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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ポンプ、ヒートパイプ
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20240423BHJP
   H01L 23/427 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
F28D15/02 101L
F28D15/02 L
F28D15/02 E
H01L23/46 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022014333
(22)【出願日】2022-02-01
(65)【公開番号】P2023112505
(43)【公開日】2023-08-14
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】釘本 恒
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-206582(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0372711(US,A1)
【文献】特開2008-134043(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0151923(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0151703(US,A1)
【文献】特開平05-090777(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0286227(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0104012(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112566471(CN,A)
【文献】特開平07-318271(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0073062(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0211419(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00 - 15/06
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相領域と液相領域とを内部に有する筐体と、
前記気相領域と前記液相領域との少なくとも一部を仕切る疎液性の多孔質体と、
前記液相領域に臨み、前記気相領域から前記多孔質体を通ってきた蒸気を凝縮させる凝縮器と、を備え、
前記凝縮器には、蒸気から受熱する受熱部が設けられ、
前記筐体には、前記凝縮器の少なくとも一部が挿入されることで、前記受熱部の全体が前記液相領域に直接臨む貫通孔が形成されているポンプ。
【請求項2】
前記多孔質体は、水平方向に延びており、
前記凝縮器は、前記多孔質体の一方側に配置されている、
請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記筐体は、一方向に延びる円筒状とされ、
前記多孔質体は、前記筐体の内部に配置され、一方向に延びる円筒状とされ、
前記気相領域は、前記多孔質体の内部に設けられ、
前記液相領域は、前記多孔質体を挟んで前記気相領域の反対側に設けられ、
前記凝縮器は、円筒状とされ、前記液相領域を囲んでいる、
請求項1又は2に記載のポンプ。
【請求項4】
気相領域と液相領域とを内部に有する筐体と、
前記気相領域と前記液相領域との少なくとも一部を仕切る疎液性の多孔質体と、
前記液相領域に臨み、前記気相領域から前記多孔質体を通ってきた蒸気を凝縮させる凝縮器と、
前記凝縮器に対して前記多孔質体に沿った方向に離間し、前記液相領域に臨み、前記凝縮器からの液体を蒸発させる蒸発器と、を備え、
前記凝縮器には、蒸気から受熱する受熱部が設けられ、
前記蒸発器には、液体に放熱する放熱部が設けられ、
前記筐体には、前記凝縮器の少なくとも一部が挿入されることで、前記受熱部の全体が前記液相領域に直接臨む貫通孔と、前記蒸発器の少なくとも一部が挿入されることで、前記放熱部の全体が前記液相領域に直接臨む他の貫通孔とが形成されているヒートパイプ。
【請求項5】
前記多孔質体は、水平方向に延びている、
請求項4に記載のヒートパイプ。
【請求項6】
前記筐体は、一方向に延びる円筒状とされ、
前記多孔質体は、前記筐体の内部に配置され、一方向に延びる円筒状とされ、
前記気相領域は、前記多孔質体の内部に設けられ、
前記液相領域は、前記多孔質体を挟んで前記気相領域の反対側に設けられ、
前記凝縮器は、円筒状とされ、前記液相領域を囲んでおり、
前記蒸発器は、円筒状とされ、前記液相領域を囲んでいる、
請求項4又は5に記載のヒートパイプ。
【請求項7】
気相領域と液相領域との少なくとも一部を仕切る疎液性の多孔質体と、
前記液相領域に臨み、前記気相領域から前記多孔質体を通ってきた蒸気を凝縮させる凝縮器と、
前記凝縮器に対して前記多孔質体に沿った方向に離間し、前記液相領域に臨み、前記凝縮器からの液体を蒸発させる蒸発器と、を備え、
前記蒸発器には、前記液相領域に臨み、液体に放熱する放熱部が設けられ、
前記放熱部の全体が、前記液相領域を間において前記多孔質体と対向しており、
前記凝縮器には、前記液相領域に臨み、蒸気から受熱する受熱部が設けられ、
前記受熱部の全体が、前記液相領域を間において前記多孔質体と対向しており、
前記気相領域と前記液相領域との少なくとも一部を仕切る仕切部材において、前記放熱部及び前記受熱部と対向していない部分の前記仕切部材については、前記多孔質体が用いられていないポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ、及びヒートパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のヒートパイプは、外部から熱を受ける加熱端部と外部から冷却されることにより放熱を行う冷却端部とを備え,その中空内部が密閉可能なコンテナと、このコンテナ内に封入され、気化と凝縮とを行う作動液体と、コンテナの内部壁面に沿って設けられ,冷却端部から加熱端部へ作動液体を移動させるウィックと、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-28406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のヒートパイプでは、親液性の多孔質体であるウィックが、毛細管現象によって液体を凝縮器(冷却端部)から目的位置としての蒸発器(加熱端部)へ移動させる。このような構成では、液体は、親液性の多孔質体に形成された多数の孔の孔壁と接触しながら移動するため、流路の流体抵抗が大きくなり、目的位置への液体の移動量が少なくなってしまう。
【0005】
本開示の課題は、親液性の多孔質体を用いて液体を目的位置へ移動させる場合と比して、単位時間当たりに多くの量の液体を目的位置へ移動させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係るポンプは、気相領域と液相領域との少なくとも一部を仕切る疎液性の多孔質体と、前記液相領域に臨み、前記気相領域から前記多孔質体を通ってきた蒸気を凝縮させる凝縮器と、を備えたことを特徴とする。
上記構成によれば、凝縮器は、気相領域から多孔質体を通って液相領域へ向かう蒸気を凝縮させる。凝縮した液体は、多孔質体の液相領域側の部分の液体を液相領域に押し出す。液相領域の液体は、この押し出し力により、液相領域内で移動する。換言すれば、ポンプは、この押し出し力により、液相領域内で液体を移動させる。このため、親液性の多孔質体内で液体を移動させる場合と比して、流路の流体抵抗が小さくなり、単位時間当たりに多くの量の液体を目的位置へ移動させることができる。
【0007】
本開示の第2態様に係るポンプは、第1態様に記載のポンプにおいて、前記多孔質体は、水平方向に延びており、前記凝縮器は、前記多孔質体の一方側に配置されていることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、ポンプは、水平方向に延びている多孔質体に沿って多孔質体の一方側から他方側へ液体を移動させる。このため、多孔質体の他方側が一方側と比して高くなるように多孔質体が傾斜している場合と比して、単位時間当たりに多くの量の液体を目的位置へ移動させることができる。
【0009】
本開示の第3態様に係るヒートパイプは、気相領域と液相領域との少なくとも一部を仕切る疎液性の多孔質体と、前記液相領域に臨み、前記気相領域から前記多孔質体を通ってきた蒸気を凝縮させる凝縮器と、前記凝縮器に対して前記多孔質体に沿った方向に離間し、前記液相領域に臨み、前記凝縮器からの液体を蒸発させる蒸発器と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、凝縮器は、気相領域から多孔質体を通って液相領域へ向かう蒸気を凝縮させる。凝縮した液体は、多孔質体の液相領域側の部分の液体を液相領域に押し出す。この押し出し力により、液体は、液相領域内で蒸発器側へ移動する。
【0011】
さらに、蒸発器は、凝縮器からの液体を蒸発させる。蒸気は、圧力差により、多孔質体を通って気相領域へ移動する。気相領域に移動した蒸気は、圧力差により、気相領域内で凝縮器側へ移動する。凝縮器側へ移動した蒸気は、多孔質体を通って液相領域へ向い、前述した工程が繰り返される。
【0012】
これにより、親液性の多孔質体内で液体を移動させる場合と比して、単位時間当たりに蒸発器側へ移動する液体の量が多くなり、熱の移動量を多くすることができる。
【0013】
本開示の第4態様に係るヒートパイプは、第3態様に記載のヒートパイプにおいて、前記多孔質体は、水平方向に延びていることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、ヒートパイプは、水平方向に延びている多孔質体に沿って凝縮器側から蒸発器側へ液体を移動させる。このため、多孔質体の蒸発器側が凝縮器側と比して高くなるように多孔質体が傾斜している場合と比して、単位時間当たりに蒸発器側へ移動する液体の量が多くなり、熱の移動量を多くすることができる。
【0015】
本開示の第5態様に係るヒートパイプは、第3又は第4態様に記載のヒートパイプにおいて、前記蒸発器には、前記液相領域に臨み、液体に放熱する放熱部が設けられ、前記放熱部の全体が、前記液相領域を間において前記多孔質体と対向していることを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、放熱部の全体が、液相領域を間において多孔質体と対向している。このため、放熱部の一部だけが液相領域を間において多孔質体と対向している場合と比して、多孔質体を通って気相領域へ移動する蒸気の量が多くなり、熱の移動量を多くすることができる。
【0017】
本開示の第6態様に係るヒートパイプは、第3~第5態様に記載の何れか1態様のヒートパイプにおいて、前記凝縮器には、前記液相領域に臨み、蒸気から受熱する受熱部が設けられ、前記受熱部の全体が、前記液相領域を間において前記多孔質体と対向していることを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、受熱部の全体が、液相領域を間において多孔質体と対向している。このため、受熱部の一部だけが液相領域を間において多孔質体と対向している場合と比して、多孔質体を通って凝縮する液体の量が多くなり、蒸発器側へ移動する液体の量を多くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の第1実施形態に係るヒートパイプを示した各断面図である。
図2】本開示の第1実施形態に係るヒートパイプに用いられる多孔質体の疎液性を説明するための説明図である。
図3】(A)(B)本開示の第1実施形態に係るヒートパイプの作動液体の移動方向を示した模式図である。
図4】本開示の第1実施形態に係るヒートパイプの実施例を示した構成図である。
図5】本開示の第1実施形態に係るヒートパイプの実施例、及び比較例の評価結果をグラフで示した図面である。
図6】本開示の第1実施形態に係るヒートパイプの実施例に対する比較例を示した構成図である。
図7】本開示の第2実施形態に係るヒートパイプを示した各断面図である。
図8】本開示の第3実施形態に係るヒートパイプを示した各断面図である。
図9】本開示の第4実施形態に係るヒートパイプを示した各断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
本開示の第1実施形態に係るポンプ、及びヒートパイプの一例について、図1図6を用いて説明する。なお、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、図中に示す矢印Hはヒートパイプのパイプ上下方向(鉛直方向)を示し、矢印Wはヒートパイプのパイプ幅方向(水平方向)を示し、矢印Lはヒートパイプのパイプ長手方向(水平方向)を示す。
【0021】
(全体構成)
ヒートパイプ10は、図1に示されるように、内部が空洞とされると共にパイプ長手方向に延びる直方体状の筐体12と、筐体12の内部で蒸発と凝縮とを繰り返す作動液体と、気相領域50と液相領域52とを上下方向に仕切るシート状の多孔質体40とを備えている。具体的には、多孔質体40の上方が、液相領域52とされ、多孔質体40の下方が、気相領域50とされている。さらに、ヒートパイプ10は、作動液体を冷却する冷却部20と、作動液体を加熱する発熱部30とを備えている。
【0022】
〔筐体12、冷却部20、発熱部30〕
筐体12は、樹脂材料で形成されており、内部が真空状態とされている。
【0023】
冷却部20は、図1に示されるように、パイプ長手方向に延びる直方体状とされ、筐体12においてパイプ長手方向の一方側の部分に配置されている。具体的には、筐体12の天板14においてパイプ長手方向の一方側の部分には、筐体12の内部と外部とを貫通する貫通孔14aが形成されており、冷却部20の一部がこの貫通孔14aに嵌められている。冷却部20は、凝縮器の一例である。
【0024】
また、冷却部20に形成されて液相領域52に臨んでいる一面が作動液体から受熱する受熱面22とされている。さらに、受熱面22の全体が、液相領域52を間において多孔質体40と対向している。受熱面22は、受熱部の一例である。
【0025】
そして、冷却部20は、例えば、水冷ブロックやヒートシンクなどによって冷却されており、冷却部20の受熱面22と接触する作動液体を冷却するようになっている。
【0026】
発熱部30は、図1に示されるように、パイプ長手方向に延びる直方体状とされ、筐体12においてパイプ長手方向の他方側の部分に配置されている。具体的には、筐体12の天板14においてパイプ長手方向の他方側の部分には、筐体12の内部と外部とを貫通する貫通孔14bが形成されており、発熱部30の一部がこの貫通孔14bに嵌められている。発熱部は、蒸発器の一例である。
【0027】
また、発熱部30に形成されて液相領域52に臨んでいる一面が作動液体に放熱する放熱面32とされている。さらに、放熱面32の全体が、液相領域52を間において多孔質体40と対向している。放熱面32は、放熱部の一例である。
【0028】
そして、発熱部30は、例えば、Insulated Gate Bipolar Transistor(IGBT)やMetal-Oxide Semiconductor(MOS)などの半導体素子などによって加熱されることで発熱しており、発熱部30の放熱面32と接触する作動液体を加熱するようになっている。
【0029】
〔多孔質体40〕
多孔質体40は、疎液性の材料によって形成され、蒸気を透過させるが液体を透過させないシート状とされている。そして、多孔質体40は、図1に示されるように、筐体12の内部を上下方向に仕切るように配置されている。
【0030】
具体的には、多孔質体40の厚さ方向は、上下方向とされており、多孔質体40は、水平方向に延びている。さらに、多孔質体40は、発熱部30の放熱面32及び冷却部20の受熱面22が臨む液相領域52と、気相領域50とを仕切っている。そして、気相領域50が、液相領域52と比して広くされている。また、多孔質体40においてパイプ長手方向の一方側に冷却部20が配置されておりに多孔質体40においてパイプ長手方向の他方側に発熱部30が配置されている。
【0031】
ここで、本実施形態において「疎液性の材料」とは、作動液体との接触角αが90度以上の材料である。接触角とは、液体と固体がどのように「濡れるか、濡れないか」、つまり、濡れ性を評価するのに用いられる。具体的には、図2に示されるように、多孔質体40を構成する材料で形成された面Mに液滴Tを付着させ、それを横から観察し、この液滴Tの盛り上がりの角度、すなわち、固液界面(水平線)と液滴端での接線との二つの線がなす角が接触角αである。そして、接触角αが大きいほど疎液性が高いことを示す。なお、本実施形態では、疎液性の材料によって形成された多孔質体40を、疎水性の多孔質体40と称する。
【0032】
また、本実施形態において「多孔質体」とは、空隙率が20〔%〕以上95〔%〕以下の部材であり、好ましくは、空隙率が50〔%〕以上80〔%〕以下の部材である。
【0033】
なお、実施形態においては、多孔質体40として、厚さ0.5〔mm〕で、空隙率が75〔%〕のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のシート材が用いられ、作動液体として、水が用いられている。
【0034】
(作用)
次に、ヒートパイプ10の作用について説明する。
疎水性の多孔質体40は、蒸気を透過させるが液体を透過させない部材である。このため、液相領域52の作動液体は、図3(A)に示されるように、多孔質体40の空隙部40aに湾曲状に突出する。
【0035】
図1に示す冷却部20側の液相領域52では、冷却部20は、受熱面22と接触する作動液体を冷却し、気相領域50から多孔質体40を通って液相領域52へ向かう作動液体の蒸気(以下「作動液蒸気」と記載することがある)を凝縮させる。このようにして、冷却部20では、作動液蒸気が凝縮した時の凝縮潜熱によって冷却部20が加熱される。
【0036】
また、凝縮した作動液体は、図1図3(B)に示す矢印A方向に、多孔質体40の空隙部40aに湾曲状に突出していた作動液体を液相領域52に押し出す。作動液体は、この押し出し力により、図1図3(B)に示す矢印B方向に、液相領域52内で発熱部30側へ移動する。
【0037】
このように、ヒートパイプ10では、作動液体が、水平方向に延びている多孔質体40に沿って多孔質体40の一方側から他方側へ移動する。
【0038】
さらに、発熱部30は、冷却部20側から移動してきた作動液体を加熱して蒸発させる。このようにして、発熱部30では、作動液体が蒸発した時の蒸発潜熱によって発熱部30が冷却される。
【0039】
蒸発した作動液蒸気は、温度差から生じる圧力差により、図1に示す矢印C方向に、多孔質体40を通って気相領域50へ移動する。気相領域50に移動した作動液蒸気は、温度差から生じる圧力差により、図1に示す矢印D方向に、気相領域50内で冷却部20側へ移動する。冷却部20側へ移動した作動液蒸気は、多孔質体40を通って液相領域52へ向い、前述した工程が繰り返される。
【0040】
この工程が繰り返されることで、発熱部30では、作動液体が蒸発した時の蒸発潜熱によって発熱部30が継続的に冷却される。
【0041】
このように、気相領域50と液相領域52とを仕切る多孔質体40と、液相領域52に臨み、気相領域50から多孔質体40を通ってきた作動液蒸気を凝縮する冷却部20とで、液相領域52内で作動液体を移動させるポンプ18が構成されている。
【0042】
(評価)
次に、本実施形態に係る実施例のヒートパイプ10と比較例のヒートパイプ510との評価について説明する。
【0043】
〔評価仕様〕
-実施例-
実施例のヒートパイプ10の冷却部20として、図4に示されるように、銅プレート20a、及び冷却水が内部を流れる冷却路20bが用いられている。具体的には、銅プレート20a、及び冷却路20bをこの順番で下方から上方へ重ねており、銅プレート20aが液相領域52に臨んでいる。
【0044】
また、冷却部20によって作動液蒸気が凝縮した時の凝縮潜熱を測定するために、冷却部20には、冷却路20bにおいて銅プレート20aと重なる部分を挟むように、一対の熱電対20cが配置されている。さらに、冷却路20bの内部を流れる冷却水の流量を測定するために、冷却部20には、流量計20dが配置されている。
【0045】
また、発熱部30として、銅プレート30a、ラバーヒータ30b、及び断熱材30cが用いられている。具体的には、銅プレート30a、ラバーヒータ30b、及び断熱材30cをこの順番で下方から上方へ重ねており、銅プレート30aが液相領域52に臨んでいる。
【0046】
さらに、多孔質体40として、厚さ0.5〔mm〕で、空隙率が75〔%〕のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のシート材が用いられ、作動液体として、水が用いられている。
【0047】
-比較例-
比較例のヒートパイプ510の筐体12の内部には、作動液蒸気が真空密封されており、図6に示されるように、気相領域550が形成されている。また、筐体12の内壁に毛細管構造を有するウィック540が取り付けられている。さらに、ヒートパイプ510は、実施例と同様に、冷却部20と発熱部30とを備えている。
【0048】
具体的には、ウィック540は、シート状で、親液性の多孔質体であって、筐体12の天板14に筐体12の内部から取り付けられており、作動液体によって濡れている。そして、ウィック540においてパイプ長手方向の一方側の部分が、冷却部20の銅プレート20aと接触し、ウィック540においてパイプ長手方向の他方側の部分が、発熱部30の銅プレート30aと接触している。このウィック540として、厚さ0.6〔mm〕で、空隙率が44〔%〕の親液性ポリエチレン多孔質体焼結体が用いられている。
【0049】
以上、記載した以外の仕様については、実施例と比較例とで同様である。
【0050】
この構成において、比較例のヒートパイプ510では、発熱部30がウィック540内の作動液体を加熱して蒸発させる。蒸発した作動液蒸気は、ウィック540内から気相領域550に放出される。気相領域550に放出された作動液蒸気は、温度差から生じる圧力差により、気相領域550内で発熱部30側から冷却部20側へ移動する(図6に示す矢印F参照)。
【0051】
さらに、冷却部20が、冷却部20側へ移動してきた作動液蒸気を凝縮する。凝縮した作動液体は、ウィック540を濡らし、ウィック540内で、毛細管現象により、冷却部20側から発熱部30側へ移動する。そして、ヒートパイプ510では、前述した工程が繰り返される。
【0052】
〔評価項目〕
冷却液を冷却路20bに流すことで冷却部20によって作動液体が冷却される冷却熱量(除熱量)と、電力が供給されたラバーヒータ30bの出力により発熱部30によって作動液体が加熱される加熱量(放熱量)との関係を評価した。
【0053】
具体的には、一対の熱電対20c及び流量計20dによって冷却熱量を計測し、ラバーヒータ30bに供給される電力によって加熱量を計測した。なお、ラバーヒータ30bの限界出力は、30〔W〕である。つまり、ラバーヒータ30bに供給される最大電力は、30〔W〕である。
【0054】
〔評価結果〕
図5には、評価結果が記載されたグラフが示されている。図5のグラフの縦軸が、熱量〔W〕で、グラフの横軸が、経過時間〔S〕である。
【0055】
実線L1が、実施例に係るヒートパイプ10の発熱部30によって作動液体が加熱された加熱量であって、二点鎖線L2が、ヒートパイプ10の冷却部20によって作動液体が冷却された冷却熱量である。
【0056】
これに対して、実線L11が、比較例に係るヒートパイプ510の発熱部30によって作動液体が加熱された加熱量であって、二点鎖線L12が、ヒートパイプ510の冷却部20によって作動液体が冷却された冷却熱量である。
【0057】
実線L1に示されるように、実施例に係るヒートパイプ10においては、ラバーヒータ30bの限界出力で、加熱量が安定している。
【0058】
これに対して、実線L11に示されるように、比較例に係るヒートパイプ510においては、ラバーヒータ30bの出力が限界出力に到達せず、ピーク後直ちに低下している。これは、発熱部30側への作動液体の移動が不十分でドライアウトしたためと考えられる。具体的には、発熱部30側への作動液体の移動が不十分であるため、発熱部30によって加熱される作動液体が不十分であったと考えられる。
【0059】
この結果より、実施例に係るヒートパイプ10は、比較例に係るヒートパイプ510と比して、単位時間当たりに多くの量の作動液体を冷却部20側から発熱部30側へ移動させている。換言すれば、ヒートパイプ10のポンプ18は、比較例に係るヒートパイプ510と比して、単位時間当たりに多くの量の作動液体を冷却部20側から発熱部30側へ移動させている。
【0060】
また、実施例に係るヒートパイプ10では、比較例に係るヒートパイプ510と比して、加熱量(放熱量)が多くなっている。換言すれば、実施例に係るヒートパイプ10では、比較例に係るヒートパイプ510と比して、発熱部30を効果的に除熱している。
【0061】
〔考察〕
親液性の多孔質体であるウィック540を用いて作動液体を移動(輸送)させる比較例に係るヒートパイプ510は、冷却部20側から発熱部30側へウィック540内で作動液体を移動させる。このため、流路の流体抵抗が大きく、冷却部20側から発熱部30側への移動距離が長くなると移動速度が急激に遅くなる。つまり、単位時間当たりに冷却部20側から発熱部30側へ移動する作動液体の量が少なくなる。
【0062】
これに対して、実施例に係るヒートパイプ10は、冷却部20側から発熱部30側へ液相領域52内で作動液体を移動させる。このため、流路の流体抵抗が小さく、冷却部20側から発熱部30側への移動距離が長くても移動速度が急激に遅くなることはない。つまり、単位時間当たりに冷却部20側から発熱部30側へ移動する作動液体の量が、ヒートパイプ510と比して多くなる。
【0063】
(まとめ)
以上説明したように、ヒートパイプ10に備えられたポンプ18においては、冷却部20が、気相領域50から多孔質体40を通って液相領域52へ向かう作動液蒸気を凝縮させる。凝縮した作動液体は、多孔質体40の液相領域側の部分の作動液体を液相領域52に押し出す。そして、作動液体は、この押し出し力により、液相領域52内で移動する。このため、比較例に係るヒートパイプ510と比して、単位時間当たりに多くの量の作動液体を冷却部20側から発熱部30側へ移動させることができる。
【0064】
また、ポンプ18においては、多孔質体40は、水平方向に延びている。このため、多孔質体の発熱部30側が冷却部20側と比して高くなるように多孔質体が傾斜している場合と比して、単位時間当たりに多くの量の作動液体を冷却部20側から発熱部30側へ移動させることができる。
【0065】
また、ヒートパイプ10においては、ポンプ18を備えていることで、比較例に係るヒートパイプ510と比して、熱の移動量を多くすることができる。
【0066】
また、ヒートパイプ10においては、多孔質体40は、水平方向に延びている。このため、多孔質体40の発熱部30側が冷却部20側と比して高くなるように多孔質体が傾斜している場合と比して、単位時間当たりに多くの量の作動液体を発熱部30側へ移動させることで、熱の移動量を多くすることができる。
【0067】
また、ヒートパイプ10においては、発熱部30に形成されて放熱面32の全体が、液相領域52を間において多孔質体40と対向している。このため、放熱面の一部だけが液相領域を間において多孔質体と対向している場合と比して、多孔質体40を通過する作動液蒸気の量が多くなることで、熱の移動量を多くすることができる。
【0068】
また、ヒートパイプ10においては、冷却部20に形成されて受熱面22の全体が、液相領域52を間において多孔質体40と対向している。このため、受熱面の一部だけが液相領域を間において多孔質体と対向している場合と比して、多孔質体40を通過する作動液蒸気の量が多くなることで、作動液体から効果的に受熱することができる。
【0069】
<第2実施形態>
次に、本開示の第2実施形態に係るポンプ、及びヒートパイプの一例について、図7を用いて説明する。なお、第2実施形態については、第1実施形態に対して異なる部分を主に説明する。
【0070】
(全体構成)
第2実施形態に係るヒートパイプ110は、図7に示されるように、内部が空洞とされると共にパイプ長手方向に延びる円筒状の筐体112と、冷却部120と、発熱部130とを備えている。さらに、ヒートパイプ110は、筐体112の内部で気化と凝縮とを繰り返す作動液体と、気相領域150と液相領域152とを仕切るシート状の多孔質体140とを備えている。
【0071】
そして、多孔質体140と、冷却部120とで、液相領域152で作動液体を移動させるポンプ118が構成されている。
【0072】
〔冷却部120、発熱部130〕
冷却部120は、図7に示されるように、パイプ長手方向に延びる直方体状とされ、筐体112においてパイプ長手方向の一方側の部分に配置されている。具体的には、筐体112の円弧状の壁板114においてパイプ長手方向の一方側の部分には、筐体112の内部と外部とを貫通する貫通孔114aが形成されており、冷却部120の一部がこの貫通孔114bに嵌められている。冷却部120は、凝縮器の一例である。
【0073】
また、冷却部120に形成されて液相領域152に臨んでいる一面が作動液体から受熱する受熱面122とされている。さらに、受熱面122の全体が、液相領域152を間において多孔質体140と対向している。受熱面122は、受熱部の一例である。
【0074】
発熱部130は、図7に示されるように、パイプ長手方向に延びる直方体状とされ、筐体112においてパイプ長手方向の他方側の部分に配置されている。具体的には、筐体112の円弧状の壁板114においてパイプ長手方向の他方側の部分には、筐体112の内部と外部とを貫通する貫通孔114bが形成されており、冷却部120の一部がこの貫通孔114bに嵌められている。発熱部は、蒸発器の一例である。
【0075】
また、発熱部130に形成されて液相領域152に臨んでいる一面が作動液体に放熱する放熱面132とされている。さらに、放熱面132の全体が、液相領域152を間において多孔質体140と対向している。放熱面132は、放熱部の一例である。
【0076】
〔多孔質体140〕
多孔質体140は、図7に示されるように、シート状とされ、筐体112の内部を気相領域150と液相領域152とに仕切るように配置されている。
【0077】
具体的には、多孔質体140は、筐体112の内周面に沿ってパイプ長手方向に延びる円弧状の円弧部140aと、円弧部140aの両端から筐体112の内周面へ向かって延びて筐体112の内周面に突き当たる突当部140bとを備えている。
【0078】
<第3実施形態>
次に、本開示の第3実施形態に係るポンプ、及びヒートパイプの一例について、図8を用いて説明する。なお、第3実施形態については、第2実施形態に対して異なる部分を主に説明する。
【0079】
(全体構成)
第3実施形態に係るヒートパイプ210は、図8に示されるように、円筒状の筐体112と、冷却部120と、発熱部130とを備えている。さらに、ヒートパイプ210は、筐体112の内部で気化と凝縮とを繰り返す作動液体と、気相領域250と液相領域252とを仕切るシート状の多孔質体240とを備えている。
【0080】
そして、多孔質体240と、冷却部120とで、液相領域252内で作動液体を移動させるポンプ218が構成されている。
【0081】
〔多孔質体240〕
多孔質体240は、図8に示されるように、円筒状とされ、筐体112の内部を気相領域250と液相領域252とに仕切るように配置されている。
【0082】
具体的には、多孔質体240は、筐体112の内周面に沿ってパイプ長手方向に延びる円筒状とされている。そして、多孔質体240の内側が、気相領域250とされ、多孔質体240の外側が、液相領域252とされている。
【0083】
<第4実施形態>
次に、本開示の第4実施形態に係るポンプ、及びヒートパイプの一例について、図9を用いて説明する。なお、第4実施形態については、第3実施形態に対して異なる部分を主に説明する。
【0084】
(全体構成)
第4実施形態に係るヒートパイプ310は、図9に示されるように、円筒状の筐体312と、冷却部320と、発熱部330とを備えている。さらに、筐体312の内部には、気化と凝縮とを繰り返す作動液体と、気相領域250と液相領域252とを仕切るシート状の多孔質体240とを備えている。
【0085】
そして、多孔質体240と、冷却部320とで、液相領域252内で作動液体を移動させるポンプ318が構成されている。
【0086】
〔冷却部320、発熱部330〕
冷却部320は、図9に示されるように、パイプ長手方向に延びる円筒状とされ、筐体312においてパイプ長手方向の一方側の部分に配置されている。具体的には、筐体312は、パイプ長手方向において中央側の部分の中央部312aと、パイプ長手方向において一方側の部分の一方部312bと、パイプ長手方向において他方側の部分の他方部312cとを備えている。そして、円筒状の冷却部320は、中央部312aと一方部312bとに挟まれている。さらに、冷却部320の内周面と、筐体312の内周面とは、同一面状に配置されている。冷却部320は、凝縮器の一例である。
【0087】
また、冷却部320に形成されて液相領域252に臨んでいる一面が作動液体から受熱する受熱面322とされている。さらに、受熱面322の全体が、液相領域252を間において多孔質体240と対向している。受熱面322は、受熱部の一例である。
【0088】
発熱部330は、図9に示されるように、パイプ長手方向に延びる円筒状とされ、筐体312においてパイプ長手方向の他方側の部分に配置されている。具体的には、円筒状の発熱部330は、中央部312aと他方部312cとに挟まれている。さらに、発熱部330の内周面と、筐体312の内周面とは、同一面状に配置されている。発熱部330は、蒸発器の一例である。
【0089】
また、発熱部330に形成されて液相領域252に臨んでいる一面が作動液体に放熱する放熱面332とされている。さらに、放熱面332の全体が、液相領域252を間において多孔質体240と対向している。放熱面332は、放熱部の一例である。
【0090】
このように、冷却部320が液相領域252においてパイプ長手方向の一方側の部分を囲み、発熱部330が液相領域252においてパイプ長手方向の他方側の部分を囲み、液相領域252が気相領域250を囲んでいる。多孔質体240においてパイプ長手方向の一方側の全周部分で、作動液蒸気が凝縮され、多孔質体240においてパイプ長手方向の他方側の全周部分で、作動液体が蒸発する。これにより、ヒートパイプ310では、熱の移動量を多くすることができる。
【0091】
なお、本開示を特定の実施形態について詳細に説明したが、本開示は係る実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲内にて他の種々の実施形態をとることが可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、作動液体として水を用いたが、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール等を用いてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、受熱面22、122、322の全体が、液相領域52、152、252を間において多孔質体40、140、240と対向していたが、受熱面の一部が、多孔質体と対向していてもよい。この場合には、受熱面の全体が、多孔質体と対向していることで奏する作用は奏しない。
【0093】
また、上記実施形態では、放熱面32、132、332の全体が、液相領域52、152、252を間において多孔質体40、140、240と対向していたが、放熱面の一部が、多孔質体と対向していてもよい。この場合には、放熱面の全体が、多孔質体と対向していることで奏する作用は奏しない。
【0094】
また、上記実施形態では、特に説明しなかったが、受熱面22、122、322の全体が、液相領域52、152、252を間において多孔質体40、140、240と対向し、かつ、放熱面32、132、332の全体が、液相領域52、152、252を間において多孔質体40、140、240と対向していればよく、受熱面及び放熱面と対向していない部分については、液相領域と気相領域とを仕切る仕切り部材が設けられていればよい。これにより、多孔質体の使用量を少なくすることができる。
【0095】
また、上記第2、3、4実施形態では、特に説明しなかったが、筐体112、312が、例えば、楕円状であってもよい。さらに、上記実施形態では、樹脂材料を用いて筐体12、112、312を形成したが、例えば、金属材料(ステンレスやアルミ合金、チタン合金)等を用いて筐体を形成してもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、特に説明しなかったが、作動液体として水を用いているため、疎液性は疎水性と読み替え、親液性は親水性と読み替えることができる。
【符号の説明】
【0097】
10 ヒートパイプ
18 ポンプ
20 冷却部(凝縮部の一例)
22 受熱面(受熱部の一例)
30 発熱部(蒸発器の一例)
32 放熱面(放熱部の一例)
40 多孔質体
50 気相領域
52 液相領域
110 ヒートパイプ
118 ポンプ
120 冷却部(凝縮部の一例)
122 受熱面(受熱部の一例)
130 発熱部(蒸発器の一例)
132 放熱面(放熱部の一例)
140 多孔質体
150 気相領域
152 液相領域
210 ヒートパイプ
218 ポンプ
240 多孔質体
250 気相領域
252 液相領域
310 ヒートパイプ
318 ポンプ
320 冷却部(凝縮部の一例)
322 受熱面(受熱部の一例)
330 発熱部(蒸発器の一例)
332 放熱面(放熱部の一例)
510 ヒートパイプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9