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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】光処理装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/08 20060101AFI20240423BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20240423BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B01J19/08 E
C08J7/12 Z
H01L21/302 201A
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2022579475
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2022002800
(87)【国際公開番号】W WO2022168688
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2021017930
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 章弘
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-032757(JP,A)
【文献】特開2003-338500(JP,A)
【文献】特開2016-145416(JP,A)
【文献】特開2012-161751(JP,A)
【文献】特開2017-176994(JP,A)
【文献】特開2011-021091(JP,A)
【文献】特開平09-022895(JP,A)
【文献】国際公開第2022/024882(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00 - 19/12
H01L 21/302
H01L 21/306
H01L 21/30
C08J 7/00 - 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスと、キャリアガスと、を所望の混合比で混合した混合ガスを生成する、ガス生成器と、
前記混合ガスを内部に供給できるように前記ガス生成器と通気可能に接続され、かつ、被処理物を内部に配置可能なチャンバと、
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を、前記原料ガスに照射する光源と、を備え、
前記被処理物の表面に沿って流れる前記原料ガスに前記紫外光を照射し、前記紫外光に照射された前記原料ガスで前記被処理物の表面を改質することを特徴とする、光処理装置。
【請求項2】
前記ガス生成器は、
酸素原子を有する前記有機化合物を含む有機溶媒を溜める容器と、
前記容器に溜められた前記有機溶媒に前記キャリアガスを供給するキャリアガス供給管と、
前記混合ガスを前記チャンバに送る混合ガス供給管と、を備え、
前記有機溶媒に前記キャリアガスを供給して前記混合ガスを生成することを特徴とする、請求項1に記載の光処理装置。
【請求項3】
前記ガス生成器は、前記容器と前記キャリアガスの少なくとも一方を加熱する加熱器を備えることを特徴とする、請求項2に記載の光処理装置。
【請求項4】
前記ガス生成器は
前記有機化合物を含む有機溶媒を気化室に導入して気化させる気化器と、
前記気化器に接続され、キャリアガスを供給するキャリアガス供給管と、
前記混合ガスを前記チャンバに送る混合ガス供給管と、を備え、
前記有機溶媒に前記キャリアガスを供給して前記混合ガスを生成することを特徴とする、請求項1に記載の光処理装置。
【請求項5】
紫外光に照射された原料ガスで被処理物の表面を改質する光照射装置であって、
酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスと、キャリアガスと、を所望の混合比で混合した混合ガスを生成する、ガス生成器と、
前記混合ガスを内部に供給できるように前記ガス生成器と通気可能に接続され、かつ、被処理物を内部に配置可能なチャンバと、
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を、前記原料ガスに照射する光源と、を備え、
前記ガス生成器は、
酸素原子を有する前記有機化合物を含む有機溶媒を溜める容器と、
前記容器に溜められた前記有機溶媒に前記キャリアガスを供給するキャリアガス供給管と、
前記混合ガスを前記チャンバに送る混合ガス供給管と、を備え、
前記有機溶媒に前記キャリアガスを供給して前記混合ガスを生成し、
前記混合ガス供給管は、前記混合ガスを希釈するための希釈ガス供給管が接続されていることを特徴とする、光処理装置。
【請求項6】
前記ガス生成器と前記チャンバとの間に、前記混合ガスを冷却する冷却器を備えることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の光処理装置。
【請求項7】
前記混合ガス中の前記原料ガスの濃度を検出する原料ガス濃度検出器を備え、
前記原料ガス濃度検出器の検出結果に基づいて、前記キャリアガスの供給量と前記混合ガスを希釈するための希釈ガスの供給量の少なくとも一つを調整することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の光処理装置。
【請求項8】
酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスと、キャリアガスと、を所望の混合比で混合した混合ガスを生成する、ガス生成器と、
前記混合ガスを内部に供給できるように前記ガス生成器と通気可能に接続され、かつ、被処理物を内部に配置可能なチャンバと、
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を、前記原料ガスに照射する光源と、を備え、
前記紫外光に照射された前記原料ガスで前記被処理物の表面を改質し、
ラジカル化により前記被処理物の改質を促進させる副原料を含む流体を供給するための付加流体供給管をさらに備えていることを特徴とする、光処理装置。
【請求項9】
前記付加流体供給管が前記混合ガスを前記チャンバに送る混合ガス供給管に通気可能に接続されていることを特徴とする、請求項8に記載の光処理装置。
【請求項10】
前記混合ガスを前記チャンバに送る混合ガス供給管が前記チャンバに通気可能に接続される位置とは異なる位置で、前記付加流体供給管が前記チャンバに通気可能に接続されていることを特徴とする、請求項8に記載の光処理装置。
【請求項11】
紫外光に照射された原料ガスで被処理物の表面を改質する光照射装置であって、
酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスと、キャリアガスと、を所望の混合比で混合した混合ガスを生成する、ガス生成器と、
前記混合ガスを内部に供給できるように前記ガス生成器と通気可能に接続され、かつ、被処理物を内部に配置可能なチャンバと、
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を、前記原料ガスに照射する光源と、を備え、
前記ガス生成器は、
酸素原子を有する前記有機化合物を含む有機溶媒を溜める容器と、
前記容器に溜められた前記有機溶媒に前記キャリアガスを供給するキャリアガス供給管と、
前記混合ガスを前記チャンバに送る混合ガス供給管と、を備え、
前記有機溶媒に前記キャリアガスを供給して前記混合ガスを生成し、
前記容器に溜められた前記有機溶媒に、前記被処理物の改質を促進させる副原料が添加されていることを特徴とする、光処理装置。
【請求項12】
酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスと、キャリアガスと、を所望の混合比で混合した混合ガスを生成する、ガス生成器と、
前記混合ガスを内部に供給できるように前記ガス生成器と通気可能に接続され、かつ、被処理物を内部に配置可能なチャンバと、
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を、前記原料ガスに照射する光源と、を備え、
前記紫外光に照射された前記原料ガスで前記被処理物の表面を改質し、
前記チャンバとは区画され、前記被処理物を内部に配置可能であり、ラジカル化により前記被処理物の改質を促進させる副原料を含む流体を内部に供給できる、もう一つのチャンバと、
前記副原料を含む前記流体に少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を前記原料ガスに照射する光源と、を備えていることを特徴とする、光処理装置。
【請求項13】
酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスと、キャリアガスとの混合ガスが供給され、かつ、被処理物を内部に配置可能なチャンバと、
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を、前記原料ガスに照射する光源と、
前記混合ガス中の前記原料ガスの濃度を検出する原料ガス濃度検出器と、を備え、
前記被処理物の表面に沿って流れる前記原料ガスに前記紫外光を照射し、前記紫外光に照射された前記原料ガスで、前記被処理物の表面を改質することを特徴とする、光処理装置。
【請求項14】
前記原料ガス濃度検出器は、前記チャンバに入る前の前記混合ガスを検出するように配置されていることを特徴とする、請求項13に記載の光処理装置。
【請求項15】
前記チャンバは、前記被処理物の温度を調整する温度調整器を備えていることを特徴とする、請求項1~4,13,14のいずれか一項に記載の光処理装置。
【請求項16】
前記光源は前記チャンバの外に位置し、
前記光源と前記チャンバの間に位置する、前記チャンバの筐体と雰囲気ガスは、前記紫外光を透過することを特徴とする、請求項1~4,13,14のいずれか一項に記載の光処理装置。
【請求項17】
前記光源は筒体に収容されており、前記筒体の少なくとも一部は前記紫外光を透過し、前記光源と前記筒体との間を不活性ガス雰囲気にできることを特徴とする、請求項1~4,13,14のいずれか一項に記載の光処理装置。
【請求項18】
酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスと、キャリアガスと、を所望の混合比で混合した混合ガスを生成する、ガス生成器と、
前記混合ガスを内部に供給できるように前記ガス生成器と通気可能に接続され、かつ、被処理物を内部に配置可能なチャンバと、
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を、前記原料ガスに照射する光源と、を備え、
前記紫外光に照射された前記原料ガスで前記被処理物の表面を改質し、
前記チャンバから排出されたガスに含まれる酸素濃度を検出する酸素濃度検出器を備えていることを特徴とする、光処理装置。
【請求項19】
前記チャンバは、前記混合ガスを内部に供給する、少なくとも一つのガス供給口と、前記チャンバ内のガスを排出する、少なくとも一つのガス排出口とを備え、前記少なくとも一つのガス排出口のうち、少なくとも一つのガス排出口の口径は、前記少なくとも一つのガス供給口のうち、少なくとも一つのガス供給口の口径よりも大きいことを特徴とする、請求項1~4,13,14のいずれか一項に記載の光処理装置。
【請求項20】
酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスと、キャリアガスと、を所望の混合比で混合した混合ガスを生成する、ガス生成器と、
前記混合ガスを内部に供給できるように前記ガス生成器と通気可能に接続され、かつ、被処理物を内部に配置可能なチャンバと、
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を、前記原料ガスに照射する光源と、を備え、
前記紫外光に照射された前記原料ガスで前記被処理物の表面を改質し、
前記チャンバは、前記混合ガスを内部に供給するガス供給口と、前記チャンバ内のガスを排出するガス排出口と、前記被処理物を載置して昇降可能なテーブルとを備え、
前記テーブルは、前記ガス供給口と通気可能に接続された、少なくとも一つのガス噴出ノズルと、前記ガス排出口と通気可能に接続された、少なくとも一つのガス回収ノズルとを備えることを特徴とする、光処理装置。
【請求項21】
前記テーブルは、前記テーブルを囲う側壁を有し、前記側壁の上部にはシール材が配置され、
前記シール材が前記チャンバの天井に接触することで、前記チャンバの中に密閉された処理空間を形成することを特徴とする、請求項20に記載の光処理装置。
【請求項22】
前記ガス回収ノズルのノズル断面の合計面積が、前記ガス噴出ノズルのノズル断面の合計面積より大きいことを特徴とする、請求項20に記載の光処理装置。
【請求項23】
酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスと、キャリアガスと、を所望の混合比で混合した混合ガスを生成する、ガス生成器と、
前記混合ガスを内部に供給できるように前記ガス生成器と通気可能に接続され、かつ、被処理物を内部に配置可能なチャンバと、
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を、前記原料ガスに照射する光源と、を備え、
前記紫外光に照射された前記原料ガスで前記被処理物の表面を改質し、
前記被処理物の外周に接する内側面、及び、前記被処理物の被処理面と間に実質的に段差のない高さを有する表面と、を有する補助プレートを備えることを特徴とする、光処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被処理物の表面を改質するための光処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空紫外光を使用して、特定の原料ガスを活性化させてラジカルを生成し、当該ラジカルを被処理物に供給して、前記被処理物の表面を改質する方法が、以前より知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、真空紫外光を使用して加湿ガスを活性化させて水酸基ラジカルを生成し、生成した水酸基ラジカルを被処理物に供給して、スミア(残渣)を除去する方法が記載されている。また、特許文献2には、真空紫外光を使用してアンモニアガスを活性化させてラジカルを生成し、生成したラジカルを被処理物に供給して、被処理物の表面にある有機物を、灰化又は除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-004802号公報
【文献】特開2005-158796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、鋭意研究の結果、酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を含む有機化合物を原料ガスとし、紫外光で活性化させて生成されるラジカルの作用により、被処理物に特異な改質作用を発現するという知見を得た。そこで、原料ガスとして酸素原子を含む有機化合物を、真空紫外光で活性化させてラジカルを生成し、そのラジカルにより被処理物の表面を改質する方法を発案した。
【0006】
上記発案に基づいた装置の具現化を課題とする。つまり、発明が解決しようとする課題は、紫外光を使用して、原料ガスとして酸素原子を含む有機化合物、又は窒素原子を含む有機化合物を活性化させたラジカルを被処理物に供給し、前記被処理物の表面を改質するための光処理装置を、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、斯かる光処理装置を検討するなかで、原料ガスとして有機化合物を用いる際に、原料ガスの濃度管理が重要であることに気付いた。原料ガスの濃度が低すぎると、被処理物表面と反応するラジカルが少なくなり、効率的に処理できない。原料ガスの濃度が高すぎると、真空紫外光が被処理物表面に到達する手前で真空紫外光が原料ガスに吸収されて、被処理物の表面近傍におけるラジカルの発生が阻害される。その結果、被処理物表面と反応するラジカルが少なくなり、効率的に処理できない。さらに、原料ガスは酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を含む有機化合物を含むから、当該原料ガスの濃度が高いと、爆発等の異常燃焼を発生させるおそれもある。異常燃焼の防止の観点からも、原料ガスの濃度管理が求められる。このような異常燃焼の防止は、上述の従来技術の場合には、考慮する必要の無かった、新たな技術事項である。
【0008】
そこで、本発明の光処理装置は、酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスと、キャリアガスとを所望の混合比で混合した混合ガスを生成する、ガス生成器と、
前記混合ガスを内部に供給できるように前記ガス生成器と通気可能に接続され、かつ、被処理物を内部に配置可能なチャンバと、
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を、前記原料ガスに照射する光源と、を備え、
前記紫外光に照射された前記原料ガスで、前記被処理物の表面を改質する。
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を原料ガスに照射すると、前記原料ガスのラジカルが発生する。このラジカルが前記被処理物の表面を改質する。本発明では、原料ガスとキャリアガスとを所望の混合比で混合するガス生成器を使用するので、前記混合ガス中の前記原料ガスの濃度を、適切な範囲に調整できる。これにより、被処理物の表面を高効率で改質できるとともに、混合ガスの異常燃焼の発生を抑止できる。
キャリアガスは原料ガスをチャンバに運ぶためのガスであり、被処理物の表面改質に寄与しない活性度の低いガス種が用いられる。例えば、キャリアガスとして、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスが用いられる。
【0009】
前記ガス生成器は、
酸素原子を有する前記有機化合物を含む有機溶媒を溜める容器と、
前記容器に溜められた前記有機溶媒に前記キャリアガスを供給するキャリアガス供給管と、
前記混合ガスを前記チャンバに送る混合ガス供給管と、を備え、
前記有機溶媒に前記キャリアガスを供給して前記混合ガスを生成しても構わない。
これは、バブリング方式により原料ガスを生成する方法である。これにより、有機溶媒の濃度又は液量などを調整したり、キャリアガスの供給量を調整したりすることで、原料ガスとキャリアガスとの混合比を所望の値にできる。よって、前記混合ガス中の前記原料ガスの濃度を適切な範囲に調整できる。
【0010】
前記ガス生成器は、前記容器と前記キャリアガスの少なくとも一方を加熱する加熱器を備えても構わない。
この加熱器により、有機溶媒とキャリアガスの少なくとも一方を加熱できるから、多くの有機溶媒を揮発させることができる。その結果、原料ガスの濃度を高めることができる。よって、この加熱器は、前記混合ガス中の前記原料ガスの濃度を適切な範囲に調整できる一手段となる。
【0011】
前記ガス生成器は
前記有機化合物を含む有機溶媒を気化室に導入して気化させる気化器と、
前記気化器に接続され、キャリアガスを供給するキャリアガス供給管と、
前記混合ガスを前記チャンバに送る混合ガス供給管と、を備え、
前記有機溶媒に前記キャリアガスを供給して前記混合ガスを生成しても構わない。
【0012】
前記混合ガス供給管は、前記混合ガスを希釈するための希釈ガス供給管が接続されても構わない。
希釈ガスには、キャリアガスと同様に、被処理物の表面改質に寄与しない活性度の低いガス種が用いられる。例えば、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスが使用される。そうすると、混合ガスを希釈ガスで希釈することにより、希釈後の混合ガスにおける原料ガスの濃度を低下させることができる。その結果、原料ガスの濃度を低下させることができる。よって、希釈ガス供給管からの希釈ガスの供給は、前記混合ガス中の前記原料ガスの濃度を適切な範囲に調整できる一手段となる。
【0013】
前記ガス生成器と前記チャンバとの間に、前記混合ガスを冷却する冷却器を備えても構わない。
混合ガスを冷却することにより混合ガスの飽和蒸気量を下げて、気化した有機溶媒の一部を結露させる。これにより、混合ガスに含まれる原料ガスの量を低減できる。よって、この冷却器は、前記混合ガス中の前記原料ガスの濃度を適切な範囲に調整できる一手段となる。
【0014】
前記混合ガス中の前記原料ガスの濃度を検出する原料ガス濃度検出器を備え、
前記原料ガス濃度検出器の検出結果に基づいて、前記キャリアガスの供給量と前記希釈ガスの供給量の少なくとも一つを調整しても構わない。
これにより、混合ガス中の前記原料ガスの濃度をより適切な範囲に調整できる。
【0015】
ラジカル化により前記被処理物の改質を促進させる副原料を含む流体を供給するための付加流体供給管をさらに備えていても構わない。
【0016】
前記付加流体供給管が前記混合ガス供給管に通気可能に接続されていても構わない。
【0017】
前記混合ガス供給管が前記チャンバに通気可能に接続される位置とは異なる位置で、前記付加流体供給管が前記チャンバに通気可能に接続されていても構わない。原料ガスと副原料を含む流体の混合を避けることで、燃焼等の反応を避けることができる。
【0018】
前記容器に溜められた前記有機溶媒に、前記被処理物の改質を促進させる副原料が添加されていても構わない。原料ガスと副原料のガス又は霧状の液体とを同時に生成できる。
【0019】
前記チャンバとは区画され、前記被処理物を内部に配置可能であり、前記被処理物の改質を促進させる副原料を含む流体を内部に供給できる、もう一つのチャンバと、
前記副原料を含む前記流体に少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を前記原料ガスに照射する光源と、を備えていても構わない。原料ガスと副原料を含む流体の混合を避けることで、燃焼等の反応を避けることができる。
【0020】
ところで、光処理装置は混合ガス生成器を有しておらず、光処理装置の外部から混合ガスが供給される場合も考えられる。そのような場合には、供給される混合ガス中の原料ガスの濃度が、所望の濃度範囲に入っているか否かを確認するため、光処理装置が濃度検出器を有しているとよい。
つまり、本発明の光処理装置は、酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスと、キャリアガスとの混合ガスが供給され、かつ、被処理物を内部に配置可能なチャンバと、
少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光を、前記原料ガスに照射する光源と、
前記混合ガス中の前記原料ガスの濃度を検出する原料ガス濃度検出器と、を備え、
前記紫外光に照射された前記原料ガスで、前記被処理物の表面を改質する。
これにより、前記混合ガス中の前記原料ガスの濃度検出結果に基づいて、光処理装置に供給される混合ガスにおける、原料ガスとキャリアガスとの混合比を調整できる。また、仮に、原料ガスとキャリアガスとの混合比を調整しても所望の濃度範囲に入らない場合には、光処理装置を自動停止させたり、エラー信号を発出させたりしてもよい。
【0021】
前記原料ガス濃度検出器は、前記チャンバに入る前の前記混合ガスを検出するように配置されていても構わない。
詳細は後述するが、これにより、光照射により生成された有機溶媒ガスの変質物による原料ガス濃度検出器の誤検知を防ぐことができる。
【0022】
前記チャンバは、前記被処理物の温度を調整する温度調整器を備えていても構わない。
温度調整器は、例えば、電気エネルギー、加熱流体若しくは光エネルギーにより被処理物を昇温できる機器、又は、電気エネルギー若しくは冷却流体により被処理物を冷却できる機器である。温度調整器を使用することにより、被処理物表面での化学反応の進み具合を制御できる。
【0023】
前記光源は前記チャンバの外に位置し、
前記光源と前記チャンバとの間に位置する、前記チャンバの筐体と雰囲気ガスは、前記紫外光を透過しても構わない。
通常、光源では高電圧が印加されて放電現象が発生する。そのため、光源が燃焼の起点、すなわち、火種となるおそれがある。光源をチャンバの外に配置することにより、原料ガスの異常燃焼リスクをさらに低減できる。また、光源をチャンバの外に配置すると、原料ガスの変質物が光源の表面に付着することを防止し、光源の照度の低下を防ぐ。さらに、チャンバを小型化できるとともに、光源の保守点検又は交換作業を簡便にできる。前記光源と前記チャンバとの間は、前記紫外光を透過するガス雰囲気であるので、前記チャンバの外で前記紫外光が減衰しにくい。
【0024】
前記光源は筒体に収容されており、前記筒体の少なくとも一部は前記紫外光を透過し、前記光源と前記筒体との間を不活性ガス雰囲気にしても構わない。
光源を筒体に収容し、筒体の内部を不活性ガス雰囲気とすることにより、原料ガスの異常燃焼リスクをさらに低減できる。また、光源を筒体に収容すると、原料ガスの変質物が光源の表面に付着することを防止し、光源の照度の低下を防ぐ。また、被処理物の反応に用いられる原料ガスは、被処理物の近傍に存在する原料ガスであるから、光源の近傍である光源と筒体との間を不活性ガス雰囲気にしても、被処理物との反応には影響が少ない。むしろ、光源と筒体との間を不活性ガス雰囲気にすると、紫外光の減衰が抑制され、より多くの前記紫外光を被処理物の近傍の原料ガスに照射できる。
【0025】
前記チャンバから排出されたガスに含まれる酸素濃度を検出する酸素濃度検出器を備えても構わない。これにより、チャンバ内から大気が排出され、異常燃焼リスクが低下したことを確認できる。
【0026】
前記チャンバは、前記混合ガスを内部に供給する、少なくとも一つのガス供給口と、前記チャンバ内のガスを排出する、少なくとも一つのガス排出口とを備え、前記少なくとも一つのガス排出口のうち、少なくとも一つのガス排出口の口径は、前記少なくとも一つのガス供給口のうち、少なくとも一つのガス供給口の口径よりも大きくても構わない。
これにより、ガスの排気能力をガスの供給能力に比べて大きくすることができる。その結果、排気不足に伴うチャンバ内における混合ガスの乱流や、ガス排出口以外からチャンバ外へのガス漏出を、抑えることができる。
【0027】
前記チャンバは、前記混合ガスを内部に供給するガス供給口と、前記チャンバ内のガスを排出するガス排出口と、前記被処理物を載置して昇降可能なテーブルとを備え、
前記テーブルは、前記ガス供給口と通気可能に接続された、少なくとも一つのガス噴出ノズルと、前記ガス排出口と通気可能に接続された、少なくとも一つのガス回収ノズルとを備えても構わない。
ガス噴出ノズルとガス回収ノズルを設けることで、昇降機構の高さが変化しても、混合ガスの流れの変化を抑制できる。
【0028】
前記テーブルは、前記テーブルを囲う側壁を有し、前記側壁の上部にはシール材が配置され、
前記シール材が前記チャンバの天井に接触することで、前記チャンバの中に密閉された処理空間を形成しても構わない。
これにより、混合ガスの供給量を少なくすることができる。
【0029】
前記ガス回収ノズルのノズル断面の合計面積が、前記ガス噴出ノズルのノズル断面の合計面積より大きくても構わない。
これにより、ガスの排気能力をガスの供給能力に比べて大きくすることができる。
【0030】
前記被処理物の外周に接する内側面、及び、前記被処理物の被処理面と間に実質的に段差のない高さの表面と、を有する補助プレートを備えても構わない。
これにより、供給した混合ガスの流れが、被処理物の側面に接触することで乱されることを防ぐ。
【発明の効果】
【0031】
よって、真空紫外光を使用して、原料ガスとして酸素原子を含む有機化合物を活性化させたラジカルを被処理物に供給し、前記被処理物の表面を改質するための装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】第一実施形態の光処理装置の外観図である。
図2A】第一実施形態の光処理装置で、非処理時の状態の模式図である。
図2B】第一実施形態の光処理装置で、処理時の状態の模式図である。
図3A】フッ素樹脂の表面改質を説明する断面模式図である。
図3B】フッ素樹脂の表面改質を説明する断面模式図である。
図3C】フッ素樹脂の表面改質を説明する断面模式図である。
図3D】フッ素樹脂の表面改質を説明する断面模式図である。
図4A】金属酸化膜の表面改質を説明する断面模式図である。
図4B】金属酸化膜の表面改質を説明する断面模式図である。
図5図2Bの部分拡大図である。
図6】補助プレートを説明する図である。
図7】第二実施形態の光処理装置を示す模式図である。
図8】第三実施形態の光処理装置を示す模式図である。
図9】第四実施形態の光処理装置を示す模式図である。
図10】第五実施形態の光処理装置を示す模式図である。
図11】第六実施形態の光処理装置を示す模式図である。
図12】第七実施形態の光処理装置を示す模式図である。
図13A】第八実施形態の光処理装置を示す模式図である。
図13B】第八実施形態の第一変形例の光処理装置を示す模式図である。
図13C】第八実施形態の第二変形例の光処理装置を示す模式図である。
図14】第九実施形態の光処理装置を示す模式図である。
図15】第十実施形態の光処理装置を示す模式図である。
図16A】チャンバと光源の変形例を示す模式図である。
図16B】チャンバと光源の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図面を参照しながら各実施形態を説明する。なお、本明細書に開示された各図面は、あくまで模式的に図示されたものである。すなわち、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しておらず、また、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0034】
<第一実施形態>
[光処理装置の概要]
はじめに、図1図2A及び図2Bを参照しながら、光処理装置の一実施形態の概要を説明する。図1は光処理装置の外観図である。図2A及び図2Bは、図1の光処理装置の模式図である。光処理装置10は、チャンバ1と、ガス生成器5と、光源3と、を有する。図1の外観図では、チャンバ1と、ガス生成器5を構成する一部分と、光源3の配置される光源室35と、が見てとれる。
【0035】
図2Aが非処理時の状態を示すのに対し、図2Bは処理時の状態を示す。図2Aの説明は後述する。図2Bを参照して、ガス生成器5では、酸素原子及び窒素原子の少なくとも一方を有する有機化合物を含む原料ガスG2と、キャリアガスG1と、を所望の混合比で混合し、混合ガス(G1+G2)を生成する。キャリアガスG1には、主に、例えば窒素ガスや希ガス等の不活性ガスが使用される。ガス生成器5は混合ガス供給管56を介してチャンバ1と通気可能に接続され、生成された混合ガス(G1+G2)は、混合ガス供給管56を通ってチャンバ1の内部へ供給される。ガス生成器5及び混合ガス(G1+G2)の詳細は、後述する。
【0036】
チャンバ1は、その筐体にガス供給口2及びガス排出口4を有する。チャンバ1は、その内部に、被処理物9を載置できる空間を有する。本実施形態では、被処理物9は補助プレート81の上に載置される。補助プレート81はテーブル11の上に載置される。テーブル11はチャンバ1の中に配置される。チャンバ1及び補助プレート81の構造については後述する。
【0037】
光源3の配置される光源室35は、チャンバ1の外に配置されている。チャンバ1の筐体のうち、光源3とチャンバ1との間に位置する部分の筐体15には、紫外光L1を透過する材料(例えば、石英ガラス)を使用している。これにより、光源3から放射された紫外光L1が、チャンバ1内の被処理物9付近の混合ガス(G1+G2)に含まれる原料ガスG2に照射される。なお、図2A及び図2Bでは、紫外光L1を透過する筐体15はチャンバ1の天井に位置するが、紫外光L1を透過する筐体15がチャンバ1の側壁に位置していてもよい。
【0038】
光源3が放射する光は、真空紫外光、より詳細には、少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光である。原料ガスG2に照射された紫外光L1は、原料ガスG2を活性化させてラジカルを生成する。ラジカルの詳細については後述する。生成されたラジカルは、被処理物9の表面を改質する。
【0039】
本明細書において使用される、「少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光」とは、205nm以下に発光帯域を有する光であり、斯かる光には、例えば、ブロード波長光における最大強度を示すピーク発光波長が205nm以下となる発光スペクトルを示す光や、複数の極大強度(複数のピーク)を示す発光波長を有する場合、そのうちのいずれかのピークが205nm以下の波長範囲に含まれるような発光スペクトルを示す光を含む。また、発光スペクトル内における全積分強度に対して、205nm以下の光が、少なくとも30%以上の積分強度を示す光も、「少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光」に含まれる。以下、「少なくとも波長205nm以下の波長域に強度を示す紫外光」を、単に「紫外光」と記載することがある。
【0040】
光源3には、例えば、キセノンエキシマランプが使用される。キセノンエキシマランプのピーク発光波長は172nmであり、酸素を含む有機化合物に吸収されやすく、ラジカルを多く生成するとともに、不活性ガスに吸収されにくい。
【0041】
被処理物9の具体例として、医療や高周波基板等の様々な用途に使用されるフッ素樹脂や、金属酸化膜が表面に存在するプリント配線板が挙げられる。被処理物9の種類によって、表面の改質作用は異なる。詳細は後述するが、被処理物9の表面がフッ素樹脂の場合には、表面改質により、フッ素樹脂の表面を疎水性から親水性に転換できる。これにより、例えば、フッ素樹脂と他の材料との接合力を高められる。被処理物9が金属酸化膜を表面に有するプリント配線板の場合には、表面改質により、当該金属酸化膜を還元できる。これにより、プリント配線板の配線部の導電性を高めたり、はんだの接合強度を向上させたりすることができる。
【0042】
[光処理装置による原料ガスのラジカル生成]
光処理装置による原料ガスG2のラジカル生成の機序を説明する。ここでは、酸素原子を含む有機化合物である原料ガスG2としてエタノール(COH)を取り上げる。エタノールの分子に、紫外光(hν)を照射して、ラジカルを生成する工程を、化学反応式を示しながら説明する。
【化1】
【化2】
【化3】
【0043】
上記(1)~(3)式に示されるように、紫外光(hν)をエタノール分子に照射すると、紫外光のエネルギーがエタノール分子を構成する原子間の結合を切断し、炭素原子、水素原子及び酸素原子からなるラジカル(「{CHO}ラジカル」又は「{CHO}・」と表記することがある)と、水素ラジカル(「H・」と表記することがある)と、を生成する。ラジカルは、不対電子を持つ原子又は分子である。{CHO}ラジカルは、Cがラジカル化されたものと、Oがラジカル化されたものとを含む。CとOのどちらがラジカル化されるか、及びどの位置のCがラジカル化されるかの違いに因って、上記(1)~(3)式に示した3種類の{CHO}ラジカルが形成される。いずれの{CHO}ラジカルも均等の割合で生成されるとは限らない。
【0044】
なお、上記(1)~(3)式に示された3種類の化学反応式は、不対電子を持つ原子を一つ有する{CHO}ラジカルについて示したものである。紫外光の照射により、不対電子を持つ原子を2つ以上有する{CHO}ラジカルが生成されても構わない。
【0045】
次に、窒素原子を含む有機化合物の場合を説明する。窒素原子を含む有機化合物の例として、エチルアミン(CNH)を取り上げる。エチルアミンの分子に、紫外光(hν)を照射して、ラジカルを生成する工程の、化学反応式を示す。
【化4】
【化5】
【化6】
【0046】
上記(4)~(6)式に示されるように、紫外光(hν)がエチルアミン分子に照射されると、紫外光のエネルギーがエチルアミン分子を構成する原子間の結合を切断し、炭素原子、水素原子及び窒素原子からなるラジカル(「{CHN}ラジカル」と表記することがある)と、水素ラジカルと、を生成する。ラジカルは、不対電子を持つ原子又は分子である。{CHN}ラジカルは、Cがラジカル化されたものと、Nがラジカル化されたものとを含む。CとNのどちらがラジカル化されるか、及びどの位置のCがラジカル化されるかの違いに因って、上記(4)~(6)式に示した3種類の{CHN}ラジカルが形成される。いずれの{CHN}ラジカルも均等の割合で生成されるとは限らない。
【0047】
なお、上記(4)~(6)式に示された、それぞれ3種類の化学反応式は、不対電子を持つ原子を一つ有する{CHN}ラジカルについて示したものである。紫外光の照射により、不対電子を持つ原子を2つ以上有する{CHN}ラジカルが生成されても構わない。
【0048】
原料ガスG2内の有機化合物として、化学構造内に酸素原子を有する例と、化学構造内に窒素原子を有する例を挙げたが、化学構造内に酸素原子と窒素原子の両方を含んでいても構わない。
【0049】
なお、混合ガスに紫外光を照射してラジカルを生成する反応は、圧力に関係なく進行するので、反応場であるチャンバ内を必ずしも減圧環境にしなくてもよい。ただし、短時間でチャンバ1内の雰囲気を混合ガス雰囲気に置換させるために、ガス排出口4に真空ポンプを接続し、チャンバ1内を減圧できるようにしても構わない。
【0050】
[ラジカルによる被処理物の表面改質]
生成したラジカルによる、被処理物9の表面改質工程を説明する。表面改質の機序は被処理物9の素材によって異なる。はじめに、図3A及び図3Bを参照しながら、被処理物9がフッ素樹脂である場合の表面改質を説明する。原料ガスG2としてエタノールを使用した例を示す。図3Aは、フッ素樹脂91(ここでは、PTFE)が表面改質される直前の様子を示した、フッ素樹脂91の断面模式図である。図3Bは、図3Aのフッ素樹脂91を表面改質した後の様子を示した、フッ素樹脂91の断面模式図である。図3A図3Bでは、フッ素樹脂91の表面の化学構造を理解できるように示している。
【0051】
図3Aに示されるように、表面改質前のフッ素樹脂91の表面には、炭素原子(C)に結合したフッ素原子(F)が多く存在する。また、エタノール分子は紫外光を吸収してラジカル化される。フッ素樹脂91の表面付近には、エタノール分子から生成された{CHO}ラジカルと、水素ラジカルとが存在する。
【0052】
フッ素樹脂91に含まれるフッ素原子は、炭素原子と結合した状態にある。炭素原子とフッ素原子間の結合エネルギーは485kJ/molと高く、フッ素原子と炭素原子とを熱や光によって切り離すには、非常に大きなエネルギーが必要である。
【0053】
ここで、フッ素原子の電気陰性度は4.0、水素原子の電気陰性度は2.2であり、両者は大きく異なる。このため、水素ラジカルは静電引力によりフッ素原子に接近することができ、HF(フッ化水素)を形成することで、フッ素原子と炭素原子の間の結合を切断する。水素原子とフッ素原子の間の結合エネルギーは568kJ/molとさらに高く、また、HFは気体としてフッ素樹脂表面から離れるため、HFの生成反応は不可逆的に進行する。フッ素樹脂91の表面からフッ素を引き抜かれた場所には、{CHO}ラジカル又は水素ラジカルが結合する。結合した後の様子が図3Bに示されている。
【0054】
図3Bでは、6個のフッ素原子が引き抜かれて、そのうち3箇所に水素ラジカルが結合し、残りの3箇所に{CHO}ラジカルが結合した様子を例示しているが、表面にフッ素原子が残留していても構わない。また、水素ラジカルの結合数と{CHO}ラジカルの結合数は同じ数でなくても構わない。例えば、フッ素原子の引き抜かれた場所に全て{CHO}ラジカルが結合しても構わない。フッ素樹脂91の表面において、少なくとも一部には、炭素原子、水素原子及び酸素原子からなる官能基(以下、「{CHO}官能基」ということがある)が存在する。
【0055】
図3B中、(a)に示される{CHO}官能基は、上記(3)式により得られた{CHO}ラジカルがフッ素樹脂91と結合することにより形成される。図3B中、(b)に示される{CHO}官能基は、上記(1)式により得られた{CHO}ラジカルがフッ素樹脂91と結合することにより形成される。図3B中、(c)に示される{CHO}官能基は、上記(2)式により得られた{CHO}ラジカルがフッ素樹脂91と結合することにより形成される。
【0056】
フッ素樹脂91と結合した{CHO}官能基は酸素原子を含むため、極性がある。図3B中、(b)及び(c)に示される{CHO}官能基は、それぞれ、末端にヒドロキシ基を有するため、強い親水性を示す。図3B中、(a)に示される{CHO}官能基は、フッ素樹脂91との間にエーテル結合を形成するため、ヒドロキシ基ほど強い親水性ではないものの、一定の親水性を示す。このようにして、水素ラジカル及び{CHO}ラジカルにより、フッ素樹脂91の表面に親水化層を形成する。よって、被処理物9がフッ素樹脂である場合、酸素原子を含む有機化合物を活性化させたラジカルを供給すると、当該フッ素樹脂の表面を効果的に親水化できる。また、詳細は第八実施形態において説明するが、{CHO}官能基は、改質を促進する副原料によりさらなる親水化のために利用される。
【0057】
次に、図3C及び図3Dを参照しながら、被処理物9がフッ素樹脂であり、原料ガスG2としてエチルアミンを使用した例を示す。図3Cは、フッ素樹脂91(ここでは、PTFE)が表面改質される直前の様子を示した、フッ素樹脂91の断面模式図である。図3Dは、図3Cのフッ素樹脂91を表面改質した後の様子を示した、フッ素樹脂91の断面模式図である。図3C図3Dでは、フッ素樹脂91の表面の化学構造を理解できるように示している。
【0058】
図3Cに示されるように、表面改質前のフッ素樹脂91の表面には、炭素原子(C)に結合したフッ素原子(F)が多く存在する。また、エチルアミン分子は紫外光を吸収してラジカル化される。フッ素樹脂91の表面付近には、エチルアミン分子から生成された{CHN}ラジカルと、水素ラジカルとが存在する。
【0059】
図3Dでは、6個のフッ素原子が引き抜かれて、そのうち3箇所に水素ラジカルが結合し、残りの3箇所に{CHN}ラジカルが結合した様子を例示している。このように、フッ素樹脂91の表面において、少なくとも一部には、炭素原子、水素原子及び窒素原子からなる官能基(以下、「{CHN}官能基」ということがある)が存在する。
【0060】
図3D中、(d)に示される{CHN}官能基は、上記(6)式により得られた{CHN}ラジカルがフッ素樹脂91と結合することにより形成される。図3D中、(e)に示される{CHN}官能基は、上記(4)式により得られた{CHN}ラジカルがフッ素樹脂91と結合することにより形成される。図3D中、(f)に示される{CHN}官能基は、上記(5)式により得られた{CHN}ラジカルがフッ素樹脂91と結合することにより形成される。(d)、(e)及び(f)に示される{CHN}官能基の形成された表面は、フッ素樹脂91の表面よりも、親水性を示す。また、詳細は第八実施形態において説明するが、{CHN}官能基は、改質を促進する副原料によりさらなる親水化のために利用される。
【0061】
次に、図4A及び図4Bを参照しながら、被処理物9がプリント配線板の表面に形成された金属酸化膜である場合の表面改質を説明する。図4Aは、金属酸化膜92(ここでは、酸化銅)が表面改質される直前の様子を示した、金属酸化膜92の断面模式図である。図4Bは、図4Aの金属酸化膜92を表面改質した後の、金属酸化膜92の断面模式図である。図4A図4Bでは、金属酸化膜92の表面がCuOであることを理解しやすいように示している。
【0062】
図4Aに示されるように、金属酸化膜92の表面付近には、エタノール分子から生成された{CHO}ラジカルと、水素ラジカルとが存在する。水素ラジカルが金属酸化膜92を構成する金属原子(ここではCu)と酸素原子の間の結合を切断する。水素ラジカルは切断した酸素原子と結合して水分子を生成する。これより、金属酸化膜92の表面から酸素原子が取り除かれる。よって、被処理物9が金属酸化膜である場合、酸素原子を含む有機化合物を活性化させたラジカルを供給することで、当該金属酸化膜を効果的に還元できる。なお、切断された{CHO}ラジカルは、他の{CHO}ラジカルと結合して原料ガスの変質物を生成する。また、図示しないが、{CHN}ラジカルを使用した場合でも金属酸化膜を還元できる。
【0063】
[原料ガス]
上記では、原料ガスG2がエタノールである場合を例に説明したが、エタノール以外の原料ガスG2についても、上述した表面改質に利用できる。酸素原子を含む有機化合物の中でも、特に、ヒドロキシ基、カルボニル基及びエーテル結合の少なくとも一つを含む有機化合物であるとよい。さらに、アルコール、ケトン、アルデヒド、及びカルボン酸は、原料ガスG2として好適に使用される。アルコールはヒドロキシ基を含むため、フッ素樹脂の表面において強い親水性を示す。ケトンとアルデヒドはカルボニル基を含んでいるため、フッ素樹脂の表面において強い親水性を示す。カルボン酸はヒドロキシ基とカルボニル基を含む、つまり、カルボキシ基を含んでいるため、フッ素樹脂の表面において強い親水性を示す。被処理物9が金属酸化膜である場合にも、アルコール、ケトン、アルデヒド、及びカルボン酸は強力な還元力を発揮する。また、窒素原子を含む有機化合物は、アミノ基、イミノ基又はシアノ基の少なくとも一つを含んでいるとよく、特に、炭素数が4以下のアミン、及び炭素数が4以下のニトリルからなる群から選択される少なくとも一つであるとより好ましい。例えば、メチルアミン、エチルアミン又はアセトニトリルであるとよい。
【0064】
人体に対する安全性、取扱いの簡便性、入手の容易性又は経済性などを考慮すれば、アルコールの中では、炭素数が10以下のアルコールが好ましく、特に、炭素数が4以下のアルコールがより好ましい。ケトンの中では、炭素数が10以下のケトンが好ましい。また、炭素数が一つのメタノールは、人体に対して有害な作用を示すことがあるから、炭素数が2以上のアルコールを使用するとより好ましい。ケトンの中では、アセトンがより好ましい。
【0065】
[原料ガスの濃度管理]
上述したように、原料ガスG2に酸素原子を含む有機化合物を使用した光処理装置の設計を検討する際、混合ガス中の原料ガスG2の濃度管理が重要である。原料ガスG2の濃度が低すぎると、被処理物9の表面と反応する有機化合物が少なくなり、処理効率が低下する。原料ガスG2の濃度が高すぎると、被処理物9の表面に紫外光が到達しにくくなり、被処理物9の表面でのラジカル発生が阻害され、処理効率が低下する。さらに、混合ガス中の原料ガスG2の濃度が高いと爆発等の異常燃焼を発生させるおそれもある。異常燃焼の防止の観点からも、濃度管理が求められる。
【0066】
原料ガスG2の好ましい濃度範囲は原料ガス種によって異なる。その理由のひとつは、原料ガス種によって紫外光の吸収率が異なるためである。例えば、原料ガスG2がエタノールの場合には、紫外光の吸収率が比較的小さいため、高濃度にしても問題が生じ難く、むしろラジカルを多く生成して処理効率が高まる。反対に、原料ガスG2がジエチルエーテルの場合には、紫外光の吸収率が比較的大きいため、高濃度にすると処理効率が低下してしまう。さらに、ジエチルエーテルはエタノールに比べて異常燃焼の発生濃度が低く、安全に使用するためにはエタノールよりも低濃度であることが要求される。
【0067】
図2Bを参照しながらガス生成器5について説明する。本実施形態のガス生成器5は、バブリング法により、原料ガスG2の分圧が所望の範囲を満たすように混合ガス(G1+G2)を生成する。ガス生成器5は、有機溶媒51が収容された容器55と、容器55内の有機溶媒51にキャリアガスG1を供給するキャリアガス供給管52と、を有する。
【0068】
有機溶媒51は、例えば、酸素原子を含む有機化合物を含む液体(例えば、エタノール)であり、当該液体中にキャリアガスG1を吹き込み、当該液体を揮発させて、酸素原子を含む有機化合物をガスとして取り出す。これにより、酸素原子を含む有機化合物を含む原料ガスG2とキャリアガスG1との混合ガス(G1+G2)を得る。ガス生成器5は、有機溶媒51の濃度又は液量などを調整することで、原料ガスG2とキャリアガスG1との混合比を調整できる。
【0069】
キャリアガス供給管52には、流量調整弁54と流量計53とが配置されている。ガス生成器5は、流量計53を見ながら流量調整弁54を使用してキャリアガスG1の供給量を調整することでも、原料ガスG2とキャリアガスG1との混合比を調整できる。
【0070】
本実施形態の光処理装置10は、混合ガス(G1+G2)中の原料ガスG2の濃度を検出する原料ガス濃度検出器6を備える。原料ガス濃度検出器6の検出結果に基づいて、有機溶媒51の濃度若しくは液量、又はキャリアガスG1の供給量などを調整できる。なお、原料ガス濃度検出器6は光処理装置10にとって必須の構成要素ではない。例えば、検出したいときにのみ、光処理装置に原料ガス濃度検出器を取り付けるなどして、原料ガス濃度を検出しても構わない。
【0071】
原料ガス濃度検出器6は、有機溶媒51が収容された容器55とガス供給口2とを接続する混合ガス供給管56、チャンバ1内、ガス排出口4に接続されるガス排出管(図2Bでは不図示)、のいずれにも配置できる。しかしながら、原料ガス濃度検出器6は混合ガス供給管56に接続すると、より好ましい。なぜなら、原料ガス濃度検出器6のセンサは、原料ガスG2よりも、紫外光の照射により生成された原料ガスの変質物に対して、強い感度を示す場合がある。混合ガス供給管56には原料ガスの変質物が存在しないので、原料ガス濃度検出器6を、チャンバ1の上流に位置する混合ガス供給管56に接続すると、原料ガスの変質物によるセンサの誤検知を抑制できる。
【0072】
濃度管理を行う際、作業者が、有機溶媒51の濃度若しくは液量、又はキャリアガスG1の供給量を、手動で調整しても構わないし、光処理装置10が制御部を有し、光処理装置10に濃度管理を自動制御させても構わない。例えば、定期的に原料ガス濃度検出器6で原料ガスの濃度を検出し、検出結果に基づいて、有機溶媒51の濃度若しくは液量、又はキャリアガスG1の供給量を制御部にフィードバック制御させても構わない。
【0073】
[チャンバ]
図2A及び図2Bを参照しながら、チャンバ1の詳細を説明する。本実施形態において、チャンバ1は、被処理物9を載置して、昇降機構16により昇降可能なテーブル11を有している。昇降機構16によりテーブル11を降下させて(図2Aの状態)、被処理物9を搬入及び搬出する。昇降機構16によりテーブル11を上昇させて処理空間19を形成し(図2Bの状態)、被処理物9に紫外光を照射する。
【0074】
上述したように、チャンバ1は、その筐体に、混合ガス(G1+G2)を内部に供給するガス供給口2と、チャンバ内のガスG3を排出するガス排出口4とを備える。ガス排出口4は、ガス供給口2に対向する位置に設けられる。そして、テーブル11は、テーブル11を囲う側壁13と、ガス噴出ノズル17と、ガス回収ノズル18とを有する。ガス噴出ノズル17は、側壁13のうちガス供給口2に近い位置に設けられる。ガス回収ノズル18は、側壁13のうちガス排出口4に近い位置であり、ガス噴出ノズル17に対向する位置に設けられる。
【0075】
ガス噴出ノズル17は、フレキシブルチューブで、チャンバ1のガス供給口2と通気可能に接続される。ガス回収ノズル18は、フレキシブルチューブで、チャンバ1のガス排出口4と通気可能に接続される。ガス噴出ノズル17とガス回収ノズル18を設けることで、昇降機構16の高さが変化しても、混合ガス(G1+G2)の流れの変化を抑制できる。
【0076】
図5は、図2Bの処理空間19周辺を部分拡大した図である。処理空間19について説明する。本実施形態では、テーブル11を上昇させたとき、テーブル11を囲う側壁13の上部に配置されたシール材33が、チャンバ1の内側の天井に接触する。これにより、チャンバ1の中に、チャンバ1の筐体の内部空間よりも小さい、処理空間19を形成する。処理空間19は、テーブル11(側壁13を含む)及びチャンバ1の内側の天井(光源3とチャンバ1との間に位置する部分の筐体15を含む)により密閉された空間である。チャンバ1の中に、密閉された、小さな処理空間19を形成することで、混合ガスの供給量を少なくすることができる。
【0077】
処理空間19におけるガスの流れを説明する。ガス噴出ノズル17から噴出した混合ガス(G1+G2)は、補助プレート81(補助プレート81の詳細は後述する。)と、ガス噴出ノズル17の設けられた側壁13と、の間に位置するバッファ空間S1に流れ込む。バッファ空間S1とは、ガス噴出ノズル17からの混合ガス(G1+G2)が、直接的に、被処理物9の表面に供給されず、壁面や板等に衝突して滞留する空間を指す。
【0078】
本実施形態のバッファ空間S1では、混合ガス(G1+G2)が補助プレート81の外側面と側壁13に衝突して、混合ガス(G1+G2)の流速を低下させる。そのためには、側壁13におけるガス噴出ノズル17の設けられる高さは、補助プレート81の表面よりも低い位置であるとよい。
【0079】
混合ガス(G1+G2)を衝突させる対象は、上述した補助プレート81の外側面や側壁13に限らず、被処理物9が載置された空間の内壁面(例えば、チャンバ1の内壁面)に衝突させる構成でも構わない。被処理物9の厚みが大きい場合は、混合ガス(G1+G2)を、被処理物9の外側面に衝突させても構わない。
【0080】
ガス噴出ノズル17の噴出口に離間して対向する位置に整流板を配置しても構わない。整流板を使用して、混合ガス(G1+G2)の噴出する向きを、上述した壁面や側面等に衝突するように変更したり、滞留を促進したりする。整流板を配置すると、混合ガス(G1+G2)の局所的に偏重した噴出を抑え、均一に分散した噴出を促進するという利点が得られる。
【0081】
バッファ空間S1を経た混合ガス(G1+G2)は、被処理物9の上方へ流れていく。バッファ空間S1を設けることで、被処理物9の上方において、混合ガス(G1+G2)は、流速の抑えられた層流状態でガス回収ノズル18に向かう流れを形成できる。これにより、被処理物9上での、混合ガス(G1+G2)の濃度の均一性が向上する。
【0082】
混合ガス(G1+G2)が、被処理物9の上方で流速の抑えられた層流を形成するように、バッファ空間S1のみならず、ガス噴出ノズル17内、又は処理空間19内のいずれにも、混合ガス(G1+G2)の整流板を配置しても構わない。
【0083】
ガス回収ノズル18の口径は、ガス噴出ノズル17の口径より大きい。または、ガス回収ノズル18の断面積は、ガス噴出ノズル17の断面積より大きい。これにより、ガスの排気能力をガスの供給能力に比べて大きくすることができる。その結果、排気不足に伴う処理空間19内における混合ガス(G1+G2)の乱流や、処理空間19の圧力上昇に伴う、ガス回収ノズル18以外から処理空間19の外へのガス漏出を、抑えることができる。
【0084】
図2Bを参照して、同様に、ガス回収ノズル18に接続されるガス排出口4の口径も、ガス噴出ノズル17に接続されるガス供給口2の口径よりも大きくしても構わない。ガスの排気能力をガスの供給能力に比べて大きくすることができる。その結果、排気不足に伴うチャンバ1内における混合ガスの乱流や、チャンバ1内空間の圧力上昇に伴う、ガス排出口4以外からチャンバ空間の外へのガス漏出を、抑えることができる。
【0085】
本実施形態では、ガス噴出ノズル17とガス回収ノズル18をそれぞれ一つずつ有している。しかしながら、ガス噴出ノズル17とガス回収ノズル18のいずれか一方を複数配置しても構わない。ガス噴出ノズル17とガス回収ノズル18の数を異ならせても構わない。ガス噴出ノズル17とガス回収ノズル18のいずれか一方を複数設ける場合には、ガス回収ノズル18のノズル断面の合計面積が、ガス噴出ノズル17のノズル断面の合計面積より大きくするようにしても構わない。これにより、ガスの排気能力をガスの供給能力に比べて大きくすることができる。
【0086】
図6を参照しながら補助プレート81を説明する。本実施形態では、被処理物9を囲む補助プレート81を備える。補助プレート81は、被処理物9を嵌めたときに被処理物9の外周に接する内側面82と、被処理物9を嵌めたときに被処理物9の被処理面99と間に実質的に段差のない高さの表面83と、を有する。この補助プレート81を使用することで、供給した混合ガス(G1+G2)が、補助プレート81の表面83と被処理面99との上方を流れるときの、混合ガス(G1+G2)の乱流を抑えて、被処理面99の均一な処理を促進できる。
【0087】
「実質的に段差のない」とは、補助プレート81の表面83と被処理面99との間で、均一処理を妨げるような混合ガス(G1+G2)の乱流を生じさせない段差であることを示す。例えば、補助プレート81の表面83と被処理面99との間の段差が、5mm以内であるとよく、1mm以内であるとさらに好ましい。
【0088】
本実施形態の補助プレート81は、被処理物9の形状に応じた凹部84(図6の斜線でハッチングされた部分)を有している。よって、補助プレート81は、被処理物9を凹部84に載置して搬送可能なキャリアプレートとして使用できる。キャリアプレートは、被処理物9を搬送時の接触傷から保護したり、被処理物9が保持しにくい形状であったとしても、被処理物9の搬送を容易にしたりする。キャリアプレートとして使用しない場合には、凹部84に代えて貫通孔を形成しても構わない。また、補助プレート81を、キャリアプレートとして使用せず、テーブル11と一体化させても構わない。なお、図6に示された被処理物9の形状は一例であり、この形状に限定されない。
【0089】
本実施形態の補助プレート81は、被処理物9の周囲の全てを取り囲む部材である。しかしながら、補助プレート81の形状はこれに限らない。補助プレート81は、被処理物9を嵌めたときに、被処理物9の一部の側面に接するものであっても構わないし、被処理物9との間に隙間が空いているものであっても構わない。また、補助プレート81は、複数に分割されていても構わない。
【0090】
変形例として、チャンバ1は、チャンバ1の筐体の内部空間よりも小さい処理空間19を形成しなくても構わない。その場合には、テーブル11は、テーブル11を囲う側壁13、ガス噴出ノズル17及びガス回収ノズル18を有していなくても構わない。また、テーブル11をチャンバ1の天井に接触させる昇降機構は必須の構成でない。さらに、チャンバ1は、テーブル11を有していなくても構わない。テーブル11を有していない場合には、被処理物9を、チャンバ1の床面、壁面又は天井等に接するように配置しても構わない。
【0091】
[光源]
上述したように、本実施形態において、光源3は、光源室35の内部に配置されている。光源3の周囲かつ光源室35の内部には、紫外光を透過するガス、例えば窒素ガス等の不活性ガス雰囲気となっている。これにより、光源3とチャンバ1の間に位置する雰囲気ガスが紫外光を透過する。よって、光源室35の中で、紫外光L1が減衰しにくい。このような雰囲気ガスは、光源室35の壁又は天井等に設けられた供給口(不図示)及び排出口(不図示)から供給及び排出される。
【0092】
通常、光源3では高電圧の印加により放電現象が発生する。そのため、光源3が燃焼の起点、すなわち、火種となるおそれがある。よって、光源3をチャンバ1の外に配置することにより、光源3を原料ガスG2から遠ざけて、原料ガスG2の異常燃焼リスクをさらに低減できるという効果も得られる。また、原料ガスG2の変質物が光源3の表面に付着することを防止し、光源3の照度の低下を防ぐという効果も得られる。さらに、チャンバ1を小型化できるとともに、光源3の保守点検又は交換作業を簡便にできる。
【0093】
光源3と被処理物9との間隔について、紫外光L1は混合ガス(G1+G2)に吸収されるため、紫外光L1が被処理物9の近傍においてラジカルを生成するように、被処理物9が光源3から離れすぎないようにする。また、被処理物9が光源3に接近しすぎると、紫外光L1を吸収する原料ガスG2の量が減少するため、被処理物9が光源3に接近しすぎないようにする。つまり、紫外光L1によりラジカルが生成し、生成したラジカルが被処理物9の表面に接触できる程度に、被処理物9を光源3から離間させる。被処理物9と光源3との間は、0.2mm以上20mm以下であるとよく、好ましくは0.5mm以上5mm以下であるとよい。
【0094】
上述した昇降機構16とは別に、光源3と被処理物9との間隔を調整するための、昇降機構(不図示)を有していても構わない。具体的には、被処理物9を、光源3に近づける、又は、光源3から遠ざけるために、テーブル11上で被処理物9を昇降させるための新たな昇降機構を有していてもよい。光源3を被処理物9に近づける、又は被処理物9から遠ざけるために、光源3を昇降させる昇降機構を有していてもよい。テーブル11の側壁をチャンバ1の天井に接触させないときは、上述した昇降機構16を、光源3と被処理物9との間隔を調整するために使用しても構わない。
【0095】
[光処理装置の使用方法]
光処理装置10の使用方法の一例を説明する。まず、チャンバ1内の昇降機構16により、テーブル11を降下させた状態にする。そして、チャンバ1に設けられた、被処理物9の搬入出口(不図示)から、被処理物9をチャンバ1内に搬入し、被処理物9をテーブル11上に載置する。この状態が図2Aに示されている。
【0096】
次に、昇降機構16によりテーブル11を上昇させて、処理空間19を形成する。そして、ガス生成器5において、有機溶媒51内にキャリアガスG1を供給しバブリングさせて、原料ガスG2とキャリアガスG1の混合ガス(G1+G2)を生成する。混合ガス供給管56に接続されたガス供給口2から混合ガス(G1+G2)を入れて、チャンバ1内を混合ガス(G1+G2)で置換(パージ)する。処理空間19内に元々存在していた大気(空気)は、ガス回収ノズル18を経てガス排出口4から排出される。
【0097】
チャンバ1内を混合ガス(G1+G2)雰囲気にした後に、光源3を発光させて、混合ガス(G1+G2)中の原料ガスG2を励起して、{CHO}ラジカルと水素ラジカルを生成する。水素ラジカルと{CHO}ラジカルの少なくとも一方が、被処理物9に作用し、被処理物9の表面改質が行われる。表面改質処理を行っている最中の状態が、図2Bに示されている。
【0098】
本実施形態では、大きな面積の表面を有する被処理物9であったとしても、表面を短時間で改質できる。また、被処理物9の近傍にてラジカルを生成するため、生成したラジカルの利用効率が高い。
【0099】
処理する間、混合ガス(G1+G2)をチャンバ1に供給し続けながら紫外光L1を出射しても構わないし、ガス供給口2をバルブ等で遮断して、混合ガス(G1+G2)の供給を停止した状態で、紫外光L1を出射しても構わない。
【0100】
<第二実施形態>
図7を参照しながら、第二実施形態の光処理装置を説明する。以下に説明する以外の事項は、第一実施形態と同様に実施できる。第三実施形態以降も同様である。なお、図7以降では、特段の言及がない限り、チャンバ1の筐体の形状、光源3の位置及びチャンバ1内の構造については単純化して示している。テーブル11の昇降機構、テーブル11に設けられた側壁、ガス噴出ノズル及びガス回収ノズル、並びに補助プレート等は、図示を省略している。
【0101】
図7に示された光処理装置20において、ガス生成器5は、容器55を加熱する加熱器57(容器55を囲むハッチング領域で示される)を有する。加熱器57で容器55を加熱して有機溶媒51を昇温させる。有機溶媒51が昇温すると混合ガス(G1+G2)が昇温し、混合ガス(G1+G2)の飽和蒸気圧が上昇する。その結果、原料ガスG2とキャリアガスG1との混合比の取り得る数値範囲を拡大できる。加えて、混合ガス(G1+G2)が高温で供給されるため、被処理物表面での化学反応を促進できる。
【0102】
混合ガス供給管56で混合ガス(G1+G2)が冷やされないように、混合ガス供給管56を断熱材で覆ってもよい。また、混合ガス供給管56を加熱器で加熱してもよい。さらに、ガス生成器5に供給するキャリアガスG1を、他の加熱器を使用して昇温しても、混合ガス(G1+G2)の温度を高められる。
【0103】
<第三実施形態>
図8を参照しながら、第三実施形態の光処理装置を説明する。光処理装置30において、被処理物9はテーブル11に設けられた温度調整器12により温度調整(加熱又は冷却)される。本実施形態の温度調整器12はテーブル11に埋められた温調流体(加熱流体又は冷却流体)の通る配管である。しかしながら、電熱線又は熱電素子等を使用し電気エネルギーにより被処理物9の温度を調整しても構わない。また、赤外光源等の光エネルギーにより被処理物9を加熱しても構わない。
【0104】
被処理物9の種類や原料ガスG2の種類によっては、被処理物9の温度を上昇させると、被処理物9の表面での反応速度が上がることがある。また被処理物9の種類や原料ガスG2の種類によっては、被処理物9の温度を低下させると、被処理物9の表面に吸着する有機化合物の分子が増えて、反応速度が上がることがある。いずれにしても、被処理物9の温度調整により、被処理物9の表面での化学反応の進み具合を制御できる。
【0105】
<第四実施形態>
図9を参照しながら、第四実施形態の光処理装置を説明する。光処理装置40のガス生成器5は、容器55とガス供給口2との間に、混合ガス(G1+G2)を冷却する冷却器58を有する。混合ガス(G1+G2)を冷却することにより、混合ガス(G1+G2)の飽和蒸気量を下げて、気化した有機溶媒51の一部を結露させる。これにより、混合ガス(G1+G2)に含まれる原料ガスG2の量を低減し、原料ガスG2とキャリアガスG1との混合比を調整できる。
【0106】
本実施形態の光処理装置40は、加熱器57と冷却器58の両方を有しているが、加熱器57を有さず冷却器58のみ有しても構わない。
【0107】
<第五実施形態>
図10を参照しながら、第五実施形態の光処理装置を説明する。光処理装置50のガス生成器5は、キャリアガスG1と原料ガスG2との混合ガス(G1+G2)に対し、希釈ガスG4が混合されて、希釈された混合ガス(G1+G2+G4)を生成する。希釈ガスG4は、例えば、窒素ガスや希ガス(例えば、ヘリウムやアルゴン)等の不活性ガスである。希釈ガスG4を混合することにより、希釈された混合ガス(G1+G2+G4)中の原料ガスG2の濃度を低下させることができる。
【0108】
ところで、光照射を始める前に、チャンバ1内に不活性ガス又は混合ガス(G1+G2)を供給して、チャンバ1内に存在する大気を排出する。大気を排出しておくと、原料ガスG2の燃焼リスクを低下させ、チャンバ1内に残存する大気で紫外光を吸収しないようにできる。大気を排出する際、混合ガス(G1+G2)の供給を停止し、希釈ガスG4のみを供給することもできる。これにより、光照射を始める前に、チャンバ1内に元々存在する大気を希釈ガスG4(例えば、不活性ガス)で置換(パージ)できる。混合ガス(G1+G2)ではなく、希釈ガスG4で置換することにより、混合ガス(G1+G2)の使用量を削減できる。
【0109】
<第六実施形態>
図11を参照しながら、第六実施形態の光処理装置を説明する。光処理装置60のガス生成器8は、バブリング法で混合ガス(G1+G2)を生成せずに、キャリアガスG1に、ガス容器59(例えば、高圧ガス容器)から供給される原料ガスG2を混合して、混合ガス(G1+G2)を生成する。キャリアガスG1の流量調整弁54とガス容器59の流量調整弁61の少なくとも一方で、原料ガスG2とキャリアガスG1の混合比を調整できる。
【0110】
<第七実施形態>
図12を参照しながら、第七実施形態の光処理装置を説明する。光処理装置65のガス生成器14は、直接気化方式により原料ガスG2を生成している。ガス生成器14は、エタノール等の有機化合物を含む液体の有機溶媒51を導入して気化させる気化器88と、気化器88に接続され、キャリアガスG1を供給するキャリアガス供給管52と、得られた混合ガス(G1+G2)をチャンバ1に送る混合ガス供給管56と、を備えている。気化器88内で有機溶媒51が瞬時に気化されることで生成する原料ガスG2に、キャリアガスG1が供給されることにより、キャリアガスG1と原料ガスG2の混合ガス(G1+G2)が生成される。
【0111】
ガス生成器14は、さらに、マスフローコントローラ(86,87)を備える。マスフローコントローラ86は、気化器88に送られる有機溶媒51の液量を調整する。マスフローコントローラ87は、気化器88に送られるキャリアガスのガス量を調整する。マスフローコントローラ(86,87)は、制御部(不図示)により制御される。マスフローコントローラ(86,87)を使用することで、原料ガスG2とキャリアガスG1の濃度管理をより精緻にできる。なお、図12に示されるように、有機溶媒51は、有機溶媒51が収容された容器85に圧送ガスG5を送り込むことで、容器85から有機溶媒51を搬出できる。
【0112】
<第八実施形態>
図13Aを参照しながら、第八実施形態の光処理装置を説明する。光処理装置66は、付加流体供給管41を備えている。付加流体供給管41は、チャンバ1に、被処理物9の改質を促進させる副原料を含む流体F6を供給する。図13Aでは、付加流体供給管41は、混合ガス供給管56に通気可能に接続され、流体F6を原料ガスに混合させている。
【0113】
被処理物9の改質を促進させる副原料について説明する。斯かる副原料の一例として、水蒸気又は霧状の水が挙げられる。水蒸気若しくは霧状の水に上述の紫外光が照射されると、水分子よりOHラジカル及び水素ラジカルを生成する。図3B及び図3Dに示されるように、フッ素樹脂91の表面には多くの炭化水素基が付加される。水分子から生成されたOHラジカル及び水素ラジカルは、付加された炭化水素基に含まれるC-H結合を切断して水素原子を引き抜き、引き抜いた部分にOHラジカルを結合させる。これにより、フッ素樹脂の表面のOH基の数を増大させて、フッ素樹脂の表面における親水化がさらに進む。このように、副原料は、追加的な光処理による被処理物の改質の促進を担う。
【0114】
フッ素樹脂は多孔性材料である。被処理材がフッ素樹脂の場合、原料ガスG2(酸素原子又は窒素原子を含む有機化合物を含むガス)によるフッ素樹脂の表面改質により表面のフッ素が除去されると、水分子がフッ素樹脂の内部に浸透できる。内部に浸透した水が、フッ素樹脂の内部で紫外光によりラジカル化すると、フッ素樹脂の内部でもフッ素樹脂の親水化が進む。
【0115】
水蒸気又は霧状の水は、例えば、水を溜めた容器に窒素ガス等の不活性ガス等でバブリングすることにより得られる。
【0116】
副原料として、他に、酸素ガスを使用してもよい。酸素ガスに上述の紫外光が照射されると酸素ラジカルを生成する。一部の酸素ラジカルは他の酸素分子と結合してオゾン(O)を生成する。図3B及び図3Dに示されるように、フッ素樹脂91の表面には多くの炭化水素基が付加される。酸素ラジカルは、表面の炭化水素基に含まれるC-H結合を切断して水素原子を引き抜き、酸素ラジカル又はオゾンを結合させる。このようにして、フッ素樹脂の表面を酸化させる改質処理を行うことができる。また、改質処理で生じた酸素系官能基は極性を有するので、フッ素樹脂の表面における親水化がさらに進む。
【0117】
ただし、上述したように、副原料が酸素ガスの場合には、原料ガスG2と混合されることにより、燃焼リスクが高まる場合がある。燃料リスクを低下させるには、二つの方法がある。
【0118】
第一の方法は、そもそも、原料ガスG2と酸素ガスを混合しないようにする方法である。原料ガスG2の改質処理が完了した後に、酸素ガスでの改質処理を行う。
【0119】
図13Bは、第八実施形態の光処理装置の第一変形例である。図13Bでは、混合ガス供給管56がチャンバ1に通気可能に接続される位置とは異なる位置で、付加流体供給管41がチャンバ1に直接に通気可能に接続されている。混合ガス供給管56より混合ガス(G1+G2)が供給されている間は、酸素ガスをチャンバ1に供給しない。付加流体供給管41より酸素ガスが供給される間は、チャンバ1に混合ガス(G1+G2)を供給しない。これにより、原料ガスG2と酸素ガスが混合しないようにできる。
【0120】
図13Bでは、付加流体供給管41は、混合ガス供給管56と同じチャンバ1の側壁に接続されているが、付加流体供給管41は、混合ガス供給管56と異なるチャンバ1の側壁、床又は天井に設けられてもよい。
【0121】
また、原料ガスG2による改質処理を行うチャンバ1とは区画された、もう一つのチャンバにおいて副原料による酸素ガスでの改質処理を行っても、原料ガスG2と酸素ガスの混合ガスは発生しない。この場合、被処理物は、原料ガスG2による改質処理を行った後に、もう一つのチャンバに搬送される。
【0122】
第二の方法は、有機化合物と酸素ガスを同時に供給するとき、有機化合物と酸素ガスの少なくともいずれか一方を、燃焼限界値未満の濃度にする方法である。この方法は、有機化合物と酸素ガスを混合せざるを得ない場合に特に適した方法である。
【0123】
有機化合物の燃焼限界値とは、酸素ガスと混合した場合に、何らかの熱的エネルギー等が付与されると燃焼が起こり得る、有機化合物の最低濃度を指す。酸素ガスの燃焼限界値とは、有機化合物と混合した場合に、何らかの熱的エネルギー等が付与されると燃焼が起こり得る、酸素ガスの最低濃度を示す。有機化合物と酸素ガスのいずれか一方の濃度が燃焼限界値未満であると、有機化合物と酸素ガスが混合され、当該混合ガスに何らかの熱的エネルギー等が付与されても、燃焼に到らない。有機化合物又は酸素ガスの濃度を低下させるには、混合ガス(G1+G2)中に不活性ガスを含ませるか、酸素ガスに不活性ガスを含ませるとよい。酸素ガスに不活性ガスを含ませる方法には、空気を使用することも含まれる。
【0124】
常温常圧のエタノールに対する酸素ガスの燃焼限界値は10.5%である。原料ガスと酸素ガスの混合ガス中において、エタノールガスが常温常圧で存在している場合には、混合ガス中における酸素濃度を10.5%未満にすれば、エタノールの濃度にかかわらず、燃焼を抑制できる。よって、混合ガス中における酸素濃度が10.5%未満になるように、混合前の原料ガス又は酸素ガスに窒素ガス等の不活性ガスを含ませるとよい。混合ガス中における酸素濃度は、20%以下であるとよく、10%以下であると好ましく、5%以下であるとより好ましい。
【0125】
上述した、有機化合物又は酸素ガスの濃度の少なくとも一方の濃度を燃焼限界値未満にする方法は一例である。例えば、他に、有機化合物と酸素ガスの圧力又は温度を低下させる方法がある。
【0126】
副原料は、水又は酸素ガスでなくてもよい。副原料は、改質の目的、被処理材の種類、酸素原子又は窒素原子を含む有機化合物により被処理材の表面に付与された官能基の種類によって選択できる。副原料に、原料ガスとは異なる有機化合物を用いてもよい。改質の目的が被処理物表面の還元処理であるとき、副原料は、還元力を有する材料を選択してもよい。
【0127】
図13Cは、第八実施形態の光処理装置の第二変形例である。容器55には、副原料である水が添加されたエタノール、すなわち、エタノール水溶液62が溜められている。エタノール水溶液62を気化させることで、エタノールガス(酸素原子を有する有機化合物)と、水蒸気又は霧状の水(ラジカル化により前記被処理物の改質を促進させる副原料)との両方を、同時に生成できる。
【0128】
気化に際し、酸素ガス又は酸素ガスを含む気体(空気等)でエタノール水溶液62をバブリングすると、エタノールガス、水蒸気又は霧状の水、及び酸素ガスを含む流体が得られる。気化に際し、バブリングするためのガスを不活性ガスにすると、異常燃焼を抑えられる。
【0129】
<第九実施形態>
図14を参照しながら、第九実施形態の光処理装置を説明する。光処理装置70は、チャンバ1から排出されたガスに含まれる酸素濃度を検出する酸素濃度検出器7を備えている。チャンバ1内に存在する大気を排出する際、酸素濃度が酸素濃度検出器7で不検出となったか、または、微量の検知になったことをもって、チャンバ1がキャリアガスG1、希釈ガスG4又は混合ガス(G1+G2)で置換されたことを確認できる。
【0130】
チャンバ1と酸素濃度検出器7との間には切替弁71を有している。酸素濃度検出器7を使用しないときには、切替弁71を使用して、チャンバ1から排出されたガスを流路72に流すとよい。これにより、チャンバ1で発生した反応生成物による、酸素濃度検出器7の汚染を低減する。
【0131】
<第十実施形態>
図15を参照しながら、第十実施形態の光処理装置を説明する。光処理装置80は、混合ガス(G1+G2)を供給するガス供給口2を有し、かつ、被処理物9を内部に配置可能なチャンバ1と、光源3と、混合ガス(G1+G2)中の原料ガスG2の濃度を検出する原料ガス濃度検出器6と、を備えている。本実施形態では、光処理装置80はガス生成器5を有しておらず、光処理装置80の外から、所定の混合比で混合された混合ガス(G1+G2)を導入する。
【0132】
原料ガス濃度検出器6を使用して、供給される混合ガス(G1+G2)における原料ガスG2の濃度を検出する。もし、原料ガスG2の濃度が所望の範囲から外れた場合には、供給される混合ガスにおける、原料ガスG2とキャリアガスG1との混合比を調整する。また、混合ガス(G1+G2)の流入を自動停止させたり、光の照射を自動停止させたりしてもよい。さらに、光処理装置80の制御部がエラー信号を発出させてもよい。
【0133】
以上で各実施形態を説明した。しかしながら、本発明は、上記した各実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の各実施形態に種々の変更又は改良を加えたりすることができる。また、各実施形態を組み合わせても構わない。
【0134】
光処理装置の変更又は改良の一例を挙げる。光処理装置におけるチャンバ1と光源3ぞれぞれの構造と配置関係については、様々な変形例が考えられる。図16A図16Bを参照しながら、このような変形例を説明する。図16A及び図16Bは、それぞれ、光処理装置のうち、チャンバ1と光源3の周辺のみを示した模式図である。
【0135】
図16Aでは光源3がチャンバ1の中に配置されている。上述した光源室を有さないため、光処理装置の構造が単純になる。さらに、光源3をチャンバ1の外に配置する場合に比べて、光源3と被処理物9との間隔を小さくすることができる。
【0136】
図16Bでは、2つの光源3が、それぞれ、光源3の長手方向が図面の手前から奥に向かうように、配置されている。光源3は、いずれも、図面の手前から奥に向かって延びる筒体32に収容されている。筒体32のうち、少なくとも被処理物9に対向する部分は、紫外光L1を透過する材料(例えば、石英ガラスやフッ化カルシウム等)で構成されている。光源3と筒体32との間の空間34は、紫外光を吸収しにくいガスが充填されている。このようなガスは、筒体32に設けられた供給口(不図示)及び排出口(不図示)から供給及び排出されても構わない。
【0137】
光源3を筒体32に収容し、筒体32の内部を不活性ガス雰囲気とすることにより、原料ガスG2の異常燃焼リスクをさらに低減できる。また、原料ガスG2の変質物が光源3の表面に付着することを防止し、光源3の照度の低下を防ぐ。光源3の周囲を不活性ガス雰囲気にしているので、紫外光L1が、被処理物9の表面改質に使用されない、被処理物9から離れた混合ガス(G1+G2)に吸収されにくくなる。その結果、より多くの紫外光を、被処理物9の近傍の混合ガス(G1+G2)に照射できる。なお、このような筒体32は、光源3を光源室35に配置する形態においても使用できる。
【0138】
図16Bでは、混合ガス(G1+G2)のガス供給口2は、チャンバ1の天井に複数設けられていている。被処理物9を均等に処理するための混合ガス(G1+G2)の流れを考慮して、ガス供給口2の位置及び数を設定できる。同様に、ガス排出口4の位置及び数も設定できる。
【符号の説明】
【0139】
1 :チャンバ
2 :ガス供給口
3 :光源
4 :ガス排出口
5、8、14 :ガス生成器
6 :原料ガス濃度検出器
7 :酸素濃度検出器
9 :被処理物
10、20、30、40、50、60、65、66、67,68,70、80:光処理装置
11 :テーブル
12 :温度調整器
13 :側壁
15 :(光源とチャンバとの間に位置する部分の)チャンバの筐体
16 :昇降機構
17 :ガス噴出ノズル
18 :ガス回収ノズル
19 :処理空間
32 :筒体
33 :シール材
34 :(光源と筒体との間の)空間
35 :光源室
41 :付加流体供給管
51 :有機溶媒
52 :キャリアガス供給管
53 :流量計
54、61 :流量調整弁
55 :容器
56 :混合ガス供給管
57 :加熱器
58 :冷却器
59 :ガス容器
71 :切替弁
72 :流路
81 :補助プレート
82 :(補助プレートの)内側面
83 :(補助プレートの)表面
86、87:マスフローコントローラ91 :フッ素樹脂
92 :金属酸化膜
99 :(被処理物の)被処理面
F6 :副原料を含む流体
G1 :キャリアガス
G2 :原料ガス
G1+G2:混合ガス
G4 :希釈ガス
G1+G2+G4:希釈された混合ガス
G5 :圧送ガス
L1 :紫外光
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図14
図15
図16A
図16B