(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】触覚提示装置
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20240423BHJP
G01C 21/26 20060101ALI20240423BHJP
G08G 1/005 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G06F3/01 560
G01C21/26 P
G08G1/005
(21)【出願番号】P 2022039912
(22)【出願日】2022-03-15
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 智祐
(72)【発明者】
【氏名】吉村 貴克
(72)【発明者】
【氏名】堺 浩之
【審査官】井上 香緒梨
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0220005(US,A1)
【文献】特開2018-008250(JP,A)
【文献】特開2010-205156(JP,A)
【文献】特開2017-150866(JP,A)
【文献】特開2018-044901(JP,A)
【文献】国際公開第2021/053835(WO,A1)
【文献】四方紘太郎,外5名,皮膚のせん断変形による前腕の回転反射制御,第19回日本バーチャルリアリティ学会大会論文集,2014年09月,p.84-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F3/01
G06F3/048-3/04895
G01C21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ローラと、
前記第1ローラの回転軸と平行な回転軸を備える第2ローラと、
前記第1ローラと前記第2ローラとを接続しており、前記第1ローラと前記第2ローラとの距離を調整可能な接続部と、
前記第1ローラおよび前記第2ローラの回転を制御可能な制御部と、
を備える触覚提示装置であって、
前記第1ローラと前記第2ローラとによって、ユーザの身体の一部を挟み込むように前記触覚提示装置を装着することが可能に構成されて
おり、
前記触覚提示装置は、前記触覚提示装置が向いている現在方位を検出可能な方位センサをさらに備えており、
前記制御部は、検出された前記現在方位と予め定められた所定方位との差分に基づいて、前記第1ローラおよび前記第2ローラを回転させる制御を行う、
触覚提示装置。
【請求項2】
前記制御部は、
重力方向を軸とする回転方向である所定回転方向であって、前記現在方位と前記所定方位との差分が縮まる方向の前記所定回転方向を算出し、
前記所定回転方向に対応した方向に、前記第1ローラおよび第2ローラを互いに同一回転方向に回転させる制御を行う、請求項
1に記載の触覚提示装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記現在方位と前記所定方位との差分が予め定められたしきい値よりも小さくなることに応じて、前記第1ローラおよび第2ローラを互いに反対回転方向に回転させる制御を行う、請求項
1または2に記載の触覚提示装置。
【請求項4】
前記制御部はトルク制御を可能に構成されており、
前記制御部は、前記現在方位と前記所定方位との差分が大きくなるほど、前記第1ローラおよび前記第2ローラの回転トルクを大きくする制御を行う、請求項
1または2に記載の触覚提示装置。
【請求項5】
第1ローラと、
前記第1ローラの回転軸と平行な回転軸を備える第2ローラと、
第3ローラと、
前記第3ローラの回転軸と平行な回転軸を備える第4ローラと、
前記第1ローラと前記第2ローラとを接続しており、前記第1ローラと前記第2ローラとの距離を調整可能
とされているとともに、前記第3ローラと前記第4ローラとを接続しており、前記第3ローラと前記第4ローラとの距離を調整可能とされている接続部と、
前記第1ローラおよび前記第2ローラの回転を制御可能
に構成されているとともに、前記第3ローラおよび前記第4ローラの回転を制御可能に構成されている制御部と、
を備える触覚提示装置であって、
前記第1ローラと前記第2ローラとによって、ユーザの身体の一部を挟み込むように前記触覚提示装置を装着することが可能に構成されて
おり、
前記第3ローラと前記第4ローラとによって、ユーザの身体の一部を挟み込むように前記触覚提示装置を装着することが可能に構成されており、
前記第1ローラおよび前記第2ローラの回転軸の方向と、前記第3ローラおよび前記第4ローラの回転軸の方向とが、略直交しており、
前記触覚提示装置は、前記触覚提示装置の姿勢を検出可能な姿勢センサをさらに備えており、
前記制御部は、前記姿勢センサで検知された前記触覚提示装置の姿勢に応じて、前記第1ローラおよび前記第2ローラを回転させる制御と、前記第3ローラおよび前記第4ローラを回転させる制御と、を切り替える、触覚提示装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1ローラおよび前記第2ローラの回転軸と、前記第3ローラおよび前記第4ローラの回転軸とのうち、重力方向との角度差が小さい方の回転軸を回転させる制御を行う、請求項
5に記載の触覚提示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、ユーザに感覚刺激を提供するための触覚提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、モータの回転軸にフィルムを巻きつけ、フィルムの動作を制御する構成が記載されている。ユーザがフィルムに触れている部位に刺激を与えることで、ハンガー反射と呼ばれる不随意運動をユーザに誘発することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Nakamura, T., Yem, V., & Kajimoto, H. (2017). Hapbelt: haptic display for presenting vibrotactile and force sense using belt-winding mechanism. In SIGGRAPH Asia 2017 Emerging Technologies (pp. 1-2).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1のフィルムでは、張力しか付与することができないため、不随意運動の誘発量が小さく、誘発可能な不随意運動の種類が少ない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する触覚提示装置は、第1ローラを備える。第1ローラの回転軸と平行な回転軸を備える第2ローラを備える。第1ローラと第2ローラとを接続しており、第1ローラと第2ローラとの距離を調整可能な接続部を備える。第1ローラおよび第2ローラの回転を制御可能な制御部を備える。第1ローラと第2ローラとによって、ユーザの身体の一部を挟み込むように触覚提示装置を装着することが可能に構成されている。
【0006】
ユーザの身体の一部(例:手首、指、腰、頭部)を挟んで対向する位置に、第1ローラおよび第2ローラを配置している。第1ローラおよび第2ローラの相対的な回転方向や回転速度を変化させることにより、フィルムに比して、様々な種類の刺激(例:せん断刺激、引っ張り刺激、振動刺激、など)を与えることができる。ユーザへの不随意運動の誘発量を大きくすることや、様々な種類の不随意運動を誘発することが可能となる。
【0007】
触覚提示装置が向いている現在方位を検出可能な方位センサをさらに備えていてもよい。制御部は、検出された現在方位と予め定められた所定方位との差分に基づいて、第1ローラおよび第2ローラを回転させる制御を行ってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
制御部は、重力方向を軸とする回転方向である所定回転方向であって、現在方位と所定方位との差分が縮まる方向の所定回転方向を算出してもよい。制御部は、所定回転方向に対応した方向に、第1ローラおよび第2ローラを互いに同一回転方向に回転させる制御を行ってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
制御部は、現在方位と所定方位との差分が予め定められたしきい値よりも小さくなることに応じて、第1ローラおよび第2ローラを互いに反対回転方向に回転させる制御を行ってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
制御部はトルク制御を可能に構成されていてもよい。制御部は、現在方位と所定方位との差分が大きくなるほど、第1ローラおよび第2ローラの回転トルクを大きくする制御を行ってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0011】
第3ローラをさらに備えていてもよい。第3ローラの回転軸と平行な回転軸を備える第4ローラをさらに備えていてもよい。接続部は第3ローラと第4ローラとを接続しているとともに、第3ローラと第4ローラとの距離を調整可能とされていてもよい。制御部は、第3ローラおよび第4ローラの回転を制御可能に構成されていてもよい。第3ローラと第4ローラとによって、ユーザの身体の一部を挟み込むように触覚提示装置を装着することが可能に構成されていてもよい。第1ローラおよび第2ローラの回転軸の方向と、第3ローラおよび第4ローラの回転軸の方向とが、略直交していてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0012】
触覚提示装置の姿勢を検出可能な姿勢センサをさらに備えていてもよい。制御部は、姿勢センサで検知された触覚提示装置の姿勢に応じて、第1ローラおよび第2ローラを回転させる制御と、第3ローラおよび第4ローラを回転させる制御と、を切り替えてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0013】
制御部は、第1ローラおよび第2ローラの回転軸と、第3ローラおよび第4ローラの回転軸とのうち、重力方向との角度差が小さい方の回転軸を回転させる制御を行ってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】
図1のIII-III線における断面図である。
【
図4】触覚提示装置1の概略構成を示すブロック図である。
【
図5】左手を重力方向GDに降ろしている場合のユーザの左側面図である。
【
図7】左手で携帯端末等を操作している場合のユーザの左側面図である。
【
図8】左手で携帯端末等を操作している場合のユーザを上方からみた上面図である。
【
図9】不随意運動を誘発する場合のユーザを上方からみた上面図である。
【
図10】ナビゲーションに触覚提示装置1を適用する場合の処理を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(触覚提示装置1の構成)
図1および
図2に、触覚提示装置1の上面図および側面図を示す。
図3に、
図1のIII-III線における断面図を示す。触覚提示装置1は、腕輪のように手首に装着する装置である。
図1~
図3では、ユーザの身体を点線で記載している。肘から手へ向かう方向を+x方向としている。手の甲に対して垂直上方を+z方向としている。手の甲の小指から親指へ向かう方向を+y方向としている。
【0016】
触覚提示装置1は、制御部10、第1ローラ31~第4ローラ34、接続部40、を備えている。第1ローラ31および第3ローラ33は、左手首90wの右側面側(+y方向側)に配置されている。第2ローラ32および第4ローラ34は、左手首90wの左側面側(-y方向側)に配置されている。第1ローラ31の回転軸31aおよび第2ローラ32の回転軸32aは、x方向と平行である。第3ローラ33の回転軸33aおよび第4ローラ34の回転軸34aは、z方向と平行である。すなわち、回転軸31aおよび32aの方向と、回転軸33aおよび34aの方向とは、略直交している。第1ローラ31~第4ローラ34の回転軸に垂直な断面形状は、円形である。第1ローラ31~第4ローラ34の材質は特に限定されず、プラスチックやゴムであってもよい。
【0017】
接続部40は、第1ローラ31と第2ローラ32とを接続するとともに、第3ローラ33と第4ローラ34とを接続する部位である。第1ローラ31と第2ローラ32とによって、ユーザの左手首90wを挟み込むように触覚提示装置1を装着することができる。第3ローラ33と第4ローラ34とによって、ユーザの左手首90wを挟み込むように触覚提示装置1を装着することができる。また接続部40は、第1ローラと第2ローラとの距離を調整可能であるとともに、第3ローラと第4ローラとの距離を調整可能な部位である。対向するローラ間の距離を小さくするほど、挟み込み力を高くすることができる。
【0018】
接続部40は、様々な形態であってよい。例えば、変形しにくい素材で形成された腕輪型でもよいし、変形しやすい素材で形成されたバンド型であってもよい。また、第1ローラ31~第4ローラ34を接続部40に回転可能に固定する機構は、特に限定されない。
【0019】
接続部40の上面には、制御部10が配置されている。制御部10は、第1ローラ31~第4ローラ34の回転を制御可能な部位である。制御部10の具体的な内容は後述する。
【0020】
(触覚提示装置1のブロック図)
図4に、第1実施例の触覚提示装置1の概略構成を示すブロック図を示す。制御部10は、CPU11、メモリ12、無線通信IF15、方位センサ16、姿勢センサ17、GPSセンサ18、モータドライバ19、を備える。メモリ12には、モータ制御プログラム13およびナビゲーションプログラム14が記憶されている。モータ制御プログラム13がCPU11で実行されることにより、第1モータ31m~第4モータ34mの各々を制御することができる。またナビゲーションプログラム14がCPU11で実行されることにより、地図情報の取得、目的地までの経路生成、目的地までのユーザ誘導、などの各種のアルゴリズムを実行することができる。
【0021】
無線通信IF15は、不図示の外部サーバとインターネットを介してアクセス可能である。これにより、自己位置を含んだ地図情報など、各種の情報を取得できる。方位センサ16は、触覚提示装置1の基準面(例:制御部10の上面)が向いている方位を検出可能なセンサである。方位センサ16は、地磁気を検出するセンサであってもよい。姿勢センサ17は、ジャイロセンサや加速度センサ等を備えたセンサである。姿勢センサ17は、触覚提示装置1の基準面の水平面からの傾きを検出する。これにより、触覚提示装置1の姿勢(例:傾斜、角度、勾配)を検出することができる。GPSセンサ18は、GPS衛星からの信号を受信して地理情報を計測するセンサである。
【0022】
モータドライバ19は、CPU11からの指示を受けて、第1モータ31m~第4モータ34mの各々を駆動および制御するための部位である。第1モータ31m~第4モータ34mの各々には、第1ローラ31~第4ローラ34の各々が接続されている。第1モータ31m~第4モータ34mの制御には、トルク制御を用いている。モータの特性曲線に基づいて電流を流すことにより、電流がトルクに比例するため、回転トルクの制御を行うことができる。
【0023】
(不随意運動の概要)
身体の円柱形状を有する部位(例:手首、指、足首、頭部、腰、など)に、円柱をねじるような刺激(せん断刺激)を与えると、そのせん断刺激の方向に身体の部位を旋回させたくなる不随意運動を誘発できることが知られている。この不随意運動は、ハンガー反射とも呼ばれている。
【0024】
ユーザの向いている方位(例:北、南東など)は、重力方向を軸とした回転方向によって決定される。よって上方からみたときに、重力方向軸まわりの右回転(時計回り)のせん断刺激をユーザに与えることで、右回転の不随意運動をユーザに誘発することができる。同様に、重力方向軸まわりの左回転(反時計回り)のせん断刺激をユーザに与えることで、左回転の不随意運動をユーザに誘発することができる。
【0025】
手首や指の長手方向軸の向きは、足首や腰などの他の部位に比して、ユーザの動作により変化する。例えば、手を真下に降ろしている場合には、手首や指の長手方向軸は、重力方向軸と略平行である。しかし、手で携帯端末等を操作している場合には、手首や指の長手方向軸は、重力方向軸と略垂直になる。従って、手首や指にせん断刺激を与える場合には、手の姿勢に合わせて適切な回転軸を選択する必要がある。以下に具体的に説明する。
【0026】
図5に示すように、左手を重力方向GDに向けて降ろしている場合について説明する。重力方向軸GAまわりの右回転の不随意運動を、ユーザに誘発する場合を説明する。
図5は、ユーザの左側面図である。
図6は、
図5のVI-VI線における断面図である。なお
図5および
図6では、分かりやすさのために、第1ローラ31~第4ローラ34のみを示している。
【0027】
制御部10は、姿勢センサ17を用いて、触覚提示装置1の姿勢データを取得する。そして、回転軸31aおよび回転軸32aと、回転軸33aおよび回転軸34aとのうち、どちらの方が重力方向GDとの角度差が小さいかを判断する。
図5の例では、回転軸31aおよび回転軸32aの方が角度差が小さい。よって
図6に示すように、第1ローラ31および第2ローラ32を、重力方向軸GAまわりに右回転RR1(時計回り)させる。これにより、重力方向軸GAまわりに右回転方向にねじるようなせん断刺激RS1を、ユーザに与えることができる。左手首90wが右回転することに従って、体幹90bに右回転するような不随意運動IM1をユーザに誘発することができる。
【0028】
なお、第1ローラ31および第2ローラ32を、重力方向軸GAまわりに左回転(反時計回り)させれば、重力方向軸GAまわりに左回転方向にねじるようなせん断刺激を与えることができる。体幹90bに左回転するような不随意運動をユーザに誘発することができる。
【0029】
図5を用いて、重力方向GDの下方側に引っ張られるような不随意運動をユーザに誘発する場合を説明する。この場合、第3ローラ33および第4ローラ34を互いに反対回転方向に回転させる。具体的には、ユーザの左側方からみて、第3ローラ33を右回転RR3させるとともに、第4ローラ34を左回転LR3させる。これにより、左手首90wの両側を重力方向GDの下方側に引き下げるような、引っ張り刺激PS1を与えることができる。従って、その場に停止するような不随意運動をユーザに誘発させることができる。
【0030】
次に、
図7のユーザの左側面図に示すように、左手で携帯端末等を操作している場合について説明する。重力方向軸GAまわりの右回転の不随意運動を、ユーザに誘発する場合を説明する。
図8は、ユーザを上方からみた上面図である。
【0031】
制御部10は、姿勢センサ17を用いて、触覚提示装置1の姿勢データを取得する。そして、回転軸33aおよび回転軸34aの方が、回転軸31aおよび回転軸32aよりも、重力方向GDとの角度差が小さいと判断する。よって
図8に示すように、第3ローラ33および第4ローラ34を、重力方向軸GAまわりに右回転RR2(時計回り)させる。これにより、重力方向軸GAまわりに右回転方向にねじるようなせん断刺激RS2を、ユーザに与えることができる。体幹90bに右回転するような不随意運動IM2をユーザに誘発することができる。
【0032】
なお、第3ローラ33および第4ローラ34を、重力方向軸GAまわりに左回転(反時計回り)させれば、重力方向軸GAまわりに左回転方向にねじるようなせん断刺激を与えることができる。体幹90bに左回転するような不随意運動を誘発することができる。
【0033】
図9のユーザを上方からみた上面図を用いて、ユーザの正面方向の前方に引っ張られるような不随意運動をユーザに誘発する場合を説明する。この場合、第3ローラ33および第4ローラ34を互いに反対回転方向に回転させる。具体的には、ユーザの上方からみて、第3ローラ33を左回転LR4させるとともに、第4ローラ34を右回転RR4させる。これにより、左手首90wの両側をユーザの正面方向の前方に引っ張るような、引っ張り刺激PS2を与えることができる。従って、前進するような不随意運動をユーザに誘発させることができる。
【0034】
(触覚提示装置1を用いたナビゲーション)
図10のフローを用いて、目的地までの経路案内を行うナビゲーションに触覚提示装置1を適用する場合の例を説明する。ステップS10において制御部10は、目的地の入力を受け付ける。
また、GPSセンサ18を用いて現在位置を取得する。そして目的地までのルートを生成する。
【0035】
ステップS30において制御部10は、所定方位を算出する。所定方位は、ルートをトレースするために、現在位置から進むべき正しい方位である。所定方位は、ユーザが移動することに応じて、絶えず変化する場合がある。また制御部10は、方位センサ16で得られた方位と、姿勢センサ17で得られた触覚提示装置1の姿勢に基づいて、ユーザの正面が現在向いている方位であるユーザ現在方位を算出する。
【0036】
ステップS50において制御部10は、所定方位とユーザ現在方位との差分が予め定められたしきい値よりも小さいか否かを判断する。肯定判断される場合(S50:YES)にはユーザの向きが正しいと判断され、ステップS30へ戻り、処理が続行される。否定判断される場合(S50:NO)には、ステップS60へ進む。
【0037】
ステップS60において制御部10は、ユーザ現在方位に対して所定方位が左右の何れに位置するか判断する。右側に位置すると判断される場合には、右回転の不随意運動を誘発する場合であると判断され、ステップS70へ進む。ステップS70において制御部10は、回転軸31aおよび32aと、回転軸33aおよび34aとのうち、どちらの方が重力方向GDとの角度差が小さいかを判断する。
【0038】
回転軸31aおよび32aの方が重力方向GDとの角度差が小さいと判断される場合は、手が重力方向GDに向けて降ろされている場合である(
図5参照)。よってステップS80へ進み、第1ローラ31および第2ローラ32を右回転RR1(時計回り)させる(
図6参照)。これにより、ユーザの体幹に右回転するような不随意運動IM1を誘発することができる。
【0039】
一方、回転軸33aおよび34aの方が重力方向GDとの角度差が小さいと判断される場合は、手で携帯端末等を操作している場合である(
図7参照)。よってステップS90へ進み、第3ローラ33および第4ローラ34を右回転RR2させる(
図8参照)。これにより、ユーザの体幹に右回転するような不随意運動IM2を誘発することができる。
【0040】
一方、ステップS60において、ユーザ現在方位に対して所定方位が左側に位置すると判断される場合には、左回転の不随意運動を誘発する場合であると判断され、ステップS100へ進む。ステップS100において制御部10は、回転軸31aおよび32aと、回転軸33aおよび34aとのうち、どちらの方が重力方向GDとの角度差が小さいかを判断する。
【0041】
回転軸31aおよび32aの方が重力方向GDとの角度差が小さいと判断される場合は、ステップS110へ進み、第1ローラ31および第2ローラ32を左回転(反時計回り)させる(
図6参照)。これにより、ユーザの体幹に左回転するような不随意運動を誘発することができる。一方、回転軸33aおよび34aの方が重力方向GDとの角度差が小さいと判断される場合は、ステップS120へ進み、第3ローラ33および第4ローラ34を左回転させる(
図8参照)。これにより、ユーザの体幹に左回転するような不随意運動を誘発することができる。
【0042】
なおステップS80、S90、S110、S120では、ユーザ現在方位と所定方位との角度差が大きくなるほど、第1ローラ31および第2ローラ32の回転トルクを大きくするトルク制御を行う。これにより、角度差が大きいほど強い不随意運動を誘発することが可能となる。
【0043】
ステップS130において制御部10は、所定方位とユーザ現在方位との角度差が予め定められたしきい値よりも小さくなったか否かを判断する。否定判断される場合(S130:NO)にはステップS60へ戻り、処理が続行される。一方、肯定判断される場合(S130:YES)には、ユーザ現在方位が所定方位と一致するように修正されたと判断され、ステップS140へ進む。
【0044】
ステップS140において制御部10は、第3ローラ33および第4ローラ34を互いに反対回転方向に回転させる制御を行う(
図5および
図9参照)。これにより、手が重力方向GDに向けて降ろされている場合(
図5、ステップS80およびS110)には、その場に停止するような不随意運動をユーザに誘発させることができるため、ユーザにこれ以上回転する必要がないことを報知することが可能となる。また手で携帯端末等を操作している場合(
図9、ステップS90およびS120)には、前進するような不随意運動をユーザに誘発させることができるため、ユーザにこれ以上回転する必要がないことを報知することが可能となる。
【0045】
ステップS150において制御部10は、目的地に到着したか否かを判断する。到着していない場合(S150:NO)にはステップS30へ戻り処理を続行し、到着した場合(S150:YES)にはナビゲーションを終了する。
【0046】
以上説明したフローにより、次のようなナビゲーションが可能となる。ユーザ現在方位と所定方位との角度差が大きくなるほど、回転トルクを大きくするトルク制御を行っている(ステップS80、S90、S110、S120)。これにより、ユーザ現在方位が所定方位からずれているほど、強いせん断刺激を提示することで、強い不随意運動を誘発することができる。そしてステップS60~S130のループ処理により、ユーザが回転を始めてユーザ現在方位と所定方位との角度差が小さくなるにつれて、回転トルクを除々に小さくする(せん断刺激を除々に緩めていく)ことができる。よってユーザ現在方位が所定方位に近づくほど、不随意運動を弱めることができる。またユーザが回転しすぎてしまい、ユーザ現在方位が所定方位を通り過ぎてしまった場合には、せん断刺激の向きを逆にすることで、正しい所定方位をユーザに報知することができる。そして、ユーザが所定方位を向くと(ステップS130:YES)、せん断刺激に代えて引っ張り刺激を提示することで(ステップS140)、ユーザに正しい方向を向いていることを報知することができる。
【0047】
(効果)
ユーザの身体の一部(例:手首、指、腰、頭部)を挟んで対向する位置に配置された一対のローラを同一方向に回転させることで、せん断刺激をユーザに与えることができる(
図6および
図8参照)。これにより、体幹90bを回転させるような不随意運動をユーザに誘発することができる。また一対のローラを互いに反対方向に回転させることで、引っ張り刺激をユーザに与えることができる(
図5および
図9参照)。これにより、その場に停止するような不随意運動や、前進するような不随意運動を、ユーザに誘発することができる。
【0048】
ユーザの向いている方位を不随意運動により変更させる場合には、重力方向軸GAまわりを回転するせん断刺激を与える必要がある。本実施例の触覚提示装置1では、第1ローラ31および第2ローラ32のペアと、第3ローラ33および第4ローラ34のペアとのうち、回転軸がより重力方向GDに近い方のペアを選択し、せん断刺激を与えることができる。(ステップS70、S100)。これにより、手の姿勢に関わらず、ユーザの向いている方位を不随意運動により変更することが可能となる。
【0049】
触覚提示装置1を用いることで、目的地までのナビゲーションの誘導を触覚刺激によって実現することができる。視覚や聴覚を阻害せずに誘導することができるため、周囲への注意が散漫になることが抑制され、交通安全性を高めることが可能となる。
【0050】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。上記の実施例の変形例を以下に列挙する。
【0051】
(変形例)
不随意運動の誘発の方法は、本明細書に記載されている方法に限られず、様々な形態とすることができる。例えば、ユーザが手で携帯端末等を操作しているとき(
図7、8参照)に、第1ローラ31および第2ローラ32を用いて不随意運動を誘発してもよい。例えば、ユーザに右方向を向かせたい場合(ステップS90)には、第1ローラ31および第2ローラ32を、ユーザ側からみて右回転RR1(時計回り)させてもよい。また例えば、ユーザに左方向を向かせたい場合(ステップS120)には、第1ローラ31および第2ローラ32を、ユーザ側からみて左回転(反時計回り)させてもよい。
【0052】
不随意運動を誘発するタイミングは、本明細書に記載されているタイミングに限られず、様々な形態とすることができる。例えば、歩行を停止している場合など、ユーザが移動していないときには、不随意運動を誘発しない形態としてもよい。ユーザの移動の有無は、姿勢センサ17やGPSセンサ18の測定結果に基づいて判断してもよい。例えば、手が重力方向GDに向けて降ろされている場合(
図5、6参照)に、ユーザが移動していないことが検出された場合には、ステップS80やS110において、第1ローラ31および第2ローラ32を回転させない制御としてもよい。
【0053】
ステップS30において、ユーザの正面が現在向いている方位であるユーザ現在方位を算出する方法は、様々な形態とすることができる。例えば、ユーザの進行方向の方位を、ユーザ現在方位としてもよい。
【0054】
触覚提示装置1では、せん断刺激や引っ張り刺激に限らず、様々な刺激を提示可能である。例えば、回転方向を短時間で反転し続けることにより、振動刺激を与えることも可能である。
【0055】
本明細書では、触覚提示装置1が、手首に装着する腕輪型デバイスである場合を説明したが、この形態に限られない。例えば、指に装着する指輪型デバイス、腰に装着するベルト型デバイス、頭部に装着する帽子型デバイス、足首に装着するサポーター型デバイス、など、様々な形態であって良い。装着する部位に応じて、第1ローラ31~第4ローラ34の径や、接続部40の形状および径を適宜に調整すればよい。
【0056】
第1ローラ31~第4ローラ34の回転軸に垂直な断面形状は、円形に限られず、様々であってよい。多角形や、表面に凹凸が形成された形状であってもよい。
【0057】
本実施例では、互いに直交する2方向の回転軸を有する場合を説明したが、この形態に限られない。ローラのペアを3つ以上備えることで、3方向以上の回転軸を有していてもよい。
【0058】
ローラの回転軸の方向を変更することが可能な形態であってもよい。例えば、全方向に回転可能な球体のローラであってもよい。この場合、ローラのペアは1つでよい。
【0059】
刺激を提供する手段はローラに限られず、様々な手段を用いてもよい。例えば、球体、キャタピラ、ピンアレイなどを用いてもよい。
【0060】
本実施例のナビゲーションにおける目的地は、様々であってよい。例えば、複数のユーザが本実施例のナビゲーションを用いて待ち合わせをする場合に、複数ユーザの中間地点を、移動する動的な目的地として設定可能である。また例えば、避難訓練の退避場所のような指定位置を、目的地として設定可能である。
【0061】
本実施例のナビゲーションは、徒歩移動に限られず、低速モビリティや車移動に対しても使用することができる。
【0062】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0063】
1:触覚提示装置 10:制御部 16:方位センサ 17:姿勢センサ 18:GPSセンサ 31~34:第1ローラ~第4ローラ 31a~34a:回転軸 40:接続部 GD:重力方向 GA:重力方向軸