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特許7476675プリント化粧金属板、プリント化粧金属板の製造方法及びドア
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  • 特許-プリント化粧金属板、プリント化粧金属板の製造方法及びドア 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】プリント化粧金属板、プリント化粧金属板の製造方法及びドア
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20240423BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240423BHJP
   E06B 3/76 20060101ALI20240423BHJP
   C23C 28/00 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
B32B15/08 H
C23C26/00 A
E06B3/76
C23C28/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020096394
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187104
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 幹之
(72)【発明者】
【氏名】宮井 菜月
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-267177(JP,A)
【文献】特開2002-067263(JP,A)
【文献】特開平09-013178(JP,A)
【文献】特開2020-015248(JP,A)
【文献】特開2017-164942(JP,A)
【文献】特許第7230471(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B05D
C23C 24/00-30/00
E06B 3/54-3/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス製の部材と接した状態で用いられる金属板を備えるプリント化粧金属板であって、
前記金属板と、当該金属板の一方の面上に順に積層された、化成処理層、プライマーコート層、ベースコート層、絵柄層、及びトップコート層と、を有し、
前記金属板は、非合金化溶融亜鉛めっき鋼板であることを特徴とするプリント化粧金属板。
【請求項2】
前記化成処理層は、クロメートフリー処理により形成されることを特徴とする請求項1に記載のプリント化粧金属板。
【請求項3】
前記プライマーコート層は、焼付乾燥又は風乾されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプリント化粧金属板。
【請求項4】
前記トップコート層は、ポリエステル系樹脂、有機添加剤及び無機添加剤を含み、
前記トップコート層の塗布厚は、3μm以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のプリント化粧金属板。
【請求項5】
前記部材は、ドアの鍵穴であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のプリント化粧金属板。
【請求項6】
ステンレス製の部材と接した状態で用いられる金属板を備えるプリント化粧金属板の製造方法であって、
溶融亜鉛めっき鋼板のうち、合金化処理が施されていない非合金化溶融亜鉛めっき鋼板を前記金属板として用意するステップと、
前記金属板の一方の面上に、化成処理層と、プライマーコート層と、ベースコート層と、絵柄層と、トップコート層とをこの順に積層するステップと、
を備えることを特徴とするプリント化粧金属板の製造方法。
【請求項7】
プリント化粧金属板にステンレス製の鍵穴が設けられたドアであって、
前記プリント化粧金属板は、金属板と、当該金属板の一方の面上に順に積層された、化成処理層、プライマーコート層、ベースコート層、絵柄層、及びトップコート層と、を有し、
前記金属板は、非合金化溶融亜鉛めっき鋼板であることを特徴とするドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント化粧金属板、プリント化粧金属板の製造方法及びドアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属板の一方の面上に、プライマー層と、ベースコート層と、絵柄層と、トップコート層と、がこの順に積層されてなるプリント化粧金属板が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一般に、防火性能の観点から玄関ドアとして金属板が使用されており、玄関ドアとしてプリント化粧金属板が使用されることが多い。また、玄関ドアの取っ手部に形成されている鍵穴としては、耐食性を考慮してステンレス製のものが用いられることが多い。このような玄関ドアにおいては、しばしば鍵穴の周囲の表面材に赤錆等の腐食が発生する不具合が生じている。この現象は、電位の異なる2つの金属が電解質中で接触すると、イオン化傾向が下位の金属はイオン化が促進されるため、腐食が生じるものである。
【0004】
例えば、ステンレス製の鍵穴とプリント化粧金属板の場合には、電解質として、雨水や海岸地域であれば塩分を含んだ雨水を介在して2種類の金属が接触すると、イオン化傾向が下位の金属はイオン化が促進される。鍵穴に使用しているステンレスは、鉄を主成分としてクロムやニッケルを含有させた合金であり、イオン化傾向はCuと同等程度といわれている。プリント化粧金属板は、鋼材として、亜鉛により表面をめっきした鉄板を使用している。つまり、プリント化粧金属板は、亜鉛によりめっきし、さらにめっきの上に樹脂を塗布しているため、大気中で錆が発生することはなかった。ただし、鍵穴の周囲には、しばしば赤錆が発生する不具合が報告されていた。これは鍵穴に使用している材料がステンレス製のものが多く、ステンレス製の鍵穴とプリント化粧金属板に使用している溶融亜鉛めっき鋼板とが接触し、イオン化傾向がより低い溶融亜鉛めっき鋼板に錆が発生するものであった。
【0005】
従来の耐食性試験方法として、塩水噴霧試験や複合試験があるが、これらの試験では、玄関ドアの表面材である金属板単体、及び単体に傷を想定したクロスカットを表面に入れて、表面の膨れ度合を観察し、耐食性を評価してきた。この方法では、異種金属接触による腐食を予測することは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-164942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
異種金属接触を防ぐために、玄関ドアとしての金属板として、鍵穴と同じステンレス製鋼材を使用すること、また、鍵穴と溶融亜鉛めっき鋼板金属間の、樹脂量、トップコート量、めっき量、めっきの種類、等を変更することが考えられる。しかしながら、ステンレス製鋼材については、加工性が悪いため、加工方法に制限があり、価格も溶融亜鉛めっき鋼板と比較して高価であり、コストがかかる。そのため、耐食性を向上させつつ、コストを低減可能なプリント化粧金属板が望まれていた。
【0008】
そこで、この発明は、上記従来の未解決の課題に着目してなされたものであり、耐食性を向上させつつ、コスト低減を図ることの可能なプリント化粧金属板、プリント化粧金属板の製造方法、及びドアを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するべく、本発明の一態様に係るプリント化粧金属板は、ステンレス製の部材と接した状態で用いられる金属板を備えるプリント化粧金属板であって、金属板と、金属板の一方の面上に順に積層された、化成処理層、プライマーコート層、ベースコート層、絵柄層、及びトップコート層と、を有し、金属板は、非合金化溶融亜鉛めっき鋼板であることを特徴としている。
【0010】
また、本発明の他の態様に係るプリント化粧金属板の製造方法は、ステンレス製の部材と接した状態で用いられる金属板を備えるプリント化粧金属板の製造方法であって、溶融亜鉛めっき鋼板のうち、合金化処理が施されていない非合金化溶融亜鉛めっき鋼板を金属板として用意するステップと、金属板の一方の面上に、化成処理層と、プライマーコート層と、ベースコート層と、絵柄層と、トップコート層とをこの順に積層するステップと、を備えることを特徴としている。
【0011】
さらに、本発明の他の態様に係るドアは、プリント化粧金属板にステンレス製の鍵穴が設けられたドアであって、プリント化粧金属板は、金属板と、金属板の一方の面上に順に積層された、化成処理層、プライマーコート層、ベースコート層、絵柄層、及びトップコート層と、を有し、金属板は、非合金化溶融亜鉛めっき鋼板であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐食性を向上させつつ、コストを低減可能なプリント化粧金属板及びドアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るプリント化粧金属板の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
[構成]
図1に示すように、プリント化粧金属板1は、金属板2と、化成処理層3と、プライマーコート層4と、ベースコート層5と、絵柄層6と、トップコート層7と、を備えると共に、さらに、裏面化成処理層8と、裏面コート層9と、を備える。そして、金属板2の一方の面に、化成処理層3と、プライマーコート層4と、ベースコート層5と、絵柄層6と、トップコート層7とがこの順に積層され、金属板2の他方の面に、裏面化成処理層8と、裏面コート層9と、がこの順に積層されている。
【0016】
[金属板]
金属板2は、プリント化粧金属板1のベースとなる板である。金属板2の材料としては、非合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いる。非合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板表面に亜鉛めっき(金属被膜)が形成されているが、塗料との密着性及び耐食性の向上のための合金化処理は施されていない鋼板である。
【0017】
[化成処理層]
化成処理層3は、耐食性の向上のために、金属板2の一方の表面に設けられた化成被膜である。化成処理層3としては、例えば、クロメート被膜、クロメートフリー被膜を採用することができる。特に、環境負荷の面から、クロメートフリー被膜が望ましい。クロメートフリー被膜は、クロメートフリー処理(ノンクロメート処理)により形成することができる。クロメートフリー処理に使用する処理液としては、例えば、六価クロムを含有しない処理液、例えば、ジルコニウムZr、又はチタンTi、又はこれらの両方の塩を含む処理液、又はシランカップリング剤を含む処理液等を採用することができる。このような処理液を用いたクロメートフリー処理により、溶融亜鉛めっきの層上に、チタンTi、ジルコニウムZr、リンP、セリウムCe、シリコンSi、アルミニウムAl、リチウムLi、等を主成分として含有し、クロムを含有しないクロメートフリー被膜を形成することができる。つまり、クロメートフリー被膜は、例えば、チタンTi、ジルコニウムZr、リンP、セリウムCe、シリコンSi、アルミニウムAl、若しくはリチウムLi、又はこれらの任意の組み合わせを含む。
【0018】
[プライマーコート層]
プライマーコート層4は、ベースコート層5と化成処理層3との密着性・耐食性を向上させるための層である。プライマーコート層4の材料としては、ポリエステル系樹脂(約57%)、有機添加剤(約1%)及び顔料(約42%)を含むプライマーを用いる。
【0019】
[ベースコート層]
ベースコート層5は、プリント化粧金属板1に絵柄層6の下地色を付与するための層である。ベースコート層5の材料としては、ポリエステル系樹脂(約45%)、メラミン系樹脂(約15%)及び顔料(約40%)を含む顔料含有樹脂を用いる。顔料には、下地色の顔料が添加されている。また、ベースコート層5には、耐食性の向上のために、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂を添加してもよい。さらに、ベースコート層5には、耐食性を向上させるため、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、又は防錆剤を添加してもよい。さらに、ベースコート層5には、求められる性能に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤を添加してもよい。
【0020】
[絵柄層]
絵柄層6は、プリント化粧金属板1に絵柄による意匠性を付与するための層である。絵柄層6は、染料又は顔料等の着色剤を適当なバインダ樹脂とともに適当な希釈溶媒中に溶解又は分散してなる印刷インキ又は塗料等を用いて形成される。例えば絵柄層6の材料としては、ポリエステル系樹脂(約49%)、有機添加剤(約1%)及び顔料(約50%)等を含む印刷インキ又は塗料等を用いる。顔料としては、公知の顔料を用いることができ、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、鉄・複合酸化物、酸化鉄、有機顔料、メタリック顔料、パール顔料等を採用できる。これらのうち、鉄・複合酸化物は遮熱顔料として使用される。絵柄層6には、さらに求められる性能に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤を添加してもよい。
【0021】
印刷インキ又は塗料等は、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法又はインクジェット印刷等の各種印刷法や、グラビアコート法又はロールコート法等の各種塗工法等で塗布される。
絵柄層6の絵柄は、特に制限されるものではないが、例えば、木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様、文字、記号、単色無地等或いはこれらの2種類以上の組み合わせ等を用いることできる。
【0022】
[トップコート層]
トップコート層7は、プリント化粧金属板1に耐候性や曲げ加工性、耐傷付性、清掃性を付与するための透明な層である。トップコート層7の材料としては、例えば、ポリエステル系樹脂(約84%)、有機添加剤(約7%)及び無機添加剤(約9%)を含むトップコート剤を用いることができる。また、トップコート層7には、意匠性の向上のために、樹脂ビーズやシリカ等の骨材を添加してもよい。また、トップコート層7には、耐候性の向上のために、紫外線吸収剤等の耐候剤を添加してもよく、さらに、艶を調節するため、マット剤を添加してもよい。さらに、トップコート層7には、消臭性を付与するための添加剤や抗菌性を付与するための添加剤を添加してもよい。
また、トップコート層7と絵柄層6との層間には、意匠性の向上のために、マット導管印刷層を設けてもよい。
【0023】
[裏面化成処理層]
裏面化成処理層8は、耐食性の向上のために、金属板2の他方の表面に設けられた化成被膜であり、化成処理層3と同様に形成される。
【0024】
[裏面コート層]
裏面コート層9は、金属板2の他方の面、つまり、プリント化粧金属板1の裏面を被覆するための層である。裏面コート層9の材料としては、例えば、エポキシ系樹脂(約49%)及び無機添加剤(約51%)を用いることができる。なお、エポキシ系樹脂に代えて、ポリエステル系樹脂を使用してもよい。また、裏面コート層9には、耐食性の向上のために、防錆剤を添加するようにしてもよい。
【0025】
[効果]
以上説明したように、本発明の一実施形態にかかるプリント化粧金属板1は、金属板2の一方の面上に、化成処理層3と、プライマーコート層4と、ベースコート層5と、絵柄層6と、トップコート層7と、がこの順に積層されてなるものとした。このプリント化粧金属板1は、金属板2がステンレス製の部材と接触した状態で用いられるものであり、金属板2として、合金化されていない非合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いた。
【0026】
ここで、ステンレスのイオン化傾向は銅(Cu)と同等程度である。仮に、金属板2として、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いた場合、例えばこの合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いたプリント化粧金属板から玄関ドアを形成し、この玄関ドアにステンレス製の鍵穴を設けた場合、玄関ドアと鍵穴とが雨等により濡れ、雨等の電解質中で異なる金属どうしが接触した状態となった場合には、ステンレス製の鍵穴に対してイオン化傾向がより低い合金化溶融亜鉛めっき鋼板からなる金属板の方が電子を放出しやすい。
【0027】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に対して溶融亜鉛めっき処理後、加熱処理してめっき部の亜鉛と鉄とを合金化したものであり、めっき部分に10%程度の鉄を含んでいる。合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いたプリント化粧金属板からなる玄関ドアとステンレス製の鍵穴とが接触した状態で雨等にさらされると、イオン化傾向がより低い合金化溶融亜鉛めっき鋼板からなる金属板を含むプリント化粧金属板側で電子を放出しやすくなる。そして、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき部分に10%程度の鉄を含んでいるため、めっき部分に含まれる鉄が赤錆となり、ステンレス製の鍵穴の周囲に形成されると推測される。
【0028】
これに対し、本発明の一実施形態におけるプリント化粧金属板1は、金属板2として、非合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いている。そのため、ステンレス製の鍵穴とプリント化粧金属板1からなる玄関ドアとの間が接触し、種類の異なる金属どうしが接触することによって金属板2のイオン化が助長されたとしても、めっき部分にはほぼ鉄は含まれないため、めっき部に含まれる鉄により金属板2に赤錆が生じることを抑制することができる。
【0029】
その結果、玄関ドアの鍵穴の周囲に赤錆が生じることを抑制することができ、結果的に、玄関ドアの耐食性を安価で向上させることができる。
なお、上述した実施形態は、本発明の一例であり、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【実施例
【0030】
以下に、本発明の一実施形態に係るプリント化粧金属板1の実施例及び比較例について説明する。
[実施例1~実施例10]
表1に示すように、金属板2の種類や、化成処理層3及び8の種類、プライマーコート層4の種類及び乾燥塗布量、ベースコート層5の種類、添加剤の種類及び乾燥塗布量、トップコート層7の塗布厚を設定して、実施例1~実施例10のプリント化粧金属板1を作成した。例えば、実施例1では、JIS G 3302に準拠した厚さ0.4mmの非合金化溶融亜鉛めっき鋼板(SGC440鋼板)を金属板2として用意し、ジルコンフッ化水素酸系化成処理剤を用いて金属板2の両面に化成処理を施して化成処理層(クロメートフリー被膜)3及び8を形成した。続いて、金属板2の一方の面に裏面コート層9を設け、他方の面にプライマーを塗布してプライマーコート層4を設けた。プライマーの乾燥は、200℃以上で焼付乾燥を行った。プライマーとしてポリエステル系樹脂(約57%)、有機添加剤(約1%)及び顔料(約42%)を含むプライマーを用い、プライマーの乾燥塗布量は、9.5g/mとした。
【0031】
その後、顔料含有樹脂からなる市販のベースコートに各種添加剤(エポキシ系樹脂及びアクリル系樹脂)を添加し、このベースコートをプライマーコート層4の上に塗布した。ベースコートの乾燥塗布量は20g/mとした。これにより厚さ13μm程度のベースコート層5を設けた。ベースコート層5の乾燥は、200℃以上で焼付乾燥を行った。続いて、グラビアオフセット印刷方式により、厚さ数μm程度の絵柄層6を設け、さらにトップコートを9μm塗布して、厚さ10μm程度のトップコート層7を設けた。トップコート層7の乾燥は、200℃以上で焼付乾燥を行った。
【0032】
[比較例1~比較例6]
表2に示すように、金属板2の種類や、化成処理層3及び8の種類、プライマーコート層4の種類及び乾燥塗布量、ベースコート層5の種類、添加剤の種類及び乾燥塗布量、トップコート層7の塗布厚を設定して、比較例1~比較例6のプリント化粧金属板を作成した。例えば、比較例1では、JIS G 3302に準拠した厚さ0.4mmの合金亜鉛めっき鋼板(SGC440鋼板)を金属板2として使用した。そして、実施例1におけるプリント化粧金属板1の作製手順と同等の手順で、プリント化粧金属板を作製した。
【0033】
なお、表1及び表2において、金属板(原板)2としてSGC440鋼板又はSGCC鋼板を用い、化成処理層3、8として、ジルコンフッ化水素酸系化成処理剤又は炭酸ジルコニウムアンモニウム化成処理剤を用いてクロメートフリー被膜を作製した。また、プライマーとしてポリエステル系樹脂(約57%)、有機添加剤(約1%)及び顔料(約42%)を含むプライマーを用い、焼付乾燥又は風乾を行った。また、ベースコートとして、ポリエステル系樹脂(約45%)、メラミン系樹脂(約15%)及び顔料(約40%)を含む顔料含有樹脂からなる市販のベースコートを用い、添加剤としてエポキシ系樹脂及びアクリル系樹脂を添加した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
[性能評価]
実施例1~実施例10、比較例1~比較例6のプリント化粧金属板に対して、表1及び表2に示すように、「180度曲げ」、「90度曲げ」、「耐衝撃性」、「密着性」、「沸水試験」、「二次密着」、「加工性評価」、「塩水噴霧試験端部シール」、「塩水噴霧+鍵穴(ステンレス設置)」等の各種試験を行った。
【0037】
[180度曲げ]
180度曲げでは、JIS Z 2248に準じた試験を行った。具体的には、常温(25℃±5℃)環境下で、プリント化粧金属板を180度折り返す曲げ加工で、別名ヘミング加工とも呼ばれる加工を行った。180度曲げとしては、折り曲げたプリント化粧金属板に隙間がない0T曲げを行った。0T曲げでは、製品の縁を除去でき、安全性を向上でき、製品を補強でき、見栄えを向上できる。そして、塗膜に剥離やクラック、白化等の変化がなかった場合を合格「○」とし、変化があった場合を不合格「×」とした。
【0038】
[90度曲げ]
90度曲げでは、常温(25℃±5℃)環境下で、プリント化粧金属板を90度折り返す曲げ加工を行った。90度曲げ加工としては、曲げ内Rを1mmとする1R曲げを行った。そして、塗膜に剥離やクラック、白化等の変化がなかった場合を合格「○」とし、変化があった場合を不合格「×」とした。
【0039】
[耐衝撃性]
耐衝撃性では、JIS K 5600 5-3に準じた試験を行った。具体的には、デュポン式試験機を用いて、プリント化粧金属板に対して、半径(6.35±0.03mm(1/4インチ))の撃ち型を使用し、500±1gの重りを規定した高さから撃ち型に落とし、塗膜の剥離状態を確認した。そして、塗膜に異常がなく、且つセロテープ(登録商標)剥離による塗膜剥離がない場合を合格「○」とし、塗膜に異常が発生した場合や、セロテープ剥離による塗膜剥離が発生した場合を不合格「×」とした。
【0040】
[密着性]
密着性では、プリント化粧金属板の塗膜に直角の格子パターンを切り込み、1mm間隔の碁盤目を作製し、セロテープ剥離を行った際に素地からの塗膜剥離の有無で評価を行った。そして、塗膜剥離が発生しなかった場合を合格「○」とし塗膜剥離が発生した場合を不合格「×」とした。
【0041】
[沸水試験]
沸水試験では、プリント化粧金属板を沸騰水に5時間浸漬させた。そして、塗膜に収縮や剥離、変退色が発生しなかった場合を合格「○」とし、塗膜に収縮や剥離、変退色が発生した場合を不合格「×」とした。
【0042】
[二次密着評価]
二次密着評価では、プリント化粧金属板を沸騰水に5時間浸漬させた後、上記した密着性試験を行った。そして、塗膜剥離が発生しなかった場合を合格「○」とし、塗膜剥離が発生した場合を不合格「×」とした。
【0043】
[加工性評価]
加工性評価では、「180度曲げ」、「90度曲げ」の評価結果が良好「○」又は「△」であるものを合格「○」とし、良好でないものを不合格「×」とした。
【0044】
[塩水噴霧試験端部シール試験]
塩水噴霧試験端部シール試験では、濃度5%のNaCl水を噴霧した環境下に、平面部をクロスカットしたプリント化粧金属板を、所定時間(120h、250h、500h、750h、1000h)置いて目視で観察した。そして、2mm以上のブリスターが発生していた場合を不合格「×」、それ以外を合格「○」とした。
【0045】
[耐中性塩水噴霧性+鍵穴加工]
耐中性塩水噴霧性試験では、JIS K 5600 7-1に準じた試験を行った。具体的には、プリント化粧金属板の表面に直径36mm程度の孔をあけ、ステンレス製鍵穴を取り付けた。このプリント化粧金属板を塩水噴霧試験機に入れ、250時間経過後、鍵穴周りの状態を目視で確認した。そして、鍵穴周りに赤錆が生じている場合を不合格「×」、それ以外を合格「○」とした。
【0046】
[評価結果]
表1及び表2に示すように、実施例1~10のプリント化粧金属板1は、「180度曲げ」、「90度曲げ」、「耐衝撃性」、「密着性」、「沸水試験」、「二次密着」、「加工性評価」、「塩水噴霧試験端部シール試験」、「耐中性塩水噴霧性+鍵穴加工」の試験結果がすべて合格「○」となった。つまり、金属板2として、非合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いた場合には、原板としてSGC440鋼板、SGCC鋼板のいずれを用いた場合でも、良好な結果が得られた。また、原板として一般材(SGCC鋼板)を用いた場合と高張力材(SGC440鋼板)を用いた場合とで差はなかった。また、プライマーコート層となるプライマーを焼付乾燥する場合、風乾する場合、また、プライマーの塗布量が1.5g/mである場合、9.5g/mである場合、さらに、トップコート層の塗布厚が3μmである場合、6μmである場合、9μmである場合のいずれの場合にも、良好な結果が得られ、トップコート層の塗布量による違いはなかった。
【0047】
一方、比較例1~比較例6のプリント化粧金属板は、「180度曲げ」、「90度曲げ」、「耐衝撃性」、「密着性」、「沸水試験」、「二次密着」、及び「加工性評価」については、試験結果が全て合格「○」となった。また、比較例1~比較例6のプリント化粧金属板は、「塩水噴霧試験端部シール試験」については、ブリスターが発生することはなかったが、500h、750h、1000h置いた場合に、クロスカット部に赤錆が確認され、さらに、「耐中性塩水噴霧性+鍵穴加工」については、比較例1~比較例6の全てのプリント化粧金属板において赤錆が確認された。つまり、金属板2として、合金化めっき鋼板を用いた場合には、原板としてSGC440鋼板、SGCC鋼板のいずれを用いた場合でも、プリント化粧金属板に、ステンレス製の鍵穴を取り付けて塩水噴霧を行った場合に赤錆が発生し、また、金属板2として合金化めっき鋼板を用いたこと以外は、実施例5~10のプリント化粧金属板と同様の条件でプリント化粧金属板を作製した場合でも、赤錆が発生することが確認された。
【0048】
以上から、実施例1~10のプリント化粧金属板1、つまり、金属板2として合金化溶融亜鉛めっき鋼板ではなく、非合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いることにより、ステンレス製の鍵穴と接するプリント化粧金属板1の金属板2側の耐食性を向上可能であることが確認された。そして、プリント化粧金属板1の金属板2として、非合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いることにより、耐食性を向上させることができるため、プリント化粧金属板1を用いた玄関ドアにステンレス製の鍵穴を設けた場合の耐食性を、コスト低減を図りつつ向上させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0049】
1 プリント化粧金属板
2 金属板
3 化成処理層
4 プライマーコート層
5 ベースコート層
6 絵柄層
7 トップコート層
8 裏面化成処理層
9 裏面コート層
図1