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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/00 20060101AFI20240423BHJP
   G03G 15/08 20060101ALI20240423BHJP
   G03G 15/06 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G03G15/00 303
G03G15/08 235
G03G15/06 101
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020053844
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021156912
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】清水 保
(72)【発明者】
【氏名】久保 憲生
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 麻美
(72)【発明者】
【氏名】田内 康大
(72)【発明者】
【氏名】豊田 祐司
【審査官】山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-233704(JP,A)
【文献】特開平10-142908(JP,A)
【文献】特開2020-034828(JP,A)
【文献】特開平06-214451(JP,A)
【文献】特開平05-107835(JP,A)
【文献】特開2015-203731(JP,A)
【文献】特開2020-034799(JP,A)
【文献】米国特許第06285840(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/00
G03G 15/08
G03G 15/06
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに画像を形成する画像形成動作を実行することが可能な画像形成装置であって、
回転され、静電潜像が形成されることを許容するとともに前記静電潜像がトナーによって顕在化されたトナー像を担持する表面を有する像担持体と、
前記像担持体を所定の帯電電位に帯電する帯電装置と、
前記帯電装置よりも前記像担持体の回転方向下流側に配置され、前記帯電電位に帯電された前記像担持体の表面を所定の画像情報に応じて露光することで前記静電潜像を形成する露光装置と、
前記露光装置よりも前記回転方向下流側の所定の現像ニップ部において前記像担持体に対向して配置される現像装置であって、回転されトナーおよびキャリアからなる現像剤を担持する周面を有し前記像担持体にトナーを供給することで前記トナー像を形成する現像ローラーを含む現像装置と、
前記像担持体上に担持された前記トナー像をシートに転写する転写部と、
直流電圧に交流電圧が重畳された現像バイアスを前記現像ローラーに印加可能な現像バイアス印加部と、
前記現像ローラーと前記現像バイアス印加部との間を流れる現像電流の直流成分を検出することが可能な電流検出部と、
前記トナー像の濃度を検出することが可能な濃度検出部と、
前記像担持体上に形成される所定の測定用潜像に対応して前記現像ローラーに前記現像バイアスを印加することで前記測定用潜像をトナーで測定用トナー像に現像する際に前記電流検出部によって検出される前記現像電流の直流成分または前記濃度検出部によって検出される前記測定用トナー像の濃度に基づいて、前記画像形成動作において前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記交流電圧のピーク間電圧および前記直流電圧のそれぞれの基準となる基準電圧を決定するバイアス条件決定モードを実行するバイアス条件決定部と、
を備え、
前記バイアス条件決定部は、前記バイアス条件決定モードとして、
前記濃度検出部によって検出される前記測定用トナー像の濃度に基づいて、前記画像形成動作において前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記直流電圧の基準となる基準直流電圧を決定する、直流電圧決定モードと、
前記現像バイアスを前記現像ローラーに印加することで、前記測定用潜像をトナーで前記測定用トナー像に現像する際に前記電流検出部によって検出される前記現像電流の直流成分に基づいて、前記画像形成動作において前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記交流電圧のピーク間電圧の基準となる基準ピーク間電圧を決定するピーク間電圧決定モードと、
をそれぞれ実行することが可能であり、前記直流電圧決定モードにおいて決定された前記基準直流電圧に応じて、前記ピーク間電圧決定モードの実行要否を判定する、画像形成装置。
【請求項2】
前記バイアス条件決定部は、前記ピーク間電圧決定モードの実行後に、前記決定された基準ピーク間電圧に応じて設定されピーク間電圧を含む現像バイアスを前記現像ローラーに印加することで、前記直流電圧決定モードを再度実行することが可能である、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記バイアス条件決定部は、n回目(nは自然数)の前記直流電圧決定モードによって決定された前記基準直流電圧とn+1回目の前記直流電圧決定モードによって決定された前記基準直流電圧との差が予め設定された閾値よりも大きい場合に、前記n+1回目の前記直流電圧決定モードの実行後に前記ピーク間電圧決定モードの実行が必要と判定する、請求項1または2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードによって決定された前記基準直流電圧が予め設定された下限閾値よりも小さい場合、または、前記決定された前記基準直流電圧が予め設定された上限閾値よりも大きい場合に、前記直流電圧決定モードの実行後に前記ピーク間電圧決定モードの実行が必要と判定する、請求項1または2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードによって決定された前記基準直流電圧が前記下限閾値よりも小さい場合に、前記直流電圧決定モードの実行後に実行される前記ピーク間電圧決定モードにおいて前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記直流電圧を、前記決定された基準直流電圧よりも大きな値に設定する、請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードの実行後に実行される前記ピーク間電圧決定モードにおいて前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記直流電圧を、前記下限閾値と前記上限閾値との中間値から前記上限閾値までの範囲に含まれる値に設定する、請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードによって決定された前記基準直流電圧が前記上限閾値よりも大きい場合に、前記直流電圧決定モードの実行後に実行される前記ピーク間電圧決定モードにおいて前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記直流電圧を、前記決定された基準直流電圧よりも小さな値に設定する、請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードの実行後に実行される前記ピーク間電圧決定モードにおいて前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記直流電圧を、前記下限閾値と前記上限閾値との中間値から前記下限閾値までの範囲に含まれる値に設定する、請求項7に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記バイアス条件決定部は、前記ピーク間電圧決定モードにおいて、
前記現像バイアスの前記交流電圧の前記ピーク間電圧を所定の第1測定範囲に含まれる少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧にそれぞれ設定した条件で前記現像電流の直流成分をそれぞれ取得し、前記第1測定範囲における前記第1測定用ピーク間電圧と前記取得された現像電流の直流成分との関係を示す一次近似式である第1近似式を決定する第1近似式決定動作と、
前記現像バイアスの前記交流電圧の前記ピーク間電圧を前記第1測定範囲の最大値よりも大きな最小値を有するように設定された第2測定範囲に含まれる少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧にそれぞれ設定した条件で前記現像電流の直流成分をそれぞれ取得し、前記第2測定範囲における前記第2測定用ピーク間電圧と前記取得された現像電流の直流成分との関係を示す一次近似式である第2近似式を決定する第2近似式決定動作と、
前記第1近似式決定動作で決定された前記第1近似式と前記第2近似式決定動作で決定された前記第2近似式とが互いに交差する交点におけるピーク間電圧を前記基準ピーク間電圧として決定する、基準電圧決定動作と、
をそれぞれ実行する、請求項1乃至8の何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記バイアス条件決定部は、前記第1測定範囲に含まれる前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧においてそれぞれ取得された前記現像電流の直流成分から最小二乗法によって前記第1近似式を決定する、請求項9に記載の画像形成装置。
【請求項11】
前記バイアス条件決定部は、前記第2測定範囲に含まれる前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧においてそれぞれ取得された前記現像電流の直流成分から最小二乗法によって決定された一次近似式である第1判定用近似式の傾きが予め設定された第1閾値よりも大きい場合には、前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧においてそれぞれ取得された現像電流の直流成分の平均値がピーク間電圧の変化に対して一定となる直線式を前記第2近似式として設定し、前記第1判定用近似式の傾きが前記第1閾値よりも小さい場合には、前記第1判定用近似式を前記第2近似式として設定する、請求項9に記載の画像形成装置。
【請求項12】
前記第1測定範囲における前記複数の第1測定用ピーク間電圧の間隔、および、前記第2測定範囲における前記複数の第2測定用ピーク間電圧の間隔は、それぞれ、前記第1測定範囲の前記最大値と前記第2測定範囲の前記最小値との間隔よりも小さく設定されている、請求項9乃至11の何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項13】
前記バイアス条件決定部は、前記第1近似式決定動作において、前記第1近似式の相関係数が予め設定された第2閾値よりも小さい場合には、前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧から少なくとも一のピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対応する前記現像電流の直流成分に基づいて前記第1近似式を決定する、請求項10に記載の画像形成装置。
【請求項14】
前記バイアス条件決定部は、前記第1近似式決定動作において、前記第1近似式の相関係数が前記第2閾値よりも小さい場合には、前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧のうちの最も大きなピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対応する前記現像電流の直流成分に基づいて前記第1近似式を決定する、請求項13に記載の画像形成装置。
【請求項15】
前記バイアス条件決定部は、前記第2近似式決定動作において、前記第2近似式の相関係数が予め設定された第3閾値よりも小さい場合には、前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧から少なくとも一のピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対応する前記現像電流の直流成分に基づいて前記第2近似式を決定する、請求項11に記載の画像形成装置。
【請求項16】
前記バイアス条件決定部は、前記第2近似式決定動作において、前記第2近似式の相関係数が前記第3閾値よりも小さい場合には、前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧のうちの最も大きなピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対応する前記現像電流の直流成分に基づいて決定された第2判定用近似式の相関係数と、前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧のうちの最も小さなピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対応する前記現像電流の直流成分に基づいて決定された第3判定用近似式の相関係数とを互いに比較し、前記第2判定用近似式および前記第3判定用近似式のうち相関係数が大きい方の判定用近似式を前記第2近似式として決定する、請求項15に記載の画像形成装置。
【請求項17】
前記バイアス条件決定部は、前記第2近似式決定動作において除外された前記最も大きなピーク間電圧または前記最も小さなピーク間電圧を、前記第2測定範囲から予め除外して次のバイアス条件決定モードを実行する、請求項16に記載の画像形成装置。
【請求項18】
前記第1測定範囲における前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧の数が、前記第2測定範囲における前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧の数よりも多く設定されている、請求項9乃至17の何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項19】
前記バイアス条件決定部は、前記現像電流の直流成分を構成する3つの電流であって、前記現像ニップ部の画像形成部分において前記現像ローラーから前記像担持体にトナーが移動することで生じる電流であるトナー移動電流と、前記画像形成部分において前記トナーおよび前記キャリアによって前記現像ローラーと前記像担持体とに跨るように形成される磁気ブラシに沿って前記トナー移動電流と同じ向きに流れる電流である画像部磁気ブラシ電流と、更に、前記現像ニップ部の非画像形成部分において前記トナーおよび前記キャリアによって前記現像ローラーと前記像担持体とに跨るように形成される磁気ブラシに沿って前記トナー移動電流とは逆向きに流れる電流である非画像部磁気ブラシ電流とのバランスが前記ピーク間電圧の変化に応じて変化する点である変化点を、前記第1近似式と前記第2近似式との前記交点によって取得し、前記変化点に対応するピーク間電圧を前記基準ピーク間電圧として決定する、請求項9乃至18の何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項20】
前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードにおいて、
前記現像バイアスの前記直流電圧を複数の測定用直流電圧にそれぞれ設定した条件で前記現像バイアスを前記現像ローラーに印加することで、前記測定用潜像をトナーで前記測定用トナー像に現像し前記濃度検出部によって検出される前記測定用トナー像の濃度をそれぞれ取得し、前記複数の測定用直流電圧と複数の前記測定用トナー像の濃度との関係から所定の目標濃度に対応する直流電圧を前記基準直流電圧として決定する、請求項1乃至19の何れか1項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二成分現像方式が適用された現像装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シートに画像を形成する画像形成装置として、感光体ドラム(像担持体)と、現像装置と、転写部材と、を備えるものが知られている。感光体ドラム上に形成された静電潜像が、現像装置によってトナーで顕在化されると、感光体ドラム上にトナー像が形成される。転写部材によって、トナー像がシートに転写される。このような画像形成装置に適用される現像装置として、トナーおよびキャリアを含む現像剤が使用される二成分現像技術が知られている。
【0003】
二成分現像技術においては、現像装置が現像ローラーを有し、当該現像ローラーにDCバイアスにACバイアスが重畳された現像バイアスが印加されることで、好適なトナー像が形成される。従来、DCバイアスを変化させながらハーフトーン画像の画像濃度を測定し、その特性から目標の画像濃度を得ることができるDCバイアスを選択する技術が知られている。特に、環境変化や印刷条件によってトナーの帯電量が変化すると画像濃度に影響が生じるため、前記トナーの帯電性に応じたDCバイアスの設定が必要となる。一方、ACバイアスのうちVpp(ピーク間電圧)を高く設定すると画像濃度が上昇しハーフトーン画像のキメが向上するとともに、現像ローラーの回転周期で発生しやすいハーフ画像ピッチムラが改善する傾向がある。しかしながら、Vppを高く設定しすぎると、感光体ドラムと現像ローラーとが対向する現像ニップ部においてリークが発生することがあるとともに、現像ローラーの1周前の印字履歴が画像上に現れる、いわゆる現像ゴーストが悪化する。また、Vppを低く設定しすぎると、現像ローラーや感光体ドラムの円周振れに応じた画像濃度変化(ハーフ画像ピッチムラ)がハーフトーン画像上に発生する。このため、現像バイアスのうちACバイアスのVppを適切に設定する必要がある。この際、現像ゴーストやハーフ画像ピッチムラもトナーの帯電量の影響を受けやすいため、ACバイアスのVppをDCバイアスと同様に適切なタイミングで調整する必要があった。
【0004】
特許文献1には、テスト用の静電潜像が現像される際の現像電流が検知され、当該検知された現像電流に応じて感光体ドラムの表面電位や現像バイアスのVppなどを含む画像形成条件が変更される技術が開示されている。また、特許文献2には、現像電流と感光体ドラムにおけるトナー付着量とからトナー帯電量が推定され、当該トナー帯電量に基づいてACバイアスのVppおよびデューティのうちの少なくとも一方が調整される技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-107835号公報
【文献】特開2015-203731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来の技術では、画像欠陥を抑止するためにACバイアスのVppなどが調整される。ここで、前述のDCバイアスと感光体ドラムの背景部電位との差が大きくなりすぎると、前記現像ゴーストの悪化が生じる一方、ハーフ画像ピッチむらは良化する。このように、現像バイアスのDCバイアスとACバイアスのVppとは同じ画像結果に影響を及ぼすため、Vppのみを調整しても安定した画像を得ることは困難であった。すなわち、ACバイアスのVppを好適に調整したとしても、DCバイアスの値によっては解消すべき画像欠陥が悪化することがあった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためのものであり、二成分現像方式が適用された現像装置を有する画像形成装置において、同じ画像欠陥に影響を及ぼし合う現像バイアスの直流バイアスおよび交流バイアスのピーク間電圧をそれぞれ適切なタイミングで設定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に係る画像形成装置は、シートに画像を形成する画像形成動作を実行することが可能な画像形成装置であって、回転され、静電潜像が形成されることを許容するとともに前記静電潜像がトナーによって顕在化されたトナー像を担持する表面を有する像担持体と、前記像担持体を所定の帯電電位に帯電する帯電装置と、前記帯電装置よりも前記像担持体の回転方向下流側に配置され、前記帯電電位に帯電された前記像担持体の表面を所定の画像情報に応じて露光することで前記静電潜像を形成する露光装置と、前記露光装置よりも前記回転方向下流側の所定の現像ニップ部において前記像担持体に対向して配置される現像装置であって、回転されトナーおよびキャリアからなる現像剤を担持する周面を有し前記像担持体にトナーを供給することで前記トナー像を形成する現像ローラーを含む現像装置と、前記像担持体上に担持された前記トナー像をシートに転写する転写部と、直流電圧に交流電圧が重畳された現像バイアスを前記現像ローラーに印加可能な現像バイアス印加部と、前記現像ローラーと前記現像バイアス印加部との間を流れる現像電流の直流成分を検出することが可能な電流検出部と、前記トナー像の濃度を検出することが可能な濃度検出部と、前記像担持体上に形成される所定の測定用潜像に対応して前記現像ローラーに前記現像バイアスを印加することで前記測定用潜像をトナーで測定用トナー像に現像する際に前記電流検出部によって検出される前記現像電流の直流成分または前記濃度検出部によって検出される前記測定用トナー像の濃度に基づいて、前記画像形成動作において前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記交流電圧のピーク間電圧および前記直流電圧のそれぞれの基準となる基準電圧を決定するバイアス条件決定モードを実行するバイアス条件決定部と、を備える。前記バイアス条件決定部は、前記バイアス条件決定モードとして、前記濃度検出部によって検出される前記測定用トナー像の濃度に基づいて、前記画像形成動作において前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記直流電圧の基準となる基準直流電圧を決定する、直流電圧決定モードと、前記現像バイアスを前記現像ローラーに印加することで、前記測定用潜像をトナーで前記測定用トナー像に現像する際に前記電流検出部によって検出される前記現像電流の直流成分に基づいて、前記画像形成動作において前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記交流電圧のピーク間電圧の基準となる基準ピーク間電圧を決定するピーク間電圧決定モードとをそれぞれ実行することが可能であり、前記直流電圧決定モードにおいて決定された前記基準直流電圧に応じて、前記ピーク間電圧決定モードの実行要否を判定する。
【0009】
本構成によれば、現像ローラーと像担持体との距離(DSギャップ)やトナーの帯電量、キャリアの抵抗などの各画像形成条件が変化した場合でも、必要に応じてバイアス条件決定部がバイアス条件決定モードを実行することで、各画像形成条件に応じた現像バイアスの直流電圧、交流電圧のピーク間電圧をそれぞれ設定することが可能となる。この結果、同じ画像欠陥に影響を及ぼし合う現像バイアスの直流電圧、交流電圧のピーク間電圧をそれぞれ安定して設定し、画像品質を安定化および向上させることが可能となる。特に、バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードにおいて決定された前記基準直流電圧に応じて、前記ピーク間電圧決定モードの実行要否を判定するため、トナーの帯電量の代用特性値として基準直流電圧を利用して、ピーク間電圧決定モードの実行要否を効率的に判定することができる。したがって、現像バイアスの直流電圧および交流電圧のピーク間電圧をそれぞれ適切なタイミングで設定することが可能となる。
【0010】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記ピーク間電圧決定モードの実行後に、前記決定された基準ピーク間電圧に応じて設定されたたピーク間電圧を含む現像バイアスを前記現像ローラーに印加することで、前記直流電圧決定モードを再度実行することが可能であることが望ましい。
【0011】
本構成によれば、ピーク間電圧決定モードにおいて新たな基準ピーク間電圧が決定されると、当該基準ピーク間電圧に基づいて再度の直流電圧決定モードを実行することで、画像濃度にずれが生じることが防止される。
【0012】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、n回目(nは自然数)の前記直流電圧決定モードによって決定された前記基準直流電圧とn+1回目の前記直流電圧決定モードによって決定された前記基準直流電圧との差が予め設定された閾値よりも大きい場合に、前記n+1回目の前記直流電圧決定モードの実行後に前記ピーク間電圧決定モードの実行が必要と判定することが望ましい。なお、このn回目については、単純に直流電圧決定モードの動作回数を示す場合と、ピーク間電圧決定モードと連続して行われた直流電圧決定モードの動作回数を示す場合とのどちらの場合も含まれる。上記のn回目が、単純に直流電圧決定モードの動作回数を表す場合は、毎回基準直流電圧が少しずつ変化すると、予め設定された閾値以上に変化する可能性は低いが、実際のトナーの帯電量の変化に即応している。このため、例えば、少しずつ基準直流電圧が下がっている中で、急激に基準直流電圧が上昇した場合、その変化に対応してピーク間電圧決定モードが作動する。一方、上記のn回目が、ピーク間電圧決定モードと連続して行われる直流電圧決定モードの動作回数を表す場合は、直流電圧決定モードのみが単独で行われる場合の結果を無視するため、直流電圧決定モードのみが実行されることで徐々に基準直流電圧が変化しても、その変化とは関係なく、基準ピーク間電圧を変更する必要があるかという正確な判定が可能となる。この場合、前述の様な急激な変化が起こっても、その変化が、前回の直流電圧決定モードが行われた時の基準直流電圧を基準としているため、ピーク間電圧決定モードが作動しないが、そのような事象は発生する確率は極めて低いため、問題はない。
【0013】
本構成によれば、トナーの帯電量の代用特性値としての基準直流電圧が大きく変化した場合にはトナーの帯電量が大きく変化したと推定し、ピーク間電圧決定モードを確実に実行することができる。
【0014】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードによって決定された前記基準直流電圧が予め設定された下限閾値よりも小さい場合、または、前記決定された前記基準直流電圧が予め設定された上限閾値よりも大きい場合に、前記直流電圧決定モードの実行後に前記ピーク間電圧決定モードの実行が必要と判定することが望ましい。
【0015】
本構成によれば、トナーの帯電量の代用特性値としての基準直流電圧が予め設定された許容範囲から外れた場合にはトナーの帯電量が大きく変化したと推定し、ピーク間電圧決定モードを確実に実行することができる。
【0016】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードによって決定された前記基準直流電圧が前記下限閾値よりも小さい場合に、前記直流電圧決定モードの実行後に実行される前記ピーク間電圧決定モードにおいて前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記直流電圧を、前記決定された基準直流電圧よりも大きな値に設定することが望ましい。
【0017】
本構成によれば、トナーの帯電量の代用特性値としての基準直流電圧が予め設定された下限閾値を下回った場合には、トナーの帯電量に対応して、より大きな直流電圧に基づいてピーク間電圧決定モードを安定して実行することができる。
【0018】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードの実行後に実行される前記ピーク間電圧決定モードにおいて前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記直流電圧を、前記下限閾値と前記上限閾値との中間値から前記上限閾値までの範囲に含まれる値に設定することが望ましい。
【0019】
本構成によれば、トナーの帯電量の代用特性値としての基準直流電圧が予め設定された下限閾値を下回った場合には、トナーの帯電量に対応して、より大きな直流電圧に基づいてピーク間電圧決定モードを更に安定して実行することができる。
【0020】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードによって決定された前記基準直流電圧が前記上限閾値よりも大きい場合に、前記直流電圧決定モードの実行後に実行される前記ピーク間電圧決定モードにおいて前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記直流電圧を、前記決定された基準直流電圧よりも小さな値に設定することが望ましい。
【0021】
本構成によれば、トナーの帯電量の代用特性値としての基準直流電圧が予め設定された上限閾値を上回った場合には、トナーの帯電量に対応して、より小さな直流電圧に基づいてピーク間電圧決定モードを安定して実行することができる。
【0022】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードの実行後に実行される前記ピーク間電圧決定モードにおいて前記現像ローラーに印加される前記現像バイアスの前記直流電圧を、前記下限閾値と前記上限閾値との中間値から前記下限閾値までの範囲に含まれる値に設定することが望ましい。
【0023】
本構成によれば、トナーの帯電量の代用特性値としての基準直流電圧が予め設定された上限閾値を上回った場合には、トナーの帯電量に対応して、より小さな直流電圧に基づいてピーク間電圧決定モードを更に安定して実行することができる。
【0024】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記ピーク間電圧決定モードにおいて、第1近似式決定動作と、第2近似式決定動作と、基準電圧決定動作と、をそれぞれ実行する。前記バイアス条件決定部は、第1近似式決定動作では、前記現像バイアスの前記交流成分の前記ピーク間電圧を所定の第1測定範囲に含まれる少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧にそれぞれ設定した条件で前記現像電流の直流成分をそれぞれ取得し、前記第1測定範囲における前記第1測定用ピーク間電圧と前記取得された現像電流の直流成分との関係を示す一次近似式である第1近似式を決定する。前記バイアス条件決定部は、第2近似式決定動作では、前記現像バイアスの前記交流成分の前記ピーク間電圧を前記第1測定範囲の最大値よりも大きな最小値を有するように設定された第2測定範囲に含まれる少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧にそれぞれ設定した条件で前記現像電流の直流成分をそれぞれ取得し、前記第2測定範囲における前記第2測定用ピーク間電圧と前記取得された現像電流の直流成分との関係を示す一次近似式である第2近似式を決定する。前記バイアス条件決定部は、基準電圧決定動作では、前記第1近似式決定動作で決定された前記第1近似式と前記第2近似式決定動作で決定された前記第2近似式とが互いに交差する交点におけるピーク間電圧を前記基準ピーク間電圧として決定する。また、画像形成動作時の実ピーク間電圧は、前記基準ピーク間電圧に対して、その基準ピーク間電圧そのままの値、もしくはその基準ピーク間電圧に一定比率を乗じた値、もしくは一定値を加えた値、または一定比率を乗じた上に一定値を加えた値を用いる。
【0025】
本構成によれば、第1測定範囲および第2測定範囲のそれぞれの範囲において交流バイアスのピーク間電圧と現像電流との関係を示す第1近似式と第2近似式との交点から基準ピーク間電圧が設定される。上記の交点の近傍では、交流バイアスのピーク間電圧と現像電流との関係の変化点が存在するため、第1測定範囲における第1近似式の傾きの影響を受けにくく、トナーの帯電量やDSギャップの変動によって画像濃度が変化することを抑止することができる。また、キャリアの抵抗などの変動に応じて第2近似式の傾きが所定の閾値よりも小さくなる領域であってピーク間電圧の増加に応じて現像電流が低下しやすい領域に基準ピーク間電圧を設定することが抑止される。この結果、画像形成動作において安定した画像濃度を出力することが可能な現像バイアスの交流バイアスを設定することが可能となる。
【0026】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記第1測定範囲に含まれる前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧においてそれぞれ取得された前記現像電流の直流成分から最小二乗法によって前記第1近似式を決定することが望ましい。
【0027】
本構成によれば、第1測定範囲に含まれる第1測定用ピーク間電圧から、簡易な演算処理によって第1近似式を決定することができる。
【0028】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記第2測定範囲に含まれる前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧においてそれぞれ取得された前記現像電流の直流成分から最小二乗法によって決定された一次近似式である第1判定用近似式の傾きが予め設定された第1閾値よりも大きい場合には、前記少なくとも3つの第2測定用前記ピーク間電圧においてそれぞれ取得された現像電流の直流成分の平均値がピーク間電圧の変化に対して一定となる直線式を前記第2近似式として設定し、前記第1判定用近似式の傾きが前記第1閾値よりも小さい場合には、前記第1判定用近似式を前記第2近似式として設定することが望ましい。
【0029】
本構成によれば、キャリアの抵抗値などの影響によって、その傾きが変化しやすい第2近似式の決定過程において、第1判定用近似式の傾きに応じてより適切な近似式を第2近似式として選択することができる。
【0030】
上記の構成において、前記第1測定範囲における前記複数の第1測定用ピーク間電圧の間隔、および、前記第2測定範囲における前記複数の第2測定用ピーク間電圧の間隔は、それぞれ、前記第1測定範囲の前記最大値と前記第2測定範囲の前記最小値との間隔よりも小さく設定されていることが望ましい。
【0031】
本構成によれば、第1測定範囲と第2測定範囲とを明確に区別し、更にそれぞれの測定範囲においてピーク間電圧の間隔を細かく設定することで、第1近似式、第2近似式の決定精度を高めることができる。
【0032】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記第1近似式決定動作において、前記第1近似式の相関係数が予め設定された第2閾値よりも小さい場合には、前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧から少なくとも一のピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対応する前記現像電流の直流成分に基づいて前記第1近似式を決定することが望ましい。
【0033】
本構成によれば、第1近似式の決定過程において相関係数が小さい場合には、少なくとも一のピーク間電圧のデータを除外することで、より精度の高い第1近似式を決定することができる。
【0034】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記第1近似式決定動作において、前記第1近似式の相関係数が前記第2閾値よりも小さい場合には、前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧のうちの最も大きなピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対応する前記現像電流の直流成分に基づいて前記第1近似式を決定することが望ましい。
【0035】
本構成によれば、第1近似式の決定過程において相関係数が小さい場合には、第2測定範囲に近いピーク間電圧のデータを除外することで、更に精度の高い第1近似式を決定することができる。
【0036】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記第2近似式決定動作において、前記第2近似式の相関係数が予め設定された第3閾値よりも小さい場合には、前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧から少なくとも一のピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対応する前記現像電流の直流成分に基づいて前記第2近似式を決定することが望ましい。
【0037】
本構成によれば、第2近似式の決定過程において相関係数が小さい場合には、少なくとも一のピーク間電圧のデータを除外することで、より精度の高い第2近似式を決定することができる。
【0038】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記第2近似式決定動作において、前記第2近似式の相関係数が前記第3閾値よりも小さい場合には、前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧のうちの最も大きなピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対応する前記現像電流の直流成分に基づいて決定された第2判定用近似式の相関係数と、前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧のうちの最も小さなピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対応する前記現像電流の直流成分に基づいて決定された第3判定用近似式の相関係数とを互いに比較し、前記第2判定用近似式および前記第3判定用近似式のうち相関係数が大きい方の判定用近似式を前記第2近似式として決定することが望ましい。
【0039】
本構成によれば、第2近似式の決定過程において相関係数が小さい場合には、第2測定範囲のうち第1測定範囲に最も近い最小のピーク間電圧、または、放電リークが生じやすくノイズを含みやすい最大のピーク間電圧のデータうちのいずれかのデータを除外することで、より精度の高い第2近似式を決定することができる。
【0040】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記第2近似式決定動作において除外された前記最も大きなピーク間電圧または前記最も小さなピーク間電圧を、前記第2測定範囲から予め除外して次のバイアス条件決定モードを実行することが望ましい。
【0041】
本構成によれば、前回のバイアス条件決定モードにおいて除外されたデータを次のバイアス条件決定モードでは最初から除外しておくことで、モード実行時間を短縮し精度の高い基準ピーク間電圧を決定することができる。
【0042】
上記の構成において、前記第1測定範囲における前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧の数が、前記第2測定範囲における前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧の数よりも多く設定されていることが望ましい。
【0043】
本構成によれば、現像電流が大きく変化しやすい第1測定範囲において相対的に多くのデータを取得することで、より精度の高い基準ピーク間電圧を決定することができる。
【0044】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記現像電流の直流成分を構成する3つの電流であって、前記現像ニップ部の画像形成部分において前記現像ローラーから前記像担持体にトナーが移動することで生じる電流であるトナー移動電流と、前記画像形成部分において前記トナーおよび前記キャリアによって前記現像ローラーと前記像担持体とに跨るように形成される磁気ブラシに沿って前記トナー移動電流とは同じ向きに流れる電流である画像部磁気ブラシ電流と、更に、前記現像ニップ部の非画像形成部分において前記トナーおよび前記キャリアによって前記現像ローラーと前記像担持体とに跨るように形成される磁気ブラシに沿って前記トナー移動電流とは逆向きに流れる電流である非画像部磁気ブラシ電流とのバランスによって決定される。この際、前記ピーク間電圧の変化に応じて変化する変化点を前記第1近似式と前記第2近似式との前記交点によって取得し、前記変化点に対応するピーク間電圧を前記基準ピーク間電圧として決定することが望ましい。
【0045】
本構成によれば、トナー移動電流、画像部磁気ブラシ電流および非画像部磁気ブラシ電流の3つの電流のバランスが変化する変化点を2つの近似式の交点によって予測し、基準ピーク間電圧を決定することができる。
【0046】
上記の構成において、前記バイアス条件決定部は、前記直流電圧決定モードにおいて、前記現像バイアスの前記直流電圧を複数の測定用直流電圧にそれぞれ設定した条件で前記現像バイアスを前記現像ローラーに印加することで、前記測定用潜像をトナーで前記測定用トナー像に現像し前記濃度検出部によって検出される前記測定用トナー像の濃度をそれぞれ取得し、前記複数の測定用直流電圧と複数の前記測定用トナー像の濃度との関係から所定の目標濃度に対応する直流電圧を前記基準直流電圧として決定することが望ましい。
【0047】
本構成によれば、複数の測定用直流電圧と複数の測定用トナー像の濃度との関係から所定の目標濃度に対応する直流電圧を基準直流電圧として容易かつ安定して決定することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、画像形成装置に備えられる二成分現像方式が適用された現像装置の現像バイアスにおいて、同じ画像欠陥に影響を及ぼし合う直流バイアスおよび交流バイアスのピーク間電圧を適切なタイミングで設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の内部構造を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る現像装置の断面図および制御部の電気的構成を示したブロック図である。
図3A】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の現像動作を示す模式図である。
図3B】本発明の一実施形態に係る像担持体および現像ローラーの電位の大小関係を示す模式図である。
図3C】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の現像バイアスのDCバイアスおよびACバイアスの関係を示す模式図である。
図4】本発明の一実施形態に係る画像形成装置において実行される現像バイアスキャリブレーションのフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係る画像形成装置において実行されるDCキャリブレーションを説明するためのDCバイアスと画像濃度との関係を示すグラフである。
図6】本発明の一実施形態に係る画像形成装置において実行されるACキャリブレーションのフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態に係る画像形成装置において実行されるACキャリブレーションの第1近似式決定ステップのフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態に係る画像形成装置において実行されるACキャリブレーションの第2近似式決定ステップのフローチャートである。
図9】本発明の一実施形態に係る画像形成装置において実行されるACキャリブレーションのVppと現像電流との関係を示すグラフである。
図10】本発明の一実施形態に係る画像形成装置において実行されるACキャリブレーションのVppと現像電流との関係を示すグラフである。
図11】本発明の一実施形態に係る画像形成装置において実行されるACキャリブレーションのVppと現像電流との関係を示すグラフである。
図12】本発明の変形実施形態に係る画像形成装置において実行されるACキャリブレーションの第2近似式決定ステップのフローチャートである。
図13】本発明の変形実施形態に係る画像形成装置において実行されるACキャリブレーションの第2近似式決定ステップの一部のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る画像形成装置10について、図面に基づき詳細に説明する。本実施形態では、画像形成装置の一例として、タンデム方式のカラープリンタを例示する。画像形成装置は、例えば、複写機、ファクシミリ装置、及びこれらの複合機等であってもよい。また、画像形成装置は、単色(モノクロ)画像を形成するものでもよい。画像形成装置10は、シートPに画像を形成する画像形成動作を実行することが可能とされている。
【0051】
図1は、画像形成装置10の内部構造を示す断面図である。この画像形成装置10は、箱形の筐体構造を備える装置本体11を備える。この装置本体11内には、シートPを給紙する給紙部12、給紙部12から給紙されたシートPに転写するトナー像を形成する画像形成部13、前記トナー像が一次転写される中間転写ユニット14(転写部)、画像形成部13にトナーを補給するトナー補給部15、及び、シートP上に形成された未定着トナー像をシートPに定着する処理を施す定着部16が内装されている。さらに、装置本体11の上部には、定着部16で定着処理の施されたシートPが排紙される排紙部17が備えられている。
【0052】
装置本体11の上面の適所には、シートPに対する出力条件等を入力操作するための図略の操作パネルが設けられている。この操作パネルには、電源キーや出力条件を入力するためのタッチパネルや各種の操作キーが設けられている。
【0053】
装置本体11内には、さらに、画像形成部13より右側位置に、上下方向に延びるシート搬送路111が形成されている。シート搬送路111には、適所にシートを搬送する搬送ローラー対112が設けられている。また、シートのスキュー矯正を行うと共に、後述する二次転写のニップ部に所定のタイミングでシートを送り込むレジストローラー対113が、シート搬送路111における前記ニップ部の上流側に設けられている。シート搬送路111は、シートPを給紙部12から排紙部17まで、画像形成部13及び定着部16を経由して搬送させる搬送路である。
【0054】
給紙部12は、給紙トレイ121、ピックアップローラー122、及び給紙ローラー対123を備える。給紙トレイ121は、装置本体11の下方位置に挿脱可能に装着され、複数枚のシートPが積層されたシート束P1を貯留する。ピックアップローラー122は、給紙トレイ121に貯留されたシート束P1の最上面のシートPを1枚ずつ繰り出す。給紙ローラー対123は、ピックアップローラー122によって繰り出されたシートPをシート搬送路111に送り出す。
【0055】
給紙部12は、装置本体11の、図1に示す左側面に取り付けられる手差し給紙部を備える。手差し給紙部は、手差しトレイ124、ピックアップローラー125、及び給紙ローラー対126を備える。手差しトレイ124は、手差しされるシートPが載置されるトレイであり、手差しでシートPを給紙する際、図1に示すように、装置本体11の側面から開放される。ピックアップローラー125は、手差しトレイ124に載置されたシートPを繰り出す。給紙ローラー対126は、ピックアップローラー125によって繰り出されたシートPをシート搬送路111に送り出す。
【0056】
画像形成部13は、シートPに転写するトナー像を形成するものであって、異なる色のトナー像を形成する複数の画像形成ユニットを備える。この画像形成ユニットとして、本実施形態では、後述する中間転写ベルト141の回転方向上流側から下流側に向けて(図1に示す左側から右側へ)順次配設された、マゼンタ(M)色の現像剤を用いるマゼンタ用ユニット13M、シアン(C)色の現像剤を用いるシアン用ユニット13C、イエロー(Y)色の現像剤を用いるイエロー用ユニット13Y、及びブラック(Bk)色の現像剤を用いるブラック用ユニット13Bkが備えられている。各ユニット13M、13C、13Y、13Bkは、それぞれ感光体ドラム20(像担持体)と、感光体ドラム20の周囲に配置された帯電装置21、現像装置23、一次転写ローラー24及びクリーニング装置25とを備える。また、各ユニット13M、13C、13Y、13Bk共通の露光装置22が、画像形成ユニットの下方に配置されている。
【0057】
感光体ドラム20は、その軸回りに回転駆動され、静電潜像が形成されることを許容するとともに前記静電潜像がトナーによって顕在化されたトナー像を担持する円筒状の表面を有する。この感光体ドラム20としては、一例として、公知のアモルファスシリコン(α-Si)感光体ドラムや有機(OPC)感光体ドラムが用いられる。帯電装置21は、感光体ドラム20の表面を所定の帯電電位に均一に帯電する。帯電装置21は、帯電ローラーと、前記帯電ローラーに付着したトナーを除去するための帯電クリーニングブラシとを備える。露光装置22は、帯電装置21よりも感光体ドラム20の回転方向下流側に配置され、光源やポリゴンミラー、反射ミラー、偏向ミラーなどの各種の光学系機器を有する。露光装置22は、前記帯電電位に均一に帯電された感光体ドラム20の表面に、画像データ(所定の画像情報)に基づき変調された光を照射して露光することで、静電潜像を形成する。
【0058】
現像装置23は、露光装置22よりも感光体ドラム20の回転方向下流側の所定の現像ニップ部NP(図3A)において感光体ドラム20に対向して配置される。現像装置23は、回転されトナーおよびキャリアからなる現像剤を担持する周面を有し、感光体ドラム20にトナーを供給することで前記トナー像を形成する現像ローラー231を含む。
【0059】
一次転写ローラー24は、中間転写ユニット14に備えられている中間転写ベルト141を挟んで感光体ドラム20とニップ部を形成する。更に、一次転写ローラー24は、感光体ドラム20上のトナー像を中間転写ベルト141上に一次転写する。クリーニング装置25は、トナー像転写後の感光体ドラム20の周面を清掃する。
【0060】
中間転写ユニット14は、画像形成部13とトナー補給部15との間に設けられた空間に配置され、中間転写ベルト141と、図略のユニットフレームにて回転可能に支持された駆動ローラー142と、従動ローラー143と、バックアップローラー146と、濃度センサ100と、を備える。中間転写ベルト141は、無端状のベルト状回転体であって、その周面側が各感光体ドラム20の周面にそれぞれ当接するように、駆動ローラー142及び従動ローラー143、バックアップローラー146に架け渡されている。中間転写ベルト141は駆動ローラー142の回転により周回駆動される。従動ローラー143の近傍には、中間転写ベルト141の周面上に残存したトナーを除去するベルトクリーニング装置144が配置されている。濃度センサ100(濃度検出部)は、ユニット13M、13C、13Y、13Bkよりも下流側において中間転写ベルト141に対向して配置されており、中間転写ベルト141上に形成されたトナー像の濃度を反射光によって検出する(反射式)。なお、他の実施形態において、濃度センサ100は、感光体ドラム20上のトナー像の濃度を検出するものでもよく、また、シートP上に定着されたトナー像の濃度を検出するものでもよい。
【0061】
駆動ローラー142に対向して、中間転写ベルト141の外側には、二次転写ローラー145が配置されている。二次転写ローラー145は、中間転写ベルト141の周面に圧接されて、駆動ローラー142との間で転写ニップ部を形成している。中間転写ベルト141上に一次転写されたトナー像は、給紙部12から供給されるシートPに、転写ニップ部において二次転写される。すなわち、中間転写ユニット14および二次転写ローラー145は、感光体ドラム20上に担持されたトナー像をシートPに転写する転写部として機能する。また、駆動ローラー142には、その周面を清掃するためのロールクリーナー200が配置されている。
【0062】
トナー補給部15は、画像形成に用いられるトナーを貯留するものであり、本実施形態ではマゼンタ用トナーコンテナ15M、シアン用トナーコンテナ15C、イエロー用トナーコンテナ15Y及びブラック用トナーコンテナ15Bkを備える。これらトナーコンテナ15M、15C、15Y、15Bkは、それぞれM/C/Y/Bk各色の補給用トナーを貯留するものである。コンテナ底面に形成されたトナー排出口15Hから、M/C/Y/Bk各色に対応する画像形成ユニット13M、13C、13Y、13Bkの現像装置23に各色のトナーが補給される。
【0063】
定着部16は、内部に加熱源を備えた加熱ローラー161と、加熱ローラー161に対向配置された定着ローラー162と、定着ローラー162と加熱ローラー161とに張架された定着ベルト163と、定着ベルト163を介して定着ローラー162と対向配置され定着ニップ部を形成する加圧ローラー164とを備えている。定着部16へ供給されたシートPは、前記定着ニップ部を通過することで、加熱加圧される。これにより、前記転写ニップ部でシートPに転写されたトナー像は、シートPに定着される。
【0064】
排紙部17は、装置本体11の頂部が凹没されることによって形成され、この凹部の底部に排紙されたシートPを受ける排紙トレイ171が形成されている。定着処理が施されたシートPは、定着部16の上部から延設されたシート搬送路111を経由して、排紙トレイ151へ向けて排紙される。
【0065】
<現像装置について>
図2は、本実施形態に係る現像装置23の断面図および制御部980の電気的構成を示したブロック図である。現像装置23は、現像ハウジング230と、現像ローラー231と、第1スクリューフィーダー232と、第2スクリューフィーダー233と、規制ブレード234とを備える。現像装置23には、二成分現像方式が適用されている。
【0066】
現像ハウジング230には、現像剤収容部230Hが備えられている。現像剤収容部230Hには、トナーとキャリアとからなる二成分現像剤が収容されている。また、現像剤収容部230Hは、現像剤が現像ローラー231の軸方向の一端側から他端側に向かう第1搬送方向(図2の紙面と直交する方向、後から前に向かう方向)に搬送される第1搬送部230Aと、軸方向の両端部において第1搬送部230Aに連通され、第1搬送方向とは逆の第2搬送方向に現像剤が搬送される第2搬送部230Bとを含む。第1スクリューフィーダー232および第2スクリューフィーダー233は、図2の矢印D22、D23方向に回転され、それぞれ、現像剤を第1搬送方向および第2搬送方向に搬送する。特に、第1スクリューフィーダー232は、現像剤を第1搬送方向に搬送しながら、現像ローラー231に現像剤を供給する。
【0067】
現像ローラー231は、現像ニップ部NP(図3A)において、感光体ドラム20に対向して配置されている。現像ローラー231は、回転されるスリーブ231Sと、スリーブ231Sの内部に固定配置された磁石231Mとを備える。磁石231Mは、S1、N1、S2、N2およびS3極を備える。N1極は主極とし機能し、S1極およびN2極は搬送極として機能し、S2極は剥離極として機能する。また、S3極は、汲み上げ極および規制極として機能する。一例として、S1極、N1極、S2極、N2極およびS3極の磁束密度は、54mT、96mT、35mT、44mTおよび45mTに設定される。現像ローラー231のスリーブ231Sは、図2の矢印D21方向に回転される。現像ローラー231は、回転され、現像ハウジング230内の現像剤を受け取って現像剤層を担持し、感光体ドラム20にトナーを供給する。なお、本実施形態では、現像ローラー231は、感光体ドラム20と対向する位置において、同方向(ウィズ方向)に回転する。また、現像ローラー231の軸方向(幅方向)において、二成分現像剤の磁気ブラシが形成される範囲は、一例として、304mmである。
【0068】
規制ブレード234は、現像ローラー231に所定の間隔をおいて配置され、第1スクリューフィーダー232から現像ローラー231の周面上に供給された現像剤の層厚を規制する。
【0069】
現像装置23を備える画像形成装置10は、更に、現像バイアス印加部971と、駆動部972と、電流計973(電流検出部)と、制御部980とを備える。制御部980は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。
【0070】
現像バイアス印加部971は、直流電源と交流電源とから構成され、後記のバイアス制御部982からの制御信号に基づき、現像装置23の現像ローラー231に、直流電圧(DCバイアス)に交流電圧(ACバイアス)が重畳された現像バイアスを印加する。
【0071】
駆動部972は、モーター及びそのトルクを伝達するギア機構からなり、後記の駆動制御部981からの制御信号に応じて、現像動作時に、感光体ドラム20に加え、現像装置23内の現像ローラー231および第1スクリューフィーダー232、第2スクリューフィーダー233を回転駆動させる。
【0072】
電流計973は、現像ローラー231と現像バイアス印加部971との間を流れる直流電流(現像電流の直流成分)を検出する。
【0073】
制御部980は、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、駆動制御部981、バイアス制御部982、記憶部983およびキャリブレーション実行部984(バイアス条件決定部)を備えるように機能する。
【0074】
駆動制御部981は、駆動部972を制御して、現像ローラー231、第1スクリューフィーダー232、第2スクリューフィーダー233を回転駆動させる。また、駆動制御部981は、不図示の駆動機構を制御して、感光体ドラム20を回転駆動させる。
【0075】
バイアス制御部982は、現像ローラー231から感光体ドラム20にトナーが供給される現像動作時(画像形成動作時)に、現像バイアス印加部971を制御して、感光体ドラム20と現像ローラー231との間に直流電圧および交流電圧の電位差を設ける。前記電位差によって、トナーが現像ローラー231から感光体ドラム20に移動される。
【0076】
記憶部983は、駆動制御部981、バイアス制御部982およびキャリブレーション実行部984によって参照される各種の情報を記憶している。一例として、現像ローラー231の回転数や環境に応じて調整される現像バイアスの値などが記憶されている。また、記憶部983は、感光体ドラム20上に複数の測定用トナー像が形成される際の各トナー像に応じて設定された印字率およびライン線数を格納している。なお、記憶部983に格納されるデータは、グラフやテーブルなどの形式でもよい。
【0077】
キャリブレーション実行部984は、後記のDCキャリブレーションおよびACキャリブレーションを含む現像バイアスキャリブレーションを実行する。
【0078】
また、キャリブレーション実行部984は、ACキャリブレーションにおいて、感光体ドラム20、帯電装置21、露光装置22および現像装置23を制御しながら、感光体ドラム20上に複数の測定用トナー像を形成する。そして、キャリブレーション実行部984は、感光体ドラム20上に形成される所定の測定用潜像に対応して現像ローラー231に前記現像バイアスを印加することで前記測定用潜像をトナーで測定用トナー像に現像する際に電流計973によって検出される直流電流に基づいて、前記画像形成動作において現像ローラー231に印加される現像バイアスの交流電圧のピーク間電圧の基準となる基準ピーク間電圧を決定する。なお、ACキャリブレーションが行われた後のDCキャリブレーションまたは画像形成動作では、上記の基準ピーク間電圧をそのまま使用してもよいし、基準ピーク間電圧に所定の安全率を乗じたものを使用してもよい。
【0079】
<現像動作について>
図3Aは、本実施形態に係る画像形成装置10の現像動作の模式図、図3Bは、感光体ドラム20および現像ローラー231の電位の大小関係を示す模式図である。図3Cは、現像バイアスのDCバイアスおよびACバイアスの関係を示す模式図である。図3Aを参照して、現像ローラー231と感光体ドラム20との間に、現像ニップ部NPが形成されている。現像ローラー231上に担持されるトナーTNおよびキャリアCAは磁気ブラシを形成する。現像ニップ部NPにおいて、磁気ブラシからトナーTNが感光体ドラム20側に供給され、トナー像TIが形成される。図3Bを参照して、感光体ドラム20の表面電位は、帯電装置21によって、背景部電位V0(V)に帯電される。その後、露光装置22によって露光光が照射されると、感光体ドラム20の表面電位が、印刷される画像に応じて背景部電位V0(非画像形成部分)から最大で画像部電位VL(V)(画像形成部分)まで変化される。一方、図3Cを参照して、現像ローラー231には、現像バイアスの直流電圧Vdc(DCバイアス)が印加されるとともに、直流電圧Vdcに交流電圧(交流バイアス)が重畳されている。一例として、図3Cに示すように交流バイアスは周期的な矩形波からなり、そのピーク間電圧(Vpp)は、感光体ドラム20の背景部電位V0および画像部電位VLを超えるような振幅を有する。
【0080】
このような反転現像方式の場合、表面電位V0と現像バイアスの直流成分Vdc(DCバイアス)との電位差が、感光体ドラム20の背景部へのトナーかぶりを抑制する電位差である。一方、露光後の表面電位VLと現像バイアスの直流成分Vdcとの電位差が、感光体ドラム20の画像部に、プラス極性のトナーを移動させる現像電位差となる。更に、現像ローラー231に印加される現像バイアスの交流成分(ACバイアス)によって、現像ローラー231から感光体ドラム20へのトナーの移動が促進される。
【0081】
<現像バイアスキャリブレーションについて>
上記のような現像バイアスにおけるDCバイアスおよびACバイアスは、それぞれの電圧値を大きくするとどちらも画像濃度が上昇するという性質を持っている。特に、ACバイアスはその電圧値を大きくすると、現像領域中でトナーの往復運動が活発化し、ハーフ画像の均一化などが図られる。このため、ACバイアスはトナーの往復運動が活発化し画像濃度が安定する条件に設定されることが望ましい。その上で、DCバイアスの値に応じて画像濃度が調整されることで、より安定した画像を得ることが可能になる。
【0082】
ここで、ACバイアスによって画像濃度が安定する領域とは、結果的に画像濃度が高い領域になる。しかし、濃度センサ100のような光学式のセンサは通常ハーフ画像で使用することに適している。画像濃度の高い領域では、光学式センサの測定感度が確保しにくいためである。このため、ACバイアスの適正値を光学式センサの出力に応じて設定しようとしても、精度の高い設定条件を得ることはできなかった。
【0083】
一方、上記のようにDCバイアスによってシートに印字される画像の画像濃度を調整するためには、DCバイアスを変化させながら濃度センサ100(光学式センサ)の出力に応じて適切なDCバイアスを設定する必要がある。ここで、電流計973によって検出される現像電流の値に応じて、適切なDCバイアスを設定することを想定する。トナーの帯電量が変化すると、同じ現像電流でも感光体ドラム20上のトナー付着量は変化する。また、現像剤中のキャリアが例えばフェライトコートキャリアの場合には、キャリアの表面のコートが削れることによってキャリアの膜厚が変化するとキャリアの抵抗が変化してしまい、キャリアを流れる電流量が変化してしまう。この結果、現像電流とトナー付着量との関係が崩れてしまい、現像電流のみからトナーの付着量を正しく予測することができなくなる。このため、DCバイアスによって画像濃度を調整するために、特性値として現像電流を検出することは適していない。
【0084】
このような検討を経て本発明者は、まず、ACバイアスのピーク間電圧(Vpp)を現像電流の値に応じて決定することとした。具体的には、Vppを変化させた時の現像電流の大きさを取得し、Vppの変化に対して現像電流の変化が小さくなるようなVppを画像形成用の適切なVppとして設定する。次に、DCバイアスは、Vdcの値を変化させながら感光体ドラム20上に形成したハーフ画像を中間転写ベルト141上で濃度センサ100を用いて測定し、適切な画像濃度を得ることができるVdcを画像形成用の適切なVdcとして設定する手法をとることとした。この結果、安定した画像を得ることが可能となる。
【0085】
また、画像形成装置10の使用条件や周囲の環境変化などによってトナーの帯電量が変化するとVppの変更が必要になるが、本発明者は、トナーの帯電量の変化の代用特性として上記の適切なVdcの変化に応じて、Vppの変更タイミングを決定することを新たに知見した。
【0086】
トナーの帯電量の変化を、周囲の環境や印字率、印字状態などで予想することはある程度可能であるが、実際に、その変化が画像形成システムに影響する程度は、その時々で異なる。したがって、このような予想に基づいて画像形成条件、特に現像バイアスを調整しても安定した画像を得ることは難しい。
【0087】
そこで、本発明の発明者は、二成分現像方式が適用された現像装置23を有する画像形成装置10において、現像バイアスのDCバイアスおよびACバイアスのピーク間電圧をそれぞれ適切なタイミングで設定することが可能な「現像バイアスキャリブレーション」を新たに知見した。当該現像バイアスキャリブレーションでは、トナーの帯電量の変化に対応して直接的に変化するDCバイアス(適切なVdc)を利用して、ACバイアスのピーク間電圧の変更タイミングが決定される。
【0088】
図4は、本実施形態に係る画像形成装置10においてキャリブレーション実行部984が実行する現像バイアスキャリブレーションのフローチャートである。現像バイアスキャリブレーションは、シートPに画像が形成されていない非画像形成時に実行される。
【0089】
具体的に、現像バイアスキャリブレーションの実行にあたって、キャリブレーション実行部984は、所定のキャリブレーション開始条件が満たされているか否かを判定する(ステップS01)。一例として、画像形成装置10における印字枚数が所定の閾値枚数を超えると、キャリブレーション実行部984が現像バイアスキャリブレーションを実行する。なお、キャリブレーション開始条件は、画像形成装置10の周辺環境(温湿度)が大きく変化した場合に現像バイアスキャリブレーションが実行されるものでもよい。また、上記のキャリブレーション開始条件が満たされていない場合には、キャリブレーション実行部984は現像バイアスキャリブレーションを実行することなくフローを終了し、次の実行タイミングを待つ。
【0090】
図4を参照して、現像バイアスキャリブレーションが開始されると、キャリブレーション実行部984は、DCキャリブレーションを実行する(ステップS01)。当該DCキャリブレーションでは、以後の画像形成動作において所望の画像濃度および画像品質を得ることができる最適なDCバイアス(Vdc)(基準直流電圧Vdc1)が決定される(ステップS02)。ここでは、予め設定され記憶部983に記憶された固定Vppまたは直前の画像形成動作において使用されたVppを用いて、DCキャリブレーションが実行される。その他のACバイアスの設定値についても同様である。
【0091】
キャリブレーション実行部984は、DCキャリブレーションを実行すると、決定されたVdc1と、予め設定されたVdcの下限閾値(VdcL)およびVdcの上限閾値(VdcH)との大小関係を判定する(ステップS03)。ここで、Vdc1が下限閾値VdcL(たとえば40V)以上で上限閾値VdcH(たとえば200V)以下の場合(ステップS03でYES)、キャリブレーション実行部984は、ステップS02で決定されたVdc1と、前回のDCバイアスキャリブレーションで決定されたVdc1(=Vdc0)との差の絶対値と、予め設定された閾値s(たとえば50V)との大小関係を判定する(ステップS04)。ここで、前記絶対値が閾値s以下の場合(ステップS04でYES)、キャリブレーション実行部984は、ステップS02で決定された基準直流電圧Vdc1が適切であると判定し、現像バイアスキャリブレーションを終了する。DCキャリブレーションが行われた後の画像形成動作では、上記の基準直流電圧Vdc1をそのまま使用してもよいし、基準直流電圧Vdc1に所定の安全率(安全係数)を乗じたものを使用してもよい。更に、この安全率は、基準直流電圧Vdc1の値に応じて変化させてもよい。具体的には、Vdc1が小さい時は安全率を大きく、Vdc1が大きい時には安全率を小さくして、設定範囲の変化があまり大きくならないようにすることで、画像品質の大きな変化を抑えることも有用である。
【0092】
更に、図4のステップS03において、Vdc1が下限閾値VdcL(たとえば40V)未満、または、上限閾値VdcH(たとえば200V)を超えている場合(ステップS03でNO)、キャリブレーション実行部984は、ステップS02で決定された基準直流電圧Vdc1の代わりに補正直流電圧Vdc1’を決定する(ステップS05)。一例として、補正直流電圧Vdc1’は、下限閾値VdcLと上限閾値VdcHとの中間値、すなわち、(VdcH-VdcL)/2でもよい。また、Vdc1が下限閾値VdcL未満の場合には前記中間値から上限閾値VdcHまでの範囲から補正直流電圧Vdc1’が決定されてもよいし、Vdc1が上限閾値VdcHを超えている場合には下限閾値VdcLから前記中間値までの範囲から補正直流電圧Vdc1’が決定されてもよい。
【0093】
次に、キャリブレーション実行部984は、決定された補正直流電圧Vdc1’に基づいて、ACキャリブレーションを実行する(ステップS06)。当該ACキャリブレーションでは、以後の画像形成動作において所望の画像濃度および画像品質を得ることができる最適なACバイアスのVpp(基準ピーク間電圧)が決定される。
【0094】
次に、キャリブレーション実行部984は、再びDCキャリブレーションを実行する(ステップS07)。当該DCキャリブレーションでは、直前のACキャリブレーションで決定されたVppが用いられ、以後の画像形成動作において所望の画像濃度および画像品質を得ることができる最適なDCバイアスVdc(基準直流電圧Vdc1)が決定される。
【0095】
このように、本実施形態では、DCキャリブレーションによって決定されたVdc1が予め設定された条件(ステップS03、S04)を満たしている場合には、当該Vdc1をもって以後の画像形成動作が実行される。一方、DCキャリブレーションによって決定されたVdc1が予め設定された条件(ステップS03、S04)を満たしていない場合には、当該Vdc1は現在のトナーの帯電量に対応していないため補正される(ステップS05)。更に、キャリブレーション実行部984は、現在のトナーの帯電量が前回のACキャリブレーションにおいて決定されたVppにも対応していないと推定することによって、ACキャリブレーションを実行する(ステップS06)。そして、キャリブレーション実行部984は、決定したVppに基づいて再度のDCキャリブレーションを実行する(ステップS07)。このため、トナーの帯電量の変化に応じて、適切なタイミングでDCバイアス(Vdc)、ACバイアスのVppをそれぞれ設定することが可能となる。
【0096】
すなわち、上記のように、Vdc1があらかじめ設定されている範囲の上限閾値VdcHに張り付いた場合は、画像濃度が出にくくなっているので、ACキャリブレーションを行って画像濃度を出やすくする。この際、Vdcを設定範囲の下限閾値VdcLから中間値の範囲に設定した状態でACキャリブレーション(Vpp調整)を行うと、そのVpp設定後は、DCバイアス(Vdc)において画像濃度を調整するための余裕幅が得られる。
【0097】
同様に、Vdcがあらかじめ設定されている範囲の下限閾値VdcLに張り付いた場合は、画像濃度が出やすくなっているので、ACキャリブレーションを行って、画像濃度を出にくくする。この際、Vdcを設定範囲の上限閾値VdcHから中間値までの範囲に設定した状態でACキャリブレーション(Vpp調整)を行うと、そのVpp設定後は、DCバイアス(Vdc)において画像濃度を調整するための余裕幅が得られる。
【0098】
なお、前述のように、本実施形態では、キャリブレーション実行部984は、電流計973が検出する現像電流に基づいて好適なVppを決定する一方、濃度センサ100(光学センサ)が検出する画像濃度に基づいて好適なVdcを決定する。これは、画像の飽和濃度が安定することをVpp決定の条件とし、飽和濃度のレベル(大きさ)を設定することをVdc決定の条件として選択したことに起因する。この選択方法によって、画質をより安定化させることができる。
【0099】
なお、画像の飽和濃度が安定することをVpp決定の条件とする場合、光学センサからなる濃度センサ100では飽和域の画像濃度を精度良く測定することが困難であり、画像濃度以外の方法で画像の飽和状態を測定する必要があった。そこで、本発明の発明者は、現像電流に基づいてVppを決定する方法を新たに知見した。以下に、上記のDCキャリブレーションおよびACキャリブレーションのそれぞれについて詳述する。
【0100】
<DCキャリブレーションについて>
図5は、本実施形態に係る画像形成装置10において実行されるDCキャリブレーションを説明するためのDCバイアスVdcと画像濃度Dとの関係を示すグラフである。キャリブレーション実行部984は、DCキャリブレーションを開始すると(図4のステップS02、S04)、感光体ドラム20の表面電位をVLに設定した上で、現像バイアスのDCバイアス(Vdc)をV1、V2、V3、V4と順に変化させ、各DCバイアスに対応する測定用トナー像を感光体ドラム20上に形成し、中間転写ベルト141に転写する。そして、各測定用トナー像の濃度が濃度センサ100によって検出される。この際の各画像濃度(濃度センサ100が検出する反射濃度、濃度センサ100の出力電圧でもよい)がD1、D2、D3、D4と定義される。そして、図5に示すように、上記のDCバイアスVdcを横軸とし画像濃度を縦軸として、Vdcと画像濃度Dとの関係を1次の近似式として作成する。この近似式に基づいて、画像形成時に所望の目標画像濃度D0を得ることができるVdc(Vdc1、基準直流電圧)が決定される。なお、この時に得られたVdc1が予め設定されたVdcの下限閾値(VdcL:たとえば40V)未満の場合、Vdc1=VdcHと置き換えられる。同様に、Vdc1が予め設定されたVdcの上限閾値(VdcH:たとえば200V)を超えている場合、Vdc1=VdcLに置き換えられる。なお、前述のように、DCキャリブレーションでは、予め記憶部983に記憶された固定Vppまたは直前の画像形成動作において使用されたVpp(Vppi)を用いて、DCキャリブレーションが実行される。なお、その他のACバイアスのパラメータについては画像形成時と同様の値が使用される。上記のように決定されたVdc1は基準直流電圧として使用される。なお、図5のグラフは、横軸をΔV(Vdc-VL)として描かれてもよい。
【0101】
<トナー付着量の変化と現像電流の変化について>
現像装置23内のトナーの帯電量が変化した場合や、現像ローラー231の振れなどによって現像ギャップが変化した場合には、上記のDCバイアスおよびACバイアスのいずれにおいても、トナーに付与される移動力F(=トナーの電荷量Q×電界の大きさE)が変化し、画像濃度が変動するという性質を持っている。ただし、厳密にはDCバイアスとACバイアスとでは互いに異なった特性も持っている。ACバイアスの場合、そのVpp(ピーク間電圧)を増大させていくと画像濃度は上昇するが、やがて画像濃度の上昇はほとんどなくなり、更にアップさせると逆に画像濃度は低下していく。一方、DCバイアスにおける前記現像電位差(Vdc-VL)を増大させていくと画像濃度は上昇を続けるとともに、やがて画像濃度の上昇量は小さくなるがACバイアスのような画像濃度低下は確認されなかった。これは、AC電界が現像ニップ部において感光体ドラム20と現像ローラー231との間で双方向の電界(往復電界)を形成する一方、DC電界は一方向の電界を形成することに起因していると推察される。
【0102】
より詳しくは、ACバイアスの前記往復電界は、トナーを現像ローラー231から感光体ドラム20に供給する現像電界と、トナーを感光体ドラム20から現像ローラー231に回収する回収電界という互いに逆方向の2つの電界から成り立っている。そして、Vppを上昇させた場合には、この両方の電界が上昇するが、やがて現像電界によるトナーの供給量は最大となる。その後、更にVppを上昇させると回収電界の上昇によりトナーの回収量はアップするが、現像電界によるトナーの供給量は既に最大となっている。この結果、感光体ドラム20と現像ローラー231との間でのトナーの供給と回収との大小関係によって、最終的なトナーの現像量はVppの上昇に応じて低下する。
【0103】
<Vppと現像電流との関係について>
このように、DCバイアスおよびACバイアスとトナーの現像量との関係を把握することはできる一方、ACバイアスのVppを増大させた場合に、現像ローラー231と現像バイアス印加部971との間を流れる現像電流がどのような挙動を示すかは十分知られていなかった。
【0104】
この原因は、現像ニップ部NPにおいて生成される現像電流が、「トナーの移動によって流れるトナー移動電流」と、「画像部において現像剤の磁気ブラシを流れる磁気ブラシ電流(画像部磁気ブラシ電流)」と、「非画像部で現像剤の磁気ブラシを流れる磁気ブラシ電流(非画像部磁気ブラシ電流)」とから構成されているためであると推察される。なぜなら、トナー移動電流はトナーの移動量に応じて変化するため、Vppをアップさせていくと、トナー移動電流は上昇した後、低下していくが、画像部磁気ブラシ電流は、現像ニップ部NPにおいて磁気ブラシを流れる電流であるため、Vppの上昇と共に上昇する傾向にある。更に、非画像部磁気ブラシ電流は、画像形成領域の長手方向両端部に存在する非画像形成領域において、Vppの上昇とともに逆方向の電流を上昇させる傾向にある。このため、トナー移動電流、画像部磁気ブラシ電流および非画像部磁気ブラシ電流の合計の電流の挙動の影響を複雑に受ける現像電流が、Vppの増大に応じてどのような挙動を示すかは十分知られていなかった。
【0105】
そこで、本発明者は現像バイアスのACバイアスのVppを増大させた時の現像電流の挙動を確認する実験を鋭意実施することで、その傾向に複数のパターンが存在することを新たに知見した。すなわち、ACバイアスのVppを増大させると、現像電流(直流電流)は上昇していくが、やがてその勾配が変化する変化点に到達するとともにその後も現像電流が緩やかに上昇するパターンや、逆に前記変化点から現像電流が低下するパターンがあることが明らかになった。
【0106】
本発明者は、このような現像電流のパターンに基づいて、ACバイアスのVppを画像濃度の変化が少ない領域に設定することに新たに着目した。この結果、トナー帯電量や現像ギャップが変化しても、画像濃度の変化を少なくすることが可能となった。以下に、このようなVppを設定するためのACキャリブレーションの詳細について説明する。
【0107】
<ACキャリブレーションについて>
図6は、本実施形態に係る画像形成装置1において実行されるACキャリブレーションのフローチャートである。図7は、本実施形態に係る画像形成装置1において実行されるACキャリブレーションの第1近似式決定ステップ(第1近似式決定動作)のフローチャートである。図8は、本実施形態に係る画像形成装置1において実行されるACキャリブレーションの第2近似式決定ステップ(第2近似式決定動作)のフローチャートである。
【0108】
本実施形態では、図4のステップS02において、キャリブレーション実行部984がACキャリブレーションを実行する。ACキャリブレーションは、前記画像形成動作において現像ローラー231に印加される現像バイアスの交流電圧のピーク間電圧(Vpp)の基準となる基準ピーク間電圧(ターゲット電圧)を決定するモードである。
【0109】
ACキャリブレーションが開始されると、キャリブレーション実行部984は、第1近似式決定ステップ(図6のステップS11)、第2近似式決定ステップ(図6のステップS12)、ターゲット電圧決定ステップ(図6のステップS13)を順に実行する。
【0110】
図7を参照して、第1近似式決定ステップについて詳述する。第1近似式決定ステップが開始されると、キャリブレーション実行部984は、記憶部983に記憶されている第1測定範囲に関する情報を取得する。第1測定範囲は、第1近似式決定ステップにおいて現像ローラー231に印加される交流バイアスのVppの範囲および間隔に関する情報である。本実施形態では、一例として、4つの第1測定用ピーク間電圧に関する情報がキャリブレーション実行部984によって取得される。この結果、第1近似式決定ステップにおける第1測定範囲が決定される(ステップS21)。
【0111】
次に、キャリブレーション実行部984は、感光体ドラム20上にベタ画像からなる測定用潜像を形成し、現像ローラー231に現像バイアスを印加することで、前記測定用潜像を測定用トナー像に現像する。具体的に、画像形成時と同様に、感光体ドラム20が回転され、帯電装置21によって感光体ドラム20の周面が250Vに一様帯電される。なお、一例として、感光体ドラム20の軸方向(幅方向)における帯電範囲は322mmに設定される。そして、露光装置22から照射される露光光によって感光体ドラム20の一部の電位が10Vまで低下され、測定用潜像が感光体ドラム20上に形成される。本実施形態では、シート幅297mm(A4横)に対して、測定用潜像の幅は287mm、現像ローラーの磁気ブラシの幅は304mmに設定され、磁気ブラシの幅と測定用潜像の幅との差が、非画像磁気ブラシ電流が流れる領域となる。
【0112】
一方、現像ローラー231には、直流電圧150Vに、周波数10kHz、Duty50%の交流バイアスが重畳される。なお、交流バイアスのVppは、前記4つの第1測定用ピーク間電圧に順に設定される。この結果、各第1測定用ピーク間電圧に関して、上記の測定用潜像が現像ローラー231によって測定用トナー像に現像される際に、電流計973が現像ローラー231と現像バイアス印加部971との間を流れる現像電流の直流成分(直流電流Idc)をそれぞれ測定する(ステップS22)。この結果、4つの第1測定用ピーク間電圧に対応した4つの現像電流が取得され、第1測定用ピーク間電圧および現像電流に関する4組のデータが取得される。なお、現像電流の計算は現像ローラー231の回転について1周分以上の平均電流によって行われるものが望ましく、1周の整数倍の回転について平均されることが更に望ましい。
【0113】
次に、キャリブレーション実行部984は、上記の4つの第1測定用ピーク間電圧と4つの現像電流との関係を一次式で回帰し、その相関係数Rを演算する(ステップS23)。一例として、キャリブレーション実行部984は最小二乗法によって前記一次式を演算し、相関係数Rを取得する。
【0114】
次に、キャリブレーション実行部984は、上記で取得した相関係数Rと予め記憶部983に格納された閾値R1との大小関係を比較する(ステップS24)。一例として、閾値R1は、0.90に設定されている。ここで、閾値R1≦相関係数Rの場合(ステップS24でYES)、キャリブレーション実行部984は、上記で回帰した一次式を第1近似式として決定する(ステップS25)。一方、ステップS24において閾値R1>相関係数Rの場合(ステップS24でNO)、キャリブレーション実行部984は、上記の4組のデータのうち、最も大きなVppのデータを取り除いた状態で残りの3つのデータに基づいて、相関係数Rを再度演算する。その後、キャリブレーション実行部984は、上記と同様にステップS24、S25を実行する。なお、ステップS26において最大Vppのデータを取り除いたあとも閾値R1≦相関係数Rの関係が満たされない場合、キャリブレーション実行部984は、更に一部のデータを取り除いてステップを繰り返してもよいし、ACキャリブレーションの実行を中断して前回行われたACキャリブレーションの結果を援用してもよい。
【0115】
上記のように、第1近似式決定ステップが完了すると、第2近似式決定ステップが開始される。図8を参照して、第2近似式決定ステップについて詳述する。第2近似式決定ステップが開始されると、キャリブレーション実行部984は、記憶部983に記憶されている第2測定範囲に関する情報を取得する。第2測定範囲は、第2近似式決定ステップにおいて現像ローラー231に印加される交流バイアスのVppの範囲および間隔に関する情報である。本実施形態では、一例として、3つの第2測定用ピーク間電圧に関する情報がキャリブレーション実行部984によって取得される。この結果、第2近似式決定ステップにおける第2測定範囲が決定される(ステップS31)。なお、第1測定範囲(4つの第1測定用ピーク間電圧)の最大値よりも、第2測定範囲(3つの第2測定用ピーク間電圧)の最小値は大きく設定されている。
【0116】
次に、キャリブレーション実行部984は、図7のステップS12と同様に、感光体ドラム20上に測定用潜像を形成し、現像ローラー231に現像バイアスを印加することで、前記測定用潜像を測定用トナー像に現像する。この際、現像ローラー231には、直流電圧150Vに、周波数10kHz、Duty50%の交流バイアスが重畳され、交流バイアスのVppは、前記3つの第2測定用ピーク間電圧に順に設定される。この結果、各第2測定用ピーク間電圧に関して、上記の測定用潜像が現像ローラー231によって現像される際に、電流計973が現像ローラー231と現像バイアス印加部971との間を流れる現像電流の直流成分(直流電流Idc)をそれぞれ測定する(ステップS32)。この結果、3つの第2測定用ピーク間電圧に対応した3つの現像電流が取得され、第2測定用ピーク間電圧および現像電流に関する3組のデータが取得される。
【0117】
次に、キャリブレーション実行部984は、上記の3つの第2測定用ピーク間電圧と3つの現像電流との関係を一次式(第1判定用近似式)で回帰し、その傾きLを演算する(ステップS33)。一例として、キャリブレーション実行部984は最小二乗法によって前記一次式を演算し、傾きLを取得する。
【0118】
次に、キャリブレーション実行部984は、上記で取得した傾きLと予め記憶部983に格納された閾値L1との大小関係を比較する(ステップS34)。一例として、閾値L1は、0(ゼロ)に設定されている。ここで、傾きL<閾値L1の場合(ステップS34でYES)、キャリブレーション実行部984は、上記で回帰した一次式を第2近似式として決定する(ステップS35)。一方、ステップS34において傾きL≧閾値L1の場合(ステップS34でNO)、キャリブレーション実行部984は、上記の3組のデータのVppの平均値を演算し、当該平均値がピーク間電圧の変化に対して一定となる直線式を前記第2近似式として設定する(ステップS36)。
【0119】
図7図8に示される第1近似式決定ステップおよび第2近似式決定ステップがそれぞれ終了すると、キャリブレーション実行部984は、ターゲット電圧決定ステップを実行する(図6のステップS13)。当該ターゲット電圧決定ステップでは、キャリブレーション実行部984は、第1近似式と第2近似式とが互いに交差する交点におけるピーク間電圧を基準ピーク間電圧(ターゲット電圧VT)として決定する。この結果、第1測定範囲および第2測定範囲のそれぞれにおけるピーク間電圧と現像電流との関係の境界付近(ピーク付近)において画像形成動作時のピーク間電圧を設定することができる。なお、本実施形態では、上記のように決定された基準ピーク間電圧を、所定の安全率を含めて、1.2倍したピーク間電圧を画像形成動作時の実ピーク間電圧として適用する。
【0120】
図9図10および図11は、それぞれ、本実施形態に係る画像形成装置1において実行されるACキャリブレーションのVppと現像電流との関係を示すグラフである。各図では、現像電流が縦軸(Y軸)、Vppが横軸(X軸)で示されている。
【0121】
表1、2は、図9に示される第1測定範囲、第2測定範囲におけるVppと現像電流との関係を示したものである。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
図9では、図7に示される第1近似式決定ステップにおいて、第1近似式としてy=0.01x+7の一次式が算出されている。一方、図8に示される第2近似式決定ステップでは、傾きLがマイナス(L<L1=0)であるため、ステップS25において第2近似式としてy=-0.0075x+20.767の一次式が算出されている。この結果、ターゲット電圧決定ステップS03において、第1近似式と第2近似式との交点として、Vpp=ターゲット電圧VT=787Vが演算され、安全係数として1.2が設定されることで、画像形成動作時のVpp=787×1.2=944(V)が選択される。なお、この安全係数は、ターゲット電圧VTに応じて変えても良く、ターゲット電圧VTが低い時は安全係数を大きめにし、逆にターゲット電圧VTが高い時は安全係数を小さめにし、設定されるVppの変化幅を小さめにしておくことで、画像品質の大きな変化を抑えることも有用である。
【0125】
表3、4は、図10に示される第1測定範囲、第2測定範囲におけるVppと現像電流との関係を示したものである。
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
図10では、図7に示される第1近似式決定ステップにおいて、第1近似式としてy=0.01x+7の一次式が算出されている。一方、図8に示される第2近似式決定ステップでは、傾きLがプラス(L>L1=0)であるため、ステップS026において現像電流の平均値が演算され、第2近似式としてy=14.1の一次式が算出されている。この結果、ターゲット電圧決定ステップS03において、第1近似式と第2近似式との交点として、Vpp=ターゲット電圧VT=710Vが演算され、安全係数として1.2が設定されることで、画像形成動作時のVpp=710×1.2=852(V)が選択される。
【0129】
表5、6は、図11に示される第1測定範囲、第2測定範囲におけるVppと現像電流との関係を示したものである。
【0130】
【表5】
【0131】
【表6】
【0132】
図11では、図7に示される第1近似式決定ステップにおいて、第1近似式としてy=0.0042x+6.71の一次式が算出されている。一方、図8に示される第2近似式決定ステップでは、傾きLがプラス(L>L1=0)であるため、ステップS026において現像電流の平均値が演算され、第2近似式としてy=12.4の一次式が算出されている。この結果、ターゲット電圧決定ステップS03において、第1近似式と第2近似式との交点として、Vpp=ターゲット電圧VT=1310Vが演算され、安全係数として1.2が設定されることで、画像形成動作時のVpp=1310×1.2=1572(V)が選択される。
【0133】
<現像電流(DC成分)がピーク(変化点)を持つ理由について>
次に、前述の各データのように、現像電流(DC成分)がVppに対してピーク(変化点)をもつ理由について推察する。現像電流は、前述のように「トナー移動電流+画像部磁気ブラシ電流+非画像部磁気ブラシ電流」から構成されるが、現像電流を取得する際、静電潜像のうち画像部に対応する部分(ベタ画像部分)では、この「トナー移動電流+画像部磁気ブラシ電流」の両方が流れるが、幅方向端部の白地部分では、画像部とは反対方向に「非画像部磁気ブラシ電流」のみが流れる。このため、Vppを増加させていくと、この白地部分の非画像部磁気ブラシ電流が増加して、トータルの現像電流が低下する。
【0134】
なお、Vppの増加に応じて画像部の画像部磁気ブラシ電流も増加するが、トナーが感光体ドラム20の表面に付着することで形成されるトナー層が抵抗層になり、画像部磁気ブラシ電流の極端な増加が抑えられる。一方、白地部分では、多少のトナーは現像ローラー231のスリーブ表面に移動するが、その量は画像部に比べ圧倒的に少ないため、前記スリーブ表面に付着したトナー層は画像部と比較して高い抵抗にはならない。この結果、白地部分の非画像部磁気ブラシ電流は、Vppの増加とともに大きく増加し、この磁気ブラシ電流がトナー移動電流とは逆方向に流れるため、現像電流は変化点(ピーク)を持つことになるものと推察される。
【0135】
本発明者は、鋭意実験を重ねることで、現像電流とVppとの上記の関係を新たに知見した。また、この現象は、キャリアの抵抗が低いほど発生しやすく、ギャップ1mmの平行平板(面積240mm)の間にキャリアを0.2g充填し1000Vの電圧を印加した時に流れる電流に基づいて、キャリアの抵抗値を求めた場合、10の9乗オーム以下でこの現象が顕著に現れることを更に知見した。
【0136】
すなわち、感光体ドラム20と現像ローラー231との間に二成分現像剤が介在し、かつ、静電潜像の軸方向(幅方向)の中央部に測定用潜像が形成され、その両端部に白地部分が配置されると、本実施形態における第1測定範囲、第2測定範囲の2つの範囲の境界において、上記のような変化点が発生する。特に、第2近似式の傾きが正および負の広い範囲に分布する現象は、上記のような現像ローラー231の軸方向の両端部に中央部とは逆方向の電流が流れることに起因している。特に、本実施形態では、軸方向において、感光体ドラム20上の帯電範囲よりも現像ローラー231上の磁気ブラシの範囲の方が狭く、更に、感光体ドラム20上に形成される測定用潜像のうち画像部(ベタ画像部)の範囲が、磁気ブラシの範囲よりも更に狭く設定されている。この結果、上記のように、現像ローラー231の軸方向の両端部では画像部とは逆方向の電流が磁気ブラシに流れる領域が形成されている。そして、このような現象は、たとえば感光体ドラム20とその周面に当接する帯電ローラーとの間に発生する放電電流には生じえない、現像ニップ部における固有の現象であり、上記のような繰り返し行った実験によって知見されたものである。特に、帯電ローラーと感光体ドラム20との間にはキャリアの抵抗が変動要因となる現像剤が介在していないため、ピーク間電圧を増加させるとやがて電流が低下するという特性が生じにくい。
【0137】
以上のように、本実施形態では、キャリブレーション実行部984が、所定の実行条件が満たされると、現像バイアスキャリブレーション(バイアス条件決定モード)を実行する。現像バイアスキャリブレーションは、DCキャリブレーション(直流電圧決定モード)およびACキャリブレーション(ピーク間電圧決定モード)を含む。
【0138】
キャリブレーション実行部984は、DCキャリブレーションでは、濃度センサ100によって検出される測定用トナー像の濃度に基づいて、以後の画像形成動作時に現像ローラー231に印加される現像バイアスの直流電圧の基準となる基準直流電圧を決定する。また、キャリブレーション実行部984は、ACキャリブレーションでは、現像バイアスを現像ローラー231に印加することで、測定用潜像をトナーで測定用トナー像に現像する際に電流計973によって検出される現像電流の直流成分に基づいて、以後の画像形成動作において現像ローラー231に印加される現像バイアスの交流電圧のピーク間電圧の基準となる基準ピーク間電圧を決定する。
【0139】
より詳しくは、キャリブレーション実行部984は、各DCキャリブレーションにおいて、感光体ドラム20、帯電装置21、露光装置22および現像装置23を制御しながら、感光体ドラム20上に複数の測定用トナー像を形成する。そして、キャリブレーション実行部984は、感光体ドラム20上に形成される所定の測定用潜像に対応して現像ローラー231に前記現像バイアスを印加することで前記測定用潜像をトナーで測定用トナー像に現像した後、感光体ドラム20、中間転写ベルト141に転写させる。その後、濃度センサ100によって検出される中間転写ベルト141上の各測定用トナー像の濃度に基づいて、前記画像形成動作において現像ローラー231に印加される現像バイアスの直流電圧の基準となる基準直流電圧Vdc1を決定する。
【0140】
すなわち、キャリブレーション実行部984は、DCキャリブレーションにおいて、その後のACキャリブレーションおよび画像形成動作において参照される現像バイアスの直流電圧の基準となる基準直流電圧Vdc1を決定する。なお、DCキャリブレーションが行われた後のACキャリブレーションおよび画像形成動作では、上記の基準直流電圧をそのまま使用してもよいし、基準直流電圧に所定の安全率を乗じたものを使用してもよい。
【0141】
そして、キャリブレーション実行部984は、DCキャリブレーションにおいて決定された基準直流電圧Vdc1に応じて、ACキャリブレーションの実行要否を判定する(図4のステップS03、S04)。
【0142】
このような構成によれば、現像ローラー231と感光体ドラム20との距離(DSギャップ)やトナーの帯電量、キャリアの抵抗などの各画像形成条件が変化した場合でも、キャリブレーション実行部984が必要に応じて現像バイアスキャリブレーションを実行することで、各画像形成条件に応じたDCバイアス、ACバイアス(Vpp)を設定することが可能となる。この結果、同じ画像欠陥に影響を及ぼし合う現像バイアスのDCバイアスおよびACバイアスのピーク間電圧をそれぞれ安定して設定し、画像品質を安定化および向上させることが可能となる。また、トナーの帯電量の代用特性値として基準直流電圧Vdc1を利用して、ACキャリブレーションの実行要否を効率的に判定することができる。したがって、現像バイアスの直流バイアスVdcおよび交流バイアスのピーク間電圧Vppをそれぞれ適切なタイミングで設定することが可能となる。
【0143】
また、本実施形態では、ACキャリブレーションにおいて新たな基準ピーク間電圧Vppが決定されると、キャリブレーション実行部984が当該基準ピーク間電圧Vppに基づいて再度のDCキャリブレーション(図4のステップS07)を実行することで、画像濃度にずれが生じることが防止される。
【0144】
また、キャリブレーション実行部984は、n回目(nは自然数)のDCキャリブレーションによって決定された基準直流電圧とn+1回目のDCキャリブレーションによって決定された基準直流電圧との差が予め設定された閾値よりも大きい場合に、n+1回目のDCキャリブレーションの実行後にACキャリブレーションの実行が必要と判定する。トナーの帯電量の代用特性値としての基準直流電圧Vdc1が前回のVdc0から大きく変化した場合にはトナーの帯電量が大きく変化したと推定し、ACキャリブレーションを確実に実行することができる。なお、上記のn回目については、単純にDCキャリブレーションの動作回数を示す場合と、ACキャリブレーションと連続して行われたDCキャリブレーションの動作回数を示す場合とのどちらの場合も含まれる。上記のn回目が、単純にDCキャリブレーションの動作回数を表す場合は、毎回基準直流電圧が少しずつ変化すると、予め設定された閾値以上に変化する可能性は低いが、実際のトナーの帯電量の変化に即応している。このため、例えば、少しずつ基準直流電圧が下がっている中で、急激に基準直流電圧が上昇した場合、その変化に対応してACキャリブレーションが作動する。一方、上記のn回目が、ACキャリブレーションと連続して行われるDCキャリブレーションの動作回数を表す場合は、DCキャリブレーションのみが単独で行われる場合の結果を無視するため、DCキャリブレーションのみが実行されることで徐々に基準直流電圧が変化しても、その変化とは関係なく、基準ピーク間電圧を変更する必要があるかという正確な判定が可能となる。この場合、前述の様な急激な変化が起こっても、その変化が、前回のDCキャリブレーションが行われた時の基準直流電圧を基準としているため、ACキャリブレーションが作動しないが、そのような事象は発生する確率は極めて低いため、問題はない。
【0145】
また、本実施形態では、トナーの帯電量の代用特性値としての基準直流電圧Vdc1が予め設定された許容範囲(VdcLからVdcH)から外れた場合には、キャリブレーション実行部984はトナーの帯電量が大きく変化したと推定し、ACキャリブレーションを確実に実行することができる。
【0146】
特に、トナーの帯電量の代用特性値としての基準直流電圧Vdc1が予め設定された下限閾値VdcLを下回った場合には、次に実行されるACキャリブレーションでは、キャリブレーション実行部984は、前記決定された基準直流電圧Vdc1よりも大きな値に現像バイアスの直流電圧を設定する。このため、トナーの帯電量に対応してより大きな直流電圧に基づいてACキャリブレーションを安定して実行することができる。この際、前記直流電圧を下限閾値VdcLと上限閾値VdcHとの中間値から上限閾値VdcHまでの範囲に含まれる値に設定することで、ACキャリブレーションを更に安定して実行することができる。なお、前記直流電圧を上限閾値VdcHに設定することが更に望ましい。
【0147】
更に、トナーの帯電量の代用特性値としての基準直流電圧Vdc1が予め設定された上限閾値VdcHを上回った場合には、次に実行されるACキャリブレーションでは、キャリブレーション実行部984は、前記決定された基準直流電圧Vdc1よりも小さな値に現像バイアスの直流電圧を設定する。このため、トナーの帯電量に対応してより小さな直流電圧に基づいてACキャリブレーションを安定して実行することができる。この際、前記直流電圧を下限閾値VdcLから下限閾値VdcLと上限閾値VdcHとの中間値までの範囲に含まれる値に設定することで、ACキャリブレーションを更に安定して実行することができる。なお、前記直流電圧を下限閾値VdcLに設定することが更に望ましい。
【0148】
また、本実施形態では、ACキャリブレーション(ピーク間電圧決定モード)において、第1測定範囲および第2測定範囲のそれぞれの範囲において交流バイアスのピーク間電圧と現像電流との関係を代表する第1近似式と第2近似式との交点から基準ピーク間電圧が設定される。上記の交点の近傍では、交流バイアスのピーク間電圧と現像電流との関係の変化点が存在するため、第1測定範囲における第1近似式の傾きの影響を受けにくく、トナーの帯電量や現像ギャップの変動によって画像濃度が変化することを抑止することができる。また、キャリアの抵抗などの変動に応じて第2近似式の傾きが所定の閾値よりも小さくなる領域であってピーク間電圧の増加に応じて現像電流が低下しやすい領域に基準ピーク間電圧を設定することが抑止される。この結果、画像形成動作において安定した画像濃度を出力することが可能な現像バイアスの交流バイアスを設定することが可能となる。なお、画像形成動作時の実ピーク間電圧は、前記基準ピーク間電圧に対して、その基準ピーク間電圧そのままの値、もしくはその基準ピーク間電圧に一定比率を乗じた値、もしくは一定値を加えた値、または一定比率を乗じた上に一定値を加えた値を用いることができる。
【0149】
また、本実施形態では、キャリブレーション実行部984は、前記第1測定範囲に含まれる前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧においてそれぞれ取得された前記現像電流の直流成分から最小二乗法によって前記第1近似式を決定する。本構成によれば、第1測定範囲に含まれる第1測定用ピーク間電圧から、簡易な演算処理によって第1近似式を決定することができる。
【0150】
また、本実施形態では、キャリブレーション実行部984は、前記第2測定範囲に含まれる前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧においてそれぞれ取得された前記現像電流の直流成分から最小二乗法によって決定された一次近似式である第1判定用近似式の傾きが予め設定された第1閾値L1よりも大きい場合には、前記少なくとも3つの第2測定用前記ピーク間電圧においてそれぞれ取得された現像電流の直流成分の平均値がピーク間電圧の変化に対して一定となる直線式を前記第2近似式として設定し、前記第1判定用近似式の傾きが前記第1閾値L1よりも小さい場合には、前記第1判定用近似式を前記第2近似式として設定する。本構成によれば、キャリアの抵抗値などの影響によって、その傾きが変化しやすい第2近似式の決定過程において、第1判定用近似式の傾きに応じてより適切な近似式を第2近似式として選択することができる。
【0151】
また、本実施形態では、前記第1測定範囲における前記複数の第1測定用ピーク間電圧の間隔、および、前記第2測定範囲における前記複数の第2測定用ピーク間電圧の間隔は、それぞれ、前記第1測定範囲の前記最大値と前記第2測定範囲の前記最小値との間隔よりも小さく設定されている。本構成によれば、第1測定範囲と第2測定範囲とを明確に区別し、更にそれぞれの測定範囲においてピーク間電圧の間隔を細かく設定することで、第1近似式、第2近似式の決定精度を高めることができる。
【0152】
キャリブレーション実行部984は、前記第1近似式決定動作において、前記第1近似式の相関係数が予め設定された第2閾値よりも小さい場合には、前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧から少なくとも一のピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対する前記現像電流の直流成分に基づいて前記第1近似式を決定する。本構成によれば、第1近似式の決定過程において相関係数が小さい場合には、少なくとも一のピーク間電圧のデータを除外することで、より精度の高い第1近似式を決定することができる。
【0153】
特に、キャリブレーション実行部984は、前記第1近似式決定動作において、前記第1近似式の相関係数が予め設定された第2閾値R1よりも小さい場合には、前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧のうちの最も大きなピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対する前記現像電流の直流成分に基づいて前記第1近似式を決定する。本構成によれば、第1近似式の決定過程において相関係数が小さい場合には、第2測定範囲に近いピーク間電圧のデータを除外することで、更に精度の高い第1近似式を決定することができる。
【0154】
また、キャリブレーション実行部984は、前記第2近似式決定動作において除外された前記最も大きなピーク間電圧または前記最も小さなピーク間電圧を、前記第2測定範囲から予め除外して次のバイアス条件決定モードを実行する。本構成によれば、前回のバイアス条件決定モードにおいて除外されたデータを次のバイアス条件決定モードでは最初から除外しておくことで、モード実行時間を短縮し精度の高い基準ピーク間電圧を決定することができる。
【0155】
また、本実施形態では、前記第1測定範囲における前記少なくとも3つの第1測定用ピーク間電圧の数が、前記第2測定範囲における前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧の数よりもが多く設定されている。本構成によれば、第1近似式の傾きが正であり、現像電流が大きく変化しやすい第1測定範囲において相対的に多くのデータを取得することで、より精度の高い基準ピーク間電圧を決定することができる。
【0156】
また、本実施形態では、トナー移動電流と画像部磁気ブラシ電流と非画像部磁気ブラシ電流のバランス(各電流の合計)が変化する変化点を2つの近似式の交点によって予測し、基準ピーク間電圧を決定することができる。
【0157】
なお、本実施形態では、基準ピーク間電圧の設定を現像電流に基づいて決定している。従来では、画像濃度を測定してその安定性から基準ピーク間電圧を決定することも考えられたが、たとえば感光体ドラム20や中間転写ベルト141上の画像濃度を測定する濃度センサは画像濃度が高くなると測定精度が低下しやすく、本発明の第2測定範囲における画像濃度を精度よく検出することができない。この点からも、第1測定範囲および第2測定範囲において基準ピーク間電圧を決定するためのデータは現像電流であることが好適とされる。
【0158】
また、第1測定範囲では現像電流が大きく変化しやすいため、可能な限り広いピーク間電圧の範囲で測定を行うことが望ましい。一方、第2測定範囲では、現像電流の変化が比較的小さく、またピーク間電圧を過剰に大きく設定すると現像ニップ部においてリークが発生する可能性がある。このため、第2測定範囲は第1測定範囲よりも狭く、測定ポイントを少なく設定することが望ましい。この結果、モード実行時間の短縮、消費トナー量の抑制が可能となる。
【0159】
また、現像電流の測定は、現像バイアス印加部971内の回路において行ってもよい。なお、トナーの移動電流は感光体ドラム20側でも測定可能であるが、感光体ドラム20には転写ローラーから流入する電流も含まれるため、これらの電流を分離することができない。したがって、現像電流は現像バイアス印加部971側において測定することが望ましい。
【0160】
また、本実施形態では、キャリブレーション実行部984は、DCキャリブレーションにおいて、複数の測定用直流電圧と複数の測定用トナー像の濃度との関係から所定の目標濃度に対応する直流電圧を基準直流電圧Vdc1として決定する。このため、基準直流電圧Vdc1を容易かつ安定して決定することができる。
【0161】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を取り得る。
【0162】
(1)上記実施形態では、現像ローラー231の表面にローレット溝加工+ブラスト加工が施される態様にて説明したが、現像ローラー231の表面に凹形状(ディンプル)+ブラスト加工を有するものや、ブラスト加工のみ、ローレット溝のみ、凹形状(ディンプル)のみ、メッキ加工が施されたものでもよい。
【0163】
(2)図1のように画像形成装置10が複数の現像装置23を有する場合、上記実施形態に係るACキャリブレーションを1つもしくは2つの現像装置23で行い、その結果を他の現像装置23で利用するものでもよい。
【0164】
(3)図12は、本発明の変形実施形態に係る画像形成装置において実行されるACキャリブレーションの第2近似式決定ステップのフローチャートである。図13は、同第2近似式決定ステップの一部のフローチャートである。本変形実施形態では、先の実施形態と比較して、図12のステップS32A、S32BおよびS32Cにおいて相違する。すなわち、ステップS32において現像DC電流Idcが測定される。この際、本変形実施形態では、第1近似式決定ステップと同様に、4つの第2測定用ピーク間電圧に対応した4つの現像電流が取得され、第2測定用ピーク間電圧および現像電流に関する4組のデータが取得される。
【0165】
ここで、キャリブレーション実行部984は、第1近似式決定ステップと同様に、相関係数Rを演算する(ステップS32A)。そして、当該相関係数Rと予め記憶部983に格納された閾値R2との大小関係を比較する(ステップS32B)。一例として、閾値R2は、0.90に設定されている。ここで、閾値R2≦相関係数Rの場合(ステップS32BでYES)、キャリブレーション実行部984は、先の実施形態と同様に、ステップS33で傾きLを演算し、ステップS34における判定結果に基づいて、ステップS35またはステップS36において第2近似式をそれぞれ演算する。一方、ステップS32Bにおいて、R2>Rの場合(ステップS32BでNO)、キャリブレーション実行部984は、ステップS32Cの修正相関係数Rを決定する。
【0166】
図13を参照して、当該修正相関係数Rの決定ステップが開始されるとステップS41において、キャリブレーション実行部984は、上記の4組のデータのうち、最も大きなVppのデータを取り除いた状態で残りの3つのデータに基づいて、相関係数Rmを演算する(ステップS41)。次に、キャリブレーション実行部984は、上記の4組のデータのうち、最も小さなVppのデータを取り除いた状態で残りの3つのデータに基づいて、相関係数Rnを演算する(ステップS42)。そして、キャリブレーション実行部984は、上記で演算された相関係数Rm、Rnの大小関係を比較し、大きい方の相関係数を修正相関係数Rとして選択する(ステップS43)。その後、図12に戻って、選択された修正相関係数Rに基づいて、ステップS32B以降の処理が繰り返される。
【0167】
このように、本変形実施形態では、第2近似式決定ステップにおいて、相関係数が小さい場合には、相関係数の高いデータを選択し、そのデータに基づいて第2近似式が設定される。このため、少なくとも一のピーク間電圧のデータを除外することで、より精度の高い第2近似式を決定することができる。
【0168】
特に、キャリブレーション実行部984は、前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧のうちの最も大きなピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対する前記現像電流の直流成分に基づいて決定された第2判定用近似式の相関係数Rmと、前記少なくとも3つの第2測定用ピーク間電圧のうちの最も小さなピーク間電圧を除外した残りのピーク間電圧に対する前記現像電流の直流成分に基づいて決定された第3判定用近似式の相関係数Rnとを互いに比較し、前記第2判定用近似式および前記第3判定用近似式のうち相関係数が大きい方の判定用近似式を前記第2近似式として決定する。本構成によれば、第2近似式の決定過程において相関係数が小さい場合には、第2測定範囲のうち第1測定範囲に最も近い最小のピーク間電圧、または、放電リークが生じやすくノイズを含みやすい最大のピーク間電圧のデータうちのいずれかのデータを除外することで、より精度の高い第2近似式を決定することができる。
【0169】
(4)上記の実施形態では、図4のフローチャートに基づいて、DCキャリブレーションおよびACキャリブレーションをそれぞれ含む現像バイアスキャリブレーションについて説明したが、現像バイアスキャリブレーションの実施態様は図4に限定されるものではない。たとえば、図4のステップS06、S07においてそれぞれACバイアス、DCバイアスキャリブレーションが実行された後、図4のステップS03以下のステップが再度実行されてもよい。この場合、ステップS07において決定された基準直流電圧Vdc1が適切な値であるか否かを、ステップS03、S04において確認することができる。なお、この際、ステップS03においてVdc1が下限閾値VdcLと上限閾値VdcHとの間に含まれていない場合には、前回のステップS07において決定されたVdc1も引き続き適切な値ではないために、キャリブレーション実行部984は、キャリブレーション不良情報を画像形成装置10の不図示の表示部に表示する。この結果、画像形成装置10のメンテナンス作業者によって、関連部品の確認や、現像装置23のメンテナンスが行われることが望ましい。このメンテナンスには、現像剤の交換なども含まれる。
【0170】
なお、先の実施形態における現像バイアスキャリブレーションについてデータは以下の各条件において行ったものである。
【0171】
<共通条件>
・プリント速度:55枚/分
・感光体ドラム20:アモルファスシリコン感光体(α-Si)
・現像ローラー231:外径20mm、表面形状ローレット溝加工+ブラスト加工(周方向に沿って80列の凹部(溝)が形成されている)、
・規制ブレード234:SUS430製、磁性、厚み1.5mm
・規制ブレード234後の現像剤搬送量:250g/m
・現像ローラー231の感光体ドラム20に対する周速:1.8(対向位置でトレール方向)
・感光体ドラム20と現像ローラー231との間の距離:0.25mm
・感光体ドラム20の白地部(背景部)電位V0:+250V
・感光体ドラム20の画像部電位VL:+10V
・現像ローラー231の現像バイアス:周波数=10kHz、Duty=50%の交流電圧矩形波(Vppは各実験条件に応じて調整)、Vdc(直流電圧)=150V
・トナー:正帯電極性トナー、体積平均粒子径6.8μm、トナー濃度6%
・キャリア:体積平均粒子径35μm、フェライト・樹脂コートキャリア
【0172】
<現像剤について>
トナーは粉砕型トナー、コアシェル構造のトナーのどちらであっても同様の効果が確認されている。また、トナー濃度についても、3%から12%までの範囲で同様の効果が奏されることが確認された。交流電界によるトナーの移動は、磁気ブラシが細かいほどより顕著に起こりやすいことから、キャリアの体積平均粒子径は45μm以下が好ましく、30μm以上40μm以下がより好ましい。また、フェライトキャリアよりも真比重の小さい、樹脂キャリアの方がより好ましい。
【0173】
<キャリアについて>
キャリアは、体積平均粒子径35μmのフェライトコアにシリコンやフッ素などをコーティングしたものであり、具体的には以下の手順で作成した。キャリアコアEF-35(パウダーテック社製)1000重量部に、シリコン樹脂KR-271(信越化学社製)20質量部をトルエン200質量部に溶解させて、塗布液を作製する。そして、流動層塗布装置により、塗布液を噴霧塗布した後、200℃で60分間熱処理して、キャリアを得た。この塗布液の中に、導電剤や荷電制御剤をそれぞれコート樹脂100部に対し、0~20部の範囲で混合し、分散させることで、抵抗調整・帯電調整を行なっている。
【符号の説明】
【0174】
10 画像形成装置
141 中間転写ベルト(像担持体)
20 感光体ドラム(像担持体)
23 現像装置
231 現像ローラー
971 現像バイアス印加部
972 駆動部
973 電流計(電流検出部)
980 制御部
981 駆動制御部
982 バイアス制御部
983 記憶部
984 キャリブレーション実行部(バイアス条件決定部)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
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