(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】被覆用油性食品
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240423BHJP
A23G 1/32 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
A23D9/00 500
A23G1/32
(21)【出願番号】P 2023054499
(22)【出願日】2023-03-30
【審査請求日】2023-05-26
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒木 美彩子
(72)【発明者】
【氏名】入澤 勇介
(72)【発明者】
【氏名】片淵 真紀
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-126081(JP,A)
【文献】特開2015-173614(JP,A)
【文献】特開2017-121191(JP,A)
【文献】特開2016-129494(JP,A)
【文献】特開昭60-045108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性食品であって、以下1)~5)をすべて満たす被覆用油性食品。
1)油分が35~70質量%、
2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み、
3)50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa
4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下
5)無脂カカオ固形分3質量%以下かつ乳製品の含量が
5~20質量%である
ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す。
【請求項2】
油分中の全構成脂肪酸に占める炭素数12および炭素数14の飽和脂肪酸の合計の含量が、15~50質量%である、請求項1に記載の被覆用油性食品。
【請求項3】
水分が0.4質量%混入した場合に、50℃において、
水分混入前の降伏値に対する水分混入後の降伏値の比が0.5~5であり、
水分混入前のB型粘度計の粘度に対する水分混入後のB型粘度計の粘度の比が0.5~ 5である、請求項1または請求項2に記載の被覆用油性食品。
【請求項4】
被覆対象の食品が含水食品であって、水分活性が0.75以上である、請求項1または請求項2に記載の被覆用油性食品。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の被覆用油性食品が含水食品に被覆された複合食品。
【請求項6】
以下1)~5)の要件をすべて満たす油性食品の製造方法であって、
2)のショ糖脂肪酸エステルを粉砕工程以前に配合し、混合及び粉砕処理を行う、被覆用油性食品の製造方法。
1)油分が35~70質量%
2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含む
3)製造後の50℃での降伏値が0.1~10Pa
4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下、
5)無脂カカオ固形分3質量%以下かつ乳製品の含量が
5~20質量%である
ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上 含まれる脂肪酸のことを示す。
【請求項7】
請求項6の製造方法で得られた被覆用油性食品を含水食品に被覆する複合食品の製造方法。
【請求項8】
請求項6の製造方法で得られる被覆用油性食品を用いて、以下のA)及びB)要件を満たすように被覆用油性食品の流動性を維持する方法。
水分が0.4質量%混入した場合に、50℃において、
A)水分混入前の降伏値に対する水分混入後の降伏値の比が0.5~5であり、
B)水分混入前のB型粘度計の粘度に対する水分混入後のB型粘度計の粘度の比が0.5~ 5である
【請求項9】
油性食品であって、
無脂カカオ固形分3質量%以下かつ乳製品の含量が
5~20質量%であり、
カカオバター含有量が5質量%以下であり、
油分が35~70質量%、
主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み、
50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Paである、
被覆用油性食品を表面に被覆する、複合食品のツヤ向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆用油性食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
含水食品に油性食品を被覆する食品は、風味、外観の良さ、商品のバラエティ展開という点で広く利用される。油性食品のうち、チョコレートやチョコレートコーティングを被覆する食品は、高級感を付与する目的でも利用され、広く嗜好される。
従来からカカオマスやココアを用いたチョコレートが被覆用途に多く用いられていたが、近年は、さまざまな色調のカラーチョコレートもバラエティ展開の目的で用いられている。それらの被覆用油性食品は、被覆した場合の外観の良さのため、良好なツヤが求められる。
【0003】
特許文献1には、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びカカオ繊維質などの繊維質を含む被覆用チョコレート類に関する発明が記載されている。
特許文献2には、澱粉加水分解物及びショ糖脂肪酸エステルを用いて、被覆工程中の微量の水分混入による増粘が抑制された、冷菓被覆用油性食品素材に関する発明が記載されている。
特許文献3には、水分を段階的に添加することによって、粘度の上昇を起こさず、流動性のあるペースト状が維持された、含水チョコレート生地が調製できる、含水型耐熱性チョコレートの製造方法に関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-110268号公報
【文献】特開2017-042087号公報
【文献】特開2017-121228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、良好なツヤを有する油性食品に関する発明が記載されている。特許文献2はデキストリン類を配合して、水分添加による粘度上昇を抑制する発明が開示されているが、繊維質やデキストリン類を入れる必要があるために、その他の原料の使用や風味調整に制限が生じる場合がある。
特許文献3にはチョコレート生地を製造する工程中での増粘を制御することはできるが、チョコレート類の被覆作業中に水分が徐々に増加することで、経時的に粘度が上昇する課題を解決する示唆は無い。
【0006】
背景技術を参考に、発明者らは鋭意検討をおこなったが、具体的な課題が何であるか不明確な状態であった。その中で発明者らは、ツヤの維持と被覆用油性食品の流動性の維持には、関連性があることを見出した。
よって、本発明は、被覆用油性食品において、水分が混入した場合にも流動性を維持することで、被覆量を制御することができ、被覆後のツヤが良好である外観を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らはさらに検討を行い、油分が35~70質量%である油性食品であって、特定の主要構成脂肪酸及びHLBのショ糖脂肪酸エステルを含み、流動性の指標である降伏値を50℃において0.1~10Paに調整した油性食品で本発明の課題を解決することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)油性食品であって、油分が35~70質量%、
主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み、
50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Paである、被覆用油性食品、
ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す、
(2)無脂カカオ固形分3質量%以下かつ乳製品の含量が2~30質量%である、(1)に記載の被覆用油性食品、
(3)油分中の全構成脂肪酸に占める炭素数12および炭素数14の飽和脂肪酸の含量が、15~50質量%である、(1)または(2)に記載の被覆用油性食品、
(4)水分が0.4質量%混入した場合に、50℃において、
水分混入前の降伏値に対する水分混入後の降伏値の比が0.5~5であり、
水分混入前のB型粘度計の粘度に対する水分混入後のB型粘度計の粘度の比が0.5~5である、(1)または(2)に記載の被覆用油性食品、
(5)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下である、(1)または(2)に記載の被覆用油性食品、
(6)被覆対象の食品が含水食品であって、水分活性が0.75以上である、(1)または(2)に記載の被覆用油性食品、
(7)(1)または(2)に記載の被覆用油性食品が含水食品に被覆された複合食品、
(8)以下1)~3)の要件をすべて満たす油性食品の製造方法であって、2)のショ糖脂肪酸エステルを粉砕工程以前に配合し、混合及び粉砕処理を行う、被覆用油性食品の製造方法、1)油分が35~70質量%、2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含む、3)製造後の50℃での降伏値が0.1~10Pa、
ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す、
(9)(8)の製造方法で得られた被覆用油性食品を含水食品に被覆する複合食品の製造方法、
(10)油性食品であって、油分が35~70質量%、
主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み、
50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Paである、被覆用油性食品を表面に被覆する、複合食品のツヤ向上方法、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被覆用油性食品において、水分が混入した場合にも流動性を維持することができる。そのため、複合食品の連続生産に用いる場合にも、含水食品への被覆量を制御することができる。さらには、水分が混入した場合にも流動性を維持することができることによって、連続生産においても被覆後のツヤが良好である品質を維持することができる。
本発明の被覆用油性食品を被覆に用いることによって、被覆量が制御され、ツヤが良好な外観の複合食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0011】
本発明の油性食品とは、油脂が連続相をなす食品であり、特にチョコレート類のことをいう。ここでのチョコレート類とは、全国チョコレート業公正取引協議会、チョコレート利用食品公正取引協議会で規定されるチョコレート、準チョコレート、およびチョコレート利用食品に限定されるものではなく、油脂類を必須成分とし、カカオマス、ココア、全粉乳、果汁乾燥粉末、野菜乾燥粉末、植物乳粉末、カカオバター、カカオバター代用脂、ハードバター等を利用した油脂加工食品をも包含する食品のことを言う。
本発明の被覆用油性食品は、特に菓子及びベーカリー食品の表面全体あるいは一部を被覆(コーティングあるいはカバリング)するためのチョコレート類のことをいう。
【0012】
本発明において、被覆用油性食品中に含まれる油分は被覆用油性食品全体に対して、35~70質量%、好ましくは36~65質量%、さらに好ましくは37~63質量%、38~61質量%である。油分を適切な範囲に調整することで、油性食品を含水食品に被覆する作業を簡便にすることができる。油分が35質量%未満の場合、流動性が低いため、被覆量を制御することが困難である場合がある。70質量%を超えると、被覆用として良好な風味が得られない場合があり、また油性感が強くなる場合がある。
油性食品中の油分とは、全脂粉乳などに含まれる油脂すべてを含めた質量%を意味する。
【0013】
本発明の被覆用油性食品は、含水食品に被覆する際に被覆量のばらつきを少なくすることができ、連続で被覆する場合にも被覆量を一定に制御することができる。一般的には、油性食品の被覆量は油性食品の流動性に影響する。そのため、含水食品に被覆する場合には流動性を調整するために油分を調整したり、被覆作業時の油性食品の品温を調整したりする。
しかし、含水食品に連続で被覆する場合に徐々に流動性が変化すると、目付量が変化してしまい複合食品の品質を一定に保持することが難しい場合がある。
本発明の被覆用油性食品は、水分が混入した場合であっても流動性を維持することができるので、被覆量を一定に制御することが可能である。
【0014】
本発明の被覆用油性食品に使用する油脂は特に限定されないが、使用できる油脂としては、大豆油、ひまわり種子油、綿実油、菜種油、ハイエルシン酸菜種油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、中鎖トリグリセリド(MCT)等の植物性油脂、および乳脂、牛脂、豚脂等の動物性油脂、ならびに、それらの硬化油、分別油、硬化分別油、分別硬化油、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等が例示できる。
なお、ハイエルシン酸菜種油はエルシン酸含有量が構成脂肪酸組成中30質量%以上であるものを言う。
【0015】
本発明の被覆用油性食品には、ショ糖脂肪酸エステルを含む。ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは0.05~1質量%、より好ましくは0.08~0.8質量%、最も好ましくは0.09~0.6質量%である。ショ糖脂肪酸エステルを適切な量含有させることで、被覆用油性食品に水分が混入した場合にも流動性を維持することができる。また、流動性が維持できた被覆用油性食品を含水食品に被覆した場合の良好なツヤを維持することができる。
【0016】
本発明において、HLBとは、Hydrophilic-Lipophilic Balanceの略であって、親水性と親油性のバランスのことであり、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標である。HLBは0~20の値をとり、HLB値が小さいほど親油性が強い。本発明のショ糖脂肪酸エステルのHLBは好ましくは3~17であり、より好ましくは4~16、より好ましくは5~16、6~16、6~14、6~12、最も好ましくは6~10である。所定のHLBのショ糖脂肪酸エステルを用いることで、被覆用油性食品に水分が混入した場合にも流動性を維持することができる。また、流動性が維持できた被覆用油性食品を含水食品に被覆した場合の良好なツヤを維持することができる。
【0017】
本発明で含有するショ糖脂肪酸エステルは、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であるものより選ばれる1種以上のショ糖脂肪酸エステルである。好ましくは、主要構成脂肪酸は炭素数が16~20の飽和脂肪酸である。より好ましくは、主要構成脂肪酸は炭素数の16~18の飽和脂肪酸である。なお、本発明において主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことをいう。
【0018】
本発明の被覆用油性食品が被覆される食品としては、含水食品が良く、本発明の効果を得やすくなる。被覆対象の含水食品は、25℃での水分活性が0.75以上であることが好ましい。より具体的には0.75~0.99、0.76~0.98,0.76~0.97である場合に、本発明の効果をより得やすくなる。水分活性が低い場合には、被覆作業時に含水食品との接触によって被覆用油性食品に混入する水分が少量であるため、流動性悪化などの問題が生じにくい。含水食品の水分活性が0.75以上である場合、被覆作業時に被覆用油性食品に水分が混入しやすくなり、流動性が低下したり、被覆して固化した油性食品のツヤが低下したりする場合がある。そのため、本発明の効果が発揮されやすい。
水分活性は、一例をあげると、AQUA LAB(メータージャパン株式会社製)などで測定できる。
【0019】
本発明における被覆用油性食品を被覆する含水食品としては、菓子、ベーカリー製品であれば、特に限定されるものではない。菓子としては、まんじゅう、蒸しようかん、カステラ、どら焼き、今川焼き、たい焼き、きんつば、ワッフル、栗まんじゅう、月餅、ボーロ、八つ橋、せんべい、かりんとう、スポンジケーキ、ロールケーキ、エンゼルケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、フルーツケーキ、マドレーヌ、シュークリーム、ミルフィユ、アップルパイ、タルト、ビスケット、クッキー、クラッカー、蒸しパン、プレッツェル、ウエハース、スナック菓子、ピザパイ、クレープ、スフレー、ベニエなどの菓子が例示でき、果物としては、バナナ、りんご、イチゴなどの果物が例示できる。ベーカリー製品としては、食パン、コッペパン、フルーツブレッド、コーンブレッド、バターロール、ハンバーガーバンズ、ドーナツ、フランスパン、ロールパン、菓子パン、スイートドウ、乾パン、マフィン、ベーグル、クロワッサン、デニッシュペストリー、ナンなどの食品が例示できる。
本発明に用いる含水食品としては、より好ましくは、スポンジケーキ、ロールケーキ、エンゼルケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、シュークリーム、コッペパン、バターロール、ドーナツ、ロールパン、クロワッサン、デニッシュペストリーなどの菓子およびベーカリー製品が例示できる。
前記含水食品の水分活性は、一例をあげると、25℃においてバウムクーヘンで0.85、イーストドーナツで0.92、ケーキドーナツで0.77、コッペパンで0.93、クロワッサンで0.83などになる。
【0020】
本発明の被覆用油性食品は、水分が混入しても、流動性を維持することができる。流動性は一般的には粘度計を用いて測定することができる。粘度計は非ニュートン性の特徴を有する流体の粘性を測定するものであれば特に限定されないが、一般的にはB型粘度計のうちBM型、BH型、BL型などを用いることができ、粘度が測定できる。
また、流動性を評価する指標として降伏値や塑性粘度を用いることができる。降伏値や塑性粘度は、ずり速度を変化させた場合のずり応力を測定し、その結果から算出することができる。測定と算出のために使用する機器は特に限定されないが、一例を挙げるとAntonPaar社製のRheolab-QCなどの機器を用いて測定するずり応力から、降伏値や塑性粘度を算出することができる。算出のためには、IOCCC2000で定める近似式などを採用することができる。
具体的にはIOCCC2000で定める条件に従って、50回転/秒から2回転/秒に180秒かけて減速しながらずり応力を測定した値を、以下の数式に近似した場合の定数aを降伏値として求めることができる。この時、定数bが塑性粘度を示す。
y(1/p)=a+b・x(1/p)
これらの粘度、降伏値、塑性粘度などの流動性を確認することで、油性食品の粘度上昇の程度を評価することができる。
【0021】
本発明の被覆用油性食品は、50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Paである。より好ましくは0.3~9Pa、さらに好ましくは0.4~9Pa、0.5~8Paである。本発明の被覆用油性食品は融解後、被覆用途に使用される場合に含水食品と接触することで水分が混入する。水分混入前である融解時の降伏値が所定の範囲であれば、被覆用途に用いることができる。
被覆用途としての降伏値は、20Pa以下であることが望ましいため、水分が混入した後にも20Pa以下であることが求められる。より望ましくは18Pa以下、さらに望ましくは16Pa以下、15Pa以下であることが求められる。
また、本発明の被覆用油性食品の粘度は、50℃で融解された状態において200~7000mPa・sであることが好ましい。前記粘度はB型粘度計で測定される粘度のことをいい、特にBM型粘度計によって測定される粘度が品質評価に使用できる。より好ましい粘度は、融解時250~6800mPa・s、さらに好ましくは300~6500mPa・s、350~6000mPa・sである。本発明の被覆用油性食品は融解後、被覆用途に使用される場合に含水食品と接触することで水分が混入する。水分混入前である融解時の粘度が所定の範囲であれば、被覆用途に用いることができる。
被覆用途としてのB型粘度計による粘度は、10000mPa・s以下であることが望ましいため、水分が混入した後にも10000mPa・s以下であることが求められる。より望ましくは9000mPa・s以下、さらに望ましくは8000mPa・s以下、7000mPa・s以下である。
なお、本発明においてBM型粘度計の測定値は、3号ローター、12rpmでの50℃における測定値である。また、3号ローターで測定できないほど粘度が高い場合は、4号ローターを用いる。
【0022】
本発明の被覆用油性食品は、水が混入した場合の粘度上昇が抑制できる。一つの指標として、0.4質量%の水が被覆用油性食品に混入した場合に、水分混入前に対する水分混入後の50℃での降伏値の比を、0.5~5に抑えることができる。より望ましい範囲としては0.7~4.5、0.9~4、さらに望ましくは1~3.5に抑えることができる。降伏値が水分混入前後で適切な範囲になっている場合、充分に流動性が維持されていると判断することができる。
また、本発明の被覆用油性食品の水分混入前に対する水分混入後の50℃でのBM型粘度計の粘度の比を、0.5~5に抑えることができる。より望ましい範囲としては0.6~4.5、0.7~4、さらに望ましくは0.8~3.5に抑えることができる。降伏値が水分混入前後で適切な範囲になっている場合、充分に流動性が維持されていると判断することができる。
降伏値とBM型粘度計測定値がどちらも前記条件を満たす場合に、特に、被覆作業が良好で流動性が維持されていると判断することができる。
流動性が維持されることで、成型や可食物への被覆作業が不具合無く行うことができる。
さらに、本発明の被覆用油性食品であれば、流動性が維持されるとともに、含水食品に被覆し、固化した被覆用油性食品のツヤが、水分混入前と同様に良好なものであった。これは、水分が混入しても、連続してツヤの良い製品群を生産することができることを意味するため、品質が安定した製品を継続して生産することができる。
【0023】
本発明の被覆用油性食品は、水分混入前であっても、水分を0.3~2質量%程度含む。これは実質的には水分を加えているのでなく、砂糖や粉乳などの原料がもつ少量の水分に起因するものであって、流動性の悪化に直接的に影響するものではない。これらの原料由来の少量の水分とは別に、新たに水分が混入した場合に、流動性が悪化することがある。水分が油性食品に混入する原因として、意図せず油性食品に水が混入してしまう場合、湿度の高い作業環境で油性食品を取り扱う場合、被覆対象の含水食品を油性食品と接触させることで水分が混入する場合、などが例示できる。本発明の被覆用油性食品は、それらのどのような場合にも対応できる。
油性食品が被覆された複合食品を製造する場合、工業的に連続生産するには、エンローバーと呼ばれる被覆用の機器を用いることが多い。エンローバーを用いる場合に、融解した油性食品が含水食品に被覆され、ベルトコンベアで冷却工程に送られる。油性食品が被覆される際に含水食品由来の水分が油性食品に混入する。そして、被覆に用いられた油性食品の減少分が新たに供給される。エンローバーを用いて連続的に複合食品を製造する場合、被覆対象の含水食品の水分量にもよるが、油性食品には0.1~1.5質量%程度の水分が経時的に混入する。水分が混入した後にも、エンローバーの溶解槽にある油性食品は、機械を循環する程度の攪拌がなされるくらいで、チョコレート類の製造工程で行われるような攪拌混合を行うことは難しい。
本発明の被覆用油性食品は、エンローバーを用いずに、融解した油性食品を容器で保温しながら、手作業で含水食品に被覆させることもできる。
いずれの場合であっても、被覆用油性食品の流動性が悪化してしまうと、被覆作業が困難になるため、徐々に水分が混入する場合にも流動性を維持することは、含水食品への被覆量を制御し、複合食品の品質を一定にするために望まれる。本発明の被覆用油性食品は、流動性を維持することで、複合食品の品質を一定にすることができる。さらに、外観のツヤが良好であるため、従来よりも向上した複合食品の品質を、一定に維持することができる。
【0024】
無脂カカオ固形分とは、カカオマスやココアなどのカカオ由来原料のうちカカオバターと水分を除いた部分を指す。本発明において、好ましい無脂カカオ固形分の含有量は3質量%以下である。無脂カカオ固形分の含有量が3質量%以下の油性食品としては、例えばホワイトチョコレート及び、キャラメルチョコレート、イチゴチョコレートなどのカラーチョコレートの態様が例示できる。これらの油性食品の多くが、いわゆるビターチョコレートやスイートチョコレートなどとは異なり、無脂カカオ固形分を含まない、もしくは少量含むチョコレート類に該当する。
本発明は無脂カカオ固形分が少ない場合に特にツヤを維持する効果を発揮するが、特に2質量%以下、1質量%以下でも効果を発揮し、最も効果がわかりやすいのは、無脂カカオ固形分が1質量%未満の場合である。さらに無脂カカオ固形分を含まない場合に、効果を発揮する。
商品のバラエティ展開を目的とするカラーチョコレートでは、無脂カカオ固形分を配合することで、風味が従来のチョコレートと近しいものになるだけでなく、色調も鮮やかにならない場合がある。そのため、無脂カカオ固形分の含有量が少ない被覆用油性食品の外観が良好であることは、商品のバラエティ展開を図る上で有用である。
【0025】
本発明の被覆用油性食品の好ましい態様としては、乳製品を含む。乳製品とは、従来からチョコレート類に使用させる生乳由来の原料全般のことをいい、一例を挙げるとすると、全粉乳、脱脂粉乳、ホエーパウダー、バターミルクパウダー、クリームパウダーなどが挙げられる。チョコレート類に使用するため、乳製品は水分が10質量%未満の粉状のものを使用することが好ましい。本発明の被覆用油性食品の、乳製品の含有量は、好ましくは2~30質量%である。より好ましくは3~25質量%、4~23質量%、さらに好ましくは5~20質量%、6~18質量%である。
【0026】
本発明の被覆用油性食品に含まれる油分は、好ましくは油分中の全構成脂肪酸に占める炭素数12の飽和脂肪酸及び炭素数14の飽和脂肪酸が合計15~50質量%含まれる。より好ましくは、18~45質量%、さらに好ましくは20~43質量%である。油分中に炭素数12の飽和脂肪酸及び炭素数14の飽和脂肪酸が適切な量が含まれると、良好なツヤを有することができる。
なお、油脂の脂肪酸組成は日本油化学協会基準油脂分析試験法(1996年版)2.4.1.2メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)に規定の方法に準じて測定した値を用いるものとする。
本発明の被覆用油性食品に含まれる油脂として、構成脂肪酸が炭素数12の飽和脂肪酸及び炭素数14の飽和脂肪酸を含有するエステル交換油脂を用いることで、ツヤの向上と維持という発明の効果がより発揮される。
【0027】
本発明の被覆用油性食品はカカオバターの含有量が、油性食品中に5質量%以下であることが好ましい。一般的に、カカオバターを多く含む油性食品はテンパリング処理をすることで、良好なツヤを得ることができる。また、カカオバターを多く含むことでチョコレートらしい口溶けを有している。一方、本発明の被覆用油性食品の好ましい態様として、カカオバターが油性食品中に5質量%以下である場合に、テンパリングせずにより良好なツヤと良好な口溶けを得ることができる。
本発明において、被覆用油性食品のカカオバター含有量は、油性食品中に0~4質量%であることがより好ましい。さらに好ましくは、0~3質量%である。
また、油分中のカカオバターの含有量は好ましくは、0~10質量%、より好ましくは0~9質量%、さらに好ましくは0~8質量%である。
【0028】
本発明の被覆用油性食品は、含水食品に被覆し、固化した後に良好なツヤを有する。ツヤは目視で確認することができるが、光沢計による光沢度でも簡易的に評価することが可能である。光沢計による測定は、一例としては株式会社堀場製作所社製、ハンディ光沢計<グロスチェッカ> HORIBA IG-320などが好適に用いられる。
本発明において、一例として測定結果を例示すると、20℃固化時の光沢度(入射角60度)が7以上の良好なツヤとなる。以降、特に断らない場合は、「光沢度」とは20℃固化時の光沢度(入射角60度)の条件にて測定されたものとする。
また、本発明の被覆用油性食品は、無脂カカオ固形分が少ない場合に、よりツヤを良好にする効果を顕著に発揮する。
光沢度測定方法としては、チョコレートを50℃にて溶解後にプラスチックフィルムにコーティングし、20℃雰囲気下で固化した後に光沢度測定機器にて光沢度を測定する。
光沢度の数値としては、7以上が良く、さらに好ましくは10以上である。
【0029】
本発明の被覆用油性食品の製造法としては、一般的なチョコレート類を製造する要領で行うことができる。具体的には、油脂に、糖類、粉乳等の各種粉末食品、乳化剤、香料、色素等の原料を適宜選択して混合し、粉砕工程であるロール掛け及び、混練工程であるコンチング若しくは混合工程であるミキシング処理を行い、得ることができる。あるいは、ボールミル、ビーズミルなどで混合工程と粉砕工程を並行して行う製造方法などの製造方法も用いることができる。
その中で、より好ましい製造方法として、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルは、ロール掛けなどの粉砕工程以前に添加し、粉末食品と同様に粉砕処理する。
粉砕工程以前に添加することで、被覆用油性食品への分散性が向上し、ツヤの向上や流動性を維持する効果が発揮されやすくなる。
混合工程の後、調製して仕上がった被覆用油性食品は、50℃での降伏値が0.1~10Paとなる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明について実施例を示し、より詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%および部はいずれも質量基準を意味する。
【0031】
●事前の検討
(被覆用油性食品の調製)
表1の配合の通り、砂糖、全粉乳等の粉体原料を、融解した一部の植物油脂とミキサーで混合し、これをロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂及びレシチンを加えて、ミキシングを行うことで被覆用油性食品を調製した。
表中の植物油脂Wとして、ヨウ素価68のパーム分別軟質油を用いた。
植物油脂Xとして、パーム油分別硬質部及びヤシ油をナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行った後に、常法に従い精製したエステル交換油脂を使用した。
植物油脂Xを構成する脂肪酸は、炭素数が12の飽和脂肪酸と炭素数が14の飽和脂肪酸の総量が、44.5質量%であった。
【0032】
(水分混入時の流動性検証1)
調製した被覆用油性食品を蓋付きのミキサータンクに入れ、50℃で融解した状態で32rpmにてごく緩やかに攪拌しながら、10分おきに0.02%又は0.04%の水分を添加した。一定時間毎に流動性を確認した。
粒度性検証のための粘度の測定は、カップに200g採取し、50℃でのBM型粘度計による粘度を測定した。
粘度の測定にはBM型粘度計は、3号ローター12rpmで測定、あるいは10000mPa・sを超えた場合には4号ローター12rpmで測定した。4号ローター12rpmでも測定できない場合は、測定不可とした。
同じサンプルを、AntonPaar社製のRheolab-QCを用いて50℃でのずり応力を測定し、降伏値を算出した。算出のためには、IOCCC2000が定める近似式を採用した。
流動性の結果を表2に示した。表中の製造後降伏値及び製造後B型粘度計粘度は、水分混入前の降伏値及び粘度を示した。
(水分混入時の流動性検証2)
(水分混入時の流動性検証1)で用いた油性食品と同様の油性食品をカップに200g採取し、50℃に温調、この時点でのBM型粘度計による粘度を測定した。次に別途300g採取した油性食品に0.2質量%、0.4質量%、0.7質量%相当の水を油性食品に添加してよく攪拌し、50℃に温調しBM型粘度計による粘度を測定した。
さらに、それぞれのサンプルについてAntonPaar社製のRheolab-QCを用いて50℃でのずり応力を測定し、降伏値を算出した。
結果を表3に示した。表中の製造後降伏値及び製造後B型粘度計粘度は、表2同様に水分混入前の降伏値及び粘度を示した。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
水分が継続的に混入した場合、時間が経つにつれて降伏値の変化及びB型粘度計粘度の変化が大きくなり、増粘していることが示された。
また、プラスチックフィルムへの被覆を行ったところ、増粘が確認された被覆用油性食品は、水分添加前の被覆用油性食品よりも被覆量が大幅に増加した。被覆量を減らすために油性食品を振り落とそうとすると、その動きによって被覆表面に凹凸が生じた。
一方、直接所定量の水分が混入した(水分混入時の流動性検証2)の結果から、0.4質量%の水分を混入した場合が、(水分混入時の流動性検証1)で増粘が確認された際の降伏値と近い結果が得られ、被覆量を一定に保つことが困難であった。
そこで0.2質量%~0.4質量%の水分を一度に混入させた場合の結果から、微量の水分が継続的に混入する場合の増粘の程度が想定可能であると判断した。
【0037】
●検討1
前述した(被覆用油性食品の調製)と同じ要領で、表4の配合に従って、カカオマス、粉体原料及びショ糖脂肪酸エステルを、融解した一部の植物油脂とミキサーで混合し、ロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂及びレシチンを加えて、ミキシングを行うことで被覆用油性食品を調製した。
ショ糖脂肪酸エステルaとして、リョートーシュガーエステルS-770(三菱ケミカル株式会社製、HLB7、主要構成脂肪酸:炭素数16の飽和脂肪酸)を使用した。
事前の検討で行った(水分混入時の流動性検証2)と同様の検討を行った。結果を表5に示した。
(コーティングテスト)
得られた油性食品を用いて、バウムクーヘンを被覆し、以下評価方法に従って評価した。
調製した油性食品を50℃の融解状態で、バウムクーヘン(エースベーカリー社製:厚切りバウムクーヘン)の表面上部に4.0g(±1.0g)コーティングした。付着方法は特に限定されないが、融解状態の油性食品にバウムクーヘンを3分の1程度浸漬した後、持ち上げて油性食品が付着した部分を上部にした状態で20℃室温下にて静置した。
バウムクーヘンの水分活性は、25℃で0.85であった。
・ツヤの評価:外観の目視
ツヤはバウムクーヘンにコーティングされた状態を、目視で確認した。
評価は以下の基準で行った。○以上を合格品質と判断した。
◎:特に良好、○:良好、△:ややくすんでいるが許容範囲、×:不良
・ツヤの評価:光沢度
ツヤを評価するために、光沢度を測定した。
光沢度はチョコレート類を50℃でプラスチックフィルムにコーティングし、20℃で1時間固化させた後グロスチェッカ(HORIBA IG-320、入射角60°)にて 測定を行った。
得られた被覆用油性食品を、前述の(水分混入時の流動性検証2)と(コーティングテスト)を行った。結果を表5に示した。なお、表中の「C12+C14」とは、炭素数12および炭素数14の飽和脂肪酸の含量を示した。
【0038】
【0039】
【0040】
実施例の被覆用油性食品は水分が混入しても流動性を維持しており、ツヤも良好であった。被覆量の制御も容易であった。ツヤについては、光沢度7以上であれば良好なツヤ、10以上であれば特に良好なツヤである、とした場合に、目視による評価ともよく一致した。
比較例の水分が0.4%混入したものは、コーティングテストにおいて被覆量を目標範囲に制御することが困難であった。被覆量を調整するために、油性食品を振り落とそうとすると、被覆表面に凹凸が生じてしまった。
【0041】
●検討2
前述した(被覆用油性食品の調製)と同じ要領で、表6の配合に従って、実施例4~9では粉体原料とショ糖脂肪酸エステルを、比較例では粉体原料を、融解した一部の植物油脂とミキサーで混合し、ロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂及びレシチン及びその他の乳化剤(PGPR)を加えて、ミキシングを行うことで無脂カカオ固形分が0質量%の被覆用油性食品を調製した。
植物油脂Yとして、パーム油分別硬質部、ヤシ油及びハイエルシン酸菜種極度硬化油を所定の比率で混合してナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行った後常法に従い精製した植物油脂yに、ハイエルシン酸菜種極度硬化油を添加したものを用いた。 植物油脂Yを構成する脂肪酸は、炭素数が12の飽和脂肪酸と炭素数が14の飽和脂肪酸の総量が、32.3質量%であった。
植物油脂Zとして、パーム核油をヨウ素価2.5となるように硬化した後、常法に従い精製した油脂を用いた。植物油脂Zを構成する脂肪酸は炭素数が12の飽和脂肪酸と炭素数が14の飽和脂肪酸の総量が、63質量%であった。
PGPRとしては、SYグリスターCR-350H(阪本薬品工業株式会社製)を使用した。
得られた被覆用油性食品を、前述の(水分混入時の流動性検証2)と(コーティングテスト)を行った。結果を表7に示した。
【0042】
【0043】
【0044】
油分や乳製品の量を変更した場合であっても、実施例は流動性が維持されていた。そのため、被覆した場合の被覆量を容易に制御することができた。実施例はツヤも良好であった。比較例は水分が混入すると粘度が上昇し、流動性が維持できなかった。そのため、被覆量を目標範囲に制御することが困難であった。被覆量を調整するために、油性食品を振り落とそうとすると、被覆表面に凹凸が生じてしまった。ツヤも悪かった。
【0045】
●検討3
前述した(被覆用油性食品の調製)と同じ要領で、表8の配合に従って、粉体原料とショ糖脂肪酸エステルを、融解した一部の植物油脂とミキサーで混合し、ロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂及びレシチンを加えて、ミキシングを行うことで無脂カカオ固形分が0質量%の被覆用油性食品を調製した。
得られた被覆用油性食品を、前述の(水分混入時の流動性検証2)と(コーティングテスト)を行った。結果を表9に示した。
【0046】
【0047】
【0048】
乳化剤の添加量を変化させた場合にも、水分が混入した際の流動性が維持されており、被覆時の被覆量を容易に制御することができ、ツヤも良好であった。
【0049】
●検討4
前述した(被覆用油性食品の調製)と同じ要領で、表10の配合に従って、実施例14~16、比較例9では粉体原料とショ糖脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルを、比較例6、7は粉体原料を、融解した一部の植物油脂とミキサーで混合し、ロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂及びレシチンを加えて、ミキシングを行うことで無脂カカオ固形分0質量%の被覆用油性食品を調製した。ただし、比較例6では、乳化剤bは残りの油脂中に分散して添加した。比較例7では、乳化剤dはレシチンと同じ時期に添加してミキシングをおこなった。
得られた被覆用油性食品を、前述の(水分混入時の流動性検証2)と(コーティングテスト)を行った。結果を表11に示した。
被覆用油性食品の調製には、ショ糖脂肪酸エステルaの他、以下に示す乳化剤を使用した。
ショ糖脂肪酸エステルb:リョートーシュガーエステルS-070(三菱ケミカル株式会社製、HLB0、主要構成脂肪酸:炭素数16の飽和脂肪酸)
ショ糖脂肪酸エステルc:リョートーシュガーエステルS-1670(三菱ケミカル株式会社製、HLB16、主要構成脂肪酸:炭素数16の飽和脂肪酸)
ショ糖脂肪酸エステルd:リョートーシュガーエステルER-290(三菱ケミカル株式会社製、HLB2、主要構成脂肪酸:炭素数22の不飽和脂肪酸)
ショ糖脂肪酸エステルe:リョートーシュガーエステルS-570(三菱ケミカル株式会社製、HLB5、主要構成脂肪酸:炭素数16の飽和脂肪酸)
ソルビタン脂肪酸エステル:ソルマンS-300V(理研ビタミン株式会社製、HLB5.3、主要構成脂肪酸:炭素数16の飽和脂肪酸)
【0050】
【0051】
【0052】
乳化剤a、c、eを用いた実施例は、0.4%だけでなく、0.7%直接水分が混入しても流動性が維持されていた。そのため、被覆時の被覆量を容易に制御することができ、ツヤも良好であった。乳化剤cは流動性維持や良好なツヤの維持に効果があったが、20℃で保管時に、表面に若干油染みがみられた。
【0053】
●検討5
実施例14を用いて、事前の検討で行った(水分混入時の流動性検証1)と同様に10分おきに0.02質量%の水分を添加し、微量の水分が継続的に混入する検討を行った。結果を比較例1の結果とともに表12に示した。
【0054】
【0055】
直接所定量の水分が混入しても流動性が維持できている実施例であれば、微量の水分が継続的に混入した場合にも流動性が維持できていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によって、被覆用油性食品において、水分が混入した場合にも流動性を維持することで、被覆量を制御することができ、被覆後のツヤが良好である外観を得ることができる被覆用油性食品を提供することができる。
【要約】
【課題】被覆用油性食品において、水分が混入した場合にも流動性を維持することで、被覆量を制御することができることを課題とする。さらには、被覆後のツヤが良好である外観を得ることを課題とする。
【解決手段】油分が35~70質量%である油性食品であって、特定の主要構成脂肪酸及びHLBのショ糖脂肪酸エステルを含み、流動性の指標である降伏値を50℃において0.1~10Paに調整した油性食品で本発明の課題を解決することができる。
【選択図】なし