(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】避難安全性評価システム、避難安全性評価方法及び避難安全性評価プログラム
(51)【国際特許分類】
G08B 29/00 20060101AFI20240423BHJP
A62B 3/00 20060101ALI20240423BHJP
G06Q 50/163 20240101ALI20240423BHJP
G08B 5/00 20060101ALI20240423BHJP
G08B 31/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G08B29/00 Z
A62B3/00 B
G06Q50/163
G08B5/00 C
G08B31/00 Z
(21)【出願番号】P 2020061500
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】矢部 周子
(72)【発明者】
【氏名】山口 純一
(72)【発明者】
【氏名】岸上 昌史
【審査官】田畑 利幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-094337(JP,A)
【文献】特開2016-149088(JP,A)
【文献】特開2002-108196(JP,A)
【文献】特開平05-040887(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0027321(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 1/00- 9/20
G08B 19/00-31/00
A62B 1/00- 5/00
A62B 35/00-99/00
G06Q 50/16
G06Q 50/163
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御部を備えた避難安全性評価システムであって、
前記制御部が、
誘導表示が配置された配置図を表示するための配置図情報を取得し、
前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定し、
前記配置図上の避難者を特定し、
前記有効範囲と前記避難者とが所定の相対位置関係にある場合に、当該有効範囲に対応する前記誘導表示に応じて、前記避難者を移動させることを特徴とする避難安全性評価システム。
【請求項2】
前記誘導表示の前記有効範囲を、前記誘導表示と正対する方向の距離を最も長くした形状で構成する
請求項1に記載の避難安全性評価システム。
【請求項3】
前記誘導表示の前記有効範囲を、前記誘導表示の大きさ、明るさ、及び周囲との明るさの対比、及び高さ方向の設置位置のうち少なくとも一つに基づいて決定する
請求項1又は2に記載の避難安全性評価システム。
【請求項4】
前記制御部が、
前記避難者が避難口に到達したか否かを判定し、前記避難口に到達したと判定した前記避難者について避難完了者と判定する
請求項1~3のいずれか1項に記載の避難安全性評価システム。
【請求項5】
前記避難者と前記所定の相対位置関係にある前記有効範囲がないと判定した場合に、当該避難者について避難未完了者と判定する
請求項4に記載の避難安全性評価システム。
【請求項6】
制御部が、
誘導表示が配置された配置図を表示するための配置図情報を取得する取得ステップと、
前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定する範囲特定ステップと、
前記配置図上の避難者を特定する避難者特定ステップと、
前記有効範囲と前記避難者とが所定の相対位置関係にある場合に、当該有効範囲に対応する前
記誘導表示に応じて、前記避難者を移動させる移動ステップと、を実行することを特徴とする避難安全性評価方法。
【請求項7】
制御部に、
誘導表示が配置された配置図を表示するための配置図情報を取得する取得ステップと、
前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定する範囲特定ステップと、
前記配置図上の避難者を特定する避難者特定ステップと、
前記有効範囲と前記避難者とが所定の相対位置関係にある場合に、当該有効範囲に対応する前
記誘導表示に応じて、前記避難者を移動させる移動ステップと、を実行させることを特徴とする避難安全性評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は避難安全性評価システム、避難安全性評価方法及び避難安全性評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物における防災計画を立案することなどを目的として、避難口、通路、居室や店舗の位置等を含む配置図に基づき、非常時に避難者が避難口まで安全に避難することができるか否かについての評価が行われている。例えば、特許文献1では、空間モデル、人間モデル、煙モデル等を用いて、避難者の行動を予測するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
避難行動では、避難者が避難経路を容易に把握できることが重要である。しかし、上記システムでは、避難者が避難経路を把握できるか否かまでは考慮されていない。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、避難者を適切に避難口に誘導可能であるか否かを含めて避難安全性を評価することを可能とする避難安全性評価システム、避難安全性評価方法及び避難安全性評価プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する避難安全性評価システムは、制御部を備えた避難安全性評価システムであって、前記制御部が、誘導表示が配置された配置図を表示するための配置図情報を取得し、前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定し、前記配置図上の避難者を特定し、前記有効範囲と前記避難者とが所定の相対位置関係にある場合に、当該有効範囲に対応する前記誘導表示に応じて、前記避難者を移動させる。
【0006】
上記構成によれば、誘導表示の視認性に応じた有効範囲と避難者とが所定の相対位置関係にある場合に避難者を避難開始位置から移動させるため、避難者を適切に避難口に誘導可能であるか否かを含めて避難安全性を評価することが可能となる。
【0007】
上記避難安全性評価システムでは、前記誘導表示の前記有効範囲を、前記誘導表示と正対する方向の距離を最も長くした形状で構成することが好ましい。
上記構成によれば、有効範囲は、誘導表示を避難者が視認できる範囲であって、誘導表示と正対する方向の距離が最も長いため、誘導表示の有効範囲を、実際の視認性に即して適切に設定することができる。
【0008】
上記避難安全性評価システムでは、前記誘導表示の前記有効範囲は、前記誘導表示の大きさ、明るさ、周囲との明るさの対比、及び高さ方向の設置位置のうち少なくとも一つに基づいて設定されることが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、有効範囲は、誘導表示の大きさ、明るさ、及び周囲との明るさの対比、及び高さ方向の設置位置のうち少なくとも一つに基づいて設定されるため、誘導表示の視認性を、実際の視認性に即して適切に設定することができる。
【0010】
上記避難安全性評価システムでは、前記制御部が、前記避難者が避難口に到達したか否かを判定し、前記避難口に到達したと判定した前記避難者について避難完了者と判定することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、避難者毎に、避難が可能か否かを評価することができる。
上記避難安全性評価システムでは、前記避難者と前記所定の相対位置関係にある前記有効範囲がないと判定した場合に、当該避難者について避難未完了者と判定することが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、誘導表示の視認性に基づき避難不可能であるか否かを判定することが可能となる。
上記課題を解決する避難安全性評価方法は、制御部が、誘導表示が配置された配置図を表示するための配置図情報を取得する取得ステップと、前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定する範囲特定ステップと、前記配置図上の避難者を特定する避難者特定ステップと、前記有効範囲と前記避難者とが所定の相対位置関係にある場合に、当該有効範囲に対応する前誘導表示に応じて、前記避難者を移動させる移動ステップと、を実行する。
【0013】
上記課題を解決する避難安全性評価プログラムは、誘導表示が配置された配置図を表示するための配置図情報を取得する取得ステップと、前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定する範囲特定ステップと、前記配置図上の避難者を特定する避難者特定ステップと、前記有効範囲と前記避難者とが所定の相対位置関係にある場合に、当該有効範囲に対応する前誘導表示に応じて、前記避難者を移動させる移動ステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、避難者を適切に避難口に誘導可能であるか否かを含めて避難安全性を評価することを可能とする避難安全性評価システム、避難安全性評価方法及び避難安全性評価プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る避難安全性評価システムの概略図。
【
図3】従来における誘導表示の有効範囲を示す模式図。
【
図4】同実施形態における誘導表示の有効範囲を示す図。
【
図5】同実施形態における有効範囲が設定された配置図の模式図。
【
図6】同実施形態におけるシミュレーションの前工程の処理手順を示すフローチャート。
【
図7】同実施形態における配置図に避難者が設定された配置図。
【
図8】同実施形態における避難行動のシミュレーションの処理手順を示すフローチャート。
【
図9】同実施形態のシミュレーション結果を示す配置図。
【
図10】同実施形態のシミュレーション結果を示す配置図。
【
図11】変形例における誘導表示の有効範囲を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る避難安全性評価システムについて説明する。避難安全性評価システムは、避難が必要な非常時に避難者が避難口まで避難することが可能であるか否かを、避難行動のシミュレーションを実行することにより評価するシステムである。
【0017】
図1に示すように、避難安全性評価システム10は、評価装置11、ディスプレイ12及び入力操作部13を備えている。評価装置11は、制御部20及び記憶部21を備えている。制御部20は、CPU等の演算回路、演算回路がデータの読み出し及び書き込みが可能なメモリ等を有する。記憶部21は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の記憶媒体である。記憶部21は、1つの記憶媒体であってもよいし、複数の記憶媒体から構成されていてもよい。
【0018】
記憶部21には、配置図情報22、有効範囲情報23及び行動情報24が格納されている。配置図情報22は、避難安全性を評価する対象となる建築物の避難口や通路の配置を示す情報である。有効範囲情報23は、避難経路の目印とされる誘導灯及び誘導標識の有効範囲を示す。以下、誘導灯及び誘導標識を区別しないで説明する場合には、これらを単に「誘導表示」として説明する。
【0019】
行動情報24は、避難行動のシミュレーションで用いられる情報であって、想定される避難行動パターンを複数含む。避難行動パターンには、例えば所定距離だけ移動する、その場に留まる、元の位置に戻る等の行動の内容が含まれる。さらに、避難行動パターンは、避難初期段階、避難途中段階等、複数の時系列的な段階に分けられて設定されていてもよい。避難行動パターンが時系列的な段階に分けられている場合、各段階の行動パターンが互いに関連付けられていてもよい。
【0020】
また、記憶部21には、避難安全性を評価するための避難安全性評価プログラムが格納されている。制御部20が避難安全性評価プログラムを実行することにより、配置図情報22及び行動情報24を用いた避難行動のシミュレーション処理が実行される。
【0021】
入力操作部13は、ユーザが評価装置11に各種情報を入力するためのものであり、タッチパネル、キーボード、マウス等から構成される。ディスプレイ12は、制御部20が出力したデータに基づく画像を表示する。ディスプレイ12は、入力操作部13であるタッチパネルと一体型であってもよい。
【0022】
次に
図2は、配置図情報22に基づき表示される配置
図40の一例である。配置図情報22は、ユーザがディスプレイ12に表示された図面を確認しつつ入力操作部13を操作することにより作成又は編集されたもの、又は予め作成された汎用的なデータを外部から取り込んだものである。
【0023】
配置図情報22には、屋外又は非常階段等への避難口32の位置、通路33の位置や方向の情報が含まれる。また、配置図情報22には、誘導表示35の位置及び誘導表示35の向きに関する位置情報、誘導表示35によって示される避難口32へ向かう方向(避難方向)に関する情報、誘導表示35の属性情報が含まれる。誘導表示35の向きは、避難者が視認する表示面の向きであって、2次元的に表示される配置
図40のX方向及びY方向に基づいて表されるか、又は通路33の進行方向に対して平行方向又は垂直方向等のように表される。また、位置情報は、誘導表示35の高さ方向の設置位置を含む。誘導表示35の属性情報は、誘導灯及び誘導標識といった種別、誘導表示35の大きさ、明るさ等の情報を含む。誘導表示は、消防法に従って、出入口や、通路33の曲がり角等に設置する必要があるため、ユーザは、消防法の規定に沿って誘導表示35を配置する。また、誘導表示35は、誘導灯及び誘導標識がそれぞれ識別可能であることが好ましい。また、図示を省略するが、配置図情報22には、部屋36及び部屋36に出入りするドアに関する情報が含まれていてもよい。
【0024】
図3及び
図4を参照して、誘導表示35の有効範囲について詳述する。発明者らは、避難者の行動に、誘導表示35の視認性が影響する点に着目した。
図3は、従来の誘導表示35の有効範囲100を示す。消防法では、誘導灯の有効範囲について、避難方向を示すシンボルの有無や誘導灯の区分等に分けてその距離が設定されている。有効範囲の距離は一定であり、誘導表示35を基準とした略半円状の範囲となる。
【0025】
しかし、有効範囲100内であっても避難者の位置に応じて誘導表示35の視認しやすさ(視認性)は異なる。誘導表示35の表示面35Aの正面にいる避難者101は、その視線方向が表示面35Aの法線方向110と平行である。この場合には、避難者101は、誘導表示35に気付きやすく視認しやすい。このため、避難者は、避難方向を容易に把握し、適切な避難行動をとることができる。一方、
図3中、表示面35Aからみて右側方にいる避難者102は、視認可能な有効面積が小さくなるために、誘導表示35に気付きにくいか、又は気付いたとしても誘導表示35が示す内容を把握しにくくなる。誘導表示35の表示面35Aに対する法線方向110と、避難者の視線方向111とがなす角度のうち小さい角度を「視認角度θ」とするとき、視認角度θが大きくなるほど、誘導表示35の視認性が低下する傾向にある。
【0026】
図4は、誘導表示35に対する避難者の視認性を考慮した有効範囲46の一例である。有効範囲46は、誘導表示35から有効範囲46の境界までの距離が、正対方向(正面方向)、左側方、及び右側方といった複数の方向において異なっており、誘導表示35と正対する方向の距離が最も長くなるように構成されている。誘導表示35を基準とした有効範囲46の距離は、視認角度θが大きくなるほど短くなる。有効範囲46の形状は、誘導表示35の形状等を考慮して定めればよく、これらの形状に限定されるものではない。有効範囲46は、実験やシミュレーションにより算出可能である。
【0027】
また、有効範囲46は、従来の有効範囲100の面積以下であってもよく、有効範囲100以上の面積であってもよい。なお、有効範囲46の最大距離は、消防法により規定された距離以下であることが好ましいが、視認性が確保できる場合には規定された距離よりも長く設定してもよい。
【0028】
有効範囲46は、少なくとも誘導灯及び誘導表示に分けて設定されている。また、誘導灯の有効範囲46は、誘導灯の特性に合わせて設定されていてもよい。例えば、誘導灯の大きさ、明るさ、周囲の明るさとの対比、高さ方向の設置位置のうち少なくとも一つに基づいて、有効範囲46が設定されてもよい。周囲との明るさとの対比は、誘導表示35が配置される環境での視認性を示し、誘導灯が設置された環境における輝度と誘導灯の輝度との差、他の照明器具からの照明光又は窓からの自然光による誘導灯周囲の輝度と誘導灯の輝度等に基づいて決定される。例えば、周囲に明るい照明器具がなく自然光が入らない環境等に誘導灯が設置された場合には、誘導灯が目立ち視認性が良好となるため有効範囲46は広くなる。また、照明器具の手前に誘導灯が配置された場合には誘導灯が目立たず視認性が悪化するため有効範囲46は狭くなる。また、有効範囲46は、建築的要素(下がり天井・垂れ壁に設けられた中吊り広告等も含む)に応じて設定されてもよい。例えば垂れ壁の付近に誘導表示35が設けられている場合、通路33上の位置によっては垂れ壁が誘導表示35を遮ってしまうことが考えられるため、垂れ壁が誘導表示35の一部を遮ることが想定される場合には有効範囲46を小さくする。
【0029】
制御部20は、ユーザの入力指示に基づいて誘導表示35の有効範囲46を設定する。例えば、有効範囲情報23に含まれる有効範囲46のテンプレートの中から一つのテンプレートを選択する。テンプレートを選択すると、制御部20は、誘導表示35とテンプレートとを関連付けて記憶部21に記憶する。
【0030】
図5は、配置
図40に表示された全ての誘導表示35に対して有効範囲46を設定した状態を示す。制御部20は、表示面35Aの所定位置(例えば中心点)を基準に、表示面35Aの正面側に有効範囲46を表示する。制御部20は、有効範囲46を、有効範囲46とそうでない範囲とを識別可能となるように表示すればよく、
図5に例示されるように破線で画面上に表示してもよいし、通路や部屋の表示色と異なる色で表示してもよい。なお、
図5に示す誘導表示35は、全て誘導灯である。
【0031】
制御部20は、避難者の位置と有効範囲46との位置、及び誘導表示35が示す避難方向に基づいて、避難口32まで避難可能であるか否かを判定するためのシミュレーションを行う。このとき、制御部20は、避難者と有効範囲46とが所定の相対位置関係にあるか否かを判定する。所定の相対位置関係とは、避難者が有効範囲46内にいること、避難者が有効範囲46外であっても避難者と最寄りの有効範囲46との最短距離が許容値(例えば数十cm等)以下であることである。避難者と有効範囲46が所定の相対位置関係にある場合、制御部20は、避難者を、所定の相対位置関係にある有効範囲46内で避難方向に移動させる。
【0032】
例えば、
図5中、避難口32に設置された誘導表示35の有効範囲46A内に存在する避難者103について、制御部20は、避難者103と有効範囲46Aとが所定の相対位置関係にあると判定して、有効範囲46Aで移動させて避難口32に到達させる。また、制御部20は、有効範囲46C内に存在する避難者104について、避難者104と有効範囲46Cとが所定の相対位置関係にあると判定して、有効範囲46C内で避難方向に移動させる。さらに、有効範囲46Cの避難方向の端部に移動した避難者104は有効範囲46Cに重複する有効範囲46B内にいるため、制御部20は、避難者104を有効範囲46B内で避難方向に移動させる。
【0033】
一方、例えば、
図5中、通路33cのように、有効範囲46が設定されていない場合等においては、避難者105と所定の相対位置関係にある有効範囲46が存在しない。この場合、制御部20は、行動情報24を用いて、避難者の行動パターンを選択し、選択した行動パターンに基づいて避難者を行動させる。このとき、制御部20は、より出口から遠ざかる方向に避難者105を移動させることが望ましい。行動後の避難者といずれかの有効範囲46とが所定の相対位置関係にある場合、制御部20は、その有効範囲46内で避難者を移動させる。
【0034】
(動作)
次に
図6~
図8を参照して、制御部20が避難安全性評価プログラムを実行することにより実現される制御方法について説明する。なお、有効範囲情報23には、誘導表示35の各々に関連付けられた有効範囲46が予め記憶されているものとする。
【0035】
図6は、シミュレーション処理の前に行われる処理手順を示す。
まず、制御部20は、ユーザの入力操作に基づく指示に従って、配置図情報22を記憶部21から取得する(ステップS1、取得ステップ)。
【0036】
次に、制御部20は、有効範囲情報23を用いて、誘導表示35の有効範囲46を特定する(ステップS2、範囲特定ステップ)。
次いで、制御部20は、避難を開始する避難者を設定する(ステップS3)。
【0037】
図7に示すように、制御部20は、通路33や部屋36等、配置
図40上の複数の異なる位置に避難者47を設定する。制御部20は、避難者47の位置をランダムに設定してもよいし、避難者47をユーザが指定した位置に設定するようにしてもよい。
【0038】
図8は、制御部20によって実行される避難者の避難行動のシミュレーションの処理手順を示す。
まず、制御部20は、ステップS3で設定された複数の避難者47から、シミュレーション対象とする避難者47を特定する(ステップS10、避難者特定ステップ)。
【0039】
次いで、制御部20は、特定した避難者47と最寄りの有効範囲46とが所定の相対位置関係にあるか否かを判定する(ステップS11)。
制御部20は、避難者47と有効範囲46とが所定の相対位置関係を満たさないと判定すると(ステップS11:NO)、行動情報24に基づいて避難者47の行動を選択する(ステップS20)。ここでは、制御部20は、複数の行動パターンを含む行動情報24の中から一つの行動パターンを選択する。例えば、制御部20は、乱数を用いて行動パターンを選択し、避難者47を一方向へ所定距離移動させる。又は、制御部20は、乱数を使用した処理等によって行動パターンを選択して、避難者47を移動させずにその場に留まらせる。
【0040】
次に、制御部20は、選択された行動パターンに従って行動させた避難者47と最寄りの有効範囲46とが所定の相対位置関係にあるか否かを判定する(ステップS21)。
ここで、避難者47と最寄りの有効範囲46とが所定の相対位置関係を満たさないと判定すると(ステップS21:NO)、制御部20は、避難者47について、避難口32まで避難不可能であると判定する(ステップS22)。
【0041】
一方、避難者47と最寄りの有効範囲46とが所定の相対位置関係にあると判定した場合(ステップS11:YES)、及び行動後の避難者47と最寄りの有効範囲46とが所定の相対位置関係にあると判定した場合(ステップS21:YES)、制御部20は、誘導表示35が示す避難方向に沿って、避難者47を有効範囲46内でその境界に到達するまで移動させる(ステップS12、移動ステップ)。
【0042】
次に、制御部20は、避難者が避難口に到達したか否かを判定する(ステップS13、判定ステップ)。避難者が避難口に到達したと判定すると(ステップS13:YES)、制御部20は、避難者47について、避難口32まで避難可能位置であると判定する(ステップS14)。
【0043】
避難者47が避難口に到達していないと判定した場合(ステップS13:NO)、制御部20が、避難初期段階で避難が完了しないとして、ステップS11に戻り、避難途中段階のシミュレーションとして、上記の処理を繰り返す。
【0044】
2巡目以降の避難途中段階の処理において、制御部20は、開始位置から移動した避難者47と最寄りの有効範囲46とが所定の相対位置関係にあるか否かを判定する(ステップS11)。このとき、既に通過した有効範囲46は、相対位置関係の判定の対象外とする。避難者47と最寄りの有効範囲46とが所定の相対位置関係にあると判定した場合(ステップS11:YES)、制御部20は、避難者を、その有効範囲46内で移動させ(ステップS12)、避難口に到達したか否かを判定する(ステップS13)。
【0045】
一方、ステップS11において、避難者47と最寄りの有効範囲46とが所定の相対位置関係を満たさないと判定した場合(ステップS11:NO)、制御部20は、避難者の行動を選択する(ステップS20)。このとき、制御部20は、避難を開始した初期避難段階の行動パターンと関連付けられた避難途中段階の行動パターンを選択するようにしてもよい。例えば、避難者47が避難を開始したときにいずれかの有効範囲46に含まれる場合には、避難者が既に誘導表示35に表示された避難方向を把握していることが想定される。このような場合には、ランダムに行動を選択するのではなく、避難者を避難方向に所定距離だけ移動させるようにしてもよい。
【0046】
そして、制御部20は、選択した行動パターンに従って避難者47を行動させ、行動後の避難者47と最寄りの有効範囲46とが所定の相対位置関係にあるか否かを判定する(ステップS21)。
【0047】
行動後の避難者47と最寄りの有効範囲46とが所定の相対位置関係にないと判定した場合(ステップS21:NO)、制御部20は、避難者47について避難不可能と判定する(ステップS22)。一方、行動後の避難者47と最寄りの有効範囲46とが所定の相対位置関係にあると判定した場合(ステップS21:YES)、避難者を、その有効範囲46内で移動させ(ステップS12)、避難口に到達したか否かを判定する(ステップS13)。
【0048】
制御部20は、シミュレーション対象である避難者47について、避難可能であるとの判定(ステップS14)か、避難不可能であるとの判定(ステップS22)がなされるまで、上記した処理(ステップS11~ステップS13,ステップS20~ステップS21)を繰り返す。いずれかの判定を行うと、制御部20は、ステップS3で設定した全ての避難者47について判定を完了したか否かを判定する(ステップS15)。
【0049】
判定が完了していない避難者47が存在すると判定すると(ステップS15:NO)、制御部20は、ステップS10に戻り、次の避難者47を対象として上記した処理を繰り返す。
【0050】
また、全ての避難者47について判定が完了したと判定すると(ステップS15:YES)、制御部20は、シミュレーションを終了する。シミュレーションを完了すると、制御部20は、避難不可能と判定された避難者と避難可能と判定された避難者とを配置
図40上に識別可能に表示する。
【0051】
図9は、避難不可能と判定した避難者である避難未完了者47Aと、避難口32まで到達可能と判定した避難完了者47Bとを識別可能に表示した配置
図40である。ユーザは、画面に表示された配置
図40を確認し、避難未完了者47Aの有無を確認する。
【0052】
図9の例では、制御部20は、避難口32に設置された誘導表示35の有効範囲46A内に含まれる避難者47は、全て避難完了者47Bと判定している。また、有効範囲46Bに含まれる避難者47は、有効範囲46Bから避難口32に至る経路のうち通路33cが有効範囲46に含まれていないが、避難初期段階で避難者が避難方向を把握できると推定される。このため、制御部20は、その後の避難途中段階で避難者が通路33aを避難方向に所定距離だけ移動することで避難口32に到達すると判定し、避難完了者47Bと判定している。但し、例えば有効範囲46Bから避難口32までの距離が長い場合など、避難者が通路33aを避難方向に所定距離だけ移動することで避難口32に到達しないと判定した場合には、有効範囲46Bに含まれる避難者47を避難不可能な避難未完了者47Aと判定する。
【0053】
一方、有効範囲46に含まれない通路33a~33e上に存在する避難者47については、制御部20は、避難初期段階で避難者が避難方向を把握できず、且つ避難者に行動パターンを適用したとしてもいずれの有効範囲46とも所定の相対位置関係を満たさないとして、基本的に避難未完了者47Aと判定している。但し、避難口32に近い避難者47Cは、有効範囲46に含まれていないものの避難口32に近いため、制御部20は、避難者47Cが有効範囲46Aと所定の相対位置関係にあるとして、避難完了者47Bとしている。
【0054】
このように配置
図40上に避難未完了者47Aが存在する場合には、ユーザは、避難未完了者47Aを避難完了者47Bにするために、誘導表示35を配置
図40に追加する。制御部20は、ユーザの入力操作に基づいて、配置
図40上に誘導表示35を配置し、誘導表示35の有効範囲46を設定する。また、制御部20は、ユーザの入力操作に従って、誘導表示35が追加された配置
図40を用いて、避難行動のシミュレーションを再度実行する。
【0055】
図10は、
図9の配置
図40に、誘導表示35を追加した後の避難行動のシミュレーションの結果である。誘導表示35が追加されたことにより、避難未完了者47Aが、新たに設定された有効範囲46に含まれている。これにより、制御部20は、全ての避難者47について避難完了者47Bと判定している。なお、制御部20は、追加した誘導表示35の表示態様(例えば、色等)を、追加前に設定されていた誘導表示35の表示態様と異ならせてもよい。
【0056】
また、複数の有効範囲46の位置関係を配置
図40で確認することにより、ユーザが、有効範囲46の重複が最小限となるように誘導表示35の数や配置等を調整することも可能である。例えば、ユーザは、誘導表示35を表示面35Aの面積が小さく有効範囲46が小さいものに変更したり、又は誘導表示35自体を省略したり、誘導表示35の位置を変更したりした後に、シミュレーションを実行する。そして、シミュレーションの結果としてディスプレイ12に出力された配置
図40で、避難未完了者47Aを確認する。これにより、誘導表示35を適切に配置することができる。
【0057】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)誘導表示35の視認性に応じた有効範囲46と避難者との相対位置関係に基づき避難者を移動させるシミュレーションを実行し、避難者について避難が容易に可能であるか否かを判定した。これにより、避難者を適切に避難口に誘導可能であるか否かを含めて避難安全性を評価することが可能となる。
【0058】
(2)有効範囲46は、誘導表示35と正対する方向の距離が最も長いため、誘導表示35の視認性を、実際の視認性に即して適切に設定することができる。
(3)有効範囲46は、誘導表示の大きさ、明るさ、周囲との明るさの対比、及び高さ方向の設置位置のうち少なくとも一つに基づいて設定されるため、誘導表示35の視認性を、実際の視認性に即して適切に設定することができる。
【0059】
(4)制御部20は避難者が避難口に到達したか否かを判定するので、避難経路全体における誘導表示35の視認性を考慮して、避難安全性を評価することができる。
(5)制御部20は、避難者と所定の相対位置関係にある有効範囲46がないと判定した場合に、避難者について避難未完了者と判定するので、避難経路全体における誘導表示35の視認性を考慮して、避難安全性を評価することができる。
【0060】
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記各実施形態では、有効範囲46は各方向において異なる距離を有する範囲としたが、誘導表示35を基準とする距離が一定の範囲としてもよい。又は、上記各実施形態における有効範囲46とこの有効範囲とを組み合わせても良い。
図11に示す有効範囲46は、誘導表示35から有効範囲46の境界までの距離が一定である。この有効範囲46は、従来の半円状の有効範囲100のうち、誘導表示35からみて左側方の所定範囲及び右側方の所定範囲を除く、正対方向の範囲である。このようにしても、誘導表示35の視認性に応じた有効範囲を設定することができる。
【0061】
・上記実施形態では、有効範囲46を表すテンプレートから一つのテンプレートを選択することによって、制御部20が誘導表示35に有効範囲46を設定した。これに代えて、ユーザが、入力操作部13を操作して、誘導表示35に合った有効範囲46を表す図形を作成し、その図形を誘導表示35の正面側に配置するようにしてもよい。又は、制御部20が、誘導表示35の型番や、大きさや明るさ等、ユーザが入力した属性情報を取得し、属性情報に応じて誘導表示35に適した有効範囲46を設定してもよい。
【0062】
・上記実施形態では、誘導表示35の位置情報には、配置
図40のX方向及びY方向の位置に加え、高さ方向の設置位置を含むものとしたが、位置情報は、配置
図40のX方向及びY方向の位置を含み、高さ方方向の設置位置を含まなくてもよい。
【0063】
・制御部20は、一つの演算回路から構成されるものとは限らず、複数の演算回路から構成されていてもよい。また、評価装置11の制御部20の機能は、複数の装置に分散されていてもよい。
【0064】
・評価装置11は、ユーザが用いる端末にネットワークを介して接続されていてもよい。この態様において、評価装置11は、避難安全性の評価結果を端末に送信するようにしてもよい。また、この端末は、誘導表示35に関する情報を入力し、入力した情報を評価装置11に送信するようにしてもよい。この態様によれば、建築物内に設置された誘導表示35に関する情報、誘導表示35が設置された環境に関する情報等を、ユーザが実際に建築物の内部で確認しながら評価装置11に送信することができる。
【0065】
・評価装置11が行う処理の少なくとも一部を、評価装置11にネットワークを介して接続するサーバ装置に実行させるようにしてもよい。例えば、評価装置11は、サーバ装置に対して配置図情報30の送信、評価結果の情報要求を行い、サーバ装置から受信した各種の情報に基づき配置図や評価結果をディスプレイ12に表示するようにしてもよい。また、例えばサーバ装置は、配置図情報30及び有効範囲情報23の登録、避難安全性評価等を行う。このようにしても、避難者を適切に避難口に誘導可能であるか否かを含めて避難経路の避難安全性を評価することが可能となる。
【符号の説明】
【0066】
10…避難安全性評価システム、11…評価装置、12…ディスプレイ、13…入力操作部、20…制御部、21…記憶部、22…配置図情報、23…有効範囲情報、24…行動情報、32…避難口、33,33a~33e…通路、35…誘導表示、35A…表示面、36…部屋、40…配置図、46,46A~46C…有効範囲、47,47C…避難者、47A…避難未完了者、47B…避難完了者、100…従来の有効範囲、101~105…避難者、110…法線方向、111…視線方向。