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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】推定装置及び推定方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20240423BHJP
   G01K 1/20 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H01M10/48 301
G01K1/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021507400
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020012061
(87)【国際公開番号】W WO2020189727
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2019051227
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】岡部 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】山手 茂樹
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-026752(JP,A)
【文献】特開2018-080969(JP,A)
【文献】特開2018-170144(JP,A)
【文献】特開2003-185504(JP,A)
【文献】特開2010-135075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H02J 7/04
G01K 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスを構成する複数の蓄電素子のうちの一部の蓄電素子について計測された素子温度と、前記蓄電デバイスの環境温度とが入力される入力部と、
前記素子温度と前記環境温度とを用いて表される各蓄電素子の熱収支モデルに基づき、各蓄電素子の温度を推定する推定部と
を備え
前記推定部は、前記蓄電デバイスを含むシステムを記述する方程式より得られるモデル予測値と、最新の観測値とに基づいて、潜在変数を推定するフィルタを備え
推定装置。
【請求項2】
蓄電デバイスを構成する複数の蓄電素子のうちの一部の蓄電素子について計測された素子温度と、前記蓄電デバイスの環境温度とが入力される入力部と、
前記素子温度と前記環境温度とを用いて表される各蓄電素子の熱収支モデルに基づき、各蓄電素子の温度を推定する推定部と
を備え、
前記推定部は、前記熱収支モデルを記述する状態方程式より得られるモデル予測値と、最新の観測値とに基づいて、前記状態方程式に含まれる状態ベクトルを更新するカルマンフィルタを備え
定装置。
【請求項3】
前記熱収支モデルは、前記蓄電素子間の熱収支、及び、各蓄電素子と周囲環境との間の熱収支を含む
請求項1又は請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
蓄電デバイスを構成する複数の蓄電素子のうちの一部の蓄電素子について計測された素子温度と、前記蓄電デバイスの環境温度とが入力される入力部と、
前記素子温度と前記環境温度とを用いて表される各蓄電素子の熱収支モデルに基づき、各蓄電素子の温度を推定する推定部と
を備え、
前記熱収支モデルは、蓄電素子間の熱コンダクタンスをパラメータに含み、
前記推定部は、前記蓄電素子の歪みの変化に応じて、各蓄電素子の温度推定に用いる前記熱コンダクタンスの値を変化させ
定装置。
【請求項5】
蓄電デバイスを構成する複数の蓄電素子のうちの一部の蓄電素子について計測された素子温度と、前記蓄電デバイスの環境温度とが入力される入力部と、
前記素子温度と前記環境温度とを用いて表される各蓄電素子の熱収支モデルに基づき、各蓄電素子の温度を推定する推定部と
を備え、
前記熱収支モデルは、各蓄電素子から周囲環境への熱伝達率をパラメータに含み、
前記推定部は、周囲流体の流速に応じて、各蓄電素子の温度推定に用いる熱伝達率の値を変化させ
定装置。
【請求項6】
前記推定部によって推定された各蓄電素子の温度を引数として各蓄電素子の劣化進行速度を決定し、決定した劣化進行速度に基づき、各蓄電素子の劣化をシミュレートするシミュレーション実行部
を更に備える請求項1から請求項の何れか1つに記載の推定装置。
【請求項7】
蓄電デバイスを構成する複数の蓄電素子のうちの一部の蓄電素子について計測された素子温度と、前記蓄電デバイスの環境温度とを取得し、
前記素子温度と前記環境温度とを用いて表される各蓄電素子の熱収支モデルに、前記蓄電デバイスを含むシステムを記述する方程式より得られるモデル予測値と、最新の観測値とに基づき潜在変数を推定するフィルタを適用して、各蓄電素子の温度を推定する
推定方法。
【請求項8】
推定した各蓄電素子の温度を引数として各蓄電素子の劣化進行速度を決定し、
決定した劣化進行速度に基づき、各蓄電素子の劣化をシミュレートする
請求項に記載の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置及び推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池などの蓄電素子は、ノート型パーソナルコンピュータ、スマートフォンなどの携帯端末の電源、再生可能エネルギ蓄電システム、IoTデバイス電源など、幅広い分野において使用されている。
【0003】
このような蓄電素子を備えたバッテリの運用において、蓄電素子における温度をモニタリングすることは不可欠である。蓄電素子の温度をモニタリングする手法として、例えば特許文献1には、電池セルを複数のセルブロックに分割し、温度が測定される温度測定位置のセルブロックの温度と、各セルブロックにおける発熱量とに基づき、温度未測定位置のセルブロックの温度を推定する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-99375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された手法では、外気温度が全く考慮されていないため、各セルブロックの温度を精度良く推定することは困難である。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、蓄電デバイスの環境温度を考慮して、各蓄電素子の温度を精度良く推定できる推定装置及び推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
推定装置は、蓄電デバイスを構成する複数の蓄電素子のうちの一部の蓄電素子について計測された素子温度と、前記蓄電デバイスの環境温度とが入力される入力部と、前記素子温度と前記環境温度とを用いて表される各蓄電素子の熱収支モデルに基づき、各蓄電素子の温度を推定する推定部とを備える。
【0008】
推定方法は、蓄電デバイスを構成する複数の蓄電素子のうちの一部の蓄電素子について計測された素子温度と、前記蓄電デバイスの環境温度とを取得し、前記素子温度と前記環境温度とを用いて表される各蓄電素子の熱収支モデルに基づき、各蓄電素子の温度を推定する。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、蓄電デバイスの環境温度を考慮して、各蓄電素子の温度を精度良く推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る蓄電システムの模式的外観図である。
図2】蓄電素子の構成を示す斜視図である。
図3】推定装置の内部構成を示すブロック図である。
図4】蓄電デバイスの状態変数線図である。
図5】推定装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
図6】等価回路モデルの一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
推定装置は、蓄電デバイスを構成する複数の蓄電素子のうちの一部の蓄電素子について計測された素子温度と、前記蓄電デバイスの環境温度とが入力される入力部と、前記素子温度と前記環境温度とを用いて表される各蓄電素子の熱収支モデルに基づき、各蓄電素子の温度を推定する推定部とを備える。
この構成によれば、蓄電デバイスを構成する複数の蓄電素子のうちの一部の蓄電素子の素子温度と、環境温度とを用いて、各蓄電素子の温度を推定できる。
【0012】
推定装置において、前記推定部は、前記蓄電デバイスを含むシステムを記述する方程式より得られるモデル予測値と、最新の観測値とに基づいて、潜在変数を推定するフィルタを備えてもよい。ここで、モデル予測値とは、上記方程式により計算される各蓄電素子の温度値であり、観測値は温度センサを用いて実測される温度値である。潜在変数は、観測値とは因果関係を有するが、直接的には観測できないパラメータである。この構成によれば、線形カルマンフィルタ、無香料カルマンフィルタや拡張カルマンフィルタなどの非線形カルマンフィルタ、粒子フィルタ等の適宜のフィルタを使用して、各蓄電素子における温度を推定できる。
【0013】
推定装置において、前記推定部は、前記熱収支モデルを記述する状態方程式より得られるモデル予測値と、最新の観測値とに基づいて、前記状態方程式に含まれる状態ベクトルを更新するカルマンフィルタを備えてもよい。モデル予測値は、本明細書中では状態方程式により記述される熱収支モデルにより計算される温度値であり、観測値は温度センサにより計測された温度値である。この構成によれば、カルマンフィルタを用いて温度推定を行うので、システムやセンサにノイズが含まれる場合であっても、より真値に近い値を算出できる。
【0014】
推定装置において、前記熱収支モデルは、前記蓄電素子間の熱収支、及び、各蓄電素子と周囲環境との間の熱収支を含んでもよい。この構成によれば、蓄電デバイスの周囲環境を考慮して、各蓄電素子の温度を推定できる。
【0015】
推定装置において、前記熱収支モデルは、蓄電素子間の熱コンダクタンスをパラメータに含み、前記推定部は、前記蓄電素子の歪みの変化に応じて、各蓄電素子の温度推定に用いる前記熱コンダクタンスの値を変化させてもよい。この構成によれば、蓄電素子間の熱コンダクタンスが時間的に変化する場合であっても、各蓄電素子の温度を推定できる。
【0016】
推定装置において、前記熱収支モデルは、各蓄電素子から周囲環境への熱伝達率をパラメータに含み、前記推定部は、周囲流体の流速に応じて、各蓄電素子の温度推定に用いる熱伝達率の値を変化させてもよい。この構成によれば、各蓄電素子と外部との間の熱伝達率が時間的に変化する場合であっても、各蓄電素子の温度を推定できる。
【0017】
推定装置は、蓄電素子の周辺の環境温度情報、及び前記蓄電素子以外の他の蓄電素子の素子温度情報が入力される入力部と、前記入力部に入力された情報に基づき、各蓄電素子の熱収支から各蓄電素子の温度を推定する推定部と、を備える。
この構成によれば、蓄電素子の周辺の環境温度情報と、前記蓄電素子以外の他の蓄電素子の素子温度情報とに基づき、各蓄電素子の温度を推定できる。
【0018】
推定方法は、蓄電デバイスを構成する複数の蓄電素子のうちの一部の蓄電素子について計測された素子温度と、前記蓄電デバイスの環境温度とを取得し、前記素子温度と前記環境温度とを用いて表される各蓄電素子の熱収支モデルに基づき、各蓄電素子の温度を推定する。
この構成によれば、蓄電デバイスを構成する複数の蓄電素子のうちの一部の蓄電素子の素子温度と、環境温度とを用いて、各蓄電素子の温度を推定できる。
【0019】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は本実施の形態に係る蓄電システム10の模式的外観図である。本実施の形態に係る蓄電システム10は、推定装置100と、蓄電素子200A~200Eと、推定装置100及び蓄電素子200A~200Eを収容する収容ケース300とを備える。本実施の形態では、蓄電素子200A~200Eにより蓄電デバイス20を構成する。以下の説明において、蓄電素子200A~200Eを区別して説明する必要がない場合には、単に蓄電素子200とも記載する。
【0020】
推定装置100は、例えば複数の蓄電素子200の上面に配置され、所定時点での蓄電素子200の温度を推定する回路を搭載した平板状の回路基板である。具体的には、推定装置100は、全ての蓄電素子200に接続されており、それぞれの蓄電素子200から情報を取得して、それぞれの蓄電素子200の所定時点での温度を推定する。
【0021】
推定装置100の配置場所は、蓄電素子200の上面に限定されない。代替的に、蓄電素子200の側面であってもよく、蓄電素子200の下面であってもよい。推定装置100の形状も特に限定されない。さらに、推定装置100は、蓄電素子200から離れた場所にあるサーバ装置であって、センサ類(図3に示す各センサ103A~103D)の情報を通信により取得する構成であってもよい。
【0022】
蓄電素子200は、リチウムイオン二次電池などの二次電池である。蓄電素子200は、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、またはプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等の自動車用電源や、電子機器用電源、電力貯蔵用電源などに適用される。図1では、5個の矩形状の蓄電素子200が直列に配置されて組電池を構成している。
【0023】
蓄電素子200の個数は5個に限定されない。例えば、蓄電素子200の個数は1個であってもよく、2個以上であってもよい。更に、いくつかの蓄電素子200は並列に接続されてもよい。蓄電素子200は、リチウムイオン二次電池以外の二次電池であってもよい。
【0024】
以下、蓄電素子200の構成について説明する。
図2は蓄電素子200の構成を示す斜視図である。具体的には、図2は、蓄電素子200から容器210の本体部分を分離した状態での構成を示している。
【0025】
図2に示すように、蓄電素子200は、容器210と、正極端子220と、負極端子230とを備える。容器210内方には、正極集電体240と、負極集電体250と、2つの電極体261,262とが収容されている。
【0026】
上記の構成要素の他、容器210内方に配置されるスペーサ、端子まわりに配置されるガスケット、容器210内の圧力が上昇したときに当該圧力を開放するためのガス排出弁、電極体261、262等を包み込む絶縁フィルムなどが配置されていてもよい。容器210の内部には、電解液が封入されているが、図示は省略する。当該電解液としては、蓄電素子200の性能を損なうものでなければその種類に特に制限はなく、様々なものを選択できる。
【0027】
容器210は、容器本体を構成する板状の側壁211~214及び底壁215と、当該容器本体の開口を閉塞する板状の蓋体216とを有する箱型の部材である。容器210の材質には、例えばステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金など溶接可能な金属、若しくは、樹脂を用いることもできる。
【0028】
電極体261、262は、正極板と負極板とセパレータとを備え、電気を蓄えることができる2つの蓄電要素(発電要素)である。つまり、電極体261及び電極体262の2つの電極体が、 図2において示されるY軸の方向に並んで配置されている。
【0029】
ここで、電極体261、262が有する正極板は、アルミニウムやアルミニウム合金などからなる長尺帯状の集電箔である正極基材層上に正極活物質層が形成されたものである。負極板は、銅や銅合金などからなる長尺帯状の集電箔である負極基材層上に負極活物質層が形成されたものである。セパレータは、例えば樹脂からなる微多孔性のシートや、不織布を用いることができる。集電箔として、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金など、適宜公知の材料を用いてもよい。
【0030】
電極体261、262には、極板が積層されて形成されている。つまり、電極体261、262は、正極板と負極板との間にセパレータが挟み込まれるように層状に配置されたものが巻回されて形成されている。具体的には、電極体261、262は、正極板と負極板とが、セパレータを介して、巻回軸(図2において示されるX軸に平行な仮想軸)の方向に互いにずらして巻回されている。電極体261、262それぞれの最外周には、正極板及び負極板のいずれも介さないセパレータのみが2重に重ね合わされた状態で1~2周巻回され、絶縁性を確保している。本実施の形態では、電極体261、262の断面形状として長円形状を図示している。代替的に、電極体261、262の断面形状は、楕円形状などであってもよい。
【0031】
正極活物質層に用いられる正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、正極活物質として、LiMPO4 、LiMSiO4 、LiMBO3 (MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素)等のポリアニオン化合物、チタン酸リチウム、LiMn24 やLiMn1.5Ni0.54 等のスピネル型リチウムマンガン酸化物、LiMO2 (MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素)等のリチウム遷移金属酸化物等を用いることができる。
【0032】
負極活物質層に用いられる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。例えば、負極活物質として、リチウム金属、リチウム合金(リチウム-ケイ素、リチウム-アルミニウム、リチウム-鉛、リチウム-錫、リチウム-アルミニウム-錫、リチウム-ガリウム、及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、ケイ素酸化物、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li4 Ti512等)、ポリリン酸化合物、あるいは、一般にコンバージョン負極と呼ばれる、Co34 やFe2 P等の、遷移金属と第14族~第16族元素との化合物などが挙げられる。
【0033】
正極端子220は、電極体261,262の正極板に電気的に接続された電極端子であり、負極端子230は、電極体261,262の負極板に電気的に接続された電極端子である。正極端子220及び負極端子230は、蓋体216に取り付けられている。正極端子220及び負極端子230は、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金などによって形成される。
【0034】
正極集電体240は、正極端子220と電極体261,262の正極板とに電気的に接続(接合)される導電性と剛性とを備えた部材である。負極集電体250は、負極端子230と電極体261,262の負極板とに電気的に接続(接合)される導電性と剛性とを備えた部材である。正極集電体240及び負極集電体250は、蓋体216に固定されている。正極集電体240は、正極基材層と同様にアルミニウムまたはアルミニウム合金などによって形成される。負極集電体250は、上記負極基材層と同様に銅または銅合金などによって形成される。
【0035】
以下、推定装置100の構成について説明する。
図3は推定装置100の内部構成を示すブロック図である。推定装置100は、演算部(推定部)101、記憶部102、入力部103、及び出力部104を備える。
【0036】
演算部101は、マイコン、揮発性又は不揮発性のメモリ等を備える任意の演算回路である。マイコンは、メモリに予め格納されたコンピュータプログラムに従って、ハードウェア各部の動作を制御し、装置全体を本願の推定装置として機能させる。具体的には、演算部101は、素子温度と環境温度とを用いて表される各蓄電素子200の熱収支モデルに基づき、各蓄電素子200の温度を推定するための演算を行う。ここで、素子温度は、後述する温度センサ103Aによって計測される蓄電素子200の温度を示している。環境温度は、蓄電デバイス20の外気温(すなわち、蓄電デバイス20が配置されている空間の温度)を示している。
【0037】
本実施の形態において、演算部101は、マイコン、揮発性又は不揮発性のメモリ等を備える任意の演算回路である。代替的に、演算部101は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などにより構成されてもよい。
【0038】
記憶部102は、フラッシュメモリなどの記憶装置である。記憶部102には、各蓄電素子200の温度推定の演算に必要なデータが記憶される。例えば、記憶部102には、各蓄電素子200の体積、表面積、比熱、密度、隣り合う蓄電素子200との間の熱コンダクタンスの値、外部への熱伝達率等のデータが含まれる。
【0039】
温度推定の演算に用いられる熱コンダクタンスの値は、蓄電素子200が膨張することによって変化する可能性がある。このため、記憶部102には、後述する歪みセンサ103Cによって計測される歪みの値と、熱コンダクタンスの値との関係を示すテーブルが格納されていてもよい。
【0040】
温度推定の演算に用いられる熱伝達率の値は、蓄電デバイス20の周囲における空気の流れによって変化する可能性がある。このため、記憶部102には、後述する流速計103Dによって計測される流速の値と、熱伝達率の値との関係を示すテーブルが格納されていてもよい。または、ヌセルト数、プラントル数及びレイノルズ数の間で成り立つ関係式から熱伝達率を算出する演算を行ってもよい。
【0041】
入力部103は、各種センサを接続するためのインタフェースを備える。入力部103に接続されるセンサには、蓄電素子200の温度(素子温度)を計測する温度センサ103Aが含まれる。温度センサ103Aは、熱電対、サーミスタなどの既存のセンサである。本実施の形態において、計測対象の蓄電素子200は、蓄電デバイス20が備える5個の蓄電素子200A~200Eのうちの一部(例えば蓄電素子200E)である。計測対象の蓄電素子200は、1個であってもよく、2~4個であってもよい。すなわち、蓄電デバイス20がN個(Nは2以上の整数)である場合、計測対象の蓄電素子200は、1個~(N-1)個の範囲にて適宜設置される。温度センサ103Aは、例えば蓄電デバイス20の上面に配置される。代替的に、温度センサ103Aは、蓄電デバイス20の側面又は下面に配置される。
【0042】
入力部103には、蓄電デバイス20の環境温度を計測する温度センサ103Bが接続されてもよい。温度センサ103Bは、熱電対、サーミスタ等の既存のセンサである。温度センサ103Bは、蓄電デバイス20の適宜箇所に設置されてもよく、周囲の適宜箇所に設置されてもよい。推定装置100が外部機器と通信を行う通信インタフェースを備える場合、温度センサ103Bから環境温度の情報を取得する構成に代えて、通信により環境温度の情報を取得してもよい。
【0043】
入力部103には、蓄電素子200の歪みの大きさを検知する歪みセンサ103Cが接続されてもよい。歪みセンサ103Cは、歪みゲージ式のロードセル等を用いた既存のセンサである。歪みセンサ103Cは、蓄電素子200のそれぞれに対して設けられる。
【0044】
入力部103には、蓄電デバイス20の周囲の空気の流れを計測する流速計103Dが接続されてもよい。流速計103Dは、フローメータなどの既存の計測機器である。流速計103Dは、蓄電デバイス20の周囲の適宜箇所に設置される。
【0045】
出力部104は、外部装置を接続するインタフェースを備える。出力部104は、演算部101の演算結果である各蓄電素子200の温度推定結果を外部装置へ出力する。出力部104に接続される外部装置は、一例では、蓄電デバイス20の状態を管理する管理装置、又は蓄電デバイス20の動作を制御する制御装置である。代替的に、出力部104に接続される外部装置は、蓄電デバイス20から供給される電力により動作する携帯端末や電気自動車などの制御装置であってもよい。外部装置は、推定装置100の温度推定結果に基づき、蓄電デバイスの充電率(SOC : State Of Charge)、健全度(SOH : State Of Health)等を計算してもよい。外部装置は、推定装置100の温度推定結果に応じて、蓄電デバイス20の動作を制御してもよい。
【0046】
以下、推定装置100が実行する演算処理の内容について説明する。
推定装置100は、蓄電デバイス20を構成する複数の蓄電素子200(200A~200E)のうちの一部の蓄電素子200(例えば200E)について計測された素子温度と、蓄電デバイス20の環境温度とを考慮した熱収支モデルを用いて、各蓄電素子200A~200Eの温度を推定する。
【0047】
各蓄電素子200A~200Eの熱収支モデルは、伝熱方程式によって表され、例えば、以下の数1が用いられる。
【0048】
【数1】
【0049】
ここで、T1 ~T5 、S1 ~S5 、Q1 ~Q5 、h1 ~h5 は、それぞれ蓄電素子200A~200Eの温度(K)、表面積(m2 )、発熱量(W)、外部への熱伝達率(W/m2 /K)を表す。kijは、i番目の蓄電素子200(例えば蓄電素子200A)とj番目の蓄電素子200(例えば蓄電素子200B)との間の熱コンダクタンス(W/K)を表す。ρ、Cp 、Vは、蓄電素子200の密度(kg/m3 )、比熱(J/kg/K)、体積(m3 )を表す。代替的に、蓄電素子200A~200Eに対して、個別に密度、比熱、体積の値を設定してもよい。T0 は、環境温度(K)を表す。
【0050】
数1における左辺は、蓄電素子200の温度上昇に用いられた熱量を表す。右辺の熱コンダクタンスkijを含む項は、隣り合う蓄電素子200,200の温度差に基づく熱伝導を表す。右辺の熱伝達率h1 ~h5 を含む項は、蓄電素子200から外部への放熱を表しており、放熱が発生している場合にはマイナスの値となる。Q1 ~Q5 を含む項は、蓄電デバイス20の発熱を表す。発熱の要因には、通電によるジュール熱や反応熱などがある。
【0051】
本実施の形態では、T1 ~T5 以外のパラメータの時間依存性を考慮していないが、一般的なカルマンフィルタの特性から、T1 ~T5 以外のパラメータの時間依存性を考慮すると、全く同様の計算手法により温度推定が可能である。
【0052】
演算部101は、数1における熱コンダクタンスkijの値として、予め設定された値を用いて演算を行ってもよく、蓄電素子200の歪みに応じて変化させた値を用いて演算を行ってもよい。後者の場合、蓄電素子200の歪みと熱コンダクタンスとの関係を規定したテーブルから、蓄電素子200の歪みに応じた熱コンダクタンスの値を読み込めばよい。
【0053】
演算部101は、数1における熱伝達率h1 ~h5 の値として、予め設定された値を用いて演算を行ってもよく、周囲流体の流速に応じて変化させた値を用いて演算を行ってもよい。後者の場合、流速と熱伝達率との関係を規定したテーブルから、周囲流体の流速に応じた熱伝達率の値を読み込めばよい。
【0054】
数1における左辺の時間微分を時間差分により書き換えることによって、以下の数2が得られる。
【0055】
【数2】
【0056】
ここで、kは自然数であり、時間ステップを表している。
【0057】
数2を整理することによって、以下の数3が得られる。
【0058】
【数3】
【0059】
ここで、α=(ρCp V/Δt)-1である。
【0060】
次に、数3を行列表現するために、状態ベクトルx(k)、ベクトルb、行列Aを、以下の数4により定義する。
【0061】
【数4】
【0062】
ここで、a11=1-α(k12+S11 )、a22=1-α(k12+k23+S22 )、a33=1-α(k23+k34+S33 )、a44=1-α(k34+k45+S44 )、a55=1-α(k45+S55 )である。また、a12=a21=αk12、a23=a32=αk23、a34=a43=αk34、a45=a54=αk45であり、その他は0である。
【0063】
離散空間状態方程式の表現を用いた場合、数式4は、以下のように記載することができる。ここでは、u(k)=1としてよい。
【0064】
【数5】
【0065】
観測方程式は、数6のように表される。右上付のTは転置を表す。より一般的には、直達項が右辺に加わるが、伝熱の場合は演算時間に比べて代表時間が大きいため、無視してよい場合が多い。
【0066】
【数6】
【0067】
数6の観測方程式では、スカラ観測値y(k)を用いた。代替的に、観測値は複数であってもよい。ここで、Cは、温度センサ103Aによって計測される素子温度を要素する観測ベクトル(又は観測行列)である。例えば、5番目の蓄電素子200の温度のみを計測する場合、観測ベクトルは以下の数7にように表される。
【0068】
【数7】
【0069】
次に、システム及び観測に外乱(雑音、ノイズ、不確定性などともいう)があることを想定した場合、システムの状態を表す状態方程式と、状態の観測値を示す観測方程式とは、数8により表される。
【0070】
【数8】
【0071】
ここで、v(k)及びw(k)はそれぞれシステム雑音及び観測雑音である。v(k)及びw(k)は互いに無相関な正規性白色雑音を仮定する。bv はシステム雑音が各状態量に及ぼす影響を表すベクトルである。以下、v(k)の分散をσv 2、w(k)の分散をσw 2とする。数8の状態方程式及び観測方程式を用いた蓄電デバイス20の状態変数線図は図4のように示される。図4中のz-1はz変換による遅延器を表し、Iは単位行列を表す。
【0072】
推定装置100の演算部101は、図4に示す状態空間モデルにカルマンフィルタを適用することによって、蓄電デバイス20を構成する全ての蓄電素子200における温度を推定する。具体的には、演算部101は、状態方程式に含まれる状態ベクトルを、観測ベクトルCに基づいて更新することによって、温度推定を行う。
【0073】
具体的には、演算部101は、次式に従って事前状態推定を行う。数9によって計算される値を事前推定値という。
【0074】
【数9】
【0075】
ここで、xp (k+1),x(k)に付されているハットは推定値を表している。添え字のpは事前の値を表す。
【0076】
次いで、演算部101は、次式に従って事前誤差共分散行列を計算する。
【0077】
【数10】
【0078】
次いで、演算部101は、数10にて計算した事前誤差共分散行列を用いて、次式によりカルマンゲインを決定する。
【0079】
【数11】
【0080】
次いで、演算部101は、決定したカルマンゲインを用いて、事後状態を推定する。すなわち、演算部101は、数12に示すように、事前推定値と観測値との差にカルマンゲインを乗算することによって、補正前の状態を補正後の状態に補正する。
【0081】
【数12】
【0082】
このとき、演算部101は、事後誤差共分散行列を次式により計算することができる。
【0083】
【数13】
【0084】
以下、推定装置100が実行する処理の手順について説明する。
図5は推定装置100が実行する処理の手順を示すフローチャートである。推定装置100の演算部101は、入力部103を通じて、温度センサ103Aによって計測された蓄電素子200の温度(素子温度)を取得する(ステップS101)。取得した素子温度は、時系列データとして記憶部102に一時的に記憶される。
【0085】
演算部101は、入力部103を通じて、温度センサ103Bによって計測された環境温度を取得する(ステップS102)。取得した環境温度は、時系列データとして記憶部102に一時的に記憶される。
【0086】
本実施の形態では、素子温度を取得した後に、環境温度を取得する手順とした。代替的に、環境温度を取得した後に、素子温度を取得してもよく、素子温度及び環境温度を同時的に取得してもよい。環境温度と素子温度とを計測する時間間隔は一致している必要はない。
【0087】
次いで、演算部101は、数8の離散時間状態方程式及び観測方程式を生成する(ステップS103)。このとき、離散時間状態方程式に含まれる、蓄電素子200の表面積S1 ~S5 、密度ρ、比熱Cp 、体積V等のパラメータは、記憶部102から読み込まれる。
【0088】
次いで、演算部101は、生成した離散時間状態方程式にカルマンフィルタを適用して、蓄電デバイス20を構成する全蓄電素子200の温度を推定する(ステップS104)。このとき、演算部101は、カルマンフィルタを適用することによって、状態方程式に含まれる状態ベクトルを、最新の観測値とカルマンゲインとに基づいて更新することによって、状態(本実施の形態では蓄電素子200の温度)を推定する。
【0089】
以上のように、本実施の形態に係る推定装置100は、蓄電デバイス20を構成する蓄電素子200A~200Eのうち、一部の蓄電素子200(例えば蓄電素子200E)の素子温度と、環境温度とを用いて、全ての蓄電素子の温度を推定できる。すなわち、本願は、蓄電デバイス温度のソフトセンサを提供する。
【0090】
推定装置100は、カルマンフィルタを用いて温度推定を行うので、システムやセンサにノイズが含まれる場合であっても、真値に近い値を算出できる。
【0091】
カルマンフィルタは漸化式の形式をしているので、過去の時系列データをすべて記憶しておく必要がない。そのため、簡易で安価な装置構成で、本願を実現することができる。アルゴリズムも比較的単純で計算量も少なく、オンライン処理にも適している。
【0092】
本実施の形態では、システムのパラメータA,b,Cを時間に依らない定数、すなわち時不変システムとした。代替的に、これらのパラメータA,b,Cは時間(k)に依存するパラメータ、すなわち時変システムであってもよい。その場合、数9-13に対応する式を、それぞれ以下の数14-18に示すように、システムのパラメータA,b,C、システム雑音の分散σv 2及び観測雑音の分散σw 2を時間(k)の関数にするだけでよい。そのため、推定装置100は、環境温度、蓄電素子200間の接触状態(熱コンダクタンス)、蓄電素子200の発熱量が時間的に変化する場合であっても、本発明の推定方法を適用できる。
【0093】
【数14】
【0094】
【数15】
【0095】
【数16】
【0096】
【数17】
【0097】
【数18】
【0098】
以下、温度推定の応用例について記載する。
【0099】
(応用例1)
リチウムイオン電池に代表される蓄電素子の電気特性を表す数理モデルとして等価回路モデルがよく知られている。図6は等価回路モデルの一例を示す回路図である。蓄電素子の等価回路モデルは、例えば図6に示すような抵抗器、容量成分、電圧源の組み合わせによって表現されることが多い。
【0100】
図6中のR0 はオーム抵抗成分、R1 は正極の反応抵抗成分、C1 は正極の容量成分、R2 は負極の反応抵抗成分、C2 は負極の容量成分、Eeqは開回路電圧(OCV : Open Circuit Voltage)である。ただし、図6は例示であって、直列、並列の組み合わせや電気回路素子の個数や種類に制限はない。
【0101】
リチウムイオン電池に代表される蓄電素子の充放電特性は、温度やSOCの影響を強く受けることが知られている。SOCとはState Of Chargeの略称であり、満充電状態を100%、完全放電状態を0%として表す。R0 ~R2 、C1 ~C2 、Eeqの成分は、SOC及び温度の二変数関数として表現される。R0 ~R2 、C1 ~C2 、Eeqの値と、SOC及び温度の関係は、予め取得された値を用いてよい。
【0102】
蓄電システム10は、推定装置100の他に、蓄電素子200の数理モデルを保持してもよい。蓄電素子200の数理モデルは、蓄電素子200の開回路電位、内部インピーダンスの情報を含み、電流及び電圧の関係を示すものである。蓄電素子200の数理モデルは、蓄電素子200の状態推定器(オブザーバともいう)や将来予測に使用される。
【0103】
推定装置100を用いることで、精緻かつ正確な各蓄電素子200の温度推定が可能になるため、等価回路の各素子の特性値がより正確となり、充放電特性のシミュレーションも精度が向上することが期待できる。
【0104】
(応用例2)
等価回路以外の電池モデルとして、例えば、非特許文献「Comparison of Modeling Predictions with Experimental Data from Plastic Lithium Ion Cells, M.Doyle, T.F.Fuller and J.Newman, Journal of The Electrochemical Society , 143 (6), 1890-1903 (1996)」に開示されたモデルを用いてもよい。本モデルは、いわゆるNewmanモデルと呼ばれる、電池(特にリチウムイオン電池)の物理モデルである。このモデル中の反応抵抗の式(すなわち、Butler―Volmer式)やイオン伝導率、イオン拡散係数、或いはその他の物性値に温度依存性を与え、推定装置100から得られる温度推定値をNewmanモデルのシミュレーションに入力条件として与えることで、精緻な充放電特性シミュレーションが可能になる。
【0105】
代替的に、電極を単一の活物質粒子によって表現する単粒子モデルが用いられてもよい。単粒子モデルについては、例えば、非特許文献「Single-Particle Model for a Lithium-Ion Cell : Thermal Behavior, Meng Guo, Godfrey Sikha, and Ralph E. White, Journal of The Electrochemical Society ,158 (2) 122-132 (2011) 」に開示されたモデルを参照すればよい。このモデル中の反応抵抗の式(すなわち、Butler―Volmer式)やイオン伝導率、イオン拡散係数、或いはその他の物性値に温度依存性を与え、推定装置100から得られる温度推定値を単粒子モデルのシミュレーションに入力条件として与えることで、精緻な充放電特性シミュレーションが可能になる。
【0106】
代替的に、開回路電圧OCVと内部抵抗とを、温度とSOCのべき乗関数で表す多項式モデルが用いられてもよい。多項式モデルについては、例えば、非特許文献「Modeling the Dependence of the Discharge Behavior of a Lithium-Ion Battery on the Environmental Temperature, Ui Seong Kim,a Jaeshin Yi,a Chee Burm Shin, Taeyoung Han,b and Seongyong Park, Journal of The Electrochemical Society ,158 (5) 611-618 (2011)」に開示されたモデルを参照すればよい。実施の形態に記載した温度推定値を多項式モデルのシミュレーションに入力条件として与えることで、精緻な充放電特性シミュレーションが可能になる。
【0107】
更に代替的に、蓄電素子200の特性を表すモデルであり、温度の入力を必要とするものであれば、推定装置100を用いて、精緻な充放電特性シミュレーションが可能になる。
【0108】
(応用例3)
推定装置100を用いることによって、蓄電デバイス20内の温度分布を推定できる。推定された温度分布に基づき、適切な冷却条件や加熱条件が決められてもよい。冷却条件及び加熱条件として、空冷であれば、例えば風量、風向、風温度、水冷であれば、冷媒流量、冷媒温度などがある。条件決定の方法は、PID制御やon/off制御などのフィードバック制御が用いられてもよい。
【0109】
(応用例4)
推定装置100を用いることによって、蓄電素子200の異常加熱を推定することができる。推定された蓄電素子200の温度が異常値(異常値は多くの場合、通常よりも高い値である。)となることがありうる。このような蓄電素子200は内部短絡などによって異常状態となっている可能性があるため、ただちに断路などの措置を取ることが望ましい。
【0110】
(応用例5)
推定装置100を用いることによって、限られた温度情報に基づいた場合であっても、より精緻な劣化予測シミュレーションが可能となる。具体的には、既知の劣化予測の式中に含まれる温度に、推定装置100により推定された温度を用いることで、より精緻な劣化予測が可能となる。特に、複数の単電池が直列に接続されてなる組電池が用いられる蓄電池システムにおいては、劣化の大きい単電池の性能が電池システム全体の性能に及ぼす影響が非常に大きいため、推定装置100より得られる温度推定値を用いて、より精緻な劣化予測を行うことは非常に有用である。
【0111】
リチウムイオン電池に代表される電池の劣化メカニズムには、少なくとも(1)活物質粒子の孤立化、(2)電荷担体の減少、(3)電気抵抗の増大、(4)電解液における導電性の低下、の4種類があることが知られている。これらの劣化メカニズムが複合的に寄与して、電池の充放電特性ならびに容量低下を引き起こす。
【0112】
温度はこれらの劣化の進行速度を決める因子の中でも特に重要なものである。そのため、温度を精緻に把握することは、劣化予測の観点からも重要である。推定装置100は、例えばアレニウス型の反応速度式に基づいた温度の依存性を持っているとして、劣化の進行速度を決定できる。代替的に、推定装置100は、その他の任意の温度の関数に基づき、劣化の進行速度を決定してもよい。劣化には、経時によって劣化する経時劣化(カレンダー劣化と呼ばれることもある)と、サイクル数に応じて劣化するサイクル劣化があることが知られており、いずれも温度の関数となることが実験などで確認されている。
【0113】
推定装置100は、決定した劣化の進行速度に基づき、蓄電デバイス20の劣化をシミュレートしてもよい。劣化予測方法として、例えば特許文献『特願2019-064218号:開発支援装置、開発支援方法、及びコンピュータプログラム』に開示されている手法を用いてもよい。
【0114】
(応用例6)
数1~数4に記載したQ1 ~Q5 の値は、(応用例1)及び(応用例2)に記載したような電池モデルに基づいて算出されてもよい。
【0115】
本実施の形態では、一般的なカルマンフィルタを適用して温度推定を行う構成とした。代替的に、無香料カルマンフィルタや拡張カルマンフィルタなどの非線形カルマンフィルタ、粒子フィルタ等の適宜のフィルタを使用してもよい。すなわち、演算部101は、上記のフィルタを用いて、蓄電デバイス20を含むシステムを記述する方程式より得られるモデル予測値と、最新の観測値とに基づいて、潜在変数を推定してもよい。ここで、潜在変数とは、観測値とは因果関係を有するが、直接的には観測できないパラメータである。
【0116】
今回開示された実施形態は、全ての点において例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0117】
例えば、蓄電デバイス20は、複数のセルを直列に接続したモジュール、複数のモジュールを直列に接続したバンク、複数のバンクを並列に接続したドメイン等であってもよい。蓄電デバイス20が複数のモジュールにより構成されるバンクである場合、推定装置100は、一部のモジュールについて計測された温度を素子温度として取得し、計測されていないモジュールの温度を含む各蓄電素子の温度(この例では各モジュールの温度)を推定してもよい。同様に、蓄電デバイス20が複数のバンクにより構成されるドメインである場合、推定装置100は、一部のバンクについて計測された温度を素子温度として取得し、計測されていないバンクの温度を含む各蓄電素子の温度(この例では各バンクの温度)を推定してもよい。
【符号の説明】
【0118】
10 蓄電システム
20 蓄電デバイス
100 推定装置
101 演算部
102 記憶部
103 入力部
103A 温度センサ
103B 温度センサ
103C 歪みセンサ
103D 流速計
104 出力部
200 蓄電素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6