(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20240423BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240423BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20240423BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C1/00 A
B60C11/00 F
C08L9/00
C08K3/34
(21)【出願番号】P 2020080303
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大石 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】出雲 優
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-196245(JP,A)
【文献】特表2004-513201(JP,A)
【文献】特開2019-206653(JP,A)
【文献】特開2008-149934(JP,A)
【文献】特開平08-333480(JP,A)
【文献】特開平09-031250(JP,A)
【文献】特開平07-061209(JP,A)
【文献】特開平06-234303(JP,A)
【文献】特開2016-003308(JP,A)
【文献】特開2009-084483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
B60C 1/00
C08L 9/00
C08K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドを有するタイヤであって、
該トレッドが、ゴム層を有し、
該ゴム層の外面がトレッド面を構成し、
該ゴム層の厚みが、10mm以下であり、
該ゴム層を構成するゴム組成物が、イソプレン系ゴムを含むゴム成分
および珪藻土を含み、かつ、-30℃tanδと0℃E
*が下記式(1)を満た
し、
前記ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、30質量部以下である、タイヤ。
-30℃tanδ/0℃E
*≧0.160 (1)
(式中、-30℃tanδは、初期歪10%、動歪2.5%、周波数10Hz、温度-30℃の条件で測定した前記ゴム組成物の損失正接であり、0℃E
*(MPa)は、初期歪10%、動歪2.5%、周波数10Hz、温度0℃の条件で測定した前記ゴム組成物の複素弾性率である。)
【請求項2】
前記ゴム組成物が、
シリカをさらに含む、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記珪藻土のゴム組成物中の含有量が、ゴム成分100質量部に対して、40質量部以上である、請求項
1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量が50質量%未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム成分がブタジエンゴムをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物が、水溶性微粒子をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、氷上性能と操縦安定性がバランスよく改善されたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スパイクタイヤに代わる氷上性能を向上させたタイヤとして、従来、スタッドレスタイヤが開発されてきた(特許文献1)。スタッドレスタイヤは、スパイクタイヤとは違い、地面に食い込むような突起がないため、ゴムの配合によってグリップ力を高める工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これまで、タイヤ用ゴム組成物について、これを用いてタイヤとしたときの実車における氷上性能を評価し得る指標は、確立されていなかった。
【0005】
本発明は、氷上性能と操縦安定性がバランスよく改善されたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、トレッド面を構成するゴム層にイソプレン系ゴムを含むゴム組成物を用い、当該ゴム組成物の-30℃tanδと0℃E*が所定の関係式を満たすようにした上で、さらに、当該ゴム組成物からなるゴム層の厚みを所定の値以下とすれば、実車評価における氷上性能と操縦安定性がバランスよく改善することを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]トレッドを有するタイヤであって、
該トレッドが、ゴム層を有し、
該ゴム層の外面がトレッド面を構成し、
該ゴム層の厚みが、10mm以下であり、
該ゴム層を構成するゴム組成物が、イソプレン系ゴムを含むゴム成分を含み、かつ、-30℃tanδと0℃E*が下記式(1)を満たす、好ましくは下記式(1)の右辺の値が0.161である、より好ましくは0.162である、さらに好ましくは0.163である、タイヤ、
-30℃tanδ/0℃E*≧0.160 (1)
(式中、-30℃tanδは、初期歪10%、動歪2.5%、周波数10Hz、温度-30℃の条件で測定した前記ゴム組成物の損失正接であり、0℃E*(MPa)は、初期歪10%、動歪2.5%、周波数10Hz、温度0℃の条件で測定した前記ゴム組成物の複素弾性率である。)
[2]前記ゴム組成物が、珪藻土をさらに含む、上記[1]記載のタイヤ、
[3]前記珪藻土のゴム組成物中の含有量が、ゴム成分100質量部に対して、40質量部以上、好ましくは40~200質量部、より好ましくは40~150質量部、さらに好ましくは40~130質量部、さらに好ましくは40~110質量部、さらに好ましくは40~100質量部である、上記[2]記載のタイヤ、
[4]前記ゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量が50質量%未満、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のタイヤ、
[5]前記ゴム成分がブタジエンゴムをさらに含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載のタイヤ、
[6]前記ゴム組成物が、水溶性微粒子をさらに含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載のタイヤ、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、氷上性能と操縦安定性がバランスよく改善されたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、トレッドを有するタイヤであって、該トレッドがゴム層を有し、該ゴム層の外面がトレッド面を構成し、該ゴム層の厚みが10mm以下であり、該ゴム層を構成するゴム組成物がイソプレン系ゴムを含むゴム成分を含みかつ-30℃tanδと0℃E*が下記式(1)を満たすタイヤに関する。
-30℃tanδ/0℃E*≧0.160 (1)
(式中、-30℃tanδは、初期歪10%、動歪2.5%、周波数10Hz、温度-30℃の条件で測定した前記ゴム組成物の損失正接であり、0℃E*(MPa)は、初期歪10%、動歪2.5%、周波数10Hz、温度0℃の条件で測定した前記ゴム組成物の複素弾性率である。)
【0010】
前記ゴム組成物は、珪藻土をさらに含むものであることが好ましい。
【0011】
前記珪藻土のゴム組成物中の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、40質量部以上であることが好ましい。
【0012】
前記ゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、50質量%未満であることが好ましい。
【0013】
前記ゴム成分は、ブタジエンゴムをさらに含むことが好ましい。
【0014】
前記ゴム組成物は、水溶性微粒子をさらに含むものであることが好ましい。
【0015】
理論に拘束されることは意図しないが、本開示において、タイヤの氷上性能と操縦安定性がバランスよく改善されるメカニズムとしては、以下が考えられる。
【0016】
本開示では、実車における氷上性能を評価し得る指標として、「-30℃tanδ/0℃E*」を用い、ゴム組成物の当該指標が0.160以上であることを要求する。ここで、ゴム組成物の当該指標を大きくするには、分子の損失正接(tanδ)を高くし、分母の複素弾性率(E*)を低くしなければならない。しかし、分母の複素弾性率(E*)が低下すると、ゴム自体が柔らかくなり、操縦安定性が悪化する傾向にある。そこで、本開示では、当該ゴム組成物を、トレッド面を構成するゴム層に用いるに際し、当該ゴム層の厚みを10mm以下とした。その結果、氷上性能向上の効果は維持されたままで、操縦安定性悪化への影響が妨げられ、タイヤの氷上性能と操縦安定性がバランスよく改善されるに至ったと考えられる。
【0017】
また、実車における氷上性能を評価する指標(-30℃tanδ/0℃E*)において、分子の損失正接(tanδ)はヒステリシスロス摩擦のポテンシャルを表すものであり、分母の複素弾性率(E*)はグリップのポテンシャルを表すものである。ここで、損失正接(tanδ)としては「-30℃tanδ」を採用し、複素弾性率(E*)としては「0℃E*」を採用したが、いずれも、実走行中のタイヤゴムの温度、滑り速度、路面凹凸の周波数等を考慮して導き出したものである。
【0018】
以下、本開示について詳細に説明する。なお、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」、「~」にかかる上限および下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、実施例における数値を該上限および下限とすることもできる。また、「~」によって数値範囲を特定する場合、特に断りのない限り、その両端の数値も含む意味である。
【0019】
<ゴム成分>
ゴム成分は、イソプレン系ゴムを含むものである。イソプレン系ゴム以外のゴム成分としては、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、その他のゴム成分を用いることができる。イソプレン系ゴム以外のゴム成分は、1種または2種以上を含んでいてもよい。好ましいイソプレン系ゴム以外のゴム成分としては、BRが挙げられる。他の好ましいイソプレン系ゴム以外のゴム成分としては、BRとSBRの組合せが挙げられる。
【0020】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRは、SIR20、RSS♯3、TSR20等、IRは、IR2200等、タイヤ工業で一般的なものを使用できる。改質NRは、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム等、変性NRは、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRは、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、氷上性能と操縦安定性のバランスの観点から、好ましくは50質量%未満、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。該含有量の下限は、本開示の効果が発揮される限り特に限定されないが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。
【0022】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス1,4結合含有率(シス含量)が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。BRは1種または2種以上を用いることができる。
【0023】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のもの、宇部興産(株)製のもの、JSR(株)製のもの等が挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)製のBUNA-CB25等が挙げられる。なお、本明細書において、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。
【0024】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のものが挙げられる。
【0025】
変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)等が挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、ZSエラストマー(株)製のスズ変性BR、S変性ポリマー(シリカ用変性)等が挙げられる。
【0026】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、氷上性能と操縦安定性のバランスの観点から、好ましくは20質量%以上若しくは20質量%超、より好ましくは30質量%以上もしくは30質量%超、さらに好ましくは50質量%以上若しくは50質量%超である。また、該含有量の上限は特に限定されないが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0027】
(SBR)
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用することができる。
【0029】
また、SBRとしては、非変性SBRでもよいし、変性SBRでもよい。変性SBRとしては、上記変性BRと同様の官能基が導入された変性SBRが挙げられる。
【0030】
SBRとしては油展SBRを用いることもできるし、非油展SBRを用いることもできる。油展SBRを用いる場合、SBRの油展量、すなわち、SBRに含まれる油展オイルの含有量は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、SBRのゴム固形分100質量部に対して、10~50質量部であることが好ましい。
【0031】
SBRのスチレン含量は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、該スチレン含量は、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含有量は、1H-NMR測定により算出される。
【0032】
SBRのビニル結合量は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。また、該ビニル結合量は、70モル%以下が好ましく、66モル%以下がより好ましい。なお、本明細書において、SBRのビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。
【0033】
SBRのガラス転移温度(Tg)は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、好ましくは-90℃以上、より好ましくは-50℃以上である。また、該Tgは、好ましくは0℃以下、より好ましくは-10℃以下である。なお、本明細書において、ガラス転移温度は、JIS K 7121に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定される値である。
【0034】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、20万以上が好ましく、24万以上がより好ましい。また、該Mwは、200万以下が好ましく、180万以下がより好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0035】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、好ましくは、1~20質量%である。該含有量は、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。また、該含有量は、好ましくは18質量%以下、より好ましくは16質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0036】
(その他のゴム成分)
ゴム成分は、前記のイソプレン系ゴム、BRおよびSBR以外のゴム成分として、その他のゴム成分を含有してもよい。その他のゴム成分としては、ゴム工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
(イソプレン系ゴムおよびBRの合計含有量)
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムおよびBRの合計含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%である。該含有量は100質量%であってもよい。上記合計含有量が多いほど低温特性に優れており、氷上性能を発揮できる傾向がある。合計含有量が100質量%の場合、イソプレン系ゴムの含有量が上記のとおり定まればBRの含有量はその残部として自ずと定まり、逆にBRの含有量が上記のとおり定まればイソプレン系ゴムの含有量はその残部として自ずと定まるものである。
【0038】
<充填剤>
ゴム組成物は、充填剤として珪藻土を含有することが好ましく、さらに、珪藻土以外の充填剤を使用することもできる。珪藻土以外の充填剤としては、ゴム工業において一般的なものをいずれも使用することができ、そのような充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、その他の充填剤が挙げられる。珪藻土以外の充填剤は1種または2種以上を使用することができる。
【0039】
充填剤の組合せとしては、例えば、珪藻土とカーボンブラックの組合せ、珪藻土とシリカの組合せ、珪藻土とカーボンブラックとシリカの組合せが好ましい。
【0040】
(珪藻土)
珪藻土は、珪藻と呼ばれる植物プランクトンの化石であり、主成分はガラスと同じ珪酸質(SiO2)である。珪藻土は公知・市販のものを用いることができ、例えば、中央シリカ(株)製のものを使用することができる。
【0041】
珪藻土は、モース硬度が5~7程度であり、氷よりも硬いので、氷上路面に対して引っ掻き効果を発揮することができる。また、アスファルト(モース硬度8程度)よりも軟らかいので、アスファルトの損傷を防ぐことができる。しかも、珪藻土は、粒子表面に親水性のヒドロキシル基を持つ多孔質構造の粒状体であることから、該多孔中に路面の水を吸収することができ、氷上だけでなく、氷と水が混在する路面に対しても優れた制動性能の面から有利である。
【0042】
珪藻土としては、未焼成珪藻土(乾燥珪藻土)、焼成珪藻土、融剤焼成珪藻土などをいずれも用いることができるが、このうち、焼成されていない未焼成珪藻土が好ましい。
【0043】
珪藻土は、平均二次粒子径が45μm以下であるものが引っ掻き効果向上の観点から好ましい。より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。珪藻土の平均二次粒子径の下限は、特に限定されないが、通常は0.5μm以上のものが好適に用いられる。ここで、珪藻土の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、(株)堀場製作所製LA-300など)にて測定される値である。
【0044】
珪藻土の含有量は、引っ掻き効果向上の観点から、ゴム100重量部に対して、40質量部以上であることが好ましい。該含有量は、耐摩耗性の観点から、200質量部以下が好ましく、150質量部以下であることがより好ましく、130質量部以下がより好ましく、110質量部以下がさらに好ましく、100質量部以下が特に好ましい。
【0045】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、ゴム工業において一般的なものを適宜利用することができる、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等を挙げることができ、あるいは、N110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を挙げることができる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、破断時伸びの観点から、50m2/g以上が好ましく、70m2/g以上がより好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、200m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定される値である。
【0047】
カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、補強性の観点から、30mL/100g以上が好ましく、50mL/100g以上がより好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、400mL/100g以下が好ましく、350mL/100g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K 6221に準じて測定される値である。
【0048】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、補強性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、加工性や発熱性の観点からは、100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0049】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。シリカは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、低燃費性能および耐摩耗性能の観点から、140m2/g以上が好ましく、160m2/g以上がより好ましく、170m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0051】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、150質量部以下が好ましく、130質量部以下がより好ましく、110質量部以下がさらに好ましく、90質量部以下が特に好ましい。
【0052】
(その他の充填剤)
その他の充填剤としては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、卵殻紛等この分野で一般的に使用されるものを挙げることができる。その他の充填剤は1種または2種以上を使用することができる。
【0053】
卵殻粉は、(A)卵殻粉自体が氷雪路面を引っ掻く効果、(B)卵殻粉粒子に存在する細孔が氷雪路面の水を吸水し除去する効果、(C)卵殻粉粒子が脱落することによりできた細孔が氷雪路面の水を吸水し除去する効果、および(D)卵殻粉粒子が脱落することによりできた細孔の淵部分がエッジとして働き、氷雪路面を引っ掻く効果が得られる。
【0054】
卵殻粉の平均粒子径は、氷上性能の観点から、5μm以上であり、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましく、60μm以上がと特に好ましい。また、卵殻粉の平均粒子径は、破壊特性の観点から、200μm以下であり、180μm以下が好ましく、160μm以下がより好ましく、140μm以下がさらに好ましく、120μm以下が特に好ましい。なお、本明細書における卵殻粉の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される値である。
【0055】
卵殻粉としては、キユーピータマゴ(株)より製造販売されている卵殻カルシウム等が挙げられる。
【0056】
卵殻粉のゴム成分100質量部に対する含有量は、氷上性能の観点から、5質量部以上が好ましく、8質量部以上がより好ましく、10質量部以上がより好ましい。また、卵殻粉の含有量は、破壊特性の観点から、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。
【0057】
(充填剤の合計含有量)
充填剤のゴム成分100質量部に対する合計含有量は、耐摩耗性能の観点から、40質量部以上が好ましく、45質量部以上がより好ましい。また、低燃費性能および破断時伸びの観点からは、200質量部以下が好ましく、160質量部以下がより好ましく、140質量部以下がさらに好ましく、120質量部以下がさらに好ましく、100質量部以下がさらに好ましい。
【0058】
充填剤が珪藻土とシリカの組合せからなる場合、珪藻土の含有量が上記のとおり定まればシリカの含有量はその残部として自ずと定まり、逆にシリカの含有量が上記のとおり定まれば珪藻土の含有量はその残部として自ずと定まるものである。充填剤が珪藻土とカーボンブラックの組合せからなる場合も同様である。また、充填剤が珪藻土とカーボンブラックとシリカの組合せからなる場合には、これらのうちの任意の二つの含有量が上記のとおり定まれば残りの一つの含有量はその残部として自ずと定まるものである。
【0059】
<シランカップリング剤>
ゴム組成物は、シランカップリング剤を使用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム工業において、従来から使用される任意のシランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の具体例としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、モメンティブ社製のNXT-Z30、NXT-Z45、NXT-Z60、NXT-Z100、エボニックデグサ社製のSi363等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤等が挙げられる。なかでも、スルフィド基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤、およびチオエステル基を有するシランカップリング剤が好ましく、メルカプト基を有するシランカップリング剤がより好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
シランカップリング剤の含有量は、本開示の効果の観点から、ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、4質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、6質量部以上がさらに好ましい。一方、該含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以上がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0061】
<水溶性微粒子>
ゴム組成物は、水溶性微粒子を含有することが好ましい。水溶性微粒子は、水への溶解性を有する微粒子であれば特に限定されることなく、使用可能である。例えば、常温(20℃)の水への溶解度が1g/100g水以上の材料を使用できる。水溶性微粒子は、ウェット路面との接触時に溶解し、ゴム組成物中に水膜層を排出するための貯蔵容積および通路として機能する空孔が生じることにより、摩擦係数の改良が期待できる。
【0062】
水溶性微粒子は、氷上性能および耐摩耗性のバランスの観点から、中央値粒度(メジアン径、D50)が1μm~1mmであることが好ましい。より好ましくは2μm~800μm、さらに好ましくは2μm~500μmである。本明細書において、中央値粒度は、レーザー回折法にて測定できる。また、水溶性微粒子は繊維状の形態であってもよい。この場合、例えば、繊維長は1~50μmの範囲であり、繊維径は0.1~10μmの範囲である。繊維長は好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは45μm以下、より好ましくは40μm以下である。繊維系は好ましくは0.2μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上であり、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。本明細書において、繊維長および繊維径は、電子顕微鏡を用いて、任意の50個の平均値として測定できる。
【0063】
水溶性微粒子の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上、よりさらに好ましくは10質量部以上、特に好ましくは20質量部以上、より特に好ましくは25質量部以上である。下限以上にすることで、良好な氷上性能が得られる傾向がある。該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。上限以下にすることで、良好な耐摩耗性等のゴム物性が得られる傾向がある。
【0064】
水溶性微粒子としては、例えば、水溶性無機塩、水溶性有機物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
水溶性無機塩としては、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム等の金属硫酸塩;塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の金属塩化物;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物;炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩;リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のリン酸塩;等が挙げられる。このうち、硫酸マグネシウムが好ましい。
【0066】
水溶性有機物としては、リグニン誘導体、糖類等が挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩、等が好適である。リグニン誘導体は、サルファイトパルプ法、クラフトパルプ法のいずれにより得られたものでもよい。
【0067】
リグニンスルホン酸塩としては、リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルコールアミン塩等が挙げられる。なかでも、リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩(カリウム塩、ナトリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩、バリウム塩等)が好ましい。
【0068】
リグニン誘導体は、スルホン化度がスルホン化度1.5~8.0/OCH3であることが好ましい。この場合、リグニン誘導体は、リグニンおよび/またはその分解物の少なくとも一部がスルホ基(スルホン基)で置換されているリグニンスルホン酸および/またはリグニンスルホン酸塩を含むものであり、リグニンスルホン酸のスルホ基は、電離していない状態でもよいし、スルホ基の水素が金属イオン等のイオンに置換されていてもよい。該スルホン化度は、より好ましくは3.0~6.0/OCH3である。上記範囲内にすることで、良好な氷上性能が得られ、これと耐摩耗性の性能バランスが改善される傾向がある。
【0069】
なお、リグニン誘導体粒子(該粒子を構成するリグニン誘導体)のスルホン化度は、スルホ基の導入率であり、下記式で求められる。
スルホン化度(/OCH3)=リグニン誘導体中のスルホン基中のS(モル)/リグニン誘導体中のメトキシル基(モル)
【0070】
糖類は、構成する炭素数に特に制限はなく、単糖、少糖、多糖のいずれでもよい。単糖としては、アルドトリオース、ケトトリオースなどの三炭糖;エリトロース、トレオースなどの四炭糖;キシロース、リボースなどの五炭糖;マンノース、アロース、アルトロース、グルコースなどの六炭糖;セドヘプツロースなどの七炭糖などが挙げられる。少糖としては、スクロース、ラクトースなどの二糖;ラフィノース、メレジトースなどの三糖;アカルボース、スタキオースなどの四糖;キシロオリゴ糖、セロオリゴ糖などのオリゴ糖、等が挙げられる。多糖としては、グリコーゲン、でんぷん(アミロース、アミロペクチン)、セルロース、ヘミセルロース、デキストリン、グルカン等が挙げられる。
【0071】
<樹脂成分>
ゴム組成物は、タイヤ工業で慣用される樹脂成分を含んでいてもよい。そのような樹脂成分としては、例えば、石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂、クマロン系樹脂等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
石油樹脂としては、特に限定されないが、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。脂肪族系石油樹脂としては、炭素数4~5個相当の石油留分(C5留分)であるイソプレンやシクロペンタジエンなどの不飽和モノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂(C5系石油樹脂とも称される。)を用いることができる。芳香族系石油樹脂としては、炭素数8~10個相当の石油留分(C9留分)であるビニルトルエン、アルキルスチレン、インデンなどのモノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂(C9系石油樹脂とも称される。)を用いることができる。脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂としては、上記C5留分とC9留分を共重合することにより得られる樹脂(C5C9系石油樹脂とも称される。)が用いられる。また、前記の石油樹脂を水素添加したものを使用してもよい。なかでもC5C9系石油樹脂が好適に用いられる。
【0073】
C5C9系石油樹脂としては、例えば、LUHUA社製のPRG-80、PRG-140、Qilong社製のG-100、東ソー(株)製のペトロタック(登録商標)60、ペトロタック70、ペトロタック90、ペトロタック100、ペトロタック100V、ペトロタック90HM等の市販品が好適に用いられる。
【0074】
テルペン系樹脂としては、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンスチレン樹脂等が挙げられ、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、ロジン系樹脂等の他の粘着性樹脂よりもSP値が低く、その値がSBR(SP値:8.9)とBR(SP値:8.2)の間にあり、ゴム成分との相溶性の観点から好ましい。なかでもテルペンスチレン樹脂は、SBRとBRの両方に対して特に相溶性がよく、ゴム成分中に硫黄が分散しやすくなることから、好適に用いられる。
【0075】
ポリテルペン樹脂は、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種を原料とする樹脂である。テルペンフェノール樹脂は、前記テルペン化合物およびフェノール系化合物を原料とする樹脂である。テルペンスチレン樹脂は、前記テルペン化合物およびスチレンを原料とする樹脂である。ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂は、水素添加処理を行った樹脂(水添ポリテルペン樹脂、水添テルペンスチレン樹脂)であってもよい。テルペン系樹脂への水素添加処理は、公知の方法で行うことができ、また市販の水添樹脂を使用することもできる。
【0076】
テルペン系樹脂は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本開示では、テルペン系樹脂は市販品が用いられてもよい。このような市販品は、ヤスハラケミカル(株)等によって製造販売されるものが例示される。
【0077】
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。
【0078】
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0079】
クマロン系樹脂は、クマロンを主成分する樹脂であり、例えば、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂、クマロンとインデンとスチレンを主成分とする共重合樹脂等が挙げられる。
【0080】
樹脂成分のゴム成分100質量部に対する含有量は、接着性能およびグリップ性能の観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましく、2.0質量部以上が特に好ましい。また、耐摩耗性能およびグリップ性能の観点からは、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、12質量部以下がさらに好ましい。
【0081】
樹脂成分の軟化点は、グリップ性能の観点から、160℃以下が好ましく、145℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。また、軟化点は、グリップ性能の観点から、20℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。なお、本開示において、軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。また、レース用タイヤにおいて好ましく使用されるコレシン(軟化点:145℃、BASF社製)は、グリップ性能に優れる一方、設備との強粘着の問題が生じやすく、本分岐アルカンは、良好な金属離型性を示す。
【0082】
樹脂成分の重量平均分子量(Mw)は、揮発しにくく、グリップ性能が良好である点から、300以上が好ましく、400以上がより好ましく、500以上がさらに好ましい。また、該Mwは、15000以下が好ましく、10000以下がより好ましく、8000以下がさらに好ましい。
【0083】
樹脂成分のSP値は、ゴム成分(特にSBR)との相溶性が優れる点から、8~11の範囲が好ましく、8~10の範囲がより好ましく、8.3~9.5の範囲がさらに好ましい。上記範囲内のSP値を持つ樹脂を使用することでSBRおよびBRとの相溶性が向上し、耐摩耗性能および破断伸びを改善できる。
【0084】
<その他の配合剤>
本開示に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、オイル、液状ポリマー、ワックス、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0085】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、またはその混合物を用いることができる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。なかでも、良好な氷上性能が得られるという点から、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイルが好ましい。
【0086】
オイルの含有量は、氷上性能の観点から、ゴム成分100質量部に対して、12質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、25質量部以上がさらに好ましい。該含有量は、操縦安定性の観点から、80質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0087】
液状ポリマーは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)等の液状ジエン系重合体が挙げられる。なかでも、グリップ性能の観点から、液状SBRが好ましい。液状ポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算重量平均分子量が1.0×103~2.0×105であることが好ましい。
【0088】
液状ポリマーを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、グリップ性能の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましく、40質量部以下が特に好ましい。
【0089】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0090】
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、脂肪酸金属塩、アミドエステル、脂肪酸金属塩とアミドエステル若しくは脂肪酸アミドとの混合物が好ましく、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物が特に好ましい。具体的には、例えば、Schill&Seilacher社製のEF44、WB16等の脂肪酸石鹸系加工助剤が挙げられる。
【0091】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0092】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0094】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0095】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0096】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0097】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好なグリップ性能および耐摩耗性能を得るという観点から、0.5質量部以上が好ましく、0.7質量部以上がより好ましい。また、劣化の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。
【0098】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)、ランクセス(株)製のKA9188(1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)等の硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0099】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系が好ましく、これらを併用することがより好ましい。
【0100】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドが好ましい。
【0101】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジンが好ましい。
【0102】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0103】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0104】
<ゴム組成物>
ゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0105】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0106】
ゴム組成物は、-30℃tanδと0℃E*が下記式(1)を満たす。
-30℃tanδ/0℃E*≧0.160 (1)
(式中、-30℃tanδは、初期歪10%、動歪2.5%、周波数10Hz、温度-30℃の条件で測定した前記ゴム組成物の損失正接であり、0℃E*(MPa)は、初期歪10%、動歪2.5%、周波数10Hz、温度0℃の条件で測定した前記ゴム組成物の複素弾性率である。)
【0107】
-30℃tanδ/0℃E*の値は、氷上性能の観点から、0.161以上であることが好ましく、0.162以上であることがより好ましく、0.163以上であることがさらに好ましい。
【0108】
ここで、-30℃tanδ/0℃E*の値は、-30℃tanδを増加させる、あるいは、0℃E*を減少させることで、増加させることができる。-30℃tanδは、ヒステリシスロス摩擦のポテンシャルを表すものであり、この値が大きいほど、タイヤと路面との摩擦が大きい。-30℃tanδは既知の方法によって増加させることができるが、例えば、珪藻土の配合を増やすこと、樹脂成分を配合すること等により増加させることができる。一方、0℃E*は、グリップのポテンシャルを表すものであり、この値が大きいほど、タイヤのグリップ力が大きくなる一方、この値が小さいほどヒステリシスロスが向上する。0℃E*は、既知の方法によって減少させることができる。例えば、0℃E*は、充填剤の量を減少すること等により減少させることができる。
【0109】
<ゴム層>
ゴム層は、前記で得られるゴム組成物からなるものであって、タイヤにしたときに、その外面がドレッド面を構成するものである。
【0110】
ゴム層の厚みは、操縦安定性の観点から、10mm以下である。ゴム層の厚みの下限は、トレッド面として必要な溝やサイプを施すことができる限り特に限定はないが、走行可能距離を確保する観点からは、通常、5mm以上であることが好ましい。
【0111】
<タイヤ>
本開示のタイヤは、前記ゴム層の外面がトレッド面を構成するものである。当該タイヤは、通常の方法により製造することができる。すなわち、前記ゴム組成物を、タイヤトレッドの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを成形し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより製造することができる。
【0112】
本開示のタイヤは、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを問わない。また、空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ等が挙げられる。本開示のタイヤは、優れた氷上性能を有するため、スタッドレスタイヤとして有用である。
【実施例】
【0113】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。
【0114】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:RSS#3
BR:宇部興産(株)のBR150B(ハイシスBR、シス含量97質量%)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のダイアブラックI(ATMS No.N220、N2SA:114m2/g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g)
珪藻土:中央シリカ(株)製のオプライトP-1200(平均二次粒子径:15μm)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
水溶性微粒子:馬居化成工業(株)製のMN-00を500メッシュの篩にかけて得られたもの(硫酸マグネシウム、中央値粒度(メジアン径)10μm)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX-140(アロマ系プロセスオイル)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛1号
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(CBS、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(DPG、1,3-ジフェニルグアニジン)
加硫促進剤3:大内新興化学工業(株)製のノクセラーM-P(MTB、2-メルカプトベンゾチアゾール)
【0115】
(実施例および比較例)
表1に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を、排出温度150℃で5分間混練りした。次に、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールで4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を、表1に記載の厚みで、キャップトレッド(最外層)の形状に合わせて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃で12分間プレス加硫して試験用タイヤ(195/65R15)を得た。
【0116】
<氷上性能>
各試験用スタッドレスタイヤを用いて、下記の条件で氷上での実車性能を評価した。試験場所は、住友ゴム工業(株)の北海道名寄テストコースで行い、気温は0~-5℃であった。試験用タイヤを国産2000ccのFR車に装着し、時速30km/hでロックブレーキを踏み停止させるまでに要した氷上の停止距離を測定した。表1においては比較例4をリファレンスとして、下記式から指数表示した。指数が大きいほど、氷上性能に優れることを示す。性能目標値は110以上である。
(氷上性能)=(比較例4の制動停止距離)/(各配合の停止距離)×100
【0117】
<操縦安定性>
路面温度が25℃のドライアスファルト路面のテストコースにて、各試験用スタッドレスタイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着して実車走行した。その際、テストドライバーが比較例4、比較例8をそれぞれの結果を100として、微小操舵角変更時のハンドル応答性、急なレーンチェンジの応答性を総合的に評価した。なお、数値が大きいほど操縦安定性に優れていることを示す。性能目標値は100超である。
【0118】
【0119】
表1の結果より、本開示のタイヤは、氷上性能と操縦安定性がバランスよく改善されていることがわかる。