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  • 特許-管材の製造方法およびその製造装置 図1
  • 特許-管材の製造方法およびその製造装置 図2
  • 特許-管材の製造方法およびその製造装置 図3A
  • 特許-管材の製造方法およびその製造装置 図3B
  • 特許-管材の製造方法およびその製造装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】管材の製造方法およびその製造装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 5/12 20060101AFI20240423BHJP
   B21D 7/08 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B21D5/12 P
B21D7/08 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021006301
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110718
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤村 政敏
(72)【発明者】
【氏名】岩田 徳利
(72)【発明者】
【氏名】岩田 隆道
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-018963(JP,A)
【文献】特開2003-266133(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171868(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/093006(WO,A1)
【文献】特開昭57-124506(JP,A)
【文献】特開2014-087846(JP,A)
【文献】特開2019-171407(JP,A)
【文献】特開昭48-038269(JP,A)
【文献】特開2000-153310(JP,A)
【文献】特開平09-038726(JP,A)
【文献】米国特許第05050417(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0066037(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 5/12
B21D 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉断面を有する管状の素材である素管を曲げる曲げ工程と、
該曲げられた素管を塑性変形させて該素管と異なる閉断面を有する成形管を得る成形工程と備え
該素管の閉断面と該成形管の閉断面は、成形前後の対応位置における外周長が略等しい管材の製造方法。
【請求項2】
前記曲げ工程および前記成形工程は、前記素管に非圧縮性流体を充填してなされる請求項1に記載の管材の製造方法。
【請求項3】
前記素管は、略円環状の閉断面を有する丸管であり、
前記成形管は、略角環状の閉断面を有する角管である請求項1または2に記載の管材の製造方法。
【請求項4】
前記成形管は、断面、肉厚、材質または特性の少なくとも一つが長手方向に変化する異形管である請求項1~3のいずれかに記載の管材の製造方法。
【請求項5】
前記成形管は、肉厚、材質または特性の少なくとも一つが周方向に関して異なる部位を有する請求項1~4のいずれかに記載の管材の製造方法。
【請求項6】
前記成形管は、曲げ方向または曲率の少なくとも一つが長手方向に関して異なる部位を有する請求項1~のいずれかに記載の管材の製造方法。
【請求項7】
閉断面を有する管状の素材である素管を長手方向へ移動させる送り手段と、
該素管を長手方向へ移動させつつ該素管を支持する支持手段と、
該支持手段の下流側で該素管を曲げる曲げ手段と、
該曲げられた素管を塑性変形させて該素管と異なる閉断面を有する成形管にする成形手段と備え
該成形管は、略矩形環状の閉断面を有する矩形管であり、
該成形手段は、該素管に接すると共に該素管を囲む四つの成形ロールと、
該成形ロールのそれぞれを該素管の内側へ押動する押動手段と、
該成形ロールの押動に連動して該押動方向へ該成形ロールの隣にある成形ロールをスライドさせる連動部材とをさらに有する管材の製造装置。
【請求項8】
前記支持手段は、該素管に接する対向した少なくとも一対の支持ロールを備える請求項に記載の管材の製造装置。
【請求項9】
前記支持ロールは、前記素管の長手方向に沿って少なくとも2列ある請求項に記載の管材の製造装置。
【請求項10】
前記曲げ手段は、前記素管の移動に応じて曲げ方向または曲率の少なくとも一つを変化させ得る請求項のいずれかに記載の管材の製造方法。
【請求項11】
前記成形手段は、前記素管の移動に応じて該素管が通過する成形空間の形態または傾きの少なくとも一つを変化させ得る請求項10のいずれかに記載の管材の製造方法。
【請求項12】
前記成形手段は、前記曲げられた素管に接すると共に該素管を囲む少なくとも二対の成形ロールを備える請求項11のいずれかに記載の管材の製造装置。
【請求項13】
前記曲げ手段と前記成形手段は一体化している請求項12のいずれかに記載の管材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管材の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
一定断面のストレートな直管のみならず、長手方向に沿って断面や曲率等が変化する異形管が構造部材(例えば、自動車のピラー等)として用いられる。異形管を用いることにより、軽量化と高い機械的特性(強度、剛性等)を高次元で両立できる。
【0003】
異形管は、その全体を板材の溶接等により製造することもできる。しかし、基本的な断面形状の素管(一定断面の管材の他、テーラードブランク(tailored blank)管材も含む。)に曲げや成形を加えて異形管が得られると、その生産性を向上させ得る。これに関連する記載が下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-301587
【文献】特開2014-87846
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、軸方向(長手方向)に周長(断面)が変化する予め製作された素材(異形管)に対して曲げ加工だけを行っている。特許文献2は、一定断面の管状の素材(素管)を所望断面に成形した後、その素材(異形管)に曲げ加工を行っている。
【0006】
このような従来の方法により曲げられた管材は、その断面が所望断面と異なったもの(つまり形状崩れを生じたもの)となり易い。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、所望形態の管材が効率的に得られる製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、素材(素管)を曲げた後に所望断面へ成形することにより、断面(形状)崩れを抑制できることを見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《製造方法》
(1)本発明は、閉断面を有する管状の素材である素管を曲げる曲げ工程と、該曲げられた素管を塑性変形させて該素管と異なる閉断面を有する成形管を得る成形工程と、を備える管材の製造方法である。
【0010】
(2)本発明の製造方法によれば、素管の曲げ(成形)により生じた応力状態を利用しつつ素管を塑性変形させることにより、素管と異なる断面を有する成形管を、形状崩れを抑制しつつ効率的に得ることができる。
【0011】
《製造装置》
本発明は製造装置としても把握される。例えば、本発明は、閉断面を有する管状の素材である素管を長手方向へ移動させる送り手段と、該素管を長手方向へ移動させつつ該素管を支持する支持手段と、該支持手段の下流側で該素管を曲げる曲げ手段と、該曲げられた素管を塑性変形させて該素管と異なる閉断面を有する成形管にする成形手段と、を備える管材の製造装置でもよい。
【0012】
《管材、制御装置等》
本発明は、上述した製造方法により得られた管材(成形管)としても把握される。また、上述した製造装置を制御する方法または装置としても把握される。制御対象は、例えば、送り手段による送り速度、曲げ手段による曲げ方向や曲率、成形手段による成形空間の形態(形状、大きさ)等がある。これらを素管の移動に応じて制御すれば、長手方向に関して、曲げ方向や曲率、断面の形状や肉厚、特性等が異なる成形管を得ることもできる。また、周方向に関して、肉厚、特性等が異なる成形管を得ることもできる。
【0013】
素管と成形管は、対応する断面位置における外周長が異なっていてもよい。その外周長が略等しくなるように曲げまたは成形すれば、形状(断面)崩れがより抑制され得る。
【0014】
《その他》
(1)本発明でいう素管の曲げと成形は、段階的(逐次的)になされても、連続的になされても、略同時的(略一体的)になされてもよい。
【0015】
(2)本明細書でいう長手方向は、管材(特に素管)が延在する方向である。管材は、通常、その長手方向(軸線方向)に移送される。管材は、上流側から押し出されてもよいし、下流側から引き抜かれてもよいし、それらの中間で送りされてもよい。管材の肉厚は、その断面中心を通過する軸線に対する直交方向(放射方向)の幅である。
【0016】
(3)本明細書でいう「~手段」、「~工程」または「~ステップ」は、相互に読み替えることができる。例えば、方法に係る構成要素である「~工程」を「~手段」と読み替えることにより装置に係る構成要素とすることができる。逆に、装置に係る構成要素である「~手段」を「~工程」と読み替えることにより方法に係る構成要素とすることもできる。各手段、各工程または各ステップは、プログラムをコンピュータで実行して実現されてもよい。この場合、本発明を製造装置の制御プログラムとして把握してもよい。
【0017】
(4)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。特に断らない限り、本明細書でいう「x~ymm」はxmm~ymmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】管材の製造装置(一例)を示す概要図である。
図2】その要部の拡大図である。
図3A】成形ローラの駆動制御装置(一例)を示す正面図である。
図3B】その側面図である。
図4】成形管の断面図に係る解析例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、製造方法や製造装置のみならず管材(特に成形管)にも適宜該当し、方法的な構成要素であっても物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0020】
《管材》
(1)材質
管材(素管または成形管)は、鉄系、アルミニウム系、マグネシウム系、チタン系等のいずれでもよい。管材の代表例は鋼管(例えば高張力鋼管)である。なお、本明細書でいう「~系」は、材質が純金属または合金であることを意味する。
【0021】
管材の厚さ(肉厚)は、周方向および長手方向に一定でもよいし、周方向と長手方向の少なくとも一方に関して変化してもよい。肉厚は適宜選択されるが、例えば、0.5~7mmさらには0.8~4mm程度である。
【0022】
(2)素管
素管は、断面、肉厚および材質が一定でもよいし、断面が長手方向(軸線方向)に関して変化していてもよいし、肉厚や材質が周方向と長手方向の少なくとも一方に関して変化していてもよい。本明細書では、断面、肉厚および材質が一定でない管材(特に長手方向に変化する管材)を異形管という。
【0023】
素管は、継目無管でも溶接管でもよい。継目無管は、例えば、熱間または冷間で造管(押出管、伸管等)されて得られる。異形管(素管)は、成形管の仕様に応じて、例えば、部位毎に異なる管材や鋼板を溶接して製造される。素管として、例えば、略円環状の閉断面を有する丸管がある。なお、本明細書でいう「略円」は、真円度を問わず、楕円も含む意味である。
【0024】
(3)成形管
成形管は、曲げ応力が印加された素管を塑性加工して得られる。成形管は、長手方向の少なくとも一部において、素管と異なる断面を有する。成形管は、必ずしも環状の閉断面である必要はない。流体が内通する配管でない成形管(構造部材)は、所望特性を満たす形態であれば足る。また成形管は湾曲した曲げ管に限らず、曲げ管を曲げ戻し等して直管にしたものでもよい。
【0025】
成形管として、例えば、略角環状の閉断面を有する角管がある。その閉断面は、例えば、略三角環状(三角管)、略四角環状(四角管)、略五角環状(五角管)、略六角環状(六角管)等である。角管の代表例として、閉断面が略矩形環状(略四角環状)である矩形管(四角管)がある。なお、本明細書でいう「略角」は、角や面の精度を問わず、角や隅に面取りや丸め等がある場合を含む意味である。
【0026】
《製造方法》
成形管は、素管に対する曲げ工程および成形工程を経て得られる。曲げ工程は、二次元曲げでも三次元曲げでもよい。成形工程は、素管を成形空間(キャビティ)へ通過させたり、素管の外周面を押動したりしてなされる。成形時、回転や曲げ等がさらに付加されてもよい。このとき、成形前後で素管と成形管の外周長変化が少ないと、形状崩れを抑制できて好ましい。
【0027】
曲げ工程や成形工程は、素管に非圧縮性流体を充填さらには加圧してなされるハイドロベンドやハイドロフォーミングであると、成形管の形状崩れがより一層抑制され得る。
【0028】
《製造装置》
製造装置は、例えば、送り手段と、支持手段、曲げ手段、成形手段等を備える。
【0029】
送り手段は素管を長手方向へ移動させる。上流側(成形管となる反対側)から下流側へ素管を押し出す(送出する)場合、素管の長さに応じて、その座屈を抑止する手段を設けるとよい。例えば、曲げ前の素管の中間域に、素管に接する対向した少なくとも一対の補助ロールを設けるとよい。補助ロールは、素管の移動に連動したり、素管の上端部が近接するときに回避動を行うとよい。
【0030】
支持手段は、素管の長手方向への移動を許容しつつ素管を支持して、素管の曲げ起点(支点)となる。支持手段は、例えば、素管の曲げ方向に応じて、素管に接する対向した少なくとも一対の支持ロールを備えてなる。また、素管の曲げ方向が複数ある場合(3次元的に曲げられる場合)は、曲げ起点となる支持ロールは、少なくとも二対あるとよい。例えば、上下一対の支持ロールと左右一対の支持ロールが曲げ起点に配設されるとよい。このような支持ロールは、さらに、素管の長手方向に沿って少なくとも2列あると、素管をより安定して支持できる。
【0031】
曲げ手段は、支持手段の下流側において、素管の移動方向を曲げ起点(支持手段)の前後で変更して素管を曲げる。曲げ方向または曲率は長手方向に沿って、一定でも変化してもよい。
【0032】
成形手段は、その曲げられた素管を塑性変形させて、素管と異なる閉断面を有する成形管にする。成形手段は、例えば、成形管の閉断面に応じて曲げられた素管に接すると共に素管を囲む少なくとも二対の成形ロールにより実現される。成形ロールにより形成された隙間(成形空間)に素管を通過させることにより、所望断面の成形管が得られる。
【0033】
曲げ起点(支持手段)より上流側における素管の軸線(移動方向)から逸脱した位置に成形手段(例えば成形ロール)を配設すると、成形手段は素管に曲げを加えつつ成形することになる。つまり、成形手段は曲げ手段を兼ねることになり、両者は一体化され得る。
【0034】
一例として、略矩形環状の閉断面を有する矩形管(成形管)を製造する場合を考えると、成形手段は、素管に接すると共に素管を囲む四つの成形ロールと、その各成形ロールを素管の内側へ押動する押動手段とを備えるとよい。押動手段は、例えば、油圧または電動で駆動されるアクチュエーター(シリンダ、ネジ等)からなる。押動手段により対向する成形ロールの間隙(成形空間)を調整すれば、長手方向に一定または変化した断面を有する成形管が得られる。
【0035】
ある成形ロールの移動に連動して別な成形ロールをスライドさせてもよい。例えば、第1成形ロールを押動手段で移動させたとき、それに隣接する第2成形ロールを同期してスライドさせるとよい。これにより素管を成形する隙間(キャビティ)を安定して維持できる。第1成形ロールによる第2成形ロールのスライドは、例えば、第2成形ロールに接するブロック(連動部材)等を第1成形ロールの押動手段で移動させることで行える。連動部材を利用すれば、第2成形ロールをスライドさせる駆動源を省略できる。
【実施例
【0036】
丸管(素管)を矩形状断面の角管(矩形管/成形管)へ成形する具体例を示しつつ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0037】
《概要》
(1)構成
本発明の一実施例である管材の製造装置D(単に「装置D」という。)の概要を図1および図2に示した。なお、本実施例では、特に断らない限り、図中に矢印で示した方向を上下方向、左右方向、前後方向(素管の移動方向)とする。
【0038】
装置Dは、前後方向に断面が一定なストレート状の丸管T0を、長手方向に断面が一定または変化した角管T1へ成形する。装置Dは、成形ロール11と、第1支持ロール21(支持手段)と、第2支持ロール22と、補助ロール23と、丸管T0(角管T1)の下流端側開口に取り付けられたチェック3と、丸管T0の上流端側開口に取り付けられたチェック4と、チェック4を介して丸管T0を下流側へ押し込む送り手段(図略)と、成形ロール11を変位させる駆動制御装置M(後述)とを備える。
【0039】
成形ロール11は、上下方向に対向する一対の成形ロール111、112と左右方向に対向する一対の成形ロール113、114とを備える。各成形ロールの外周面は、断面が直線状である円筒面からなる。各成形ロールにより角管T1の外形状に応じた方形状(矩形状)の成形空間s(キャビティ)が形成される。
【0040】
第1支持ロール21も、上下方向に対向する一対の支持ロール211、212と左右方向に対向する一対の支持ロール213、214とを備える。各支持ロールの外周面は、断面が丸管T0の外周面に沿う半円弧状である環状曲面からなる。第1支持ロール21が、丸管T0の曲げ起点(支点)を構成する。
【0041】
第2支持ロール22も、上下方向に対向する一対の支持ロール221、222と左右方向に対向する一対の支持ロール223、224(図略)とを備える。第2支持ロール22も第1支持ロール21と同形状であり、各外周面は、断面が丸管T0の外周面に沿う半円弧状である環状曲面からなる。第2支持ロール22は、第1支持ロール21と協働して、曲げられる丸管T0を安定的に支持する。
【0042】
補助ロール23も、上下方向に対向する一対の補助ロール231、232と左右方向に対向する一対の補助ロール233、234(図略)とを備える。補助ロール23も第1支持ロール21、第2支持ロール22と同形状であり、各外周面は、断面が丸管T0の外周面に沿う半円弧状である環状曲面からなる。補助ロール23は、丸管T0をその上流端と第2支持ロール22の間で支持して、丸管T0の押込み時の座屈を抑止する。
【0043】
第1支持ロール21、第2支持ロール22および補助ロール23は、丸管T0の外径(外形幅)に応じて、対向間隔(隙間)が調整可能である。これにより各ロールは、丸管T0の外表面に安定的に接触して転動する。また、補助ロール23は前後方向への移動が可能であり、丸管T0の進行に連動して後方向(下流側)へ移動する。
【0044】
チェック3は、丸管T0(角管T1)の下流端側開口を液密に閉塞すると共に、管内へ液体(例えば水や油/非圧縮性流体)を充填する供給口を兼ねる。液体は、例えば、管内に加圧(0.1~10MPa程度)した状態で充填される。このような液体の充填により、丸管T0を曲げまたは成形したときに内外面に生じるシワや形状崩れ等をより一層抑止できる。
【0045】
チェック4は、丸管T0の上流端側開口を液密に閉塞すると共に、油圧または電動のシリンダ等(送り手段/図略)に把持されて、丸管T0を下流側へ押し出す。
【0046】
(2)曲げと成形
丸管T0は、液体が充填された状態で、チェック4から下流側へ押し出され、補助ロール23、第2支持ロール22、第1支持ロール21および成形ロール11を通過して角管T1となる。
【0047】
ここで第1支持ロール21、第2支持ロール22および補助ロール23は、丸管T0をその軸線(前後方向に延在するストレートな中心線)に沿って支持している。一方、成形ロール11により構成される成形空間sは、その軸線から変位(並進と回転)した位置にある。この変位により、丸管T0には第1支持ロール21を起点とした曲げが生じる。丸管T0は、その曲げにより特定の応力状態となったまま成形ロール11により外周面が押動されて塑性変形して角管T1となる。
【0048】
成形ロール11は図2に示すように、成形ロール111~114はそれぞれ、丸管T0の外周面を半径方向内側へ押し込む方向(外周面の法線方向)へ駆動され得る。また、成形ロール11全体(成形空間)は、上下方向への平行動(L1)、左右方向への平行動(L2)、上下方向への回転動(θ1)、左右方向への回転動(θ2)が可能となっている。こうして成形ロール11は、複数方向への並進動または回転動が可能であり、成形ロール11により形成される成形空間sも、その大きさや向きが様々に変化し得る。
【0049】
《駆動制御装置》
成形ロール11の駆動制御装置M(単に「装置M」という。)を図3A(正面図)と図3B(側面図)に例示した。図3A図3Bを併せて図3という。なお、既述した部材等には同符号を付し、適宜、それらの説明を省略した。また、符号は代表的な図面または部材等について主に付し、類似する部材等への符号は適宜省略した。
【0050】
装置Mは、床等に固定された基台100と、駆動機構131により基台100に対して上下動(L1)する昇降台101と、駆動機構132により昇降台101に対して左右方向に水平移動(L2)する外枠102と、駆動機構133により外枠102に対して上下(鉛直)軸まわりに回転(θ2)する中枠103と、駆動機構134により中枠103に対して左右(水平)軸まわりに回転(θ1)する内枠104と、上述した成形ロール111~114の各回転軸(枢軸)を丸管T0の外周面へ移動させる駆動機構121~124(これらを併せて「駆動機構12」という。)とを備える。成形ロール11と駆動機構12(押動手段)は内枠104の内側に配設される。本発明でいう成形手段および曲げ手段は、成形ロール11と駆動制御装置Mにより実現される。
【0051】
駆動機構12、131、132は、減速機を伴う直動機構(例えば、ウォームギア、送り螺子等)とその駆動源であるサーボモータを備える。駆動機構133、134は、減速機を伴う回転機構とその駆動源であるサーボモータを備える。それぞれの駆動機構(特にサーボモータ)は、制御プログラムを実行するコンピュータにより個別に制御され得る。
【0052】
装置Mは、さらに、駆動機構121~124に並設された連結スライドブロック141~144(これらを併せて「ブロック14」という。)を備える。ブロック14(連動部材)により、隣接する成形ロール11の連動が実現される。例えば、連結スライドブロック141は、駆動機構121による成形ロール111の上方動に連動して、隣接する成形ロール113を上方動させる。なお、連結スライドブロック141は、駆動機構123に対してスライドするため、成形ロール113の左右動を妨げない。このようなブロック14により矩形状の成形空間sが安定して形成される。
【0053】
《解析例》
上述したような装置Dを用いて丸管から角管を成形する場合を想定して、得られる角管の断面をCAE(computer-aided engineering)解析して求めた。
【0054】
φ50.8mm×t1.2mmの丸管(素管)を、外形断面が38mm×38mmの角管へ成形する場合について、衝撃・構造解析ソフトLS-DYNA(株式会社JSOL製)を用いて解析した。このとき、成形ロールにより形成される成形空間は角管の外形断面と同形状とし、成形空間の中心位置は丸管の軸線から33mm上方(つまり成形ロール全体の押上量:33mm)とした。なお、解析は、管内に液体が充填されていない状態(内圧なし状態)で行った。
【0055】
こうして丸管から成形された角管の断面(解析結果)を図4に示した。図4から明らかなように、本発明の製造方法によれば、曲げられた角管(曲率半径:664mm)の断面は、目標断面に対してズレが1mm以内となった。
【0056】
比較のため、38mm×38mmの角管(素管)を、44mm上方に押し上げた成形ロール全体で曲げたときに得られる角管(曲率半径:763mm)の断面も求めた。その解析結果を図4に併せて示した。この場合、押上量を11mm増加させたにもかかわらず、曲率半径は逆に大きくなり、その断面は目標断面から大きく逸脱した形状となり、形状崩れが大きくなることがわかった。丸管から角管を成形した場合と曲率半径を同程度にすれば、形状崩れがさらに大きくなると考えられる。
【0057】
以上から、曲げを加えた素管を成形することにより、断面崩れを抑制しつつ、所望断面の管材を効率的に製造できることが確認された。
【符号の説明】
【0058】
T0 丸管(素管)
T1 角管
D 管材の製造装置
M 駆動制御装置
11 成形ロール(成形手段)
21 支持ロール(支持手段)
図1
図2
図3A
図3B
図4