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特許7477000筋活動解析装置、筋活動解析方法及び筋活動解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】筋活動解析装置、筋活動解析方法及び筋活動解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/397 20210101AFI20240423BHJP
   A61B 5/313 20210101ALI20240423BHJP
   A63B 71/06 20060101ALI20240423BHJP
   A63B 22/06 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
A61B5/397
A61B5/313
A63B71/06 T
A63B22/06 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023026769
(22)【出願日】2023-02-22
【審査請求日】2023-06-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102500
【氏名又は名称】SMK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182028
【弁理士】
【氏名又は名称】多原 伸宜
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】金 昌萬
(72)【発明者】
【氏名】古川 雅文
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-010464(JP,A)
【文献】特許第7047991(JP,B1)
【文献】国際公開第2022/196419(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/269724(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
A63B 71/06
A63B 22/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象者の皮膚の表面に取り付けられた電極からの電気信号より前記解析対象者の複数種類の筋肉毎の筋電位を検出する筋電位検出部と、
前記筋電位検出部により検出された前記筋電位に基づいて、第1の時間における前記複数種類の筋肉が協働して活動する際の筋活動を示す瞬間筋シナジーを算出すると共に、前記第1の時間よりも長い第2の時間における前記筋活動を示す基準筋シナジーを算出し、前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとの特徴量を算出する演算部と、
を有し、
演算部は、少なくとも前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとのユークリッド距離、相関係数、または内積のうちのいずれかにより前記特徴量を算出する、
ことを特徴とする筋活動解析装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記解析対象者の一連の動作のうちの所定の動作における前記特徴量を算出する、
ことを特徴とする請求項1記載の筋活動解析装置。
【請求項3】
前記第2の時間は、
前記解析対象者の一連の動作の開始から終了までの時間である、
ことを特徴とする請求項1記載の筋活動解析装置。
【請求項4】
前記第2の時間は、
前記解析対象者の一連の動作における所定の動作が少なくとも1回以上含まれる時間以上の時間である、
ことを特徴とする請求項1記載の筋活動解析装置。
【請求項5】
前記演算部は、
前記特徴量を時系列で算出する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の筋活動解析装置。
【請求項6】
前記演算部により算出された前記特徴量を表示装置に表示させるための表示データを出力する出力部を有する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の筋活動解析装置。
【請求項7】
筋活動解析装置における筋活動解析方法であって、
解析対象者の皮膚の表面に取り付けられた電極からの電気信号より前記解析対象者の複数種類の筋肉毎の筋電位を検出する筋電位検出ステップと、
前記筋電位検出ステップにより検出された前記筋電位に基づいて、第1の時間における前記複数種類の筋肉が協働して活動する際の筋活動を示す瞬間筋シナジーを算出すると共に、前記第1の時間よりも長い第2の時間における前記筋活動を示す基準筋シナジーを算出し、前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとの特徴量を少なくとも前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとのユークリッド距離、相関係数、または内積のうちのいずれかにより算出する演算ステップと、
を有することを特徴とする筋活動解析方法。
【請求項8】
コンピュータに、
解析対象者の皮膚の表面に取り付けられた電極からの電気信号より前記解析対象者の複数種類の筋肉毎の筋電位を検出する筋電位検出ステップと、
前記筋電位検出ステップにより検出された前記筋電位に基づいて、第1の時間における前記複数種類の筋肉が協働して活動する際の筋活動を示す瞬間筋シナジーを算出すると共に、前記第1の時間よりも長い第2の時間における前記筋活動を示す基準筋シナジーを算出し、前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとの特徴量を少なくとも前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとのユークリッド距離、相関係数、または内積のうちのいずれかにより算出する演算ステップと、
を実行させる筋活動解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋活動解析装置、筋活動解析方法及び筋活動解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運動時の筋肉活動の特徴を見つけるために、筋電図の測定データに基づいて、非負値行列因子分解(NMF)を行うことにより、筋肉の活動量を筋肉のパターン(筋シナジー)とその活動量(アクティベーション)に分解する手法が提案されている。そして、筋肉のパターンとその活動量とを用いて、リハビリテーション動作の上達度を計算する手法も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、怪我又は病気によりリハビリが必要となった患者が、リハビリにおいて課せられた振る舞い又はタスクをどの程度できるようになったのか(熟練度)を客観的に判断するために用いられる特徴量を、筋シナジーによって求める訓練装置を開示している。特許文献1の訓練装置は、筋シナジー行列Wにおける単位縦ベクトルW(1),W(2),・・・,W(n)が、互いにばらつかないほど熟練度が高いとの結果が得られていることに着目して、単位縦ベクトルW(1),W(2),・・・,W(n)がばらつかずに、まとまっていることを表す特徴量を計算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6011807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、熟練度を求めることはできるものの、筋活動の変化を把握することができないため、筋活動の変化に応じた適切なアドバイスをすることができないという課題を有する。
【0006】
本発明の目的は、算出した基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量に基づいて、解析対象者の筋活動の変化を把握することができるため、解析対象者に対して筋活動の変化に応じた適切なアドバイスをすることができる筋活動解析装置、筋活動解析方法及び筋活動解析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る筋活動解析装置は、解析対象者の皮膚の表面に取り付けられた電極からの電気信号より前記解析対象者の複数種類の筋肉毎の筋電位を検出する筋電位検出部と、前記筋電位検出部により検出された前記筋電位に基づいて、第1の時間における前記複数種類の筋肉が協働して活動する際の筋活動を示す瞬間筋シナジーを算出すると共に、前記第1の時間よりも長い第2の時間における前記筋活動を示す基準筋シナジーを算出し、前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとの特徴量を算出する演算部と、を有し、
演算部は、少なくとも前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとのユークリッド距離、相関係数、または内積のうちのいずれかにより前記特徴量を算出する。
【0008】
本発明に係る筋活動解析方法は、筋活動解析装置における筋活動解析方法であって、解析対象者の皮膚の表面に取り付けられた電極からの電気信号より前記解析対象者の複数種類の筋肉毎の筋電位を検出する筋電位検出ステップと、前記筋電位検出ステップにより検出された前記筋電位に基づいて、第1の時間における前記複数種類の筋肉が協働して活動する際の筋活動を示す瞬間筋シナジーを算出すると共に、前記第1の時間よりも長い第2の時間における前記筋活動を示す基準筋シナジーを算出し、前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとの特徴量を少なくとも前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとのユークリッド距離、相関係数、または内積のうちのいずれかにより算出する演算ステップと、を有する。
【0009】
本発明に係る筋活動解析プログラムは、コンピュータに、解析対象者の皮膚の表面に取り付けられた電極からの電気信号より前記解析対象者の複数種類の筋肉毎の筋電位を検出する筋電位検出ステップと、前記筋電位検出ステップにより検出された前記筋電位に基づいて、第1の時間における前記複数種類の筋肉が協働して活動する際の筋活動を示す瞬間筋シナジーを算出すると共に、前記第1の時間よりも長い第2の時間における前記筋活動を示す基準筋シナジーを算出し、前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとの特徴量を少なくとも前記基準筋シナジーと前記瞬間筋シナジーとのユークリッド距離、相関係数、または内積のうちのいずれかにより算出する演算ステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、算出した基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量に基づいて、解析対象者の筋活動の変化を把握することができるため、解析対象者に対して筋活動の変化に応じた適切なアドバイスをすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る筋活動解析装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る筋活動解析処理のフロー図である。
図3】本発明の実施形態に係る筋活動解析装置に接続される電極を解析対象者に貼り付けた状態の模式図である。
図4】本発明の実施形態に係る筋活動解析装置によって解析される解析対象者の動作を示す模式図である。
図5】本発明の実施形態に係る筋活動解析装置により求めた基準筋シナジーの一例を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る筋活動解析装置により求めた瞬間筋シナジーの一例を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る筋活動解析装置により求めた図6と異なる時間における瞬間筋シナジーの一例を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る筋活動解析装置により求めた基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を算出した結果の一例を示す図である。
図9】本発明の実施形態に係る筋活動解析装置により求めた基準筋シナジーの他の例を示す図である。
図10】本発明の実施形態に係る筋活動解析装置により求めた瞬間筋シナジーの他の例を示す図である。
図11】本発明の実施形態に係る筋活動解析装置により求めた図10と異なる時間における瞬間筋シナジーの他の例を示す図である。
図12】本発明の実施形態に係る筋活動解析装置により求めた基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を算出した結果の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態に係る筋活動解析装置、筋活動解析方法及び筋活動解析プログラムにつき、詳細に説明する。
【0013】
<筋活動解析装置の構成>
本発明の実施形態に係る筋活動解析装置1の構成につき、図1を参照しながら、以下に詳細に説明する。
【0014】
筋活動解析装置1は、筋電位検出部10と、演算部20と、記憶部30と、タイマー40と、出力部50と、を有しており、後述の筋活動解析処理を実行する。
【0015】
筋電位検出部10は、解析対象者の複数種類の筋肉の表面に取り付けられた電極100(図1において図示を省略)より電気信号が入力され、入力された電気信号より複数種類の筋肉毎の筋電位を検出する。筋電位検出部10は、筋電位の検出結果に応じた電気信号を演算部20に出力する。
【0016】
演算部20は、シナジー計算部21と、特徴量計算部22と、を備えている。シナジー計算部21及び特徴量計算部22は、演算部20が備える図示しないCPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置が図示しないメモリから必要な制御プログラム及び制御データを読み出して処理を実行する際の機能ブロックとして示している。
【0017】
シナジー計算部21は、タイマー40の動作を制御して、筋電位検出部10より入力された電気信号の示す筋電位の検出結果を取得して、取得した筋電位の検出結果を記憶部30に記憶させる。シナジー計算部21は、記憶部30に記憶させた筋電位の検出結果に基づいて、瞬間筋シナジーを算出すると共に基準筋シナジーを算出する。シナジー計算部21は、算出した基準筋シナジー及び瞬間筋シナジーを記憶部30に記憶させる。シナジー計算部21は、基準筋シナジー及び瞬間筋シナジーの算出処理を終了した際に、特徴量計算部22に対して算出処理を終了したことを通知する。
【0018】
ここで、瞬間筋シナジーは、筋シナジーのうち、第1の時間における複数種類の筋肉が協働して活動する際の筋活動を示している。また、基準筋シナジーは、第2の時間における複数種類の筋肉が協働して活動する際の筋活動を示している。筋活動は、複数種類の筋肉の各筋肉の寄与度と言い換えることができる。
【0019】
また、第1の時間は、第2の時間よりも短い時間であり、一連の動作における所定の動作が少なくとも1回以上含まれる時間以上の時間であると共に、任意に定めることができる。所定の動作が複数種類ある場合は、複数種類の所定の動作をそれぞれ1回以上含めてもよい。また、第1の時間の計測開始時点は、解析対象者の運動開始時に合わせなくてもよい。第2の時間は、第1の時間よりも長い時間であると共に長いほど好ましく、任意に定めることができ、例えば、解析対象者の一連の動作の開始から終了までの時間とすることができる。また、第2の時間には、第1の時間が含まれていることが望ましいが、含まれていなくてもよい。更に、第2の時間は、一連の動作が所定の停止時間を挟んで複数回繰り返される場合に、複数回分の一連の動作に要する合計時間であってもよい。
【0020】
また、一連の動作とは、例えば自転車走行等を行う際の動作である。また、所定の動作とは、一連の動作において繰り返される動作であり、例えば自転車走行する際において「ペダルを踏みこむ動作」又は「ペダルを引き上げる動作」である。
【0021】
特徴量計算部22は、シナジー計算部21より基準筋シナジー及び瞬間筋シナジーの算出処理を終了した通知を受けた際に、記憶部30に記憶されている基準筋シナジー及び瞬間筋シナジーの算出結果に基づいて、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を算出する。特徴量計算部22は、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとのユークリッド距離、相関係数又はスカラー内積によって、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を算出する。特徴量計算部22は、算出した特徴量または記憶部30に記憶させた特徴量に応じた電気信号を所定のタイミングで出力部50に出力する。
【0022】
記憶部30は、筋電位検出部10より入力される電気信号の示す筋電位と、シナジー計算部21が算出した基準筋シナジー及び瞬間筋シナジーの算出結果と、特徴量計算部22が算出した特徴量と、を記憶する。
【0023】
タイマー40は、シナジー計算部21の制御により、第2の時間に第1の時間が含まれる場合にはシナジー計算部21における基準筋シナジーの算出の開始時よりカウントを開始し、第2の時間に第1の時間が含まれない場合にはシナジー計算部21における基準筋シナジーの算出開始時及び瞬間筋シナジーの算出開始時よりカウントを開始する。タイマー40は、カウント開始時から所定時間が経過するまでカウントを行う。
【0024】
出力部50は、特徴量計算部22より入力される電気信号が示す基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を図示しない外部の表示装置に表示させるための表示データを生成して、生成した表示データを含む送信信号を外部の表示装置に無線通信又は有線通信によって送信する。
【0025】
<筋活動解析処理>
本発明の実施形態に係る筋活動解析装置1が実行する筋活動解析処理につき、図2及び図3を参照しながら、以下に詳細に説明する。
【0026】
図2に示す筋活動解析処理は、筋活動解析装置1と、図3に示すように解析対象者200の複数の筋肉の表面に貼り付けられて取り付けられた複数の電極100と、が電気的に接続されると共に、筋活動解析装置1の図示しない主電源がオンされた後に、解析対象者200が一連の動作を開始することにより開始される。
【0027】
まず、筋電位検出部10が、電極100より取得した電気信号より、複数種類の筋肉毎の筋電位を検出する筋電位検出処理を実行する(S1)。具体的には、筋電位検出部10は、複数種類の筋肉1,2,・・・,mのm個のチャネルの筋電位信号E(E=E,E,・・・,E)を所定時間毎に測定してn個のデータを取得し、n個の成分を有する縦行列E(m×n)を取得する。ここで、複数種類の筋肉としては、例えばヒラメ筋、腓腹筋、前脛骨筋、半腱様筋、大腿二頭筋、外側広筋、大腿直筋、内側広筋及び大殿筋である。この場合には、m=9である。また、筋電位検出部10は、例えば500Hzサンプリングで10秒間データを取得した場合に、n=500*10=5000個のデータを取得する。
【0028】
次に、演算部20のシナジー計算部21が、筋電位検出部10より入力された電気信号に基づいて、タイマー40を用いながら瞬間筋シナジーと基準筋シナジーとを算出するシナジー計算処理を実行する(S2)。具体的には、シナジー計算部21は、縦行列E(m×n)を非負値行列因子分解(NMF)を用いてW(m×s)とH(s×n)とに分解する。ここで、Wは、筋シナジーであり、Hは、筋シナジーの活動量であり、sは、分解されるシナジー数である。
【0029】
分解されるシナジー数sは、上記の所定の動作の種類の数であり、例えば、自転車走行する際の一連の動作において、「ペダルを踏みこむ動作」と「ペダルを引き上げる」動作とに分解した場合には「2」となる。
【0030】
分解されるシナジー数sは、NMFを適宜用いて適切に定めることができる。ここで、EとWHとの類似度Rは、例えば以下の(1)式を用いて決定することができる。類似度Rは、例えば0.8以上になるように選択されることが望ましい。一般的に分解されるシナジー数sを大きくすれば、類似度Rも大きくなるが、分解されるシナジー数sが大きすぎると、計算負荷の上昇と過適応が生じ、適切な解析が出来なくなる。
【0031】
【数1】
【0032】
また、シナジー計算部21は、縦行列E(m×n)を分解して得られた筋シナジーWを用いて、瞬間筋シナジーと基準筋シナジーとを算出する。
【0033】
次に、演算部20の特徴量計算部22は、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を算出する特徴量計算処理を実行する(S3)。具体的には、特徴量計算部22は、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量FV(s) methodを(2)式より算出する。
【0034】
【数2】
【0035】
また、基準筋シナジーWは(3)式で表され、瞬間筋シナジーWは(4)式で表される。
【0036】
【数3】
【0037】
【数4】
【0038】
特徴量計算部22は、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとのユークリッド距離により特徴量を算出する場合に、(2)式に基づいて(5)式によって特徴量FV(s) を算出する。
【0039】
【数5】
【0040】
また、特徴量計算部22は、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの相関係数により特徴量を算出する場合に、(2)式に基づいて(6)式によって特徴量FV(s) を算出する。
【0041】
【数6】
【0042】
更に、特徴量計算部22は、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの内積により特徴量を算出する場合に、(2)式に基づいて(7)式によって特徴量FV(s) を算出する。
【0043】
【数7】
【0044】
次に、出力部50は、算出された特徴量を外部の表示装置に表示させるための表示データを生成すると共に、生成した表示データを含む送信信号を外部の表示装置に送信する出力処理を実行する(S4)。そしてその後に、筋活動解析装置1は、筋活動解析処理を終了する。
【0045】
上記の筋活動解析処理において算出された特徴量が「1」に近いほど(類似指数が高いほど)運動能力が高く所定の動作に対する筋力があることを示しており、算出された特徴量が「0」に近いほど(類似指数が低いほど)運動能力が低く所定の動作に対する筋力が不足していることを示している。
【0046】
また、特徴量計算部22は、解析対象者200の一連の動作が終了した後に特徴量を算出することが好ましい。なお、特徴量計算部22は、解析対象者200の一連の動作中において、所定時間が経過する毎に基準筋シナジーと瞬間筋シナジーを算出して、算出した基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を算出するようにしてもよい。
【0047】
続いて、本発明の実施形態に係る筋活動解析装置1が実行する筋活動解析処理の具体例につき、図4から図12を参照しながら、以下に詳細に説明する。
【0048】
図5から図8は、解析対象者200Aが室内エアロバイクを10分間漕いだ後に5分間休憩するサイクルを1セットとして4セット実施した場合の例を示しており、図9から図12は、解析対象者200Aと異なる解析対象者200Bが室内エアロバイクを10分間漕いだ後に5分間休憩するサイクルを1セットとして4セット実施した場合の例を示している。また、図5から図12は、第2の時間に第1の時間が含まれていると共に、40分間に検出された筋電位より基準筋シナジーを算出した場合を示している。
【0049】
解析対象者200A及び解析対象者Bがエアロバイクを漕ぐ際には、エアロバイクを漕ぐ一連の動作を、図4に示すように、解析対象者200A及び解析対象者Bが右足及び左足の何れか一方でペダルを踏みこむ動作(S11)と同じ足でペダルを引き上げる動作(S12)とに分解する。そして、ステップS11のペダルを踏みこむ動作の筋シナジーWをシナジー1とし、ステップS12のペダルを引き上げる動作の筋シナジーWをシナジー2とする。この際の分解されるシナジー数は「2」になる(s=2)。
【0050】
図5において、図5(a)は、解析対象者200Aのシナジー1における基準筋シナジーであり、図5(b)は、解析対象者200Aのシナジー2における基準筋シナジーである。
【0051】
図6において、図6(a)は、解析対象者200Aのシナジー1の瞬間筋シナジーであり、図6(b)は、解析対象者200Aのシナジー2の瞬間筋シナジーである。
【0052】
図7において、図7(a)は、解析対象者200Aのシナジー1の図6(a)とは異なる時間における瞬間筋シナジーであり、図7(b)は、解析対象者200Aのシナジー2の図6(b)とは異なる時間における瞬間筋シナジーである。
【0053】
図8において、図8(a)は、解析対象者200Aのシナジー1における特徴量(類似指数)の変化を示しており、図8(b)は、解析対象者200Aのシナジー2における特徴量(類似指数)の変化を示している。
【0054】
図9において、図9(a)は、解析対象者200Bのシナジー1における基準筋シナジーであり、図9(b)は、解析対象者200Bのシナジー2における基準筋シナジーである。
【0055】
図10において、図10(a)は、解析対象者200Bのシナジー1の瞬間筋シナジーであり、図10(b)は、解析対象者200Bのシナジー2の瞬間筋シナジーである。
【0056】
図11において、図11(a)は、解析対象者200Bのシナジー1の図10(a)とは異なる時間における瞬間筋シナジーであり、図11(b)は、解析対象者200Bのシナジー2の図10(b)とは異なる時間における瞬間筋シナジーである。
【0057】
図12において、図12(a)は、解析対象者200Bのシナジー1における特徴量(類似指数)の変化を示しており、図12(b)は、解析対象者200Bのシナジー2における特徴量(類似指数)の変化を示している。
【0058】
図5から図7及び図9から図11の縦軸の寄与度は、ヒラメ筋、腓腹筋、前脛骨筋、大腿二頭筋、半腱様筋、外側広筋、大腿直筋、内側広筋及び大殿筋が協働して活動する際の筋活動を示す。
【0059】
ここで、基準筋シナジーは、解析対象者200A及び解析対象者200Bの運動期間中に最も発現されるものであり、単純なリハビリ動作と異なって各運動において個人毎に異なっていることが多い。また、基準筋シナジーは、第2の時間としての例えば40分間に検出されて取得された複数種類の筋肉の筋電位より求められる。
【0060】
この際に、第2の時間は長いほど好ましい。第2の時間を長くすることにより、基準筋シナジーを求める際に本来の基本動作の筋シナジーから離れた筋シナジーを得る可能性を低くすることができ、特徴量を精度良く求めることができる。また、第2の時間は、例えば解析対象者200が室内エアロバイクを10分間漕いだ後に5分間休憩するサイクルを1セットとして4セット実施した場合に、各サイクルの合計時間にすることもできる。
【0061】
また、解析対象者200A及び解析対象者200Bのヒラメ筋、腓腹筋、前脛骨筋、大腿二頭筋、半腱様筋、外側広筋、大腿直筋、内側広筋及び大殿筋の各々を覆っている皮膚の表面の各々に電極100を貼り付けると共に、各電極100と筋活動解析装置1の筋電位検出部10とを接続する。
【0062】
上記の状態において解析対象者200Aが室内エアロバイクを10分間漕いだ後に5分間休憩するサイクルを1セットとして4セット実施した場合には、シナジー1において、シナジー計算部21によって求められる基準筋シナジーは図5(a)のようになり、第1の時間としての時間T1(例えば10秒)の瞬間筋シナジーは図6(a)のようになり、第1の時間としての時間T2(例えば10秒)の瞬間筋シナジーは図7(a)のようになった。また、シナジー2において、基準筋シナジーは図5(b)のようになり、時間T1の瞬間筋シナジーは図6(b)のようになり、時間T2の瞬間筋シナジーは図7(b)のようになった。
【0063】
そして、特徴量計算部22は、シナジー1における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を図8(a)に示すように時系列で求めると共に、シナジー2における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を図8(b)に示すように時系列で求める。この結果、シナジー1の時間T1における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量は、図8(a)に示すように約0.997となり、シナジー2の時間T1における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量は、図8(b)に示すように約0.994となった。また、シナジー1の時間T2における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量は、図8(a)に示すように約0.992となり、シナジー2の時間T2における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量は、図8(b)に示すように約0.989となった。
【0064】
図8より、解析対象者Aの瞬間筋シナジーにおけるシナジー1及びシナジー2に関連する筋肉は、特徴量が「1」に近い状態を維持できていることが分かる。
【0065】
次に、解析対象者200Bが室内エアロバイクを10分間漕いだ後に5分間休憩するサイクルを1セットとして4セット実施した場合には、シナジー1において、シナジー計算部21によって求められる基準筋シナジーは図9(a)のようになり、時間T3(例えば10秒)の瞬間筋シナジーは図10(a)のようになり、時間T4(例えば10秒)の瞬間筋シナジーは図11(a)のようになった。また、シナジー2において、基準筋シナジーは図9(b)のようになり、時間T3の瞬間筋シナジーは図10(b)のようになり、時間T4の瞬間筋シナジーは図11(b)のようになった。
【0066】
そして、特徴量計算部22は、シナジー1における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を図12(a)に示すように時系列で求めると共に、シナジー2における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を図12(b)に示すように時系列で求める。この結果、シナジー1の時間T3における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量は、図12(a)に示すように約0.992となり、シナジー2の時間T3における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量は、図12(b)に示すように約0.996となった。また、シナジー1の時間T4における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量は、図12(a)に示すように約0.930となり、シナジー2の時間T4における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量は、図12(b)に示すように約0.912となった。
【0067】
図12より、解析対象者Bの瞬間筋シナジーにおけるシナジー1及びシナジー2に関連する筋肉は、最初の方は特徴量が「1」に近い状態を維持できているが、後半には維持できなくなっていることが分かる。また、解析対象者Bの瞬間筋シナジーにおけるシナジー2に関連する筋肉は、前半からばらついており、筋力が不足していることが伺える。
【0068】
出力部50は、図8又は図12に示す時系列で求めた基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を表示させるための表示用データを含む送信信号を生成して送信する。これにより、時系列で表示される基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を見ることにより、解析対象者200の筋力の変化の傾向を把握することができる。
【0069】
上記の筋活動解析処理において、運動期間中の所定のタイミングにおいてのみ瞬間筋シナジーの取得を開始して、取得した瞬間筋シナジーと基準筋シナジーとの特徴量を算出してもよいし、運動期間中の全期間において取得した筋シナジーのうちの一部の瞬間筋シナジーと基準筋シナジーとの特徴量を算出してもよい。上記の瞬間筋シナジーの取得を開始する所定のタイミングは、例えば運動開始時点、運動終了直前、運動開始時点と運動終了時点との中間時点、又は所定時間毎(例えば1分毎)である。また、上記の瞬間筋シナジーの取得を開始するタイミングは、解析対象者200が任意に指定することができる。
【0070】
また、瞬間筋シナジーを取得する期間(例えば10秒間)の終了後にただちに次の瞬間筋シナジーを取得してもよいし、瞬間筋シナジーの取得期間が終了する前に次の瞬間筋シナジーを取得してもよいし、瞬間筋シナジーの取得期間終了時から所定時間経過後に次の瞬間筋シナジーの取得を開始してもよい。
【0071】
瞬間筋シナジーの取得回数を増やすことにより、運動期間中の特徴量の推移をより細かく取得することができるので、運動期間中の解析対象者200の筋活動の変化をより細かく把握することができる。
【0072】
このように、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量は、ヒラメ筋、腓腹筋、前脛骨筋、大腿二頭筋、半腱様筋、外側広筋、大腿直筋、内側広筋及び大殿筋の同じ筋肉同士の演算によって求められる。
【0073】
本方法を用いることで、解析対象者200自身の固有の筋シナジーから、運動に対する状況および運動内容の提案を行うことが可能である。
【0074】
<解析結果に基づく評価・フィードバック>
上記の筋活動解析処理によって求められた基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量は、解析対象者200の運動における筋力が不足している筋肉又は筋肉群を把握するために用いられると共に、上達のためにトレーニングが必要な筋肉の把握等の解析対象者200に対する運動内容のアドバイスを行うために用いられる。例えば、解析対象者200に対して、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量がより「1」に近づくようにアドバイスする。
【0075】
特徴量が「1」に近いほど、当該運動に対する筋力があり(運動能力が高い)、特徴量が「0」に近いほど、当該運動に対する筋力がない(筋力不足、運動能力が低い)と評価することができる。
【0076】
解析対象者200Aの図8に示す特徴量と解析対象者200Bの図12に示す特徴量とを比べた場合に、解析対象者200Bは、全体的に特徴量が「1」に近く、当該運動に対する筋力がより高い(運動能力がある)と評価することができる。運動に対する評価は、解析対象者同士の比較ではなくてもよい。例えば、特徴量にある基準を設け(例えば「0.8」。)、特徴量がこの基準を超えている時間が全体の運動時間の一定の割合を超える場合、運動に対する筋力がある(運動能力がある)と評価してもよい。また、特徴量に重みづけをして(例えば特徴量が「0.9」を超える場合は1.5倍、「0.8」を超える場合は1.2倍のように)、重みづけした特徴量を用いて当該運動に対する筋力(運動能力)の評価を行ってもよい。上記は一例として挙げたが、この方法でなくともよい。
【0077】
また、時間が経つとともに特徴量が変化する(瞬間シナジーが基準筋シナジーからずれて行く等)現象をとらえることで、ユーザーに適切なアドバイスが可能となる。
【0078】
例えば、自転車走行の場合において、シナジー1の特徴量が時間の経過と共にシナジー2の特徴量よりも早く「1」から離れていく場合には、ペダルを踏みこむ動作に用いる筋肉が、ペダルを引き上げる動作の筋肉よりも早く筋疲労を起こしていると評価することができる。
【0079】
基準筋シナジーと瞬間筋シナジーの比較から、トレーニングが必要な筋肉または筋肉群を特定することができる。例えば「〇〇さんは『〇〇筋』のトレーニングが必要です」のように、具体的な筋肉の名前を挙げることができる。また、各筋肉を鍛えるために必要な運動内容のアドバイスを記憶部30に保存しておき、解析対象者200の当該運動のためにトレーニングが必要な筋肉と、その筋肉を鍛えるために必要な運動内容のアドバイスも合わせて行うことができる。各筋肉を鍛えるために必要な運動内容のアドバイスは、記憶部30に保存せず、装置外部にあるものを用いてもよい。
【0080】
本実施形態の筋活動解析装置1の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませて実行することにより上記の筋活動解析処理を行なってもよい。または、本実施形態の筋活動解析装置1の機能を実現するためのプログラムをサーバからネットワーク経由でコンピュータシステムに読み込ませて実行することにより上記の筋活動解析処理を行なってもよい。
【0081】
このように、本実施形態によれば、解析対象者200の皮膚の表面に取り付けられた電極100からの電気信号より解析対象者200の複数種類の筋肉毎の筋電位を検出する筋電位検出部10と、筋電位検出部10により検出された筋電位に基づいて、第1の時間における複数種類の筋肉が協働して活動する際の筋活動を示す瞬間筋シナジーを算出すると共に、第1の時間よりも長い第2の時間における筋活動を示す基準筋シナジーを算出し、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を算出する演算部20と、を有することにより、算出した基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量に基づいて、解析対象者200の筋活動の変化を把握することができるため、解析対象者200に対して筋力の変化に応じた適切なアドバイスをすることができる。
【0082】
本発明は、部材の種類、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【0083】
具体的には、上記の実施形態において、解析対象者200が自転車走行する際の基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を算出したが、これに限らず、自転車走行以外のランニング等の一連の動作における基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を算出してもよい。
【0084】
また、上記の実施形態において、分解されるシナジー数sを2にしたが、これに限らず、分解されるシナジー数sを2以外の数にすることができる。
【0085】
また、上記の実施形態において、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を外部の表示装置に表示させたが、これに限らず、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を表示する表示部を筋活動解析装置に設けてもよい。
【0086】
また、上記の実施形態において、瞬間筋シナジーと基準筋シナジーとの特徴量を時系列で表示したが、これに限らず、瞬間筋シナジーと基準筋シナジーとの特徴量を数値で表示してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、筋活動解析装置、筋活動解析方法及び筋活動解析プログラムに好適である。
【符号の説明】
【0088】
1 筋活動解析装置
10 筋電位検出部
20 演算部
21 シナジー計算部
22 特徴量計算部
30 記憶部
40 タイマー
50 出力部
100 電極
200 解析対象者
【要約】
【課題】解析対象者に対して筋活動の変化に応じた適切なアドバイスをすること。
【解決手段】筋活動解析装置1は、解析対象者200の皮膚の表面に取り付けられた電極100からの電気信号より解析対象者200の複数種類の筋肉毎の筋電位を検出する筋電位検出部10と、筋電位検出部10により検出された筋電位に基づいて、第1の時間における複数種類の筋肉が協働して活動する際の筋活動を示す瞬間筋シナジーを算出すると共に、第1の時間よりも長い第2の時間における筋活動を示す基準筋シナジーを算出し、基準筋シナジーと瞬間筋シナジーとの特徴量を算出する演算部20と、を有する。
【選択図】図1
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