特許 7476779 車両用空調装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-04-22

(45)【発行日】2024-05-01

(54)【発明の名称】車両用空調装置

(51)【国際特許分類】

   B60H 1/22 20060101AFI20240423BHJP

【ＦＩ】

B60H1/22 651C

B60H1/22 651A

【請求項の数】 12

(21)【出願番号】P 2020204186

(22)【出願日】2020-12-09

(65)【公開番号】P2022091376

(43)【公開日】2022-06-21

【審査請求日】2023-07-11

(73)【特許権者】

【識別番号】000004260

【氏名又は名称】株式会社デンソー

(74)【代理人】

【識別番号】110001472

【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】平山 順基

(72)【発明者】

【氏名】横尾 康弘

(72)【発明者】

【氏名】谷畑 拓也

(72)【発明者】

【氏名】柳町 佳宣

(72)【発明者】

【氏名】上杉 芳彦

【審査官】佐藤 正浩

(56)【参考文献】

【文献】特開２０２０－０７９００４（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｂ６０Ｈ １／２２

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

冷媒を吸入して圧縮して吐出する圧縮機（１１）と、
前記圧縮機から吐出された前記冷媒を熱源として空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する加熱部（２５）と、
前記加熱部から流出した前記冷媒を減圧させる暖房用減圧部（１４ａ）と、
前記暖房用減圧部から流出した前記冷媒と外気とを熱交換させる室外熱交換部（１６）と、
前記送風空気を冷却する為に、前記冷媒を減圧させる冷房用減圧部（１４ｂ）と、
前記送風空気との熱交換によって、前記冷房用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させる空調用蒸発部（１８）と、
前記冷媒の流れに関して前記冷房用減圧部と並列に配置され、前記冷媒を減圧させる冷却用減圧部（１４ｃ）と、
前記冷却用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する冷却用蒸発部（１９）と、
冷媒回路を切り替える冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、
前記冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する為の制御部（６０）と、を有し、
前記制御部は、
前記空調用蒸発部による前記送風空気の冷却と、前記冷却用蒸発部による前記冷却対象機器の冷却を並行して行う冷房冷却モードにおいて、前記圧縮機から吐出される前記冷媒の吐出圧力が予め定められた基準よりも高い高圧状態であるか否かを判定する第１判定部（６０ｃ）と、
前記第１判定部にて前記高圧状態であると判定された場合、前記冷房冷却モードから、前記送風空気の温度調整を停止した状態で、前記冷却用蒸発部による前記冷却対象機器の冷却を行う冷却単独モードになるように、前記冷媒回路切替部を制御する切替制御部（６０ｂ）と、
前記冷却単独モードにおいて、前記高圧状態であるか否かを判定する第２判定部（６０ｄ）と、を有し、
前記第２判定部によって前記冷却単独モードで前記高圧状態であると判定された場合には、前記暖房用減圧部における開度調整にエラーが生じている旨の暖房側エラー信号を出力し、前記第２判定部によって前記冷却単独モードでは前記高圧状態ではないと判定された場合、前記冷房用減圧部における開度調整にエラーが生じている旨の冷房側エラー信号を出力する車両用空調装置。

【請求項2】

冷媒を吸入して圧縮して吐出する圧縮機（１１）と、
前記圧縮機から吐出された前記冷媒を熱源として空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する加熱部（２５）と、
前記加熱部から流出した前記冷媒を減圧させる暖房用減圧部（１４ａ）と、
前記暖房用減圧部から流出した前記冷媒と外気とを熱交換させる室外熱交換部（１６）と、
前記送風空気を冷却する為に、前記冷媒を減圧させる冷房用減圧部（１４ｂ）と、
前記送風空気との熱交換によって、前記冷房用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させる空調用蒸発部（１８）と、
前記冷媒の流れに関して前記冷房用減圧部と並列に配置され、前記冷媒を減圧させる冷却用減圧部（１４ｃ）と、
前記冷却用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する冷却用蒸発部（１９）と、
冷媒回路を切り替える冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、
前記冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する為の制御部（６０）と、を有し、
前記制御部は、
前記送風空気の温度調整を停止した状態で、前記冷却用蒸発部による前記冷却対象機器の冷却を行う冷却単独モードにおいて、前記圧縮機から吐出される前記冷媒の圧力が予め定められた基準よりも高い高圧状態であるか否かを判定する冷却時判定部（６０ｅ）を有し、
前記冷却時判定部によって前記冷却単独モードでは前記高圧状態であると判定された場合、前記暖房用減圧部における開度調整にエラーが生じている旨の暖房側エラー信号を出力する車両用空調装置。

【請求項3】

冷媒を吸入して圧縮して吐出する圧縮機（１１）と、
前記圧縮機から吐出された前記冷媒を熱源として空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する加熱部（２５）と、
前記加熱部から流出した前記冷媒を減圧させる暖房用減圧部（１４ａ）と、
前記暖房用減圧部から流出した前記冷媒と外気とを熱交換させる室外熱交換部（１６）と、
前記送風空気を冷却する為に、前記冷媒を減圧させる冷房用減圧部（１４ｂ）と、
前記送風空気との熱交換によって、前記冷房用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させる空調用蒸発部（１８）と、
前記冷媒の流れに関して前記冷房用減圧部と並列に配置され、前記冷媒を減圧させる冷却用減圧部（１４ｃ）と、
前記冷却用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する冷却用蒸発部（１９）と、
冷媒回路を切り替える冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、
前記冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する為の制御部（６０）と、
前記室外熱交換部の出口側における前記冷媒の過冷却度を特定する過冷却度特定部（６０ｆ）と、を有し、
前記制御部は、前記送風空気の温度調整を停止した状態で、前記冷却用蒸発部による前記冷却対象機器の冷却を行う冷却単独モードにおいて、前記過冷却度特定部で特定された前記過冷却度が予め定められた第１基準過冷却度以下であり、且つ、前記冷却用減圧部の開度が予め定められた冷却用基準開度以上である場合、前記冷房用減圧部の開度調整にエラーが生じている旨の冷房側エラー信号を出力する車両用空調装置。

【請求項4】

前記冷却用蒸発部の出口側における前記冷媒の温度である出口側温度を特定する出口側温度特定部（６０ｇ）を有し、
前記制御部は、前記過冷却度が前記第１基準過冷却度以下であり、且つ、前記冷却用減圧部の開度が前記冷却用基準開度以上である場合に、前記出口側温度特定部で特定された前記出口側温度が予め定められた基準出口側温度以上であるか否かを判定し、
前記出口側温度が前記基準出口側温度以上であると判定された場合に、前記冷房側エラー信号を出力する請求項３に記載の車両用空調装置。

【請求項5】

冷媒を吸入して圧縮して吐出する圧縮機（１１）と、
前記圧縮機から吐出された前記冷媒を熱源として空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する加熱部（２５）と、
前記加熱部から流出した前記冷媒を減圧させる暖房用減圧部（１４ａ）と、
前記暖房用減圧部から流出した前記冷媒と外気とを熱交換させる室外熱交換部（１６）と、
前記送風空気を冷却する為に、前記冷媒を減圧させる冷房用減圧部（１４ｂ）と、
前記送風空気との熱交換によって、前記冷房用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させる空調用蒸発部（１８）と、
前記冷媒の流れに関して前記冷房用減圧部と並列に配置され、前記冷媒を減圧させる冷却用減圧部（１４ｃ）と、
前記冷却用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する冷却用蒸発部（１９）と、
冷媒回路を切り替える冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、
前記冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する為の制御部（６０）と、
前記室外熱交換部の出口側における前記冷媒の過冷却度を特定する過冷却度特定部（６０ｆ）と、を有し、
前記制御部は、前記空調用蒸発部による前記送風空気の冷却と、前記冷却用蒸発部による前記冷却対象機器の冷却を並行して行う冷房冷却モードにおいて、前記過冷却度特定部で特定された前記過冷却度が予め定められた第１基準過冷却度以下であり、且つ、前記冷房用減圧部の開度指示が予め定められた冷房用基準開度以下である場合、前記冷房用減圧部の開度調整にエラーが生じている旨の冷房側エラー信号を出力する車両用空調装置。

【請求項6】

前記冷却用蒸発部の出口側における前記冷媒の過熱度を特定する過熱度特定部（６０ｈ）を有し、
前記制御部は、前記過冷却度が前記第１基準過冷却度以下であり、且つ、前記冷房用減圧部の開度指示が前記冷房用基準開度以下である場合に、前記過熱度特定部で特定された前記過熱度が予め定められた基準過熱度以上であり、且つ、前記冷却用減圧部の開度が予め定められた冷却用基準開度以上であるかを判定し、
前記過熱度が前記基準過熱度以上であり、且つ前記冷却用減圧部の開度が前記冷却用基準開度以上であると判定された場合に、前記冷房側エラー信号を出力する請求項５に記載の車両用空調装置。

【請求項7】

冷媒を吸入して圧縮して吐出する圧縮機（１１）と、
前記圧縮機から吐出された前記冷媒を熱源として空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する加熱部（２５）と、
前記加熱部から流出した前記冷媒を減圧させる暖房用減圧部（１４ａ）と、
前記暖房用減圧部から流出した前記冷媒と外気とを熱交換させる室外熱交換部（１６）と、
前記送風空気を冷却する為に、前記冷媒を減圧させる冷房用減圧部（１４ｂ）と、
前記送風空気との熱交換によって、前記冷房用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させる空調用蒸発部（１８）と、
前記冷媒の流れに関して前記冷房用減圧部と並列に配置され、前記冷媒を減圧させる冷却用減圧部（１４ｃ）と、
前記冷却用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する冷却用蒸発部（１９）と、
冷媒回路を切り替える冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、
前記冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する為の制御部（６０）と、
前記室外熱交換部の出口側における前記冷媒の過冷却度を特定する過冷却度特定部（６０ｆ）と、を有し、
前記制御部は、前記空調用蒸発部による前記送風空気の冷却と、前記冷却用蒸発部による前記冷却対象機器の冷却を並行して行う冷房冷却モードにおいて、前記過冷却度特定部で特定された前記過冷却度が予め定められた第２基準過冷却度以上であり、且つ、前記冷房用減圧部の開度指示が予め定められた冷房用基準開度以上である場合、前記冷房用減圧部及び前記暖房用減圧部の少なくとも一方の開度調整にエラーが生じている旨のエラー発生信号を出力する車両用空調装置。

【請求項8】

前記加熱部（２５）は、前記圧縮機の吐出口と、前記室外熱交換部の流入口の間に配置され、前記圧縮機から吐出された前記冷媒の熱を放熱させる凝縮器（１２）を有し、
前記過冷却度特定部（６０ｆ）は、前記凝縮器の出口側に配置され、前記凝縮器の出口側における前記冷媒の温度又は圧力を検出するセンサ（６４ｂ、６５ａ）の出力を用いて、前記室外熱交換部の出口側における前記過冷却度を特定する請求項７に記載の車両用空調装置。

【請求項9】

前記冷却用蒸発部を流通する前記冷媒の温度である低圧冷媒温度を特定する低圧冷媒温度特定部（６０ｉ）を有し、
前記制御部は、前記冷房冷却モードにおいて、前記過冷却度が前記第２基準過冷却度以上であり、且つ、前記冷房用減圧部の開度指示が前記冷房用基準開度以上である場合に、前記低圧冷媒温度特定部で特定された前記低圧冷媒温度が予め定められた基準低圧冷媒温度以下であるか否かを判定し、
前記低圧冷媒温度が前記基準低圧冷媒温度以下である場合、前記エラー発生信号を、前記冷房用減圧部の開度調整にエラーが生じている旨の冷房側エラー信号に変更して出力する請求項７又は８に記載の車両用空調装置。

【請求項10】

前記冷却用蒸発部の出口側における前記冷媒の過熱度を特定する過熱度特定部（６０ｈ）を有し、
前記制御部は、前記冷房冷却モードにおいて、前記過冷却度が前記第２基準過冷却度以上であり、且つ、前記冷房用減圧部の開度指示が前記冷房用基準開度以上である場合に、前記過熱度特定部で特定された前記過熱度が予め定められた基準過熱度以上であり、且つ、前記冷却用減圧部の開度が予め定められた冷却用基準開度以上であるか否かを判定し、
前記過熱度が前記基準過熱度以上で、且つ、前記冷却用減圧部の開度が前記冷却用基準開度以上である場合、前記エラー発生信号を、前記暖房用減圧部の開度調整にエラーが生じている旨の暖房側エラー信号に変更して出力する請求項７又は８に記載の車両用空調装置。

【請求項11】

冷媒を吸入して圧縮して吐出する圧縮機（１１）と、
前記圧縮機から吐出された前記冷媒を熱源として空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する加熱部（２５）と、
前記加熱部から流出した前記冷媒を減圧させる暖房用減圧部（１４ａ）と、
前記暖房用減圧部から流出した前記冷媒と外気とを熱交換させる室外熱交換部（１６）と、
前記送風空気を冷却する為に、前記冷媒を減圧させる冷房用減圧部（１４ｂ）と、
前記送風空気との熱交換によって、前記冷房用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させる空調用蒸発部（１８）と、
前記冷媒の流れに関して前記冷房用減圧部と並列に配置され、前記冷媒を減圧させる冷却用減圧部（１４ｃ）と、
前記冷却用減圧部で減圧された前記冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する冷却用蒸発部（１９）と、
冷媒回路を切り替える冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、
前記冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する為の制御部（６０）と、
前記室外熱交換部の出口側における前記冷媒の過冷却度を特定する過冷却度特定部（６０ｆ）と、を有し、
前記制御部は、前記送風空気の温度調整を停止した状態で、前記冷却用蒸発部による前記冷却対象機器の冷却を行う冷却単独モードにおいて、前記過冷却度特定部で特定された前記過冷却度が予め定められた第２基準過冷却度以上であり、且つ、前記冷却用減圧部の開度が予め定められた冷却用基準開度以上である場合、前記暖房用減圧部における開度調整にエラーが生じている旨の暖房側エラー信号を出力する車両用空調装置。

【請求項12】

前記冷却用蒸発部の出口側における前記冷媒の温度である出口側温度を特定する出口側温度特定部（６０ｇ）を有し、
前記制御部は、前記冷却単独モードにおいて、前記過冷却度が前記第２基準過冷却度以上であり、且つ、前記冷却用減圧部の開度が前記冷却用基準開度以上である場合に、前記出口側温度特定部で特定された前記出口側温度が予め定められた基準出口側温度以上であるか否かを判定し、
前記出口側温度が前記基準出口側温度以上であると判定された場合に、前記暖房側エラー信号を出力する請求項１１に記載の車両用空調装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本開示は、冷房用減圧部及び暖房用減圧部を有する車両用空調装置に関する。

【背景技術】

【0002】

従来、車両用空調装置に関する技術として、特許文献１に記載された技術が知られている。特許文献１の車両用空気調和装置では、冷凍サイクルの構成部品のエラー（即ち、異常作動）を検知する際に、サイクル毎の高低圧流路の圧力、温度をモニターし、各構成部品に定められた正常値との乖離によって、構成部品におけるエラーの発生を判定している。この為、サイクル構成の種類及び構成機器の種類ごとに、エラー発生の判定基準となる基準値を適切に定めなければならず、開発工数を増大させてしまっている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【文献】特開２０１７－１５４５２１号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

更に、近年では、車両用空調装置の冷凍サイクルを利用して、車両に搭載された冷却対象機器の冷却を行う技術も開発されている。冷却対象機器は、車両の走行に関する重要な役割を担っていることが多い為、冷却対象機器の冷却が正常に機能していることが望ましい。

【0005】

本開示は、上記点に鑑み、冷却対象機器の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、冷房用減圧部及び暖房用減圧部に関するエラーの発生を検知できる車両用空調装置を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本開示の第１態様に係る車両用空調装置は、圧縮機（１１）と、加熱部（２５）と、暖房用減圧部（１４ａ）と、室外熱交換部（１６）と、冷房用減圧部（１４ｂ）と、空調用蒸発部（１８）を有している。更に、車両用空調装置は、冷却用減圧部（１４ｃ）と、冷却用蒸発部（１９）と、冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、制御部（６０）と、を有している。

【0007】

圧縮機は冷媒を吸入して圧縮して吐出する。加熱部は、圧縮機から吐出された冷媒を熱源として、空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する。暖房用減圧部は加熱部から流出した冷媒を減圧させる。室外熱交換部は、暖房用減圧部から流出した冷媒と外気とを熱交換させる。冷房用減圧部は、送風空気を冷却する為に、冷媒を減圧させる。空調用蒸発部は、送風空気との熱交換によって、冷房用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させる。冷却用減圧部は、冷媒の流れに関して冷房用減圧部と並列に配置され、冷媒を減圧させる。冷却用蒸発部は、冷却用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する。冷媒回路切替部は冷媒回路を切り替える。制御部は冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する。

【0008】

制御部は、第１判定部（６０ｃ）と、切替制御部（６０ｂ）と、第２判定部（６０ｄ）と、を有している。第１判定部は、冷房冷却モードにおいて、前記圧縮機から吐出される冷媒の吐出圧力が予め定められた基準よりも高い高圧状態であるか否かを判定する。冷房冷却モードは、空調用蒸発部による送風空気の冷却と、冷却用蒸発部による冷却対象機器の冷却を並行して行う運転モードである。

【0009】

切替制御部は、第１判定部にて高圧状態であると判定された場合、冷房冷却モードから、冷却単独モードになるように、冷媒回路切替部を制御する。冷却単独モードは、送風空気の温度調整を停止した状態で、冷却用蒸発部による冷却対象機器の冷却を行う運転モードである。第２判定部は、冷却単独モードにおいて、高圧状態であるか否かを判定する。

【0010】

そして、制御部は、第２判定部によって冷却単独モードで高圧状態であると判定された場合には、暖房用減圧部における開度調整にエラーが生じている旨の暖房側エラー信号を出力する。又、制御部は、第２判定部によって冷却単独モードでは高圧状態ではないと判定された場合、冷房用減圧部における開度調整にエラーが生じている旨の冷房側エラー信号を出力する。

【0011】

これによれば、第１判定部、切替制御部、第２判定部によって、冷房冷却モードと冷却単独モードの別と、冷媒の吐出圧力が高圧状態であるか否かの判定を組み合わせて、暖房用減圧部と冷房用減圧部の何れの開度調整にエラーが生じているかを特定できる。即ち、車両用空調装置は、冷却対象機器の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、冷凍サイクルを構成する冷房用減圧部及び暖房用減圧部に関するエラーの発生を検知することができる。

【0012】

そして、本開示の第２態様に係る車両用空調装置は、圧縮機（１１）と、加熱部（２５）と、暖房用減圧部（１４ａ）と、室外熱交換部（１６）と、冷房用減圧部（１４ｂ）と、空調用蒸発部（１８）と、を有している。更に、車両用空調装置は、冷却用減圧部（１４ｃ）と、冷却用蒸発部（１９）と、冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、制御部（６０）と、を有している。

【0013】

圧縮機は冷媒を吸入して圧縮して吐出する。加熱部は、圧縮機から吐出された冷媒を熱源として空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する。暖房用減圧部は、加熱部から流出した冷媒を減圧させる。室外熱交換部は、暖房用減圧部から流出した冷媒と外気とを熱交換させる。冷房用減圧部は、送風空気を冷却する為に、冷媒を減圧させる。空調用蒸発部は、送風空気との熱交換によって、冷房用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させる。冷却用減圧部は、冷媒の流れに関して冷房用減圧部と並列に配置され、冷媒を減圧させる。冷却用蒸発部は、冷却用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する。冷媒回路切替部は冷媒回路を切り替える。制御部は、冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する。

【0014】

そして、制御部は、冷却時判定部（６０ｅ）を有している。冷却時判定部は、冷却単独モードにおいて、圧縮機から吐出される冷媒の圧力が予め定められた基準よりも高い高圧状態であるか否かを判定する。冷却単独モードは、送風空気の温度調整を停止した状態で、冷却用蒸発部による冷却対象機器の冷却を行う運転モードである。制御部は、冷却時判定部によって冷却単独モードでは高圧状態であると判定された場合、暖房用減圧部における開度調整にエラーが生じている旨の暖房側エラー信号を出力する。

【0015】

これによれば、冷却時判定部によって、冷却単独モードにて冷媒の吐出圧力が高圧状態であるか否かを判定することで、暖房用減圧部の開度調整にエラーが生じているか否かを特定することができる。つまり、車両用空調装置によれば、冷却対象機器の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、冷凍サイクルを構成する暖房用減圧部に関するエラーの発生を検知することができる。

【0016】

又、本開示の第３態様に係る車両用空調装置は、圧縮機（１１）と、加熱部（２５）と、暖房用減圧部（１４ａ）と、室外熱交換部（１６）と、冷房用減圧部（１４ｂ）と、空調用蒸発部（１８）と、を有している。更に、車両用空調装置は、冷却用減圧部（１４ｃ）と、冷却用蒸発部（１９）と、冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、制御部（６０）と、過冷却度特定部（６０ｆ）と、を有している。

【0017】

圧縮機は冷媒を吸入して圧縮して吐出する。加熱部は、圧縮機から吐出された冷媒を熱源として空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する。暖房用減圧部は、加熱部から流出した冷媒を減圧させる。室外熱交換部は、暖房用減圧部から流出した冷媒と外気とを熱交換させる。冷房用減圧部は、送風空気を冷却する為に、冷媒を減圧させる。空調用蒸発部は、送風空気との熱交換によって、冷房用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させる。冷却用減圧部は、冷媒の流れに関して冷房用減圧部と並列に配置され、冷媒を減圧させる。冷却用蒸発部は、冷却用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する。冷媒回路切替部は冷媒回路を切り替える。制御部は冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する。過冷却度特定部は、室外熱交換部の出口側における冷媒の過冷却度を特定する。

【0018】

そして、制御部は、冷却単独モードにおいて、過冷却度が予め定められた第１基準過冷却度以下であり、且つ、冷却用減圧部の開度が予め定められた冷却用基準開度以上である場合、冷房用減圧部の開度調整にエラーが生じている旨の冷房側エラー信号を出力する。冷却単独モードは、送風空気の温度調整を停止した状態で、冷却用蒸発部による冷却対象機器の冷却を行う運転モードである。

【0019】

これによれば、冷却単独モードにおいて、過冷却度を用いた判定と、冷却用減圧部の開度調整の状態とを用いた判定を行うことによって、冷房用減圧部の開度調整にエラーが生じていることを特定することができる。即ち、車両用空調装置は、冷却対象機器の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、冷凍サイクルを構成する冷房用減圧部に関するエラーの発生を検知することができる。

【0020】

そして、本開示の第４態様に係る車両用空調装置は、圧縮機（１１）と、加熱部（２５）と、暖房用減圧部（１４ａ）と、室外熱交換部（１６）と、冷房用減圧部（１４ｂ）と、空調用蒸発部（１８）と、を有している。更に、車両用空調装置は、冷却用減圧部（１４ｃ）と、冷却用蒸発部（１９）と、冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、制御部（６０）と、過冷却度特定部（６０ｆ）と、を有している。

【0021】

圧縮機は冷媒を吸入して圧縮して吐出する。加熱部は、圧縮機から吐出された冷媒を熱源として空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する。暖房用減圧部は、加熱部から流出した冷媒を減圧させる。室外熱交換部は、暖房用減圧部から流出した冷媒と外気とを熱交換させる。冷房用減圧部は、送風空気を冷却する為に、冷媒を減圧させる。空調用蒸発部は。冷却用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する。冷却用減圧部は、冷媒の流れに関して冷房用減圧部と並列に配置され、冷媒を減圧させる。冷却用蒸発部は、冷却用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する。冷媒回路切替部は冷媒回路を切り替える。制御部は、冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する。過冷却度特定部は、室外熱交換部の出口側における冷媒の過冷却度を特定する。

【0022】

そして、制御部は、冷房冷却モードにおいて、過冷却度特定部で特定された過冷却度が予め定められた第１基準過冷却度以下であり、且つ、冷房用減圧部の開度指示が予め定められた冷房用基準開度以下である場合、冷房側エラー信号を出力する。冷房冷却モードは、空調用蒸発部による送風空気の冷却と、冷却用蒸発部による冷却対象機器の冷却を並行して行う運転モードである。冷房側エラー信号は、冷房用減圧部の開度調整にエラーが生じている旨を示す。

【0023】

これによれば、冷房冷却モードにおいて、過冷却度を用いた判定と、冷却用減圧部の開度調整の状態とを用いた判定を行うことによって、冷房用減圧部の開度調整にエラーが生じていることを特定することができる。即ち、車両用空調装置は、冷却対象機器の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、冷凍サイクルを構成する冷房用減圧部に関するエラーの発生を検知することができる。

【0024】

又、本開示の第５態様に係る車両用空調装置は、圧縮機（１１）と、加熱部（２５）と、暖房用減圧部（１４ａ）と、室外熱交換部（１６）と、冷房用減圧部（１４ｂ）と、空調用蒸発部（１８）と、を有している。更に、車両用空調装置は、冷却用減圧部（１４ｃ）と、冷却用蒸発部（１９）と、冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、制御部（６０）と、過冷却度特定部（６０ｆ）と、を有している。

【0025】

圧縮機は冷媒を吸入して圧縮して吐出する。加熱部は、圧縮機から吐出された冷媒を熱源として空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する。暖房用減圧部は、加熱部から流出した冷媒を減圧させる。室外熱交換部は、暖房用減圧部から流出した冷媒と外気とを熱交換させる。冷房用減圧部は、送風空気を冷却する為に、冷媒を減圧させる。空調用蒸発部は、送風空気との熱交換によって、冷房用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させる。冷却用減圧部は、冷媒の流れに関して冷房用減圧部と並列に配置され、冷媒を減圧させる。冷却用蒸発部は、冷却用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する。冷媒回路切替部は冷媒回路を切り替える。制御部は、冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する。過冷却度特定部は、室外熱交換部の出口側における冷媒の過冷却度を特定する。

【0026】

そして、制御部は、冷房冷却モードにおいて、過冷却度特定部で特定された過冷却度が予め定められた第２基準過冷却度以上であり、且つ、冷房用減圧部の開度指示が予め定められた冷房用基準開度以上である場合、エラー発生信号を出力する。冷房冷却モードは、空調用蒸発部による送風空気の冷却と、冷却用蒸発部による冷却対象機器の冷却を並行して行う運転モードである。エラー発生信号は、冷房用減圧部及び暖房用減圧部の少なくとも一方の開度調整にエラーが生じている旨を示す。

【0027】

これによれば、冷房冷却モードにおいて、過冷却度を用いた判定と、冷房用減圧部の開度指示を用いた判定を行うことによって、冷房用減圧部及び暖房用減圧部の少なくとも一方の開度調整にエラーが生じていることを特定することができる。即ち、車両用空調装置は、冷却対象機器の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、冷凍サイクルを構成する冷房用減圧部、暖房用減圧部の何れかに関するエラーの発生を検知できる。

【0028】

そして、本開示の第６態様に係る車両用空調装置は、圧縮機（１１）と、加熱部（２５）と、暖房用減圧部（１４ａ）と、室外熱交換部（１６）と、冷房用減圧部（１４ｂ）と、空調用蒸発部（１８）と、を有している。更に、車両用空調装置は、冷却用減圧部（１４ｃ）と、冷却用蒸発部（１９）と、冷媒回路切替部（１５ａ、１５ｂ）と、制御部（６０）と、過冷却度特定部（６０ｆ）と、を有している。

【0029】

圧縮機は冷媒を吸入して圧縮して吐出する。加熱部は、圧縮機から吐出された冷媒を熱源として空調対象空間へ送風される送風空気を加熱する。暖房用減圧部は、加熱部から流出した冷媒を減圧させる。室外熱交換部は、暖房用減圧部から流出した冷媒と外気とを熱交換させる。冷房用減圧部は、送風空気を冷却する為に、冷媒を減圧させる。空調用蒸発部は、送風空気との熱交換によって、冷房用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させる。冷却用減圧部は、冷媒の流れに関して前記冷房用減圧部と並列に配置され、前記冷媒を減圧させる。冷却用蒸発部は、冷却用減圧部で減圧された冷媒を蒸発させることによって冷却対象機器（８０）を冷却する。冷媒回路切替部は冷媒回路を切り替える。制御部は、冷媒回路の構成機器に生じたエラーを検知する。過冷却度特定部は、室外熱交換部の出口側における冷媒の過冷却度を特定する。

【0030】

そして、制御部は、冷却単独モードにおいて、過冷却度特定部で特定された過冷却度が予め定められた第２基準過冷却度以上であり、且つ冷却用減圧部の開度が予め定められた冷却用基準開度以上である場合、暖房側エラー信号を出力する。冷却単独モードは、送風空気の温度調整を停止した状態で、冷却用蒸発部による冷却対象機器の冷却を行う運転モードである。暖房側エラー信号は、暖房用減圧部における開度調整にエラーが生じている旨を示す。

【0031】

これによれば、冷房冷却モードにおいて、過冷却度を用いた判定と、冷却用減圧部の開度調整の状態とを用いた判定を行うことによって、暖房用減圧部の開度調整にエラーが生じていることを特定することができる。即ち、車両用空調装置は、冷却対象機器の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、冷凍サイクルを構成する暖房用減圧部に関するエラーの発生を検知することができる。

【0032】

なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。

【図面の簡単な説明】

【0033】

【図1】第１実施形態の車両用空調装置の全体構成図である。

【図2】第１実施形態の車両用空調装置の電気制御部を示すブロック図である。

【図3】第１実施形態の車両用空調装置におけるエラー判定制御のフローチャートである。

【図4】第１実施形態における高圧異常制御に関する制御特性図の一例である。

【図5】第２実施形態の車両用空調装置におけるエラー判定制御のフローチャートである。

【図6】第３実施形態の車両用空調装置におけるエラー判定制御のフローチャートである。

【図7】目標過冷却度と第１基準過冷却度の関係を示す制御特性図の一例である。

【図8】第４実施形態の車両用空調装置におけるエラー判定制御のフローチャートである。

【図9】目標過熱度と基準過熱度の関係を示す制御特性図の一例である。

【図10】第５実施形態の車両用空調装置におけるエラー判定制御のフローチャートである。

【図11】目標過冷却度と第２基準過冷却度の関係を示す制御特性図の一例である。

【図12】第６実施形態の車両用空調装置におけるエラー判定制御のフローチャートである。

【図13】第７実施形態の車両用空調装置におけるエラー判定制御のフローチャートである。

【発明を実施するための形態】

【0034】

以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各実施形態において、先行する実施形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の実施形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。

【0035】

（第１実施形態）
図１～図４を用いて、本開示の第１実施形態を説明する。本実施形態では、本開示に係る車両用空調装置１を、電動モータから走行用の駆動力を得る電気自動車に搭載された車両用空調装置として採用している。この車両用空調装置１は、空調対象空間である車室内の空調を行うだけでなく、バッテリ８０の温度を調整する機能を有している。このため、車両用空調装置１は、バッテリ温度調整機能付きの空調装置と呼ぶこともできる。

【0036】

バッテリ８０は、電動モータ等の車載機器へ供給される電力を蓄える二次電池である。本実施形態のバッテリ８０は、リチウムイオン電池である。バッテリ８０は、複数の電池セル８１を積層配置し、これらの電池セル８１を電気的に直列あるいは並列に接続することによって形成された、いわゆる組電池である。

【0037】

この種のバッテリは、低温になると入出力に制限がかかり、高温になると出力が低下しやすい。この為、バッテリの温度は、バッテリの充放電容量を充分に活用することができる適切な温度範囲内（本実施形態では、１５℃以上、かつ、５５℃以下）に維持されている必要がある。

【0038】

又、この種のバッテリは、バッテリの温度が高温になるほど、バッテリを構成するセルの劣化が進行しやすい。換言すると、バッテリの温度を或る程度低い温度に維持することで、バッテリの劣化の進行を抑制することができる。

【0039】

そこで、車両用空調装置１では、冷凍サイクル装置１０によって生成された冷熱によってバッテリ８０を冷却することができるようになっている。従って、本実施形態の車両用空調装置１における冷却対象機器の一例とは、バッテリ８０である。

【0040】

車両用空調装置１は、図１の全体構成図に示すように、冷凍サイクル装置１０、室内空調ユニット３０、高温側熱媒体回路４０、制御装置６０等を備えている。

【0041】

冷凍サイクル装置１０は、車室内の空調を行うために、車室内へ送風される送風空気を冷却する機能、および高温側熱媒体回路４０を循環する高温側熱媒体を加熱する機能を果たす。さらに、冷凍サイクル装置１０は、冷却対象機器であるバッテリ８０を冷却する機能を果たす。

【0042】

冷凍サイクル装置１０は、車室内の空調やバッテリ８０の温度調整を行う為に、様々な運転モード用の冷媒回路を切替可能に構成されている。冷凍サイクル装置１０は、例えば、冷房モードの冷媒回路、除湿暖房モードの冷媒回路、暖房モードの冷媒回路等を切替可能に構成されている。さらに、冷凍サイクル装置１０は、空調用の各運転モードにおいて、バッテリ８０を冷却する運転モードとバッテリ８０の冷却を行わない運転モードとを切り替えることができる。

【0043】

また、冷凍サイクル装置１０では、冷媒としてＨＦＯ系冷媒（具体的には、Ｒ１２３４ｙｆ）を採用しており、圧縮機１１から吐出された吐出冷媒の圧力が冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルを構成している。さらに、冷媒には圧縮機１１を潤滑するための冷凍機油が混入されている。冷凍機油の一部は、冷媒とともにサイクルを循環している。

【0044】

図１に示すように、冷凍サイクル装置１０には、圧縮機１１、熱媒体冷媒熱交換器１２、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂ、冷却用膨張弁１４ｃ、室外熱交換器１６、室内蒸発器１８、冷却用熱交換部１９等が接続されている。

【0045】

冷凍サイクル装置１０の構成機器のうち、圧縮機１１は、冷凍サイクル装置１０において冷媒を吸入し、圧縮して吐出する。圧縮機１１は、車室の前方に配置されて電動モータ等が収容される駆動装置室内に配置されている。

【0046】

圧縮機１１は、吐出容量が固定された固定容量型の圧縮機構を電動モータにて回転駆動する電動圧縮機である。圧縮機１１は、後述する制御装置６０から出力される制御信号によって、回転数（すなわち、冷媒吐出能力）が制御される。

【0047】

圧縮機１１の吐出口には、熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒通路の入口側が接続されている。熱媒体冷媒熱交換器１２は、圧縮機１１から吐出された高圧冷媒を流通させる冷媒通路と、高温側熱媒体回路４０を循環する高温側熱媒体を流通させる熱媒体通路とを有している。そして、熱媒体冷媒熱交換器１２は、冷媒通路を流通する高圧冷媒と、熱媒体通路を流通する高温側熱媒体とを熱交換させて、高温側熱媒体を加熱する加熱用の熱交換器であり、凝縮器の一例に相当する。

【0048】

熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒通路の出口には、互いに連通する３つの流入出口を有する第１三方継手１３ａの流入口側が接続されている。このような三方継手としては、複数の配管を接合して形成されたものや、金属ブロックや樹脂ブロックに複数の冷媒通路を設けることによって形成されたものを採用することができる。

【0049】

さらに、冷凍サイクル装置１０は、後述するように、第２三方継手１３ｂ～第６三方継手１３ｆを備えている。これらの第２三方継手１３ｂ～第６三方継手１３ｆの基本的構成は、第１三方継手１３ａと同様である。

【0050】

第１三方継手１３ａの一方の流出口には、暖房用膨張弁１４ａの入口側が接続されている。第１三方継手１３ａの他方の流出口には、バイパス通路２２ａを介して、第２三方継手１３ｂの一方の流入口側が接続されている。バイパス通路２２ａには、除湿用開閉弁１５ａが配置されている。

【0051】

除湿用開閉弁１５ａは、第１三方継手１３ａの他方の流出口側と第２三方継手１３ｂの一方の流入口側とを接続する冷媒通路を開閉する電磁弁である。さらに、冷凍サイクル装置１０は、後述するように、暖房用開閉弁１５ｂを備えている。暖房用開閉弁１５ｂの基本的構成は、除湿用開閉弁１５ａと同様である。

【0052】

除湿用開閉弁１５ａおよび暖房用開閉弁１５ｂは、冷媒通路を開閉することで、各運転モードの冷媒回路を切り替えることができる。従って、除湿用開閉弁１５ａおよび暖房用開閉弁１５ｂは、サイクルの冷媒回路を切り替える冷媒回路切替部である。除湿用開閉弁１５ａおよび暖房用開閉弁１５ｂは、制御装置６０から出力される制御電圧によって、その作動が制御される。

【0053】

暖房用膨張弁１４ａは、少なくとも車室内の暖房を行う運転モード時に、熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒通路から流出した高圧冷媒を減圧させるとともに、下流側へ流出させる冷媒の流量（質量流量）を調整する暖房用減圧部である。暖房用膨張弁１４ａは、絞り開度を変更可能に構成された弁体と、この弁体の開度を変化させる電動アクチュエータとを有して構成される電気式の可変絞り機構である。

【0054】

さらに、冷凍サイクル装置１０は、後述するように、冷房用膨張弁１４ｂおよび冷却用膨張弁１４ｃを備えている。冷房用膨張弁１４ｂおよび冷却用膨張弁１４ｃの基本的構成は、暖房用膨張弁１４ａと同様である。

【0055】

暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂおよび冷却用膨張弁１４ｃは、全開機能および全閉機能をそれぞれ有している。全開機能は、弁開度を全開にすることで流量調整作用および冷媒減圧作用を殆ど発揮することなく単なる冷媒通路として機能させる。全閉機能は、弁開度を全閉にすることで冷媒通路を閉塞させる機能である。そして、この全開機能および全閉機能によって、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂおよび冷却用膨張弁１４ｃは、各運転モードの冷媒回路を切り替えることができる。

【0056】

従って、本実施形態の暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂおよび冷却用膨張弁１４ｃは、冷媒回路切替部としての機能も兼ね備えている。暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂおよび冷却用膨張弁１４ｃは、制御装置６０から出力される制御信号（制御パルス）によって、その作動が制御される。

【0057】

暖房用膨張弁１４ａの出口には、室外熱交換器１６の冷媒入口側が接続されている。室外熱交換器１６は、暖房用膨張弁１４ａから流出した冷媒と図示しない冷却ファンにより送風された外気とを熱交換させる熱交換器であり、室外熱交換部の一例に相当する。室外熱交換器１６は、駆動装置室内の前方側に配置されている。このため、車両走行時には、室外熱交換器１６に走行風を当てることができる。

【0058】

室外熱交換器１６の冷媒出口には、第３三方継手１３ｃの流入口側が接続されている。第３三方継手１３ｃの一方の流出口には、暖房用迂回通路２２ｂを介して、第４三方継手１３ｄの一方の流入口側が接続されている。暖房用迂回通路２２ｂには、この冷媒通路を開閉する暖房用開閉弁１５ｂが配置されている。暖房用迂回通路２２ｂは迂回通路の一例に相当し、暖房用開閉弁１５ｂは切替弁の一例に相当する。

【0059】

第３三方継手１３ｃの他方の流出口には、第２三方継手１３ｂの他方の流入口側が接続されている。第３三方継手１３ｃの他方の流出口側と第２三方継手１３ｂの他方の流入口側とを接続する冷媒通路には、第１逆止弁１７ａが配置されている。第１逆止弁１７ａは、第３三方継手１３ｃ側から第２三方継手１３ｂ側へ冷媒が流れることを許容し、第２三方継手１３ｂ側から第３三方継手１３ｃ側へ冷媒が流れることを禁止する。

【0060】

第２三方継手１３ｂの流出口には、第５三方継手１３ｅの流入口側が接続されている。第５三方継手１３ｅの一方の流出口には、冷房用膨張弁１４ｂの入口側が接続されている。第５三方継手１３ｅの他方の流出口には、冷却用膨張弁１４ｃの入口側が接続されている。

【0061】

冷房用膨張弁１４ｂは、少なくとも車室内の冷房を行う運転モード時に、室外熱交換器１６から流出した冷媒を減圧させるとともに、下流側へ流出させる冷媒の流量を調整する冷房用減圧部である。従って、冷房用膨張弁１４ｂは、冷房用減圧部の一例に相当する。

【0062】

冷房用膨張弁１４ｂの出口には、室内蒸発器１８の冷媒入口側が接続されている。室内蒸発器１８は、後述する室内空調ユニット３０の空調ケース３１内に配置されている。室内蒸発器１８は、冷房用膨張弁１４ｂにて減圧された低圧冷媒と送風機３２から送風された送風空気とを熱交換させて低圧冷媒を蒸発させ、低圧冷媒に吸熱作用を発揮させることによって送風空気を冷却する冷却用熱交換器である。即ち、室内蒸発器１８は、空調用蒸発部の一例に相当する。

【0063】

そして、室内蒸発器１８の冷媒出口には、蒸発圧力調整弁２０を介して、第６三方継手１３ｆの一方の流入口側が接続されている。蒸発圧力調整弁２０は、室内蒸発器１８の着霜を抑制するために、室内蒸発器１８における冷媒蒸発圧力を、予め定めた基準圧力以上に維持する機能を果たす。蒸発圧力調整弁２０は、室内蒸発器１８の出口側冷媒の圧力の上昇に伴って、弁開度を増加させる機械式の可変絞り機構で構成されている。これにより、蒸発圧力調整弁２０は、室内蒸発器１８における冷媒蒸発温度を、室内蒸発器１８の着霜を抑制可能な着霜抑制温度（本実施形態では、１℃）以上に維持している。

【0064】

冷却用膨張弁１４ｃは、少なくともバッテリ８０の冷却を行う運転モード時に、室外熱交換器１６から流出した冷媒を減圧させるとともに、下流側へ流出させる冷媒の流量を調整する冷却用減圧部である。

【0065】

冷却用膨張弁１４ｃの出口には、冷却用熱交換部１９の冷媒通路の入口側が接続されている。冷却用熱交換部１９は、バッテリ８０を形成する複数の電池セル８１に接触するように配置された金属製の複数の冷媒流路を有している。そして、冷却用熱交換部１９は、冷媒流路を流通する低圧冷媒と電池セル８１とを熱交換させることによって、バッテリ８０を冷却する熱交換部であり、冷却用蒸発部の一例に相当する。

【0066】

このような冷却用熱交換部１９は、積層配置された電池セル８１同士の間に冷媒流路を配置することによって形成すればよい。又、冷却用熱交換部１９は、バッテリ８０に一体的に形成されていてもよい。例えば、積層配置された電池セル８１を収容する専用ケースに冷媒流路を設けることによって、バッテリ８０に一体的に形成されていてもよい。

【0067】

冷却用熱交換部１９の出口には、第２逆止弁１７ｂを介して、第６三方継手１３ｆの他方の流入口側が接続されている。第２逆止弁１７ｂは、冷却用熱交換部１９の出口側から第６三方継手１３ｆの他方の流入口側へ冷媒が流れることを許容し、第６三方継手１３ｆ側から冷却用熱交換部１９の出口側へ冷媒が流れることを禁止する。

【0068】

第６三方継手１３ｆの流出口には、第４三方継手１３ｄの他方の流入口側が接続されている。第４三方継手１３ｄの流出口には、アキュムレータ２１の入口側が接続されている。アキュムレータ２１は、内部に流入した冷媒の気液を分離して、サイクル内の余剰液相冷媒を蓄える気液分離器である。アキュムレータ２１の気相冷媒出口には、圧縮機１１の吸入口側が接続されている。

【0069】

以上の説明から明らかなように、本実施形態の第５三方継手１３ｅは、室外熱交換器１６から流出した冷媒の流れを分岐する分岐部として機能する。また、第６三方継手１３ｆは、室内蒸発器１８から流出した冷媒の流れと冷却用熱交換部１９から流出した冷媒の流れとを合流させて、圧縮機１１の吸入側へ流出させる合流部である。

【0070】

そして、室内蒸発器１８および冷却用熱交換部１９は、冷媒流れに対して互いに並列的に接続されている。さらに、バイパス通路２２ａは、熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒通路から流出した冷媒を、分岐部の上流側へ導いている。暖房用迂回通路２２ｂは、室外熱交換器１６から流出した冷媒を、圧縮機１１の吸入口側へ導いている。

【0071】

次に、車両用空調装置１における高温側熱媒体回路４０について説明する。高温側熱媒体回路４０は、高温側熱媒体を循環させる熱媒体循環回路である。高温側熱媒体としては、エチレングリコール、ジメチルポリシロキサン、あるいはナノ流体等を含む溶液、不凍液等を採用することができる。高温側熱媒体回路４０には、熱媒体冷媒熱交換器１２の熱媒体通路、高温側熱媒体ポンプ４１、ヒータコア４２等が配置されている。

【0072】

高温側熱媒体ポンプ４１は、高温側熱媒体を熱媒体冷媒熱交換器１２の熱媒体通路の入口側へ圧送する水ポンプである。高温側熱媒体ポンプ４１は、制御装置６０から出力される制御電圧によって、回転数（すなわち、圧送能力）が制御される電動ポンプである。

【0073】

熱媒体冷媒熱交換器１２の熱媒体通路の出口には、ヒータコア４２の熱媒体入口側が接続されている。ヒータコア４２は、熱媒体冷媒熱交換器１２にて加熱された高温側熱媒体と室内蒸発器１８を通過した送風空気とを熱交換させて、送風空気を加熱する熱交換器である。ヒータコア４２は、室内空調ユニット３０の空調ケース３１内に配置されている。ヒータコア４２の熱媒体出口には、高温側熱媒体ポンプ４１の吸入口側が接続されている。

【0074】

従って、高温側熱媒体回路４０では、高温側熱媒体ポンプ４１がヒータコア４２へ流入する高温側熱媒体の流量を調整することで、ヒータコア４２における高温側熱媒体の送風空気への放熱量（即ち、ヒータコア４２における送風空気の加熱量）を調整できる。

【0075】

つまり、本実施形態では、熱媒体冷媒熱交換器１２および高温側熱媒体回路４０の各構成機器によって、圧縮機１１から吐出された冷媒を熱源として、送風空気を加熱する加熱部２５が構成されている。

【0076】

次に、車両用空調装置１の室内空調ユニット３０について説明する。室内空調ユニット３０は、冷凍サイクル装置１０によって温度調整された送風空気を車室内へ吹き出すためのものである。室内空調ユニット３０は、車室内最前部の計器盤（インストルメントパネル）の内側に配置されている。

【0077】

室内空調ユニット３０は、図１に示すように、その外殻を形成する空調ケース３１内に形成された空気通路の内部に送風機３２、室内蒸発器１８、ヒータコア４２等を収容している。

【0078】

空調ケース３１は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成している。空調ケース３１は、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂（例えば、ポリプロピレン）にて成形されている。

【0079】

空調ケース３１の送風空気流れ最上流側には、内外気切替装置３３が配置されている。内外気切替装置３３は、空調ケース３１内へ内気（車室内空気）と外気（車室外空気）とを切替導入する。

【0080】

内外気切替装置３３は、空調ケース３１内へ内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口の開口面積を、内外気切替ドアによって連続的に調整して、内気の導入風量と外気の導入風量との導入割合を変化させる。内外気切替ドアは、内外気切替ドア用の電動アクチュエータによって駆動される。この電動アクチュエータは、制御装置６０から出力される制御信号によって、その作動が制御される。

【0081】

内外気切替装置３３の送風空気流れ下流側には、送風機３２が配置されている。送風機３２は、内外気切替装置３３を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する。送風機３２は、遠心多翼ファンを電動モータにて駆動する電動送風機である。送風機３２は、制御装置６０から出力される制御電圧によって、回転数（即ち、送風能力）が制御される。

【0082】

送風機３２の送風空気流れ下流側には、室内蒸発器１８、ヒータコア４２が、送風空気流れに対して、この順に配置されている。つまり、室内蒸発器１８は、ヒータコア４２よりも、送風空気流れ上流側に配置されている。

【0083】

空調ケース３１内には、室内蒸発器１８通過後の送風空気を、ヒータコア４２を迂回して流す冷風バイパス通路３５が設けられている。空調ケース３１内の室内蒸発器１８の送風空気流れ下流側であって、かつ、ヒータコア４２の送風空気流れ上流側には、エアミックスドア３４が配置されている。

【0084】

エアミックスドア３４は、室内蒸発器１８通過後の送風空気のうち、ヒータコア４２側を通過する送風空気の風量と冷風バイパス通路３５を通過させる送風空気の風量との風量割合を調整する風量割合調整部である。エアミックスドア３４は、エアミックスドア用の電動アクチュエータによって駆動される。この電動アクチュエータは、制御装置６０から出力される制御信号によって、その作動が制御される。

【0085】

空調ケース３１内のヒータコア４２及び冷風バイパス通路３５の送風空気流れ下流側には、混合空間が配置されている。混合空間は、ヒータコア４２にて加熱された送風空気と冷風バイパス通路３５を通過して加熱されていない送風空気とを混合させる空間である。

【0086】

さらに、空調ケース３１の送風空気流れ下流部には、混合空間にて混合された送風空気（即ち、空調風）を、空調対象空間である車室内へ吹き出すための開口穴が配置されている。

【0087】

この開口穴としては、フェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴（いずれも図示せず）が設けられている。フェイス開口穴は、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。フット開口穴は、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。デフロスタ開口穴は、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すための開口穴である。

【0088】

これらのフェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴は、それぞれ空気通路を形成するダクトを介して、車室内に設けられたフェイス吹出口、フット吹出口およびデフロスタ吹出口（いずれも図示せず）に接続されている。

【0089】

従って、エアミックスドア３４が、ヒータコア４２を通過させる風量と冷風バイパス通路３５を通過させる風量との風量割合を調整することによって、混合空間にて混合される空調風の温度が調整される。そして、各吹出口から車室内へ吹き出される送風空気（空調風）の温度が調整される。

【0090】

また、フェイス開口穴、フット開口穴、およびデフロスタ開口穴の送風空気流れ上流側には、それぞれ、フェイスドア、フットドア、およびデフロスタドア（いずれも図示せず）が配置されている。フェイスドアは、フェイス開口穴の開口面積を調整する。フットドアは、フット開口穴の開口面積を調整する。デフロスタドアは、デフロスタ開口穴の開口面積を調整する。

【0091】

これらのフェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、吹出口モードを切り替える吹出口モード切替装置を構成する。これらのドアは、リンク機構等を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータに連結されて連動して回転操作される。この電動アクチュエータも、制御装置６０から出力される制御信号によって、その作動が制御される。

【0092】

吹出口モード切替装置によって切り替えられる吹出口モードとしては、具体的に、フェイスモード、バイレベルモード、フットモード等がある。

【0093】

フェイスモードは、フェイス吹出口を全開としてフェイス吹出口から車室内乗員の上半身に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。バイレベルモードは、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内乗員の上半身と足元に向けて空気を吹き出す吹出口モードである。フットモードは、フット吹出口を全開とするとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出す吹出口モードである。

【0094】

さらに、乗員が操作パネル７０に設けられた吹出モード切替スイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタモードに切り替えることもできる。デフロスタモードは、デフロスタ吹出口を全開としてデフロスタ吹出口からフロント窓ガラス内面に空気を吹き出す吹出口モードである。

【0095】

次に、車両用空調装置１の制御系の概要について説明する。制御装置６０は、ＣＰＵ、ＲＯＭおよびＲＡＭ等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。そして、制御装置６０は、そのＲＯＭ内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、各種制御対象機器の作動を制御する。制御装置６０は制御部の一例に相当する。

【0096】

制御装置６０の出力側には、各種制御対象機器が接続されている。各種制御対象機器には、圧縮機１１、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂ、冷却用膨張弁１４ｃ、除湿用開閉弁１５ａ、暖房用開閉弁１５ｂ、送風機３２、高温側熱媒体ポンプ４１等が含まれる。

【0097】

図２のブロック図に示すように、制御装置６０の入力側には、各種センサ群が接続されている。そして、制御装置６０には、これらのセンサ群の検出信号が入力される。センサ群には、内気温センサ６１、外気温センサ６２、日射センサ６３、第１冷媒温度センサ６４ａ～第６冷媒温度センサ６４ｆ、蒸発器温度センサ６４ｇが含まれている。更に、センサ群には、第１冷媒圧力センサ６５ａ、第２冷媒圧力センサ６５ｂ、高温側熱媒体温度センサ６６ａ、バッテリ温度センサ６８、空調風温度センサ６９等が含まれている。

【0098】

内気温センサ６１は、車室内温度（内気温）Ｔｒを検出する内気温検出部である。外気温センサ６２は、車室外温度（外気温）Ｔａｍを検出する外気温検出部である。日射センサ６３は、車室内へ照射される日射量Ｔｓを検出する日射量検出部である。

【0099】

第１冷媒温度センサ６４ａは、圧縮機１１から吐出された冷媒の温度Ｔ１を検出する吐出冷媒温度検出部である。第２冷媒温度センサ６４ｂは、熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒通路から流出した冷媒の温度Ｔ２を検出する第２冷媒温度検出部である。第３冷媒温度センサ６４ｃは、室外熱交換器１６から流出した冷媒の温度Ｔ３を検出する第３冷媒温度検出部である。

【0100】

第４冷媒温度センサ６４ｄは、室内蒸発器１８から流出した冷媒の温度Ｔ４を検出する第４冷媒温度検出部である。第５冷媒温度センサ６４ｅは、冷却用熱交換部１９の冷媒入口側における冷媒の温度Ｔ５を検出する第５冷媒温度検出部である。第６冷媒温度センサ６４ｆは、冷却用熱交換部１９から流出した冷媒の温度Ｔ６を検出する第６冷媒温度検出部である。

【0101】

蒸発器温度センサ６４ｇは、室内蒸発器１８における冷媒蒸発温度（蒸発器温度）Ｔｅｆｉｎを検出する蒸発器温度検出部である。本実施形態の蒸発器温度センサ６４ｇでは、具体的に、室内蒸発器１８の熱交換フィン温度を検出している。ここで、蒸発器温度Ｔｅｆｉｎは、室内蒸発器１８を流通する冷媒の温度に相関を有する物理量である。

【0102】

第１冷媒圧力センサ６５ａは、熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒通路から流出した冷媒の圧力Ｐ１を検出する第１冷媒圧力検出部である。第２冷媒圧力センサ６５ｂは、冷却用熱交換部１９から流出した冷媒の圧力Ｐ２を検出する第２冷媒圧力検出部である。高温側熱媒体温度センサ６６ａは、熱媒体冷媒熱交換器１２の熱媒体通路から流出した高温側熱媒体の温度である高温側熱媒体温度ＴＷＨを検出する高温側熱媒体温度検出部である。

【0103】

バッテリ温度センサ６８は、バッテリ温度ＴＢ（即ち、バッテリ８０の温度）を検出するバッテリ温度検出部である。本実施形態のバッテリ温度センサ６８は、複数の温度センサを有しており、バッテリ８０の複数の箇所の温度を検出している。このため、制御装置６０では、バッテリ８０の各部の温度差を検出することもできる。さらに、バッテリ温度ＴＢとしては、複数の温度センサの検出値の平均値を採用している。空調風温度センサ６９は、混合空間から車室内へ送風される送風空気温度ＴＡＶを検出する空調風温度検出部である。

【0104】

さらに、制御装置６０の入力側には、図２に示すように、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル７０が接続されている。従って、制御装置６０には、操作パネル７０に設けられた各種操作スイッチからの操作信号が入力される。操作パネル７０に設けられた各種操作スイッチとしては、具体的に、オートスイッチ、エアコンスイッチ、風量設定スイッチ、温度設定スイッチ、吹出モード切替スイッチ等がある。

【0105】

オートスイッチは、車両用空調装置の自動制御運転を設定あるいは解除する際に操作される。エアコンスイッチは、室内蒸発器１８で送風空気の冷却を行うことを要求する際に操作される。風量設定スイッチは、送風機３２の風量をマニュアル設定する際に操作される。温度設定スイッチは、車室内の目標温度Ｔｓｅｔを設定する際に操作される。吹出モード切替スイッチは、吹出モードをマニュアル設定する際に操作される。

【0106】

なお、本実施形態の制御装置６０は、その出力側に接続された各種制御対象機器を制御する制御部が一体に構成されたものである。制御装置６０において、それぞれの制御対象機器の作動を制御する構成（ハードウェアおよびソフトウェア）が、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御部を構成している。

【0107】

例えば、制御装置６０のうち、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂおよび冷却用膨張弁１４ｃの作動を制御する構成は、減圧制御部６０ａを構成している。従って、減圧制御部６０ａは、各運転モードに応じた態様となるように、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂおよび冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度を制御している。

【0108】

また、制御装置６０のうち、運転モードに従った冷媒回路にする為に、除湿用開閉弁１５ａ、暖房用開閉弁１５ｂ等を制御する構成は、切替制御部６０ｂを構成する。切替制御部６０ｂは、後述するエラー判定制御にて、冷媒回路の切り替えを行う。

【0109】

そして、制御装置６０のうち、後述する冷房冷却モードにおいて、圧縮機１１からの冷媒の吐出圧力が圧力異常条件を満たす高圧状態であるか否かを判定する構成は、第１判定部６０ｃを構成する。第１判定部６０ｃは、後述するエラー判定制御において、冷房冷却モードで運転している状態で判定する。

【0110】

又、制御装置６０のうち、後述する冷却単独モードにおいて、圧縮機１１からの冷媒の吐出圧力が圧力異常条件を満たす高圧状態であるか否かを判定する構成は、第２判定部６０ｄを構成する。第２判定部６０ｄは、第１判定部６０ｃで高圧状態であると判定され、運転モードが冷却単独モードに切り替えられた場合に、高圧状態に関する判定を行う。

【0111】

そして、制御装置６０のうち、後述する冷却単独モードのエラー判定において、吐出圧力が高圧状態であるか否かを判定する構成は、冷却時判定部６０ｅを構成する。又、制御装置６０のうち、室外熱交換器１６の出口側における冷媒の過冷却度を特定する構成は、過冷却度特定部６０ｆを構成する。

【0112】

制御装置６０のうち、冷却用熱交換部１９の出口側における冷媒の温度である出口側温度を特定する構成は、出口側温度特定部６０ｇを構成する。出口側温度特定部６０ｇは、第６冷媒温度センサ６４ｆで検出される第６冷媒温度Ｔ６や、第２冷媒圧力センサ６５ｂで検出される冷媒圧力を用いて、出口側温度を特定する。

【0113】

そして、制御装置６０のうち、冷却用熱交換部１９の出口側における冷媒の過熱度を特定する構成は、過熱度特定部６０ｈを構成する。制御装置６０のうち、冷却用熱交換部１９の入口側における冷媒の温度である入口側温度を特定する構成は、入口側温度特定部６０ｉを構成する。入口側温度特定部６０ｉは、第５冷媒温度センサ６４ｅで検出される第５冷媒温度Ｔ５を用いて、入口側温度を特定する。従って、入口側温度特定部６０ｉは、低圧冷媒温度特定部の一例に相当する。

【0114】

次に、上記構成における本実施形態の作動について説明する。前述の如く、本実施形態の車両用空調装置１は、車室内の空調を行うだけでなく、バッテリ８０の温度を調整する機能を有している。

【0115】

この為、冷凍サイクル装置１０の運転モードは、車室内の空調に関する空調モードと、バッテリ８０の温度調整の有無に関する冷却モードの組み合わせにより構成される。具体的に、本実施形態に係る冷凍サイクル装置１０では、冷媒回路を切り替えて、以下の１１種類の運転モードでの運転を行うことができる。

【0116】

（１）冷房モード：冷房モードは、バッテリ８０の冷却を行うことなく、送風空気を冷却して車室内へ吹き出すことによって車室内の冷房を行う運転モードである。

【0117】

（２）直列除湿暖房モード：直列除湿暖房モードは、バッテリ８０の冷却を行うことなく、冷却されて除湿された送風空気を再加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の除湿暖房を行う運転モードである。

【0118】

（３）並列除湿暖房モード：並列除湿暖房モードは、バッテリ８０の冷却を行うことなく、冷却されて除湿された送風空気を直列除湿暖房モードよりも高い加熱能力で再加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の除湿暖房を行う運転モードである。

【0119】

（４）暖房モード：暖房モードは、バッテリ８０の冷却を行うことなく、送風空気を加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の暖房を行う運転モードである。

【0120】

（５）冷房冷却モード：冷房冷却モードは、バッテリ８０の冷却と並行して、送風空気を冷却して車室内へ吹き出すことによって車室内の冷房を行う運転モードである。

【0121】

（６）直列除湿暖房冷却モード：直列除湿暖房冷却モードは、バッテリ８０の冷却と並行して、冷却されて除湿された送風空気を再加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の除湿暖房を行う運転モードである。

【0122】

（７）並列除湿暖房冷却モード：並列除湿暖房冷却モードは、バッテリ８０の冷却と並行して、冷却されて除湿された送風空気を直列除湿暖房冷却モードよりも高い加熱能力で再加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の除湿暖房を行う運転モードである。

【0123】

（８）暖房冷却モード：暖房冷却モードは、バッテリ８０の冷却と並行して、送風空気を加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の暖房を行う運転モードである。

【0124】

（９）暖房直列冷却モード：暖房直列冷却モードは、バッテリ８０の冷却と並行して、送風空気を暖房冷却モードよりも高い加熱能力で加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の暖房を行う運転モードである。

【0125】

（１０）暖房並列冷却モード：暖房並列冷却モードは、バッテリ８０の冷却と並行して、送風空気を暖房直列冷却モードよりも高い加熱能力で加熱して車室内へ吹き出すことによって車室内の暖房を行う運転モードである。

【0126】

（１１）冷却単独モード：冷却単独モードは、車室内の空調を行うことなく、バッテリ８０の冷却を行う運転モードである。

【0127】

これらの運転モードの切り替えは、空調制御プログラムが実行されることによって行われる。空調制御プログラムは、乗員の操作によって操作パネル７０のオートスイッチが投入（ＯＮ）されて、車室内の自動制御が設定された際に実行される。

【0128】

空調制御プログラムのメインルーチンでは、上述の空調制御用のセンサ群の検出信号および各種空調操作スイッチからの操作信号を読み込む。そして、読み込んだ検出信号および操作信号の値に基づいて、車室内へ吹き出す吹出空気の目標温度である目標吹出温度ＴＡＯを算出する。

【0129】

具体的には、目標吹出温度ＴＡＯは、以下数式Ｆ１によって算出される。
ＴＡＯ＝Ｋｓｅｔ×Ｔｓｅｔ－Ｋｒ×Ｔｒ－Ｋａｍ×Ｔａｍ－Ｋｓ×Ｔｓ＋Ｃ…（Ｆ１）
なお、Ｔｓｅｔは温度設定スイッチによって設定された車室内設定温度である。Ｔｒは内気センサによって検出された車室内温度である。Ｔａｍは外気センサによって検出された車室外温度である。Ｔｓは日射センサによって検出された日射量である。Ｋｓｅｔ、Ｋｒ、Ｋａｍ、Ｋｓは制御ゲインであり、Ｃは補正用の定数である。

【0130】

操作パネル７０のエアコンスイッチが投入された状態で、目標吹出温度ＴＡＯが冷房用基準温度α１以下になっている場合には、空調モードが冷房モードに決定される。冷房用基準温度α１は、外気温Ｔａｍに基づいて、予め制御装置６０に記憶された制御マップを参照して決定される。本実施形態では、外気温Ｔａｍの低下に伴って、冷房用基準温度α１が低い値となるように決定される。

【0131】

また、操作パネル７０のエアコンスイッチが投入された状態で、目標吹出温度ＴＡＯが冷房用基準温度α１以上になっており、かつ、目標吹出温度ＴＡＯが除湿用基準温度β１以下である場合は、空調モードが直列除湿暖房モードに決定される。

【0132】

除湿用基準温度β１は、外気温Ｔａｍに基づいて、予め制御装置６０に記憶された制御マップを参照して決定される。除湿用基準温度β１は、冷房用基準温度α１と同様に、外気温Ｔａｍの低下に伴って低い値となるように決定される。さらに、除湿用基準温度β１は、冷房用基準温度α１よりも高い値に決定される。

【0133】

また、操作パネル７０のエアコンスイッチが投入された状態で、目標吹出温度ＴＡＯが冷房用基準温度α１以上になっており、かつ、目標吹出温度ＴＡＯが除湿用基準温度β１よりも高くなっている場合には、空調モードが並列除湿暖房モードに決定される。

【0134】

そして、エアコンスイッチの冷房スイッチが投入されていない場合や、操作パネル７０のエアコンスイッチが投入された状態で目標吹出温度ＴＡＯが暖房用基準温度γ以上である場合には、空調モードが暖房モードに決定される。

【0135】

暖房用基準温度γは、外気温Ｔａｍに基づいて、予め制御装置６０に記憶された制御マップを参照して決定される。本実施形態では、外気温Ｔａｍの低下に伴って、暖房用基準温度γが低い値となるように決定される。暖房用基準温度γは、ヒータコア４２にて送風空気を加熱することが、空調対象空間の暖房を行うために有効となるように設定されている。

【0136】

このため、本実施形態における運転モードの空調モードとして、冷房モードは、主に夏季のように比較的外気温が高い場合に実行される。直列除湿暖房モードは、主に春季あるいは秋季に実行される。並列除湿暖房モードは、主に早春季あるいは晩秋季のように直列除湿暖房モードよりも高い加熱能力で送風空気を加熱する必要のある場合に実行される。暖房モードは、主に冬季の低外気温時に実行される。

【0137】

そして、冷却モードが有効であるか否かは、バッテリ温度センサ６８によって検出されたバッテリ温度ＴＢが予め定めた基準冷却温度ＫＴＢ（本実施形態では、３５℃）以上であるか否かに対応して決定される。

【0138】

バッテリ温度ＴＢが基準冷却温度ＫＴＢ以上である場合、冷却モードは、バッテリ８０の冷却を実行するように定められる。例えば、空調モードが有効でない場合には、冷却単独モードに決定され、空調モードが冷房モードである場合は、冷房冷却モードに決定される。バッテリ温度ＴＢが基準冷却温度ＫＴＢより低い場合には、バッテリ８０の冷却を実行することなく、運転モードが空調モードに従って定められる。

【0139】

次に、運転モードが冷房モードである場合の各構成機器の動作について説明する。尚、以下の説明にて各運転モードで参照される制御マップは、予め運転モード毎に制御装置６０に記憶されたものである。各運転モードの対応する制御マップ同士は、互いに同等の場合もあるし、互いに異なる場合もある。

【0140】

冷房モードでは、制御装置６０は、先ず、目標蒸発器温度ＴＥＯを決定する。目標蒸発器温度ＴＥＯは、目標吹出温度ＴＡＯに基づいて、制御装置６０に記憶された制御マップを参照して決定される。本実施形態の制御マップでは、目標吹出温度ＴＡＯの上昇に伴って、目標蒸発器温度ＴＥＯが上昇するように決定される。目標蒸発器温度ＴＥＯは、室内蒸発器１８が目標空調用冷却能力を発揮する場合の蒸発器温度Ｔｅｆｉｎを示している。

【0141】

又、制御装置６０は、室外熱交換器１６から流出した冷媒の目標過冷却度ＳＣＯ１を決定する。目標過冷却度ＳＣＯ１は、例えば、外気温Ｔａｍに基づいて、制御マップを参照して決定される。本実施形態の制御マップでは、サイクルの成績係数（ＣＯＰ）が極大値に近づくように、目標過冷却度ＳＣＯ１を決定する。

【0142】

そして、制御装置６０は、冷房モードを実現する為に、各制御対象機器の制御状態を決定する。圧縮機１１の回転数の増減量ΔＩＶＯは、目標蒸発器温度ＴＥＯと蒸発器温度Ｔｅｆｉｎとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、蒸発器温度Ｔｅｆｉｎが目標蒸発器温度ＴＥＯに近づくように決定される。即ち、圧縮機１１の冷媒吐出能力は、蒸発器温度センサ６４ｇで検出される蒸発器温度Ｔｅｆｉｎが目標蒸発器温度ＴＥＯに近づく為に必要な冷媒流量となるように決定される。

【0143】

又、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度の増減量ΔＥＶＣは、目標過冷却度ＳＣＯ１と室外熱交換器１６の出口側冷媒の過冷却度ＳＣ１との偏差に基づいて、フィードバック制御手法により決定される。この時、増減量ΔＥＶＣは、室外熱交換器１６の出口側冷媒の過冷却度ＳＣ１が目標過冷却度ＳＣＯ１に近づくように決定される。室外熱交換器１６の出口側冷媒の過冷却度ＳＣ１は、第３冷媒温度センサ６４ｃによって検出された温度Ｔ３や第１冷媒圧力センサ６５ａによって検出された圧力Ｐ１に基づいて算出される。

【0144】

そして、制御装置６０は、冷凍サイクル装置１０を冷房モードの冷媒回路に切り替えるために、暖房用膨張弁１４ａを全開状態とし、冷房用膨張弁１４ｂを冷媒減圧作用を発揮する絞り状態とし、冷却用膨張弁１４ｃを全閉状態とする。更に、制御装置６０は、除湿用開閉弁１５ａを閉じ、暖房用開閉弁１５ｂを閉じる。更に、制御装置６０は、冷房モードに関して定められた制御状態が得られるように、各制御対象機器に対して制御信号あるいは制御電圧を出力する。

【0145】

この結果、冷房モードの冷凍サイクル装置１０では、蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。この場合の冷媒は、圧縮機１１、熱媒体冷媒熱交換器１２、室外熱交換器１６、第１逆止弁１７ａ、冷房用膨張弁１４ｂ、室内蒸発器１８、蒸発圧力調整弁２０、アキュムレータ２１、圧縮機１１の順に流れて循環する。

【0146】

つまり、冷房モードの冷凍サイクル装置１０では、熱媒体冷媒熱交換器１２及び室外熱交換器１６が圧縮機１１から吐出された冷媒を放熱させる放熱器として機能する。そして、冷房用膨張弁１４ｂが冷媒を減圧させる減圧部として機能し、室内蒸発器１８が吸熱器として機能する。

【0147】

これによれば、室内蒸発器１８にて、送風空気を冷却することができるとともに、熱媒体冷媒熱交換器１２にて、高温側熱媒体を加熱することができる。

【0148】

従って、冷房モードの車両用空調装置１では、エアミックスドア３４の開度調整によって、室内蒸発器１８にて冷却された送風空気の一部をヒータコア４２にて再加熱することができる。つまり、目標吹出温度ＴＡＯに近づくように温度調整された送風空気を車室内へ吹き出すことによって、車室内の冷房を行うことができる。

【0149】

続いて、運転モードが冷房冷却モードの場合の各構成機器の動作について説明する。冷房冷却モードでは、制御装置６０は、冷房モードと同様に、目標蒸発器温度ＴＥＯ、目標過冷却度ＳＣＯ１、エアミックスドア３４の開度ＳＷを決定する。

【0150】

冷房冷却モードにおける圧縮機１１の回転数の増減量ΔＩＶＯを決定する際に、制御装置６０は、冷凍サイクル装置１０を循環する冷媒流量の基準となる合計冷媒流量を決定する。合計冷媒流量は、室内蒸発器１８における目標空調用冷却能力を発揮させる為に必要な冷媒流量と、冷却用熱交換部１９における目標冷却用冷却能力がバッテリ８０を適切に冷却する為に必要な冷媒流量との合計値により定められる。

【0151】

ここで、目標空調冷却能力とは、空調対象空間の温度がユーザの設定温度に近づくように決定された冷却能力を意味する。従って、室内蒸発器１８に目標空調用冷却能力を発揮させる為に必要な冷媒流量は、目標蒸発器温度ＴＥＯと蒸発器温度Ｔｅｆｉｎとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、蒸発器温度Ｔｅｆｉｎが目標蒸発器温度ＴＥＯに近づくように決定される。

【0152】

又、目標冷却用冷却能力とは、冷却対象物の温度を所定時間内に予め定められた温度に低下させることができる冷却能力を意味する。従って、冷却用熱交換部１９における目標冷却用冷却能力の最小値は、冷却対象物であるバッテリ８０の発熱量に相当する冷却能力となり、多くの場合、この最小値を上回るように決定される。

【0153】

具体的には、冷房冷却モードにおける目標冷却用冷却能力は、上述した最小値以上の冷却能力であって、サイクルの効率を不必要に低下させることのない範囲で決定される。つまり、目標冷却用冷却能力を発揮させる為に必要な冷媒流量は、バッテリ８０を不必要に急冷することなく、サイクルの効率を不必要に低下させることのない範囲で決定される。

【0154】

そして、圧縮機１１の回転数の増減量ΔＩＶＯは、目標空調用冷却能力及び目標冷却用冷却能力を発揮させる為に必要な合計冷媒流量を基準として、合計冷媒流量よりも多くなるように決定される。

【0155】

又、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度の増減量ΔＥＶＣは、冷房モードと同様に、目標過冷却度ＳＣＯ１と室外熱交換器１６の出口側冷媒の過冷却度ＳＣ１との偏差に基づいて、フィードバック制御手法により決定される。この時、増減量ΔＥＶＣは、室外熱交換器１６の出口側冷媒の過冷却度ＳＣ１が目標過冷却度ＳＣＯ１に近づくように決定される。

【0156】

又、冷房冷却モードにおける冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度の増減量ΔＥＶＢは、目標蒸発器温度ＴＥＯと蒸発器温度Ｔｅｆｉｎとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、蒸発器温度Ｔｅｆｉｎが目標蒸発器温度ＴＥＯに近づくように決定される。つまり、蒸発器温度Ｔｅｆｉｎが目標蒸発器温度ＴＥＯよりも低い場合には、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度は更に大きくなるように決定される。又、蒸発器温度Ｔｅｆｉｎが目標蒸発器温度ＴＥＯよりも高い場合には、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度は更に小さくなるように決定される。

【0157】

そして、制御装置６０は、冷凍サイクル装置１０を冷房冷却モードの冷媒回路に切り替えるために、暖房用膨張弁１４ａを全開状態とし、冷房用膨張弁１４ｂ及び冷却用膨張弁１４ｃを絞り状態とする。更に、制御装置６０は、除湿用開閉弁１５ａを閉じると共に、暖房用開閉弁１５ｂを閉じる。そして、制御装置６０は、冷房冷却モードに関して定められた制御状態が得られるように、各制御対象機器に対して制御信号或いは制御電圧を出力する。

【0158】

この結果、冷房冷却モードの冷凍サイクル装置１０では、蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。この場合の冷媒は、圧縮機１１、熱媒体冷媒熱交換器１２、室外熱交換器１６、第１逆止弁１７ａ、冷房用膨張弁１４ｂ、室内蒸発器１８、蒸発圧力調整弁２０、アキュムレータ２１、圧縮機１１の順に流れて循環する。同時に、冷媒は、圧縮機１１、熱媒体冷媒熱交換器１２、室外熱交換器１６、第１逆止弁１７ａ、冷却用膨張弁１４ｃ、冷却用熱交換部１９、第２逆止弁１７ｂ、アキュムレータ２１、圧縮機１１の順に流れて循環する。

【0159】

つまり、冷房冷却モードの冷凍サイクル装置１０では、熱媒体冷媒熱交換器１２及び室外熱交換器１６が圧縮機１１から吐出された冷媒を放熱させる放熱器として機能し、室内蒸発器１８が吸熱器として機能する。そして、冷房用膨張弁１４ｂおよび室内蒸発器１８に対して並列的に接続された冷却用膨張弁１４ｃが減圧部として機能し、冷却用熱交換部１９が吸熱器として機能する。

【0160】

これによれば、室内蒸発器１８にて送風空気を冷却することができるとともに、熱媒体冷媒熱交換器１２にて、高温側熱媒体を加熱することができる。さらに、冷却用熱交換部１９にてバッテリ８０を冷却することができる。

【0161】

従って、冷房冷却モードの車両用空調装置１では、エアミックスドア３４の開度調整によって、室内蒸発器１８にて冷却された送風空気の一部をヒータコア４２にて再加熱することができる。即ち、目標吹出温度ＴＡＯに近づくように温度調整された送風空気を車室内へ吹き出すことによって、車室内の冷房を行うことができる。更に、冷却用熱交換部１９に対して低圧冷媒を流入させることで、バッテリ８０の冷却を行うことができる。

【0162】

次に、運転モードが冷却単独モードの場合の各構成機器の動作について説明する。冷却単独モードでは、制御装置６０は、冷房モード及び冷房冷却モードと同様に、目標過冷却度ＳＣＯ１等、各構成機器の状態を決定する。

【0163】

そして、制御装置６０は、冷凍サイクル装置１０を冷却単独モードの冷媒回路に切り替えるために、暖房用膨張弁１４ａを全開状態とし、冷房用膨張弁１４ｂを全閉状態にすると共に、冷却用膨張弁１４ｃを絞り状態とする。更に、制御装置６０は、除湿用開閉弁１５ａを閉じると共に、暖房用開閉弁１５ｂを閉じる。そして、制御装置６０は、冷却単独モードに関して定められた制御状態が得られるように、各制御対象機器に対して制御信号或いは制御電圧を出力する。

【0164】

この結果、冷却単独モードの冷凍サイクル装置１０では、蒸気圧縮式の冷凍サイクルが構成される。この場合の冷媒は、圧縮機１１、熱媒体冷媒熱交換器１２、室外熱交換器１６、第１逆止弁１７ａ、冷却用膨張弁１４ｃ、冷却用熱交換部１９、第２逆止弁１７ｂ、アキュムレータ２１、圧縮機１１の順に流れて循環する。

【0165】

つまり、冷却単独モードの冷凍サイクル装置１０では、熱媒体冷媒熱交換器１２及び室外熱交換器１６が圧縮機１１から吐出された冷媒を放熱させる放熱器として機能し、冷却用膨張弁１４ｃが減圧部として機能する。そして、冷却用熱交換部１９が吸熱器として機能する。これによれば、車両用空調装置１は、冷却用熱交換部１９に対して低圧冷媒を流入させることで、バッテリ８０を冷却することができる。

【0166】

尚、車両用空調装置１の制御装置６０は、加熱部を構成する高温側熱媒体回路４０の高温側熱媒体ポンプ４１の作動も制御している。具体的には、制御装置６０は、上述した冷凍サイクル装置１０の運転モードによらず、予め定めた各運転モードの基準圧送能力を発揮するように、高温側熱媒体ポンプ４１の作動を制御する。

【0167】

従って、高温側熱媒体回路４０では、熱媒体冷媒熱交換器１２の熱媒体通路にて、高温側熱媒体が加熱されると、加熱された高温側熱媒体がヒータコア４２へ圧送される。ヒータコア４２へ流入した高温側熱媒体は、送風空気と熱交換する。これにより、送風空気が加熱される。ヒータコア４２から流出した高温側熱媒体は、高温側熱媒体ポンプ４１に吸入され、熱媒体冷媒熱交換器１２へ圧送される。

【0168】

ここで、第１実施形態に係る車両用空調装置１において、冷房冷却モード等の運転モードが実現される為には、暖房用膨張弁１４ａ～冷却用膨張弁１４ｃ、除湿用開閉弁１５ａ、暖房用開閉弁１５ｂが正常に動作していることが必要となる。これらの構成機器の動作にエラーが生じてしまうと、適切な冷媒回路を構成することができなくなり、車室内空調の快適性を損ねてしまったり、バッテリ８０の温度管理に影響を及ぼしてしまったりすることが考えられる。

【0169】

第１実施形態に係る車両用空調装置１では、暖房用膨張弁１４ａ及び冷房用膨張弁１４ｂの開度調整に関するエラーの発生を検知する為に、エラー判定制御を行っている。図３を参照して、第１実施形態に係るエラー判定制御の内容について説明する。エラー判定制御は、車両用空調装置１に対する電源の投入と共に、制御装置６０のＣＰＵによって実行される。

【0170】

図３に示すように、先ず、ステップＳ１において、バッテリ冷却要求があるか否かが判定される。バッテリ冷却要求は、バッテリ温度ＴＢが基準冷却温度ＫＴＢ以上である場合に有効になる。従って、ステップＳ１では、バッテリ温度ＴＢが基準冷却温度ＫＴＢ以上であるか否かの判定と同様の判定結果となる。バッテリ温度ＴＢが基準冷却温度ＫＴＢ以上で、バッテリ冷却要求がある場合、ステップＳ２に移行する。バッテリ温度ＴＢが基準冷却温度ＫＴＢ以上で、バッテリ冷却要求がない場合、エラー判定制御を終了する。

【0171】

ステップＳ２に移行すると、現時点における運転モードが空調運転中であるか否かが判定される。ここで、ステップＳ２における空調運転とは、少なくとも室内蒸発器１８にて送風空気を冷却する運転を意味している。従って、冷房モード、除湿暖房モードは、ステップＳ２の空調運転に含まれるが、暖房モードは除外される。

【0172】

現時点の運転モードにおける空調モードが冷房モード又は除湿暖房モードであり、空調運転中であると判定された場合、ステップＳ３に処理を移行する。つまり、冷房冷却モード又は除湿暖房冷却モードである場合、処理をステップＳ３に進め、そうではない場合、エラー判定制御を終了する。

【0173】

ステップＳ３では、現在の運転モードにおける冷媒の吐出圧力Ｐｄが圧力異常条件を満たすか否かが判定される。ここで、第１実施形態に係る車両用空調装置１では、図４に示す制御特性図と、第１冷媒圧力センサ６５ａの検出結果を参照して、冷凍サイクルの高圧圧力の上昇を抑制する為に、圧力抑制制御が行われている。

【0174】

具体的には、吐出圧力Ｐｄが増加過程にある時は、吐出圧力Ｐｄが基準上限吐出圧力ＫＰｄ１以上となった際に、圧縮機１１の動作を停止する。そして、吐出圧力Ｐｄが減少過程にある時は、吐出圧力Ｐｄが基準下限吐出圧力ＫＰｄ２以下となった場合、圧縮機１１を停止している状態から作動状態に切り替えることを決定する。基準上限吐出圧力ＫＰｄ１と基準下限吐出圧力ＫＰｄ２との差は、制御ハンチングを防止するためのヒステリシス幅である。

【0175】

そして、ステップＳ３における圧力異常条件とは、予め定められた期間において、圧力抑制制御によって、圧縮機１１の運転を停止した回数が予め定められた回数を超えたことである。換言すると、ステップＳ３では、冷凍サイクルの高圧圧力が高い状態が予め定められた期間の間、継続して生じているか否かが判定されている。圧力異常条件を満たす場合、ステップＳ４に処理を進める。そうではない場合は、エラー判定制御を終了する。ステップＳ３を実行する場合の制御装置６０は、第１判定部６０ｃに相当する。

【0176】

ステップＳ４においては、冷凍サイクル装置１０の冷媒回路の構成を、冷却単独モードに切り替える。制御装置６０は、上述したように、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂ、冷却用膨張弁１４ｃ、除湿用開閉弁１５ａ、暖房用開閉弁１５ｂの作動を制御し、冷却単独モードの冷媒回路に切り替える。この時、制御装置６０は、冷却単独モードに関して定められた制御状態が得られるように、各制御対象機器に対して制御信号或いは制御電圧を出力する。ステップＳ４を実行する制御装置６０は、切替制御部６０ｂに相当している。

【0177】

ステップＳ５では、冷却単独モードにおいて、吐出圧力Ｐｄが圧力異常条件を満たすか否かが判定される。ステップＳ５の判断処理は、前提としている車両用空調装置１の運転モードがステップＳ３の判断処理の場合と相違している。しかしながら、圧力異常条件及び圧力抑制制御の内容は、ステップＳ３と同様である為、再度の説明を省略する。

【0178】

換言すると、ステップＳ５では、冷却単独モードにおいて、冷凍サイクルの高圧圧力が高い状態が予め定められた期間の間、継続して生じているか否かが判定される。圧力異常条件を満たす場合は、ステップＳ６に処理を進めて、冷房側エラー信号を出力する。冷房側エラー信号は、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整にエラーが生じていることを示す制御信号である。冷房側エラー信号を出力した後、エラー判定制御を終了する。

【0179】

一方、圧力異常条件を満たしていない場合、ステップＳ７に処理を進めて、暖房側エラー信号を出力する。暖房側エラー信号は、暖房用膨張弁１４ａの開度調整にエラーが生じていることを示す制御信号である。暖房側エラー信号を出力した後、エラー判定制御を終了する。

【0180】

尚、第１実施形態に係る車両用空調装置１では、冷房側エラー信号、暖房側エラー信号を出力することによって、これらの信号に基づいて、車両用空調装置１の運転停止等の制御が行われる。これにより、エラーが生じた状態で運転が継続することを抑制できる為、車両用空調装置１を構成する各構成機器（例えば、バッテリ８０等）への影響を抑制することができる。

【0181】

又、冷房側エラー信号、暖房側エラー信号に基づいて、ユーザに対する暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂの状態を報知するように構成してもよい。これによれば、報知された内容に応じて、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂに対する適切な措置（例えば、修理や交換等）を行うことができる。

【0182】

第１実施形態に係るエラー判定制御では、ステップＳ３、ステップＳ５にて、吐出圧力Ｐｄが圧力異常条件を満たすか否かが判定されている。つまり、冷凍サイクルにおける高圧側の冷媒圧力が定常的に高い状態になっているか否かを判定しているということができる。そして、高圧側の冷媒圧力が定常的に高い状態になっているということは、冷媒回路におけるどこかが、閉塞している又は閉塞気味であると考えることができる。

【0183】

冷房冷却モード、除湿暖房冷却モード、冷却単独モードにおいて、高圧側冷媒が定常的に高い状態となる場合、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂ、冷却用膨張弁１４ｃの内、少なくとも１つの絞り開度が、閉じすぎ又は閉塞していると考えられる。

【0184】

尚、閉じすぎの状態とは、制御装置６０から出力された制御信号で指示され、運転モードに応じて定められた絞り開度よりも、実際の絞り開度が小さな状態を意味する。又、閉塞している状態とは、実際の絞り開度が０になっている状態を意味する。

【0185】

ここで、冷房冷却モード及び除湿暖房冷却モードの場合、冷媒は、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂ、冷却用膨張弁１４ｃを経由して循環している。冷却単独モードの場合、冷媒は、暖房用膨張弁１４ａ、冷却用膨張弁１４ｃを経由して循環している。この為、冷房冷却モード又は除湿暖房冷却モードの場合に移行するステップＳ３及び冷却単独モードの場合であるステップＳ５の何れにおいても、圧力異常条件を満たす場合は、暖房用膨張弁１４ａの絞り開度が閉じすぎ状態になっていると考えられる。

【0186】

又、ステップＳ３では圧力異常条件を満たし、ステップＳ５では圧力異常条件を満たしていない場合には、冷却単独モードの冷媒回路に閉じすぎ状態が存在しないと考えられる為、冷房用膨張弁１４ｂが閉じすぎ状態になっていると考えられる。

【0187】

従って、第１実施形態に係る車両用空調装置１によれば、図３に示すエラー判定制御を実行することによって、暖房用膨張弁１４ａの開度調整に関するエラーの発生と、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整に関するエラーの発生を区別して、それぞれ判定できる。

【0188】

以上説明したように、第１実施形態に係る車両用空調装置１によれば、図３に示すエラー判定制御を実行することで、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂの何れの開度調整にエラーが生じているか否かを特定することができる。第１実施形態に係るエラー判定制御では、運転モードの種別と、吐出圧力Ｐｄが圧力異常条件を満たす高圧状態であるか否かの判定を組み合わせることで、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂの何れかに特定できる為、適切な措置を講じることができる。

【0189】

即ち、第１実施形態に係る車両用空調装置１は、バッテリ８０の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、暖房用膨張弁１４ａ及び冷房用膨張弁１４ｂの開度調整に関するエラーの発生を検知することができる。

【0190】

（第２実施形態）
次に、上述した実施形態と異なる第２実施形態について、図５を参照して説明する。第２実施形態では、エラー判定制御の内容が上述した実施形態と相違している。その他の車両用空調装置１の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。

【0191】

第２実施形態に係る車両用空調装置１では、暖房用膨張弁１４ａの開度調整に関するエラーの発生を検知する為に、図５に示すエラー判定制御を行っている。図５を参照して、第２実施形態に係るエラー判定制御の内容について説明する。エラー判定制御は、第１実施形態と同様に、車両用空調装置１に対する電源の投入と共に、制御装置６０のＣＰＵによって実行される。

【0192】

第２実施形態に係るエラー判定制御において、先ず、ステップＳ１１において、バッテリ冷却要求があるか否かが判定される。ステップＳ１１の判定処理の内容は、上述したステップＳ１と同様である為、再度の説明を省略する。バッテリ冷却要求がある場合、ステップＳ１２に処理を進め、そうではない場合には、エラー判定制御を終了する。

【0193】

ステップＳ１２では、現時点における運転モードが空調停止中であるか否かが判定される。空調停止中である場合、ステップＳ１３に処理を進め、そうではない場合、エラー判定制御を終了する。つまり、ステップＳ１１、ステップＳ１２によって、現時点の運転モードが冷却単独モードであるか否かが判定されており、冷却単独モードである場合に、ステップＳ１３に移行することになる。

【0194】

ステップＳ１３に移行すると、現在の運転モードにおける冷媒の吐出圧力Ｐｄが圧力異常条件を満たすか否かが判定される。第２実施形態に係る圧力異常条件及び圧力抑制制御の内容は、第１実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。ステップＳ１３を実行する制御装置６０は、冷却時判定部６０ｅに相当する。

【0195】

ステップＳ１３において、圧力異常条件を満たすと判定された場合、ステップＳ１４に処理を進め、暖房側エラー信号を出力する。暖房側エラー信号は、暖房用膨張弁１４ａの開度調整にエラーが生じていることを示す制御信号である。暖房側エラー信号を出力した後、エラー判定制御を終了する。一方、圧力異常条件を満たしていない場合、暖房用膨張弁の開度調整が正常に行われていると考えられる為、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0196】

第２実施形態に係るエラー判定制御では、ステップＳ１３にて、吐出圧力Ｐｄが圧力異常条件を満たすか否かが判定されている。つまり、冷却単独モードの冷凍サイクルにおける高圧側の冷媒圧力が定常的に高い状態になっているか否かを判定している。この場合、冷却単独モードの冷媒回路のどこかが、閉塞している又は閉塞気味であると考えられる。上述したように、冷却単独モードの場合、暖房用膨張弁１４ａ、冷却用膨張弁１４ｃを経由して、冷媒が循環する構成になっている為、暖房用膨張弁が閉じすぎ状態になっていると考えられる。

【0197】

従って、第２実施形態に係る車両用空調装置１によれば、図５に示すエラー判定制御を実行することによって、暖房用膨張弁１４ａの開度調整に関するエラーの発生を判定することができる。

【0198】

以上説明したように、第２実施形態に係る車両用空調装置１によれば、図５のエラー判定制御により、冷却単独モードにて冷媒の吐出圧力が高圧状態であるか否かを判定することで、暖房用膨張弁１４ａの開度調整にエラーが生じているか否かを判定できる。

【0199】

即ち、第２実施形態に係る車両用空調装置１は、バッテリ８０の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、暖房用膨張弁１４ａの開度調整に関するエラーの発生を検知することができる。

【0200】

（第３実施形態）
続いて、上述した実施形態と異なる第３実施形態について、図６、図７を参照して説明する。第３実施形態では、エラー判定制御の内容が上述した実施形態と相違している。その他の車両用空調装置１の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。

【0201】

第３実施形態に係る車両用空調装置１では、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整に関するエラーの発生を検知する為に、図６に示すエラー判定制御を行っている。図６を参照して、第３実施形態に係るエラー判定制御の内容について説明する。エラー判定制御は、上述した実施形態と同様に、車両用空調装置１に対する電源の投入と共に、制御装置６０のＣＰＵによって実行される。

【0202】

第３実施形態に係るエラー判定制御において、ステップＳ２１では、バッテリ冷却要求があるか否かが判定される。ステップＳ２１の判定処理の内容は、上述した実施形態と同様である。バッテリ冷却要求がある場合、ステップＳ２２に処理を進め、そうではない場合には、エラー判定制御を終了する。

【0203】

ステップＳ２２では、現時点における運転モードが空調停止中であるか否かが判定される。空調停止中である場合、ステップＳ２３に処理を進め、そうではない場合、エラー判定制御を終了する。つまり、ステップＳ２１、ステップＳ２２によって、現時点の運転モードが冷却単独モードであるか否かが判定されており、冷却単独モードである場合に、ステップＳ２３に移行することになる。

【0204】

ステップＳ２３に移行すると、過冷却度特定部６０ｆで特定される過冷却度ＳＣ１が第１基準過冷却度ＫＳＣｌ以下であるか否かが判定される。第３実施形態において、室外熱交換器１６の出口側における冷媒の過冷却度ＳＣ１は、図７に示す制御特性図と外気温によって定められる目標過冷却度ＳＣＯ１に近づくように制御される。

【0205】

そして、第１基準過冷却度ＫＳＣｌは、図７に示すように、外気温に関わらず、目標過冷却度ＳＣＯ１よりも低い値となるように定められている。過冷却度ＳＣ１が第１基準過冷却度ＫＳＣｌ以下である場合、ステップＳ２４に処理を進める。過冷却度ＳＣ１が第１基準過冷却度ＫＳＣｌ以下ではない場合、エラー判定制御を終了する。

【0206】

ステップＳ２４においては、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上であるか否かが判定される。ステップＳ２４の冷却用基準開度とは、冷却用膨張弁１４ｃに定められている絞り開度の最大値を意味する。冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上である場合は、ステップＳ２５に進む。一方、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0207】

ステップＳ２５では、第６冷媒温度センサ６４ｆで検出される第６冷媒温度Ｔ６が基準出口側温度よりも高いか否かが判定される。第６冷媒温度Ｔ６は、冷却用熱交換部１９の出口側における冷媒の温度である。そして、ステップＳ２５における基準出口側温度とは、バッテリ８０の冷却が十分に行われていない状態を示す指標として定められている。

【0208】

第６冷媒温度Ｔ６が基準出口側温度よりも高い場合、ステップＳ２６に処理を進め、冷房側エラー信号を出力する。冷房側エラー信号は、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整にエラーが生じていることを示す制御信号である。冷房側エラー信号を出力した後、エラー判定制御を終了する。一方、第６冷媒温度Ｔ６が基準出口側温度よりも高くない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0209】

第３実施形態では、冷却単独モードにおける冷房用膨張弁１４ｂの開度調整にエラーが生じ、開きすぎの状態になっているか否かが判定されている。尚、開きすぎの状態とは、制御装置６０から出力された制御信号で指示され、運転モードに応じて定められた絞り開度よりも、実際の絞り開度が大きな状態を意味する。

【0210】

冷却単独モードにおいて、冷房用膨張弁１４ｂが開きすぎの状態になっていた場合、冷却用熱交換部１９の出口側の過冷却度ＳＣ１が取れなくなる。又、冷却用膨張弁１４ｃ側と並列に接続されている冷房用膨張弁１４ｂが開きすぎである為、冷却用膨張弁１４ｃ及び冷却用熱交換部１９に対する冷媒流量が低下する。

【0211】

この結果、冷却用熱交換部１９の出口側での過熱度ＳＨが大きくなりすぎてしまう為、冷却用膨張弁１４ｃの開度調整としては、過熱度ＳＨを小さくする為に、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度を大きくするように調整していく。

【0212】

しかしながら、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度が開きすぎの状態である為、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度を、どれだけ大きくしたとしても、過熱度ＳＨは大きいままの状態となる。この結果、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度は、最終的には、ステップＳ２４における冷却用基準開度である最大値まで開いて、制御不能な状態になる。

【0213】

この為、第３実施形態に係るエラー判定制御では、冷却単独モードにおいて、ステップＳ２３の過冷却度ＳＣ１に関する判定と、ステップＳ２４の冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度に関する判定を行うことで、冷房用膨張弁１４ｂに係るエラーを判定できる。

【0214】

又、ステップＳ２５において、第６冷媒温度Ｔ６に関する判定を行うことで、冷却用熱交換部１９におけるバッテリ８０の冷却が実効的に機能しているか否かを判定することができ、冷房用膨張弁１４ｂに係るエラーに関する判定精度を向上させることができる。

【0215】

尚、第３実施形態におけるステップＳ２５では、第６冷媒温度Ｔ６を用いた判定を行っているが、冷却用熱交換部１９の出口側の冷媒の過熱度ＳＨを採用しても、同様の効果を発揮させることができる。

【0216】

第３実施形態に係る車両用空調装置１によれば、冷却単独モードにおいて、過冷却度ＳＣ１を用いた判定と、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度を用いた判定を行うことによって、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整にエラーが生じていることを特定することができる。即ち、車両用空調装置１は、バッテリ８０の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、冷凍サイクルを構成する冷房用膨張弁１４ｂに関するエラーの発生を検知することができる。

【0217】

更に、エラー判定制御において、第６冷媒温度Ｔ６を用いた判定を行うことで、バッテリ８０の冷却が正常に行われているか否かの判定と、冷房用膨張弁１４ｂに関するエラーの発生に関する判定の判定精度を向上させることができる。

【0218】

（第４実施形態）
次に、上述した実施形態と異なる第４実施形態について、図８、図９を参照して説明する。第４実施形態では、エラー判定制御の内容が上述した実施形態と相違している。その他の車両用空調装置１の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。

【0219】

第４実施形態に係る車両用空調装置１においては、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整に関するエラーの発生を検知する為に、図８に示すエラー判定制御を行っている。図８を参照して、第４実施形態に係るエラー判定制御の内容について説明する。エラー判定制御は、上述した実施形態と同様に、車両用空調装置１に対する電源の投入と共に、制御装置６０のＣＰＵによって実行される。

【0220】

図８に示すように、ステップＳ３１においては、バッテリ冷却要求があるか否かが判定される。ステップＳ３１の判定内容は、上述したステップＳ１等と同様である。バッテリ冷却要求がある場合は、ステップＳ３２に処理を進め、そうではない場合は、エラー判定制御を終了する。

【0221】

ステップＳ３２では、現時点における運転モードが空調運転中であるか否かが判定される。ステップＳ３２の判定処理の内容は、上述したステップＳ２と同じである。従って、ステップＳ３２では、現時点の運転モードにおける空調モードが冷房モード又は除湿暖房モードであるか否かが判定されていると換言することができる。

【0222】

現時点における運転モードが空調運転中であると判定された場合、ステップＳ３３に処理を進める。一方、現時点における運転モードが空調運転中ではないと判定された場合、エラー判定制御を終了する。

【0223】

ステップＳ３３においては、過冷却度特定部６０ｆで特定される過冷却度ＳＣ１が第１基準過冷却度ＫＳＣｌ以下であるか否かが判定される。ステップＳ３３の判定処理の内容は、上述したステップＳ２３と同じである為、再度の説明を省略する。過冷却度ＳＣ１が第１基準過冷却度ＫＳＣｌ以下である場合、ステップＳ３４に処理を進める。過冷却度ＳＣ１が第１基準過冷却度ＫＳＣｌ以下ではない場合、エラー判定制御を終了する。

【0224】

ステップＳ３４では、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度を制御する為の制御信号が指示する開度指示が冷房用基準開度以下であるか否かが判定される。上述したように、この場合における冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度は、目標過冷却度ＳＣＯ１と室外熱交換器１６の出口側冷媒の過冷却度ＳＣ１との偏差に基づいて、フィードバック制御手法により決定される。

【0225】

具体的には、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度は、室外熱交換器１６の出口側冷媒の過冷却度ＳＣ１が目標過冷却度ＳＣＯ１に近づくように定められる。つまり、冷房用膨張弁１４ｂの開度指示は、室外熱交換器１６の出口側冷媒の過冷却度ＳＣ１が目標過冷却度ＳＣＯ１に近づくように定められた開度を示す。

【0226】

ステップＳ３４における冷房用基準開度は、室外熱交換器１６の出口側冷媒の過冷却度ＳＣ１が予め定められた値となると考えられる閾値を意味する。上述したように、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度は、過冷却度ＳＣ１が目標過冷却度ＳＣＯ１に近づくように定められる為、過冷却度ＳＣ１が出ていない場合、絞り開度を小さくするような制御が行われる。つまり、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度がこれだけしまっていたら、過冷却度ＳＣ１がでるはずという閾値が存在する。ステップＳ３４では、この閾値を冷房用基準開度に定めている。

【0227】

即ち、ステップＳ３４では、冷房用膨張弁１４ｂの開度指示が冷房用基準開度以下であるか否かを判定することで、現時点の運転モードにおいて、過冷却度ＳＣ１がでる状態となるような制御信号が出力されているか否かが判定されている。冷房用膨張弁１４ｂの開度指示が冷房用基準開度以下である場合、ステップＳ３５に処理を進める。一方、冷房用膨張弁１４ｂの開度指示が冷房用基準開度以下ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0228】

ステップＳ３５においては、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上であるか否かが判定される。ステップＳ３５の判定処理は、上述したステップＳ２４の判定処理と同じ内容である為、再度の説明は省略する。冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上である場合、ステップＳ３６に処理を進める。一方、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0229】

ステップＳ３６に移行すると、過熱度特定部６０ｈで特定された過熱度ＳＨが基準過熱度ＫＳＨ以上であるか否かが判定される。この場合において、冷房用膨張弁１４ｂが正常に作動していれば、冷却用熱交換部１９の出口側における冷媒の過熱度ＳＨは、冷却用膨張弁１４ｃの開度調整によって、目標過熱度ＳＨＯに近づくように制御される。

【0230】

目標過熱度ＳＨＯは、図９に示す制御特性図と外気温によって定められ、基準過熱度ＫＳＨは、図９に示すように、外気温に関わらず、目標過熱度ＳＨＯよりも高い値となるように定められている。過熱度ＳＨが基準過熱度ＫＳＨ以上である場合、ステップＳ３７に処理を進め、冷房側エラー信号を出力する。冷房側エラー信号を出力した後、エラー判定制御を終了する。一方、過熱度ＳＨが基準過熱度ＫＳＨ以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0231】

第４実施形態では、冷房冷却モード又は除湿暖房冷却モードにおける冷房用膨張弁１４ｂの開度調整にエラーが生じ、開きすぎの状態になっているか否かが判定されている。車両用空調装置１の冷凍サイクル装置１０において、過冷却度ＳＣ１は、冷媒が凝縮した後の絞り（つまり、冷房用膨張弁１４ｂ、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度）を小さくするほど大きな値を示し、大きくすれば小さな値を示す。又、冷凍サイクル装置１０の冷媒回路における冷媒の流れは、圧損が小さい径路を経由するように形成される。

【0232】

上述したように、車両用空調装置１では、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度は、過冷却度ＳＣ１が目標過冷却度ＳＣＯ１に近づくように制御される為、過冷却度ＳＣ１が出ていない場合は、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度を小さく絞るように制御される。この為、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度がこれだけしまっていたら、過冷却度ＳＣ１が出るはずという閾値が存在する。

【0233】

冷房用基準開度に相当する閾値を下回っている状態で、過冷却度ＳＣ１が出ていないということは、冷房用膨張弁１４ｂが絞り開度を小さくする旨の開度指示に対して、物理的に閉じられていない状態であることを意味している。従って、第４実施形態に係る車両用空調装置１では、ステップＳ３３、ステップＳ３４の判定処理を行うことで、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整に関して、開きすぎ状態のエラーが生じていることを判定することができる。

【0234】

又、冷房用膨張弁１４ｂの開度制御が正常に作動している場合、冷却用熱交換部１９の出口側における冷媒の過熱度ＳＨは正常に制御される。そして、冷房用膨張弁１４ｂの開度制御が開きすぎの状態になっている場合、冷却用膨張弁１４ｃ及び冷却用熱交換部１９に対する冷媒流量が低下し、過熱度ＳＨは目標過熱度ＳＨＯに対して高い値を示す。過熱度ＳＨが目標過熱度ＳＨＯよりも高い値を示すと、過熱度ＳＨを小さくする為に、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度は大きくなるように制御される。ここで、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度についても、絞り開度がこれだけ開いていたら過熱度ＳＨが小さくなるはずという閾値が存在する。

【0235】

従って、図８に示すエラー判定制御にて、ステップＳ３５で冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上で、且つ、ステップＳ３６で過熱度ＳＨが基準過熱度ＫＳＨ以上となる状態は、冷房用膨張弁１４ｂの開度制御のエラーが生じた状態であるといえる。車両用空調装置１によれば、エラー判定制御にて、ステップＳ３５、ステップＳ３６の判定処理を行うことで、バッテリ８０の冷却が正常に行われているか否かの判定と、冷房用膨張弁１４ｂに関するエラーの発生に関する判定の判定精度を向上させることができる。

【0236】

第４実施形態に係る車両用空調装置１によれば、冷房冷却モード、除湿暖房冷却モードにおいて、過冷却度ＳＣ１を用いた判定と、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度を用いた判定を行うことで、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整にエラーが生じていることを特定できる。即ち、車両用空調装置は、バッテリ８０の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、冷房用膨張弁１４ｂに関するエラーの発生を検知することができる。

【0237】

更に、エラー判定制御において、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度を用いた判定と、過熱度ＳＨを用いた判定を行うことで、バッテリ８０の冷却が正常に行われているか否かの判定と、冷房用膨張弁１４ｂに関するエラーの発生に関する判定の判定精度を向上できる。

【0238】

（第５実施形態）
続いて、上述した実施形態と異なる第５実施形態について、図１０、図１１を参照して説明する。第５実施形態では、エラー判定制御の内容が上述した実施形態と相違している。その他の車両用空調装置１の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。

【0239】

第５実施形態に係る車両用空調装置１においては、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整に関するエラーの発生を検知する為に、図１０に示すエラー判定制御を行っている。図１０を参照して、第５実施形態に係るエラー判定制御の内容について説明する。エラー判定制御は、上述した実施形態と同様に、車両用空調装置１に対する電源の投入と共に、制御装置６０のＣＰＵによって実行される。

【0240】

図１０に示すように、ステップＳ４１では、バッテリ冷却要求があるか否かが判定される。ステップＳ４１の判定内容は、上述したステップＳ１等と同様である。バッテリ冷却要求がある場合は、ステップＳ４２に処理を進め、そうではない場合は、エラー判定制御を終了する。

【0241】

ステップＳ４２においては、現時点における運転モードが空調運転中であるか否かが判定される。ステップＳ４２の判定処理の内容は、上述したステップＳ２等と同じである。現時点における運転モードが空調運転中であると判定された場合、ステップＳ４３に処理を進める。一方、現時点における運転モードが空調運転中ではないと判定された場合、エラー判定制御を終了する。

【0242】

ステップＳ４３に移行すると、過冷却度特定部６０ｆによって特定された過冷却度ＳＣ１が第２基準過冷却度ＫＳＣｈ以上であるか否かが判定される。上述したように、室外熱交換器１６の出口側における冷媒の過冷却度ＳＣ１は、図１１に示す制御特性図と外気温によって定められる目標過冷却度ＳＣＯ１に近づくように制御される。

【0243】

ここで、第５実施形態に係る過冷却度特定部６０ｆは、熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒出口側に配置されている第１冷媒圧力センサ６５ａで出力される検出値を用いて、室外熱交換器１６の出口側における冷媒の過冷却度ＳＣ１を特定する。又、第２基準過冷却度ＫＳＣｈは、図１１に示すように、外気温に関わらず、目標過冷却度ＳＣＯ１よりも高い値となるように定められている。

【0244】

過冷却度ＳＣ１が第２基準過冷却度ＫＳＣｈ以上である場合、ステップＳ４４に処理を進める。一方、過冷却度ＳＣ１が第２基準過冷却度ＫＳＣｈ以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0245】

ステップＳ４４においては、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度を制御する為の制御信号が指示する開度指示が冷房用基準開度以下であるか否かが判定される。ステップＳ４４の判定処理の内容は、ステップＳ３４の判定処理と同様である為、再度の説明は省略する。冷房用膨張弁１４ｂの開度指示が冷房用基準開度以下である場合、ステップＳ４５に処理を進める。一方、冷房用膨張弁１４ｂの開度指示が冷房用基準開度以下ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0246】

ステップＳ４５においては、入口側温度特定部６０ｉで特定される入口側温度が予め定められた基準入口側温度以下であるか否かが判定される。入口側温度特定部６０ｉは、第５冷媒温度センサ６４ｅで検出された冷却用熱交換部１９の入口側における第５冷媒温度Ｔ５によって入口側温度を特定する。

【0247】

そして、ステップＳ４５における基準入口側温度は、圧縮機１１や、冷却用熱交換部１９等の諸元から定まるシステム上の冷媒温度の下限値に対応している。ステップＳ４５の基準入口側温度は、車両用空調装置１において、冷却用熱交換部１９の凍結を防止する為の凍結防止制御を実行する契機となる所定温度よりも低い温度を示しており、基準低圧冷媒温度の一例である。

【0248】

即ち、ステップＳ４５では、冷凍サイクルにおける低圧冷媒の温度の異常低下が生じているか否かが判定されている。第５冷媒温度Ｔ５が基準入口側温度以下である場合、ステップＳ４６に処理を進め、冷房側エラー信号を出力する。冷房側エラー信号を出力した後、エラー判定制御を終了する。一方、第５冷媒温度Ｔ５が基準入口側温度以下ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0249】

第５実施形態では、冷房冷却モード又は除湿暖房冷却モードにおける暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整にエラーが生じているか否かが判定されている。過冷却度ＳＣ１は、冷媒が凝縮した後の絞り（つまり、冷房用膨張弁１４ｂ、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度）を小さくするほど大きな値を示し、大きくすれば小さな値を示す。又、冷凍サイクル装置１０における冷媒の流れは、圧損が小さい径路を経由するように形成される。

【0250】

上述したように、車両用空調装置１では、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度は、過冷却度ＳＣ１が目標過冷却度ＳＣＯ１に近づくように制御される為、過冷却度ＳＣ１が出すぎている場合は、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度を大きく開くように制御される。この為、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度がこれだけ開いていたら、過冷却度ＳＣ１が小さくなるはずという閾値が存在する。

【0251】

ステップＳ４４の冷房用基準開度に相当する閾値を上回っている状態で、過冷却度ＳＣ１が出すぎているということは、冷房用膨張弁１４ｂが絞り開度を小さくする旨の開度指示に対して、物理的に閉じられていない状態であることを意味している。従って、第５実施形態に係る車両用空調装置１では、ステップＳ４３、ステップＳ４４の判定処理を行うことで、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整に関して、開きすぎ状態のエラーが生じていると推定することができる。

【0252】

そして、第５実施形態に係る車両用空調装置１において、暖房用膨張弁１４ａの絞り開度が閉じすぎ状態である場合、熱媒体冷媒熱交換器１２から暖房用膨張弁１４ａまでの高圧側圧力が高くなる。上述したように、第５実施形態では、第１冷媒圧力センサ６５ａの検出値を用いて過冷却度ＳＣ１を特定している為、過冷却度ＳＣ１が大きく特定される傾向を示す。

【0253】

上述したように、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度は、過冷却度ＳＣ１が目標過冷却度ＳＣＯ１に近づくように制御される。この為、過冷却度ＳＣ１が目標過冷却度ＳＣＯ１よりも大きいと、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度は、大きく開いていくように制御される。従って、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度には、少なくともこれだけ開いていたら、過冷却度ＳＣ１が小さくなるはずという閾値が存在する。その閾値を上回っても過冷却度が小さくならないということは、暖房用膨張弁１４ａの絞り開度が閉じすぎ状態であると推定することができる。

【0254】

つまり、第５実施形態に係る車両用空調装置１によれば、エラー判定制御において、ステップＳ４３、ステップＳ４４の判定処理を行うことで、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂの少なくとも一方に、開度調整のエラーが生じているか否かを特定できる。これにより、ステップＳ４５に移行する際に、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂの少なくとも一方の開度調整にエラーが生じている旨のエラー発生信号が出力される。エラー発生信号は、制御装置６０のＲＡＭに格納され、制御フラグとして利用される。

【0255】

又、冷房用膨張弁１４ｂの開度制御が正常に作動している場合、冷却用熱交換部１９を流通する低圧冷媒の温度は、車両用空調装置１のシステムが定める下限値以下になることはない。冷房用膨張弁１４ｂが閉じすぎ状態である場合、冷凍サイクルにおける低圧側の圧力が下がり、冷却用熱交換部１９を流通する冷媒の異常な温度低下が定常的に発生する。この場合、車両用空調装置１では、凍結防止制御が頻繁に行われることになる。

【0256】

従って、図１０に示すエラー判定制御において、ステップＳ４５で第５冷媒温度Ｔ５が基準入口側温度以下になるという状態は、冷房用膨張弁１４ｂの開度制御のエラーが生じ、閉じすぎ状態であるということができる。車両用空調装置１によれば、エラー判定制御にて、ステップＳ４５の判定処理を行うことで、バッテリ８０の冷却が正常に行われているか否かの判定と、冷房用膨張弁１４ｂに関するエラーの発生を特定することができる。ステップＳ４５の判定処理により、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整にエラーが生じていると判定された場合、ＲＡＭのエラー発生信号を、冷房側エラー信号に変更して出力する。

【0257】

第５実施形態に係る車両用空調装置１によれば、冷房冷却モード、除湿暖房冷却モードにて、過冷却度を用いた判定と冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度を用いた判定を行うことで、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂにエラーが生じていることを特定できる。即ち、車両用空調装置１は、バッテリ８０の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂに関するエラーの発生を検知することができる。

【0258】

又、第５実施形態に係る過冷却度特定部６０ｆは、熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒出口側に配置されている第１冷媒圧力センサ６５ａで出力される検出値を用いて、室外熱交換器１６の出口側における冷媒の過冷却度ＳＣ１を特定している。従って、第５実施形態に係る車両用空調装置１によれば、過冷却度ＳＣ１が大きく特定される傾向を示す為、ステップＳ４３の判定によって、暖房用膨張弁１４ａの開度調整にエラーが生じている可能性の有無を特定できる。

【0259】

更に、エラー判定制御において、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度を用いた判定と、過熱度ＳＨを用いた定を行うことで、バッテリ８０の冷却が正常に行われているか否かの判定精度を向上させ、冷房用膨張弁１４ｂに関するエラーの発生を特定できる。

【0260】

尚、第５実施形態においては、低圧冷媒温度特定部として、入口側温度特定部６０ｉで特定された入口側温度を用いているが、この態様に限定されるものではない。低圧冷媒温度特定部は、冷却用熱交換部１９を流通する冷媒の温度を用いていればよく、出口側温度特定部６０ｇで特定される出口側温度を用いても良い。又、低圧冷媒温度特定部は、冷却用熱交換部１９に対する入口側温度と出口側温度の低い方を採用する構成としても良い。

【0261】

（第６実施形態）
次に、上述した実施形態と異なる第６実施形態について、図１２を参照して説明する。第６実施形態では、エラー判定制御の内容が上述した実施形態と相違している。その他の車両用空調装置１の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。

【0262】

第６実施形態に係る車両用空調装置１においては、冷房用膨張弁１４ｂの開度調整に関するエラーの発生を検知する為に、図１２に示すエラー判定制御を行っている。図１２を参照して、第６実施形態に係るエラー判定制御の内容について説明する。エラー判定制御は、上述した実施形態と同様に、車両用空調装置１に対する電源の投入と共に、制御装置６０のＣＰＵによって実行される。

【0263】

図１２に示すように、ステップＳ５１では、バッテリ冷却要求があるか否かが判定される。ステップＳ５１の判定内容は、上述したステップＳ１等と同様である。バッテリ冷却要求がある場合は、ステップＳ５２に処理を進め、そうではない場合は、エラー判定制御を終了する。

【0264】

ステップＳ５２においては、現時点における運転モードが空調運転中であるか否かが判定される。ステップＳ４２の判定処理の内容は、上述したステップＳ２等と同じである。現時点における運転モードが空調運転中であると判定された場合、ステップＳ５３に処理を進める。一方、現時点における運転モードが空調運転中ではないと判定された場合、エラー判定制御を終了する。

【0265】

ステップＳ５３に移行すると、過冷却度特定部６０ｆによって特定された過冷却度ＳＣ１が第２基準過冷却度ＫＳＣｈ以上であるか否かが判定される。ステップＳ５３の判定処理の内容は、上述したステップＳ４３と同じ内容である。又、第６実施形態に係る過冷却度特定部６０ｆは、熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒出口側に配置されている第１冷媒圧力センサ６５ａで出力される検出値を用いて、室外熱交換器１６の出口側における冷媒の過冷却度ＳＣ１を特定する。

【0266】

過冷却度ＳＣ１が第２基準過冷却度ＫＳＣｈ以上である場合、ステップＳ５４に処理を進める。一方、過冷却度ＳＣ１が第２基準過冷却度ＫＳＣｈ以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0267】

ステップＳ５４においては、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度を制御する為の制御信号が指示する開度指示が冷房用基準開度以下であるか否かが判定される。ステップＳ５４の判定処理の内容は、ステップＳ４４の判定処理と同様である為、再度の説明は省略する。冷房用膨張弁１４ｂの開度指示が冷房用基準開度以下である場合、ステップＳ５５に処理を進める。一方、冷房用膨張弁１４ｂの開度指示が冷房用基準開度以下ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0268】

ステップＳ５５に移行すると、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上であるか否かが判定される。ステップＳ５５の判定処理は、上述したステップＳ２４の判定処理と同じ内容である為、再度の説明は省略する。冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上である場合、ステップＳ５６に処理を進める。一方、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0269】

ステップＳ５６では、過熱度特定部６０ｈで特定された過熱度ＳＨが基準過熱度ＫＳＨ以上であるか否かが判定される。ステップＳ５６の判定処理は、上述したステップＳ３６の判定処理と同じ内容である為、再度の説明は省略する。過熱度ＳＨが基準過熱度ＫＳＨ以上である場合、ステップＳ５７に処理を進め、暖房側エラー信号を出力する。暖房側エラー信号を出力した後、エラー判定制御を終了する。一方、過熱度ＳＨが基準過熱度ＫＳＨ以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0270】

第６実施形態に係るエラー判定制御において、ステップＳ５１～ステップＳ５４までの処理内容は、上述した第５実施形態におけるステップＳ４１～ステップＳ４４までの処理と同様である。従って、第６実施形態に係る車両用空調装置１は、エラー判定制御において、ステップＳ５３、ステップＳ５４の判定処理を行うことで、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂの少なくとも一方に、開度調整のエラーが生じているか否かを特定できる。従って、ステップＳ５５に移行する際に、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂの少なくとも一方の開度調整にエラーが生じている旨のエラー発生信号が出力される。エラー発生信号は、制御装置６０のＲＡＭに格納され、制御フラグとして利用される。

【0271】

又、第６実施形態に係る過冷却度特定部６０ｆは、第１冷媒圧力センサ６５ａの検出値を用いて過冷却度ＳＣ１を特定している為、過冷却度ＳＣ１が大きく特定される傾向を示す。冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度が閾値を上回っても過冷却度が小さくらならないということは、暖房用膨張弁１４ａの絞り開度が閉じすぎ状態であると推定できる。

【0272】

そして、暖房用膨張弁１４ａの絞り開度が閉じすぎ状態である場合、冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度が開きすぎ状態になる傾向を示す。この場合、冷却用膨張弁１４ｃ及び冷却用熱交換部１９に対する冷媒流量が低下し、過熱度ＳＨは目標過熱度ＳＨＯに対して高い値を示す。過熱度ＳＨが目標過熱度ＳＨＯよりも高い値を示すと、過熱度ＳＨを小さくする為に、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度は大きくなるように制御される。ここで、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度についても、絞り開度がこれだけ開いていたら過熱度ＳＨが小さくなるはずという閾値が存在する。

【0273】

従って、図１２に示すエラー判定制御にて、ステップＳ５５で冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上で、且つ、ステップＳ５６で過熱度ＳＨが基準過熱度ＫＳＨ以上となる状態は、暖房用膨張弁１４ａの開度制御のエラーが生じた状態であるといえる。車両用空調装置１によれば、エラー判定制御にて、ステップＳ５５、ステップＳ５６の判定処理を行うことで、バッテリ８０の冷却が正常に行われているか否かの判定精度を向上させ、暖房用膨張弁１４ａに関するエラーの発生を特定することができる。暖房用膨張弁１４ａの開度調整にエラーが生じていると判定された場合、ＲＡＭのエラー発生信号を、暖房側エラー信号に変更して出力する。

【0274】

第６実施形態に係る車両用空調装置１によれば、冷房冷却モード、除湿暖房冷却モードにて、過冷却度を用いた判定と冷房用膨張弁１４ｂの絞り開度を用いた判定を行うことで、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂにエラーが生じていることを特定できる。即ち、車両用空調装置１は、バッテリ８０の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、暖房用膨張弁１４ａ、冷房用膨張弁１４ｂに関するエラーの発生を検知することができる。

【0275】

又、第６実施形態に係る過冷却度特定部６０ｆは、熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒出口側に配置されている第１冷媒圧力センサ６５ａで出力される検出値を用いて、室外熱交換器１６の出口側における冷媒の過冷却度ＳＣ１を特定している。従って、第６実施形態によれば、過冷却度ＳＣ１が大きく特定される傾向を示す為、ステップＳ５３の判定によって、暖房用膨張弁１４ａの開度調整にエラーが生じている可能性の有無を特定できる。

【0276】

更に、エラー判定制御において、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度を用いた判定と、過熱度ＳＨを用いた判定を行うことで、バッテリ８０の冷却が正常に行われているか否かの判定精度を向上させると共に、暖房用膨張弁１４ａに関するエラーの発生を特定できる。

【0277】

（第７実施形態）
続いて、上述した実施形態と異なる第７実施形態について、図１３を参照して説明する。第７実施形態では、エラー判定制御の内容が上述した実施形態と相違している。その他の車両用空調装置１の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。

【0278】

第７実施形態に係る車両用空調装置１においては、暖房用膨張弁１４ａの開度調整に関するエラーの発生を検知する為に、図１３に示すエラー判定制御を行っている。図１３を参照して、第７実施形態に係るエラー判定制御の内容について説明する。エラー判定制御は、上述した実施形態と同様に、車両用空調装置１に対する電源の投入と共に、制御装置６０のＣＰＵによって実行される。

【0279】

図１３に示すように、ステップＳ６１では、バッテリ冷却要求があるか否かが判定される。ステップＳ６１の判定内容は、上述したステップＳ１等と同様である。バッテリ冷却要求がある場合は、ステップＳ６２に処理を進め、そうではない場合は、エラー判定制御を終了する。

【0280】

ステップＳ６２では、現時点における運転モードが空調停止中であるか否かが判定される。空調停止中である場合、ステップＳ６３に処理を進め、そうではない場合、エラー判定制御を終了する。つまり、ステップＳ６１、ステップＳ６２によって、現時点の運転モードが冷却単独モードであるか否かが判定されている。

【0281】

ステップＳ６３に移行すると、過冷却度特定部６０ｆによって特定された過冷却度ＳＣ１が第２基準過冷却度ＫＳＣｈ以上であるか否かが判定される。ステップＳ６３の判定処理の内容は、上述したステップＳ４３と同じ内容である。又、第７実施形態に係る過冷却度特定部６０ｆは、熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒出口側に配置されている第１冷媒圧力センサ６５ａで出力される検出値を用いて、室外熱交換器１６の出口側における冷媒の過冷却度ＳＣ１を特定する。

【0282】

過冷却度ＳＣ１が第２基準過冷却度ＫＳＣｈ以上である場合、ステップＳ６４に処理を進める。一方、過冷却度ＳＣ１が第２基準過冷却度ＫＳＣｈ以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0283】

ステップＳ６４では、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上であるか否かが判定される。ステップＳ６４の判定処理は、上述したステップＳ２４の判定処理と同じ内容である為、再度の説明は省略する。冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上である場合、ステップＳ６５に処理を進める。一方、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度が冷却用基準開度以上ではない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0284】

ステップＳ６５においては、第６冷媒温度センサ６４ｆで検出される第６冷媒温度Ｔ６が基準出口側温度よりも高いか否かが判定される。ステップＳ６５の判定処理の内容は、ステップＳ２５の判定処理と同様である。第６冷媒温度Ｔ６が基準出口側温度よりも高い場合、ステップＳ６６に処理を進め、暖房側エラー信号を出力する。暖房側エラー信号を出力した後、エラー判定制御を終了する。一方、第６冷媒温度Ｔ６が基準出口側温度よりも高くない場合、そのまま、エラー判定制御を終了する。

【0285】

第７実施形態では、過冷却度特定部６０ｆは、熱媒体冷媒熱交換器１２の冷媒出口側に配置されている第１冷媒圧力センサ６５ａで出力される検出値を用いて、室外熱交換器１６の出口側における冷媒の過冷却度ＳＣ１を特定する。これにより、冷却単独モードにおいて、暖房用膨張弁１４ａの絞り開度が閉じすぎ状態である場合、過冷却度ＳＣ１は実際よりも大きな値に特定される。

【0286】

この場合、冷却用膨張弁１４ｃ及び冷却用熱交換部１９に対する冷媒流量が低下することになる為、冷却用熱交換部１９の出口側における過熱度ＳＨが大きくなる。この場合、冷却用膨張弁１４ｃは、過熱度ＳＨが小さくなるように、より大きな絞り開度に制御される。

【0287】

しかしながら、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度をどれだけ大きくしても、冷却用熱交換部１９の出口側の過熱度ＳＨは大きいままになる。この結果、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度は、最終的には、ステップＳ６４における冷却用基準開度である最大値まで開いて、制御不能な状態になる。

【0288】

従って、第７実施形態に係るエラー判定制御では、冷却単独モードにおいて、ステップＳ６３の過冷却度ＳＣ１に関する判定と、ステップＳ６４の冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度に関する判定を行うことで、暖房用膨張弁１４ａに係るエラーを判定できる。

【0289】

又、ステップＳ６５において、第６冷媒温度Ｔ６に関する判定を行うことで、冷却用熱交換部１９におけるバッテリ８０の冷却が実効的に機能しているか否かを判定することができ、暖房用膨張弁１４ａに係るエラーに関する判定精度を向上させることができる。

【0290】

尚、第７実施形態におけるステップＳ５５では、第６冷媒温度Ｔ６を用いた判定を行っているが、冷却用熱交換部１９の出口側の冷媒の過熱度ＳＨを採用しても、同様の効果を発揮させることができる。

【0291】

第７実施形態に係る車両用空調装置１によれば、冷却単独モードにおいて、過冷却度ＳＣ１を用いた判定と、冷却用膨張弁１４ｃの絞り開度を用いた判定を行うことによって、暖房用膨張弁１４ａの開度調整にエラーが生じていることを特定することができる。即ち、車両用空調装置１は、バッテリ８０の冷却が正常に機能するか否かを判定すると共に、冷凍サイクルを構成する暖房用膨張弁１４ａに関するエラーの発生を検知できる。

【0292】

更に、エラー判定制御において、第６冷媒温度Ｔ６を用いた判定を行うことで、バッテリ８０の冷却が正常に行われているか否かの判定と、暖房用膨張弁１４ａに関するエラーの発生に関する判定の判定精度を向上させることができる。

【0293】

（他の実施形態）
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。

【0294】

（ａ）上述の実施形態では、冷媒としてＲ１２３４ｙｆを採用した例を説明したが、冷媒はこれに限定されない。例えば、Ｒ１３４ａ、Ｒ６００ａ、Ｒ４１０Ａ、Ｒ４０４Ａ、Ｒ３２、Ｒ４０７Ｃ、等を採用してもよい。または、これらの冷媒のうち複数種を混合させた混合冷媒等を採用してもよい。

【0295】

（ｂ）冷凍サイクル装置の構成機器は、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。上述した効果を発揮できるように、複数のサイクル構成機器の一体化等を行ってもよい。例えば、第２三方継手１３ｂと第５三方継手１３ｅとを一体化させた四方継手構造のものを採用してもよい。また、冷却用膨張弁１４ｃとして、全閉機能を有しない電気式膨張弁と開閉弁とを直接的に接続したものを採用してもよい。

【0296】

（ｃ）加熱部の構成は、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。例えば、第１実施形態で説明した高温側熱媒体回路４０に対して、三方弁および高温側ラジエータを追加し、余剰の熱を外気に放熱させるようにしてもよい。更に、ハイブリッド車両のように内燃機関（エンジン）を備える車両では、高温側熱媒体回路４０にエンジン冷却水を循環させるようにしてもよい。又、高温側熱媒体回路４０を利用した構成ではなく、高圧冷媒と送風空気の熱交換により、送風空気を加熱する室内凝縮器を用いて、加熱部２５を構成しても良い。

【0297】

（ｄ）上述した実施形態では、冷却用熱交換部１９に対して低圧冷媒を流通させることで、冷却対象機器であるバッテリ８０を冷却していたが、この構成に限定されるものではない。例えば、冷却対象機器を冷却する為の構成として、冷却用膨張弁１４ｃの下流側に配置されたチラーと、チラーで低圧冷媒と熱交換して冷却される低温側熱媒体が循環する低温側熱媒体回路と、低温側熱媒体でバッテリ８０を冷却する冷却用熱交換部を採用できる。

【0298】

（ｅ）又、冷却対象機器はバッテリ８０に限定されるものではない。例えば、冷却対象機器として、インバータ、充電器、モータジェネレータのように作動時に発熱を伴う電気機器を採用することができる。インバータは直流電流と交流電流とを変換する。充電器はバッテリ８０に電力を充電する。モータジェネレータは、電力を供給されることによって走行用の駆動力を出力するとともに、減速時等には回生電力を発生させる。

【0299】

（ｆ）そして、上述した実施形態においては、暖房側エラー信号、冷房側エラー信号を出力し、車両用空調装置１の運転制御（例えば、空調運転の停止等）に利用する構成であったが、暖房側エラー信号、冷房側エラー信号の利用態様はこれに限定されるものではない。

【0300】

例えば、車両用空調装置１の制御装置６０における記憶装置に対して、暖房側エラー信号等を出力し、暖房用膨張弁１４ａの開度調整等に関するエラーの発生状況等を蓄積するように構成しても良い。

【0301】

又、暖房側エラー信号、冷房側エラー信号の出力先を、ネットワーク網を介して接続されたサーバとし、複数の車両用空調装置１からの暖房側エラー信号を蓄積する構成としても良い。多くの車両用空調装置１における暖房側エラー信号、冷房側エラー信号を蓄積してビッグデータの一部として取り扱うことができるので、開度調整に関するエラーの発生要因等の解析に利用することができる。

【符号の説明】

【0302】

１ 車両用空調装置
１１ 圧縮機
１４ａ 暖房用膨張弁
１４ｂ 冷房用膨張弁
１４ｃ 冷却用膨張弁
１６ 室外熱交換器
１８ 室内蒸発器
１９ 冷却用熱交換部
２５ 加熱部
６０ 制御装置

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】