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  • 特許-動力伝達装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/66 20060101AFI20240423BHJP
   F16D 11/10 20060101ALI20240423BHJP
   F16H 3/72 20060101ALI20240423BHJP
   B60K 6/445 20071001ALN20240423BHJP
【FI】
F16H3/66 A
F16D11/10 A
F16H3/72 A
B60K6/445 ZHV
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021194821
(22)【出願日】2021-11-30
(65)【公開番号】P2023081113
(43)【公開日】2023-06-09
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】畑 建正
(72)【発明者】
【氏名】吉野 弘紹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 寛之
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-132350(JP,A)
【文献】特開2020-101224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/00
F16D 11/10
B60K 6/445
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の一対の回転部材の係合状態と解放状態とを切り替える噛み合い式の第1係合機構と、前記所定の一対の回転部材とは異なる他の一対の回転部材の係合状態と解放状態とを切り替える噛み合い式の第2係合機構とを備えた動力伝達装置であって
前記第1係合機構は、円筒状に形成されかつ軸線方向に移動することができる第1スリーブを備え、
前記第2係合機構は、前記第1スリーブの少なくとも一部が挿入されるように円筒状に形成されかつ軸線方向に移動することができる第2スリーブを備え、
前記第1スリーブの内周面に、前記所定の一対の回転部材のいずれか一方と係合する第1スプライン歯と、前記所定の一対の回転部材の他方と噛み合う第1ドグ歯とが形成され、
前記第2スリーブの内周面と外周面とのいずれか一方に、前記他の一対の回転部材のいずれか一方と係合する第2スプライン歯が形成され、かつ前記第2スリーブの内周面と外周面との他方に、前記他の一対の回転部材の他方と噛み合う第2ドグ歯が形成されている
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって
前記所定の一対の回転部材は、第1回転部材と第2回転部材とを含み、
前記他の一対の回転部材は、前記第1回転部材と第3回転部材とを含む
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の動力伝達装置であって
前記第1回転部材の外周面に、前記第2スプライン歯または前記第2ドグ歯に噛み合う第1係合部が形成され、
前記第1回転部材の半径方向における前記第1係合部よりも内周側に、前記第1スプライン歯または前記第1ドグ歯に噛み合う第2係合部を有する円筒軸が形成されている
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1に記載の動力伝達装置であって
第1回転要素、第2回転要素、および第3回転要素が差動回転可能に連結された第1差動機構を有し、
前記他の一対の回転部材は、前記第1回転要素、前記第2回転要素、および前記第3回転要素のうちのいずれか一つの回転要素と、前記第1回転要素、前記第2回転要素、および前記第3回転要素のうちの他の一つの回転要素とを含む
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4に記載の動力伝達装置であって
前記第1差動機構は、サンギヤ、リングギヤ、およびキャリヤによって構成され、
前記第1回転要素、前記第2回転要素、および前記第3回転要素のうちの前記他の一つの回転要素は、前記キャリヤを含む
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の動力伝達装置であって
第4回転要素、第5回転要素、および第6回転要素が差動回転可能に連結された第2差動機構を有し、
前記所定の一対の回転部材は、前記第4回転要素、前記第5回転要素、および前記第6回転要素のうちのいずれか一つの回転要素と、前記第1回転要素、前記第2回転要素、および前記第3回転要素のうちの前記他の一つの回転要素とを含む
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項5を引用する請求項6に記載の動力伝達装置であって
前記キャリヤは、回転中心軸線方向で互いに対向した一対のキャリヤプレートを備え、
前記一対のキャリヤプレートのうちの一方のキャリヤプレートの外周面に、前記第2スプライン歯または前記第2ドグ歯に噛み合う第3係合部が形成され、
前記一方のキャリヤプレートの半径方向における前記第3係合部よりも内周側に、前記第1スプライン歯または前記第1ドグ歯に噛み合う第4係合部を有する円筒軸が形成されている
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項8】
請求項7に記載の動力伝達装置であって
前記円筒軸の内径は、前記第2差動機構の外径よりも大きく形成され、
前記第2差動機構は、前記円筒軸の内側に配置され、
前記第4係合部は、前記第2差動機構と同一軸線上に形成されている
ことを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の噛み合い式の係合機構を備え、それらの係合機構の係合状態と解放状態とを切り替えることによって、トルクの伝達経路を変更可能な動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンが連結された第1回転要素と、第1モータが連結された第2回転要素と、第3回転要素とが差動回転可能に連結された第1差動機構と、駆動輪が連結された第4回転要素と、第3回転要素に連結された第5回転要素と、第6回転要素とが差動回転可能に連結された第2差動機構と、第1回転要素と第6回転要素とを選択的に連結する第1クラッチ機構と、第5回転要素と第6回転要素とを選択的に連結する第2クラッチ機構とを備えた動力伝達装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6451524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載された各クラッチ機構を噛み合い式のクラッチ機構によって構成する場合には、第1クラッチ機構を構成する第1スリーブと、第2クラッチ機構を構成する第2スリーブとを動力伝達装置の軸線方向に並べて配置すると、各スリーブの軸線方向の移動量分、それぞれのスリーブを配置する領域を確保する必要があり、したがって、動力伝達装置の軸長が長くなる可能性がある。また、第1スリーブと第2スリーブとの一方のスリーブを他方のスリーブの内側に挿入した場合には、各スリーブの軸線方向の移動をガイドするスプラインと、各スリーブに形成されたドグ歯との位置関係によっては、第1スリーブと第2スリーブとの軸長が長くなり、または第1スリーブと第2スリーブとの半径が大きくなる可能性がある。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、複数の噛み合い式の係合機構を搭載することによる装置の大型化を抑制することができる動力伝達装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、所定の一対の回転部材の係合状態と解放状態とを切り替える噛み合い式の第1係合機構と、前記所定の一対の回転部材とは異なる他の一対の回転部材の係合状態と解放状態とを切り替える噛み合い式の第2係合機構とを備えた動力伝達装置であって、前記第1係合機構は、円筒状に形成されかつ軸線方向に移動することができる第1スリーブを備え、前記第2係合機構は、前記第1スリーブの少なくとも一部が挿入されるように円筒状に形成されかつ軸線方向に移動することができる第2スリーブを備え、前記第1スリーブの内周面に、前記所定の一対の回転部材のいずれか一方と係合する第1スプライン歯と、前記所定の一対の回転部材の他方と噛み合う第1ドグ歯とが形成され、前記第2スリーブの内周面と外周面とのいずれか一方に、前記他の一対の回転部材のいずれか一方と係合する第2スプライン歯が形成され、かつ前記第2スリーブの内周面と外周面との他方に、前記他の一対の回転部材の他方と噛み合う第2ドグ歯が形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
また、この発明では、前記所定の一対の回転部材は、第1回転部材と第2回転部材とを含み、前記他の一対の回転部材は、前記第1回転部材と第3回転部材とを含んでよい。
【0008】
また、この発明では、前記第1回転部材の外周面に、前記第2スプライン歯または前記第2ドグ歯に噛み合う第1係合部が形成され、前記第1回転部材の半径方向における前記第1係合部よりも内周側に、前記第1スプライン歯または前記第1ドグ歯に噛み合う第2係合部を有する円筒軸が形成されていてよい。
【0009】
また、この発明では、第1回転要素、第2回転要素、および第3回転要素が差動回転可能に連結された第1差動機構を有し、前記他の一対の回転部材は、前記第1回転要素、前記第2回転要素、および前記第3回転要素のうちのいずれか一つの回転要素と、前記第1回転要素、前記第2回転要素、および前記第3回転要素のうちの他の一つの回転要素とを含んでよい。
【0010】
また、この発明では、前記第1差動機構は、サンギヤ、リングギヤ、およびキャリヤによって構成され、前記第1回転要素、前記第2回転要素、および前記第3回転要素のうちの前記他の一つの回転要素は、前記キャリヤを含んでよい。
【0011】
また、この発明では、第4回転要素、第5回転要素、および第6回転要素が差動回転可能に連結された第2差動機構を有し、前記所定の一対の回転部材は、前記第4回転要素、前記第5回転要素、および前記第6回転要素のうちのいずれか一つの回転要素と、前記第1回転要素、前記第2回転要素、および前記第3回転要素のうちの前記他の一つの回転要素とを含んでよい。
【0012】
また、この発明では、前記キャリヤは、回転中心軸線方向で互いに対向した一対のキャリヤプレートを備え、前記一対のキャリヤプレートのうちの一方のキャリヤプレートの外周面に、前記第2スプライン歯または前記第2ドグ歯に噛み合う第3係合部が形成され、前記一方のキャリヤプレートの半径方向における前記第3係合部よりも内周側に、前記第1スプライン歯または前記第1ドグ歯に噛み合う第4係合部を有する円筒軸が形成されていてよい。
【0013】
そして、この発明では、前記円筒軸の内径は、前記第2差動機構の外径よりも大きく形成され、前記第2差動機構は、前記円筒軸の内側に配置され、前記第4係合部は、前記第2差動機構と同一軸線上に形成されていてよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、第1スリーブの少なくとも一部が第2スリーブに挿入されるように構成されている。その第1スリーブの内周面には、所定の一対の回転部材の一方と係合する第1スプライン歯と他方と噛み合う第1ドグ歯とが形成され、また第2スリーブの内周面と外周面との一方には、他の一対の回転部材の一方と係合する第2スプライン歯が形成され、第2スリーブの内周面と外周面との他方には、他の一対の回転部材の他方と噛み合う第2ドグ歯が形成されている。したがって、第2スリーブの軸線方向で第2スプライン歯とドグ歯とを重ねて形成することができるため、第2スリーブの軸長を短縮することができ、また、第1スリーブの内周側に、スプライン歯とドグ歯とを並んで形成することで、第1スリーブの外径が大きくなることを抑制できる。言い換えると、第1スリーブの外径を小さく形成することができるため、第2スリーブの外径が大きくなることを抑制できる。したがって、第1スリーブと第2スリーブとを備えた動力伝達装置の軸長の短縮と、外径の小型化とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施形態における動力伝達装置の一例を説明するためのスケルトン図である。
図2】第2スリーブの内周面にスプライン歯を形成し、外周面にドグ歯を形成した例を示すスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態における動力伝達装置の一例を図1を参照して説明する。図1に示す動力伝達装置1は、二つのシングルピニオン型の遊星歯車機構2,3と、二つのクラッチ機構4,5を備えている。なお、以下の説明では、便宜上、図1における右側をフロント側とする。
【0017】
図1に示す例では、それぞれの遊星歯車機構2,3は、所定の軸線方向に沿って並んで配置されている。図1におけるフロント側の遊星歯車機構(以下、フロント遊星歯車機構と記す)2は、所定の軸線上に配置された第1サンギヤ6と、第1サンギヤ6に対して同心円上に配置された、内歯歯車である第1リングギヤ7と、これら第1サンギヤ6と第1リングギヤ7との間に配置されて第1サンギヤ6と第1リングギヤ7とに噛み合っている第1ピニオンギヤ8と、第1ピニオンギヤ8を自転および公転可能に保持する第1キャリヤ9とを有し、第1サンギヤ6、第1リングギヤ7、および第1キャリヤ9の三つの回転要素によって差動作用を行うように構成されている。上記の第1キャリヤ9は、回転中心軸線方向に互いに対向した一対の環状のキャリヤプレート10,11と、それらのキャリヤプレート10,11に掛け渡されたピニオンピン12とによって構成され、そのピニオンピン12に第1ピニオンギヤ8が回転自在に保持されている。なお、フロント遊星歯車機構2が、この発明の実施形態における「第1差動機構」に相当し、第1サンギヤ6、第1リングギヤ7、および第1キャリヤ9が、この発明の実施形態における「第1回転要素」、「第2回転要素」、および「第3回転要素」に相当する。
【0018】
図1におけるリヤ側の遊星歯車機構(以下、リヤ遊星歯車機構と記す)3も、フロント遊星歯車機構2と同様に構成することができ、所定の軸線上に配置された第2サンギヤ13と、第2サンギヤ13に対して同心円上に配置された、内歯歯車である第2リングギヤ14と、これら第2サンギヤ13と第2リングギヤ14との間に配置されて第2サンギヤ13と第2リングギヤ14とに噛み合っている第2ピニオンギヤ15と、第2ピニオンギヤ15を自転および公転可能に保持する第2キャリヤ16とを有し、第2サンギヤ13、第2リングギヤ14、および第2キャリヤ16の三つの回転要素によって差動作用を行うように構成されている。上記の第2キャリヤ16は、回転中心軸線方向に互いに対向した一対の環状のキャリヤプレート17,18と、それらのキャリヤプレート17,18に掛け渡されたピニオンピン19とによって構成され、そのピニオンピン19に第1ピニオンギヤ15が回転自在に保持されている。なお、リヤ遊星歯車機構3が、この発明の実施形態における「第2差動機構」に相当し、第2サンギヤ13、第2リングギヤ14、および第2キャリヤ16が、この発明の実施形態における「第4回転要素」、「第5回転要素」、および「第6回転要素」に相当する。
【0019】
上記の第2サンギヤ13には、図1におけるリヤ側に延出したサンギヤ軸20が連結され、フロント遊星歯車機構2側のキャリヤプレート18の内周部分には、図1におけるフロント側に延出したキャリヤ軸21が連結されている。
【0020】
図1に示すように第1サンギヤ6は、第2サンギヤ13よりも大径に形成され、かつ第2リングギヤ14に連結されている。第1リングギヤ7も同様に第2リングギヤ14よりも大径に形成されていて、その外周側に円筒軸22が一体化されている。より具体的には、リヤ遊星歯車機構3側のキャリヤプレート10の外径よりも円筒軸22の内径が大きく形成され、リヤ遊星歯車機構3の外周側まで延出している。その円筒軸22の外周面には、外歯23が形成されている。なお、第1サンギヤ6は、中空状に形成されていて、その中空部にキャリヤ軸21が貫通している。
【0021】
図1に示す例では、上記の第1キャリヤ9と第2キャリヤ16との係合状態と解放状態とを選択的に切り替える第1クラッチ機構4が設けられている。この第1クラッチ機構4は、噛み合い式のクラッチ機構によって構成されている。具体的には、円筒状の第1スリーブ24と、そのリヤ側の端部の外周面に軸線方向に係合することによって、図示しないアクチュエータから第1スリーブ24に軸線方向の荷重を伝達する第1シフトフォーク25とによって構成されている。なお、第1キャリヤ9が、この発明の実施形態における「第1回転部材」に相当し、第2キャリヤ16が、この発明の実施形態における「第2回転部材」に相当し、したがって、第1キャリヤ9および第2キャリヤ16が、この発明の実施形態における「所定の一対の回転部材」に相当するとともに、第1クラッチ機構4が、この発明の実施形態における「第1係合機構」に相当する。
【0022】
また、第1キャリヤ9と第1リングギヤ7とを選択的に連結する第2クラッチ機構5が設けられている。この第2クラッチ機構5は、第1クラッチ機構4と同様に噛み合い式のクラッチ機構によって構成されている。具体的には、円筒状の第2スリーブ26と、そのリヤ側の端部の外周面に軸線方向に係合することによって、図示しないアクチュエータから第2スリーブ26に軸線方向の荷重を伝達する第2シフトフォーク27とによって構成されている。なお、第1リングギヤ7が、この発明の実施形態における「第3回転部材」に相当し、したがって、第1キャリヤ9および第1リングギヤ7が、この発明の実施形態における「他の一対の回転部材」に相当するとともに、第2クラッチ機構5が、この発明の実施形態における「第2係合機構」に相当する。
【0023】
上記の第2スリーブ26は、第1スリーブ24よりも大径に形成されていて、その第2スリーブ26の中空部に第1スリーブ24のフロント側の端部が挿入され、かつ第2スリーブ26のリヤ側の端部よりも第1スリーブ24のリヤ側の端部が突出して、その部分に第1シフトフォーク25が係合している。
【0024】
図1に示すように第1キャリヤ9におけるリヤ遊星歯車機構3側のキャリヤプレート10の外周面には、円周方向に所定の間隔を空けてドグ歯28が形成されている。また、キャリヤプレート10におけるドグ歯28よりも半径方向における内周側に、リヤ遊星歯車機構3(つまり、第2リングギヤ14)よりも大径に形成された円筒軸29がリヤ遊星歯車機構3側に延出して一体化され、その円筒軸29の外周面にも同様に、円周方向に所定の間隔を空けてドグ歯30が形成されている。より具体的には、リヤ遊星歯車機構3を構成する各回転要素と同一軸線上にドグ歯30が形成されている。なお、ドグ歯28が、この発明の実施形態における「第1係合部」および「第3係合部」に相当し、ドグ歯30が、この発明の実施形態における「第2係合部」および「第4係合部」に相当し、円筒軸29が、この発明の実施形態における「円筒軸」に相当する。
【0025】
また、図1に示すように第2キャリヤ16におけるフロント遊星歯車機構2とは反対側のキャリヤプレート17の外周面には、円筒軸31が一体化されている。この円筒軸31の外径は、上記円筒軸29の外径とほぼ同一の径に形成されていて、その外周面に軸線方向に所定の長さを有するスプライン歯32が形成されている。このスプライン歯32が、この発明の実施形態における「第1スプライン歯」に相当する。
【0026】
そして、図1に示すように第1スリーブ24の内径が、円筒軸29の外径よりも僅かに大きく形成されていて、その先端にドグ歯30に噛み合うドグ歯33が形成され、かつそのドグ歯33の後端部(図1におけるリヤ側の端部)から第1スリーブ24の後端部(図1におけるリヤ側の端部)に亘って、上記スプライン歯32と噛み合うスプライン歯34が形成されている。すなわち、第1スリーブ24は、第2キャリヤ16と常時一体に回転するとともに、軸線方向に相対移動することができるように構成されていて、フロント遊星歯車機構2側に移動してドグ歯30,33同士が噛み合うことによって、第1キャリヤ9と第2キャリヤ16とが第1スリーブ24を介して係合するように構成されている。上記のドグ歯33が、この発明の実施形態における「第1ドグ歯」に相当し、スプライン歯34が、この発明の実施形態における「第1スプライン歯」に相当する。
【0027】
なお、ドグ歯33が形成された位相とスプライン歯34が形成された位相とが同一に形成され、またドグ歯33の後端部とスプライン歯34の先端部とは、溝が連通するように連続的に形成されている。すなわち、各遊星歯車機構2,3を配置した後に、第1スリーブ24をフロント側に移動させることによって、ドグ歯33がスプライン歯32の溝を通過して、第1スリーブ24を組み付けることができるように構成されている。
【0028】
また、上述したように第1リングギヤ7に一体化された円筒軸22は、リヤ遊星歯車機構3側に延出して形成されていて、その内径は、第2スリーブ26および第2リングギヤ14の外径よりも大きく形成されている。すなわち、円筒軸22の内側にリヤ遊星歯車機構3が収容されている。この円筒軸22の内面には、軸線方向に所定の長さを有するスプライン歯35が形成されていて、そのスプライン歯35に噛み合うスプライン歯36が第2スリーブ26の外周面に形成されている。なお、スプライン歯36が、この発明の実施形態における「第2スプライン歯」に相当する。
【0029】
さらに、第2スリーブ26の内周面の先端には、ドグ歯28に噛み合うドグ歯37が形成されている。すなわち、第2スリーブ26は、第1リングギヤ7と常時一体に回転するとともに、軸線方向に相対移動することができるように構成されていて、フロント遊星歯車機構2側に移動してドグ歯28,37同士が噛み合うことによって、第1リングギヤ7と第1キャリヤ9とが第2スリーブ26を介して係合するように構成されている。なお、このドグ歯37が、この発明の実施形態における「第2ドグ歯」に相当する。
【0030】
上述した動力伝達装置1は、第1クラッチ機構4により第1キャリヤ9と第2キャリヤ16とを係合することによって、第1キャリヤ9および第2キャリヤ16と、第2サンギヤ13と、第1リングギヤ7とが差動回転する複合遊星歯車機構が形成される。また、第2クラッチ機構5により第1キャリヤ9と第1リングギヤ7とを係合することによって、第2キャリヤ16と、第2サンギヤ13と、第1リングギヤ7とが差動回転する複合遊星歯車機構が形成される。さらに、各クラッチ機構4,5を係合状態とすることによって、動力伝達装置を構成する各回転要素が一体に回転し、それとは反対に各クラッチ機構4,5を解放することにより、第2キャリヤ16と、第2サンギヤ13と、第1リングギヤ7との間のトルクの伝達が遮断される。
【0031】
したがって、上述した動力伝達装置1は、例えば、車両の駆動力源から駆動輪にトルクを伝達する経路に設けることができる。具体的に例を挙げて説明すると、キャリヤ軸21にエンジンを連結し、サンギヤ軸20に反力トルクを出力するモータを連結し、外歯23にギヤトレーンを介して駆動輪を連結する。
【0032】
このように構成された車両の場合には、第1クラッチ機構4を係合しモータから反力トルクを出力することによって、エンジンから出力されたトルクをモータと駆動輪とに伝達するとともに、その駆動輪に伝達されるトルクの比が大きいローモードを設定することができる。また、第2クラッチ機構5を係合しモータから反力トルクを出力することによって、上記のトルクの比が小さいハイモードを設定することができる。さらに、各クラッチ機構4,5を係合した場合には、モータから反力トルクを出力することなくエンジンのトルクをそのまま駆動輪に伝達する直結モードを設定し、各クラッチ機構4,5を解放した場合には、エンジンと駆動輪とのトルクの伝達を遮断する切り離しモードを設定することができる。すなわち、各クラッチ機構4,5の係合状態と解放状態とを切り替えることによって、動力伝達装置1に入力されるトルクの伝達経路を変更し、かつ入力トルクと出力トルクとの比を変更することができる。
【0033】
なお、キャリヤ軸21にブレーキ機構を設けるとともに、サンギヤ軸20に駆動用のモータを連結し、またはキャリヤ軸21に駆動用のモータを連結するとともに、サンギヤ軸20にブレーキ機構を設けることによって、駆動用モータを駆動力源とした電気自動車の動力伝達装置として設けることもできる。
【0034】
上述したように第2スリーブ26の外周側にスプライン歯36を形成し、内周側にドグ歯37を形成することによって、第2スリーブ26の軸線方向でスプライン歯36とドグ歯37とを重ねて形成することができる。そのため、第2スリーブ26の軸長を短縮することができる。また、第1スリーブ24は、第2スリーブ26の内周側に挿入されるため、第1クラッチ機構4が係合した場合における第1スリーブ24の後端部が、第2クラッチ機構5が解放した場合における第2スリーブ26の後端部よりもリヤ側の位置となる。すなわち、第1スリーブ24の軸長は不可避的に長くなる。そのため、第1スリーブ24の内周側にスプライン歯34とドグ歯33とを並んで形成している。その結果、第1スリーブ24の外径が大きくなることを抑制できる。言い換えると、第1スリーブ24の外径を小さく形成することができるため、第2スリーブ26の外径が大きくなることを抑制できる。したがって、第1スリーブ24と第2スリーブ26とを備えた動力伝達装置1の軸長の短縮と、外径の小型化とを両立することができる。
【0035】
また、第1スリーブ24の外周面にスプライン歯やドグ歯を形成しない分、第1スリーブ24の厚みを厚くすることができ、その結果、第1スリーブ24の強度を向上させるために焼き入れなどを行った場合であっても第1スリーブ24の寸法がばらつくことを抑制できる。
【0036】
なお、上述した第2スリーブ26は、外周面にスプライン歯36を形成し、内周面にドグ歯37を形成することによって、軸長を短縮するように構成しているが、図2に示すように外周面にドグ歯37を形成し、内周面にスプライン歯36を形成するとともに、第2スリーブ26のスプライン歯36に係合するスプライン歯35をキャリヤプレート10の外周面に形成し、ドグ歯37に係合するドグ歯28を円筒軸22の内周面に形成してもよい。
【0037】
また、この発明の実施形態における動力伝達装置は、図1図2に示すように遊星歯車機構を構成する回転要素同士を係合するものに限らず、二対の回転部材を所定の軸線方向に並んで配置し、二対の回転部材のうちの所定の一対の回転部材を係合する係合機構と、他の一対の回転部材を係合する係合機構とを備えたものであってもよい。より具体的には、所定の軸線方向における一方側の一対の回転部材が係合する部分の半径が、他方側の一対の回転部材が係合する部分の半径よりも小さく形成され、各係合機構を構成するスリーブが、上記一方側から軸線方向に移動するように構成された動力伝達装置であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 動力伝達装置
2 フロント遊星歯車機構
3 リヤ遊星歯車機構
4,5 クラッチ機構
6,13 サンギヤ
7,14 リングギヤ
8,15 ピニオンギヤ
9,16 キャリヤ
10,11,17,18 キャリヤプレート
22,29,31 円筒軸
24,26 スリーブ
28,30,33,37 ドグ歯
32,34,35,36 スプライン歯
図1
図2