(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、表示装置及び照明装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/12 20230101AFI20240423BHJP
H10K 71/13 20230101ALI20240423BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20240423BHJP
H10K 85/30 20230101ALI20240423BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240423BHJP
H10K 101/10 20230101ALN20240423BHJP
H10K 101/20 20230101ALN20240423BHJP
H10K 101/30 20230101ALN20240423BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20240423BHJP
【FI】
H10K50/12
H10K71/13
H10K85/10
H10K85/30
H10K85/60
H10K101:10
H10K101:20
H10K101:30
H10K101:40
(21)【出願番号】P 2020213615
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】泉 倫生
(72)【発明者】
【氏名】及川 和博
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼ 秀雄
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-092182(JP,A)
【文献】特開2010-192137(JP,A)
【文献】特表2016-506625(JP,A)
【文献】国際公開第2010/067746(WO,A1)
【文献】特開2002-100476(JP,A)
【文献】特開2004-139819(JP,A)
【文献】特開2001-313172(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0109360(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0248840(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/12
H10K 71/13
H10K 85/10
H10K 85/30
H10K 85/60
H10K 101/10
H10K 101/20
H10K 101/30
H10K 101/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の陽極と陰極との間に発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が、表示エリア全体に連続相として存在するインク受容層及び前記インク受容層の面内方向及び厚さ方向に濃度勾配を有して存在する少なくとも一種の発光性化合物を含有する構成であり、
前記インク受容層が、少なくとも一種の絶縁性ポリマー及び少なくとも一種の電荷輸送性化合物を含有する構成であり、
前記発光性化合物として、リン光性化合物又は遅延蛍光性化合物を含有し、かつ、
いずれかの前記電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位が、いずれかの前記リン光性化合物又は前記遅延蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位よりも高いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
いずれの前記電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位も、いずれの前記リン光性化合物又は前記遅延蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
少なくとも一対の陽極と陰極との間に発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が、表示エリア全体に連続相として存在するインク受容層及び前記インク受容層の面内方向及び厚さ方向に濃度勾配を有して存在する少なくとも一種の発光性化合物を含有する構成であり、
前記インク受容層が、少なくとも一種の絶縁性ポリマー及び少なくとも一種の電荷輸送性化合物を含有する構成であり、
前記インク受容層における前記電荷輸送性化合物の質量比率が、50~80%の範囲内であり、
前記発光性化合物として、蛍光性化合物を含有し、かつ、
いずれかの前記電荷輸送性化合物の最低励起一重項エネルギー準位が、いずれかの前記蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位よりも高いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
いずれの前記電荷輸送性化合物の最低励起一重項エネルギー準位も、いずれの前記蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位よりも高いことを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記インク受容層における前記電荷輸送性化合物の質量比率が、20~80%の範囲内であることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記発光性化合物を含有する溶液を前記インク受容層上へ滴下することで前記発光層を形成する工程を有する
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記発光性化合物を含有する溶液を前記インク受容層上へ滴下する方法が、インクジェット・プリント法であることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項9】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法、表示装置及び照明装置に関する。
より詳しくは、個別電極やバンクを必要としない構成であり、駆動電圧が低く、発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
面光源であり、軽さ、フレキシビリティー等の点で優位性の高い有機エレクトロルミネッセンス(electroluminescence:以下「EL」と略記する。)素子(以下、「有機EL素子」ともいう。)は、照明、サイネージ、及びディスプレイなど幅広い用途への拡大がなされてきた。しかしながら、単一色の照明以外の多色を再現することのできる照明、サイネージ、及びディスプレイ等を実現するには、ピクセルの形成(特許文献1参照)やピクセル毎で異なる発光色を取り出すための塗分け(特許文献2参照)等が必要となる。
【0003】
しかしながら、前記特許文献1に開示されている技術は低効率であり、特にカラーフィルターを介することによる輝度や色純度の低下が問題になる。また、前記特許文献2に開示されている技術はメタルマスクを用いた複雑な製造プロセスが必要であり、オンデマンド性に欠けるという問題がある。
【0004】
一方で、ディスプレイのサブピクセルを構成するR(赤)・G(緑)・B(青)の個々が独立したLED(light emitting diode)であるマイクロLED等に代表されるように、ピクセルの高精細化に対する技術的要求は一層求められており、汎用的な方法の確立が求められてきた。
【0005】
上記の解決手段として、近年、発光層(EML:emission layer)等をインクジェット記録法により製造する方法が提案されているが(例えば特許文献3、4、5、及び6)、画素を分割電極で構成すると共に、塗分けのために全画素にバンクを形成する必要があり、構成・製造構成の複雑化、低歩留まりによるコストアップという結果となっており、ピクセル形成に対するより抜本的な解決方法が求められている。
【0006】
これらの課題を解決するための有機EL素子として、非特許文献1において、「絶縁性ポリマーからなるインク受容層に発光性インク(電荷輸送性ホスト化合物及び発光性化合物を含有するインク)をインクジェット射出して形成した発光層を備え、一対の陽極と陰極間に電流を流すことで、射出パターン画像を発光させる有機EL素子」が開示されている。この有機EL素子は、個別電極やバンクを必要としないため、前記の課題を解決することが可能である。
【0007】
しかしながら、この有機EL素子が備える発光層の形成は、発光性インクのインクジェット射出によるものであるため、発光性インクが射出された領域の下部において、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性化合物が低濃度になりやすい。これにより、電荷輸送性が悪く、駆動電圧が高くなるという問題があった。
【0008】
さらに、この問題を解決するために、非特許文献2において、「あらかじめ正孔輸送材料を含有させたインク受容層に、発光性化合物を含有するインクをインクジェット射出して形成した発光層を備える有機EL素子」が開示されている。
【0009】
しかしながら、非特許文献2で開示されている有機EL素子でも、発光効率は十分でなく、個別電極やバンクを必要としない構成である有機EL素子において、低駆動電圧と高発光効率の両立が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-073219号公報
【文献】特開2003-272838号公報
【文献】特開平11-271753号公報
【文献】特開2006-223954号公報
【文献】特開平11-54270号公報
【文献】特開2001-189193号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】K.Matsui, J. Yanagi, M. Shibata, S. Naka, H. Okada, T. Miyabayashi, T.Inoue: "Multi-Color Organic Light Emitting Panels Using Self-Aligned Ink-Jet Printing Technology", Mol. Cryst. Liq. Cryst., 471(1), pp.261-268 (2007).
【文献】R.Satoh, S.Naka, M.Shibata, H.Okada, T.Inoue, T.Miyabayashi:” Self-Aligned Organic Light-Emitting Diodes with Color Changing by Ink-Jet Printing Dots”, Japanese Journal of Applied Physics,50 ,pp. 01BC09-1-4(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、個別電極やバンクを必要としない構成であり、駆動電圧が低く、発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法及び当該有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置並びに照明装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記課題の原因等について検討した結果、発光層が、表示エリア全体に連続相として存在するインク受容層及び前記インク受容層の面内方向及び厚さ方向に濃度勾配を有して存在する少なくとも一種の発光性化合物を含有する構成とし、かつ、前記インク受容層が、少なくとも一種の絶縁性ポリマー及び少なくとも一種の電荷輸送性化合物を含有する構成とし、更に、電荷輸送性化合物と発光性化合物の励起エネルギー準位の関係を適正化することで、個別電極やバンクを必要としない構成であり、駆動電圧が低く、発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子等を提供することができることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0014】
1.少なくとも一対の陽極と陰極との間に発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が、表示エリア全体に連続相として存在するインク受容層及び前記インク受容層の面内方向及び厚さ方向に濃度勾配を有して存在する少なくとも一種の発光性化合物を含有する構成であり、
前記インク受容層が、少なくとも一種の絶縁性ポリマー及び少なくとも一種の電荷輸送性化合物を含有する構成であり、
前記発光性化合物として、リン光性化合物又は遅延蛍光性化合物を含有し、かつ、
いずれかの前記電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位が、いずれかの前記リン光性化合物又は前記遅延蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位よりも高いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
2.いずれの前記電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位も、いずれの前記リン光性化合物又は前記遅延蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位よりも高いことを特徴とする第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0016】
3.少なくとも一対の陽極と陰極との間に発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層が、表示エリア全体に連続相として存在するインク受容層及び前記インク受容層の面内方向及び厚さ方向に濃度勾配を有して存在する少なくとも一種の発光性化合物を含有する構成であり、
前記インク受容層が、少なくとも一種の絶縁性ポリマー及び少なくとも一種の電荷輸送性化合物を含有する構成であり、
前記インク受容層における前記電荷輸送性化合物の質量比率が、50~80%の範囲内であり、
前記発光性化合物として、蛍光性化合物を含有し、かつ、
いずれかの前記電荷輸送性化合物の最低励起一重項エネルギー準位が、いずれかの前記蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位よりも高いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
4.いずれの前記電荷輸送性化合物の最低励起一重項エネルギー準位も、いずれの前記蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位よりも高いことを特徴とする第3項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0018】
5.前記インク受容層における前記電荷輸送性化合物の質量比率が、20~80%の範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
6.第1項から第5項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記発光性化合物を含有する溶液を前記インク受容層上へ滴下することで前記発光層を形成する工程を有する
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0020】
7.前記発光性化合物を含有する溶液を前記インク受容層上へ滴下する方法が、インクジェット・プリント法であることを特徴とする第6項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0021】
8.第1項から第5項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。
【0022】
9.第1項から第5項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明の上記手段により、個別電極やバンクを必要としない構成であり、駆動電圧が低く、発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法及び当該有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置並びに照明装置を提供することができる。
【0024】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0025】
まず、本発明の有機EL素子では、発光層を、表示エリア全体に連続相として存在するインク受容層及び前記インク受容層の面内方向及び厚さ方向に濃度勾配を有して存在する少なくとも一種の発光性化合物を含有する構成とすることで、個別電極やバンクを不要としている。
【0026】
また、前記インク受容層を、少なくとも一種の絶縁性ポリマー及び少なくとも一種の電荷輸送性化合物を含有する構成とすることで、低駆動電圧を可能としている。
【0027】
さらに、本発明は、非特許文献2で開示されている有機EL素子が備える発光層と異なり、発光性化合物としてリン光性化合物又は遅延蛍光性化合物を含有する場合は、いずれかの電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位が、いずれかのリン光性化合物又は遅延蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位よりも高いことを特徴としており、発光性化合物として蛍光性化合物を含有する場合は、いずれかの電荷輸送性化合物の最低励起一重項エネルギー準位が、いずれかの蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位よりも高いことを特徴としている。
【0028】
非特許文献2で開示されている有機EL素子が備える発光層では、電荷輸送性化合物は、正孔輸送材料である4,4’-bis[N-(1-naphyl)-N-phenyl-amino]biphenyl(α-NPD)が用いられており、発光性化合物は、Bis(3,5-difluoro-2-(2-pyridyl)phenyl-(2-carboxypyridyl)iridium III(FIrpic)が用いられていた。
【0029】
本発明者は、上記の化合物の組み合わせで構成される有機EL素子では、電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位が発光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位よりも低いことによって、発光性化合物から電荷輸送性化合物へのエネルギー移動(逆エネルギー移動)が生じ、発光効率が低下していることを見いだした。
【0030】
これに対し、本発明の有機EL素子では、電荷輸送性化合物と発光性化合物の励起エネルギー準位の関係を適正化していることにより、発光性化合物から電荷輸送性化合物へのエネルギー移動を生じにくくすることができるため、発光効率を高くすることができる。
【0031】
これらの発現機構又は作用機構により、個別電極やバンクを必要としない構成であり、駆動電圧が低く、発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法及び当該有機エレクトロルミネッセンス素子を備える表示装置並びに照明装置を提供することができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図2】インクジェット印刷方式を用いた有機EL素子の製造方法の概略図
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一の実施形態として、少なくとも一対の陽極と陰極との間に発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層が、表示エリア全体に連続相として存在するインク受容層及び前記インク受容層の面内方向及び厚さ方向に濃度勾配を有して存在する少なくとも一種の発光性化合物を含有する構成であり、前記インク受容層が、少なくとも一種の絶縁性ポリマー及び少なくとも一種の電荷輸送性化合物を含有する構成であり、前記発光性化合物として、リン光性化合物又は遅延蛍光性化合物を含有し、かつ、いずれかの前記電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位が、いずれかの前記リン光性化合物又は前記遅延蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位よりも高いことを特徴とする。
【0034】
上記実施形態の場合、いずれの前記電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位も、いずれの前記リン光性化合物又は前記遅延蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位よりも高いことが、逆エネルギー移動をより抑制できる点で好ましい。
【0035】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一の実施形態として、少なくとも一対の陽極と陰極との間に発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層が、表示エリア全体に連続相として存在するインク受容層及び前記インク受容層の面内方向及び厚さ方向に濃度勾配を有して存在する少なくとも一種の発光性化合物を含有する構成であり、前記インク受容層が、少なくとも一種の絶縁性ポリマー及び少なくとも一種の電荷輸送性化合物を含有する構成であり、前記発光性化合物として、蛍光性化合物を含有し、かつ、いずれかの前記電荷輸送性化合物の最低励起一重項エネルギー準位が、いずれかの前記蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位よりも高いことを特徴とする。
【0036】
上記実施形態の場合、いずれの前記電荷輸送性化合物の最低励起一重項エネルギー準位も、いずれの前記蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位よりも高いことが、逆エネルギー移動をより抑制できる点で好ましい。
【0037】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記インク受容層における前記電荷輸送性化合物の質量比率が、20~80%の範囲内であることが好ましい。
電荷輸送性化合物の質量比率が20%以上であることで、駆動電圧をより低くすることができ、また、電荷輸送性化合物の質量比率が80%以下であることで、インク受容層材料の液流動を抑制することができ、インク受容層の部分的な薄膜化を防止することで、電極間ショートなどの故障を防止することができる。
【0038】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、前記発光性化合物を含有する溶液を前記インク受容層上へ滴下することで前記発光層を形成する工程を有することを特徴とする。
【0039】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、前記発光性化合物を含有する溶液を前記インク受容層上へ滴下する方法が、インクジェット・プリント法であることが、小液滴を形成することができ、バンクの形成を必要とせず、簡便である点で好ましい。
【0040】
本発明の表示装置は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする。
【0041】
本発明の照明装置は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする。
【0042】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0043】
(1)有機EL素子の構成
本発明の有機EL素子の代表的な構成例としては、以下の構成例を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(i)陽極/発光層/陰極
(ii)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(v)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(vi)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(vii)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/(電子阻止層/)発光層/(正孔阻止層/)電子輸送層/電子注入層/陰極
上記の中で(i)の構成が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
【0044】
図1は、(i)の構成である有機EL素子の断面模式図である。下から透明電極(陽極)付きガラス基板(107)、発光層(106)、陰極(105)で構成されている。また、発光層(106)は、インク受容層(201)及び発光性化合物(202)で構成されている。
【0045】
本発明に係る発光層は、単層又は複数層で構成されており、発光層が複数の場合は各発光層の間に非発光性の中間層を設けてもよい。必要に応じて、発光層と陰極との間に正孔阻止層(正孔障壁層ともいう)や電子注入層(陰極バッファー層ともいう)を設けてもよく、また、発光層と陽極との間に電子阻止層(電子障壁層ともいう)や正孔注入層(陽極バッファー層ともいう)を設けてもよい。
【0046】
本発明に係る「電子輸送層」とは、電子を輸送する機能を有する層であり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
【0047】
本発明に係る「正孔輸送層」とは、正孔を輸送する機能を有する層であり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
【0048】
上記の代表的な素子構成において、陽極及び陰極以外の層を、発光層も含め、「有機機能層」という。
【0049】
(2)発光層
本発明の有機EL素子が備える発光層は、表示エリア全体に連続相として存在するインク受容層及び前記インク受容層の面内方向及び厚さ方向に濃度勾配を有して存在する少なくとも一種の発光性化合物を含有する構成であることを特徴とする。
【0050】
「表示エリア全体に連続相として存在するインク受容層」とは、例えば、有機EL素子の発光領域表面上の全体に亘って連続的な固相(化学組成及び物理的状態が全体的かつ実質的に一様な固相)として存在するインク受容層のことをいう。
【0051】
「インク受容層の面内方向及び厚さ方向に濃度勾配を有して存在する少なくとも一種の発光性化合物」とは、インク受容層上に、連続的に均一濃度で付着又は含有されている状態ではなく、インク受容層表面を構成する各微視的場所に対して均一でない濃度で断続的に付着している状態にある発光性化合物をいう。
「面内方向に濃度勾配を有して存在」とは、例えば、発光面側から見てドット状(点状)になって発光性化合物が付着又は含有されている状態をいう。
「厚さ方向に濃度勾配を有して存在」とは、例えば、発光層の発光面を下にして断面を見たときに、発光層の上部では発光性化合物の濃度が高く、発光層の下部では発光性化合物の濃度が低くなっている状態をいう。またはその逆の濃度勾配の状態をいう。通常は、後述するインクジェットが着弾する側の濃度が高くなる。
【0052】
明確な境界はないものの、発光層のうち、発光性化合物が主成分としてドット状(点状)になって存在する領域を「ドット領域」という。
【0053】
本発明の実施形態としては、本発明の効果発現の観点から、インク受容層の面内方向において、最大発光輝度が最小発光輝度の2倍以上であることが好ましい。
【0054】
本発明に係る発光層は、電極又は隣接層から注入されてくる電子及び正孔が再結合し、励起子を経由して発光する場を提供する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても、発光層と隣接層との境界面であってもよい。
【0055】
発光層の厚さの総和は、特に制限はないが、形成する層の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、かつ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nm~5μmの範囲内に調整することが好ましく、より好ましくは2~500nmの範囲内に調整され、さらに好ましくは5~200nmの範囲内に調整される。
【0056】
また、個々の発光層の厚さは、2~1000nmの範囲内に調整することが好ましく、より好ましくは2~200nmの範囲内に調整され、さらに好ましくは3~150nmの範囲内に調整される。
【0057】
本発明に係るインク受容層は、少なくとも一種の絶縁性ポリマー及び少なくとも一種の電荷輸送性化合物を含有する構成であることを特徴とする。インク受容層に電荷輸送性化合物が含有されていることにより、有機EL素子の駆動電圧を低くすることができる。
【0058】
本発明の有機EL素子は、インク受容層における電荷輸送性化合物の質量比率が、20~80%の範囲内であることが好ましい。
電荷輸送性化合物の質量比率が20%以上であることで、駆動電圧をより低くすることができ、また、電荷輸送性化合物の質量比率が80%以下であることで、インク受容層材料の液流動を抑制することができ、インク受容層の部分的な薄膜化を防止することで、電極間ショートなどの故障を防止することができる。
【0059】
絶縁性ポリマー及び電荷輸送性化合物についての詳細は後述する。
【0060】
発光性化合物は、発光層中に1~80質量%の範囲内で含有し、特に、5~40質量%の範囲内で含有することが好ましい。
【0061】
本発明において、発光性化合物とは、蛍光性化合物、遅延蛍光性化合物、リン光性化合物のことを指す。これらについての詳細は後述する。
【0062】
本発明で用いられる発光性化合物は、例えば異なるリン光性化合物の併用や、リン光性化合物と蛍光性化合物の併用のように、複数種を併用して用いてもよい。これにより、任意の発光色を得ることができる。
【0063】
本発明に係る発光層は、発光色の異なる複数の発光性化合物を含有し、白色発光を示すことも好ましい。白色を示す発光性化合物の組み合わせについては特に限定はないが、例えば青と橙や、青と緑と赤の組合わせ等が挙げられる。本発明における白色とは、2度視野角正面輝度を後述の方法により測定した際に、1000cd/m2でのCIE1931表色系における色度がx=0.39±0.09、y=0.38±0.08の領域内にあることが好ましい。
【0064】
なお、本発明の有機EL素子や本発明に用いられる化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の
図3.16において、分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ(株)製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0065】
本発明に係る発光層及びインク受容層は、その他材料や添加剤を含有していてもよい。添加剤とは、例えば臭素、ヨウ素及び塩素等のハロゲン元素やハロゲン化化合物、Pd、Ca、Na等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属の化合物や錯体、塩等である。また、後述する発光性インクに含有される各種機能性添加剤が含有されていてもよい。
【0066】
(3)電荷輸送性化合物及び発光性化合物の励起エネルギー準位について
電荷輸送性化合物及び発光性化合物の励起エネルギー準位についての各条件は以下のとおりである。
・条件(A):いずれかの電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位が、いずれかのリン光性化合物又は遅延蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位よりも高いこと。
・条件(B):いずれの電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位も、いずれのリン光性化合物又は遅延蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位よりも高いこと。
・条件(C):いずれかの電荷輸送性化合物の最低励起一重項エネルギー準位が、いずれかの蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位よりも高いこと。
・条件(D):いずれの電荷輸送性化合物の最低励起一重項エネルギー準位も、いずれの蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位よりも高いこと。
【0067】
本発明の有機EL素子は、発光性化合物としてリン光性化合物又は遅延蛍光性化合物を含有する場合は、上記条件(A)を満たすことを特徴としており、発光性化合物として蛍光性化合物を含有する場合は、上記条件(C)を満たすことを特徴としている。
これにより、発光性化合物から電荷輸送性化合物へのエネルギー移動(逆エネルギー移動)を生じにくくすることができるため、発光効率を高くすることができる。
【0068】
また、電荷輸送層性化合物又は発光性化合物の少なくとも一方が複数種である場合において、発光性化合物としてリン光性化合物又は遅延蛍光性化合物を含有する場合は、上記条件(B)を満たすことが好ましく、発光性化合物として蛍光性化合物を含有する場合は、上記条件(D)を満たすことが好ましい。
これにより、逆エネルギー移動をより抑制することができる。
【0069】
発光性化合物としてリン光性化合物又は遅延蛍光性化合物を含有する場合は、上記条件(A)を、発光性化合物として蛍光性化合物を含有する場合は上記条件(C)を満たせばよいため、リン光性化合物又は遅延蛍光性化合物、及び蛍光性化合物を併用する場合は、上記条件(A)及び上記条件(C)のいずれかを満たせばよい。
【0070】
なお、リン光性化合物又は遅延蛍光性化合物、及び蛍光性化合物を併用する場合は、上記条件(A)及び上記条件(C)の両方を満たすことが、逆エネルギー移動をより抑制できる点で好ましい。
【0071】
さらに、電荷輸送層性化合物又は発光性化合物の少なくとも一方が複数種であり、リン光性化合物又は遅延蛍光性化合物、及び蛍光性化合物を併用する場合は、上記条件(B)及び上記条件(D)のいずれかを満たすことが好ましく、上記条件(B)及び上記条件(D)の両方を満たすことがより好ましい。
【0072】
<励起エネルギー準位(S1、T1)の測定方法>
最低励起一重項エネルギー準位S1及び最低励起三重項エネルギー準位T1の測定には、分子軌道計算用ソフトウェアとして、米国Gaussian社製のGaussian09(Revision C.01,M.J.Frisch,et al,Gaussian,Inc.,2010.)を用いることができる。
汎関数としてB3LYP、基底関数として電荷輸送性化合物の場合は6-31G(d)、発光性化合物の場合はLanL2DZを用いた構造最適化計算から、さらに時間依存密度汎関数法(TDDFT:Time-dependent density functional theory)による励起状態計算を実施して、最低励起一重項エネルギー準位S1及び最低励起三重項エネルギー準位T1を求めることができる。
【0073】
(4)発光性化合物
本発明に係る「発光性化合物」は、「蛍光性化合物」、「リン光性化合物」及び「遅延蛍光性化合物」を含む。以下、それぞれについて説明する。
【0074】
<蛍光性化合物>
本発明において、「蛍光性化合物」とは、遅延蛍光以外の蛍光を発光する化合物のことをいう。「蛍光」とは、一重項励起状態から基底状態に戻る際に発する光のことをいい、「遅延蛍光以外の蛍光」とは、「熱活性化遅延蛍光(TADF:thermally activated delayed fluorescence)」や「三重項-三重項消滅(TTA:triplet-triplet annihilation)遅延蛍光」といった「遅延蛍光」を除いた蛍光のことをいう。つまり、本発明において「蛍光性化合物」とは、「熱活性化遅延蛍光性化合物」や「三重項-三重項消滅遅延蛍光性化合物」といった「遅延蛍光性化合物」を含まず、最低励起三重項エネルギー準位から最低励起一重項エネルギー準位への逆項間交差によるアップコンバージョンが起こらないものを指す。
【0075】
蛍光性化合物は、リン光性化合物のような重金属錯体である必要性は特になく、炭素、酸素、窒素及び水素などの一般的な元素の組み合わせから構成される、いわゆる有機化合物が適用でき、さらに、リンや硫黄、ケイ素などその他の非金属元素を用いることも可能で、また、アルミニウムや亜鉛などの典型金属の錯体も活用できるなど、その多様性はほぼ無限といえる。
【0076】
蛍光性化合物は、有機EL素子の発光層に使用される公知の蛍光性化合物から適宜選択して用いることができる。
【0077】
本発明に使用できる公知の蛍光性化合物の例としては、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、ペリレン誘導体、フルオレン誘導体、アリールアセチレン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、スチリルアミン誘導体、アリールアミン誘導体、ホウ素錯体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、シアニン誘導体、クロコニウム誘導体、スクアリウム誘導体、オキソベンツアントラセン誘導体、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、ピリリウム誘導体、ペリレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、又は希土類錯体系化合物等が挙げられる。
【0078】
<リン光性化合物>
本発明において、「リン光性化合物」とは、リン光を発光する化合物のことをいい、具体的には、室温(25℃)にてリン光を発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義される。好ましいリン光量子収率は0.1以上である。「リン光」とは、三重項励起状態から基底状態に戻る際に発する光のこという。
【0079】
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に用いられるリン光性化合物は、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
【0080】
有機EL素子のような電界で励起する場合には、三重項励起子が75%の確率で、一重項励起子が25%の確率で生成するため、リン光発光の方が蛍光発光に比べ発光効率を高くすることが可能で、低消費電力化を実現するには優れた方式である。
【0081】
リン光発光は、発光効率の面では蛍光発光よりも理論的には3倍有利である。しかし、三重項励起状態から一重項基底状態へのエネルギー失活(=リン光発光)は禁制遷移であり、また同様に一重項励起状態から三重項励起状態への項間交差も禁制遷移であるため、通常その速度定数は小さい。すなわち、遷移が起こりにくいため、リン光寿命はミリ秒から秒オーダーと長くなり、所望の発光を得ることが困難である。
【0082】
ただし、イリジウムやプラチナなどの重金属を用いた錯体が発光する場合には、中心金属の重原子効果によって、前記の禁制遷移の速度定数が三桁以上増大し、配位子の選択によっては、100%のリン光量子収率を得ることも可能となる。
【0083】
リン光性化合物は、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。本発明に使用できる公知のリン光性化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物等が挙げられる。
Nature 395,151(1998)、Appl.Phys.Lett.78,1622(2001)、Adv.Mater.19,739(2007)、Chem.Mater.17,3532(2005)、Adv.Mater.17,1059(2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許出願公開第2006/835469号明細書、米国特許出願公開第2006/0202194号明細書、米国特許出願公開第2007/0087321号明細書、米国特許出願公開第2005/0244673号明細書、Inorg.Chem.40,1704(2001)、Chem.Mater.16,2480(2004)、Adv.Mater.16,2003(2004)、Angew.Chem.lnt.Ed.2006,45,7800、Appl.Phys.Lett.86,153505(2005)、Chem.Lett.34,592(2005)、Chem.Commun.2906(2005)、Inorg.Chem.42,1248(2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2002/015645号、国際公開第2009/000673号、米国特許出願公開第2002/0034656号明細書、米国特許第7332232号、米国特許出願公開第2009/0108737号明細書、米国特許出願公開第2009/0039776号明細書、米国特許第6921915号、米国特許第6687266号、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2006/0008670号明細書、米国特許出願公開第2009/0165846号明細書、米国特許出願公開第2008/0015355号明細書、米国特許第7250226号、米国特許第7396598号、米国特許出願公開第2006/0263635号明細書、米国特許出願公開第2003/0138657号明細書、米国特許出願公開第2003/0152802号明細書、米国特許第7090928号、Angew.Chem.lnt.Ed.47,1(2008)、Chem.Mater.18,5119(2006)、Inorg.Chem.46,4308(2007)、Organometallics 23,3745(2004)、Appl.Phys.Lett.74,1361(1999)、国際公開第2002/002714号、国際公開第2006/009024号、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/019373号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2007/004380号、国際公開第2006/082742号、米国特許出願公開第2006/0251923号明細書、米国特許出願公開第2005/0260441号明細書、米国特許第7393599号、米国特許第7534505号、米国特許第7445855号、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2008/0297033号明細書、米国特許第7338722号、米国特許出願公開第2002/0134984号明細書、米国特許第7279704号、米国特許出願公開第2006/098120号明細書、米国特許出願公開第2006/103874号明細書、国際公開第2005/076380号、国際公開第2010/032663号、国際公開第2008140115号、国際公開第2007/052431号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2011/157339号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2009/113646号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/004639号、国際公開第2011/073149号、米国特許出願公開第2012/228583号明細書、米国特許出願公開第2012/212126号明細書、特開2012-069737号公報、特願2011-181303号公報、特開2009-114086号公報、特開2003-81988号公報、特開2002-302671号公報、特開2002-363552号公報等である。
中でも、好ましいリン光性化合物としては、Irを中心金属に有する有機金属錯体が挙げられる。さらに好ましくは、金属-炭素結合、金属-窒素結合、金属-酸素結合、金属-硫黄結合の少なくとも一つの配位様式を含む錯体が好ましい。
【0084】
また、本発明に好適に用いることができるリン光性化合物を以下例示する。なお、後述の実施例に記載したリン光性化合物も同様に本発明に好適に用いることができる。
【0085】
【0086】
【0087】
<遅延蛍光性化合物>
本発明において、「遅延蛍光性化合物」とは、遅延蛍光を発光する化合物のことをいう。「遅延蛍光」とは、最低励起三重項エネルギー準位から最低励起一重項エネルギー準位への逆項間交差によるアップコンバージョンが起こった結果、一重項励起状態から基底状態に戻る際に発する光のことをいう。
最低励起三重項エネルギー準位から最低励起一重項エネルギー準位への逆項間交差によるアップコンバージョンは、最低励起三重項エネルギー準位と最低励起一重項エネルギー準位のエネルギー準位差ΔESTが極めて小さい場合に起こる。
【0088】
「遅延蛍光」には「熱活性化遅延蛍光」及び「三重項-三重項消滅遅延蛍光」が含まれ、つまり、「遅延蛍光性化合物」には、「熱活性化遅延蛍光性化合物」及び「三重項-三重項消滅遅延蛍光性化合物」が含まれる。
【0089】
(熱活性化遅延蛍光性化合物)
「熱活性化遅延蛍光性化合物」とは、熱活性化遅延蛍光(TADF)を発光する化合物のことをいう。「熱活性化遅延蛍光(TADF)」とは、周囲の熱エネルギーの吸収に起因して、最低励起三重項エネルギー準位から最低励起一重項エネルギー準位への逆項間交差によるアップコンバージョンが起こった結果、一重項励起状態から基底状態に戻る際に発する光のことをいう。
【0090】
熱活性化遅延蛍光性化合物は、一重項励起状態から基底状態への失活(=蛍光発光)の速度定数が極めて大きいことから、三重項励起子はそれ自体が基底状態に熱的に失活(無輻射失活)するよりも、一重項励起状態経由で発光しながら基底状態に戻る方が速度論的に有利である。そのため、熱活性化遅延蛍光(TADF)では理論的には100%の発光が可能となる。
【0091】
熱活性化遅延蛍光性化合物の例としては、国際公開第2011/156793号、特開2011-213643号公報、特開2010-93181号公報、特許5366106号、国際公開第2013/161437号、国際公開第2016/158540号等に記載の化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0092】
上記の熱活性化遅延蛍光性化合物として、下記一般式(1)~(6)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0093】
【0094】
[一般式(1)において、Ar1~Ar3は、各々独立に、置換又は無置換のアリール基を表し、少なくとも1つは下記一般式(2)で表される構造を有する基で置換されたアリール基を表す。]
【0095】
【0096】
[一般式(2)において、R1~R8は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。Zは、O、S、O=C、Ar4-N、又は化学結合を表す。Ar4は、置換又は無置換のアリール基を表す。R1~R8のうち隣り合う基同士は、互いに結合を形成、又は、連結基を介して環を形成してもよい。]
【0097】
【0098】
[一般式(3)において、R1~R5の少なくとも1つは、シアノ基を表し、R1~R5の少なくとも1つは下記一般式(4)で表される構造を有する基を表し、残りのR1~R5は水素原子又は置換基を表す。]
【0099】
【0100】
[一般式(4)において、R21~R28は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。ただし、下記要件(A)又は(B)の少なくとも一方を満たす。
要件(A):R25及びR26は、単結合を形成する。
要件(B):R27及びR28は、置換又は無置換のベンゼン環を形成するのに必要な原子団を表す。]
【0101】
【0102】
[一般式(5)において、R1及びR2は、各々独立に、下記一般式(6)で表される構造を有する基を表す。]
【0103】
【0104】
[一般式(6)において、R1~R8は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。Zは、O、S、O=C、Ar4-N、又は結合を表す。Ar4は、置換又は無置換のアリール基を表す。R1~R8のうち隣り合う基同士は、互いに結合を形成、又は、連結基を介して環を形成してもよい。]
【0105】
以下に熱活性化遅延蛍光性化合物を例に挙げるが、本発明はこれに限定されない。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
(三重項-三重項消滅遅延蛍光性化合物)
「三重項-三重項消滅遅延蛍光性化合物」とは、三重項-三重項消滅遅延蛍光(TTA遅延蛍光)を発光する化合物のことをいう。「三重項-三重項消滅遅延蛍光(TTA遅延蛍光)」とは、励起三重項同士の衝突に起因して、最低励起三重項エネルギー準位から最低励起一重項エネルギー準位への逆項間交差によるアップコンバージョンが起こった結果、一重項励起状態から基底状態に戻る際に発する光のことをいう。
【0110】
励起三重項同士の衝突による一重項励起子の生成は、下記のような一般式で記述できる。
一般式:T*+T*→S*+S
(式中、T*は三重項励起子、S*は一重項励起子、Sは基底状態分子を表す。)
【0111】
三重項-三重項消滅遅延蛍光性化合物としては、公知のものを用いることができる。
【0112】
(5)電荷輸送性化合物
本発明の発光層に用いられる電荷輸送性化合物は、発光層において主に発光性化合物への電荷輸送を担う化合物であり、有機EL素子においてそれ自体の発光は実質的に観測されない。
【0113】
電荷輸送性化合物は、単独で用いてもよく、又は複数種併用して用いてもよい。電荷輸送性化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機エレクトロルミネッセンス素子を高効率化することができる。
【0114】
電荷輸送性化合物は、駆動安定性の観点から、カチオンラジカル状態、アニオンラジカル状態、及び励起状態の全ての活性種の状態において安定に存在でき、分解や付加反応などの化学変化を起こさないことが好ましい。さらに、層中において通電経時で電荷輸送性化合物分子がオングストロームレベルで移動しないことが好ましい。
【0115】
本発明に係る電荷輸送性化合物は、電子移動度[cm2/(V・s)]と正孔移動度[cm2/(V・s)]の比である電子移動度/正孔移動度が、0.5~2.0の範囲内であることが、発光効率の点で好ましい。
【0116】
電子移動度[cm2/(V・s)]及び正孔移動度[cm2/(V・s)]は、それぞれエレクトロンオンリーデバイス(構成例:ITO陽極/カルシウム層/電荷輸送性化合物層/フッ化カリウム層/アルミニウム陰極)及びホールオンリーデバイス(構成例:ITO陽極/電荷輸送性化合物層/α-NPD層/アルミニウム陰極)を作製し、これらのデバイスについて、電流密度-電圧特性を測定して両対数グラフとし、そこから取得した電流密度および印加電圧と、空間電荷制限電流式を用いて求めることができる。
【0117】
空間電荷制限電流式はJ=(9/8)εrε0μ(V2/L3)である。式中、Jは電流密度、εrは電荷輸送性化合物層の誘電率、ε0は真空の誘電率、μは電子移動度[cm2/(V・s)]又は正孔移動度[cm2/(V・s)]、Lは電荷輸送性化合物層の厚さ、Vは印加電圧を表す。
【0118】
本発明の有機EL素子に公知の電荷輸送性化合物を用いる場合、その具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
特開2001-257076号公報、同2002-308855号公報、同2001-313179号公報、同2002-319491号公報、同2001-357977号公報、同2002-334786号公報、同2002-8860号公報、同2002-334787号公報、同2002-15871号公報、同2002-334788号公報、同2002-43056号公報、同2002-334789号公報、同2002-75645号公報、同2002-338579号公報、同2002-105445号公報、同2002-343568号公報、同2002-141173号公報、同2002-352957号公報、同2002-203683号公報、同2002-363227号公報、同2002-231453号公報、同2003-3165号公報、同2002-234888号公報、同2003-27048号公報、同2002-255934号公報、同2002-260861号公報、同2002-280183号公報、同2002-299060号公報、同2002-302516号公報、同2002-305083号公報、同2002-305084号公報、同2002-308837号公報、同2016-178274号公報、米国特許出願公開第2003/0175553号、米国特許出願公開第2006/0280965号、米国特許出願公開第2005/0112407号、米国特許出願公開第2009/0017330号、米国特許出願公開第2009/0030202号、米国特許出願公開第2005/0238919号、国際公開第2001/039234号、国際公開第2009/021126号、国際公開第2008/056746号、国際公開第2004/093207号、国際公開第2005/089025号、国際公開第2007/063796号、国際公開第2007/063754号、国際公開第2004/107822号、国際公開第2005/030900号、国際公開第2006/114966号、国際公開第2009/086028号、国際公開第2009/003898号、国際公開第2012/023947号、特開2008-074939号公報、特開2007-254297号公報、欧州特許第2034538号明細書、国際公開第2011/055933号、国際公開第2012/035853号、特開2015-38941号公報、米国特許出願公開第2017/056814号である。
【0119】
また、本発明に好適に用いることができる電荷輸送性化合物を以下例示する。なお、後述の実施例に記載した電荷輸送性化合物も同様に本発明に好適に用いることができる。
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
(6)絶縁性ポリマー
本発明に用いられる絶縁性ポリマーの「絶縁性」とは、電気抵抗率が1×106Ω・m以上であり、好ましくは1×108Ω・m以上であり、さらに好ましくは1×1010Ω・m以上である。
絶縁性ポリマー単体の電気抵抗率が1×106Ω・m以上であることにより、発光層中を流れるリーク電流を抑えることができると考えられる。
【0126】
絶縁性ポリマーの種類は、インク受容層を形成可能であれば特に限定されない。一実施形態において、絶縁性ポリマーとしては、安定性がより高い、主鎖が炭素原子で構成されているポリマーが用いられる。
【0127】
絶縁性ポリマーを含むインク受容層を塗布法により形成できるように、絶縁性ポリマーは可溶性のポリマーであることが好ましく、非プロトン性極性溶媒への溶解性を示すことが好ましい。具体的には、1gのN,N-ジメチルホルムアミドに対する絶縁性ポリマーの25℃における溶解度は、0.5mg以上であることが好ましく、1.0mg以上であることがさらに好ましく、2.0mg以上であることがより好ましい。
【0128】
絶縁性ポリマーの種類に特段の制限はなく、例えばポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルポリピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリメチルビニルエーテル、ポリイソプロピルアクリルアミド等の非イオン性ポリマー;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリイソプロピレンスルホン酸ナトリウム、ポリナフタレンスルホン酸縮合体塩、ポリエチレンイミンザンテート塩等のカチオン性ポリマー;ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート四級塩、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ポリアミジン、ポリビニルイミダゾリン、ジシアンジアミド系縮合体、エピクロルヒドリンジメチルアミン縮合体、ポリエチレンイミン等のアニオン性ポリマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩アクリル酸共重合体、ポリアクリルアミドのホフマン分解物等の両性ポリマーが挙げられる。好ましくは、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルである。
絶縁性ポリマーは、2以上の互いに異なる繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0129】
絶縁性ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは5×103以上であり、より好ましくは10×103以上である。また、好ましくは1000×103以下であり、より好ましくは400×103以下である。重量平均分子量がこの範囲にあることにより、インク受容層における発光性化合物の拡散を適切に制御できるものと考えられる。
【0130】
(7)発光層以外の構成
本発明の有機EL素子が備える電極(陽極及び陰極)や、備えることができる発光層以外の構成部材等について説明する。
【0131】
<陽極>
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上、好ましくは4.5V以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
【0132】
陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、又はパターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
または、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが好ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.以下が好ましい。
陽極の厚さは、材料にもよるが、通常10nm~1μm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0133】
<陰極>
陰極としては、仕事関数の小さい(5eV以下)金属(電子注入性金属と称する。)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、銀、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム、希土類金属等が挙げられる。
【0134】
これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えばマグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
【0135】
陰極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。又は、金属ナノ粒子のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。陰極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.以下が好ましく、厚さは通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。
なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陰極に上記金属を1~20nmの厚さで作製した後に、陽極の説明で挙げる導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0136】
<電子輸送層>
電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有する層をいう。
【0137】
電子輸送層の厚さについては、特に制限はないが、通常は2nm~5μmの範囲内であり、より好ましくは2~500nmの範囲内であり、さらに好ましくは5~200nmの範囲内である。
【0138】
電子輸送層に用いられる材料(以下、「電子輸送材料」ともいう。)としては、電子の注入性又は輸送性、正孔の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
従来公知の化合物としては、例えば含窒素芳香族複素環誘導体(カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体(カルバゾール環を構成する炭素原子の一つ以上が窒素原子に置換されたもの)、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリダジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、アザトリフェニレン誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体等)、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、シロール誘導体、芳香族炭化水素環誘導体(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、トリフェニレン等)等が挙げられる。
【0139】
また、配位子にキノリノール骨格やジベンゾキノリノール骨格を有する金属錯体、例えばトリス(8-キノリノール)アルミニウム(Alq3)、トリス(5,7-ジクロロ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7-ジブロモ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、ビス(8-キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
【0140】
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、ジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型-Si、n型-SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
また、これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0141】
本発明に係る電子輸送層においては、電子輸送層にドープ材をゲスト材料としてドープして、n性の高い(電子リッチ)電子輸送層を形成してもよい。ドープ材としては、金属錯体やハロゲン化金属など金属化合物等のn型ドーパントが挙げられる。このような構成の電子輸送層の具体例としては、例えば特開平4-297076号公報、同10-270172号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等の文献に記載されたものが挙げられる。
【0142】
本発明の有機EL素子に用いられる、公知の好ましい電子輸送材料の具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
米国特許第6528187号、米国特許第7230107号、米国特許公開第2005/0025993号、米国特許公開第2004/0036077号、米国特許公開第2009/0115316号、米国特許公開第2009/0101870号、米国特許公開第2009/0179554号、国際公開第2003/060956号、国際公開第2008/132085号、Appl. Phys. Lett. 75, 4 (1999)、Appl. Phys. Lett. 79, 449 (2001)、Appl. Phys.Lett. 81, 162 (2002)、Appl. Phys. Lett. 81, 162 (2002)、Appl. Phys. Lett. 79, 156 (2001)、米国特許第7964293号、米国特許公開第2009/030202号、国際公開第2004/080975号、国際公開第2004/063159号、国際公開第2005/085387号、国際公開第2006/067931号、国際公開第2007/086552号、国際公開第2008/114690号、国際公開第2009/069442号、国際公開第2009/066779号、国際公開第2009/054253号、国際公開第2011/086935号、国際公開第2010/150593号、国際公開第2010/047707号、EP2311826号、特開2010-251675号公報、特開2009-209133号公報、特開2009-124114号公報、特開2008-277810号公報、特開2006-156445号公報、特開2005-340122号公報、特開2003-45662号公報、特開2003-31367号公報、特開2003-282270号公報、国際公開第2012/115034号、等である。
【0143】
より好ましい電子輸送材料としては、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、トリアジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体が挙げられる。
電子輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0144】
<正孔阻止層>
正孔阻止層とは、広い意味では、電子輸送層の機能を有する層であり、好ましくは電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が小さい材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる層をいう。
また、前述の電子輸送層の構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。
【0145】
前記正孔阻止層は、発光層の陰極側に隣接して設けられることが好ましい。正孔阻止層の厚さは、好ましくは3~100nmの範囲内であり、さらに好ましくは5~30nmの範囲内である。
【0146】
正孔阻止層に用いられる材料には、前述の電子輸送層に用いられる材料が好ましく用いられる。
【0147】
<電子注入層>
電子注入層(「陰極バッファー層」ともいう。)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陰極と発光層との間に設けられる層をいい、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
電子注入層は、必要に応じて設け、上記のように陰極と発光層との間、又は陰極と電子輸送層との間に存在させてもよい。
電子注入層はごく薄い層であることが好ましく、素材にもよるが、その厚さは0.1~5nmの範囲内が好ましい。また構成材料が断続的に存在する不均一な層であってもよい。
【0148】
電子注入層は、特開平6-325871号公報、同9-17574号公報、同10-74586号公報等にもその詳細が記載されており、電子注入層に好ましく用いられる材料の具体例としては、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等に代表されるアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等に代表されるアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウムに代表される金属酸化物、リチウム8-ヒドロキシキノレート(Liq)等に代表される金属錯体等が挙げられる。また、前述の電子輸送材料を用いることも可能である。
また、上記の電子注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。
【0149】
<正孔輸送層>
正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する材料からなり、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有する層をいう。
前記正孔輸送層の厚さは、特に制限はないが、通常は5nm~5μmの範囲内であり、より好ましくは2~500nmの範囲内であり、さらに好ましくは5~200nmの範囲内である。
【0150】
正孔輸送層に用いられる材料(以下、「正孔輸送材料」という。)としては、正孔の注入性又は輸送性、電子の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0151】
例えばポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、イソインドール誘導体、アントラセンやナフタレン等のアセン系誘導体、フルオレン誘導体、フルオレノン誘導体、及びポリビニルカルバゾール、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー、ポリシラン、導電性ポリマー又はオリゴマー(例えばPEDOT:PSS、アニリン系共重合体、ポリアニリン、ポリチオフェン等)等が挙げられる。
【0152】
トリアリールアミン誘導体としては、α-NPDに代表されるベンジジン型や、MTDATAに代表されるスターバースト型、トリアリールアミン連結コア部にフルオレンやアントラセンを有する化合物等が挙げられる。
また、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
さらに、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4-297076号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0153】
また、特開平11-251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料やp型-Si、p型-SiC等の無機化合物を用いることもできる。さらにIr(ppy)3に代表されるような中心金属にIrやPtを有するオルトメタル化有機金属錯体も好ましく用いられる。
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、アザトリフェニレン誘導体、有機金属錯体、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー等が好ましく用いられる。
【0154】
本発明の有機EL素子に用いられる、公知の好ましい正孔輸送材料の具体例としては、上記で挙げた文献の他、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0155】
例えばAppl. Phys. Lett. 69, 2160 (1996)、J. Lumin. 72-74, 985 (1997)、Appl. Phys. Lett. 78, 673 (2001)、Appl. Phys. Lett. 90, 183503(2007)、Appl. Phys. Lett. 90, 183503 (2007)、Appl. Phys. Lett. 51, 913 (1987)、Synth. Met. 87, 171 (1997)、Synth. Met. 91, 209 (1997)、Synth. Met. 111,421 (2000)、SID SymposiumDigest, 37, 923 (2006)、J. Mater. Chem. 3, 319 (1993)、Adv. Mater. 6, 677 (1994)、Chem. Mater. 15,3148 (2003)、米国特許公開第2003/0162053号、米国特許公開第2002/0158242号、米国特許公開第2006/0240279号、米国特許公開第2008/0220265号、米国特許第5061569号、国際公開第2007/002683号、国際公開第2009/018009号、EP650955、米国特許公開第2008/0124572号、米国特許公開第2007/0278938号、米国特許公開第2008/0106190号、米国特許公開第2008/0018221号、国際公開第2012/115034号、特表2003-519432号公報、特開2006-135145号公報、米国特許出願番号13/585981号等である。
正孔輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0156】
<電子阻止層>
電子阻止層とは、広い意味では正孔輸送層の機能を有する層であり、好ましくは正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる層をいう。
また、前述の正孔輸送層の構成を必要に応じて、電子阻止層として用いることができる。
前記電子阻止層は、発光層の陽極側に隣接して設けられることが好ましい。また、電子阻止層の厚さは、好ましくは3~100nmの範囲内であり、さらに好ましくは5~30nmの範囲内である。
【0157】
電子阻止層に用いられる材料には、前述の正孔輸送層に用いられる材料が好ましく用いられる。
【0158】
<正孔注入層>
正孔注入層(「陽極バッファー層」ともいう。)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陽極と発光層との間に設けられる層をいう。例えば「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
正孔注入層は必要に応じて設け、上記のように陽極と発光層又は陽極と正孔輸送層との間に存在させてもよい。
【0159】
正孔注入層は、特開平9-45479号公報、同9-260062号公報、同8-288069号公報等にもその詳細が記載されており、正孔注入層に用いられる材料としては、例えば前述の正孔輸送層に用いられる材料等が挙げられる。
【0160】
中でも銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン誘導体、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体、酸化バナジウムに代表される金属酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体、トリアリールアミン誘導体等が好ましい。
前述の正孔注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0161】
<その他添加剤>
前述した本発明に係る有機機能層は、さらに他の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば臭素、ヨウ素及び塩素等のハロゲン元素やハロゲン化化合物、Pd、Ca、Na等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属の化合物や錯体、塩等が挙げられる。
【0162】
添加剤の含有量は、任意に決定することができるが、含有される層の全質量%に対して1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。
ただし、電子や正孔の輸送性を向上させる目的や、励起子のエネルギー移動を有利にするための目的などによってはこの範囲内ではない。
【0163】
<支持基板>
有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう。)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0164】
樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル又はポリアリレート類、アートン(登録商標)(JSR社製)又はアペル(登録商標)(三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等の樹脂フィルムを挙げられる。
【0165】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物のガスバリア膜又はその両者のハイブリッドガスバリア膜が形成されていてもよく、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m2・24h)以下のガスバリア膜であることが好ましく、さらには、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、10-3mL/(m2・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、10-5g/(m2・24h)以下の高バリア性であることが好ましい。
【0166】
ガスバリア膜を形成する材料は、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。さらに膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機機能層の積層順は特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0167】
ガスバリア膜の形成方法は、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD(chemical vapor deposition)法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004-68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0168】
不透明な支持基板としては、例えばアルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。
【0169】
<封止>
有機EL素子の封止に用いられる封止手段としては、例えば封止部材と、電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また、透明性、電気絶縁性は特に限定されない。
【0170】
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる1種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。
【0171】
本発明においては、有機EL素子を薄くできるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。さらには、ポリマーフィルムはJIS K
7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10-3mL/m2/24h以下、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が、1×10-3g/(m2/24h)以下のものであることが好ましい。
【0172】
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0173】
接着剤としては、具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2-シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0174】
また、有機機能層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に電極と有機機能層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。
【0175】
さらに膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0176】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコーンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0177】
吸湿性化合物としては、金属酸化物(例えば酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0178】
<保護膜、保護板>
有機機能層を挟み支持基板と対向する側の前記封止膜又は前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために、保護膜又は保護板を設けてもよい。特に、封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0179】
<光取り出し向上技術>
有機EL素子は、空気よりも屈折率の高い(屈折率1.6~2.1程度の範囲内)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15~20%程度の光しか取り出せないことが一般的にいわれている。
これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極又は発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極又は発光層を導波し、結果として、光が素子側面方向に逃げるためである。
【0180】
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(例えば米国特許第4774435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(例えば特開昭63-314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(例えば特開平1-220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(例えば特開昭62-172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(例えば特開2001-202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11-283751号公報)などが挙げられる。
【0181】
本発明においては、これらの方法を前記有機EL素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法、又は基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚さで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど、外部への取り出し効率が高くなる。
本発明は、これらの手段を組み合わせることにより、さらに高輝度又は耐久性に優れた素子を得ることができる。
【0182】
低屈折率層としては、例えばエアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマーなどが挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5~1.7程度の範囲内であるので、低屈折率層は、屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。またさらに1.35以下であることが好ましい。
また、低屈折率媒質の厚さは、媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは、低屈折率媒質の厚さが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む厚さになると、低屈折率層の効果が薄れるからである。
【0183】
全反射を起こす界面又は、いずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。この方法は、回折格子が1次の回折や、2次の回折といった、いわゆるブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち、層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間又は、媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
【0184】
導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは、発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な一次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。
しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
【0185】
回折格子を導入する位置としては、いずれかの層間、又は媒質中(透明基板内や透明電極内)でもよいが、光が発生する場所である有機発光層の近傍が好ましい。このとき、回折格子の周期は、媒質中の光の波長の約1/2~3倍程度の範囲内が好ましい。回折格子の配列は、正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状など、二次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
【0186】
<集光シート>
本発明の有機EL素子は、支持基板(基板)の光取出し側に、例えばマイクロレンズアレイ上の構造を設けるように加工すること、又は、いわゆる集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を二次元に配列する。一辺は10~100μmの範囲内が好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚さが厚くなり好ましくない。
【0187】
集光シートとしては、例えば液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして、例えば住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)などを用いることができる。プリズムシートの形状としては、例えば基材に頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であってもよい。
また、有機EL素子からの光放射角を制御するために光拡散板・フィルムを、集光シートと併用してもよい。例えば(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)などを用いることができる。
【0188】
<その他:タンデム構造を有する有機EL素子>
本発明の有機EL素子は、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数積層した、いわゆるタンデム構造の素子であってもよい。
タンデム構造の代表的な素子構成としては、例えば以下の構成を挙げることができる。
陽極/第1発光ユニット/第2発光ユニット/第3発光ユニット/陰極
陽極/第1発光ユニット/中間層/第2発光ユニット/中間層/第3発光ユニット/陰極
ここで、上記第1発光ユニット、第2発光ユニット及び第3発光ユニットは全て同じであっても、異なっていてもよい。また二つの発光ユニットが同じであり、残る一つが異なっていてもよい。
また、第3発光ユニットはなくてもよく、一方で第3発光ユニットと電極の間にさらに発光ユニットや中間層を設けてもよい。
【0189】
複数の発光ユニットは直接積層されていても、中間層を介して積層されていてもよく、中間層は、一般的に中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれ、陽極側の隣接層に電子を、陰極側の隣接層に正孔を供給する機能を持った層であれば、公知の材料及び構成を用いることができる。
【0190】
中間層に用いられる材料としては、例えばITO(インジウム・スズ酸化物)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、ZnO2、TiN、ZrN、HfN、TiOx、VOx、CuI、InN、GaN、CuAlO2、CuGaO2、SrCu2O2、LaB6、RuO2、Al等の導電性無機化合物層や、Au/Bi2O3等の2層膜や、SnO2/Ag/SnO2、ZnO/Ag/ZnO、Bi2O3/Au/Bi2O3、TiO2/TiN/TiO2、TiO2/ZrN/TiO2等の多層膜、またC60等のフラーレン類、オリゴチオフェン等の導電性有機物層、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等の導電性有機化合物層等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0191】
発光ユニット内の好ましい構成としては、例えば上記の代表的な素子構成で挙げた(i)~(vii)の構成から、陽極と陰極を除いたもの等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0192】
タンデム型有機EL素子の具体例としては、例えば米国特許第6337492号、米国特許第7420203号、米国特許第7473923号、米国特許第6872472号、米国特許第6107734号、米国特許第6337492号、国際公開第2005/009087号、特開2006-228712号公報、特開2006-24791号公報、特開2006-49393号公報、特開2006-49394号公報、特開2006-49396号公報、特開2011-96679号公報、特開2005-340187号公報、特許第4711424号、特許第3496681号、特許第3884564号、特許第4213169号、特開2010-192719号公報、特開2009-076929号公報、特開2008-078414号公報、特開2007-059848号公報、特開2003-272860号公報、特開2003-045676号公報、国際公開第2005/094130号等に記載の素子構成や構成材料等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0193】
(8)有機EL素子の製造方法
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する製造方法であって、発光性化合物を含有する溶液(「発光性インク」ともいう。)をインク受容層上へ滴下することで発光層を形成する工程を有することを特徴とする。
【0194】
<インク受容層の形成>
インク受容層は、ウェット・プロセスで形成することが好ましい。また、ウェット・プロセス(「湿式法」ともいう。)としては、スピンコート法、キャスト法、インクジェット印刷法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア-ブロジェット法)等があるが、均質な薄膜が得られやすく、かつ高生産性の点から、ダイコート法、ロールコート法、インクジェット印刷法、スプレーコート法などのロール・to・ロール方式適性の高い方法が好ましい。
【0195】
インク受容層の構成材料である絶縁性ポリマー及び電荷輸送性化合物を溶解又は分散する液媒体は特に制限はなく、例えば、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、ジクロロヘキサノン等のハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、n-プロピルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶媒、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族系溶媒、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、炭酸ジエチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、メタノール、エタノール、1-ブタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒、ジメチルスルホキシド、水又はこれらの混合液媒体等が挙げられる。
【0196】
これらの液媒体の沸点は、迅速に液媒体を乾燥させる観点から乾燥処理の温度未満の沸点が好ましく、具体的には60~200℃の範囲内が好ましく、さらに好ましくは、80~180℃の範囲内である。
【0197】
塗布液は、塗布範囲を制御する目的や、塗布後の表面張力勾配に伴う液流動(例えばコーヒーリングと呼ばれる現象を引き起こす液流動)を抑制する目的に応じて、界面活性剤を含有することができる。
界面活性剤は、溶媒に含まれる水分の影響、レベリング性、基板への濡れ性等の観点から、例えばアニオン性又はノニオン性の界面活性剤等が挙げられる。具体的には、含フッ素系活性剤等、国際公開第08/146681号、特開平2-41308号公報等に挙げられた界面活性剤を用いることができる。
【0198】
湿式法に用いる塗布液は、インク受容層を形成する材料が液媒体に均一に溶解される溶液でも、材料が固形分として液媒体に分散される分散液でもよい。分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
【0199】
塗布液の濃度は、インク受容層を形成する材料の溶解度又は分散性により、適宜選択することが可能で、例えば0.1~50%の範囲内で選択することができる。
【0200】
塗布液の粘度は、インク受容層を形成する材料の溶解度又は分散性により、適宜選択することが可能で、例えば0.3~100mPa・sの範囲内で選択することができる。
【0201】
塗布膜の厚さは、インク受容層として必要とされる機能と有機材料の溶解度又は分散性により適宜選択することが可能で、例えば1~90μmの範囲内で選択することができる。
【0202】
湿式法により塗布膜を形成した後、上述した液媒体を除去する乾燥工程を有することができる。乾燥工程の温度は特に制限されないが、インク受容層や透明電極や基材が損傷しない程度の温度で乾燥処理することが好ましい。具体的には、塗布液の組成等によって異なるため一概にはいえないが、例えば80℃以上の温度とすることができ、上限は300℃程度までは可能な領域と考えられる。時間は10秒以上10分以下程度とすることが好ましい。このような条件とすることにより、乾燥を迅速に行うことができる。
【0203】
<発光性インクのインク受容層上への滴下>
発光性インクのインク受容層上への滴下はパターニング可能であることが望ましい。パターニング開口部のあるマスクを用いた印刷法であっても良いが、インク受容層への損傷(ダメージ)が少ないという観点から非接触で形成する方法が望ましい。
【0204】
滴下時の発光性インク液滴の体積は、10μL以下であることが好ましく、100pL以下であることがより好ましい。
【0205】
なお、発光性化合物が主成分としてドット状になって存在するドット領域の大きさは、発光層の主たる発光面側から撮影した光学顕微鏡写真(平面図)に基づいて計測した場合、円換算粒径として、30~300μmの範囲内であることが好ましい。
【0206】
<発光性インク>
発光性化合物を含有する溶液(「発光性インク」ともいう。)は、発光性化合物を溶媒に溶解又は分散したものである。発光性化合物の濃度は特に限定されないが、例えば10mg/mL程度とすることができる。
【0207】
発光性インクには、発光性インクの滴下方法等に応じて、各種機能性添加剤を含有させることができる。例えば、吐出安定性、プリントヘッド適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、分散剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防黴剤、防錆剤等を適宜選択して含有させることができる。
【0208】
また、発光性インクには、電荷輸送性化合物を含有させることもできる。この場合、発光性化合物/電荷輸送性化合物の比は0.03以上であることが好ましい。
【0209】
溶媒は、上記材料を所望の量を分散させることができ、インクジェット・ノズルから液滴の吐出ができるものであれば特に限定されるものではないが、発光性化合物の種類等により適宜選択されることが好ましい。
【0210】
具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、テルピネオールなどのアルコール類、n-ヘプタン、n-オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼンなどの炭化水素系化合物、またエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、p-ジオキサンなどのエーテル系化合物、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートのようなグリコールエーテルエステル化合物、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートのようなグリコールオリゴマーエーテルエステル、酢酸エチル、安息香酸プロピルのような脂肪族又は芳香族エステル、炭酸ジエチルのようなジカルボン酸ジエステル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチルのようなアルコキシカルボン酸エステル、アセト酢酸エチルのようなケトカルボン酸エステル、さらにプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノンなどの極性化合物を例示できる。
【0211】
<インクジェット・プリント法>
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、発光性化合物を含有する溶液(発光性インク)をインク受容層上へ滴下する方法が、インクジェット・プリント法であることが、小液滴を形成することができ、バンクの形成を必要とせず、簡便である点で好ましい。
【0212】
インクジェット・プリント法では、発光性化合物がインク受容層の面内方向及び厚さ方向に濃度勾配を有して存在することとなるように、所定のドットパターンに基づいてインクジェット・プリントが行われる。
【0213】
本発明においては、公知のインクジェット・プリント法及びインクジェット・プリント装置を適宜適用することができる。例えばコニカミノルタ社製IJCS-1を用いることができる。
【0214】
ヘッドスキャンスピードはスキャン方向のドットピッチを適正な値(50~500μm)に設定できる値が望ましく、10~200mm/secが好ましく、80~100mm/secがより好ましい。
【0215】
図2は、インクジェット・プリント法による発光層の形成方法の一例を示す概略図である。
【0216】
図2には、インクジェットヘッド(30)を具備したインクジェット・プリント装置を用いて、インク受容層上へ発光性インクを滴下する方法の一例を示してある。
【0217】
図2に示す例では、インク受容層まで形成された中間成形体を乗せた搬送部材である基材(2)を連続的に搬送しながら、インクジェットヘッド(30)により順次、制御部(35)で制御された所定のドットパターンとなるように発光性インクをインク受容層上に滴下して、発光層を形成する。(1)は発光層まで形成された中間成形体である。
【0218】
インクジェットヘッド(30)には、発光性インクの供給機構などが接続されている。発光性インクのインクジェットヘッド(30)への供給は、タンク(38A)により行われる。インクジェットヘッド(30)内の発光性インクの圧力を常に一定に保つように、この例ではタンク液面を一定にする。その方法としては、発光性インクをタンク(38A)からオーバーフローさせてタンク(38B)に自然流下で戻している。タンク(38B)からタンク(38A)への発光性インクの供給は、ポンプ(31)により行われており、射出条件に合わせて安定的にタンク(38A)の液面が一定となるように制御されている。
【0219】
なお、ポンプ(31)によりタンク(38A)へ発光性インクを戻す際には、フィルター(32)を通してから行われている。このように、発光性インクはインクジェットヘッド(30)へ供給される前に絶対濾過精度又は準絶対濾過精度が0.05~50μmの濾材を少なくとも1回は通過させることが好ましい。
【0220】
また、インクジェットヘッド(30)の洗浄作業や液体充填作業などを実施するためにタンク(36)より発光性インクが、タンク(37)より洗浄溶媒がポンプ(39)によりインクジェットヘッド(30)へ強制的に供給可能となっている。インクジェットヘッド(30)に対してこうしたタンクポンプ類は複数に分けても良いし、配管の分岐を使用してもよい、またそれらの組み合わせでもかまわない。
【0221】
図2では配管分岐(33)を使用している。さらにインクジェットヘッド(30)内のエアーを十分に除去するためにタンク(36)よりポンプ(39)にてインクジェットヘッド(30)へ発光性インクを強制的に送液しながらエアー抜き配管から発光性インクを抜き出して廃液タンク(34)に送ることもある。
【0222】
本発明に係る有機EL素子の製造方法に適用可能なインクジェットヘッドは、特に限定はなく、例えば、インク圧力室に圧電素子を備えた振動板を有し、この振動板によるインク圧力室の圧力変化で発光性インクを吐出させる剪断モード型(ピエゾ型)のヘッドでもよいし、発熱素子を有し、この発熱素子からの熱エネルギーにより発光性インクの膜沸騰による急激な体積変化によりノズルから発光性インクを吐出させるサーマルタイプのヘッドであってもよい。
【0223】
図3A及び
図3Bは、インクジェット印刷方式に適用可能なインクジェットヘッドの構造の一例を示す概略外観図である。
【0224】
図3Aは、本発明に適用可能なインクジェットヘッド(30)を示す概略斜視図であり、
図3Bは、インクジェットヘッド(30)の概略底面図である。
【0225】
図3A及び
図3Bで例として示すインクジェットヘッド(30)は、インクをノズルから吐出させるヘッドチップと、このヘッドチップが配設された配線基板と、この配線基板とフレキシブル基板を介して接続された駆動回路基板と、ヘッドチップのチャネルにフィルターを介してインクを導入するマニホールドと、内側にマニホールドが収納された筐体(56)と、この筐体(56)の底面開口を塞ぐように取り付けられたキャップ受板(57)と、マニホールドの第1インクポート及び第2インクポートに取り付けられた第1ジョイント及び第2ジョイント(81a、81b)と、マニホールドの第3インクポートに取り付けられた第3ジョイント(82)と、筐体(56)に取り付けられたカバー部材(59)とを備えている。また、筐体(56)をプリンタ本体側に取り付けるための取り付け用孔(68)がそれぞれ形成されている。
【0226】
また、
図3Bで示すキャップ受板(57)は、キャップ受板取り付け部(62)の形状に対応して、外形が左右方向に長尺な略矩形板状として形成され、その略中央部に複数のノズルが配置されているノズルプレート(61)を露出させるため、左右方向に長尺なノズル用開口部(71)が設けられている。また、
図3Aで示すインクジェットヘッド内部の具体的な構造に関しては、例えば特開2012-140017号公報に記載されている
図2等を参照することができる。
【0227】
図3A及び
図3Bにはインクジェットヘッドの代表例を示したが、その他にも、例えば特開2012-140017号公報、特開2013-010227号公報、特開2014-058171号公報、特開2014-097644号公報、特開2015-142979号公報、特開2015-142980号公報、特開2016-002675号公報、特開2016-002682号公報、特開2016-107401号公報、特開2017-109476号公報、特開2017-177626号公報等に記載されている構成からなるインクジェットヘッドを適宜選択して適用することができる。
【0228】
本発明に適用可能なインクジェットヘッドは、例えば特開2012-140017号公報、特開2013-010227号公報、特開2014-058171号公報、特開2014-097644号公報、特開2015-142979号公報、特開2015-142980号公報、特開2016-002675号公報、特開2016-002682号公報、特開2016-107401号公報、特開2017-109476号公報、特開2017-177626号公報等に記載されている構成からなるインクジェットヘッドを適宜選択して適用することができる。
【0229】
また、インクジェットヘッドはピコリットルレベルの液滴を形成できる仕様が好ましく、例えば、コニカミノルタ社製KM512やKM1024等を用いることができる。
【0230】
<発光層以外の部材の形成方法>
電極や、発光層以外の有機機能層(例えば正孔注入層、正孔輸送層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等)の形成方法について、特に制限はなく、従来公知の方法を採用できる。有機機能層の形成方法であれば、例えば真空蒸着法、ウェット・プロセス等による形成方法を用いることができる。ウェット・プロセスは、インク受容層の形成方法と同様の方法を採用できる。
【0231】
有機機能層の形成に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50~450℃、真空度10-6~10-2Pa、蒸着速度0.01~50nm/秒、基板温度-50~300℃、厚さ0.1nm~5μm、好ましくは5~200nmの範囲内で適宜選ぶことが望ましい。
【0232】
なお、各有機機能層ごとに異なる形成方法を適用してもよい。
【0233】
(9)有機EL素子の性能
<駆動電圧>
本発明の有機EL素子は、発光開始時の電圧である駆動電圧が、30V以下であることが好ましく、10V以下であることがより好ましい。
【0234】
<外部量子収率>
本発明の有機EL素子の発光の室温(23℃)における外部量子収率(外部取り出し量子効率)は、リン光性化合物や遅延蛍光性化合物を用いた場合は、5%以上であることが好ましく、9%以上であることがより好ましい。また蛍光性化合物を用いた場合は、1.5%以上であることが好ましく、1.8%以上であることがより好ましい。
【0235】
ここで、外部量子収率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
【0236】
外部量子収率は、例えば分光放射輝度計CS-2000(コニカミノルタ社製)で測定することができる。
【0237】
(10)有機EL素子の用途
本発明の有機EL素子は、ドット発光してパターニングや文字を再現したり、多色発光して混色が改善された高品質のカラー画像を表示する表示装置に好適に用いることができる。
【0238】
本発明の表示装置は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えること以外は特に限定されず、その他の構成は公知のものとすることができる。
【0239】
本発明の有機EL素子を具備した、表示装置の一態様について説明する。
前記有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを陰極上に重ねて透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、封止し、
図4及び
図5に示すような表示装置を形成することができる。
【0240】
図4は、表示装置(101)の概略図を示し、本発明に係る有機EL素子はガラスカバー(102)で覆われている。なお、ガラスカバーでの封止作業は、有機EL素子を大気に接触させることなく、純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気にしたグローブボックスで行うことが好ましい。
【0241】
図5は、表示装置(101)の断面模式図を示し、有機EL素子(100)を備える。
図5に示す有機EL素子(100)は、陰極(105)、発光層(106)、透明電極付きガラス基板(107)を備える。ガラスカバー(102)内には窒素ガス(108)が充填され、捕水剤(109)が設けられている。
【0242】
また、本発明の有機EL素子は、家庭用照明や車内照明といった照明装置にも好適に用いることができる。
【0243】
本発明の照明装置は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えること以外は特に限定されず、その他の構成は公知のものとすることができる。
【0244】
本発明の有機EL素子は、上記以外にもその他発光光源として、例えば時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等に用いることができる。
【実施例】
【0245】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0246】
実施例で用いた電荷輸送性化合物H1~H7、リン光性化合物Ep1~Ep4、遅延蛍光性化合物Et1及び蛍光性化合物Ef1~Ef3を以下に示す。なお、遅延蛍光性化合物Et1は熱活性化遅延蛍光性化合物である。
各化合物の最低励起三重項エネルギー準位T1[eV]及び最低励起一重項エネルギー準位S1[eV]は表I~表IVに示すとおりである。
【0247】
【0248】
【0249】
【0250】
【0251】
(1)実施例1
<有機EL素子No.(1-1)の作製>
30mm×30mm×0.7mmのガラス基板上に酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)が100nmの厚さとなるように成膜された基板にパターニングを行った後、イソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥せしめ、UVオゾン洗浄を5分間行い、ITO透明電極(陽極)を設けた透明支持基板を得た。
【0252】
形成した陽極上に、絶縁性ポリマーとしてポリスチレン(ACROS ORGANICS社製、分子量=260000)と、電荷輸送性化合物H1を、質量比1:1(インク受容層における電荷輸送性化合物の質量比率50%)で溶質とし、酢酸n-プロピルを溶媒として、1.0%に希釈した溶液を500rpm、30秒でスピンコート法により成膜した後、120℃にて30分乾燥し、厚さ50nmのインク受容層を設けた。
【0253】
酢酸n-プロピルを溶媒とし、発光性化合物(リン光性化合物Ep1)を10mg/mLの濃度で溶媒と混合し、90℃の状態で30分間保たれるように超音波で加熱した後、0.2μmのフィルターで濾過し凝集成分を除去し発光性インクを作製した。
【0254】
次いで、以下の条件によるインクジェット・プリント法で、リン光性化合物Ep1を含有する溶液(発光性インク)をインク受容層上へ滴下し、ドット領域を有する発光層を形成した。
(インクジェット・プリント法の条件)
・インクジェット装置:コニカミノルタ社製IJCS-1
・インクジェットヘッド:コニカミノルタ社製KM512
・ショット数:2ショット
・ヘッドの吐出ノズル間距離:140μm ピッチ
・ヘッドスキャンスピード:90mm/sec
【0255】
次いで、これを真空蒸着装置に取付け、真空槽を4×10-4Paまで減圧した上で、以下の条件で電子注入層及び陰極を形成した。電子注入層は、フッ化カリウムを、成膜レート0.1Å/secにて、厚さ2.0nmとなるように蒸着して形成した。陰極は、Alを、成膜レート4Å/secにて、厚さ100nmとなるように蒸着して形成した。
【0256】
以上の工程により有機EL素子No.(1-1)を作製した。
【0257】
図6は有機EL素子No.(1-1)の断面模式図である。
図6に示す有機EL素子No.(1-1)の構成は、電子注入層(203)を有する以外、
図1に示す有機EL素子の構成と同様である。
【0258】
<有機EL素子No.(1-2)~(1-19)の作製>
用いる電荷輸送性化合物及び発光性化合物(リン光性化合物又は遅延蛍光性化合物)の種類を表Iのとおりに変更した以外は有機EL素子No.(1-1)と同様にして、有機EL素子No.(1-2)~(1-19)を作製した。
【0259】
<有機EL素子No.(1-1)~(1-19)の評価>
作製した有機EL素子について、下記のようにして駆動電圧[V]及び外部量子収率[%]を測定した。
【0260】
作製した有機EL素子について、温度23℃において、駆動電圧[V]を測定した。なお、駆動電圧[V]は、発光開始時に電流密度2.5mA/cm2となったときの電圧値とした。輝度の測定には分光放射輝度計CS-2000を用いた。
【0261】
作製した有機EL素子について、温度23℃において、2.5mA/cm2の定電流を印加したときの外部量子収率[%]を測定した。測定には分光放射輝度計CS-2000(コニカミノルタ社製)を用いた。
【0262】
駆動電圧[V]及び外部量子収率[%]の評価を下記表Iに示す。なお、表Iにおける駆動電圧及び外部量子収率の値は、有機EL素子No.(1-1)の値を基準とする相対値であり、有機EL素子No.(1-1)の駆動電圧は5.5V、外部量子収率は8.5%であった。
【0263】
【0264】
表Iに示す実施例1の結果から、本発明は比較例と比較して、外部量子収率が良好であることが分かる。
これは、比較例の場合は、電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位T1が、リン光性化合物又は遅延蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位T1よりも低いことによって、リン光性化合物又は遅延蛍光性化合物から電荷輸送性化合物に逆エネルギー移動が生じてしまっているのに対し、本発明の場合は、電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位T1が、リン光性化合物又は遅延蛍光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位T1よりも高いことによって、逆エネルギー移動の抑制ができているからであると考えられる。
【0265】
(2)実施例2
<有機EL素子No.(2-1)~(2-3)の作製>
発光性化合物Aとしてリン光性化合物Ep1を含有する発光性インク、及び発光性化合物Bとしてリン光性化合物Ep4を含有する発光性インクを、実施例1と同様に作製した。
【0266】
上記2種類の発光性インクを、異なるインクジェットヘッドを用いてインク受容層上へ1ショットずつ滴下したこと以外は有機EL素子No.(1-1)と同様にして、有機EL素子No.(2-1)~(2-3)を作製した。
【0267】
図7は有機EL素子No.(2-1)の断面模式図である。
図6に示す有機EL素子No.(2-1)の構成は、発光性化合物A(202A)からなるドット領域及び発光性化合物B(202B)からなるドット領域の2種類のドット領域を含有すること以外、
図6に示す有機EL素子No.(1-1)の構成と同様である。
【0268】
<有機EL素子No.(2-1)~(2-3)の評価>
作製した有機EL素子について測定した駆動電圧[V]及び外部量子収率[%]の評価を下記表IIに示す。なお、表IIにおける駆動電圧及び外部量子収率の値は、実施例1の有機EL素子No.(1-1)の値を基準とする相対値である。
【0269】
【0270】
表IIに示す実施例2の結果から、複数のリン光性化合物を用いても、電荷輸送性化合物の最低励起三重項エネルギー準位T1が、いずれのリン光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位T1よりも高い場合、実施例1の有機EL素子No.(1-1)と同程度に駆動電圧及び外部量子収率が良好であることが分かる。
【0271】
(3)実施例3
<有機EL素子No.(3-1)~(3-6)の作製>
用いる電荷輸送性化合物及び発光性化合物(蛍光性化合物)の種類を表IIIのとおりに変更した以外は有機EL素子No.(1-1)と同様にして、有機EL素子No.(3-1)~(3-6)を作製した。
【0272】
<有機EL素子No.(3-1)~(3-6)の評価>
作製した有機EL素子について測定した駆動電圧[V]及び外部量子収率[%]の評価を下記表IIIに示す。なお、表IIIにおける駆動電圧及び外部量子収率の値は、有機EL素子No.(3-1)の値を基準とする相対値であり、有機EL素子No.(3-1)の駆動電圧は3.8V、外部量子収率は1.8%であった。
【0273】
【0274】
表IIIに示す実施例3の結果から、本発明は比較例と比較して、外部量子収率が良好であることが分かる。
これは、比較例の場合は、電荷輸送性化合物の最低励起一重項エネルギー準位S1が、蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位S1よりも低いことによって、蛍光性化合物から電荷輸送性化合物に逆エネルギー移動が生じてしまっているのに対し、本発明の場合は、電荷輸送性化合物の最低励起一重項エネルギー準位S1が、蛍光性化合物の最低励起一重項エネルギー準位S1よりも高いことによって、逆エネルギー移動の抑制ができているからであると考えられる。
【0275】
(4)実施例4
<有機EL素子No.(4-1)~(4-5)の作製>
インク受容層における電荷輸送性化合物の質量比率を表IVのとおりに変更した以外は有機EL素子No.(1-1)と同様にして、有機EL素子No.(4-1)~(4-5)を作製した。なお、有機EL素子No.(4-3)は有機EL素子No.(1-1)と同一である。
【0276】
<有機EL素子No.(4-1)~(4-5)の評価>
作製した有機EL素子について測定した駆動電圧[V]及び外部量子収率[%]の評価を下記表IVに示す。なお、表IVにおける駆動電圧及び外部量子収率の値は、有機EL素子No.(4-3)の値を基準とする相対値である。
【0277】
【0278】
表IVに示す実施例4の結果から、インク受容層における電荷輸送性化合物の質量比率が、20~80%の範囲内であることが好ましいことが分かる。電荷輸送性化合物の質量比率が0%の場合は、発光性化合物への電荷輸送が不十分であるため、駆動電圧が高くなってしまっている。また、電荷輸送性化合物の質量比率が100%の場合は、ショートを起こし発光しなかった。これは、インク受容層材料が発光性インクの溶媒に対して溶ける割合、すなわち溶媒単位体積に対してインク受容層材料(有機EL素子No.(4-5)の場合は電荷輸送性化合物のみ)が溶ける質量[mg/mL]が高くなり、結果として、溶解した電荷輸送性化合物の多くが周囲へ移動することでコーヒーリングを形成し、コーヒーリング中央部の厚さが極端に薄くなり、上下電極間でショートしたと考えられる。
【符号の説明】
【0279】
1 発光層まで形成された中間成形体
2 基材
30 インクジェットヘッド
31、39 ポンプ
32 フィルター
33 配管分岐
34 廃液タンク
35 制御部
36、37、38A、38B タンク
56 筐体
57 キャップ受板
59 カバー部材
61 ノズルプレート
62 キャップ受板取り付け部
68 取り付け用孔
71 ノズル用開口部
81a 第1ジョイント
81b 第2ジョイント
82 第3ジョイント
100 有機EL素子
101 表示装置
102 ガラスカバー
105 陰極
106 発光層
107 透明電極付きガラス基板
108 窒素ガス
109 捕水剤
201 インク受容層
202 発光性化合物
202A 発光性化合物A
202B 発光性化合物B
203 電子注入層