(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】移動体通信装置、移動体通信方法及び移動体通信プログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20240423BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20240423BHJP
【FI】
H04B7/06 952
H04W16/28
H04B7/06 956
(21)【出願番号】P 2020092243
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】矢島 健一
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-072862(JP,A)
【文献】特開2001-320318(JP,A)
【文献】特開2011-234140(JP,A)
【文献】特開2002-026790(JP,A)
【文献】特開2016-144194(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0229376(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/06
H04W 16/28
H04W 72/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自機の位置情報を取得する自機位置情報取得部と、
前記自機と通信を行う受信機体の位置情報と、前記自機の周辺に存在する周辺機体の位置情報と、を取得する他機位置情報取得部と、
前記自機と前記受信機体と前記周辺機体とのフライトパターンを記憶するフライトパターン記憶部と、
前記自機が前記受信機体と通信を行う際に、前記自機のアンテナから送信される電波の方向を制御するビームフォーミング制御部と、を備え、
前記ビームフォーミング制御部は、
前記自機位置情報取得部で取得した第1の時刻における自機の位置情報と、前記他機位置情報取得部で取得した前記第1の時刻における前記受信機体および前記周辺機体の位置情報と、前記フライトパターン記憶部に記憶されている前記フライトパターンと、に基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記自機と前記受信機体と前記周辺機体との位置を推定し、
前記第2の時刻において前記自機から前記受信機体に電波を送信する際に、前記自機から送信される電波が前記周辺機体を回避するように前記電波の方向を制御する、
移動体通信装置。
【請求項2】
前記ビームフォーミング制御部は、前記自機と前記受信機体との位置に基づいて、前記アンテナの向きと前記アンテナが送信する電波の送信範囲を決定し、
前記決定された送信範囲に前記周辺機体が存在する場合、前記アンテナの向きと前記送信範囲を再計算する、請求項1に記載の移動体通信装置。
【請求項3】
前記ビームフォーミング制御部は、
前記自機と前記受信機体との位置に基づいて、前記アンテナの向きと前記アンテナが送信する電波の送信範囲を決定し、前記送信範囲に前記周辺機体が存在する場合、前記アンテナの向きと前記送信範囲を再計算し、
前記再計算した送信範囲に前記周辺機体が存在する場合、前記アンテナが電波を送信する時刻を前記第2の時刻より後の第3の時刻に変更する
請求項1に記載の移動体通信装置。
【請求項4】
前記自機が送信した電波に対する前記受信機体における受信状態を、前記受信機体から受信する受信部をさらに備え、
前記ビームフォーミング制御部は、前記受信機体における受信状態に基づいて、前記アンテナの電波の送信範囲を調節する
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の移動体通信装置。
【請求項5】
前記ビームフォーミング制御部は、前記受信機体における受信状態においてビット誤り率が所定の基準より高い状態である場合、前記アンテナの電波の送信範囲を狭くするように制御する
請求項4に記載の移動体通信装置。
【請求項6】
前記ビームフォーミング制御部は、前記受信機体における受信状態においてビット誤り率が所定の基準より低い状態、かつ無線強度が所定の基準より高い状態の場合、前記アンテナの電波の送信範囲を広くするように制御する
請求項4に記載の移動体通信装置。
【請求項7】
自機の位置情報を取得し、
前記自機と通信を行う受信機体の位置情報と、前記自機の周辺に存在する周辺機体の位置情報と、を取得し、
前記自機と前記受信機体と前記周辺機体とのフライトパターンを記憶し、
前記自機が前記受信機体と通信を行う際に、前記自機のアンテナから送信される電波の方向を制御し、
前記自機のアンテナから送信される電波の方向を制御する際に、
第1の時刻における自機位置情報と、前記第1の時刻における前記受信機体および前記周辺機体の位置情報と、前記フライトパターンと、に基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記自機と前記受信機体と前記周辺機体との位置を推定し、
前記第2の時刻において前記自機から前記受信機体に電波を送信する際に、前記自機から送信される電波が前記周辺機体を回避するように前記電波の方向を制御する、
移動体通信方法。
【請求項8】
自機の位置情報を取得する処理と、
前記自機と通信を行う受信機体の位置情報と、前記自機の周辺に存在する周辺機体の位置情報と、を取得する処理と、
前記自機と前記受信機体と前記周辺機体とのフライトパターンを記憶する処理と、
前記自機が前記受信機体と通信を行う際に、前記自機のアンテナから送信される電波の方向を制御する処理と、をコンピュータに実行させ、
前記自機のアンテナから送信される電波の方向を制御する処理において、
第1の時刻における自機位置情報と、前記第1の時刻における前記受信機体および前記周辺機体の位置情報と、前記フライトパターンと、に基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記自機と前記受信機体と前記周辺機体との位置を推定し、
前記第2の時刻において前記自機から前記受信機体に電波を送信する際に、前記自機から送信される電波が前記周辺機体を回避するように前記電波の方向を制御する、
移動体通信プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信装置、移動体通信方法及び移動体通信プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ビームフォーミングは、無線通信に使われる電波を特定の方向に集中的に照射することで通信品質を向上させる技術である。ビームフォーミング通信に関する技術は種々提案されている。
特許文献1では、航空機は、複数の地上局と自機との位置情報を記憶し、それらの位置情報に基づいて、アレイアンテナ部によって地上局にビームを形成して送信する技術が開示されている。そして、地上局もまた、アレイアンテナ部を有し、航空機と地上局の双方がビームフォーミングを行うことにより通信を継続する技術が開示されている。
【0003】
特許文献2では、移動体の位置情報と、衛星の位置情報と、予め記憶された衛星の周回情報とに基づいて、移動体が、衛星にビームを指向させる方向を検出して、ビームを制御する技術が開示されている。そうすることによって、移動体と衛星とがビームフォーミングを行うことにより通信を継続する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-207626号公報
【文献】特開2005-295094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に係る技術では、ビームフォーミングによる通信において、電波を送信する移動体(送信機体)が電波を受信する移動体(受信機体)に送信する電波の送信範囲に、受信機体以外の周辺の移動体(周辺機体)が存在する可能性を考慮していない。そのため、送信機体は、送信機体と受信機体との間に周辺機体が存在する場合でも電波を送信してしまう。送信機体と受信機体との間に周辺機体が存在する場合、受信機体が周辺機体の陰にかくれることによって、受信機体の受信の妨害及び周辺機体の通信の妨害が発生するという問題点があった。
【0006】
本開示では、そのような問題点を解決することによって、受信機体の受信の妨害及び周辺機体の通信の妨害を抑制したビームフォーミングによる通信ができる移動体通信装置、移動体通信方法及び移動体通信プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の移動体通信装置は、
自機の位置情報を取得する自機位置情報取得部と、
前記自機と通信を行う受信機体の位置情報と、前記自機の周辺に存在する周辺機体の位置情報と、を取得する他機位置情報取得部と、
前記自機と前記受信機体と前記周辺機体とのフライトパターンを記憶するフライトパターン記憶部と、
前記自機が前記受信機体と通信を行う際に、前記自機のアンテナから送信される電波の方向を制御するビームフォーミング制御部と、を備え、
前記ビームフォーミング制御部は、
前記自機位置情報取得部で取得した第1の時刻における自機の位置情報と、前記他機位置情報取得部で取得した前記第1の時刻における前記受信機体および前記周辺機体の位置情報と、前記フライトパターン記憶部に記憶されている前記フライトパターンと、に基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記自機と前記受信機体と前記周辺機体との位置を推定し、
前記第2の時刻において前記自機から前記受信機体に電波を送信する際に、前記自機から送信される電波が前記周辺機体を回避するように前記電波の方向を制御する。
【0008】
本開示の移動体通信方法は、
自機の位置情報を取得し、
前記自機と通信を行う受信機体の位置情報と、前記自機の周辺に存在する周辺機体の位置情報と、を取得し、
前記自機と前記受信機体と前記周辺機体とのフライトパターンを記憶し、
前記自機が前記受信機体と通信を行う際に、前記自機のアンテナから送信される電波の方向を制御し、
前記自機のアンテナから送信される電波の方向を制御する際に、
第1の時刻における自機位置情報と、前記第1の時刻における前記受信機体および前記周辺機体の位置情報と、前記フライトパターンと、に基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記自機と前記受信機体と前記周辺機体との位置を推定し、
前記第2の時刻において前記自機から前記受信機体に電波を送信する際に、前記自機から送信される電波が前記周辺機体を回避するように前記電波の方向を制御する。
【0009】
本開示の移動体通信プログラムは、
自機の位置情報を取得する処理と、
前記自機と通信を行う受信機体の位置情報と、前記自機の周辺に存在する周辺機体の位置情報と、を取得する処理と、
前記自機と前記受信機体と前記周辺機体とのフライトパターンを記憶する処理と、
前記自機が前記受信機体と通信を行う際に、前記自機のアンテナから送信される電波の方向を制御する処理と、をコンピュータに実行させ、
前記自機のアンテナから送信される電波の方向を制御する処理において、
第1の時刻における自機位置情報と、前記第1の時刻における前記受信機体および前記周辺機体の位置情報と、前記フライトパターンと、に基づいて、前記第1の時刻よりも後の第2の時刻における前記自機と前記受信機体と前記周辺機体との位置を推定し、
前記第2の時刻において前記自機から前記受信機体に電波を送信する際に、前記自機から送信される電波が前記周辺機体を回避するように前記電波の方向を制御する。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、受信機体の受信の妨害及び周辺機体の通信の妨害を抑制したビームフォーミングによる通信ができる移動体通信装置、移動体通信方法及び移動体通信プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る移動体通信装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】第2の実施形態に係る移動体通信装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】第2の実施形態に係る移動体通信装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】第2の実施形態に係る移動体通信装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】第2の実施形態に係る送信機体が、時刻t+1において、受信機体にメッセージを送信する例を示す模式図である。
【
図6】第2の実施形態に係る送信機体が、時刻t+1において、受信機体にメッセージを送信する際、周辺機体が送信機体の電波の送信範囲に存在する例を示す模式図である。
【
図7】第3の実施形態に係る移動体通信装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】第3の実施形態に係る受信機体が送信機体との受信機体における受信状態を取得する動作を示すフローチャートである。
【
図9】第3の実施形態に係る送信機体が受信機体における受信状態を取得し、受信機体と通信を行う動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本開示を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
【0014】
まず、
図1を用いて、本開示の第1の実施形態に係る移動体通信装置1の構成を説明する。
図1は、第1の実施形態に係る移動体通信装置1の構成を示すブロック図である。移動体通信装置1は、自機位置情報取得部105、他機位置情報取得部107、フライトパターン記憶部106及びビームフォーミング制御部103を備える。
【0015】
移動体通信装置1は、例えば航空機などの移動体に搭載され、他の航空機とビームフォーミングによる通信を行う。以下、ビームフォーミングによる通信によって、電波を送信する側の航空機を送信機体S(不図示)、電波を受信する側の航空機を受信機体D(不図示)、自機の周辺に存在する航空機を周辺機体X(不図示)とする。
【0016】
自機位置情報取得部105は、自機の位置情報を取得する。他機位置情報取得部107は、自機と通信を行う受信機体Dの位置情報と、自機の周辺に存在する周辺機体Xの位置情報と、を取得する。フライトパターン記憶部106は、自機と受信機体Dと周辺機体とのフライトパターンを記憶する。ビームフォーミング制御部103は、自機が受信機体Dと通信を行う際に、自機のアンテナから送信される電波の方向を制御する。
【0017】
続いて、第1の実施形態に係る移動体通信装置1の動作を説明する。まず、自機位置情報取得部105は、自機の位置情報を取得する。次に、他機位置情報取得部107は、自機と通信を行う受信機体Dの位置情報と、自機の周辺に存在する周辺機体X(不図示)の位置情報と、を取得する。次に、ビームフォーミング制御部103は、第1の時刻における自機の位置情報と、第1の時刻における受信機体Dおよび周辺機体Xの位置情報と、フライトパターンと、に基づいて、第1の時刻よりも後の第2の時刻における自機と受信機体Dと周辺機体Xとの位置を推定する。そして、ビームフォーミング制御部103は、第2の時刻において自機から受信機体Dに電波を送信する際に、自機から送信される電波が周辺機体Xを回避するように電波の方向を制御する。
【0018】
このように、第1の実施形態に係る移動体通信装置1では、電波の送信範囲に周辺機体Xが存在する場合、周辺機体Xを回避、すなわち周辺機体Xに電波を送信することなく受信機体Dとビームフォーミングによる通信を行うことができる。よって、第1の実施形態に係る移動体通信装置1では、受信機体Dが周辺機体Xの陰にかくれることによって発生する受信機体Dの受信の妨害及び周辺機体Xの通信の妨害を防ぐことができる。
【0019】
(第2の実施形態)
続いて、
図2を用いて、本開示の第2の実施形態に係る移動体通信装置10、20の構成を説明する。
図2は、第2の実施形態に係る移動体通信装置10、20の構成を示すブロック図である。移動体通信装置10、20は、例えば航空機などの移動体に搭載される。移動体通信装置10は、送信部101、受信部102、ビームフォーミング制御部103、メッセージ生成部104、自機位置情報取得部105、フライトパターン記憶部106、他機位置情報取得部107及びメッセージ処理部108を備える。また、移動体通信装置20は、移動体通信装置10と同じ構成を有する通信装置であり、移動体通信装置10とビームフォーミングによる通信を行う。移動体通信装置20は、送信部201、受信部202、ビームフォーミング制御部203、メッセージ生成部204、自機位置情報取得部205、フライトパターン記憶部206、他機位置情報取得部207及びメッセージ処理部208を備える。本実施形態では、移動体通信装置10は送信機体Sに、移動体通信装置20は受信機体Dに搭載されている。なお、移動体通信装置20の構成要素は200番台の符号で示しており、これらの構成要素は移動体通信装置10が備える各構成要素(100番台の符号で示す)と同一であるので詳細な説明は省略する。
【0020】
送信部101は、送信アンテナを有し、移動体通信装置20の受信部202にメッセージを送信する。ここで、送信部101は、メッセージを含んだ信号を変調し、移動体通信装置20の受信部202に向けて電波を送信する。
【0021】
受信部102は、受信アンテナを有し、移動体通信装置20の送信部201が送信したメッセージの受信を行う。ここで、受信部102は、移動体通信装置20の送信部201が送信した電波を受信し、復調してメッセージを含んだ信号を取得する。
【0022】
ビームフォーミング制御部103は、自機位置情報取得部105、フライトパターン記憶部106、他機位置情報取得部107から取得したデータに基づいて、送信部101の送信アンテナにおける電波の送信方向及び送信範囲を制御する。また、ビームフォーミング制御部103は、メッセージ生成部104から供給されたメッセージを送信部101に送信する。
【0023】
メッセージ生成部104は、移動体通信装置20に送信するメッセージを生成し、生成したメッセージをビームフォーミング制御部103に供給する。
自機位置情報取得部105は、移動体通信装置10を搭載した航空機の航法システム等から定期的に自機の緯度、経度、高度、針路、加速度等の位置情報を取得し、取得した位置情報をビームフォーミング制御部103に供給する。ただし、取得する位置情報は、情報が更新されるまでにタイムラグがあるため、通知する時刻よりも所定の時間前の時刻に計測されたものである。
【0024】
フライトパターン記憶部106は、航空機のとる典型的な飛行経路のパターンとその時の針路、加速度等の情報をまとめたフライトパターンを記憶している。また、フライトパターン記憶部106は、ビームフォーミング制御部103からの問い合わせにより、各機体の位置情報に基づいて、格納されているフライトパターンの中から一番適切なフライトパターンを選択してビームフォーミング制御部103に送信する。
【0025】
他機位置情報取得部107は、受信機体Dの位置情報を取得し、取得した受信機体Dの位置情報をビームフォーミング制御部103に供給する。また、他機位置情報取得部107は、航空機に搭載されたレーダー等から自機の周辺に存在する航空機などの周辺機体Xの位置情報を取得し、取得した周辺機体Xの位置情報をビームフォーミング制御部103に供給する。ただし、取得された位置情報は、情報が更新されるまでにタイムラグがあるため、通知する時刻よりも所定の時間前の時刻に計測されたものである。
【0026】
メッセージ処理部108は、受信部102で受信したメッセージの受信処理を行う。メッセージ処理部108は、受信処理結果に従って、航空機のミッションコンピュータ等に受信したメッセージを通知する。
【0027】
続いて、
図3、
図4、
図5及び
図6を用いて、第2の実施形態に係る移動体通信装置10の動作を説明する。本実施形態では、一例として、時刻t+1において、移動体通信装置10を搭載した送信機体Sが移動体通信装置20を搭載した受信機体Dにメッセージを送信する場合について説明する。
図3及び
図4は、第2の実施形態に係る移動体通信装置10の動作を示すフローチャートである。
図5は、時刻t+1において、送信機体Sが受信機体Dにメッセージを送信する例を示す模式図である。
図5において、送信機体はS、受信機体はD、周辺機体はXで示される。送信機体Sの針路、飛行経路は、それぞれLs、Psで示される。受信機体Dの針路、飛行経路は、それぞれLd、Pdで示される。周辺機体Xの針路、飛行経路は、それぞれLx、Pxで示される。また、送信アンテナの送信範囲はRで示される。
【0028】
メッセージ生成部104は、送信部101が移動体通信装置20に送信するメッセージを生成する(S101)。そして、メッセージ生成部104は、生成したメッセージをビームフォーミング制御部103に供給する。
【0029】
送信の先送り時刻が時刻t+1から所定の時間内に指定されていない場合(S102 NO)、ビームフォーミング制御部103は、メッセージを破棄する(S103)。すなわち、移動体通信装置10は、受信機体Dにメッセージを送信しない。送信の先送り時刻とは、時刻t+1以前の動作において、メッセージの送信を先送りした場合、設定される時刻である。具体的には、S114で後述する。
一方、送信時刻の先送りが時刻t+1から所定の時間内に指定されている場合(S102 YES)、移動体通信装置10は、S104の処理に進む。
【0030】
自機位置情報取得部105は、時刻tまで(・・・、時刻t-1、時刻t)の送信機体Sの位置情報を取得する(S104)。そして、自機位置情報取得部105は、取得した送信機体Sの位置情報をビームフォーミング制御部103に供給する。
【0031】
他機位置情報取得部107は、時刻tまで(・・・、時刻t-1、時刻t)の受信機体Dの位置情報を取得する(S105)。そして、他機位置情報取得部107は、取得した受信機体Dの位置情報をビームフォーミング制御部103に供給する。
【0032】
他機位置情報取得部107は、時刻tまで(・・・、時刻t-1、時刻t)の周辺機体Xの位置情報を取得する(S106)。そして、他機位置情報取得部107は、取得した周辺機体Xの位置情報をビームフォーミング制御部103に供給する。ここで、他機位置情報取得部107は、複数の周辺機体Xにおける位置情報を取得できる。
【0033】
なお、自機位置情報取得部105及び他機位置情報取得部107は、時刻tまでの所定の時間における位置情報を取得してもよい。例えば、自機位置情報取得部105は、時刻t、時刻t-1、時刻t-2における自機の複数の位置情報を取得する。
【0034】
ビームフォーミング制御部103は、送信機体S、受信機体D及び周辺機体Xのフライトパターンを取得する(S107)。具体的には、ビームフォーミング制御部103は、自機位置情報取得部105及び他機位置情報取得部107が取得した位置情報を基に、フライトパターン記憶部106に問い合わせを行い、送信機体S、受信機体D及び周辺機体Xのフライトパターンを取得する。なお、ビームフォーミング制御部103は、受信機体Dの位置情報を他機位置情報取得部107から取得せずに受信機体Dが送信するメッセージから取得し、フライトパターン記憶部106に問い合わせを行ってもよい。
【0035】
ビームフォーミング制御部103は、位置情報とフライトパターンとを基に、時刻t+1における送信機体S、受信機体D及び周辺機体Xの位置を推定する(S108)。具体的には、
図5に示すように、ビームフォーミング制御部103は、時刻t-1及び時刻tにおける送信機体Sの位置情報(緯度、経度、高度、針路、加速度等)と、送信機体Sのフライトパターン(飛行経路等)を用いて、時刻t+1における送信機体Sの位置を推定する。ビームフォーミング制御部103は、受信機体D及び周辺機体Xに関しても同様に時刻t+1における位置を推定する。
【0036】
そして、ビームフォーミング制御部103は、送信機体S及び受信機体Dの時刻t+1における位置情報に基づいて、送信部101における送信アンテナにおける電波の送信方向及び送信範囲を決定する(S109)。具体的には、
図5に示すように、時刻t+1において、送信機体Sが送信アンテナにおける電波の送信方向及び送信範囲Rを決定する。
【0037】
次に、ビームフォーミング制御部103は、時刻t+1における周辺機体Xの位置情報に基づいて、送信部101の送信アンテナにおける電波の送信範囲に周辺機体Xが存在するか否かを判定する。
【0038】
図5に示すように、電波の送信範囲Rに周辺機体Xが存在しない場合(S110 NO)、ビームフォーミング制御部103は、送信部101を制御し、送信部101は、受信機体Dが搭載する移動体通信装置20の受信部202にメッセージを送信する(S111)。
【0039】
一方、
図6に示すように、電波の送信範囲に周辺機体Xが存在する場合(S110 YES)、ビームフォーミング制御部103は、時刻t+1における送信機体S、受信機体D及び周辺機体Xの位置情報に基づき、送信アンテナにおける電波の送信方向及び送信範囲Rを再計算する(S112)。この際、ビームフォーミング制御部103は、送信部101の送信アンテナにおける電波の送信範囲Rに周辺機体Xが入らないように、つまり、電波が周辺機体Xを回避するように送信アンテナの電波の送信方向及び送信範囲Rを再計算する。
【0040】
なお、電波の送信範囲に周辺機体Xが存在する場合(S110 YES)とは、
図6に示すように、時刻t+1における送信アンテナにおける送信範囲Rに、周辺機体Xが存在する場合である。つまり、
図6は、時刻t+1において、送信機体Sが受信機体Dにメッセージを送信する際、周辺機体Xが送信機体Sの電波の送信範囲Rに存在する例を示している。電波の送信範囲Rに周辺機体Xが存在すると、送信機体Sが送信した電波を周辺機体Xが受けることとなり、受信機体Dの電波の受信の妨害及び周辺機体Xの通信の妨害が発生する。
【0041】
次に、ビームフォーミング制御部103は、送信部101の送信アンテナにおける電波の送信範囲Rに周辺機体Xが存在するか否かを再度判定する。
電波の送信範囲Rに周辺機体Xが存在しない場合(S113 NO)、ビームフォーミング制御部103は、送信部101を制御し、送信部101は、受信機体Dが搭載する移動体通信装置20の受信部202にメッセージを送信する(S111)。
【0042】
一方、電波の送信範囲Rに継続して周辺機体Xが存在する場合(S113 YES)、ビームフォーミング制御部103は、電波の送信時刻の先送りをする(S114)。つまり、ビームフォーミング制御部103は、時刻t+1に電波を受信機体Dに送信するのではなく、時刻t+1よりも後の時刻に電波を送信するように送信部101を制御する。ここで、ビームフォーミング制御部103は、送信の先送り時刻を、次の時刻の時刻t+2など任意に設定してもよい。そして、移動体通信装置10は、処理を終了する。
【0043】
その後、先送りした時刻(例えば時刻t+2)になると、移動体通信装置10は、再度、S102以降の処理を行う。なお、時刻t+1において作成したメッセージは、記憶手段(不図示)に記憶しておいてもよい。また、時刻t+1において作成したメッセージを破棄し、再度、S101以降の処理を行ってもよい。
【0044】
受信機体Dが搭載する移動体通信装置20の受信部202は、移動体通信装置10の送信部101が送信した電波を受信する。受信部202は、受信した電波を復調し、復調した信号からメッセージを構成する。その後、受信部202は、構成したメッセージをメッセージ処理部208に送信する。メッセージ処理部208は、受信したメッセージに従って、航空機のミッションコンピュータ等に通知する。
【0045】
したがって、第2の実施形態に係る移動体通信装置10では、電波の送信範囲に周辺機体Xが存在する場合、周辺機体Xを回避、すなわち周辺機体Xに電波を送信することなく受信機体Dとビームフォーミングによる通信を行うことができる。よって、移動体通信装置10では、受信機体Dが周辺機体Xの陰にかくれることによって発生する受信機体Dの受信の妨害及び周辺機体Xの通信の妨害を防ぐことができる。
【0046】
また、ビームフォーミングでの通信では、電波の送信機体Sは、受信機体Dの方向を特定させるために、試験用の電波を受信機体Dに送信する。受信機体Dは、受信した電波の受信状況に関する情報を送信機体Sに送信する。送信機体Sは、受信機体Dから受信した受信状況に関する情報を用いて、受信機体Dの位置を推定する。しかしながら、通信を行う航空機は、ともに高速で移動しており相対的な位置が短時間に大きく変わるため、通信可能なタイミングが限られる。このため、この手法を用いて航空機間でビームフォーミングでの通信を行うことは困難である。具体的には、受信機体Dからの受信状況の通知が送信機体Sに通知される前に、受信機体Dの位置が他の位置に移動してしまうため、受信機体Dの方向を特定することが困難となり、ビームフォーミングでの通信が困難となる。
【0047】
第2の実施形態に係る移動体通信装置10では、送信機体Sは、受信機体Dの位置情報を受信機体Dから電波を受信することによって取得するのではなく、他機位置情報取得部107から取得する。そして、移動体通信装置10では、位置情報のタイムラグを考慮し、位置情報とフライトパターンとに基づいて、送信機体Sが受信機体Dにメッセージを送信する時刻における送信機体Sと受信機体Dとの位置を推定する。したがって、機体が高速で移動する場合でも、送信機体Sは、受信機体Dと通信することができる。
【0048】
(第3の実施形態)
続いて、
図7を用いて、本開示の第3の実施形態に係る移動体通信装置30、40の構成を説明する。
図7は、第3の実施形態に係る移動体通信装置30、40の構成を示すブロック図である。第3の実施形態に係る移動体通信装置30は、第2の実施形態に係る移動体通信装置10に、受信結果通知部109と受信結果処理部110を追加した構成を備える。移動体通信装置40は、移動体通信装置30と同様の構成を備える。つまり、第3の実施形態に係る移動体通信装置40は、第2の実施形態に係る移動体通信装置20に、受信結果通知部209と受信結果処理部210を追加した構成を備える。なお、第2の実施形態に係る移動体通信装置10、20と同一の構成要素には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0049】
受信結果通知部109は、受信部102が受信した電波の受信状態を記憶する。受信状態とは、例えば電波を復調した際の信号の強度及び信号のビット誤り率である。また、受信結果通知部109は、移動体通信装置30における受信状態を含むメッセージを生成し、生成したメッセージをビームフォーミング制御部103に供給する。ビームフォーミング制御部103は、信号の受信状態を含むメッセージを送信部101に供給し、送信部101から移動体通信装置40の受信部202に信号の受信状態を含むメッセージを送信させる。
【0050】
受信結果処理部110は、移動体通信装置40の送信部201から受信したメッセージをメッセージ処理部108から取得すると、メッセージに含まれる信号の受信状態を記憶手段(不図示)に記憶する。また、受信結果処理部110は、受信状態をビームフォーミング制御部103に供給する。ビームフォーミング制御部103は、信号の受信状態を基に、送信部101における電波の送信範囲を変更する。
【0051】
移動体通信装置40が備える受信結果通知部209、受信結果処理部210についても、上述した受信結果通知部109、受信結果処理部110と同様である。
【0052】
続いて、第3の実施形態に係る移動体通信装置30、40の動作を説明する。
まず、
図8に示すフローチャートを用いて、受信機体Dが受信機体Dにおける受信状態に関する情報を生成する場合の動作について説明する。この場合は、移動体通信装置30が送信機体Sに搭載され、移動体通信装置40が受信機体Dに搭載されているものとする。
【0053】
まず、受信機体Dが搭載する移動体通信装置40の受信結果通知部209は、受信機体Dにおける受信状態を記憶手段(不図示)から取得し、受信状態を含むメッセージを生成する(S201)。なお、記憶手段(不図示)に格納されている受信状態は、過去に送信機体S(移動体通信装置30)から受信した電波の受信状態に基づいて生成された情報である。受信結果通知部209は、生成したメッセージをビームフォーミング制御部203に供給する。ビームフォーミング制御部203は、送信部201を制御し、送信部201は、受信機体D(移動体通信装置40)における受信状態を含むメッセージを、送信機体Sが搭載する移動体通信装置30の受信部102に送信する(S202)。
【0054】
続いて、
図9に示すフローチャートを用いて、送信機体Sが受信機体Dにおける受信状態を取得し、受信機体Dと通信を行う動作を説明する。この場合も、移動体通信装置30が送信機体Sに搭載され、移動体通信装置40が受信機体Dに搭載されているものとする。
【0055】
送信機体Sが搭載する移動体通信装置30の受信部102は、受信機体Dが搭載する移動体通信装置40の送信部201から、受信機体Dにおける受信状態を含むメッセージを受信する(S301)。受信部102は、受信されたメッセージをメッセージ処理部108に供給する。メッセージ処理部108は、供給されたメッセージを受信結果処理部110に供給する。受信結果処理部110は、供給されたメッセージから、受信機体D(移動体通信装置40)における受信状態の情報を取得し、受信機体Dにおける受信状態の情報を記憶手段(不図示)に記憶する(S302)。
【0056】
そして、送信機体Sは、受信機体Dと通信を行う時刻t+1において、受信機体Dにおける受信状態を送信アンテナの送信方向及び送信範囲に反映する(S303)。この際、送信機体Sは、時刻t+1よりも前に取得した受信機体Dにおける受信状態の情報を用いる。
【0057】
具体的には、ビームフォーミング制御部103は、送信機体S、受信機体D及び周辺機体Xの時刻t+1における位置情報と受信機体Dにおける受信状態とに基づいて、送信部101の送信アンテナの送信方向及び送信範囲Rを制御する。
【0058】
また、
図6に示したように、電波の送信範囲に周辺機体Xが存在する場合(S110 YES)、ビームフォーミング制御部103は、送信機体S、受信機体D及び周辺機体Xの時刻t+1における位置情報と受信機体Dにおける受信状態とに基づいて、送信アンテナの電波の送信方向及び送信範囲Rを再計算する。この際、ビームフォーミング制御部103は、送信部101の送信アンテナにおける電波の送信範囲Rに周辺機体Xが入らないように、つまり、電波が周辺機体Xを回避するように、送信アンテナの向き及び送信範囲Rを再計算する。
【0059】
このように、第3の実施形態では、移動体通信装置30のビームフォーミング制御部103は、受信機体Dにおける受信状態を考慮した処理を行っている。具体的には、ビームフォーミングによる通信では、電波の送信範囲を狭め、電波の送信出力を上げることで、電波の送信出力が大きくなり、電波は遠くまで到達しやすくなる。そのため、受信機体Dにおける受信状態においてビット誤り率が所定の基準よりも高い場合には、ビームフォーミング制御部103は、送信部101の送信アンテナの送信範囲を狭くする。また、受信機体Dが近くにいる場合、つまり、ビット誤り率が所定の基準よりも低く、かつ無線強度が所定の基準よりも高くなっている場合、ビームフォーミング制御部103は、送信部101の送信アンテナの送信範囲を広げる。そうすることによって、送信機体Sは、受信機体Dが多少大きく移動しても、受信機体Dと通信できる。
【0060】
第3の実施形態に係る移動体通信装置30では、送信機体Sと受信機体Dとの電波の受信状態に基づいて、送信機体Sが受信機体Dに送信する電波の送信範囲を調節することができる。したがって、移動体通信装置30では、第2の実施形態に係る移動体通信装置10で奏する効果に加え、電波の受信状態を改善し、電波の受信の効率を高めることができる。
【0061】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0062】
上述の実施形態における各構成は、ハードウェア又はソフトウェア、もしくはその両方によって構成され、1つのハードウェア又はソフトウェアから構成してもよいし、複数のハードウェア又はソフトウェアから構成してもよい。各装置の機能(処理)を、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等を有するコンピュータにより実現してもよい。例えば、記憶装置に実施形態における方法を行うためのプログラムを格納し、各機能を、記憶装置に格納されたプログラムをCPUで実行することにより実現してもよい。
【0063】
これらのプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random Access memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【符号の説明】
【0064】
1 移動体通信装置
10 移動体通信装置
20 移動体通信装置
30 移動体通信装置
40 移動体通信装置
101 送信部
102 受信部
103 ビームフォーミング制御部
104 メッセージ生成部
105 自機位置情報取得部
106 フライトパターン記憶部
107 他機位置情報取得部
108 メッセージ処理部
109 受信結果通知部
110 受信結果処理部
201 送信部
202 受信部
203 ビームフォーミング制御部
204 メッセージ生成部
205 自機位置情報取得部
206 フライトパターン記憶部
207 他機位置情報取得部
208 メッセージ処理部
209 受信結果通知部
210 受信結果処理部
D 受信機体
Ls,Ld,Lx 針路
Ps,Pd,Px 飛行経路
R 送信範囲
S 送信機体
X 周辺機体