(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
G02B6/036 501
(21)【出願番号】P 2021513628
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2020015564
(87)【国際公開番号】W WO2020209229
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019074782
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100190470
【氏名又は名称】谷澤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】田村 欣章
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 洋宇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅人
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-122502(JP,A)
【文献】特開2016-081067(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0209045(US,A1)
【文献】特開2006-058494(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0038528(US,A1)
【文献】特開2017-027050(JP,A)
【文献】特開平08-254601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/036,6/10,6/44
C03B 37/00-37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に一様な構造を有する光ファイバであって、
アルカリ金属元素を含むシリカガラスを有するコアと、前記長手方向に垂直な断面において前記コアを取り囲み、シリカガラスを有するクラッドと、を備え、
前記クラッドの屈折率は、前記コアの屈折率よりも低く、
前記クラッドは、前記断面において、前記クラッドの内周面を含む円環形状の内側クラッド層と、前記クラッドの外周面を含む円環形状の外側クラッド層と、を有し、
前記内側クラッド層は、フッ素を含み、
前記内側クラッド層及び外側クラッド層は、互いに異なる屈折率を有し、
前記外側クラッド層は、残留応力が引張応力でその大きさが極大となる極大部を含み、
前記極大部と前記外側クラッド層の内周面との間の径方向距離は、10μm以下であ
り、
前記外側クラッド層は、前記外側クラッド層の内周面を含む第2領域を有し、
前記第2領域の径方向の厚みは、0.1μm以上3μm未満であり、
前記第2領域におけるフッ素濃度は、前記外側クラッド層の前記第2領域以外の領域におけるフッ素濃度よりも100ppm以上10000ppm以下低い、光ファイバ。
【請求項2】
温度80℃で分圧1kPaの水素ガスを含む雰囲気に24時間にわたって暴露することによる波長1380nmにおける伝送損失の増加は、0.0001dB/km以上0.1dB/km以下である、請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記極大部の残留応力は、5MPa以上30MPa以下の引張応力である、請求項1又は請求項2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記外側クラッド層は、前記外側クラッド層の内周面を含む第1領域を有し、
前記第1領域の径方向の厚みは、10μmであり、
前記第1領域のOH濃度は、5ppm以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記光ファイバの中心軸からの径方向距離の関数で表された残留応力を、前記極大部を挟む上限位置及び下限位置であって、前記外側クラッド層の内周面からの距離が10μmである前記上限位置と、前記上限位置における残留応力と等しい残留応力を与える前記下限位置との間の区間で径方向距離で積分した値が、20MPa・μm以上120MPa・μm未満である、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバに関する。
本出願は、2019年4月10日出願の日本出願第2019-074782号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
長距離光通信用の光ファイバはシリカガラスで構成され、線引き工程を経て作製される。線引き工程では、光ファイバの元となるガラス母材(プリフォーム)を加熱しながら、50gf(0.49N)以上の引張り張力がガラスに印加されるように引き延ばしてファイバ状にする。伝送損失の低減が求められる長距離光通信用の光ファイバとして、コア部にアルカリ金属元素が添加された光ファイバが知られている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-157726号公報
【文献】特開2013-107792号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の光ファイバは、長手方向に一様な構造を有する。この光ファイバは、アルカリ金属元素を含むシリカガラスを有するコアと、長手方向に垂直な断面においてコアを取り囲み、シリカガラスを有するクラッドと、を備える。クラッドの屈折率は、コアの屈折率よりも低い。クラッドは、断面において、クラッドの内周面を含む円環形状の内側クラッド層と、クラッドの外周面を含む円環形状の外側クラッド層と、を有する。内側クラッド層は、フッ素を含む。内側クラッド層及び外側クラッド層は、互いに異なる屈折率を有する。外側クラッド層は、残留応力が引張応力でその大きさが極大となる極大部を含む。極大部と外側クラッド層の内周面との間の径方向距離は、10μm以下である。なお、本明細書では、特に断りのない限り、光ファイバは、長手方向に延びる中心軸の周りで軸対称であると仮定される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光ファイバの断面図を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、コアがアルカリ金属元素を含まない場合の残留応力分布を示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは、コアがアルカリ金属元素を含む場合の残留応力分布を示すグラフである。
【
図3A】
図3Aは、アルカリ濃度、第1残留応力差、及び波長1550nmにおける伝送損失の関係を示す表である。
【
図3B】
図3Bは、第1残留応力差、及び波長1550nmにおける伝送損失の関係を示すグラフである。
【
図4A】
図4Aは、線引き張力及び第1残留応力差の関係を示す表である。
【
図4B】
図4Bは、線引き張力及び第1残留応力差の関係を示すグラフである。
【
図5A】
図5Aは、アルカリ濃度及び最大線引き張力の関係を示す表である。
【
図5B】
図5Bは、アルカリ濃度及び最大線引き張力の関係を示すグラフである。
【
図6A】
図6Aは、アルカリ濃度が1ppm及び30ppmのときの線引き張力及び伝送損失の関係を示す表である。
【
図6B】
図6Bは、アルカリ濃度が1ppm及び30ppmのときの線引き張力及び伝送損失の関係を示すグラフである。
【
図7A】
図7Aは、応力付与部の径方向位置及び波長1550nmにおける伝送損失の関係を示す表である。
【
図7B】
図7Bは、応力付与部の径方向位置及び波長1550nmにおける伝送損失の関係を示すグラフである。
【
図8A】
図8Aは、外側クラッド層の残留応力のピーク値及び水素ロス増の関係を示す表である。
【
図8B】
図8Bは、外側クラッド層の残留応力のピーク値及び水素ロス増の関係を示すグラフである。
【
図9A】
図9Aは、内側クラッド層及び外側クラッド層の界面のOH濃度が10ppm以上である光ファイバの残留応力分布である。
【
図9B】
図9Bは、内側クラッド層及び外側クラッド層の界面のOH濃度が1ppm未満である光ファイバの残留応力分布である。
【
図10A】
図10Aは、第1領域のOH濃度及び第2残留応力差の関係を示す表である。
【
図10B】
図10Bは、第1領域のOH濃度及び第2残留応力差の関係を示すグラフである。
【
図11A】
図11Aは、フッ素濃度の差、残留応力のピーク値、及び1550nmにおける伝送損失の関係を示す表である。
【
図11B】
図11Bは、フッ素濃度の差及び残留応力のピーク値の関係を示すグラフである。
【
図11C】
図11Cは、フッ素濃度の差及び1550nmにおける伝送損失の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
線引き工程では、光ファイバの粘度が断面内の組成や温度の分布に起因する不均一性を有しているため、光ファイバの断面内で粘度の低い領域に比べて粘度の高い領域では引張り張力が発生しやすい。この引張り張力によってガラスの分子構造にひずみが発生し、ひずみ由来の散乱及びガラス欠陥損失が発生する場合がある。このような散乱及びガラス欠陥損失がコア又はコア近傍のクラッドで生じると、光ファイバの伝送性能が低下する。このような伝送性能の低下を抑制する一つの方法として、コア部に粘度を下げるアルカリ金属元素を添加することにより、ひずみの発生を抑制する方法が挙げられる。しかしながら、コア部にアルカリ金属元素が添加された光ファイバにおいても、ひずみによる散乱損失が発生する場合がある。例えば、屈折率を上げるGeO2がコアに添加される代わりに、屈折率を下げるフッ素(F)がクラッドに添加されることによって、GeO2添加に起因する伝送損失が抑制された光ファイバでは、クラッドに添加されるFも粘度を下げるため、コア又はコア近傍のクラッドに引張り張力及びひずみが生じる場合がある。
【0007】
そこで、本開示は、伝送損失の低減を図ることが可能な光ファイバを提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、伝送損失の低減を図ることが可能な光ファイバを提供することができる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。実施形態に係る光ファイバは、長手方向に一様な構造を有する。この光ファイバは、アルカリ金属元素を含むシリカガラスを有するコアと、長手方向に垂直な断面においてコアを取り囲み、シリカガラスを有するクラッドと、を備える。クラッドの屈折率は、コアの屈折率よりも低い。クラッドは、断面において、クラッドの内周面を含む円環形状の内側クラッド層と、クラッドの外周面を含む円環形状の外側クラッド層と、を有する。内側クラッド層は、フッ素を含む。内側クラッド層及び外側クラッド層は、互いに異なる屈折率を有する。外側クラッド層は、残留応力が引張応力でその大きさが極大となる極大部を含む。極大部と外側クラッド層の内周面との間の径方向距離は、10μm以下である。
【0010】
上記実施態様に係る光ファイバでは、極大部において、積極的にガラス欠陥を生成させ、環境由来の水素とガラス欠陥とを反応させることができる。この結果、コアにおいて、環境由来の水素とガラス欠陥との反応により生じる水素起因の伝送損失劣化が抑制される。よって、伝送損失の低減を図ることができる。以下、水素起因の伝送損失劣化を「水素劣化」と略称する。
【0011】
温度80℃で分圧1kPaの水素ガスを含む雰囲気に24時間にわたって暴露することによる波長1380nmにおける伝送損失の増加は、0.0001dB/km以上0.1dB/km以下であってもよい。この場合、水素劣化が抑制されているので、伝送損失の低減を確実に図ることができる。また、より高い濃度の水素中でも損失の劣化を生じることなく光ファイバを使用できるので、水素発生量の観点でケーブル材料の選択肢が広がる。その結果、ケーブルの低コスト化が可能となる。
【0012】
極大部の残留応力は、5MPa以上30MPa以下の引張応力であってもよい。この場合、伝送損失が更に低減される。
【0013】
外側クラッド層は、外側クラッド層の内周面を含む第1領域を有してもよい。第1領域の径方向の厚みは、10μmであってもよい。第1領域のOH濃度は、5ppm以下であってもよい。この場合、第1領域に引張張力の極大部が確実に形成されるので、伝送損失の低減を確実に図ることができる。
【0014】
外側クラッド層は、外側クラッド層の内周面を含む第2領域を有してもよい。第2領域の径方向の厚みは、0.1μm以上3μm未満であってもよい。第2領域におけるフッ素濃度は、外側クラッド層の第2領域以外の領域におけるフッ素濃度よりも100ppm以上10000ppm以下低くてもよい。この場合も、第2領域または第2領域を含む領域に引張張力の極大部が確実に形成されるので、伝送損失の低減を確実に図ることができる。なお、外側クラッド層は、外側クラッド層の内周面を含む領域が、第1領域であり、かつ第2領域となっていてもよい。
【0015】
光ファイバの中心軸からの径方向距離の関数で表された残留応力を、極大部を挟む上限位置及び下限位置であって、外側クラッド層の内周面からの距離が10μmである上限位置と、上限位置における残留応力と等しい残留応力を与える下限位置との間の区間で径方向距離で積分した値が、20MPa・μm以上120MPa・μm未満であってもよい。この場合、伝送損失が更に低減される。
【0016】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の光ファイバの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、実施形態に係る光ファイバの断面図を示す図である。
図1に示されるように、本実施形態の光ファイバ1は、コア10及びクラッド20を備える。
図1の断面図は、光ファイバ1の中心軸(光軸)に対して垂直な断面を表している。光ファイバ1は、長手方向に一様な構造を有する。ここで、一様な構造には、製造誤差の範囲で異なる構造も含まれる。つまり、光ファイバ1は、長手方向に実質的に一様な構造を有する。
【0018】
コア10は、アルカリ金属元素を含むシリカガラスを主成分(基材)とする。アルカリ金属元素としては、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)、ルビジウム(Rb)が挙げられる。コア10は、例えば、光ファイバ1の中心軸を含む領域に設けられている。コア10は、外周面10aを有している。コア10の中心軸は、例えば、光ファイバ1の中心軸と一致している。コア10の外径(コア径)は、例えば、8μm以上15μm以下である。
【0019】
クラッド20は、シリカガラスを主成分(基材)とする。クラッド20は、光ファイバ1の中心軸方向(長手方向)に垂直な断面において、コア10を取り囲み、コア10の外周面10aを覆っている。クラッド20は、外周面20a及び内周面20bを有している。外周面20aは、光ファイバ1の外周面を構成している。内周面20bは、コア10の外周面10aに接している。クラッド20の外径(クラッド径)は、光ファイバ1の外径(ファイバ径)と等しく、例えば、124μm以上126μm以下である。クラッド20の径方向の長さ(厚み)は、例えば、55μm以上59μm以下である。光ファイバ1の外周面は、紫外線硬化樹脂によって被覆されていてもよいが、本明細書および添付図では特に断らない限り、被覆が省略される。当業者には公知のように、被覆によれば、光ファイバ1の外周面における傷の発生を防止すると共に、光ファイバ1の剛性を最適化することができる。
【0020】
クラッド20は、内側クラッド層21及び外側クラッド層22を有している。光ファイバ1の中心軸方向(長手方向)に垂直な断面において、内側クラッド層21及び外側クラッド層22は、いずれも円環形状を呈している。内側クラッド層21及び外側クラッド層22は、互いに異なる屈折率を有している。なお、以下に説明するように、本実施形態では内側クラッド層21と外側クラッド層22とが接しているが、クラッド20は、内側クラッド層21及び外側クラッド層22以外のクラッド層を内側クラッド層21及び外側クラッド層22の間に有していてもよい。
【0021】
内側クラッド層21は、光ファイバ1の中心軸方向(長手方向)に垂直な断面においてコア10を取り囲み、外周面10aを覆っている。内側クラッド層21は、外周面21a及び内周面21bを有している。外周面21aは、外側クラッド層22に接している。内側クラッド層21の内周面21bは、クラッド20の内周面20bを構成している。すなわち、内側クラッド層21は、内周面20bを含んでいる。内側クラッド層21は最内層のクラッド層である。内側クラッド層21の外径は、例えば、20μm以上70μm以下である。内側クラッド層21の径方向の厚みは、例えば、5μm以上30μm以下である。一例では、内側クラッド層21の外径が35μm、その径方向の厚みは12.5μmである。
【0022】
外側クラッド層22は、光ファイバ1の中心軸方向(長手方向)に垂直な断面において内側クラッド層21を取り囲み、内側クラッド層21の外周面21aを覆っている。外側クラッド層22は、外周面22a及び内周面22bを有している。外周面22aは、クラッド20の外周面20aを構成している。すなわち、外側クラッド層22は、外周面20aを含んでいる。外側クラッド層22は最外層のクラッド層である。外側クラッド層22の内周面22bは、内側クラッド層21の外周面21aに接している。外側クラッド層22の外径は、クラッド20の外径と等しい。外側クラッド層22の径方向の厚みは、例えば、27μm以上53μm以下である。一例では、内側クラッド層21の外径が35μm、外側クラッド層22の厚みは45μmである。
【0023】
外側クラッド層22は、内周面22bを含む第1領域を有している。第1領域は、内側クラッド層21を取り囲んでいる。第1領域の径方向の厚みは、10μmである。第1領域の残留応力は、引張応力である。本明細書において、特に記載のない場合、残留応力とは、線引き後のファイバが室温まで冷えた後に残留した応力のうち、中心軸方向(ファイバの線引き方向)に垂直な断面に作用する応力の中心軸方向の成分のことである。残留応力は、引張りの場合に正符号、圧縮の場合に負符号で表す。残留応力は径方向位置の関数であるが、特に断りのない限り、典型的な残留応力の測定分解能である直径1μmの領域で平均化した値を残留応力の値と定義する。更に、特に断りの無い限り、残留応力の方向が引張りである場合にその絶対値を引張応力と呼ぶ。外側クラッド層22の残留応力は、第1領域において極大となっている。すなわち、外側クラッド層22は、残留応力が引張応力でその大きさが極大となる極大部30を第1領域に含んでいる。極大部30と内周面22bとの間の径方向距離は、10μm以下である。
【0024】
極大部30の残留応力は、例えば、5MPa以上30MPa以下の引張応力である。後述のように、極大部30の残留応力を30MPa以下とすることにより、光ファイバ1の伝送損失の悪化が抑制される。また、後述のように、極大部30の残留応力を5MPa以上とすることにより、コア10の水素劣化が抑制される。水素劣化が抑制される結果、光ファイバ1では、温度80℃で分圧1kPaの水素ガスを含む雰囲気に24時間にわたって暴露することによる波長1380nmにおける伝送損失の増加は、0.1dB/km以下である。0.0001dB/km以上の伝送損失増加は生じ得るが、多くの用途においては障害とならない。
【0025】
水素劣化は、光ファイバの伝送損失を悪化させる要因として知られている。水素劣化は、環境由来の水素分子とガラス欠陥との反応により生じる。環境由来の水素分子は、樹脂などのガラスの外側の環境に由来する水素である。ガラス欠陥は、ガラスが引張応力を受けた結果、ガラス分子の結合が切れることにより生成される。ガラス欠陥は、特に光ファイバの経時的な伝送損失の劣化の要因として知られている。ガラス欠陥で生成するOH基の吸収に由来する波長1380nmにおける伝送損失のピークは、時間とともに増加する。
【0026】
コア10では、引張応力をうけることにより、ガラス欠陥に由来して伝送損失が増加するおそれがある。そこで、光ファイバ1では、引張応力が付与された応力付与部として極大部30を設け、極大部30で積極的にガラス欠陥を生成させている。これにより、環境由来の水素とガラス欠陥との反応が極大部30で増える。極大部30が設けられた外側クラッド層22は、コア10の水素劣化に対するバリア層の役割を果たし、コア10の水素劣化を抑制できると考えられる。極大部30は、信号光の広がりを考慮しても信号光が影響を受けない程度に十分にコア10から離れた位置、例えば、コア10の中心からの径方向距離が30μm以上の位置に設けられる。また、光ファイバ1の外径を必要以上に太くすることを避けるため、極大部30は、コア10の外周面10aからの径方向距離が60μm以下の位置に設けられる。
【0027】
一般に、光をコアに閉じ込めて伝搬するには、クラッドの屈折率をコアの屈折率よりも低くする必要がある。そのためには、例えば、ゲルマニウム(Ge)のような屈折率を上げるドーパントがコアに含まれる構成と、例えば、フッ素(F)のような屈折率を下げるドーパントがクラッドに含まれる構成と、が考えられる。後者の構成は、例えば、ドーパントをコアに含まない純シリカコア光ファイバにも適用することができる。純シリカコアの屈折率をn
o、クラッドの屈折率をn
iとすると、比屈折率差は式(1)で表される。
【数1】
【0028】
本実施形態の光ファイバ1は、上述の後者の構成を有し、Fがクラッド20の全体に1000ppm以上100000ppm以下含まれている。これにより、クラッド20の屈折率は、コア10の屈折率よりも低くなっている。クラッド20では、少なくとも内側クラッド層21がFを含んでいる。クラッド20のF濃度は、内側クラッド層21において最も高くなっている。なお、本開示において、F濃度は、Fの質量分率、すなわちFの質量の全体の質量に対する比で表記されている。コア10と内側クラッド層21との比屈折率差は0.2%以上である。なお、コア10の屈折率は、純シリカコアの屈折率と同等である。
【0029】
第1領域のOH濃度は、5ppm以下である。なお、本開示において、OH濃度は、OHの質量分率、すなわちOHの質量の全体の質量に対する比で表記されている。これにより、後述のように、第1領域に極大部30を形成することができる。第1領域のOH濃度は、例えば、第1領域の平均OH濃度である。
【0030】
外側クラッド層22は、内周面22bを含む第2領域を有している。第2領域の径方向の厚みは、0.1μm以上3μm未満である。第2領域におけるF濃度は、外側クラッド層22の第2領域以外の領域におけるF濃度よりも100ppm以上10000ppm以下低い。これにより、後述のように、光ファイバ1の伝送損失を抑制可能な極大部30を形成することができる。なお、第2領域におけるF濃度は、例えば、第2領域におけるF濃度の最小値(最低値)である。外側クラッド層22の第2領域以外の領域におけるF濃度は、例えば、外側クラッド層22の第2領域以外の領域におけるF濃度の最小値(最低値)である。
【0031】
光ファイバ1の中心軸からの径方向距離の関数で表された残留応力を極大部30を挟む上限位置と下限位置との間の区間で径方向距離で積分した値は、20MPa・μm以上120MPa・μm未満である。光ファイバ1の中心軸からの径方向距離をr、残留応力をP(r)、積分区間を径方向距離r1からr2までとすると、積分値は以下の式(2)で示される。r1は径方向距離の下限値、r2は径方向距離の上限値である。
【数2】
ここで、積分区間の上限位置は、第1領域の外縁と一致しており、積分区間の上限位置と内周面22bとの間の径方向距離は10μmである。また、積分区間の下限位置及び上限位置における残留応力は互いに等しい。すなわち、P(r1)=P(r2)である。このような範囲に設定された積分区間における積分値が20MPa・μm以上120MPa・μm未満となるようにすることにより、後述のように、光ファイバ1の伝送損失を抑制可能な極大部30を形成することができる。
【0032】
図2Aは、コアがアルカリ金属元素を含まない場合の残留応力分布を示すグラフである。
図2Bは、コアがアルカリ金属元素を含む場合の残留応力分布を示すグラフである。
図2A及び
図2Bでは、残留応力について、引張応力が+で示され、圧縮応力が-で示されている。
図2A及び
図2Bでは、コアに対応する部分を「A」、内側クラッド層に対応する部分を「B」、外側クラッド層に対応する部分を「C」、第1領域に対応する部分を「C1」及び「C2」、第1残留応力差を「Δσ」で示す。第1残留応力差とは、コアの残留応力と内側クラッド層の残留応力との差(コアの残留応力から内側クラッド層の残留応力を引いた値)である。
【0033】
図2A及び
図2Bに示されるグラフからは、コアがアルカリ金属元素を含むことでコア部の粘性が低下し、コアの応力が圧縮応力となる結果、コアに引張応力によるひずみが発生し難いことが予想される。第1残留応力差は、コアがアルカリ金属元素を含むことにより減少する。ところが、
図2Bに示されるように、コア部の粘性を低減した場合でも、残留応力が最も低くなるのはコアではなく、コアの外側の内側クラッド層である。そのため、コアの残留応力は、引張応力にならない範囲ではあるものの、内側クラッド層の残留応力と比較すると、引張応力側に飛び出す場合があることがわかる。
【0034】
コアの残留応力が引張応力側に飛び出す原因については、以下のように考えられる。すなわち、アルカリ金属元素の添加濃度及び線引き速度等の製造条件によっては、アルカリ金属元素がクラッド部にまで拡散する。これにより、内側クラッド層がアルカリ金属元素及び最大濃度のFの両方を含む。粘性は、このような内側クラッド層において最も低くなる。コア部は相対的に硬いので、線引き工程において、ファイバが冷える過程で引張応力を受ける場合があると考えられる。
【0035】
次に、アルカリ濃度を変えることにより第1残留応力差を変えて、第1残留応力差及び伝送損失の関係を調べた。アルカリ濃度とは、コアの平均アルカリ金属元素濃度である。なお、本開示において、アルカリ金属元素濃度は、アルカリ金属元素の質量分率、すなわちアルカリ金属元素の質量の全体の質量に対する比で表記されている。
図3Aは、アルカリ濃度、第1残留応力差、及び波長1550nmにおける伝送損失の関係を示す表である。
図3Bは、第1残留応力差、及び波長1550nmにおける伝送損失の関係を示すグラフである。ここでは、線引き前の母材段階におけるコア部のうち、アルカリ金属元素が存在する領域の径(添加径)をコア径の20%とした。
【0036】
アルカリ金属元素を添加したコア部の合成は、例えば、特許文献1の方法を参考として、拡散法により行われる。拡散法は、予め準備したガラスパイプにアルカリ蒸気を供給しながら外側から加熱することで、ガラス内にアルカリ金属元素を拡散添加する方法である。添加径の調整は、例えば、コア部の外側に第2コア部となるアルカリ金属元素を含まないガラスをコプラス法により付与することで実施できる。添加径の調整は、アルカリ金属元素を添加したコア部を削ることでも実施できる。
【0037】
ここでは、アルカリ金属元素としてKを添加した。K以外のアルカリ金属元素を添加する場合は、アルカリ金属元素の拡散速度に対応させて添加径を変えることによって、第1残留応力差をKを添加した場合と同程度にすることができる。例えばRbをアルカリ金属元素として添加径80%で添加し、光ファイバを製造した場合、第1残留応力差は15MPaとなり、伝送損失もKを添加した場合と同じになった。このことから、添加元素によらず第1残留応力差及び伝送損失の間に相関があると考えられる。
【0038】
図3A及び
図3Bに示される表及びグラフからは、第1残留応力差が15MPaよりも大きい場合、伝送損失が悪化することがわかる。測定精度が不十分なため、5MPa未満の第1残留応力差の測定は困難である。しかしながら、第1残留応力差が小さくなるほど、コア部の粘性と内側クラッド層の粘性との差が小さくなるので、伝送損失を小さくすることができると考えられる。
【0039】
上述のようにコアに引張応力が加わることを防ぐ方法として、例えば、線引き張力を低く抑える方法が考えられる。
図4Aは、線引き張力及び第1残留応力差の関係を示す表である。線引き張力は、線引時にガラス部分に印加される張力である。
図4Bは、その関係を示すグラフである。ここでは、アルカリ濃度を1ppmとした母材を用いた。
【0040】
図4A及び
図4Bに示される表及びグラフから、線引き張力を100g以下とすることで、第1残留応力差を15MPa以下にできることがわかる。アルカリ濃度が高い場合は、より広い線引き張力の範囲で第1残留応力差15MPa以下を達成できると考えられる。例えば、30ppmでは線引き張力が150gでも第1残留応力差を15MPa以下とすることができ、15ppmでは線引き張力が130gでも第1残留応力差を15MPa以下とすることができる。このように、アルカリ濃度と、第1残留応力差が15MPa以下となる線引き張力の最大値(最大線引き張力)との間には、正の相関がある。
【0041】
図5Aは、アルカリ濃度及び最大線引き張力の関係(すなわち、最大線引き張力のアルカリ濃度依存性)を示す表である。
図5Bは、その関係を示すグラフである。
図5A及び
図5Bに示される表及びグラフから、線引き張力が100g以下であれば、アルカリ濃度によらず、第1残留応力差15MPa以下を達成できると推測される。
【0042】
図6Aは、アルカリ濃度が1ppm及び30ppmのときの線引き張力及び伝送損失の関係を示す表である。
図6Bは、その関係を示すグラフである。
図6A及び
図6Bに示されるように、線引き張力が20g未満以下ではアルカリ濃度によらず伝送損失が急増している。線引き張力が低すぎると、線引き工程においてファイバが振動するので、ファイバ径が安定しない。その結果、伝送損失が悪化したと推測される。したがって、アルカリ濃度が1ppm以上の光ファイバの線引き張力は、アルカリ濃度によらず20g以上100g以下に設定され得る。
【0043】
しかしながら、このように低い線引き張力で線引き工程を実施するには、母材の加熱温度を高くするか、線引き速度を遅くする必要がある。したがって、生産効率が低下するおそれがある。そこで、本実施形態に係る光ファイバ1では、クラッド20を複数のクラッド層により構成し、最外層のクラッド層である外側クラッド層22を引張応力が付与された応力付与層として機能させている。例えば、外側クラッド層22のF濃度を低くすることで、外側クラッド層22の粘性を上げて応力付与層とすることができる。加えて、外側クラッド層22が粘性の異なる界面を有することにより、アルカリ金属元素の拡散を抑制することができる(特許文献2を参照)。
【0044】
外側クラッド層の残留応力が外側クラッド層の全体にわたって均一(フラット)である場合(例えば、外側クラッド層内の残留応力の最大値と最小値との差が5MPa以下である場合)、コアにひずみが発生することは抑制できる。しかしながら、後述のガラス欠陥損失に対するバリア層を形成することはできない。このため、ガラス欠陥に由来して伝送損失が増加する。
【0045】
例えば、Fを含まない純シリカにより外側クラッド層を形成した場合、外側クラッド層の全体で残留応力が引張応力となる。このため、引張力が外側クラッド層の全体に分散され、断面積あたりの引張応力が小さくなる。よって、外側クラッド層では、残留応力が低い引張応力となり、残留応力のピーク(極大)が形成されず、バリア層の効果がない。そのため、外側クラッド層にも何らかの添加物を添加し、層内に粘性差をつけることで、応力のピークを設ける必要があると考えられる。
【0046】
添加物としては、塩素(Cl)又はFが挙げられる。Clはクラッドの屈折率を上げるので、クラッドの屈折率がコアの屈折率よりも高くなり、光がクラッドに漏洩する可能性がある。Clの添加量(つまり、クラッドのCl濃度)が5000ppmを超える場合、外側クラッド層の粘性が低くなり、コアに引張応力がかかる。よって、Clの添加量は5000ppm以下に設定され得る。なお、本開示において、Cl濃度は、Clの質量分率、すなわちClの質量の全体の質量に対する比で表記されている。Clの添加量は3000ppm以下であってもよい。この場合、より高い引張応力が付与された応力付与部を外側クラッド層に形成できる。ただし、後述のとおり、外側クラッド層内で100ppm以上の濃度差を設けることによって、伝送損失を低減可能な応力付与部を形成できる。
【0047】
伝送損失を低減するために、線引き工程において線引炉から出た後のファイバを加熱炉で再加熱する加熱工程が実施される場合がある(特開2014-114195号公報参照)。このような加熱工程によれば、特に、応力付与部が外側クラッド層の径方向の中央よりも外側にのみ形成されている場合、応力付与部が再度溶解してコアに引張応力が加わる懸念がある。したがって、応力付与部は、外側クラッド層の径方向の中央よりも内側に形成され得る。
【0048】
図7Aは、応力付与部の径方向位置及び波長1550nmにおける伝送損失との関係を示す表である。
図7Bは、その関係を示すグラフである。径方向位置は、応力付与部と外側クラッド層の内周面との間の径方向距離で特定している。応力付与部の位置は、例えば、残留応力が引張応力でその大きさが極大となる位置である。ここでは、外側クラッド層の径方向の厚み(外側クラッド層の厚み)は50μmである。
【0049】
図7A及び
図7Bに示されるように、応力付与部と外側クラッド層の内周面との間の径方向距離が10μmを超えると、径方向距離が増えるにつれて伝送損失が悪化する。特に、外側クラッド層の外周面から径方向に10μm以内の範囲(応力付与部と外側クラッド層の内周面との間の径方向距離が40μm以上50μm以下の範囲)に応力付与部が存在する場合、急激に伝送損失が悪化する。これは上記加熱工程において応力付与部が再溶解して、応力付与部の残留応力が解放されることで、コアに引張りひずみが発生するためと考えられる。
【0050】
外側クラッド層の厚みは、内側クラッド層の厚み及び屈折率によって最適化される値であり、50μmに限られない。ただし、外側クラッド層の厚みが厚いほど、添加物であるF濃度の低い領域が広くなるため、低コストでファイバを生産することができる。一方で、外側クラッド層の厚みが60μmを超えると、クラッド外径を125μmに固定した場合は応力付与部がコアに近づくため、コアを伝搬する信号光の広がりの一部が応力付与部に到達する。したがって、応力付与部に発生したガラス欠陥損失の影響を受けて伝送損失が悪化する可能性がある。外側クラッド層の厚みが10μm未満の場合は、上記加熱工程により応力付与部が再度溶融する。よって、外側クラッド層の厚みは10μm以上とされる必要がある。
【0051】
外側クラッド層の厚みを60μmとして同様の検討を行った場合、応力付与部と外側クラッド層の内周面との間の径方向距離が15μmまで伝送損失が悪化しなかった。このことから、径方向距離が10μm未満の場合、外側クラッド層の厚みによらず伝送損失の悪化を抑制できると推測される。
【0052】
図8Aは、外側クラッド層の残留応力のピーク値及び水素ロス増の関係を示す表である。
図8Bは、その関係を示すグラフである。外側クラッド層の残留応力のピーク値(極大値)は、応力付与部の残留応力である。水素ロス増は、水素劣化試験の前後での波長1380nmにおける伝送損失(吸収損失)の変化である。水素劣化試験では、温度80℃で分圧1kPaの水素ガスを含む雰囲気に24時間にわたって光ファイバが暴露される。ここでは、外側クラッド層は、コアからの径方向距離が30μmの位置から始まる。応力付与部は、外側クラッド層の内周面からの径方向距離が10μm以下の位置に設けられている。
【0053】
図8A及び
図8Bに示されるように、ピーク値(極大値)が0MPa以上になると、水素劣化が大幅に抑制される。更に、ピーク値が5MPa以上になると、水素劣化が測定不能なレベルまで低下する。一方で、ピーク値が30MPaを超えると、伝送損失が悪化する。これは、引張応力が強すぎることにより、ガラス欠陥の生成量が多くなりすぎるためと推測される。すなわち、外側クラッド層のコアからの径方向距離が30μmである場合においても、わずかに広がった信号光が欠陥損失の影響を受けて伝送損失を悪化させるためと推測される。
【0054】
複数の異なる屈折率からなるクラッド層を形成する方法として、コアを含む内側クラッド層のガラスロッドにガラス微粒子を吹き付けたスス体を形成した後、焼結する方法がある。しかしながら、この方法では、母材を合成した後、ガラスロッド表面にスス体の形成時に利用したバーナー火炎由来の水分が添加される。この水分は、線引き工程で外側クラッド層の方向にも拡散するため、内側クラッド層及び外側クラッド層の界面付近のOH濃度が高くなる場合がる。このようなガラス母材を線引きした場合、界面付近の粘性が局所的に低下する。このため、外側クラッド層では、内周面側の残留応力が低下する。
【0055】
図9Aは、内側クラッド層及び外側クラッド層の界面のOH濃度が10ppm以上である光ファイバの残留応力分布である。
図9Bは、内側クラッド層及び外側クラッド層の界面のOH濃度が1ppm以下である光ファイバの残留応力分布である。
図9A及び
図9Bでは、残留応力について、引張応力を+で示し、圧縮応力を-で示し、界面の位置を破線で示す。
【0056】
図9Bの光ファイバは、クラッド層をスス付け法で行わず、予めFが添加された外側クラッド層をコラプス法により付与してファイバ母材を合成し、ファイバ母材を線引きして得られた。コラプス法によるファイバ母材の合成では、まず、予めFが添加されたガラスパイプを用意し、コア部を含む内側クラッド層のガラスロッドをガラスパイプに挿入した。続いて、真空排気しながらコラプスすることでガラスパイプとガラスロッドとを一体化し、Kをコア部に含むファイバ母材を合成した。コラプス法によりファイバ母材を合成することなく、コア部を含む内側クラッド層のガラスロッドをガラスパイプに挿入し、一体化と同時に線引きしてもよい。
【0057】
図9Aの光ファイバでは、残留応力は界面付近で低下し、外側クラッド層の残留応力は内側クラッド層に向かって単調に減少する。一方で、
図9Bの光ファイバでは、外側クラッド層には内側クラッド層からの径方向距離が10μm以内の位置に応力付与部が形成される。
【0058】
図10Aは、第1領域のOH濃度及び第2残留応力差の関係を示す表である。
図10Bは、その関係を示すグラフである。第2残留応力差とは、第1領域の残留応力と外側クラッド層の厚み方向の中心部の残留応力との差(第1領域の残留応力から外側クラッド層の厚み方向の中心部の残留応力を引いた値)である。ここでは、外側クラッド層の厚みは60μmである。OH濃度は顕微赤外分光法により、直径が10μm程度のスポットの平均値とした。
【0059】
図10A及び
図10Bに示されるように、第1領域のOH濃度が10ppmよりも高い場合、第2残留応力差が負の値となる。つまり、第1領域の残留応力が外側クラッド層の厚み方向の中心部の残留応力よりも小さくなり、第1領域に応力付与部を形成することができない。一方、第1領域のOH濃度が1ppm以下の場合、第2残留応力差は、OH濃度による影響を受けず、5MPaで一定となった。つまり、第1領域の残留応力は、外側クラッド層の厚み方向の中心部の残留応力よりも5MPa大きくなった。また、第1領域のOH濃度が5ppm以下の場合、第2残留応力差は2MPa以上となった。つまり、第1領域の残留応力は、外側クラッド層の厚み方向の中心部の残留応力よりも2MPa以上大きくなった。
【0060】
図11Aは、F濃度の差、残留応力のピーク値、及び1550nmにおける伝送損失の関係を示す表である。
図11Bは、F濃度の差及び残留応力のピーク値の関係を示すグラフである。
図11Cは、F濃度の差及び1550nmにおける伝送損失の関係を示すグラフである。F濃度の差とは、外側クラッド層の内周面から径方向に3μm未満の領域におけるF濃度の最小値と、外側クラッド層の内周面から径方向に3μmの位置におけるF濃度との差(外側クラッド層の内周面から径方向に3μmの位置におけるF濃度から、外側クラッド層の内周面から径方向に3μm未満の領域におけるF濃度の最小値を引いた値)である。残留応力のピーク値とは、第1領域における残留応力のピーク値である。内側クラッド層及び外側クラッド層の界面のOH濃度は1ppm以下であった。
【0061】
図11A~
図11Cに示されるように、F濃度の差が100ppm以上である場合に残留応力のピーク値が5MPa以上となり、伝送損失も低い値を示した。一方で、F濃度の差が3000ppm以上である場合に残留応力のピーク値が30MPa以上となり、伝送損失が急激に悪化した。
【0062】
Fはガラスの粘性を低下するドーパントである。したがって、クラッドのF濃度が光ファイバの中心軸に向かって単調増加の分布を持っている場合、外側クラッド層の第1領域に応力付与部を形成することができない。第1領域に応力付与部を形成するには、F濃度は、第1領域において外側クラッド層の他の領域よりも低いことが必要である。F濃度が低い領域の径が3μmを超える場合は、残留応力だけではなく、比屈折率差自体のピークがコアのように信号を閉じ込める作用を示し、カットオフ波長の長波長化及び曲げロスの悪化のような信号の伝送特性に影響を与えることが考えられる。そのため、F濃度が低い領域の径は3μm以下とすることが必要である。また、F濃度が低い領域のF濃度の最小値は、その外側の領域のF濃度の最小値に対して100ppm以上低いことが必要である。
【0063】
図12Aは、残留応力の積分値及び伝送損失の関係を示す表である。
図12Bは、その関係を示すグラフである。
図12A及び
図12Bに示されるように、残留応力の積分値が20MPa・μm以上の場合に十分な応力付与部が形成され、伝送損失を低く保つことができる。一方で、残留応力の積分値が120MPa・μm以上の場合には、伝送損失が再び悪化することがわかる。これは、応力付与部のひずみが大きくなり過ぎて、欠陥損失由来の伝送損失の悪化が引き起こされると推測される。
【0064】
上述の積分区間(r1≦r≦r2)における残留応力P(r)のグラフを、P(r1)、P(r)のピーク値P、及び、P(r2)を直線で結んだ三角形状とし、ピーク値を30MPaとして計算した積分値は、150MPa・μmであり120MPa・μm以上である。なお、r2は外側クラッド層の内表面から10μmの位置を表し、r1はP(r1)=P(r2)となる位置である。
【0065】
このように積分値が120MPa・μm以上となるのは、残留応力の極大値P
maxを与える半径r
maxの周辺の残留応力分布を以下の式(3)で近似した場合において、指数αが1以上となり、三角形の面積より積分値が大きくなるような分布のときには、応力の急激な変化がなく、十分な応力付与部とならないことが原因と推測される。そのため、応力付与部の分布形状としては、αを1未満とすることができる。このように応力付与部は、ピーク値のような値だけではなく、面積値(つまり積分値)及び指数αの分布を規定することも必要である。なお、式(3)において、aは積分区間の上限位置と内周面22bとの間の径方向距離10(μm)であり、bは以下の式(4)で示される。
【数3】
【数4】
【符号の説明】
【0066】
1…光ファイバ
10…コア
10a…外周面
20…クラッド
20a…外周面
20b…内周面
21…内側クラッド層
21a…外周面
21b…内周面
22…外側クラッド層
22a…外周面
22b…内周面
30…極大部