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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】スラスト空気軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 27/02 20060101AFI20240423BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
F16C27/02 A
F16C17/04 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022563648
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2021038633
(87)【国際公開番号】W WO2022107534
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2020191066
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】迫田 晃司
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-143356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0139573(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 27/02
F16C 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に張り出すように設けられているスラストカラーを備えた回転軸を支持するスラスト空気軸受であって、
環状に並んで配置されると共に、前記スラストカラーに対面するように配置される複数のフォイルユニットを備え、
前記フォイルユニットは、
トップフォイル部と、
前記トップフォイル部に一体的に設けられると共に、前記トップフォイル部に対して、前記環状を形成する周方向の反対側に配置されたバンプフォイル部と、を備えており、
前記フォイルユニットは、隣接する他の前記フォイルユニットの前記バンプフォイル部上に前記トップフォイル部が重なるように配置されている、スラスト空気軸受。
【請求項2】
前記複数のフォイルユニットが固定された環状のベースプレートと、
前記フォイルユニットを前記ベースプレートに固定しているフォイル固定部と、を更に備え、
前記フォイルユニットは、前記トップフォイル部と前記バンプフォイル部との間に設けられると共に、前記フォイル固定部によって前記ベースプレートに取り付けられる固定受け部を備えている、請求項1記載のスラスト空気軸受。
【請求項3】
前記フォイルユニットは、前記ベースプレートに、着脱自在に取り付けられている、請求項2記載のスラスト空気軸受。
【請求項4】
回転軸を支持するスラスト空気軸受であって、
環状に並んで配置された複数のフォイルユニットと、
前記複数のフォイルユニットが固定された環状のベースプレートと、
前記フォイルユニットを前記ベースプレートに固定しているフォイル固定部と、を備え、
前記フォイルユニットは、
トップフォイル部と、
前記トップフォイル部に一体的に設けられると共に、前記トップフォイル部に対して、前記環状を形成する周方向の反対側に配置されたバンプフォイル部と、
前記トップフォイル部と前記バンプフォイル部との間に設けられると共に、前記フォイル固定部によって前記ベースプレートに取り付けられる固定受け部と、を備えており、
前記フォイルユニットは、隣接する他の前記フォイルユニットの前記バンプフォイル部上に前記トップフォイル部が重なるように配置されており、
前記ベースプレートには、前記固定受け部が収まる位置決め溝が設けられており、
前記位置決め溝は、環状の前記ベースプレートの径方向に延在するように設けられており、
前記固定受け部は、前記位置決め溝に嵌合される嵌合凸部と、前記嵌合凸部の反対側で、前記フォイル固定部が嵌合される受入凹部とを備えている、スラスト空気軸受。
【請求項5】
前記ベースプレートは、外周縁と、前記径方向で前記外周縁とは反対側の内周縁とを備えており、
前記位置決め溝は、前記内周縁に近い内端部から前記外周縁に近い外端部にかけて、前記ベースプレートの周方向の幅が拡がるテーパ状であり、
前記嵌合凸部は、前記位置決め溝に嵌合するテーパ状であり、前記フォイル固定部によって前記位置決め溝に圧着されている、請求項4記載のスラスト空気軸受。
【請求項6】
前記位置決め溝は、底部と、前記底部から立ち上がり、前記周方向で対向する一対の側部と、を備えており、
前記一対の側部は、前記底部から離れるほど、前記周方向の幅が拡がるように傾斜した一対の傾斜面を備えており、
前記嵌合凸部は、前記一対の傾斜面に嵌合するように傾斜すると共に、前記フォイル固定部によって前記傾斜面に圧着されている、請求項5記載のスラスト空気軸受。
【請求項7】
前記位置決め溝は底部を備え、
前記底部と前記嵌合凸部との間には隙間があり、前記隙間は前記径方向に延在している、請求項4~6のいずれか一項記載のスラスト空気軸受。
【請求項8】
前記位置決め溝には、前記嵌合凸部に対して前記周方向に離間して隙間領域を形成する膨らみ部が設けられている、請求項4~7のいずれか一項記載のスラスト空気軸受。
【請求項9】
前記ベースプレートは、外周縁と、前記径方向で前記外周縁とは反対側の内周縁とを備えており、
前記位置決め溝は、前記外周縁で開放された挿入口を備えており、前記嵌合凸部は前記挿入口から挿入可能である、請求項4~8のいずれか一項記載のスラスト空気軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スラスト空気軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スラスト空気軸受の一例が記載されている。この種のスラスト空気軸受は、スラスト面上に等間隔で配置された複数のバンプフォイルを備え、更にバンプフォイルに重なるように配置されたトップフォイルを備えている。バンプフォイルおよびトップフォイルは、スラスト面に溶接等で個別に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-195412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のスラスト空気軸受では、バンプフォイルやトップフォイルを所定位置に正確に位置決めした後で、バンプフォイルやトップフォイルを、それぞれ個別に溶接等する必要があった。したがって、バンプフォイルやトップフォイルの取り付けに熟練を要し、また歩留まりが悪くなる可能性もあり、効率的な製造に不利であった。
【0005】
本開示は、バンプフォイルやトップフォイルを個別に取り付ける場合と比べ、バンプフォイルやトップフォイルの取り付けが容易なスラスト空気軸受を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、回転軸を支持するスラスト空気軸受であって、環状に並んで配置された複数のフォイルユニットを備えている。フォイルユニットは、トップフォイル部と、トップフォイル部に一体的に設けられると共に、トップフォイル部に対して、環状を形成する周方向の反対側に配置されたバンプフォイル部と、を備えている。フォイルユニットは、隣接する他のフォイルユニットのバンプフォイル部上にトップフォイル部が重なるように配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示のいくつかの態様によれば、バンプフォイル部やトップフォイル部の取り付けが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るスラスト空気軸受が設置された回転機械の一例を示す断面図である。
図2図2は、実施形態に係るスラスト空気軸受の平面図である。
図3図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、スラスト空気軸受の一部であり、(a)の図はフォイル固定部を示す斜視図であり、(b)の図はフォイルユニットを示す斜視図である。
図5図5は、ベースプレートの斜視図である。
図6図6は、スラスト空気軸受の一部分を示す分解斜視図である。
図7図7は、回転機械に設置されたスラスト空気軸受を示し、(a)の図は、スラスト空気軸受の一部分を拡大して示す断面図であり、(b)の図は、(a)の図のb-b線に沿った断面図である。
図8図8は、他の実施形態に係るスラスト空気軸受のベースプレートを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一例は、回転軸を支持するスラスト空気軸受であって、環状に並んで配置された複数のフォイルユニットを備えている。フォイルユニットは、トップフォイル部と、トップフォイル部に一体的に設けられると共に、トップフォイル部に対して、環状を形成する周方向の反対側に配置されたバンプフォイル部と、を備えている。フォイルユニットは、隣接する他のフォイルユニットのバンプフォイル部上にトップフォイル部が重なるように配置されている。
【0010】
一例において、スラスト空気軸受は、複数のフォイルユニットを備えており、フォイルユニットのトップフォイル部とバンプフォイル部とは一体的に設けられている。つまり、一つのフォイルユニットを取り付けることで、トップフォイル部とバンプフォイル部とを、ずれなく取り付けることができる。また、複数のフォイルユニットを所定位置に並べながら配置することで、全てのトップフォイル部とバンプフォイル部との設置が完了する。その結果として、バンプフォイルやトップフォイルを個別に取り付ける場合と比べ、バンプフォイルやトップフォイルの取り付けが容易になる。
【0011】
いくつかの例において、複数のフォイルユニットが固定された環状のベースプレートと、フォイルユニットをベースプレートに固定しているフォイル固定部と、を更に備えていてもよい。フォイルユニットは、トップフォイル部とバンプフォイル部との間に設けられると共に、フォイル固定部によってベースプレートに取り付けられる固定受け部を備えていてもよい。
【0012】
いくつかの例において、フォイルユニットは、ベースプレートに、着脱自在に取り付けられていてもよい。フォイルユニットに不具合があった場合に、不具合が生じているフォイルユニットをベースプレートから取り外し、新たなフォイルユニットに容易に交換できる。
【0013】
いくつかの例において、ベースプレートには、固定受け部が収まる位置決め溝が設けられており、位置決め溝は、環状のベースプレートの径方向に延在するように設けられていてもよい。固定受け部は、位置決め溝に嵌合される嵌合凸部と、嵌合凸部の反対側で、フォイル固定部が嵌合される受入凹部とを備えていてもよい。複数のフォイルユニットは、周方向に適切に並べて配置する必要がある。フォイルユニットは、位置決め溝に収められた固定受け部によって位置決めされており、位置決め溝は、環状のベースプレートの径方向に延在するように設けられている。その結果、フォイルユニットは、径方向に交差する方向への位置ズレ、例えば、周方向への位置ズレが抑えられる。
【0014】
いくつかの例において、ベースプレートは、外周縁と、径方向で外周縁とは反対側の内周縁とを備えていてもよい。位置決め溝は、内周縁に近い内端部から外周縁に近い外端部にかけて、ベースプレートの周方向の幅が拡がるテーパ状であってもよい。嵌合凸部は、位置決め溝に嵌合するテーパ状であり、フォイル固定部によって位置決め溝に圧着されていてもよい。固定受け部は、径方向でテーパ状の位置決め溝に嵌合される嵌合凸部を備えており、嵌合凸部は、位置決め溝に嵌合するテーパ状である。したがって、嵌合凸部がフォイル固定部によって位置決め溝に圧着される際に、嵌合凸部のテーパ状と位置決め溝のテーパ状との相乗効果によって適切な位置に位置補正が行われ、径方向の位置ズレを抑制できる。
【0015】
いくつかの例において、位置決め溝は、底部と、底部から立ち上がり、周方向で対向する一対の側部と、を備えていてもよい。一対の側部は、底部から離れるほど、周方向の幅が拡がるように傾斜した一対の傾斜面を備えていてもよい。嵌合凸部は、一対の傾斜面に嵌合するように傾斜すると共に、フォイル固定部によって傾斜面に圧着されていてもよい。位置決め溝の傾斜面は、周方向で対向する一対の側部に、それぞれ設けられており、嵌合凸部は、一対の傾斜面に嵌合するように傾斜している。したがって、嵌合凸部がフォイル固定部によって位置決め溝に圧着される際に、嵌合凸部の傾斜と位置決め溝の傾斜面との相乗効果によって適切な位置に位置補正が行われ、周方向の位置ズレを抑制できる。
【0016】
いくつかの例において、位置決め溝は底部を備え、底部と嵌合凸部との間には隙間があり、隙間は径方向に延在していてもよい。この隙間によって空気が通過可能な冷却流路を形成でき、その結果、抜熱機能を発揮させることができる。
【0017】
いくつかの例において、位置決め溝には、嵌合凸部に対して周方向に離間して隙間領域を形成する膨らみ部が設けられていてもよい。嵌合凸部を引き抜く必要がある場合に、隙間領域を形成することで引き抜き易くなる。
【0018】
いくつかの例において、ベースプレートは、外周縁と、径方向で外周縁とは反対側の内周縁とを備えていてもよい。位置決め溝は、外周縁で開放された挿入口を備えており、嵌合凸部は挿入口から挿入可能であってもよい。フォイルユニットは、他のフォイルユニットのバンプフォイル部上にトップフォイル部が重なるように配置する必要がある。上記態様であれば、フォイルユニットの嵌合凸部を、他のフォイルユニットに干渉しない側方から挿入口に挿入して取り付けることができるので、スラスト空気軸受の組み立てが容易になる。
【0019】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
図1は、回転機械1の一例を示しており、例えば、電動ターボチャージャーである。回転機械1は、タービン2とコンプレッサ3とを備えており、タービン2とコンプレッサ3との間に、回転軸6を駆動する電動モータ5を備えている。タービン2は、タービンハウジング21内に配置されたタービンインペラ22を備えている。コンプレッサ3は、コンプレッサハウジング31内に配置されたコンプレッサインペラ32を備えている。タービンハウジング21とコンプレッサハウジング31との間には、電動モータ5のステータ51が固定されたモータハウジング4が設置されている。
【0021】
コンプレッサインペラ32の回転軸6には、タービンインペラ22が固定されている。タービンインペラ22の回転は、回転軸6を介してコンプレッサインペラ32に伝わり、電動モータ5と協働してコンプレッサインペラ32を駆動する。回転軸6には、ステータ51との協働によって回転軸6の回転を補助するロータ52が固定されている。回転軸6は、複数の軸受によって回転自在に支持されており、少なくとも一つは本開示の実施形態に係るスラスト空気軸受7である。スラスト空気軸受7によって回転軸6を支持する構造について、説明する。
【0022】
回転軸6は、径方向に張り出すように設けられたスラストカラー61を備えている。本開示において、スラストカラー61は、ロータ52とコンプレッサインペラ32との間に配置されている。スラストカラー61は、一対のスラスト空気軸受7の間に、挟まれるように配置されている。スラスト空気軸受7は、スラストカラー61に対面する軸受面7aと、軸受面7aに対して反対側の裏面7bとを備えている(図7の(a)図参照)。
【0023】
一対のスラスト空気軸受7は、回転軸6の軸線L方向に並んで配置されている。一対のスラスト空気軸受7同士の間には、スラストカラー61を収める隙間を形成するためのスペーサ81が配置されている。一対のスラスト空気軸受7は、スペーサ81を挟持するような態様で、複数の締結ボルト82によって一体となるように締結されている。複数の締結ボルト82は、スラスト空気軸受7の周方向CDに等間隔で設置されている。スラスト空気軸受7は、それぞれ回転軸6を回転自在に支持している。また、一対のスラスト空気軸受7は、協働してスラストカラー61が軸線L方向にずれるのを抑制する軸支持構造70を形成する。
【0024】
以下の説明において、一対のスラスト空気軸受7のうち、例えば、ロータ52に近い方を第1のスラスト空気軸受7と称し、コンプレッサインペラ32に近い方を第2のスラスト空気軸受7と称する場合がある。第1のスラスト空気軸受7の裏面7bは、モータハウジング4を形成する部材に支持され、所定位置に位置決めされている(図7の(a)図参照)。また、第2のスラスト空気軸受7の裏面7bは、コンプレッサハウジング31の一部を形成する部材の一部に支持され、所定位置に位置決めされている。第1のスラスト空気軸受7と第2のスラスト空気軸受7とは、基本的に同一の構造を備えているため、第1のスラスト空気軸受7を代表して説明する。
【0025】
図2図3及び図6に示されるように、スラスト空気軸受7は、土台となる環状のベースプレート71と、ベースプレート71に取り付けられる複数のフォイルユニット9と、フォイルユニット9をベースプレート71に固定するフォイル固定部10と、を備えている。ベースプレート71を基準にして、複数のフォイルユニット9が設置される面は、スラストカラー61に対面する軸受面7aとなり、反対側は裏面7bとなる。
【0026】
ベースプレート71は(図5参照)、環状(ドーナツ状)であり、回転軸6が挿通される略円形の中央孔CHを備えている。本開示において、ベースプレート71の径方向RDとは、回転軸6が中央孔CHに挿通された状態を想定して回転軸6の軸線Lを中心とした場合の遠心方向及び遠心方向とは逆方向の双方を意図している。例えば、径方向RDは、軸線Lに直交する方向を意図している。また、ベースプレート71の周方向CDとは、回転軸6が回転する方向を意図している。なお、本開示では、ベースプレート71の外形が実質的に円形であると想定できる。したがって、ベースプレート71の径方向RDとは、ベースプレート71の半径方向と説明することもでき、ベースプレート71の周方向CDとは、ベースプレート71の略円形の外形に沿った方向と説明することもできる。
【0027】
ベースプレート71は、略円形の外形を形成する外周縁71aと、径方向RDにおいて外周縁71aとは反対側であり、中央孔CHを形成する内周縁71bとを備えている。ベースプレート71は、径方向RDで二つの領域に分けて把握することができ、例えば、外周縁71aを含む環状の外領域71xと、内周縁71bを含む環状の内領域71yとを備えている。この外領域71xと内領域71yとの間には段差が形成されていてもよい。本開示では、軸受面7aにおいて外領域71xから内領域71yに落ち込む段差が形成されている。ベースプレート71の外領域71xには、締結ボルト82(図1参照)が挿通される複数の貫通孔71cが設けられている。ベースプレート71の内領域71yには、複数のフォイルユニット9が周方向CDに並んで配置される。
【0028】
ベースプレート71の内領域71yには、フォイルユニット9を位置決めするための複数の位置決め溝72と、複数の貫通孔73とが設けられている。貫通孔73は、ベースプレート71の裏面7bから位置決め溝72の底部72aに抜けるように形成されている。フォイルユニット9を固定する皿ネジ19(締結部)は、貫通孔73を挿通する(図3参照)。貫通孔73の裏面7b側には、皿ネジ19の頭部19aが収まる座ぐり71dが形成されている。皿ネジ19は、裏面7bから貫通孔73に向けて差し込まれる。
【0029】
フォイルユニット9(図4の(b)図及び図6参照)は、可撓性を有する葉状(板状)である。平面視において、ベースプレート71の内領域71yは環状(ドーナツ状)である。平面視において、フォイルユニット9は、内領域71yを周方向CDで均等に分割したような形状である。なお、以下の説明において、フォイルユニット9の周方向CDとは、ベースプレート71に設置された状態を想定して、実質的にベースプレート71の周方向CDと同じ方向を意図している。フォイルユニット9は、周方向CDの一方側にトップフォイル部91を備えており、トップフォイル部91とは反対側にバンプフォイル部92を備えている。また、トップフォイル部91とバンプフォイル部92との間には固定受け部93が設けられている。固定受け部93は、トップフォイル部91とバンプフォイル部92とを一体的に接続している。
【0030】
固定受け部93は、トップフォイル部91およびバンプフォイル部92に対して突出するように屈曲した嵌合凸部94を備えている。嵌合凸部94は、ベースプレート71の位置決め溝72に収まるような寸法及び形状を呈する。フォイルユニット9は、嵌合凸部94を位置決め溝72に嵌め込むことで、ベースプレート71の所定位置に位置決めされる。固定受け部93において、嵌合凸部94の裏側、つまり、嵌合凸部94の反対側には、フォイル固定部10が嵌合される受入凹部95が形成されている。なお、受入凹部95の底である底板部93bには、皿ネジ19の軸部19bが挿通する連結孔93aが形成されている。
【0031】
フォイル固定部10(図4の(a)図及び図6参照)は、受入凹部95に収まるような寸法及び形状であり、実質的に受入凹部95に嵌合する。フォイル固定部10には、皿ネジ19の軸部19bが螺合されるネジ孔11が形成されている。皿ネジ19をフォイル固定部10に螺合して締結することで、フォイル固定部10は、受入凹部95に圧着され、位置決め溝72との間で固定受け部93を挟持する。
【0032】
図2に示されるように、複数のフォイルユニット9は、ベースプレート71の内領域71yにおいて、周方向CDに均等に並び、全体として環状の内領域71yの全部または一部を覆うように配置されている。具体的に説明すると、一のフォイルユニット9のトップフォイル部91は、隣接する他のフォイルユニット9のバンプフォイル部92の上に重なるように配置されている。本開示では、例えば六枚(複数)のフォイルユニット9を環状に並べて配置している。
【0033】
図3及び図6に示されるように、バンプフォイル部92は断面視で波状の板部分であり、ベースプレート71の内領域71yの表面に沿うように配置されている。トップフォイル部91は、バンプフォイル部92上に配置されている。トップフォイル部91は、固定受け部93に接続された根元部分91aよりも、先端部分91bの方がバンプフォイル部92から離間するように傾斜している。ベースプレート71に設置された一枚のフォイルユニット9を基準にした場合に、周方向CDにおけるバンプフォイル部92の位置は、回転軸6の回転方向の前側である。逆に、周方向CDにおけるトップフォイル部91の位置は回転方向の後側である。
【0034】
次に、図3図6を参照し、ベースプレート71の位置決め溝72、フォイルユニット9の固定受け部93及びフォイル固定部10の形状、及び嵌合関係についてさらに詳しく説明する。
【0035】
ベースプレート71には、フォイルユニット9の設置枚数と同数の複数の位置決め溝72が設けられている。位置決め溝72は、環状のベースプレート71の径方向RD(遠心方向)に延在するように設けられている。複数の位置決め溝72は、周方向CDで等間隔に配置されている。位置決め溝72は、ベースプレート71の内周縁71bに近い内端部72cと、内端部72cに対して径方向RDで反対側であり、ベースプレート71の外周縁71aに近い外端部72dとを備えている。なお、本開示の内端部72cは、ベースプレート71の内周縁71bまで達して開放されている。本開示の外端部72dは、ベースプレート71の内領域71yと外領域71xとの境界まで達している。位置決め溝72は、平面視した場合に、内端部72cの幅に比べて、外端部72dの幅の方が大きなっており、内端部72cから外端部72dにかけて周方向CDの幅が拡がるテーパ状になっている。
【0036】
位置決め溝72は、底部72aと、底部72aから立ち上がる一対の側部72bとを備えている。底部72aには、皿ネジ19の軸部19bが挿通される貫通孔73が連通されている。一対の側部72bは(図5参照)、ベースプレート71の周方向CDで対向して設けられており、それぞれ径方向RDに延在して内端部72cと外端部72dとに接続されている。
【0037】
本開示の側部72bは(図3参照)、底部72aに対して略垂直に立ち上がっている直壁面72eと、直壁面72eから屈曲し、直壁面72eに対して傾斜して立ち上がっている傾斜面72fとを備えている。傾斜面72fは、内領域71yのバンプフォイル部92を支持する面に接続されている。一対の傾斜面72fは、互いに対向するように配置されており、一対の傾斜面72fは、底部72aから離れるほど、互いの距離が離れるように傾斜している。例えば、一対の傾斜面72fは、底部72aから離れるほど、ベースプレート71の周方向CDの幅が拡がるように傾斜している。
【0038】
フォイルユニット9の固定受け部93は、トップフォイル部91及びバンプフォイル部92から屈曲され、断面視で略台形となるように形成されている。例えば、固定受け部93は、底板部93bと、一対の側板部93cとを備えている。底板部93bは、位置決め溝72の底部72aに対向している。一対の側板部93cは、底板部93bから屈曲されてトップフォイル部91及びバンプフォイル部92に接続されている。一対の側板部93cは、平面視で位置決め溝72に嵌合するテーパ状を呈する(図6参照)。固定受け部93を位置決め溝72に嵌合した際、位置決め溝72に接する外側の表面部分は嵌合凸部94であり、反対側である内側の表面部分は受入凹部95である。
【0039】
底板部93bは、平面視で位置決め溝72のテーパ状に倣った形状であり、例えば、長さの等しい二つの長辺部と、短辺部とを備えた略二等辺三角形状である。底板部93bの頂角部は、位置決め溝72の内端部72cに沿うように配置され、短辺部は、位置決め溝72の外端部72dに沿うように配置される。一対の側板部93cは、底板部93bの二つの長辺部から立設され、底板部93bから離れるほど、互いの距離が離れるように傾斜している。側板部93cの傾斜角度は、位置決め溝72の傾斜面72fの傾斜角度に実質的に同一である。その結果、側板部93cの外側、つまり、嵌合凸部94の一部は、位置決め溝72の傾斜面72fに嵌合するように傾斜している。なお、本開示の底板部93bは、位置決め溝72の壁面と離隔している。
【0040】
固定受け部93の受入凹部95には、フォイル固定部10が嵌合される。フォイル固定部10は、平面視で、例えば、略等脚台形状であり、位置決め溝72の内端部72cに沿うように設置される内端面部10aと、外端部72dに沿うように設置される外端面部10bと、長さの等しい一対の側面部10cとを備えている。一対の側面部10cは、平面視で固定受け部93の一対の側板部93cに倣ったテーパ状であり、一対の側板部93cに沿って当接するように設置される。
【0041】
フォイル固定部10は、断面視で(図3参照)、例えば、略等脚台形状である。フォイル固定部10は(図6参照)、固定受け部93の底板部93bに対面する下面部10dと、下面部10dとは反対側の上面部10eと、一対の側面部10cとを備えている。一対の側面部10cは、下面部10dから離れるほど、幅が拡がるように傾斜している。側面部10cの傾斜角度は、側板部93cの傾斜角度に実質的に同一である。その結果、側面部10cは、側板部93cに嵌合するように傾斜している。
【0042】
図3に示されるように、位置決め溝72に嵌合凸部94を嵌合させた際に、位置決め溝72の底部72aと嵌合凸部94との間には隙間Sが生じる。つまり、位置決め溝72と嵌合凸部94とは、隙間Sが生じる程度の余裕を持たせた寸法で形成されている。その結果、フォイル固定部10によって嵌合凸部94を押圧した際に、多少のズレは補正され、嵌合凸部94を位置決め溝72の側面部10cに適切に圧着させることができる。
【0043】
また、この隙間Sは、ベースプレート71の内周縁71bから外周縁71aにかけて径方向RDに延在している。この隙間Sによって空気が通過可能な冷却流路を形成でき、その結果、抜熱機能を発揮させることができる。
【0044】
図2及び図6に示されるように、位置決め溝72の外端部72dには膨らみ部72gが設けられている。膨らみ部72gは、位置決め溝72に連通する溝である。膨らみ部72gは、嵌合凸部94に対して周方向CDに離間するように設けられており、嵌合凸部94に対して非接触となる隙間領域ARを形成する。嵌合凸部94を引き抜く必要がある場合に、隙間領域ARに工具等を差し入れることで、嵌合凸部94を容易に引き抜くことができる。更に、この隙間領域ARと、位置決め溝72の底部72aに形成される隙間Sとを連通させて空気が通過可能な冷却流路を形成することにより、抜熱機能を発揮させることができる。なお、本開示では、膨らみ部72gと隙間Sが連通している。
【0045】
図6を参照し、ベースプレート71に対するフォイルユニット9の組み付け方法の一例について説明する。複数のフォイルユニット9は、ベースプレート71の内領域71y上で環状に並んで配置される。ここで、複数のフォイルユニット9は、それぞれ固定受け部93を位置決め溝72に差し入れて仮置きすることで、フォイルユニット9の向き、周方向CD及び径方向RDの位置を簡単に合わせることができる。
【0046】
次に、フォイルユニット9の受入凹部95にフォイル固定部10を圧入し、合せてベースプレート71の裏面7bから皿ネジ19を挿入してフォイル固定部10に螺合させる。皿ネジ19の締め付けにより、フォイル固定部10は、フォイルユニット9の受入凹部95を押し広げるように受入凹部95に嵌合する。その結果、受入凹部95の裏側である嵌合凸部94は位置決め溝72の傾斜面72fに圧着され、適切に嵌合される。
【0047】
皿ネジ19及びフォイル固定部10による全てのフォイルユニット9の締結が完了すると、ベースプレート71に対するフォイルユニット9の組み付けが完了する。フォイルユニット9の組み付けが完了した一対のスラスト空気軸受7は、スラストカラー61を挟むようにして回転機械1に設置される。ここで一対のスラスト空気軸受7の裏面7bには、それぞれ皿ネジ19の頭部19aが配置されている。第1のスラスト空気軸受7の裏面7b側に存在する皿ネジ19の頭部19aはモータハウジング4によって押さえ込まれるように配置されている(図3及び図7の(a)図参照)。また、第2のスラスト空気軸受7の裏面7bに存在する皿ネジ19の頭部19aはコンプレッサハウジング31によって押さえ込まれるように配置されている。その結果、皿ネジ19が緩んで、フォイルユニット9がベースプレート71からズレてしまうことを抑止でき、スラスト空気軸受7の軸受機能を安定して維持することができる。
【0048】
次に、図7を参照し、スラスト空気軸受7によって回転軸6を回転自在に支持する作用について説明する。図7の(a)図に示されるように、一対のスラスト空気軸受7は、回転軸6に固定されたスラストカラー61を挟みように配置されており、軸支持構造70を形成している。静置状態、つまり、回転していない状態において、フォイルユニット9のトップフォイル部91の先端部分91bは、スラストカラー61に接触している。
【0049】
図7の(b)図に示されるように、回転軸6の回転に伴って回転すると、トップフォイル部91には根元部分91a側から空気圧がかかり、くさび効果が生じる。このくさび効果により、トップフォイル部91の先端部分91bは、スラストカラー61から離間して保持される。回転軸6が軸線L方向(スラスト方向)にずれようとすると、スラストカラー61が一方のトップフォイル部91に接近する。その結果、トップフォイル部91は波状のバンプフォイル部92の緩衝を受けることになるので回転軸6のスラスト方向へのズレは抑止される。
【0050】
上述したスラスト空気軸受7の作用、効果を説明する。スラスト空気軸受7は、複数のフォイルユニット9を備えており、フォイルユニット9のトップフォイル部91とバンプフォイル部92とは一体的に設けられている。つまり、一つのフォイルユニット9を取り付けることで、トップフォイル部91とバンプフォイル部92とを、ズレなく取り付けることができる。そのため、バンプフォイルやトップフォイルを個別に取り付ける場合と比べ、バンプフォイル部92やトップフォイル部91の取り付けが容易となる。そして、複数のフォイルユニット9を所定位置に並べながら配置することで、全てのトップフォイル部91とバンプフォイル部92との設置が完了する。
【0051】
また、スラスト空気軸受7のフォイルユニット9は、ベースプレート71に対して着脱自在である。その結果、フォイルユニット9に不具合があった場合に、不具合が生じているフォイルユニット9をベースプレート71から取り外し、新たなフォイルユニット9に容易に交換できる。例えば、静置状態において、トップフォイル部91はバンプフォイル部92に接触しており、回転軸6が回転すると離間する。つまり、トップフォイル部91は、バンプフォイル部92に対する接触、離間を繰り返すため、表面のメッキ等が剥がれてしまう可能性がある。このような場合にスラスト空気軸受7によれば、メンテナンス時に、不具合が生じたフォイルユニット9のみを交換できるので、非常に効率がよい。
【0052】
また、スラスト空気軸受7の位置決め溝72は、環状のベースプレート71の径方向RDに延在するように設けられている。固定受け部93は、位置決め溝72に嵌合される嵌合凸部94を備えている。フォイルユニット9は、位置決め溝72に収められた固定受け部93によって位置決めされており、位置決め溝72は、径方向RDに延在するように設けられている。その結果、径方向RDに交差する方向、例えば、周方向CDの位置ズレを抑えることができる。
【0053】
また、フォイルユニット9の固定受け部93は、径方向RDでテーパ状の位置決め溝72に嵌合される嵌合凸部94を備えている。嵌合凸部94は、位置決め溝72に嵌合するテーパ状である。したがって、嵌合凸部94がフォイル固定部10によって位置決め溝72に圧着される際に、嵌合凸部94のテーパ状と位置決め溝72のテーパ状との相乗効果によって適切な位置に位置補正が行われ、径方向RDの位置ズレを抑止できる。
【0054】
また、位置決め溝72の傾斜面72fは、周方向CDで対向する一対の側部72bに、それぞれ設けられている。嵌合凸部94は、一対の傾斜面72fに嵌合するように傾斜している。したがって、嵌合凸部94がフォイル固定部10によって位置決め溝72に圧着される際に、嵌合凸部94の傾斜と位置決め溝72の傾斜面72fとの相乗効果によって適切な位置に位置補正が行われ、周方向CDの位置ズレを抑止できる。
【0055】
また、位置決め溝72の底部72aと嵌合凸部94との間には隙間Sがあり、隙間Sは径方向RDに延在している。この隙間Sによって空気が通過可能な冷却流路を形成でき、その結果、抜熱機能を発揮させることができる。
【0056】
また、位置決め溝72の外端部72dには隙間領域ARを形成する膨らみ部72gが設けられており、嵌合凸部94を引き抜く必要がある場合に、隙間領域ARを利用して容易に引き抜くことができる。
【0057】
次に、図8を参照し、本開示の他の実施形態に係るスラスト空気軸受7について説明する。他の実施形態に係るスラスト空気軸受7は、上述の実施形態に係るスラスト空気軸受7と共通の構造や要素を備え、共通の構造や要素によって奏される作用、効果も共通する。具体的には、ベースプレート71Aの位置決め溝72Aの構造のみが上述のスラスト空気軸受7と異なる。したがって、図8を参照し、他の実施形態に係るスラスト空気軸受7のベースプレート71Aを中心に主に相違点を説明し、共通する構造や要素については同一の符号を付して詳しい説明は省略する。
【0058】
ベースプレート71Aは、外周縁71aと、径方向RDで外周縁71aとは反対側の内周縁71bとを備えている。位置決め溝72Aの外端部72dは、ベースプレート71Aの外周縁71aまで達して開放されており、挿入口72jを形成している。フォイルユニット9の嵌合凸部94は挿入口72jから挿入可能である。
【0059】
他の実施形態によれば、フォイルユニット9の嵌合凸部94を、他のフォイルユニット9に干渉しない側方から挿入口72jに挿入して取り付けることができるので、スラスト空気軸受7の組み立てが容易になる。
【0060】
本開示は、上記の実施形態のみに限定されない。例えば、上記の実施形態では、回転機械の一例として電動アシスト型のターボチャージャーに設置されるスラスト空気軸受について説明したが、回転軸を回転自在に支持するスラスト空気軸受に広く適用できる。
【符号の説明】
【0061】
6 回転軸
7 スラスト空気軸受
71 ベースプレート
71A ベースプレート
72j 挿入口
71a 外周縁
71b 内周縁
72 位置決め溝
72A 位置決め溝
72a 底部
72c 内端部
72d 外端部
72f 傾斜面
72g 膨らみ部
9 フォイルユニット
91 トップフォイル部
92 バンプフォイル部
93 固定受け部
94 嵌合凸部
95 受入凹部
10 フォイル固定部
AR 隙間領域
RD 径方向
CD 周方向
S 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8