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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】インバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/487 20070101AFI20240423BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240423BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H02M7/487
H02M7/48 E
H02P27/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021055374
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152558
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】利行 健
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-115700(JP,A)
【文献】特開2013-85325(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128842(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/487
H02M 7/48
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータであって、
高電位配線(12)と、
低電位配線(16)と、
中性点(14)と、
前記高電位配線と前記中性点の間に接続された上側コンデンサ(20)と、
前記中性点と前記低電位配線の間に接続された下側コンデンサ(22)と、
U相スイッチング回路(30u)、V相スイッチング回路(30v)、及び、W相スイッチング回路(30w)を有する3つのスイッチング回路と、
指令回路(72)と、
制御回路(70)、
を有し、
3つの前記スイッチング回路のそれぞれが、複数の半導体素子と出力配線を有し、
前記制御回路が、前記U相スイッチング回路の前記出力配線であるU相出力配線(60u)、前記V相スイッチング回路の前記出力配線であるV相出力配線(60v)、及び、前記W相スイッチング回路の前記出力配線であるW相出力配線(60w)のそれぞれの電位を前記高電位配線の電位である高電位、前記中性点の電位である中性点電位、及び、前記低電位配線の電位である低電位の間で変化させるように前記3つのスイッチング回路を制御し、
前記指令回路が、パラメータVu、Vv、Vwによって規定される空間ベクトル座標系により示される電圧ベクトルによって構成される指令値ベクトルを生成し、
前記パラメータVuは、前記U相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であり、
前記パラメータVvは、前記V相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であり、
前記パラメータVwは、前記W相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であり、
前記制御回路は、前記指令値ベクトルに基づいて3つの前記スイッチング回路を制御し、
前記空間ベクトル座標系が、原点と最外周座標点との間に位置する複数の中間座標点(M1~M6)を有し、
前記各中間座標点が、前記上側コンデンサの電圧を変化させる電圧ベクトルを示す上側座標と、前記下側コンデンサの電圧を変化させる電圧ベクトルを示す下側座標を有し、
前記空間ベクトル座標系が、前記原点と複数の前記中間座標点のうちの隣接する2つとを頂点とする三角形領域(T1~T6)を複数個有し、
前記制御回路は、前記半導体素子のうちのいずれかが短絡故障することによって3つの前記スイッチング回路のうちの1つで前記高電位と前記低電位のいずれか一方である禁止電位を対応する前記出力配線に印加できなくなった場合に、非常動作を実行可能であり、
短絡故障した前記半導体素子を短絡故障素子といい、
3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含む1つの前記スイッチング回路の前記出力配線を制限出力配線といい、
3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含まない2つの前記スイッチング回路の前記出力配線をそれぞれ正常出力配線といい、
前記非常動作では、前記制御回路は、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させ、
前記非常動作では、複数の前記中間座標点が、前記上側座標と前記下側座標の両方が前記禁止電位を示す禁止パラメータを含まない複数の正常中間座標点と、前記上側座標と前記下側座標の一方が前記禁止パラメータを含むとともに他方が前記禁止パラメータを含まない複数の制限中間座標点とを有し、
前記非常動作では、複数の前記三角形領域が、頂点を構成する2つの前記中間座標点の両方が前記制限中間座標点である第1制限三角形領域と、頂点を構成する2つの前記中間座標点の一方が前記正常中間座標点であるとともに他方が前記制限中間座標点である第2制限三角形領域と、頂点を構成する2つの前記中間座標点の両方が前記正常中間座標点である正常三角形領域と、を有し、
前記非常動作では、前記制御装置は、前記指令値ベクトルが前記第1制限三角形領域に属する制限状態において、前記原点の座標と、第1中間座標点の座標である第1座標と、第2中間座標点の座標である第2座標を時間的にずらして出力し、
前記制限状態では、前記指令値ベクトルが属する前記第1制限三角形領域である特定第1制限三角形領域と前記特定第1制限三角形領域に隣接する前記第2制限三角形領域である隣接第2制限三角形領域とによって構成される四角形のうちの前記原点を含まない対角を構成する2つの前記中間座標点のうち、前記特定第1制限三角形領域内の前記中間座標点が前記第1中間座標点であり、前記隣接第2制限三角形領域内の前記中間座標点が前記第2中間座標点であり、
前記第1座標が、前記第1中間座標点の前記上側座標と前記下側座標のうちの前記禁止パラメータを含まない方の座標であり、
前記第2座標が、前記第1座標が前記上側座標であるときには前記第2中間座標点の前記下側座標であり、前記第1座標が前記下側座標であるときには前記第2中間座標点の前記上側座標である、
インバータ。
【請求項2】
前記制限状態では、前記指令回路が、前記第1中間座標点と前記第2中間座標点を結ぶ線分(L1)を超えない前記指令値ベクトルを生成する、請求項1に記載のインバータ。
【請求項3】
前記非常動作では、前記制御装置は、前記指令値ベクトルが前記第2制限三角形領域に属する予備状態において、前記原点の座標と、第3中間座標点の座標である第3座標と、第4中間座標点の座標である第4座標を時間的にずらして出力し、
前記予備状態では、前記指令値ベクトルが属する前記第2制限三角形領域である特定第2制限三角形領域と前記特定第2制限三角形領域に隣接する前記第1制限三角形領域である隣接第1制限三角形領域とによって構成される四角形のうちの前記原点を含まない対角を構成する2つの前記中間座標点のうち、前記隣接第1制限三角形領域内の前記中間座標点が前記第3中間座標点であり、前記特定第2制限三角形領域内の前記中間座標点が前記第4中間座標点であり、
前記第3座標が、前記第3中間座標点の前記上側座標と前記下側座標のうちの前記禁止パラメータを含まない方の座標であり、
前記第4座標が、前記第3座標が前記上側座標であるときには前記第4中間座標点の前記下側座標であり、前記第3座標が前記下側座標であるときには前記第4中間座標点の前記上側座標である、
請求項1または2に記載のインバータ。
【請求項4】
前記予備状態では、前記指令回路が、前記第3中間座標点と前記第4中間座標点を結ぶ線分(L2)を超えない前記指令値ベクトルを生成する、請求項3に記載のインバータ。
【請求項5】
3つの前記スイッチング回路のそれぞれが、
正極が前記高電位配線に接続されている第1スイッチング素子(41)と、
正極が前記第1スイッチング素子の負極に接続されており、負極が対応する前記出力配線に接続されている第2スイッチング素子(42)と、
正極が対応する前記出力配線に接続されている第3スイッチング素子(43)と、
正極が前記第3スイッチング素子の負極に接続されており、負極が前記低電位配線に接続されている第4スイッチング素子(44)と、
アノードが前記中性点に接続されており、カソードが前記第1スイッチング素子の前記負極に接続されている第1ダイオード(51)と、
アノードが前記第3スイッチング素子の前記負極に接続されており、カソードが前記中性点に接続されている第2ダイオード(52)、
を有し、
前記短絡故障素子が前記第2スイッチング素子または前記第2ダイオードである場合には前記禁止電位が前記低電位であり、
前記短絡故障素子が前記第3スイッチング素子または前記第1ダイオードである場合には前記禁止電位が前記高電位である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のインバータ。
【請求項6】
3つの前記スイッチング回路のそれぞれが、
前記高電位配線と対応する前記出力配線の間に接続されている第1スイッチング素子(441)と、
前記中性点と対応する前記出力配線の間に接続されている第2スイッチング素子(442)と、
前記中性点と対応する前記出力配線の間に前記第2スイッチング素子に対して直列に接続されている第3スイッチング素子(443)と、
対応する前記出力配線と前記低電位配線の間に接続されている第4スイッチング素子(444)と、
カソードが前記中性点側を向く向きで前記第2スイッチング素子に対して並列に接続されている第1中間ダイオード(452)と、
カソードが対応する前記出力配線側を向く向きで前記第3スイッチング素子に対して並列に接続されている第2中間ダイオード(453)、
を有し、
前記短絡故障素子が前記第2スイッチング素子である場合には前記禁止電位が前記低電位であり、
前記短絡故障素子が前記第3スイッチング素子である場合には前記禁止電位が前記高電位である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のインバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、インバータに関する。
【0002】
特許文献1には、3レベルで出力電位を変化させることができるインバータが開示されている。このインバータは、高電位配線と中性点の間に接続された上側コンデンサと、中性点と低電位配線の間に接続された下側コンデンサを有している。このため、中性点の電位は、高電位配線と低電位配線の間の電位となる。このインバータは、3つの出力配線(U相、V相、W相)毎にスイッチング回路を有している。各スイッチング回路は、複数の半導体素子を有している。スイッチング回路のそれぞれは、各半導体素子を動作させることによって、対応する出力配線の電位を高電位、中性点電位、低電位の間で変化させる。各出力配線の電位が3レベルの間で変化することで、各出力配線の間に三相交流電流が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-220325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各スイッチング回路内の半導体素子が短絡故障する場合がある。この場合、短絡故障素子を有するスイッチング回路では、出力配線に特定の電位を印加できなくなる場合がある。例えば、短絡故障素子が生じると、その短絡故障素子に接続された別の半導体素子(以下、特定素子という)をオンさせたときに、高電位配線、中性点及び低電位配線の間で線間短絡が生じる場合がある。この場合、特定素子をオンさせることができず、高電位、中性点電位または低電位を出力配線に印加できなくなる。以下では、出力配線に印加できない電位を禁止電位という。
【0005】
短絡故障素子が発生した場合でも、インバータによって三相交流電流を発生させたい場合がある。このような場合、禁止電位以外の2つの電位で各出力配線の電位を変化させることが考えられる。
【0006】
中性点電位が禁止電位の場合には、3つの出力配線の電位を高電位と低電位の間で変化させて、三相交流電流を発生させることができる。この場合、インバータは継続的に三相交流電流を発生させることができる。
【0007】
低電位が禁止電位の場合には、3つの出力配線の電位を高電位と中性点電位の間で変化させて、三相交流電流を発生させることができる。しかしながら、この場合には、インバータは、継続的に三相交流電流を発生させることができない。すなわち、この動作では、上側コンデンサに蓄えられた電荷が継続的に使用されるため、一定時間経過後に上側コンデンサの電荷が極端に少なくなって中性点電位が極端に高くなる。このように中性点電位が極端に高くなると、適切に三相交流電流を発生させることができない。
【0008】
高電位が禁止電位の場合には、3つの出力配線の電位を中性点電位と低電位の間で変化させて、三相交流電流を発生させることができる。しかしながら、この場合には、インバータは、継続的に三相交流電流を発生させることができない。すなわち、この動作では、下側コンデンサに蓄えられた電荷が継続的に使用されるため、一定時間経過後に下側コンデンサの電荷が極端に少なくなって中性点電位が極端に低くなる。このように中性点電位が極端に低くなると、適切に三相交流電流を発生させることができない。
【0009】
以上に説明したように、上述した技術では、禁止電位が高電位または低電位の場合に、継続的に三相交流電流を発生させることができない。本明細書では、このような場合に、継続的に三相交流電流を発生させることができるインバータを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書が開示するインバータは、高電位配線と、低電位配線と、中性点と、前記高電位配線と前記中性点の間に接続された上側コンデンサと、前記中性点と前記低電位配線の間に接続された下側コンデンサと、U相スイッチング回路、V相スイッチング回路、及び、W相スイッチング回路を有する3つのスイッチング回路と、指令回路と、制御回路、を有する。3つの前記スイッチング回路のそれぞれが、複数の半導体素子と出力配線を有する。前記制御回路が、前記U相スイッチング回路の前記出力配線であるU相出力配線、前記V相スイッチング回路の前記出力配線であるV相出力配線、及び、前記W相スイッチング回路の前記出力配線であるW相出力配線のそれぞれの電位を前記高電位配線の電位である高電位、前記中性点の電位である中性点電位、及び、前記低電位配線の電位である低電位の間で変化させるように前記3つのスイッチング回路を制御する。前記指令回路が、パラメータVu、Vv、Vwによって規定される空間ベクトル座標系により示される電圧ベクトルによって構成される指令値ベクトルを生成する。前記パラメータVuは、前記U相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値である。前記パラメータVvは、前記V相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値である。前記パラメータVwは、前記W相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値である。前記制御回路は、前記指令値ベクトルに基づいて3つの前記スイッチング回路を制御する。前記空間ベクトル座標系が、原点と最外周座標点との間に位置する複数の中間座標点を有する。前記各中間座標点が、前記上側コンデンサの電圧を変化させる電圧ベクトルを示す上側座標と、前記下側コンデンサの電圧を変化させる電圧ベクトルを示す下側座標を有する。前記空間ベクトル座標系が、前記原点と複数の前記中間座標点のうちの隣接する2つとを頂点とする三角形領域を複数個有する。前記制御回路は、前記半導体素子のうちのいずれかが短絡故障することによって3つの前記スイッチング回路のうちの1つで前記高電位と前記低電位のいずれか一方である禁止電位を対応する前記出力配線に印加できなくなった場合に、非常動作を実行可能である。短絡故障した前記半導体素子を短絡故障素子という。3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含む1つの前記スイッチング回路の前記出力配線を制限出力配線という。3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含まない2つの前記スイッチング回路の前記出力配線をそれぞれ正常出力配線という。前記非常動作では、前記制御回路は、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる。前記非常動作では、複数の前記中間座標点が、前記上側座標と前記下側座標の両方が前記禁止電位を示す禁止パラメータを含まない複数の正常中間座標点と、前記上側座標と前記下側座標の一方が前記禁止パラメータを含むとともに他方が前記禁止パラメータを含まない複数の制限中間座標点とを有する。前記非常動作では、複数の前記三角形領域が、頂点を構成する2つの前記中間座標点の両方が前記制限中間座標点である第1制限三角形領域と、頂点を構成する2つの前記中間座標点の一方が前記正常中間座標点であるとともに他方が前記制限中間座標点である第2制限三角形領域と、頂点を構成する2つの前記中間座標点の両方が前記正常中間座標点である正常三角形領域と、を有する。前記非常動作では、前記制御装置は、前記指令値ベクトルが前記第1制限三角形領域に属する制限状態において、前記原点の座標と、第1中間座標点の座標である第1座標と、第2中間座標点の座標である第2座標を時間的にずらして出力する。前記制限状態では、前記指令値ベクトルが属する前記第1制限三角形領域である特定第1制限三角形領域と前記特定第1制限三角形領域に隣接する前記第2制限三角形領域である隣接第2制限三角形領域とによって構成される四角形のうちの前記原点を含まない対角を構成する2つの前記中間座標点のうち、前記特定第1制限三角形領域内の前記中間座標点が前記第1中間座標点であり、前記隣接第2制限三角形領域内の前記中間座標点が前記第2中間座標点である。前記第1座標が、前記第1中間座標点の前記上側座標と前記下側座標のうちの前記禁止パラメータを含まない方の座標である。前記第2座標が、前記第1座標が前記上側座標であるときには前記第2中間座標点の前記下側座標であり、前記第1座標が前記下側座標であるときには前記第2中間座標点の前記上側座標である。
【0011】
なお、指令値ベクトルが第1制限三角形領域に属するとは、指令値ベクトルの少なくとも一部が第1制限三角形領域内に位置していることを意味する。指令値ベクトルが第1制限三角形領域に属する場合には、指令値ベクトルの全体が第1制限三角形領域に含まれている場合と、指令値ベクトルが第1制限三角形領域を通過している場合とが含まれる。
【0012】
第1制限三角形領域では、2つの中間座標点の両方が制限中間座標点である。2つの制限中間座標点では、上側座標と下側座標の一方を出力することができない。このため、2つの制限座標点の座標を時間的にずらして出力しようとすると、上側座標または下側座標が偏って出力される。このように、上側座標または下側座標が偏って出力されると、中性点の電位が変動し易い。これに対し、上記のインバータでは、指令値ベクトルが第1制限三角形領域に属する制限状態において、第1中間座標点の座標である第1座標と、第2中間座標点の座標である第2座標を時間的にずらして出力する。ここで、第2中間座標点は、第1制限三角形領域に隣接する第2制限三角形領域内の中間座標点である。第2中間座標点は正常中間座標点であるので、第2中間座標点では上側座標と下側座標のいずれもが禁止パラメータを含まない。したがって、第2中間座標点として、上側座標と下側座標のいずれもが出力可能である。このインバータは、第1中間座標点の座標(第1座標)として上側座標を出力するときは、第2中間座標点の座標(第2座標)として下側座標を出力する。また、このインバータは、第1中間座標点の座標(第1座標)として下側座標を出力するときは、第2中間座標点の座標(第2座標)として下側座標を出力する。これによって、中性電の電位の変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1のインバータの回路図。
図2】実施例1の第1~第3状態を示す表。
図3】空間ベクトル座標系を示す図。
図4】出力された電圧ベクトルの角度と三相交流電流を示すグラフ。
図5】(0,0,2)が出力されたときの電流経路を示す回路図。
図6】(1,1,2)が出力され、電流が順方向のときの電流経路を示す回路図。
図7】(1,1,2)が出力され、電流が逆方向のときの電流経路を示す回路図。
図8】(0,0,1)が出力され、電流が順方向のときの電流経路を示す回路図。
図9】(0,0,1)が出力され、電流が逆方向のときの電流経路を示す回路図。
図10】禁止電位を示す表。
図11】第1ダイオードの短絡故障時と第3スイッチング素子の短絡故障時における短絡電流の経路を示す回路図。
図12】第1スイッチング素子の短絡故障時と第4スイッチング素子の短絡故障時における短絡電流の経路を示す回路図。
図13】第2ダイオードの短絡故障時と第2スイッチング素子の短絡故障時における短絡電流の経路を示す回路図。
図14】一次指令値ベクトルが正常三角形領域である内側三角形領域T5に属する場合の空間ベクトル座標系を示す図(禁止パラメータがVw=0の場合)。
図15】一次指令値ベクトルが第1制限三角形領域である内側三角形領域T1に属する場合の空間ベクトル座標系を示す図(禁止パラメータがVw=0の場合)。
図16】一次指令値ベクトルが第1制限三角形領域である内側三角形領域T2に属する場合の空間ベクトル座標系を示す図(禁止パラメータがVw=0の場合)。
図17】一次指令値ベクトルが第2制限三角形領域である内側三角形領域T6に属する場合の空間ベクトル座標系を示す図(禁止パラメータがVw=0の場合)。
図18】一次指令値ベクトルが第2制限三角形領域である内側三角形領域T3に属する場合の空間ベクトル座標系を示す図(禁止パラメータがVw=0の場合)。
図19】一次指令値ベクトルが第1制限三角形領域である内側三角形領域T5に属する場合の空間ベクトル座標系を示す図(禁止パラメータがVw=2の場合)。
図20】一次指令値ベクトルが第2制限三角形領域である内側三角形領域T6に属する場合の空間ベクトル座標系を示す図(禁止パラメータがVw=2の場合)。
図21】実施例2のインバータの回路図。
図22】実施例2の第1~第3状態を示す表。
図23】(0,0,2)が出力されたときの電流経路を示す回路図。
図24】(1,1,2)が出力されたときの電流経路を示す回路図。
図25】(0,0,1)が出力されたときの電流経路を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書が開示する一例のインバータでは、前記制限状態では、前記指令回路が、前記第1中間座標点と前記第2中間座標点を結ぶ線分を超えない前記指令値ベクトルを生成してもよい。
【0015】
この構成によれば、制御回路が、指令値ベクトルの通りに電圧ベクトルを出力し易い。
【0016】
本明細書が開示する一例のインバータにおいては、前記非常動作では、前記制御装置は、前記指令値ベクトルが前記第2制限三角形領域に属する予備状態において、前記原点の座標と、第3中間座標点の座標である第3座標と、第4中間座標点の座標である第4座標を時間的にずらして出力してもよい。前記予備状態では、前記指令値ベクトルが属する前記第2制限三角形領域である特定第2制限三角形領域と前記特定第2制限三角形領域に隣接する前記第1制限三角形領域である隣接第1制限三角形領域とによって構成される四角形のうちの前記原点を含まない対角を構成する2つの前記中間座標点のうち、前記隣接第1制限三角形領域内の前記中間座標点が前記第3中間座標点であり、前記特定第2制限三角形領域内の前記中間座標点が前記第4中間座標点であってもよい。前記第3座標が、前記第3中間座標点の前記上側座標と前記下側座標のうちの前記禁止パラメータを含まない方の座標であってもよい。前記第4座標が、前記第3座標が前記上側座標であるときには前記第4中間座標点の前記下側座標であり、前記第3座標が前記下側座標であるときには前記第4中間座標点の前記上側座標であってもよい。
【0017】
なお、指令値ベクトルが第2制限三角形領域に属するとは、指令値ベクトルの少なくとも一部が第2制限三角形領域内に位置していることを意味する。指令値ベクトルが第2制限三角形領域に属する場合には、指令値ベクトルの全体が第2制限三角形領域に含まれている場合と、指令値ベクトルが第2制限三角形領域を通過している場合とが含まれる。
【0018】
この構成によれば、制限状態で上側座標の出力時間が長くなる場合には予備状態で下側座標の出力時間が長くなり、制限状態で下側座標の出力時間が長くなる場合には予備状態で上側座標の出力時間が長くなる。このため、制限状態から予備状態までの期間全体において、上側座標の出力時間と下側座標の出力時間がバランスし易い。これによって、中性点の電位の変動をさらに抑制できる。
【0019】
本明細書が開示する一例のインバータでは、前記予備状態では、前記指令回路が、前記第3中間座標点と前記第4中間座標点を結ぶ線分を超えない前記指令値ベクトルを生成してもよい。
【0020】
この構成によれば、制御回路が、指令値ベクトルの通りに電圧ベクトルを出力し易い。
【0021】
本明細書が開示する一例のインバータでは、3つの前記スイッチング回路のそれぞれが、正極が前記高電位配線に接続されている第1スイッチング素子と、正極が前記第1スイッチング素子の負極に接続されており、負極が対応する前記出力配線に接続されている第2スイッチング素子と、正極が対応する前記出力配線に接続されている第3スイッチング素子と、正極が前記第3スイッチング素子の負極に接続されており、負極が前記低電位配線に接続されている第4スイッチング素子と、アノードが前記中性点に接続されており、カソードが前記第1スイッチング素子の前記負極に接続されている第1ダイオードと、アノードが前記第3スイッチング素子の前記負極に接続されており、カソードが前記中性点に接続されている第2ダイオード、を有していてもよい。前記短絡故障素子が前記第2スイッチング素子または前記第2ダイオードである場合には前記禁止電位が前記低電位であってもよい。前記短絡故障素子が前記第3スイッチング素子または前記第1ダイオードである場合には前記禁止電位が前記高電位であってもよい。
【0022】
本明細書が開示する他の一例のインバータでは、3つの前記スイッチング回路のそれぞれが、前記高電位配線と対応する前記出力配線の間に接続されている第1スイッチング素子と、前記中性点と対応する前記出力配線の間に接続されている第2スイッチング素子と、前記中性点と対応する前記出力配線の間に前記第2スイッチング素子に対して直列に接続されている第3スイッチング素子と、対応する前記出力配線と前記低電位配線の間に接続されている第4スイッチング素子と、カソードが前記中性点側を向く向きで前記第2スイッチング素子に対して並列に接続されている第1中間ダイオードと、カソードが対応する前記出力配線側を向く向きで前記第3スイッチング素子に対して並列に接続されている第2中間ダイオード、を有していてもよい。前記短絡故障素子が前記第2スイッチング素子である場合には前記禁止電位が前記低電位であってもよい。前記短絡故障素子が前記第3スイッチング素子である場合には前記禁止電位が前記高電位であってもよい。
【実施例1】
【0023】
(インバータの構成)
図1は、実施例1のインバータ10の回路図を示している。インバータ10は、車両に搭載されている。また、車両には、バッテリ18とモータ90が搭載されている。モータ90は、車両を走行させるためのモータである。モータ90は、三相モータである。インバータ10は、バッテリ18とモータ90に接続されている。インバータ10は、バッテリ18から供給される直流電力を三相交流電力に変換し、三相交流電力をモータ90に供給する。これによって、モータ90が駆動し、車両が走行する。
【0024】
インバータ10は、高電位配線12、中性点14、低電位配線16、上側コンデンサ20、及び、下側コンデンサ22を有している。高電位配線12は、バッテリ18の正極に接続されている。低電位配線16は、バッテリ18の負極に接続されている。以下では、低電位配線16の電位を基準電位(0V)とする。バッテリ18によって、高電位配線12と低電位配線16の間に直流電圧が印加されている。したがって、高電位配線12は、低電位配線16の電位(0V)よりも高い電位VHを有している。上側コンデンサ20は、高電位配線12と中性点14の間に接続されている。下側コンデンサ22は、中性点14と低電位配線16の間に接続されている。このため、中性点14の電位VM(以下、中性点電位VMという)は、低電位配線16の電位(0V)よりも高く、高電位配線12の電位VHよりも低い。中性点電位VMは、上側コンデンサ20に蓄えられる電荷量と下側コンデンサ22に蓄えられる電荷量に応じて変動する。上側コンデンサ20が放電されるか、下側コンデンサ22が充電されると、中性点電位VMは上昇する。上側コンデンサ20が充電されるか、下側コンデンサ22が放電されると、中性点電位VMは低下する。
【0025】
インバータ10は、U相スイッチング回路30u、V相スイッチング回路30v、及び、W相スイッチング回路30wの3つのスイッチング回路30を有している。スイッチング回路30のそれぞれは、高電位配線12と低電位配線16と中性点14の間に接続されている。スイッチング回路30のぞれぞれは、第1スイッチング素子41、第2スイッチング素子42、第3スイッチング素子43、第4スイッチング素子44、第1ダイオード51、第2ダイオード52、及び、出力配線60を有している。3つのスイッチング回路30の構成は互いに等しいので、以下では1つのスイッチング回路30の構成について説明する。
【0026】
スイッチング素子41~44は、IGBT(insulated gate bipolar transistor)により構成されている。但し、スイッチング素子41~44は、他の素子(例えば、FET(field effect transistor))により構成されていてもよい。スイッチング素子41~44のそれぞれに対して、還流ダイオードが並列に接続されている。還流ダイオードのアノードが対応するスイッチング素子のエミッタに接続されており、還流ダイオードのカソードが対応するスイッチング素子のコレクタに接続されている。スイッチング素子41~44は、高電位配線12と低電位配線16の間に直列に接続されている。すなわち、第1スイッチング素子41のコレクタは、高電位配線12に接続されている。第2スイッチング素子42のコレクタは、第1スイッチング素子41のエミッタに接続されている。第3スイッチング素子43のコレクタは、第2スイッチング素子42のエミッタに接続されている。第4スイッチング素子44のコレクタは、第3スイッチング素子43のエミッタに接続されている。第4スイッチング素子44のエミッタは、低電位配線16に接続されている。第1ダイオード51のアノードは、中性点14に接続されている。第1ダイオード51のカソードは、第1スイッチング素子41のエミッタ、及び、第2スイッチング素子42のコレクタに接続されている。第2ダイオード52のアノードは、第3スイッチング素子43のエミッタ、及び、第4スイッチング素子44のコレクタに接続されている。第2ダイオード52のカソードは、中性点14に接続されている。出力配線60の一端は、第2スイッチング素子42のエミッタ、及び、第3スイッチング素子43のコレクタに接続されている。出力配線60の他端は、モータ90に接続されている。
【0027】
なお、以下では、U相スイッチング回路30uの出力配線60をU相出力配線60uといい、V相スイッチング回路30vの出力配線60をV相出力配線60vといい、W相スイッチング回路30wの出力配線60をW相出力配線60wという。U相出力配線60u、V相出力配線60v、W相出力配線60wのそれぞれは、モータ90に接続されている。
【0028】
インバータ10は、制御回路70と指令回路72を有している。指令回路72は、モータ90の動作状態に応じて指令値を生成し、生成した指令値を制御回路70に入力する。制御回路70は、図示していないが、U相スイッチング回路30u、V相スイッチング回路30v、及び、W相スイッチング回路30wのそれぞれが有するスイッチング素子41~44のゲートに接続されている。すなわち、制御回路70は、図1に示す12個のスイッチング素子のゲートに接続されている。制御回路70は、指令回路72から入力される指令値に基づいて、各スイッチング素子をオン-オフさせる。これによって、3つの出力配線60の間に三相交流電流が生成される。三相交流電流がモータ90に供給されることで、モータ90が駆動し、車両が走行する。
【0029】
(出力配線の電位)
次に、各出力配線60に印加される電位について説明する。制御回路70は、各スイッチング回路30を、図2に示す第1状態、第2状態、第3状態のいずれかに制御する。
【0030】
第1状態では、第1スイッチング素子41がオン、第2スイッチング素子42がオン、第3スイッチング素子43がオフ、第4スイッチング素子44がオフに制御される。第1状態では、出力配線60が、第1スイッチング素子41と第2スイッチング素子42を介して高電位配線12に接続される。したがって、第1状態では、出力配線60の電位は、高電位配線12と同じ電位VHとなる。
【0031】
第2状態では、第1スイッチング素子41がオフ、第2スイッチング素子42がオン、第3スイッチング素子43がオン、第4スイッチング素子44がオフに制御される。第2状態では、出力配線60が、第2スイッチング素子42と第1ダイオード51を介して、または、第3スイッチング素子43と第2ダイオード52を介して中性点14に接続される。したがって、第2状態では、出力配線60の電位は、中性点電位VMとなる。
【0032】
第3状態では、第1スイッチング素子41がオフ、第2スイッチング素子42がオフ、第3スイッチング素子43がオン、第4スイッチング素子44がオンに制御される。第3状態では、出力配線60が、第3スイッチング素子43と第4スイッチング素子44を介して低電位配線16に接続される。したがって、第3状態では、出力配線60の電位は、低電位配線16と同じ0Vとなる。
【0033】
各スイッチング回路30の状態が第1状態、第2状態、第3状態の間で変化することで、各出力配線60の電位が電位VH、中性点電位VM、0Vの間で変化する。制御回路70は、各出力配線60の電位を制御することによって、出力配線60に三相交流電流を発生させる。
【0034】
(電圧ベクトル)
図3は、出力配線60のそれぞれに印加される電位を示す空間ベクトル座標系である。図3では、電圧ベクトルA1が例示されている。空間ベクトル座標系は、19個の座標点を有している。各座標点は、3つのパラメータVu、Vv、Vwの組み合わせた座標(Vu、Vv、Vw)によって表される。パラメータVuは、U相出力配線60uの電位示す値である。パラメータVvは、V相出力配線60vの電位を示す値である。パラメータVwは、W相出力配線60wの電位を示す値である。パラメータVu、Vv、Vwは、0から2の間の数値である。数値「0」は対応する出力配線60に0Vが印加されることを示し、数値「1」は対応する出力配線60に中性点電位VMが印加されることを示し、数値「2」は対応する出力配線60に電位VHが印加されることを示す。例えば、(2,2,0)は、U相出力配線60uに電位VHが印加され、V相出力配線60vに電位VHが印加され、W相出力配線60wに0Vが印加されることを意味する。
【0035】
空間ベクトル座標系が有する19個の座標点は、1個の原点Oと、12個の最外周座標点と、6個の中間座標点M1~M6を有する。原点Oは、空間ベクトル座標系の中心に位置する座標点である。原点Oは、(0,0,0)、(1,1,1)、及び、(2,2,2)の3つの座標によって表される。すなわち、原点Oは、U相出力配線60u、V相出力配線60v、W相出力配線60wを同電位にすることを意味する。最外周座標点は、空間ベクトル座標系の最外周に位置する座標点である。すなわち、最外周座標点は、空間ベクトル座標系の最外周を構成する六角形上に位置する座標点である。最外周座標点は、1つの座標によって表される。中間座標点M1~M6は、原点Oと最外周座標点との間に位置する座標点である。すなわち、中間座標点は、空間ベクトル座標系の最外周よりも内側の六角形上に位置する座標点である。中間座標点は、2つの座標によって表される。中間座標点は、パラメータVu、Vv、Vwの一部が2であるとともに残りが1である上側座標と、パラメータVu、Vv、Vwの一部が1であるとともに残りが0である下側座標によって表される。
【0036】
空間ベクトル座標系の中に、上述した19個の座標点のうちの3つの座標点を頂点とする三角形領域が複数個存在する。原点Oに隣接する位置に、6個の三角形領域T1~T6が存在する。以下では、原点Oに隣接する三角形領域T1~T6を、内側三角形領域という。内側三角形領域T1~T6は、中間座標点M1~M6のうちの2つと原点Oとを頂点とする。内側三角形領域T1~T6よりも外周側に、18個の三角形領域が存在する。
【0037】
(指令値ベクトル)
指令回路72は、3つの出力配線60に印加すべき電位の指令値を生成する。指令回路72は、空間ベクトル座標系上の座標(Vu,Vv,Vw)によって表される電圧ベクトルによって指令値を生成する。以下では、指令回路72が指令値として生成する電圧ベクトルを、指令値ベクトルという。指令回路72は、モータ90の回転速度、モータ90に流れる電流、ドライバによるアクセルの操作量等に基づいて、指令値ベクトルを生成する。例えば、図3の電圧ベクトルA1を指令値ベクトルとして出力することができる。なお、以下では、図3に示すように、電圧ベクトルの角度を、Vu軸に対する角度θにより示す。指令回路72は、指令値ベクトルの角度θが徐々に増加するように、指令値ベクトルを順次生成する。すなわち、指令回路72は、図3の矢印102に示すように指令値ベクトルが回転するように指令値ベクトルを順次生成する。指令値ベクトルは、制御回路70に入力される。なお、後に詳述するが、指令回路72は、指令値ベクトルを修正する場合がある。以下では、修正前の指令値ベクトルを一次指令値ベクトルといい、修正後の指令値ベクトルを二次指令値ベクトルという。
【0038】
(正常動作)
制御回路70は、指令値ベクトルに基づいてインバータ10を制御する。短絡故障素子が存在しない場合には、制御回路70は、正常動作を実行する。正常動作では、制御回路70は、一次指令値ベクトルに従ってインバータ10を制御する。例えば、一次指令値ベクトルのパラメータVuが「0」の場合には、制御回路70は、U相スイッチング回路30uを第3状態に制御してU相出力配線60uに0Vを印加する。一次指令値ベクトルのパラメータVuが「1」の場合には、制御回路70は、U相スイッチング回路30uを第2状態に制御してU相出力配線60uに中性点電位VMを印加する。一次指令値ベクトルのパラメータVuが「2」の場合には、制御回路70は、U相スイッチング回路30uを第1状態に制御してU相出力配線60uに電位VHを印加する。一次指令値ベクトルのパラメータVvが「0」の場合には、制御回路70は、V相スイッチング回路30vを第3状態に制御してV相出力配線60vに0Vを印加する。一次指令値ベクトルのパラメータVvが「1」の場合には、制御回路70は、V相スイッチング回路30vを第2状態に制御してV相出力配線60vに中性点電位VMを印加する。一次指令値ベクトルのパラメータVvが「2」の場合には、制御回路70は、V相スイッチング回路30vを第1状態に制御してV相出力配線60vに電位VHを印加する。一次指令値ベクトルのパラメータVwが「0」の場合には、制御回路70は、W相スイッチング回路30wを第3状態に制御してW相出力配線60wに0Vを印加する。一次指令値ベクトルのパラメータVwが「1」の場合には、制御回路70は、W相スイッチング回路30wを第2状態に制御してW相出力配線60wに中性点電位VMを印加する。一次指令値ベクトルのパラメータVwが「2」の場合には、制御回路70は、W相スイッチング回路30wを第1状態に制御してW相出力配線60wに電位VHを印加する。
【0039】
また、電圧ベクトルの各パラメータが、小数により表される場合がある。例えば、図3の電圧ベクトルA1の座標は、(0.75,0.5,0)である。このようにパラメータが小数により表される電圧ベクトルが指令値ベクトルである場合には、制御回路70は、指令値ベクトルの座標(すなわち、指令値ベクトルの先端)を含む三角形領域の各頂点の座標を時間的にずらして出力することで、指令値ベクトルに相当する電圧ベクトルを出力する。例えば、指令回路72が指令値ベクトルとして電圧ベクトルA1を生成した場合には、制御回路70は、電圧ベクトルA1の座標が含まれる三角形領域T1の3つの頂点(すなわち、中間座標点M1、M2及び原点Oの座標)を時間的にずらして出力する。これによって、(0.75,0.5,0)を出力する。なお、中間座標点M1の座標としては、(2,1,1)と(1,0,0)のいずれが出力されてもよい。また、中間座標点M2の座標としては、(2,2,1)と(1,1,0)のいずれが出力されてもよい。また、原点の座標としては、(0,0,0)と(1,1,1)と(2,2,2)のいずれが出力されてもよい。(0.75,0.5,0)を出力する場合、各座標点の座標が出力される時比率は、下記数式1の通りである。
【数1】
なお、上記数式1において、T1は中間座標点M1が出力される時比率であり、T2は中間座標点M2が出力される時比率であり、T3は原点Oが出力される時比率である。また、上記数式1において、θは二次指令値ベクトルのVu軸に対する角度であり、Vmagは二次指令値ベクトルの長さを電圧に換算した値であり、VHは高電位配線12の電位である。
【0040】
上述したように、指令回路72は、矢印102に示すように一次指令値ベクトルが回転するように一次指令値ベクトルを順次生成して制御回路70に入力する。制御回路70は、入力された一次指令値ベクトルの通りに電圧ベクトルを出力する。したがって、出力される電圧ベクトルが、矢印102のように回転する。これによって、3つの出力配線60の間に三相交流電流が生成される。図4は、3つの出力配線60u、60v、60wに流れる電流Iu、Iv、Iwと、出力される電圧ベクトルの角度θの関係を示している。図4に示すように、電圧ベクトルの角度θの位相は、電流Iuの位相に対して約90°ずれる。但し、回路の寄生抵抗の影響によって、角度θと電流Iuの位相差が図4からさらに変化する場合がある。また、三相交流電流の周波数を変更する場合には、角度θと電流Iuの位相差が変化する場合がある。図4のように出力配線60u、60v、60wに三相交流電流が流れることで、モータ90の内部に生じる磁界が回転する。その結果、モータ90のロータが回転する。
【0041】
(中性点電位VMの変動)
次に、中性点電位VMの変動について説明する。図3に示す各座標のうち、パラメータとして数値「1」を含まない座標を出力する場合には、3つの出力配線60のいずれにも中性点電位VMが印加されない。この場合、中性点電位VMの変動は生じない。例えば、(0,0,2)が出力される場合には、図5のように、出力配線60u、60vが低電位配線16に接続され、出力配線60wが高電位配線12に接続される。なお、モータ90の動作状態によって、モータ90に印加される電圧と同じ方向(以下、順方向という)に電流が流れる場合と、モータ90に印加される電圧と逆の方向(以下、逆方向という)に電流が流れる場合とがある。順方向に電流が流れる場合には、図5の矢印200に示すように、高電位配線12から出力配線60wを介してモータ90に電流が流れる。モータ90に流入した電流は、出力配線60u、60vを介して低電位配線16へ流れる。また、逆方向に電流が流れる場合には、矢印200の逆向きに電流が流れる。これらのいずれの場合でも、中性点14に対する電荷の流入、及び、中性点14からの電荷の流出は生じない。したがって、この場合には、中性点電位VMの変動は生じない。(2,0,0)、(2,2,0)、(0,2,0)、(0,2,2)、(2,0,2)が出力される場合も、同様にして、中性点電位VMの変動は生じない。
【0042】
図3に示す座標のうち、パラメータとして数値「1」を含む座標を出力する場合には、3つの出力配線60の少なくとも1つに中性点14が接続されるので、中性点電位VMの変動が生じる。
【0043】
例えば、(1,1,2)が出力される場合には、図6のように、出力配線60u、60vが中性点14に接続され、出力配線60wが高電位配線12に接続される。順方向に電流が流れる場合には、図6の矢印202に示すように、高電位配線12から出力配線60wを介してモータ90に電流が流れる。モータ90に流入した電流は、出力配線60u、60vを介して中性点14へ流れる。この場合、上側コンデンサ20が放電されるので、中性点電位VMが上昇する。また、逆方向に電流が流れる場合には、図7の矢印204に示すように、中性点14から出力配線60u、60vを介してモータ90に電流が流れる。モータ90に流入した電流は、出力配線60wを介して高電位配線12へ流れる。この場合、上側コンデンサ20が充電されるので、中性点電位VMが低下する。このように、(1,1,2)が出力される場合には、電流が順方向の場合に中性点電位VMが上昇し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが低下する。(2,1,1)、(2,2,1)、(1,2,1)、(1,2,2)、(2,1,2)が出力される場合も、同様にして、電流が順方向の場合に中性点電位VMが上昇し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが低下する。
【0044】
また、例えば、(0,0,1)が出力される場合には、図8のように、出力配線60u、60vが低電位配線16に接続され、出力配線60wが中性点14に接続される。順方向に電流が流れる場合には、図8の矢印206に示すように、中性点14から出力配線60wを介してモータ90に電流が流れる。モータ90に流入した電流は、出力配線60u、60vを介して低電位配線16へ流れる。この場合、下側コンデンサ22が放電されるので、中性点電位VMが低下する。また、逆方向に電流が流れる場合には、図9の矢印208に示すように、低電位配線16から出力配線60u、60vを介してモータ90に電流が流れる。モータ90に流入した電流は、出力配線60wを介して中性点14へ流れる。この場合、下側コンデンサ22が充電されるので、中性点電位VMが上昇する。このように、(0,0,1)が出力される場合には、電流が順方向の場合に中性点電位VMが低下し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが上昇する。(1,0,0)、(1,1,0)、(0,1,0)、(0,1,1)、(1,0,1)が出力される場合も、同様にして、電流が順方向の場合に中性点電位VMが低下し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが上昇する。
【0045】
また、図3に示す座標のうち、(2,1,0)、(1,2,0)、(0,2,1)、(0,1,2)、(1,0,2)、(2,0,1)が出力される場合でも、中性点14に対する電荷の流入または流出が生じるので、中性点電位VMの変動が生じる。
【0046】
正常動作では、指令回路72と制御回路70は、中性点電位VMに応じて出力する電圧ベクトルを変更する。例えば、中性点電位VMが制御目標値よりも低い場合には、中性点電位VMを上昇させる電圧ベクトルを優先的に出力する。また、例えば、中性点電位VMが制御目標値よりも高い場合には、中性点電位VMを低下させる電圧ベクトルを優先的に出力する。したがって、中性点電位VMを目標値に近い値に制御しながら、モータ90に三相交流電流を供給することができる。
【0047】
(短絡素子判定動作)
制御回路70は、車両が走行していないときに、定期的に短絡素子判定動作を実行する。短絡素子判定動作では、スイッチング回路30u、30v、30wのそれぞれについて、スイッチング素子41~44及びダイオード51~52が短絡故障しているか否かを判定する。なお、スイッチング素子の短絡故障は、ゲートの電位にかかわらずスイッチング素子がオンしている故障モードを意味する。また、ダイオードの短絡故障は、ダイオードにいずれの方向にも電流が流れる故障モードを意味する。制御回路70は、3つのスイッチング回路30u、30v、30wのいずれかを選択し、選択したスイッチング回路30に対して短絡素子判定動作を実行する。短絡素子判定動作では、制御回路70は、各スイッチング素子を種々の組み合わせでオンし、そのときに流れる電流を測定する。これによって、制御回路70は、短絡故障素子の有無を判定するとともに、短絡故障素子がある場合にはスイッチング素子41~44、ダイオード51~52の何れが短絡故障素子であるかを判定する。
【0048】
(A.非常動作)
次に、非常動作について説明する。指令回路72と制御回路70は、短絡故障素子が存在する状態でモータ90を駆動する必要があるときには、非常動作を実行する。なお、以下では、短絡故障素子を有するスイッチング回路30を、制限スイッチング回路30xという。また、制限スイッチング回路30xの出力配線60を、制限出力配線60xという。また、制限スイッチング回路30x以外のスイッチング回路30を、正常スイッチング回路30yという。また、正常スイッチング回路30yの出力配線60を、正常出力配線60yという。非常動作は、制限スイッチング回路30xが1つであり、短絡故障素子が1つの場合に実行される。非常動作では、制限出力配線60xに禁止電位が印加されないように、制限スイッチング回路30xが制御される。最初に、禁止電位について説明する。
【0049】
(A-1.禁止電位)
禁止電位は、制限スイッチング回路30x内で線間短絡が生じるため、制限出力配線60xに印加できない電圧を意味する。図10は、短絡故障素子と禁止電位の関係を示している。制限スイッチング回路30x内の短絡故障素子の種類によって、禁止電位が異なる。
【0050】
図12の矢印304で示されるように、第1スイッチング素子41が短絡故障している場合には、第2状態において高電位配線12と中性点14の間で線間短絡が生じる。したがって、第1スイッチング素子41が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第2状態とすることができず、制限出力配線60xに中性点電位VMを印加することができない。したがって、図10に示すように、第1スイッチング素子41が短絡故障している場合には、禁止電位は中性点電位VMとなる。
【0051】
図13の矢印310で示されるように、第2スイッチング素子42が短絡故障している場合には、第3状態において中性点14と低電位配線16の間で線間短絡が生じる。したがって、第2スイッチング素子42が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第3状態とすることができず、制限出力配線60xに0Vを印加することができない。したがって、図10に示すように、第2スイッチング素子42が短絡故障している場合には、禁止電位は0Vとなる。
【0052】
図11の矢印302で示されるように、第3スイッチング素子43が短絡故障している場合には、第1状態において高電位配線12と中性点14の間で線間短絡が生じる。したがって、第3スイッチング素子43が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第1状態とすることができず、制限出力配線60xに電位VHを印加することができない。したがって、図10に示すように、第3スイッチング素子43が短絡故障している場合には、禁止電位は電位VHとなる。
【0053】
図12の矢印306で示されるように、第4スイッチング素子44が短絡故障している場合には、第2状態において中性点14と低電位配線16の間で線間短絡が生じる。したがって、第4スイッチング素子44が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第2状態とすることができず、制限出力配線60xに中性点電位VMを印加することができない。したがって、図10に示すように、第4スイッチング素子44が短絡故障している場合には、禁止電位は中性点電位VMとなる。
【0054】
図11の矢印300で示されるように、第1ダイオード51が短絡故障している場合には、第1状態において高電位配線12と中性点14の間で線間短絡が生じる。したがって、第1ダイオード51が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第1状態とすることができず、制限出力配線60xに電位VHを印加することができない。したがって、図10に示すように、第1ダイオード51が短絡故障している場合には、禁止電位は電位VHとなる。
【0055】
図13の矢印308で示されるように、第2ダイオード52が短絡故障している場合には、第3状態において中性点14と低電位配線16の間で線間短絡が生じる。したがって、第2ダイオード52が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第3状態とすることができず、制限出力配線60xに0Vを印加することができない。したがって、図10に示すように、第2ダイオード52が短絡故障している場合には、禁止電位は0Vとなる。
【0056】
以上に説明したように、短絡故障素子に応じて、制限出力配線60xに印加することができない禁止電位が変化する。上述したように、非常動作では、禁止電位によって制御方法が変化する。
【0057】
(A-2.禁止電位が中性点電位VMの場合の非常動作)
禁止電位が中性点電位VMである場合(すなわち、短絡故障素子が第1スイッチング素子41または第4スイッチング素子44である場合)には、制御回路70は、出力配線60u、60v、60wに出力する電位を、高電位VHと0Vの2レベルで制御する。この動作では、3つの出力配線60のいずれにも中性点電位VMが印加されないので、中性点電位VMの影響を受けることなく、継続的にモータ90に三相交流電流を供給することができる。したがって、車両を継続的に走行させることができる。
【0058】
(A-3.禁止電位が0Vまたは高電位VHの場合の非常動作)
禁止電位が0Vまたは高電位VHである場合には、指令回路72は、正常動作と同様にして一次指令値ベクトルを生成し、その後、一次指令値ベクトルを修正した二次指令値ベクトルを生成する。
【0059】
上述したように、原点Oに隣接する位置に、6個の内側三角形領域T1~T6が存在する。非常動作では、指令回路72は、6個の内側三角形領域T1~T6を第1制限三角形領域、第2制限三角形領域、正常三角形領域に分類し、一次指令値ベクトルが第1制限三角形領域、第2制限三角形領域、正常三角形領域のいずれに属するかを判定する。指令回路72は、判定結果に応じて二次指令値ベクトルを生成する。したがって、以下に、第1制限三角形領域、第2制限三角形領域、正常三角形領域について説明する。上述したように、非常動作では、制限出力配線60xに禁止電位を印加できないため、一部の座標を出力することができない。すなわち、制限出力配線60xに禁止電位を印加することを示すパラメータ(以下、禁止パラメータという)を含む座標は、出力することができない。以下では、禁止パラメータを含む座標を禁止座標といい、禁止パラメータを含まない座標を正常座標という。図14は、制限出力配線60xが出力配線60wであり、禁止電位が0Vである場合を例示している。図14を含む各空間ベクトル図では、禁止座標に取消線が付されている。図14では、禁止パラメータはVw=0であるので、(2,0,0)、(2,1,0)、(2,2,0)、(1,2,0)、(0,2,0)、(1,0,0)、(1,1,0)、(0,1,0)、(0,0,0)が禁止座標であり、その他の座標は正常座標である。上述したように、中間座標点M1~M6は、上側座標と下側座標の2つの座標を有する。短絡故障素子が1つの場合には、3つの中間座標点で上側座標と下側座標の一方が禁止座標となる。以下では、上側座標と下側座標の一方が禁止座標である中間座標点を制限中間座標点といい、上側座標と下側座標の両方が正常座標である中間座標点を正常中間座標点という。例えば、図14の場合には、中間座標点M1~M3では、下側座標(すなわち、(1,0,0)、(1,1,0)、(0,1,0))が禁止座標であり、上側座標(すなわち、(2,1,1)、(2,2,1)、(1,2,1))が正常座標ある。したがって、図14の場合には、中間座標点M1~M3は、制限中間座標点である。また、図14の場合には、中間座標点M4~M6は、正常中間座標点である。第1制限三角形領域は、内側三角形領域T1~T6のうち、原点O以外の頂点を構成する2つの中間座標点の両方が制限中間座標点である内側三角形領域である。例えば、図14では、内側三角形領域T1、T2が第1制限三角形領域である。第2制限三角形領域は、内側三角形領域T1~T6のうち、原点O以外の頂点を構成する中間座標点の一方が制限中間座標点であるとともに他方が正常中間座標点である内側三角形領域である。例えば、図14では、内側三角形領域T3、T6が第2制限三角形領域である。正常制限三角形領域は、内側三角形領域T1~T6のうち、原点O以外の頂点を構成する2つの中間座標点の両方が正常中間座標点である内側三角形領域である。例えば、図14では、内側三角形領域T4、T5が正常三角形領域である。2つの第1制限三角形領域は互いに隣接し、2つの正常三角形領域は互いに隣接する。2つの第2制限三角形領域は、原点Oを挟んで反対側に配置される。各第2制限三角形領域は、第1制限三角形領域と正常三角形領域の間に配置される。
【0060】
指令回路72は、一次指令値ベクトルが属する内側三角形領域が、内側三角形領域T1~T6のいずれであるかを判定する。なお、一次指令値ベクトルが属する内側三角形領域とは、内側三角形領域T1~T6のうちの一次指令値ベクトルの少なくとも一部が含まれている内側三角形領域を意味する。言い換えると、一次指令値ベクトルが属する内側三角形領域とは、一次指令値ベクトルの基端部が含まれている内側三角形領域を意味する。例えば、図14に示す一次指令値ベクトルB1は、内側三角形領域T5に属している。また、例えば、図15に示す一次指令値ベクトルB2は、内側三角形領域T1に属している。指令回路72は、一次指令値ベクトルが属する内側三角形領域が、第1制限三角形領域、第2制限三角形領域、正常三角形領域のいずれであるかを判定する。その判定結果に応じて、指令回路72と制御回路70が、以下のように動作する。
【0061】
(A-3-1.一次指令値ベクトルが正常三角形領域に属している場合)
一次指令値ベクトルが正常三角形領域に属している場合には、指令回路72は、一次指令値ベクトルをそのまま制御回路70に入力する。例えば、図14では、一次指令値ベクトルB1が、正常三角形領域である内側三角形領域T5に属している。この場合、制御回路70は、正常動作と同様に、一次指令値ベクトルに従って電圧ベクトルを出力する。正常三角形領域の角度範囲内には禁止座標が存在しないので、一次指令値ベクトルが正常三角形領域に属している場合には、正常動作と同様にして電圧ベクトルを出力しても問題は生じない。例えば、制御回路70は、中性点電位VMを検出し、中性点電位VMに応じて上側座標と下側座標のいずれかを選択して出力してもよい。すなわち、中性点電位VMが目標値(例えば、VH/2)よりも高い場合には、上側座標と下側座標のうちから中性点電位VMを低下させる座標を選択して出力してもよい。また、中性点電位VMが目標値(例えば、VH/2)よりも低い場合には、上側座標と下側座標のうちから中性点電位VMを上昇させる座標を選択して出力してもよい。
【0062】
(A-3-2.一次指令値ベクトルが第1制限三角形領域に属している場合)
一次指令値ベクトルが第1制限三角形領域に属している場合には、指令回路72は、一次指令値ベクトルが属している第1制限三角形領域(以下、特定第1制限三角形領域という)に隣接する第2制限三角形領域を特定する。以下では、特定第1制限三角形領域に隣接する第2制限三角形領域を、隣接第2制限三角形領域という。例えば、図15では、一次指令値ベクトルB2が内側三角形領域T1(すなわち、第1制限三角形領域)に属している。したがって、特定第1制限三角形領域は内側三角形領域T1である。この場合、指令回路72は、内側三角形領域T1に隣接する第2制限三角形領域である内側三角形領域T6を、隣接第2制限三角形領域として特定する。次に、指令回路72は、特定第1制限三角形領域と隣接第2制限三角形領域とによって構成される四角形のうちの原点Oを含まない対角を構成する2つの中間座標点を特定する。以下では、特定された2つの中間座標点(すなわち、原点Oを含まない対角を構成する2つの中間座標点)のうち、特定第1制限三角形領域内の中間座標点を第1中間座標点といい、隣接第2制限三角形領域内の中間座標点を第2中間座標点という。第1中間座標点は制限中間座標点であり、第2中間座標点は正常中間座標点である。例えば、図15では、2つの内側三角形領域T1、T6によって構成される四角形の原点Oを含まない対角を構成する2つの中間座標点は、中間座標点M2と中間座標点M6である。中間座標点M2は、特定第1制限三角形領域(すなわち、内側三角形領域T1)の頂点を構成する座標点であるので、第1中間座標点である。中間座標点M6は、隣接第2制限三角形領域(すなわち、内側三角形領域T6)の頂点を構成する座標点であるので、第2中間座標点である。中間座標点M2(すなわち、第1中間座標点)は制限中間座標点であり、中間座標点M6(すなわち、第2中間座標点)は正常中間座標点である。次に、指令回路72は、第1中間座標点と第2中間座標点を接続した線分(以下、線分L1という)を算出する。例えば、図15では、中間座標点M2(すなわち、第1中間座標点)と中間座標点M6(すなわち、第2中間座標点)を接続した線分L1を算出する。次に、指令回路72は、一次指令値ベクトルが、線分L1を超えているか否かを判定する。一次指令値ベクトルが線分L1を超えている場合には、指令回路72は、一次指令値ベクトルと角度θが等しく、線分L1を超えない長さを有する電圧ベクトルを二次指令値ベクトルとして算出する。すなわち、指令回路72は、一次指令値ベクトルを短縮することで二次指令値ベクトルを算出する。例えば、図15では、一次指令値ベクトルB2が線分L1を超えている(すなわち、線分L1よりも外周側まで伸びている)。このため、指令回路72は、一次指令値ベクトルB2と角度θが等しく、線分L1を超えない二次指令値ベクトルC2を算出する。また、一次指令値ベクトルが線分L1を超えていない場合には、指令回路72は、一次指令値ベクトルをそのまま二次指令値ベクトルとする。生成された二次指令値ベクトルは、制御回路70に入力される。
【0063】
制御回路70は、二次指令値ベクトルに従って電圧ベクトルを出力する。ここでは、制御回路70は、第1中間座標点の座標と第2中間座標点の座標と原点Oの座標を時間的にずらして出力することで、二次指令値ベクトルと略一致する電圧ベクトルを出力する。第1中間座標点は制限中間座標点であるので、第1中間座標点を示す上側座標と下側座標の一方は禁止座標である。したがって、制御回路70は、上側座標と下側座標のうちの正常座標である一方を第1中間座標点の座標として出力する。また、第2中間座標点は正常中間座標点であるので、第2中間座標点を示す上側座標と下側座標の両方が正常座標である。制御回路70は、第2中間座標点の座標として、第1中間座標点として出力される座標とは反対側の座標を出力する。すなわち、制御回路70は、第1中間座標点として上側座標を出力するときは、第2中間座標点として下側座標を出力する。また、制御回路70は、第1中間座標点として下側座標を出力するときは、第2中間座標点として上側座標を出力する。また、制御回路70は、原点Oの座標として、禁止座標ではないいずれかの座標を出力する。例えば、図15の二次指令値ベクトルC2を出力する場合には、第1中間座標点として(2,2,1)が出力され、第2中間座標点として(1,0,1)が出力され、原点Oとして(2,2,2)または(1,1,1)が出力される。この場合、各座標点の座標が出力される時比率は、下記数式2の通りである。
【数2】
【0064】
なお、上記数式2において、Taは第1中間座標点が出力される時比率であり、Tbは第2中間座標点が出力される時比率であり、Tcは原点Oが出力される時比率である。また、上記数式2において、ωは二次指令値ベクトルの(2,0,2)の方向に対する角度であり、Vmagは二次指令値ベクトルの長さを電圧に換算した値であり、VHは高電位配線12の電位である。
【0065】
以上に説明したように、インバータ10は、第1制限三角形領域に属する電圧ベクトルを出力するときに、特定第1制限三角形領域と隣接第2制限三角形領域とによって構成される四角形を特定し、その四角形の原点Oを含まない対角を構成する第1中間座標点と第2中間座標点を特定する。そして、第1中間座標点、第2中間座標点、原点Oを時間的にずらして出力することで、第1制限三角形領域に属する電圧ベクトルを出力する。この方法によれば、第2中間座標点が正常中間座標点であるので、第2中間座標点として第1中間座標点とは反対側の座標を選択することができる。したがって、第1中間座標点として上側座標を出力する場合には第2中間座標点として下側座標を出力することができ、第1中間座標点として下側座標を出力する場合には第2中間座標点として上側座標を出力することができる。これによって、上側座標または下側座標が連続して出力されることを防止することができる。このため、実施例1のインバータ10によれば、非常動作において中性点電位VMの変動を抑制できる。
【0066】
より具体的に説明すると、正常動作では、図15の指令値ベクトルC2のように内側三角形領域T1内の座標を有する電圧ベクトルを出力する場合には、内側三角形領域T1の3つの頂点を構成する3つの座標点(すなわち、中間座標点M1、中間座標点M2、及び、原点O)を時間的にずらして出力する。非常動作において正常動作と同様の制御を実施すると、中性点電位VMの変動が生じる。すなわち、図15のように中間座標点M1、M2の下側座標が禁止座標である場合、中間座標点M1、M2として上側座標しか出力することができない。上述したように、上側座標を出力すると、中性点電位VMが上昇または低下する。このため、中間座標点M1の上側座標、中間座標点M2の上側座標、及び、原点Oの座標を時間的にずらして出力すると、上側座標が偏って出力され、中性点電位VMが大きく変動する。例えば、上側座標を出力すると中性点電位VMが上昇する動作タイミングでは、上側座標が偏って出力されると、中性点電位VMが大きく上昇する。また、例えば、上側座標を出力すると中性点電位VMが低下する動作タイミングでは、上側座標が偏って出力されると、中性点電位VMが大きく低下する。これに対し、上述した実施形態の制御方法では、中間座標点M1の代わりに正常中間座標点である中間座標点M6を選択し、中間座標点M6の座標として下側座標を出力する。すなわち、中間座標点M1の上側座標、中間座標点M6の下側座標、及び、原点Oの座標を時間的にずらして出力する。このため、上側座標が偏って出力されることが無い。したがって、中性点電位VMの変動を抑制することができる。
【0067】
また、制御回路70が第1中間座標点、第2中間座標点、及び、原点Oを時間的にずらして出力する場合、線分L1を超える電圧ベクトルを出力することができない。このインバータ10では、一次指令値ベクトルが線分L1を超えている場合に、指令回路72が、線分L1を超えない二次指令値ベクトルを算出する。したがって、制御回路70が二次指令値ベクトルに従って電圧ベクトルを出力することで、適切な角度の電圧ベクトルを出力することができる。
【0068】
なお、図16は内側三角形領域T2(すなわち、第1制限三角形領域)に属している一次指令値ベクトルB3を例示している。この場合、特定第1制限三角形領域は内側三角形領域T2であり、隣接第2制限三角形領域は内側三角形領域T3であり、第1中間座標点は中間座標点M2であり、第2中間座標点は中間座標点M4である。指令回路72は、二次指令値ベクトルC3を生成する。制御回路70は、中間座標点M2の上側座標と、中間座標点M4の下側座標と、原点Oの座標を時間的にずらして出力する。図16でも、図15と同様に、中性点電位VMの変動が抑制される。
【0069】
(A-3-3.一次指令値ベクトルが第2制限三角形領域に属している場合)
一次指令値ベクトルが第2制限三角形領域に属している場合には、指令回路72は、一次指令値ベクトルが属している第2制限三角形領域(以下、特定第2制限三角形領域という)に隣接する第1制限三角形領域を特定する。以下では、特定第2制限三角形領域に隣接する第1制限三角形領域を、隣接第1制限三角形領域という。例えば、図17では、一次指令値ベクトルB4が内側三角形領域T6(すなわち、第2制限三角形領域)に属している。したがって、特定第2制限三角形領域は内側三角形領域T6である。この場合、指令回路72は、内側三角形領域T6に隣接する第1制限三角形領域である内側三角形領域T1を、隣接第1制限三角形領域として特定する。次に、指令回路72は、特定第2制限三角形領域と隣接第1制限三角形領域とによって構成される四角形のうちの原点Oを含まない対角を構成する2つの中間座標点を特定する。以下では、特定された2つの中間座標点(すなわち、原点Oを含まない対角を構成する2つの中間座標点)のうち、隣接第1制限三角形領域内の中間座標点を第3中間座標点といい、特定第2制限三角形領域内の中間座標点を第4中間座標点という。第3中間座標点は制限中間座標点であり、第4中間座標点は正常中間座標点である。例えば、図17では、2つの内側三角形領域T1、T6によって構成される四角形の原点Oを含まない対角を構成する2つの中間座標点は、中間座標点M2と中間座標点M6である。中間座標点M2は、隣接第1制限三角形領域(すなわち、内側三角形領域T1)の頂点を構成する座標点であるので、第3中間座標点である。中間座標点M6は、特定第2制限三角形領域(すなわち、内側三角形領域T6)の頂点を構成する座標点であるので、第4中間座標点である。中間座標点M2(すなわち、第3中間座標点)は制限中間座標点である。中間座標点M6(すなわち、第4中間座標点)は正常中間座標点である。次に、指令回路72は、第3中間座標点と第4中間座標点を接続した線分(以下、線分L2という)を算出する。例えば、図17では、中間座標点M2(すなわち、第3中間座標点)と中間座標点M6(すなわち、第4中間座標点)とを接続した線分L2を算出する。次に、指令回路72は、一次指令値ベクトルが、線分L2を超えているか否かを判定する。一次指令値ベクトルが線分L2を超えている場合には、指令回路72は、一次指令値ベクトルと角度θが等しく、線分L2を超えない長さを有する電圧ベクトルを二次指令値ベクトルとして算出する。すなわち、指令回路72は、一次指令値ベクトルを短縮することで二次指令値ベクトルを算出する。例えば、図17では、一次指令値ベクトルB4が線分L2を超えている(すなわち、線分L2よりも外周側まで伸びている)。このため、指令回路72は、一次指令値ベクトルB4と角度θが等しく、線分L2を超えない二次指令値ベクトルC4を算出する。また、一次指令値ベクトルが線分L2を超えていない場合には、指令回路72は、一次指令値ベクトルをそのまま二次指令値ベクトルとする。生成された二次指令値ベクトルは、制御回路70に入力される。
【0070】
制御回路70は、二次指令値ベクトルに従って電圧ベクトルを出力する。ここでは、制御回路70は、第3中間座標点の座標と第4中間座標点の座標と原点Oの座標を時間的にずらして出力することで、二次指令値ベクトルと略一致する電圧ベクトルを出力する。第3中間座標点は制限中間座標点であるので、第3中間座標点を示す上側座標と下側座標の一方は禁止座標である。したがって、制御回路70は、上側座標と下側座標のうちの正常座標である一方を第3中間座標点の座標として出力する。また、第4中間座標点は正常中間座標点であるので、第4中間座標点を示す上側座標と下側座標の両方が正常座標である。制御回路70は、第4中間座標点の座標として、第3中間座標点として出力される座標とは反対側の座標を出力する。すなわち、制御回路70は、第3中間座標点として上側座標を出力するときは、第4中間座標点として下側座標を出力する。また、制御回路70は、第3中間座標点として下側座標を出力するときは、第4中間座標点として上側座標を出力する。また、制御回路70は、原点Oの座標として、禁止座標ではないいずれかの座標を出力する。例えば、図17の二次指令値ベクトルC4を出力する場合には、第3中間座標点として(2,2,1)が出力され、第4中間座標点として(1,0,1)が出力され、原点Oとして(2,2,2)または(1,1,1)が出力される。この場合、各座標点の座標が出力される時比率は、下記数式2の通りである。
【数3】
【0071】
なお、上記数式3において、Tdは第3中間座標点が出力される時比率であり、Teは第4中間座標点が出力される時比率であり、Tfは原点Oが出力される時比率である。また、上記数式3において、ωは二次指令値ベクトルの(2,0,2)の方向に対する角度であり、Vmagは二次指令値ベクトルの長さを電圧に換算した値であり、VHは高電位配線12の電位である。
【0072】
以上に説明したように、インバータ10は、第2制限三角形領域に属する電圧ベクトルを出力するときに、特定第2制限三角形領域と隣接第1制限三角形領域とによって構成される四角形を特定し、その四角形の原点Oを含まない対角を構成する第3中間座標点と第4中間座標点を特定する。そして、第3中間座標点、第4中間座標点、原点Oを時間的にずらして出力することで、第2制限三角形領域に属する電圧ベクトルを出力する。この方法によれば、一次指令値ベクトルが第1制限三角形領域に属する場合の制御期間と一次指令値ベクトルが第2制限三角形領域に属する場合の制御期間とを合わせたときに、上側座標が出力される時比率と下側座標が出力される時比率がバランスし易い。すなわち、一次指令値ベクトルが第1制限三角形領域に属する場合の制御期間では、第1中間座標点が出力される時比率が第2中間座標点が出力される時比率よりも長い。これは、二次指令値ベクトルの座標が、第2中間座標点よりも第1中間座標点に近いためである。また、一次指令値ベクトルが第2制限三角形領域に属する場合の制御期間では、第4中間座標点が出力される時比率が第3中間座標点が出力される時比率よりも長い。これは、二次指令値ベクトルの座標が、第3中間座標点よりも第4中間座標点に近いためである。また、第1中間座標点の座標は第3中間座標点の座標と等しく、第2中間座標点の座標は第4中間座標点の座標と等しい。このため、一次指令値ベクトルが第1制限三角形領域に属する場合の制御期間と一次指令値ベクトルが第2制限三角形領域に属する場合の制御期間とを合わせたときに、上側座標が出力される時比率と下側座標が出力時比率がバランスし易い。例えば、図17の制御の後に図15の制御が実行される場合を考える。この場合、図17の制御では、(1,0,1)が長く出力され、(2,2,1)が短く出力される。図15の制御では、(2,2,1)が長く出力され、(1,0,1)が短く出力される。このため、図17の制御期間と図15の制御期間とを合わせた場合に、(1,0,1)が出力される時比率と(2,2,1)が出力される時比率がバランスし易い。すなわち、上側座標が出力される時比率と下側座標が出力時比率がバランスし易い。したがって、中性点電位VMの変動をより抑制することができる。
【0073】
なお、図18は内側三角形領域T3(すなわち、第2制限三角形領域)に属している一次指令値ベクトルB5を例示している。この場合、特定第2制限三角形領域は内側三角形領域T3であり、隣接第1制限三角形領域は内側三角形領域T2であり、第3中間座標点が中間座標点M2であり、第4中間座標点が中間座標点M4である。指令回路72は、二次指令値ベクトルC5を生成する。制御回路70は、中間座標点M2の上側座標と、中間座標点M4の下側座標と、原点Oの座標を時間的にずらして出力する。図16の制御の後に図18の制御が実行されることで、図16の制御期間と図18の制御期間とを合わせた場合における上側座標と下側座標の時比率をバランスさせることができる。したがって、中性点電位VMの変動をより抑制することができる。
【0074】
以上、実施例1のインバータ10について説明した。なお、図14図18では、禁止座標が下側座標である場合を例として示した。図19~21は、禁止座標が上側座標(より詳細には、禁止パラメータがVw=2)である場合を例示している。この場合、第1制限三角形領域が内側三角形領域T4、T5であり、第2制限三角形領域が内側三角形領域T3、T6であり、正常三角形領域が内側三角形領域T1、T2である。この場合、第1中間座標点及び第3中間座標点として下側座標が選択され、第2中間座標点及び第4中間座標点として上側座標が選択される。例えば、図19では、一次指令値ベクトルB6が内側三角形領域T5(すなわち、第1制限三角形領域)に属しているので、第1中間座標点(すなわち、中間座標点M5)、第2中間座標点(すなわち、中間座標点M1)、及び、原点Oが連続して出力される。このとき、中間座標点M5の座標として(0,0,1)が出力され、中間座標点M1の座標として(2,1,1)が出力される。また、例えば、図20では、一次指令値ベクトルB7が内側三角形領域T6(すなわち、第2制限三角形領域)に属しているので、第3中間座標点(すなわち、中間座標点M5)、第4中間座標点(すなわち、中間座標点M1)、及び、原点Oが連続して出力される。このとき、中間座標点M5の座標として(0,0,1)が出力され、中間座標点M1の座標として(2,1,1)が出力される。したがって、上側座標の時比率と下側座標の時比率がバランスし易く、中性点電位VMの変動が抑制される。
【0075】
以上に説明したように、実施例1のインバータ10では、非常動作において中性点電位VMが変動し難い。したがって、非常動作を長時間継続することができる。
【実施例2】
【0076】
図21は、実施例2のインバータ400を示している。なお、実施例2のインバータ400の各部のうち実施例1と同様の機能を有する部分には、実施例1と同様の参照符号を付している。
(インバータの構成)
インバータ400は、車両に搭載されている。また、車両には、バッテリ18とモータ90が搭載されている。モータ90は、車両を走行させるためのモータである。モータ90は、三相モータである。インバータ400は、バッテリ18とモータ90に接続されている。インバータ400は、バッテリ18から供給される直流電力を三相交流電力に変換し、三相交流電力をモータ90に供給する。これによって、モータ90が駆動し、車両が走行する。
【0077】
インバータ400は、高電位配線12、中性点14、低電位配線16、上側コンデンサ20、及び、下側コンデンサ22を有している。高電位配線12は、バッテリ18の正極に接続されている。低電位配線16は、バッテリ18の負極に接続されている。以下では、低電位配線16の電位を基準電位(0V)とする。バッテリ18によって、高電位配線12と低電位配線16の間に直流電圧が印加されている。したがって、高電位配線12は、低電位配線16の電位(0V)よりも高い電位VHを有している。上側コンデンサ20は、高電位配線12と中性点14の間に接続されている。下側コンデンサ22は、中性点14と低電位配線16の間に接続されている。このため、中性点14の電位VM(以下、中性点電位VMという)は、低電位配線16の電位(0V)よりも高く、高電位配線12の電位VHよりも低い。中性点電位VMは、上側コンデンサ20に蓄えられる電荷量と下側コンデンサ22に蓄えられる電荷量に応じて変動する。上側コンデンサ20が放電されるか、下側コンデンサ22が充電されると、中性点電位VMは上昇する。上側コンデンサ20が充電されるか、下側コンデンサ22が放電されると、中性点電位VMは低下する。
【0078】
インバータ400は、U相スイッチング回路30u、V相スイッチング回路30v、及び、W相スイッチング回路30wの3つのスイッチング回路30を有している。スイッチング回路30のそれぞれは、高電位配線12と低電位配線16と中性点14の間に接続されている。スイッチング回路30のぞれぞれは、第1スイッチング素子441、第2スイッチング素子442、第3スイッチング素子443、第4スイッチング素子444、第1ダイオード451、第2ダイオード452、第3ダイオード453、第4ダイオード454、及び、出力配線60を有している。3つのスイッチング回路30の構成は互いに等しいので、以下では1つのスイッチング回路30の構成について説明する。
【0079】
スイッチング素子441~444は、IGBTにより構成されている。但し、スイッチング素子441~444は、他の素子(例えば、FET)により構成されていてもよい。
【0080】
第1スイッチング素子441は、高電位配線12と出力配線60の間に接続されている。第1スイッチング素子441のコレクタが高電位配線12に接続されており、第1スイッチング素子441のエミッタが出力配線60に接続されている。
【0081】
第1ダイオード451は、第1スイッチング素子441に対して並列に接続されている。第1ダイオード451のアノードが第1スイッチング素子441のエミッタに接続されており、第1ダイオード451のカソードが第1スイッチング素子441のコレクタに接続されている。
【0082】
第4スイッチング素子444は、出力配線60と低電位配線16の間に接続されている。第4スイッチング素子444のコレクタが出力配線60に接続されており、第4スイッチング素子444のエミッタが低電位配線16に接続されている。
【0083】
第4ダイオード454は、第4スイッチング素子444に対して並列に接続されている。第4ダイオード454のアノードが第4スイッチング素子444のエミッタに接続されており、第4ダイオード454のカソードが第4スイッチング素子444のコレクタに接続されている。
【0084】
第2スイッチング素子442と第3スイッチング素子443は、出力配線60と中性点14の間に直列に接続されている。第2スイッチング素子442のドレインは、中性点14に接続されている。第2スイッチング素子442のソースは、第3スイッチング素子443のソースに接続されている。第3スイッチング素子443のドレインは、出力配線60に接続されている。
【0085】
第2ダイオード452は、第2スイッチング素子442に対して並列に接続されている。第2ダイオード452のアノードが第2スイッチング素子442のソースに接続されており、第2ダイオード452のカソードが第2スイッチング素子442のドレインに接続されている。すなわち、第2ダイオード452は、カソードが中性点14側を向く向きで第2スイッチング素子442に対して並列に接続されている。
【0086】
第3ダイオード453は、第3スイッチング素子443に対して並列に接続されている。第3ダイオード453のアノードが第3スイッチング素子443のソースに接続されており、第3ダイオード453のカソードが第3スイッチング素子443のドレインに接続されている。すなわち、第3ダイオード453は、カソードが出力配線60側を向く向きで第3スイッチング素子443に対して並列に接続されている。
【0087】
以下では、U相スイッチング回路30uの出力配線60をU相出力配線60uといい、V相スイッチング回路30vの出力配線60をV相出力配線60vといい、W相スイッチング回路30wの出力配線60をW相出力配線60wという。U相出力配線60u、V相出力配線60v、W相出力配線60wのそれぞれは、モータ90に接続されている。
【0088】
インバータ400は、制御回路70と指令回路72を有している。指令回路72は、モータ90の動作状態に応じて指令値を生成し、生成した指令値を制御回路70に入力する。制御回路70は、図示していないが、U相スイッチング回路30u、V相スイッチング回路30v、及び、W相スイッチング回路30wのそれぞれが有するスイッチング素子441~444のゲートに接続されている。すなわち、制御回路70は、図21に示す12個のスイッチング素子のゲートに接続されている。制御回路70は、指令回路72から入力される指令値に基づいて、各スイッチング素子をオン-オフさせる。これによって、3つの出力配線60の間に三相交流電流が生成される。三相交流電流がモータ90に供給されることで、モータ90が駆動し、車両が走行する。
【0089】
(出力配線の電位)
次に、各出力配線60に印加される電位について説明する。制御回路70は、各スイッチング回路30を、図22に示す第1状態、第2状態、第3状態のいずれかに制御する。
【0090】
第1状態では、第1スイッチング素子441がオン、第2スイッチング素子442がオフ、第3スイッチング素子443がオフ、第4スイッチング素子444がオフに制御される。第1状態では、出力配線60が、第1スイッチング素子441を介して高電位配線12に接続される。したがって、第1状態では、出力配線60の電位は、高電位配線12と同じ電位VHとなる。
【0091】
第2状態では、第1スイッチング素子441がオフ、第2スイッチング素子442がオン、第3スイッチング素子443がオン、第4スイッチング素子444がオフに制御される。第2状態では、出力配線60が、第2スイッチング素子442と第3スイッチング素子443を介して中性点14に接続される。したがって、第2状態では、出力配線60の電位は、中性点14と同じ中性点電位VMとなる。
【0092】
第3状態では、第1スイッチング素子441がオフ、第2スイッチング素子442がオフ、第3スイッチング素子443がオフ、第4スイッチング素子444がオンに制御される。第3状態では、出力配線60が、第4スイッチング素子444を介して低電位配線16に接続される。したがって、第3状態では、出力配線60の電位は、低電位配線16と同じ0Vとなる。
【0093】
各スイッチング回路30の状態が第1状態、第2状態、第3状態の間で変化することで、各出力配線60の電位が高電位VH、中性点電位VM、0Vの間で変化する。制御回路70は、各出力配線60の電位を制御することによって、出力配線60に三相交流電流を発生させる。
【0094】
(正常動作)
指令回路72は、実施例1と同様に、空間ベクトル座標系の座標によって表される指令値ベクトルを生成する。短絡故障素子が存在しない場合には、制御回路70は、正常動作を実行する。正常動作では、制御回路70は、一次指令値ベクトルに従ってインバータ10を制御する。実施例2の正常動作は、実施例1の正常動作と等しい。
【0095】
(中性点電位VMの変動)
次に、中性点電位VMの変動について説明する。図3に示す各座標のうち、数値「1」を含まない電圧ベクトルでは、3つの出力配線60のいずれにも中性点電位VMが印加されない。この場合、中性点電位VMの変動は生じない。例えば、(0,0,2)が出力される場合には、図23のように、出力配線60u、60vが低電位配線16に接続され、出力配線60wが高電位配線12に接続される。なお、モータ90の動作状態によって、モータ90に印加される電圧と同じ方向(以下、順方向という)に電流が流れる場合と、モータ90に印加される電圧と逆の方向(以下、逆方向という)に電流が流れる場合とがある。順方向に電流が流れる場合には、図23の矢印401に示すように、高電位配線12から出力配線60wを介してモータ90に電流が流れる。モータ90に流入した電流は、出力配線60u、60vを介して低電位配線16へ流れる。また、逆方向に電流が流れる場合には、矢印401の逆向きに電流が流れる。これらのいずれの場合でも、中性点14に対する電荷の流入、及び、中性点14からの電荷の流出は生じない。したがって、この場合には、中性点電位VMの変動は生じない。電圧ベクトルとして(2,0,0)、(2,2,0)、(0,2,0)、(0,2,2)、(2,0,2)が出力される場合も、同様にして、中性点電位VMの変動は生じない。
【0096】
図3に示す座標のうち、数値「1」を含む電圧ベクトルを出力する場合には、3つの出力配線60の少なくとも1つに中性点14が接続されるので、中性点電位VMの変動が生じる。
【0097】
例えば、(1,1,2)が出力される場合には、図24のように、出力配線60u、60vが中性点14に接続され、出力配線60wが高電位配線12に接続される。順方向に電流が流れる場合には、図24の矢印402に示すように、高電位配線12から出力配線60wを介してモータ90に電流が流れる。モータ90に流入した電流は、出力配線60u、60vを介して中性点14へ流れる。この場合、上側コンデンサ20が放電されるので、中性点電位VMが上昇する。また、逆方向に電流が流れる場合には、矢印402の逆向きに電流が流れる。この場合、上側コンデンサ20が充電されるので、中性点電位VMが低下する。このように、(1,1,2)が出力される場合には、電流が順方向の場合に中性点電位VMが上昇し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが低下する。電圧ベクトルとして(2,1,1)、(2,2,1)、(1,2,1)、(1,2,2)、(2,1,2)が出力される場合も、同様にして、電流が順方向の場合に中性点電位VMが上昇し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが低下する。
【0098】
また、例えば、(0,0,1)が出力される場合には、図25のように、出力配線60u、60vが低電位配線16に接続され、出力配線60wが中性点14に接続される。順方向に電流が流れる場合には、図25の矢印404に示すように、中性点14から出力配線60wを介してモータ90に電流が流れる。モータ90に流入した電流は、出力配線60u、60vを介して低電位配線16へ流れる。この場合、下側コンデンサ22が放電されるので、中性点電位VMが低下する。また、逆方向に電流が流れる場合には、矢印404の逆向きに電流が流れる。この場合、下側コンデンサ22が充電されるので、中性点電位VMが上昇する。このように、(0,0,1)が出力される場合には、電流が順方向の場合に中性点電位VMが低下し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが上昇する。電圧ベクトルとして(1,0,0)、(1,1,0)、(0,1,0)、(0,1,1)、(1,0,1)が出力される場合も、同様にして、電流が順方向の場合に中性点電位VMが低下し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが上昇する。
【0099】
また、図3に示す電圧ベクトルのうち、(2,1,0)、(1,2,0)、(0,2,1)、(0,1,2)、(1,0,2)、(2,0,1)が出力される場合でも、中性点14に対する電荷の流入または流出が生じるので、中性点電位VMの変動が生じる。
【0100】
正常動作では、指令回路72と制御回路70は、中性点電位VMに応じて出力する電圧ベクトルを変更する。例えば、中性点電位VMが制御目標値よりも低い場合には、中性点電位VMを上昇させる電圧ベクトルを優先的に出力する。また、例えば、中性点電位VMが制御目標値よりも高い場合には、中性点電位VMを低下させる電圧ベクトルを優先的に出力する。したがって、中性点電位VMを目標値に近い値に制御しながら、モータ90に三相交流電流を供給することができる。
【0101】
(短絡素子判定動作)
制御回路70は、車両が走行していないときに、定期的に短絡素子判定動作を実行する。短絡素子判定動作では、スイッチング回路30u、30v、30wのそれぞれについて、スイッチング素子441~444が短絡故障しているか否かを判定する。制御回路70は、短絡故障素子の有無を判定するとともに、短絡故障素子がある場合にはスイッチング素子441~444の何れが短絡故障素子であるかを判定する。
【0102】
(A.非常動作)
次に、非常動作について説明する。指令回路72と制御回路70は、第2スイッチング素子442または第3スイッチング素子443が短絡故障しているときに、非常動作を実行することができる。なお、第1スイッチング素子441または第4スイッチング素子444が短絡故障している場合には、インバータ400は非常動作を実行することができない。非常動作では、制限出力配線60xに禁止電位が印加されないように、制限スイッチング回路30xが制御される。最初に、禁止電位について説明する。
【0103】
(A-1.禁止電位)
禁止電位は、制限スイッチング回路30x内で線間短絡が生じるため、制限出力配線60xに印加できない電圧を意味する。制限スイッチング回路30x内の短絡故障素子の種類によって、禁止電位が異なる。
【0104】
第2スイッチング素子442が短絡故障している場合には、第4スイッチング素子444がオンすると、中性点14から第2スイッチング素子442、第3ダイオード453及び第4スイッチング素子444を介して低電位配線16へ短絡電流が流れる。したがって、第2スイッチング素子442が短絡故障している場合には、第4スイッチング素子444をオンすることができない。したがって、第2スイッチング素子442が短絡故障している場合には、禁止電位は0Vである。
【0105】
第3スイッチング素子443が短絡故障している場合には、第1スイッチング素子441がオンすると、高電位配線12から第1スイッチング素子441、第3スイッチング素子443及び第2ダイオード452を介して中性点14へ短絡電流が流れる。したがって、第3スイッチング素子443が短絡故障している場合には、第1スイッチング素子441をオンすることができない。したがって、第3スイッチング素子443が短絡故障している場合には、禁止電位は高電位VHである。
【0106】
(A-2.禁止電位が0Vまたは高電位VHの場合の非常動作)
禁止電位が0Vまたは高電位VHの場合の非常動作は、実施例2と実施例1とで等しい。すなわち、図14のように一次指令値ベクトルが正常三角形領域に属する場合には、正常動作と同様に電圧ベクトルが出力される。図15、16、19のように一次指令値ベクトルが第1制限三角形領域に属する場合には、指令回路72は、実施例1と同様に線分L1を算出し、線分L1を超えない二次指令値ベクトルを算出する。また、制御回路70は、実施例1と同様にして、第1中間座標点の正常座標と、第2中間座標点の座標(第1中間座標点と反対の座標)と原点の座標を時間的にずらして出力する。図17、18、20のように一次指令値ベクトルが第2制限三角形領域に属する場合には、指令回路72は、実施例1と同様にして線分L2を算出し、線分L2を超えない二次指令値ベクトルを算出する。また、制御回路70は、実施例1と同様にして、第3中間座標点の正常座標と、第4中間座標点の座標(第3中間座標点と反対の座標)と原点の座標を時間的にずらして出力する。したがって、実施例2の非常動作でも、実施例1と同様に、中性点電位VMの変動を抑制できる。
【0107】
以上に説明したように、実施例2のインバータ400では、非常動作において中性点電位VMが変動し難い。したがって、非常動作を長時間継続することができる。
【0108】
実施例2のダイオード452は、第1中間ダイオードの一例である。実施例2のダイオード453は、第2中間ダイオードの一例である。
【0109】
また、実施例1、2において、図15、16、19のように一次指令値ベクトルが第1制限三角形領域に属している状態は、制限状態の一例である。また、実施例1、2において、図17、18、20のように一次指令値ベクトルが第2制限三角形領域に属している状態は、予備状態の一例である。
【0110】
なお、非常動作において、上述した実施例1、2の制御方法を、他の制御方法と組み合わせて実行してもよい。例えば、中性点電位VMが許容範囲内にある場合に他の制御方法を実行し、中性点電位VMが許容範囲外となったときに実施例1、2の制御方法を実行して中性点電位VMのそれ以上の変動を抑制してもよい。
【0111】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0112】
10:インバータ、12:高電位配線、14:中性点、16:低電位配線、18:バッテリ、20:上側コンデンサ、22:下側コンデンサ、30:スイッチング回路、41~55:スイッチング素子、51~52:ダイオード、60:出力配線
図1
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