IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-静電荷像現像用トナー 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20240423BHJP
   G03G 9/093 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/087 325
G03G9/093
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020047356
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021148894
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舎川 直哉
(72)【発明者】
【氏名】滝ヶ浦 佑介
(72)【発明者】
【氏名】川村 貴生
(72)【発明者】
【氏名】本橋 亜美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 奈津紀
(72)【発明者】
【氏名】上田 昇
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-173558(JP,A)
【文献】特開2018-124460(JP,A)
【文献】特開2019-020492(JP,A)
【文献】特開2017-037292(JP,A)
【文献】特開2016-057382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
G03G 9/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂として、少なくとも非晶性樹脂と結晶性ポリエステル樹脂を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
前記非晶性樹脂が、少なくとも非晶性ポリエステル樹脂と非晶性ビニル樹脂を含有し、
透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー母体粒子の断面において、前記結晶性ポリエステル樹脂がドメインとして存在し、
結晶性ポリエステルドメインが、針状構造で存在し、長軸方向の個数平均長径が50~500nmの範囲内であり、平均アスペクト比が4~40の範囲内であり、
結晶性ポリエステルドメインが、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりも中心側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記結晶性ポリエステルドメインの全個数に対して80~100個数%の範囲内で分散して存在し、かつ、
前記非晶性ポリエステル樹脂が、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりもトナー母体粒子表面側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記非晶性ポリエステル樹脂の全面積に対して80~100%の範囲内で存在することを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
結着樹脂として、少なくとも非晶性樹脂と結晶性ポリエステル樹脂を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
前記非晶性樹脂が、少なくとも非晶性ポリエステル樹脂と非晶性ビニル樹脂を含有し、
前記結晶性ポリエステル樹脂が、炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノカルボン酸又は炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノアルコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物に由来する部位を有し、
透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー母体粒子の断面において、前記結晶性ポリエステル樹脂がドメインとして存在し、
結晶性ポリエステルドメインが、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりも中心側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記結晶性ポリエステルドメインの全個数に対して80~100個数%の範囲内で分散して存在し、かつ、
前記非晶性ポリエステル樹脂が、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりもトナー母体粒子表面側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記非晶性ポリエステル樹脂の全面積に対して80~100%の範囲内で存在することを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記結晶性ポリエステル樹脂に占める、炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノカルボン酸又は炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノアルコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物に由来する部位の割合が、1~15質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mw(C)が、下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
式(1):1000≦Mw(C)≦29000
【請求項5】
前記結晶性ポリエステル樹脂の酸価が、9~30mgKOH/gの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
前記結着樹脂中における前記非晶性ビニル樹脂の含有量が、50質量%以上であり、透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー母体粒子の断面において、前記非晶性ビニル樹脂が、マトリクスとして存在することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナーに関し、特に、良好な低温定着性及び折り定着性と画像出力後の画像部間のタッキングを抑制するとともに、高温高湿環境下での現像耐久性が良好な静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)の低温定着化に伴う樹脂の溶融性向上のために、結晶性樹脂を含有させたトナーを用いることが知られている。このようなトナーでは、熱圧定着時に結晶性樹脂が溶融し、結着樹脂を可塑化させるために低温定着性が向上する。
例えば、特許文献1では結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂を結着樹脂とし、結晶性ポリエステル樹脂のドメインが針状で存在し、トナー母体粒子の表面ほど、結晶性ポリエステル樹脂のドメインサイズが小さく、内部にいくほどドメインサイズを大きくすることで、低温定着性と高温オフセット性を両立している。
しかしながら、熱圧定着後の排紙画像の冷却過程で非晶性ポリエステル樹脂中に存在する結晶性ポリエステル樹脂が十分に結晶化せずに耐タッキング性が不十分であった。
特許文献2では、結晶性ポリエステル樹脂及びワックスの結晶化度を高めたトナーが提案されている。
しかしながら、結晶性樹脂のドメインがトナー表層に分布しているため、高温環境下で画像出力を行った際に、トナー飛散などの機内汚染が発生するため耐久性の面で十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-3980号公報
【文献】特開2018-4933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、良好な低温定着性及び折り定着性と画像出力後の画像部間のタッキングを抑制するとともに、高温高湿環境下での現像耐久性が良好な静電荷像現像用トナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、結着樹脂として結晶性ポリエステル樹脂及び非晶性樹脂を含有し、非晶性樹脂が非晶性ポリエステル樹脂及び非晶性ビニル樹脂を含有し、結晶性ポリエステル樹脂をトナー母体粒子の表面に偏ることなく分散して存在させることで、現像耐久性と低温定着性及び折り定着性に優れ、非晶性ポリエステル樹脂をトナー母体粒子の表面に多く存在させる(内部に非晶性ビニル樹脂を存在させる。)ことで、定着後の排紙画像中のトナー結晶化を促進できタッキングを抑制できることを見いだし本発明にいたった。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0006】
1.結着樹脂として、少なくとも非晶性樹脂と結晶性ポリエステル樹脂を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
前記非晶性樹脂が、少なくとも非晶性ポリエステル樹脂と非晶性ビニル樹脂を含有し、
透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー母体粒子の断面において、前記結晶性ポリエステル樹脂がドメインとして存在し、
結晶性ポリエステルドメインが、針状構造で存在し、長軸方向の個数平均長径が50~500nmの範囲内であり、平均アスペクト比が4~40の範囲内であり、
結晶性ポリエステルドメインが、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりも中心側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記結晶性ポリエステルドメインの全個数に対して80~100個数%の範囲内で分散して存在し、かつ、
前記非晶性ポリエステル樹脂が、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりもトナー母体粒子表面側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記非晶性ポリエステル樹脂の全面積に対して80~100%の範囲内で存在することを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【0008】
2.結着樹脂として、少なくとも非晶性樹脂と結晶性ポリエステル樹脂を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
前記非晶性樹脂が、少なくとも非晶性ポリエステル樹脂と非晶性ビニル樹脂を含有し、
前記結晶性ポリエステル樹脂が、炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノカルボン酸又は炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノアルコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物に由来する部位を有し、
透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー母体粒子の断面において、前記結晶性ポリエステル樹脂がドメインとして存在し、
結晶性ポリエステルドメインが、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりも中心側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記結晶性ポリエステルドメインの全個数に対して80~100個数%の範囲内で分散して存在し、かつ、
前記非晶性ポリエステル樹脂が、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりもトナー母体粒子表面側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記非晶性ポリエステル樹脂の全面積に対して80~100%の範囲内で存在することを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【0009】
.前記結晶性ポリエステル樹脂に占める、炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノカルボン酸又は炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノアルコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物に由来する部位の割合が、1~15質量%の範囲内であることを特徴とする第1項又は2項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0010】
.前記結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mw(C)が、下記式(1)を満たすことを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
式(1):1000≦Mw(C)≦29000
【0011】
.前記結晶性ポリエステル樹脂の酸価が、9~30mgKOH/gの範囲内であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0012】
.前記結着樹脂中における前記非晶性ビニル樹脂の含有量が、50質量%以上であり、透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー母体粒子の断面において、前記非晶性ビニル樹脂が、マトリクスとして存在することを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記手段により、良好な低温定着性及び折り定着性と画像出力後の画像部間のタッキングを抑制するとともに、高温高湿環境下での現像耐久性が良好な静電荷像現像用トナーを提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
定着時の熱エネルギーを有効的にトナー変形力に変換して低温定着性を向上させるためには、結晶性ポリエステル樹脂をトナー母体粒子中に分散して存在させる必要がある。タッキングを抑制するためには、排紙冷却過程における結晶性ポリエステル樹脂の結晶化を促進することが重要となる。また、一般的に結晶性ポリエステル樹脂は、非晶性ビニル樹脂や非晶性ポリエステル樹脂に比べて電気抵抗が低いため、トナー母体粒子の表面に存在すると、高温高湿環境下での連続出力時に帯電性が低下し、安定な現像特性が維持できないことが分かった。
そこで、検討を重ねた結果、良好な現像性と低温定着性及び耐タッキング性を得るためには、現像時には結晶性ポリエステル樹脂がトナー母体粒子の表面に存在し過ぎずトナー母体粒子中に分散させるとともに、結晶性ポリエステル樹脂の溶融時にトナー母体粒子の表面に非晶性ポリエステル樹脂を多く存在させることで、排紙後の冷却過程で素早く結晶化させることが望ましい。
【0014】
本発明では、トナー母体粒子の断面を観察したときに、結晶性ポリエステル樹脂がトナー母体粒子の表面から中心までの15%の距離よりも中心側(深さ方向)の領域に、結晶性ポリエステル樹脂のドメインの全個数に対する80~100個数%の範囲内で分散して存在することで、トナー母体粒子の表面に過剰な結晶性ポリエステル樹脂が存在しないため、現像耐久性に優れる。また、トナー母体粒子全体に分散して存在しているため、低温定着性と耐タッキング性に優れる。
また、非晶性樹脂のうち非晶性ポリエステル樹脂が、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりも表面側の領域に、トナー母体粒子断面全体における非晶性ポリエステル樹脂の全面積に対して80~100%の範囲内で存在することで、定着後の画像折り耐久性が良好となる。また、定着画像出力後の再結晶化速度を速くすることができ、画像印字部を硬くできるため、画像間の融着によるタッキングを抑制することができる。
さらに、非晶性ビニル樹脂がトナー母体粒子の内部に存在することで、結晶性ポリエステル樹脂の結晶核形成、及び結晶化速度を高めることができ、トナー母体粒子内部で凝集などせずに微分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るトナー母体粒子を断面観察した際の模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の静電荷像現像用トナーは、結着樹脂として、少なくとも非晶性樹脂と結晶性ポリエステル樹脂を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像剤用トナーであって、前記非晶性樹脂が、少なくとも非晶性ポリエステル樹脂と非晶性ビニル樹脂を含有し、透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー母体粒子の断面において、前記結晶性ポリエステル樹脂がドメインとして存在し、結晶性ポリエステルドメインが、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりも中心側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記結晶性ポリエステルドメインの全個数に対して80~100個数%の範囲内で分散して存在し、かつ、前記非晶性ポリエステル樹脂が、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりもトナー母体粒子表面側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記非晶性ポリエステル樹脂の全面積に対して80~100%の範囲内で存在することを特徴とする。
この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0017】
本発明の実施態様としては、前記結晶性ポリエステルドメインが、針状構造で存在し、長軸方向の個数平均長径が50~500nmの範囲内であり、平均アスペクト比が4~40の範囲内であることが好ましい。結晶性ポリエステルドメインを上記範囲の針状構造とすることで、1ドメイン当たりの溶融に要するエネルギーを抑えることができるため、低温定着性に優れるとともに、加熱定着後の結晶化速度を速くすることができ、画像上のトナーを素早く硬化できるため、画像間の融着によるタッキングを抑制することができる。
また、前記個数平均長径が、50nm以上であると、溶融エネルギーが小さくならずに、周りの非晶性樹脂の可塑化が十分に進み低温定着性が良好に得られると考えられる。500nm以下であると、トナー粒子中の非晶性ポリエステル樹脂、あるいはビニル系樹脂の連続性が得られ易くなり、定着画像が脆くなることを防止でき、折り定着性が十分に得られる。
また、平均アスペクト比が4以上にあると、針状構造の結晶性ポリエステルドメインが積み重なった形態が相対的に多く観察されることがなく、ドメイン自体の起点数が少なくならないため、トナーを素早く可塑化する効果が得られ、低温定着性が十分に得られる。また、結晶化部位の数も少なくなることが防止されるため、タッキング性が十分に得られる。平均アスペクト比が40以下であると、結晶性ポリステル樹脂の電気抵抗の低さによるトナー内部での電荷移動が生じ易くならずに、帯電性が向上し、その結果、トナー飛散が生じにくくなり現像耐久性が良好となる。
【0018】
前記結晶性ポリエステル樹脂が、炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノカルボン酸又は炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノアルコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物に由来する部位を有することが好ましい。これにより、前記化合物に由来する部位が、結着樹脂に対して疎水化し非相溶化するため、結晶核として働きやすく、結晶化速度を速めることができる。
なお、脂肪族モノカルボン酸と脂肪族モノアルコールに効果の有意差はないが、炭素数が多くなる(長鎖)ほど、疎水化するものの、炭化水素部位がワックス(離型剤)成分と相溶部分を形成してしまい、結晶核の形成を阻害しタッキングが悪くなり、一方で、炭素数を下げると親水化し結着樹脂の非晶性樹脂(非晶性ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂)と相溶化してしまうため、結晶核の形成を阻害しタッキングが悪くなることから、炭素数は10~30の範囲内であることが好ましい。
【0019】
前記結晶性ポリエステル樹脂に占める、炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノカルボン酸又は炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノアルコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物に由来する部位の割合が、1~15質量%の範囲内であることが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂中、前記脂肪族モノカルボン酸又は脂肪族モノアルコール部位は、結晶核の促進部位として機能する。したがって、1質量%以上であると、結晶化促進効果が大きくなり、タッキング抑制効果が発現される。また、15質量%以下であると、結晶化度が高くなりすぎずに、画像の靭性が良好で、折り定着性に優れる。
【0020】
前記結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mw(C)が、1000≦Mw(C)≦29000を満たすことが好ましい。
重量平均分子量が1000以上であると、結晶性樹脂が溶融後相溶しすぎることがなく、結晶化が進行し、タッキング抑制の点で優れる。また、29000以下であると、結晶性樹脂が溶融時に相溶しやすくなり、低温定着性の点で優れる。
【0021】
前記結晶性ポリエステル樹脂の酸価が、9~30mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
酸価が9mgKOH/g以上であると、トナー製造中に結晶性ポリエステル樹脂同士の反発力が弱くなりすぎることがなく、トナー母体粒子中で結晶性ポリエステル樹脂同士が微分散しやすくなり、低温定着性が良好となる。一方で、酸価が30mgKOH/g以下であると、結晶性ポリエステル樹脂同士の反発力が強くなりすぎて、トナー母体粒子中で結晶性ポリエステル樹脂が過剰に微分散することを防止でき、その結果、折り定着性に優れる。
なお、過剰に微分散した場合、低温定着性には優れるが、定着後の画像中においても結晶性ポリエステル樹脂が微分散した状態で存在し、画像を折る際に微分散した結晶性ポリエステル樹脂が画像割れの起点となりやすいが、30mgKOH/g以下とすることで、過剰に微分散することを防止できることから、折り定着性に優れる。
【0022】
前記結着樹脂中における前記非晶性ビニル樹脂の含有量が、50質量%以上であり、透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー母体粒子の断面において、前記非晶性ビニル樹脂が、マトリクスとして存在するが好ましい。非晶性ビニル樹脂が50質量%以上であると、結晶性ポリエステル樹脂がトナー母体粒子中で微分散化し、所望の低温定着性が得られる。
【0023】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0024】
[本発明の静電荷像現像用トナーの概要]
本発明の静電荷像現像用トナーは、結着樹脂として、少なくとも非晶性樹脂と結晶性ポリエステル樹脂を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像剤用トナーであって、前記非晶性樹脂が、少なくとも非晶性ポリエステル樹脂と非晶性ビニル樹脂を含有し、透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー母体粒子の断面において、前記結晶性ポリエステル樹脂がドメインとして存在し、結晶性ポリエステルドメインが、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりも中心側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記結晶性ポリエステルドメインの全個数に対して80~100個数%の範囲内で分散して存在し、かつ、前記非晶性ポリエステル樹脂が、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりもトナー母体粒子表面側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記非晶性ポリエステル樹脂の全面積に対して80~100%の範囲内で存在することを特徴とする。
【0025】
本発明のトナーは、トナー母体粒子と、トナー母体粒子表面に付着される外添剤とを備えるトナー粒子を含む。
本明細書において、「トナー母体粒子」とは、「トナー粒子」の母体を構成するものである。「トナー母体粒子」は、少なくとも結着樹脂を含有するものであり、その他必要に応じて、着色剤、離型剤(ワックス)、荷電制御剤などの他の構成成分を含有してもよい。「トナー母体粒子」は、外添剤の添加によって「トナー粒子」と称される。そして、「トナー」とは、「トナー粒子」の集合体のことをいう。
【0026】
<トナー母体粒子の断面の観察方法>
トナー母体粒子の断面の観察は、透過型電子顕微鏡で観察できる。以下に、その一例を挙げるが、同等の観察ができれば、これに限定されるわけではない。
(観察条件)
以下のような、観察条件により、トナー母体粒子の断面を観察することができる。
装置:電子顕微鏡「JSM-7401F」(日本電子株式会社製)
試料:四酸化ルテニウム(RuO)によって染色したトナー母体粒子の切片(切片の厚さ:60~100nm)
加速電圧:30kV
倍率:50000倍、明視野像
【0027】
(トナー母体粒子の切片の作製方法)
作製したトナーを3質量部、ポリオキシエチルフェニルエーテルの0.2%水溶液35質量部に添加して分散させた後、超音波(株式会社日本精機製作所製、US-1200T)により25℃で5分間処理を行い、外添剤をトナー母体粒子表面から取り除き、観察用のトナー母体粒子を得る。
上記で得られたトナー母体粒子1~2mgを10mLサンプル瓶に広げるように入れ、下記で示す四酸化ルテニウム(RuO)蒸気染色条件下で染色後、光硬化性樹脂「D-800」(日本電子社製)中に分散させ、光硬化させてブロックを形成する。次いで、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて、上記のブロックから厚さ60~100nmの超薄片状のサンプルを切り出す。
【0028】
(四酸化ルテニウム染色条件)
染色は、真空電子染色装置VSC1R1(フィルジェン株式会社製)を用いて行う。装置手順に従い、染色装置本体に四酸化ルテニウムが入った昇華室を設置し、作製した上記超薄切片を染色チャンバー内に導入後、四酸化ルテニウムによる染色条件として、室温(24~25℃)、濃度3(300Pa)、時間10分の条件下で染色する。
【0029】
(結晶構造の観察)
染色後、24時間以内に電子顕微鏡「JSM-7401F」(日本電子株式会社製)を用いて透過電子検出器にて観察し、断面観察像をスキャナー等により取り込み、画像処理解析装置LUZEX AP(ニレコ社製)を用いて、トナー母体粒子の断面に分散している結晶性ポリエステルドメイン、非晶性ビニル樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂を同定した。各樹脂同定の評価基準を下記に示す。
界面が黒く観察され、内部が白く針状に(又は左記構造が積み重なって)観察される:結晶性ポリエステル樹脂
グレーから黒く観察される:非晶性ビニル樹脂
界面がグレーに内部が白く粒子状に観察される:非晶性ポリエステル樹脂
【0030】
なお、前記「針状」とは、折れ曲がりがなく、高アスペクト比(平均アスペクト比が4~40の範囲内)の糸状又は棒状のドメインを指す。
【0031】
なお、上記同定に関しては、別法としてAFM等の原子間力顕微鏡による検出と、トナー中の成分の分離後の分子量や軟化点、抵抗値などを組合せても検知可能である。なお、トナー中の成分の分離方法については後述する。
【0032】
本発明のトナーは、上記結晶構造の観察により、トナー母体粒子の断面において、結晶性ポリエステル樹脂がドメインとして存在する。
本発明において、「ドメイン」とは、トナー母体粒子を構成する樹脂成分の連続層(マトリクス)中にあって、孤立分散して存在している領域をいう。
本発明に係るトナー母体粒子は、ドメイン・マトリクス構造を有している。
図1は、本発明に係るトナー母体粒子の構成を説明するためのトナー母体粒子1の断面の模式図である。
図1に示すように、海島構造とは、トナー母体粒子1の連続相(連続相がマトリクス2であり、海を表す領域である)中に、閉じた界面(相と相との境界)を有する島状の相(ドメイン3)が存在する構造のものをいう。すなわち、ドメイン・マトリクス構造とは、相互に非相溶性の複数(例えば2種)の樹脂成分を混合した場合、混合物の高次構造として、樹脂成分の片方が連続する相(海)の中に、もう一方が島状又は粒子状に散在している構造をいう。すなわち、一方の樹脂がマトリクスに相当する連続相(海)となり、他方がドメインに相当する島状の独立相(分散相)となることで形成される構造をいう。
【0033】
本発明においては、トナー母体粒子中において、結晶性ポリエステル樹脂がドメインとして存在しており、トナー母体粒子1中のマトリクス2の中に結晶性ポリエステル樹脂がドメイン3として散在、すなわち分散して存在している。
ここで、後述するが、非晶性ビニル樹脂がマトリクスとして存在することが好ましい。
本発明では、さらに、上記のような結晶性ポリエステルドメインが、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりも中心側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記結晶性ポリエステルドメインの全個数に対して80~100個数%の範囲内で分散して存在している。
ここで、「トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりも中心側において」とは、図1に示すように、トナー母体粒子の中心位置Cを求め、当該トナー母体粒子1の表面から前記中心位置Cまでの最短距離を直線Lで結んだ際に、前記トナー母体粒子1の表面から前記直線Lの距離のうちの15%の距離を円周方向に結んだところを境界線Bとし、当該境界線Bよりも中心側のトナー母体粒子中における領域をいう。
また、「結晶性ポリエステルドメインの全個数に対して80~100個数%の範囲内で分散して存在」とは、前記トナー母体粒子1の断面において、各結晶性ポリエステルドメイン2の個数を後述する方法により算出し、各結晶性ポリエステルドメイン2の個数の総和(全個数)に対して80~100個数%の範囲内の結晶性ポリエステルドメイン2が、前記領域内を分散して存在していることをいう。
なお、本発明において、「分散」とは、各ドメインの存在位置が前記領域内で偏ること無く観察されている状態をいう。この際、断面において観察される各ドメインの長軸方向は揃っていなくても良い。
【0034】
さらに、本発明では、非晶性ポリエステル樹脂が、トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりもトナー母体粒子表面側において、前記トナー母体粒子の断面全体に占める前記非晶性ポリエステル樹脂の全面積に対して80~100%の範囲内で存在する。
【0035】
また、「トナー母体粒子表面側から中心までの距離15%よりもトナー母体粒子表面側において」とは、前記したとおり図1に示すように、トナー母体粒子1の中心位置Cを求め、当該トナー母体粒子1の表面から前記中心位置Cまでの最短距離を直線Lで結んだ際に、前記トナー母体粒子1の表面から前記直線Lの距離のうちの15%の距離を円周方向に結んだところを境界線Bとし、当該境界線Bよりもトナー母体粒子表面側のトナー母体粒子中における領域をいう。
また、「非晶性ポリエステル樹脂の全面積に対して80~100%の範囲内で存在」とは、前記トナー母体粒子1の断面において、各非晶性ポリエステル樹脂4の面積を後述する方法により算出し、各非晶性ポリエステル樹脂4の面積の総和(全面積)に対して80~100%の範囲内の非晶性ポリエステル樹脂4が、前記領域内に存在していることをいう。
【0036】
<結晶性ポリエステルドメイン及び非晶性ポリエステル樹脂の面積の算出法>
前記したトナー母体粒子の「結晶構造の観察」において、トナー母体粒子の断面に存在する結晶性ポリエステルドメイン及び非晶性ポリエステル樹脂を同定した後、該当部の長径、短径及び個数及び面積を算出する。
具体的には、測定用トナー母体粒子像は、トナー母体粒子の断面の直径が、トナー母体粒子の体積平均粒径(D50%径)±10%であるものを、20視野以上を選択して測定に用いた。
これらのトナー母体粒子像20視野以上の中から結晶性ポリエステル樹脂、及び非晶性ポリエステル樹脂の存在を確認し、該当部の長径と短径、及び個数及び面積を測定し求めた。
ここで、観察したトナー母体粒子の断面の表面と、その中心を結んだ直線距離に対して表面からの15%距離を円周方向に結んだところを境界とした。
そして、観察した断面毎に、結晶性ポリエステルドメインの全個数及び前記境界線よりも中心側に存在する結晶性ポリエステルドメインの個数を割り出して、結晶性ポリエステルドメインの全個数に対する前記境界よりも中心側に存在する結晶性ポリエステルドメインの割合(「結晶性ポリエステルドメインの個数比率」ともいう。)を算出した。ここで、算出した断面ごとの個数比率から、さらに平均値を求めて、この平均値を結晶性ポリエステルドメインの個数比率とした。
また、非晶性ポリエステル樹脂についても同様にして、観察した断面ごとに、非晶性ポリエステル樹脂の全面積及び前記境界線よりも表面側に存在する非晶性ポリエステル樹脂の面積を割り出して、非晶性ポリエステル樹脂の全面積に対する前記境界線よりも表面側に存在する非晶性ポリエステル樹脂の割合(「非晶性ポリエステル樹脂の面積比率)ともいう。)を算出した。ここで、算出した断面ごとの面積比率から、さらに平均値を求めて、この平均値を非晶性ポリエステル樹脂の面積比率とした。
また、結晶性ポリエステルドメインについて、測定した長径及び短径から個数平均長径及び個数平均短径を算出した。
また、前記で規定した境界線上に存在するものについては、集計データから省いた。
【0037】
以下に、体積平均粒径が6±0.6μmのトナー母体粒子における、結晶性ポリエステルドメインの個数比率について一例を挙げる。
体積平均粒径が6±0.6μmのトナー母体粒子の表面側から中心(重心)までの15%距離を境界線としたとき、境界線から外側距離;0.45±約0.05μmの範囲内において、トナー母体粒子中における結晶性ポリエステルドメインの全個数に対して15個数%の結晶性ポリエステルドメインが存在し、境界線から内側距離;2.5~2.6μmの範囲内においては、トナー母体粒子中における結晶性ポリエステルドメインの全個数に対して85個数%の結晶性ポリエステルドメインが存在する。
【0038】
また、以下に、体積平均粒径が6±0.6μmのトナー母体粒子における、非晶性ポリエステル樹脂の面積比率について一例を挙げる。
体積平均粒径が6±0.6μmのトナー母体粒子の表面側から中心(重心)までの15%距離を境界線としたとき、境界線から外側距離;0.45±約0.05μmの範囲内において、トナー母体粒子中における非晶性ポリエステル樹脂の全面積に対して90面積%の非晶性ポリエステルが存在し、境界線から内側距離;2.5~2.6μmの範囲内においては、トナー母体粒子中における非晶性ポリエステルドメインの全面積に対して10面積%の非晶性ポリエステルが存在する。
【0039】
前記トナー母体粒子の断面において、結晶性ポリエステルドメイン及び非晶性ポリエステル樹脂の面積比率を前記範囲内とするためには、後述するが、結晶性ポリエステル樹脂をトナー母体粒子内部に微分散させることと、トナー母体粒子の表面に非晶性ポリエステル樹脂を多く存在させることが重要であり、手段としては、トナー母体粒子形成過程における反応系への添加順序により制御することが可能である。
例えば、各樹脂をトナー母体粒子の内部に多く存在させるためには、凝集反応の初期調整工程後に添加すればよく、トナー母体粒子の内部に分散性良く存在させるためには、中間工程で添加すればよく、トナー母体粒子の表面に多く存在させるためには、該原料粒子以外の粒子の凝集工程の後に添加すれば良い。
【0040】
前記結晶性ポリエステルドメインは、針状構造で存在し、長軸方向の個数平均長径が50~500nmの範囲内であり、平均アスペクト比が4~40の範囲内であることが、低温定着性と折り定着性、及びタッキング性と現像耐久性を確保する点で好ましい。より好ましくは、個数平均長径が、100~350nmの範囲内で、平均アスペクト比が4~25の範囲内である。
前記平均アスペクト比は、1視野における結晶性ポリエステルドメイン毎に、長径÷短径とし、その平均を算出し、さらに、前記したとおり20視野以上でトナー母体粒子を観察したので、全視野における平均を前記平均アスペクト比とした。
【0041】
前記結晶性ポリエステルドメインが針状構造で存在し、かつ、個数平均長径及び平均アスペクト比を前記範囲とするための手段としては、例えば、後述するが、結晶性ポリエステル樹脂に占める、炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノカルボン酸又は炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノアルコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物に由来する部位(「結晶核剤部位」ともいう。)の割合を1~15質量%の範囲内に制御することや、結晶性ポリエステル樹脂の酸価を9~30mgKOH/gの範囲内に制御すること等が挙げられる。その他の調整手段として、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液における粒子径、及び公知(例えば、特開2018-077313号公報記載)のトナー母体粒子の製造方法を補助的に用いることができる。
【0042】
<結着樹脂>
本発明のトナー母体粒子に含有される結着樹脂としては、少なくとも非晶性樹脂と結晶性ポリエステル樹脂を含有する。
以下、非晶性樹脂について説明した後、結晶性ポリエステル樹脂について説明する。
【0043】
<非晶性樹脂>
非晶性樹脂は、結着樹脂の一つであり、非晶性樹脂としては、少なくともスチレン・アクリル樹脂などの非晶性ビニル樹脂(以下、単にビニル系樹脂ともいう。)と、公知の非晶性ポリエステル樹脂を含有する。
結着樹脂中におけるビニル系樹脂の含有量は、50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、ビニル系樹脂がメインバインダーである。また、透過型電子顕微鏡で観察される前記トナー母体粒子の断面において、前記ビニル系樹脂が、マトリクスとして存在することが好ましい。
また、結着樹脂中に非晶性ポリエステル樹脂を含有することで、紙との接着性が良好となり、折り定着性に優れる。
【0044】
非晶性を示すとは、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により得られる吸熱曲線において、ガラス転移点(Tg)を有するが、融点すなわち昇温時の明確な吸熱ピークがないことをいう。明確な吸熱ピークとは、10℃/minの昇温速度で昇温したときの吸熱曲線において半値幅が15℃以内の吸熱ピークをいう。
【0045】
<ビニル系樹脂>
ビニル系樹脂は、ビニル基を有するモノマー(以下、ビニルモノマーという。)の重合体のうち、非晶性を示すものをいう。
使用できるビニル系樹脂としては、スチレン・アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、中でも耐熱性に優れるスチレン・アクリル樹脂が好ましい。
【0046】
使用できるビニルモノマーとしては、以下のものが挙げられ、これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
(1)スチレン系モノマー
スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン及びこれらの誘導体等のスチレン構造を有するモノマー
(2)(メタ)アクリル酸エステル系モノマー
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル及びこれらの誘導体等の(メタ)アクリル基を有するモノマー
(3)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等
(4)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等
(5)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトン等
(6)N-ビニル化合物類
N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリドン等
(7)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジン等のビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸、メタクリル酸誘導体等
【0048】
ビニルモノマーとしては、結晶性樹脂との親和性の制御が容易になることから、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等のイオン性解離基を有するモノマーを用いることが好ましい。
カルボキシ基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等が挙げられる。
スルホン酸基を有するモノマーとしては、スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
リン酸基を有するモノマーとしては、アシドホスホオキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0049】
さらに、ビニルモノマーとして多官能性ビニル類を使用し、架橋構造を有する重合体を得ることもできる。
多官能性ビニル類としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチ
レングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート等が挙げられる。
【0050】
<非晶性ポリエステル樹脂>
非晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)単量体と、2価以上のアルコール(多価アルコール)単量体との重合反応によって得られるポリエステル樹脂のうち、非晶性を示す樹脂である。公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸単量体及び多価アルコール単量体を重合する(エステル化する)ことにより、非晶性ポリエステル樹脂を形成することができる。
【0051】
多価カルボン酸単量体は、1分子中にカルボキシ基を2個以上含有する化合物である。
非晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価カルボン酸単量体としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、マロン酸、メサコニン酸、イソフタル酸ジメチル、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、ドデセニルコハク酸、1,10-ドデカンジカルボン酸等を挙げることができる。これらの中では、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸、コハク酸、ドデセニルコハク酸、トリメリット酸が好ましい。
【0052】
多価アルコール単量体は、1分子中にヒドロキシ基を2個以上含有する化合物である。
非晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価アルコール単量体としては、例えば、2価又は3価のアルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物(BPA-EO)、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(BPA-PO)、グリセリン、ソルビトール、1,4-ソルビタン、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらのなかではビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物が好ましい。
【0053】
使用可能なエステル化触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;アミン化合物等が挙げられる。
【0054】
重合温度は特に限定されるものではないが、150~250℃の範囲内であることが好ましい。また、重合時間は特に限定されるものではないが、0.5~10時間の範囲内であることが好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
【0055】
結着樹脂中における非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、5~30質量%の範囲内であることが、折り定着性の点で好ましく、10~20質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0056】
(非晶性樹脂の好ましいガラス転移点)
非晶性樹脂のガラス転移点(Tg)は、十分な低温定着性と耐熱保管性を両立する観点からは、25~60℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは35~55℃の範囲内である。
【0057】
前記ガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量測定装置、例えばダイヤモンドDSC(パーキンエルマー社製)を用いて測定することができる。具体的には、試料3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させる。1回目の加熱時には室温(25℃)から、2回目の加熱時には0℃から、10℃/minの昇温速度でそれぞれ200℃まで昇温して、150℃を5分間保持した。冷却時には、10℃/minの降温速度で200℃から0℃まで降温して、0℃の温度を5分間保持した。2回目の加熱時に得られた測定曲線においてベースラインのシフトを観察し、シフトする前のベースラインの延長線と、ベースラインのシフト部分の最大傾斜を示す接線との交点をガラス転移点(Tg)とする。リファレンスとして、空のアルミニウム製パンを用いる。
【0058】
(非晶性樹脂の重量平均分子量)
非晶性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10000~100000の範囲内とすることができる。
非晶性樹脂の重量平均分子量は、後述する結晶性樹脂の重量平均分子量と同様にして測定することができる。
【0059】
<結晶性ポリエステル樹脂>
本発明において結晶性ポリエステル樹脂とは、結晶性を示すポリエステル樹脂であれば制限なく、公知の結晶性ポリエステル樹脂を使用できる。結晶性を示すとは、DSCにより得られる吸熱曲線において、融点すなわち昇温時に、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有することをいう。明確な吸熱ピークとは、10℃/minの昇温速度で昇温したときの吸熱曲線において半値幅が15℃以内のピークをいう。
【0060】
(融点の測定方法)
結晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、十分な低温定着性及び優れた耐ホットオフセット性を得る観点から、55~90℃の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは70~85℃である。
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、樹脂組成によって制御することができる。
【0061】
なお、融点(Tm)は、吸熱ピークのピークトップの温度であり、DSCにより測定することができる。
具体的には、試料をアルミニウム製パンKITNO.B0143013に封入し、熱分析装置 ダイヤモンドDSC(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットして、加熱、冷却、加熱の順に温度を変動させる。1回目の加熱時には室温(25℃)から、2回目の加熱時には0℃から、10℃/minの昇温速度でそれぞれ150℃まで昇温して150℃を5分間保持し、冷却時には、10℃/minの降温速度で150℃から0℃まで降温して0℃の温度を5分間保持する。2回目の加熱時に得られる吸熱曲線における吸熱ピークのピークトップの温度を融点として測定する。
【0062】
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂とは、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、前記結晶性を示す樹脂をいう。
【0063】
前記多価カルボン酸とは、1分子中にカルボキシ基を2個以上含有する化合物である。具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、テトラデカンジカルボン酸(テトラデカン二酸)などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;及びこれらカルボン酸化合物の無水物、又は炭素数1~3のアルキルエステルなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
前記多価アルコールとは、1分子中にヒドロキシ基を2個以上含有する化合物である。具体的には、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
結晶性ポリエステル樹脂の形成方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価アルコール成分及び多価カルボン酸成分を重縮合する(エステル化する)ことにより形成することができる。
上記の多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との使用比率としては、多価カルボン酸成分のカルボキシ基に対する多価アルコール成分のヒドロキシ基の当量比を、1.5/1~1/1.5の範囲内とすることが好ましく、1.2/1~1/1.2の範囲内とすることがより好ましい。
【0066】
結晶性ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属化合物、アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属化合物、亜リン酸化合物、リン酸化合物、アミン化合物等が挙げられる。
具体的には、スズ化合物としては、酸化ジブチルスズ、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩等などを挙げることができる。
チタン化合物としては、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド、ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどのチタンキレートなどを挙げることができる。
【0067】
ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウムなどを挙げることができる。
アルミニウム化合物としては、ポリ水酸化アルミニウムなどの酸化物、アルミニウムアルコキシド、トリブチルアルミネートなどを挙げることができる。
これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合温度や重合時間は特に限定されるものではなく、重合中には必要に応じて反応系内を減圧してもよい。
【0068】
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂)
本発明では、前記結晶性樹脂として、結晶性ポリエステル重合セグメントとビニル系樹脂の重合セグメントとが化学的に結合してなるハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含有することが、トナー中でより微分散化しやすく、低温定着性に優れる点で好ましい。
【0069】
結晶性ポリエステル重合セグメントを構成するモノマーに由来する全ユニットに対して、結晶核剤部位に由来する脂肪族カルボン酸モノマー及び脂肪族アルコールモノマーの比率が、0.1~3mol%の範囲内であることが好ましく、最も好ましくは、0.5~1mol%の範囲内である。
前記比率が0.1mol%以上であれば、結晶核剤部位の結晶核剤としての定着性の変動を抑制する効果を十分にでき、前記比率が3mol%以下であれば、結晶核剤部位の融点が高くなりすぎず、低温定着性をより好適にできる。
【0070】
(結晶性ポリエステル重合セグメント)
結晶性ポリエステル重合セグメントとは、結晶性ポリエステル樹脂に由来する部分であって、トナーの示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂セグメントをいう。
【0071】
結晶性ポリエステル重合セグメントは、上記定義したとおりであれば特に限定されない。例えば、結晶性ポリエステル重合セグメントによる主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂や、結晶性ポリエステル重合セグメントを他成分からなる主鎖に共重合させた構造を有する樹脂について、この樹脂を含むトナーが上記のように明確な吸熱ピークを示すものであれば、その樹脂は、本発明でいう結晶性ポリエステル重合セグメントを有するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に該当する。
【0072】
結晶性ポリエステル重合セグメントは、多価カルボン酸モノマー及び多価アルコールモノマーを重縮合する(エステル化する。)ことにより生成される。
多価カルボン酸モノマー及び多価アルコールモノマーは、前記した結晶性ポリエステル樹脂の原料である多価カルボン酸モノマー及び多価アルコールモノマーと同様のモノマーを用いることができる。
【0073】
結晶性ポリエステル重合セグメントの形成方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、多価カルボン酸及び多価アルコールを重縮合する(エステル化する。)ことにより当該セグメントを形成することができる。
【0074】
(好ましい結晶性ポリエステル重合セグメント)
本発明に用いられる結晶性ポリエステル重合セグメントは、炭素数4~14の範囲内の多価アルコールモノマー及び炭素数4~14の範囲内の多価カルボン酸モノマーを重合したものであることが好ましい。炭素数が4以上であれば、エステル結合由来の水素結合の数が多くなりすぎず、結晶性ポリエステル樹脂の融点が高くなりすぎることを抑え、ひいては、低温定着性をより好適にできる。また、炭素数が14以下であれば、脂肪族基同士の相互作用が強くなりすぎず、結晶性ポリエステル樹脂の融点が高くなりすぎることを抑え、ひいては、低温定着性をより好適にできる。
【0075】
(ビニル系樹脂の重合セグメント)
ビニル系樹脂の重合セグメント(ビニル系重合セグメントともいう。)は、前記ビニル系樹脂の原料であるビニルモノマーから合成される。
【0076】
本発明においては、結晶性樹脂が、ビニル系重合セグメントを、3~40質量%の範囲内で含有することが好ましく、最も好ましくは、5~20質量%の範囲内である。これにより、低温定着性を高めることができる。
特に、3質量%以上含有すれば、結晶性樹脂とメインバインダーであるビニル系樹脂との界面の安定性が低下しすぎず、十分に微分散化でき、この結果、低温定着性をより好適にできる。なお、結晶性樹脂におけるビニル系重合セグメントの含有量は、特に限定されないが、帯電性の観点から40質量%以下であることが好ましい。また、特に、熱耐性の低いビニル系重合セグメントとハイブリッドさせる場合、上記含有量は、40質量%以下であれば、結晶性樹脂のメインバインダーであるビニル系樹脂への相溶性が高くなりすぎず、この結果、耐熱保管性を好適にできる。
【0077】
上記ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の合成方法としては、例えば下記(イ)、(ロ)、(ハ)の合成方法が挙げられる。
(イ)あらかじめ用意した結晶性ポリエステル重合セグメントに両反応性のモノマーを反応させた後、ビニル系樹脂の原料であるビニルモノマーを反応させることにより、結晶性ポリエステル重合セグメントにビニル系重合セグメントを化学結合させる方法
(ロ)あらかじめ用意したビニル系樹脂に両反応性のモノマーを反応させた後、結晶性ポリエステル樹脂の原料である多価カルボン酸モノマーと多価アルコールモノマーを反応させて、ビニル系重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントを化学結合させる方法
(ハ)あらかじめ用意した結晶性ポリエステル樹脂と、ビニル系樹脂に両反応性のモノマーを反応させて、それぞれを結晶性ポリエステル重合セグメント及びビニル系重合セグメントを化学結合させる方法
【0078】
両反応性のモノマーとは、結晶性ポリエステル樹脂とビニル系樹脂を結合するモノマーであり、分子内に結晶性ポリエステル樹脂と反応し得るヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基、第2級アミノ基等の置換基と、非晶性樹脂と反応し得るエチレン性不飽和基と、を有するモノマーである。中でも、ヒドロキシ基又はカルボキシ基と、エチレン性不飽和基とを有するビニルカルボン酸が好ましい。
両反応性のモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸等を使用でき、これらのヒドロキシアルキル(炭素原子数1~3個)のエステルを使用してもよい。反応性の観点からは、アクリル酸、メタクリル酸又はフマル酸が好ましい。
【0079】
両反応性のモノマーの使用量は、トナーの低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐久性を向上させる観点から、ビニル系重合セグメントの形成に使用するモノマーの総量100質量部に対して、1~10質量部の範囲内とすることが好ましく、4~8質量部の範囲内とすることがより好ましい。
【0080】
<結晶核剤部位>
本発明における前記結晶性ポリエステル樹脂は、炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノカルボン酸又は炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノアルコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物に由来する部位(「結晶核剤部位」ともいう。)を有することが、低温定着性に優れ、また、タッキング抑制の点で好ましい。
【0081】
本発明において「結晶核剤部位」とは、結晶性ポリエステル樹脂中の結晶構造を有する部位(結晶性ポリエステル樹脂に由来する部位)よりも結晶化速度が速い部位である。そして、冷却時に結晶化速度が速い結晶核剤部位が先に素早く結晶核を生成し、その結晶核を起点とすることで、前記結晶構造を有する部位の結晶化を促進する。
前記結晶核剤部位は、前記結晶構造を有する部位よりも結晶化速度が速い化合物であれば特に制限されるものではない。また、結晶化速度が速いという観点から、主査が炭化水素系部位を含み、ポリエステル部の末端と反応しうる官能基を1つ以上有する化合物であることが好ましい。さらに、炭化水素系部位が直鎖状であり、ポリエステル部と反応する官能基が1つ以上である化合物が好ましい。また、結晶核剤部位は、本発明のトナーの低温定着性を阻害せず、結晶核剤部位の無い結晶性樹脂より結晶化が速くなるものであれば特に限定されないが、より安定に造核効果を発現でき、ひいては、本発明の効果をより好ましく発現できる観点で、以下のような結晶核剤部位が好ましい。
【0082】
すなわち、好ましい態様の結晶核剤部位とは、炭素数10~30の範囲内である脂肪族モノカルボン酸又は炭素数10~30の範囲内である脂肪族モノアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物に由来する部位である。
脂肪族は不飽和、飽和、枝型、直鎖型は問わず限定しないが、低温定着性と高温環境下での定着性能変動抑制の両立の観点から炭素数は10~30の範囲内の飽和の直鎖型のものが好ましく、10~20の範囲内の飽和の直鎖型のものがより好ましい。
上記のような結晶核剤部位は、前記結晶構造を有する部位のうち、どの箇所に結合されていてもよいが、結晶構造を有する部位の結晶化を促進しやすい分子鎖末端に結合されることが好ましい。
【0083】
(脂肪族モノカルボン酸)
上記脂肪族モノカルボン酸としては、具体的には、例えば、ステアリン酸、ラウリル酸、アラキジン酸、n-ベヘン酸、n-テトラドコサン酸、n-ヘキサドコサン酸、n-オクタドコサン酸、n-トリアコンタン酸が挙げられる。
【0084】
(脂肪族モノアルコール)
上記脂肪族モノアルコールとしては、例えば、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ベヘニルアルコール、アラキジルアルコール、1-オクタデカノール、1-イコサノール、1-ドコサノール、1-テトラコサノール、1-ヘキサコサノール、1-オクタコサノール、1-トリアコンタノールが挙げられる。
【0085】
前記結晶性ポリエステル樹脂に占める、炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノカルボン酸又は炭素数10~30の範囲内の脂肪族モノアルコールからなる群より選択される少なくとも1つの化合物に由来する部位(前記結晶核剤部位)の割合は、1~15質量%の範囲内であることが、タッキング抑制効果及び折り定着性の点で好ましく、3~9質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0086】
上記のような結晶性ポリエステル樹脂は、結着樹脂中における含有量が4~30質量%の範囲内であることが、低温定着性とタッキング抑制の両立の観点から好ましく、7~25質量%の範囲内であることがより好ましく、現像耐久性の観点から7~20質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0087】
(結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量)
また、本発明における結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw(C))が、下記式(1)を満たすことが好ましく、より好ましくは下記式(2)、特に好ましくは下記式(3)を満たす。
式(1):1000≦Mw(C)≦29000
式(2):1000≦Mw(C)≦20000
式(3):1000≦Mw(C)≦15000
Mw(C)≦1000であると、結晶性ポリエステル樹脂が溶融後、相溶しすぎることがなく、結晶化が進行し、タッキング抑制の点で優れる。また、Mw(C)≦29000であると、結晶性ポリエステル樹脂が溶融時に相溶しやすく、低温定着性の点で優れる。
【0088】
結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量の測定法は以下のとおりである。
ゲルバーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、カラムを40℃で安定化させ、この温度におけるカラムに、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2mL/minで流し、試料濃度として1mg/mLに調整した樹脂のTHF試料溶液を約10μL注入して測定する。
試料の分子量測定にあたっては、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、試料の有する分子量分布を単分散ポリスチレン標準試料により作成された検量線を用いて算出する。検量線測定用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical社製の分子量が6×10、2.1×10、4×10、1.75×10、5.1×10、1.1×10、3.9×10、8.6×10、2×10、4.48×10のものを用い、10点の標準ポリスチレン試料を測定し、検量線を作成する。
なお、結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、下記のようにしてトナー中の結晶性ポリエステル樹脂と離型剤とを分離してから、上記のような測定法により算出することができる。
【0089】
(結晶性ポリエステル樹脂の分離)
まず、トナーに対する貧溶媒であるエタノールにトナーを分散させ、結晶性ポリエステル及びワックスの融点を超える温度まで、昇温させる。このとき、必要に応じて、加圧してもよい。この時点で、融点を超えた結晶性ポリエステル及びワックスが溶融している。その後、固液分離することにより、トナーから、結晶性ポリエステル及びワックスの混合物を採取できる。この混合物を、分子量毎に分種することにより、トナーから結晶性ポリエステル及びワックスの分離が可能である。
【0090】
(結晶性ポリエステル樹脂の酸価)
本発明における結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、9~30mgKOH/gの範囲内であることが低温定着性及び折り定着性の観点で好ましく、15~23mgKOH/gの範囲内であることが、より好ましい。
【0091】
結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、当該樹脂1g中に存在するカルボキシ基を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数(mgKOH/g)である。具体的には、JIS K0070-1992に準じ、下記の方法により決定される。
(1)試薬の準備
(a)フェノールフタレイン溶液
フェノールフタレイン1.0gをエチルアルコール(95vol%)90mLに溶解し、イオン交換水を加えて100mLとし、フェノールフタレイン溶液を得る。
(b)水酸化カリウム溶液
特級水酸化カリウム7gを5mLのイオン交換水に溶解し、エチルアルコール(95vol%)を加えて1Lとする。炭酸ガス等に触れないように、耐アルカリ性の容器に入れて3日間放置後、ろ過して、水酸化カリウム溶液を得る。得られた水酸化カリウム溶液は、耐アルカリ性の容器に保管する。
(c)水酸化カリウム溶液のファクター
水酸化カリウム溶液のファクターは、0.1mol/L塩酸25mLを三角フラスコに取り、前記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、前記水酸化カリウム溶液で滴定し、中和に要した前記水酸化カリウム溶液の量から求める。
(d)塩酸溶液
前記0.1mol/L塩酸は、JIS K8001-1998に準じて調製されたものを用いる。
【0092】
(2)操作
(a)本試験
トナー2.0gを200mLの三角フラスコに精秤し、トルエン:エタノール(2:1)の混合溶液100mLを加え、5時間かけて溶解する。
次いで、指示薬として、前記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、前記水酸化カリウム溶液を用いて滴定した。なお滴定の終点は、指示薬の薄い紅色が約30秒続いたときとする。
(b)空試験
試料を用いない(すなわち、トルエン:エタノール(2:1)の混合液のみとする)以外は、同様の滴定を行う。
【0093】
(3)得られた結果を下記式に代入して酸価を算出する。
A=[(C-D)×f×5.611]/S
ここで、
A:酸価(mgKOH/g)
C:本試験の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)
D:空試験の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)
f:0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター
5.611:水酸化カリウムのモル質量56.11(g/mol)×(1/10)
S:試料の質量(g)
【0094】
<着色剤>
本発明に係るトナー母体粒子が含有する着色剤としては、公知の無機又は有機着色剤を使用することができる。着色剤としてはカーボンブラック、磁性粉のほか、各種有機、無機の顔料、染料等が使用できる。着色剤の添加量はトナー粒子に対して1~30質量%、好ましくは2~20質量%の範囲である。
【0095】
<その他の内添剤及び外添剤>
トナー粒子は、上記のほか、必要に応じて離型剤、荷電制御剤などの内添剤、外添剤等を含有することができる。
【0096】
<離型剤>
離型剤としては、特に限定されるものではなく公知の種々のワックスを用いることができる。
使用できる離型剤としては、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の分枝鎖状炭化水素ワックス、パラフィンワックス、サゾールワックス等の長鎖炭化水素系ワックス、ジステアリルケトン等のジアルキルケトン系ワックス、カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘニル、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエート、ステアリン酸ステアリル等のエステル系ワックス、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミド等のアミド系ワックス等が挙げられる。
市販品としては、例えば、日本精蝋社製のHNP-0190、HNP-51、FNP-0090、サゾール社製のC80、等が挙げられる。
また、これらの離型剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
離型剤の結晶化温度(融点)としては、65~90℃の範囲内がタッキング抑制及び低温定着性の点で好ましく、75~90℃の範囲内であることがより好ましい。
【0098】
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、通常1~30質量部の範囲内とすることができ、好ましくは5~20質量部の範囲内である。離型剤の含有量が上記範囲内であることにより、十分な定着分離性が得られる。
トナー粒子中の離型剤の含有量は、3~15質量%の範囲内にあることが好ましい。
【0099】
<荷電制御剤>
荷電制御剤としては、ニグロシン系染料、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩等の公知の化合物を用いることができる。荷電制御剤により、帯電特性に優れたトナーを得ることができる。
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、通常0.1~5.0質量部の範囲内とすることができる。
【0100】
<外添剤>
トナー粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性等を改良するため、流動化剤、クリーニング助剤等の外添剤で処理されていてもよい。
【0101】
外添剤としては、例えばシリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子等の無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子等の無機ステアリン酸化合物微粒子、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛等の無機チタン酸化合物微粒子等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これら無機粒子は、耐熱保管性及び環境安定性の向上の観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイル等によって、光沢処理が行われていることが好ましい。
【0102】
外添剤の添加量(複数の外添剤を用いる場合はその合計の添加量)は、トナー100質量部に対して0.05~5質量部の範囲内であることが好ましく、0.1~3質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0103】
<コア・シェル構造>
トナー粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、当該トナー粒子をコア粒子として当該コア粒子とその表面を被覆するシェル層とを備えるコア・シェル構造のような多層構造のトナー粒子であってもよい。シェル層は、コア粒子の全表面を被覆していなくてもよく、部分的にコア粒子が露出していてもよい。コア・シェル構造の断面は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)等の公知の観察手段によって、確認することができる。
【0104】
コア・シェル構造の場合は、コア粒子とシェル層でガラス転移点、融点、硬度等の特性を異ならせることができ、目的に応じたトナー粒子の設計が可能である。例えば、結着樹脂、着色剤、離型剤等を含有し、ガラス転移点(Tg)が比較的低いコア粒子の表面に、ガラス転移点(Tg)が比較的高い樹脂を凝集・融着させて、シェル層を形成することができる。シェル層は、非晶性樹脂を含有することが好ましい。
【0105】
<トナー粒子の粒径>
トナー粒子の平均粒径としては、体積基準のメジアン径(d50)が3~10μmの範囲内にあることが好ましく、5~8μmの範囲内にあることがより好ましい。
上記範囲内にあれば、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像であっても高い再現性が得られる。
なお、トナー粒子の平均粒径は、製造時に使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、結着樹脂の組成等によって制御することができる。
【0106】
トナー粒子の体積基準のメジアン径(d50)の測定には、マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフトSoftware V3.51を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いることができる。
具体的には、測定試料(トナー)を、界面活性剤溶液(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を行い、トナー粒子分散液を調製する。このトナー粒子分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmとし、測定範囲である2~60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒径を体積基準のメジアン径(d50)として得る。
【0107】
<トナー粒子の平均円形度>
トナー粒子は、帯電特性の安定性及び低温定着性を高める観点から、平均円形度が0.930~1.000の範囲内にあることが好ましく、0.950~0.995の範囲内にあることがより好ましい。
平均円形度が上記範囲内にあれば、個々のトナー粒子が破砕しにくくなる。これにより、摩擦帯電付与部材の汚染を抑制してトナーの帯電性を安定させることができるとともに、形成される画像の画質を高めることができる。
【0108】
トナー粒子の平均円形度は、FPIA-3000(Sysmex社製)を用いて測定することができる。
具体的には、測定試料(トナー)を界面活性剤入り水溶液にて馴染ませ、超音波分散処理を1分間行って分散させる。その後、FPIA-3000(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000~10000個の適正濃度で撮影を行う。HPF検出数が上記の範囲内であれば、再現性のある測定値を得
ることができる。撮影した粒子像から、個々のトナー粒子の円形度を下記式(I)に従って算出し、各トナー粒子の円形度を加算して全トナー粒子数で除することにより、平均円形度を得る。
式(I)
円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0109】
[現像剤]
本発明の静電潜像現像用トナーは、磁性又は非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイト等の金属、それらの金属とアルミニウム、鉛等の金属との合金等の従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。
【0110】
また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散した分散型キャリア等用いてもよい。
キャリアの体積基準のメジアン径(d50)としては、20~100μmの範囲内であることが好ましく、25~80μmの範囲内であることがより好ましい。
キャリアの体積基準のメジアン径(d50)は、例えば湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置ヘロス(HELOS)(SYMPATEC社製)により測定することができる。
【0111】
[静電荷像現像用トナーの製造方法]
本発明に係るトナーの製造方法は、溶融混錬による粉砕法や水系乳化凝集法、懸濁重合法によるケミカル製法、噴霧乾燥法など各種製法で得ることができる。特に限定されるものではないが本発明においては、構造形成の容易な水系媒体中で各原料粒子を凝集融着させる水系乳化凝集法での製造例を以下に示す。
本発明のトナーを製造するためには、結晶性ポリエステル樹脂をトナー母体粒子の内部に微分散させることと、トナー母体粒子の表面に非晶性ポリエステル樹脂を多く存在させることが重要である。
そのための手段として、トナー母体粒子形成過程における反応系への添加順序により制御することができる。例えば、各樹脂をトナー内部に多く存在させるためには、凝集反応の初期調整工程後に添加すればよく、トナー母体粒子の内部に分散性良く存在させるためには、中間工程で添加すればよく、トナー母体粒子の表面に多く存在させるためには、該原料粒子以外の原料粒子の凝集工程の後に添加すれば良い。添加順序の他に補助的に調整可能な因子としては、添加する速度や添加する際の反応系の温度、添加する際の反応系内の粒子平均径や粒度分布、平均円形度や円形度分布といった所謂、凝集粒子形状が挙げられる。
また、トナー母体粒子中の結晶性ポリエステル樹脂を確実に結晶状態とするための手段としては、公知(例えば、特開2018-077313号公報記載)のトナーの製造方法を利用することができる。
【0112】
以下、結晶性ポリエステル樹脂に前記結晶核剤部位を導入させる方法とともに、トナーの製造方法の一例を説明する。
【0113】
工程(1):反応槽中に、前記結晶性ポリエステル樹脂の原料となるモノマーと、エステル化触媒と、を混合し、前記原料となるモノマーを重縮合反応させる工程
工程(2):前記工程(1)において、前記原料となるモノマーを重縮合反応させた後、前記反応槽中に、結晶核剤を投入し、反応させることで結晶核剤部位を形成する工程
【0114】
<工程(1)>
工程(1)では、反応槽中に、前記結晶性ポリエステル樹脂の原料となるモノマーと、エステル化触媒と、を混合し、前記原料となるモノマーを重縮合反応させる。
【0115】
結晶性ポリエステル樹脂の原料となるモノマーとしては、上記多価アルコールモノマー、多価カルボン酸モノマーなど、公知のものを好適に使用できる。
【0116】
(重縮合反応)
原料となるモノマーの重縮合反応、すなわち、結晶性ポリエステル樹脂の合成方法は限定されないが、下記(A)~(B)の方法であることが好ましい。
(A)3価以上の多価カルボン酸又は3価以上の多価アルコールを重合反応させる方法
(B)不飽和ジカルボン酸又は不飽和ジアルコールを付加重合する方法
【0117】
なお、上記(A)、(B)の方法における重合には公知の重合開始剤、連鎖移動剤を用いることができる。
【0118】
(エステル化触媒)
エステル化触媒としては、公知のものを使用でき、例えば、ジオクチル酸スズ、酸化ジブチルスズ、2-エチルヘキサン酸スズ(II)等のスズ化合物、オルトチタン酸テトラブチル(以下、「Ti(OBu)」ともいう。)、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。中でも、Ti(OBu)を好適に使用することができる。
【0119】
<工程(2)>
工程(2)では、前記工程(1)において、前記原料となるモノマーを重縮合反応させた後、前記反応槽中に、結晶核剤を投入し、反応させることで結晶核剤部位を形成する。
すなわち、工程(1)において、重縮合反応により、結晶性ポリエステル樹脂を得た後、結晶核剤を投入し、結晶性ポリエステル樹脂に結晶核剤を反応させる。これにより、結晶性ポリエステル樹脂に結晶核剤を化学的に結合させることができ、結晶核剤部位を形成することができる。
この際の反応は、結晶性ポリエステル樹脂と結晶核剤が化学的に結合できる反応であればよく、例えば、常圧下で200℃にするなど、加熱によって行うことが挙げられるがこれに限定されない。
【0120】
工程(1)及び(2)を経て、結晶核剤が化学的に結合した結晶性ポリエステル樹脂を合成することができる。
【0121】
(結晶核剤)
結晶核剤とは、上述のように結晶核剤部位を形成できる化合物であればよく、好ましくは、炭素数10~30の範囲内である脂肪族モノカルボン酸又は炭素数10~30の範囲内である脂肪族モノアルコールである。具体的には、ステアリン酸、ラウリル酸、ベヘン酸、トリアコンタン酸、アラキジン酸、アラキジン酸、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ベヘニルアルコール、アラキジルアルコールなどが挙げられる。
【0122】
<凝集・融着させる工程>
本発明の静電荷像現像用トナーは、上記静電荷像現像用トナーの製造方法であって、前記工程(2)の後に、さらに、少なくとも水系媒体中で前記非晶性樹脂(非晶性ビニル樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂)の微粒子、前記結晶性ポリエステル樹脂の微粒子及び前記着色剤の微粒子と、を凝集し、融着させる工程を有する静電潜像現像用トナーの作製方法によっても好適に作製することができる。
これらの静電潜像現像用トナーの作製方法によれば、先に、多価カルボン酸モノマー、多価アルコールモノマーを反応させてから、結晶核剤部位を導入することとなるため、好適に本発明に係る結晶性ポリエステル樹脂を作製できる。
なお、凝集し、融着する方法としては、例えば、公知の乳化凝集法を好適に採用できる。
【0123】
(乳化凝集法)
乳化凝集法は、溶媒に溶解した非晶性樹脂や結晶性樹脂(以下、これらをまとめて「結着樹脂」ともいう。)の溶液を貧溶媒に滴下して、結着樹脂の微粒子分散液とし、この結着樹脂の微粒子分散液と着色剤の微粒子分散液及びワックスなどの離型剤分散液とを混合し、所望のトナー粒子の径となるまで、非晶性樹脂の微粒子、結晶性樹脂の微粒子、着色剤の微粒子、離型剤を水系媒体中で凝集させ、さらにこれら微粒子間の融着を行うことにより形状制御を行って、トナー粒子を製造する方法である。
このとき、前記したとおり、各原料樹脂粒子の添加順序を制御することにより、トナー母体粒子の内部に分散性良く結晶性ポリエステルドメインを存在させ、かつ、トナー母体粒子の表面に非晶性ポリエステル樹脂を存在させることができる。すなわち、結晶性ポリエステル樹脂の微粒子分散液を初期調整工程後の中間工程における初期の段階で添加し、凝集工程後に非晶性ポリエステル樹脂の微粒子分散液を添加することが好ましい。
【0124】
(水系媒体)
本発明において、「水系媒体」とは、少なくとも水が50質量%以上含有されたものをいい、水以外の成分としては、水に溶解する有機溶剤を挙げることができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブ、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶剤であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶剤を使用することが好ましい。好ましくは、水系媒体としてイオン交換水などの水のみを使用する。
【0125】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例
【0126】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0127】
[着色剤粒子分散液の調製]
ドデシル硫酸ナトリウム226質量部をイオン交換水1600質量部に添加した溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.ピグメントブルー15:3)420質量部を徐々に添加した。撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック株式会社製、「クレアミックス」は同社の登録商標)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子分散液〔P1〕を調製した。分散液中の着色剤粒子は、体積基準のメジアン径が110nmであった。
【0128】
[結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕の合成]
両反応性モノマーを含む、下記の付加重合系樹脂(スチレン・アクリル樹脂:StAc)ユニットの原料モノマー及びラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン 40.0質量部
n-ブチルアクリレート 16質量部
アクリル酸 3.5質量部
重合開始剤(ジ-t-ブチルパーオキサイド) 8質量部
また、下記の重縮合系樹脂(結晶性ポリエステル樹脂:CPEs)ユニットの原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、撹拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
酸:テトラデカン二酸 272.3質量部
アルコール:1,4-ブタンジオール 100.5質量部
次いで、撹拌器、温度計、冷却管及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に上記モノマーを入れ、反応容器中を乾燥窒素ガスで置換した。得られた混合液にTi(O-n-Bu)を0.4質量部添加し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次いで、得られた反応液を200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて、上述の測定方法により算出される酸価が核剤部位導入後に20.0mgKOH/gになるよう反応を行った。
次いで、反応槽の圧力を徐々に開放して常圧に戻した後、結晶核剤としてステアリルアルコール32.4質量部を加え、常圧下にて温度200℃で1.5時間反応させた。その後、200℃にて反応槽を5kPa以下に減圧して2.5時間反応させ、結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕を得た。結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕は、重量平均分子量(Mw)が13400、酸価が19.8mgKOH/gであった。
【0129】
[結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔C1〕の調製]
結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕 174.3質量部
上記をメチルエチルケトン102質量部に入れ、75℃で30分撹拌し、溶解させた。
次に、この溶解液に、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を、樹脂の酸価に対して中和度60mol%になるよう添加した。この溶解液を、撹拌機を有する反応容器に入れ、撹拌しながら、70℃に温めた水275質量部を50分間に亘って滴下混合した。滴下の途中で容器内の液は白濁化し、全量滴下後に均一に乳化状の状態を得た。
次いで、この乳化液を70℃で保温したまま、ダイヤフラム式真空ポンプ「V-700」(BUCHI社製)を使用し、15kPa(150mbar)に減圧下で3時間撹拌することで、メチルエチルケトンを蒸留除去した後、冷却速度6℃/minで冷却し、結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕の微粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔C1〕を作製した。動的光散乱(DLS)周波数解析式粒度分布測定器「Microtac NanoWaveII(NIKKISO社製)」にて測定した結果、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔C1〕中、結晶性ポリエステル樹脂微粒子の体積平均粒径は198nmであった。
【0130】
[結晶性ポリエステル樹脂〔c2〕~〔c12〕、〔c14〕~〔c20〕の合成]
前記結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕の合成において、下記表Iに示すモノマー種と質量部を変更し、結晶性樹脂の酸価が結晶核剤部位を導入し100%反応させた後に、表Iに記載した値になるように反応時間を適宜変更した以外は同様にして以外は同様にして、結晶性ポリエステル樹脂〔c2〕~〔c12〕、〔c14〕~〔c19〕を合成した。なお、結晶核剤部位を導入していない〔c20〕に関しては、該当する工程以外は〔c1〕の合成手順と同様にして、結晶性樹脂の酸価が表Iに記載した値となるように合成した。
【0131】
[結晶性ポリエステル樹脂〔c13〕の合成]
下記の重縮合系樹脂(結晶性ポリエステル樹脂:CPEs)用の原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、撹拌機及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、反応容器中を乾燥窒素ガスで置換した。その後170℃に加熱し溶解させた。
酸:テトラデカン二酸 272.3質量部
アルコール:1,6-ヘキサンジオール 131.8質量部
得られた混合液にTi(O-n-Bu)を0.4質量部添加し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次いで、得られた反応液を200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて、上述の測定方法により算出される酸価が核剤部位導入後に21.4mgKOH/gになるよう反応を行った。
次いで、反応槽の圧力を徐々に開放して常圧に戻した後、結晶核剤としてステアリン酸20.3質量部を加え、常圧下にて温度200℃で1.5時間反応させた。その後、200℃にて反応槽を5kPa以下に減圧して2.5時間反応させ、結晶性ポリエステル樹脂〔c13〕を得た。結晶性ポリエステル樹脂〔c13〕は、重量平均分子量(Mw)が13000、酸価が21.1mgKOH/gであった。
【0132】
[結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔C2〕~〔C20〕の調製]
前記結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔C1〕の調製において、結晶性ポリエステル樹脂〔c1〕の代わりに、それぞれ〔c2〕~〔c20〕を用いた以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔C2〕~〔C20〕を調製した。
【0133】
[非晶性ポリエステル樹脂〔a1〕の合成]
下記ビニル樹脂の単量体、非晶性ポリエステル樹脂とビニル樹脂のいずれとも反応する置換基を有する単量体及び重合開始剤の混合液を滴下ロートに入れた。
スチレン 80.0質量部
n-ブチルアクリレート 20.0質量部
アクリル酸 10.0質量部
ジ-t-ブチルパーオキサイド(重合開始剤) 16.0質量部
また、下記非晶性ポリエステル樹脂の単量体を、窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を備えた四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物
50.2質量部
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物
249.8質量部
テレフタル酸 120.1質量部
ドデセニルコハク酸 46.0質量部
撹拌下で、滴下ロートに入れた混合液を四つ口フラスコへ90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の単量体を除去した。その後、エステル化触媒としてTi(OBu)を0.4質量部投入し、235℃まで昇温して、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間、反応を行った。
次いで、200℃まで冷却し、減圧下(20kPa)にて反応を行った後、脱溶剤を行い、非晶性ポリエステル樹脂を得た。得られた非晶性ポリエステル樹脂〔a1〕の重量平均分子量(Mw)が24000、酸価が18.2mgKOH/gであった。
【0134】
[非晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔A1〕の調製]
得られた非結晶性ポリエステル樹脂〔a1〕108質量部をメチルエチルケトン64質量部に、70℃で30分撹拌し、溶解させた。
次に、この溶解液に、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を、樹脂の酸価に対して中和度70mol%になるよう添加した。この溶解液を、撹拌機を有する反応容器に入れ、撹拌しながら、70℃に温めた水210質量部を70分間に亘って滴下混合した。滴下の途中で容器内の液は白濁化し、全量滴下後に均一に乳化状の状態を得た。この乳化液の油滴の粒径を動的光散乱(DLS)周波数解析式粒度分布測定器「Microtac NanoWaveII(NIKKISO社製)」にて測定した結果、体積平均粒径は90nmであった。
次いで、この乳化液を70℃で保温したまま、ダイヤフラム式真空ポンプ「V-700」(BUCHI社製)を使用し、15kPa(150mbar)に減圧下で3時間撹拌することで、メチルエチルケトンを蒸留除去し、非結晶性ポリエステル樹脂〔a1〕の微粒子が分散された非結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔A1〕を作製した。上記粒度分布測定器にて測定した結果、非結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔A1〕中、非結晶性ポリエステル樹脂微粒子の体積平均粒径は94nmであった。
【0135】
[非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S1〕の調製]
(1)第1段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部及びイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、当該反応容器の内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃として、下記単量体の混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン(ST) 480.0質量部
n-ブチルアクリレート(BA) 250.0質量部
メタクリル酸(MAA) 68.0質量部
上記混合液の滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより単量体の重合を行い、ビニル系樹脂粒子分散液〔s1〕を調製した。
【0136】
(2)第2段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、イオン交換水1100質量部と前記第1段重合により調製したビニル系樹脂粒子分散液〔s1〕を固形分換算で55質量部を仕込み、87℃に加熱した。その後、下記単量体、連鎖移動剤及び離型剤を85℃にて溶解させた混合液を循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック株式会社製)により、10分間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液を上記5Lの反応容器に追加し、過硫酸カリウム5.4質量部をイオン交換水103質量部に溶解させた重合開始剤の溶液を添加し、この系を87℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行ってビニル系樹脂粒子分散液〔s1′〕を調製した。
スチレン(ST) 256.5質量部
2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)
95.3質量部
メタクリル酸(MAA) 38.2質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート(連鎖移動剤)
4.0質量部
離型剤1:HNP0190(日本精蝋社製)131.0質量部
【0137】
(3)第3段重合
上記第2段重合により得られたビニル系樹脂粒子分散液〔s1′〕にさらに過硫酸カリウム7.3質量部をイオン交換水157.9質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、84℃の温度条件下で、下記単量体及び連鎖移動剤の混合液を90分かけて滴下した。
スチレン(ST) 370.0質量部
n-ブチルアクリレート(BA) 165.0質量部
メタクリル酸(MAA) 40.0質量部
メタクリル酸メチル(MMA) 47.2質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 8.6質量部
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S1〕を得た。
得られた非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S1〕について物性を測定したところ、ビニル系樹脂微粒子の体積基準のメジアン径(d50)は220nmであり、ガラス転移温度(Tg)は46℃であり、重量平均分子量(Mw)は30000であった。
【0138】
[非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S2〕の調製]
(1)第1段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部及びイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、当該反応容器の内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃として、下記単量体の混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン(ST) 480.0質量部
n-ブチルアクリレート(BA) 250.0質量部
メタクリル酸(MAA) 68.0質量部
上記混合液の滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより単量体の重合を行い、ビニル系樹脂粒子分散液〔s2〕を調製した。
【0139】
(2)第2段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、イオン交換水1100質量部と前記第1段重合により調製したビニル系樹脂粒子分散液〔s2〕を固形分換算で55質量部を仕込み、87℃に加熱した。その後、下記単量体、連鎖移動剤及び離型剤を85℃にて溶解させた混合液を循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック株式会社製)により、10分間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液を上記5Lの反応容器に追加し、過硫酸カリウム5.4質量部をイオン交換水103質量部に溶解させた重合開始剤の溶液を添加し、この系を87℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行ってビニル系樹脂粒子分散液〔s2′〕を調製した。
スチレン(ST) 256.5質量部
2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)
95.3質量部
メタクリル酸(MAA) 38.2質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート(連鎖移動剤)
4.0質量部
離型剤1:HNP0190(日本精蝋社製)155.0質量部
【0140】
(3)第3段重合
上記第2段重合により得られたビニル系樹脂粒子分散液〔s2′〕にさらに過硫酸カリウム7.3質量部をイオン交換水157.9質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、84℃の温度条件下で、下記単量体及び連鎖移動剤の混合液を90分かけて滴下した。
スチレン(ST) 370.0質量部
n-ブチルアクリレート(BA) 165.0質量部
メタクリル酸(MAA) 40.0質量部
メタクリル酸メチル(MMA) 47.2質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 8.6質量部
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S2〕を得た。
得られた非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S2〕について物性を測定したところ、ビニル系樹脂微粒子の体積基準のメジアン径(d50)は230nmであり、ガラス転移温度(Tg)は46℃であり、重量平均分子量(Mw)は29800であった。
【0141】
[非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S3〕の調製]
(1)第1段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部及びイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、当該反応容器の内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃として、下記単量体の混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン(ST) 480.0質量部
n-ブチルアクリレート(BA) 250.0質量部
メタクリル酸(MAA) 68.0質量部
上記混合液の滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより単量体の重合を行い、ビニル系樹脂粒子分散液〔s3〕を調製した。
【0142】
(2)第2段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、イオン交換水1100質量部と前記第1段重合により調製したビニル系樹脂粒子分散液〔s3〕を固形分換算で55質量部を仕込み、87℃に加熱した。その後、下記単量体、連鎖移動剤及び離型剤を85℃にて溶解させた混合液を循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック株式会社製)により、10分間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液を上記5Lの反応容器に追加し、過硫酸カリウム5.4質量部をイオン交換水103質量部に溶解させた重合開始剤の溶液を添加し、この系を87℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行ってビニル系樹脂粒子分散液〔s3′〕を調製した。
スチレン(ST) 256.5質量部
2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)
95.3質量部
メタクリル酸(MAA) 38.2質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート(連鎖移動剤)
4.0質量部
離型剤1:HNP0190(日本精蝋社製)200.0質量部
【0143】
(3)第3段重合
上記第2段重合により得られたビニル系樹脂粒子分散液〔s3′〕にさらに過硫酸カリウム7.3質量部をイオン交換水157.9質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、84℃の温度条件下で、下記単量体及び連鎖移動剤の混合液を90分かけて滴下した。
スチレン(ST) 370.0質量部
n-ブチルアクリレート(BA) 165.0質量部
メタクリル酸(MAA) 40.0質量部
メタクリル酸メチル(MMA) 47.2質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 8.6質量部
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S3〕を得た。
得られた非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S3〕について物性を測定したところ、ビニル系樹脂微粒子の体積基準のメジアン径(d50)は240nmであり、ガラス転移温度(Tg)は46℃であり、重量平均分子量(Mw)は29500であった。
【0144】
[非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S4〕の調製]
(1)第1段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部及びイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、当該反応容器の内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃として、下記単量体の混合液を1時間かけて滴下した。
スチレン(ST) 480.0質量部
n-ブチルアクリレート(BA) 250.0質量部
メタクリル酸(MAA) 68.0質量部
上記混合液の滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより単量体の重合を行い、ビニル系樹脂粒子分散液〔s4〕を調製した。
【0145】
(2)第2段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、イオン交換水1100質量部と前記第1段重合により調製したビニル系樹脂粒子分散液〔s4〕を固形分換算で55質量部を仕込み、87℃に加熱した。その後、下記単量体、連鎖移動剤及び離型剤を85℃にて溶解させた混合液を循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック株式会社製)により、10分間の混合分散処理を行い、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。この分散液を上記5Lの反応容器に追加し、過硫酸カリウム5.4質量部をイオン交換水103質量部に溶解させた重合開始剤の溶液を添加し、この系を87℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行ってビニル系樹脂粒子分散液〔s4′〕を調製した。
スチレン(ST) 256.5質量部
2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)
95.3質量部
メタクリル酸(MAA) 38.2質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート(連鎖移動剤)
4.0質量部
離型剤1:FNP0090(日本精蝋社製)131.0質量部
【0146】
(3)第3段重合
上記第2段重合により得られたビニル系樹脂粒子分散液〔s4′〕にさらに過硫酸カリウム7.3質量部をイオン交換水157.9質量部に溶解させた溶液を添加した。さらに、84℃の温度条件下で、下記単量体及び連鎖移動剤の混合液を90分かけて滴下した。
スチレン(ST) 370.0質量部
n-ブチルアクリレート(BA) 165.0質量部
メタクリル酸(MAA) 40.0質量部
メタクリル酸メチル(MMA) 47.2質量部
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 8.6質量部
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S4〕を得た。
得られた非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S4〕について物性を測定したところ、ビニル系樹脂微粒子の体積基準のメジアン径(d50)は240nmであり、ガラス転移温度(Tg)は46℃であり、重量平均分子量(Mw)は29500であった。
【0147】
[トナー1の製造]
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、非晶性ビニル樹脂微粒子分散液〔S1〕1124質量部(固形分換算)、及びイオン交換水2000質量部を投入した。室温下(25℃)下で、5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整した。さらに、着色剤粒子分散液85質量部(固形分換算)を投入し、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解させた溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。10分間放置した後、60分間かけて80℃まで昇温した。80℃に到達後、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔C1〕133.0質量部(固形分換算)を20分かけて投入し、粒子径の成長速度が0.01μm/分となるように撹拌速度を調整して、コールターマルチサイザー3(コールター・ベックマン社製)により測定した体積基準のメジアン径が6.0μmになるまで成長させた。
次いで、非晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔A1〕201.0質量部(固形分換算)を30分間かけて投入し、反応液の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解させた水溶液を添加して、粒子径の成長を停止させた。
次いで、昇温して80℃の状態で撹拌し、トナー粒子の平均円形度が0.970になるまで粒子の融着を進行させ、その後冷却し30℃以下まで液温を下げた。
その後、撹拌しつつ30分かけて50℃まで昇温し、3hr攪拌を継続し熱処理を行った。その後冷却し30℃以下まで液温を下げた。次いで、固液分離を行い、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し、固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した。洗浄後、35℃で24時間乾燥させることにより、トナー母体粒子を得た。
得られたトナー母体粒子100質量部に、疎水性シリカ粒子(個数平均一次粒径:12nm、疎水化度:68)0.6質量部、疎水性酸化チタン粒子(個数平均一次粒径:20nm、疎水化度:63)1.0質量部及びゾル・ゲルシリカ(数平均一次粒子径=110nm、)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)により回転翼周速35mm/秒、32℃で20分間混合した。混合後、45μmの目開きのふるいを用いて粗大粒子を除去し、トナー1を得た。
【0148】
[トナー2~26の製造例]
前記トナー1の製造において、下記表IIをもとに非晶性ビニル樹脂微粒子分散液の種類と含有量、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液の種類と含有量及び非晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液の含有量をそれぞれ変更し、表II記載のトナー母体粒子内部構造となるように添加順序や添加速度を調整した以外は同様にして、トナー2~26を製造した。
【0149】
[トナー母体粒子の断面の観察]
前記した観察方法によって、得られたトナーからトナー母体粒子の切片を作製し、染色した後、下記のとおりトナー母体粒子の断面を観察し、結晶性ポリエステルドメイン、非晶性ビニル樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂を同定した。
(観察条件)
装置:電子顕微鏡「JSM-7401F」(日本電子株式会社製)
試料:四酸化ルテニウム(RuO)によって染色したトナー粒子の切片(切片の厚さ:60~100nm)
加速電圧:30kV
倍率:50000倍、明視野像
【0150】
(結晶構造の観察)
染色後、24時間以内に電子顕微鏡「JSM-7401F」(日本電子株式会社製)を用いて透過電子検出器にて観察し、断面観察像をスキャナー等により取り込み、画像処理解析装置LUZEX AP(ニレコ社製)を用いて、トナー母体粒子の断面に分散している結晶性ポリエステルドメイン、非晶性ビニル樹脂及び非晶性ポリエステル樹脂を同定した。各樹脂同定の評価基準を下記に示す。
界面が黒く観察され、内部が白く針状に(又は左記構造が積み重なって)観察される:結晶性ポリエステル樹脂
グレーから黒く観察される:非晶性ビニル樹脂
界面がグレーに内部が白く粒子状に観察される:非晶性ポリエステル樹脂
上記のとおり各樹脂を同定した後、前記した定義にしたがい、結晶性ポリエステルドメイン及び非晶性ポリエステル樹脂の全面積を求め、トナー母体粒子断面全体に占める、前記結晶性ポリエステルドメインの個数比率及び前記非晶性ポリエステル樹脂の面積比率を算出した。結果を下記表IIに示した。
また、結晶性ポリエステル樹脂ドメインの個数平均長径及び個数平均短径、平均アスペクト比を前記した方法で算出し、下記表IIに示した。
【0151】
[現像剤1~26の作製]
トナーを製造後、各トナーを、アクリル樹脂を被覆した体積平均粒径32μmのフェライトキャリアを、トナー粒子濃度が6質量%となるように添加して混合した。こうして、各種トナーを含有する二成分現像剤である現像剤1~26を作製した。
【0152】
[評価]
<低温定着性>
複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ株式会社製)の定着装置を、定着上ベルト及び定着下ローラーの表面温度を変更可能に改造したものを用い、二成分現像剤を順次装填した。上記装置について、定着温度、トナー付着量、システム速度を自由に設定できるように改造した。
常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、A4サイズの上質紙「NPI上質(127.9g/m)」(日本製紙社製)上で付着量を11.3g/mとなるように設定した。その後、100mm×100mmサイズの画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を120℃から2℃刻みで上げるように変更しながら160℃まで繰り返し行った。定着オフセットによる画像汚れが目視で確認されない最低の定着温度を最低定着温度(U.O.回避温度)とした。下記評価基準にもとづき、◎及び〇であれば実用上問題無しとした。
(評価基準)
◎:最低定着温度が135℃未満
○:最低定着温度が135℃以上140℃未満
×:最低定着温度が140℃以上
【0153】
<折り定着性>
複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ株式会社製)の定着装置を、定着上ベルトおよび定着下ローラーの表面温度を変更可能に改造したものを用い、二成分現像剤を順次装填した。上記装置について、定着温度、トナー付着量、システム速度を自由に設定できるように改造した。
常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、A4サイズの上質紙「NPI上質(127.9g/m)」(日本製紙社製)上で付着量が11.3g/mのベタ画像を出力する定着実験を、設定する定着温度を120℃から180℃まで5℃ずつ上げる変更を行いながら繰り返し行った。
次いで、各定着温度の定着実験において得られたプリント物を、折り機で上記ベタ画像に対して、10g/cm 相当の重量荷重でベタ画像同士が接触する向きに谷折りとなるように折り、0.35MPaの圧縮空気を吹き付けた。折り目部分を、下記評価基準にしたがってランク評価した。
(評価基準)
5:全く折れ目なし
4:一部折れ目に従った剥離あり
3:折れ目に従った細かい線状の剥離あり
2:折れ目に従った太い線状の剥離あり
1:折れ目に従った大きな剥離あり
前記評価基準においてランク2以上となった画像のうち、最も定着温度の低い定着実験における定着温度を定着下限温度とした。この定着下限温度を下記の分類で評価し、◎、〇及び△であれば、実用上問題無しとした。
(評価基準)
◎:定着下限温度が150℃未満
○:定着下限温度が150℃以上155℃未満
△:定着下限温度が155℃以上160℃未満
×:定着下限温度が160℃以上
【0154】
<タッキング試験>
複合機「bizhub PRESS(登録商標) C1070」(コニカミノルタ株式会社製)の定着装置を、定着上ベルト及び定着下ローラーの表面温度を変更可能に改造したものを用い、二成分現像剤を順次装填した。上記装置について、定着温度、トナー付着量、システム速度、排紙エアーを自由に設定できるように改造した。常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、A4サイズの塗工紙「OKトップコート+(157.0g/m)」(王子製紙社製)上で付着量が10.2g/mのベタ画像を出力する定着実験を、定着温度180℃にて800枚行った。紙表面温度を記録するため、排紙された画像の内、1、100、200、300、400、500、600、700枚目の画像に熱電対「モールド型表面センサー:MF-O-K」(東亜機器社製)を紙中心部に張り付けた。定着された画像が排紙トレイに800枚すべて積載されたのちに、紙温度が冷えるまで8時間放置した。紙が排紙されてから冷えるまでの間に到達した最高温度をその紙における測定温度とした。
8時間放置した後に重ね合った画像同士がどれだけくっついているか1、100、200、300、400、500、600、700枚目の画像に対して評価を行った。以下の評価基準にしたがってOKレベルとなった画像における測定温度をタッキング解消温度とした。なお、測定温度は排紙エアーの風量を変更することで制御することができ、1、100、200、300、400、500、600、700枚目の画像すべてにおいてNGとなった場合は排紙エアーの風量を大きくし、再度同様の実験をOKレベルの画像が出るまで繰り返す。
(評価基準)
OK:簡単に手で剥がせる。(剥離音なし)もしくは剥がせるが剥離音がする。
NG:剥がした後にトナー画像面が荒れている。
タッキング解消温度は下記の評価基準で判断し、◎及び〇を合格レベルとする。より高温で排紙されてもタッキングが発生しないことが望ましい。
(評価基準)
◎:60℃以上
○:56℃以上60℃未満
×:56℃未満
【0155】
<トナーの耐久性(トナー飛散)>
トナーの耐久性は、市販のカラー複合機「bizhub PRESS C1070(コニカミノルタ社製)」を用いて評価した。高温高湿(30℃・80%RH)環境下において、白紙を50000枚出力した後、現像部周辺への飛散状況を目視観察したうえで、5%カバレッジでの帯チャートを連続5枚出力した際の画像不良有無を観察し、下記評価基準により評価した。下記の評価基準により、◎、○及び△であれば合格とした。
(評価基準)
◎:現像器周辺部へのトナー飛散が殆ど見られず、出力画像の画像不良も無い状態
○:現像器周辺部への軽微なトナー飛散が見られるが、出力画像の画商不良は無い状態
△:現像機周辺部へのトナー飛散は多いが、出力画像に画像不良が検出されるものの頻度は低い状態
×:現像器周辺部へのトナー飛散が非常に多く、出力画像に画像不良が検出される状態
【0156】
【表1】
【0157】
【表2】
【0158】
【表1】
【0159】
上記結果に示されるように、本発明のトナーは比較例のトナーに比べて、良好な低温定着性及び折り定着性を有し、画像出力後の画像部間のタッキングを抑制でき、また、高温高湿環境下での現像耐久性が良好であることが分かる。
【符号の説明】
【0160】
1 トナー母体粒子
2 マトリクス(ビニル系樹脂マトリクス)
3 ドメイン(結晶性ポリエステル樹脂ドメイン)
4 非晶性ポリエステル樹脂
B 境界線
C 中心位置
L 直線
図1