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  • 特許-シザーズギア及び伝達機構 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】シザーズギア及び伝達機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/18 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
F16H55/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023088453
(22)【出願日】2023-05-30
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】山岸 誠弥
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-170648(JP,A)
【文献】実開平7-34251(JP,U)
【文献】実開平4-113074(JP,U)
【文献】特開2001-12582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトに連結されたメインギアと、
前記メインギアに対して周方向に回転可能に設けられるとともに、前記メインギアに近づき又は遠ざかるように前記シャフトの軸方向に沿って移動可能に設けられたサブギアと、
前記サブギアが前記メインギアに対して回転した際、前記サブギアが前記サブギアの初期位置に戻るように周方向の力を付与する付勢部材と、
を備えるシザーズギアであって、
前記付勢部材は、
一端が前記メインギアの固定部に係止され、他端がサブギアの固定部に係止され、前記メインギアと前記サブギアとの間で螺旋状に延在するばねである、
シザーズギア。
【請求項2】
前記付勢部材は、前記シャフトの周りを360度以上に亘って延在している、
請求項1に記載のシザーズギア。
【請求項3】
前記付勢部材の前記一端は、前記メインギアの固定部として設けられた、前記メインギアの挿入孔に挿入された第1軸部材に係止され、
前記付勢部材の前記他端は、前記サブギアの固定部として設けられた、前記サブギアの他の挿入孔に挿入された第2軸部材に係止される、
請求項1又は2に記載のシザーズギア。
【請求項4】
前記メインギア及び前記サブギアはいずれもヘリカルギアであり、
前記付勢部材は、前記メインギアと前記サブギアとが前記軸方向に互いに離れる方向の付勢力を前記メインギア及び前記サブギアに付与している、
請求項1又は2に記載のシザーズギア。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のシザーズギアと、
前記シザーズギアと噛み合うヘリカルギアと、
を備える伝達機構であって、
前記サブギアは、前記ヘリカルギアの歯と前記サブギアの歯とが噛み合う作用によりスラスト方向の力が生じ、当該スラスト方向の力によって前記メインギア側に移動するように設けられている、
伝達機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シザーズギア及び伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンからの駆動力をクランクを介して伝えるギアトレインでは、クランクの回転変動やカム駆動トルクによって、ギアどうしが衝突するギアラトルが発生する。ギアラトルによって発生した振動は、ギア軸受を伝わってエンジンブロック本体に伝達され、エンジン騒音を悪化させる。ギアラトルに対する対策として、従来、2枚の歯で相手側のギアを挟み込み、ギアの相対移動を抑制するシザーズギアにより騒音悪化を抑える方法が提案されている。
【0003】
ラトル音を低減するために、例えば、メインギアとサブギアとの間においてそれらの回転方向に沿ったC字型のスプリングを設置し、その一端がメインギアのストッパピンに係止され、他端はサブギアのストッパピンに係止されたシザーズギアを用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-115424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のシザーズギアはメインギアとサブギアとの間にC字型の平板状のスプリングが設けられている。このスプリングのばね定数は、通常、そのシザーズギアが抑え込むべきトルク変動の最大値を考慮して設定される。このような構成では、スプリングの付勢力を高く設定した場合、トルク変動が生じていない初期状態において、サブギアの歯が相手側のギアの歯に当接する力が増大し、フリクションの悪化の要因となる。
【0006】
そこで、本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、フリクションの悪化を抑え、効率的に力を伝達することができるシザーズギア及び伝達機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のシザーズギアは、シャフトに連結されたメインギアと、前記メインギアに対して周方向に回転可能に設けられるとともに、前記メインギアに近づき又は遠ざかるように前記シャフトの軸方向に沿って移動可能に設けられたサブギアと、前記サブギアが前記メインギアに対して回転した際、前記サブギアが前記サブギアの初期位置に戻るように周方向の力を付与する付勢部材と、を備えるシザーズギアであって、前記付勢部材は、一端が前記メインギアの固定部に係止され、他端がサブギアの固定部に係止され、前記メインギアと前記サブギアとの間で螺旋状に延在するばねである。
【0008】
前記付勢部材は、前記シャフトの周りを360度以上に亘って延在していてもよい。
【0009】
前記付勢部材の前記一端は、前記メインギアの固定部として設けられた、前記メインギアの挿入孔に挿入された第1軸部材に係止され、前記付勢部材の前記他端は、前記サブギアの固定部として設けられた、前記サブギアの他の挿入孔に挿入された第2軸部材に係止されてもよい。
【0010】
前記メインギア及び前記サブギアはいずれもヘリカルギアであり、前記付勢部材は、前記メインギアと前記サブギアとが前記軸方向に互いに離れる方向の付勢力を前記メインギア及び前記サブギアに付与していてもよい。
【0011】
本発明の一形態の伝達機構は、上記に記載のシザーズギアと、前記シザーズギアと噛み合うヘリカルギアと、を備える伝達機構であって、前記サブギアは、前記ヘリカルギアの歯と前記サブギアの歯とが噛み合う作用によりスラスト方向の力が生じ、当該スラスト方向の力によって前記メインギア側に移動するように設けられている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フリクションの悪化を抑え、効率的に力を伝達することができるシザーズギア及び伝達機構を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】シザーズギアの分解斜視図である。
図2】シザーズギアを含む伝達機構の動作を説明するための図である。
図3】シザーズギアを含む伝達機構の断面図である。
図4】付勢部材及びその周辺構造を示す図である。
図5】シザーズギアにおけるメインギアとサブギアとの動きを説明するための模式図である。
図6】螺旋ばねの他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、シザーズギアの分解斜視図である。図2は、シザーズギアを含む伝達機構の動作を説明するための図である。図3は、シザーズギアを含む伝達機構の断面図である。図4は、付勢部材及びその周辺構造を示す図である。各図において、伝達機構の構成部品は模式的に示されており、一の図面の部品形状と他の図面の部品形状とが一致しない場合があるが、これらの相違は本発明において本質的なものではない。以下の説明において、シザーズギアの初期状態とは、伝達機構においてトルク変動が生じておらず、サブギアがメインギアに対して所定の初期位置にある状態のことをいう。
【0015】
本実施形態の伝達機構1は、図2及び図3に示すように、シザーズギアS100と、シザーズギアS100と噛み合うヘリカルギアであるギア50とを備え、例えば、車両に搭載されている。伝達機構1は、一例として、エンジン又はトランスミッション等の動力伝達機構の一部として用いられる。
【0016】
シザーズギアS100は、メインギア10、サブギア20、螺旋ばね30、シャフト41、及びフランジ42を備えている。本実施形態のシザーズギアS100の特徴の1つは、メインギア10とサブギア20との間に螺旋形の螺旋ばね30が設けられている点である。
【0017】
メインギア10は、外周にギアの歯部が形成されたギアであり、中央部には貫通孔が形成されている。メインギア10は一例としてヘリカルギアである。メインギア10は、シャフト41の軸部41aに連結されており、シャフト41の回転に応じてシャフト41とともに回転する。
【0018】
サブギア20は、メインギア10と同様、外周に歯部が形成されたギアであり、一例としてヘリカルギアである。サブギア20は、メインギア10に隣接してメインギア10と同軸上に配置されている。サブギア20の中央部には貫通孔が形成され、サブギア20は、メインギア10と同様、シャフト41によって支持される。但し、サブギア20は、シャフト41の軸部41a周りに動くことができるように構成されている。これにより、サブギア20は、メインギア10に対して周方向に回転可能に設けられている。
【0019】
サブギア20は、図3に示すように、メインギア10から軸方向に沿って離れた位置に設けられている。サブギア20は、具体的には、メインギア10に近づき又は遠ざかることができるように、シャフト41の軸方向に沿って移動可能に設けられている。
【0020】
シャフト41は、例えばエンジンの駆動力により回転するシャフトである。シャフト41は、メインギア10の貫通孔及びサブギア20の貫通孔に挿入される軸部41aを有している。フランジ42は、シャフト41の軸部の先端側に対して固定される。
【0021】
サブギア20は、図2に示すように、シザーズギアS100の初期状態で、メインギア10の歯10aとサブギア20の歯20aとが相手方のギア50の歯50aを挟み込むように設けられている。歯20aは、歯50aに対して接している。シザーズギアS100の動作については、螺旋ばね30を説明した後に詳細に説明する。
【0022】
螺旋ばね30は、図1及び図3に示すように、メインギア10とサブギア20との間に配置された付勢部材である。螺旋ばね30は、従来の一般的な平たいC字型のばねではなく、螺旋状に延在するC字型のばねである。螺旋ばね30は、サブギア20がメインギア10に対して回転した際、サブギア20が当該サブギア20の初期位置に戻るように周方向の力を付与する。
【0023】
螺旋ばね30は、図3及び図4に示すように、一端がメインギア10に係止され、他端がサブギア20に係止されている。具体的には、螺旋ばね30の一端である第1端部31が、メインギア10に設けられた第1軸部材11に係止され、螺旋ばね30の他端である第2端部32が、サブギア20に設けられた第2軸部材21に係止されている。
【0024】
第1軸部材11は、メインギア10の固定部として設けられた部材であり、メインギア10の挿入孔10hに挿入されている。第2軸部材21は、サブギア20の固定部として設けられた部材であり、サブギア20の挿入孔20hに挿入されている。第1軸部材11及び第2軸部材21は、棒状の部材であり、例えばボルト又はピンである。図3では第1軸部材11及び第2軸部材21は模式的に描かれているが、第1軸部材11及び第2軸部材21は、第1端部31及び第2端部32が軸部材から外れるのを防止するための頭部を有していてもよい。頭部は、例えば、軸部より大径に形成された部位であってもよい。
【0025】
螺旋ばね30は、螺旋ばね30がメインギア10とサブギア20との間に相対的な周方向の付勢力を付与する。この付勢力により、図2に示したように、サブギア20の歯20aがギア50の歯50aに押し付けられ、メインギア10の歯10aとサブギア20の歯20aとが、相手側のギア50の歯50aを挟み込む。
【0026】
螺旋ばね30は、シザーズギアS100の初期状態で、メインギア10とサブギア20との間において軸方向(シザーズギアの厚み方向)にやや押し縮められた状態で配置されている。これにより、螺旋ばね30は、メインギア10とサブギア20とが互いに軸方向に離れる方向の付勢力をメインギア10とサブギア20とに付与している。
【0027】
図5は、シザーズギアS100におけるメインギア10とサブギア20との動きを説明するための模式図である。図5(a)はシザーズギアS100の初期状態であり、図2の状態に対応する。図5(b)はトルク変動が生じ、サブギアがメインギア側に動いた状態である。図5において、歯10a-1及び歯10a-2はメインギア10の歯であり、歯20a-1及び歯20a-2はサブギア20の歯である。
【0028】
図5(a)では、ギア50の歯50aが、メインギア10の歯10a-1と、サブギア20の歯20a-2とによって挟まれている。メインギア10、サブギア20及びギア50はいずれもヘリカルギアである。トルク変動が生じ、例えば、ギア50の歯50aが図示上方に移動ずると、ギア50の歯50aとサブギア20の歯20a-2とが噛み合う作用によりスラスト方向の力が生じる。このスラスト方向の力(図5(b)の矢印参照)によって、サブギア20はメインギア10側に移動する。トルク変動が解消すると、螺旋ばね30の作用によってサブギア20は図5(a)の位置に戻る。
【0029】
(動作)
上述のように構成された伝達機構1では、トルク変動が生じていない状態では、図2及び図5(a)の状態でシザーズギアS100とギア50とが噛み合って力が伝達される。
【0030】
一方、トルク変動が生じた際には、ギア50の歯50aがサブギア20の歯20a-2を付勢し、サブギア20が、螺旋ばね30の付勢力に抗しながらメインギア10に対して相対的に回転する。サブギア20は、また、図5(b)を参照して説明したように、軸方向(スラスト方向)にも移動する。
【0031】
そして、トルク変動が解消した場合には、サブギア20は、周方向及びスラスト方向の位置が所定の初期位置に戻る。
【0032】
(シザーズギアS100の効果)
以上のように構成された本実施形態のシザーズギアS100では、メインギア10とサブギア20との間の付勢部材が螺旋ばね30として設けられている。このような螺旋状の螺旋ばね30によれば、周方向にのみ変形する従来のC字型のばねに比べて、ばねが周方向に加えてスラスト方向にも変形する。この構成の場合、単位長さ当たりのばねを変形させる力が、周方向にのみに変形するばねと比べて小さくなる。すなわち、本実施形態の構成によれば、ばね定数を小さくできるので、初期状態においてギアの歯に加わる摩擦力が低減し、その結果、シザーズギアS100のフリクションの悪化を防止することが可能となる。
【0033】
<変形例>
図6は螺旋ばねの他の構成例を示す図である。上記実施形態では、螺旋ばね30はC字型であり、螺旋の回転角が360度未満のものであった。しかしながら、螺旋ばね30Aは、例えば図6に示すように、螺旋の回転角が360度以上のものであってもよい。この螺旋ばね30Aは、シャフト41(図3)の周りを360度以上に亘って延在する。平板状のC字型のばねの場合、このようにシャフト41を360度以上に亘って延在する形状は実現できないが、本発明のように螺旋状のばねの場合、このような構成が可能となる。このような構成の螺旋ばね30Aは、ばねの長さが十分に確保されるため、ばね定数を小さくでき、シザーズギアS100のフリクションの悪化より効果的に防止できる。回転角が360度以上の例として、例えば、螺旋の回転角が540度であってもよく、この場合、螺旋ばねの両端が互いに周方向に180度に離れた位置となる。
【0034】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0035】
1 伝達機構
10 メインギア
10a 歯
10a-1 歯
10a-2 歯
10h 挿入孔
11 第1軸部材
20 サブギア
20a 歯
20a-1 歯
20a-2 歯
20h 挿入孔
21 第2軸部材
31 第1端部
32 第2端部
41 シャフト
41a 軸部
42 フランジ
50 ギア
50a 歯
S100 シザーズギア
【要約】
【課題】フリクションの悪化を抑え、効率的に力を伝達することができるシザーズギアを提供する。
【解決手段】シザーズギアS100は、シャフト41に連結されたメインギア10と、前記メインギア10に対して周方向に回転可能に設けられるとともに、前記メインギアに近づき又は遠ざかるように前記シャフトの軸方向に沿って移動可能に設けられたサブギア20と、前記サブギア20が前記メインギア10に対して回転した際、前記サブギアが前記サブギアの初期位置に戻るように周方向の力を付与する付勢部材と、を備え、前記付勢部材は、一端が前記メインギア10の固定部に係止され、他端がサブギア20の固定部に係止され、前記メインギア10と前記サブギア20との間で螺旋状に延在するばねである。
【選択図】図3

図1
図2
図3
図4
図5
図6