を有する超親水膜であって、
前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を有し、
前記水接触角制御層が、ナトリウム非含有層であるか又はマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素を含有する層であり、
前記水接触角制御層の上に、耐摩耗性向上層を有することを特徴とする超親水膜。
【請求項3】
前記ナトリウム含有層の層厚が、1~500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超親水膜。
【請求項4】
前記水接触角制御層の層厚が、0.1~50nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の超親水膜。
【請求項5】
前記ナトリウム含有層と前記水接触角制御層より構成されるユニットが、1ユニット以上積層されていることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の超親水膜。
【請求項6】
前記ナトリウム含有層におけるナトリウム含有量が、1.0~20質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の超親水膜。
【請求項7】
少なくとも一層の前記水接触角制御層におけるマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素の含有量が、0.1~20質量%の範囲内であることを特徴とする請求項から請求項までのいずれか一項に記載の超親水膜。
【請求項8】
長450~780nmの範囲内における平均光反射率が、3.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載の超親水膜。
【請求項9】
基板上に、前記反射率調整層ユニットとして、少なくとも一層の低屈折率層と、少なくとも一層の高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニットと、
低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットをこの順で有し、
前記第1反射率調整層ユニットの基板から最も遠い位置にある層が光触媒機能を有する金属酸化物を含有する光触媒層であることを特徴とする請求項1に記載の超親水膜。
【請求項10】
最表面層から前記光触媒層上面部まで貫通し、前記光触媒層の表面を露出させる細孔を有することを特徴とする請求項に記載の超親水膜。
【請求項11】
前記ナトリウム含有層が、当該超親水膜の表面から深さ50nm以下の領域に存在することを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の超親水膜。
【請求項12】
当該超親水膜の最表面層が、SiO で形成されていないことを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の超親水膜。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載の超親水膜を製造することを特徴とする超親水膜の製造方法。
【請求項14】
基板上に、少なくとも一層の低屈折率層と、少なくとも一層の高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニットを形成する工程と、
少なくとも、低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットを形成する工程と、
前記反射率調整層ユニット上に、少なくとも一層のナトリウム含有層と、前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を形成する工程を有することを特徴とする請求項13に記載の超親水膜の製造方法。
【請求項15】
前記第1反射率調整層ユニットの基板から最も遠い位置に、光触媒機能を有する金属酸化物を含有する光触媒層を形成する工程を有することを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の超親水膜の製造方法。
【請求項16】
前記水接触角制御層を、ナトリウム非含有層として形成することを特徴とする請求項13から請求項15までのいずれか一項に記載の超親水膜の製造方法。
【請求項17】
さらに、反射率調整層ユニットを形成し、前記ナトリウム含有層、前記水接触角制御層及び前記反射率調整層ユニットの少なくとも一層を、蒸着法を用い、ガス導入量が5sccm以上の条件下で成膜することを特徴とする請求項13から請求項16までのいずれか一項に記載の超親水膜の製造方法。
【請求項18】
前記反射率調整層ユニットとして、少なくとも一層の低屈折率層と、少なくとも一層の高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニットと、
低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットをこの順で形成することを特徴とする請求項17に記載の超親水膜の製造方法。
【請求項19】
少なくとも一層の前記ナトリウム含有層の成膜に用いる原材料中のナトリウム含有量が、1.0~20質量%の範囲内であることを特徴とする請求項13から請求項18までのいずれか一項に記載の超親水膜の製造方法。
【請求項20】
少なくとも一層の前記水接触角制御層の成膜に用いる原材料中のマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素の含有量が、0.1~20質量%の範囲内であることを特徴とする請求項13から請求項19までのいずれか一項に記載の超親水膜の製造方法。
【請求項21】
最表面層から前記光触媒層上面部まで貫通し、前記光触媒層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を形成する工程を有することを特徴とする請求項15に記載の超親水膜の製造方法。
【請求項22】
基板上に、少なくとも一層のナトリウム含有層を有し、かつ、前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を有する超親水膜を製造する超親水膜の製造方法であって、
前記水接触角制御層が、ナトリウム非含有層であるか又はマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素を含有する層であり、
前記ナトリウム含有層及び前記水接触角制御層の少なくとも一層を、ドライ成膜法により形成することを特徴とする超親水膜の製造方法。
【請求項23】
超親水膜を具備する光学部材であって、
前記超親水膜が、基板上に、少なくとも一層のナトリウム含有層を有し、かつ、前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を有し、
前記水接触角制御層が、ナトリウム非含有層であるか又はマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素を含有する層であることを特徴とする光学部材。
【請求項24】
前記光学部材が、レンズ、抗菌カバー部材、防カビコーティング部材又はミラーであることを特徴とする請求項23に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超親水膜とその製造方法及びそれを用いた光学部材に関する。より詳しくは、高温高湿耐性及びヒートサイクル耐性に優れた超親水膜とその製造方法及びそれを用いた光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レンズ、抗菌カバー部材、防カビコーティング部材又はミラー等の光学部材においては、耐環境性への保証要求が厳しい。例えば、レンズへの塩水噴霧試験において、レンズ表面にある反射防止層の成分である二酸化ケイ素(以下、「SiO」と表示。)が塩水に溶解することで光反射率が変化すると、ゴーストやフレアの発生の原因となる。
【0003】
また、当該レンズ上には、水滴や泥等の汚れがしばしば付着する。レンズに付着した水滴の度合によっては、カメラで撮像された画像が不鮮明となるおそれがある。また、光学部材の最表層に対しては、長期間にわたり、高温高湿環境下で保存された際に、超親水性を維持できることが要求され、各種光学部材の表面に、耐久性を備えた親水膜を付与する方法の検討がなされてきた。
【0004】
代表的な親水膜の形成方法としては、
1)無機材料を用いて、湿式法により親水膜を形成する方法、
2)有機材料を用いて、湿式法により親水膜を形成する方法、
3)無機材料を用いて、ドライ成膜法により親水膜を形成する方法、
等が挙げられる。
【0005】
上記1)項及び2)項に係る形成方法としては、例えば、特許文献1には、特定のアルコール系溶剤とオルガノシリカゾルを含有する有機基材用の曇防汚材を有機基材に接触又は塗布して、当該溶剤により有機基材の表面を膨潤させ、その膨潤面にオルガノシリカゾルを侵入させて、親水性を示すシリカ皮膜を形成する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法によれば、水接触角が低く、防汚性、防曇性、密着性及び耐久性に優れる有機基材が得られるとされている。
【0006】
しかしながら、表面に形成される当該シリカ皮膜を、光学部材、例えば、車載カメラ等に適用しようとすると、潮風に含まれる塩水、酸性雨、洗車等の際に使用される洗剤やワックス等の薬剤等による表面劣化や変質を生ずるおそれがある。例えば、特許文献1に開示されているような塗布系のシリカ(SiO)皮膜では表面がポーラスで脆いため、塩水噴霧試験でSiOが溶解し、結果皮膜が薄くなり、上記性能を維持することは困難である。また、当該シリカ皮膜はポーラスな表面のため、耐摩耗性が低下するという問題もある。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法は、湿式塗布方式による成膜方式であり、形成される親水膜は、密着性が低く、塩水噴霧や耐摩耗性に対する耐久性にも乏しかった。また、塗布工程から乾燥工程が安定しにくいために、形成される親水膜の耐久性性能のバラツキが生じていた。
【0008】
一方、3)項に係る親水膜のドライ成膜法としては、例えば、特許文献2に開示されている。特許文献2には、基材上に下地層及びリン酸(P)を含む親水層を有する多層膜が開示されており、親水性能の持続性に優れるとされている。しかしながら、特許文献2で提案されている方法では、高温高湿環境耐性(例えば、温度:85℃、湿度:85%RH)に問題を抱えていた。
【0009】
また、その他のドライ成膜による親水層の形成方法が、特許文献3に開示されている。特許文献3には、基材/誘電体多層膜/TiO含有層(光触媒層)/SiO含有層の積層体を作製し、蒸着法によって多孔質状で比較的粗い膜であるSiO膜を成膜することで原子レベルの穴を開け、TiO含有層からの光触媒機能を表面に取り出すことを開示しているが、これには下記5つの問題を抱えている。
【0010】
1)上記SiO膜の隙間が原子レベルの隙間であり、不十分なため光触媒機能を効率よく取り出せず、光触媒層であるTiOを増量するしか方法がなかった。この方法ではTiO層の厚さが厚くなるため、反射防止性が劣り、かつ反射防止性能の製造誤差感度が高くなり量産性に問題があった。
【0011】
2)また、上記SiO膜の隙間は原子レベルの細孔であるため、80℃・90%RHでの高温高湿試験1h以内で穴が詰まり、光触媒効果が失活する。
【0012】
3)さらに、上記SiO膜であると、原子レベルの空孔があるため膜が弱くなり、前記したように塩水耐性が低下し車載カメラなどの厳しい環境下では使用できない。
【0013】
4)上記SiO膜の親水性機能は、長時間の高温高湿試験時に水接触角が大きくなり撥水化してしまう問題があった。
【0014】
5)最後に、上記SiO膜で有ると耐傷性に劣り剥がれやすくなり、光反射率が変化する。
【0015】
したがって、密着性に優れ、高温高湿耐性とヒートサイクル耐性を同時に満たす超親水膜の出現が待たれる状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2013-203774号公報
【文献】国際公開第2017/170218号
【文献】特開平10-36144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、高温高湿耐性及びヒートサイクル耐性に優れた超親水膜とその製造方法及びそれを用いた光学部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、基板上に、ナトリウム含有層面側の最表面層として、水接触角制御層を形成することにより、ナトリウム含有層から表面部へのナトリウムの移動を、例えば、マグネシウム、カルシウム、セリウム、リン等を含む水接触角制御層により防止することにより、ヒートサイクル耐性を向上させると共に、ナトリウム含有層による高温高湿耐性に優れた超親水膜
が得られることを見出し、本発明を成すに至った。
【0019】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0020】
1.基板上に、少なくとも一層のナトリウム含有層を有する超親水膜であって、
前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を有し、
前記水接触角制御層が、ナトリウム非含有層であるか又はマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素を含有する層であり、
前記基板と前記ナトリウム含有層との間に、少なくとも一つの反射率調整層ユニットを有することを特徴とする超親水膜。
【0021】
2.基板上に、少なくとも一層のナトリウム含有層を有する超親水膜であって、
前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を有し、
前記水接触角制御層が、ナトリウム非含有層であるか又はマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素を含有する層であり、
前記水接触角制御層の上に、耐摩耗性向上層を有することを特徴とする超親水膜。
【0023】
.前記ナトリウム含有層の層厚が、1~500nmの範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の超親水膜。
【0024】
.前記水接触角制御層の層厚が、0.1~50nmの範囲内であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の超親水膜。
【0025】
.前記ナトリウム含有層と前記水接触角制御層より構成されるユニットが、1ユニット以上積層されていることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の超親水膜。
【0026】
.前記ナトリウム含有層におけるナトリウム含有量が、1.0~20質量%の範囲内であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の超親水膜。
【0027】
.少なくとも一層の前記水接触角制御層におけるマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素の含有量が、0.1~20質量%の範囲内であることを特徴とする第項から第項までのいずれか一項に記載の超親水膜。
【0028】
長450~780nmの範囲内における平均光反射率が、3.0%以下であることを特徴とする第1項に記載の超親水膜。
【0030】
.基板上に、前記反射率調整層ユニットとして、少なくとも一層の低屈折率層と、少なくとも一層の高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニットと、
低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットをこの順で有し、
前記第1反射率調整層ユニットの基板から最も遠い位置にある層が光触媒機能を有する金属酸化物を含有する光触媒層であることを特徴とする第1項に記載の超親水膜。
【0031】
10.最表面層から前記光触媒層上面部まで貫通し、前記光触媒層の表面を露出させる細孔を有することを特徴とする第項に記載の超親水膜。
11.前記ナトリウム含有層が、当該超親水膜の表面から深さ50nm以下の領域に存在することを特徴とする第1項から第10項までのいずれか一項に記載の超親水膜。
12.当該超親水膜の最表面層が、SiO で形成されていないことを特徴とする第1項から第11項までのいずれか一項に記載の超親水膜。
【0032】
13.第1項から第12項までのいずれか一項に記載の超親水膜を製造することを特徴とする超親水膜の製造方法。
【0033】
14.基板上に、少なくとも一層の低屈折率層と、少なくとも一層の高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニットを形成する工程と、
少なくとも、低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットを形成する工程と、
前記反射率調整層ユニット上に、少なくとも一層のナトリウム含有層と、前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を形成する工程を有することを特徴とする第13項に記載の超親水膜の製造方法。
【0034】
15.前記第1反射率調整層ユニットの基板から最も遠い位置に、光触媒機能を有する金属酸化物を含有する光触媒層を形成する工程を有することを特徴とする第13項又は第14項に記載の超親水膜の製造方法。
【0035】
16.前記水接触角制御層を、ナトリウム非含有層として形成することを特徴とする第13項から第15項までのいずれか一項に記載の超親水膜の製造方法。
【0037】
17.さらに、反射率調整層ユニットを形成し、前記ナトリウム含有層、前記水接触角制御層及び前記反射率調整層ユニットの少なくとも一層を、蒸着法を用い、ガス導入量が5sccm以上の条件下で成膜することを特徴とする第13項から第16項までのいずれか一項に記載の超親水膜の製造方法。
【0038】
18.前記反射率調整層ユニットとして、少なくとも一層の低屈折率層と、少なくとも一層の高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニットと、
低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットをこの順で形成することを特徴とする第17項に記載の超親水膜の製造方法。
【0039】
19.少なくとも一層の前記ナトリウム含有層の成膜に用いる原材料中のナトリウム含有量が、1.0~20質量%の範囲内であることを特徴とする第13項から第18項までのいずれか一項に記載の超親水膜の製造方法。
【0040】
20.少なくとも一層の前記水接触角制御層の成膜に用いる原材料中のマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素の含有量が、0.1~20質量%の範囲内であることを特徴とする第13項から第19項までのいずれか一項に記載の超親水膜の製造方法。
【0041】
21.最表面層から前記光触媒層の上面部まで貫通し、前記光触媒層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を形成する工程を有することを特徴とする第15項に記載の超親水膜の製造方法。
22.基板上に、少なくとも一層のナトリウム含有層を有し、かつ、前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を有する超親水膜を製造する超親水膜の製造方法であって、
前記水接触角制御層が、ナトリウム非含有層であるか又はマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素を含有する層であり、
前記ナトリウム含有層及び前記水接触角制御層の少なくとも一層を、ドライ成膜法により形成することを特徴とする超親水膜の製造方法。
【0042】
23.超親水膜を具備する光学部材であって、
前記超親水膜が、基板上に、少なくとも一層のナトリウム含有層を有し、かつ、前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を有し、
前記水接触角制御層が、ナトリウム非含有層であるか又はマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素を含有する層であることを特徴とする光学部材。
【0043】
24.前記光学部材が、レンズ、抗菌カバー部材、防カビコーティング部材又はミラーであることを特徴とする第23項に記載の光学部材。
【発明の効果】
【0044】
本発明の上記手段により、密着力、高温高湿耐性及びヒートサイクル耐性に優れた超親水膜とその製造方法及びそれを用いた光学部材を提供することができる。
【0045】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、以下のように推察している。
【0046】
本発明の超親水膜は、上記問題に対し鋭意検討を進めた結果、高温高湿耐性及びヒートサイクル耐性を両立させる構成として、基板上に、ナトリウム含有層からみて表面側に、水接触角制御層、より詳しくは、ナトリウムを含有していない層を形成することにより、前記ナトリウム含有層から表面側へのナトリウムの移動を水接触角制御層により防止することにより、ヒートサイクル耐性を向上させると共に、ナトリウム含有層による優れた高温高湿耐性を発現させることができる超親水膜が得られること見出したものである。
【0047】
従来、親水膜として、図1(特許文献3参照)で示すように、基板2上に、低屈折率層及び高屈折率層から構成され、最上層にTiO含有層(光触媒層)を有する第1反射率調整層ユニット5と、最表層にSiO含有する低屈折率層11Aより構成される積層体(超親水膜1)では、ナトリウムを含有していないため、85℃・85%RHという高温高湿試験により、表面の接触角が上昇し、高温高湿耐性に問題があった。また、SiO膜の隙間は分子レベルの細孔であるため、光触媒が目詰まりしていた。
【0048】
一方、基板上に低屈折率層及び高屈折率層から構成され、最上層にTiO含有層(光触媒層)を有する第1反射率調整層ユニットを形成し、更にその上に最表層としてナトリウム成分を含有するナトリウム含有層を積層した構成では、高温高湿耐性にはきわめて優れた効果を発揮するが、ナトリウム含有層を構成するナトリウム成分が表面に存在すると、より過酷な条件下でのヒートサイクル耐性(例えば、高温環境(65℃)と極低温環境(-15℃)を一定のサイクルで繰り返す処理)がやや低下し、より高品位の超親水膜を実現するためには、更なる技術改良が求められている。
【0049】
また、図2で示すように、基板上に低屈折率層及び高屈折率層から構成され、最上層にTiO含有層(光触媒層)を有する第1反射率調整層ユニット5を形成し、更にその上に最表層として水接触制御層4を単独で形成した構成の超親水膜1でも、高温高湿耐性と耐摩耗性が低下し、表面の接触角を上昇させ、親水性が劣化しまうことが判明した。
【0050】
本発明者らは、高温高湿耐性及び過酷環境下でのヒートサイクル耐性を両立させる方法について、実験等により鋭意検討を進めた結果、高温高湿特性を向上させる観点から、ナトリウム成分は表面側に存在していることが必須ではなく、表面から深さ50nm以下の領域に存在することにより、高温高湿耐性を発現させることができることが判明した。上記知見に基づき、更に検討を進めた結果、薄膜の水接触角制御層、具体的にはナトリウム非含有層を、ナトリウム含有層より表面側に設けることにより、ナトリウム含有層中のナトリウム成分の表層部への拡散を防止することができ、ナトリウム含有層による高温高湿耐性を発現させる同時に、過酷なヒートサイクル条件下でも強い高耐久な超親水膜を得ることができた。
【0051】
更に、上記水接触角制御層の設計においては、上記効果を発現させることができる構成材料について検討を進めた結果、水接触角制御層としては、ナトリウム含有層の親水性を損なわない材料でありながら、ナトリウムが表面に移動してくることを薄い層厚で抑制できる材料である必要であり、このような材料として、マグネシウム、カルシウム、セリウム又はリンが有効であることを見出したものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】従来例の親水膜の構成の一例を示す断面図
図2】従来例の親水膜の構成の他の一例を示す断面図
図3】本発明の超親水膜の基本構成の一例を示す断面図(実施形態1)
図4図3に示す第1反射率調整層ユニットの具体的構成の一例を示す断面図
図5】本発明の超親水膜の基本構成の他の一例を示す断面図(実施形態2)
図6】超親水膜を構成する第2反射率調整層ユニットの具体的構成の一例を示す断面図
図7】超親水膜を構成する第2反射率調整層ユニットの具体的構成の他の一例を示す断面図
図8】本発明の超親水膜の具体的構成の他の一例を示す断面図(実施形態3)
図9図8の構成の最表部に耐摩耗性向上層を形成した本発明の超親水膜の具体的構成の一例を示す断面図(実施形態4)
図10】IAD法に用いる真空蒸着装置の模式図
図11】超親水膜に細孔を形成する工程のフローチャート
図12】超親水膜に細孔を形成し、光触媒層を露出させる構成の一例を示す断面図(実施形態5)
図13】超親水膜に細孔を形成する一例を示す製造フロー
図14】実施例で作製した超親水膜1の断面図
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明の超親水膜は、基板上に、少なくとも一層のナトリウム含有層を有する超親水膜であって、前記ナトリウム含有層からみて水表面側に、少なくとも一層の接触角制御層を有することを特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0054】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記水接触角制御層が、ナトリウム非含有層であることが、ヒートサイクル耐性を更に向上させることができる点で好ましい。
【0055】
また、前記水接触角制御層が、マグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素を含むことが、微量であってもナトリウム成分の移動を抑制する効果を発現でき、薄膜でありながら、ナトリウムのトラップ能に優れた水接触角制御層を形成することができ、かつ、下層部のナトリウム含有層による耐熱耐湿耐性を効果的に引き出すことができる点で好ましい。
【0056】
また、ナトリウム含有層の層厚が、1~500nmの範囲内であることが、反射防止の設計が可能となり、かつ、高温高湿耐性の発現の両立を図ることができる点で好ましい。
【0057】
また、水接触角制御層の層厚が、0.1~50nmの範囲内であることが、下層に位置するナトリウム含有層の高温高湿耐性を維持でき、かつ十分なヒートサイクル耐性を発現することができる点で好ましい。
【0058】
また、ナトリウム含有層と水接触角制御層より構成されるユニットを、1ユニット以上積層する構成とすることが、より優れたヒートサイクル耐性を発現させることができる点で好ましい。
【0059】
また、少なくとも一層の前記ナトリウム含有層におけるナトリウム含有量が、1.0~20質量%の範囲内であることが、十分の高温高湿耐性を得ることができ、かつヘイズの発生を抑制することができる点で好ましい。
【0060】
また、水接触角制御層におけるマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素の含有量が、0.1~20質量%の範囲内とすることが、所望の高温高湿耐性とヒートサイクルを得ることができる点で好ましい。
【0061】
また、前記基板と前記ナトリウム含有層との間に、少なくとも一つの反射率調整層ユニットを有し、波長450~780nmの範囲内における平均光反射率が、3.0%以下であることが、光透過性に優れた超親水膜とすることができる点で好ましい。
【0062】
また、最表層に耐摩耗性向上層を設けることが、ヒートサイクル処理後でも、優れた耐摩耗性を得ることができる点で好ましい。
【0063】
本発明の超親水膜の製造方法においては、基板上に、少なくとも一層の低屈折率層と、少なくとも一層の高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニットを形成する工程と、少なくとも、低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットを形成する工程と、前記反射率調整層ユニット上に、少なくとも一層のナトリウム含有層と、前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を形成する工程を有することが、所望の構成からなる超親水膜を形成することができる点で好ましい。
【0064】
また、本発明の超親水膜の製造方法においては、水接触角制御層を、ナトリウムを含有しないナトリウム非含有層として形成することが、十分なヒートサイクル耐性を発現することができる点で好ましい。
【0065】
また、本発明の超親水膜の製造方法においては、ナトリウム含有層及び前記水接触角制御層の少なくとも一層を、ドライ成膜法により形成することが、各層間の密着性が向上し、水の噴霧試験や耐摩耗性が向上する点で好ましい。
【0066】
また、本発明の超親水膜の製造方法においては、さらに、反射率調整層ユニットを形成し、前記ナトリウム含有層、前記水接触角制御層及び前記反射率調整層ユニットの少なくとも一層を、蒸着法を用い、ガス導入量が5sccm以上の条件下で成膜することが、緻密な層を形成することができる点で好ましい。
【0067】
本発明において、「sccm」とは、standard cc/minの略であり、1気圧(大気圧1×1013hPa)、0℃で1分間あたりに何cc流れたかを示す単位である。
【0068】
また、本発明の超親水膜の製造方法においては、前記反射率調整層ユニットとして、少なくとも一層の低屈折率層と、少なくとも一層の高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニットと、低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットをこの順で形成することが、より優れた特性を備えた超親水膜を形成することができる点で好ましい。
【0069】
また、本発明の超親水膜の製造方法においては、少なくとも一層の前記ナトリウム含有層の成膜に用いる原材料中のナトリウム含有量を1.0~20質量%の範囲内とすることが、所望のナトリウム含有層を形成することができる点で好ましい。
【0070】
また、本発明の超親水膜の製造方法においては、少なくとも一層の前記水接触角制御層の成膜に用いる原材料中のマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素の含有量が、0.1~20質量%の範囲内とすることが、所望の構成からなり、ナトリウムの表面への露出を抑制することができる水接触角制御層を形成することができる点で好ましい。
【0071】
また、本発明の超親水膜の製造方法においては、最表面層から前記光触媒層上面部まで貫通し、前記光触媒層の表面を部分的に露出させる複数の細孔を形成する工程を有することが、優れた光触媒効果を発現させることができる点で好ましい。
【0072】
本発明の超親水膜は、光学部材に好適に具備され、当該光学部材が、レンズ、抗菌カバー部材、防カビコーティング部材又はミラーであることが、本発明の効果を十分に利用する観点から、好ましい。
【0073】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0074】
《超親水膜の基本構成》
本発明の超親水膜は、基板上に、少なくとも一層のナトリウム含有層を有し、前記ナトリウム含有層からみて表面側に、少なくとも一層の水接触角制御層を有する構成であることを特徴とする。
【0075】
図3は、本発明の超親水膜の基本構成の一例を示す断面図である(実施形態1)。
【0076】
図3で示す超親水膜1は、基板上2に、図4で一例を示す第1反射率調整層5を設け、その上に、ナトリウム含有層3を形成し、当該ナトリウム含有層3の上層側に、少なくとも一層の水接触角制御層4を有する構成である。
本発明の超親水膜においては、上記のとおり、ナトリウム含有層3の上層側に、少なくとも一層の水接触角制御層4を有することを特徴とするが、より具体的には、下記の層配置を挙げることができる。
1)本発明に係るナトリウム含有層3の表面側に、直接隣接した位置に水接触角制御層4が配置されている構成、
2)本発明に係るナトリウム含有層3の表面側に、水接触角制御層4を有し、ナトリウム含有層3と水接触角制御層4との間に、中間層、例えば、SiO含有層等が配置されている構成
3)ナトリウム含有層3と水接触角制御層4から構成されるユニットを複数セット積層し、ナトリウム含有層3の下部にも水接触角制御層4を有する構成、
4)本発明に係るナトリウム含有層3の表面側に、水接触角制御層4を有し、当該水接触制御層表面側に、更に、機能層、例えば、耐摩耗性向上層を有する構成で、水接触角制御層4が最表層ではない構成、
等を挙げることができる。
【0077】
本発明の超親水膜においては、前記水接触角制御層としては、ナトリウム非含有層であることが好ましい態様であり、更には、水接触角制御層が、マグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素を含む構成であることが好ましい態様である。
【0078】
本発明でいう「水接触角制御層」とは、超親水膜のヒートサイクル耐性を発現するために当該超親水膜の水接触角を、下記で規定する所定の範囲内に制御することができる機能を有する層をいう。なお、当該水接触角制御層は、本発明の効果を阻害しない限り、前記機能の外に、種々の目的・機能を有していてもよい。
【0079】
具体的には、「高温環境(65℃で4時間処置)→1℃/1分で-15℃まで降温→極低温環境(-15℃で4時間処理)→1℃/1分で65℃まで昇温」を1サイクルとし、これを6サイクル繰り返したのちでの水接触角が、20°以下を維持すること、加えて、上記ヒートサイクル処理を施したのちの水接触角Aが、未処理の超親水膜の水接触角Bに対し、水接触角の変化幅(主には、上昇幅)が+20°以内の特性を有している層と定義する。
【0080】
なお、本発明でいう水接触角は、温度23℃、湿度50%RHにおいて、前記標準液体である純水をサンプル上に約10μL滴下して、例えば、エルマ株式会社製G-1装置を用いて、サンプル上の5か所を測定し、測定値の平均から平均接触角を求め、これを水接触角とする。なお、接触角測定までの時間は、標準液体を滴下してから5秒後に測定する。
【0081】
本発明に係る水接触角制御層は、例えば、ナトリウム含有層のナトリウムが超親水膜の表面に移動して超親水膜の表面の水接触角を変化させ、その結果として、超親水膜のヒートサイクル耐性を劣化させるという現象を防止することできる制御(調整)機能を有する層であることが好ましい。
【0082】
また、本発明でいう「ナトリウム非含有層」とは、ナトリウム非含有層の全質量に対するナトリウムの含有量が1.0質量%未満であることをいい、この条件を満たすナトリウム非含有層において、上記で定義した水接触角制御層のヒートサイクル耐性を実現することができ、好ましくは0を含む0.1質量%未満であり、特には、ナトリウムを全く含有しない、0質量%であることが好ましい。また、ナトリウム非含有層の形成に用いる材料としては、ナトリウムを全く含有しない材料を適用することが好ましい。
【0083】
また、本発明でいう「ナトリウム含有層」とは、ナトリウム含有層の全質量に対するナトリウムの含有量が1.0質量%以上であり、好ましくは1.0~20質量%の範囲内である。
【0084】
また、本発明でいう「超親水膜」とは、標準液体(純水)と最上層である水接触角制御層との接触角を、JIS R3257で規定される方法に準拠して測定しときに、水接触角が20°以下である場合を、本発明では「超親水膜」と定義し、好ましくは15°以下、さらに好ましくは10°以下である。
【0085】
《超親水膜の具体的な構成及び構成要素》
以下、本発明の超親水膜の具体的な構造とその構成要素の詳細について説明する。
【0086】
〔実施形態1〕
図3は、本発明の超親水膜の代表的な基本構成の一例を示す断面図である(実施形態1)。
【0087】
本発明の超親水膜は、基板上に、少なくとも一層のナトリウム含有層を有し、前記ナトリウム含有層からみて最表面側に、水接触角制御層を有することを特徴とする。
【0088】
図3に示す超親水膜1では、基板2上に、超親水膜の光反射率を制御する目的の複数の層から構成される第1反射率調整層ユニット5を形成した後、その上に、本発明に係るナトリウム含有層3を形成し、その上に、最表層として、本発明に係るに水接触角制御層4を有している。
【0089】
以下、図3に記載の超親水膜を構成する各構成要素の詳細について説明する。
【0090】
(ナトリウム含有層)
本発明に係るナトリウム含有層としては、具体的には、主要成分としてSiOを含有し、電気陰性度がSiより小さい元素として、ナトリウムを含有すること、より詳しくは、ナトリウムを1.0~20質量%の範囲内で含有することが好ましい。
【0091】
高温高湿(85℃・85%RH)環境下でのSiO含有層の耐久性(親水性の維持)に関しては、本発明に係るナトリウム含有層は、電気陰性度がSiより小さい元素としてナトリウムを含有することによって、親水機能がより向上し、低水接触角を備えた超親水膜を形成することができる。純粋なSiOの場合に比べ、ナトリウム元素を取り込んだSiOは電子の配置に極性が発現してくるものと考えられ、これが極性分子であるHOと親和すると考えられる。すなわち、SiとOの電気陰性度差分より、ナトリウム元素とOの電気陰性度差分の方が大きく電気的な偏りが発生する。このナトリウム元素の含有量としては1.0~20質量%の範囲が最も良く電気的な偏りを発生させ、極性分子である水を引き付け、超親水性を得ることができるものと推察される。中でもナトリウム酸化物であるNaOは、融点がSiOの融点と比較的近い為、混合蒸着材としてSiOと同時成膜しやすい利点がある。蒸着された膜の組成比の点でも狂いが少ない。
【0092】
また、ナトリウムを含有させた場合は、ナトリウム由来のNaOHは潮解性があるため、外部環境の水分を取り込んで水溶液になろうとする性質が有り、高温高湿環境下で水を取り込むために親水性を長期間維持できるものと推察される。
【0093】
本発明に係るナトリウム含有層を形成する材料としては、特に制限はないが、例えば、市販品として、株式会社豊島製作所のSiO-NaO(Na含有量:5質量%、10質量%)等を適用することができる。
また、ナトリウムを混合したターゲットを作製し、スパッタリング法により、ナトリウム含有層を形成することもできる。
【0094】
本発明に係るナトリウム含有層の層厚は、1~500nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1~100nmの範囲内であり、更に好ましくは1~10nmの範囲内である。ナトリウム含有層の層厚が1nm以上であれば、所望の高温高湿耐性を得るためのナトリウム成分を付与することができ、500nm以下であれば、ヘイズの発生を抑制することができる。
【0095】
本発明に係るナトリウム含有層の形成方法としては、特に制限はないが、ドライ製膜法により形成することが好ましく、より好ましくは、蒸着法を用い、ガス導入量が5sccm以上の条件下で成膜することが好ましい。
【0096】
(水接触角制御層)
本発明に係る水接触角制御層は、より詳しくは、ナトリウムを含有していない層として形成することにより、下層部に位置するナトリウム含有層から表面部へのナトリウムの移動を水接触角制御層により防止することにより、特に、ヒートサイクル耐性を向上させると共に、ナトリウム含有層による優れた高温高湿耐性を発現させることができる超親水膜が得られる。
【0097】
本発明に係る「水接触角制御層」とは、前述の通り、超親水膜のヒートサイクル耐性を発現するために当該超親水膜の水接触角を所定の範囲内に制御することができる機能を有する層をいう。なお、当該水接触角制御層は、本発明の効果を阻害しない限り、前記機能の外に、種々の目的・機能を有していてもよい。具体的には、「高温環境(65℃で4時間処置)→1℃/1分で-15℃まで降温→極低温環境(-15℃で4時間処理)→1℃/1分で65℃まで昇温」を1サイクルとし、これを6サイクル繰り返したのちでの水接触角が、20°以下を維持すること、加えて、上記ヒートサイクル処理を施したのちの水接触角Aが、未処理の超親水膜の水接触角Bに対し、水接触角の変化幅(上昇幅)が+20°以内の特性を有している層と定義する。
【0098】
本発明に係る水接触角制御層としては、ナトリウム非含有層であることが好ましい。本発明でいうナトリウム非含有層とは、ナトリウム非含有層の全質量に対するナトリウムの含有量が1.0質量%未満であることをいい、好ましくは0を含む0.1質量%以下であり、特には、ナトリウムを全く含有しない、0質量%であることが好ましい。また、ナトリウム非含有層の形成に用いる材料としては、ナトリウムを全く含有しない材料を適用することが好ましい。
本発明において、本発明に係る水接触角制御層中のナトリウム含有量を測定する方法としては、従来公知の元素成分の分析法を適用して、求めることができる。
例えば、水接触角制御層の層厚が極めて薄いため、一つの方法としては、基板上に水接触角制御層の形成方法と同様にして、層厚として200nm程度の厚さのナトリウム含有量測定用の水接触角制御層の単層を形成し、これを水接触角制御層中のナトリウム含有量の測定用サンプルとし、下記に示すXPS組成分析により、ナトリウム含有量を測定することができる。
〈XPS組成分析〉
・装置名称:X線光電子分光分析装置(XPS)
・装置型式:Quantera SXM
・装置メーカー:アルバック・ファイ
・測定条件:X線源=単色化AlKα線25W-15kV
・真空度:5.0×10-8Pa
また、他の方法としては、シリコン基板上に水接触角制御層を所定の層厚で形成した後、上記と同様にして、XPS組成分析により、ナトリウム含有量を測定することができる。
【0099】
本発明においては、水接触角制御層の設計においては、上記効果を発現させることができる構成材料について検討を進めた結果、水接触角制御層としては、ナトリウム含有層の親水性を損なわない材料でありながら、ナトリウムが表面に移動してくることを薄い層厚で抑制できる材料である必要であり、このような材料として、マグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素を含有することが好ましい。
【0100】
本発明に係る水接触角制御層の層厚としては、0.1~50nmの範囲内であることが好ましい。これは、高温高湿耐性及び過酷環境下でのヒートサイクル耐性を両立させる観点から、超親水性を実現するナトリウム成分は最表面に存在していることが必須ではなく、最表面から深さ50nm以下の領域に存在することにより、高温高湿耐性を発現させることができる。薄膜の水接触角制御層、具体的には非ナトリウム含有層を、ナトリウム含有層上に設けることにより、ナトリウム成分の最表層への拡散を防止することができ、ナトリウム含有層による高温高湿耐性を発現させる同時に、過酷なヒートサイクル条件下でも強い高耐久な超親水膜を得ることができる。
【0101】
本発明に係る水接触角制御層の形成材料としては、ナトリウム成分が非含有であれば特に制限はなく、例えば、マグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも元素を単独、又は2種以上含有する材料を適用することができる。
【0102】
また、水接触角制御層の形成材料としては、市販品としても入手することができ、代表的な材料としては、キヤノンオプトロン社製の商品名:HP-3を挙げることができる。HP-3の組成は、C:13.9原子数%、O:60.5原子数%、P:15.4原子数%、Ca:5.0原子数%、Ce:5.3原子数%である。
【0103】
本発明に係る水接触角制御層の層厚は、0.1~50nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5~10nmの範囲内であり、更に好ましくは1~10nmの範囲内である。水接触角制御層の層厚が0.1nm以上であれば、下層部に位置するナトリウム含有層から表層部へのナトリウムの拡散を防止でき、良好なヒートサイクル耐性を得ることができる。また、50nm以下であれば、下層部に位置するナトリウム含有層の高温・高湿耐性の効果及び水接触角低下能を阻害することがない。
【0104】
本発明に係る水接触角制御層の形成方法としては、特に制限はないが、ドライ製膜法により形成することが好ましく、より好ましくは、蒸着法を用い、ガス導入量が5sccm以上の条件下で成膜することが好ましい。
【0105】
(ナトリウム含有層と水接触角制御層との積層構造)
本発明の超親水膜においては、ナトリウム含有層と水接触角制御層より構成される水接触角制御層ユニットUが、1ユニット以上積層されていることが好ましい形態であり、より好ましくは、後述の図8図9及び図14で例示するような3ユニットが積層されている構成であることが好ましい。
【0106】
(ナトリウム含有層と水接触角制御層との成膜方法)
本発明において、ナトリウム含有層と水接触角制御層との成膜方法としては、特に制限はなく、湿式法であっても乾式法であってもよいが、乾式法であることが好ましい。
【0107】
本発明に適用可能な乾式法としては、真空蒸着法、イオンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等、スパッタ系ではスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法等が挙げられるが、その中でも、イオンアシスト蒸着法(以下、本発明では「IAD」ともいう。)又はスパッタリング法であることが好ましい。
【0108】
(基板)
本発明の超親水膜の形成に適用が可能な基板としては、特に制限はないが、例えば、ガラス、ポリカーボネート樹脂やシクロオレフィン樹脂等の樹脂が挙げられ、車載用レンズであることが好ましい。
【0109】
(第1反射率調整層ユニット)
本発明においては、超親水膜の光反射率を制御する観点から、基板と本発明に係るナトリウム含有層との間に、少なくとも一つの反射率調整層ユニットを設け、波長450~780nmの範囲内における平均光反射率を、3.0%以下に制御することが好ましい。
【0110】
図4は、図3に記載した第1反射率調整層ユニット5の具体的構成の一例を示す断面図である。
【0111】
図4で示す第1反射率調整層ユニット5の構成例では、下記の第1低屈折率層11A、高屈折率層12、第2低屈折率層11B及び光触媒層13で構成されている。
【0112】
1)第1低屈折率層11A:構成材材料=SiO、層厚=22mn
2)高屈折率層12:構成材料=Ta、層厚=22nm
3)第2低屈折率層11B:構成材料=SiO、層厚=29mn
4)光触媒層13:構成材料=TiO、層厚=112nm
次いで、第1反射率調整層ユニットの各構成要素の詳細を説明する。
【0113】
〈第1低屈折率層11A及び第2低屈折率層11B〉
本発明に係る第1低屈折率層及び第2低屈折率層は、屈折率が1.7未満の材料から構成され、本発明においては、主成分としてSiOを含有する層であることが好ましい。但し、その他の金属酸化物を含有することも好ましく、SiOと一部Alの混合物やMgFなどであることも光反射率の観点から好ましい。
【0114】
〈高屈折率層12〉
本発明に係る高屈折率層は、屈折率が1.7以上の材料から構成され、例えば、Taの酸化物とTiの酸化物の混合物や、その他、Tiの酸化物、Taの酸化物、Laの酸化物とTiの酸化物の混合物等であることが好ましい。高屈折率層に用いられる金属酸化物は、屈折率が1.9以上であることがより好ましい。本発明においては、TaやTiOであることが好ましく、より好ましくはTaである。
【0115】
本発明において、高屈折率層及び低屈折率層で構成される第1反射率調整層ユニットの厚さは、特に制限されるものではないが、反射防止性能の観点から500nm以下であることが好ましく、より好ましくは、50~500nmの範囲内である。厚さが50nm以上であれば、反射防止の光学特性を発揮させることができ、厚さが500nm以下であれば、誤差感度が下がり、レンズの分光特性良品率を向上させることができる。
【0116】
〈光触媒層13〉
本発明に係る第1反射率調整層ユニット5においては、最表層として光触媒機能を有する光触媒層を設ける態様が好ましい。
【0117】
本発明に係る光触媒層には、光触媒機能を有する金属酸化物としてTiOで構成することが好ましく、高い屈折率を有し、誘電体多層膜の光反射率を低減することができる点で好ましい。
【0118】
本発明でいう「光触媒機能」とは、本発明においては光触媒による有機物分解効果をいう。これは、光触媒性を有するTiOに紫外光が照射されたときに、電子が放出された後に活性酸素やヒドロキシルラジカル(・OHラジカル)が生じ、それの強い酸化力によって有機物を分解するものである。本発明の誘電体多層膜にTiOを含有する機能層を加えることで、光学部材に付着した有機物等が汚れとして光学系を汚染するのを防止することができる。
【0119】
光触媒効果を有するか否かは、例えば、20℃・80%RHの環境下において、ペンで色づけした試料に対して紫外光を積算20Jの光量で照射し、ペンの色変化を段階的に評価することで判断できる。具体的な光触媒性能試験方法として、紫外光照射によるセルフクリーニングに関しては、例えば、メチレンブルー分解法(ISO 10678(2010))や、レザズリンインク分解法(ISO 21066(2018))を挙げることができる。
【0120】
本発明においては、基板上に、前記反射率調整層ユニットとして、少なくとも一層の低屈折率層と、少なくとも一層の高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニットと、低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットをこの順で有し、前記第1反射率調整層ユニットの基板から最も遠い位置にある層が光触媒機能を有する金属酸化物を含有する光触媒層である構成の超親水膜を形成した後、最表面層から前記光触媒層上面部まで貫通し、前記光触媒層の表面を露出させる細孔を有する構成とすることが、光触媒効果を発現させることができる点で好ましい。
【0121】
〔実施形態2〕
図5は、本発明の超親水膜の基本構成の他の一例で、図3に示す構成に対し、更に第2反射率構成層ユニット6を形成した構成を示す断面図である(実施形態2)。
【0122】
図5に記載の超親水膜1は、実施形態1(図3)と同様に、基板2上に、第1反射率調整層ユニット5を形成し、第1反射率調整層ユニット5と水接触角制御層ユニットUとの間に、反射率を制御する第2反射率調整層ユニット6を有する構成である。
【0123】
図6に、上記第2反射率調整層ユニット6の具体的な構成例1を示す。
【0124】
図6に記載の第2反射率調整層ユニット6の構成例1では、下部(基板側)より、下記の各構成層(6層)が積層された構成の一例を示してある。
【0125】
1)低屈折率層7:構成材材料=SiO、層厚=14mn
2)ナトリウム含有層3A:構成材料=SiO-NaO、層厚=24nm
3)高屈折率層8:構成材材料=TiO、層厚=2mn
4)ナトリウム含有層3A:構成材料=SiO-NaO、層厚=11nm
5)高屈折率層8:構成材材料=TiO、層厚=2mn
6)ナトリウム含有層3A:構成材料=SiO-NaO、層厚=5nm
上記構成例1からなる第2反射率調整層ユニット6を、第1反射率調整層ユニット5と水接触角制御層ユニットUとの間に設けることにより、超親水膜の平均光反射率を所望の条件、例えば、3.0%以下に制御することができる。加えて、ナトリウムを含有するナトリウム含有層3Aを、水接触角制御層ユニットUを構成するナトリウム含有層3の下層部に配置することにより、高温高湿環境下で、ナトリウム含有層3が含有するナトリウム成分の下層部への拡散を抑制し、高温高湿耐性の低下を防止することができる。
【0126】
図7に、上記第2反射率調整層ユニット6の具体的な他の構成として、構成例2を示す。
【0127】
図7に示す構成例2では、上記構成例1に対し、第2反射率調整層ユニット6を、第2反射率調整層ユニット6Aと第2反射率調整層ユニット6Bの2つのユニットに分割して構成する例を示してある。第2反射率調整層ユニット6Aと第2反射率調整層ユニット6Bでは、それぞれのSiO-NaOで構成されるナトリウム含有層3A及び3Bにおけるナトリウム濃度を変化させている。
【0128】
以下に、図7で示す第2反射率調整層ユニット6Aと第2反射率調整層ユニット6Bの基板側からの具体的な構成を示す。
【0129】
〈第2反射率調整層ユニット6A〉
1A)ナトリウム含有層3A:構成材料=SiO-NaO(ナトリウム含有量:5質量%)、層厚=5nm
2A)低屈折率層7:構成材材料=SiO、層厚=2nm
上記1A)及び2A)から構成されるセットを4セット積層して、第2反射率調整層ユニット6Aを形成している。
【0130】
〈第2反射率調整層ユニット6B〉
1B)ナトリウム含有層3B:構成材料=SiO-NaO(ナトリウム含有量:10質量%)、層厚=5nm
2B)低屈折率層7:構成材材料=SiO、層厚=2nm
上記1B)及び2B)から構成されるセットを3セット積層して、第2反射率調整層ユニット6Bを形成している。
【0131】
第2反射率調整層ユニットを上記の構成とすることにより、超親水膜の平均光反射率を所望の条件、例えば、3.0%以下に制御することができる。加えて、ナトリウムを含有するナトリウム含有層3A及び3Bを、水接触角制御層ユニットUを構成するナトリウム含有層3の下層部に配置することにより、高温高湿環境下で、ナトリウム含有層3が含有するナトリウム成分の下層部への拡散を抑制し、高温高湿耐性の低下を防止することができる。さらに、各ナトリウム含有層間に、SiOで構成される低屈折率層を設けることにより、ナトリウム含有層内において、ナトリウム成分が結晶化し、超親水膜としてのヘイズの発生や光散乱を防止することができる。また、基板側のナトリウム含有量を下げることにより、高温高湿環境下でのコート面の曇り又は散乱を防止することができる。
【0132】
〔実施形態3〕
上記説明した以外の超親水膜の具体的な構成例について説明する。
【0133】
図8は、本発明の超親水膜の具体的構成の他の一例を示す断面図で、図5で示す構成に対し、水接触角制御層ユニットUを3ユニット積層した構成を示してある。
【0134】
具体的には、図8で示すように、基板2上に、図4でその詳細な構成を説明した第1屈折率制御層ユニット5を形成し、その上に、図6でその詳細な構成を説明した第2屈折率制御層ユニット6を積層し、最後に、その上に下記のナトリウム含有層3及び水接触角制御層4からなる水接触角制御層ユニットUを3ユニット積層して、超親水膜1を形成している。
【0135】
(水接触角制御層ユニットU)
1)ナトリウム含有層3:構成材料=SiO-NaO(ナトリウム含有量:10質量%)、層厚=3nm
2)水接触角制御層4:構成材料=HP-3(前出)、層厚=5nm
〔実施形態4:耐摩耗性向上層の付与〕
図9に示す超親水膜は、上記図8で説明した構成の超親水膜に対し、更に、最表層に耐摩耗性向上層14を形成した構成を示してある。
【0136】
最表層に耐摩耗性向上層を形成することにより、過酷な条件のヒートサイクル処理後でも、優れた耐摩耗性を得ることができる。
【0137】
本発明に係る耐摩耗性向上層は、例えば、耐摩耗性向上層の成膜材料としてSiOを用い、真空蒸着装置により形成することができる。
【0138】
《超親水膜の製造方法》
次いで、上記構成からなる本発明の超親水膜の製造方法の詳細について、図を交えて説明する。
【0139】
本発明の超親水膜の製造方法としては、基板上に、少なくとも一層の低屈折率層と、少なくとも一層の高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニットを形成する工程と、少なくとも、低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットを形成する工程と、前記反射率調整層ユニット上に、少なくとも一層のナトリウム含有層と、前記ナトリウム含有層からみて最表面側に、水接触角制御層を形成する工程を有することが好ましい形態である。
【0140】
さらに、水接触角制御層を、ナトリウム非含有層として形成することが好ましい形態である。
【0141】
また、少なくとも一層のナトリウム含有層の成膜に用いる原材料中のナトリウム含有量が、1.0~20質量%の範囲内であること、あるいは、水接触角制御層の成膜に用いる原材料中のマグネシウム、カルシウム、セリウム及びリンから選ばれる少なくとも一種の元素の含有量が、0.1~20質量%の範囲内であることが好ましい形態である。
【0142】
本発明の超親水膜の製造方法にいては、ナトリウム含有層と前記水接触角制御層より構成される水接触角制御層ユニット、低屈折率層と高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニット、低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットの成膜方法としては、特に制限はなく、例えば、湿式法であっても乾式法であってもよいが、乾式法であることが好ましい。
【0143】
本発明に適用可能な乾式法(ドライ成膜法ともいう。)としては、蒸着系としては、真空蒸着法、イオンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等、スパッタ系ではスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法等が挙げられるが、その中でも、イオンアシストデポジット法(以下、本発明では「IAD」、又は「IAD法」ともいう。)又はスパッタリング法であることが好ましい。
【0144】
(イオンアシストデポジット法)
IAD法は、成膜中にイオンの持つ高い運動エネルギーを作用させて緻密な膜とし、膜の密着力を高める方法であり、例えばイオンビームによる方法は、イオンソースから照射されるイオン化されたガス分子により被着材料を加速し、基板表面に成膜する方法である。
【0145】
図10は、IAD法を用いた真空蒸着装置の一例を示す模式図である。
【0146】
IAD法を用いた真空蒸着装置101(以下、本発明ではIAD蒸着装置ともいう。)は、チャンバー102内にドーム103を具備し、ドーム103に沿って基板104が配置される。蒸着源105は蒸着物質を蒸発させる電子銃、又は抵抗加熱装置を具備し、蒸着源105から蒸着物質106が、基板4に向けて飛散し、基板104上で凝結、固化する。その際、IADイオンソース107より基板に向けてイオンビーム108を照射し、成膜中にイオンの持つ高い運動エネルギーを作用させて緻密な膜としたり、膜の密着力を高めたりする。
【0147】
ここで本発明に用いられる基板104は、ガラス、ポリカーボネート樹脂やシクロオレフィン樹脂等の樹脂が挙げられ、車載用レンズであることが好ましい。
【0148】
チャンバー102の底部には、複数の蒸着源105が配置されている。ここでは、蒸着源105として1個の蒸着源を示しているが、蒸着源105の個数は複数あってもよい。蒸着源105の成膜材料(蒸着材料)を電子銃や抵抗加熱によって蒸着物質106を発生させ、チャンバー102内に設置される基板104に成膜材料を飛散、付着させることにより、成膜材料からなる低屈折率層、高屈折率層、光触媒層、ナトリウム含有層、水接触角制御層等(例えば、低屈折率素材である、SiO等や、高屈折率素材である、TaやTiO等、ナトリウム含有層形成材料であるSiO-Na0、水接触角制御層形成材料であるHP-3等)が基板104上に成膜される。
【0149】
本発明に係るSiOを含有する構成層(例えば、低屈折率層等)を形成する場合は、蒸着源105にSiOターゲットを配置し、主成分としてSiOを含有する膜を形成することが好ましい。さらに親水機能をより向上させるために、電気陰性度がSiより小さい元素としてナトリウムを前記SiOに混合させることが好ましい。
【0150】
ナトリウム元素を加える場合は、ナトリウム含有SiOターゲットを調製し、このターゲットを蒸着源に配置し、直接蒸着することができる。別法として、SiOターゲットとナトリウムターゲット(NaO)を個別に配置し、SiOとナトリウムを共蒸着によって蒸着することもできる。本発明においては、ナトリウム含有SiOターゲットを調製し、このターゲットを蒸着源に配置し、直接蒸着することが、ナトリウムの含有精度を高める上から、好ましい。
【0151】
ナトリウムとしては、NaOを用いることが好ましく、市販されているものを使用することができる。
【0152】
また、チャンバー102には、図示しない真空排気系が設けられており、これによってチャンバー102内が真空引きされる。チャンバー内の減圧度は、通常1×10-4~1×10-1Pa、好ましくは1×10-3~1×10-2Paの範囲内である。
【0153】
ドーム103は、基板104を保持するホルダー(不図示)を、少なくとも1個保持するものであり、蒸着傘とも呼ばれる。このドーム103は、断面円弧状であり、円弧の両端を結ぶ弦の中心を通り、その弦に垂直な軸を回転対称軸として回転する回転対称形状となっている。ドーム103が軸を中心に例えば一定速度で回転することにより、ホルダーを介してドーム103に保持された基板104は、軸の周りに一定速度で公転する。
【0154】
このドーム103は、複数のホルダーを回転半径方向(公転半径方向)及び回転方向(公転方向)に並べて保持することが可能である。これにより、複数のホルダーによって保持された複数の基板104上に同時に成膜することが可能となり、積層体の製造効率を向上させることができる。
【0155】
IADイオンソース107は、本体内部にアルゴンガスや酸素ガスを導入してこれらをイオン化させ、イオン化されたガス分子(イオンビーム108)を基板104に向けて照射する機器である。アルゴンガスや酸素ガスは、イオン銃から照射された正のイオンが基板に蓄積することにより、基板全体が正に帯電する現象(いわゆる、チャージアップ)を防止するため、基板に蓄積した正の電荷を電気的に中和するニュートラライザーの用途としても用いられる。
【0156】
イオン源としては、カウフマン型(フィラメント)、ホローカソード型、RF型、バケット型、デュオプラズマトロン型等を適用することができる。IADイオンソース107から上記のガス分子を基板104に照射することにより、例えば複数の蒸発源から蒸発する成膜材料の分子を基板104に押し付けることができ、密着性及び緻密性の高い膜を基板104上に成膜することができる。IADイオンソース107は、チャンバー102の底部において基板104に対向するように設置されているが、対向軸からずれた位置に設置されていても構わない。
【0157】
IAD法では、例えば、加速電圧が100~2000Vのイオンビーム、電流密度が1~120μA/cmのイオンビーム、又は加速電圧が500~1500Vで電流密度が1~120μA/cmのイオンビームを用いることができる。成膜工程において、イオンビームの照射時間は例えば1~800秒とすることができ、またイオンビームの粒子照射数は例えば1×1013~5×1017個/cmとすることができる。成膜工程に用いられるイオンビームは、酸素のイオンビーム、アルゴンのイオンビーム、又は酸素とアルゴンの混合ガスのイオンビームとすることができる。本発明では、ガス導入量として5sccm以上の条件下で成膜することが好ましい。例えば、酸素導入量を30~60sccmの範囲内とすることが好ましい。「SCCM」は、standard cc/minの略であり、1気圧(大気圧1013hPa)、0℃で1分間あたりに何cc流れたかを示す単位であり、モニターシステム(不図示)は、真空成膜中に各蒸着源105から蒸発して自身に付着する層を監視することにより、基板104上に成膜される層の波長特性を監視するシステムである。このモニターシステムにより、基板104上に成膜される層の光学特性(例えば分光透過率、光反射率、光学層厚など)を把握することができる。また、モニターシステムは、水晶層厚モニターも含んでおり、基板104上に成膜される層の物理層厚を監視することもできる。このモニターシステムは、層の監視結果に応じて、複数の蒸発源105のON/OFFの切り替えやIADイオンソース7のON/OFFの切り替え等を制御する制御部としても機能する。
【0158】
(スパッタリング法)
スパッタリング法による成膜は、2極スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、中間的な周波数領域を用いたデュアルマグネトロンスパッタリング(DMS)、イオンビームスパッタリング、ECRスパッタリングなどを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。また、ターゲットの印加方式はターゲット種に応じて適宜選択され、DC(直流)スパッタリング、及びRF(高周波)スパッタリングのいずれを用いてもよい。
【0159】
スパッタリング法は、複数のスパッタリングターゲットを用いた多元同時スパッタリングであってもよい。これらのスパッタリングターゲットを作製する方法や、これらのスパッタリングターゲットを用いて薄膜を作製する方法については、例えば、特開2000-160331号公報、特開2004-068109号公報、特開2013-047361号公報などの記載が適宜参照されうる。
【0160】
《細孔の形成》
本発明の超親水膜においては、基板上に、前記反射率調整層ユニットとして、少なくとも一層の低屈折率層と、少なくとも一層の高屈折率層から構成される第1反射率調整層ユニットと、低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニットをこの順で有し、前記第1反射率調整層ユニットの基板から最も遠い位置にある層が光触媒機能を有する金属酸化物を含有する光触媒層を形成し、最表面層から光触媒層上面部まで貫通し、前記光触媒層の表面を露出させる細孔を有することが好ましい態様の一つである。
【0161】
はじめに、本発明の超親水膜に対し、細孔を形成する製造工程フローについて、図を交えて説明する。
【0162】
図11は、超親水膜の製造ステップ及び細孔の形成する工程の一例を示すフローチャートである。本発明では、以下で説明する製造方法に限定されるものではない。
【0163】
(ステップS11)
基板2上に、例えば、ドライ成膜法により、低屈折率層、高屈折率層等から構成される第1反射率調整層ユニット5を形成する。
【0164】
(ステップS12)
更に、第1反射率調整層ユニット5の最表層に、ドライ成膜法により、光触媒層13を形成する。
【0165】
(ステップS13)
次いで、第1反射率調整層ユニット5を構成する光触媒層13上に、ドライ成膜法により、低屈折率層、高屈折率層及びナトリウム含有層から構成される第2反射率調整層ユニット6を形成する。この時、第2反射率調整層ユニット6は、図6で説明したように、高屈折率層8及びナトリウム含有層3Aが複数層積層された構成であってもよく、また、図7で説明したように、低屈折率層7及びナトリウム含有層3Aと3Bが複数層積層された構成であってもよい。
【0166】
(ステップS14)
次いで、第2反射率調整層ユニット6上に、例えば、ドライ成膜法を用いて、ナトリウム含有層3を形成する。
【0167】
(ステップS15)
次いで、ナトリウム含有層3上に、水接触角制御層4、より好ましくはナットリウム成分を含有しない層を、例えば、ドライ成膜法を用いて形成して、超親水膜を形成する。
【0168】
なお、上記ステップS14とステップS15を繰り返して行い、複数のナトリウム含有層3/水接触角制御層4より構成されるユニットを複数セット積層して、水接触角制御層ユニットUを形成することができる。
【0169】
(ステップS16)
次いで、超親水膜の最表層上に、マスクを形成する。マスクとしては、例えば、金属部と露出部とで構成される金属マスクが挙げられる。
【0170】
(ステップS17)
次いで、マスクを介して、表面側よりエッチング装置を用いて最表面層から光触媒層13の上面部までエッチングにより貫通し、光触媒層の表面を露出させる細孔10を形成する。
【0171】
(ステップS18)
最後に、表面に形成したマスクを除去することにより、細孔を有する超親水膜を得ることができる。
【0172】
次いで、細孔を有する超親水膜の具体的な構成について説明する。
【0173】
図12は、超親水膜に細孔を形成し、光触媒層を露出させる構成の一例を示す断面図(実施形態5)である。
【0174】
図12に示すように、上述した超親水膜の形成方法に従って、基板2上に、最上層に光触媒層13を有する第1反射率調整層ユニット5を形成し、次いで、その上に、第2反射率調整層ユニット6を積層し、その上に、水接触角制御層ユニットUとして、ナトリウム含有層3と水接触角制御層4を積層し、前記図5に記載の超親水膜1を形成する。
【0175】
次いで、下記の方法に従って、マスクを用いて、反応性エッチング処理又は物理エッチング処理により、最表面層から光触媒層13の上面部まで貫通し、光触媒層の表面を露出させる細孔10を形成する。
【0176】
このような構成の細孔を形成することにより、優れた光触媒機能を発現させることができる。
【0177】
以下、本発明に係る細孔の製造フローについて、図を交えて説明する。
【0178】
図13は、超親水膜に細孔を形成する方法の一例を示す製造フロー図である。
【0179】
図13のステップ1で、上記図12で説明した構成の超親水膜1を準備する。
【0180】
次いで、ステップ2で、最上層である水接触角制御層4の表面に金属マスク9を成膜する。金属マスク9は、金属部と、露出部とで構成される。金属マスク9の層厚は、1~30nmの範囲となっている。成膜条件にもよるが、例えば蒸着法を用いて層厚を2nmとなるように金属マスク9を成膜すると粒子状となる。また、例えば、蒸着法を用いて層厚を12~15nmとなるように金属マスク50を成膜すると、金属マスク50は葉脈状になりやすい。さらに、例えばスパッタリング法を用いて層厚を10nmとなるように成膜すると、金属マスク50はポーラス状になりやすい。
【0181】
本発明においては、金属マスク9は、例えば、AgやAl等で形成され、特に、銀であり、成膜温度を20℃~400℃の範囲内、厚さを1~30nmの範囲内に制御することが、細孔の形状を制御する観点から好ましい。
【0182】
次いで、ステップ3で、エッチング装置Eを用いて最表面層から光触媒層13の上面部までエッチングにより貫通し、光触媒層の表面を露出させる細孔10を形成する。
【0183】
ステップ3で示すように、エッチングには、エッチング装置Eを用いた反応性ドライエッチング、又はIAD蒸着装置にエッチングガスを導入した装置を用いる。細孔形成工程において、エッチングガスとしては、例えば、CHF、CF、COF及びSF等を用いる。これにより、最表面層から光触媒層13の上面部まで所定のサイズでエッチングし、光触媒層13の表面を露出させる複数の細孔10が形成される。つまり、金属マスク9の露出部に対応する構成層がエッチングされて細孔10が形成され、部分的に光触媒層13の表面が露出した状態となる。
【0184】
最後に、ステップ4として、金属マスク9を除去する。具体的には、金属マスク9は、酢酸等の薬剤を用いたウェットエッチングによって除去される。また、金属マスク9は、例えば、ArやOをエッチングガスとして用いたドライエッチングによって除去してもよい。
【0185】
以上の工程により、複数の細孔10を有する超親水膜1を得ることができる。
【0186】
上記超親水膜の製造方法及び細孔の形成方法によれば、各構成層を形成後、最表面層から光触媒層13の上面部まで貫通し、光触媒層の光触媒機能を発現させるための複数の細孔10を形成することにより、超親水性と光触媒機能とを両立させることができる。
【0187】
《超親水膜の応用分野:光学部材》
本発明の超親水膜は、低い光反射率、親水性及び光触媒性を有し、塩水耐性又は耐傷性などの特性にも優れる超親水膜であり、本発明においては、本発明の超親水膜を具備した光学部材であることを特徴とし、更には、光学部材が、レンズ、抗菌カバー部材、防カビコーティング部材又はミラーであることが好ましく、例えば、車載用レンズや通信用レンズ、内視鏡用抗菌レンズ、PCやスマホの親水性部材や抗菌カバー部材、眼鏡、トイレや食器などの陶器、風呂やシンクの防カビコーティング、又は建材(窓ガラス)に好適に用いられ、中でも車載用レンズとして好適である。
【実施例
【0188】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0189】
《超親水膜の作製》
[超親水膜1の作製]
下記の方法に従って、図14に記載の基板2、第1反射率調整層ユニット5、第2反射率調整層ユニット6及び水接触角制御層ユニットUから構成される超親水膜1を作製した。
【0190】
〔基板の準備〕
基板として、SCHOTT社製の白板ガラス基板(屈折率:1.523)を準備した。
【0191】
〔第1反射率調整層ユニット5の形成〕
白板ガラス基板上に、下記の真空蒸着法により、図14で示すように、基板2側より、
1)第1低屈折率層11A(SiO、層厚:22nm)、
2)高屈折率層12(Ta+TiO、22nm)、
3)第1低屈折率層11B(SiO、層厚:29nm)、
4)光触媒層13(TiO、層厚:112nm)
を順次積層して、第1反射調整層ユニット5を形成した。
【0192】
(成膜条件・使用装置)
〈チャンバー内条件〉
加熱温度 370℃
開始真空度 5.0×10-3Pa
〈成膜材料の蒸発源〉
電子銃
〈IADイオンソース〉
シンクロン社RFイオンソースNIS-175-3
【0193】
(第1反射率調整層ユニット5の形成)
〈第1低屈折率層11Aの形成〉
第1低屈折率層11Aの成膜材料:SiO(キヤノンオプトロン社 商品名 SiO
上記の基板をIAD真空蒸着装置に設置して、第1蒸発源に成膜材料としてSiOを装填し、成膜速度3Å/secで蒸着し、層厚が22nmの第1低屈折率層11Aを形成した。
【0194】
IAD条件は、加速電圧1000V、加速電流1000mA、サプレッサー電圧500V、中和電流1500mAで、IAD導入ガスはO50sccm、Arガス0sccm、ニュートラルガスAr10sccmの条件で行った。
【0195】
〈高屈折率層12の形成〉
高屈折率層12の成膜材料:Ta(キャノンオプトロン社 商品名 OA-600)
IAD真空蒸着装置の第2蒸発源に、上記成膜材料を装填し、成膜速度4Å/secで蒸着し、上記第1低屈折率層11A上に層厚が22nmの高屈折率層12を形成した。
【0196】
当該高屈折率層12の形成は、上記と同様にIAD法により、370℃加熱条件によって行った。
【0197】
IAD条件は、加速電圧1000V、加速電流1000mA、サプレッサー電圧500V、中和電流1500mAで、IAD導入ガスはO50sccm、Arガス0sccm、ニュートラルガスAr10sccmの条件で行った。この際、ガス制御を行いチャンバー圧力が2×10-2Paになるようにオートプレッシャーコントローラー(以下、「APC」と略記する。)からOガスを導入している。
【0198】
〈第2低屈折率層11Bの形成〉
第2低屈折率層11Bの成膜材料:SiO(キヤノンオプトロン社 商品名 SiO
上記の基板をIAD真空蒸着装置に設置して、第1蒸発源に成膜材料としてSiOを装填し、成膜速度3Å/secで蒸着し、層厚が29nmの第2低屈折率層11Bを形成した。
【0199】
IAD条件は、加速電圧1000V、加速電流1000mA、サプレッサー電圧500V、中和電流1500mAで、IAD導入ガスはO50sccm、Arガス0sccm、ニュートラルガスAr10sccmの条件で行った。
【0200】
〈光触媒層13の形成〉
光触媒層13の成膜材料:TiO(富士チタン工業株式会社 商品名 T.O.P(Ti))
上記基板を真空蒸着装置に設置して、第3蒸発源に上記成膜材料を装填し、成膜速度2Å/secで蒸着し、上記第2低屈折率層11B上に厚さが112nmの光触媒層を形成した。当該光触媒層の形成は、同様にIAD法、370℃加熱条件によって行った。
【0201】
IAD条件は、加速電圧300V、加速電流300mA、サプレッサー電圧1000V、中和電流600mAで、IAD導入ガスはO50sccm、Arガス10sccm、ニュートラルガスAr10sccmの条件で行った。この際、ガス制御を行いチャンバー圧力が3×10-2PaになるようにAPCからOガスを導入した。
【0202】
〔第2反射率整層ユニット6の形成〕
上記作製した第1反射率調整層ユニット5上に、下記の真空蒸着法により、図14で示すように、8層から構成される第2反射率調整層ユニット6Aと、その上に、6層から構成される第2反射率調整層ユニット6Bを積層して、第2反射率整層ユニット6を形成した。
【0203】
1)第2反射率調整層ユニット6Aの構成
第2反射率調整層ユニット6Aは、ナトリウム含有層3A(SiO-NaO(Na含有量:5質量%)、層厚:5nm)/低屈折率層7(SiO2、層厚:2nm)のユニットを4セット積層して形成した。
【0204】
2)第2反射率調整層ユニット6Bの構成
第2反射率調整層ユニット6Bは、ナトリウム含有層3B(SiO-NaO(Na含有量:10質量%)、層厚:5nm)/低屈折率層7(SiO2、層厚:2nm)のユニットを3セット積層して形成した。
【0205】
(成膜条件・使用装置)
〈チャンバー内条件〉
加熱温度 50℃
開始真空度 3.0×10-3Pa
〈成膜材料の蒸発源〉
電子銃
〈IADイオンソース〉
シンクロン社RFイオンソースNIS-175-3
【0206】
(第2反射率調整層ユニット6Aの形成)
下記の方法に従って、第1反射率調整層ユニット5上に、下記の方法により、ナトリウム含有層3Aと低屈折率層7から構成されるユニットを4セット積層して、第2反射率調整層ユニット6Aを形成した。
【0207】
〈ナトリウム含有層3Aの形成〉
ナトリウム含有層3Aの成膜材料:株式会社豊島製作所、商品名:SiO-NaO(Na含有量:5質量%)
第1反射率調整層ユニット5まで形成した基板を、IAD真空蒸着装置に設置して、第1蒸発源に上記ナトリウム含有層3Aの成膜材料を装填し、成膜速度3Å/secで蒸着し、層厚が5nmで、Na含有量が5質量%のナトリウム含有層3Aを形成した。
【0208】
IAD条件は、加速電圧1000V、加速電流1000mA、サプレッサー電圧500V、中和電流1500mAで、IAD導入ガスはO50sccm、Arガス0sccm、ニュートラルガスAr10sccmの条件で、50℃の加熱条件によって行った。
【0209】
〈低屈折率層7の形成〉
低屈折率層の成膜材料:SiO(キヤノンオプトロン社 商品名 SiO
上記の基材をIAD真空蒸着装置に設置して、第2蒸発源に前記成膜材料を装填し、成膜速度3Å/secで蒸着し、層厚が2nmの低屈折率層7を形成した。
【0210】
IAD条件は、加速電圧1000V、加速電流1000mA、サプレッサー電圧500V、中和電流1500mAで、IAD導入ガスはO50sccm、Arガス0sccm、ニュートラルガスAr10sccmの条件で行った。50℃加熱条件によって行った。
【0211】
(第2反射率調整層ユニット6Bの形成)
下記の方法に従って、第2反射率調整層ユニット6A上に、下記の方法により形成したナトリウム含有層3Bと低屈折率層7から構成されるユニットを3セット積層して、第2反射率調整層ユニット6Bを形成した。
【0212】
〈ナトリウム含有層3Bの形成〉
ナトリウム含有層3Bの成膜材料:株式会社豊島製作所、商品名:SiO-NaO(Na含有量:10質量%)
第2反射率調整層ユニット6Aまで形成した基板を、IAD真空蒸着装置に設置して、第1蒸発源に上記成膜材料を装填し、成膜速度3Å/secで蒸着し、層厚が5nmで、Na含有量が10質量%のナトリウム含有層3Bを形成した。
【0213】
IAD条件は、加速電圧1000V、加速電流1000mA、サプレッサー電圧500V、中和電流1500mAで、IAD導入ガスはO50sccm、Arガス0sccm、ニュートラルガスAr10sccmの条件で、50℃の加熱条件によって行った。
【0214】
〈低屈折率層7の形成〉
第2反射率調整層ユニット6Aの形成に用いたのと同様にして、層厚が2nmの低屈折率層7を形成した。
【0215】
〔水接触角制御層ユニットUの形成〕
上記形成した第2反射率調整層ユニット6上に、下記の真空蒸着法により、図14で示すように、ナトリウム含有層3B(SiO-NaO(Na含有量:10質量%)、層厚:3nm)/水接触角制御層4(形成材料:HP-3層厚:5nm)のユニットを3セット積層して、水接触角制御層ユニットUを形成し、超親水膜1を作製した。
【0216】
(成膜条件・使用装置)
〈チャンバー内条件〉
加熱温度 50℃
開始真空度 3.0×10-3Pa
〈成膜材料の蒸発源〉
電子銃
〈IADイオンソース〉
シンクロン社RFイオンソースNIS-175-3
(ナトリウム含有層3Bの形成)
上記第2反射率調整層ユニット6Bの形成に用いたナトリウム含有層3Bの形成と同様にして、層厚が3nmのナトリウム含有層3Bを形成した。
【0217】
(水接触角抑制層4の形成)
水接触角制御層4の成膜材料:HP-3(キヤノンオプトロン社 商品名 HP-3)
第2反射率調整層ユニット6まで形成した基板を、IAD真空蒸着装置に設置して、第1蒸発源に上記水接触角制御層4の成膜材料を装填し、上記形成したナトリウム含有層3B上に、成膜速度2Å/secで蒸着し、水接触角抑制層4を形成した。
【0218】
HP-3の組成は、C:13.9原子数%、O:60.5原子数%、P:15.4原子数%、Ca:5.0原子数%、Ce:5.3原子数%である。
【0219】
(平均光反射率の測定)
上記作製した超親水膜の波長450~780nmの範囲内における平均光反射率を、オリンパス社製の微小領域の分光反射率測定装置であるUSPM-RUを用いて測定した結果、3.1%であった。
【0220】
(水接触角制御層のナトリウム含有量の測定)
上記超親水膜1の作製において、基板上に水接触角制御層4の形成方法と同様にして、シリコン基板上に層厚が5nmのナトリウム含有量測定用の水接触角制御層4単層を形成し、下記に示すXPS組成分析により、ナトリウム含有量を測定した結果、水接触角制御層4におけるナトリウム含有量は0.01質量%未満で、ほぼ未含有であることを確認した。表Iの「ナトリウム含有有無」の欄には「無」と表示した。
【0221】
〈XPS組成分析〉
・装置名称:X線光電子分光分析装置(XPS)
・装置型式:Quantera SXM
・装置メーカー:アルバック・ファイ
・測定条件:X線源=単色化AlKα線25W-15kV
・真空度:5.0×10-8Pa
【0222】
[超親水膜2の作製]
上記超親水膜1の作製において、水接触角制御層ユニットUを構成するナトリウム含有層3Bの層厚を0.05nmに変更し、積層するユニット数を3から1に変更した以外は同様にして、光反射率が2.4%の超親水膜2を作製した。
【0223】
なお、超親水膜2の作製において、ナトリウム含有層3Bの層厚変更及びユニット数の変更に伴う光反射率の変化に対しては、第2反射率調整層ユニットを構成する各層の膜厚を適宜変更し、光反射率が2.2%となるように調整した。
【0224】
[超親水膜3の作製]
上記超親水膜1の作製において、水接触角制御層ユニットUのユニット数を3から1に変更した以外は同様にして、光反射率が2.2%の超親水膜3を作製した。
【0225】
なお、超親水膜3の作製において、ユニット数の変更に対する光反射率の変化に対しては、第2反射率調整層ユニットを構成する各層の膜厚を適宜変更し、光反射率が2.2%となるように調整した。
【0226】
[超親水膜4の作製]
上記超親水膜2の作製において、水接触角制御層ユニットUを構成するナトリウム含有層3Bの層厚を500nmに変更した以外は同様にして、光反射率が10.1%の超親水膜4を作製した。
【0227】
なお、超親水膜4の作製において、ナトリウム含有層3Bの層厚変更に伴う光反射率の変化に対しては、第2反射率調整層ユニットを構成する各層の膜厚を適宜変更し、光反射率が10.1%となるように調整した。
【0228】
[超親水膜5の作製]
上記超親水膜3の作製において、水接触角制御層ユニットUを構成するナトリウム含有層3Bのナトリウム含有量を0.05質量%に変更した以外は同様にして、光反射率が2.4%の超親水膜5を作製した。
【0229】
なお、超親水膜5の作製において、ナトリウム含有層3Bのナトリウム含有量の変更に伴う光反射率の変化に対しては、第2反射率調整層ユニットを構成する各層の膜厚を適宜変更し、光反射率が2.4%となるように調整した。
【0230】
[超親水膜6の作製]
上記超親水膜3の作製において、水接触角制御層ユニットUを構成するナトリウム含有層3Bのナトリウム含有量を25質量%に変更した以外は同様にして、光反射率が2.2の超親水膜6を作製した。
【0231】
なお、超親水膜6の作製において、ナトリウム含有層3Bのナトリウム含有量の変更に伴う光反射率の変化に対しては、第2反射率調整層ユニットを構成する各層の膜厚を適宜変更し、光反射率が2.2%となるように調整した。
【0232】
[超親水膜7の作製]
上記超親水膜3の作製において、水接触角制御層ユニットUを構成する水接触角制御層4の層厚を0.05nmに変更した以外は同様にして、光反射率が2.1%の超親水膜7を作製した。
【0233】
なお、超親水膜7の作製において、水接触角制御層4の層厚の変更に伴う光反射率の変化に対しては、第2反射率調整層ユニットを構成する各層の膜厚を適宜変更し、光反射率が2.1%となるように調整した。
【0234】
[超親水膜8の作製]
上記超親水膜3の作製において、水接触角制御層ユニットUを構成する水接触角制御層4の層厚を60nmに変更した以外は同様にして、光反射率が6.2%の超親水膜8を作製した。
【0235】
なお、超親水膜8の作製において、水接触角制御層4の層厚の変更に伴う光反射率の変化に対しては、第2反射率調整層ユニットを構成する各層の膜厚を適宜変更し、光反射率が6.2%となるように調整した。
【0236】
[超親水膜9の作製]
上記超親水膜3の作製において、水接触角制御層ユニットUを構成する水接触角制御層4の構成材料をSiOに変更した以外は同様にして、光反射率が2.4%の超親水膜9を作製した。
【0237】
なお、超親水膜9の作製において、水接触角制御層4の構成材料の変更に伴う光反射率の変化に対しては、第2反射率調整層ユニットを構成する各層の膜厚を適宜変更し、光反射率が2.4%となるように調整した。
【0238】
[超親水膜10の作製]
上記超親水膜3の作製において、水接触角制御層ユニットUを構成する水接触角制御層4の構成材料をTiOに変更した以外は同様にして、光反射率が2.5%の超親水膜10を作製した。
【0239】
なお、超親水膜10の作製において、水接触角制御層4の構成材料の変更に伴う光反射率の変化に対しては、第2反射率調整層ユニットを構成する各層の膜厚を適宜変更し、光反射率が2.5%となるように調整した。
【0240】
[超親水膜11の作製]
上記超親水膜3の作製において、水接触角制御層ユニットU上に、下記の方法に従って耐摩擦性向上層を形成した以外は同様にして、光反射率が1.5の超親水膜11を作製した。
【0241】
(耐摩擦性向上層の成膜条件・使用装置)
〈チャンバー内条件〉
加熱温度 50℃
開始真空度 3.0×10-3Pa
〈成膜材料の蒸発源〉
電子銃
〈IADイオンソース〉
(耐摩擦性向上層の形成)
耐摩耗性向上層の成膜材料:SiO(キヤノンオプトロン社 商品名 SiO
超親水膜3をIAD真空蒸着装置に設置して、第3蒸発源に上記成膜材料を装填し、成膜速度3Å/secで蒸着し、耐摩耗性向上層を形成した。
【0242】
IADは使用せず、50℃加熱条件によって行った。この際、ガス制御を行いチャンバー圧力が3×10-2PaになるようにAPCからOガスを導入している。
【0243】
[超親水膜12の作製]
上記超親水膜11の作製において、図12に記載の方法に従って、下記の方法に従って、光触媒層13が露出するまでエッチングを行って、細孔10を形成した以外は同様にして、超親水膜12を作製した。
【0244】
〔細孔の形成〕
水接触角制御層4を形成した後、図12に示した細孔形成方法にしたがい、マスク材料としてAg、マスク成膜9として蒸着法、マスク厚さ12nm、エッチングガスCHF、及びエッチング時間60secの条件で、図12で示される細孔10を形成し、細孔を有する超親水膜12を作製した。
【0245】
詳細な細孔形成条件は以下のとおりである。
【0246】
図13に記載のステップ2で、Ag成膜には成膜装置(BES-1300)(株式会社シンクロン製)を用い、下記の条件で成膜し、Agマスクを形成した。
【0247】
加熱温度 25℃
開始真空度 1.33×10-3Pa
成膜レート 7Å/sec
図13に記載のステップ3では、エッチングとしてエッチング装置(CE-300I)(アルバック社製)を用い、下記の条件で成膜した。エッチング時間を変更することで、細孔の幅長、深さを調整した。
【0248】
アンテナRF 400W
バイアスRF 38W
APC圧力 0.5Pa
CHF流量 20sccm
エッチング時間 60sec
次いで、図13のステップ4として、薬剤を用いた銀マスクの除去を行った。
【0249】
[超親水膜13の作製]
上記超親水膜12の作製において、水接触角制御層ユニットUを構成するナトリウム含有層3Bのナトリウム含有量を5質量%に変更した以外は同様にして、光反射率が1.5の超親水膜13を作製した。
【0250】
[超親水膜14の作製:比較例]
前記超親水膜1の作製において、第1反射率調整層ユニット5までは同様にして成膜した。次いで、第1反射率調整層ユニット5上に、下記の方法に従って、真空蒸着法により、層厚が15nmのSiO膜から構成される低屈折率層11Aを形成し、図1に記載の構成からなる、超親水膜14を作製した。
【0251】
(成膜条件)
〈チャンバー内条件〉
加熱温度 200℃
開始真空度 5.0×10-3Pa
〈成膜材料の蒸発源〉
電子銃
(低屈折率層11Aの形成)
低屈折率層の成膜材料:SiO(キヤノンオプトロン社 商品名:SiO
上記の第1反射率調整層ユニット5まで形成した基板を、IAD真空蒸着装置に設置して、第1蒸発源に前記成膜材料を装填し、成膜速度0.5Å/secで蒸着し、素厚が15nmの低屈折率層11Aを形成した。
【0252】
成膜時には、IAD条件は使用しない状態でガス制御を行い、チャンバー圧力が2×10-2PaになるようにAPCからOガスを導入している。
【0253】
[超親水膜15の作製:比較例]
前記超親水膜1の作製において、第1反射率調整層ユニット5までは同様にして成膜した。次いで、第1反射率調整層ユニット5上に、下記の方法に従って、真空蒸着法により、層厚が100nmのHP-3から構成される水接触角制御層4を形成し、図2に記載の構成からなる、超親水膜15を作製した。
【0254】
(成膜条件)
〈チャンバー内条件〉
加熱温度 50℃
開始真空度 5.0×10-3Pa
〈成膜材料の蒸発源〉
電子銃
(水接触角制御層4の形成)
水接触角制御層4の成膜材料:HP-3(キヤノンオプトロン社 商品名 HP-3)
上記の第1反射率調整層ユニット5まで形成した基板を、IAD真空蒸着装置に設置して、第1蒸発源に上記水接触角制御層4の成膜材料を装填し、成膜速度2Å/secで蒸着し、水接触角抑制層4を形成した。この時、IAD条件は使用しなかった。
【0255】
HP-3の組成は、C:13.9原子数%、O:60.5原子数%、P:15.4原子数%、Ca:5.0原子数%、Ce:5.3原子数%である。
【0256】
[超親水膜16の作製:比較例]
前記超親水膜1の作製において、第1反射率調整層ユニット5までは同様にして成膜した。次いで、第1反射率調整層ユニット5上に、下記の方法に従って、真空蒸着法により、ナトリウム含有層のみ形成して、超親水膜16を作製した。
【0257】
〈ナトリウム含有層の形成〉
ナトリウム含有層の成膜材料:株式会社豊島製作所、商品名:SiO-NaO(Na含有量:10質量%)
第1反射率調整層ユニット5まで形成した基板を、IAD真空蒸着装置に設置して、第1蒸発源に上記成膜材料を装填し、成膜速度3Å/secで蒸着し、層厚が90nmで、Na含有量が10質量%のナトリウム含有層を形成した。
【表1】
【0258】
《超親水膜の評価》
上記作製した超親水膜について、下記に記載の方法に従って、各性能評価を行った。
【0259】
〔接触角Aの測定:作製直後の接触角〕
上記作製した各超親水膜について、下記の方法に従って、接触角Aを測定した。
【0260】
エルマ社製の接触角測定装置G-1を用い、23℃、50%RHの環境下で、超親水膜表面に純水を10μL滴下し、滴下5秒後の静的接触角を測定し、これを接触角Aとした。
【0261】
次いで、測定した接触角Aについて、下記の基準に従って、ランク分けした。
【0262】
◎:接触角Aが、5°未満である
〇:接触角Aが、5°以上、10°未満である
△:接触角Aが、10°以上、20°以下である
×:接触角Aが、20°を超えている
【0263】
〔ヒートサイクル耐性の評価〕
(接触角Bの測定:ヒートサイクル処理後の接触角)
各超親水膜について、高温環境として65℃で4時間維持した後、1℃/1分の条件で65℃から-15℃まで降温した後、極低温環境として-15℃で4時間維持した後、1℃/1分の条件で65℃まで昇温し、これを1サイクルとし、0~6サイクルまで繰り返した。
次いで、サイクルごとに下記の方法で接触角Bを測定し、接触角Bとして15°以下を保つことができるサイクル数を求め、下記の基準に従ってヒートサイクル耐性を評価した。
【0264】
接触角Bの測定は、エルマ社製の接触角測定装置G-1を用い、23℃、50%RHの環境下で、超親水膜表面に純水を10μL滴下し、滴下5秒後の接触角を測定し、これを接触角Bとした。
【0265】
◎:6サイクルでも接触角Bが20°以下であった
〇:3サイクル以上、5サイクル以下で接触角Bが20°以下であった
△:1サイクル以上、2サイクル以下で接触角Bが20°以下であった
×:1サイクルでも接触角Bが20°を超えていた
【0266】
(接触角変化幅の測定)
上記測定した作製直後の接触角Aに対する、ヒートサイクル処理後の接触角Bの接触角変化幅を下式より求め、下記の基準に従ってランク分けを行った。
接触角変化率=接触角B-接触角A
◎:接触角変化幅が、5°未満である
〇:接触角変化幅が、5°以上、10°未満である
△:接触角変化幅が、10°以上、20°未満である
×:接触角変化幅が、20°以上である
【0267】
〔高温高湿耐性の評価〕
各超親水膜について、高温高湿環境として85℃、85%RHの環境下で、50~150時間まで保存した後の水接触角を、上記と同様の方法で測定し、接触角として20°以下を保つことができる時間を求め、下記の基準に従って、高温高湿耐性を評価した。
◎:150時間以上でも接触角が20°以下であった
〇:100時間以上、150時間未満で接触角が20°以下であった
△:50時間以上、100時未満で接触角が20°以下であった
×:50時間で接触角が20°を超えていた
【0268】
〔耐摩耗性の評価〕
上記の方法によりヒートサイクル処理を3サイクル行った後、超親水膜の表面を、水で濡らしたキムワイプを用いて表面を1~30回往復擦ったのちの接触角を測定し、接触角として20°以下を保つことができる摩擦回数を求め、下記の基準に従って、耐摩擦性を評価した。
◎:摩擦回数が30回でも接触角が20°以下であった
〇:摩擦回数が10回以上、30回未満で接触角が20°以下であった
△:摩擦回数が3回以上、10回未満で接触角が20°以下であった
×:摩擦回数が3回でも接触角が20°を超えていた
【0269】
〔光触媒機能の評価〕
各超親水膜表面にマジックインキ(Inkintelligen社製 The Visualiser)により記号を付け、85℃・85%RHの環境下で10時間保存した後、20℃・80%RHの環境下で、積算紫外線量として,20Jとなる条件で、紫外線照射し、超親水膜表面のマジックインクが消失していれば、光触媒機能が「有」と判定した。
【0270】
以上により得られた結果を表IIに示す。
【表2】
【0271】
表IIに記載の結果より明らかなように、本発明の超親水膜は、比較例に対し、ヒートサイクル耐性と高温高湿耐性のいずれにも優れた効果を発揮していることを確認することができた。また、最表層に耐摩耗性向上層を形成した超親水膜11~13は、耐摩耗性が向上していることが分かる、更に表面部から光触媒層の上面部まで貫通した細孔を形成した超親水膜12及び13は、優れた光触媒機能を有していることを確認することができた。
【符号の説明】
【0272】
1 超親水膜
2 基板
3、3A、3B ナトリウム含有層
4 水接触角制御層
5 第1反射率調整層ユニット
6、6A、6B 第2反射率調整層ユニット
7 低屈折率層
8、12 高屈折率層
9 金属マスク
10 細孔
11A 第1低屈折率層
11B 第2低屈折率層
13 光触媒層
14 耐摩耗性向上層
E エッチング装置
U 水接触角制御層ユニット
101 IAD蒸着装置
102 チャンバー
103 ドーム
104 基板
105 蒸着源
106 蒸着物質
107 IADイオンソース
108 イオンビーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14