(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】管状部材の開先合わせ治具
(51)【国際特許分類】
B23K 37/053 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
B23K37/053 A
(21)【出願番号】P 2020174235
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅明
(72)【発明者】
【氏名】菅原 大介
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-169994(JP,U)
【文献】特開昭59-019097(JP,A)
【文献】特開平10-029090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一軸方向に延びた複数の貫通穴が設けられたフランジと、当該フランジと一体の円環状の第一端縁と、を有した第一管状部材と、
外周面を有した円筒部と、当該円筒部の第二軸方向の軸端に位置し前記第一端縁と隙間をあけて面するかあるいは突き当たる円環状の第二端縁と、を有した第二管状部材とを、
前記第二軸方向と交差する方向に位置合わせする開先合わせ治具であって、
第一雄ねじ部と、当該第一雄ねじ部の第三軸方向の軸端に位置し前記外周面を位置決めする第一位置決め部と、を有した可動部材と、
前記第一雄ねじ部と噛み合い当該第一雄ねじ部を前記第三軸方向に移動可能に支持する第一雌ねじ部と、前記第一位置決め部による前記外周面の位置決めが可能となる姿勢で前記貫通穴内に挿入された状態で前記フランジに固定される固定部と、を有した固定部材と、を備え
、
前記固定部材は、前記第一雌ねじ部が設けられた第一ナットを有する
管状部材の開先合わせ治具。
【請求項2】
第一軸方向に延びた複数の貫通穴が設けられたフランジと、当該フランジと一体の円環状の第一端縁と、を有した第一管状部材と、
外周面を有した円筒部と、当該円筒部の第二軸方向の軸端に位置し前記第一端縁と隙間をあけて面するかあるいは突き当たる円環状の第二端縁と、を有した第二管状部材とを、
前記第二軸方向と交差する方向に位置合わせする開先合わせ治具であって、
第一雄ねじ部と、当該第一雄ねじ部の第三軸方向の軸端に位置し前記外周面を位置決めする第一位置決め部と、を有した可動部材と、
前記第一雄ねじ部と噛み合い当該第一雄ねじ部を前記第三軸方向に移動可能に支持する第一雌ねじ部と、前記第一位置決め部による前記外周面の位置決めが可能となる姿勢で前記貫通穴内に挿入された状態で前記フランジに固定される固定部と、を有した固定部材と、を備え、
前記固定部材は、前記固定部として、それぞれ異なる前記貫通穴に固定される複数の固定部を有
し、
前記複数の固定部は、互いに隣接した前記複数の貫通穴に固定される
管状部材の開先合わせ治具。
【請求項3】
前記固定部の前記フランジに対する固定位置を前記第一軸方向に変更可能な位置調整機構を備えた
請求項1
または2に記載の管状部材の開先合わせ治具。
【請求項4】
前記位置調整機構は、前記固定部に設けられた第二雄ねじ部と、当該第二雄ねじ部と噛み合う第二雌ねじ部を有し前記フランジの前記第一軸方向の端面に位置決めされる第二位置決め部と、を有した
請求項
3に記載の管状部材の開先合わせ治具。
【請求項5】
前記フランジは、前記端面として、前記第一軸方向の両側に位置した二つの端面を有し、
前記位置調整機構は、前記第二位置決め部として、前記二つの端面のそれぞれに位置決めされ前記フランジを挟む二つの第二位置決め部を有した
請求項
4に記載の管状部材の開先合わせ治具。
【請求項6】
前記第二位置決め部は、前記第二雌ねじ部を有した第二ナットと、当該第二ナットと前記端面との間に介在するワッシャと、を含む
請求項
4または
5に記載の管状部材の開先合わせ治具。
【請求項7】
前記固定部は、前記貫通穴内を貫通するシャフトと、前記シャフトを取り囲むように装着され前記貫通穴内に位置された環状部材と、を有した
請求項1~
6のうちいずれか一つに記載の管状部材の開先合わせ治具。
【請求項8】
前記シャフトは第三雄ねじ部を有し、前記環状部材は前記第三雄ねじ部と噛み合う第三雌ねじ部を有した第三ナットである
請求項
7に記載の管状部材の開先合わせ治具。
【請求項9】
前記第一位置決め部と前記外周面との間に介在する介在部材を備えた
請求項1~
8のうちいずれか一つに記載の管状部材の開先合わせ治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状部材の開先合わせ治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、
図8に示すように、二つの管状部材のうち一方の管状部材の外周に装着される固定リングと、当該固定リングに支持されるとともに他方の管状部材を位置決めする調整ボルトと、を有し、固定リングに対する調整ボルトの位置の調整により、二つの管状部材を中心軸と交叉する方向に位置合わせすることが可能な、管状部材の開先合わせ治具が知られている(例えば、特許文献1)。なお、
図8の符号は、発明を実施するための形態に対応した
図1~7の符号とは無関係である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような開先合わせ治具は、固定リングを有する分、開先合わせ治具がより大型化して重くなり、取り扱い難くなるという問題があった。特に、直径の大きい管状部材に対応した開先合わせ治具は、さらに大型化してさらに重くなり、より一層取り扱い難くなるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的の一つは、より小さくかつより軽量でより取り扱いの容易な管状部材の開先合わせ治具を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る管状部材の開先合わせ治具は、
(1)第一軸方向に延びた複数の貫通穴が設けられたフランジと、当該フランジと一体の円環状の第一端縁と、を有した第一管状部材と、外周面を有した円筒部と、当該円筒部の第二軸方向の軸端に位置し前記第一端縁と隙間をあけて面するかあるいは突き当たる円環状の第二端縁と、を有した第二管状部材とを、前記第二軸方向と交差する方向に位置合わせする開先合わせ治具であって、第一雄ねじ部と、当該第一雄ねじ部の第三軸方向の軸端に位置し前記外周面を位置決めする第一位置決め部と、を有した可動部材と、前記第一雄ねじ部と噛み合い当該第一雄ねじ部を前記第三軸方向に移動可能に支持する第一雌ねじ部と、前記第一位置決め部による前記外周面の位置決めが可能となる姿勢で前記貫通穴内に挿入された状態で前記フランジに固定される固定部と、を有した固定部材と、を備える。
【0007】
(2)上記(1)の管状部材の開先合わせ治具にあっては、前記固定部材は、前記第一雌ねじ部が設けられた第一ナットを有してもよい。
【0008】
(3)上記(1)または(2)の管状部材の開先合わせ治具にあっては、前記固定部材は、前記固定部として、それぞれ異なる前記貫通穴に固定される複数の固定部を有してもよい。
【0009】
(4)上記(3)の管状部材の開先合わせ治具にあっては、前記複数の固定部は、互いに隣接した前記複数の貫通穴に固定されてもよい。
【0010】
(5)上記(1)~(4)のうちいずれかの管状部材の開先合わせ治具は、前記固定部の前記フランジに対する固定位置を前記第一軸方向に変更可能な位置調整機構を備えてもよい。
【0011】
(6)上記(5)の管状部材の開先合わせ治具にあっては、前記位置調整機構は、前記固定部に設けられた第二雄ねじ部と、当該第二雄ねじ部と噛み合う第二雌ねじ部を有し前記フランジの前記第一軸方向の端面に位置決めされる第二位置決め部と、を有してもよい。
【0012】
(7)上記(6)の管状部材の開先合わせ治具にあっては、前記フランジは、前記端面として、前記第一軸方向の両側に位置した二つの端面を有し、前記位置調整機構は、前記第二位置決め部として、前記二つの端面のそれぞれに位置決めされ前記フランジを挟む二つの第二位置決め部を有してもよい。
【0013】
(8)上記(6)または(7)の管状部材の開先合わせ治具にあっては、前記第二位置決め部は、前記第二雌ねじ部を有した第二ナットと、当該第二ナットと前記端面との間に介在するワッシャと、を含んでもよい。
【0014】
(9)上記(1)~(8)のうちいずれかの管状部材の開先合わせ治具にあっては、前記固定部は、前記貫通穴内を貫通するシャフトと、前記シャフトを取り囲むように装着され前記貫通穴内に位置された環状部材と、を有してもよい。
【0015】
(10)上記(9)の管状部材の開先合わせ治具にあっては、前記シャフトは第三雄ねじ部を有し、前記環状部材は前記第三雄ねじ部と噛み合う第三雌ねじ部を有した第三ナットであってもよい。
【0016】
(11)上記(1)~(10)のうちいずれかの管状部材の開先合わせ治具は、前記第一位置決め部と前記外周面との間に介在する介在部材を備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の管状部材の開先合わせ治具によれば、より小さくかつより軽量でより取り扱いの容易な管状部材の開先合わせ治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、第1実施形態の管状部材の開先合わせ治具の使用形態を示す側面図である。
【
図2】
図2は、
図1の使用形態を管状部材の軸方向に見た正面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の管状部材の開先合わせ治具の
図1とは別の使用形態を示す側面図である。
【
図5】
図5は、
図4の使用形態を管状部材の軸方向に見た正面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の管状部材の開先合わせ治具の使用形態を示す側面図である。
【
図7】
図7は、
図6の使用形態を管状部材の軸方向に見た正面図である。
【
図8】
図8は、従来の開先合わせ治具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0020】
以下に示される複数の実施形態は、同様の構成を備えている。よって、各実施形態の構成によれば、当該同様の構成に基づく同様の作用および効果が得られる。また、以下では、それら同様の構成には同様の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される場合がある。
【0021】
また、本明細書において、序数は、部品、部材、方向等を区別するために便宜上付与されており、優先度や順番を示すものではない。
【0022】
[第1実施形態]
図1,2は、二つの管状部材10,20を位置合わせする第1実施形態の開先合わせ治具30の使用形態を示す図であって、
図1は、側面図、
図2は管状部材10,20の軸方向に見た正面図である。
図1,2に示されるように、二つの管状部材10,20の位置合わせ作業においては、複数の開先合わせ治具30が用いられる。なお、位置合わせ作業は、開先合わせ作業や、芯出し作業とも称されうる。
【0023】
管状部材10は、中心軸Ax1の軸方向A1に延びた管状の形状を有している。管状部材10は、フランジ11と、ネック部12と、を有している。ネック部12は、フランジ11と軸方向A1に一体化されている。管状部材10は、第一管状部材の一例である。管状部材10は、ネックフランジとも称されうる。
【0024】
フランジ11は、円環状かつ板状の形状を有している。フランジ11は、軸方向A1に沿った略一定の厚さを有し、中心軸Ax1回りの周方向に延びている。フランジ11の軸方向A1の両側には、端面11bが設けられている。端面11bは、軸方向A1と交差するとともに直交している。
【0025】
また、フランジ11には、複数の貫通穴11aが設けられている。貫通穴11aは、それぞれ、軸方向A1に延びており、略円形の断面形状を有している。複数の貫通穴11aは、中心軸Ax1回りの周方向に略等間隔で並んでいる。
図1,2の例では、フランジ11には、24個の貫通穴11aが設けられているが、貫通穴11aの数は、24には限定されない。軸方向A1は、第一軸方向の一例である。
【0026】
ネック部12は、テーパ状の形状を有している。すなわち、ネック部12の直径は、フランジ11から離れるにつれて小さくなっている。ネック部12のフランジ11から離間した軸方向A1の端縁12aは、中心軸Ax1を中心とし当該中心軸Ax1回りの周方向に延びた円環状の形状を有している。端縁12aは、第一端縁の一例である。
【0027】
管状部材20は、円筒部20aを有している。円筒部20aは、中心軸Ax2を中心とし当該中心軸Ax2の軸方向A2に延びた円筒状の形状を有している。円筒部20aの外周面は、中心軸Ax2を中心とし当該中心軸Ax2の軸方向A2に延びた円筒面であり、凸曲面である。円筒部20aのフランジ11に近い軸方向A2の端縁20bは、中心軸Ax2を中心とし当該中心軸Ax2回りの周方向に延びた円環状の形状を有している。また、端縁20bの直径は、管状部材10の端縁12aの直径と略同じである。端縁20bは、その全周に渡って、管状部材10の端縁12aと隙間をあけて面する。隙間の大きさは、例えば、1[mm]以上5[mm]以下であるが、これには限定されない。隙間は、ルートギャプとも称されうる。なお、端縁12aと端縁20bとは、少なくとも部分的に突き当たってもよい。また、端縁12aの厚さと端縁20bの厚さとは、同じであってもよいし、異なってもよい。管状部材20は、第二管状部材の一例であり、端縁20bは、第二端縁の一例である。また、軸方向A2は、第二軸方向の一例である。
【0028】
開先合わせ治具30は、固定部材31と、可動部材32と、を有している。
【0029】
図3は、
図1の開先合わせ治具30を含む部位の拡大図である。
図3に示されるように、固定部材31は、ボルト31aと、ナット31bと、を有している。
【0030】
ボルト31aは、棒状の形状を有し、貫通穴11aを貫通している。ボルト31aは、シャフトの一例である。
【0031】
ボルト31aの外周には雄ねじ部31a1が設けられている。ボルト31aは、例えば、通常の六角柱状のヘッドや六角穴付きヘッドを有しない所謂頭なしボルトである。なお、本実施形態では、ボルト31aには、その長手方向の略全体に渡って連続する雄ねじ部31a1が設けられているが、これには限定されず、複数の雄ねじ部が軸方向に分散して設けられてもよい。この場合、ボルト31aは、例えばスタッドボルトであってもよい。
【0032】
貫通穴11a内において、ボルト31aには、複数のナット43が装着されている。ナット43の雌ねじ部43aは、ボルト31aの雄ねじ部31a1と噛み合っている。雄ねじ部31a1のうち、貫通穴11a内の部位は、第三雄ねじ部の一例である。ナット43は、ボルト31aを取り囲む環状部材の一例であり、第三ナットの一例である。また、ナット43の雌ねじ部は、第三雌ねじ部の一例である。なお、貫通穴11a内でのボルト31aの傾き防止の観点から、ナット43の数は、2以上であるのが好ましく、本実施形態では、一例として2であるが、3以上であってもよい。
【0033】
当該構成において、ナット43の外径と貫通穴11aの内径との間には、貫通穴11a内でのナット43付きボルト31aのがたつきを所定範囲内に収めることができる程度のクリアランスが、設定される。ここで、仮に、ナット43が装着されていないボルト31a等によって、同程度のクリアランスを得ようとすると、ボルト31aがより太くなり、より重くなってしまう。この点、本実施形態によれば、貫通穴11a内に収容される部位は、より細いボルト31aを有している分、より軽く構成されうる。また、比較的安価な汎用のボルト31aおよびナット43を適用することができるので、当該構造ひいては開先合わせ治具30の製造コストを抑制できるという利点もある。
【0034】
貫通穴11aを貫通したボルト31aは、フランジ11の軸方向A1の両側の端面11bから突出している。ボルト31aのうち、貫通穴11a外に露出した部位には、ワッシャ42とナット41とが装着されている。ナット41の雌ねじ部41aは、ボルト31aの雄ねじ部31a1と噛み合っている。フランジ11は、二つの端面11bに接したワッシャ42によって、軸方向A1に挟まれており、フランジ11および二つのワッシャ42は、二つのナット41によって、軸方向A1に挟まれている。
【0035】
当該構成において、ボルト31aおよびナット43は、貫通穴11a内に挿入された状態で、二組のナット41およびワッシャ42を介して、フランジ11に固定されている。すなわち、ボルト31aおよびナット43は、フランジ11に設けられた貫通穴11aを利用して、当該フランジ11に固定されている。ボルト31aおよびナット43は、固定部の一例である。また、二組のナット41およびワッシャ42は、ボルト31aおよびナット43をフランジ11に固定する固定機構とも称されうる。
【0036】
また、当該構成において、ボルト31aの雄ねじ部31a1は、貫通穴11a内に挿入される部位から貫通穴11a外に露出した部位に渡って連続している。よって、ナット41のボルト31aにおける固定位置の調整、言い換えると可変設定により、ボルト31aのフランジ11に対する固定位置を軸方向A1に変更することができる。すなわち、ボルト31a、ナット41、およびワッシャ42は、位置調整機構40を構成している。位置調整機構40では、ナット41およびワッシャ42が、端面11bに対して位置決めされる。ナット41およびワッシャ42は、第二位置決め部の一例である。ボルト31aの雄ねじ部31a1は、第二雄ねじ部の一例であり、ナット41の雌ねじ部41aは、第二雌ねじ部の一例である。また、ナット41は、第二ナットの一例である。
【0037】
ボルト31aのうち、管状部材20に近い側の端部には、ナット31bが固定されている。ボルト31aとナット31bとは、例えば溶接等によって一体化されうる。固定部材31において、ボルト31aの軸方向A1と、ナット31bの雌ねじ部31b1の中心軸Ax3の軸方向A3とは、互いに略直交している。そして、
図1~3に示されるように、位置合わせ作業時に、ボルト31aは、ナット31bの中心軸Ax3が管状部材10の径方向に略沿う姿勢で、フランジ11に固定される。これにより、位置合わせ作業時に、軸方向A3に延びる可動部材32は、管状部材10に対する位置合わせの対象である管状部材20の径方向に略沿うことになる。
【0038】
可動部材32は、ナット31bの雌ねじ部31b1と噛み合う雄ねじ部32aを有する。可動部材32は、例えば、六角柱状のヘッドを有したボルトである。可動部材32の軸方向A3回りの時計回り方向または反時計回り方向の回転に応じて、可動部材32のナット31bに対する位置が、軸方向A3に沿って進退する。すなわち、雌ねじ部31b1は、可動部材32の雄ねじ部32aを軸方向A3に移動可能に支持している。ナット31bは、第一ナットの一例である。雌ねじ部31b1は、第一雌ねじ部の一例であり、可動部材32の雄ねじ部32aは、第一雄ねじ部の一例である。雌ねじ部31b1の軸方向、すなわち雄ねじ部32aの軸方向A3は、第三軸方向の一例である。
【0039】
可動部材32のヘッドとは反対側の軸端32bと、管状部材20の外周面20a1との間には、キャップ33が介在している。キャップ33は、外周面20a1と接する凸曲面33aと、軸端32bと接する凹曲面33bとを有している。凸曲面33aおよび凹曲面33bは、例えば、球面のような回転面である。キャップ33は、介在部材の一例である。
【0040】
当該構成において、可動部材32をその中心軸Ax3回りに回転して軸方向A3に移動することにより、当該可動部材32の軸端32bおよびキャップ33の軸方向A3における位置を変更することができる。位置合わせ作業においては、外周面20a1と管状部材10側の円環状の端縁12aの外周面との軸方向A3における「ずれ」が所定範囲内に収まるよう、ナット31bすなわち固定部材31に対する可動部材32の位置が設定される。軸端32bは、軸方向A3において外周面20a1を位置決めする第一位置決め部の一例である。
【0041】
図2に示されるように、開先合わせ治具30は、中心軸Ax1,Ax2の周りの複数箇所に設置される。作業者は、開先合わせ治具30のそれぞれにおいて、可動部材32のナット31bに対する位置を調整することにより、管状部材10と管状部材20との芯ずれ、すなわち中心軸Ax1,Ax2と交差する方向の偏心が所定範囲内となるよう、管状部材10と管状部材20とを位置合わせすることができる。また、作業者は、開先合わせ治具30を用いて管状部材10と管状部材20との芯ずれ調整をした後、または芯ずれ調整をしながら、上述した位置調整機構40を用いて、管状部材10の端縁12aと管状部材20の端縁20bとの間隔(ルート間隔)が所定範囲内に収まるよう、管状部材10と管状部材20とを軸方向に位置合わせすることができる。
【0042】
開先合わせ治具30の固定部材31は、それぞれ、上述した軸端32bによる外周面20a1の位置決めを可能とする姿勢で、フランジ11に固定される。当該姿勢は、可動部材32が軸方向A3に移動した場合における軸端32bの移動軌跡に沿う仮想線、本実施形態ではナット31bの雌ねじ部31b1の中心軸Ax3(
図2,3参照)の延長線が、管状部材20の円筒部20aを通る姿勢である。本実施形態では、一例として、固定部材31は、各雌ねじ部31b1の中心軸Ax3が管状部材20の中心軸Ax2の径方向に略沿う姿勢で、フランジ11に固定されているが、これには限定されない。例えば、雌ねじ部31b1の中心軸Ax3と、管状部材20の中心軸Ax2とは、ねじれの位置にあってもよい。
【0043】
開先合わせ治具30を用いた位置合わせの後、管状部材10の端縁12aと管状部材20の端縁20bとが溶接される。
【0044】
図1,3に示されるように、端縁12a,20bは、それぞれ先細り形状すなわち開先形状を有しており、所定の隙間をあけて面する端縁12aと端縁20bとが外周方向にV字状に開いたスリットまたは溝を形成する。溶接は、当該V字状のスリットまたは溝、すなわち溶接開先部Wに対して、径方向の外側から行われる。
【0045】
端縁12aと端縁20bとの溶接は、仮溶接と本溶接との2段階で行われる。
【0046】
仮溶接は、開先合わせ治具30が装着されたままの状態で行われる。仮溶接では、溶接開先部Wの一部である
図2に示される仮溶接部位Wpにおいて、端縁12aと端縁20bとが部分的に溶接される。開先合わせ治具30が設置されている箇所は当該開先合わせ治具30が障害となって溶接できないため、複数の仮溶接部位Wpは、開先合わせ治具30とは中心軸Ax1,Ax2回りの周方向にずれた複数箇所に配置される。仮溶接は、それぞれの仮溶接部位Wpの溶接開先部に対して、中心軸Ax1,Ax2の径方向の外側から行われる。仮溶接により、管状部材10と管状部材20とは、位置合わせされた状態で接続される。なお、仮溶接は、仮溶接部位Wpのそれぞれにおいて、複数回行われてもよい。
【0047】
仮溶接後の本溶接により、管状部材10と管状部材20とは、所定の溶接形状で接続される。本溶接は、開先合わせ治具30が取り外された状態で行われる。本溶接では、溶接開先部Wにおいて、端縁12aと端縁20bとが全周に渡って溶接される。具体的には、例えば、まず、管状部材20の外周面20a1を取り囲むように中心軸Ax2回りの周方向に延びた環状のガイドレール(不図示)が設置される。次に、ガイドレール上を走行する自動溶接機(不図示)により、溶接開先部Wの溶接開先部に対して、中心軸Ax1,Ax2の径方向の外側から、全周溶接が行われる。本溶接は、複数周回に渡って行われる。
【0048】
以上、説明したように、本実施形態では、開先合わせ治具30は、固定部材31と可動部材32とを備える。固定部材31は、ボルト31aおよびナット43(固定部)と、ナット31bの雌ねじ部31b1(第一雌ねじ部)と、を有する。可動部材32は、雄ねじ部32a(第一雄ねじ部)と、軸端32b(第一位置決め部)と、を有する。雌ねじ部31b1は、雄ねじ部32aを軸方向A3に移動可能に支持する。ボルト31aおよびナット43は、軸端32bによる外周面20a1の位置決めが可能となる姿勢で、貫通穴11aに挿入された状態で、ナット41(第二雌ねじ部)およびワッシャ42(第二位置決め部)によって、フランジ11に固定される。
【0049】
このような構成によれば、例えば、開先合わせ治具30の固定部材31を、フランジ11に設けられた貫通穴11aを利用して管状部材10に固定することができる。よって、従来のような固定リングを有した開先合わせ治具に比べて、開先合わせ治具30を、より小さくかつより軽く構成することができる。
【0050】
また、本実施形態のように、固定部材31は、第一雌ねじ部が設けられた部材として、ナット31b(第一ナット)を有してもよい。
【0051】
このような構成によれば、例えば、汎用品としてのナット31bを利用して、固定部材31の製造コストを抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態のように、開先合わせ治具30は、ボルト31aのフランジ11に対する固定位置を軸方向A1(第一軸方向)に変更可能な位置調整機構40を有してもよい。
【0053】
このような構成によれば、例えば、軸方向A1において、可動部材32の位置を、管状部材10,20の形状や大きさ等のスペックに合わせて適宜に設定することができる。これにより、例えば、開先合わせ治具30を、種々の大きさや型式の管状部材10,20に適用することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態のように、位置調整機構40は、ボルト31aの雄ねじ部31a1(第二雄ねじ部)と、当該雄ねじ部31a1と噛み合う雌ねじ部41a(第二雌ねじ部)を有しフランジ11の端面11bに位置決めされるナット41およびワッシャ42(第二位置決め部)と、を有してもよい。
【0055】
このような構成によれば、例えば、位置調整機構40を、比較的簡素な構成によって実現することができる。
【0056】
また、本実施形態のように、位置調整機構40は、フランジ11を軸方向A1の両側から挟むナット41およびワッシャ42を有してもよい。
【0057】
このような構成によれば、例えば、位置調整機構40は、ボルト31aをフランジ11に固定する固定機構としても機能することができる。これにより、位置調整機構40と固定機構とを別個に有した構成に比べて、開先合わせ治具30をより簡素な構成によって実現することができる。
【0058】
また、本実施形態のように、第二位置決め部は、ナット41(第二ナット)とワッシャ42とを有してもよい。
【0059】
このような構成によれば、例えば、第二位置決め部をより簡素な構成によって実現することができる。また、汎用品としてのナット41とワッシャ42とを利用して、第二位置決め部ひいては開先合わせ治具30の製造コストを抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態のように、固定部は、貫通穴11a内を貫通するボルト31a(シャフト)と、当該ボルト31aを取り囲むように装着されたナット43(環状部材)と、を有してもよい。
【0061】
このような構成によれば、例えば、固定部が一つの太いシャフトだけを有する構成であるような場合に比べて、固定部をより軽量に構成することができる。
【0062】
また、本実施形態のように、固定部では、シャフトは、雄ねじ部31a1(第三雄ねじ部)を有したボルト31aであり、環状部材は、ボルト31aと噛み合う雌ねじ部43a(第三雌ねじ部)を有したナット43(第三ナット)であってもよい。
【0063】
このような構成によれば、例えば、汎用品としてのボルト31aとナット43とを利用して、固定部ひいては開先合わせ治具30の製造コストを抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態のように、開先合わせ治具30は、軸端32bと外周面20a1との間に介在するキャップ33(介在部材)を有してもよい。
【0065】
このような構成によれば、例えば、キャップ33によって、軸端32bと外周面20a1とが直接的に擦れて外周面20a1が摩耗するのを抑制することができる。
【0066】
[開先合わせ治具の別の使用形態]
図4は、開先合わせ治具30の別の使用形態を示す側面図である。
図4では、二つの管状部材20の間に、直列に、挿入管50が介在している。
【0067】
挿入管50は、外周面51aを有した円筒部51と、当該円筒部51の軸方向両側に設けられたフランジ52と、を有している。
図4に示される状態において、挿入管50は、予め作られたものである。なお、挿入管50を作る段階で、開先合わせ治具30を用いて、フランジ52と円筒部51の外周面51aとの位置合わせが行われてもよい。
【0068】
挿入管50のフランジ52には、それぞれボルト61とナット62とを含む複数の締結機構60を介して、管状部材10が取り付けられている。管状部材20は、この管状部材10に対して上述した方法により開先合わせ治具30を利用して位置合わせされ、溶接される。ボルト61は、本設ボルトとも称されうる。
【0069】
図5は、
図4の開先合わせ治具30の使用形態を軸方向に見た正面図である。
図5に示されるように、締結機構60および開先合わせ治具30は、フランジ11の貫通穴11aとフランジ52の貫通穴(不図示)とを利用して、固定されている。すなわち、開先合わせ治具30のボルト31aおよび締結機構60のボルト61は、貫通穴11aおよびフランジ52の貫通穴を貫通している。
【0070】
複数の締結機構60は、中心軸Ax1回りの周方向に等間隔に配置された複数の貫通穴11aの三つおきに、装着されている。
【0071】
複数の開先合わせ治具30は、仮溶接部位Wpに対して中心軸Ax1,Ax21,Ax22回りの周方向にずれるとともに、締結機構60が装着されていない貫通穴11aに、装着されている。
【0072】
図4,5に示される構造により、二つの管状部材20を、二つの管状部材10および挿入管50を介して、位置合わせされた状態で接続することができる。
【0073】
なお、本実施形態では、キャップ33が存在せず、可動部材32の軸端32bが、管状部材20の外周面20a1と直接的に接している。このような構成によっても、第一位置決め部としての軸端32bによる外周面20a1の位置決めは勿論可能である。
【0074】
[第2実施形態]
図6,7は、第2実施形態の開先合わせ治具30Aの使用形態を示す図であって、
図6は、側面図、
図7は管状部材10,20の軸方向に見た正面図である。本実施形態では、二つの管状部材10,20の位置合わせ作業において、複数の開先合わせ治具30Aが用いられる。
【0075】
本実施形態では、開先合わせ治具30Aの構造が、上記第1実施形態とは異なっている。具体的に、開先合わせ治具30Aは、固定部として、ベース31cと、二つのボルト31aと、ナット43と、を有している。ベース31cは、例えば溶接でボルト31aと一体化されている。本実施形態でも、上記第1実施形態と同様のナット43付きのボルト31aが、フランジ11の貫通穴11aに挿入され、固定機構としての位置調整機構40を介してフランジ11に装着されている。ベース31cは、板状の形状を有し、二つのボルト31aの軸方向A1に沿って延びている。このため、
図7に示されるように、ベース31cは、中心軸Ax1,Ax2の軸方向A1,A2に沿って延びるとともに、中心軸Ax1,Ax2の径方向と直交する方向(接線方向)に延びることになる。
【0076】
図6に示されるように、ベース31cには、雌ねじ部31c1が設けられている。雌ねじ部31c1の中心軸Ax3は、例えば、二つのボルト31aの中心軸の略中間に位置しそれら二つの中心軸と平行な軸と交差するよう設定される。雌ねじ部31c1は、ベース31cの厚さ方向に沿って設けられているため、中心軸Ax3の軸方向A3は、中心軸Ax1,Ax2の径方向に略沿うことになる。雌ねじ部31c1は、可動部材32の雄ねじ部32aと噛み合っている。よって、本実施形態でも、雄ねじ部32aは、中心軸Ax1,Ax2の径方向と略沿って延びることになる。このような構成により、第一実施形態と同様に、本実施形態でも、可動部材32が軸方向A3に移動した場合における軸端32bの移動軌跡を含む仮想線、本実施形態ではナット31bの雌ねじ部31b1の中心軸Ax3の延長線が、管状部材20の円筒部20aを通ることになる。よって、本実施形態の開先合わせ治具30Aによっても、軸端32bによる外周面20a1の位置決めが可能となる。なお、雌ねじ部31c1は、二つのボルト31aの丁度中間に位置するとともに、雌ねじ部31c1の軸方向A3と中心軸Ax1,Ax2の軸方向A1,A2とは、略直交するのが好ましい。この場合には、雌ねじ部31c1の中心軸Ax3は、中心軸Ax1と交差するかあるいは近接することになる。
【0077】
上述した本実施形態の構成によれば、二つのボルト31aを貫通穴11aに挿入してフランジ11に固定するだけで、可動部材32の軸端32bによる外周面20a1の位置決めを可能とする固定部材31Aの姿勢が、得られる。よって、本実施形態によれば、位置合わせ作業をより容易にあるいはより迅速に実行できるという利点が得られる。
【0078】
また、本実施形態では、二つのボルト31aは、周方向に隣接した二つの貫通穴11aに挿入されている。これにより、ベース31cをより小さく構成することができ、例えば、開先合わせ治具30Aをより小さくかつより軽く構成することができるという利点が得られる。ただし、このような構成には限定されず、二つのボルト31aは、互いに隣接していない二つの貫通穴11a、例えば、周方向に一つ以上の貫通穴11aを挟む二つの貫通穴11aに、挿入されてもよい。
【0079】
また、雌ねじ部31c1は、ベース31cに直接設けられなくてもよく、ベース31cに溶接等によって固定されたナット(不図示)の雌ねじ部であってもよい。このような構成によれば、例えば、固定部材31Aをより容易にあるいはより迅速に作ることができたり、汎用品としてのナットを利用する分、固定部材31Aひいては開先合わせ治具30Aの製造コストを抑制することができたり、といった利点が得られる。
【0080】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0081】
例えば、開先合わせ治具は、ネックフランジ以外のフランジを有した管状部材にも適用することができる。
【0082】
また、第二位置決め部は、例えば、ナット部とフランジ部とを一体的に有した部材のような、別の構成であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
10…管状部材(第一管状部材)
11…フランジ
11a…貫通穴
11b…端面
12…ネック部
12a…端縁(第一端縁)
20…管状部材(第二管状部材)
20a…円筒部
20a1…外周面
20b…端縁(第二端縁)
30,30A…開先合わせ治具
31,31A…固定部材
31a…ボルト(固定部)
31a1…雄ねじ部(第二雄ねじ部、第三雄ねじ部)
31b…ナット
31b1…雌ねじ部(第一雌ねじ部)
31c…ベース
31c1…雌ねじ部(第一雌ねじ部)
32…可動部材
32a…雄ねじ部(第一雄ねじ部)
32b…軸端(第一位置決め部)
33…キャップ(介在部材)
33a…凸曲面
33b…凹曲面
40…位置調整機構
41…ナット(第二位置決め部)
41a…雌ねじ部(第二雌ねじ部)
42…ワッシャ(第二位置決め部)
43…ナット(固定部)
43a…雌ねじ部(第三雌ねじ部)
50…挿入管
51…円筒部
51a…外周面
52…フランジ
60…締結機構
61…ボルト
62…ナット
A1…軸方向(第一軸方向)
A2,A21,A22…軸方向(第二軸方向)
A3…軸方向(第三軸方向)
Ax1,Ax2,Ax3…中心軸
W…溶接開先部
Wp…仮溶接部位