(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/02 20060101AFI20240423BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20240423BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240423BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240423BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20240423BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240423BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240423BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C08L23/02
C08L23/26
C08K3/013
C08K3/22
C08L23/10
C08K3/26
C08K3/36
C08J3/20 B CES
(21)【出願番号】P 2020069470
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 陽
(72)【発明者】
【氏名】永井 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】間簔 雅
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 健
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102516663(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂Aと硬質充填剤Bと相溶化剤Cを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
前記硬質充填剤Bが、平均粒径が0.7~40μmの範囲内にある硬質充填剤B1及び平均粒径が0.01~0.5μmの範囲内にある硬質充填剤B2を含有し、
前記熱可塑性樹脂Aがポリオレフィンであり、前記相溶化剤Cがポリオレフィンの無水マレイン酸変性体であり、
前記硬質充填剤B1の構成材料が、水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムのいずれかであり、
前記相溶化剤Cが少なくとも前記硬質充填剤B1の表面に付着し、かつ、単位断面積当たりでそれぞれ測定される、前記硬質充填剤B1及び前記硬質充填剤B2の表面に付着した前記相溶化剤Cの付着質量をそれぞれW
B1及びW
B2としたときの当該付着質量の割合W
B1/W
B2が1.5以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記付着質量の割合W
B1/W
B2が、3以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬質充填剤B2の質量に対する前記硬質充填剤B1の質量の割合B1/B2が、2.0~5.0の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂A、前記硬質充填剤B1、前記硬質充填剤B2及び前記相溶化剤Cの全質量に対するそれぞれの含有量が、前記熱可塑性樹脂Aは65~90質量%、前記硬質充填剤B1は5~20質量%、前記硬質充填剤B2は1~10質量%、及び前記相溶化剤Cは0.5~5質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記硬質充填剤B1の平均粒径が0.8~5μmの範囲内にあり、前記硬質充填剤B2の平均粒径が0.03~0.2μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂Aが、ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記硬質充填剤B2の構成材料が、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、水酸化アルミニウム又はベーマイトのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項
6までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記相溶化剤Cが、前記熱可塑性樹脂Aの無水マレイン酸変性体であることを特徴とする請求項1から請求項
7までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項
8までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を製造する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂A、前記硬質充填剤B1、及び前記相溶化剤Cを溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、
前記樹脂混合物及び前記硬質充填剤B2を溶融混練する第2工程と、を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、熱可塑性樹脂組成物において、これを用いて得られる成形品が高い水準で剛性と靭性(耐衝撃強度)を両立することが可能な熱可塑性樹脂組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
事務機器等の内外装材を成形するのに用いられる樹脂組成物としては、得られる樹脂部材が高い剛性と靭性を両立できる樹脂組成物が求められている。特に、事務機器等の小型・軽量化において、樹脂部材の薄肉化が要求される場合、厚さが減少しても剛性及び靭性は、薄肉化前の部材と同様の水準を維持することが必要となる。すなわち、樹脂組成物には、得られる樹脂部材がより高い水準で剛性と靭性を両立できる構成が求められている。
【0003】
このような要求に対して、特許文献1では、ポリプロピレン系樹脂に対して表面修飾された無機物フィラーと特定構造のエラストマーを配合した樹脂組成物が開示されており、これにより得られる成形品の剛性と靭性のバランスを保持することが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物では、得られる成形品は、フィラーによる靭性の低下及びエラストマーによる剛性の低下が大きく、高い水準で剛性と靭性を両立できているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、熱可塑性樹脂組成物において、これを用いて得られる成形品が高い水準で剛性と靭性を両立できる熱可塑性樹脂組成物、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物に、平均粒径の異なる硬質充填剤と相溶化剤を含有させ、それぞれ所定の面積を有する断面で測定される、平均粒径の大きい硬質充填剤の表面に付着する相溶化剤の付着質量を、平均粒径の小さい硬質充填剤の表面に付着する相溶化剤の付着質量より、所定の割合以上大きくすることで、当該熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品は、高い水準で剛性と靭性を両立できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0007】
1.熱可塑性樹脂Aと硬質充填剤Bと相溶化剤Cを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
前記硬質充填剤Bが、平均粒径が0.7~40μmの範囲内にある硬質充填剤B1及び平均粒径が0.01~0.5μmの範囲内にある硬質充填剤B2を含有し、
前記熱可塑性樹脂Aがポリオレフィンであり、前記相溶化剤Cがポリオレフィンの無水マレイン酸変性体であり、
前記硬質充填剤B1の構成材料が、水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムのいずれかであり、
前記相溶化剤Cが少なくとも前記硬質充填剤B1の表面に付着し、かつ、単位断面積当たりでそれぞれ測定される、前記硬質充填剤B1及び前記硬質充填剤B2の表面に付着した前記相溶化剤Cの付着質量をそれぞれWB1及びWB2としたときの当該付着質量の割合WB1/WB2が1.5以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0008】
2.前記付着質量の割合WB1/WB2が、3以上であることを特徴とする第1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0009】
3.前記硬質充填剤B2の質量に対する前記硬質充填剤B1の質量の割合B1/B2が、2.0~5.0の範囲内にあることを特徴とする第1項又は第2項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0010】
4.前記熱可塑性樹脂A、前記硬質充填剤B1、前記硬質充填剤B2及び前記相溶化剤Cの全質量に対するそれぞれの含有量が、前記熱可塑性樹脂Aは65~90質量%、前記硬質充填剤B1は5~20質量%、前記硬質充填剤B2は1~10質量%、及び前記相溶化剤Cは0.5~5質量%の範囲内であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
5.前記硬質充填剤B1の平均粒径が0.8~5μmの範囲内にあり、前記硬質充填剤B2の平均粒径が0.03~0.2μmの範囲内にあることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
6.前記熱可塑性樹脂Aが、ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
7.前記硬質充填剤B2の構成材料が、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、水酸化アルミニウム又はベーマイトのいずれかであることを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
8.前記相溶化剤Cが、前記熱可塑性樹脂Aの無水マレイン酸変性体であることを特徴とする第1項から第7項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
9.第1項から第8項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を製造する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂A、前記硬質充填剤B1、及び前記相溶化剤Cを溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、前記樹脂混合物及び前記硬質充填剤B2を溶融混練する第2工程と、を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記手段により、熱可塑性樹脂組成物において、これを用いて得られる成形品が高い水準で剛性と靭性を両立できる熱可塑性樹脂組成物、及びその製造方法を提供することができる。
【0018】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0019】
熱可塑性樹脂と硬質充填剤を含有する熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品は熱可塑性樹脂からなるマトリックス中に硬質充填剤が分散した構成を有する。成形品の剛性については、マトリックス中により硬度の高い硬質充填剤が存在すること自体で向上する。
【0020】
一方、成形品の靭性(衝撃強度)については、マトリックスと硬質充填剤との間の界面の量とその強度のバランスによる。具体的には、成形品が衝撃を受けると、マトリックスと硬質充填剤の界面に応力集中が起こる。そして、応力が十分な量に達すると界面破壊が生じてマトリックスから硬質充填剤が剥離し応力が緩和することで成形品は衝撃に耐える靭性を得る。さらに、その際にボイドが発生しボイドによる応力緩和によっても靭性が向上する。しかしながら、応力集中した際に、界面強度が弱いと界面を起点にマトリックスにクラックが発生し、靭性が低下する。
【0021】
上記靭性の向上において、硬質充填剤の粒径が小さいと、マトリックスとの界面量が多く有利だが、応力集中が小さくマトリックスから剥離しにくいためマトリックス中に単体で分散させるだけでは靭性効果が出にくくなる。一方、硬質充填剤の粒径が大きいと、応力集中を大きくできるが、その分、界面を起点にマトリックスにクラックが発生し易く、応力緩和を妨げ靭性を低下する要因となる。
【0022】
そこで、本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、熱可塑性樹脂と小径の硬質充填剤と大径の硬質充填剤と相溶化剤を含有し、それぞれ所定の面積を有する断面で測定される、大径の硬質充填剤の表面に付着する相溶化剤の付着質量を、小径の硬質充填剤の表面に付着する相溶化剤の付着質量より、所定の割合以上大きくすることで、界面の量とその強度のバランスをとる構成とした。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品は衝撃時に、大径の硬質充填剤によって大きな応力集中を引き起こし、その力を起点として小径の硬質充填剤の剥離確率を上げることで、高いレベルでの靭性を達成している。また、大径の硬質充填剤の表面が相溶化剤で界面強化されているため、大径の硬質充填剤の界面からマトリックスにクラックが発生するのが抑制されていると考えている。なお、小径の硬質充填剤にも同様に相溶化剤を作用させると、上記剥離の確率が下がり靭性の低下に繋がるため、相溶化剤の付着量を上記のとおり規定することで靭性の低下を阻止している。さらに、大径の硬質充填剤の界面における応力集中を、周囲の小径の硬質充填剤によるボイドが緩和することでクラックの発生を抑制できるという相乗効果が得られるものと想定している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の断面を模式的に示す図
【
図2A】硬質充填剤B1表面の相溶化剤Cの付着質量を測定する単位断面積領域を示す図
【
図2B】硬質充填剤B2表面の相溶化剤Cの付着質量を測定する単位断面積領域を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂Aと硬質充填剤Bと相溶化剤Cを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、前記硬質充填剤Bが、平均粒径が0.7~40μmの範囲内にある硬質充填剤B1及び平均粒径が0.01~0.5μmの範囲内にある硬質充填剤B2を含有し、前記相溶化剤Cが少なくとも前記硬質充填剤B1の表面に付着し、かつ、単位断面積当たりでそれぞれ測定される、前記硬質充填剤B1及び前記硬質充填剤B2の表面に付着した前記相溶化剤Cの付着質量をそれぞれWB1及びWB2としたときの当該付着質量の割合WB1/WB2が1.5以上であることを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に共通する技術的特徴である。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記付着質量の割合WB1/WB2が、3以上であることが好ましい。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記硬質充填剤B2の質量に対する前記硬質充填剤B1の質量の割合B1/B2が、2.0~5.0の範囲内にあることが好ましい。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記熱可塑性樹脂A、前記硬質充填剤B1、前記硬質充填剤B2及び前記相溶化剤Cの全質量に対するそれぞれの含有量が、前記熱可塑性樹脂Aは65~90質量%、前記硬質充填剤B1は5~20質量%、前記硬質充填剤B2は1~10質量%、及び前記相溶化剤Cは0.5~5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記硬質充填剤B1の平均粒径が0.8~5μmの範囲内にあり、前記硬質充填剤B2の平均粒径が0.03~0.2μmの範囲内にあることが好ましい。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、前記熱可塑性樹脂Aが、ポリプロピレン系樹脂であると、本発明の効果がより顕著に発現され好ましい。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記硬質充填剤B1の構成材料が、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、タルク又はマイカのいずれかであることが好ましい。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記硬質充填剤B2の構成材料が、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、水酸化アルミニウム又はベーマイトのいずれかであることが好ましい。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記相溶化剤Cが、前記熱可塑性樹脂Aの無水マレイン酸変性体であることが好ましい。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂A、前記硬質充填剤B1、及び前記相溶化剤Cを溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、前記樹脂混合物及び前記硬質充填剤B2を溶融混練する第2工程と、を有することを特徴とする。
【0035】
上記2回の溶融混練を行うことで、前記相溶化剤Cが少なくとも前記硬質充填剤B1の表面に付着し、かつ、それぞれ所定面積の断面で測定される、前記硬質充填剤B1の表面に付着した前記相溶化剤Cの付着質量WB1が、前記硬質充填剤B2の表面に付着した前記相溶化剤Cの付着質量WB2の1.5倍以上である構成を容易に達成できる。これにより、当該熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品は高い水準で剛性と靭性を両立できる。
【0036】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0037】
[熱可塑性樹脂組成物の概要]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂Aと硬質充填剤Bと相溶化剤Cを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、前記硬質充填剤Bが、平均粒径が0.7~40μmの範囲内にある硬質充填剤B1及び平均粒径が0.01~0.5μmの範囲内にある硬質充填剤B2を含有し、前記相溶化剤Cが少なくとも前記硬質充填剤B1の表面に付着し、かつ、単位断面積当たりでそれぞれ測定される、前記硬質充填剤B1及び前記硬質充填剤B2の表面に付着した前記相溶化剤Cの付着質量をそれぞれWB1及びWB2としたときの当該付着質量の割合WB1/WB2が1.5以上であることを特徴とする。
【0038】
本発明において、硬質充填剤Bにおける「硬質」とは、熱可塑性樹脂Aより硬い性質であることをいう。具体的には、JIS-K7171に準じて実施される曲げ試験による曲げ弾性率について、熱可塑性樹脂A単独で作製された試験片による曲げ弾性率と比較して、熱可塑性樹脂Aに充填剤を加えた組成物で作製された試験片による曲げ弾性率が大きい場合、当該充填剤を硬質充填剤Bと定義する。
【0039】
硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2の平均粒径は、以下の方法で測定される熱可塑性樹脂組成物中のそれぞれの硬質充填剤の平均分散粒径である。当該平均分散粒径は、熱可塑性樹脂組成物を例えばペレット状に成形した検体を準備し、その断面の電子顕微鏡写真を撮影し、得られた画像を解析することで測定される。
【0040】
図1は、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物の断面を模式的に示す図である。熱可塑性樹脂組成物の検体の断面1では、熱可塑性樹脂Aのマトリックス中に硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2が分散されている。なお、
図1において相溶化剤Cは硬質充填剤B1の表面のみに付着して示されるが、W
B1/W
B2が上記の範囲内であれば、硬質充填剤B2の表面に付着していてもよい。また、
図1では、相溶化剤Cの付着層が所定の厚さをもって示されているが、当該付着層の実際の厚さは、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2の粒径を測定する画像の倍率で観察できる程厚くはなく、したがって粒径測定に影響を及ぼすものではない。
【0041】
また、相溶化剤Cは硬質充填剤B1の表面全体に付着してもよく、部分的に付着してもよい。硬質充填剤B2の表面に相溶化剤Cが付着している場合も、同様に表面全体に付着してもよく、部分的に付着してもよい。表面全体に付着する場合には、相溶化剤Cが付着する厚さは均一であってもよく、バラツキがあってもよい。
【0042】
硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2の分散粒径を測定する画像においては、両者の分散粒径の差が十分に大きい場合は、
図1に示される断面と同様に、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2の識別が可能である。硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2の分散粒径の差が小さい場合は、分散粒子が、総数で200個を超えかつ200個に近似する数、存在する画像を選択し、画像に存在する全ての分散粒子の分散粒径を以下の方法で測定する。なお、分散粒子が上記の数存在する画像は、分散粒子の分散粒径の大きさに応じて、1枚の画像からなってもよく、複数枚の画像を合わせて分散粒子が上記の数存在する画像としてもよい。分散粒径を小さい方から順に並べて真ん中の分散粒径を基準として、基準の分散粒径以上のものを硬質充填剤B1とし、基準の分散粒径未満のものを硬質充填剤B2とする。
【0043】
ここで、分散粒径とは、熱可塑性樹脂組成物の断面画像において、連続相の粒子として観察される硬質充填剤Bの粒径をいう。具体的には、硬質充填剤Bは一次粒子又は一次粒子が凝集した二次粒子の状態で分散している。硬質充填剤Bが一次粒子の状態で分散している場合は一次粒子の粒径が分散粒径であり、二次粒子の状態で分散している場合は二次粒子の粒径が分散粒径である。なお、本発明においては、分散粒径は、当該分散粒子の面積に相当する真円の直径である円相当径とする。平均分散粒径は、上記画像中の無作為に抽出された硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2の分散粒子それぞれ100個について、円相当径を測定し、平均して求める。
【0044】
単位断面積当りで測定される硬質充填剤B1の表面に付着した相溶化剤Cの付着質量WB1及び単位断面積当りで測定される硬質充填剤B2の表面に付着した相溶化剤Cの付着質量WB2は、例えば、nano-IR分析(ナノ赤外分光分析)により求めることができる。nano-IRは、薄片化した検体の単位断面積、例えば、50nm×50nmで測定される。
【0045】
具体的には、ペレット状等の形態の熱可塑性樹脂組成物(検体)をミクロトームで数百nm程度の薄片とし、当該薄片を原子間力顕微鏡(AFM)観察して、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2について、それぞれ測定領域を決めてnano-IRを測定する。
【0046】
nano-IRの測定領域は50nm×50nmとする。硬質充填剤B1用の測定領域は、測定領域(50nm×50nm)において硬質充填剤B1の断面積が占める割合が60~80%の範囲となるように選択する。
図2Aは、
図1に示す熱可塑性樹脂組成物の断面1から無作為に選択した硬質充填剤B1表面の相溶化剤Cの付着質量を測定するための単位断面積(50nm×50nm)の領域S1を拡大して示す図である。領域S1において、硬質充填剤B1の断面積の占める割合は約70%であり、上に規定する60~80%の範囲内である。領域S1と同様の測定領域をさらに4か所無作為に選択して、合計5か所の硬質充填剤B1用の測定領域を準備する。なお、硬質充填剤B1については、薄片化時に切断される場合があるが、長辺を観察することで特定できる。
【0047】
同様に硬質充填剤B2用の測定領域は、測定領域(50nm×50nm)において硬質充填剤B2の断面積が占める割合が60~80%の範囲となるように選択する。
図2Bは、
図1に示す熱可塑性樹脂組成物の断面1から無作為に選択した硬質充填剤B2表面の相溶化剤Cの付着質量を測定するための単位断面積(50nm×50nm)の領域S2を拡大して示す図である。領域S2において、硬質充填剤B2の断面積の占める割合は約65%であり、上に規定する60~80%の範囲内である。領域S2と同様の測定領域をさらに4か所無作為に選択して、合計5か所の硬質充填剤B2用の測定領域を準備する。
【0048】
硬質充填剤B1用及び硬質充填剤B2用にそれぞれ選択された5か所の測定領域について、nano-IRを測定し、相溶化剤Cの特定吸収波長のピーク強度を測定する。例えば、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2が無機化合物であり、熱可塑性樹脂Aがポリプロピレン系樹脂であって、相溶化剤Cがポリプロピレン系樹脂の無水マレイン酸変性体である場合、1830~1890cm-1の範囲にあるカルボニル基(C=O)のピーク強度を測定する。
【0049】
硬質充填剤B1用の測定領域の5か所で測定されたピーク強度の平均値PB1を硬質充填剤B2用の測定領域の5か所で測定されたピーク強度の平均値PB2で除した値が、WB1/WB2に相当する。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記WB1/WB2が1.5以上であることで、上に説明した本願発明の効果が得られるものである。WB1/WB2は3以上であることが好ましく、10以上が特に好ましい。
【0051】
〔熱可塑性樹脂組成物の組成〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂Aと硬質充填剤Bと相溶化剤Cを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、硬質充填剤Bが、平均粒径が0.7~40μmの範囲内にある硬質充填剤B1及び平均粒径が0.01~0.5μmの範囲内にある硬質充填剤B2を含有し、相溶化剤Cが少なくとも硬質充填剤B1の表面に付着し、かつ、上記WB1/WB2が1.5以上である。
【0052】
(熱可塑性樹脂A)
本発明において、熱可塑性樹脂Aとしては、公知の熱可塑性樹脂が特に制限なく用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0053】
熱可塑性樹脂Aは、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有することが好ましい。熱可塑性樹脂Aにおけるポリオレフィン系樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂Aの全量に対して50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。本発明の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂Aはポリオレフィン系樹脂のみからなるのが特に好ましい。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性樹脂Aの含有量は、熱可塑性樹脂組成物から硬質充填剤Bと相溶化剤C及び任意に含有するその他の各種添加剤の含有量を除いた量である。
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂Aの含有量は、剛性および靭性のバランスの観点から、熱可塑性樹脂A、硬質充填剤B1、硬質充填剤B2及び相溶化剤Cの全質量に対して60~90質量%程度とすることができ、65~90質量%であることが好ましく、75~85質量%であることがより好ましい。
【0056】
<ポリオレフィン系樹脂>
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを単量体成分の主成分として重合された単独重合体又は共重合体である。なお、本明細書において、「オレフィン」は、二重結合を1つ有する脂肪族鎖式不飽和炭化水素をいう。
【0057】
ここで、樹脂(重合体)を構成する主成分とは、重合体を構成する全単量体成分中、50質量%以上である成分をいう。ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを全単量体成分中、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%含んでなる単独重合体又は共重合体である。
【0058】
オレフィン共重合体には、オレフィンと他のオレフィンとの共重合体、又はオレフィンとオレフィンに共重合可能な他の単量体との共重合体が含まれる。ポリオレフィン系樹脂における上記他の単量体の含有量は、全単量体成分中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは0~20質量%である。
【0059】
オレフィンとしては、炭素数2~12のα-オレフィンが好ましい。オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及び1-デセン等を挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂の重合に際して、オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
オレフィンに共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロペンテン及びノルボルネン等の環状オレフィン、並びに1,4-ヘキサジエン及び5-エチリデン-2-ノルボルネン等のジエン等を挙げることができる。さらに、酢酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ビニルエーテル、無水マレイン酸、一酸化炭素、N-ビニルカルバゾール等の単量体を用いてもよい。上記他の単量体は、ポリオレフィン系樹脂の重合に際して、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
【0061】
ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のエチレンを主成分とするポリエチレン樹脂;ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-ジエン共重合体等のプロピレンを主成分とするポリプロピレン系樹脂;ポリブテン;並びにポリペンテン等を挙げることができる。
【0062】
ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、さらに、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体、ポリケトン、メタロセン触媒で製造された共重合体が挙げられる。また、これらの重合体を化学的に反応、変性したもの、具体的にはアイオノマー樹脂、EVAの鹸化物、押出機内で動的加硫を用いて製造されたオレフィン系エラストマーなども含まれる。
【0063】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレンに由来する構造の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、及びアタクチックのいずれでもよい。ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンがさらに好ましい。
【0064】
(硬質充填剤B)
本発明において、硬質充填剤Bは、平均粒径が0.7~40μmの範囲内にある硬質充填剤B1及び平均粒径が0.01~0.5μmの範囲内にある硬質充填剤B2を含有する。硬質充填剤Bは、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2以外に、例えば、硬質充填剤B1より平均粒径が大きい硬質充填剤、硬質充填剤B1より平均粒径が大きい硬質充填剤、硬質充填剤B2より平均粒径が小さい硬質充填剤等を含有してもよい。本発明の効果発現の観点から、硬質充填剤Bは、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2以外の硬質充填剤Bを含有しないことが好ましい。
【0065】
<硬質充填剤B1>
硬質充填剤B1は、平均粒径が0.7~40μmの範囲内にあり、0.8~5μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.8~1.2μmがより好ましい。なお、上記のとおり平均粒径は、熱可塑性樹脂Aのマトリックス中に硬質充填剤B1が分散された状態の平均分散粒径である。
【0066】
硬質充填剤B1を構成する材料は、当該材料で構成することで硬質充填剤B1を上に説明した硬質充填剤Bの定義の範疇とできる材料であれば、例えば、無機材料、有機材料、及び無機有機複合材料のいずれであってもよい。硬質充填剤B1の構成材料は、より硬度の高い無機充填剤が好ましい。具体的には、硬質充填剤B1の構成材料は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、タルク又はマイカのいずれかであることが好ましい。硬質充填剤B1は構成材料が単一の1種からなってもよく構成材料の異なる2種以上からなってもよい。
【0067】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、硬質充填剤B1の分散粒径は、熱可塑性樹脂組成物の作製に際して用いる原料粒子の一次粒径により制御可能である。硬質充填剤B1の原料粒子のレーザ回折・散乱法で測定される一次粒径は、体積基準のメジアン径(D50)として、0.7~40μmが好ましく、0.8~5.0μmがより好ましく、0.8~1.2μmがさらに好ましい。硬質充填剤B1の原料粒子の粒子形状は特に制限されず、球状、紡錘状、板状、鱗片状、針状、繊維状等が挙げられる。
【0068】
硬質充填剤B1の原料粒子は必要に応じて表面修飾剤により表面修飾されていてもよい。表面修飾に用いる表面修飾剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)のようなアルキルシラザン系化合物、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシランのようなアルキルアルコキシシラン系化合物、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランのようなクロロシラン系化合物、シリコーンオイル、シリコーンワニス、各種脂肪酸等を用いることができる。これらの表面修飾剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0069】
<硬質充填剤B2>
硬質充填剤B2は、平均粒径が0.01~0.5μmの範囲内にあり、0.03~0.2μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.05~0.08μmがより好ましい。なお、上記のとおり平均粒径は、熱可塑性樹脂Aのマトリックス中に硬質充填剤B2が分散された状態の平均分散粒径である。
【0070】
硬質充填剤B2を構成する材料は、当該材料で構成することで硬質充填剤B2を上に説明した硬質充填剤Bの定義の範疇とできる材料であれば、例えば、無機材料、有機材料、及び無機有機複合材料のいずれであってもよい。硬質充填剤B2の構成材料は、より硬度の高い無機充填剤が好ましい。具体的には、硬質充填剤B2の構成材料は、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、水酸化アルミニウム又はベーマイトのいずれかであることが好ましい。硬質充填剤B1の構成材料は1種でも2種以上でもよい。
【0071】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、硬質充填剤B2の分散粒径は、熱可塑性樹脂組成物の作製に際して用いる原料粒子の一次粒径により制御可能である。硬質充填剤B2の原料粒子のレーザ回折・散乱法で測定される一次粒径は、体積基準のメジアン径(D50)として、0.01~0.5μmが好ましく、0.03~0.2μmがより好ましく、0.05~0.08μmがさらに好ましい。硬質充填剤B2の原料粒子の粒子形状は特に制限されず、球状、紡錘状、板状、鱗片状、針状、繊維状等が挙げられる。
【0072】
硬質充填剤B2の原料粒子は必要に応じて表面修飾剤により表面修飾されていてもよい。表面修飾に用いる表面修飾剤としては、硬質充填剤B1に用いる表面修飾剤として例示したものがそのまま使用可能である。表面修飾剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0073】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2の平均粒径の関係は、硬質充填剤B1の平均粒径が硬質充填剤B2の平均粒径の2~25倍程度とすることができ、5~25倍の範囲内であることが好ましく、10~25倍の範囲内であることがより好ましい。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、硬質充填剤B2の含有量(質量)に対する硬質充填剤B1の含有量(質量)の割合B1/B2は、1.0~9.0程度とすることができ、2.0~5.0の範囲内であることが好ましく、2.5~3.5の範囲内であることがより好ましい。B1/B2が上記範囲内であれば、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる成形品の剛性と靭性を両立させやすい。
【0075】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物において、硬質充填剤B1の含有量は、熱可塑性樹脂A、硬質充填剤B1、硬質充填剤B2及び相溶化剤Cの全質量に対する含有量として、5~25質量%程度とすることができ、5~20質量%の範囲内であることが好ましく、8~15質量%の範囲内であることがより好ましい。本発明の熱可塑性樹脂組成物において、硬質充填剤B2の含有量は、熱可塑性樹脂A、硬質充填剤B1、硬質充填剤B2及び相溶化剤Cの全質量に対する含有量として、1~15質量%程度とすることができ、1~10質量%の範囲内であることが好ましく、2~5質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0076】
(相溶化剤C)
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、相溶化剤Cは、熱可塑性樹脂Aと硬質充填剤Bの界面強度を調整するために用いられる。相溶化剤Cは、特に熱可塑性樹脂Aと硬質充填剤B1との親和性を高めて界面強度を向上できる成分であることが好ましい。
【0077】
相溶化剤Cとして、具体的には、熱可塑性樹脂Aと同じ構造又は相溶する構造を有し、かつ、分子内の一部に硬質充填剤B1と親和性を有する部位を含むものが好ましい。硬質充填剤B1と親和性を有する部位としては、カルボキシ基、カルボン酸無水物残基、カルボン酸エステル残基等が挙げられる。硬質充填剤B1と親和性を有する部位としては、成形加工時の上限温度の点から、カルボン酸無水物残基を含むことが好ましい。カルボン酸無水物残基としては、無水マレイン酸残基、無水クエン酸残基等が挙げられ、特に、無水マレイン酸残基が好ましい。
【0078】
相溶化剤Cは熱可塑性樹脂Aの無水マレイン酸変性体であることが好ましい。熱可塑性樹脂Aがポリオレフィン系樹脂である場合、相溶化剤Cとしては、ポリオレフィン系樹脂の無水マレイン酸変性体であることが好ましい。熱可塑性樹脂Aがポリプロピレン系樹脂である場合、相溶化剤Cとしては、ポリプロピレン系樹脂の無水マレイン酸変性体であることが好ましい。熱可塑性樹脂Aがポリエチレン系樹脂である場合、相溶化剤Cとしては、ポリエチレン系樹脂の無水マレイン酸変性体であることが好ましい。
【0079】
相溶化剤Cとしては、市販品を用いてもよい。ポリオレフィン系樹脂の無水マレイン酸変性体の市販品としては、ポリプロピレン系樹脂の無水マレイン酸変性体として、MG-441P(製品名、理研ビタミン社製)、ポリエチレン系樹脂の無水マレイン酸変性体として、HE810(製品名、三井化学社製)等が挙げられる。
【0080】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、相溶化剤Cの含有量は、硬質充填剤B1への選択的な吸着性の観点から、熱可塑性樹脂A、硬質充填剤B1、硬質充填剤B2及び相溶化剤Cの全質量に対して0.5~5質量%であることが好ましく、2~3質量%であることがより好ましい。
【0081】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、相溶化剤Cは少なくとも硬質充填剤B1の表面に付着して存在する。単位断面積当りで測定される硬質充填剤B2の表面に付着した相溶化剤Cの付着質量WB2に対する単位断面積当りで測定される硬質充填剤B1の表面に付着した相溶化剤Cの付着質量WB1の割合であるWB1/WB2が1.5以上、好ましくは3以上であれば、相溶化剤Cは硬質充填剤B2の表面に付着していてもよい。相溶化剤Cは、硬質充填剤B2の表面に付着しておらず、硬質充填剤B1の表面にのみ付着していることが好ましい。
【0082】
WB1/WB2を上記の範囲とするためには、例えば、相溶化剤Cについて硬質充填剤B1との親和性が硬質充填剤B2との親和性よりも高い種類のものを選択する。また、例えば、熱可塑性樹脂組成物の製造において、熱可塑性樹脂A、硬質充填剤B1及び相溶化剤Cの混合物を溶融混練した後に、硬質充填剤B2を加えてさらに溶融混練を行うことでWB1/WB2を上記の範囲とすることができる。
【0083】
(その他の添加剤)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は上記熱可塑性樹脂A、硬質充填剤B及び相溶化剤C以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤として公知の成分を含有することができる。その他の添加剤としては、難燃剤、ドリップ防止剤、酸化防止剤、滑剤、増靭剤等が挙げられる。
【0084】
<難燃剤>
難燃剤は、有機系難燃剤であっても、無機系難燃剤であってもよい。有機系難燃剤の例には、ブロモ化合物、リン化合物が含まれる。無機系難燃剤の例には、アンチモン化合物や金属水酸化物が含まれる。難燃剤の少なくとも一部はリン系化合物であることが好ましい。リン系化合物は、樹脂組成物に高い難燃性を付与しやすく、かつ環境毒性もないからである。
【0085】
リン系化合物は、典型的にはリン酸エステル化合物であり、リン酸エステルの具体例には、トリフェニルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート、ジステアリルペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、トリブチルホスフェート、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステルなどが挙げられ、その内、芳香族縮合リン酸エステルが特に好ましい。難燃剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0086】
<ドリップ防止剤>
ドリップ防止剤は、燃焼時に樹脂材料の滴下(ドリップ)を防止し、難燃性を向上させる目的で添加されるものであり、ドリップ防止剤としては、フッ素系ドリップ防止剤やシリコンゴム類、層状ケイ酸塩等が挙げられる。ドリップ防止剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0087】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、亜リン酸エステル類酸化防止剤又は両方の混合系が挙げられる。
【0088】
<滑剤>
滑剤としては、脂肪酸塩、脂肪酸アミド、シランポリマー、固体パラフィン、液体パラフィン、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アミド、シリコーン粉末、メチレンビスステアリン酸アミド及びN,N′-エチレンビスステアリン酸アミドからなる群より選ばれる1種又は2種以上のものが挙げられる。
【0089】
<増靭剤>
増靭剤は、樹脂組成物の柔軟性や加工性、耐衝撃性などを向上させることを目的用いられる、例えば、ゴム弾性を有する樹脂である。上記のとおり、増靭剤を添加すると、その副作用として剛性が低下することが想定される。したがって、使用に際しては、含有量を調整して、本発明の効果を損なわないように留意する。
【0090】
増靭剤は、ブタジエンを含むモノマーの重合体で構成されるソフトセグメントと、スチレンのような芳香族基を有するモノマーの重合体で構成されるハードセグメントとを含む熱可塑性エラストマーであることが好ましく、上記熱可塑性エラストマーの例には、メチルメタアクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、スチレンブタジエンスチレン共重合体(SBS)、及び、ブチルアクリレート-メチルメタアクリレート共重合体、が含まれる。中でも、増靭剤がMBS及びABSからなる群から選ばれる一以上であることは、熱可塑性樹脂組成物の相溶化性及び難燃性や、熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性エラストマーの分散性の観点から好ましい。増靭剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0091】
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるその他の添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であり、例えば、熱可塑性樹脂組成物の全量に対して、0.1~30質量%程度の範囲内であり、0.1~20質量%の範囲内が好ましい。また、合計で30質量%以下が好ましい。
【0092】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂A、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2を含有する硬質充填剤B、相溶化剤C、並びに必要に応じて含有されていてもよいその他の添加剤を、上記WB1/WB2が本発明の規定の範囲となるように溶融混練して得ることができる。
【0093】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、熱可塑性樹脂A、硬質充填剤B1、及び相溶化剤Cを溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、第1工程で得られた樹脂混合物及び硬質充填剤B2を溶融混練する第2工程とを有する製造方法で製造することが、上記WB1/WB2を本発明の規定の範囲とする観点から好ましい。
【0094】
本発明の熱可塑性樹脂組成物がその他の添加物を含有する場合、その他の添加物は、第1工程において、熱可塑性樹脂A、硬質充填剤B1、及び相溶化剤Cと共に溶融混練されてもよく、第2工程において、第1工程で得られた樹脂混合物に硬質充填剤B2と共に添加されて溶融混練されもよい。
【0095】
本発明の製造方法において、第1工程及び第2工程における溶融混練は、例えば、バンバリーミキサー、ロール、プラストグラフ、押出機(単軸押出機、多軸押出機(例えば、二軸押出機)等)、及びニーダー等の混練装置を用いて行われる。これらの中でも、生産効率がよいことから、押出機を用いて溶融混練を行うことが好ましい。さらに、高いせん断性を付与できることから、溶融混練は多軸押出機を用いることが好ましく、二軸押出機を用いることがより好ましい。ここで、押出機の用語は、押出混練機を含む範疇で用いられる。
【0096】
本発明の製造方法において、第1工程と第2工程には異なる混練装置を用いてもよいが、両工程とも押出機、特には二軸押出機を用いることが好ましい。
【0097】
溶融混練の際の温度(溶融混練温度)は、第1工程及び第2工程のいずれも、熱可塑性樹脂Aの溶融温度以上とする。溶融混練温度は、熱可塑性樹脂Aがポリオレフィン系樹脂の場合、例えば、150~280℃が好ましく、使用するポリオレフィン系樹脂に応じて適宜選択される。ポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン系樹脂を用いる場合、溶融混練温度は、180~270℃が好ましく、より好ましくは180~230℃である。上記温度の範囲内であれば、第1工程及び第2工程における溶融混練温度は、同じであっても異なってもよい。溶融混練に押出機を用いる場合、混練溶融温度はシリンダ温度に相当する。
【0098】
溶融混練に押出機を用いる場合、第1工程及び第2工程のいずれも、スクリュー回転数は、50~300rpmの範囲が好ましい。また、第1工程及び第2工程におけるスクリュー回転数は、同じであっても異なってもよい。第1工程及び第2工程における、押出機からの樹脂混合物又は熱可塑性樹脂組成物の吐出量は、それぞれ1~50kg/hrの範囲が好ましい。
【0099】
なお、第1工程の溶融混練を行う前に、各成分を、例えば、タンブラーやヘンシェルミキサーとして知られた高速ミキサー等の各種混合機を用いて予め混合しておいてもよい。
【0100】
本発明の製造方法においては、第2工程で混練物をストランド状に押し出した後、ストランド状に押し出した混練物をペレット状やフレーク状等の形態に加工することができる。
【0101】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、粉末状、顆粒状、タブレット(錠剤)状、ペレット状、フレーク状、繊維状、及び液状等の各種形態をとることができる。
【0102】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いれば、得られる成形品は、高い水準で剛性と靭性を有するものである。
【0103】
例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形される成形品は、JIS-K7171に準じて実施される曲げ試験において測定される曲げ弾性率が、1.2GPa以上であることが好ましく、1.4GPa以上であることがより好ましく、1.6GPa以上であることがさらに好ましい。曲げ弾性率が、1.2GPa以上であれば、成形品の剛性が実用上問題ないと評価できる。
【0104】
例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形される成形品は、JIS-K7110に準じて実施されるシャルピー衝撃試験において測定されるシャルピー衝撃強度が、10kJ/m2以上であることが好ましく、13kJ/m2以上であることがより好ましく、15kJ/m2以上であることがさらに好ましい。シャルピー衝撃強度が、10kJ/m2以上であれば、成形品の靭性が実用上問題ないと評価できる。
【0105】
(成形品)
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて、成形品を作製することができる。この成形品により、高い水準で剛性と靭性を併せ持つ製品を得ることができる。成形品を製造する際には、熱可塑性樹脂組成物を各種成形機内で溶融させ、成形することができる。成形手法としては、成形品の形態及び用途等に応じて適宜選択でき、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、及びインフレーション成形等を挙げることできる。また、押出成形及びカレンダー成形等で得られたシート状又はフィルム状の成形品について、真空成形や圧空成形等の二次成形を行うこともできる。
【0106】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形される成形品としては、特に限定されず、例えば、家電製品及び自動車等の分野における電気電子部品、電装部品、外装部品、及び内装部品等、並びに各種包装資材、家庭用品、事務用品、配管、及び農業用資材等を挙げることができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0108】
[熱可塑性樹脂組成物の調製]
熱可塑性樹脂組成物に含有させる原料成分として、以下の市販品を準備した。なお、原料成分の一般名称の後の括弧内に表Iに記載する際の略号を示す。
<熱可塑性樹脂A>
・ポリプロピレン系樹脂(PP):プライムポリプロJ715M(製品名、プライムポリマー社製)
・ポリエチレン系樹脂(PE):HJ560(製品名、日本ポリエチレン社製)
【0109】
<硬質充填剤B1>
・水酸化アルミニウム粒子(Al(OH)3):KH-101(製品名、KC社製、平均一次粒径;1.0μm)
・水酸化マグネシウム粒子(Mg(OH)2):マグシーズN-6(製品名、神島化学工業社製、平均一次粒径;1.2μm、高級脂肪酸による表面修飾あり)
・マイカ粒子(マイカ):A-41S(製品名、ヤマグチマイカ社製、平均一次粒径;23μm)
【0110】
<硬質充填剤B2>
・炭酸カルシウム粒子1(炭酸Ca1):白艶華CC-R(製品名、白石工業社製、平均一次粒径;0.08μm、脂肪酸による表面修飾あり)
・炭酸カルシウム粒子2(炭酸Ca2):白艶華CC(製品名、白石工業社製、平均一次粒径;0.05μm、脂肪酸による表面修飾あり)
・シリカ粒子(シリカ):SO-C2(製品名、アドマテックス社製、平均一次粒径;0.5μm、HMDSによる表面修飾あり)
【0111】
<相溶化剤C>
・無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂(MAH-PP):MG-441P(製品名、理研ビタミン社製)
・無水マレイン酸変性ポリエチレン系樹脂(MAH-PE):HE810(製品名、三井化学社製)
【0112】
(熱可塑性樹脂組成物1の製造)
2軸押出混練機「KTX-30」(神戸製鋼所社製)を用いて、ポリプロピレン系樹脂「J715M」85質量部、水酸化アルミニウム粒子「KH-101」10質量部、及び無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂「MG-441P」2質量部を、シリンダ温度(最大)200℃、ダイ温度190℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量10kg/hrで溶融混練して、樹脂混合物1を作製した(第1工程)。
【0113】
次に、2軸押出混練機「KTX-30」(神戸製鋼所社製)を用いて、樹脂混合物1の97質量部と炭酸カルシウム粒子「カルシーズP」3質量部とを、シリンダ温度(最大)200℃、ダイ温度190℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量10kg/hrで溶融混練し(第2工程)、押し出された混錬物をペレット化してペレット状の熱可塑性樹脂組成物1を得た。
【0114】
(熱可塑性樹脂組成物2~10の製造)
上記において、熱可塑性樹脂A、硬質充填剤B1、硬質充填剤B2及び相溶化剤Cについてそれぞれ種類と含有量を表Iに示すとおり変更した以外は、熱可塑性樹脂組成物1と同様にして、第1工程及び第2工程の2回の溶融混練を行った後、ペレット化してペレット状の熱可塑性樹脂組成物2~10を製造した。以下、熱可塑性樹脂組成物8を参考例とする。
【0115】
(熱可塑性樹脂組成物11~13の製造)
上記において、熱可塑性樹脂A、硬質充填剤B1、硬質充填剤B2及び相溶化剤Cについてそれぞれ種類と含有量を表Iに示すとおり変更し、2軸押出混練機「KTX-30」(神戸製鋼所社製)を用いて、シリンダ温度(最大)200℃、ダイ温度190℃、スクリュー回転数200rpmの条件で、全ての原料成分を1回で溶融混練した後、ペレット化してペレット状の熱可塑性樹脂組成物11~13を製造した。
【0116】
<硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2の平均粒径及びWB1/WB2の測定>
(1)平均粒径(平均分散粒径)
上記で得られた熱可塑性樹脂組成物1~13のペレットの断面を電子顕微鏡(JMS-7401F、日本電子社製)で観察し、平均粒径測定用の画像(1000~10000倍)を得た。画像解析ソフト(ルーゼックス、ニレコ社製)を用いて、上記画像から無作為に抽出した硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2の分散粒子それぞれ100個について、円相当径を測定し、平均値を求めて平均粒径とした。結果を表Iに示す。
【0117】
(2)WB1/WB2
WB1/WB2の算定は、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2の両方を含有する熱可塑性樹脂組成物1~11について行った。WB1/WB2は、単位断面積当りで測定される硬質充填剤B2の表面に付着した相溶化剤Cの付着質量WB2に対する単位断面積当りで測定される硬質充填剤B1の表面に付着した相溶化剤Cの付着質量WB1の割合であり、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2のそれぞれについて上記のように選択された測定領域を、nano-IR測定した結果を用いて、算出した。
【0118】
具体的には、ペレット状等の形態の熱可塑性樹脂組成物(検体)をミクロトームで数百nm程度の薄片とし、当該薄片を原子間力顕微鏡(AFM;nanoIR2、アナシスインスツルメント社製)観察して、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2について、それぞれ上記のとおり測定領域を各5か所決めて、nano-IR(nanoIR2、アナシスインスツルメント社製)測定した。
【0119】
nano-IRでは、硬質充填剤B1用測定領域(5か所)及び硬質充填剤B2用測定領域(5か所)について、それぞれ1830~1890cm-1の範囲にある相溶化剤Cのマレイン酸由来のカルボニル基(C=O)のピーク強度を測定した。硬質充填剤B1用の測定領域の5か所で測定されたピーク強度の平均値PB1を硬質充填剤B2用の測定領域の5か所で測定されたピーク強度の平均値PB2で除した値を、WB1/WB2とした。結果を表Iに示す。
【0120】
<評価>
上記で得られた熱可塑性樹脂組成物1~13について、以下の評価を行い剛性と靭性を評価した。結果を表Iに示す。
【0121】
(1)剛性評価
各熱可塑性樹脂組成物のペレットを80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(J55ELII、株式会社日本製鋼所製)によって、80mm×10mm×4mmの短冊型試験片に成形し、JIS-K7171に準拠して曲げ試験を行い、曲げ弾性率[GPa]を測定し、以下の基準で評価した。なお、曲げ弾性率が、1.2GPa以上であれば、成形品の剛性が実用上問題ないと評価できる。
【0122】
(評価基準)
◎:1.6GPa以上
〇:1.4GPa以上、1.6GPa未満
△:1.2GPa以上、1.4GPa未満
×:1.2GPa未満
【0123】
(2)靭性評価
各熱可塑性樹脂組成物のペレットを80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(J1 40AD-110H、株式会社日本製鋼所製)によって、80mm×10mm×4mmの短冊型試験片に成形し、JIS-K7110に準拠してシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃強度[kJ/m2]を測定し、以下の基準で評価した。なお、シャルピー衝撃強度が10kJ/m2以上であれば、成形品の靭性は実用上問題なしとされる。
【0124】
(評価基準)
◎:15kJ/m2以上
〇:13kJ/m2以上、15kJ/m2未満
△:10kJ/m2以上、13kJ/m2未満
×:10kJ/m2未満
【0125】
熱可塑性樹脂組成物1~13について、組成、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2の分散状態(平均粒径)、硬質充填剤B1及び硬質充填剤B2への相溶化剤Cの付着状態(WB1/WB2)、製造方法、成形品の物性(剛性及び靭性)の評価結果をまとめて表Iに示す。なお、製造方法は、溶融混錬について上記第1工程と第2工程に分けて行った場合を「分割」と表記した。また、溶融混錬を1回で行った場合を「一括」と表記した。
【0126】
【0127】
表Iから、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品は、高い水準で剛性と靭性を両立していることがわかる。
【符号の説明】
【0128】
1 熱可塑性樹脂組成物の断面
A 熱可塑性樹脂A
B1 硬質充填剤B1
B2 硬質充填剤B2
C 相溶化剤C
S1 測定領域(硬質充填剤B1用)
S2 測定領域(硬質充填剤B2用)