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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】スイッチング素子駆動回路
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/16 20060101AFI20240423BHJP
   H02M 1/08 20060101ALI20240423BHJP
   H03K 17/695 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H03K17/16 H
H02M1/08 A
H03K17/695
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020188183
(22)【出願日】2020-11-11
(65)【公開番号】P2022077362
(43)【公開日】2022-05-23
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐太
(72)【発明者】
【氏名】牧田 真治
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-220955(JP,A)
【文献】特開2007-221368(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0074827(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0203846(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M1/08-1/096
H03K17/08-17/082
H03K17/16
H03K17/687-17/695
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御端子及び入出力端子を備え、前記制御端子に印加される電気信号に応じて前記入出力端子間がスイッチングされるスイッチング素子(44U)の前記入出力端子の電圧の時間変化を示す電圧時系列情報を検出する電圧検出部(24U)と、
前記スイッチング素子(44U)の素子電流の時間変化を示す電流時系列情報を検出する電流検出部(26U)と、
前記スイッチング素子(44U)の第1のスイッチングにおいて前記電圧検出部(24U)が検出した第1の電圧時系列情報、及び前記第1のスイッチングと異なる第2のスイッチングにおいて前記電圧検出部(24U)が検出した第2の電圧時系列情報に基づいて導出され、かつ前記入出力端子間の電圧変化率を示す電圧スルーレートと、前記第1のスイッチングにおいて前記電流検出部(26U)が検出した第1の電流時系列情報、及び前記第2のスイッチングにおいて前記電流検出部(26U)が検出した第2の電流時系列情報に基づいて導出され、かつ前記素子電流の変化率を示す電流スルーレートとのいずれか一方に基づいて、前記電気信号の電流値を制御する制御部(30U)と、
を含むスイッチング素子駆動回路。
【請求項2】
前記制御部(30U)は、第1閾値電圧と前記第1閾値電圧よりも大きな第2閾値電圧との電圧差分を、前記第1の電圧時系列情報から抽出した時間であって、前記入出力端子の電圧が、前記電気信号が変化したタイミングから第1閾値電圧に達するまでの第1電圧時間と、第2の電圧時系列情報から抽出した時間であって、前記入出力端子の電圧が、前記電気信号が変化したタイミングから前記第2閾値電圧に達するまでの第2電圧時間との時間差分で、除算して前記電圧スルーレートを算出する請求項1に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項3】
前記制御部(30U)は、第1閾値電流と前記第1閾値電流よりも大きな第2閾値電流との電流差分を、前記第1の電流時系列情報から抽出した時間であって、前記素子電流が前記電気信号が変化したタイミングから前記第1閾値電流に達するまでの第1電流時間と、前記第2の電流時系列情報から抽出した時間であって、前記素子電流が、前記電気信号が変化したタイミングから前記第2閾値電流に達するまでの第2電流時間との時間差分で、除算して前記電流スルーレートを算出する請求項1に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項4】
前記制御部(30U)は、前記第1電圧時間を記憶部(30UC)に保持した後、前記第2電圧時間を複数回検出し、該複数回検出した第2電圧時間の各々と前記記憶部(30UC)に保持した第1電圧時間とを用いて複数の前記電圧スルーレートを算出する請求項2に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項5】
前記制御部(30U)は、前記第1電流時間を記憶部(30UC)に保持した後、前記第2電流時間を複数回検出し、該複数回検出した第2電流時間の各々と前記記憶部(30UC)に保持した第1電流時間とを用いて複数の前記電流スルーレートを算出する請求項3に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項6】
前記制御部(30U)は、前記電圧スルーレートの算出に係る第2電圧時間を記憶部(30UC)に保持した後、新たに第1電圧時間と第2電圧時間とを検出し、新たに検出した第2電圧時間と前記記憶部(30UC)に保持した第2電圧時間との差分が所定値以上の場合に、前記新たに検出した第1電圧時間と第2電圧時間とで算出した電圧スルーレートに基づいて前記電気信号の電流値を制御する請求項2に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項7】
前記制御部(30U)は、前記電流スルーレートの算出に係る第2電流時間を記憶部(30UC)に保持した後、新たに第1電流時間と第2電流時間とを検出し、新たに検出した第2電流時間と前記記憶部(30UC)に保持した第2電流時間との差分が所定値以上の場合に、前記新たに検出した第1電流時間と第2電流時間とで算出した電流スルーレートに基づいて前記電気信号の電流値を制御する請求項3に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項8】
前記制御部(30U)は、各々異なる複数の閾値電圧に対応して、前記スイッチング素子(44U)の各々異なるスイッチングにおいて検出された複数の電圧時系列情報の各々から、前記電気信号が変化したタイミングから前記各々異なる複数の閾値電圧に達するまでの時間を各々抽出すると共に、値が隣接する閾値電圧同士の差分を、前記電気信号が変化したタイミングから値が隣接する閾値電圧に達するまでの各々の時間の差分で除算して複数の電圧スルーレートを算出し、該複数の電圧スルーレートの時系列での変化率に基づいて前記電気信号の電流値を制御する請求項1に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項9】
前記制御部(30U)は、各々異なる複数の閾値電流に対応して、前記スイッチング素子(44U)の各々異なるスイッチングにおいて検出された複数の電流時系列情報の各々から、前記電気信号が変化したタイミングから前記各々異なる複数の閾値電流に達するまでの時間を各々抽出すると共に、値が隣接する閾値電流同士の差分を、前記電気信号が変化したタイミングから値が隣接する閾値電流に達するまでの各々の時間の差分で除算して複数の電流スルーレートを算出し、該複数の電流スルーレートの時系列での変化率に基づいて前記電気信号の電流値を制御する請求項1に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項10】
前記第2のスイッチングは、前記第1のスイッチングに後続するスイッチングである請求項1~3のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項11】
前記第2のスイッチングは、前記スイッチング素子(44U)から電力負荷(12)に供給される電流が、前記第1のスイッチングの際に前記スイッチング素子(44U)から前記電力負荷(12)に供給される電流と、略同じになる電気角周期毎に出現するタイミングでのスイッチングである請求項1~3のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項12】
前記第2のスイッチングは、同一電気角周期において、前記スイッチング素子(44U)から電力負荷(12)に供給される電流が、前記第1のスイッチングの際に前記スイッチング素子(44U)から前記電力負荷(12)に供給される電流と、略同じになるタイミングでのスイッチングである請求項1~3のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項13】
前記第1のスイッチング後、前記電圧検出部(24U)及び前記電流検出部(26U)の各々による検出を停止する間引き区間を少なくとも1回のスイッチングの間設ける請求項1~3のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
【請求項14】
前記電圧スルーレート及び前記電流スルーレートの算出後、前記電圧検出部(24U)及び前記電流検出部(26U)の各々による検出と前記制御部(30U)による電圧スルーレート及び前記電流スルーレートの算出とを停止する間引き区間を少なくとも1回のスイッチングの間設ける請求項1~3のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子のゲートを駆動するスイッチング素子駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ) などのスイッチング素子のゲートを駆動するスイッチング素子駆動回路では、スイッチング損失の低減とスイッチングノイズの抑制とが求められている。
【0003】
図19は、n型MOSFETのスイッチングによるゲートソース間電圧Vgs、ドレインソース間電圧Vds及びドレイン電流Idの変化を示した説明図である。n型MOSFETのゲートに正電圧のゲート信号が印加(ON)されると、ゲート直下のシリコン酸化物で構成された絶縁層に面したドレインソース間に電子が引き寄せられ、ドレインソース間が導通状態になる。その結果、ゲートソース間電圧Vgsがゲート閾値を超えて大きくなるに従ってドレインソース間の電流であるドレイン電流(素子電流)Idが大きくなり、極大値であるサージ電流P1を経て一定となる。
【0004】
ドレイン電流Idが大きくなるに従って、ドレインソース間の電位差であるドレインソース間電圧(入出力端子間電圧)Vdsは低下し始め、同時にゲートソース間電圧Vgsが一定となるミラー期間となる。ミラー期間においてドレインソース間電圧Vdsは極小値まで低下して一定となる。
【0005】
図19において、ゲートソース間電圧Vgsがゲート閾値を超えたことにより、ドレイン電流Idが大きくなり始めたときからゲートソース間電圧Vgsがミラー期間になるまで、換言すればゲートソース間電圧Vgsがゲート閾値を超えたときからドレインソース間電圧Vdsが低下し始める直前までの期間を電流遷移期間と称する。また、ゲートソース間電圧Vgsが一定となるミラー期間は、ドレインソース間電圧Vdsが低下し始めたときから極小値に達するまでの期間でもあるので、当該期間を電圧遷移期間と称する。そして、電流遷移期間と電圧遷移期間とで構成される期間をターンオン期間と称し、かかるターンオン期間においてMOSFET等のスイッチング素子におけるスイッチング損失が生じる。
【0006】
n型MOSFETのゲートに印加されていた正電圧のゲート信号がOFFになると、ゲートソース間電圧Vgsは低下し始め、ドレインソース間に引き寄せられていた電子が分散してドレインソース間が徐々に絶縁状態になる。ゲートソース間電圧Vgsが一定となるミラー期間が始まると、極小値だったドレインソース間電圧Vdsが大きくなり、極大値であるサージ電圧P2を経て一定となる。そして、ミラー期間が終了するタイミングでドレイン電流Idは低下し始め、ゲートソース間電圧Vgsがゲート閾値に達するとドレイン電流Idは極小値まで低下して一定となる。
【0007】
図19において、ゲートソース間電圧Vgsが低下して一定値となるミラー期間を電圧遷移期間と称する。電圧遷移期間は、ドレインソース間電圧Vdsが大きくなり始めたときからドレイン電流Idが低下し始めるときまでの期間でもある。また、ゲートソース間電圧Vgsがミラー期間経過後にゲート閾値に達するまで、換言すればドレイン電流Idが低下し始めて極小値に達するまでの期間を電流遷移期間と称する。そして、電流遷移期間と電圧遷移期間とで構成される期間をターンオフ期間と称し、かかるターンオフ期間においてもMOSFET等のスイッチング素子におけるスイッチング損失が生じる。
【0008】
スイッチング損失は、ターンオン期間及びターンオフ期間の各々の長さに比例するので、スイッチング損失を低下させるには、ターンオン期間及びターンオフ期間の各々を短縮化することが望まれる。
【0009】
ターンオン期間及びターンオフ期間の各々を短縮化するには、電流遷移期間におけるドレイン電流Idの変化率である電流スルーレート及び電圧遷移期間におけるドレインソース間電圧Vdsの変化率である電圧スルーレートの各々を大きくすることが効果的である。ターンオン時の電流と電圧スルーレートとを大きくするには、ゲート信号ONの際にゲートチャージ電流を大きくすることで達成できる。また、ターンオフ時は、ゲートOFFの際にゲートディスチャージ電流を大きくすることで達成できる。
【0010】
従って、スイッチング損失の低減とスイッチングノイズの抑制とを実現するために、スイッチング時の電圧スルーレート及び電流スルーレートのフィードバック制御が検討されている。
【0011】
しかしながら、かかるフィードバック制御では、スイッチング時の電圧スルーレート及び電流スルーレートが増加すると電磁ノイズが増大し、EMC規格を満足できないおそれがあるため、EMC規格が満足できるようにスイッチング時の電圧スルーレート及び電流スルーレートを調整する必要がある。
【0012】
従来はMOSFETの機差バラツキを考慮して電圧スルーレート及び電流スルーレートが許容値以内となるようにゲート抵抗値を設定しており、高スルーレートによりノイズ大とならないようにマージンをとっているため、スイッチング損失が大きくなってしまうという問題があった。
【0013】
下記特許文献1には、第1のスイッチングサイクル中に負荷の電圧を測定し、その情報に基づき第2のスイッチングサイクルで駆動するプロファイルを生成する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第9374081号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に係る発明は、1サイクル中の複数の異なる時点での波形を検出するため、検出情報の処理負荷が増大するという問題があった。
【0016】
本発明は上記課題に鑑みて創作されたものであり、検出情報の処理負荷を抑制しながら、電流スルーレート及び電圧スルーレートをモニターできるスイッチング素子駆動回路を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明に係るスイッチング素子駆動回路は、制御端子及び入出力端子を備え、前記制御端子に印加される電気信号に応じて前記入出力端子間がスイッチングされるスイッチング素子(44U)の前記入出力端子の電圧の時間変化を示す電圧時系列情報を検出する電圧検出部(24U)と、前記スイッチング素子(44U)の素子電流の時間変化を示す電流時系列情報を検出する電流検出部(26U)と、前記スイッチング素子の第1のスイッチングにおいて前記電圧検出部(24U)が検出した第1の電圧時系列情報、及び前記第1のスイッチングと異なる第2のスイッチングにおいて前記電圧検出部が検出した第2の電圧時系列情報に基づいて導出され、かつ前記入出力端子間の電圧変化率を示す電圧スルーレートと、前記第1のスイッチングにおいて前記電流検出部(26U)が検出した第1の電流時系列情報、及び前記第2のスイッチングにおいて前記電流検出部(26U)が検出した第2の電流時系列情報に基づいて導出され、かつ前記素子電流の変化率を示す電流スルーレートとのいずれか一方に基づいて、前記電気信号の電流値を制御する制御部(30U)と、を含んでいる。
【0018】
この様に構成することで、電圧スルーレート及び電流スルーレートの算出に係る複数の時間情報を各々異なるタイミングでのスイッチングの際に検出でき、閾値を用いた制御端子電圧等の変化の検出に係るスイッチング素子駆動回路の負荷を抑制することができる。
【0019】
また、算出した電圧スルーレート及び電流スルーレートに基づいてスイッチング素子(44U)の制御端子に印加される電気信号の電流を制御することにより、サージ電圧等の発生を抑制すると共に、スイッチング素子(44U)のスイッチング損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1の実施形態に係るスイッチング素子駆動回路を備えたインバータの一例を示したブロック図である。
図2】スイッチング素子のゲートに設けられたゲートドライバの構成の一例を示したブロック図である。
図3】制御部の具体的な構成の一例を示すブロック図である。
図4】電圧スルーレート算出時の説明図である。
図5】電流スルーレート算出時の説明図である。
図6】電圧スルーレートと電流スルーレートとの関係及び、ゲート電流への影響を示した説明図である。
図7】本実施形態における一般的なスルーレート算出の説明図である。
図8】低閾値検出を初回に限定した場合の説明図である。
図9】低閾値検出を初回に限定した場合の処理の一例を示したフローチャートである。
図10】高閾値検出において前回の高閾値検出と差異が生じた場合にスルーレートの算出及びゲート電流の制御を行う場合のフローチャートである。
図11】4つ以上の閾値比較によるスルーレート算出の説明図である。
図12】モータ相電流が略同じ場合に、低閾値検出及び高閾値検出の各々を行う場合の説明図である。
図13】同一電気角周期中でモータ相電流が略同じ場合に、低閾値検出及び高閾値検出の各々を行う場合の説明図である。
図14】低閾値検出と高閾値検出との間に間引き区間を設けた場合の説明図である。
図15】ゲート電流の制御後、閾値検出を行わない間引き区間を設けた場合の説明図である。
図16】第2の実施形態に係る、スイッチング素子のゲートに設けられたゲートドライバの構成の一例を示したブロック図である。
図17】制御端子電圧によるスルーレート検出の概要を示した説明図である。
図18】制御端子電圧による電圧スルーレート及び電流スルーレートの算出、並びに、ゲート電流の制御の一例を示した説明図である。
図19】n型MOSFETのスイッチングによるゲートソース間電圧、ドレインソース間電圧及びドレイン電流の変化を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
以下、本実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るスイッチング素子駆動回路を備えたインバータ10の一例を示したブロック図である。インバータ10は、例えば車載のバッテリである直流電源80から供給される直流電圧を、例えばU相、V相およびW相の三相交流電圧に変換してモータ12へと出力する三相インバータである。
【0022】
図1に示したように、本実施形態に係るインバータ10は、MOSFET等のスイッチング素子42U、42V、42W、44U、44V、44Wを備え、モータ12のステータのコイルに供給する電力を、スイッチング素子42U、42V、42W、44U、44V、44Wをオンオフさせるスイッチングによって生成する。例えば、スイッチング素子42U、44UはU相のコイルに、スイッチング素子42V、44VはV相のコイルに、スイッチング素子42W、44WはW相のコイルに、各々供給する電力のスイッチングを行う。
【0023】
スイッチング素子42U、42V、42Wの各々のドレインは、直流電源80の正極(+)に接続されており、スイッチング素子42U、42V、42Wの各々のソースは、スイッチング素子44U、44V、44Wの各々のドレインに接続されている。また、スイッチング素子44U、44V、44Wの各々のソースは、直流電源80の負極(-)に接続されている。
【0024】
スイッチング素子42Uのソースとスイッチング素子44Uのドレインとが接続されるノード46Uはモータ12のU相コイルに接続されている。一例として、スイッチング素子42Uがオンになると共にスイッチング素子44Uがオフになると、ノード46Uを介してモータ12のU相コイルに直流電源80の電力が供給される。同時に、一例として、スイッチング素子42Wがオフになると共にスイッチング素子44Wがオンになると、U相コイルに流れた電流がモータ12のコイルの中性点を経由してW相コイルを流れる。当該電流はスイッチング素子42Wのソースとスイッチング素子44Wのドレインとが接続されるノード46Wとスイッチング素子44Wを介して直流電源80の負極(-)に流れる。U相コイルとW相コイルとが通電されることにより、U相コイルとW相コイルとに磁界が生じる。
【0025】
スイッチング素子42Vのソースとスイッチング素子44Vのドレインとが接続されるノード46Vはモータ12のV相コイルに接続されている。一例として、スイッチング素子42Vがオンになると共にスイッチング素子44Vがオフになると、ノード46Vを介してモータ12のV相コイルに直流電源80の電力が供給される。同時に、一例として、スイッチング素子42Uがオフになると共にスイッチング素子44Uがオンになると、V相コイルに流れた電流がモータ12のコイルの中性点を経由してU相コイルを流れる。当該電流はノード46Uとスイッチング素子44Uを介して直流電源80の負極(-)に流れる。V相コイルとU相コイルとが通電されることにより、V相コイルとU相コイルとに磁界が生じる。
【0026】
また、一例として、スイッチング素子42Wがオンになると共にスイッチング素子44Wがオフになると、ノード46Wを介してモータ12のW相コイルに直流電源80の電力が供給される。同時に、一例として、スイッチング素子42Vがオフになると共にスイッチング素子44Vがオンになると、W相コイルに流れた電流がモータ12のコイルの中性点を経由してV相コイルを流れる。当該電流はノード46Vとスイッチング素子44Vを介して直流電源80の負極(-)に流れる。W相コイルとV相コイルとが通電されることにより、W相コイルとV相コイルとに磁界が生じる。
【0027】
上述のように、スイッチング素子42U、42V、42W、44U、44V、44W(以下、「スイッチング素子42U~44W」と略記)のスイッチングにより、モータ12のコイルに磁界が発生する相を切り替えることにより、モータ12のコイルには永久磁石等で構成されたロータ(回転子)を回転させるいわゆる回転磁界が発生する。実際のモータの回転制御では、スイッチング素子42U~44Wの各々を小刻みにオンオフさせるPWM(パルス幅変調)制御により、三相交流様の電圧を生成してモータ12の各相のコイルに印加する。
【0028】
スイッチング素子42U~44Wのスイッチングにより、図1に示したような寄生インダクタンス50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72が発生する場合がある。寄生インダクタンス50~72はサージ電圧の発生に寄与し得る。本実施形態では、スルーレート(電流スルーレート及び電圧スルーレート)を適切に制御することにより、スイッチング素子42U~44Wのスイッチングによるサージ電圧の発生を抑制することも可能なので、寄生インダクタンス50~72による影響を結果的に相殺できる場合がある。
【0029】
上述のように、n型MOSFETは、ゲートに正電圧のゲート信号が印加されることによりオンとなる。図1に示したように、本実施形態では、スイッチング素子42U~44Wの各々には、ゲート信号の電流値を制御するゲートドライバ20U、20V、20W、22U、22V、22W(以下、「ゲートドライバ20U~22W」と略記)が各々接続されている。また、ゲートドライバ20U~22Wの各々は、車両ECU(Electronic Control Unit)等の上位の制御装置(図示せず)に接続されている。ゲートドライバ20U~22Wの各々は、上位の制御装置から入力されたゲート信号を増幅すると共に、増幅したゲート信号を可変抵抗器により電流値を調整してスイッチング素子42U~44Wの各々のゲートに印加する。
【0030】
図2は、スイッチング素子44Uのゲートに設けられたゲートドライバ22Uの構成の一例を示したブロック図である。上述のように、ゲートドライバ20U~22Wは、スイッチング素子42U~44Wの各々に設けられているが、代表例としてゲートドライバ22Uを説明し、その他のゲートドライバについては説明を省略する。
【0031】
図2に示したように、ゲートドライバ22Uは、スイッチング素子44Uの入出力端子の電圧である入出力端子間電圧(ドレインソース間電圧Vds)を時間情報に対応付けて検出する入出力端子間電圧検出部24Uと、スイッチング素子44Uの素子電流(ドレイン電流Id)を時間情報に対応付けて検出する素子電流検出部26Uと、入出力端子間電圧検出部24U及び素子電流検出部26Uの各々の検出信号を、後述する制御部30Uで処理可能な形式の信号に変換する検出処理部28Uと、上位の制御装置から入力されるスルーレート目標値及び検出処理部28Uの出力に基づきスイッチング素子44Uのゲートに印加するゲート信号の制御演算を行う制御部30Uと、ゲート駆動能力を変化させる操作部32Uと、を備えている。入出力端子間電圧検出部24U及び素子電流検出部26Uの各々は、例えば、制御部30Uの制御クロックを用いて時間情報を検出する。
【0032】
素子電流検出部26Uは、一例として、シャント抵抗の両端部の電位差に基づいて電流値を検出してもよいし、スイッチング素子44Uのソースと接地領域との間の通電によって生じる誘導電流に基づいて電流値を算出してもよい。
【0033】
検出処理部28Uは、例えば、入出力端子間電圧検出部24U及び素子電流検出部26Uの各々の検出信号がアナログ信号である場合、制御部30Uで処理可能なデジタル信号に変換する一種のA/Dコンバータを含む回路である。
【0034】
操作部32Uは、制御部30Uからの制御により抵抗値を変化させてスイッチング素子44Uのゲートに印加するゲート信号の電流値を変化させる可変抵抗器である。操作部32Uは、スイッチング素子44Uのゲートに印加する正電圧のゲート信号の電流値を変化させる可変抵抗器32UOと、スイッチング素子44Uのゲートに印加する負電圧のゲート信号の電流値を変化させる可変抵抗器32UFとを含む。
【0035】
操作部32Uには、上位の制御装置からアンプ34U及び反転回路の一種である相補型MOS36Uを介してゲート信号が入力される。上位の制御装置から入力されたゲート信号は、アンプで増幅された後、相補型MOS36Uで正負が反転される。上位の制御装置から入力されるゲート信号の正負の態様によっては、相補型MOS36Uを省略してもよい。
【0036】
図3は、制御部30Uの具体的な構成の一例を示すブロック図である。制御部30Uは、一種のコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)30UB、ROM(Read Only Memory)30UA、RAM(Random Access Memory)30UC、及び入出力ポート30UDを備える。
【0037】
制御部30Uでは、CPU30UB、ROM30UA、RAM30UC、及び入出力ポート30UDがアドレスバス、データバス、及び制御バス等の各種バスを介して互いに接続されている。入出力ポート30UDには、各種の入出力機器として、検出処理部28U、操作部32U、及び上位の制御装置400等が各々接続されている。
【0038】
ROM30UAには、スルーレートを算出する演算プログラム及び算出したスルーレートに基づいて操作部32Uを操作するための指令を生成する制御指令プログラム等がインストールされている。本実施形態では、CPU30UBが演算プログラムを実行することにより、スルーレートを算出する。また、CPU30UBは、制御指令プログラムにより、操作部32Uを操作するための指令を生成する。RAM30UCは、データを一時的に記憶する記憶部であり、例えば、検出処理部28Uから入力されたデータ等が保持される。
【0039】
次に、制御部30UのCPU30UBが演算プログラム及び制御指令プログラムを実行することで実現される各種機能について説明する。CPU30UBが演算プログラム及び制御指令プログラムを実行することで、CPU30UBは、図3に示すように、スルーレートを算出する演算部300A及び操作部32Uを操作するための指令を生成する制御指令部300Bとして機能する。
【0040】
図4は、電圧スルーレート算出時の説明図である。電圧スルーレートには、ゲート信号がオフになった場合に検出されるターンオフ電圧スルーレートと、ゲート信号がオンになった場合に検出されるターンオン電圧スルーレートとが存在する。
【0041】
ターンオフ電圧スルーレートの算出について説明する。ターンオフ電圧スルーレートを算出するには、ゲート信号がオフになってから、入出力端子間電圧検出部24Uで検出した入出力端子間電圧が第1閾値電圧Vth1に達するまでの時間Tsr_off_v1を検出する。本実施形態では、ゲート信号がオフになって入出力端子間電圧が第1閾値電圧Vth1に達するまでの時間Tsr_off_v1を検出した後、ゲート信号がオンとなって再びオフになるまでの期間を低閾値検出区間と称する。
【0042】
ゲート信号が再びオフになってから、入出力端子間電圧検出部24Uで検出した入出力端子間電圧が第1閾値電圧Vth1よりも高い第2閾値電圧Vth2に達するまでの時間Tsr_off_v2を検出する。本実施形態では、ゲート信号がオフになって入出力端子間電圧が第2閾値電圧Vth2に達するまでの時間Tsr_off_v2を検出した後、ゲート信号がオンとなって再びオフになるまでの期間を高閾値検出区間と称する。
【0043】
高閾値検出区間に後続する区間は、検出したTsr_off_v1及び時間Tsr_off_v2を用いてターンオフ電圧スルーレートを算出し、算出したターンオフ電圧スルーレートに基づいて、ゲート信号の電流値であるゲート電流を制御するdv/dt算出&制御演算区間である。dv/dt算出&制御演算区間において、ターンオフ電圧スルーレートは、下記の式(1)により算出される。
【0044】
【0045】
続いてターンオン電圧スルーレートの算出について説明する。ターンオン電圧スルーレートを算出するには、低閾値検出区間においてゲート信号がオンになってから、入出力端子間電圧検出部24Uで検出した入出力端子間電圧が第1閾値電圧Vth1に低下するまでの時間Tsr_on_v1を検出する。
【0046】
低閾値検出区間に後続する高閾値検出区間において、ゲート信号がオンになってから、入出力端子間電圧検出部24Uで検出した入出力端子間電圧が第1閾値電圧Vth1よりも高い第2閾値電圧Vth2に低下するまでの時間Tsr_on_v2を検出する。
【0047】
高閾値検出区間に後続するdv/dt算出&制御演算区間では、検出した時間Tsr_on_v1及び時間Tsr_on_v2を用いてターンオン電圧スルーレートを算出し、算出したターンオン電圧スルーレートに基づいて、ゲート信号の電流値であるゲート電流を制御する。dv/dt算出&制御演算区間において、ターンオン電圧スルーレートは、下記の式(2)により算出される。
【0048】
【0049】
dv/dt算出&制御演算区間に後続する操作区間では、算出したターンオフ電圧スルーレートdvoff/dt及びターンオン電圧スルーレートdvon/dtに基づいて、ゲート信号の電流値であるゲート電流を制御する。
【0050】
例えば、ターンオフ電圧スルーレートdvoff/dtの絶対値が低い場合は、操作区間のターンオフ時操作区間90において、負電圧であるゲート信号のゲート電流を大きくしてスイッチング素子44Uのドレインソース間に引き寄せられた電子の分散を促す。また、ターンオフ電圧スルーレートdvoff/dtの絶対値が高い場合は、操作区間のターンオフ時操作区間90において、負電圧であるゲート信号のゲート電流を小さくしてスイッチング素子44Uのドレインソース間に引き寄せられた電子の分散を抑制する。
【0051】
例えば、ターンオン電圧スルーレートdvon/dtの絶対値が低い場合は、操作区間のターンオン時操作区間92において、正電圧であるゲート信号のゲート電流を大きくしてスイッチング素子44Uのドレインソース間への電子の集中を促す。また、ターンオン電圧スルーレートdvon/dtの絶対値が高い場合は、操作区間のターンオン時操作区間92において、正電圧であるゲート信号のゲート電流を小さくしてスイッチング素子44Uのドレインソース間への電子の集中を抑制する。
【0052】
図5は、電流スルーレート算出時の説明図である。電流スルーレートには、ゲート信号がオンになった場合に検出されるターンオン電流スルーレートと、ゲート信号がオフになった場合に検出されるターンオフ電流スルーレートとが存在する。
【0053】
ターンオン電流スルーレートの算出について説明する。ターンオン電流スルーレートを算出するには、ゲート信号がオンになってから、素子電流検出部26Uで検出した素子電流が第1閾値電流Ith1に達するまでの時間Tsr_on_i1を検出する。本実施形態では、ゲート信号がオンになって素子電流が第1閾値電流Ith1に達するまでの時間Tsr_on_v1を検出した後、ゲート信号がオフとなって再びオンになるまでの期間を低閾値検出区間と称する。
【0054】
ゲート信号が再びオンになってから、素子電流検出部26Uで検出した素子電流が第1閾値電流Ith1よりも高い第2閾値電流Ith2に達するまでの時間Tsr_on_i2を検出する。本実施形態では、ゲート信号がオンになって素子電流が第2閾値電流Ith2に達するまでの時間Tsr_on_i2を検出した後、ゲート信号がオフとなって再びオンになるまでの期間を高閾値検出区間と称する。
【0055】
高閾値検出区間に後続する区間は、検出したTsr_on_i1及び時間Tsr_on_i2を用いてターンオン電流スルーレートを算出し、算出したターンオン電流スルーレートに基づいて、ゲート信号の電流値であるゲート電流を制御するdv/dt算出&制御演算区間である。dv/dt算出&制御演算区間において、ターンオン電流スルーレートは、下記の式(3)により算出される。
【0056】
【0057】
続いてターンオフ電流スルーレートの算出について説明する。ターンオフ電流スルーレートを算出するには、低閾値検出区間においてゲート信号がオフになってから、素子電流検出部26Uで検出した素子電流が第1閾値電流Ith1に低下するまでの時間Tsr_off_i1を検出する。
【0058】
低閾値検出区間に後続する高閾値検出区間において、ゲート信号がオフになってから、素子電流検出部26Uで検出した素子電流が第1閾値電流Ith1よりも高い第2閾値電流Ith2に低下するまでの時間Tsr_off_i2を検出する。
【0059】
高閾値検出区間に後続するdv/dt算出&制御演算区間では、検出したTsr_off_i1及び時間Tsr_off_i2を用いてターンオフ電流スルーレートを算出し、算出したターンオフ電流スルーレートに基づいて、ゲート信号の電流値であるゲート電流を制御する。dv/dt算出&制御演算区間において、ターンオフ電流スルーレートは、下記の式(4)により算出される。
【0060】
【0061】
dv/dt算出&制御演算区間に後続する操作区間では、算出したターンオン電流スルーレートdion/dt及びターンオフ電流スルーレートdioff/dtに基づいて、ゲート信号の電流値であるゲート電流を制御する。
【0062】
例えば、ターンオン電流スルーレートdion/dtの絶対値が低い場合は、操作区間のターンオン時操作区間94において、正電圧であるゲート信号のゲート電流を大きくしてスイッチング素子44Uのドレインソース間への電子の集中を促す。また、ターンオン電流スルーレートdion/dtの絶対値が高い場合は、操作区間のターンオン時操作区間94において、正電圧であるゲート信号のゲート電流を小さくしてスイッチング素子44Uのドレインソース間への電子の集中を抑制する。
【0063】
例えば、ターンオフ電流スルーレートdioff/dtの絶対値が低い場合は、操作区間のターンオフ時操作区間96において、負電圧であるゲート信号のゲート電流を大きくしてスイッチング素子44Uのドレインソース間に引き寄せられた電子の分散を促す。また、ターンオフ電流スルーレートdioff/dtの絶対値が高い場合は、操作区間のターンオフ時操作区間96において、負電圧であるゲート信号のゲート電流を小さくしてスイッチング素子44Uのドレインソース間に引き寄せられた電子の分散を抑制する。
【0064】
図6は、電圧スルーレートと電流スルーレートとの関係及び、ゲート電流への影響を示した説明図であり、前述の図4図5とを1つの図にまとめたものである。図6に示したように、入出端子間電圧波形及び素子電流波形は、一方が増大すれば他方が減少し、一方が増大すれば他方が増大するという相補的な関係にある。
【0065】
また、操作区間において、入出力端子間電圧が大きくなり始めるタイミングは、素子電流が減少を始めるタイミングよりも早く、極小値まで減少した素子電流が再び大きくなり始めるタイミングは、入出力端子間電圧が減少を開始するタイミングよりも早い。従がって、操作区間を図6に示したように第1区間98、第2区間100、第3区間102そして第4区間104のように4分割し、第1区間98でターンオフ電圧スルーレートを、第2区間100でターンオフ電流スルーレートを、第3区間102でターンオン電流スルーレートを、そして第4区間104でターンオン電圧スルーレートを各々個別に変更する制御が可能となる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態によれば、検出情報の処理負荷を抑制しながら、電流スルーレート及び電圧スルーレートをモニターできる。
【0067】
本実施形態では、ゲート信号がオフになってからオンになり、再びオフになる直前まで又はゲート信号がオンになってからオフになり、再びオンになる直前までを1単位のサイクルとする。そして、1のサイクルを低閾値検出区間とし、低閾値検出区間に後続するサイクルを高閾値検出区間としている。第1閾値電圧Vth1又は第1閾値電流Ith1による検出は低閾値検出区間で、第2閾値電圧Vth2又は第2閾値電流Ith2による検出は高閾値検出区間で各々行うことにより、閾値を用いた制御端子電圧等の変化の検出に係るゲートドライバ20U~22Wの負荷を抑制することができる。
【0068】
また、算出したターンオン電圧スルーレート、ターンオフ電圧スルーレート、ターンオン電流スルーレート及びターンオフ電流スルーレートに基づいてゲート電流を制御することにより、サージ電圧等の発生を抑制すると共に、スイッチング素子42U~44Wのスイッチング損失を低減できる。
【0069】
図7は、本実施形態における一般的なスルーレート算出の説明図である。図7に示した場合では、図4~6で示した低閾値による閾値比較である低閾値検出、高閾値による閾値比較である高閾値検出、スルーレートを算出する制御演算及び算出したスルーレートに基づいたゲート電流の操作からなる一連のサイクルを原則として反復する。しかしながら、インバータ10の温度、モータ相電流、及び直流電源80の電源電圧に応じて、低閾値検出、高閾値検出、制御演算及び操作の一連のサイクルを、又はかかる一連のサイクルに含まれる低閾値検出、高閾値検出、制御演算及び操作のいずれかを中断することにより、ゲートドライバ20U~22Wの負荷を低減してもよい。以下、本実施形態の変形例について説明する。
【0070】
[第1の変形例]
図8は、低閾値検出を初回に限定した場合の説明図である。低閾値検出をモータ12の駆動中に少なくとも1回実施し、かかる低閾値検出の結果を制御部30Uの記憶部であるRAM30UC等に保持しておく。以後、高閾値検出、制御演算及び操作を一連のサイクルとして行い、制御演算では、保持していた低閾値検出の結果と、新たに検出した高閾値検出の結果とを用いて電圧スルーレート又は電流スルーレートを算出し、後続する操作では算出した電圧スルーレート又は電流スルーレートに基づいてゲート電流を制御する。
【0071】
図9は、図8に示した低閾値検出を初回に限定した場合の処理の一例を示したフローチャートである。ステップ800では、初回の低閾値検出か否かが判定され、初回検出の場合は手順をステップ802に移行し、初回検出でない場合は手順をステップ806に移行する。
【0072】
ステップ802では、低閾値を用いた低閾値検出を行い、検出結果を保持する。ステップ804及びステップ806では、高閾値を用いた高閾値検出を行う。
【0073】
ステップ808では、保持していた低閾値検出の検出結果とステップ804又はステップ806で検出した高閾値検出の検出結果とを用いて電圧スルーレート又は電流スルーレートを算出する。そしてステップ810では、算出した電圧スルーレート又は電流スルーレートに基づいてゲート電流の制御を行って処理を終了する。
【0074】
本変形例では、低閾値検出を初回に限定することにより、ゲート電流の制御に係る一連の処理を簡素化し、ゲートドライバ20U~22Wの負荷を軽減することができる。
【0075】
[第2の変形例]
図10は、高閾値検出において前回の高閾値検出と差異が生じた場合にスルーレートの算出及びゲート電流の制御を行う場合のフローチャートである。本変形例では、制御演算区間で電圧スルーレート又は電流スルーレートを算出した際に高閾値検出の検出結果を制御部30Uの記憶部であるRAM30UC等に保持した後、新たに低閾値検出と高閾値検出とを行い、新たに行った高閾値検出の検出結果と保持した高閾値検出の検出結果との差分が所定値以上の場合に、新たに検出した低閾値検出の検出結果と新たに検出した高閾値検出の検出結果とで算出した電圧スルーレート又は電流スルーレートに基づいてゲート電流を制御する。所定値は、電圧スルーレート又は電流スルーレートにおいて有意な変化が認められる程度の値であり、実験等を通じて具体的に決定する。
【0076】
図10は、予め高閾値検出の検出結果が保持されている処理を示している。ステップ900では、低閾値を用いた低閾値検出を行う。ステップ902では、高閾値を用いた高閾値検出を行う。
【0077】
ステップ904では、ステップ902で検出した高閾値検出の検出結果と、保持している高閾値検出の検出結果とを比較し、両者の差分が所定値以上か否かを判定する。ステップ904で、両者の差分が所定値以上の場合は手順をステップ906に移行し、両者の差分が所定値以上ではない場合は、手順をステップ902に移行して、高閾値検出を行う。
【0078】
ステップ906では、ステップ900で検出した低閾値検出の検出結果とステップ902で検出した高閾値検出の検出結果とを用いて電圧スルーレート又は電流スルーレートを算出する。そしてステップ908では、算出した電圧スルーレート又は電流スルーレートに基づいてゲート電流の制御を行って処理を終了する。
【0079】
本変形例では、新たに取得した高閾値検出の検出結果が前回値との差異が認められる場合に電圧スルーレート又は電流スルーレートの算出とゲート電流の制御を行うことにより、ゲート電流の制御に係る一連の処理を簡素化し、インバータ10又はゲートドライバ20U~22Wの負荷を軽減することができる。
【0080】
[第3の変形例]
図11は、4つ以上の閾値比較によるスルーレート算出の説明図である。本変形例では、電圧スルーレートを検出する場合、各々異なる複数の閾値電圧において、隣接する閾値電圧同士の差分を、ゲート信号がオンからオフ又はオフからオンに変化したタイミングから入出力端子間電圧検出部24Uが検出した電圧が閾値電圧同士の差分に係る閾値電圧に各々達するまでの時間の差分で除算して複数の電圧スルーレートを算出する。そして、算出した複数の電圧スルーレートの時系列での変化率に基づいてゲート電流の制御を行う。
【0081】
図11に示した例では、閾値電圧Vth1a、Vth2a、Vth3a、Vth4aの4つの閾値電圧が設定されている。隣接する閾値電圧の組合せは、Vth1aとVth2a、Vth2aとVth3a、そしてVth3aとVth4aである。本変形例では、Vth2aとVth1aとの差分Vth2a-Vth1aを入出力端子間電圧検出部24Uが検出した電圧が閾値電圧Vth1a、Vth2aに各々達するまでの時間T1、T2の差分であるT2-T1で除算して、下記の初期スルーレートを算出する。
【0082】
【0083】
また、本変形例では、Vth3aとVth2aとの差分Vth3a-Vth2aを入出力端子間電圧検出部24Uが検出した電圧が閾値電圧Vth2a、Vth3aに各々達するまでの時間T2、T3の差分であるT3-T2で除算して、下記の中期スルーレートを算出する。
【0084】
【0085】
さらに、本変形例では、Vth4aとVth3aとの差分Vth4a-Vth3aを入出力端子間電圧検出部24Uが検出した電圧が閾値電圧Vth3a、Vth4aに各々達するまでの時間T3、T4の差分であるT4-T3で除算して、下記の後期スルーレートを算出する。
【0086】
【0087】
本変形例では、上述のように算出した初期スルーレート、中期スルーレート及び後期スルーレートの変化率を算出することにより、ゲート電流が同一の場合の入出力端子間電圧の波形の立ち上がりの初期から終期までのスルーレートの変化を把握できる。初期スルーレート、中期スルーレート及び後期スルーレートの変化率は、一例として、初期スルーレートと中期スルーレートとの差分、及び中期スルーレートと後期スルーレートとの差分を各々算出する。さらには、初期スルーレートと中期スルーレートとの差分と、中期スルーレートと後期スルーレートとの差分との差分を算出して、スルーレートの変化率を把握してもよい。
【0088】
図11では、電圧スルーレートを算出する場合を示したが、電流スルーレートを算出する場合も手順は同様である。電流スルーレートを算出する場合は、閾値電流Ith1a、Ith2a、Ith3a、Ith4aの4つの閾値電流を設定する。隣接する閾値電流の組合せは、Ith1aとIth2a、Ith2aとIth3a、そしてIth3aとIth4aである。本変形例では、Ith2aとIth1aとの差分Ith2a-Ith1aを素子電流検出部26Uが検出した電流が閾値電流Ith1a、Ith2aに各々達するまでの時間T1、T2の差分であるT2-T1で除算して、初期スルーレートを算出する。
【0089】
以下同様に、Ith3aとIth2aとの差分Ith3a-Ith2aを素子電流検出部26Uが検出した電流が閾値電流Ith2a、Ith3aに各々達するまでの時間T2、T3の差分であるT3-T2で除算して、中期スルーレートを算出し、Ith4aとIth3aとの差分Ith4a-Ith3aを素子電流検出部26Uが検出した電流が閾値電流Ith3a、Ith4aに各々達するまでの時間T3、T4の差分であるT4-T3で除算して、後期スルーレートを算出する。
【0090】
そして、算出した初期スルーレート、中期スルーレート及び後期スルーレートの変化率を、電圧スルーレートの場合と同様に算出する。
【0091】
[第4の変形例]
図12は、モータ相電流が略同じ場合に、低閾値検出及び高閾値検出の各々を行う場合の説明図である。前述のように、実際のモータの回転制御では、スイッチング素子42U~44Wの各々を小刻みにオンオフさせるPWM制御により、三相交流様の電圧を生成してモータ12の各相のコイルに印加するので、モータ12に供給されるモータ相電流は、図12中段に示したように略正弦波状に変化する。モータ相電流が異なる場合、入出力端子間電圧の波形であるVds波形も異なってくる。モータ相電流が高いタイミングでのVds波形は、図12の上段に示したように急峻となりやすい。また、モータ相電流が低いタイミングでのVds波形は、図12の下段に示したように、モータ相電流が高いタイミングでのVds波形よりも緩やかになりやすい。
【0092】
図12に示したように、モータ相電流が異なるタイミングでは、各々のVds波形に差異が生じる。本変形例では、電気角周期毎に出現するモータ相電流が略同じとなるタイミングで低閾値検出と高閾値検出とを行って電圧スルーレートを算出する。モータ相電流が略同じとなるタイミングではVds波形がほぼ同じになるので、電圧スルーレートを精度よく算出でき、その結果、高精度なゲート電流の制御が可能となる。モータ相電流が略同じとなるタイミングは、一例として、制御部30Uの制御クロックをカウントして、電気角周期内の同じタイミングとして検出する。
【0093】
また、モータ相電流が略同じとなるタイミングを、電気角周期毎に検出して低閾値検出と高閾値検出とを行うことにより、ゲートドライバ20U~22Wの負荷を低減することができる。
【0094】
本変形例では、電圧スルーレートを算出した場合を示したが、電流スルーレートを算出する場合も同様の手順で算出することができる。
【0095】
[第5の変形例]
図13は、同一電気角周期中でモータ相電流が略同じ場合に、低閾値検出及び高閾値検出の各々を行う場合の説明図である。略正弦波状に変化するモータ相電流は、極大値又は極小値でない限り、同一の電気角周期内で同一の値が2回出現する。本変形例では、同一の電気角周期内で2回出現するモータ相電流が略同じタイミングで低閾値検出と高閾値検出とを行って電圧スルーレートを算出する。前述のように、モータ相電流が略同じとなるタイミングではVds波形がほぼ同じになるので、電圧スルーレートを精度よく算出でき、その結果、高精度なゲート電流の制御が可能となる。
【0096】
同一電気角周期内でモータ相電流が略同じとなるタイミングは、一例として、電気角周期内で制御部30Uの制御クロックをカウントして検出する。
【0097】
また、同一電気角周期内でモータ相電流が略同じとなるタイミングは、PWM制御でのスイッチング素子42U~44Wのスイッチング周期よりも長いので、単位時間当たりの低閾値検出及び高閾値検出の頻度を抑制でき、その結果、ゲートドライバ20U~22Wの負荷を低減することができる。
【0098】
本変形例では、電圧スルーレートを算出した場合を示したが、電流スルーレートを算出する場合も同様の手順で算出することができる。
【0099】
[第6の変形例]
図14は、低閾値検出と高閾値検出との間に間引き区間を設けた場合の説明図である。本実施形態では、図7に示したように、スイッチング素子42U~44WのPWM制御でのスイッチング毎に、低閾値検出、高閾値検出、電圧スルーレート又は電流スルーレートを算出する制御演算、及びゲート電流の操作を行うが、かかる動作ではゲートドライバ20U~22Wの負荷が問題となる。
【0100】
本変形例では、図14に示したように、低閾値検出後、高閾値検出を行わない間引き区間を設け、当該間引き区間に後続して高閾値検出を行う。間引き区間は、例えば制御部30Uが入出力端子間電圧検出部24U及び素子電流検出部26Uの各々に対して動作停止信号を出力することにより行われる。高閾値検出後は、間引き区間を経て制御演算を行い、制御演算後は、間引き区間を経て操作を行う。そして、操作後は、間引き区間を経て再び低閾値検出を行う。間引き区間は少なくとも1回のスイッチングを含む区間であり、複数回のスイッチングに及んでもよい。
【0101】
図14に示したように、検出、演算、及び操作を行わない間引き区間を設けることにより、ゲートドライバ20U~22Wの負荷を低減することができる。
【0102】
[第7の変形例]
図15は、ゲート電流の制御後、閾値検出を行わない間引き区間を設けた場合の説明図である。図15に示したように、ゲート電流の操作後、少なくとも1回のスイッチングの間、検出、演算、及び操作を行わない間引き区間を設けることにより、ゲートドライバ20U~22Wの負荷を低減することができる。
【0103】
[第2の実施形態]
図16は、本実施形態に係る、スイッチング素子44Uのゲートに設けられたゲートドライバ122Uの構成の一例を示したブロック図である。本実施形態に係るゲートドライバ122Uは、スイッチング素子44Uの制御端子電圧に基づくスルーレート検出を行う点で第1の実施形態に係るゲートドライバ22Uと相違する。 また、本実施形態に係るゲートドライバは、ゲートドライバ120Uのように、スイッチング素子42U~44Wの各々に設けられた他のゲートドライバが存在するが、代表例としてゲートドライバ122Uを説明し、その他のゲートドライバについては説明を省略する。
【0104】
図16に示したように、本実施形態に係るゲートドライバ122Uは、スイッチング素子44Uの制御端子電圧(ゲートソース間電圧Vgs)を時間情報に対応付けて検出する制御端子電圧検出部124U、ノード46Uとモータ12との間に設けられ素子電流(ドレイン電流Id)がハイレベルで一定となる状態の負荷電流ILを検出する負荷電流検出部132U、及び直流電源80の電源電圧VHを検出する電源電圧検出部134Uを含み、検出処理部128Uは、制御端子電圧検出部124U、負荷電流検出部132U及び電源電圧検出部134Uの各々の検出信号を、後述する制御部130Uで処理可能な形式の信号に変換し、制御部130Uは、上位の制御装置から入力されるスルーレート目標値及び検出処理部128Uの出力に基づきスイッチング素子44Uのゲートに印加するゲート信号の制御演算を行う点で第1の実施形態と相違するが、その他の構成については、第1の実施形態と同一の符号を付して詳細な説明は省略する。制御部130Uの構成も、図3に示した制御部30Uと実質的に同じなので、詳細な説明は省略する。また、制御端子電圧検出部124Uは、例えば、制御部130Uの制御クロックを用いて時間情報を検出する。
【0105】
負荷電流検出部132Uは、一例として、シャント抵抗の両端部の電位差に基づいて電流値を検出してもよいし、ノード46Uとモータ12との間の通電によって生じる誘導電流に基づいて電流値を算出してもよい。本実施形態では、負荷電流検出部132Uに代えて、第1の実施形態の素子電流検出部26Uを備えていてもよい。負荷電流ILは、スイッチング素子44Uがオンになった場合に検出される素子電流だからである。また、負荷電流ILは、スイッチング素子44Uに固有の値であるから、負荷電流検出部132Uによる検出値に代えて、スイッチング素子44Uに固有の定数としてもよい。
【0106】
検出処理部128Uは、例えば、制御端子電圧検出部124U、負荷電流検出部132U及び電源電圧検出部134Uの各々の検出信号がアナログ信号である場合、制御部130Uで処理可能なデジタル信号に変換する一種のA/Dコンバータを含む回路である。
【0107】
電源電圧検出部134Uに代えて、第1の実施形態の入出力端子間電圧検出部124Uを備えていてもよい。電源電圧VHは、スイッチング素子44Uがオフになった場合に検出される入出力端子間電圧だからである。また、電源電圧VHは直流電源80の仕様に応じた値なので、直流電源80の出力が安定している場合は、電源電圧検出部134U等による検出値に代えて、直流電源80の公称電圧を電源電圧VHとしてもよい。
【0108】
図17は、制御端子電圧によるスルーレート検出の概要を示した説明図である。図17は、前述の図19と同じ態様でゲート信号、制御端子電圧、入出力端子間電圧、及び素子電流の時系列での変化を示している。本実施形態では、制御端子電圧に以下の(1)、(2)の情報が出現することを利用してスルーレートを検出する。
【0109】
(1)制御端子電圧が、ゲート閾値電圧に到達してから、ミラー電圧に到達して一定となるミラー期間までのドレイン電流遷移期間T1。
(2)ミラー期間に相当するドレインソース間電圧遷移期間T2。
【0110】
本実施形態では、1サイクル目閾値Vth1c、2サイクル目閾値Vth2c、及び3サイクル目閾値Vth3cの3つの制御端子電圧の閾値を設定する。1サイクル目閾値Vth1cはゲート閾値電圧Vthそのものである。2サイクル目閾値Vth2cは、ミラー電圧Vmに近似するがミラー電圧Vmより小さい値であり、3サイクル目閾値Vth3cは、ミラー電圧Vmに近似するがミラー電圧Vmより大きい値である。
【0111】
ミラー電圧は、下記の式で算出される。下記の式中のVthはゲート閾値電圧であり、ILは素子電流がハイレベルで一定となる負荷電流であり、gmは相互コンダクタンス(制御端子電圧の変化に対する素子電流の変化)である。
m=Vth+IL/gm
【0112】
本実施形態では、負荷電流ILをドレイン電流遷移期間T1で除算して電流スルーレートdi/dtを導出し、電源電圧VHをドレインソース間電圧遷移期間T2で除算して電圧スルーレートdv/dtを導出する。
【0113】
図19を用いて説明したように、ゲート信号がオフになると、入出力端子間電圧が大きくなると共に、素子電流が低下するターンオフ期間となるが、ターンオフ期間もターンオン期間と同様に、ドレイン電流遷移期間T1と負荷電流ILとから電流スルーレートdi/dtを導出し、ドレインソース間電圧遷移期間T2と電源電圧VHとから電圧スルーレートdv/dtを導出することができる。
【0114】
図17では、1のゲート信号のオン又はオフに際して、1サイクル目閾値Vth1c、2サイクル目閾値Vth2c、及び3サイクル目閾値Vth3cの3つの制御端子電圧の閾値を適用した例を示した。しかしながら、かかる場合は、短時間で3つの閾値を用いた検出を行うことを要し、ゲートドライバ20U~22Wの負荷が高くなるおそれがあるので、本実施形態では、図18を用いて後述するように、1サイクル目閾値Vth1c、2サイクル目閾値Vth2c、及び3サイクル目閾値Vth3cの各々の閾値を用いた検出は、異なるタイミングでのゲート信号のオン又はオフに際して行う。
【0115】
図18は、制御端子電圧による電圧スルーレート及び電流スルーレートの算出、並びに、ゲート電流の制御の一例を示した説明図である。本実施形態では、ゲート信号がオフになってからオンになり、再びオフになる直前までを1単位のサイクルとする。そして、1のサイクルを第1閾値検出区間とし、第1閾値検出区間に後続するサイクルを第2閾値検出区間とし、第2閾値検出区間に後続するサイクルを第3閾値検出区間としている。
【0116】
第1閾値検出区間では、ゲート信号がオフになってから制御端子電圧が1サイクル目閾値Vth1c、に達する間までの時間Tsr_off_1を検出し、同じく第1閾値検出区間では、ゲート信号がオンになってから制御端子電圧が1サイクル目閾値Vth1cに達する間までの時間Tsr_on_1を検出する。
【0117】
第2閾値検出区間では、ゲート信号がオフになってから制御端子電圧が2サイクル目閾値Vth2c、に達する間までの時間Tsr_off_2を検出し、同じく第2閾値検出区間では、ゲート信号がオンになってから制御端子電圧が2サイクル目閾値Vth2cに達する間までの時間Tsr_on_2を検出する。
【0118】
第3閾値検出区間では、ゲート信号がオフになってから制御端子電圧が3サイクル目閾値Vth3c、に達する間までの時間Tsr_off_3を検出し、同じく第3閾値検出区間では、ゲート信号がオンになってから制御端子電圧が3サイクル目閾値Vth3cに達する間までの時間Tsr_on_3を検出する。
【0119】
スルーレート算出&制御演算区間では、第1閾値検出区間、第2閾値検出区間、及び第3閾値検出区間の各々で検出した時間と、電源電圧検出部134Uで検出した電源電圧VHと、負荷電流検出部132Uで検出した負荷電流ILとを用いて、ターンオフ電圧スルーレート、ターンオン電圧スルーレート、ターンオフ電流スルーレート及びターンオン電流スルーレートを算出する。
【0120】
ターンオフ電圧スルーレートは、下記の式(5)により算出される。式(5)の分母は、前述のドレインソース間電圧遷移期間T2に相当する。
【0121】
【0122】
ターンオン電圧スルーレートは、下記の式(6)により算出される。式(6)の分母は、前述のドレインソース間電圧遷移期間T2に相当するが、電源電圧VHは正の値であり、ターンオン電圧スルーレートは負の値になるので、時間Tsr_on_2から時間Tsr_on_3を減算することにより、分母を負の値にしている。
【0123】
【0124】
ターンオフ電流スルーレートは、下記の式(7)により算出される。式(7)の分母は、前述のドレイン電流遷移期間T1に相当するが、負荷電流ILは正の値であり、ターンオフ電流スルーレートは負の値になるので、時間Tsr_off_2から時間Tsr_off_1を減算することにより、分母を負の値にしている。
【0125】
【0126】
ターンオン電流スルーレートは、下記の式(8)により算出される。式(8)の分母は、前述のドレイン電流遷移期間T1に相当する。
【0127】
【0128】
操作区間では、算出したターンオフ電圧スルーレート、ターンオン電圧スルーレート、ターンオフ電流スルーレート及びターンオン電流スルーレートに基づいて、ゲート信号の電流値であるゲート電流を制御する。ゲート電流の制御の態様は、第1の実施形態と同様なので、詳細な説明は省略する。
【0129】
以上説明したように、本実施の形態によれば、検出値が一定で、安定して検出できる電源電圧VH及び負荷電流ILに基づいて、ターンオフ電圧スルーレート、ターンオン電圧スルーレート、ターンオフ電流スルーレート及びターンオン電流スルーレートの各々を算出できる。
【0130】
ターンオフ電圧スルーレート、ターンオン電圧スルーレート、ターンオフ電流スルーレート及びターンオン電流スルーレートの算出に係る各々の時間は、1サイクル目閾値Vth1c、2サイクル目閾値Vth2c、及び3サイクル目閾値Vth3cの3つの制御端子電圧の閾値を適用して検出される。本実施形態では、ゲート信号がオフになってからオンになり、再びオフになる直前までを1単位のサイクルとする。そして、1のサイクルを第1閾値検出区間とし、第1閾値検出区間に後続するサイクルを第2閾値検出区間とし、第2閾値検出区間に後続するサイクルを第3閾値検出区間としている。そして、1サイクル目閾値Vth1cを用いて制御端子電圧の変化を検出するタイミングを第1閾値検出区間とし、2サイクル目閾値Vth2cを用いて制御端子電圧の変化を検出するタイミングを第2閾値検出区間とし、3サイクル目閾値Vth3cを用いて制御端子電圧の変化を検出するタイミングを第3閾値検出区間とすることにより、閾値を用いた制御端子電圧の変化の検出に係るゲートドライバ20U~22Wの負荷を抑制することができる。
<付記>
本発明の特徴を以下の通り示す。
(付記1)
制御端子及び入出力端子を備え、前記制御端子に印加される電気信号に応じて前記入出力端子間がスイッチングされるスイッチング素子(44U)の前記入出力端子の電圧の時間変化を示す電圧時系列情報を検出する電圧検出部(24U)と、
前記スイッチング素子(44U)の素子電流の時間変化を示す電流時系列情報を検出する電流検出部(26U)と、
前記スイッチング素子(44U)の第1のスイッチングにおいて前記電圧検出部(24U)が検出した第1の電圧時系列情報、及び前記第1のスイッチングと異なる第2のスイッチングにおいて前記電圧検出部(24U)が検出した第2の電圧時系列情報に基づいて導出され、かつ前記入出力端子間の電圧変化率を示す電圧スルーレートと、前記第1のスイッチングにおいて前記電流検出部(26U)が検出した第1の電流時系列情報、及び前記第2のスイッチングにおいて前記電流検出部(26U)が検出した第2の電流時系列情報に基づいて導出され、かつ前記素子電流の変化率を示す電流スルーレートとのいずれか一方に基づいて、前記電気信号の電流値を制御する制御部(30U)と、
を含むスイッチング素子駆動回路。
(付記2)
前記制御部(30U)は、第1閾値電圧と前記第1閾値電圧よりも大きな第2閾値電圧との電圧差分を、前記第1の電圧時系列情報から抽出した時間であって、前記入出力端子の電圧が、前記電気信号が変化したタイミングから第1閾値電圧に達するまでの第1電圧時間と、第2の電圧時系列情報から抽出した時間であって、前記入出力端子の電圧が、前記電気信号が変化したタイミングから前記第2閾値電圧に達するまでの第2電圧時間との時間差分で、除算して前記電圧スルーレートを算出する付記1に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記3)
前記制御部(30U)は、第1閾値電流と前記第1閾値電流よりも大きな第2閾値電流との電流差分を、前記第1の電流時系列情報から抽出した時間であって、前記素子電流が前記電気信号が変化したタイミングから前記第1閾値電流に達するまでの第1電流時間と、前記第2の電流時系列情報から抽出した時間であって、前記素子電流が、前記電気信号が変化したタイミングから前記第2閾値電流に達するまでの第2電流時間との時間差分で、除算して前記電流スルーレートを算出する付記1に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記4)
前記制御部(30U)は、前記第1電圧時間を記憶部(30UC)に保持した後、前記第2電圧時間を複数回検出し、該複数回検出した第2電圧時間の各々と前記記憶部(30UC)に保持した第1電圧時間とを用いて複数の前記電圧スルーレートを算出する付記2に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記5)
前記制御部(30U)は、前記第1電流時間を記憶部(30UC)に保持した後、前記第2電流時間を複数回検出し、該複数回検出した第2電流時間の各々と前記記憶部(30UC)に保持した第1電流時間とを用いて複数の前記電流スルーレートを算出する付記3に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記6)
前記制御部(30U)は、前記電圧スルーレートの算出に係る第2電圧時間を記憶部(30UC)に保持した後、新たに第1電圧時間と第2電圧時間とを検出し、新たに検出した第2電圧時間と前記記憶部(30UC)に保持した第2電圧時間との差分が所定値以上の場合に、前記新たに検出した第1電圧時間と第2電圧時間とで算出した電圧スルーレートに基づいて前記電気信号の電流値を制御する付記2に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記7)
前記制御部(30U)は、前記電流スルーレートの算出に係る第2電流時間を記憶部(30UC)に保持した後、新たに第1電流時間と第2電流時間とを検出し、新たに検出した第2電流時間と前記記憶部(30UC)に保持した第2電流時間との差分が所定値以上の場合に、前記新たに検出した第1電流時間と第2電流時間とで算出した電流スルーレートに基づいて前記電気信号の電流値を制御する付記3に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記8)
前記制御部(30U)は、各々異なる複数の閾値電圧に対応して、前記スイッチング素子(44U)の各々異なるスイッチングにおいて検出された複数の電圧時系列情報の各々から、前記電気信号が変化したタイミングから前記各々異なる複数の閾値電圧に達するまでの時間を各々抽出すると共に、値が隣接する閾値電圧同士の差分を、前記電気信号が変化したタイミングから値が隣接する閾値電圧に達するまでの各々の時間の差分で除算して複数の電圧スルーレートを算出し、該複数の電圧スルーレートの時系列での変化率に基づいて前記電気信号の電流値を制御する付記1に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記9)
前記制御部(30U)は、各々異なる複数の閾値電流に対応して、前記スイッチング素子(44U)の各々異なるスイッチングにおいて検出された複数の電流時系列情報の各々から、前記電気信号が変化したタイミングから前記各々異なる複数の閾値電流に達するまでの時間を各々抽出すると共に、値が隣接する閾値電流同士の差分を、前記電気信号が変化したタイミングから値が隣接する閾値電流に達するまでの各々の時間の差分で除算して複数の電流スルーレートを算出し、該複数の電流スルーレートの時系列での変化率に基づいて前記電気信号の電流値を制御する付記1に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記10)
前記第2のスイッチングは、前記第1のスイッチングに後続するスイッチングである付記1~3のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記11)
前記第2のスイッチングは、前記スイッチング素子(44U)から電力負荷(12)に供給される電流が、前記第1のスイッチングの際に前記スイッチング素子(44U)から前記電力負荷(12)に供給される電流と、略同じになる電気角周期毎に出現するタイミングでのスイッチングである付記1~3のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記12)
前記第2のスイッチングは、同一電気角周期において、前記スイッチング素子(44U)から電力負荷(12)に供給される電流が、前記第1のスイッチングの際に前記スイッチング素子(44U)から前記電力負荷(12)に供給される電流と、略同じになるタイミングでのスイッチングである付記1~3のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記13)
前記第1のスイッチング後、前記電圧検出部(24U)及び前記電流検出部(26U)の各々による検出を停止する間引き区間を少なくとも1回のスイッチングの間設ける付記1~3のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記14)
前記電圧スルーレート及び前記電流スルーレートの算出後、前記電圧検出部(24U)及び前記電流検出部(26U)の各々による検出と前記制御部(30U)による電圧スルーレート及び前記電流スルーレートの算出とを停止する間引き区間を少なくとも1回のスイッチングの間設ける付記1~3のいずれか1項に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記15)
制御端子及び入出力端子を備え、前記制御端子に印加される電気信号に応じて前記入出力端子間がスイッチングされるスイッチング素子(44U)の前記制御端子の電圧の時間変化を示す制御端子電圧時系列情報を検出する制御端子電圧検出部(124U)と、
前記制御端子電圧時系列情報から抽出した前記制御端子の電圧が前記スイッチング素子(44U)のゲート閾値電圧からミラー電圧に到達するまでのドレイン電流遷移期間に基づいて導出され、かつ前記スイッチング素子(44U)の素子電流の変化率を示す電流スルーレートと、前記制御端子電圧時系列情報から抽出した前記制御端子の電圧が前記ミラー電圧となるミラー期間に基づいて導出され、かつ前記入出力端子間の電圧変化率を示す電圧スルーレートとのいずれか一方に基づいて、前記電気信号の電流値を制御する制御部(130U)と、
を含むスイッチング素子駆動回路。
(付記16)
前記制御部(130U)は、前記制御端子の電圧が、前記電気信号がオンからオフ又はオフからオンに変化した第1のタイミングから前記ゲート閾値電圧に達するまでの第1時間と、前記第1のタイミング後に前記電気信号がオンからオフ又はオフからオンに各々変化した第2のタイミングから前記制御端子の電圧が、前記ゲート閾値電圧より大きく、かつ前記ミラー電圧より小さく前記ミラー電圧に近似する値の制御端子閾値電圧に達するまでの第2時間と、の差分を前記ドレイン電流遷移期間とし、前記スイッチング素子(44U)の負荷電流を、前記ドレイン電流遷移期間で除算して前記電流スルーレートを算出する付記15に記載のスイッチング素子駆動回路。
(付記17)
前記制御部(130U)は、前記第2時間と、前記第2のタイミング後に前記電気信号がオンからオフ又はオフからオンに各々変化した第3のタイミングから前記制御端子の電圧が、前記ミラー電圧よりも大きく、かつ前記ミラー電圧に近似する他の制御端子閾値電圧に達するまでの第3時間との差分を前記ミラー期間とし、電源電圧を、前記ミラー期間で除算して前記電圧スルーレートを算出する付記16に記載のスイッチング素子駆動回路。
【符号の説明】
【0131】
10 インバータ、12 モータ、22U ゲートドライバ、24U 入出力端子間電圧検出部、26U 素子電流検出部、30U 制御部、32U 操作部、32UF、32UO 可変抵抗器、44U スイッチング素子、90 ターンオフ時操作区間、92 ターンオン時操作区間、94 ターンオン時操作区間、96 ターンオフ時操作区間、122U ゲートドライバ、124U 制御端子電圧検出部、124U 入出力端子間電圧検出部、130U 制御部、132U 負荷電流検出部、134U 電源電圧検出部、Id ドレイン電流、Ith1 第1閾値電流、Ith2 第2閾値電流、Ith1ath2a、Ith3a、Ith4a 閾値電流、IL 負荷電流、T1 ドレイン電流遷移期間、T2 ドレインソース間電圧遷移期間、T1、T2、T3、T4、Tsr_off_1、Tsr_off_2、Tsr_off_3、Tsr_on_1、Tsr_on_2、Tsr_on_3、Tsr_off_v1、Tsr_off_v2、Tsr_on_v1、Tsr_on_v2、Tsr_off_i1、Tsr_off_i2、Tsr_on_i1、Tsr_on_i2 時間、Vds ドレインソース間電圧、Vgs ゲートソース間電圧、Vm ミラー電圧、Vth ゲート閾値電圧、Vth1 第1閾値電圧、Vth2 第2閾値電圧、Vth1a、Vth2a、Vth3a、Vth4a 閾値電圧、Vth1c 1サイクル目閾値、Vth2c 2サイクル目閾値、Vth3c 3サイクル目閾値、VH 電源電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19