(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ガスバリア性組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 1/02 20060101AFI20240423BHJP
C08K 5/092 20060101ALI20240423BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20240423BHJP
C08L 101/06 20060101ALI20240423BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20240423BHJP
C08J 7/048 20200101ALI20240423BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C08L1/02
C08K5/092
C08K7/00
C08L101/06
C08L79/02
C08J7/048 CEP
B32B27/00 A
(21)【出願番号】P 2020553111
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2019039790
(87)【国際公開番号】W WO2020085090
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2018198537
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】木下 友貴
(72)【発明者】
【氏名】長▲浜▼ 英昭
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊樹
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-136814(JP,A)
【文献】特開2013-229325(JP,A)
【文献】国際公開第2010/074340(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-1/32
C08L 79/00-79/08
C08L 101/00-101/16
C08K 3/00-13/08
B32B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸基、スルホ基の少なくとも1種を含有するナノセルロース、及び反応性架橋剤から成り、前記ナノセルロースが、アニオン性官能基を0.1~4.0mmol/gの量で含有するセルロースナノクリスタルであ
り、前記反応性架橋剤が、多価カルボン酸又はその無水物であることを特徴とするガスバリア性組成物。
【請求項2】
前記反応性架橋剤
が無水クエン酸であり、該無水クエン酸を、前記ナノセルロース(固形分)100質量部に対して5~30質量部の量で含有する請求項1記載のガスバリア性組成物。
【請求項3】
層状無機化合物を、前記ナノセルロース(固形分)100質量部に対して5~30質量部の量で含有する請求項1又は2記載のガスバリア性組成物。
【請求項4】
水酸基含有高分子を、前記ナノセルロース(固形分)100質量部に対して5~30質量部の量で含有する請求項1~3の何れかに記載のガスバリア性組成物。
【請求項5】
請求項1~
4の何れかに記載のガスバリア性組成物と多価カチオン樹脂を含有する混合物から成ることを特徴とするガスバリア性成形体。
【請求項6】
前記多価カチオン樹脂が、ポリエチレンイミンである請求項
5記載のガスバリア性成形体。
【請求項7】
基材上に、請求項
5又は
6記載のガスバリア性成形体から成るガスバリア層が形成されていることを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項8】
前記ガスバリア層上に、エポキシ樹脂とポリアミン樹脂から成る接着層を介して耐湿性樹脂層が形成されている請求項
7記載のガスバリア性積層体。
【請求項9】
多価カチオン樹脂から成る層上に、前記ガスバリア性組成物から成る層を形成することにより、前記多価カチオン樹脂及びナノセルロースの混合物から成る層を形成することを特徴とする請求項
5又は
6記載のガスバリア性成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノセルロースを含有するガスバリア性組成物に関するものであり、より詳細には、アニオン性官能基を有するナノセルロース及び反応性架橋剤を含有して成り、緻密性の高い架橋膜を形成可能なガスバリア性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースは、高度バイオマス原料として、機能性添加剤、フィルム複合材料等として種々の用途に使用することが提案されている。特に、セルロースナノファイバーから成る膜やセルロースナノファイバーを含有する積層体等の材料は、セルロース繊維間の水素結合や架橋的な強い相互作用から、ガスの溶解、拡散を抑制できるため酸素バリア性等のガスバリア性に優れていることが知られており、セルロースナノファイバーを利用したバリア材料が提案されている。
セルロース繊維の微細化のため、機械的処理と共に、カルボキシル基やリン酸基等の親水性の官能基を、セルロースの水酸基に導入する化学的処理を行うことが行われており、これにより微細化処理に要するエネルギーを低減可能であると共に、バリア性や水系溶媒への分散性が向上する。
しかしながら、親水化処理に付されたセルロースナノファイバーは、コーティング剤として使用した場合に、得られる塗膜が高湿度雰囲気においてガスバリア性や膜強度が低下するおそれがある。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、下記特許文献1には、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維と反応性官能基を有する架橋剤を含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1~2mmol/gであるガスバリア用材料が記載されている。
また下記特許文献2には、カルボキシル基含有量0.1~3mmol/gの微細セルロース繊維とポリビニルアルコールとを含む、ガスバリア性成形体が記載されている。
更に下記特許文献3には、カルボキシル基含有量が0.1~3mmol/gの微細セルロース繊維と層状無機化合物と塩基性物質を含む、ガスバリア性積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5064479号
【文献】特開2012-41489号公報
【文献】特開2012-97236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1においては、ナノセルロースに架橋剤を用いて架橋膜とすることによって、湿度雰囲気におけるガスバリア性の低下を抑制するものであるが、ガスバリア性の観点から、カルボキシル基含有量が上記範囲にあるセルロースナノファイバーを用いていることから、架橋効率の高い酸性条件下では、カルボキシル基含有セルロースナノファイバーが凝集してゲル化し、塗工性が低下するおそれがある。
また上記特許文献2及び3では、得られる成形体は架橋されていないことから、架橋されているものに比してガスバリア性能が低いという問題がある。
【0006】
従って本発明の目的は、ナノセルロースが均一に分散された架橋構造を効率よく形成でき、湿度条件下でも優れたガスバリア性を発現可能なガスバリア性組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、優れたガスバリア性及び層間密着性を有するナノセルロース含有層を有する成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、硫酸基、スルホ基の少なくとも1種を含有するナノセルロース、及び反応性架橋剤から成り、前記ナノセルロースが、アニオン性官能基を0.1~4.0mmol/gの量で含有するセルロースナノクリスタルであり、前記反応性架橋剤が、多価カルボン酸又はその無水物であることを特徴とするガスバリア性組成物が提供される。
本発明のガスバリア性組成物においては、
1.前記反応性架橋剤が無水クエン酸であり、該無水クエン酸を、前記ナノセルロース(固形分)100質量部に対して5~30質量部の量で含有すること、
2.層状無機化合物を、前記ナノセルロース(固形分)100質量部に対して5~30質量部の量で含有すること、
3.水酸基含有高分子を、前記ナノセルロース(固形分)100質量部に対して5~30質量部の量で含有すること、
が好適である。
【0008】
本発明によればまた、上記ガスバリア性組成物と多価カチオン樹脂を含有する混合物から成ることを特徴とするガスバリア性成形体が提供される。
本発明のガスバリア性成形体においては、前記多価カチオン樹脂が、ポリエチレンイミンであること、が好適である。
本発明によれば更に、基材上に、上記ガスバリア性成形体から成るガスバリア層が形成されていることを特徴とするガスバリア性積層体が提供される。
本発明のガスバリア性積層体においては、前記ガスバリア層上に、エポキシ樹脂とポリアミン樹脂から成る接着層を介して耐湿性樹脂層が形成されていることが好適である。
本発明によれば更にまた、多価カチオン樹脂から成る層上に、前記ガスバリア性組成物から成る層を形成することにより、前記多価カチオン樹脂及びナノセルロースの混合物から成る層を形成することを特徴とする上記ガスバリア性成形体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガスバリア性組成物は、ナノセルロースとして、硫酸基、スルホ基、リン酸基の少なくとも1種を含有するナノセルロースを用いることにより、クエン酸のような、酸性環境を呈する架橋効率に優れた反応性架橋剤を用いた場合にも、ナノセルロースが安定して分散して緻密な架橋膜を形成することができることから、優れたガスバリア性が発現できる。
またカルボキシル基含有のセルロースナノファイバーを用いた場合のように、ナノセルロースが凝集してゲル化することがないため、塗工性にも優れている。
更に、本発明のガスバリア性組成物と多価カチオン樹脂を含有する混合物から成る成形体においては、ナノセルロースの水酸基と架橋剤が緻密な架橋膜を形成すると共に、ナノセルロース同士も硫酸基、スルホ基、リン酸基によって緻密な自己組織化構造を維持しながら、ナノセルロース間に多価カチオン樹脂が自然拡散して介在した混合状態になっており、ナノセルロースの自己組織化構造が多価カチオンによって更に強化されており、ナノセルロース及び架橋剤だけで発現されるガスバリア性よりも優れたガスバリア性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例6により得られた多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合物から成る層を有するガスバリア性積層体について、塗工面の表面から基材内部までエッジングしながらTOF-SIMS分析を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ガスバリア性組成物)
本発明のガスバリア性組成物は、硫酸基、スルホ基、リン酸の少なくとも1種を含有するナノセルロース、及び反応性架橋剤から成ることが重要な特徴である。
本発明のガスバリア性組成物においては、アニオン性官能基である硫酸基、スルホ基、リン酸基を少なくとも1種含有するナノセルロースを用いることから、アニオン性官能基が有する電荷(アニオン)により自己組織化構造を効率よく形成し、優れたガスバリア性を発現できる。
またナノセルロースを架橋するための架橋剤として、多価カルボン酸のように酸性を呈する反応性架橋剤を用いた場合でも、硫酸基、スルホ基、リン酸基を少なくとも1種を有するナノセルロースは安定して分散することから、架橋剤によってナノセルロース間に効率よく架橋構造を形成することが可能になる。その結果、本発明のガスバリア性組成物から成る架橋膜は、ナノセルロースが有する自己組織化構造と相俟って、ナノセルロースのみから成る塗膜に比して優れたガスバリア性を有している。
尚、本明細書において、硫酸基は、硫酸エステル基をも含む概念である。
【0012】
[ナノセルロース]
本発明のガスバリア性組成物に使用するナノセルロースは、硫酸基、スルホ基、リン酸基の少なくとも1種を含有するナノセルロース(以下、単に「本発明で使用するナノセルロース」ということがある)であり、これに限定されないが、下記(1)~(3)のナノセルロースを例示できる。
尚、ナノセルロースは、繊維長が500nm以下の下記(1)~(3)の少なくとも1種のナノセルロースを含有していればよく、ナノセルロース1g(固形分)中に硫酸基、スルホ基、リン酸基の少なくとも1種を0.1mmol以上含有すると共に、結晶化度が60%以上である限り、従来公知の他のセルロースナノファイバーを含有していてもよい。
(1)セルロース原料を硫酸処理することにより得られた硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタル。
(2)上記(1)の硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、水溶性カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いて親水化処理することにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基を含有するナノセルロース、或いは硫酸基及び/又はスルホ基と、リン酸基又はカルボキシル基を含有するナノセルロース。
(3)セルロース原料をリン酸基含有化合物、又は硫酸基及び/又はスルホ基含有化合物で処理した後、解繊処理することにより得られるリン酸基含有ナノセルロース、又は硫酸基及び/又はスルホ基含有ナノセルロース。
【0013】
(1)セルロースナノクリスタル
セルロースナノクリスタルは、セルロース繊維を硫酸や塩酸で酸加水分解処理することにより得られる、ロッド状のセルロース結晶繊維であるが、本発明においては、自己組織化構造の形成に寄与可能な硫酸基及び/又はスルホ基を有する、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルを使用する。
硫酸処理によるセルロースナノクリスタルは、一般に硫酸基及び/又はスルホ基を0.01~0.2mmol/gの量で含有する。またセルロースナノクリスタルは、平均繊維径が50nm以下、特に2~50nm、の範囲にあり、平均繊維長が100~500nmの範囲にあり、アスペクト比が5~50の範囲にあり、結晶化度が60%以上、特に70%以上であるものを好適に用いることができる。
【0014】
(2)セルロースナノクリスタルを親水化処理して成るナノセルロース
上述したとおり、セルロースナノクリスタル自体が硫酸基及び/又はスルホ基を有するので、そのまま使用することができるが、セルロースナノクリスタルの硫酸基及び/又はスルホ基の含有量は少量であることから、水溶性カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体の何れかを用いた処理により、セルロースナノクリスタルの硫酸基及び/又はスルホ基量が調整されると共に、更にナノセルロースが更に微細繊維化される。またリン酸-尿素、TEMPO触媒又は酸化剤の何れかを用いた処理により、硫酸基及び/又はスルホ基と共に、リン酸基やカルボキシル基のアニオン性官能基が導入される。
尚、親水化処理は、硫酸基、スルホ基、リン酸基の合計含有量が上記範囲となる限り、いずれか一つの処理を行えばよいが、同一の処理を複数回、或いは他の処理と組み合わせて複数回行ってもよい。
【0015】
<カルボジイミドを用いた親水化処理>
カルボジイミドを用いた処理においては、ジメチルホルムアミド等の溶媒中でセルロースナノクリスタルとカルボジイミドを撹拌し、これに硫酸を添加した後、0~80℃の温度で5~300分反応させて硫酸エステルとする。カルボジイミド及び硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して5~30mmolの量で使用することが好ましい。
次いで水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルが調製される。この処理による硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を0.3~1.3mmol/gの量で含有する。
カルボジイミドとしては、分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する水溶性化合物である1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等を例示できる。また有機溶媒に溶解するジシクロヘキシルカルボジイミド等を使用することもできる。
【0016】
<硫酸を用いた親水化処理>
本発明で使用するセルロースナノクリスタルは、セルロース繊維を硫酸で加水分解処理して成るものであるが、このセルロースナノクリスタルを更に硫酸を用いて親水化処理する。硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して40~70質量%の量で使用することが好ましい。40~60℃の温度で5~300分反応させ、その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0017】
<三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた親水化処理>
三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた処理においては、ジメチルスルホキシド中でセルロースナノクリスタルと三酸化硫黄-ピリジン錯体を、0~60℃の温度で5~240分反応させることにより、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基に硫酸基及び/又はスルホ基が導入され、硫酸基及び/又はスルホ基含有ナノセルロースが調製される。この処理による硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を0.3~1.3mmol/gの量で含有する。
三酸化硫黄-ピリジン錯体は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して0.5~4gの質量で配合することが好ましい。
上記反応終了後、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、ジメチルホルムアミド又はイソプロピルアルコールを添加して、遠心分離等によって洗浄した後、透析膜等を用いた濾過処理で不純物を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0018】
<リン酸-尿素を用いた親水化処理>
リン酸-尿素を用いた親水化処理は、リン酸-尿素を用いてリン酸基を導入する従来公知の処理と同様に行うことができる。具体的には、尿素含有化合物の存在下で、セルロースナノクリスタルとリン酸基含有化合物を、135~180℃の温度で5~120分反応させることによって、セルロースグルコールユニットの水酸基にリン酸基を導入し、硫酸基及び/又はスルホ基と、リン酸基を含有するセルロースナノクリスタルが調製される。この処理による硫酸基及び/又はスルホ基と、リン酸基を含有するセルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基と、リン酸基を合計で0.01~4.0mmolの量で含有する。
リン酸基含有化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩等を例示できる。中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸等を好適に使用できる。リン酸基含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して10~100mmolの量で添加することが好ましい。
また尿素含有化合物としては、尿素、チオ尿素、ビュウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素などを例示できる。中でも尿素を好適に使用できる。尿素含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して150~200mmolの量で使用することが好ましい。
【0019】
<TEMPO触媒を用いた親水化処理>
硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルをTEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を用いた親水化処理は、TEMPO触媒を用いた従来公知の酸化方法と同様に行うことができる。具体的には、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルを、TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を介した水系、常温、常圧の条件下で、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基をカルボキシル基に酸化する親水化反応を生じさせる。この処理による硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基と、カルボキシル基を合計で0.01~4.0mmolの量で含有する。
TEMPO触媒としては、上記2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの他、4-アセトアミドーTEMPO、4-カルボキシーTEMPO、4-フォスフォノキシーTEMPO等のTEMPOの誘導体を用いることもできる。
TEMPO触媒の使用量は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して0.01~100mmol、好ましくは0.01~5mmolの量である。
また親水化酸化処理時には、単独又はTEMPO触媒と共に、酸化剤、臭化物又はヨウ化物等の共酸化剤を併用することが好適であり、これらは従来公知の処方によって添加することができる。
【0020】
(3)リン酸基含有化合物で処理したリン酸基含有ナノセルロース
本発明においては、セルロース系原料をリン酸基含有化合物で処理し、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基にリン酸基を導入した後、解繊処理することにより得られるリン酸基含有ナノセルロースを用いることもできる。この処理により、リン酸基含有ナノセルロースは、リン酸基を0.01~4.0mmol/gの量で含有する。
リン酸基含有化合物を用いた処理としては、上記リン酸-尿素を用いた処理と同様に行うことができる。またかかる処理の後に行う解繊処理は、従来公知の方法によって行うことができ、具体的には、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー、高速ブレンダ―、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、離解機、叩解機、二軸押出機等を使用して微細化することができる。解繊処理は、乾式又は湿式の何れで行うこともできるが、次いで行う架橋処理は、スラリー状態で行うことが好ましいことから、水等を分散媒として超高圧ホモジナイザー等により微細化することが好適である。
セルロース系原料としては、従来よりセルロースナノファイバーの原料として使用されていたセルロース系原料を使用することができ、これに限定されないが、クラフトパルプ、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース等の他、製紙等の栽ち落ちであってもよい。好適には、クラフトパルプを使用することが望ましい。また木材パルプは漂白されたもの又は無漂白のものの何れであってもよい。
【0021】
[反応性架橋剤]
本発明のガスバリア性組成物に使用する反応性架橋剤としては、ナノセルロース間に架橋構造を形成可能である限り制限なく使用できるが、本発明に用いるナノセルロースは、酸性条件下でも凝集することなく安定して分散可能なものであるので、特に、反応効率の良い多価カルボン酸又はその無水物を用いることが望ましい。
多価カルボン酸としては、クエン酸、シュウ酸、マロン酸等のアルキルジカルボン酸、テレフタル酸、マレイン酸等の芳香族ジカルボン酸、或いはこれらの無水物等を例示することができ、特に無水クエン酸を好適に使用することができる。
反応性架橋剤は、その種類によって配合量は異なるが、無水クエン酸を使用した場合で、ナノセルロース100質量部(固形分)に対して5~30質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0022】
[酸触媒]
本発明のガスバリア性組成物においては、架橋剤と共に酸触媒を含有することが好ましい。このような酸触媒としては、硫酸、酢酸、塩酸等を例示できるが、特に硫酸を好適に用いることができる。酸触媒は、ナノセルロース100質量部(固形分)に対して0.5~5質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0023】
[その他]
本発明のガスバリア性組成物においては、上述した硫酸基、スルホ基、リン酸基の少なくとも1種を含有するナノセルロース(本発明で使用するナノセルロース)及び反応性架橋剤に加えて、更に水酸基含有高分子及び/又は層状無機化合物を含有することが好適である。
すなわち、水酸基含有高分子は、本発明で使用するナノセルロースと共に緻密な架橋構造を形成し得ることから、得られる架橋膜のガスバリア性が顕著に向上すると共に、湿度条件においても優れたガスバリア性を維持できる。
また層状無機化合物は、膨潤性及び劈開性を有することから、本発明で使用するナノセルロースが、無機層状化合物の層間を広げるように入り込んで複合化し、層状無機化合物により得られる透過ガスの迂回効果と、本発明で使用するナノセルロースの架橋構造とが相俟って、更に優れたガスバリア性を発現できると共に、湿度条件下においても優れたガスバリア性を発現できる。
【0024】
水酸基含有高分子としては、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルアルコール共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、カルボキシルメチルセルロース、澱粉等を例示できるが、ポリビニルアルコールを好適に使用することができる。ポリビニルアルコールは、完全ケン化型で100~10000の重合度を有することが好適である。
水酸基含有高分子の配合量は、ナノセルロース(固形分)100質量部に対して5~30質量部であることが好ましい。
【0025】
層状無機化合物としては、天然又は合成したもの、親水性又は疎水性を示し、溶媒により膨潤して劈開性を示す従来公知のものを使用でき、これに限定されないが、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、マイカ、テトラシリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石等を例示することができ、合成マイカ(親水性膨潤性)を好適に使用することができる。
層状無機化合物の配合量は、ナノセルロース(固形分)100質量部に対して5~30質量部であることが好ましい。
【0026】
[ガスバリア性組成物の調製]
本発明のガスバリア性組成物は、硫酸基、スルホ基、リン酸の少なくとも1種を含有するナノセルロース(本発明で使用するナノセルロース)、反応性架橋剤を含有し、必要により、酸触媒、水酸基含有高分子及び/又は層状無機化合物を含有する。
ガスバリア性組成物は、本発明で使用するナノセルロースを、固形分濃度を調整した分散液の状態とし、これに反応性架橋剤等を直接添加して調製してもよいし、反応性架橋剤等を水溶液の状態として、本発明で使用するナノセルロースの分散液と混合することもできる。
ガスバリア性組成物の分散液においては、本発明で使用するナノセルロースの固形分は、0.1~10質量%の範囲にあることが好ましい。
ガスバリア性組成物の分散液は、反応性架橋剤としてクエン酸等の多価カルボン酸が添加されており、多価カルボン酸の含有量にもよるが、分散液のpHは6以下、特に2~4の範囲にある。前述したとおり本発明のナノセルロースは、硫酸基、スルホ基、リン酸基の少なくとも1種を含有することから、酸性条件下でも凝集することなく、安定して分散している。
【0027】
本発明のガスバリア性組成物は、それ単独でも架橋塗膜を形成することができ、塗工量にもよるが、5~200℃で0.5~180分間、特に150~180℃で0.5~60分間乾燥することにより、ガスバリア性に優れた緻密な架橋塗膜を形成することができる。
【0028】
(ガスバリア性成形体)
本発明のガスバリア性成形体は、上述したガスバリア性組成物のみ、或いはこのガスバリア性組成物と多価カチオン樹脂を含有する混合物から成る成形体であり、ナノセルロースを固形分として1m2当たり1.0g含有する場合の23℃50%RHにおける酸素透過度が18.5(cc/m2・day・atm)未満であり、硫酸基、スルホ基、リン酸を含有しないナノセルロース及び/又は反応性架橋剤を含有しないガスバリア性組成物のみ、或いはこのガスバリア性組成物と多価カチオン樹脂を含有する混合物から成るガスバリア性成形体よりも優れた酸素バリア性を発現可能であると共に、基材上に成形体を成形した場合に、基材層との密着性を顕著に向上可能な成形体である。
本発明の成形体は、多価カチオン樹脂から成る層上に前述したガスバリア性組成物を含有する層を形成することによって、上記ガスバリア性及び基材への密着性を発現可能な混合状態を有する成形体として成形できる。すなわち、本発明の成形体における混合状態を定量的に表現することは困難であるが、前述したガスバリア性組成物が有するナノセルロースの自己組織化構造が維持された状態で多価カチオン樹脂及びガスバリア性組成物が混合され、その状態で架橋構造が形成されることによって初めて形成される。ガスバリア性成形体のガスバリア性組成物及び多価カチオン樹脂から成る混合物の内部は最外部の表面付近から熱可塑性樹脂から成る基材方向までナノセルロース、多価カチオン樹脂及び水酸基含有高分子が存在しており、基材と混合層との界面付近ではナノセルロース及び多価カチオン樹脂の存在比が他の部位に比べて高くなる特徴を有している。
【0029】
[多価カチオン樹脂]
本発明の成形体に使用する多価カチオン樹脂としては、水溶性あるいは水性分散性の多価カチオン性官能基を含有する樹脂である。このような多価カチオン樹脂としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン、ポリアミンエピクロロヒドリン等の水溶性アミンポリマー、ポリアクリルアミド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ジシアンジアミドホルマリン、ポリ(メタ)アクリレート、カチオン化澱粉、カチオン化ガム、キチン、キトサン、ゼラチン等を挙げることができるが、中でも水溶性アミンポリマー、特にポリエチレンイミンを好適に使用することができる。
【0030】
(成形体の製造方法)
本発明の成形体は、多価カチオン樹脂含有溶液を塗工・乾燥し、多価カチオン樹脂から成る層を形成する工程、該多価カチオン樹脂から成る層上に、ガスバリア性組成物含有分散液を塗工・乾燥することにより、多価カチオン樹脂及びナノセルロースが特有の混合状態で混合された架橋構造を有する成形体として製造することができる。
この際、熱可塑性樹脂から成る基材上に多価カチオン樹脂含有溶液を塗工することにより、基材上に、ガスバリア性組成物及び多価カチオン樹脂から成る成形体が形成された積層体として製造することもできる。また多価カチオン樹脂含有溶液及びガスバリア性組成物含有分散液をこの順序でそれぞれ塗布・乾燥させてキャストフィルムとして形成し、ガスバリア性フィルムとして使用することもできる。
【0031】
[多価カチオン樹脂含有溶液の塗工・乾燥]
多価カチオン樹脂含有溶液は、多価カチオン樹脂を固形分基準で0.01~30質量%、特に0.1~10質量%の量で含有する溶液であることが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ガスバリア性及び界面剥離強度の向上を図ることができず、一方上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多くてもガスバリア性及び界面剥離強度の更なる向上は得られず経済性に劣ると共に、塗工性や製膜性にも劣るおそれがある。
また多価カチオン樹脂含有溶液に用いる溶媒としては、水、メタノール,エタノール,イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン,アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤、及びこれらと水との混合溶媒であってもよい。
【0032】
多価カチオン樹脂含有溶液は、ガスバリア性組成物含有分散液から形成される層中のナノセルロース量(固形分)を基準に、多価カチオン樹脂含有溶液の濃度によって塗工量が決定される。すなわち、前述したとおり、ナノセルロース(固形分)を1m2当たり1.0gの量で含有する場合に、多価カチオン樹脂が1m2当たり0.01~2.0gの量で含有されるように、塗工することが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ポリエステル樹脂などの疎水性の基材に対する界面剥離強度の向上を図ることができず、その一方、上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して、成形体のガスバリア性の向上が得られないおそれがある。
塗布方法としては、これに限定されないが、例えばスプレー塗装、浸漬、或いはバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等により塗布することが可能である。また塗膜の乾燥方法としては、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。また乾燥処理は、オーブン乾燥、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができるが、自然乾燥であってもよい。
【0033】
[ガスバリア性組成物含有分散液の塗工・乾燥]
ガスバリア性組成物含有分散液は、ナノセルロースが固形分基準で0.01~10質量%、特に0.5~5.0質量%の量で含有されていることが好ましく、上記範囲よりも少ない場合には、上記範囲にある場合に比してガスバリア性が劣るようになり、その一方上記範囲より多いと上記範囲にある場合に比して塗工性や製膜性に劣るようになる。
また分散液は、水だけでもよいが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン、アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤と水との混合溶媒であってもよい。
また上記多価カチオン樹脂含有溶液又はガスバリア性組成物含有分散液には、必要に応じて、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン、微粒子等、公知の添加剤を配合することができる。
【0034】
ガスバリア性組成物含有分散液は、ナノセルロース(固形分)が1m2当たり0.1~3.0gとなるように塗工することが好ましい。
ガスバリア性組成物分散含有液の塗布方法及び乾燥方法は、多価カチオン含有溶液の塗布方法及び乾燥方法と同様に行うことができるが、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましく、特に温度150~180℃で0.5~60分の条件で乾燥することにより、緻密な架橋構造を形成できるので好ましい。
【0035】
(積層体)
本発明の成形体を含む積層体は、本発明の成形体から成るバリア層を熱可塑性樹脂から成る層上に形成して成るものであり、多価カチオン樹脂の存在により疎水性の樹脂から成る層との界面剥離強度が向上されていることから、バリア層と熱可塑性樹脂から成る層の界面剥離強度が2.3(N/15mm)以上であり、バリア層と基材との層間剥離の発生が有効に防止されている。
積層体は、前述したとおり、熱可塑性樹脂から成る層(基材)上に上述した多価カチオン樹脂含有溶液を塗布・乾燥して多価カチオン樹脂含有層を形成し、次いでこの多価カチオン樹脂含有層上にガスバリア性組成物含有分散液を塗布・乾燥することにより、多価カチオン樹脂及びガスバリア性組成物が混合された混合物の成形体から成るバリア層が熱可塑性樹脂から成る層(基材)上に形成されることにより製造できる。
基材としては、熱可塑性樹脂を用い、押出成形、射出成形、ブロー成形、延伸ブロー成形或いはプレス成形等の手段で製造された、フィルム、シート、或いはボトル状、カップ状、トレイ状、パウチ状等の成形体を例示できる。
基材の厚みは、積層体の形状や用途等によって一概に規定できないが、フィルムの場合で5~50μmの範囲にあることが好適である。
【0036】
熱可塑性樹脂としては、低-、中-或いは高-密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-共重合体、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のオレフィン系共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、メタキシリレンアジパミド等のポリアミド;ポリスチレン、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等のスチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル系共重合体;ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート・エチルアクリレート共重合体等のアクリル系共重合体;ポリカーボネート、セルロース系樹脂;アセチルセルロース、セルロースアセチルプロピーネート、セルロースアセテートブチレート、セロファン等の再生セルロース等を例示できるが、ポリエチレンテレフタレートを好適に用いることができる。
熱可塑性樹脂には、所望に応じて顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等の添加剤の1種或いは2種類以上を配合することができる。
【0037】
本発明の成形体を含む積層体においては、上記基材及び成形体から成るバリア層以外に、必要により他の層を形成することもできる。
本発明の成形体から成るバリア層は、高湿度条件下ではガスバリア性が低下することから、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等の従来公知の耐湿性樹脂から成る層を、エポキシ樹脂とポリアミン樹脂の硬化反応物から成る耐湿性接着層や、従来公知のポリウレタン系接着剤等から成る接着層を介して、更に形成することが好適である。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。各項目の測定方法は、次の通りである。
【0039】
<アニオン性官能基量>
ナノセルロース含有分散液を秤量し、イオン交換水を加えて0.05~0.3質量%のナノセルロース含有分散液100mlを調製した。陽イオン交換樹脂を0.1g加えて攪拌処理した。その後ろ過を行い陽イオン交換樹脂とナノセルロース分散液を分離した。陽イオン交換後の分散液に対して電位差自動滴定装置(京都電子社製)を用いて0.05M水酸化ナトリウム溶液を滴下し、ナノセルロース含有分散液が示す電気伝導度の変化を計測した。得られた伝導度曲線からアニオン性官能基の中和の為に消費された水酸化ナトリウム滴定量を求め、下記式を用いてアニオン性官能基量(mmol/g)を算出した。
アニオン性官能基量(mmol/g)=アニオン性官能基の中和の為に消費した水酸化ナトリウム滴定量(ml)×前記水酸化ナトリウム濃度(mmol/ml)÷ナノセルロースの固形質量(g)
【0040】
<酸素透過度>
酸素透過量測定装置(OX-TRAN2/22、モコン)を用いて、23℃、湿度50%RHの条件で成形体の酸素透過度(cc/m2・day・atm)を測定した。
【0041】
<TOF-SIMS>
多価カチオン樹脂及びナノセルロースを含有する混合物から成る層を有するガスバリア性積層体を1cm角に切り出し、塗工面側を上部にして試料台に固定した。TOF-SIMS分析装置(アルバック・ファイ製、TRIFT V)において塗工面の表面から基材内部までエッジングしながら分析を行った。Arガスクラスターイオン(Ar
n
+)をエッジングイオンとして一次イオン(Bi
3
2+)を照射した。一次イオン加速電圧は30KV、測定極性を負イオンにし、帯電補正用中和銃を使用した。
図1に結果を示す。
【0042】
<実施例1>
<ガスバリア性組成物含有分散液の調製>
パルプを64重量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をN,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して分散させた。N,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して1-エチル-3-(3-ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(東京化成工業株式会社製)が10mmol溶解した溶液をセルロースナノクリスタル分散液に加えて5分間分散した。その後N,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して硫酸が10mmol分散された溶液をセルロースナノクリスタル分散液にゆっくり加え、前記セルロースナノクリスタルを0℃で60分間攪拌しながら親水化処理させた。その後イオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を添加し、透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去し、次いで無水クエン酸及び硫酸をナノセルロース100質量部(固形分)に対して10質量部及び2質量部を添加して攪拌することで硫酸基及び/又はスルホ基を含有するナノセルロース含有分散液(ガスバリア性組成物含有分散液)を調製した。pHは3でナノセルロースのアニオン性官能基量は0.7mmol/gであった。
【0043】
<ガスバリア性成形体の調製>
コロナ処理された2軸延伸PETフィルム(ルミラーP60,12μm,東レ株式会社製)基材にバーコーターを用いて前記方法で製造されたナノセルロースの固形量が3質量%のガスバリア性組成物含有分散液を塗工し、室温で一晩風乾した。その後150℃で30分間乾燥を行うことでガスバリア性樹脂組成物を含有するガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0044】
<実施例2>
<ガスバリア性組成物と多価カチオン樹脂含有混合物から成るガスバリア性成形体の作製>
コロナ処理された2軸延伸PETフィルム(ルミラーP60,12μm,東レ株式会社製)基材にバーコーターを用いてポリエチレンイミン(PEI)(エポミン,P-1000,株式会社日本触媒製)を塗工量が固形量として0.6g/m2になるように塗工した。熱風乾燥器(MSO-TP,ADVANTEC社製)により50℃で10分乾燥して固形化した。実施例1と同様に行ったナノセルロースの固形量が3質量%のガスバリア性組成物含有分散液を、前記の固形化したポリエチレンイミン上にバーコーターを用いて塗工し、その後150℃で30分間乾燥を行うことでガスバリア性組成物及び多価カチオン樹脂を含有する混合体から成るガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0045】
<実施例3>
実施例1と同様の方法でセルロースナノクリスタルの親水化と精製処理を行い、次いで無水クエン酸、硫酸、合成マイカ(親水性膨潤性雲母、片倉コープアグリ社製)、ポリビニルアルコール(完全ケン化型、クラレ社製)をナノセルロース100質量部(固形分)に対して10質量部、2質量部、10質量部及び10質量部を添加して攪拌を行い、pHが3のガスバリア性組成物含有分散液を調製した。前記ガスバリア性組成物含有分散液を用いて実施例1と同様の方法でガスバリア性組成物を含有するガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0046】
<実施例4>
コロナ処理された2軸延伸PETフィルム(ルミラーP60,12μm,東レ株式会社製)基材にバーコーターを用いてポリエチレンイミン(PEI)(エポミン,P-1000,株式会社日本触媒製)を塗工量が固形量として0.6g/m2になるように塗工した。熱風乾燥器(MSO-TP,ADVANTEC社製)により50℃で10分乾燥して固形化した。実施例3と同様に行ったナノセルロースの固形量が3質量%のガスバリア性組成物含有分散液を前記の固形化したポリエチレンイミン上にバーコーターを用いて塗工し、その後150℃で30分間乾燥を行うことでガスバリア性組成物及び多価カチオン樹脂を含有する混合体から成るガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0047】
<実施例5>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をイオン交換水に加えて分散処理を行い、次いで無水クエン酸及び硫酸をナノセルロース100g質量部(固形分)に対して10質量部及び2質量部を添加して攪拌し、硫酸基及び/又はスルホ基を含有するナノセルロースの固形量が1質量%のガスバリア性組成物含有分散液を調製した。pHは3でナノセルロースのアニオン性官能基量は0.1mmol/gであった。前記ガスバリア性組成物含有分散液を用いて実施例2と同様の方法でガスバリア性組成物及び多価カチオン樹脂を含有する混合物から成るガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0048】
<実施例6>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をイオン交換水に加えて分散処理を行い、次いで無水クエン酸、硫酸、合成マイカ(親水性膨潤性雲母、片倉コープアグリ社製)、ポリビニルアルコール(完全ケン化型、クラレ社製)をナノセルロース100g質量部(固形分)に対して10質量部、2質量部、10質量部及び10質量部を添加して攪拌を行い、硫酸基及び/又はスルホ基を含有するナノセルロースの固形量が1質量%のガスバリア性組成物含有分散液を調製した。pHは3でナノセルロースのアニオン性官能基量は0.1mmol/gであった。前記ガスバリア性組成物含有分散液を用いて実施例5と同様の方法でガスバリア性組成物及び多価カチオン樹脂を含有する混合物から成るガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0049】
<実施例7>
尿素10g、リン酸二水素ナトリウム二水和物6g及びリン酸水素二ナトリウム4gをイオン交換水10gに対して溶解させたリン酸溶液を調製し、前記リン酸溶液にパルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル10g(固形量)を加えて攪拌した。多重安全式乾燥機(二葉科学製)を用いて165℃で30分間加熱蒸発を行い、前記セルロースナノクリスタルを親水化処理した。その後イオン交換水を100ml加えて分散処理し、超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いて洗浄した。更にイオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを12に調製し、イオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去し、次いでナノセルロース100g質量部(固形分)に対して、無水クエン酸、硫酸、合成マイカ(親水性膨潤性雲母、片倉コープアグリ社製)、ポリビニルアルコール(完全ケン化型、クラレ社製)を、それぞれ10質量部、2質量部、10質量部、10質量部添加して攪拌を行うことで、リン酸基と、硫酸基及び/又はスルホ基を含有するナノセルロースの固形量が1質量%のガスバリア性組成物含有分散液を調製した。pHは3でナノセルロースのアニオン性官能基量は0.3mmol/gであった。前記ガスバリア性組成物含有分散液を用いて実施例4と同様の方法でガスバリア性樹脂組成物及び多価カチオン樹脂を含有する混合物から成るガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0050】
<実施例8>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル10g(固形量)の水分散液に対しTEMPO触媒(Sigma Aldrich社製)0.8mmolと臭化ナトリウム12.1mmolを添加し、イオン交換水を加えて1Lにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。その後15mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。反応中は0.5N水酸化ナトリム水溶液でpH10.0から10.5に系内のpHを保持し、30℃で4時間攪拌しながら親水化処理を行った。親水化処理したセルロースナノクリスタルはイオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去し、次いで無水クエン酸及び硫酸をナノセルロース100g質量部(固形分)に対して10質量部及び2質量部を添加して攪拌することで、カルボキシル基と、硫酸基及び/又はスルホ基を含有するナノセルロースの固形量が1質量%のガスバリア性組成物含有分散液を得た。pHは3でナノセルロースのアニオン性官能基量は1.3mmol/gであった。前記ガスバリア性組成物含有分散液を用いて実施例2と同様の方法でガスバリア性組成物及び多価カチオン樹脂を含有する混合物から成るガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0051】
<実施例9>
実施例8と同様の方法でセルロースナノクリスタルを親水化と精製処理を行い、次いでナノセルロース100質量部(固形分)に対して無水クエン酸、硫酸、合成マイカ(親水性膨潤性雲母、片倉コープアグリ社製)、ポリビニルアルコール(完全ケン化型、クラレ社製)をそれぞれ10質量部、2質量部、10質量部、10質量部を添加して攪拌することで、カルボキシル基と、硫酸基及び/又はスルホ基を含有するナノセルロースの固形量が1質量%のガスバリア性組成含有分散液を得た。pHが3でナノセルロースのアニオン性官能基量は1.3mmol/gであった。前記ガスバリア性組成物含有分散液を用いて実施例8と同様の方法でガスバリア性組成物及び多価カチオン樹脂を含有する混合物から成るガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0052】
<実施例10>
実施例6と同様の方法でスルホ基及び/又は硫酸基を含有するナノセルロースの固形量が1質量%のガスバリア性組成物含有分散液を調製した。pHは3でナノセルロースのアニオン性官能基量は0.1mmol/gであった。前記ガスバリア性組成物含有分散液を用いて実施例5と同様の方法でガスバリア性組成物及び多価カチオン樹脂を含有する混合物から成るガスバリア成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
前記ガスバリア性成形体にエポキシ系樹脂、ポリアミン系樹脂、メタノール、酢酸エチルが100、320、997、123の配合比(重量)で混合した塗工液を接着層として塗工(ウェット膜厚11um)した後、接着層上にPEフィルムをラミネートし、50℃で48時間静置することで接着層を硬化反応させた。
【0053】
<実施例11>
尿素24g、リン酸二水素アンモニウム9gをイオン交換水27gに対して溶解させたリン酸溶液を調製し、前記リン酸溶液にパルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル5g(固形量)を加えて分散処理した。多重安全式乾燥機(二葉科学製)を用いて165℃で60分間セルロースナノクリスタル分散液を蒸発させながら加熱を行い、前記セルロースナノクリスタルを親水化処理した。その後イオン交換水を100ml加えて分散処理し、超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いて洗浄した。更にイオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを12に調製し、イオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去しナノセルロース含有分散液を調製した。前記の精製されたナノセルロース含有分散液にイオン交換水を加えて分散処理することでナノセルロースの固形量が1質量%のナノセルロース含有分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は2.1mmol/gであった。次いでナノセルロース100質量部(固形分)に対して、無水クエン酸、硫酸、合成マイカ(親水性膨潤性雲母、片倉コープアグリ社製)、ポリビニルアルコール(完全ケン化型、クラレ社製)をそれぞれ10質量部、2質量部、30質量部、30質量部を添加して攪拌を行い、1質量%のガスバリア性組成物含有分散液を調製した。前記ガスバリア性組成物含有分散液を用いて実施例1と同様の方法でガスバリア性組成物を含有するガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0054】
<比較例1>
クラフトパルプ10g(固形量)の水分散液に対し、TEMPO触媒(Sigma Aldrich社)0.8mmolと臭化ナトリウム12.1mmolを添加し、イオン交換水を加えて1Lにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。反応系にセルロース1g当たり15mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。反応中は0.5N水酸化ナトリム水溶液でpH10.0から10.5に系内のpHを保持し、30℃で4時間酸化反応を行った。酸化セルロースはイオン交換水を加えながら高速冷却遠心分離機(16500rpm,10分)を用いて中性になるまで十分洗浄を行った。洗浄した酸化セルロースに水を加えて1質量%に調製し、ミキサー(7011JBB,大阪ケミカル株式会社)で解繊処理してカルボキシル基を含有するナノセルロース含有分散液を調製した。前記ナノセルロース含有分散液を用いて実施例1と同様に塗工を行い、ガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0055】
<比較例2>
比較例1と同様に処理した酸化セルロースに無水クエン酸、硫酸、合成マイカ、ポリビニルアルコールをナノセルロース100質量部(固形分)に対して10質量部、2質量部、10質量部及び10質量部を添加してカルボキシル基を含有するナノセルロース含有分散液を調製した。前記ナノセルロース含有分散液を用いて比較例1と同様に塗工を行い、ガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0056】
<比較例3>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をイオン交換水に加えて分散処理することで硫酸基及び/又はスルホ基を含有するナノセルロース含有分散液を調製した。前記ナノセルロース含有分散液を用いて実施例1と同様に塗工を行い、ガスバリア性成形体を作製した。ナノセルロースの塗工量は固形量として1.0g/m2であった。
【0057】
【0058】
【0059】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のガスバリア性組成物は、ナノセルロースが均一に分散した緻密な架橋構造を形成でき、優れたガスバリア性を有することから、ガスバリア性能を付与可能なコーティング剤として使用できる。また本発明のガスバリア性組成物と多価カチオン樹脂との混合物から成る成形体とすることで、ガスバリア性組成物だけで発現されるガスバリア性よりも優れたガスバリア性を発現可能であり、ガスバリア性フィルムとして、或いは熱可塑性樹脂等から成る疎水性の基材との界面剥離強度も向上されていることから、ガスバリア性積層体として好適に使用される。