(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20240423BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B60C11/03 C
B60C11/03 100C
B60C11/13 C
(21)【出願番号】P 2020116568
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】久次米 智之
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-173394(JP,A)
【文献】特開2009-101785(JP,A)
【文献】特開2018-020668(JP,A)
【文献】特開2019-051863(JP,A)
【文献】特開2017-013672(JP,A)
【文献】特開2002-012007(JP,A)
【文献】特開2014-141165(JP,A)
【文献】特開2018-076036(JP,A)
【文献】特開2010-105561(JP,A)
【文献】国際公開第2016/203836(WO,A1)
【文献】特開2008-222048(JP,A)
【文献】特開平9-226323(JP,A)
【文献】特開2015-171841(JP,A)
【文献】特開2016-97777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有する空気入りタイヤであって、
正規リムに正規内圧でリム組され、かつ、正規荷重の100%、75%及び50%を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときのそれぞれの接地端である、第1接地端、第2接地端及び第3接地端を備え、
前記第2接地端は、前記第1接地端よりもタイヤ軸方向の内側に位置し、
前記第3接地端は、前記第2接地端よりもタイヤ軸方向の内側で、かつ、タイヤ赤道の両側に位置し、
前記トレッド部のタイヤ赤道と前記第1接地端の一つとの間のトレッド半分領域には、前記第3接地端とタイヤ赤道との間でタイヤ周方向に連続して延びる1本の主溝と、前記主溝と前記第1接地端との間に区分されたショルダー領域とが設けられ、
前記ショルダー領域には、タイヤ軸方向に対して傾斜した少なくとも1本の第1傾斜溝が設けられており、
前記第1傾斜溝は、少なくとも前記第1接地端、前記第2接地端及び前記第3接地端と交差するように延びており、
前記第1傾斜溝の前記第1接地端での深さは、前記第1傾斜溝の前記第2接地端及び前記第3接地端での深さよりも小さい、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記トレッド部は、タイヤ赤道を挟む様に配された2本の前記主溝と、前記2本の主溝の間に区分されたクラウン領域と、前記クラウン領域を挟むように配された2つの前記ショルダー領域とを含む、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤ回転方向が指定され、
前記第1傾斜溝は、タイヤ軸方向外側に向かって前記タイヤ回転方向の反対側に傾斜している、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第1傾斜溝は、第1接地端と交差する外側部と、前記第2接地端及び前記第3接地端と交差しかつ前記外側部よりも大きい深さを有する本体部とを含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記第3接地端における前記第1傾斜溝のタイヤ軸方向に対する角度は、前記第1接地端における前記第1傾斜溝のタイヤ軸方向に対する角度よりも大きい、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記ショルダー領域には、タイヤ軸方向に対して傾斜した少なくとも1本の第2傾斜溝が設けられており、
前記第2傾斜溝は、前記第2接地端及び前記第3接地端と交差しており、かつ、前記第1接地端とは交差していない、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第2傾斜溝は、前記第3接地端と交差する第1部分を含み、
前記第1部分は、タイヤ軸方向内側に向かって深さが小さくなっている、請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記第2傾斜溝は、前記第2接地端と交差する第2部分を含み、
前記第2部分は、前記第2傾斜溝の長さ方向に一定の深さを有する、請求項6又は7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記第2傾斜溝のタイヤ軸方向の長さは、前記第1傾斜溝のタイヤ軸方向の長さの40%~60%である、請求項6ないし8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、公道走行が可能でありかつサーキット等でのスポーツ走行にも適したタイヤが提案されている。特許文献1のタイヤは、トレッド部のパターン要素が規定されることにより、トレッド部に作用する接地圧が小さい状況でも優れたグリップを発揮できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の高性能化に伴い、上述のようなスポーツ走行に適したタイヤには、高速旋回時の操縦安定性の向上が求められているが、公道走行時には、ウェット性能も確保する必要がある。
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、ウェット性能を確保しつつ高速旋回時の操縦安定性を向上させた空気入りタイヤを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有する空気入りタイヤであって、正規リムに正規内圧でリム組され、かつ、正規荷重の100%、75%及び50%を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときのそれぞれの接地端である、第1接地端、第2接地端及び第3接地端を備え、前記第2接地端は、前記第1接地端よりもタイヤ軸方向の内側に位置し、前記第3接地端は、前記第2接地端よりもタイヤ軸方向の内側で、かつ、タイヤ赤道の両側に位置し、前記トレッド部のタイヤ赤道と前記第1接地端の一つとの間のトレッド半分領域には、前記第3接地端とタイヤ赤道との間でタイヤ周方向に連続して延びる1本の主溝と、前記主溝と前記第1接地端との間に区分されたショルダー領域とが設けられ、前記ショルダー領域には、タイヤ軸方向に対して傾斜した少なくとも1本の第1傾斜溝が設けられており、前記第1傾斜溝は、少なくとも前記第1接地端、前記第2接地端及び前記第3接地端と交差するように延びており、前記第1傾斜溝の前記第1接地端での深さは、前記第1傾斜溝の前記第2接地端及び前記第3接地端での深さよりも小さい。
【0007】
本発明のタイヤにおいて、前記トレッド部は、タイヤ赤道を挟む様に配された2本の前記主溝と、前記2本の主溝の間に区分されたクラウン領域と、前記クラウン領域を挟むように配された2つの前記ショルダー領域とを含むのが望ましい。
【0008】
本発明のタイヤにおいて、タイヤ回転方向が指定され、前記第1傾斜溝は、タイヤ軸方向外側に向かって前記タイヤ回転方向の反対側に傾斜しているのが望ましい。
【0009】
本発明のタイヤにおいて、前記第1傾斜溝は、第1接地端と交差する外側部と、前記第2接地端及び前記第3接地端と交差しかつ前記外側部よりも大きい深さを有する本体部とを含むのが望ましい。
【0010】
本発明のタイヤにおいて、前記第3接地端における前記第1傾斜溝のタイヤ軸方向に対する角度は、前記第1接地端における前記第1傾斜溝のタイヤ軸方向に対する角度よりも大きいのが望ましい。
【0011】
本発明のタイヤにおいて、前記ショルダー領域には、タイヤ軸方向に対して傾斜した少なくとも1本の第2傾斜溝が設けられており、前記第2傾斜溝は、前記第2接地端及び前記第3接地端と交差しており、かつ、前記第1接地端とは交差していないのが望ましい。
【0012】
本発明のタイヤにおいて、前記第2傾斜溝は、前記第3接地端と交差する第1部分を含み、前記第1部分は、タイヤ軸方向内側に向かって深さが小さくなっているのが望ましい。
【0013】
本発明のタイヤにおいて、前記第2傾斜溝は、前記第2接地端と交差する第2部分を含み、前記第2部分は、前記第2傾斜溝の長さ方向に一定の深さを有するのが望ましい。
【0014】
本発明のタイヤにおいて、前記第2傾斜溝のタイヤ軸方向の長さは、前記第1傾斜溝のタイヤ軸方向の長さの40%~60%であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の空気入りタイヤは、上記の構成を採用したことによって、ウェット性能を確保しつつ、高速旋回時の操縦安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の展開図である。
【
図3】
図2の第1傾斜溝、第2傾斜溝及び第3傾斜溝の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本発明の一実施形態を示す空気入りタイヤ1(以下、単に「タイヤ1」という場合がある。)のトレッド部2の展開図である。本実施形態のタイヤ1は、例えば、乗用車用の空気入りタイヤであって、とりわけ公道走行が可能でありかつサーキット等でのスポーツ走行にも適した高性能タイヤである。
【0018】
本実施形態のタイヤ1は、例えば、回転方向Rが指定された方向性パターンを具えている。回転方向Rは、例えば、サイドウォール部(図示省略)に、文字又は記号で表示される。
【0019】
トレッド部2は、第1接地端T1、第2接地端T2及び第3接地端T3を備えている。第1接地端T1は、正規リムにリム組みされて正規内圧が充填された正規状態のタイヤに、正規荷重の100%を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときの接地端である。
【0020】
「正規リム」は、各種の規格が定められたタイヤの場合、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。各種の規格が定められていないタイヤの場合、「正規リム」は、タイヤの使用目的に応じた性能を十分に発揮できる標準的なリムを意味する。
【0021】
「正規内圧」は、各種の規格が定められたタイヤの場合、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。各種の規格が定められていないタイヤの場合、「正規内圧」は、タイヤの使用目的に応じた性能を十分に発揮できる標準的な内圧を意味する。
【0022】
「正規荷重」は、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。また、各種の規格が定められていないタイヤの場合、「正規荷重」は、タイヤの標準装着状態において、1つのタイヤに作用する荷重を指す。前記「標準装着状態」とは、タイヤの使用目的に応じた標準的な車両にタイヤが装着され、かつ、前記車両が走行可能な状態で平坦な路面上に静止している状態を指す。
【0023】
第2接地端T2は、前記正規状態のタイヤに、正規荷重の75%を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときの接地端である。同様に、第3接地端T3は、前記正規状態のタイヤに、正規荷重の50%を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときの接地端である。
【0024】
第2接地端T2は、第1接地端T1よりもタイヤ軸方向の内側に位置している。第3接地端T3は、第2接地端T2よりもタイヤ軸方向の内側で、かつ、タイヤ赤道の両側に位置している。
【0025】
トレッド部2には、タイヤ周方向に連続して延びる複数の主溝3が設けられている。本実施形態では、一方の第3接地端T3とタイヤ赤道Cとの間に1本の主溝3が設けられており、他方の第3接地端T3とタイヤ赤道Cとの間に1本の主溝3が設けられている。主溝3は、例えば、タイヤ周方向に平行に直線状に延びている。但し、主溝3は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、波状やジグザグ状に延びるものでも良い。
【0026】
タイヤ赤道Cから主溝3の溝中心線までの距離L1は、例えば、トレッド幅TWの5%~20%である。トレッド幅TWは、前記正規状態における一方の第1接地端T1から他方の第1接地端T1までのタイヤ軸方向の距離である。
【0027】
主溝3の溝幅W1は、例えば、トレッド幅TWの4.0%~7.0%である。主溝3の深さは、例えば、5~10mmである。但し、主溝3は、このような態様に限定されるものではない。
【0028】
トレッド部2は、1つのクラウン領域4と2つのショルダー領域5とを含む。クラウン領域4は、2本の主溝3の間に区分されている。ショルダー領域5は、1本の主溝3と第1接地端T1との間に区分されている。2つのショルダー領域5は、クラウン領域4を挟むように設けられている。これにより、トレッド部2のタイヤ赤道Cと第1接地端T1の一つとの間のトレッド半分領域2hには、1本の主溝3と、1つのショルダー領域5とが設けられている。
【0029】
図2には、ショルダー領域5の拡大図が示されている。
図2に示されるように、ショルダー領域5には、タイヤ軸方向に対して傾斜した少なくとも1本の第1傾斜溝6が設けられている。本実施形態のショルダー領域5には、複数の第1傾斜溝6がタイヤ周方向に並んでいる。
【0030】
第1傾斜溝6は、少なくとも第1接地端T1、第2接地端T2及び第3接地端T3と交差するように延びている。また、第1傾斜溝6の第1接地端T1での深さは、第1傾斜溝6の第2接地端T2及び第3接地端T3での深さよりも小さい。本発明のタイヤ1は、上記の構成を採用したことによって、ウェット性能を確保しつつ、高速旋回時の操縦安定性(以下、単に「操縦安定性」という場合がある。)を向上させることができる。その理由としては、以下のメカニズムが推察される。
【0031】
本発明では、第1傾斜溝6が各接地端と交差するように延びているため、接地圧が低い状況(例えば、旋回時の内側輪や、FF車両の後輪等)であっても第1傾斜溝6が十分な排水効果を発揮し、ウェット性能が確保される。
【0032】
一方、第1傾斜溝6の第1接地端T1の深さが、第1傾斜溝6の第2接地端T2及び第3接地端T3での深さよりも小さいため、第1接地端T1付近での剛性が高められ、高速旋回時の操縦安定性が向上すると考えられる。
【0033】
以下、本実施形態のさらに詳細な構成が説明される。なお、以下で説明される各構成は、本実施形態の具体的態様を示すものである。したがって、本発明は、以下で説明される構成を具えないものであっても、上述の効果を発揮し得るのは言うまでもない。また、上述の特徴を具えた本発明のタイヤに、以下で説明される各構成のいずれか1つが単独で適用されても、各構成に応じた性能の向上は期待できる。さらに、以下で説明される各構成のいくつかが複合して適用された場合、各構成に応じた複合的な性能の向上が期待できる。
【0034】
図1に示されるように、2つのショルダー領域5は、配置された溝の位相がタイヤ周方向に位置ずれしている点を除き、実質的にタイヤ赤道Cで線対称とされている。但し、本発明は、このような態様に限定されるものではない。
【0035】
本実施形態では、タイヤ赤道Cから第2接地端T2までのタイヤ軸方向の距離L2は、例えば、トレッド幅TWの35%~45%とされる。また、タイヤ赤道Cから第3接地端T3までのタイヤ軸方向の距離L3は、例えば、トレッド幅TWの25%~35%とされる。なお、このような構成は、トレッド部のゴム厚さや、トレッド補強層の配置など、公知の部材を適宜調整することにより得ることができる。
【0036】
本実施形態のショルダー領域5には、第1傾斜溝6に加え、第2傾斜溝7及び第3傾斜溝8が設けられている。第2傾斜溝7及び第3傾斜溝8の詳細な構成は、後述される。
【0037】
図2に示されるように、第1傾斜溝6のタイヤ周方向の1ピッチ長さP1は、例えば、ショルダー領域5のタイヤ軸方向の幅W2よりも大きい。具体的には、第1傾斜溝6の前記1ピッチ長さP1は、ショルダー領域5の前記幅W2の1.20~2.00倍である。このような第1傾斜溝6は、ウェット性能と操縦安定性とをバランス良く向上させる。
【0038】
第1傾斜溝6のタイヤ軸方向の長さL4は、例えば、ショルダー領域5の前記幅W2の85%~95%である。第1傾斜溝6は、タイヤ軸方向外側に向かってタイヤ1の回転方向Rの反対側に傾斜している。以下、本明細書において、このような傾斜の向きを「タイヤ軸方向に対して第1方向に傾斜している」という場合がある。
【0039】
第1傾斜溝6は、例えば、回転方向Rの反対側に向かって凸に湾曲している。第1傾斜溝6は、2つの溝縁のうち、湾曲の曲率半径の中心から遠い方の溝縁上に、第1傾斜溝6の内端6iと外端6oとを結ぶ仮想直線から最も離れた湾曲頂点6aを有している。本実施形態の第1傾斜溝6は、湾曲頂点6aを1つ備えるように湾曲している。
【0040】
第1傾斜溝6のタイヤ軸方向に対する角度は、例えば、10~45°である。本実施形態では、第3接地端T3における第1傾斜溝6のタイヤ軸方向に対する角度は、第1接地端T1における前記第1傾斜溝6のタイヤ軸方向に対する角度よりも大きい。第1接地端T1における前記角度は、第3接地端T3における前記角度の25%~35%である。このような第1傾斜溝6は、ウェット路面でのトラクション性能と旋回性能とをバランス良く向上させる。なお、本明細書において、傾斜溝の角度は、傾斜溝の溝中心線で測定されるものとする。
【0041】
図3には、第1傾斜溝6、第2傾斜溝7及び第3傾斜溝8の拡大図が示されている。
図3に示されるように、本実施形態の第1傾斜溝6は、例えば、ショルダー領域5内で途切れるタイヤ軸方向の内端6iを有している。第3接地端T3から第1傾斜溝6のタイヤ軸方向の内端6iからまでのタイヤ軸方向の距離L5は、例えば、ショルダー領域5のタイヤ軸方向の幅W2(
図2に示され、以下、同様である。)の25%~35%である。このような第1傾斜溝6は、接地圧が小さい状況でも、高い排水性を発揮できる。
【0042】
第1傾斜溝6のタイヤ軸方向外側の外端6oは、第1接地端T1よりもタイヤ軸方向外側に位置している。第1傾斜溝6の外端6oから第1接地端T1までのタイヤ軸方向の距離L6は、主溝3の溝幅W1(
図1に示され、以下、同様である。)よりも小さく、かつ、前記距離L5よりも小さいのが望ましい。具体的には、前記距離L6は、ショルダー領域5の前記幅W2の5%~10%である。これにより、第1傾斜溝6は、ウェット性能を確保しつつ、優れた操縦安定性を発揮できる。
【0043】
第2接地端T2から第1傾斜溝6の湾曲頂点6aまでのタイヤ軸方向の距離L7は、例えば、ショルダー領域5の前記幅W2の15%以下であり、望ましくは10%以下である。
【0044】
第1傾斜溝6は、例えば、最大の溝幅W3が形成される部分から、内端6i側及び外端6o側に向かって、溝幅が小さくなっている。第1傾斜溝6の最大の溝幅W3は、例えば、主溝3の溝幅W1の80%~120%である。このような第1傾斜溝6は、ウェット性能と操縦安定性とをバランス良く向上させるのに役立つ。
【0045】
図4には、第1傾斜溝6の断面形状を示す図として、
図2のA-A線断面図が示されている。
図4に示されるように、第1傾斜溝6は、第1接地端T1と交差する外側部11と、第2接地端T2及び第3接地端T3と交差する本体部12とを含む。
【0046】
外側部11の深さd1は、例えば、0.5~2.0mmであり、望ましくは0.8~1.2mmである。また、外側部11のタイヤ軸方向の長さL8は、第1傾斜溝6のタイヤ軸方向の長さL4(
図2に示され、以下、同様である。)の15%~25%である。これにより、高速旋回時の操縦安定性が確実に向上する。
【0047】
本実施形態では、外側部11のうち、第1接地端T1よりもタイヤ軸方向内側の領域のタイヤ軸方向の長さが、第1接地端T1よりもタイヤ軸方向外側の領域のタイヤ軸方向の長さよりも大きい。これにより、第1接地端T1付近の剛性がより向上し、高速旋回時における操舵の手応えがリニアになる。
【0048】
本体部12は、外側部11よりも大きい深さを有する。本体部12の最大の深さd2は、例えば、主溝3の深さの30%~80%である。これにより、ショルダー領域5の剛性が維持されつつ、ウェット性能が確保される。
【0049】
本体部12は、例えば、中央定深部12cと、外側傾斜部12oと、内側傾斜部12iとを含む。中央定深部12cは、一定の深さで第1傾斜溝6の長さ方向に延びている。外側傾斜部12oは、中央定深部12cから外側部11に向かって深さが小さくなっている。内側傾斜部12iは、中央定深部12cから第1傾斜溝6の内端6iに向かって深さが小さくなっている。本実施形態では、中央定深部12cが、第2接地端T2及び第3接地端T3と交差している。これにより、ウェット性能が確実に確保される。なお、
図3では、外側部11、外側傾斜部12o、中央定深部12c及び内側傾斜部12iの境界、並びに、溝縁に設けられた面取りが、細線で示されている。
【0050】
図2に示されるように、本実施形態のショルダー領域5には、第2傾斜溝7及び第3傾斜溝8のペアと、第1傾斜溝6とがタイヤ周方向に交互に設けられている。
【0051】
本実施形態の第2傾斜溝7は、例えば、第1傾斜溝6をタイヤ軸方向に平行に延長した領域と重複していない。第2傾斜溝7は、第2接地端T2及び第3接地端T3と交差しており、かつ、第1接地端T1とは交差していない。また、第2傾斜溝7のタイヤ軸方向の内端7iは、ショルダー領域5内で途切れている。第2傾斜溝7のタイヤ軸方向の長さL9は、例えば、第1傾斜溝6のタイヤ軸方向の長さL4の40%~60%である。このような第2傾斜溝7は、第1傾斜溝6と協働して優れたウェット性能を発揮し得る。
【0052】
第2傾斜溝7は、タイヤ軸方向に対して第1方向に傾斜している。第2傾斜溝7のタイヤ軸方向に対する角度は、例えば、15~45°である。
【0053】
第2傾斜溝7は、例えば、回転方向Rの反対側に向かって凸に湾曲している。第2傾斜溝7は、2つの溝縁のうち、湾曲の曲率半径の中心から遠い方の溝縁上に、第2傾斜溝7の内端7iと外端7oとを結ぶ直線から最も離れた湾曲頂点7aを有している。本実施形態の第2傾斜溝7は、湾曲頂点7aを1つ備えるように湾曲している。
【0054】
図3に示されるように、第3接地端T3から第2傾斜溝7のタイヤ軸方向の内端7iまでのタイヤ軸方向の距離L10は、第3接地端T3から第1傾斜溝6の内端6iまでのタイヤ軸方向の距離L5よりも小さい。具体的には、第3接地端T3から第2傾斜溝7のタイヤ軸方向の内端7iまでの前記距離L10は、ショルダー領域5の前記幅W2の5%~20%である。このような第2傾斜溝7は、接地圧が小さいときでも優れた排水性を発揮することができる。
【0055】
第2傾斜溝7のタイヤ軸方向外側の外端7oは、第1接地端T1と第2接地端T2との間に位置している。第2傾斜溝7の外端7oから第1接地端T1までのタイヤ軸方向の距離L11は、主溝3の溝幅W1よりも小さいのが望ましい。具体的には、前記距離L11は、ショルダー領域5の前記幅W2の5%~15%である。これにより、ウェット性能がさらに確実に確保される。
【0056】
第2接地端T2から第2傾斜溝7の湾曲頂点7aまでのタイヤ軸方向の距離L12は、例えば、ショルダー領域5の前記幅W2の10%以下であり、望ましくは5%以下である。
【0057】
第2傾斜溝7は、例えば、最大の溝幅W4が形成される部分から、内端7i側及び外端7o側に向かって、溝幅が小さくなっている。第2傾斜溝7の最大の溝幅W4は、例えば、主溝3の溝幅W1(
図1に示す)の80%~120%である。このような第2傾斜溝7は、ショルダー領域5の剛性を維持しつつ、優れた排水性を発揮し得る。
【0058】
図5には、第2傾斜溝7の断面形状を示す図として、
図2のB-B線断面図が示されている。
図4に示されるように、第2傾斜溝7は、第3接地端T3と交差する第1部分16と、第2接地端T2と交差する第2部分17とを含む。
【0059】
第1部分16は、例えば、タイヤ軸方向内側に向かって深さが小さくなっている。また、第2部分17は、第2傾斜溝7の長さ方向に一定の深さを有する。第2部分17の深さd3は、例えば、主溝3の深さの30%~80%である。このような第2部分17は、ウェット性能と操縦安定性とをバランス良く向上させる。
【0060】
第2傾斜溝7は、第2部分17のタイヤ軸方向外側において、第2部分17よりも小さい深さの第3部分18を含んでいる。本実施形態では、第2部分17から第3部分18に向かって深さが小さくなる傾斜部17oが構成されている。第3部分18の深さd4は、例えば、0.5~2.0mmであり、望ましくは0.8~1.2mmである。第3部分18のタイヤ軸方向の長さL13は、例えば、第2傾斜溝7のタイヤ軸方向の長さL9(
図2に示す)の5%~15%である。このような第3部分18は、ウェット性能と操縦安定性とをバランス良く向上させる。
【0061】
図2に示されるように、上述の効果をさらに高めるために、第3傾斜溝8は、例えば、第3接地端T3と主溝3との間に設けられている。第3傾斜溝8は、その両端がショルダー領域5の内部で途切れている。第3傾斜溝8のタイヤ軸方向の長さL14は、例えば、ショルダー領域5の前記幅W2の15%~25%である。
【0062】
第3傾斜溝8は、第2傾斜溝7をタイヤ軸方向に平行に延長した領域と重複しないのが望ましい。このような第3傾斜溝8は、上述の効果を発揮しつつ、ショルダー領域5の偏摩耗を抑制することができる。
【0063】
第3傾斜溝8は、タイヤ軸方向に対して第1方向に傾斜している。第2傾斜溝7のタイヤ軸方向に対する角度は、例えば、50~70°である。本実施形態では、第3傾斜溝8がタイヤ軸方向に対して第1傾斜溝6及び第2傾斜溝7よりも大きい角度で傾斜している。
【0064】
図3に示されるように、第3接地端T3から第3傾斜溝8のタイヤ軸方向の内端8iまでのタイヤ軸方向の距離L15は、第3接地端T3から第1傾斜溝6の内端6iまでのタイヤ軸方向の距離L5よりも大きい。具体的には、第3接地端T3から第3傾斜溝8の前記内端8iまでのタイヤ軸方向の距離L15は、例えば、ショルダー領域5のタイヤ軸方向の幅W2の30%~40%である。これにより、ウェット走行時、第3傾斜溝8が排水した水が第2傾斜溝7側に案内され、より高い排水性が発揮される。
【0065】
第3傾斜溝8のタイヤ軸方向外側の外端8oは、第1傾斜溝6の内端6iよりもタイヤ軸方向外側であり、かつ、第2傾斜溝7の内端7iよりもタイヤ軸方向内側である。第3接地端T3から第3傾斜溝8の外端8oまでのタイヤ軸方向の距離L16は、例えば、ショルダー領域5の前記幅W2の10%~20%である。このような第3傾斜溝8は、第1傾斜溝6及び第2傾斜溝7の排水性を補うことができる。
【0066】
第3傾斜溝8は、例えば、その長さ方向の中央部から内端8i及び外端8oに向かって溝幅が小さくなっている。第3傾斜溝8の最大の溝幅W5は、主溝3の溝幅W1、第1傾斜溝6の溝幅W3及び第2傾斜溝7の溝幅W4よりも小さい。具体的には、第3傾斜溝8の前記溝幅W5は、主溝3の溝幅W1の30%~50%である。このような第3傾斜溝8は、操縦安定性を損なわずに、排水性を高めることができる。
【0067】
操縦安定性の低下を確実に防ぐために、第3傾斜溝8の最大の深さは、例えば、第1傾斜溝6の最大の深さよりも小さく、かつ、第2傾斜溝7の最大の深さよりも小さい。本実施形態の第3傾斜溝8の深さは、例えば、0.5~2.0mmであり、望ましくは0.8~1.2mmである。また、第3傾斜溝8は、その長さ方向に一定の深さを有している。
【0068】
図6には、クラウン領域4の拡大図が示されている。
図6に示されるように、クラウン領域4のタイヤ軸方向の幅W6は、例えば、トレッド幅TWの15%~25%である。
【0069】
クラウン領域4には、例えば、第1サイプ21と第2サイプ22とが設けられているのが望ましい。本明細書において、「サイプ」とは、微小な幅を有する切れ込み要素であって、互いに向き合う2つのサイプ壁の間の幅が1.5mm以下のものを指す。サイプの前記幅は、望ましくは0.3~1.2mmであり、より望ましくは0.5~1.0mmである。本明細書では、ある切れ込み要素の横断面において、幅が1.5mm以下の領域をその全深さの50%以上含むものは、幅が1.5mmを超える領域を一部に含むものであっても、サイプ(溝要素を含むサイプ)として扱うものとする。また、ある切れ込み要素の横断面において、幅が1.5mmよりも大きい領域をその全深さの50%以上含むものは、幅が0.6mm以下の領域を一部に含むものであっても、溝(サイプ要素を含む溝)として扱うものとする。
【0070】
第1サイプ21は、一方の主溝3から延びかつクラウン領域4内で途切れている。第2サイプ22は、他方の主溝3から延びかつクラウン領域4内で途切れている。第1サイプ21のタイヤ軸方向の長さL17及び第2サイプ22のタイヤ軸方向の長さL18は、例えば、クラウン領域4のタイヤ軸方向の幅W6の25%~35%である。これにより、クラウン領域4は、タイヤ周方向に連続する部分を有している。第1サイプ26及び第2サイプ27は、ウェット性能と操縦安定性とをバランス良く向上させる。
【0071】
第1サイプ21及び第2サイプ22は、連通する主溝3からタイヤ赤道Cに向かって、タイヤの回転方向Rとは反対側に傾斜している。第1サイプ21及び第2サイプ22のタイヤ軸方向に対する角度は、例えば、10°以下である。これにより、ウェット路面でのトラクション性能が向上する。
【0072】
以上、本発明の一実施形態のタイヤが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例】
【0073】
図1の基本パターンを有するサイズ205/55R16の空気入りタイヤが表1の仕様に基づき試作された。比較例として、
図1に基本パターンを有し、かつ、第1傾斜溝の第1接地端での深さが、第1傾斜溝の第2接地端及び第3接地端での深さと同じであるタイヤが試作された。各テストタイヤは、上述の点を除き、実質的に同じ構成を具えている。各テストタイヤの高速旋回時の操縦安定性及びウェット性能がテストされた。テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
装着リム:16×6.5J
タイヤ内圧:230kPa
テスト車両:排気量2000cc、FR車両
タイヤ装着位置:全輪
【0074】
<高速旋回時の操縦安定性>
上記テスト車両でドライ路面からなるサーキットで高速旋回したときの操縦安定性が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例を100とする評点であり、数値が大きい程、高速旋回時の操縦安定性が優れていることを示す。
【0075】
<ウェット性能>
上記テスト車両で、ウェット路面からなる一般道を走行したときのウェット性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例を100とする評点であり、数値が大きい程、ウェット性能が優れていることを示す。
テスト結果が表1に示される。
【0076】
【0077】
テストの結果、実施例のタイヤは、ウェット性能を確保しつつ、高速旋回時の操縦安定性を向上させていることが確認できた。
【符号の説明】
【0078】
2 トレッド部
2h トレッド半分領域
3 主溝
5 ショルダー領域
6 第1傾斜溝
T1 第1接地端
T2 第2接地端
T3 第3接地端