(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ポリアミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 69/16 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
C08G69/16
(21)【出願番号】P 2020136571
(22)【出願日】2020-08-13
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】松浦 綱男
(72)【発明者】
【氏名】土井 隆志
(72)【発明者】
【氏名】古谷 敏男
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-286718(JP,A)
【文献】特開昭63-86723(JP,A)
【文献】特表2018-527429(JP,A)
【文献】特開昭63-46220(JP,A)
【文献】特表2014-528018(JP,A)
【文献】特開昭60-53536(JP,A)
【文献】特開昭61-106623(JP,A)
【文献】特開平5-170896(JP,A)
【文献】特開平2-124937(JP,A)
【文献】特開昭60-99128(JP,A)
【文献】特開平2-3427(JP,A)
【文献】国際公開第94/017124(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0032357(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ラクタムで封止されているポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物とを混合し、混合物を150℃~180℃に昇温させ、その温度を0.1~5時間保持した後、150℃未満まで降温させて、ポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤を得る工程、及び
(b)前記開始剤とラクタムとをアルカリ触媒の存在下100℃~200℃で重合させる工程
を含む、ポリアミドの製造方法であって、
前記ポリアミン化合物が、ポリアルキレンポリアミン化合物又はポリオキシアルキレンポリアミン化合物であり、
前記工程(a)において、前記ポリイソシアネート化合物の前記開始剤への転化率が、85%以上である、ポリアミドの製造方法。
【請求項2】
前記開始剤が、前記ポリイソシアネート化合物のモル数:前記ポリアミン化合物のアミノ基のモル数=1:1のモル比でポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤である、請求項1に記載のポリアミドの製造方法。
【請求項3】
前記ポリアミン化合物が、下記式(1):
【化5】
(式中、x
1は、1~5であり、y
1は、1~5であり、Mは、1~15である。)、
式(2):
【化6】
(式中、x
2、y
2、zは、各々独立して、1~10である。)
又は式(3):
【化7】
(式中、nは、5~50である。)
で表される化合物である、請求項1又は2に記載のポリアミドの製造方法。
【請求項4】
前記ポリイソシアネート化合物が、脂肪族ジイソシアネート化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミドの製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)におけるポリアミン化合物の量が、前記工程(b)におけるラクタムの量に対して、1~50重量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン重合によるポリアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクタム類をアルカリ触媒及び助触媒の作用で重合させる方法としてアニオン重合が知られている。このアニオン重合を利用した反応射出成形法(Nylon Reaction Injection Molding:ナイロンRIM)や注型成形法(モノマーキャストナイロン)は、ポリアミドの融点以下において短時間(数分)でラクタム類の重合と成形を同時に行うことが特徴である。この方法で得られたポリアミドは、水や酸触媒などで重合されたポリアミドに比べ、高分子量化が可能であるため、引張強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率などの機械的性質や耐熱性などが優れており、また原料が低粘度の液体のため、型内の隅々まで含浸され、大型で薄肉の成型が可能となることなどから、各種の機械材料や工業材料、及び炭素繊維やガラス繊維などとの複合材料として使用されている。
【0003】
特許文献1には、ω-ラクタム及びポリオキシアルキレンポリアミンを、アルカリ触媒及び多官能助触媒の作用で共重合させることを含む、ポリアミドの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車や航空機の軽量化に伴い対衝撃性や靭性を高めた、より柔軟性のあるポリアミドが求められている。
【0006】
本発明は、優れた柔軟性を有するポリアミドをアニオン重合により製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
本発明の第一の実施形態は、
(a)ラクタムで封止されているポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物とを混合し、混合物を150℃~180℃に昇温させ、その温度を0.1~5時間保持した後、150℃未満まで降温させて、ポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤を得る工程、及び
(b)前記開始剤とラクタムとをアルカリ触媒の存在下100℃~200℃で重合させる工程
を含む、ポリアミドの製造方法であって、
前記ポリアミン化合物が、ポリアルキレンポリアミン化合物又はポリオキシアルキレンポリアミン化合物であり、
前記工程(a)において、ポリイソシアネート化合物の前記開始剤への転化率が、85%以上である、ポリアミドの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、優れた柔軟性を有するポリアミドをアニオン重合により製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリアミドの製造方法は、
(a)ラクタムで封止されているポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物とを混合し、混合物を150℃~180℃に昇温させ、その温度を0.1~5時間保持した後、150℃未満まで降温させて、ポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤を得る工程、及び
(b)前記開始剤とラクタムとをアルカリ触媒の存在下100℃~200℃で重合させる工程を含む。
ここで、前記ポリアミン化合物は、ポリアルキレンポリアミン化合物又はポリオキシアルキレンポリアミン化合物である。
また、前記工程(a)において、ポリイソシアネート化合物の開始剤への転化率は、85%以上である。
本発明のポリアミドの製造方法によれば、ラクタムで封止されているポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物とを150℃~180℃で0.1~5時間反応させることにより、ポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤が得られる。この開始剤の構造としては、例えば末端封止ポリイソシアネート化合物が末端封止ジイソシアネート化合物で、ポリアミン化合物がジアミン化合物の場合、(ジイソシアネート化合物)-(ジアミン化合物)-(ジイソシアネート化合物)となる。なお、開始剤の両端に存在するイソシアネート基は、150℃未満の温度ではラクタムで封止される。この開始剤の両端に存在するイソシアネート基を封止したラクタムが起点となり、アルカリ触媒の作用でラクタムのアニオン重合が進んでいく。その結果、ポリアミン化合物に由来するソフトセグメントを、ポリアミド部分に由来するハードセグメントの中心部に組み入れることができ、柔軟性に優れたポリアミドを製造することができる。事前にポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物とを反応させて開始剤を得ることにより、ポリアミド1分子内に確実にソフトセグメントを1つ導入することができ、柔軟性付与に寄与していると考えられる。
【0010】
[ポリイソシアネート化合物]
ポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基を2以上有する化合物をいい、脂肪族ポリイソシアネート化合物又は芳香族ポリイソシアネート化合物であり得るが、柔軟性をより高める観点から、脂肪族ポリイソシアネート化合物が好ましく、脂肪族ジイソシアネート化合物がより好ましい。
脂肪族ポリイソシアネート化合物の例としては、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ウンドデカメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、水添メタキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。芳香族ジイソシアネート化合物の例としては、メタキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(フェニルイソシアネート)等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物は、上記ポリイソシアネート化合物のビウレット、ウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート等の化合物であってもよい。これらは単独で使用してもよく、また、2種以上を併用してもよい。
【0011】
本発明において、ポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基にラクタムが結合することにより、ラクタムで封止されている。本明細書中において、ラクタムで封止されているポリイソシアネート化合物を、末端封止ポリイソシアネート化合物ともいう。末端封止ポリイソシアネート化合物は、150℃以上の温度にて、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に結合しているラクタムが解離し、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基が活性化される。この活性化されたイソシアネート基が、ポリアミン化合物のアミノ基と反応し、ポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤が得られる。末端封止ポリイソシアネート化合物を使用することにより、ポリイソシアネート化合物の保存安定性及び取扱いにおける安全性を高めるとともに、イソシネート基同士が反応したビウレット、イソシアヌレート等のポリイソシアネート3量体やウレトジオン等のポリイソシアネート2量体等など副反応を抑制することで、有効なイソシアネート基の数を減少させることなく、ポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤を安定して得ることができる。また、得られる開始剤の末端のイソシアネート基は、150℃未満の温度では再度ラクタムで封止され、開始剤の保存安定性を高めることができる。その結果、得られるポリアミドの柔軟性が向上する。
【0012】
封止に用いられるラクタムとしては、4-アミノブタン酸ラクタム(γ-ラクタム)、5-アミノペンタン酸ラクタム(δ-ラクタム)、6-アミノヘキサン酸ラクタム(ε-ラクタム;カプロラクタム)、7-アミノヘプタン酸ラクタム(ω-ラクタム)、8-アミノオクタン酸ラクタム(η-ラクタム)、9-ノナン酸ラクタム(θ-ラクタム)、10-デカン酸ラクタム(ω-デカノラクタム)、11-ウンデカン酸ラクタム(ω-ウンデカノラクタム)、及び12-ドデカン酸ラクタム(ω-ドデカノラクタム;ラウロラクタム)からなる群より選択される。中でも、汎用性、経済性や入手しやすさの観点から、6-アミノヘキサン酸ラクタム(ε-ラクタム;カプロラクタム)が好ましい。これらは単独で使用してもよく、また、2種以上を併用してもよい。
【0013】
ラクタムで封止されているポリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシネートがε-ラクタムで封止されたN,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)が好ましい。
【0014】
[ポリアミン化合物]
本発明において、ポリアミン化合物は、ポリアルキレンポリアミン化合物又はポリオキシアルキレンポリアミン化合物である。これにより、ポリアミン化合物に由来する基がソフトセグメントとなって、ポリアミドに柔軟性を付与することができる。
【0015】
ポリアルキレンポリアミン化合物は、アミノ基を2以上及びポリアルキレン基を有する化合物である。アミノ基としては、1級アミノ基、2級アミノ基のいずれであってもよい。ポリアルキレン基としては、炭素数3~30の直鎖、分岐、環式の、飽和又は不飽和のアルキレン基であり、アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、シアノ基及びハロゲンからなる群より選択される置換基を有していてもよい。ポリアルキレンポリアミン化合物は、アミノ基及びポリアルキレン基以外に、主鎖中にアミド基、エステル基、炭素数1~2のアルキレン基又は複素環基を有していてもよい。ポリアルキレンポリアミン化合物の分子量は、柔軟性を付与する観点から、300~20,000であることが好ましく、500~10,000であることがより好ましい。
【0016】
ポリアルキレンポリアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン、分岐型飽和ジアミン、脂環式ジアミン、分岐脂環式ジアミン、及びノルボルナンジアミンが挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、1,5-ヘプタレンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン等が挙げられる。分岐型飽和ジアミンとしては、例えば、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-ペンタンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン等が挙げられる。脂環式ジアミンとしては、例えば、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、1,3-/1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、ビス(アミノエチル)ピペラジン、トリシクロデカンジメチルアミン等が挙げられる。分岐脂環式ジアミンとしては、例えば、5-アミノ-2,2,4-トリメチル-1-シクロペンタンメチルアミン、5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキサンメチルアミン(「イソホロンジアミン」ともいう)等が挙げられる。ノルボルナンジアミンとしては、例えば、2,5-ノルボナンジメチルアミン、2,6-ノルボナンジメチルアミン等が挙げられる。これらの化合物主鎖中に含まれる複数のポリアルキレン基の配列は、ランダム又はブロック状に分布していてもよい。また、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
ポリアルキレンポリアミン化合物として好ましくは、下記式(1):
【化1】
(式中、x
1は、1~5であり、y
1は、1~5であり、Mは、1~15である。)
で表される化合物である。
【0018】
ポリオキシアルキレンポリアミン(別名:ポリエーテルポリアミン)化合物は、ベース骨格にポリオキシレン基(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等)を有し、アミノ基を2以上有する化合物である。アミノ基としては、1級アミノ基、2級アミノ基のいずれであってもよい。ポリオキシアルキレン基中のアルキレン基は、炭素数2~10の直鎖、分岐、環式の、飽和又は不飽和のアルキレン基であり、アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、シアノ基及びハロゲンからなる群より選択される置換基を有していてもよい。ポリオキシアルキレンポリアミン化合物は、アミノ基及びポリオキシアルキレン基以外に、主鎖中にアミド基、エステル基、炭素数1~2のアルキレン基又は複素環基を有していてもよい。ポリオキシアルキレンポリアミン化合物の分子量は、柔軟性を付与する観点から、300~20,000であることが好ましく、500~10,000であることがより好ましい。
【0019】
ポリオキシアルキレンポリアミン化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシテトラメチレンジアミン、ポリ(オキシエチレン-オキシプロピレン)ジアミン、トリエチレングリコールジアミン、トリプロピレングリコールジアミン、ブタンジオールポリアルキレングリコールジアミン、レゾルシンポリアルキレングリコールジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリオキシエチレントリアミン、ポリ(プロピレングリコール)トリアミン、グリセリンポリアルキレングリコールトリアミン、ビス(トリエチレングリコールアミン)アミン、ビス(ポリアルキレングリコールアミン)アミン等のポリオキシアルキレントリアミン;ペンタエリスロールポリアルキレングリコールテトラアミン、N,N′-ビス(ポリプロピレングリコールアミン)-ポリアルキレングリコールジアミン等のポリオキシアルキレンテトラアミン等が挙げられる。これらの化合物主鎖中に含まれる複数のポリアルキレン基及びポリオキシアルキレン基の配列は、ランダム又はブロック状に分布していてもよい。また、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
ポリオキシアルキレンポリアミン化合物として好ましくは、下記式(2):
【化2】
(式中、x
2、y
2、zは、各々独立して、1~10である。)
又は下記式(3):
【化3】
(式中、nは、5~50である。)
で表される化合物である。
【0021】
工程(a)において用いるポリアミン化合物は、水分率が1000ppm以下であることが好ましく、900ppm以下であることがより好ましい。これにより、ポリイソシアネート化合物が水と反応することを防ぎ、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との反応率を高めることができるとともに、アニオン重合の際アルカリ触媒の加水分解を抑制することができる。
【0022】
ラクタムで封止されているポリイソシアネート化合物でも、アニオン重合の開始剤になるが、本発明では、優れた柔軟性を有するポリアミドを製造するために、分子内にポリアミン化合物を含む開始剤をアニオン重合に用いる。
本発明のポリアミドの製造方法において、ラクタムで封止されているポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物とを混合し、混合物を150℃~180℃に昇温させ、その温度を0.1~5時間保持した後、150℃未満まで降温させて、ポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤を得る(工程(a))。ラクタムで封止されているポリイソシアネート化合物は、150℃以上の温度にて、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に結合しているラクタムが解離し、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基が活性化される。この活性化されたイソシアネート基が、ポリアミン化合物のアミノ基と反応し、ポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤が得られる。ラクタムで封止されているポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との反応温度は、ポリイソシアネート化合物の副反応を抑制する観点から、180℃以下とする。ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との反応が完了した後、開始剤の両端に存在するイソシアネート基をラクタムで封止するため、150℃未満まで降温させる。
【0023】
開始剤は、ポリイソシアネート化合物のモル数:ポリアミン化合物のアミノ基のモル数=1:1のモル比でポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤であることが好ましい。これにより、例えば末端封止ポリイソシアネート化合物が末端封止ジイソシアネート化合物で、ポリアミン化合物がジアミン化合物の場合、開始剤の構造は、(ジイソシアネート化合物)-(ジアミン化合物)-(ジイソシアネート化合物)となる。
ポリイソシアネート化合物のモル数:ポリアミン化合物のアミノ基のモル数=1:1のモル比でポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤は、反応に使用するポリイソシアネート化合物及びポリアミン化合物の量を、ポリイソシアネート化合物のモル数:ポリアミン化合物のアミノ基のモル数=1:1のモル比でポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤を得るのに有効な量に調整することにより、得ることができる。そのような量としては、例えば、ポリアミン化合物のアミノ基が1級アミノ基である場合、1級アミノ基の反応性が高いため、ポリイソシアネート化合物のモル数:ポリアミン化合物のアミノ基のモル数=0.8~1:1となる量で反応に使用することができる。また、例えば、ポリアミン化合物のアミノ基が2級アミノ基である場合、2級アミノ基の反応性は1級アミノ基の反応性より低くなるため、ポリイソシアネート化合物のモル数:ポリアミン化合物のアミノ基のモル数=0.3~0.5:1となる量で反応に使用することができる。この混合比は、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との反応速度及び転化率を観察することにより、実験的に決定することができる。例えば、反応に使用するポリアミン化合物のアミノ基のモル数が上記ポリイソシアネート化合物とのモル比より多い場合は、アミノ基がポリイソシアネート化合物中の複数のイソシアネート基と反応するため、残存するイソシアネート基の数が減少することで重合速度遅延や分子量の変動等アニオン重合の反応に影響を与える。一方、反応に使用するポリアミン化合物のアミノ基のモル数が上記ポリイソシアネート化合物とのモル比より少ない場合は、ポリアミン化合物と反応しないポリイソシアネート化合物が増え、その結果、ソフトセグメントを含まない分子が混入することから柔軟性が低下する。
【0024】
工程(a)において、原料として用いられる末端封止ポリイソシアネート化合物及びポリアミン化合物は、ほとんど全てが開始剤に転化していることが好ましく、少なくとも、末端封止ポリイソシアネート化合物の開始剤への転化率は、85%以上であることが必要である。これにより、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物とを予め全て開始剤化せずにラクタムと重合して得られたポリアミドよりも、より柔軟性のあるポリアミドを得ることができる。その機構としては、以下が考えられる。本発明の工程(a)により、ポリイソシアネート化合物がポリアミン化合物のアミノ基に結合してなる開始剤が得られる。この開始剤の構造としては、例えば末端封止ポリイソシアネート化合物が末端封止ジイソシアネート化合物で、ポリアミン化合物がジアミン化合物の場合、(ジイソシアネート化合物)-(ジアミン化合物)-(ジイソシアネート化合物)となる。この開始剤の両端に存在するイソシアネート基を封止したラクタムが起点となり、アルカリ触媒の作用でラクタムのアニオン重合が進んでいく。その結果、ポリアミン化合物に由来するソフトセグメントを、ポリアミド部分に由来するハードセグメントの中心部に組み入れることができ、柔軟性に優れたポリアミドを製造することができる。事前にポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物とを反応させて開始剤を得ることにより、ポリアミド1分子内に確実にソフトセグメントを1つ導入することができ、柔軟性付与に寄与していると考えられる。
【0025】
ポリイソシアネート化合物の開始剤への転化率は、以下の式により計算することができる。
転化率(%)=((仕込量-残存量)/仕込量)×100
式中、「仕込量」とは、反応前の末端封止ポリイソシアネート化合物の質量であり、「残存量」は、反応後に残存した末端封止ポリイソシアネート化合物の質量である。
【0026】
反応は、溶媒の存在下又は不存在下で行うことができる。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、及び溶融ラクタムが挙げられる。反応生成物から特に分離する必要のないため、溶融ラクタムを反応溶媒として使用することが好ましい。
【0027】
反応温度は、150℃~180℃であり、155℃~180℃がより好ましい。この温度とすることにより、ラクタムで封止されているポリイソシアネート化合物のラクタムが解離するとともに、ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との反応率を高めることができる。
【0028】
反応時間は、反応を完全に進行させるという観点及び熱履歴の観点から、反応温度に達してから0.1~5時間であり、0.5時間~4時間が好ましく、0.5時間~3時間がより好ましい。
ポリイソシアネート化合物とポリアミン化合物との反応が完了した後、開始剤の両端に存在するイソシアネート基をラクタムで封止するため、150℃未満まで降温させる。
【0029】
次に、上記工程(a)にて得られた開始剤とラクタムとをアルカリ触媒の存在下100℃~200℃で重合させる(工程(b))。本重合は、アニオン重合であるので、重合とともに成形を同時に行うことができる。
【0030】
[ラクタム]
重合に用いられるラクタムとしては、ポリイソシアネート化合物の封止に用いられるラクタムと同様のものを使用することができ、例えば、4-アミノブタン酸ラクタム(γ-ラクタム)、5-アミノペンタン酸ラクタム(δ-ラクタム)、6-アミノヘキサン酸ラクタム(ε-ラクタム;カプロラクタム)、7-アミノヘプタン酸ラクタム(ω-ラクタム)、8-アミノオクタン酸ラクタム(η-ラクタム)、9-ノナン酸ラクタム(θ-ラクタム)、10-デカン酸ラクタム(ω-デカノラクタム)、11-ウンデカン酸ラクタム(ω-ウンデカノラクタム)、及び12-ドデカン酸ラクタム(ω-ドデカノラクタム;ラウロラクタム)からなる群より選択される。中でも、入手性や価格の観点から、6-アミノヘキサン酸ラクタム(ε-ラクタム;カプロラクタム)及び12-ドデカン酸ラクタム(ω-ドデカノラクタム;ラウロラクタム)が好ましい。これらは単独で使用してもよく、また、2種以上を併用してもよい。
【0031】
[アルカリ触媒]
アルカリ触媒としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ラクタメートやグリニャール化合物が挙げられる。それらは、例えば、ラクタム類と、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)及びこれらの水素化物(水素化ナトリウム、水素化カリウムなど)、酸化物(酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウムなど)、水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)、炭素数1~4のアルキル化物(メチルリチウム、メチルナトリウム、メチルカリウム、エチルリチウム、エチルナトリウム、エチルカリウムなど)、炭素数1~4のアルコキシド(リチウムメチラート、リチウムエチラート、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラートなど)や、グリニャール化合物(エチルマグネシウムブロマイド、エチルマグネシウムクロライド、ブチルマグネシウムブロマイド、ブチルマグネシウムクロライドなど)、アリール化合物(ナトリウムナフタレンなど)などとの反応生成物である。
【0032】
上記アルカリ金属ラクタメートの具体例としては、N-リチウム-2-ピロリドン、N-ナトリウム-2-ピロリドン、N-カリウム-2-ピロリドン、N-リチウムカプロラクタム、N-ナトリウムカプロラクタム、N-カリウムカプロラクタム、N-リチウムラウロラクタム、N-ナトリウムラウロラクタム、N-カリウムラウロラクタム等が挙げられる。好ましくは、N-リチウムカプロラクタム、N-ナトリウムカプロラクタム、N-カリウムカプロラクタムである。グリニャール化合物の具体例としては、α-ピロリドンマグネシウムブロマイド、ラクタムマグネシウムブロマイド、ラクタムマグネシウムクロライドなどがある。これらは単独で使用してもよく、また、2種以上を併用してもよい。なお、前述のアルカリ金属、アルカリ土類金属及びこれらの水素化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭素数1~4のアルキル化物、炭素数1~4のアルコキシド、グリニャール化合物、アリール化合物などは、融点以上のラクタム類と混合すると、容易にアルカリ金属ラクタメートを生成するため、これら自体も本発明のアルカリ触媒の範囲に含まれる。
【0033】
前記工程(a)におけるポリアミン化合物の量は、前記工程(b)におけるラクタムの量に対して、1~50重量%であることが好ましく、5~30重量%であることがより好ましい。ポリアミン化合物の量をこの範囲とすることにより、より柔軟性に優れたポリアミドを得ることができるとともに、ポリアミド本来の物性を維持することができる。
【0034】
アルカリ触媒の量は、ラクタムに対して、0.05~10モル%であることが好ましく、0.2~5モル%であることがより好ましい。
【0035】
本発明における開始剤とラクタムとの重合及び成形は、反応射出成形法(Nylon Reaction Injection Molding:ナイロンRIM)、注型成形法(モノマーキャストナイロン)、回転成形法など、従来公知の方法で行うことができる。例えば、原料をラクタムとアルカリ触媒とからなる成分(A液)、開始剤を含む成分(B液)などに分けて、金型に投入する直前にこれら各成分を80℃~100℃の温度で混合した後、100℃~200℃、好ましくは120℃~180℃に加熱した金型に入れて重合及び成形することができる。混合温度が80℃より低い場合、ラクタム及び開始剤が固化して、均一に混合することができない場合がある。また、混合物の混合温度が100℃を越える場合は、混合後から重合開始までの時間が短くなるため金型充填前に重合が開始されたり、ポリアミドオリゴマー生成量が増加したり、ラクタムが着色して成形品の外観が悪くなる場合がある。一方、金型温度が100℃より低い場合には、ラクタムと開始剤との重合速度が遅くなり、残存するラクタムが増加するとともに生産性が悪くなったり、成形品の外観が悪くなる場合がある。また、金型温度が200℃を越える場合は、重合・成形中のポリアミドの温度が高くなり、金型からの成形品の取出し時間が長くなる場合がある。
【0036】
ラクタム、アルカリ触媒及び開始剤を混合する方法としては、特に限定されないが、ミキサー、ブレンダー、単軸スクリュー混練機、二軸スクリュー混練機、ニーダー、ブラベンダー、ラボプラストミル、ラインミキサー及びスタティックミキサーなどの混合又は攪拌できる装置で混合する方法が挙げられる。混合時間は、通常、数秒~5分間程度である。成形品の取出し時間は、金型温度により異なるが、通常は、混合物を金型に入れてから2~20分で成形品を取出すことができる。重合中、水分又はアルコール類を含有することで触媒又は開始剤の性能が低下する観点から、ラクタム、アルカリ触媒、開始剤及び添加剤を混合させ重合する際、各材料、型枠、器具及び配管内を十分乾燥させることが好ましい。
ポリアミドを重合、成型する際の雰囲気は、特に制限は無いが、吸湿性の観点から、乾燥空気又は乾燥窒素雰囲気下が好ましく、成形したポリアミドの着色の観点から乾燥窒素雰囲気下が特に好ましい。
ポリアミドを重合、成型する方法は、熱及び使用薬品に耐えうる材質の型枠であれば、密閉型又は開放型のどちらでもよい。また、原料の注入、重合、成型は、減圧、常圧、加圧のいずれの方法でもよく、各工程の途中で圧力を変動させても何ら差し支えない。
【0037】
さらに、本発明の方法においては、実質的に重合反応を阻害しない可塑剤、充填剤、繊維、発泡剤、染料、顔料、内部離型剤、導電剤、耐熱剤、耐候剤、UV吸収剤、磁性体粉末、滑剤、核剤、難燃剤及び酸化防止剤などの安定剤の存在下で、ラクタムと開始剤とを重合させることもできる。好ましい可塑剤としては、N-アルキルピロリドン、ジアルキルイミダゾリンなどが挙げられる。これら可塑剤の使用量は、ラクタムに対して通常2~25重量%である。充填剤の具体例としては、炭酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、黒鉛、石膏、長石、雲母、アスベスト、カーボンブラック、二硫化モリブデンなどが挙げられる。繊維の具体例としては、ミルドガラスなどのガラス繊維、炭素繊維、繊維状マグネシウム化合物、チタン酸カリウム繊維、鉱物繊維、グラファイト繊維、ボロン繊維、スチール繊維、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバーなどが挙げられ、各種繊維の形態は、短繊維、長繊維、織物(クロス)、不織布等、特に指定されるものではない。充填剤及び/又は繊維の使用量は、ラクタムに対して通常1~60重量%であり、乾燥したものが好ましい。また、発泡剤の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられ、その使用量はラクタムに対して通常1~15重量%である。内部離型剤の具体例としては、ラウリン酸リチウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ベヘン酸リチウム、ベヘン酸ナトリウム、ベヘン酸カリウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸マグネシウム等の飽和脂肪族カルボン酸金属塩が挙げられ、その使用量はラクタムに対して通常0.01~5重量%である。
【0038】
本発明のポリアミドの製造方法は、キャスティング法、反応射出成形法(Nylon Reaction Injection Molding:ナイロンRIM)、注型成形法(モノマーキャストナイロン)、回転成形法などによって、重合原料から直接に丸棒、板、パイプ又は自動車部品などの成形品を製造する方法として有用である。さらに、本発明の製造方法によって得られたポリアミドを溶融又は細断することによりペレット又はチップにし、これを用いて射出成形法、押出成形法などによって各種成形品、シート、繊維などに成形することも可能である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
[ジアミンの乾燥]
Hypro ATBN 1300X16(式(1)の化合物であり、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体が95%、アミノエチルピペラジンが5%のアミノ末端ブタジエン・アクリロニトリル共重合体で、分子量は、1300である。)(蝶理GLEX株式会社製)をカールフィッシャー水分計(加熱式)で測定すると8400ppmの水分が含まれていたため、真空乾燥処理を行った。Hypro ATBN 1300X16の水分量は、880ppmとなった。
[B液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中に乾燥したHypro ATBN 1300X16を10.8g、C20(ブルゲマンケミカル社製、84%N,N'-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)/ε-カプロラクタム混合物)を2.9g(ジイソシアネートのモル数:Hypro ATBN 1300X16のアミノ基のモル数=0.37:1)、カプロラクタム(宇部興産製)を40.4g仕込み、窒素下、160℃で攪拌した。所定時間ごとサンプリングを行いN,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)を高速液体クロマトグラフィーで定量分析を行った。反応後2時間が経過したところでN,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)の転化率(=((仕込量-残存量)/仕込量)×100)は89%であった。この混合物を窒素下、95℃に保持しB1液とした。
なお、ジイソシアネートのモル数:Hypro ATBN 1300X16のアミノ基のモル数=0.37:1との混合比は、以下のとおり実験的に決定した。ジイソシアネートのモル数:Hypro ATBN 1300X16のアミノ基のモル数=1:1の混合比から反応を開始し、混合比を徐々にアミンリッチに変化させていき、それぞれの混合比における反応速度及び転化率を測定した。反応速度が十分に速くかつ最大の転化率が得られる混合比より求めた値である。
[A液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中にC10(ブルゲマンケミカル社製17.7%ナトリウムカプロラクタム/ε―カプロラクタム混合物)を9.4g、ε-カプロラクタムを44.7g仕込み、窒素下、95℃で溶解混合させ、A1液とした。
[A液/B液の混合・重合]
95℃で溶解したA1液と上記で調製したB1液を窒素下、加熱状態(95℃)で混合を行った。混合後は直ちにヒーターに挟み込んだ状態で160℃に加熱しておいた一端面の開いた180mm×120mm×4mmt金型に混合液を注ぎ込んだ。160℃で加熱した状態で10分間保持して金型を取出し冷却し、実施例1のポリアミドを得た。
【0041】
(実施例2)
[ジアミンの乾燥]
ELASTAMINE RT1,000(式(2)の化合物であり、式(2)中、x2、y2、zは、各々独立して、1~10であり、分子量は、1000である。)(ハンツマン・コーポレーション社製)を、真空乾燥処理を行った。ELASTAMINE RT1,000の水分量は、750ppmとなった。
[B液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中に乾燥したELASTAMINE RT1,000を10.2g、C20(ブルゲマンケミカル社製、84%N,N'-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)/ε-カプロラクタム混合物)を9.2g(ジイソシアネートのモル数:ELASTAMINE RT1,000のアミノ基のモル数=0.96:1)、カプロラクタム(宇部興産製)を31.7g仕込み、窒素下、160℃で攪拌した。所定時間ごとサンプリングを行いN,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)を高速液体クロマトグラフィーで定量分析を行った。反応後2時間が経過したところでN,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)の転化率(=((仕込量-残存量)/仕込量)×100)は86%であった。この混合物を窒素下、95℃に保持しB2液とした。
[A液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中にC10(ブルゲマンケミカル社製17.7%ナトリウムカプロラクタム/ε―カプロラクタム混合物)を8.4g、ε-カプロラクタムを42.8g仕込み、窒素下、95℃で溶解混合させ、A2液とした。
[A液/B液の混合・重合]
実施例1で調製したB1液及びA1液に代えて実施例2で調製したB2液及びA2液を使用した以外は、実施例1と同様にして、A液及びB液の混合・重合を行い、実施例2のポリアミドを得た。
【0042】
(実施例3)
[ジアミンの乾燥]
JEFFAMINE D2,000(式(3)の化合物であり、式(3)中、nは、33.1であり、分子量は、2000である。)(ハンツマン・コーポレーション社製)を、真空乾燥処理を行った。JEFFAMINE D2,000の水分量は、840ppmとなった。
[B液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中に乾燥したJEFFAMINE D2,000を15.9g、C20(ブルゲマンケミカル社製、84%N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)/ε-カプロラクタム混合物)を6.6g(ジイソシアネートのモル数:JEFFAMINE D2,000のアミノ基のモル数=0.88:1)、カプロラクタム(宇部興産製)を30.4g仕込み、窒素下、160℃で攪拌した。所定時間ごとサンプリングを行いN,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)を高速液体クロマトグラフィーで定量分析を行った。反応後2時間が経過したところでN,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)の転化率(=((仕込量-残存量)/仕込量)×100)は88%であった。この混合物を窒素下、95℃に保持しB3液とした。
[A液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中にC10(ブルゲマンケミカル社製17.7%ナトリウムカプロラクタム/ε―カプロラクタム混合物)を8.4g、ε-カプロラクタムを44.5g仕込み、窒素下、95℃で溶解混合させ、A3液とした。
[A液/B液の混合・重合]
実施例1で調製したB1液及びA1液に代えて実施例3で調製したB3液及びA3液を使用した以外は、実施例1と同様にして、A液及びB液の混合・重合を行い、実施例3のポリアミドを得た。
【0043】
(比較例1)
[ジオールの乾燥]
ジアミンに代えて、ジオールを用いた。ポリプロピレングリコール(以下PPG)3000(富士フィルム和光純薬試薬)を、真空乾燥処理を行った。PPG3000の水分量は、570ppmとなった。
PPG3000は、下記式(4):
【化4】
で表される化合物であり、分子量は、3000である。
[B液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中に乾燥したPPG3000を10.8g、C20(ブルゲマンケミカル社製、84%N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)/ε-カプロラクタム混合物)を2.9g(ジイソシアネートのモル数:PPG3000のアルコール基のモル数=0.86:1)、カプロラクタム(宇部興産製)を40.4g仕込み、窒素下、160℃で攪拌した。所定時間ごとサンプリングを行いN,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)を高速液体クロマトグラフィーで定量分析を行った。反応後14時間が経過したところでN,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)の転化率(=((仕込量-残存量)/仕込量)×100)は70%であった。この混合物を窒素下、95℃に保持しB4液とした。
[A液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中にC10(ブルゲマンケミカル社製17.7%ナトリウムカプロラクタム/ε―カプロラクタム混合物)を9.4g、ε-カプロラクタムを44.7g仕込み、窒素下、95℃で溶解混合させ、A4液とした。
[A液/B液の混合・重合]
実施例1で調製したB1液及びA1液に代えて比較例1で調製したB4液及びA4液を使用した以外は、実施例1と同様にして、A液及びB液の混合・重合を行い、比較例1のポリアミドを得た。
【0044】
(比較例2)
[B液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中に84%N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)/ε-カプロラクタム混合物)を3.2g、カプロラクタム(宇部興産製)を50.6g仕込み、窒素下、95℃で攪拌した。この混合物を窒素下、95℃に保持しB5液とした。
[A液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中にC10(ブルゲマンケミカル社製17.7%ナトリウムカプロラクタム/ε―カプロラクタム混合物)を7.0g、ε-カプロラクタムを46.8g仕込み、窒素下、95℃で溶解混合させ、A5液とした。
[A液/B液の混合・重合]
実施例1で調製したB1液及びA1液に代えて比較例2で調製したB5液及びA5液を使用した以外は、実施例1と同様にして、A液及びB液の混合・重合を行い、比較例2のポリアミドを得た。
【0045】
(比較例3)
[B液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中に乾燥したHypro ATBN 1300X16(実施例1で使用したものと同一)を10.8g、C20(ブルゲマンケミカル社製、84%N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)/ε-カプロラクタム混合物)を2.9g(ジイソシアネートのモル数:Hypro ATBN 1300X16のアミノ基のモル数=0.37:1)、カプロラクタム(宇部興産製)を40.4g仕込み、窒素下、95℃で攪拌した。この混合物を窒素下、95℃に保持しB6液とした。
[A液の調製]
窒素ボックス中で100mlナスフラスコ中にC10(ブルゲマンケミカル社製17.7%ナトリウムカプロラクタム/ε―カプロラクタム混合物)を9.4g、ε-カプロラクタムを44.7g仕込み、窒素下、95℃で溶解混合させ、A6液とした。
[A液/B液の混合・重合]
実施例1で調製したB1液及びA1液に代えて比較例3で調製したB6液及びA6液を使用した以外は、実施例1と同様にして、A液及びB液の混合・重合を行い、比較例3のポリアミドを得た。
【0046】
[ポリアミドの分析]
金型から成形板を取り出した後、3mm□程度に細断し、ポリアミドRIM成形体中に含まれるモノマー(ε-カプロラクタム)量を高速液体クロマトグラフィーで測定した。モノマーの測定方法は、10mlメスフラスコにポリアミドRIM成形体から切り出したポリアミド0.25gを秤取り、ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)を4ml入れ超音波洗浄機で溶解させた。次いでメタノールを10mlになるまでメスアップをおこなった。しばらく放置するとポリアミドが析出しスラリー化した。このスラリー状物をシリンジフィルター(φ32、口径0.45μm)でサンプル瓶にろ過したものを検液とした。予めモノマーの検量線を引いた島津製作所製液体クロマトグラフ(カラム:島津製作所製SHIM-PACK VP―ODS 150×φ4.6mm、溶離液:アセトニトリル/水 0/100→55/45vol%(グラジエント)、カラム流量1.0ml/min.、UV220nm、温度40℃)に検液を5μL注入し絶対検量線法により定量した。各実施例及び比較例の製造方法で得られたポリアミドの残存モノマー濃度(質量%)を、表2に示す。
【0047】
[切削加工]
実施例及び比較例の製造方法で得られたポリアミドを用いて、成形板は旋盤による切削加工で、JIS_K7161-2:2014付属書A(参考)小形試験片記載の1BA形試験片を作成し、引張試験に用いた。
【0048】
[引張試験]
引張試験は、JIS_K-7161-1:2014に従い測定した。23℃-50%RHで16時間以上状態調節した試験片を5本用い、試験速度は50mm/min.で行った。各実施例及び比較例の製造方法で得られたポリアミドの引張降伏ひずみ、引張破壊応力、及び引張破壊呼びひずみを測定した。結果を表2に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
表1及び表2中、CPLは、カプロラクタムを表し、HDIは、ヘキサメチレンジイソシアネートを表し、HDI-CPLは、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-アゼピン-1-カルボキサミド)を表し、17.7%Na CPLは、17.7%ナトリウムカプロラクタム/ε―カプロラクタム混合物を表す。
【0052】
表2に示す結果からわかるように、実施例1~3の製造方法で得られたポリアミドは、柔軟性が高かった。特に、比較例1~3の製造方法で得られたポリアミドと比較して、引張破壊呼びひずみが大きく、より柔軟性が高いことがわかる。特に、実施例1と比較例3とを比較すると、原料化合物及びその量は同じであるものの、本願発明のポリアミドの製造方法に従い製造された実施例1のポリアミドは、重合前に開始剤を製造しない比較例3のポリアミドよりも引張破壊呼びひずみが大きく、柔軟性が向上したことがわかる。