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  • 特許-眼科装置、および眼科装置用プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】眼科装置、および眼科装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020062607
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021159234
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】柵木 誠二
(72)【発明者】
【氏名】植村 努
(72)【発明者】
【氏名】余語 宏文
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-030026(JP,A)
【文献】特開2014-149311(JP,A)
【文献】特開2017-202109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼を測定する眼科装置であって、
光源から出射された測定光が前記被検眼によって反射した第1反射光と、前記測定光に対応する参照光とを干渉させて第1干渉信号を取得する干渉光学系と、
前記干渉光学系を構成する光学部品によって前記測定光が反射した第2反射光と、前記参照光とが干渉して得られた第2干渉信号を用いて、前記第1干渉信号に基づく測定結果を補正する演算手段と、
前記干渉光学系の光路長を調整するための光路長調整手段と、
前記光路長調整手段を制御し、校正時に前記光学部品からの前記第2反射光が前記干渉光学系の可干渉領域内に入るようにし、測定時に前記第2反射光が前記可干渉領域内に入らないようにする制御手段と、
を備えることを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記光学部品は、前記干渉光学系の対物レンズであることを特徴とする請求項1の眼科装置。
【請求項3】
前記演算手段は、測長距離換算データまたは干渉信号補間データを補正することによって前記測定結果を補正することを特徴とする請求項1または2の眼科装置。
【請求項4】
被検眼を測定する眼科装置において実行される眼科装置用プログラムであって、前記眼科装置のプロセッサによって実行されることで、
光源から出射された測定光が前記被検眼によって反射した第1反射光と、前記測定光に対応する参照光とを干渉させて第1干渉信号を干渉光学系によって取得する取得ステップと、
前記測定光が前記干渉光学系を構成する光学部品によって反射した第2反射光と、前記参照光とが干渉して得られた第2干渉信号を用いて、前記第1干渉信号に基づく測定結果を補正する演算ステップと、
校正時に前記光学部品からの前記第2反射光が前記干渉光学系の可干渉領域内に入るようにし、測定時に前記第2反射光が前記可干渉領域内に入らないように前記干渉光学系の光路長を調整する光路長調整ステップと、
を前記眼科装置に実行させることを特徴とする眼科装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検眼を測定する眼科装置、および眼科装置用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の眼科装置において、干渉光学系を備え、被検眼の眼軸長等の眼内距離を測定したり、断層画像を撮影したりするOCT(Optical coherence tomography)装置が知られている。OCTには、TD(Time Domain)-OCTとFD(Fourier Domain)-OCTがあり、FD-OCTでは、波長掃引型の光源を用いるSS(Swept Source)-OCTがある。SS-OCTでは、光源の経年変化等によって測定光の特性が変化し、測定感度等が低下することがある。そのため、装置内部または外部に校正機構(例えば、校正光学系)を設けて、定期的に補正を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-183152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の眼科装置では、校正機構を設置することにより、コストアップや装置の大型化等の問題が発生する。
【0005】
本開示は、従来の問題点に鑑み、簡単な構成で校正を行える眼科装置及び眼科装置プログラムを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
(1) 被検眼を測定する眼科装置であって、光源から出射された測定光が前記被検眼によって反射した第1反射光と、前記測定光に対応する参照光とを干渉させて第1干渉信号を取得する干渉光学系と、前記干渉光学系を構成する光学部品によって前記測定光が反射した第2反射光と、前記参照光とが干渉して得られた第2干渉信号を用いて、前記第1干渉信号に基づく測定結果を補正する演算手段と、前記干渉光学系の光路長を調整するための光路長調整手段と、前記光路長調整手段を制御し、校正時に前記光学部品からの前記第2反射光が前記干渉光学系の可干渉領域内に入るようにし、測定時に前記第2反射光が前記可干渉領域内に入らないようにする制御手段と、を備えることを特徴とする。
(2) 被検眼を測定する眼科装置において実行される眼科装置用プログラムであって、前記眼科装置のプロセッサによって実行されることで、光源から出射された測定光が前記被検眼によって反射した第1反射光と、前記測定光に対応する参照光とを干渉させて第1干渉信号を干渉光学系によって取得する取得ステップと、前記測定光が前記干渉光学系を構成する光学部品によって反射した第2反射光と、前記参照光とが干渉して得られた第2干渉信号を用いて、前記第1干渉信号に基づく測定結果を補正する演算ステップと、校正時に前記光学部品からの前記第2反射光が前記干渉光学系の可干渉領域内に入るようにし、測定時に前記第2反射光が前記可干渉領域内に入らないように前記干渉光学系の光路長を調整する光路長調整ステップと、を前記眼科装置に実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、簡単な構成で校正を行える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】装置内部の光学系を示す概略図である。
図2】出荷前の初期校正時に検出された干渉信号である。
図3】眼軸長測定のフローチャートを示す図である。
図4】測定前の校正モードで検出された干渉信号である。
図5】測定時に通常モードで検出された干渉信号である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
本開示に係る実施形態について説明する。本実施形態の眼科装置(例えば、眼科装置1)は、被検眼を測定するものである。眼科装置は、例えば、干渉光学系(例えば、干渉光学系100)と、演算部(例えば、制御部70)を備える。干渉光学系は、例えば、光源(例えば、光源102)から出射された測定光が被検眼によって反射した第1反射光(例えば、測定反射光)と、測定光に対応する参照光とを干渉させて第1干渉信号(測定用干渉信号)を取得する。演算部は、測定光が干渉光学系を構成する光学部品によって反射した第2反射光(例えば、内部反射光)と、参照光とが干渉した第2干渉信号(例えば、校正用干渉信号)を用いて、第1干渉信号に基づく測定結果を補正する。本実施形態の眼科装置は、上記の構成を備えることによって、校正(キャリブレーション)専用の光学系を設ける必要がなくなり、低コスト化、小型化または軽量化などを実現できる。
【0011】
なお、干渉光学系を構成する光学部品は、例えば、測定光を被検眼へと導く光学部品である。換言すると、干渉光学系を構成する光学部品は、例えば、被検眼に照射される測定光が通過する光学部品である。また、干渉光学系を構成する光学部品は、例えば、測定光が被検眼によって反射した反射光を受光素子へと導く光学部品である。換言すると、干渉光学系を構成する光学部品は、例えば、受光素子に受光される被検眼からの反射光が通過する光学部品である。
【0012】
なお、光学部品は、干渉光学系を構成する複数の光学部品のうちの少なくとも1つの光学部品である。
【0013】
なお、光学部品は、干渉光学系の対物レンズ(例えば、対物レンズ125)であってもよい。対物レンズは、例えば、最も被検眼側のレンズである。対物レンズは、被検眼に近いため、干渉光学系の可干渉領域(OCT撮像範囲またはDepth Rangeともいう)に入れ易く、実現し易い。
【0014】
なお、演算部は、測長距離換算データまたは干渉信号補間データ(分散補正データ、またはマッピングデータとも言う)を補正することによって測定結果を補正してもよい。この場合、演算部は、測定結果の算出に用いられるデータを補正することによって、間接的に測定結果を補正する。
【0015】
なお、眼科装置は、光路長調整部(例えば、光路長調整部126)と、制御部(例えば、制御部70)を備えてもよい。光路長調整部は、例えば、干渉光学系の光路長を調整する。制御部は、光路長調整部を制御し、校正時に光学部品からの第2反射光が可干渉領域内に入るようにし、測定時に第2反射光が干渉光学系の可干渉領域内に入らないようにしてもよい。これによって、測定時に第2反射光がノイズとして検出されることを抑制できる。
【0016】
なお、第2反射光は、測定時の可干渉領域内に配置されてもよい。例えば、第2反射光が可干渉領域内に存在している場合、第1反射光とは重ならない位置に配置されてもよい。つまり、測定対象(例えば、角膜または網膜など)の信号のピークが存在しない位置に配置されてもよい。これによって、測定対象のピーク位置を検出し易くなる。
【0017】
なお、眼科装置のプロセッサ(例えば、制御部70)によって、記憶部(例えば、記憶部74)などに記憶された眼科装置用プログラムを実行させてもよい。眼科装置用プログラムは、例えば、取得ステップと、演算ステップを含む。取得ステップは、例えば、光源から出射された測定光が被検眼によって反射した第1反射光と、測定光に対応する参照光とを干渉させて第1干渉信号を干渉光学系によって取得するステップである。演算ステップは、測定光が干渉光学系を構成する光学部品によって反射した第2反射光と、参照光とが干渉した第2干渉信号を用いて、第1干渉信号に基づく測定結果を補正するステップである。
【0018】
<実施例>
以下、本開示に係る眼科装置1を図面に基づいて説明する。図1は本実施例に係る眼科装置1の光学系について示す概略構成図である。なお、以下に説明する光学系は、図示無き筐体に内蔵されている。その筐体は、周知のアライメント駆動機構の駆動によって、被検眼Eに対して3次元的に移動される。被検者の顔は図示無き顔支持部によって支持される。なお、以下の説明においては、被検眼Eの光軸方向をZ方向、水平方向をX方向、鉛直方向をY方向として説明する。眼底の表面方向をXY方向として考えてもよい。
【0019】
本実施例の眼科装置は、干渉光学系100を備え、被検眼Eの眼軸長を測定するために用いられる。干渉光学系100は、眼Eに測定光を照射する。干渉光学系100は、被検眼の前眼部または眼底から反射された測定光と、参照光との干渉状態を受光素子(検出器)120によって検出する。制御部70は、受光素子120によってスペクトル干渉信号を取得する。
【0020】
干渉光学系100は、いわゆる眼科用光干渉断層計(OCT:Optical coherence tomography)の装置構成を持つ。干渉光学系100は、光源102から出射された光をカップラー(光分割器)104によって測定光(試料光)と参照光に分割する。そして、干渉光学系100は、測定光学系106によって測定光を被検眼に導き、また、参照光を参照光学系110に導く。その後、被検眼によって反射された測定光と、参照光との合成による干渉光を受光素子120に受光させる。
【0021】
光源102から出射された光は、カップラー104によって測定光束と参照光束に分割される。そして、測定光束は、光ファイバを通過した後、ファイバ端122から空気中へ出射される。その光束は、コリメートレンズ123、フォーカスレンズ124、対物レンズ125等の測定光学系106の光学部材を介して前眼部に集光される。そして、被検眼で反射された光は、同様の光路を経て光ファイバに戻される。
【0022】
コリメートレンズ123は、光ファイバから出射された測定光束を平行光にする。フォーカスレンズ124は、測定光学系106のフォーカス位置を調整する。フォーカスレンズ124は、図示無き駆動部によって光軸方向に移動可能であってもよい。対物レンズ125は、測定光を被検眼に導く。
【0023】
光路長調整部126は、測定光と参照光との光路長差を変更する。光路長調整部126は、測定光学系106の測定光路中に配置される。光路長調整部126は、例えば、駆動部127を備え、ファイバ端122とコリメートレンズ123を一体的に光軸方向に移動させる。なお、光路長調整部126は、後述する参照光学系110に設けられてもよい。この場合、例えば、駆動部によって参照ミラーが光軸方向に移動される構成であってもよい。
【0024】
参照光学系110は、眼Eでの測定光の反射によって取得される反射光と合成される参照光を生成する。参照光学系110は、マイケルソンタイプであってもよいし、マッハツェンダタイプであっても良い。参照光学系110は、例えば、反射光学系(例えば、参照ミラー)によって形成され、カップラー104からの光を反射光学系により反射することにより再度カップラー104に戻し、受光素子120に導く。他の例としては、参照光学系110は、透過光学系(例えば、光ファイバー)によって形成され、カップラー104からの光を戻さず透過させることにより受光素子120へと導く。
【0025】
受光素子120は、測定光と参照光との干渉状態を検出する。フーリエドメインOCTの場合では、干渉光のスペクトル強度が受光素子120によって検出され、スペクトル強度データに対するフーリエ変換によって所定範囲における深さプロファイル(OCTデータ)が取得される。OCTデータは、記憶部74に記憶される。
【0026】
本実施例の干渉光学系100は、SS(Swept Source)-OCTが採用されている。SS-OCTの場合、光源102として出射波長を時間的に高速で変化させる波長掃引型光源(波長可変光源)が用いられる。光源102は、例えば、光源、ファイバーリング共振器、及び波長選択フィルタによって構成される。そして、波長選択フィルタとして、例えば、回折格子とポリゴンミラーの組み合わせ、ファブリー・ペローエタロンを用いたものが挙げられる。
【0027】
また、眼科装置1は、ケラト投影光学系50、アライメント投影光学系40、前眼部撮像光学系30等を備えてもよい。
【0028】
ケラト投影光学系50は、測定光軸O1を中心に配置されたリング状の光源51を有し、被検眼角膜にリング指標を投影して角膜形状(曲率、乱視軸角度、等)を測定するために用いられる。なお、光源51には、例えば、赤外光または可視光を発するLEDが使用される。なお、投影光学系50について、光軸O1を中心とする同一円周上に少なくとも3つ以上の点光源が配置されていればよく、間欠的なリング光源であってもよい。さらに、複数のリング指標を投影するプラチド指標投影光学系であってもよい。
【0029】
アライメント投影光学系40は、光源51の内側に配置され、赤外光を発する投影光源41を有し、被検眼の角膜Ecにアライメント指標を投影するために用いられる。そして、角膜Ecに投影されたアライメント指標は、被検眼に対する位置合わせ(例えば、自動アライメント、アライメント検出、手動アライメント、等)に用いられる。本実施例において、投影光学系50は、被検眼の角膜Ecに対してリング指標を投影する光学系であって、リング指標は、マイヤーリングも兼用する。また、投影光学系40の光源41は、前眼部を斜め方向から赤外光にて照明する前眼部照明を兼用する。なお、投影光学系40において、さらに、角膜Ecに平行光を投影する光学系を設け、投影光学系40による有限光との組合せにより前後のアライメントを行うようにしてもよい。
【0030】
前眼部撮像光学系30は、前眼部正面像を撮像(取得)するために用いられる。前眼部撮像光学系30は、二次元撮像素子31、撮像レンズ32、フィルタ33、ダイクロイックミラー34、レンズ35、ダイクロイックミラー36を含み、被検眼の前眼部正面像を撮像するために用いられる。二次元撮像素子31は、被検眼前眼部と略共役な位置に配置されている。
【0031】
前述の投影光学系40、投影光学系50による前眼部反射光は、ダイクロイックミラー36、レンズ35、ダイクロイックミラー34、フィルタ33、撮像レンズ32を介して二次元撮像素子31に結像される。
【0032】
光源37は、固視灯である。光源37は、例えば、ダイクロイックミラー34の透過方向に設けられる。例えば、光源37から発せられた光の前眼部での反射により取得される前眼部反射光の一部は、ダイクロイックミラー36で反射され、正面撮像光学系30で結像される。
【0033】
次に、制御系について説明する。制御部70は、装置全体の制御及び測定結果の算出を行う。制御部70は、干渉光学系100の各部材、記憶部74、表示部75、操作部76等と接続されている。記憶部74には、各種制御プログラムの他、制御部70が解析を行うための解析プログラム等が記憶されている。また、操作部76には、操作入力部として、マウス等の汎用インターフェースが用いられてもよいし、その他、タッチパネルが用いられてもよい。
【0034】
<校正について>
光源102は、温度変化または経年変化などによって特性が変化することがある。この場合、同じものを測定したとしても特性変化によって測定結果が変わってしまう。そこで、本実施例では、干渉光学系100を構成する光学部品を用いて測定結果を補正する。具体的には、干渉光学系100を構成する光学部品によって反射した内部反射光と、参照光とが干渉して得られた校正用干渉信号を用いて、測定結果の算出に用いられる換算データを補正する。換算データは、例えば、解析によって得られる干渉信号上の長さを実際の距離に換算するための値である。制御部70は、例えば、校正用干渉信号によって光学部品の長さを取得し、この長さを基準として換算データを補正する。光学部品の長さは、基準データとして記憶部74に記憶されており、制御部70は、記憶部74に記憶された基準データを用いて、測定時または装置起動時などに換算データを補正する。
【0035】
次に、基準データの取得について説明する。基準データとして使用する光学部品の長さは、例えば、装置出荷前に測定され、記憶部74に記憶される。光学部品の長さは、例えば、厚さが既知の光学部材(板ガラス、模型眼、プラスチック板など)を測定することによって得られる。本実施例では、光学部品の長さとして対物レンズ125の光軸上の厚さT1が取得される。図2は、対物レンズ125と厚さT2の板ガラスとを干渉光学系100によって測定したときに検出された干渉信号を示す。対物レンズ125を測定する場合、制御部70は光路長調整部126によって、対物レンズ125の近傍にZerodelay位置を移動させる。これによって、対物レンズ125が干渉光学系100の可干渉領域に入り、対物レンズ125からの反射光を干渉信号として検出することができる。Zerodelay位置とは、例えば、測定光路長と参照光路長が一致する位置である。図2のように、干渉信号には、対物レンズ125を光源102側から見たときの前面反射によるピークP1と後面反射によるピークP2、板ガラスの前面反射によるピークP3と後面反射によるピークP4が検出される。
【0036】
制御部70は、信号解析処理によって各ピークの位置を検出し、ピークP1とピークP2の間隔D1、ピークP3とピークP4の間隔D2をそれぞれ求める。例えば、制御部70は、ピークP1の位置からピークP2の位置を減算して間隔D1を求め、ピークP3の位置からピークP4の位置を減算して間隔D2を求める。ここで、干渉信号上の間隔D1は対物レンズ125の光軸上の厚さT1に対応し、間隔D2は板ガラスの厚さT2に対応する。板ガラスの厚さT2は既知であるため、この厚さT2に間隔D2に対する間隔D1の比を乗算することによって、対物レンズ125の厚さT1を求めることができる。例えば、板ガラスの厚さT2が14mm、間隔D1が40pixel、間隔D2が100pixelだったとすると、対物レンズ125の厚さT1は、T1=T2×D1/D2=5.6mmとなる。このようにして取得された対物レンズ125の厚さT1の実値は、基準データとして記憶部74に記憶される。
【0037】
もちろん、光学部品の長さの取得方法は上記に限らない。例えば、ノギス、マイクロメータなどの測定器によって測定されてもよいし、レンズの設計値に基づいて取得されてもよい。
【0038】
なお、基準データとして使用する光学部品の長さは、対物レンズ125の厚さに限らない。例えば、対物レンズ以外で干渉光学系100によって測定可能な光学部品であってもよい。また、光学部品は複数であってもよい。例えば、複数の光学部品の間の距離が基準データとして使用されてもよい。
【0039】
<制御動作>
以上のような構成を備える装置において、眼内距離測定を行う場合の制御動作を図3に基づいて説明する。図3は、眼軸長測定の流れを示すフローチャートである。
【0040】
(ステップS1:校正)
まず、制御部70は、眼科装置1の校正を行う。校正は測定毎でもよいし、装置起動毎でもよいし、適宜設定されたタイミングで行われてもよい。制御部70は、測定モードを校正モードに設定する。校正モードでは、基準となる光学部品(本実施例では対物レンズ)の近傍にZerodelay位置が設定される。制御部70は、光路長調整部126によって光路長を調整することで、光学部品の近傍にZerodelay位置を移動させる。例えば、制御部70は、ファイバ端122とコリメートレンズ123とを移動させて測定光の光路長を伸ばし、光学部品の近傍にZerodelay位置を移動させる。
【0041】
図4は、校正モードにおいて取得された校正用干渉信号を示す。図4のように、対物レンズ125の前面反射によるピークP5と後面反射によるピークP6が検出される。制御部70は、各ピークの位置を検出してそれらの間隔D3を求め、基準データとして記憶された対物レンズ125の厚さT1を用いて換算データを補正する。
【0042】
例えば、光源102の特性変化によって、干渉信号上の対物レンズ125の厚さT1に対応する間隔D3が、基準データ取得時の間隔D1に対して変化しており、28pixelだったとする。記憶部74に記憶された出荷前の対物レンズ125の厚さT1が5.6mmであることから、1pixelあたりの距離は5.6mm/28pixel=0.2mm/pixelであることが分かる。制御部70は、1pixelあたりの距離を算出すると、補正後の換算データとして記憶部74に記憶させる。
【0043】
(ステップS2:モード切り換え)
制御部70は、測定モードを通常モードに切り換える。通常モードおいて、制御部70は被検眼を測定することによって眼軸長等を測定する。制御部70は、光路長調整部126によって光路長を調整し、被検眼の近傍にZerodelay位置を移動させる。このとき、対物レンズ125が可干渉領域に入ってしまうと、対物レンズ125の反射光が測定用干渉信号に入ってしまいノイズとなるため、制御部70はできるだけ写らない(可干渉領域に入らない)ように光路長を調整する。例えば、制御部70は、Zerodelay位置が角膜前面からわずかに光源側にずれた位置にくるように光路長を調整してもよいし、Zerodelay位置が硝子体位置(網膜からわずかに光源側にずれた位置)にくるように光路長を調整してもよい。
【0044】
(ステップS3:アライメント)
まず、検者は、表示部75に表示される被検眼のアライメント状態を見ながら、操作部76を用いて、眼科装置1を上下左右及び前後方向に移動させ、眼科装置1を被検眼Eに対して所定の位置関係に置く。このとき、検者は、被検者に固視標を固視させておく。
【0045】
アライメントの際には、光源41及び光源51が点灯される。例えば、検者は、表示部75に電子的に表示されたレチクルと、光源41によるリング指標が同心円状になるように上下左右のアライメントを行う。これによって、被検眼の角膜頂点に眼科装置1の光軸O1が通るようにXY方向にアライメントされる。また、検者は、リング指標のピントが合うように、前後のアライメントを行う。なお、制御部70は、正面撮像光学系30によって撮影された前眼部正面像に基づいて、自動でアライメントを行ってもよい。
【0046】
(ステップS4:測定)
アライメントが完了すると、制御部70は、眼内距離の測定を開始する。例えば、制御部70は、光源12によって波長を変化させながら被検眼に測定光を照射し、被検眼の各部で反射された測定反射光を受光素子120によって受光させる。制御部70は、受光素子120によって取得された信号をフーリエ変換することで、測定用干渉信号を取得する。
【0047】
(ステップS5:眼内距離算出)
制御部70は、取得された干渉信号から眼内距離を算出する。例えば、制御部70は、干渉信号のピーク位置に基づいて被検眼の各部(例えば、角膜前面、角膜後面、水晶体前面、水晶体後面、および網膜等)の位置を検出し、眼内距離(例えば、角膜厚、前房深度、水晶体厚、眼軸長等)を算出する。
【0048】
図5は、通常モードで被検眼を測定したときに取得された干渉信号を示す。制御部70は、被検眼の角膜のピークP7と網膜のピークP8の位置を検出し、それらの間隔D4を求める。制御部70は校正によって取得された1pixelあたりの距離を記憶部74から読み出し、間隔D4に乗算することで眼軸長を算出する。例えば、間隔D4が80pixelであったとすると、眼軸長=80×0.2=16mmとなる。なお、制御部70は、基準データ取得時の光学部材(板ガラスなど)、対物レンズ125、および被検眼の屈折率等を考慮して眼内距離を算出してもよい。制御部70は、眼内距離の算出結果またはOCT画像等を表示部75に表示させ、眼内距離測定を終了する。
【0049】
本実施例の眼科装置1のように、干渉光学系100を構成する光学部品からの反射光を用いて測定結果の補正を行うことによって、校正専用の光学系を設けなくても装置の校正を行うことができる。したがって、コスト削減、小型化が図れる。
【0050】
なお、干渉光学系100を構成する光学部品からの反射光であれば、どの反射面(例えば、レンズ、カバーガラス等)であってもよいが、本実施例のように干渉光学系100の中でZerodelay位置に最も近い対物レンズ125からの反射光を用いることによって、感度の高い干渉信号が得られやすい。また、光路長調整部126の駆動量が少なくて済む。
【0051】
また、上記のように、制御部70は、校正時に光路長調整部126を駆動させて、対物レンズの反射光が干渉光学系100の可干渉領域内に入るように移動させ、測定時には可干渉領域外に出るように移動させることによって、測定時には対物レンズの反射光によるノイズが現れないようにすることができる。
【0052】
なお、以上の実施例では、光路長調整部126によって光路長を調整することで干渉光学系100の可干渉領域と対物レンズ(干渉光学系100を構成する光学部品)の位置関係を調整したが、これに限らない。例えば、眼科装置1は、対物レンズを光軸方向に駆動させる駆動部を備えてもよい。この場合、制御部70は、駆動部によって対物レンズを駆動させることによって、干渉光学系100の可干渉領域と対物レンズの位置関係を調整してもよい。
【0053】
なお、以上の説明において、制御部70は、換算データを補正するものとしたが、測定結果を直接的に補正してもよい。例えば、制御部70は、図2図4図5の例において、間隔D1と間隔D3の比(変化率)に応じて、間隔D4を補正してもよい。このように、制御部70は、被検眼を測定することによって取得された干渉信号自体を補正してもよい。
【0054】
なお、以上の実施例において、眼科装置1は、眼軸長を測定する眼軸長測定装置であり、対物レンズ125の厚さを用いて眼軸長測定のための測長距離換算データを補正したが、これに限らない。眼科装置は、例えば、干渉光学系によって被検眼の前眼部または眼底の断層画像を撮影する断層画像撮影装置であってもよい。この場合、対物レンズの厚さを用いて断層画像撮影のためのマッピングデータの補正を行ってもよい。例えば、制御部70は、受光素子120から入力される対物レンズ125の反射光に基づく干渉信号を等時間間隔でサンプリングし、サンプリングしたデータに基づいてマッピングデータを作成する。例えば、制御部70は、干渉信号をフーリエ変換して周波数成分に分解した後、対物レンズ125の前面(または後面)の反射光の周波数成分のみを切り出す。そして、制御部70は、切り出した周波数成分を逆フーリエ変換によって対物レンズ125の前面(または後面)の反射光の干渉光のみが含まれた干渉信号を取得し、マッピングデータを作成する(例えば、特開2010-014459参照)。マッピングデータによって、周波数と時間の関係が得られるため、等時間間隔でサンプリングすることで得られる干渉信号を、等周波数間隔の干渉信号に変換することができる。つまり、波長掃引型光源から出力される光の波長が時間に対してリニア(直線的)に変化しないことによる断層画像の歪みを低減できる。
【0055】
なお、断層画像を撮影する場合、眼科装置は、光スキャナを備えてもよい。光スキャナは、眼E上でXY方向(横断方向)に測定光を走査させる。光スキャナは、例えば、2つのガルバノミラーであり、その反射角度が駆動機構によって任意に調整される。これによって、光源から出射された光束はその反射(進行)方向が変化され、被検眼E上で任意の方向に走査される。つまり、被検眼上における撮像位置が変更される。光スキャナとしては、光を偏向させる構成であればよい。例えば、反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ)の他、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等が用いられる。
【0056】
制御部70は、光スキャナによって測定光を被検眼上で所定の横断方向に走査することにより断層像を取得してもよい。例えば、X方向もしくはY方向に走査することにより、被検眼のXZ面もしくはYZ面における断層像を取得できる。さらに、測定光をXY方向に二次元的に走査することにより、被検眼前眼部の三次元画像を取得することも可能である。
【0057】
なお、光スキャナなどを備え、被検眼の断層画像を撮影できる場合、校正モードにおいて、干渉光学系100を構成する光学部品の断面画像に基づいて、測定結果の補正を行ってもよい。例えば、制御部70は、対物レンズ125の断面画像から対物レンズ125の前面と後面の頂点を検出し、その頂点間距離を基準に測定結果を補正してもよい。
【0058】
なお、本開示において説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、上記の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0059】
なお、本開示は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施例の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステムあるいは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 眼科装置
30 前眼部正面撮像光学系
40 アライメント投影光学系
50 ケラト投影光学系
70 制御部
74 記憶部
75 表示部
76 操作部
100 干渉光学系
図1
図2
図3
図4
図5