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特許7476852抗菌性組成物の製造方法、抗菌性組成物、抗菌方法、抗菌剤、化粧料及び皮膚外用剤
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  • 特許-抗菌性組成物の製造方法、抗菌性組成物、抗菌方法、抗菌剤、化粧料及び皮膚外用剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】抗菌性組成物の製造方法、抗菌性組成物、抗菌方法、抗菌剤、化粧料及び皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/02 20060101AFI20240423BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20240423BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20240423BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
A01N37/02
A01P3/00
A61K8/99
A61K8/36
A61Q19/00
A61K8/92
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021095365
(22)【出願日】2021-06-07
(65)【公開番号】P2022187366
(43)【公開日】2022-12-19
【審査請求日】2023-09-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 優一
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140940(JP,A)
【文献】特開2001-172176(JP,A)
【文献】特開2006-282650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P,A61K,A61Q
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸部全量を100質量%としたとき、炭素数8以上18以下の飽和脂肪酸部を10質量%以上含む単純脂質と表皮ブドウ球菌とをともに培養し、前記単純脂質から生成された遊離脂肪酸群を得る工程を含む、抗菌性組成物の製造方法。
【請求項2】
前記単純脂質は、ヤシ油、パーム核油、パームオレイン、パーム油、あまに油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、こめ油、落花生油、及びオリーブ油からなる群から選択される少なくとも一種の油脂を含む、請求項1に記載の抗菌性組成物の製造方法。
【請求項3】
前記単純脂質は、ヤシ油である、請求項1に記載の抗菌性組成物の製造方法。
【請求項4】
前記抗菌性組成物中の炭素数8以上18以下の遊離脂肪酸群の含有量は、前記抗菌性組成物の全量を100質量%としたとき、5質量%以上50質量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の抗菌性組成物の製造方法。
【請求項5】
脂肪酸部全量を100質量%としたとき、炭素数8以上18以下の飽和脂肪酸部を10質量%以上含む単純脂質と表皮ブドウ球菌とをともに培養することで、前記単純脂質から生成された遊離脂肪酸群を含む、抗菌性組成物。
【請求項6】
前記単純脂質は、ヤシ油である、請求項5に記載の抗菌性組成物。
【請求項7】
前記抗菌性組成物中の炭素数8以上18以下の遊離脂肪酸群の含有量は、前記抗菌性組成物の全量を100質量%としたとき、5質量%以上50質量%以下である、請求項5又は6に記載の抗菌性組成物。
【請求項8】
請求項5~7のいずれかに記載の抗菌性組成物を含む、抗菌剤。
【請求項9】
請求項5~7のいずれかに記載の抗菌性組成物を含む、化粧料。
【請求項10】
請求項5~7のいずれかに記載の抗菌性組成物を含む、皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性組成物の製造方法、抗菌性組成物、抗菌方法、抗菌剤、化粧料及び皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚常在菌の中で多くの割合を占める表皮ブドウ球菌は、皮脂を原料としてグリセリン、遊離脂肪酸、抗菌ペプチド等の他の細菌の活動を抑制する物質を生成することや、肌表面の免疫機構の一部を担っていること等が報告されている。
表皮ブドウ球菌は皮膚表面においては毒性を持たないため、このような性質が肌の健康を維持する上で歓迎され、例えば化粧料分野等においては有用菌の代表格として位置づけられている。
一方、黄色ブドウ球菌は、食中毒菌としても知られる強い毒性を持った細菌であり、肌表面においてもアトピー性皮膚炎をはじめとする肌トラブルの原因となる。そのため、例えば化粧料分野等において、黄色ブドウ球菌は、有害菌の代表格として位置づけられる。
【0003】
健康な肌の表面は、表皮ブドウ球菌が生成する遊離脂肪酸により弱酸性に保たれ、弱アルカリ性の環境を好む黄色ブドウ球菌の活動は抑制されている。
このように、肌表面では、ある種の菌が別の菌の活動を制限することで細菌同士のバランスが保たれ、それにより衛生的な環境が維持されている。そのため、日常的な肌の手入れにおいては、このバランスを崩さずに、手軽な方法で、いかに有害菌の活動を抑えてゆくかが重要となる。
有害菌を除去する方法として、抗生物質の投与や消毒用アルコールによる消毒がよく知られている。しかし、前者は、劇的な効果や耐性菌の出現等の観点から、原因菌の特定や経過管理が不可欠である。そのため、手軽とは言えない。また、後者は、手軽に利用することはできるものの、有用菌まで死滅させてしまう。その上、肌表面の油分を奪うことで、肌本来のバリア機能を弱めてしまう。したがって、いずれも日常的な肌の手入れに利用するには問題がある。
【0004】
ここで、有害菌(黄色ブドウ球菌)に対して選択的な抗菌作用を有する物質を化粧料等に配合させる技術が知られている。選択的な抗菌作用を有する物質としては、脂肪酸が知られている。特許文献1~4は、選択的な抗菌作用を有する物質として脂肪酸を使用する技術が記載されている。
【0005】
特許文献1には、特定の化学式で表される脂肪酸誘導体又はその塩を有効成分とする抗菌剤が、皮膚常在細菌の分布を健全な状態に保ったまま、ニキビ、脂漏性皮膚炎等のアクネ菌感染性皮膚疾患の予防又は治療、アトピー性皮膚炎、皮膚掻痒症、接触皮膚炎等の皮膚疾患の予防又は治療が可能となることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、黄色ブドウ球菌の増殖を阻害し、且つ表皮ブドウ球菌を増殖させる有効成分として、主鎖の炭素数が10~18の分岐飽和脂肪酸、6-ヘキサデセン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、リノール酸メチルエステル、α-リノレン酸メチルエステル及びアラキドン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する皮膚改善剤が記載されている。
【0007】
特許文献3には、生理的に許容可能な媒体中に、少なくとも1種の多価不飽和脂肪酸及び/若しくは多価不飽和脂肪酸エステル並びに/又はこれらの塩若しくは誘導体の有効量と組み合わせて、少なくとも1種のプロバイオティック微生物及び/又はこの断片若しくは代謝産物の有効量を少なくとも含む、敏感肌及び/又は乾燥肌の予防及び/又は治療に特に有用な、化粧料用及び/又は皮膚科用の局所用組成物が記載されている。
【0008】
特許文献4には、(a)イソステアリン酸、12-メチルテトラデカン酸、13-メチルテトラデカン酸、6-ヘキサデセン酸、リノール酸、α-リノレン酸、リノール酸メチルエステル、α-リノレン酸メチルエステル及びアラキドン酸から選ばれる1種以上を0.01~20重量%、及び(b)常温でペースト状ないし固形を呈するワセリン、ラノリン、コレステロール、サラシミツロウ、パラフィンワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、ミリスチン酸セチル、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、オゾケライト、プラスチベース、単軟膏、吸水軟膏、加水ラノリン、マクロゴール軟膏、ゲルベースからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を配合することを特徴とする皮膚化粧料が、皮膚の乾燥の防止又は改善、肌荒れ防止又は改善の作用が得られ、特にアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患における皮膚症状の改善又は肌荒れ防止に好適であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-144453号公報
【文献】特開2001-172176号公報
【文献】特表2009-503042号公報
【文献】特開2006-282650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、表皮ブドウ球菌に比べて黄色ブドウ球菌を選択的に抗菌できる抗菌性組成物、抗菌方法、抗菌剤、化粧料、及び皮膚外用剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、単純脂質と表皮ブドウ球菌から得られる遊離脂肪酸群が、表皮ブドウ球菌に比べて黄色ブドウ球菌を選択的に抗菌できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下に示す抗菌性組成物の製造方法、抗菌性組成物、抗菌方法、抗菌剤、化粧料及び皮膚外用剤が提供される。
【0013】
[1]
単純脂質と表皮ブドウ球菌から遊離脂肪酸群を得る工程を含む、抗菌性組成物の製造方法。
[2]
前記単純脂質は、油脂及びロウからなる群から選択される少なくとも一種を含む、前記[1]に記載の抗菌性組成物の製造方法。
[3]
前記単純脂質は、前記単純脂質を構成する脂肪酸部全量を100質量%としたとき、炭素数8以上18以下の飽和脂肪酸を10質量%以上含む、前記[1]又は[2]に記載の抗菌性組成物の製造方法。
[4]
前記単純脂質は、ヤシ油、パーム核油、パームオレイン、パーム油、あまに油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、こめ油、落花生油、及びオリーブ油からなる群から選択される少なくとも一種の油脂を含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の抗菌性組成物の製造方法。
[5]
前記抗菌性組成物中の炭素数8以上18以下の遊離脂肪酸の含有量は、前記抗菌性組成物の全量を100質量%としたとき、5質量%以上50質量%以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の抗菌性組成物の製造方法。
[6]
前記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法により得られる抗菌性組成物。
[7]
表皮ブドウ球菌由来の遊離脂肪酸群を含む、抗菌性組成物。
[8]
前記抗菌性組成物中の炭素数8以上18以下の遊離脂肪酸の含有量は、前記抗菌性組成物の全量を100質量%としたとき、5質量%以上50質量%以下である、前記[7]に記載の抗菌性組成物。
[9]
前記[6]~[8]のいずれかに記載の抗菌性組成物により黄色ブドウ球菌を抗菌する工程を含む、抗菌方法。
[10]
前記[6]~[8]のいずれかに記載の抗菌性組成物を含む、抗菌剤。
[11]
前記[6]~[8]のいずれかに記載の抗菌性組成物を含む、化粧料。
[12]
前記[6]~[8]のいずれかに記載の抗菌性組成物を含む、皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、表皮ブドウ球菌に比べて黄色ブドウ球菌を選択的に抗菌できる抗菌性組成物、抗菌方法、抗菌剤、化粧料、及び皮膚外用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の評価で得られた表皮ブドウ球菌試験区及び黄色ブドウ球菌試験区の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[抗菌性組成物の製造方法]
本発明の抗菌性組成物の製造方法は、単純脂質と表皮ブドウ球菌から遊離脂肪酸群を得る工程(A)を含む。本明細書において、遊離脂肪酸群とは二種類以上の遊離脂肪酸から構成される遊離脂肪酸の組成物をいう。
本発明の抗菌性組成物の製造方法によれば、表皮ブドウ球菌に比べて黄色ブドウ球菌を選択的に抗菌できる抗菌性組成物を得ることができる。
【0017】
本発明の製造方法により得られる抗菌性組成物が、表皮ブドウ球菌に比べて黄色ブドウ球菌を選択的に抗菌できる理由は定かではないが、次のように考えられる。
脂肪酸は、細菌の表面を覆っている細胞膜成分と構造が類似している。そのため、脂肪酸は、細菌の細胞膜内に溶け込んでゆき、細胞膜の性質を変え、細菌の生命維持を困難にし、死滅させる作用がある。
細菌の細胞膜を構成する成分は、その種によって異なり、したがって、各細菌の細胞膜に対する脂肪酸の溶け込みやすさは、脂肪酸の種類によって異なる。一方、脂肪酸には多くの種類があるので、その中から、死滅させたい黄色ブドウ球菌の細胞膜に溶け込む脂肪酸を選び出せばよい。しかしながら、この方法だと、黄色ブドウ球菌の活動を抑制するだけでなく、表皮ブドウ球菌の活動も阻害してしまう場合がある。
一方で、本発明の抗菌性組成物の製造方法により得られる遊離脂肪酸群は、表皮ブドウ球菌由来の物質であるため、表皮ブドウ球菌の活動を抑制しないと考えられる。
以上の理由から、本発明の製造方法により得られる抗菌性組成物によれば、表皮ブドウ球菌に比べて黄色ブドウ球菌を選択的に抗菌できると考えられる。
また、表皮ブドウ球菌は皮膚常在菌であるため、表皮ブドウ球菌が作り出す物質は安全性が高いと考えられる。そのため、表皮ブドウ球菌由来の遊離脂肪酸群を含む本発明の抗菌性組成物は安全性も良好と考えられる
【0018】
<工程(A)>
工程(A)は、単純脂質と表皮ブドウ球菌から遊離脂肪酸群を得る工程である。
工程(A)では、例えば、表皮ブドウ球菌を単純脂質とともに培養することにより、遊離脂肪酸群を得ることができる。このとき、単純脂質に含まれる複数のトリアシルグリセロールが、表皮ブドウ球菌から分泌されるリパーゼ等の酵素により加水分解され、遊離脂肪酸群が生成される。
【0019】
工程(A)で使用する表皮ブドウ球菌としては、Staphylococcus epidermidisに属し、単純脂質から遊離脂肪酸群を生産することができる菌株であれば特に限定されないが、好ましい菌株としてはATCC12228、ATCC14990等が挙げられる。
【0020】
工程(A)で使用する単純脂質は、アルコールと脂肪酸のエステルをいい、アルコール部には、例えば直鎖アルコール、グリセリン、ステロール等が用いられ、脂肪酸部には、例えば、多様な飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸が用いられる。
工程(A)で使用する単純脂質は、表皮ブドウ球菌から遊離脂肪酸群をより効果的に得る観点からは、油脂(トリアシルグリセロール)及びロウ(エステル油)からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、耐酸化性を向上させる観点からは、脂肪酸部に飽和脂肪酸を含む単純脂質が好ましく、耐酸化性を向上させる観点、及び、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点から、炭素数8以上18以下の飽和脂肪酸を含む単純脂質が好ましい。
【0021】
単純脂質は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点、及び、耐酸化性をより向上させる観点から、単純脂質を構成する脂肪酸部全量を100質量%としたとき、炭素数8以上18以下の飽和脂肪酸を10質量%以上含むことが好ましく、30質量%以上含むことがより好ましく、50質量%以上含むことが更に好ましく、70質量%以上含むことが更に好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましく、85質量%以上含むことが更に好ましく、そして、100質量%以下含むことが好ましい。
【0022】
単純脂質を構成する脂肪酸部の炭素数は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点から、好ましくは8以上、より好ましくは10以上であり、同様の観点から、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下である。
単純脂質を構成する脂肪酸は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点から、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点、及び、耐酸化性をより向上させる観点から、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸からなる群から選択される少なくとも一種を含むことがより好ましく、ラウリン酸、ミリスチン酸、及びパルミチン酸からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが更に好ましく、ラウリン酸、ミリスチン酸、及びパルミチン酸を含むことが更に好ましい。これらの中でも、ラウリン酸は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性に優れ、さらにアクネ菌(ニキビの原因となる細菌)についても抗菌性を示す。そのため、単純脂質を構成する脂肪酸は、ラウリン酸を含むことが更に好ましい。
【0023】
本実施形態に係る単純脂質としては、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点、及び、耐酸化性をより向上させる観点から、ヤシ油、パーム核油、パームオレイン、パーム油、あまに油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、こめ油、落花生油、及びオリーブ油からなる群から選択される少なくとも一種の油脂を含むことが好ましく、ヤシ油、パーム核油、パームオレイン、及びパーム油からなる群から選択される少なくとも一種の油脂を含むことがより好ましく、ヤシ油及びパーム核油からなる群から選択される少なくとも一種の油脂を含むことが更に好ましく、ヤシ油及びパーム核油からなる群から選択される少なくとも一種の油脂であることが更に好ましく、ヤシ油であることが更に好ましい。
ここで、ヤシ油及びパーム核油は、含まれる飽和脂肪酸の割合が高く、耐酸化性が良好であるため好ましい。また、ヤシ油及びパーム核油は、耐酸化性が良好であるため保管時に変質し難く、保管管理が容易であるという利点も有する。
【0024】
本発明に係る抗菌性組成物の製造方法では、工程(A)で使用する単純脂質の種類を変えることで、得られる遊離脂肪酸群の脂肪酸組成を変えることができる。これにより、種々の黄色ブドウ球菌に対して適した抗菌性組成物を調整することが可能である。
【0025】
工程(A)において、表皮ブドウ球菌を単純脂質とともに培養する際に用いる培地としては特に限定されないが、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)を培養する場合に使用できる公知の培地及びその改変培地を使用することができる。
【0026】
工程(A)において、表皮ブドウ球菌を単純脂質とともに培養して遊離脂肪酸群を得る方法としては特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、単純脂質を培地に加え、単純脂質と培地を十分に接触させるために溶液へ界面活性剤を微量加え、水層と油層が混じり合い乳化液体となるよう激しく攪拌を行いながら表皮ブドウ球菌を接種する。次いで、攪拌しながら均質な乳化状態を保持する。容器全体を例えば10℃~45℃に保ちながら、反応(発酵)が十分に進むまでの所定の期間培養を行う。培養終了後はオートクレーブ処理を行うことで、溶液は曇点に達し、滅菌と同時に解乳化が行われ、溶液が水層と油層に分離する。次いで、溶液を冷却し、分離した油層を凝固させて取り出す。取り出した油層を昇温させ溶かすと、白く濁った油が得られる。この油は遠心分離を行うことにより、培地を含む水層、細菌の死骸を含む夾雑物層、透明な油層に分離することができる。ここで得られる透明な油性成分に遊離脂肪酸群が含まれる。
【0027】
<遊離脂肪酸群>
本発明に係る抗菌性組成物中の炭素数8以上18以下の遊離脂肪酸の含有量は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点、及び、耐酸化性をより向上させる観点から、抗菌性組成物の全量を100質量%としたとき、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、12質量%以上が更に好ましく、表皮ブドウ球菌に対する黄色ブドウ球菌の選択抗菌性をより向上させる観点から、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、20質量%以下が更に好ましく、18質量%以下が更に好ましい。
【0028】
また、本発明に係る抗菌性組成物中の炭素数10以上16以下の遊離脂肪酸の含有量は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点、及び、耐酸化性をより向上させる観点から、抗菌性組成物の全量を100質量%としたとき、4質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、12質量%以上が更に好ましく、表皮ブドウ球菌に対する黄色ブドウ球菌の選択抗菌性をより向上させる観点から、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、20質量%以下が更に好ましく、18質量%以下が更に好ましく、16質量%以下が更に好ましい。
また、本発明に係る抗菌性組成物中のカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、及びパルミチン酸の含有量は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点、及び、耐酸化性をより向上させる観点から、抗菌性組成物の全量を100質量%としたとき、4質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、12質量%以上が更に好ましく、表皮ブドウ球菌に対する黄色ブドウ球菌の選択抗菌性をより向上させる観点から、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、20質量%以下が更に好ましく、18質量%以下が更に好ましく、16質量%以下が更に好ましい。
また、本発明に係る抗菌性組成物中のラウリン酸、ミリスチン酸、及びパルミチン酸の含有量は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点、及び、耐酸化性をより向上させる観点から、抗菌性組成物の全量を100質量%としたとき、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上が更に好ましく、10質量%以上が更に好ましく、表皮ブドウ球菌に対する黄色ブドウ球菌の選択抗菌性をより向上させる観点から、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、18質量%以下が更に好ましく、15質量%以下が更に好ましく、14質量%以下が更に好ましい。
【0029】
遊離脂肪酸群は、表皮ブドウ球菌に対する黄色ブドウ球菌の選択抗菌性をより向上させる観点、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点、及び、耐酸化性をより向上させる観点から、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸からなる群から選択される三種以上を含むことが好ましく、前記群から選択される五種以上を含むことがより好ましく、前記群から選択される六種以上を含むことが更に好ましく、前記群から選択される七種以上を含むことが更に好ましく、前記群の八種すべてを含むことが更に好ましい。
遊離脂肪酸の中でも、ラウリル酸は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性に優れ、さらにアクネ菌(ニキビの原因となる細菌)についても抗菌性を示す。そのため、本発明に係る遊離脂肪酸群は、ラウリン酸を含むことが更に好ましい。
【0030】
[抗菌性組成物]
本発明の抗菌性組成物は、前述の本発明に係る抗菌性組成物の製造方法により得られる組成物、又は表皮ブドウ球菌由来の遊離脂肪酸群を含む組成物である。
ここで、表皮ブドウ球菌由来の遊離脂肪酸群とは、表皮ブドウ球菌から産出される遊離脂肪酸群や、単純脂質と表皮ブドウ球菌の反応から得られる遊離脂肪酸群を意味する。
【0031】
本発明の抗菌性組成物によれば、表皮ブドウ球菌に比べて黄色ブドウ球菌を選択的に抗菌できる。本発明の抗菌性組成物が本発明の効果を奏する理由については定かではないが、前述した本発明に係る抗菌性組成物の製造方法が本発明の効果を奏する理由と同じ理由が考えられる。
また、表皮ブドウ球菌は皮膚常在菌であるため、表皮ブドウ球菌が作り出す物質は安全性が高いと考えられる。そのため、表皮ブドウ球菌由来の遊離脂肪酸群を含む本発明の抗菌性組成物は安全性も良好と考えられる。
【0032】
本発明に係る抗菌性組成物に含まれる遊離脂肪酸群の好適態様は、前述の本発明に係る抗菌性組成物の製造方法と同じである。
【0033】
本発明に係る抗菌性組成物中の表皮ブドウ球菌由来の遊離脂肪酸群の含有量は、本発明に係る抗菌性組成物に含まれる遊離脂肪酸の全量を100質量%としたとき、表皮ブドウ球菌に対する黄色ブドウ球菌の選択抗菌性をより向上させる観点、及び、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性をより向上させる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。
【0034】
[抗菌方法]
本発明の抗菌方法は、本発明に係る抗菌性組成物により黄色ブドウ球菌を抗菌する工程を含む。本発明の抗菌方法によれば、表皮ブドウ球菌に比べて黄色ブドウ球菌を選択的に抗菌できる。
ここで、本発明に係る抗菌方法は、例えば、本発明に係る抗菌性組成物を対象物の表面に付与することにより行うことができる。対象物の表面は、好ましくは皮膚である。
本発明に係る抗菌性組成物を対象物の表面に付与する方法としては、例えば、対象物の表面に、抗菌性組成物を塗布する方法や噴霧する方法等が挙げられる。
【0035】
[抗菌剤]
本発明に係る抗菌性組成物は、抗菌剤に好適に用いることができる。
すなわち、本発明の抗菌剤は、本発明に係る抗菌性組成物を含む。
本明細書において、「抗菌剤」とは、細菌の増殖を抑制したり殺したりする働きのある化学療法剤のことをいう。
【0036】
本発明に係る抗菌剤は、抗菌剤の種類に応じて使用される任意成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜含有することができる。本発明に係る抗菌性組成物以外の任意成分としては、例えば、化粧品や医薬品に用いる成分、水、油性成分、増粘剤、中和剤、界面活性剤、乳化剤、防腐剤、殺菌剤、酸化防止剤、保湿剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、美白剤、血行促進剤、着色剤、噴射剤、抗炎症剤、生理活性成分塩類、香料、植物抽出物、鎮痛消炎剤、殺菌消毒剤、収斂剤、皮膚軟化剤、ホルモン剤、抗生物質等が挙げられる。
【0037】
本発明に係る抗菌剤の形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒、液状、乳液状、クリーム状、軟膏状、ペースト状、ジェル状、ワックス状等とすることができる。
【0038】
本発明に係る抗菌剤の製造方法は特に制限されず、例えば、各成分を公知の装置で撹拌、混合することにより製造することができる。
【0039】
[化粧料]
本発明に係る抗菌性組成物は、化粧料に好適に用いることができる。すなわち、本発明の化粧料は、本発明に係る抗菌性組成物を含む。
【0040】
本発明に係る化粧料は、化粧料の種類に応じて使用される任意成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜含有することができる。本発明に係る抗菌性組成物以外の任意成分としては、例えば、化粧品や医薬品に用いる成分、水、油性成分、増粘剤、中和剤、界面活性剤、乳化剤、防腐剤、殺菌剤、酸化防止剤、保湿剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、美白剤、血行促進剤、着色剤、噴射剤、抗炎症剤、生理活性成分塩類、香料、植物抽出物等が挙げられる。
【0041】
本発明に係る化粧料の形態としては、例えば、液状、乳液状、クリーム状、軟膏状、ペースト状、ジェル状、ワックス状等が挙げられる。
本発明の化粧料は、例えば、皮膚等に適用することができ、好ましくは塗布又は噴霧することにより使用することができる。
【0042】
本発明に係る化粧料の製造方法は特に制限されず、例えば、各成分を公知の装置で撹拌、混合することにより製造することができる。
【0043】
[皮膚外用剤]
本発明に係る抗菌性組成物は、皮膚外用剤に好適に用いることができる。すなわち、本発明の皮膚外用剤は、本発明に係る抗菌性組成物を含む。
【0044】
本発明に係る皮膚外用剤は、皮膚外用剤の種類に応じて使用される任意成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜含有することができる。本発明に係る抗菌性組成物以外の任意成分としては、例えば、化粧品や医薬品に用いる成分、水、油性成分、増粘剤、中和剤、界面活性剤、乳化剤、防腐剤、殺菌剤、酸化防止剤、保湿剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、美白剤、血行促進剤、着色剤、噴射剤、抗炎症剤、生理活性成分塩類、香料、植物抽出物、鎮痛消炎剤、殺菌消毒剤、収斂剤、皮膚軟化剤、ホルモン剤、抗生物質等が挙げられる。
【0045】
本発明に係る皮膚外用剤の形態としては、例えば、液状、乳液状、クリーム状、軟膏状、ペースト状、ジェル状、ワックス状等が挙げられる。
本発明に係る皮膚外用剤は、例えば、塗布又は噴霧することにより皮膚に付与することができる。
【0046】
本発明に係る皮膚外用剤の使用量は、皮膚の状態や症状、皮膚外用剤の形態に応じた適量を、1日1回又は数回に分けてその形態に応じた方法で皮膚に適用することができる。本発明に係る皮膚外用剤は、入浴、洗顔、水仕事の後等に使用するのが好ましい。
【0047】
本発明に係る皮膚外用剤によれば、皮膚の常在菌である表皮ブドウ球菌に比べて黄色ブドウ球菌を選択的に抗菌することにより、皮膚の乾燥の防止又は改善、アトピー性皮膚炎による皮膚症状の改善、肌荒れ防止又は改善等の効果を得ることができる。
【0048】
本発明に係る皮膚外用剤の製造方法は特に制限されず、例えば、各成分を公知の装置で撹拌、混合することにより製造することができる。
【実施例
【0049】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0050】
実施例1
(1)表皮ブドウ球菌を用いてヤシ油を発酵し、発酵ヤシ油(抗菌性組成物)を得る
表皮ブドウ球菌を活動させるための標準培地として、カゼインペプトン、酵母エキス、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウムを含んだ水溶液899gを用意し、これにヤシ油100gを加えた。
次いで、ヤシ油と培地を十分に接触させるため、溶液へ界面活性剤を1g加え、水層と油層が混じり合い乳化液体となるよう激しく攪拌を行いながら表皮ブドウ球菌を6.09LogCFU/mLの濃度で接種した。
次いで、容器全体を30℃に保ち、空気とよく接触させながら、発酵が十分に進むまでの所定の期間培養を行った。
培養終了後は121℃でオートクレーブ処理を行うことで、溶液は曇点に達し、滅菌と同時に解乳化が行われ、溶液が水層と油層に分離した。次いで、冷蔵庫で溶液を冷却し、分離した油層を凝固させて取り出した。
取り出した油層を昇温させ溶かすと、白く濁った油が得られた。この油に対して遠心分離を行い、培地を含む水層、細菌の死骸を含む夾雑物層、透明な油層に分離した。得られた透明な油性成分を発酵ヤシ油と呼ぶ。
ここで、発酵ヤシ油の製造には、以下の試薬を用いた。
ヤシ油:富士フイルム和光純薬株式会社製、和光一級
表皮ブドウ球菌:製品評価技術基盤機構製、Staphylococcus epidermidis ATCC 12228
カゼインペプトン:日本製薬株式会社製、微生物培養基剤、ハイポリペプトン
酵母エキス:ベクトン・ディッキンソン アンド カンパニー社製、DifcoTM Yeast Extract, UF
塩化ナトリウム:富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級
硫酸マグネシウム:富士フイルム和光純薬株式会社製、硫酸マグネシウム七水和物、試薬特級
界面活性剤:富士フイルム和光純薬株式会社製、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート
【0051】
(2)得られた発酵ヤシ油が遊離脂肪酸群を含むことの確認
前記(1)の方法を適用し、発酵ヤシ油の製造を3回行い、得られたそれぞれの発酵ヤシ油について、脂肪酸濃度を酵素反応比色法(富士フイルム和光純薬株式会社、ラボアッセイTM NEFA)を用いて測定した。その結果、発酵ヤシ油の脂肪酸濃度は、それぞれ、978mEq/L、911mEq/L、1390mEq/Lであった。
したがって、ヤシ油を表皮ブドウ球菌により発酵させた発酵ヤシ油は、脂肪酸を含有した油性成分、即ち遊離脂肪酸群を含む組成物であることが確認できた。
【0052】
また、得られた発酵ヤシ油を高速液体クロマトグラフィーにより以下の条件で分析した。その結果、発酵ヤシ油には以下の成分が含まれていた。ここで、発酵ヤシ油(抗菌性組成物)の全体が100質量%である。
カプリル酸(炭素数8、飽和脂肪酸):1.1質量%
カプリン酸(炭素数10、飽和脂肪酸):1.2質量%
ラウリン酸(炭素数12、飽和脂肪酸):7.9質量%
ミリスチン酸(炭素数14、飽和脂肪酸):2.9質量%
パルミチン酸(炭素数16、飽和脂肪酸):2.1質量%
ステアリン酸(炭素数18、飽和脂肪酸):0.4質量%
オレイン酸(炭素数18、不飽和脂肪酸、不飽和結合数1):1.1質量%
リノール酸(炭素数18、不飽和脂肪酸、不飽和結合数2):0.2質量%
上記以外の飽和又は不飽和脂肪酸、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、その他の夾雑物:83.1質量%
・高速液体クロマトグラフィーの測定条件
試料を40℃の湯浴で温め、液体にした後、よく振って均一にしたものを採取した。有機溶媒にて希釈し、誘導体化試薬を添加後、高速液体クロマトグラフにて測定を行った。なお、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)には蛍光検出器を、ラウリン酸(C12)にはPDA検出器を用いた。
【0053】
(3)得られた発酵ヤシ油が選択的抗菌性を有することの確認
得られた発酵ヤシ油をブドウ球菌培養用培地に10%添加し乳化処理を行った後、表皮ブドウ球菌(前記(1)で使用したものと同じ)・黄色ブドウ球菌(製品評価技術基盤機構製、NBRC13276 Staphylococcus aureus subsp. aureus Rosenbach 1884)をそれぞれ接種し72時間培養した(それぞれ、表皮ブドウ球菌試験区、黄色ブドウ球菌試験区とする)。
培養した溶液を10倍に希釈し、標準寒天培地(日水製薬株式会社製、ニッスイプレート標準寒天培地)に塗布し、72時間培養した。
その結果、図1に示すように、表皮ブドウ球菌試験区では多数のコロニーが観察された(即ち表皮ブドウ球菌が生きている)が、黄色ブドウ球菌試験区ではコロニーが観測されなかった(即ち黄色ブドウ球菌が死滅している)。
これにより、表皮ブドウ球菌による発酵ヤシ油が、有用菌である表皮ブドウ球菌の死滅を抑制しつつ、有害菌である黄色ブドウ球菌を死滅させる選択的抗菌性を有すること確認することができた。
【0054】
実施例2
実施例1の(1)と同様の手順で得られた発酵ヤシ油(遊離脂肪酸濃度1270mEq/L)を10質量%の濃度で標準培地に添加し、超音波処理にて乳化し、試験培地とした。
ただし、標準培地には乳化剤としてモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(富士フイルム和光純薬社製)を0.1質量%添加した。
次いで、試験培地に黄色ブドウ球菌を6.61LogCFU/mLの濃度で接種し、30℃で48時間振盪培養した。
試験培地で培養された黄色ブドウ球菌の生菌数を、卵黄加マンニット食塩培地を利用した平板希釈法で測定した。その結果、生菌数は2LogCFU/mL未満(陰性)であった。
【0055】
比較例1
遊離脂肪酸濃度が1270mEq/Lの発酵ヤシ油の代わりに、未処理のヤシ油を用いた以外は実施例2と同様の操作をおこなった。その結果、生菌数は8.2LogCFU/mLであった。
【0056】
比較例2~4
未処理のヤシ油に遊離ラウリン酸(富士フイルム和光純薬社製)を添加して、遊離ラウリン酸の濃度が3.1質量%、6.3質量%、12.5質量%の抗菌性組成物をそれぞれ得た。
次いで、実施例2と同様の手順で得られた発酵ヤシ油の代わりに、遊離ラウリン酸の濃度が3.1質量%、6.3質量%、12.5質量%の抗菌性組成物をそれぞれ用いた以外は実施例2と同様の操作をおこなった。その結果、生菌数は8.53LogCFU/mL、8.48LogCFU/mL及び8.20LogCFU/mLであった。なお、酵素反応比色法による遊離脂肪酸濃度測定結果および高速液体クロマトグラフィーによる遊離脂肪酸の組成分析結果から推測される実施例2の遊離ラウリン酸濃度は約11.9質量%である。
図1