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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】積層装置
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/00 20060101AFI20240423BHJP
   B29C 65/78 20060101ALI20240423BHJP
   B65H 3/08 20060101ALI20240423BHJP
   H01M 10/04 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
B32B37/00
B29C65/78
B65H3/08 310A
B65H3/08 350A
H01M10/04 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021085851
(22)【出願日】2021-05-21
(65)【公開番号】P2022178800
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【弁理士】
【氏名又は名称】野末 貴弘
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西澤 均
(72)【発明者】
【氏名】能方 駿介
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 亮平
(72)【発明者】
【氏名】牧野 聖
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-066739(JP,A)
【文献】特開平04-133918(JP,A)
【文献】特開2002-184835(JP,A)
【文献】実開昭59-140241(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65H 1/00-3/68
B29C 63/00-63/48、65/00-65/82
H01M 10/00-10/04、10/06-10/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層対象物の一方の主面を載置するためのステージと、
吸引により前記ステージ上の前記積層対象物の他方の主面を吸着して保持することが可能な積層ヘッドと、
を備え、
前記積層ヘッドは、
主面部と、
凹部を構成するように前記主面部と連なって形成されている外縁部と、
前記凹部内に位置しており、当該凹部内において、前記主面部に対して接近および離反する方向に移動可能であり、前記外縁部との間に間隙が存在する態様で設けられている保持部と、
を備え、
前記外縁部は、前記保持部の全周を囲んでおり、
前記主面部には、前記凹部側に開口した吸引孔が設けられており、
前記吸引孔を介して吸引が行われることにより、前記主面部、前記外縁部、および、前記保持部によって囲まれる空間が負圧となる
ことを特徴とする積層装置。
【請求項2】
前記保持部によって保持されている前記積層対象物の量、および、前記ステージ上の前記積層対象物の量のうちの少なくとも一方に応じて、前記保持部が前記ステージ上の前記積層対象物を保持する際の前記主面部に対する前記保持部の位置を制御可能な制御部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の積層装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記保持部によって保持されている前記積層対象物の一方の主面と、前記ステージ上の前記積層対象物の他方の主面との距離が一定の距離となるように、前記主面部に対する前記保持部の位置を制御可能であることを特徴とする請求項2に記載の積層装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ステージ上の前記積層対象物を保持する回数に応じて、前記主面部に対する前記保持部の位置を制御可能であることを特徴とする請求項2に記載の積層装置。
【請求項5】
前記外縁部は、前記主面部とは反対側の位置に、気体を吹き出すための吹き出し孔を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の積層装置。
【請求項6】
前記吹き出し孔は、前記凹部を囲う環状の形状を有することを特徴とする請求項5に記載の積層装置。
【請求項7】
前記ステージは、載置される前記積層対象物に向かって気体を噴出可能な気体噴出部を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の積層装置。
【請求項8】
前記ステージ上の最外に位置する前記積層対象物の他方の主面、および、前記積層ヘッドに保持された最外に位置する前記積層対象物の一方の主面の少なくとも一方に当接する固定部材がないことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の積層装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物を吸引して保持する装置が知られている。
【0003】
そのような装置の1つとして、特許文献1には、図10に示す構造の装置200が開示されている。この装置200は、上面壁201と、周側壁202と、流路形成板203とを備えるとともに、上面壁201と連通した吸引口204を有し、吸引口204から空気を吸引することによって、積層された複数のシート205を流路形成板203で吸着保持する。より具体的には、積層された複数のシート205の周側面と周側壁202との間、および、流路形成板203と上面壁201との間には微小隙間が形成されるとともに、流路形成板203には、両主面間を貫通する空気流通用の微小な小孔が形成されており、吸引口204から空気を吸引することによって、積層された複数のシート205を流路形成板203で吸着保持することができるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-133918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に記載の装置200によって、複数の供給位置に供給されるシート205を順に吸引して保持することにより、複数のシートが積層された積層体を作製する構成が考えられる。しかしながら、特許文献1に記載の装置200では、流路形成板203で吸着保持されているシート205の枚数が多い場合には、供給位置におけるシート205と、吸着保持されている複数のシート205のうちの最下層のシート205との間の距離が短くなるが、吸着保持されているシート205の枚数が少ない場合には、上述した距離が長くなる。したがって、吸着保持されているシート205の枚数が少ない間は、供給位置におけるシートに対して装置200が下降して近づく際の移動距離が長くなり、それにより、積層に要する時間が長くなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、積層対象物を順に吸引して保持することによって積層体を得る際の積層時間を短縮することができる積層装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の積層装置は、
積層対象物の一方の主面を載置するためのステージと、
吸引により前記ステージ上の前記積層対象物の他方の主面を吸着して保持することが可能な積層ヘッドと、
を備え、
前記積層ヘッドは、
主面部と、
凹部を構成するように前記主面部と連なって形成されている外縁部と、
前記凹部内に位置しており、当該凹部内において、前記主面部に対して接近および離反する方向に移動可能であり、前記外縁部との間に間隙が存在する態様で設けられている保持部と、
を備え、
前記外縁部は、前記保持部の全周を囲んでおり、
前記主面部には、前記凹部側に開口した吸引孔が設けられており、
前記吸引孔を介して吸引が行われることにより、前記主面部、前記外縁部、および、前記保持部によって囲まれる空間が負圧となる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層装置によれば、積層対象物の他方の主面を吸着保持する保持部が積層ヘッドの主面部に対して接近および離反する方向に移動可能であるため、吸着保持している積層対象物の量に関わらず、吸着保持している積層対象物のうちの最外の積層対象物の一方の主面と、ステージ上の積層対象物の他方の主面との間の距離を一定の距離にすることが可能となる。これにより、積層ヘッドが吸着保持している積層対象物の量に関わらず、積層ヘッドが積層対象物に対して近づく際の移動距離を、例えば一定の距離とすることができるので、保持部の位置が固定された構成と比べて、積層時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における積層装置の構成を模式的に示す断面図である。
図2】保持部の保持面側から見た積層ヘッドの構成を模式的に示す図である。
図3】保持部の保持面側から見たときの吹き出し孔の形状が矩形の三辺に応じた形状である場合の積層ヘッドの構成を模式的に示す図であって、(a)は、吹き出し孔が外縁部の外周側表面に開口していない場合の図であり、(b)は、吹き出し孔が外縁部の外周側表面に開口している場合の図である。
図4】保持部の保持面側から見たときの吹き出し孔の形状が矩形の二辺に応じた形状である場合の積層ヘッドの構成を模式的に示す図であって、(a)は、吹き出し孔が外縁部の外周側表面に開口していない場合の図であり、(b)は、吹き出し孔が外縁部の外周側表面に開口している場合の図である。
図5】保持部の保持面側から見たときの吹き出し孔の形状が矩形の一辺に応じた形状である場合の積層ヘッドの構成を模式的に示す図であって、(a)は、吹き出し孔が外縁部の外周側表面に開口していない場合の図であり、(b)は、吹き出し孔が外縁部の外周側表面に開口している場合の図である。
図6】(a)は、吹き出し孔から気体を吹き出したときの空気の流れをシミュレーションにより求めた結果を示す図であり、(b)は、吹き出し孔から気体を吹き出さない場合の空気の流れをシミュレーションにより求めた結果を示す図である。
図7】(a)は、保持部が吸着保持している積層対象物の量が少ない場合の保持部の位置を示す断面図であり、(b)は、保持部が吸着保持している積層対象物の量が多い場合の保持部の位置を示す断面図である。
図8A】ステージ上の積層対象物の量が少ない場合の保持部の位置を示す断面図である。
図8B】ステージ上の積層対象物の量が多く、ステージの構造を積層ヘッドと同じ構造とした場合の保持部の位置を示す断面図である。
図9】4つのステージ上に載置されている積層対象物を積層ヘッドによって順に吸着保持して積層体を得る方法を説明するための図である。
図10】特許文献1に記載の、シートを吸引保持する装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態における積層装置100の構成を模式的に示す断面図である。図2は、保持部23の保持面23a側から見た積層ヘッド20の構成を模式的に示す図である。
【0012】
一実施形態における積層装置100は、ステージ10と積層ヘッド20とを備える。本実施形態における積層装置100は、さらに、制御部30を備える。本実施形態における積層装置100は、ステージ10に載置されている積層対象物1を積層ヘッド20が吸引して保持する動作を繰り返すことによって、複数の積層対象物1が積層された積層体を得ることができるように構成されている。
【0013】
積層対象物1の一方の主面1aを載置するためのステージ10の形状については、特に成約はない。ステージ10は、図1に示すように、載置される積層対象物1に向かって気体を噴出可能な気体噴出部11を備えていてもよい。例えば、気体噴出部11には、ステージ10上の積層対象物1が載置される面に開口した気体噴出孔が含まれており、気体噴出孔から気体を噴出する。噴出する気体は、例えば空気である。この気体噴出孔は、ステージ10上の積層対象物1を保持するための吸引孔を兼ねていてもよい。その場合、気体噴出孔を介して吸引を行うことにより、積層対象物1を保持することができる。
【0014】
積層対象物1は、例えば、シート状の部材である。一例として、積層対象物1は、電池の構成部材である樹脂フィルム、第1の金属箔、および、第2の金属箔である。
【0015】
樹脂フィルムは、電池のセパレータとして機能するシート状の部材であり、例えば、ポリエチレンからなる。本実施形態において、樹脂フィルムは、矩形の形状を有しており、例えば、長尺状の樹脂フィルムシートを切り出して使用することが可能である。
【0016】
第1の金属箔は、電池の正極および負極のうちの一方の電極として機能するシート状の部材であり、例えば、アルミニウムからなる。本実施形態において、第1の金属箔は、矩形の形状を有する。第1の金属箔には、位置合わせのためのアライメントマークが設けられていてもよい。
【0017】
第2の金属箔は、電池の正極および負極のうちの他方の電極として機能するシート状の部材であり、例えば、アルミニウムからなる。本実施形態において、第2の金属箔は、矩形の形状を有する。第2の金属箔には、位置合わせのためのアライメントマークが設けられていてもよい。
【0018】
積層対象物1が上述した樹脂フィルム、第1の金属箔、および、第2の金属箔である場合、積層ヘッド20は、樹脂フィルム、第1の金属箔、樹脂フィルム、および、第2の金属箔をこの順に積層するとともに、上述した4枚の積層対象物1を1組として複数組を積層することにより、電池の要部を構成する積層体を得る。
【0019】
積層ヘッド20は、主面部21と、外縁部22と、保持部23とを備えており、吸引によりステージ10上の積層対象物1の他方の主面1bを吸着して保持可能に構成されている。
【0020】
本実施形態において、主面部21は、保持部23と対向する面である第1の主面21aと、第1の主面21aとは反対側の面である第2の主面21bとを有する平板状の形状を有する。後述する保持部23の移動方向に見たときに、主面部21は、矩形の形状を有する。ただし、主面部21の形状が矩形に限定されることはない。
【0021】
主面部21には、主面部21および外縁部22によって構成される凹部26側、すなわち、第1の主面21aに開口した吸引孔24が設けられている。本実施形態において、吸引孔24は、第1の主面21aと第2の主面21bとを連通する態様で設けられている。
【0022】
外縁部22は、主面部21とともに凹部26を構成するように、主面部21と連なって形成されている。図2に示すように、本実施形態では、後述する保持部23の保持面23a側から見たときの外縁部22の外周の形状は、主面部21の外周の形状と同じ矩形である。
【0023】
本実施形態において、外縁部22は、主面部21とは反対側の位置に、気体を吹き出すための吹き出し孔25を有する。主面部21とは反対側の位置とは、外縁部22の表面のうち、主面部21の外側の表面である第2の主面21bとは反対側の表面22aのことである。吹き出し孔25から吹き出される気体は、例えば、空気である。本実施形態において、吹き出し孔25は、主面部21の第2の主面21bまで延伸して、第2の主面21b側にも開口している。
【0024】
図2に示すように、保持部23の保持面23a側から見たときに、吹き出し孔25は、外縁部22の形状に応じて、矩形の環状の形状を有する。ただし、保持部23の移動方向に見たときの吹き出し孔25の形状が矩形の環状の形状に限定されることはない。
【0025】
図3(a)は、保持部23の保持面23a側から見たときの吹き出し孔25の形状が矩形の三辺に応じた形状である場合の構成を模式的に示す図である。すなわち、保持部23の保持面23a側から見たときに、矩形の環状の形状を有する外縁部22のうち、矩形の三辺に対応する部分にのみ吹き出し孔25が設けられている。吹き出し孔25は、図3(b)に示すように、外縁部22の外周側表面にも開口していてもよい。
【0026】
図4(a)は、保持部23の保持面23a側から見たときの吹き出し孔25の形状が矩形の二辺に応じた形状である場合の構成を模式的に示す図である。すなわち、保持部23の保持面23a側から見たときに、矩形の環状の形状を有する外縁部22のうち、矩形の二辺に対応する部分にのみ吹き出し孔25が設けられている。吹き出し孔25は、図4(b)に示すように、外縁部22の外周側表面にも開口していてもよい。
【0027】
図5(a)は、保持部23の保持面23a側から見たときの吹き出し孔25の形状が矩形の一辺に応じた形状である場合の構成を模式的に示す図である。すなわち、保持部23の保持面23a側から見たときに、矩形の環状の形状を有する外縁部22のうち、矩形の一辺に対応する部分にのみ吹き出し孔25が設けられている。吹き出し孔25は、図5(b)に示すように、外縁部22の外周側表面にも開口していてもよい。
【0028】
図2図5に示すように、吹き出し孔25は、スリット状に形成されていてもよいし、複数並ぶ円形の孔であってもよい。
【0029】
本実施形態における積層装置100では、少なくとも保持部23によって積層対象物1が吸着保持されている状態で積層ヘッド20が移動する時に、吹き出し孔25から気体を吹き出すように構成されている。吹き出し孔25から気体を吹き出すことによって、エアバリアが発生し、積層ヘッド20の移動時に、外縁部22の外側から内側に風が流入することを抑制することができる。
【0030】
吹き出し孔25から気体を吹き出した場合と、吹き出さない場合の空気の流れをシミュレーションにより求めた結果を図6に示す。図6(a)は、吹き出し孔25から気体を吹き出したときの空気の流れを示す図であり、図6(b)は、吹き出し孔25から気体を吹き出さない場合の空気の流れを示す図である。なお、図6(a)では、図1に示す構成とは上下反対の向き、すなわち、外縁部22の吹き出し孔25が上方を向いて開口した状態で、上方に向けて気体を吹き出したときの空気の流れを示している。気体の吹き出し速度は、100m/sとした。
【0031】
図6(a)に示すように、吹き出し孔25から気体が吹き出されることによって、エアバリア40が発生するので、外縁部22の外側から内側への風の流入を抑制することができる。なお、本実施形態の構成のように、外縁部22の吹き出し孔25が下方を向いて、下方に向けて気体を吹き出す場合も同様である。また、シミュレーションは、積層ヘッド20が停止した状態で気体を吹き出すものとして行ったが、実際に積層ヘッド20が移動しているときには、特に外縁部22の外側から内側へと風が流入しやすくなるため、エアバリア40による風の流入を抑制する効果が高くなる。すなわち、吹き出し孔25から気体を吹き出すことにより、外縁部22の内側に位置する保持部23によって保持されている積層対象物1が外側から流入してくる風によって影響を受けることを抑制することができるので、積層対象物1の位置ずれを抑制して、積層対象物1を安定的に搬送することができる。
【0032】
なお、発明者が行ったシミュレーションによると、吹き出し孔25から気体を吹き出していないときに、保持部23によって保持されている積層対象物1の保持力は101Nであるが、吹き出し孔25から気体を吹き出したときの積層対象物1の保持力は126Nと大きくなった。すなわち、吹き出し孔25から気体を吹き出すことによって、保持部23によって保持されている積層対象物1が風の影響を受けにくくなるので、保持力が向上する。
【0033】
なお、図3図5に示す構成でも、積層ヘッド20の移動方向にエアバリアが発生するようにすれば、積層ヘッド20の移動に伴って外縁部22の外側から内側へと風が流入することを抑制することができる。ただし、図2に示すように、矩形の環状の形状を有する外縁部22の四辺に対応する部分に対応して、吹き出し孔25が設けられた構成とすることにより、積層ヘッド20が水平方向のどの方向に移動した場合でも、外縁部22の外側から内側へと風が流入することを抑制することができる。したがって、吹き出し孔25は、凹部26を囲う環状の形状を有することが好ましい。
【0034】
保持部23は、凹部26内において、主面部21に対して接近および離反する方向に移動可能であり、図1に示すように、外縁部22との間に間隙P1が存在する態様で設けられている。また、保持部23が主面部21に最も近づいたときにも、保持部23と主面部21の第1の主面21aとの間に間隙P2が存在するように構成されている。保持部23と外縁部22との間隙P1の寸法は、例えば、0.5mm以上1.0mm以下である。
【0035】
本実施形態において、保持部23は平板状の形状を有し、自身の移動方向に見たときの形状は矩形である。図2に示すように、保持部23の保持面23a側から見たときに、保持部23と外縁部22との間隙P1は、矩形の環状の形状を有する。ただし、保持部23の保持面23a側から見たときの、保持部23と外縁部22との間隙P1の形状が矩形の環状の形状に限定されることはない。
【0036】
保持部23は、主面部21とは反対側の面である保持面23aで積層対象物1を吸着保持する。すなわち、後述するように、吸引孔24を介して吸引が行われることによって、保持部23の保持面23aで積層対象物1が吸着保持される。
【0037】
制御部30は、保持部23によって保持されている積層対象物1の量、および、ステージ10上の積層対象物1の量のうちの少なくとも一方に応じて、保持部23がステージ10上の積層対象物1を保持する際の積層ヘッド20の主面部21に対する保持部23の位置を制御可能に構成されている。ここでの保持部23の位置とは、高さ方向の位置、すなわち、主面部21に対して接近および離反する方向に移動可能である保持部23の移動方向の位置である。
【0038】
具体的には、制御部30は、保持部23によって保持されている積層対象物1の一方の主面1aと、ステージ10の積層対象物1の他方の主面1bとの間の距離L1(図7参照)が一定の距離となるように、積層ヘッド20主面部21に対する保持部23の位置を制御する。ただし、保持部23が複数の積層対象物1を吸着している場合の上記距離L1は、保持部23が吸着保持している複数の積層対象物1のうちの最も外側の積層対象物1、すなわち、最後に保持された積層対象物1の一方の主面1aと、ステージ10上の積層対象物1の他方の主面1bとの間の距離を意味する。また、保持部23がまだ積層対象物1を保持していない場合の上記距離L1は、保持部23の保持面23aと、ステージ10上の積層対象物1の他方の主面1bとの間の距離を意味する。なお、上記距離L1が一定の距離となるように主面部21に対する保持部23の位置を制御する際の一定の距離には、0も含まれる。積層対象物1を吸引して保持部23で吸着保持する際の位置ずれは、上記距離L1が0に近いほど小さくなり、例えばL1=1mmだと位置ずれは±0.2mm程度となる。
【0039】
図7(a)は、保持部23が吸着保持している積層対象物1の量が少ない場合の保持部23の位置を示す断面図であり、図7(b)は、保持部23が吸着保持している積層対象物1の量が多い場合の保持部23の位置を示す断面図である。ここでは、ステージ10上の積層対象物1の数は1つであるものとする。上述した距離L1を一定の距離とするため、保持部23が吸着保持している積層対象物1の量が少ない場合、保持部23は、ステージ10に近い位置で、ステージ10上の積層対象物1の吸着保持を行う(図7(a))。一方、保持部23が吸着保持している積層対象物1の量が多い場合、保持部23は、ステージ10から離れた位置で、ステージ10上の積層対象物1の吸着保持を行う(図7(b))。
【0040】
すなわち、ステージ10上に同数の積層対象物1が載置されている状態で、保持部23が積層対象物1の吸着保持を順に行う場合、制御部30は、保持部23によって保持されている積層対象物1の量に応じて、ステージ10上の積層対象物1を保持する際の積層ヘッド20の主面部21に対する保持部23の位置を制御する。
【0041】
ここで、ステージ10上に同数の積層対象物1が載置されている場合、保持部23によって保持される積層対象物1の量と、ステージ10上の積層対象物1を保持部23によって吸着保持する回数とは、相関関係がある。したがって、ステージ10上に同数の積層対象物1が載置されている場合、制御部30は、ステージ10上の積層対象物1を保持部23によって吸着保持する回数に応じて、積層ヘッド20の主面部21に対する保持部23の位置を制御するようにしてもよい。この構成によれば、上述した距離L1を一定の距離とするための保持部23の位置制御を簡易化することができる。
【0042】
ステージ10上に載置されている積層対象物1の量が同じではない場合の制御方法を以下で説明する。図8Aは、ステージ10上の積層対象物1の量が少ない場合の保持部23の位置を示す図であり、図8Bは、ステージ10上の積層対象物1の量が多い場合の保持部23の位置を示す図である。ただし、図8Bに示すステージ10は、後述するように、積層ヘッド20と同じような構造としている。説明を容易にするため、図8Aおよび図8Bでは、保持部23が保持している積層対象物1の量は同じものとしている。上述した距離L1を一定の距離とするため、ステージ10上の積層対象物1の量が少ない場合、保持部23は、ステージ10に近い位置で、ステージ10上の積層対象物1の吸着保持を行う(図8A)。一方、ステージ10上の積層対象物1が多孔質等の材料の場合は、ステージ10上に複数枚吸着保持することができる。その場合、保持部23は、ステージ10から離れた位置で、ステージ10上の積層対象物1の吸着保持を行う。他にもステージ10上の複数の積層対象物1、特にステージ10の上面から最外にある積層対象物1が位置ずれすることなく載置するためには、ステージ10の構造を上述の積層ヘッド20と同じような構造にすることで可能となる(図8B)。
【0043】
図8Aおよび図8Bでは、保持部23が保持している積層対象物1の量は同じものとしたが、保持部23は、ステージ10上の積層対象物1を吸着保持する動作を繰り返し行うため、保持部23が保持する積層対象物1の量は変化する。したがって、ステージ10上の積層対象物1の量が変動する構成において、制御部30は、保持部23によって保持されている積層対象物1の量、および、ステージ10上の積層対象物1の量に応じて、ステージ10上の積層対象物1を保持する際の積層ヘッド20の主面部21に対する保持部23の位置を制御する。
【0044】
このように、保持部23がステージ10上の積層対象物1を吸着保持する際、保持部23が吸着保持している積層対象物1の一方の主面1aと、ステージ10上の積層対象物1の他方の主面1bとの間の距離L1が一定の距離となるように、積層ヘッド20の主面部21に対する保持部23の位置を調整することにより、保持部23の位置が固定されている構成と比べて、積層対象物1の積層時間を短くすることができる。すなわち、保持部23の位置が固定された構成では、保持部23が吸着保持している積層対象物1の量が少ない場合に、上記距離L1が長くなるため、積層ヘッド20を積層対象物1に近づけるための移動距離が長くなり、それにより、積層に要する時間が長くなる。しかし、本実施形態における積層装置100では、上記距離L1が一定の距離となるように、積層ヘッド20の主面部21に対する保持部23の位置を調整することにより、吸着保持している積層対象物1の量が少ない場合でも、積層ヘッド20を積層対象物1に近づける際の移動距離を、例えば同一とすることができるので、積層に要する時間を短くすることができる。
【0045】
また、保持部23の位置が固定されている構成で、積層ヘッド20を積層対象物1に近づける際の移動距離を同一とした場合、保持部23が吸着保持している積層対象物1の量が少ない場合に、上記距離L1が長くなるため、積層対象物1を吸引して保持部23で吸着保持する際に位置ずれが生じる可能性がある。これに対して、本実施形態における積層装置100では、上記距離L1を一定の距離とすることにより、積層対象物1を吸引して保持部23で吸着保持する際の位置ずれを抑制することができる。
【0046】
(積層対象物の積層方法)
図9を参照しながら、積層ヘッド20によって、複数の積層対象物1を順に吸着保持して積層する方法を以下で説明する。ここでは、ステージ10として、第1のステージ10a、第2のステージ10b、第3のステージ10c、および、第4のステージ10dの4つのステージがあり、それぞれのステージ10a~10d上に、積層対象物1が載置されるものとして説明する。ただし、ステージ10の数が4つに限定されることはない。また、図9では、第1のステージ10a~第4のステージ10dの4つのステージ10が一列に並んだ状態を示しているが、4つのステージ10の配置が1列に並ぶ配置に限定されることはない。
【0047】
一例として、第1のステージ10aには、積層対象物1として、電池のセパレータとして機能する樹脂フィルムが載置される。第2のステージ10bには、積層対象物1として、電池の正極および負極のうちの一方の電極として機能する第1の金属箔が載置される。第3のステージ10cには、積層対象物1として、電池のセパレータとして機能する樹脂フィルムが載置される。第4のステージ10dには、積層対象物1として、電池の正極および負極のうちの他方の電極として機能する第2の金属箔が載置される。
【0048】
はじめに、図9(a)に示すように、積層ヘッド20は、第1のステージ10a上の積層対象物1を吸引して保持する。このため、積層ヘッド20および第1のステージ10aのうちの少なくとも一方は、積層ヘッド20の下方に第1のステージ10aが位置するように、互いに近づく方向に移動する。ここでは、積層ヘッド20が第1のステージ10aの上方まで移動するものとして説明する。ただし、第1のステージ10aが積層ヘッド20に近づくように移動してもよいし、積層ヘッド20と第1のステージ10aがともに近づく方向に移動してもよい。
【0049】
積層ヘッド20の下方に第1のステージ10aが位置する状態で、積層ヘッド20は第1のステージ10aに向かって下降する。なお、積層ヘッド20が目標停止位置に到達するまでに、積層ヘッド20の保持部23は、保持部23の保持面23aと、第1のステージ10aに載置されている積層対象物1の他方の主面1bとの間の距離L1が一定の距離となるように移動する。保持部23の位置の制御は、上述したように、制御部30によって行われる。
【0050】
上述した距離L1が一定の距離となるように保持部23の位置の制御が行われた後、積層対象物1を吸引するために、吸引孔24を介して吸引を行う。吸引孔24を介して吸引が行われることにより、主面部21、外縁部22、および、保持部23によって囲まれる空間が負圧となる。これにより、保持部23と外縁部22との間隙P1を介して、積層ヘッド20の下方から、負圧となっている上記空間に空気が流入するようになるため、積層ヘッド20の下方の位置で第1のステージ10a上に載置されている積層対象物1が上方へと吸い出されて、保持部23の保持面23aに吸着される。
【0051】
なお、吸着保持する積層対象物1の位置ずれを抑制するため、積層ヘッド20は、積層対象物1を吸引する前に、第1のステージ10a上の積層対象物1に対する自身の位置を調整することが好ましい。ただし、積層ヘッド20ではなく、第1のステージ10aが位置の調整を行うようにしてもよいし、積層ヘッド20と第1のステージ10aの両方が位置の調整を行うようにしてもよい。
【0052】
ここで、吸引孔24を介した吸引を行う際、第1のステージ10aの気体噴出部11によって、積層対象物1に向かって気体を噴出することが好ましい。気体噴出部11によって、積層対象物1に向かって気体を噴出することにより、第1のステージ10a上から保持部23への積層対象物1の受け渡しをより円滑に行うことができる。
【0053】
また、気体噴出部11によって気体を噴出することにより、保持部23と第1のステージ10aとの間が、例えば1mm程度離れていても、第1のステージ10a上から保持部23への積層対象物1の受け渡し時に、位置ずれをより効果的に抑制することができる。
【0054】
なお、上述したように、気体噴出部11が備えている気体噴出孔が積層対象物1を吸引保持するための吸引孔を兼ねている場合には、第1のステージ10a上から保持部23への積層対象物1の受け渡しを行うタイミングで、吸引から気体噴出の切り替えを行えばよい。
【0055】
積層ヘッド20は、保持部23によって積層対象物1を吸着保持すると、上昇し、第2のステージ10bに向かって移動を開始する。保持部23が積層対象物1を吸着保持した状態で積層ヘッド20が移動する間、外縁部22の吹き出し孔25から気体を吹き出す。これにより、上述したように、エアバリアが発生し、外縁部22の外側から内側への風の流入を抑制して、保持部23によって保持されている積層対象物1を安定的に搬送することができる。なお、吹き出し孔25からは、常に気体が吹き出すように構成してもよい。
【0056】
続いて、積層ヘッド20は、第2のステージ10bの上方の位置まで移動する。ただし、第2のステージ10bが積層ヘッド20の下方の位置まで移動してもよいし、積層ヘッド20と第2のステージ10bがともに近づく方向に移動してもよい。積層ヘッド20の下方に第2のステージ10bが位置する状態で、積層ヘッド20は第2のステージ10bに向かって下降する。ここでも、積層ヘッド20が目標停止位置に到達するまでに、積層ヘッド20の保持部23は、保持部23によって保持されている積層対象物1の一方の主面1aと、第2のステージ10b上の積層対象物1の他方の主面1bとの間の距離L1が一定の距離となるように移動する。なお、「積層ヘッド20が目標停止位置に到達するまで」には、積層ヘッド20が第1のステージ10a上の積層対象物1を吸着保持してから上昇し、第2のステージ10bの上方の位置まで移動してから下降を開始して、目標停止位置で停止するまでの間を意味する。以後の動作においても同様である。
【0057】
この後、上述した方法によって、第2のステージ10b上に載置されている積層対象物1を保持部23によって吸着保持する(図9(b))。保持部23によって積層対象物1が吸着保持されると、積層ヘッド20は上昇する。
【0058】
続いて、積層ヘッド20は、第3のステージ10cの上方の位置まで移動する。ただし、第3のステージ10cが積層ヘッド20の下方の位置まで移動してもよいし、積層ヘッド20と第3のステージ10cがともに近づく方向に移動してもよい。積層ヘッド20の下方に第3のステージ10cが位置する状態で、積層ヘッド20は第3のステージ10cに向かって下降する。ここでも、積層ヘッド20が目標停止位置に到達するまでに、積層ヘッド20の保持部23は、保持部23によって保持されている積層対象物1の一方の主面1aと、第3のステージ10c上の積層対象物1の他方の主面1bとの間の距離L1が一定の距離となるように移動する。
【0059】
この後、上述した方法によって、第3のステージ10c上に載置されている積層対象物1を保持部23によって吸着保持する(図9(c))。保持部23によって積層対象物1が吸着保持されると、積層ヘッド20は上昇する。
【0060】
続いて、積層ヘッド20は、第4のステージ10dの上方の位置まで移動する。ただし、第4のステージ10dが積層ヘッド20の下方の位置まで移動してもよいし、積層ヘッド20と第4のステージ10dがともに近づく方向に移動してもよい。積層ヘッド20の下方に第4のステージ10dが位置する状態で、積層ヘッド20は第4のステージ10dに向かって下降する。ここでも、積層ヘッド20が目標停止位置に到達するまでに、積層ヘッド20の保持部23は、保持部23によって保持されている積層対象物1の一方の主面1aと、第4のステージ10d上の積層対象物1の他方の主面1bとの間の距離L1が一定の距離となるように移動する。
【0061】
この後、上述した方法によって、第4のステージ10d上に載置されている積層対象物1を保持部23によって吸着保持する(図9(d))。保持部23によって積層対象物1が吸着保持されると、積層ヘッド20は上昇する。
【0062】
以後、上述した動作が繰り返し行われることにより、積層ヘッド20の保持部23は、複数の積層対象物1を順に吸着保持する。これにより、複数の積層対象物1が積層された積層体が得られる。なお、積層ヘッド20が積層対象物1をピックアップする構成と、積層対象物1を吸着保持する構成を同時に備えていることにより、積層対象物1をピックアップした後、別の積層部へと移動させる必要がないので、積層工程を簡略化できる。
【0063】
加えて、ステージ10上の最外に位置する積層対象物1の他方の主面1b、および、積層ヘッド20に保持された最外に位置する積層対象物1の一方の主面1aの少なくとも一方に当接する、位置ずれを防止するための爪状の固定部材(不図示)が不要となって存在しないので、固定部材を積層対象物1から離間または当接させる時間や固定部材の厚み分だけ積層ヘッド20またはステージ10を上下動させる時間を短縮できるため、積層時間を短縮することができる。
【0064】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0065】
積層対象物1がシート状の電池材料に限定されることはない。例えば、複数種類の積層対象物1がシート状の導電層および絶縁層であり、複数種類の積層対象物1を積層することによって、多層基板を作製することもできる。その場合、導電層は、例えば、銅、銀、銅を含む合金、銀を含む合金、または、Sn-Ag系のはんだなどからなり、絶縁層は、例えば、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどの熱可塑性樹脂、または、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂からなる。
【0066】
また、積層対象物1がシート状の1枚のものに限定されることはなく、シート状のものが複数枚重ねられたものであってもよい。例えば、樹脂フィルムと金属箔とが重ねられたものが積層対象物1として、ステージ10上に載置されるように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 積層対象物
1a 積層対象物の一方の主面
1b 積層対象物の他方の主面
10 ステージ
10a 第1のステージ
10b 第2のステージ
10c 第3のステージ
10d 第4のステージ
11 気体噴出部
20 積層ヘッド
21 上面部
21a 第1の主面
21b 第2の主面
22 外縁部
23 保持部
23a 保持面
24 吸引孔
25 吹き出し孔
26 凹部
30 制御部
40 エアバリア
100 積層装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10