IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小野薬品工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-二重特異性抗体 図1
  • 特許-二重特異性抗体 図2
  • 特許-二重特異性抗体 図3
  • 特許-二重特異性抗体 図4
  • 特許-二重特異性抗体 図5
  • 特許-二重特異性抗体 図6
  • 特許-二重特異性抗体 図7
  • 特許-二重特異性抗体 図8
  • 特許-二重特異性抗体 図9
  • 特許-二重特異性抗体 図10
  • 特許-二重特異性抗体 図11
  • 特許-二重特異性抗体 図12
  • 特許-二重特異性抗体 図13
  • 特許-二重特異性抗体 図14
  • 特許-二重特異性抗体 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20240423BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240423BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C07K16/46
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
A61K39/395 N
A61P37/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023020514
(22)【出願日】2023-02-14
(62)【分割の表示】P 2019547025の分割
【原出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2023054093
(43)【公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2017196039
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴山 史朗
(72)【発明者】
【氏名】手塚 智也
【審査官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106939050(CN,A)
【文献】国際公開第2013/022091(WO,A1)
【文献】SPIESS C.,ZHAI Q. and CARTER P.J.,Alternative molecular formats and therapeutic applications for bispecific antibodies.,Molecular Immunology,2015年01月27日,67,pp.95-106
【文献】BRINKMANN U. and KONTERMANN R.E.,The making of bispecific antibodies.,MABS,2017年01月10日,9(2),pp.182-212
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00- 16/46
C12N 15/00- 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD19に特異的に結合する第二アームを有する、ヒト化または完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体であって、
(a)当該第一アームが、抗ヒトPD-1抗体のVHおよびVLを含み、当該第二アームが、抗ヒトCD19抗体のVHおよびVLを含み、
(b)B細胞上に発現するPD-1およびCD19に結合し、
(c)当該第一アームがPD-1およびPD-L1間の相互作用を許容し、ならびに
(d)二重特異性ハイブリッド抗体の形態であり、および/またはIgG抗体もしくはIgG抗体である、当該抗体。
【請求項2】
請求項記載のヒト化または完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一のB細胞上に発現するPD-1およびCD19に対して各々特異的に結合することができる二重特異性抗体(以下、PD-1/CD19二重特異性抗体と略記する。)ならびにその医薬治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
PD-1は免疫グロブリンファミリーに属する免疫抑制受容体であり、抗原レセプターからの刺激により活性化したT細胞の免疫活性化シグナルを抑制する機能を持つ分子である。PD-1ノックアウトマウスの解析等から、PD-1シグナルは、自己免疫性拡張型心筋症、ループス様症候群、自己免疫性脳脊髄炎、全身性ループスエリテマトーデス、移植片対宿主病、I型糖尿病およびリウマチ性関節炎などの自己免疫疾患の抑制に重要な役割を果たすことが知られている。したがって、PD-1シグナルを増強する物質は自己免疫疾患の予防または治療剤となり得ることが指摘されている。
【0003】
一方、CD19は、B細胞に発現する膜タンパクであり、B細胞受容体複合体と共にB細胞へ刺激を伝える分子である。
【0004】
これまでにPD-1シグナルを増強する物質として、PD-1を認識する二重特異性抗体が知られている(特許文献1ないし3)。これら二重特異性抗体は、T細胞受容体複合体のメンバーであるCD3を認識する抗体の抗原認識部位とPD-1を認識する抗体の抗原認識部位とを遺伝子工学的に連結されたものであり、PD-1をT細胞受容体複合体近傍に位置させる頻度を上げることによって、T細胞受容体複合体に対するPD-1の抑制シグナルを増強する作用をもつ。さらに、これら特許文献には、PD-1二重特異性抗体が自己免疫疾患の予防または治療に使用できることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2003/011911号パンフレット
【文献】国際公開第2004/072286号パンフレット
【文献】国際公開第2013/022091号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、自己免疫疾患に対する予防、症状進展抑制、再発抑制または治療のための新たな薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは鋭意検討した結果、かかる課題を解決し得る物質としてPD-1/CD19二重特異性抗体に着目し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] PD-1に特異的に結合する第一アーム(以下、第一アームと略記することがある。)およびCD19に特異的に結合する第二アーム(以下、第二アームと略記することがある。)を有する、PD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[2] 当該第一アームが、PD-1に特異的に結合する抗体(以下、抗PD-1抗体という。)の重鎖可変領域(以下、VHと略記する。)および軽鎖可変領域(以下、VLと略記する。)を含むことを特徴とする前項[1]記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[3] 当該第二アームが、CD19に特異的に結合する抗体(以下、抗CD19抗体という。)のVHおよびVLを含むことを特徴とする前項[1]または[2]記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[4] N末端から、抗PD-1抗体のVH、抗CD19抗体のVL、抗CD19抗体のVHおよび抗PD-1抗体のVLの順番で、各々、ペプチドリンカーを介してもしくは直接連結された構造を有する、前項[2]または[3]記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[5] N末端から、抗PD-1抗体のVL、抗PD-1抗体のVH、抗CD19抗体のVHおよび抗CD19抗体のVLの順番で、各々、ペプチドリンカーを介してもしくは直接連結された構造を有する、前項[2]または[3]記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[6] N末端から、抗CD19抗体のVL、抗PD-1抗体のVH、抗PD-1抗体のVLおよび抗CD19抗体のVHの順番で、各々、ペプチドリンカーを介してもしくは直接連結された構造を有する、前項[2]または[3]記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[7] 前項[4]記載の抗PD-1抗体のVL、前項[5]記載の抗CD19抗体のVLまたは前項[6]記載のCD19抗体のVHのC末端に、ヒンジ部位からCH3領域までのヒトIgG定常領域(以下、「IgG定常領域(ヒンジ/CH3)」と略記することがある。)を有するポリペプチドのN末端が、ペプチドリンカーを介してもしくは直接に、さらに連結された構造を有する、前項[4]~[6]の何れか一項記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[8] N末端から、抗CD19抗体のVL、抗CD19抗体のVH、IgG定常領域(ヒンジ/CH3)、抗PD-1抗体のVHおよび抗PD-1抗体のVLの順番で、各々、ペプチドリンカーを介してもしくは直接連結された構造を有する、前項[2]または[3]記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[9] さらに、IgG定常領域(ヒンジ/CH3)を有するポリペプチドを含む構造を有する、前項[7]または[8]記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[10] ペプチドリンカーが、Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号1;以下、(Gly)×4-Serと略記する。)またはGly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号2;以下、((Gly)×4-Ser)×3と略記する。)である、前項[4]~[9]の何れか一項記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[11] ダイアボディ、二重特異性sc(Fv)、二重特異性ミニボディ、二重特異性F(ab′)、二重特異性ハイブリッド抗体、共有結合型ダイアボディ(二重特異性DART)、二重特異性(FvCys)、二重特異性F(ab′-ジッパー)、二重特異性(Fv-ジッパー)、二重特異性三鎖抗体または二重特異性mAbの形態である、前項[1]~[3]の何れか一項記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[12] 二重特異性ハイブリッド抗体の形態である、前項[1]~[3]の何れか一項記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[13] IgG抗体である、前項[1]~[6]および[10]~[12]の何れか一項記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[14] IgG抗体が、IgG抗体またはIgG抗体である、前項[13]記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[15] IgG抗体が、ADCCおよび/またはCDC作用のない抗体である、前項[14]記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[16] IgG定常領域(ヒンジ/CH3)のアイソタイプが、IgGである、前項[7]~[9]記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[17] PD-1およびCD19が、各々ヒトPD-1およびヒトCD19である、前項[1]~[16]の何れか一項記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[18] モノクローナル抗体である、前項[1]~[17]の何れか一項記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[19] ヒト化または完全ヒト型抗体である、前項[1]~[18]の何れか一項記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[20] 単離抗体である、前項[1]~[19]の何れか一項記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[21] 当該第一アームがPD-1およびPD-L1間の相互作用、PD-1およびPD-L2との相互作用またはそれら両相互作用を許容する、前項[1]~[20]の何れか一項記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[22] B細胞上に発現するPD-1およびCD19に結合する、前項[1]~[21]の何れか一項記載のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片。
[23] PD-1に特異的に結合する第一アームおよびCD19に特異的に結合する第二アームを有する、ヒト化または完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体であって、
(a)当該第一アームが抗ヒトPD-1抗体のVHおよびVLを含み、当該第二アームが抗ヒトCD19抗体のVHおよびVLを含み、
(b) B細胞上に発現するPD-1およびCD19に各々結合し、
(c) 当該第一アームがPD-1およびPD-L1間の相互作用を許容し、ならびに
(d) 二重特異性ハイブリッド抗体の形態であり、および/またはIgG抗体もしくはIgG抗体である、当該抗体。
[1-1] 前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
[2-1] 前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体を有効成分として含む、自己免疫疾患の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤。
[2-2] 自己免疫疾患が、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、慢性円板状エリテマトーデス、多発性硬化症(全身性強皮症、進行性全身性硬化症)、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、結節性動脈周囲炎(結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎)、大動脈炎症候群(高安動脈炎)、悪性関節リウマチ、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、脊椎関節炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、成人スティル病、血管炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、過敏性血管炎、リウマトイド血管炎、大型血管炎、ANCA関連血管炎(例えば、多発血管炎性肉芽腫症および好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)、コーガン症候群、RS3PE症候群、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症、抗リン脂質抗体症候群、好酸球性筋膜炎、IgG4関連疾患(例えば、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性膵炎など)、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、慢性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎、原発性胆汁性肝硬変、大動脈炎症候群、グッドパスチャー症候群、急速進行性糸球体腎炎、抗糸球体基底膜腎炎、巨赤芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血、自己免疫性好中球減少症、特発性血小板減少性紫斑病、甲状腺機能亢進症(グレーヴス病(バセドウ病))、橋本病、自己免疫性副腎機能不全、原発性甲状腺機能低下症、アジソン病、特発性アジソン病(慢性副腎皮質機能低下症)、I型糖尿病、緩徐進行性I型糖尿病、限局性強皮症、乾癬、乾癬性関節炎、水疱性類天疱瘡、天疱瘡、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、円形脱毛症、白斑、尋常性白斑、原田病、自己免疫性視神経症、特発性無精子症、習慣性流産、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)、セリアック病、アトピー性皮膚炎、視神経脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、多巣性運動ニューロパチー、肺胞蛋白症、自己免疫性出血病XIII、再発性多発軟骨炎、サルコイドーシス、強直性脊椎炎、重症喘息、慢性蕁麻疹、移植免疫、家族性地中海熱、好酸球性副鼻腔炎、拡張型心筋症、食物アレルギー、全身性肥満細胞症、筋萎縮性側索硬化症または封入体筋炎である、前項[2-1]記載の剤。
[2-3] ステロイド薬(例えば、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、ブチル酢酸プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、酢酸ハロプレドン、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、トリアムシノロン、酢酸トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、パルミチン酸デキサメタゾン、酢酸パラメタゾン、ベタメタゾン等)、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、メトトレキサート、クラドリビン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコトロピン、ミゾリビン、タクロリムス、フィンゴリモド、アレムツズマブ、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、フィンゴリモド等)、抗リウマチ薬(例えば、メトトレキサート、スルファサラジン、ブシラミン、レフルノミド、ミゾリビン、タクロリムス等)および抗サイトカイン薬(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、トシリズマブ、エタネルセプト、アバタセプト、ゴリムマブ、セルトリズマブ)から選択される一以上の薬剤とともに投与されることを特徴とする、前項[2-1]または[2-2]記載の剤。
[3-1] 前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体を有効成分として含む、移植片対宿主病(GVHD)の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤。
[4-1] 前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体を有効成分として含む、自己反応性B細胞介在性疾患の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤。
[4-2] 自己反応性B細胞介在性疾患が、全身性エリテマトーデス、グレーヴス病、重症筋無力症、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少症、喘息、クリオグロブリン血症、原発性胆管硬化症または悪性貧血である、前項[4-1]記載の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤。
[5-1] 前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体を有効成分として含む、自己反応性B細胞抑制剤。
[5-2] 自己反応性B細胞抑制が、イムノグロブリン産生抑制である、前項[5-1]記載の自己反応性B細胞抑制剤。
[5-3] イムノグロブリンが、IgGまたはIgMである、前項[5-2]記載の自己反応性B細胞抑制剤。
[6-1] 前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体を有効成分として含む、メモリーT細胞活性化抑制剤。
[6-2] メモリーT細胞活性化抑制が、サイトカイン産生抑制である、前項[6-1]記載のメモリーT細胞活性化抑制剤。
[7-1] 前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体の有効量を患者に投与することを含む、自己免疫疾患(特に、自己反応性B細胞介在性疾患)または移植片対宿主病(GVHD)の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療方法。
[7-2] 前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体の有効量を患者に投与することを含む、自己反応性B細胞抑制またはメモリーT細胞活性化抑制方法。
[8-1] 自己免疫疾患(特に、自己反応性B細胞介在性疾患)または移植片対宿主病(GVHD)の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療のための、前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体。
[8-2] 自己反応性B細胞抑制またはメモリーT細胞活性化抑制のための、前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体。
[9-1] 自己免疫疾患(特に、自己反応性B細胞介在性疾患)または移植片対宿主病(GVHD)の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療剤の製造における、前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体の使用。
[9-2] 自己反応性B細胞抑制剤またはメモリーT細胞活性化抑制剤の製造における、前項[1]~[22]の何れか一項から選択されるPD-1/CD19二重特異性抗体もしくはその抗体断片または前項[23]記載のヒト化もしくは完全ヒト型単離PD-1/CD19二重特異性抗体の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPD-1/CD19二重特異性抗体は、PD-1アゴニスト作用を有し、さらに活性化B細胞に対する抑制作用を示すため、自己免疫疾患またはGVHDの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1記載のB細胞標的PD-1アゴニスト(B細胞標的PD-1アゴニストXおよびB細胞標的PD-1アゴニストM)の構造を示す。図中、「VH CD19」および「VL CD19」は、抗CD19抗体のVHおよびVLを各々表し、「VH PD-1」および「VL PD-1」は抗PD-1抗体のVHおよびVLを各々表す。「L1」、「L2」および「L3」は各VHおよびVLを連結するペプチドリンカーを表し、L1およびL3は、(Gly)×4-Ser、L2は((Gly)×4-Ser)×3で表される構造を有する。
図2】実施例2記載のB細胞標的PD-1アゴニストM-Fcの構造を示す。図中、「IgG(Hinge-CH3)」は、ヒンジ部からCH3領域までを有するヒトIgG定常領域を表す。「L4」は、(Gly)×4-Serまたは((Gly)×4-Ser)×3で表される構造を有するペプチドを表す。その他の記号は、図1で示したものと同じ意味を表す。
図3】B細胞標的PD-1アゴニストXのヒトPD-1およびヒトCD19への特異的結合性を示すフローサイトメトリーを示す。
図4】B細胞標的PD-1アゴニストMのヒトPD-1およびヒトCD19への特異的結合性を示すフローサイトメトリーを示す。
図5】B細胞標的PD-1アゴニストM-FcのヒトPD-1およびヒトCD19への特異的結合性を示すフローサイトメトリーを示す。
図6】活性化ヒトB細胞の細胞増殖に対する各B細胞標的PD-1アゴニストの作用を示す。(A)B細胞標的PD-1アゴニストM(図中、「Agonist M」で表される。)、(B)B細胞標的PD-1アゴニストX(図中、「Agonist X」で表される。)、(C)B細胞標的PD-1アゴニストM-Fc(図中、「Agonist M-Fc」で表される。)。
図7】ヒトB細胞におけるIgMおよびIgG産生に対するB細胞標的PD-1アゴニストM-Fcの作用を示す。
図8】異種移植GVHDマウスモデルにおけるB細胞標的PD-1アゴニストM-Fcの作用を示す。
図9】ヒトメモリーT細胞からのIL-2産生に対するB細胞標的PD-1アゴニストの作用を示す。
図10】胸腺依存性抗原への免疫応答に対するB細胞標的PD-1アゴニストM-Fcの作用を表す。グラフの縦軸は、血清中のKLHに対する抗体価を示す。
図11】実施例9記載のマウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-1の構造を示す。図中、「VH mCD19」および「VL mCD19」は、抗マウスCD19抗体のVHおよびVLを各々表し、「VH mPD-1」および「VL mPD-1」は抗マウスPD-1抗体のVHおよびVLを各々表す。その他の記号は、前記と同じ意味を表す。
図12】実施例9記載のマウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-2の構造を示す。図中の記号は、前記と同じ意味を表す。
図13】マウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-1のマウスPD-1およびマウスCD19への特異的結合性を示すフローサイトメトリーを示す。
図14】マウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-2のマウスPD-1およびマウスCD19への特異的結合性を示すフローサイトメトリーを示す。
図15】NP-OVA免疫惹起マウスにおける免疫応答に対するマウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-1および-2の各々のインビボ作用を表す。グラフの縦軸はクラススイッチメモリーB細胞の細胞数を示し、「Mouse Agonist-Fc-1」はマウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-1を、「Mouse Agonist-Fc-2」はマウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-2を各々表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
PD-1(rogrammed Cell eath-1)は、ヒトにおいては、GenBank登録番号NP_005009で示されるアミノ酸配列からなる膜型タンパク質である。本明細書において「PD-1」と記載される場合、特に限定しない限り、そのすべてのアイソフォーム、および本発明にかかる「PD-1に特異的に結合する第一アーム」のエピトープが保存された、それら改変体をも含むものとして使用される場合がある。本発明において、PD-1として好ましくは、ヒトPD-1である。
【0012】
CD19は、ヒトにおいては、Genbank登録番号NP_001761で示されるアミノ酸配列を有し、B細胞に発現して,B細胞受容体と複合体を形成する膜型タンパク質である。本明細書において「CD19」と記載される場合、特に限定しない限り、そのすべてのアイソフォーム、および本発明にかかる「CD19に特異的に結合する第二アーム」のエピトープが保存された、それら改変体をも含むものとして使用される場合がある。本発明において、CD19として好ましくは、ヒトCD19である。
【0013】
本明細書において「単離」とは、宿主細胞から抽出された、複数ないし無数の成分が含まれる夾雑物の中から同定、分離および/または精製されることにより、実質的に単一の純粋な成分となることを意味する。
【0014】
本明細書において「モノクローナル抗体」とは、同一の特定の抗原に対して結合する、実質的に均一である抗体集団から得られた抗体を意味する。
【0015】
本明細書において「二重特異性抗体」とは、二つの異なる抗原分子あるいはエピトープに対する結合特異性を一分子に備え持つ抗体を意味する。本発明は、B細胞上に発現するPD-1およびCD19に対して各々特異的に結合することができる二重特異性抗体およびその抗体断片に関する。一態様において、同時に、B細胞上に発現するPD-1およびCD19に対して各々特異的に結合することができる二重特異性抗体およびその抗体断片に関する。また、一態様において、同一のB細胞上に発現するPD-1およびCD19に対して各々特異的に結合することができる二重特異性抗体およびその抗体断片に関する。
【0016】
二重特異性抗体の形態には、例えば、ダイアボディ、二重特異性sc(Fv)、二重特異性ミニボディ、二重特異性F(ab′)、二重特異性ハイブリッド抗体、共有結合型ダイアボディ(二重特異性DART)、二重特異性(FvCys)、二重特異性F(ab′-ジッパー)、二重特異性(Fv-ジッパー)、二重特異性三鎖抗体および二重特異性mAb等がある。
【0017】
ダイアボディとは、異なる抗原を認識するVH、VL同志をペプチドリンカーで連結された一本鎖ペプチドの二量体である(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993), Vol. 90, No.14: p.6444-6448参照)。
【0018】
二重特異性sc(Fv)とは、異なる抗原を認識する2つの抗体の2組のVH/VLがペプチドリンカーを介して連続する一本鎖の形態で産生されるよう改変された低分子化抗体である(J. Biological Chemistry (1994), Vol. 269: p.199-206参照)。
【0019】
二重特異性F(ab′)とは、異なる2つの抗原を認識する抗体のFab′断片が、ジスルフィド結合等により共有結合した低分子化抗体である。
【0020】
二重特異性ミニボディとは、各々異なる抗原を認識するscFvに抗体の定常領域CH3ドメインが連結されるよう改変された低分子抗体断片を、そのCH3ドメイン上のジスルフィド結合等によって共有結合した低分子化抗体である(Biochemistry (1992), Vo.31, No.6, p.1579-1584参照)。
【0021】
二重特異性ハイブリッド抗体とは、異なる2つの抗原を認識する抗体の重鎖/軽鎖複合体がジスルフィド結合等によって共有結合したインタクトな抗体である。
【0022】
本発明において、好ましい二重特異性抗体の形態としては、二つの可変領域間の可動領域が広い形態のものが好ましく、例えば、二重特異性ハイブリッド抗体である。
【0023】
二重特異性ハイブリッド抗体は、例えば、ハイブリッドハイブリドーマ法(US4474893参照)で作製されたハイブリドーマから産生させることができる。また、二重特異性ハイブリッド抗体は、異なる抗原を認識する抗体の重鎖および軽鎖を各々コードする計4種類のcDNAを哺乳動物細胞に共発現ならびに分泌させて製造することができる。
【0024】
本発明において使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法(例えば、KohlerおよびMilsteinら, Natur (1975), Vol. 256, p.495-97、Hongoら, Hybridoma (1995), Vol. 14, No. 3, p.253-260、Harlowら, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1988), Vol. 2)およびHammerlingら, Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas, p.563-681(Elsevier, N.Y., 1981)参照)、組換えDNA法(例えば、US4816567参照)、ファージディスプレイ方法(例えば、LadnerらのUS5223409、US5403484およびUS5571698、DowerらのUS5427908およびUS5580717、McCaffertyらのUS5969108およびUS6172197およびGriffithsらのUS5885793、US6521404、US6544731、US6555313、US6582915およびUS6593081参照)で作製することができる。
【0025】
抗体あるいはモノクローナル抗体は、ヒトに投与される場合には、その抗原性を低減あるいは消失させるために、キメラ抗体、ヒト化抗体あるいは完全ヒト型抗体の形態で作製することができる。
【0026】
「キメラ抗体」は、可変領域配列と定常領域配列が別々の哺乳動物に由来する抗体を意味し、例えば、可変領域配列がマウス抗体に由来し、定常領域配列がヒト抗体に由来するものがある。キメラ抗体は、上記のハイブリドーマ法、組換えDNA法あるいはファージディスプレイ方法で単離された抗体産生ハイブリドーマから、公知の手法により単離された抗体可変領域をコードする遺伝子を、公知の方法を用いて、ヒト由来の抗体定常領域をコードする遺伝子に連結させ、作製することができる(例えば、CabillyらのUS4816567参照)。
【0027】
「ヒト化抗体」とは、マウスのような別の哺乳種の生殖細胞型に由来する相補性決定領域(CDR)配列をヒトフレームワーク配列上に移植した抗体を意味する。ヒト化抗体の場合も、上記方法で単離された抗体産生ハイブリドーマから、公知の手法により単離された抗体CDR領域をコードする遺伝子を、公知の方法を用いて、ヒト由来の抗体フレームワーク領域をコードする遺伝子に連結させ、作製することができる(例えば、WinterのUS5225539およびUS5530101、QueenらのUS5585089号およびUS6180370参照)。
【0028】
「ヒト抗体」または「完全ヒト型抗体」とは、フレームワーク領域およびCDR領域からなる可変領域ならびに定常領域の両方ともにヒト生殖細胞型免疫グロブリン配列に由来する抗体を意味する。本発明において使用されるヒト抗体は、ヒト抗体を産生するように形質転換されたマウス、例えば、Humabマウス(例えば、LonbergとKayらによるUS5545806、US5569825、US5625126、US5633425、US5789650、US5877397、US5661016、US5814318、US5874299およびUS5770429参照)、KMマウス(例えば、IshidaらのWO2002/43478参照)、Xenoマウス(例えば、US5939598、US6075181、US6114598、US6150584およびUS6162963参照)またはTcマウス(例えば、Tomizukaら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2000), p.722-727参照)を用いた方法で作製することができる。また、免疫によりヒト抗体応答が起こるように、ヒト免疫細胞を再構築したSCIDマウス(例えば、WilsonらのUS5476996およびUS5698767参照)を用いても調製できる。さらに、本発明において使用されるヒト抗体は、上記したファージディスプレイ方法でも作製することができる。
【0029】
本明細書において、PD-1/CD19二重特異性抗体の「抗体断片」とは、全長抗体の一部であって、PD-1に対する抗原結合部分およびCD19に対する抗原結合部分を有する抗体であり、例えば、F(ab′)2などが挙げられる。ここで、抗原結合部分とは、抗体がその抗原に結合することができる最少単位を意味し、例えば、VHおよびVLにある各々3つずつのCDRとそれらCDRの組合せにより目的の抗原が認識できるようCDRを配置するフレームワーク領域から構成される。
【0030】
本明細書において「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgMまたはIgG)を称するものとして使用される。本発明の二重特異性抗体として好ましいアイソタイプは、IgGまたはIgGであり、ここで、IgGとしては、Fc受容体への結合が消失あるいは減弱したものが好ましい。具体的には、その重鎖定常領域の任意のアミノ酸を置換、欠損あるいは挿入することによって、Fc受容体への結合が消失あるいは減弱されたIgG抗体を得ることができる。例えば、各々二つの重鎖定常領域あるいはヒンジ領域上において、EUナンバリングシステムによる234番目のロイシンがアラニンに置換され、および/または235番目のロイシンがアラニンに置換されたIgG抗体が挙げられる。また、二重特異性抗体の各々二つの重鎖定常領域あるいはヒンジ領域上において、EUナンバリングシステムによる235番目のロイシンがグリシンに置換され、および/または236番目のグリシンがアルギニンに置換された抗体でもよい。また、抗体の不均一性を低減させるために、C末端のアミノ酸、例えば、EUナンバリングシステムによる447番目のリシンを欠損した抗体が好ましい。
【0031】
本発明の二重特異性抗体のFc領域は、二つの異なる重鎖が会合し易いように、その領域の任意のアミノ酸が置換されていてもよい。例えば、PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖上の定常領域のEUナンバリングシステムによる351番目のロイシンがリシンに置換され、かつ366番目のスレオニンがリシンに置換され、CD19に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖における定常領域中の351番目のロイシンがアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換されたPD-1/CD19二重特異性抗体が挙げられる。また、PD-1に特異的に結合する第一アームのVHを有する重鎖における定常領域中のEUナンバリングシステムによる351番目のロイシンがアスパラギン酸に置換され、かつ368番目のロイシンがグルタミン酸に置換され、CD19に特異的に結合する第二アームのVHを有する重鎖における定常領域中の351番目のロイシンがリシンに置換され、かつ366番目のスレオニンがリシンに置換されたPD-1/CD19二重特異性抗体も挙げられる。
【0032】
さらに、本発明の二重特異性抗体がIgGである場合、抗体分子内におけるスワッピングを抑制するように、その重鎖定常領域の任意のアミノ酸が置換、欠損あるいは挿入した改変体がより好ましい。例えば、ヒンジ領域に位置する、EUナンバリングシステムによる226番目のセリンをプロリンに置換した抗体が好ましい。なお、本明細書において、抗体の可変領域のCDRとフレームワークに割り当てられるアミノ酸位置はKabatにしたがって規定される(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., (1987)および(1991)参照)。また、定常領域のアミノ酸はKabatのアミノ酸位置に準じたEUナンバリングシステム(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No. 91-3242参照)に従って表される。
【0033】
本明細書の「自己反応性B細胞」とは、自己抗原に対する抗体を産生するB細胞を示す。
PD-1に特異的に結合する第一アーム
本明細書において、「PD-1に特異的に結合する第一アーム」は、抗体あるいは抗体断片の一部に含まれるか、あるいは一部ではなく、それ自体単体として存在するか否かにかかわらず、少なくとも、抗PD-1抗体のVHおよびVLを含み、それらが会合することによって、PD-1に特異的に結合することができる抗体部分を意味し、例えば、このような第一アームには、抗PD-1抗体のFab部も含まれる。ここで、「PD-1に特異的に結合する」とは、少なくとも、1x10-5M、より好ましくは1x10-7M、より好ましくは1x10-9Mより高い親和性(解離定数(Kd値))を有する結合活性でPD-1に対して直接結合することができ、少なくとも、CD28、CTLA-4およびICOSなどの、所謂、CD28ファミリー受容体に属するほかの受容体メンバーには実質的に結合しない特徴として使用される。また、「PD-1に特異的に結合する抗体」あるいは「抗PD-1抗体」における「抗体」とは、全長抗体、すなわち、ジスルフィド結合で連結された2つの重鎖および2つの軽鎖からなる完全長の抗体を意味するが、好ましくは、そのモノクローナル抗体である。
【0034】
また、当該第一アームは、PD-1およびPD-L1との相互作用、PD-1およびPD-L2との相互作用、またはそれら両相互作用を許容するものがより好ましい。当該第一アームがPD-1およびPD-L1との相互作用、PD-1およびPD-L2との相互作用、またはそれら両相互作用を許容するかどうかは、公知の方法、例えば、固定化PD-L1蛋白質あるいはPD-L1発現細胞への可溶型PD-1蛋白質の結合への当該第一アームの影響を、例えば、ビアコア分析、ELISAアッセイ、フローサイトメトリー、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、蛍光エネルギー転移測定法(FRET)や蛍光微量測定技術(FMAT(登録商標))を用いて測定することによって判断することができる。
【0035】
CD19に特異的に結合する第二アーム
本明細書において、「CD19に特異的に結合する第二アーム」とは、抗体あるいは抗体断片の一部に含まれるか、あるいは一部ではなく、それ自体単体として存在するか否かにかかわらず、少なくとも、抗CD19抗体のVHおよびVLを含み、それらが会合することによってCD19に特異的に結合することができる抗体部分を意味し、例えば、そのような第二アームには、抗CD19抗体のFab部が含まれる。ここで、「CD19に特異的に結合する」とは、少なくとも、1x10-5M、より好ましくは1x10-7M、より好ましくは1x10-9Mより高い親和性(解離定数(Kd値))を有する結合活性でCD19に対して直接結合することができ、他のタンパク質には実質的に結合しない特徴として使用される。また、「CD19に特異的に結合する抗体」あるいは「抗CD19抗体」における「抗体」とは、全長抗体、すなわち、ジスルフィド結合で連結された2つの重鎖および2つの軽鎖からなる完全長の抗体を意味するが、好ましくは、そのモノクローナル抗体である。
【0036】
本発明のPD-1/CD19二重特異性抗体として好ましいアイソタイプとしてはIgG抗体であり、さらに好ましくは、IgGもしくはIgG抗体であり、さらにより好ましくはIgG抗体である。
【0037】
本発明の二重特異性抗体のうち、同抗体がIgG抗体である場合には、Fc受容体への結合を実質的に消失させた変異が導入された形態が好ましく、例えば、各々二つの重鎖定常領域あるいはヒンジ領域上において、EUナンバリングシステムによる234番目のロイシンがアラニンに置換され、および/または235番目のロイシンがアラニンに置換されたIgG抗体が挙げられる。または、各々二つの重鎖定常領域あるいはヒンジ領域上において、EUナンバリングシステムによる235番目のロイシンがグリシンに置換され、および/または236番目のグリシンがアルギニンに置換されたIgG抗体でもよい。さらに、それら二重特異性抗体の重鎖C末端のアミノ酸、例えば、EUナンバリングシステムによる447番目のリシンを欠損した抗体がより好ましい。また、PD-1/CD19二重特異性抗体がIgG抗体である場合には、そのヒンジ領域に位置する、EUナンバリングシステムによる226番目のセリンをプロリンに置換した抗体が好ましい。
【0038】
PD-1/CD19二重特異性抗体の製造および精製方法
本発明のPD-1/CD19二重特異性抗体およびその抗体断片は、WO2014/051433、WO2013/157953あるいはWO2013/157954に開示された方法でも製造することができる。
【0039】
例えば、(1)抗PD-1抗体のVHを有する重鎖をコードするポリヌクレオチド、(2)抗CD19抗体のVHを有する重鎖をコードするポリヌクレオチド、(3)抗PD-1抗体のVLを有する軽鎖をコードするポリヌクレオチド、および(4)抗CD19抗体のVLを有する軽鎖をコードするポリヌクレオチドが各々挿入された発現ベクターを、哺乳動物細胞に遺伝子導入して形質転換させ、両重鎖および軽鎖を共に発現ならびに分泌させて製造することができる。
【0040】
ここで、本発明の二重特異性抗体を発現する宿主細胞は、発現ベクターを遺伝子導入でき、導入された発現ベクターを発現することができるいかなる宿主細胞でもよい。好ましくは、SF-9およびSF-21細胞のような昆虫細胞、より好ましくは、CHO細胞、BHK細胞、SP2/0細胞およびNS-0ミエローマ細胞を含むマウス細胞、COSおよびVero細胞のような霊長類細胞、MDCK細胞、BRL 3A細胞、ハイブリドーマ、腫瘍細胞、不死化した初代細胞、W138、HepG2、HeLa、HEK293、HT1080またはPER.C6のような胚性の網膜細胞等の哺乳類細胞が挙げられる。なお、発現システムの選択においては、抗体が適切にグリコシル化されるように、哺乳類の細胞の発現ベクターおよび宿主を用いることがある。ヒト細胞株、好ましくはPER.C6は、ヒトにおけるグリコシル化パターンと一致する抗体を得るために有利に用いられる。
【0041】
発現ベクターの遺伝子導入によって形質転換された宿主細胞における蛋白質の産生は、例えば、Current Protocols in Protein Science (1995), Coligan JE, Dunn BM, Ploegh HL, Speicher DW, Wingfield PT, ISBN 0-471-11184-8,Bendig, 1988を参考に実施することができ、さらに、宿主細胞の培養の生産性を最大にするための一般的な指針、手順および実用的な方法は、Mammalian Cell Biotechnology: a Practical Approach (M. Butler, ed., IRL Press, 1991)を参考に実施することができる。宿主細胞での抗体の発現は、例えば、EP0120694、EP0314161、EP0481790号、EP0523949、US4816567およびWO2000/63403などの公開公報に記述されている。
【0042】
ここで、宿主細胞の培養条件は、公知の方法により最適化でき、蛋白質の生産量を最適化することができる。培養は、例えば皿、ローラーボトルもしくは反応槽の中で、バッチ培養、流加培養、連続培養、中空糸による培養等によりなされる。細胞培養により、大規模に(連続的な)組み換えタンパク質の生産をするためには、細胞を懸濁液の中で増殖させることが好ましい。また、動物もしくはヒト由来血清または動物もしくはヒト由来の血清の構成要素が無い条件下で細胞の培養をさせることが好ましい。
【0043】
宿主細胞で発現され、その細胞または細胞培地から公知の方法により回収された抗体は、公知の方法を用いて精製される。精製方法には、免疫沈降法、遠心分離法、ろ過、サイズ排除クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、陽イオンおよび/または陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー等が含まれる。さらに、プロテインAまたはプロテインG親和性クロマトグラフィーが好適に用いられる(例えば、US4801687およびUS5151504参照)。
【0044】
[医薬的用途]
本発明のPD-1/CD19二重特異性抗体は、自己免疫疾患または移植片対宿主病(GVHD)の予防、症状進展抑制および/または治療に有用である。
【0045】
本発明の二重特異性抗体が予防、症状進展抑制および/または治療可能な自己免疫疾患としては、例えば、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、慢性円板状エリテマトーデス、多発性硬化症(全身性強皮症、進行性全身性硬化症)、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、結節性動脈周囲炎(結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎)、大動脈炎症候群(高安動脈炎)、悪性関節リウマチ、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、脊椎関節炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、成人スティル病、血管炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、過敏性血管炎、リウマトイド血管炎、大型血管炎、ANCA関連血管炎(例えば、多発血管炎性肉芽腫症および好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)、コーガン症候群、RS3PE症候群、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症、抗リン脂質抗体症候群、好酸球性筋膜炎、IgG4関連疾患(例えば、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性膵炎など)、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、慢性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎、原発性胆汁性肝硬変、大動脈炎症候群、グッドパスチャー症候群、急速進行性糸球体腎炎、抗糸球体基底膜腎炎、巨赤芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血、自己免疫性好中球減少症、特発性血小板減少性紫斑病、甲状腺機能亢進症(グレーヴス病(バセドウ病))、橋本病、自己免疫性副腎機能不全、原発性甲状腺機能低下症、アジソン病、特発性アジソン病(慢性副腎皮質機能低下症)、I型糖尿病、緩徐進行性I型糖尿病、限局性強皮症、乾癬、乾癬性関節炎、水疱性類天疱瘡、天疱瘡、類天疱瘡、妊娠性疱疹、線状IgA水疱性皮膚症、後天性表皮水疱症、円形脱毛症、白斑、尋常性白斑、原田病、自己免疫性視神経症、特発性無精子症、習慣性流産、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)、セリアック病、アトピー性皮膚炎、視神経脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、多巣性運動ニューロパチー、肺胞蛋白症、自己免疫性出血病XIII、再発性多発軟骨炎、サルコイドーシス、強直性脊椎炎、重症喘息、慢性蕁麻疹、移植免疫、家族性地中海熱、好酸球性副鼻腔炎、拡張型心筋症、食物アレルギー、全身性肥満細胞症、筋萎縮性側索硬化症および封入体筋炎などが挙げられる。
【0046】
また、本発明の二重特異性抗体は、特に、自己反応性B細胞介在性の疾患、例えば、全身性エリテマトーデス、バセドウ病、重症筋無力症、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少症、ぜん息、クリオグロブリン血症、原発性胆管硬化症または悪性貧血の予防、症状進展抑制および/または治療に有用である。
【0047】
本発明において「治療」とは、例えば、ある疾患もしくはその症状を治癒させることまたは改善させることを意味し、「予防」とは、ある疾患もしくは症状の発現を未然に防止するあるいは一定期間遅延させることを意味し、「症状進展抑制」とは症状の進展または悪化を抑制して病態の進行を止めることを意味する。なお、「予防」の意味には再発抑制も含まれる。
【0048】
本発明のPD-1/CD19二重特異性抗体は、通常、全身的または局所的に、非経口の形で投与される。かかる投与方法として、具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられ、静脈内注射の場合には、点滴による投与が好ましい。その投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、成人一人当たり、一回につき、0.1μg/kgから300mg/kgの範囲で、特に好ましくは、0.1mg/kgから10mg/kgの範囲で、一日一回から数回非経口投与されるか、または一日30分から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。もちろん前記したように、投与量は種々の条件により変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて投与の必要な場合もある。
【0049】
[製剤]
本発明のPD-1/CD19二重特異性抗体は、注射剤または点滴のための輸液として製剤化されて用いられる場合、当該注射剤または輸液は、水溶液、懸濁液または乳濁液のいずれの形態であってもよく、また、用時に溶剤を加えることにより、溶解、懸濁または乳濁して使用されるように、薬学的に許容される担体とともに、固形剤として製剤化されていてもよい。注射剤または点滴のための輸液に使用される溶剤として、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖溶液および等張液(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、プロピレングリコール等の溶液)等を用いることができる。
【0050】
ここで、薬学的に許容される担体としては、例えば、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤、防腐剤、pH調整剤および抗酸化剤等が挙げられる。安定剤としては、例えば、各種アミノ酸、アルブミン、グロブリン、ゼラチン、マンニトール、グルコース、デキストラン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン等を用いることができる。溶解補助剤としては、例えば、アルコール(例えば、エタノール等)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート20(登録商標)、ポリソルベート80(登録商標)、HCO-50等)等を用いることができる。懸濁化剤としては、例えば、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。乳化剤としては、例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液等を用いることができる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等を用いることができる。防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。pH調整剤としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等を用いることができる。抗酸化剤として、例えば、(1)アスコルビン酸、システインハイドロクロライド、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等のような水溶性抗酸化剤、(2)アスコルビルパルミテート、ブチル化ハイドロキシアニソール、ブチル化ハイドロキシトルエン、レシチン、プロピルガレート、α-トコフェロール等のような油溶性抗酸化剤および(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート剤等を用いることができる。
【0051】
注射剤または点滴のための輸液は、その最終工程において滅菌するかあるいは無菌操作法、例えば、フィルター等で濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することによって製造することができる。また、注射剤または点滴のための輸液は、真空乾燥および凍結乾燥による無菌粉末(薬学的に許容される担体の粉末を含んでいてもよい。)を、適切な溶剤に用時溶解して使用することもできる。
【0052】
[併用または配合剤]
本発明のPD-1/CD19二重特異性抗体は、自己免疫疾患または移植片対宿主病(GVHD)の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療に使用される他の薬剤とともに組み合わせて使用してもよい。本発明において、他の薬剤とともに組み合わせて使用する場合(併用)の投与形態には、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態であっても、また別々の製剤としての投与形態であってもよい。その併用により、その他の薬剤の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療効果を補完したり、投与量あるいは投与回数を維持ないし低減することができる。本発明の二重特異性抗体と他の薬剤を別々に投与する場合には、一定期間同時投与し、その後、当該二重特異性抗体のみあるいは他の薬剤のみを投与してもよい。また、本発明の二重特異性抗体を先に投与し、その投与終了後に他の薬剤を投与してもよいし、他の薬剤を先に投与し、その投与終了後に本発明の二重特異性抗体を後に投与してもよく、各々の投与方法は同じでも異なっていてもよい。本発明の二重特異性抗体を含む製剤と他の薬剤を含む製剤のキットとして提供することもできる。ここで、他の薬剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、他の薬剤は任意の2種以上を適宜の割合で組み合わせて投与してもよい。また、前記他の薬剤には、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
【0053】
例えば、本発明の二重特異性抗体をI型糖尿病の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療に適用する場合、インスリン製剤(例えば、ヒトインスリン、インスリングラルギン、インスリンリスプロ、インスリンデテミル、インスリンアスパルト等)、スルホニルウレア剤(例えば、グリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリド等)、速攻型インスリン分泌促進薬(例えば、ナテグリニド等)、ビグアナイド製剤(例えば、メトホルミン等)、インスリン抵抗性改善薬(例えば、ピオグリタゾン等)、α-グルコシダーゼ阻害薬(例えば、アカルボース、ボグリボース等)、糖尿病性神経症治療薬(例えば、エパルレスタット、メキシレチン、イミダプリル等)、GLP-1アナログ製剤(例えば、リラグルチド、エクセナチド、リキシセナチド等)、DPP-4阻害剤(例えば、シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン等)等と組み合わせて使用してもよい。
【0054】
また、例えば、本発明の二重特異性抗体を多発性硬化症の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療に適用する場合、ステロイド薬(例えば、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、ブチル酢酸プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、酢酸ハロプレドン、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、トリアムシノロン、酢酸トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、パルミチン酸デキサメタゾン、酢酸パラメタゾン、ベタメタゾン等)、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、メトトレキサート、クラドリビン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコトロピン、ミゾリビン、タクロリムス、フィンゴリモドおよびアレムツズマブ等と組み合わせて使用してもよい。
【0055】
また、例えば、本発明の二重特異性抗体を全身エリテマトーデスの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療に適用する場合、ステロイド薬(例えば、上記記載のステロイド薬)あるいは免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、フィンゴリモド等)と組み合わせて使用してもよい。
【0056】
例えば、本発明の二重特異性抗体を関節リウマチの予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療に適用する場合、ステロイド薬(例えば、上記記載のステロイド薬)、抗リウマチ薬(例えば、メトトレキサート、スルファサラジン、ブシラミン、レフルノミド、ミゾリビン、タクロリムス等)あるいは抗サイトカイン薬(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、トシリズマブ、エタネルセプト、アバタセプト、ゴリムマブおよびセルトリズマブ等)等と組み合わせて使用してもよい。
【0057】
その他の自己免疫疾患あるいは自己反応性B細胞介在性疾患の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療に適用する場合、本発明の二重特異性抗体と、上記に記載した他の薬剤の何れかの一以上と組み合わせて使用してもよい。
【0058】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の記載に基づき種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例
【0059】
実施例1:B細胞標的PD-1アゴニストの調製
本実施例における「B細胞標的PD-1アゴニスト」は、抗ヒトCD19抗体のVHおよびVLと抗ヒトPD-1抗体のVHおよびVLから構成されるsingle-chain Diabody(以下、scDbと略記する。)である。図1にその構造の概略を示す。当該scDbは、各抗体の可変領域ならびにペプチドリンカーをコードするDNAを所定の順番で連結して作製されたDNAを発現ベクターに挿入し、これを動物細胞(Free Style 293F細胞)にて発現させた。培養上清中に産生されたscDbは、回収後、Protein Aアフィニティークロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーにて精製した。本実施例で調製されたscDbは二種類あり、一つを「B細胞標的PD-1アゴニストX」、もう一方を「B細胞標的PD-1アゴニストM」とした。なお、B細胞標的PD-1アゴニストXおよびMを各々構成する、当該抗ヒトCD19抗体および抗ヒトPD-1抗体は、公知の抗体取得法に準じた方法に従って取得した。さらに、公知の方法により、それらのVHおよびVLを各々コードするcDNAを単離して、本実施例のscDbを発現するDNAを構築するために用いた。
【0060】
実施例2:B細胞標的PD-1アゴニストM-Fcの調製
本実施例における「B細胞標的PD-1アゴニストM-Fc」は、抗ヒトCD19抗体のVHおよびVLと抗ヒトPD-1抗体のVHおよびVLから構成される二重特異性sc(Fv)に、ヒンジ部位からCH3領域までのヒトIgG定常領域(以下、「IgG定常領域(ヒンジ/CH3)」と略記する。)を融合させたポリペプチド(以下、ポリペプチドAという。)、およびIgG定常領域(ヒンジ/CH3)のみからなるポリペプチド(以下、ポリペプチドBという。)の二つのタンパク質の会合により構成されるヘテロ二量体である。当該ヘテロ二量体は、Fcγ受容体結合性を消失させた変異を有する。図2にその構造の概略を示す。
【0061】
B細胞標的PD-1アゴニストM-FcのポリペプチドAをコードするDNAは、B細胞標的PD-1アゴニストMを作製する上で、実施例1において取得した抗ヒトCD19抗体のVHおよびVLならびに抗ヒトPD-1抗体のVHおよびVLを各々コードするDNAを、ペプチドリンカーをコードするDNAとともに所定の順序で連結して作製した。なお、ポリペプチドAおよびBの一部を構成する、IgG定常領域(ヒンジ/CH3)をコードするDNAは、公知の遺伝子情報をもとにPCR法にてそのcDNAを取得した。ポリペプチドAおよびBを各々コードする各DNA配列を挿入した発現ベクターを、Free Style 293F細胞に遺伝子導入して発現させ、培養上清中に産生させた。その培養上清を回収した後、Protein Aアフィニティークロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーにて精製することにより調製した。
【0062】
実施例3:B細胞標的PD-1アゴニストの結合性評価
ヒトPD-1発現CHO-S細胞を用いたフローサイトメトリーにて、B細胞標的PD-1アゴニストによるヒトPD-1発現CHO-S細胞に発現するPD-1への結合性を評価した。B細胞標的PD-1アゴニストXおよびMのC末端には6×Hisタグが付加されており、同細胞に結合した各アゴニストの検出には、Alexa Fluor 488標識抗Hisタグ抗体(MBL、型番D291-A48)を使用した。一方、B細胞標的PD-1アゴニストM-FcにはヒトIgG定常領域が含まれるため、同細胞に結合したB細胞標的PD-1アゴニストM-Fcの検出には、PE標識抗ヒトIgG-Fc抗体(Thermo Fisher Scientific、型番H10104)を使用した。
【0063】
何れのB細胞標的PD-1アゴニストも、ヒトPD-1発現CHO-S細胞に結合することが確認された。一方、コントロールとして用いたCHO-S細胞への結合は認められなかったことから、その結合が発現させたPD-1に特異的であることが確認された。
【0064】
続いて、同様の方法により、B細胞標的PD-1アゴニストがヒトCD19に特異的に結合することが確認された。以上の結果を図3、4および5に示す。
【0065】
実施例4:B細胞標的PD-1アゴニストのヒトB細胞に対する作用
健常人由来末梢血単核細胞(LONZA、型番CC-2702)からB Cell Isolation Kit II human(Miltenyi Biotec、型番130-091-151)を用いて、ヒトB細胞を分離した。ヒトB細胞を細胞培養プレートに播種し、マウス抗ヒトCD79B抗体(LifeSpan Biosciences,Inc.、型番LS-C134648)およびヤギ抗マウスIgG-Fcγフラグメント F(ab’)抗体(Jackson ImmunoResearch、型番115-006-008)およびB細胞標的PD-1アゴニストXもしくはMまたはM-Fcを添加して、3日間の培養を行った。培養3日後にCellTiter-Glo2.0 Reagent(Promega、型番G924B)を用いて培養液中のATP量を測定した。図6にその結果を示す。B細胞標的PD-1アゴニストはインビトロにおいて活性化ヒトB細胞の細胞増殖を抑制した。
【0066】
実施例5:B細胞標的PD-1アゴニストM-FcのヒトB細胞に対する作用
健常人由来末梢血単核細胞(LONZA、型番CC-2702)を移植したNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJマウス(以下、NSGマウスと略記する。)を用いて、ヒト抗体産生に対するインビボ作用を評価した。NSGマウス1匹当たり1×10個の健常人由来末梢血単核細胞を移植した。移植当日、7、14、17、21、24および28日目に、6mg/kgのB細胞標的PD-1アゴニストM-Fcを1日1回腹腔内投与した。移植28日目に尾静脈より採血を行い、血清を調製した。血清中に含まれるヒトIgMをELISAキット(eBioscience、型番88-50620)を用いて定量した。血清中に含まれるヒトIgGをELISAキット(eBioscience、型番88-50550)を用いて定量した。図7にその結果を示す。B細胞標的PD-1アゴニストM-FcはインビボにおいてヒトIgM産生およびIgG産生を抑制した。
【0067】
実施例6:B細胞標的PD-1アゴニストM-Fcの異種移植GVHDマウスモデルにおける作用
健常人由来末梢血単核細胞(LONZA、型番CC-2702)を移植したNSGマウスを用いて、異種移植GVHDに対する作用を評価した。NSGマウス1匹当たり1×10個の健常人由来末梢血単核細胞を移植した。移植当日、7、14、17、21、24および28日目に、6mg/kgのB細胞標的PD-1アゴニストM-Fcを1日1回腹腔内投与した。媒体投与群およびB細胞標的PD-1アゴニストM-Fc投与群の移植55日目までの生存曲線をKaplan-Meier法にて作成し、ログランク検定にて群間比較を行った。図8にその結果を示す。B細胞標的PD-1アゴニストM-Fcは異種移植GVHDに対して有効性を示した。
【0068】
実施例7:B細胞標的PD-1アゴニストのヒトメモリーT細胞に対する作用
健常人由来末梢血単核細胞(LONZA、型番CC-2702)を細胞培養プレートに播種し、破傷風トキソイド(List Biological Labs,Inc.、型番191A)とB細胞標的PD-1アゴニストXもしくはMを添加して、4日間の培養を行った。培養4日後の培養上清中に含まれるIL-2を、Bio-Plex Pro ヒトサイトカインパネル(BIO-RAD、型番M50000007A)を用いて定量した。図9にその結果を示す。B細胞標的PD-1アゴニストはインビトロにおいてヒトメモリーT細胞からのサイトカイン産生を抑制した。
【0069】
実施例8:B細胞標的PD-1アゴニストM-Fcの胸腺依存性抗原への免疫応答に対する作用
CD19およびPD-1の各遺伝子の細胞外領域をヒトCD19およびヒトPD-1遺伝子に各々置換したヒトCD19/ヒトPD-1ノックインC57BL/6マウスを用いて、胸腺依存性抗原であるKeyhole Limpet Hemocyanin(KLH)免疫により誘導される抗KLH抗体産生への免疫応答に対するインビボ作用を評価した。0.2mg/mLのKLH(Thermo Fisher、型番77600)と等量のAlum(Thermo Fisher、型番77161)をよく混合して懸濁液を調製し、惹起剤とした。200μLの当該惹起剤を当該マウスの腹腔内に投与した。免疫処置当日より尾静脈からの採血を経日的に実施し、血清を調製した。免疫処置当日、7日目、14日目、22日目、29日目および41日目における血清中のKLHに対する抗体価を測定し、各時点の抗体価が同等となるように対照群およびB細胞標的PD-1アゴニストM-Fc投与群への割り付けを行った。免疫処置41日目に200μLの惹起剤を腹腔内に再度投与した(二次免疫)。二次免疫3日目、7日目、10日目、14日目および17日目にB細胞標的PD-1アゴニストM-Fcを、3mg/kgの投与量で1日1回腹腔内投与した。二次免疫当日、7日目、14日目および21日目の血清中のKLHに対する抗体価を測定した。なお、血清中のKLHに対する抗体価は、ELISAプレートに固相化したKLHに対する結合をHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Southern Biotec、型番1030-05)によって検出し、マウス抗KLHモノクローナル抗体(BioLegend、型番408402)を用いて作成した検量線を基にした相対的定量法によって算出した。図10にその評価結果を示す。B細胞標的PD-1アゴニストM-Fcは胸腺依存性抗原に対する免疫応答を抑制した。
【0070】
なお、ヒトCD19/ヒトPD-1ノックインC57BL/6マウスは、Genesis. 2009 Jun;47(6):414-22.に記載された方法に準じて作製できる。
【0071】
実施例9:マウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-1および-2の調製
本実施例における「マウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-1」は、抗マウスCD19抗体のVHおよびVLと抗マウスPD-1抗体のVHおよびVLから構成されるscDbに、IgG定常領域(ヒンジ/CH3)を融合させたポリペプチド(以下、ポリペプチドCという。)と、ポリペプチドBの二つのタンパク質の会合により構成されるヘテロ二量体である。当該ヘテロ二量体は、Fcγ受容体結合性を消失させた変異を有する。図11にその構造の概略を示す。
【0072】
一方、本実施例における「マウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-2」は、抗マウスCD19抗体のVHおよびVLと抗マウスPD-1抗体のVHおよびVLから構成される2種類のscFvを、それぞれIgG定常領域(ヒンジ/CH3)のN末端およびC末端に融合させたポリペプチド(以下、ポリペプチドDという。)と、ポリペプチドBの二つのタンパク質の会合により構成されるヘテロ二量体である。当該ヘテロ二量体も、Fcγ受容体結合性を消失させた変異を有する。図12にその構造の概略を示す。
【0073】
抗マウスCD19抗体のVHおよびVLならびに抗マウスPD-1抗体のVHおよびVLを各々コードするDNAは、抗マウスCD19モノクローナル抗体産生ハイブリドーマおよび抗マウスPD-1モノクローナル抗体産生ハイブリドーマより調製したtotal RNAを用いて、公知のモノクローナル抗体可変領域の塩基配列解析法に準じた方法に従って取得した。取得した各々のDNAを、ペプチドリンカーをコードするDNAとともに所定の順序で連結して作製した。なお、IgG定常領域(ヒンジ/CH3)をコードするDNAは、公知の遺伝子情報をもとにPCR法にてそのcDNAを取得した。ポリペプチドCおよびポリペプチドB、またはポリペプチドDおよびポリペプチドBを各々コードする各DNA配列を挿入した発現ベクターを、Free Style 293F細胞に遺伝子導入して発現させ、培養上清中に産生させた。その培養上清を回収した後、Protein Aアフィニティークロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーにて精製することによりを調製した。
【0074】
マウスPD-1発現CHO-S細胞を用いたフローサイトメトリーにて、マウスB細胞標的PD-1アゴニストによるマウスPD-1発現CHO-S細胞に発現するPD-1への結合性を評価した。同細胞に結合したマウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-1および-2の検出には、PE標識抗ヒトIgG-Fc抗体(Thermo Fisher Scientific、型番H10104)を使用した。
【0075】
何れのマウスB細胞標的PD-1アゴニストも、マウスPD-1発現CHO-S細胞に結合することが確認された。一方、コントロールとして用いたCHO-S細胞への結合は認められなかったことから、その結合が発現させたPD-1に特異的であることが確認された。続いて、同様の方法により、B細胞標的PD-1アゴニストがマウスCD19に特異的に結合することが確認された。以上の結果を図13および14に示す。
【0076】
実施例10:NP-OVA免疫惹起マウスにおける免疫応答に対するB細胞標的PD-1アゴニストのインビボ作用
C57BL/6マウスを用いて、4-Hydroxy-3-nitrophenylacetyl Ovalbumin(NP-OVA)への免疫応答に対するインビボ作用を評価した。1mg/mLのNP-OVA(LGC Bioresearch、型番N-5051)と等量のAlum(Thermo Fisher、型番77161)をよく混合して懸濁液を調製し、惹起剤とした。200μLの当該惹起剤をマウスの腹腔内に投与した。免疫処置3日目、7日目および10日目にマウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-1および-2を、7mg/kgの投与量で1日1回腹腔内に投与した。免疫処置14日目に脾臓を採取し、セルストレーナーを用いて単細胞懸濁液を調製した。塩化アンモニウム溶血剤処置後の単細胞懸濁液を用いたフローサイトメトリーにて、クラススイッチメモリーB細胞(B220CD38GL7IgDIgM)数の評価を行い、ウィルコクソンの順位和検定にて群間比較を行った。その結果を図15に示す。
【0077】
マウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-2投与群において、クラススイッチメモリーB細胞の増加が有意に抑制された。一方、マウスB細胞標的PD-1アゴニスト-Fc-1投与群では、クラススイッチメモリーB細胞の増加が抑制されなかった。
【0078】
なお、各表面抗原に対する抗体として、Brilliant Violet 605標識抗マウス/ヒトCD45R/B220抗体(BioLgend、型番103244)、Brilliant Violet 711標識抗マウスCD38抗体(BD Bioscience、型番740697)、Alexa Fluor488標識抗体マウス/ヒトGL7抗体(BioLgend、型番144612)、APC標識抗マウスIgD抗体(BioLegend、型番405714)およびPE/Dazzle594標識抗マウスIgM抗体(BioLegend、型番406530)を使用した。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のPD-1/CD19二重特異性抗体またはその抗体断片は、自己免疫疾患または移植片対宿主病(GVHD)の予防、症状進展抑制、再発抑制および/または治療に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
0007476997000001.xml