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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】フリッカ計測装置及び計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/44 20060101AFI20240423BHJP
   G01M 11/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G01J1/44 M
G01M11/00 T
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021554876
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2020039597
(87)【国際公開番号】W WO2021090689
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019202214
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】増田 敏
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-165800(JP,A)
【文献】特開平9-257575(JP,A)
【文献】特開2003-106898(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098155(WO,A1)
【文献】特開2003-69895(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0236175(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0045819(US,A1)
【文献】国際公開第2017/038675(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00 - G01J 1/60
G01J 11/00
G01M 11/00 - G01M 11/08
H04N 5/222 - H04N 5/257
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物の光量変動周波数の候補を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出された光量変動周波数の候補に基づいて光量変動周波数を決定する周波数決定手段と、
前記周波数決定手段により決定された光量変動周波数に基づいてフリッカ計測の周波数分解能を決定する分解能決定手段と、
前記分解能決定手段により決定された周波数分解能でフリッカ計測を行うフリッカ計測手段と、
を備え、
前記分解能決定手段は、前記周波数決定手段により決定された光量変動周波数の整数分の1を周波数分解能として決定するフリッカ計測装置。
【請求項2】
前記検出手段は、
フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、
前記波形データをフーリエ変換処理することにより周波数スペクトルデータを取得し、
前記周波数スペクトルデータにおいて、強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数を基に光量変動周波数の候補を検出する請求項1に記載のフリッカ計測装置。
【請求項3】
前記周波数決定手段は、光量変動周波数の候補の中から最小の周波数の候補を光量変動周波数として決定する請求項1または請求項2に記載のフリッカ計測装置。
【請求項4】
前記検出手段により検出された光量変動周波数の候補の中からいずれかの候補をユーザーが選択可能な選択手段を備え、
前記周波数決定手段は、前記選択手段によりユーザーが選択した候補を光量変動周波数として決定する請求項1または請求項2に記載のフリッカ計測装置。
【請求項5】
ユーザーが光量変動周波数を入力可能な入力手段を備え、
前記周波数決定手段は、検出手段により検出された光量変動周波数の候補のうち、前記入力手段により入力された光量変動周波数に最も近い候補を光量変動周波数として決定する請求項1または請求項2に記載のフリッカ計測装置。
【請求項6】
前記検出手段は、前記周波数スペクトルデータにおいて強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数と隣接する周波数の強度を用いた補完により、光量変動周波数の候補を検出する請求項2に記載のフリッカ計測装置。
【請求項7】
前記検出手段は、
フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、
前記波形データに対する自己相関法により光量変動周波数の候補を検出する請求項1に記載のフリッカ計測装置。
【請求項8】
前記周波数分解能が1Hz以上である請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のフリッカ計測装置。
【請求項9】
前記分解能決定手段により決定された周波数分解能を記録する記録手段を備えている請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のフリッカ計測装置。
【請求項10】
計測対象物の光量変動周波数の候補を検出手段が検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出された光量変動周波数の候補に基づいて光量変動周波数を周波数決定手段が決定する周波数決定ステップと、
前記周波数決定ステップにより決定された光量変動周波数に基づいてフリッカ計測の周波数分解能を分解能決定手段が決定する分解能決定ステップと、
前記分解能決定ステップにより決定された周波数分解能でフリッカ計測手段がフリッカ計測を行う計測ステップと、
を備え、
前記分解能決定ステップでは、前記周波数決定ステップにより決定された光量変動周波数の整数分の1を周波数分解能として決定するフリッカ計測方法。
【請求項11】
前記検出ステップでは、
フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、
前記波形データをフーリエ変換処理することにより周波数スペクトルデータを取得し、
前記周波数スペクトルデータにおいて、強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数を基に光量変動周波数の候補を検出する請求項10に記載のフリッカ計測方法。
【請求項12】
前記周波数決定ステップでは、光量変動周波数の候補の中から最小の周波数の候補を光量変動周波数として決定する請求項10または請求項11に記載のフリッカ計測方法。
【請求項13】
前記周波数決定ステップでは、前記検出ステップにより検出された光量変動周波数の候補の中から、ユーザーが選択手段により選択した候補を光量変動周波数として決定する請求項10または請求項11に記載のフリッカ計測方法。
【請求項14】
前記周波数決定ステップでは、検出ステップにより検出された光量変動周波数の候補のうち、ユーザーが入力手段により入力した光量変動周波数に最も近い候補を光量変動周波数として決定する請求項10または請求項11に記載のフリッカ計測方法。
【請求項15】
前記検出ステップでは、前記周波数スペクトルデータにおいて強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数と隣接する周波数の強度を用いた補完により、光量変動周波数の候補を検出する請求項11に記載のフリッカ計測方法。
【請求項16】
前記検出ステップでは、
フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、
前記波形データに対する自己相関法により光量変動周波数の候補を検出する請求項10に記載のフリッカ計測方法。
【請求項17】
前記周波数分解能が1Hz以上である請求項10乃至請求項16のいずれかに記載のフリッカ計測方法。
【請求項18】
前記分解能決定ステップにより決定された周波数分解能を記録手段に記録保存するステップを備えている請求項10乃至請求項17のいずれかに記載のフリッカ計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ディスプレイ等の計測対象物のフリッカを計測するフリッカ計測装置及び計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パーソナルコンピュータ等のティスプレイは垂直同期信号(Vsync)の周期で画像を更新するため、垂直同期信号の周期の画面の輝度変動を有している。また、ディスプレイが液晶表示装置(LCD)である場合は、奇数フレームと偶数フレームで極性を入れ替える反転駆動を採用しているため、画面の輝度変動周期はさらに2倍の低周波となる。
【0003】
このような画面の輝度変動は、人間にはちらつき(フリッカ)として認識される。
【0004】
ディスプレイの基本性能を計測する光計測器として、例えば、ディスプレイカラーアナライザー(一例としてコニカミノルタ株式会社製のCA-410)が知られている。このようなディスプレイカラーアナライザーは、内部に光センサを備え、色や輝度だけでなく、光波形やフリッカを計測することができる。
【0005】
フリッカ計測法は、JEITA、VESA、IEC等の規格により標準化されている。各規格は、人間の目の周波数応答特性(TCSF(temporal contrast sensitivity function))を正確に反映させるため、以下の処理により導出している。
【0006】
即ち、取得した光波形をデジタル・フーリエ変換により周波数成分毎に強度分解し、各周波数成分の強度に対してTCSFを乗算することで目の周波数応答を反映した強度に変換し、その後、各規格に沿った演算方法を用い、フリッカ値を導出している。
【0007】
ディスプレイの場合、発光周期に特徴があることから、計測対象となる光量変動周波数は、概ね下記に限定される。
・垂直同期信号Vsyncの周波数(fv)と、その高調波(fv*n)
・LCDの場合、1/2*Vsync周波数(fv/2)と、その高調波(fv/2*n)
・バックライト変調を有するディスプレイの場合、その変調周波数(fmo)と、その高調波(fmo*n)
なお、特許文献1には、アレイ検出器を備える光計測装置(分光器)において、高速スキャンすることにより計測時間値を決定し、時間的に不連続な照明光源の同期を可能とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許公開第2005-0103979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のフリッカ計測装置では、例えば1Hz等の予め用意された周波数分解能(fres)でフリッカ計測を行っていた。従って、従来の計測で得られる周波数スペクトルデータは、周波数分解能fresを基本単位とした離散的な強度データの集合となる。
【0010】
しかし、計測できる周波数が離散的であるため、フリッカを計測したい周波数が周波数分解能の整数倍でない場合(整合しない場合)は、計測対象周波数を挟む2点の周波数に強度分散してしまい、計測誤差が生じるという問題があった。特に、垂直同期信号の周波数はディスプレイ毎に個体バラツキを持つため、予め用意された周波数分解能での計測では、不十分であった。
【0011】
本誤差を抑制する方法として、周波数分解能を細かくした条件でフリッカ計測を行うことは可能であるが、周波数分解能は、後述するように計測時間の逆数に相当するため、本対応では計測時間が長くなってしまう。
【0012】
なお、特許文献1にはフリッカ計測についての記述や、フリッカ計測に関する上記課題についての記述はなく、従って特許文献1を参照しても、上記課題を解決することはできない。
【0013】
この発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたものであって、ディスプレイ等の計測対象物のフリッカの計測を、短時間で高精度に行うことができるフリッカ計測装置及び計測方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は以下の手段によって達成される。
(1)計測対象物の光量変動周波数の候補を検出する検出手段と、前記検出手段で検出された光量変動周波数の候補に基づいて光量変動周波数を決定する周波数決定手段と、前記周波数決定手段により決定された光量変動周波数に基づいてフリッカ計測の周波数分解能を決定する分解能決定手段と、前記分解能決定手段により決定された周波数分解能でフリッカ計測を行うフリッカ計測手段と、を備え、前記分解能決定手段は、前記周波数決定手段により決定された光量変動周波数の整数分の1を周波数分解能として決定することを特徴とするフリッカ計測装置。
(2)前記検出手段は、フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、前記波形データをフーリエ変換処理することにより周波数スペクトルデータを取得し、前記周波数スペクトルデータにおいて、強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数を基に光量変動周波数の候補を検出する前項1に記載のフリッカ計測装置。
(3)前記周波数決定手段は、光量変動周波数の候補の中から最小の周波数の候補を光量変動周波数として決定する前項1または前項2に記載のフリッカ計測装置。
(4)前記検出手段により検出された光量変動周波数の候補の中からいずれかの候補をユーザーが選択可能な選択手段を備え、前記周波数決定手段は、前記選択手段によりユーザーが選択した候補を光量変動周波数として決定する前項1または前項2に記載のフリッカ計測装置。
(5)ユーザーが光量変動周波数を入力可能な入力手段を備え、前記周波数決定手段は、検出手段により検出された光量変動周波数の候補のうち、前記入力手段により入力された光量変動周波数に最も近い候補を光量変動周波数として決定する前項1または前項2に記載のフリッカ計測装置。
(6)前記検出手段は、前記周波数スペクトルデータにおいて強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数と隣接する周波数の強度を用いた補完により、光量変動周波数の候補を検出する前項2に記載のフリッカ計測装置。
(7)前記検出手段は、フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、前記波形データに対する自己相関法により光量変動周波数の候補を検出する前項1に記載のフリッカ計測装置。
(8)前記周波数分解能が1Hz以上である前項1乃至前項7のいずれかに記載のフリッカ計測装置。
(9)前記分解能決定手段により決定された周波数分解能を記録する記録手段を備えている前項1乃至前項8のいずれかに記載のフリッカ計測装置。
(10)計測対象物の光量変動周波数の候補を検出手段が検出する検出ステップと、前記検出ステップで検出された光量変動周波数の候補に基づいて光量変動周波数を周波数決定手段が決定する周波数決定ステップと、前記周波数決定ステップにより決定された光量変動周波数に基づいてフリッカ計測の周波数分解能を分解能決定手段が決定する分解能決定ステップと、前記分解能決定ステップにより決定された周波数分解能でフリッカ計測手段がフリッカ計測を行う計測ステップと、を備え、前記分解能決定ステップでは、前記周波数決定ステップにより決定された光量変動周波数の整数分の1を周波数分解能として決定することを特徴とするフリッカ計測方法。
(11)前記検出ステップでは、フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、前記波形データをフーリエ変換処理することにより周波数スペクトルデータを取得し、前記周波数スペクトルデータにおいて、強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数を基に光量変動周波数の候補を検出する前項10に記載のフリッカ計測方法。
(12)前記周波数決定ステップでは、光量変動周波数の候補の中から最小の周波数の候補を光量変動周波数として決定する前項10または前項11に記載のフリッカ計測方法。
(13)前記周波数決定ステップでは、前記検出ステップにより検出された光量変動周波数の候補の中から、ユーザーが選択手段により選択した候補を光量変動周波数として決定する前項10または前項11に記載のフリッカ計測方法。
(14)前記周波数決定ステップでは、検出ステップにより検出された光量変動周波数の候補のうち、ユーザーが入力手段により入力した光量変動周波数に最も近い候補を光量変動周波数として決定する前項10または前項11に記載のフリッカ計測方法。
(15)前記検出ステップでは、前記周波数スペクトルデータにおいて強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数と隣接する周波数の強度を用いた補完により、光量変動周波数の候補を検出する前項11に記載のフリッカ計測方法。
(16)前記検出ステップでは、フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、前記波形データに対する自己相関法により光量変動周波数の候補を検出する前項10に記載のフリッカ計測方法。
(17)前記周波数分解能が1Hz以上である前項10乃至前項16のいずれかに記載のフリッカ計測方法。
(18)前記分解能決定ステップにより決定された周波数分解能を記録手段に記録保存するステップを備えている前項10乃至前項17のいずれかに記載のフリッカ計測方法。
【発明の効果】
【0015】
前項(1)及び(10)に記載の発明によれば、計測対象物の光量変動周波数の候補を検出するとともに、検出した候補に基づいて光量変動周波数を決定し、決定した光量変動周波数の整数分の1を周波数分解能として決定する。従って、計測対象物の実際の光量変動周波数に基づいて適正な周波数分解能を決定することができる。そして、決定した適正な周波数分解能でフリッカ計測を行うから、誤差がなく精度の高いフリッカ計測を行うことができる。しかも、光量変動周波数は実際の光量変動周波数であるから、周波数分解能を必要以上に細かく設定する必要は無く、このため精度の高いフリッカ計測を短時間で行うことができる。
【0016】
前項(2)及び(11)に記載の発明によれば、フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、波形データをフーリエ変換処理することにより周波数スペクトルデータを取得し、周波数スペクトルデータにおいて、強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数を基に光量変動周波数の候補を検出するから、計測対象物の実際の光量変動周波数に対応する候補を検出でき、ひいては精度の高い光量変動周波数を決定することができる。
【0017】
前項(3)及び(12)に記載の発明によれば、光量変動周波数の候補の中から最小の周波数の候補を光量変動周波数として決定するから、高調波に対しても誤差を最小化することができる。
【0018】
前項(4)及び(13)に記載の発明によれば、検出した光量変動周波数の候補の中からユーザーが選択した候補を光量変動周波数として決定するから、ユーザーが着目している周波数のフリッカを高精度で検出することができる。
【0019】
前項(5)及び(14)に記載の発明によれば、検出した光量変動周波数の候補のうち、ユーザーが入力した光量変動周波数に最も近い候補を光量変動周波数として決定するから、ユーザーが着目している周波数付近のフリッカを高精度で検出することができる。
【0020】
前項(6)及び(15)に記載の発明によれば、周波数スペクトルデータにおいて強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数と隣接する周波数の強度を用いて補完することにより、光量変動周波数の候補を検出するから、精度の高い光量変動周波数を決定することができる。
【0021】
前項(7)及び(16)に記載の発明によれば、フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、この波形データに対する自己相関法により光量変動周波数の候補を検出するから、予備測定時間を短縮することができる。
【0022】
前項(8)及び(17)に記載の発明によれば、フリッカ計測時の計測時間を短縮することができる。
【0023】
前項(9)及び(18)に記載の発明によれば、決定された周波数分解能を記録手段に記録保存できるから、再度フリッカ計測が必要となったときに、光量変動周波数の候補の検出、光量変動周波数の決定、周波数分解能の決定の各処理を省略でき、フリッカ計測に要する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】この発明の一実施形態に係るフリッカ計測装置の機能構成を示すブロック図である。
図2】光量変動周波数の候補の検出及び光量変動周波数の決定処理を示すフローチャートである。
図3】取得した波形データのスペクトル解析結果であるスペクトルデータの一例を示す図である。
図4】実施形態において決定した周波数分解能でフリッカ計測を行った場合と、従来のように予め用意された周波数分解能でフリッカ計測を行った場合とで、測定精度を比較した様子を示す図である。
図5】表示部に光量変動周波数の候補リストを表示して、ユーザーに選択させる場合の表示画面を示す図である。
図6】光量変動周波数の設計値をユーザーに入力させる場合の表示画面を示す図である。
図7】この発明の他の実施形態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は、この発明の一実施形態に係るフリッカ計測装置1の機能構成を示すブロック図である。
【0027】
図1に示すように、フリッカ計測装置1は、受光部11と、データ処理部12と、候補検出部13と、周波数決定部14と、分解能決定部15と、フリッカ計測部16と、表示部17等を備えている。
【0028】
受光部11はディスプレイ等の計測対象物100からの光を受光するものであり受光センサを備えている。データ処理部12は受光部11での受光データに増幅等の所定の処理を施す。候補検出部13は、データ処理部12で処理された受光データに基づいて、光量変動周波数の候補を検出するものであり、周波数決定部14は、検出された候補の中から光量変動周波数を決定する。
【0029】
分解能決定部15は、周波数決定部14で決定された光量変動周波数を基に周波数分解能を決定する。フリッカ計測部16は、分解能決定部15で決定された周波数分解能でフリッカを計測し、表示部17はフリッカ計測結果等を表示する。
【0030】
次に、フリッカ計測装置1の動作を説明する。
【0031】
ユーザーがフリッカ計測装置1を計測位置にセットして、表示部17に表示された計測開始ボタンの押下等により計測開始を指示すると、受光部11は計測対象物100からの測定光を受光する。受光された光はデータ処理部12で増幅等の所定のデータ処理を施された後、候補検出部13に入力される。
【0032】
候補検出部13は、計測対象物100の光量変動周波数の候補(以下、候補周波数ともいう)を検出し、検出された候補周波数の中から、周波数決定部14が光量変動周波数を決定する。
【0033】
候補周波数の検出及び光量変動周波数の決定処理の一例を図2のフローチャートに示す。この実施形態では、候補周波数の検出方法の一例として、予備測定により取得した光量変動の波形データに基づいて、候補周波数を検出する方法を用いている。閾値以上の周波数を候補周波数としても良い。
【0034】
図2のフローチャートにおいて、ステップS01で処理を開始すると、計測対象物100からの光を予備測定(プレ測定)により受光し、光量変動の波形データを取得する(ステップS02)。次に、候補周波数を抽出(検出)する(ステップS03)。具体的には、まず取得した波形データをスペクトル解析する(ステップS31)。予備測定時間を短縮するため、予備測定におけるスペクトル解析では周波数分解能は粗く設定しても良い。
【0035】
図3にスペクトル解析結果であるスペクトルデータの一例を示す。図3の例では周波数分解能を2Hzに設定した場合を例示している。また、図2の例では、スペクトルデータの14Hzと16Hz、30Hzと32Hz、46Hzと48Hz、60Hzと62Hzが、強度が隣接周波数よりも大きい周波数つまり特異点となっており、これらの特異点の近傍に強度がピークとなる実際の候補周波数が存在していると考えられる。
【0036】
図2のフローチャートに戻り、図3のスペクトルデータに示されるような特異点を抽出した後(ステップS32)、特異点となる周波数と隣接する周波数の強度を用いた補完処理により、周波数を詳細化する(ステップS33)。補完による周波数の詳細化については限定されないが、例えば重心検知などによって行えば良い。
【0037】
周波数の詳細化により実際に強度がピークとなる周波数を求め、求めた周波数を候補周波数としリスト化する。候補周波数には基本波とその高調波が含まれる。
【0038】
次に、リスト化した光量変動周波数の候補の中から、光量変動周波数を決定する(ステップS04)。具体的な決定方法の一例として、候補の中の最小周波数を光量変動周波数として決定し(ステップS41)、候補周波数の検出及び光量変動周波数の決定処理を終了する(ステップS05)。
【0039】
こうして決定した光量変動周波数を基に、分解能決定部15は周波数分解能を決定する。この実施形態では、決定された光量変動周波数の整数分の1を周波数分解能として決定する。つまり、式で示すと、
周波数分解能fres=光量変動周波数/n (ただしnは整数)・・・式1
となる。
【0040】
式1で得た周波数分解能fresを基に、サンプリング周波数とデータ数(サンプリングする回数)を調整する。例えば、データ数は1024点に固定とし、サンプリング周波数を調整する。周波数分解能fresは次式2によっても表される。
【0041】
周波数分解能fres=サンプリング周波数/データ数=1/測定時間 ・・・式2
式2より、周波数分解能を細かくしすぎると、測定時間が長くなることがわかる。このため、測定時間を短縮するために、フリッカ計測時の周波数分解能は1Hz以上とするのが好ましい。
【0042】
周波数分解能の決定後、決定された周波数分解能によりフリッカ計測部16によるフリッカ計測(本測定)が行われる。フリッカ計測は、受光部11により計測対象物100からの光を再度受光して行っても良いし、予備測定時に取得した受光データを利用して行っても良い。フリッカ計測結果は表示部17に表示される。
【0043】
このように、この実施形態では、計測対象物の光量変動周波数の候補(候補周波数)を検出するとともに、検出した候補周波数の中から光量変動周波数を決定し、決定した光量変動周波数の整数分の1を周波数分解能として決定する。従って、従来のように、予め用意された周波数分解能でフリッカ計測を行う場合に較べて、計測対象物の実際の光量変動周波数に基づいて適正な周波数分解能を決定することができ、適正な周波数分解能でフリッカ計測を行うことができるから、誤差がなく精度の高いフリッカ計測を行うことができる。しかも、光量変動周波数は実際の光量変動周波数であるから、周波数分解能を必要以上に細かく設定する必要は無く、このため精度の高いフリッカ計測を短時間で行うことができる。
【0044】
さらにこの実施形態では、フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、波形データをフーリエ変換処理することにより周波数スペクトルデータを取得し、周波数スペクトルデータにおいて、強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数を基に候補周波数を検出するから、計測対象物の実際の光量変動周波数に対応する候補周波数を検出でき、ひいては精度の高い光量変動周波数を決定することができる。
【0045】
さらには、周波数スペクトルデータにおいて強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数と隣接する周波数の強度を用いて補完することにより、候補周波数を検出するから、精度の高い候補周波数を決定することができ、また、候補周波数の中から最小の周波数の候補を光量変動周波数として決定するから、高調波に対しても誤差を最小化することができる。
【0046】
上記実施形態で決定した周波数分解能でフリッカ計測を行った場合と、従来のように予め用意された周波数分解能でフリッカ計測を行った場合とで、測定精度を比較した様子を図4に示す。
【0047】
図4の上段の図は従来例であり、予め用意された1Hzの周波数分解能で測定を行った場合の図である。中段の図は本実施形態で求めた周波数分解能で測定を行った場合の図である。本実施形態では、計測対象物の光量変動周波数15.36Hz(fres×n)、高調波成分であるその2倍、3倍、4倍の周波数が、それぞれ精度良く求められ、従って適正な周波数分解ので各強度が得られている。これに対し、上段の従来例では、15Hz(f’×n)と16Hz(f’×n+1)に2つのピーク値が測定されており、高調波成分の周波数領域においてもそれぞれ2つのピーク値が出現している。
【0048】
これら2つの図を合体させた様子を図4の下段に示す。下段の図において、黒丸は本実施形態の値、□は従来例の値である。この図から理解されるように、従来では誤差が生じているのに対し、本実施形態では誤差が抑制され計測精度が高いことがわかる。
【0049】
上記の実施形態では、複数の候補周波数の中から、最小の周波数の候補を光量変動周波数として決定する例を示したが、光量変動周波数の決定方法はこれに限定されることはない。特に、ディスプレイの設計者等のユーザーが確認のためにフリッカ計測を行うような場合には、ユーザーは光量変動周波数を認識していると思われる。
【0050】
このため図5に示すように、「周波数を選択して下さい」等のメッセージとともに検出した候補周波数のリストを表示部17に表示し、ユーザーに所望の候補を選択させても良い。図5の例では、4個の候補周波数が表示され、チェックが付されている15.36Hzの候補周波数が選択されたことを示している。いずれかの候補周波数が選択されると、選択された候補周波数が光量変動周波数として決定され、その整数分の1が周波数分解能として決定される。
【0051】
このように、ユーザーに候補を選択させるとともに、ユーザーが選択した候補周波数を光量変動周波数として決定することにより、ユーザーが着目している周波数のフリッカを高精度で検出することができる。
【0052】
なお、予備測定におけるスペクトル解析の結果得られた図3のスペクトルデータに示される特異点を候補周波数として表示し、ユーザーに選択させても良い。この場合は、選択された特異点に最も近い光量変動周波数が、周波数分解能の決定の基礎となる光量変動周波数として決定される。しかし、表示される候補リストは、補完による詳細化後の候補周波数のリストである方が、正確な候補周波数を表示できる点で望ましい。
【0053】
また、候補周波数のリスト表示ではなく、図6に示すように、「周波数を選択して下さい」等のメッセージとともに入力欄17aを表示し、光量変動周波数の設計値を直接ユーザーに入力させる構成であっても良い。この場合は、候補周波数の中から、入力された周波数に最も近い候補周波数が光量変動周波数として決定される。このように、ユーザーに光量変動周波数を入力させるとともに、入力した光量変動周波数に最も近い候補周波数を光量変動周波数として決定する場合も、ユーザーが着目している周波数付近のフリッカを高精度で検出することができる効果がある。
【0054】
また、上記の実施形態では、フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、取得した波形データをフーリエ変換処理することにより周波数スペクトルデータを取得し、周波数スペクトルデータにおいて、強度が隣接周波数よりも大きい特異点となる周波数を基に候補周波数を検出する例を説明したが、候補周波数の検出は他の方法であっても良い。
【0055】
例えば、フリッカ計測前の予備測定により光量変動の波形データを取得し、取得した波形データを解析することにより、変動周期(周波数)を直接求めても良い。その一例として、波形データに対する自己相関法を挙げることができる。この自己相関法は、光量変動の波形データとこの波形データから時間をずらしたデータとの相関係数を計算することにより、データの周期性を抽出し、候補周波数を検出する方法である。他の方法として、画像解析手法による波形データの特徴点を用いた周期抽出法などを用いても良い。
【0056】
波形データの解析による光量変動周波数の検出は、予備測定時間が短くなる効果があるが、演算負荷は大きくなる。
【0057】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることはない。例えば、候補検出部13は、光量変動の波形データをフーリエ変換処理することにより周波数スペクトルデータを取得する従来のフリッカ計測装置の機能を利用して構成されても良いし、候補検出用の専用回路を別途設けることにより構成されても良い。
【0058】
また、図7に示すように、フリッカ計測装置をパーソナルコンピュータ200により構成しても良い。この場合、パーソナルコンピュータ200は、従来のフリッカ計測装置300から計測対象物100の受光データを取得することにより、候補周波数の検出、光量変動周波数の決定、周波数分解能の決定等を行えば良い。
【0059】
また、フリッカ計測ステップは、周波数検出ステップ、周波数決定ステップ、分解能決定ステップと連続して行う必要はない。例えば、周波数検出ステップ、周波数決定ステップ、分解能決定ステップを先に行って周波数分解能のデータを取得しておき、その後、取得した周波数分解能を用いてフリッカ計測のみを実施しても良い。このような制御フローは、例えば、LCD等の計測対象物100において、ディスプレイの制御条件を変更しながらフリッカ計測を連続的に行うVcom調整等に好適に利用できる。
【0060】
また、決定された周波数分解能は、フリッカ計測装置またはフリッカ計測装置に接続された外部の記録装置(例えばパーソナルコンピュータ等)に記録保存されるようにしても良い。周波数分解能が記録保存されることで、再度フリッカ計測が必要となったときに、光量変動周波数の候補の検出、光量変動周波数の決定、周波数分解能の決定の各処理を省略でき、フリッカ計測に要する時間を短縮できる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、ディスプレイ等の計測対象物のフリッカを計測する際に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 フリッカ計測装置
11 受光部
13 候補検出部
14 周波数決定部
15 分解能決定部
16 フリッカ計測部
17 表示部
100 計測対象物
200 パーソナルコンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7