(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】セリウム系複合酸化物粒子およびその製造方法、ならびに燃料電池用の反応防止層
(51)【国際特許分類】
C01F 17/241 20200101AFI20240423BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20240423BHJP
C25B 9/23 20210101ALN20240423BHJP
C25B 13/04 20210101ALN20240423BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240423BHJP
H01M 8/1213 20160101ALN20240423BHJP
【FI】
C01F17/241
C04B35/50
C25B9/23
C25B13/04
H01M8/12 101
H01M8/1213
(21)【出願番号】P 2020146029
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】米田 稔
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-164878(JP,A)
【文献】特開2022-041029(JP,A)
【文献】特開2021-197361(JP,A)
【文献】特表2020-524125(JP,A)
【文献】国際公開第2010/050330(WO,A1)
【文献】Jia Long SUN et al.,“Synthesis and electrical properties of screen-printed doped ceria interlayer for IT-SOFC applications”,Journal of Alloys and Compounds,2015年04月,Vol. 628,p.450-457,DOI: 10.1016/j.jallcom.2014.12.169
【文献】Ji-Guang LI et al.,“Reactive 10mol% RE2O3 (RE=Gd and Sm) doped CeO2 nanopowders: Synthesis, characterization, and low-temperature sintering into dense ceramics”,Materials Science and Engineering: B,2005年07月,Vol. 121, No. 1-2,p.54-59,DOI: 10.1016/j.mseb.2005.03.001
【文献】Kazuyoshi SATO et al.,“Surface Capping-Assisted Hydrothermal Growth of Gadolinium-Doped CeO2 Nanocrystals Dispersible in Aqueous Solutions”,Langmuir,2014年09月16日,Vol. 30, No. 40,p.12049-12056,DOI: 10.1021/la502861k
【文献】Xiaohong FANG et al.,“Synthesis and properties of Ni-SDC cermets for IT-SOFC anode by co-precipitation”,Solid State Ionics,2004年03月15日,Vol. 168, No. 1-2,p.31-36,DOI: 10.1016/j.ssi.2004.02.010
【文献】Yen-Pei FU et al.,“Microwave-induced combustion synthesis and electrical conductivity of Ce1-xGdxO2-1/2x ceramics”,Materials Research Bulletin,2006年12月,Vol. 41,No. 12,p.2260-2267,DOI: 10.1016/j.materresbull.2006.04.016
【文献】Andre HEEL et al.,“Flame spray synthesis and characterisation of stabilised ZrO2 and CeO2 electrolyte nanopowders for SOFC applications at intermediate temperatures”,Journal of Electroceramics,2007年12月19日,Vol. 22,No. 1-3,p.40-46,DOI: 10.1007/s10832-007-9384-z
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00 - 17/38
C04B 35/50
C25B 9/23
C25B 13/04
H01M 8/12
H01M 8/1213
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタン、ガドリニウム、およびサマリウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素Aを含有するセリウム系複合酸化物粒子の製造方法であって、
第1の粒子である前記少なくとも一種の元素Aの化合物の粒子と、第2の粒子であるセリウム化合物の粒子と、水とを含む混合物であって、有機溶媒を実質的に含まない混合物を準備する工程(i)と、
前記混合物に粉砕媒体を添加して攪拌を行うことによって、得られる粒子の体積基準のメジアン径が0.12μm以下で且つ比表面積が40m
2/g以上となるまで前記第1の粒子と前記第2の粒子とを粉砕混合する工程(ii)とを含み、
前記攪拌は、攪拌時の相対遠心加速度(単位:×g)と攪拌時間(単位:hour)とを乗じて得られる値Ghrが3≦Ghr≦35を満たす条件で行われる、セリウム系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記混合物は、セリウムと前記少なくとも一種の元素Aとを、セリウム:前記少なくとも一種の元素A=1-X:X(ただし、0<X≦0.3)で表されるモル比で含む、請求項1に記載のセリウム系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも一種の元素Aがガドリニウムであり、
前記少なくとも一種の元素Aの化合物が、酸化ガドリニウムおよび炭酸ガドリニウムからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記セリウム化合物が酸化セリウムである、請求項1または2に記載のセリウム系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記粉砕媒体の直径が3.0mm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のセリウム系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記工程(i)において、前記混合物は、
前記第1の粒子が分散されたpHが6未満の水溶液と前記第2の粒子とを混合することによって第1の分散液を調製する工程(a)と、
前記第1の分散液のpHを6~9の範囲とすることによって第2の分散液を調製する工程(b)と、を含む工程によって準備される、請求項1~4のいずれか1項に記載のセリウム系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記工程(ii)で得られた前記粒子を乾燥させる工程(iii)をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のセリウム系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
ランタン、ガドリニウム、およびサマリウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素Aを含有するセリウム系複合酸化物粒子であって、
セリウムと前記少なくとも一種の元素Aとを、セリウム:前記少なくとも一種の元素A=1-X:X(ただし、0<X≦0.3)で表されるモル比で含み、
結晶子径D
111と比表面積換算粒子径D
SSAとの比D
111/D
SSAが0.5以上であり、
体積基準のメジアン径D
50と前記比表面積換算粒子径D
SSAとの比D
50/D
SSAが15.0未満であ
り、
前記メジアン径D
50
が0.03μm以上で0.12μm以下であり、且つ、比表面積が40m
2
/g以上で120m
2
/g以下である、セリウム系複合酸化物粒子。
【請求項8】
前記比D
50/D
SSAが10.0以下である、請求項7に記載のセリウム系複合酸化物粒子。
【請求項9】
2θ=20°におけるX線回折線強度を2θ=28.5°におけるX線回折線強度で除して得られる値が0.01未満である請求項7または8に記載のセリウム系複合酸化物粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリウム系複合酸化物粒子およびその製造方法、ならびに燃料電池用の反応防止層に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)や固体酸化物形電解セル(SOEC)は、ジルコニア系材料を使用した電解質層を用いた場合、電解質層材料と電極材料とが反応して不動態を形成することによる燃料電池の性能が低下する問題がある。性能低下を防ぐ目的で、電極層と電解質層との間に、ガドリニウムがドープされたセリア(Gadolinium Doped Ceria:GDC)を材料とした反応防止層を設けることが知られている。GDCの製造方法として、固相法や共沈法などが知られている。しかし、これらの方法で製造された反応防止層を用いると、緻密化不足によって反応防止機能が不充分となる場合や、反応防止層の導電率が低いために燃料電池性能が低下する場合があった。
【0003】
特許文献1(特許第5907482号明細書)は、「一般式Ce1-xLnxO2-y(式中、LnはCe以外の希土類元素から選択される少なくとも一種の元素で占められ、0<x<1.0、0<y<0.5)で表されるセリア系複合酸化物の製造方法であって、Ce(セリウム)の酸化物、水酸化物または酸化水酸化物のうちの少なくとも一種と、Lnサイトの酸化物、水酸化物または酸化水酸化物のうちの少なくとも一種とを含有する原料を、水と相溶性のある有機溶媒に水を混合した溶媒中で、あるいは湿式粉砕混合処理過程で放出ないし副生される水が混合された水と相溶性のある有機溶媒中で、湿式粉砕混合処理することにより、上記結晶性複合酸化物の単一相を直接得る工程を含むことを特徴とする、セリア系複合酸化物の製造方法。」を開示している。
【0004】
また、特許文献2(特開2000-007435号公報)は、「BET比表面積が1.6~16m2/gであり、累積粒度分布の微粒側から累積10%、累積50%、累積90%の粒径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、D50が0.1~1μで、D90/D10が5以下である粒度分布を有する酸化セリウムを50~99.9モル%含み、更にセリウム以外の希土類金属酸化物、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタルの一種以上を0.1~50モル%含む混合酸化物を成形して焼結することを特徴とするセリウム系酸化物焼結体の製造方法。」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5907482号明細書
【文献】特開2000-007435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、有機溶媒の使用が必須であり、その回収を含めてコスト面で難がある。また、特許文献2の方法によってセリウム系複合酸化物焼結体を得るには1500℃以上の焼結処理が必要となり、製造コストがかかり、工程が長いという問題がある。また、焼成工程を伴うセリウム系複合酸化物粒子は緻密化するにあたり高温での処理が必要となる問題があった。さらに、反応防止層として用いるには、緻密性と導電性の両特性に優れる材料が求められていた。また、反応防止層を製造する材料となる複合酸化物粒子に異相が存在すると、得られる反応防止層の特性が低下するという問題があった。
【0007】
したがって、セリウム系複合酸化物粒子をより簡単に作製する方法が求められている。また、従来よりも低温で緻密化が容易で、かつ、高い導電率を有する反応防止層(すなわち焼結体)を製造することが可能なセリウム系複合酸化物粒子が求められている。このような状況において、本発明は、異相が実質的にないとみなすことが可能で、高い結晶性を有し、分散性が良好なセリウム系複合酸化物粒子を簡単かつ環境に高い負荷をかけることなく製造できる方法を目的の1つとする。また、本発明は、従来よりも低温で緻密化が容易で、且つ、高い導電率を有する焼結体を製造することが可能なセリウム系複合酸化物粒子を提供することを目的の1つとする。また、本発明は、特性が高い反応防止層を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、ランタン、ガドリニウム、およびサマリウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素Aを含有するセリウム系複合酸化物粒子の製造方法に関する。当該製造方法は、第1の粒子である前記少なくとも一種の元素Aの化合物の粒子と、第2の粒子であるセリウム化合物の粒子と、水とを含む混合物であって、有機溶媒を実質的に含まない混合物を準備する工程(i)と、前記混合物に粉砕媒体を添加して攪拌を行うことによって、得られる粒子の体積基準のメジアン径が0.12μm以下で且つ比表面積が40m2/g以上となるまで前記第1の粒子と前記第2の粒子とを粉砕混合する工程(ii)とを含み、前記攪拌は、攪拌時の相対遠心加速度(単位:×g)と攪拌時間(単位:hour)とを乗じて得られる値Ghrが3≦Ghr≦35を満たす条件で行われる。
【0009】
本発明の他の一側面は、ランタン、ガドリニウム、およびサマリウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素Aを含有するセリウム系複合酸化物粒子に関する。当該粒子は、セリウムと前記少なくとも一種の元素Aとを、セリウム:前記少なくとも一種の元素A=1-X:X(ただし、0<X≦0.3)で表されるモル比で含み、結晶子径D111と比表面積換算粒子径DSSAとの比D111/DSSAが0.5以上であり、体積基準のメジアン径D50と前記比表面積換算粒子径DSSAとの比D50/DSSAが15.0未満である。
【0010】
本発明の他の一側面は、燃料電池用の反応防止層に関する。当該反応防止層は、本発明のセリウム系複合酸化物粒子を含む材料を焼結することによって得られた焼結体を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、異相が実質的にないとみなすことが可能なセリウム系複合酸化物粒子を簡単に製造できる。また、本発明によれば、従来よりも低温で緻密化が容易で、かつ、高い導電率を有する焼結体を製造することが可能な、微細なセリウム系複合酸化物粒子が得られる。また、本発明によれば、緻密で高い導電率を有する焼結体(例えば反応防止層)が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例で作製された粒子のX線回折パターンの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値Bの範囲」という場合、当該範囲には数値Aおよび数値Bが含まれる。この明細書において、「粒子」を「粉末」と読み替えることが可能であり、「粉末」を「粒子」と読み替えることが可能である。
【0014】
(セリウム系複合酸化物粒子の製造方法)
本実施形態の製造方法は、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)、およびサマリウム(Sm)からなる群より選択される少なくとも一種の元素Aを含有するセリウム系複合酸化物粒子の製造方法である。当該製造方法を、以下では「製造方法(PM)」と称する場合がある。また、製造方法(PM)で製造されるセリウム系複合酸化物粒子を、以下では「粒子(Pc)」と称する場合がある。また、以下では、上記少なくとも一種の元素Aを、単に「元素A」と称する場合がある。
【0015】
製造方法(PM)は、工程(i)および工程(ii)をこの順に含む。工程(i)は、第1の粒子である上記少なくとも一種の元素Aの化合物の粒子と、第2の粒子であるセリウム化合物の粒子と、水とを含む混合物であって、有機溶媒を実質的に含まない混合物を準備する工程である。当該混合物を、以下では「混合物(M)」と称する場合がある。
工程(ii)は、混合物(M)に粉砕媒体を添加して攪拌を行うことによって、得られる粒子の体積基準のメジアン径が0.12μm以下で且つ比表面積が40m2/g以上となるまで第1の粒子と第2の粒子とを粉砕混合する工程である。工程(ii)における攪拌は、攪拌時の相対遠心加速度(単位:×g)と攪拌時間(単位:hour)とを乗じて得られる値Ghrが3≦Ghr≦35を満たす条件で行われる。工程(ii)で得られたものから、水を含む液体成分を取り除くことでセリウム系複合酸化物粒子が得られる。
【0016】
従来、このような簡単な方法によって異相が実質的に観察されないセリウム系複合酸化物が得られることは知られていなかった。検討した結果、本願発明者らは、適切に粉砕混合を行うことによって、異相が実質的に観察されないセリウム系複合酸化物が得られることを新たに見出した。本発明は、この新たな知見に基づくものである。
【0017】
この明細書において、メジアン径(またはメジアン径D50)とは、体積基準の粒度分布において累積体積が50%になる粒子径を意味する。メジアン径は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて求められる。また、比表面積の具体的な測定方法については、実施例で説明する。
【0018】
少なくとも一種の元素Aは、ランタン、ガドリニウム、およびサマリウムのいずれか1つであってもよいし、それらのうちの2つまたは3つの元素であってもよい。少なくとも一種の元素Aは、ガドリニウムおよびサマリニウムから選択される少なくとも1つの元素であってもよい。一例の元素Aは、ガドリニウムであり、他の一例の元素Aは、ガドリニウムおよびサマリニウムである。粒子(Pc)は、典型的には、セリウムと少なくとも一種の元素Aと酸素とによって構成される複合酸化物である。
【0019】
(工程(i))
混合物(M)は、液体成分として水を含む。混合物(M)は、有機溶媒を実質的に含まない。ここで、有機溶媒を実質的に含まないとは、混合物(M)に影響を与える程度の量の有機溶媒を含まないことを意味する。具体的には、混合物(M)の液体成分に占める有機溶媒の量は、3質量%以下、1質量%以下、または0.5質量%以下である。換言すれば、混合物の溶媒に占める水の量は、97質量%以上、99質量%以上、または99.5質量%以上である。典型的には、混合物(M)の液体成分は水のみである。
【0020】
混合物(M)は、実質的に有機溶媒を含まないが、やむをえず微量の有機溶媒を含む場合がある。例えば、混合物(M)を調製する際に、第1の粒子(元素Aの化合物の粒子)と有機溶媒とを含む状態で第1の粒子を用いる場合がある。例えば、元素Aの化合物として、ガドリニウムアセトナート、ランタンアセチルアセトナート、サマリウムアセチルアセトナートから選ばれる少なくとも一種を用いる場合には、元素Aの化合物に付随する有機溶媒として、アセチルアセトンが液体成分に含まれる場合がある。また、元素Aの化合物として、酢酸ガドリニウム、酢酸ランタン、酢酸サマリウムから選ばれる少なくとも一種を用いる場合には、元素Aの化合物に付随する有機溶媒として、酢酸が液体成分に含まれる場合がある。
【0021】
液体成分として多量の有機溶媒を用いる場合、環境への負荷が大きいことや、作業環境が悪化するため、特別な対策が必要になる。一方、有機溶媒を実質的に含まない混合物(M)を用いる場合にはそのような対策は不要になる。そのため、低コストで簡単に粒子(Pc)を製造することが可能になる。
【0022】
また、水と比べると、有機溶媒は、第1の粒子および第2の粒子との親和性が悪く、第1の粒子と第2の粒子とを粉砕混合する際に両者の反応が進行しにくい場合がある。例えば、第1の粒子が酸化ガドリニウムで第2の粒子が酸化セリウムである場合、それらの粒子はアセトン溶媒とは親和性が低いということが発明者の検討によって判明した。
【0023】
混合物(M)中の水は、水溶液の形で混合物(M)に含まれてもよい。例えば、混合物(M)中の水は、酸性の水溶液であってもよい。例えば、第1の粒子および/または第2の粒子が分散されている酸性の水溶液が、混合物(M)の液体成分となってもよい。酸性の水溶液の例には、硝酸水溶液、りん酸水溶液、ほう酸水溶液などが含まれる。酸性の水溶液のpHは、3以上で7未満(例えば5以上で7未満)であってもよい。以下では、水および水溶液をまとめて、水性液体と称する場合がある。
【0024】
混合物(M)に占める水性液体(液体成分)の割合は、30質量%~70質量%(例えば30質量%~60質量%)の範囲にあってもよい。当該割合は、第1の粒子と第2の粒子とを粉砕混合する観点からは、30質量%~60質量%の範囲にあることが好ましい。水性液体の割合が低すぎると混合物(M)の粘度が高くなり、粉砕混合効率が低下するおそれがある。水性液体の割合が高すぎると混合物(M)の粘度が低くなり、粒子へのダメージが大きくなりすぎるおそれがあり、また、粒子の濃度が低下することによって粉砕混合効率が低下するおそれがある。また、微粉が過剰に生成するおそれがある。
【0025】
第1の粒子と第2の粒子との混合比は、目的とする粒子(Pc)の組成に応じて決定される。混合物(M)に混合された第1の粒子に含まれる元素Aのモル数をMaとし、混合物(M)に混合された第2の粒子に含まれるセリウムのモル数をMcとする。通常、製造される粒子(Pc)における元素Aとセリウムとの組成比は、元素A:セリウム=Ma:Mcとなる。
【0026】
混合物(M)は、セリウムと上記少なくとも一種の元素Aとを、セリウム:少なくとも一種の元素A=1-X:X(ただし、0<X≦0.3)で表されるモル比で含んでもよい。この場合、工程(ii)で得られるセリウム系複合酸化物粒子は、典型的には、工程(ii)によって、式Ce1-XAXO2-X/2(Aは、ランタン、ガドリニウム、およびサマリウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素である)で表されるセリウム系複合酸化物が得られる。
【0027】
なお、原料はほぼ全量が反応してセリウム系複合酸化物粒子となるため、原料のモル比と生成したセリウム系複合酸化物粒子のモル比は同じとすることができる。上記のモル比は、セリウム系複合酸化物粒子となる成分のモル比である。例えば、混合物(M)に含まれる第1の粒子の成分と第2の粒子の成分との合計は、セリウムと上記少なくとも一種の元素Aとを、セリウム:少なくとも一種の元素A=1-X:X(ただし、0<X≦0.3)で表されるモル比で含んでもよい。
【0028】
上記のXは、0より大きく、0.05以上、または0.1以上であってもよい。Xは、0.3以下、0.2以下、または0.1以下であってもよい。これらの下限と上限とは、矛盾しない限り、任意に組み合わせることができる。Xは、0<X≦0.2、または0<X≦0.1を満たしてもよい。
【0029】
第1の粒子は、少なくとも1つの元素Aに応じて選択される。第1の粒子は、元素Aの酸化物および/または元素Aの炭酸塩であってもよい。すなわち、第1の粒子は、元素Aの酸化物および元素Aの炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種の粒子であってもよい。元素Aがガドリニウムである場合、第1の粒子の例には、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、炭酸ガドリニウム(Gd2(CO3)3)などが含まれる。これらの酸化物および炭酸塩は、水和物の形態であってもよい(以下で説明する酸化物および炭酸塩についても同様である)。元素Aがランタンである場合、第1の粒子の例には、酸化ランタン(La2O3)、炭酸ランタン(La2(CO3)3)などが含まれる。元素Aがサマリウムである場合、第1の粒子の例には、酸化サマリウム(Sm2O3)、炭酸サマリウム(Sm2(CO3)3)などが含まれる。この明細書において、第1の粒子を、「酸化ガドリニウムの粒子および/または炭酸ガドリニウムの粒子」と読み替えることが可能である。
【0030】
第2の粒子を構成するセリウム化合物の例には、酸化セリウム(CeO2)、炭酸セリウム(Ce2(CO3)3)などが含まれる。すなわち、第2の粒子は、酸化セリウムの粒子、および、炭酸セリウムの粒子からなる群より選択される少なくとも一種の粒子であってもよい。この明細書において、第2の粒子を、「酸化セリウムの粒子および/または炭酸セリウムの粒子」と読み替えることが可能である。
【0031】
製造方法(PM)は、以下の(1)および(2)の条件を満たしてもよい。
(1)上記少なくとも一種の元素Aがガドリニウムであり、上記少なくとも一種の元素Aの化合物が、酸化ガドリニウムおよび炭酸ガドリニウムからなる群より選択される少なくとも一種である。
(2)上記セリウム化合物が酸化セリウムである。
【0032】
上記(1)および(2)の条件を満たす場合、特性が特に良好なセリウム系複合酸化物粒子が得られやすくなる。好ましい一例では、少なくとも一種の元素Aの化合物が、酸化ガドリニウムであり、セリウム化合物が酸化セリウムである。
【0033】
混合物(M)を準備する際に、第1の粒子および第2の粒子からなる群より選択される少なくとも一方は、水性液体に分散された状態で混合されてもよい。第1の粒子および/または第2の粒子が分散される水性液体には、上述した水性液体を用いてもよい。第1の粒子および/または第2の粒子が分散されている水性液体は、混合物(M)の水性液体の少なくとも一部を構成する。一例では、第1の水性液体に分散された第1の粒子と、第2の水性液体に分散された第2の粒子とを混合してもよい。この場合、第1の水性液体と第2の水性液体とは、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0034】
第1の粒子のメジアン径は、0.1μm~40μmの範囲(例えば1μm~5μmの範囲)にあってもよい。第1の粒子のメジアン径を0.1μm~10μmの範囲とすることによって、工程(ii)において、低い負荷で異相のないセリウム系複合酸化物が得られる。
【0035】
第2の粒子のメジアン径は、0.01μm~20μmの範囲(例えば0.1μm~10μmの範囲)にあってもよい。第2の粒子のメジアン径を0.1μm~1μmの範囲とすることによって、工程(ii)において、低い負荷で異相のないセリウム系複合酸化物が得られる。
【0036】
第1の粒子の比表面積は、1.0m2/g~15m2/gの範囲(例えば2.0m2/g~15m2/gの範囲)にあってもよい。第1の粒子の比表面積を2.0m2/g~15m2/gの範囲とすることによって、工程(ii)において、異相のないセリウム系複合酸化物を低い負荷で得ることが可能になる。
【0037】
第2の粒子の比表面積は、1.0m2/g~150m2/gの範囲(例えば50m2/g~150m2/gの範囲)にあってもよい。第2の粒子の比表面積を50m2/g~150m2/gの範囲とすることによって、工程(ii)において、低い負荷で異相のないセリウム系複合酸化物が得られる。
【0038】
工程(i)において、混合物(M)は、工程(a)と工程(b)とを含む工程によって準備されてもよい。工程(a)は、第1の粒子が分散されたpHが6未満の水溶液と第2の粒子とを混合することによって第1の分散液を調製する工程である。第1の粒子が分散されたpHが6未満の水溶液は、第1の粒子が酸性の水溶液に分散されている分散液である。この分散液に、第2の粒子を添加することによって、第1の分散液が得られる。第2の粒子は、水性液体に分散された状態で添加されてもよい。
【0039】
工程(b)は、第1の分散液のpHを6~9の範囲とすることによって第2の分散液を調製する工程である。第2の分散液を混合物(M)として用いることができる。pHの調整は、例えば、塩基性物質(例えばアルカリ性水溶液)を第1の分散液に添加することによって行ってもよい。塩基性物質に特に限定はなく、アルカリ金属の水酸化物(水酸化ナトリウムなど)の水溶液やアンモニア水などを用いてもよい。
【0040】
工程(a)において、第1の分散液には、第1の粒子の少なくとも一部が溶解していてもよい。溶解した第1の粒子は、工程(b)によって、再び第1の元素Aを含む化合物の粒子となってもよい。工程(a)および(b)を行うことによって、少なくとも一種の元素Aの組成比Xの値が高くても、異相が実質的に観察されない粒子(Pc)が得られやすくなる。
【0041】
なお、混合物(M)は、工程(i)において、pH6未満の水溶液を用いることなく調製されてもよい。例えば、pHが6~9の範囲にある水性液体を用いて混合物(M)が調製されてもよい。この場合、通常、pHを変化させる工程を行う必要はない。
【0042】
(工程(ii))
上述したように、工程(ii)は、混合物(M)に粉砕媒体を添加して攪拌を行うことによって、得られる粒子の体積基準のメジアン径が0.12μm以下で、且つ、得られる粒子の比表面積が40m2/g以上となるまで第1の粒子と第2の粒子とを粉砕混合する工程である。換言すれば、工程(ii)は、混合物(M)中で第1の粒子と第2の粒子とを粉砕混合する(粉砕して混合する)ことによって、体積基準のメジアン径が0.12μm以下で、且つ、比表面積が40m2/g以上のセリウム系複合酸化物粒子(粒子(Pc))を得る工程である。工程(ii)で得られる粒子(Pc)のメジアン径は、0.11μm以下、0.09μm以下、または0.08μm以下であってもよい。メジアン径の下限値に特に限定はないが、例えば0.01μm以上、または0.03μmであってもよい。すなわち、メジアン径は、0.03μm以上であってもよい。また、工程(ii)で得られる粒子(Pc)の比表面積は、50m2/g以上、80m2/g以上、または90m2/g以上であってもよい、比表面積の上限値は特に限定はしないが、例えば、120m2/g以下であってもよい。
【0043】
工程(ii)における攪拌は、攪拌時の相対遠心加速度(単位:×g)と攪拌時間(単位:hour)とを乗じて得られる値Ghrが3≦Ghr≦35を満たす条件で行われる。相対遠心加速度は、被攪拌物(粉砕媒体および混合物(M))に与えられる。
【0044】
工程(ii)の粉砕混合の方法に特に限定はなく、上記の条件が満たされ、且つ、粒子(Pc)への不純物の混入が少ない方法であればよい。粉砕混合は、後述するような各種の装置を用いて行うことができ、例えば、媒体攪拌型粉砕機を用いてもよい。そのような装置の例には、遊星ミル、スーパーミキサー、ビーズミルなどが含まれる。例えば、粉砕媒体(ビーズ)を添加した混合物(M)を遊星ミルで攪拌することによって、粉砕混合を行ってもよい。
【0045】
粒子(Pc)のメジアン径は、通常、値Ghrを大きくするほど小さくなる傾向がある。そのため、メジアン径を小さくするには、通常、値Ghrを大きくすればよい。ただし、値Ghrを大きくしすぎると粉砕媒体が粒子へ与える衝撃が過剰に大きくなり、粒子の結晶性が低下する、または、微粉の量が増大しすぎる、などの弊害があるため、上述したように、Ghrは35以下とする。また、通常、粉砕媒体の比重を大きくすると、粒子(Pc)のメジアン径は、小さくなる。
【0046】
粒子(Pc)の比表面積は、通常、Ghrが大きいほど、また粉砕媒体の比重が大きいほど、大きくなる。粒子(Pc)の比表面積は、セリウム系複合酸化物粒子を熱処理することなどによっても変化させることができる。
【0047】
工程(ii)において混合物(M)に添加される粉砕媒体には、球形のビーズ(粉砕媒体)を用いてもよい。例えば、ビーズミルに用いられるビーズを用いてもよい。混合物(M)に添加される粉砕媒体は、比重が高いことが好ましい。比重が高い粉砕媒体を用いることによって、異相が観察されない粒子(Pc)を比較的短時間で得ることができる。比重が高いビーズ(粉砕媒体)の例には、後述するようなセラミクス(ジルコニア、アルミナなど)のビーズが含まれる。セラミクスのビーズは、粒子(Pc)への不純物の混入が少ない点でも好ましい。ビーズの比重は、3.0以上(例えば3.5以上)であることが好ましく、5.0以上であってもよい。アルミナの比重は約3.9であり、ジルコニアの比重は約6.0である。
【0048】
粉砕媒体(ビーズ)の直径は、0.05mm以上、0.1mm以上、0.3mm以上、または0.5mm以上であってもよい。粉砕媒体の直径は、3.0mm以下、2.0mm以下、1.5mm以下、または1.0mm以下であってもよい。これらの下限および上限は、矛盾がない限りに任意に組み合わせることができる。粉砕媒体の直径は、0.05mm~3.0mmの範囲(例えば0.3mm~1.0mmの範囲や0.5mm~1.0mmの範囲)にあってもよい。そのような粉砕媒体を用いることによって、特性が良好な粒子(Pc)を短時間で得ることが可能である。
【0049】
粉砕混合を効率良く行なうためには媒体攪拌型粉砕機を用いることが好ましい。媒体攪拌型粉砕機は、粉砕容器内に粉砕媒体(ビーズ)を投入し、被粉砕物(混合物(M))を投入した粉砕容器を揺動、回転(自転又は公転)させて攪拌する粉砕機である。媒体攪拌型粉砕機としては、自転および公転を伴う遊星ミルが特に好ましい。
【0050】
工程(ii)において攪拌型粉砕機における相対遠心加速度(例えば、被攪拌物に与える相対遠心加速度)をRcf(×g)としたときに、攪拌は、0.5≦Rcf≦400、または、0.5≦Rcf≦20の条件で行ってもよく、1≦Rcf≦10の条件で行うことが好ましい。1≦Rcfの条件で行うことによって、特性が良好な粒子(Pc)を短時間で得ることが可能となる。
【0051】
ここで「遠心加速度」とは、ある物体を回転半径r(cm)、回転角速度ωで回転した場合に発生するrω2で表される物理量を意味する。遠心加速度の大きさを表すときに、地球の重力加速度との比で表した「相対遠心加速度」が用いられる場合がある。ある物体が回転軸を中心に1分間にN回転しているとすると、ω=2πN/60(rad/s)である。地球の重力加速度=9.81(m/s2)とすると、相対遠心加速度Rcfは、以下の式(1)で求められる。
【0052】
【0053】
自転・公転を伴う遊星ミルの場合、相対遠心加速度Rcfは以下の式(2)によって求めることができる。
【0054】
【0055】
式(2)中、rsは公転半径(m)を、rpは攪拌が行われる容器内の空間の半径(m)を、iwは自転・公転比を、rpmは1分間あたりの公転回転数をそれぞれ意味する。iwは、(1分間あたりの自転回転数)/(1分間あたりの公転回転数)で求められる。
【0056】
なお、自転のみのミルを用いた攪拌の相対遠心加速度Rcfは、式(1)において、攪拌時に回転する容器の1分間あたりの回転数をNとし、当該容器内の空間の半径をr(cm)とすることによって求めることができる。
【0057】
上記攪拌は、相対遠心加速度Rcfが0.5≦Rcf≦400を満たす条件で行われてもよい。この場合、攪拌時間は、30秒以上で12時間未満であってもよい。攪拌は、相対遠心加速度Rcf(×g)と攪拌時間(hour)とを乗じることによって得られる値(以下ではこの値を、「値Ghr」と称する場合がある)が、3以上で35以下(例えば4以上で29未満や、4.77以上で28.6以下)となる条件で行うことがよい。Ghrが3より小さい場合、粉砕媒体が粒子に与える力が小さく、メジアン径が0.12μm以下で且つ比表面積が40m2/g以上の粒子を工程(ii)の攪拌で得ることが難しい。また、Ghrが35より大きい場合、粉砕媒体が粒子に与える力が大きく、工程(ii)で得られる粒子に歪が生じ、粒子の結晶子径が低下する場合がある。粒子の結晶子径が低下すると、緻密に焼結することや高い導電性を得ることが困難となる。さらに、粉砕媒体や容器から不純物が混入するおそれが高まる。
【0058】
以上のようにして、粒子(Pc)が得られる。本発明の製造方法(PM)によれば、後述するように、異相が実質的に観察されないセリウム系複合酸化物粒子(粒子(Pc))を得ることができる。
【0059】
本発明によれば、少なくとも一種の元素Aの化合物の粒子とセリウム化合物の粒子とを粉砕混合することによって、原料がメカノケミカル反応し、その結果、異相が実質的に観察されないセリウム系複合酸化物粒子を得ることができる。
【0060】
メカノケミカル反応とは、機械的エネルギーによって粒子の結晶構造が変化または粒子表面が活性化して周りの物質と化学反応する現象である。機械的エネルギーとは、衝撃、圧縮、せん断、ずり応力、摩擦などにより与えられるエネルギーを指す。例えば、ビーズミルなどの衝撃粉砕装置で機械的エネルギーを加えつつ被処理物を粉砕混合することによって、メカノケミカル反応を生じさせる。
【0061】
工程(ii)で用いられる装置/方法は、メカノケミカル反応を起こす装置/方法であれば特に限定されない。例えば、工程(ii)で用いられる装置/方法の例には、遊星ボールミル、ビーズミル、ボールミル、ハンマーミル等のメカノケミカル反応を起こしうるミリング操作の少なくとも1つの操作を行う装置/方法が含まれる。これらの中でも、メカノケミカル処理と粉砕処理とを両立する観点から、遊星ボールミルやビーズミルを用いた処理が特に好ましい。遊星ボールミルやビーズミルによってメカノケミカル処理を行う場合、粉砕媒体の直径は、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上である。当該直径は、通常は3mm以下であり、1mm以下でもよく、0.5mm以下であってもよい。粉砕媒体の材質としては、ジルコニア、ジルコン、メノウ、アルミナ、タングステンカーバイド、鉄、ステンレス、ガラスなどを選択できる。メカノケミカル処理と粉砕処理との両立の観点、および、耐摩耗性の観点から、粉砕媒体としては、ジルコニアやアルミナなどのセラミクスが好ましい。また、粉砕媒体の比重は特に限定されないが、3以上7以下が好ましい。
【0062】
工程(ii)の攪拌の好ましい一例は、以下の条件(1)および(2)を満たす。
(1)攪拌時の相対遠心加速度(単位:×g)と攪拌時間(単位:hour)とを乗じて得られる値Ghrが3≦Ghr≦35を満たす。攪拌時の相対遠心加速度Rcf(×g)は、0.5≦Rcf≦400、または、0.1≦Rcf≦20の式を満たしてもよく、好ましくは1≦Rcf≦10の式を満たす。
(2)粉砕媒体の直径は、0.05mm~3.0mmの範囲(例えば0.3mm~1.0mmの範囲や0.5mm~1.0mmの範囲)にある。当該粉砕媒体は、比重が3以上(例えば3以上で7以下)のセラミクス製であってもよい。
【0063】
本発明によるセリウム系複合酸化物粒子の製造方法では、工程(ii)において、粉砕混合によって得られる粒子のメジアン径が0.12μm以下で且つ比表面積が40m2/g以上となるまで粉砕混合することが必要である。この条件が満たされない場合には、異相のないセリウム系複合酸化物粒子を得ることができなかった。その理由は定かではないが、原料の粉砕が不充分であり、且つ、メカノケミカル反応が充分に生じていないためだと考えられる。
【0064】
第1の粒子と第2の粒子とを所定の条件を満たすように粉砕混合することによって、元素Aの酸化物に由来するX線回折線強度が減少する。このことは、第1の粒子の成分と第2の粒子の成分とがメカノケミカル反応していることを示している。
【0065】
セリウム系複合酸化物粒子が得られたことは、例えば、X線回折法によって粒子を分析することによって確認してもよい。X線回折法によって粒子を分析したときに、セリウム系複合酸化物の回折線以外の回折線が実質的に観察されない場合には、セリウム系複合酸化物粒子が得られたと考えることができる。
【0066】
なお、工程(ii)の後に、必要に応じて、ビーズの除去や、粒子の洗浄、粒子の乾燥、凝集している粒子の解砕などを行ってもよい。製造方法(PM)は、工程(ii)で得られた粒子(粒子(Pc))を乾燥させる工程(iii)をさらに含んでもよい。乾燥工程に特に限定はない。乾燥工程は、例えば、100℃~150℃の範囲の温度で行ってもよい。
【0067】
製造方法(PM)は、工程(ii)で得られた粒子を焼成する工程を含んでもよい。しかし、典型的には、製造方法(PM)は、焼成工程を含まない。典型的には、製造方法(PM)は、粒子(Pc)の材料を焼成する工程を含まず、工程(ii)で得られた粒子を焼成する工程を含まない。例えば、典型的な製造方法(PM)は、材料や粒子を1100℃以上で熱処理する工程を含まない。製造方法(PM)は、1100℃未満の温度で熱処理する工程を含んでもよい。
【0068】
製造方法(PM)では、材料を焼成することなくセリウム系複合酸化物粒子を得ることが可能である。また、製造方法(PM)では、酸や塩基を添加しなくても粒子(Pc)を得ることが可能である。そのため、製造方法(PM)を用いることによって、粒子(Pc)を簡単に製造できる。
【0069】
焼成工程を行ってセリウム系複合酸化物粒子を製造すると、粒子の粒径が大きくなりやすく、且つ、粒子の比表面積が低下しやすい。そのため、焼成工程を行って得られた複合酸化物粒子を用いて焼結体(例えば反応防止層)を製造する場合、成形性が低下することがある。また、焼成工程を行って得られた複合酸化物粒子を用いて焼結体を製造する場合、焼結体の焼結密度を高めることが難しくなる場合や、気孔率が高くなる場合がある。そのような問題を避けることが可能な点でも、製造方法(PM)は有利である。
【0070】
(セリウム系複合酸化物粒子)
本発明のセリウム系複合酸化物粒子は、製造方法(PM)で製造される粒子(Pc)、または、粒子(Pc)をさらに処理して得られる粒子である。製造方法(PM)で説明した事項は、本発明の粒子にも適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、以下で説明する事項は、製造方法(PM)およびそれによって製造される粒子(Pc)に適用できる。
【0071】
本発明のセリウム系複合酸化物粒子は、ランタン、ガドリニウム、およびサマリウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素Aを含有するセリウム系複合酸化物粒子である。当該粒子は、セリウムと上記少なくとも一種の元素Aとを、セリウム:少なくとも一種の元素A=1-X:X(ただし、0<X≦0.3)で表されるモル比で含む。当該粒子の結晶子径D111(nm)と当該粒子の比表面積換算粒子径DSSA(nm)との比D111/DSSAは、0.5以上である。さらに、当該粒子の体積基準のメジアン径D50(nm)と当該粒子の比表面積換算粒子径DSSA(nm)との比D50/DSSAは、15.0未満である。
【0072】
メジアン径D50、比表面積換算粒子径DSSA、および結晶子径D111は、実施例で説明する方法で求めることができる。
【0073】
比表面積換算粒子径DSSAは、粒子が真球であると仮定したとき、BET法にて求められる比表面積と粒子の密度から算出される当該真球の直径に相当する。なお、DSSAを求める際に用いられる粒子の密度ρには、近似値として7.2g/cm3を用いることができる。結晶子径D111は、X線回折パターンの(111)面の回折線の半値幅からシェラーの式に従って計算された結晶子径であり、結晶子の大きさを表す指標である。
【0074】
比D111/DSSAの値は、粒子の単結晶性の指標である。この値が1に近いほど、粒子の結晶性が高く、単結晶に近い状態であることを示している。比D111/DSSAの値は、0.5以上、0.59以上、1.0以上であってもよい。比D111/DSSAの値は、2.0以下であってもよい。なお、通常、粒子における比表面積換算粒子径は結晶子径よりも大きい。すなわち、D111/DSSAの値は1より小さいことが多いが、比表面積換算粒子径は粒子が真球状であると想定して算出されているため、粒子形状が真球でない場合は、実際の粒子形状との相違が影響し、D111/DSSAの値が1より大きくなることがある。
【0075】
比D50/DSSAの値は、粒子の単分散性の指標である。この値が1に近いほど、粒子の独立性が高いことを示す。比D50/DSSAの値は、15.0未満、12.0以下、10.0以下、または5.0以下であってもよい。比D50/DSSAの値は、1.1以上であってもよい。比D50/DSSAを10.0以下とすることによって、粒子の独立性が高くなり、反応防止層を形成する際に緻密に焼結することが可能となる。
【0076】
本発明のセリウム系複合酸化物粒子は、それを測定したX線回折パターンにおいて、2θ=20°におけるX線回折線強度I20°を2θ=28.5°におけるX線回折線強度I28.5°で除して得られる値(回折線強度比)が0.01未満であることが好ましい(ここで、2θは回折角である)。すなわち、回折線強度比I20.0°/I28.5°の値が、0.01未満であることが好ましい。このような強度比を示すセリウム系複合酸化物粒子は、異相が実質的にないとみなすことが可能である。当該回折線強度比は、0~0.007の範囲にあることが好ましく、0~0.005の範囲にあることがより好ましい。
【0077】
本発明のセリウム系複合酸化物粒子は、体積基準のメジアン径が0.12μm以下で且つ比表面積が8m2/g以上であることが好ましく、体積基準のメジアン径が0.12μm以下で且つ比表面積が40m2/g以上であることが好ましい。この条件を満たす粒子は、微細であり、分散性が高く、また結晶性が高いことから、焼成することで特に緻密な焼結体(反応防止層)を得ることができる。
【0078】
(セリウム系複合酸化物の焼結体の製造方法)
本発明の焼結体の製造方法は、セリウム系複合酸化物の焼結体の製造方法である。この製造方法は、本発明のセリウム系複合酸化物粒子を焼結することによって、式Ce1-XAXO2-X/2(Aは、ランタン、ガドリニウム、およびサマリウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、0<X≦0.3)で表されるセリウム系複合酸化物の焼結体を製造する工程を含む。
【0079】
焼結されるセリウム系複合酸化物粒子は、上述した本発明のセリウム系複合酸化物粒子である。当該粒子は、製造方法(PM)で製造された粒子(Pc)であってもよい。本発明のセリウム系複合酸化物粒子について説明した事項、および、製造方法(PM)について説明した事項は、本発明の焼結体の製造方法に適用できる。そのため、重複する説明を省略する場合がある。本発明の焼結体の製造方法の一例は、製造方法(PM)によって粒子(Pc)を製造する工程と、粒子(Pc)を焼結する工程とを含む。
【0080】
粒子(Pc)におけるセリウムと少なくとも一種の元素Aとの比が、セリウム:少なくとも一種の元素A=1-X:Xの場合、粒子(Pc)を焼結することによって、式Ce1-XAXO2-X/2で表される焼結体が得られる。
【0081】
焼結の条件については特に限定はなく、セリウム系複合酸化物の焼結に用いられる公知の条件を適用してもよい。焼結温度は、1000℃~1500℃の範囲(例えば、1100℃~1400℃の範囲)にあってもよい。焼結温度が1000℃より低い場合、緻密な焼結体が得られ難いため好ましくない。また焼結温度1500℃より高い場合、経済性の点で好ましくない。焼結時間は、0.5時間~24時間の範囲(例えば、1時間~5時間の範囲)にあってもよい。焼結時間が0.5時間より短い場合、緻密な焼結体が得られ難いため好ましくない。また焼結時間が24時間より長い場合、経済性の点で好ましくない。
【0082】
(セリウム系複合酸化物の焼結体)
本発明のセリウム系複合酸化物の焼結体は、上述した本発明の焼結体の製造方法によって製造される焼結体である。この焼結体は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)などの燃料電池の反応防止層、固体酸化物形電解セル(SOEC)の反応防止層、SOFCおよびSOECの固体電解質などに用いてもよい。この焼結体は、緻密で且つ導電率が高いため、上記反応防止層に好ましく用いることができる。
【0083】
本発明の反応防止層(燃料電池などの反応防止層)は、上述した本発明のセリウム系複合酸化物粒子を含む材料を焼結することによって得られた焼結体を含む。当該反応防止層は、例えば、上述した本発明のセリウム系複合酸化物粒子を焼結することによって得られた焼結体である。焼結の条件については上述したため、重複する説明を省略する。反応防止層は、電解質層と電極との間に配置される。反応防止層は、例えば、固体酸化物形燃料電池において、電解質層と電極(例えば空気極)との間に配置される。
【0084】
別の観点では、本発明は、上記本発明の反応防止層を含む固体酸化物形燃料電池に関する。反応防止層以外の構成については特に限定はなく、公知の構成を適用してもよい。
【0085】
本発明のセリウム系複合酸化物の焼結体の好ましい一例は、焼結密度が6.8g/cm3以上であり、相対密度が91%以上であり、気孔率が10%以下である。当該一例は、さらに、導電率が2.5×10-2S/cm以上であってもよい。焼結密度は一般的に機械的強度に直結すると考えられる。そのため、焼結密度が高い焼結体を用いることによって、燃料電池の信頼性を向上させることが可能である。また、焼結密度が高い焼結体を用いることによって、薄い焼結体を用いることが可能となるため、電気的な損失を低減することが可能となる。
【実施例】
【0086】
以下では、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例で用いた、各種の原料(酸化セリウム粉末、酸化ガドリニウム粉末など)、および、ビーズ(粉砕媒体)は、市販のものを用いた。実施例で用いた測定方法を以下に説明する。
【0087】
(1)メジアン径(D50)
測定対象である粒子を0.025質量%濃度のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に加えて分散液を調製した。分散液中の粒子の量は、レーザー透過率が80~90%となる量に調整した。この分散液に対して、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製、US-600T)を用いて、出力300μAで3分間の分散処理を行った。分散処理後の分散液について、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA-950)を用いて粒度分布を測定した。測定は、粒子屈折率を2.20とし、溶媒屈折率を1.333として行った。粒度分布の測定から、体積基準のメジアン径D50を求めた。
【0088】
(2)比表面積Sおよび比表面積換算粒子径DSSA
測定対象である粒子の比表面積Sは、株式会社マウンテック製のMacsorb HM-1220を用いて、BET流動法によって測定した。前処理は、230℃で30分間、純窒素ガス気流下にて行い、キャリアガスには窒素30体積%とヘリウム70体積%との混合ガスを使用した。
【0089】
次に、測定された比表面積Sから、次の換算式を用いて比表面積換算粒子径DSSAを算出した。
DSSA(nm)=6×1000/(S×ρ)
ただし、Sは比表面積(m2/g)であり、ρは粒子の密度(g/cm3)である。本実施例において、粒子の密度ρには、Ce0.9Gd0.1O1.95で表されるセリウム系複合酸化物の理論密度である7.2g/cm3を用いた。
【0090】
(3)D111の測定
測定対象である粒子の結晶子径D111は、以下の方法で測定した。測定には、株式会社リガク製のX線回折装置(RINT TTR III、線源CuKα、モノクロメータ使用、管電圧50kV、電流300mA、長尺スリットPSA200(全長200mm、設計開口角度0.057度))を用いた。このX線回折装置を用いて、下記条件で回折パターンを取得した。
測定方法:平行法(連続)
スキャンスピード:2度/分
サンプリング幅:0.04度
【0091】
取得した回折パターンにおけるセリウム系複合酸化物の(111)面に対応する回折線の半値幅から、シェラーの式を用いて結晶子径(結晶子径D111)を算出した。
結晶子径D111=K×λ/βcosθ
ただし、
K=シェラー定数(=1)
λ=X線の波長(Cu-Kα線 1.5418Å)
β=回折線の半値幅(ラジアン単位)
θ=ブラッグ(Bragg)角(回折角2θの1/2)
【0092】
(4)異相の確認
異相が実質的に観察されないセリウム系複合酸化物粒子とは、上記条件で測定したX線回折パターンにおいて、セリウム系複合酸化物粒子以外の結晶相が確認できないことを意味する。特に、上記条件で測定したX線回折パターンにおいて、2θ=20°におけるX線回折線強度I20°を、2θ=28.5°におけるX線回折線強度I28.5°で除して得られる値(回折線強度比)から、異相の程度を確認した。この回折強度比I20°/I28.5°が0.01未満の場合、異相がなく好適な複合酸化物であると判断した。
【0093】
(5)焼結体の焼結密度、気孔率、および相対密度
以下の実施例で得られた試料(粒子)19.8gと、ポリビニルアルコール(キシダ化学、45cps)0.2gとを乳鉢で混合し、造粒物を得た。その造粒物を、高さが6mmとなるように幅6mm×長さ46mmの金型に充填し、一軸プレス機にて100MPaで1分間加圧することによって、棒状の成型物を得た。この成型物をジルコニア製の多孔質板に乗せて電気炉内に置き、1300℃で2時間焼結し、棒状の焼結体を得た。この焼結体について、JIS R 1634に準拠して、アルキメデス法によって、焼結密度および気孔率を測定した。また、相対密度は、焼結体の理論密度に対する上記焼結密度の割合から求めた。
【0094】
(6)焼結体の導電率
上記(5)と同様の方法で焼結体を作製した。得られた焼結体に白金線を巻きつけた後、大気中700℃における導電率を、JIS R 1661に準じて四端子法によって焼結体の導電率を測定した。
【0095】
測定用の各サンプルは、以下の方法で作製した。
【0096】
(粒子A1)
セリウム系複合酸化物粒子である粒子A1は、以下の方法で作製した。まず、酸化セリウム粉末125g、酸化ガドリニウム粉末14.7g、ジルコニアビーズ(粉砕媒体、直径0.5mm)555g、およびイオン交換水150gを、容器(ポリアミド系樹脂製、直径100mm。以下の容器も同様である。)にいれた。酸化セリウム粉末には、比表面積Sが120(m2/g)でメジアン径が0.2μmであるものを用いた。酸化ガドリニウム粉末には、比表面積Sが3.5(m2/g)でメジアン径が1.9μmであるものを用いた。ジルコニアビーズには、株式会社ニッカトー製のYTZ-0.5を用いた。このようにして、容器内に配置された混合物を準備した。なお、混合物中のセリウムとガドリニウムとのモル比は、おおよそ、セリウム:ガドリニウム=0.9:0.1であった。
【0097】
次に、容器に蓋をして、遊星ミル(フリッチュ社製、P-5)に容器を固定した。そして、遊星ミルを用いて公転速度210rpmで1時間、混合物を攪拌(湿式粉砕混合)した。攪拌時の相対遠心加速度Rcfは4.77(×g)であった。相対遠心加速度Rcfと粉砕混合工程の時間(hr)とを乗じて得られた値Ghrは4.77であった。このようにして、粒子(セリウム系複合酸化物粒子)を得た。得られた粒子から、ビーズを分離し、110℃の箱型乾燥機にて12時間乾燥させた。乾燥させた試料を乳鉢で解砕して粒子A1を得た。
【0098】
(粒子A2)
粉砕媒体を直径が1.0mmのアルミナビーズ(株式会社ニッカトー製、SSA-995)に変更したことを除いて、粒子A1の作製と同様の条件で粒子A2を作製した。なお、攪拌時の相対遠心加速度および値Ghrは、粒子A1の作製におけるそれらと同じである。
【0099】
(粒子A3)
粉砕媒体を直径が3.0mmのジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製、YTZ-3)に変更したこと、および、攪拌(湿式粉砕混合)の時間を6時間としたことを除いて、粒子A1の作製と同様の条件で粒子A3を作製した。攪拌時の相対遠心加速度Rcfは4.77(×g)であった。相対遠心加速度Rcfと粉砕混合工程の時間(hr)とを乗じて得られた値Ghrは28.6であった。
【0100】
(粒子A4)
酸化セリウム粉末の種類を変えたこと、および、攪拌(湿式粉砕混合)の時間を6時間としたことを除いて、粒子A1の作製と同様の条件で粒子A4を作製した。粒子A4の作製に用いた酸化セリウム粉末には、比表面積Sが2.5(m2/g)でメジアン径が4.2μmであるものを用いた。
【0101】
(粒子A5)
酸化ガドリニウム粒子を炭酸ガドリニウム粒子に変更したこと、および、攪拌(湿式粉砕混合)の時間を6時間としたことを除いて、粒子A1の作製と同様の条件で粒子A5を作製した。粒子A5の作製に用いた炭酸ガドリニウム粉末には、比表面積Sが7.5(m2/g)でメジアン径が32μmであるものを用いた。
【0102】
(粒子A6)
ビーカーにイオン交換水100mLを入れ、酸化ガドリニウム粉末を9.4g秤量し、pH5.9となるまで5質量%硝酸(硝酸水溶液)を添加することによって、酸性の水性分散液を得た。次に、上記水性分散液に、酸化セリウム粉末20.7gを投入し、攪拌しながら、pHが8となるまで10質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加することによって水性分散液を中和して、混合物を得た。次に、中和工程によって得られた混合物を、ろ液の導電率が100μS/cmとなるまでろ過・水洗することによって、固形分を含むケーキを得た。得られたケーキと、直径が0.5mmのジルコニアビーズ(粉砕媒体)110gとを容器にいれた。ジルコニアビーズには、粒子A1の作製に用いたビーズと同じビーズを用いた。
【0103】
このようにして、容器内に配置された混合物を準備した。その後は、粒子A1の作製と同様の条件で、攪拌(湿式粉砕混合)、乾燥、および解砕することによって、粒子A6を得た。混合物中のセリウムとガドリニウムとのモル比は、おおよそ、セリウム:ガドリニウム=0.7:0.3であった。
【0104】
(粒子A7)
上述した粒子A1を電気炉で熱処理して熱処理物を得た。熱処理は、100℃/hの昇温速度で1000℃まで昇温した後、1000℃で2時間保持することによって行った。次に、得られた熱処理物をメノウ乳鉢で解砕して粒子を得た。この粒子を容器に投入し、さらに、この容器に、直径1.0mmのジルコニアビーズ(粉砕媒体)555gと純水270gとを投入した。ジルコニアビーズには、株式会社ニッカトー製のYTZ-1.0を用いた。次に、容器に蓋をして遊星ミル(フリッチュ社製、P-5)に固定し、公転速度210rpmで60分間、解砕した。このようにして得られた粉末(粒子)から、ビーズを分離し、110℃の箱型乾燥機で12時間乾燥させた。乾燥させた試料を乳鉢で解砕することによって、粒子A7を得た。得られた粒子A7のメジアン径は、0.11μmであった。得られた粒子の比表面積Sを測定したところ、8.7m2/gであった。
【0105】
(粒子A8)
混合物に混入する酸化セリウム粉末の量と酸化ガドリニウム粉末の量とを変更したこと、および、攪拌時間を2時間としたことを除いて、粒子A1の作製と同様の条件で粒子A8を作製した。具体的には、酸化セリウム粉末の量を111gとし、酸化ガドリニウム粉末の量を29.3gとした。混合物中のセリウムとガドリニウムとのモル比は、おおよそ、セリウム:ガドリニウム=0.8:0.2であった。
【0106】
(粒子CA1)
酸化セリウム粉末25g、酸化ガドリニウム粉末2.9gを、ボールミル(日陶科学株式会社製卓上型ポットミル、ポット直径160mm)に投入し、ナイロンで被覆された鉄球(直径15mm)400gを加え、回転数25rpmの条件で3時間、攪拌(乾式粉砕混合)した。攪拌時の相対遠心加速度Rcfは、0.06(×g)であった。相対遠心加速度Rcfと粉砕混合工程の時間(hr)とを乗じて得られる値Ghrは0.18であった。この乾式粉砕混合によって粒子CA1を得た。酸化セリウム粉末および酸化ガドリニウム粉末には、粒子A1の作製に用いた粉末と同じ粉末を用いた。
【0107】
(粒子CA2)
酸化セリウム粉末の種類を変えたこと、ジルコニアビーズ(粉砕媒体)の直径を3.0mmとしたことを除いて、粒子A1の作製と同様の条件で粒子CA1を作製した。酸化セリウム粉末には、比表面積が2.5(m2/g)でメジアン径が4.2μmであるものを用いた。
【0108】
(粒子CA3)
ジルコニアビーズ(粉砕媒体)の直径を5.0mmとしたことを除いて、粒子A1の作製と同様の条件で粒子CA3を作製した。
【0109】
(粒子CA4)
ビーズ(粉砕媒体)を直径が1.0mのガラスビーズ(ユニチカ株式会社製、UB-1921S)に変更したことを除いて、粒子A1の作製と同様の条件で粒子CA4を作製した。
【0110】
(粒子CA5)
酸化セリウム粉末の種類を変えたこと、および、攪拌(湿式粉砕混合)の条件を360rpm(公転速度)で3時間としたことを除いて、粒子A1の作製と同様の条件で粒子CA5を作製した。粒子CA5の作製に用いた酸化セリウム粉末には、比表面積Sが2.5(m2/g)でメジアン径が4.2μmであるものを用いた。攪拌時の相対遠心加速度Rcfは14.01(×g)であった。相対遠心加速度Rcfと粉砕混合工程の時間(hr)とを乗じて得られた値Ghrは42.0であった。
【0111】
(粒子CA6)
上記の粒子CA1を電気炉で焼成して焼成物を得た。焼成は、100℃/hの昇温速度で1300℃まで昇温した後、1300℃で2時間保持することによって行った。得られた焼成物をメノウ乳鉢で解砕した。このようにして、粒子CA6を得た。得られた粒子CA6のメジアン径は、10μmであった。
【0112】
(粒子CA7)
酸化ガドリニウム粉末30g、ジルコニアビーズ(粉砕媒体、直径3mm)555g、およびイオン交換水150gを、容器にいれた。ジルコニアビーズには、株式会社ニッカトー製のYTZ-3.0を用いた。次に、容器に蓋をして、遊星ミルに容器を固定した。そして、遊星ミルを用いて公転速度210rpmで6時間、粉砕した。なお、酸化ガドリニウム粉砕時の相対遠心加速度Rcfは4.77(×g)であり、相対遠心加速度Rcfと粉砕時間(hr)とを乗じて得られる値Ghrは28.6であった。その後、ビーズを分離し、スラリー88.2g(酸化ガドリニウムとして14.7g)となる量を分取した。
【0113】
分取したスラリー88.2g、酸化セリウム粉末125g、YTZ-3.0ジルコニアビーズ555g、およびイオン交換水76.5gを容器に入れた。このようにして、容器内に配置された混合物を準備した。次に、容器に蓋をして、遊星ミルに容器を固定した。そして、遊星ミルを用いて公転速度210rpmで3分間、粉砕した。粉砕混合時の相対遠心加速度Rcfは、4.77(×g)であった。相対遠心加速度Rcfと粉砕混合工程の時間(hr)とを乗じて得られる値Ghrは0.24であった。この粉砕混合によって粒子CA7を得た。酸化セリウム粉末および酸化ガドリニウム粉末には、粒子A1の作製に用いた粉末と同じ粉末を用いた。
【0114】
以上のようにして作製した粒子について、上述した方法で物性を評価した。粒子A1および粒子CA1について測定されたX線回折(XRD)のパターンの例を
図1に示す。
図1に示すように、粒子CA1のXRDパターンでは、20°に回折線が観察されたが、粒子A1のXRDパターンでは、20°の回折線がほとんど分からなかった。
【0115】
粒子の作製条件の一部、および、粒子の物性の評価結果を表1に示す。表1中の注(*1)のXの値は、混合物中のセリウム:ガドリニウム=1-X:X(モル比)で表したときのXの値である。表1中の注(*2)のメジアン径は、製造された粒子のメジアン径である。表1中の注(*3)のビーズは、ナイロンで被覆した鉄球である。
【0116】
【0117】
表1に示すように、本発明の製造方法(PM)によって製造された粒子A1~A8では、異相が実質的に観察されなかった。これはガドリニウム原料と酸化セリウムとがメカノケミカル反応した効果によるものである。一方、粒子CA1~CA4、CA7では、粉砕混合後のメジアン径が0.12μmよりも大きく、異相が観察された。
【0118】
表1に示すように、粒子A1~A8では、比D111/DSSAの値が0.5以上であり、比D50/DSSAの値が15.0未満であった。一方、粒子CA1~CA7では、比D111/DSSAの値が0.5未満、および/または、比D50/DSSAの値が15.0以上であった。
【0119】
粒子A1と粒子CA4とを比較すると、ビーズがガラスの場合には、Ghrの値が同じであってもメジアン径が0.12μm以下にならず、かつ比表面積が40m2/g以上にならないことから、メカノケミカル反応が十分に進行しなかったと考えられる。したがって、比重が高いビーズ(例えばセラミクスのビーズ)を用いることが好ましい。
【0120】
粒子A1の結果と粒子CA1および粒子CA7の結果との比較から示されるように、相対遠心加速度Rcfと粉砕混合工程の時間(hr)とを乗じて得られた値Ghrは、0.24よりも大きいことが好ましく、4.77以上であってもよい。粒子A1の結果と粒子CA5の結果との比較から示されるように、セリウム源(第2の粒子)の比表面積は、2.5m2/gよりも大きいことが好ましく、120m2/g以上であってもよい。
【0121】
粒子CA7の作製では、まず、値Ghrが28.6と充分に強力な粉砕条件で酸化ガドリニウム粒子だけを粉砕した。その後、酸化セリウム粒子と粉砕された酸化ガドリニウム粒子とを、Ghrが0.24の条件で粉砕混合した。粒子CA7においては、異相が確認された。この結果は、粒子A1~A8においては、酸化ガドリニウムの粉砕が進んで酸化ガドリニウムがアモルファス化して酸化ガドリニウムのX線回折線強度が減少したのではなく、酸化ガドリニウムと酸化セリウムとのメカノケミカル反応が進んでX線回折線強度が減少したことを示唆している。
【0122】
粒子CA5は、メジアン径が0.13μm以下と小さく、比表面積は40m2/g以上と大きい。ただし、結晶子径が小さいために、D111/DSSAは0.44と小さい。これはGhrが大きすぎるためにビーズが粒子に与えるダメージが大きく、粒子に歪が生じたことを示唆している。
【0123】
粒子A7の比表面積は8.7m2/gと小さかった。しかし、後述するように、粒子A7を焼結することによって得られた焼結体は良好な特性を示した。これは、粒子A7が本発明の製造方法(PM)で製造された粒子A1を用いて作製されたためであると考えられる。上述した条件を満たすように製造された粒子(Pc)は、その後の工程(例えば熱処理)を経ても、良好な特性を維持すると考えられる。なお、粒子A7の製造方法および粒子A7は、本発明の製造方法および粒子に含まれる。
【0124】
粒子A1、A7、CA1、CA2、およびCA3について、上述した方法で焼結体を作製して、焼結体の焼結密度、気孔率、相対密度、および導電率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0125】
【0126】
表2に示すように、本発明の製造方法(PM)で製造された粒子A1およびA7を用いた場合、焼結密度および相対密度が高く、気孔率が小さく、導電率が高い焼結体が得られた。これは、D111/DSSAの値が0.5以上であり粒子の単結晶性が高いこと、および、D50/DSSAの値が15.0未満であり粒子の単分散性が高いこと、によると考えられる。それらの条件を満たす粒子は、低温焼結性に優れる。また、それらの条件を満たす粒子を用いることによって、導電率が高い焼結体が得られる。相対密度が高く、かつ、導電率の高い焼結体は、反応防止層に好ましく用いることができる。
【0127】
なお、上記実施例では、少なくとも一種の元素Aがガドリニウムである場合について説明したが、ガドリニウムの一部または全部をランタンおよび/またはサマリウムに置き換えても、同様の結果が得られると考えられる。セリウム系複合酸化物において、ランタン、ガドリニウム、およびサマリウムが互いに置換可能であることは、従来から知られている。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、セリウム系複合酸化物粒子およびその製造方法に利用できる。本発明はさらに、セリウム系複合酸化物の焼結体およびその製造方法に利用できる。例えば、本発明は、燃料電池用の反応防止層に利用できる。