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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】車両のインバータ搭載構造
(51)【国際特許分類】
   B60K 1/00 20060101AFI20240423BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20240423BHJP
【FI】
B60K1/00 ZHV
B60K6/40
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023510197
(86)(22)【出願日】2021-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2021037408
(87)【国際公開番号】W WO2022208951
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2021056697
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】谷澤 昇治
(72)【発明者】
【氏名】堀部 晋佑
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-2960(JP,A)
【文献】特開2013-35445(JP,A)
【文献】特開2015-39981(JP,A)
【文献】特開2011-68229(JP,A)
【文献】特開2010-938(JP,A)
【文献】特開2018-43587(JP,A)
【文献】特開2011-20624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00
B60K 6/40
B62D 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの間に駆動ユニットが搭載されたエンジンルームを画成する左右のフロントサイドメンバと、
前記左右のフロントサイドメンバの前部を連結するバンパービームと、
前記エンジンルームの後側で前記左右のフロントサイドメンバを連結するダッシュパネルと、
前記バンパービームの上方位置に配設されて前記左右のフロントサイドメンバの前部と連結されるアッパーバーと、
前記エンジンルーム内で前記ダッシュパネルに取り付けられたブレーキブースターと、
前記エンジンルーム内で前記ブレーキブースターのマスターシリンダの前方位置に配設されて、前記駆動ユニットを構成するモータとの間で電力を授受するインバータと、
を備えた車両のインバータ搭載構造において、
前記インバータは、前部を前記アッパーバーに連結されると共に、後部を前記左右のフロントサイドメンバの何れか一方にブラケットを介して連結され、前部よりも後部を高位置とした斜状の姿勢で配設され
前記駆動ユニットが、前記インバータの下方に配設され、
前記ブラケットよりも前側位置には、前記フロントサイドメンバから延びて前記駆動ユニットを支持するマウントが設けられ、
前記マウントは、前記インバータの前部よりも後側位置で、上下方向において前記インバータの前部よりも上方に位置して重なり合うオーバラップ領域を有し、
前記マウントの前側には、上斜め後方に延びるガイド部が形成されている
ことを特徴とする車両のインバータ搭載構造。
【請求項2】
前記インバータの下面には、前記オーバラップ領域に対応してプロテクタが装着されている
ことを特徴とする請求項1に記載の車両のインバータ搭載構造。
【請求項3】
前記インバータの後部の下面には、車両前方から見た正面視で前記マスターシリンダと重なり合う領域に逃げ部が凹設されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両のインバータ搭載構造。
【請求項4】
前記ブラケットは、互いに連結された第1ブラケット及び第2ブラケットからなり、
前記第2ブラケットは、前記インバータの後部と連結され、
前記第1ブラケットは、上下方向に延びて前記フロントサイドメンバと連結される共に、前記マウントに対しても連結されている
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両のインバータ搭載構造。
【請求項5】
前記第1ブラケットは、前記第2ブラケットよりも強度が低い材料で製作されている
ことを特徴とする請求項4に記載の車両のインバータ搭載構造。
【請求項6】
前記第1ブラケットは、前記マウントとの連結箇所に強度を低下させた脆弱部が形成されている
ことを特徴とする請求項4または5に記載の車両のインバータ搭載構造。
【請求項7】
前記第1ブラケットは、前後一対の脚部を有し、前記フロントサイドメンバに対して前記一対の脚部を介して連結されている
ことを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項に記載の車両のインバータ搭載構造。
【請求項8】
互いの間に駆動ユニットが搭載されたエンジンルームを画成する左右のフロントサイドメンバと、
前記左右のフロントサイドメンバの前部を連結するバンパービームと、
前記エンジンルームの後側で前記左右のフロントサイドメンバを連結するダッシュパネルと、
前記バンパービームの上方位置に配設されて前記左右のフロントサイドメンバの前部と連結されるアッパーバーと、
前記エンジンルーム内で前記ダッシュパネルに取り付けられたブレーキブースターと、
前記エンジンルーム内で前記ブレーキブースターのマスターシリンダの前方位置に配設されて、前記駆動ユニットを構成するモータとの間で電力を授受するインバータと、
を備えた車両のインバータ搭載構造において、
前記インバータは、前部を前記アッパーバーに連結されると共に、後部を前記左右のフロントサイドメンバの何れか一方にブラケットを介して連結され、前部よりも後部を高位置とした斜状の姿勢で配設され、
前記インバータは、車両前方から見た正面視において、前記フロントサイドメンバ側よりも前記ブレーキブースター側を高位置とした斜状の姿勢で配設されている
ことを特徴とする車両のインバータ搭載構造。
【請求項9】
互いの間に駆動ユニットが搭載されたエンジンルームを画成する左右のフロントサイドメンバと、
前記左右のフロントサイドメンバの前部を連結するバンパービームと、
前記エンジンルームの後側で前記左右のフロントサイドメンバを連結するダッシュパネルと、
前記バンパービームの上方位置に配設されて前記左右のフロントサイドメンバの前部と連結されるアッパーバーと、
前記エンジンルーム内で前記ダッシュパネルに取り付けられたブレーキブースターと、
前記エンジンルーム内で前記ブレーキブースターのマスターシリンダの前方位置に配設されて、前記駆動ユニットを構成するモータとの間で電力を授受するインバータと、
を備えた車両のインバータ搭載構造において、
前記インバータは、前部を前記アッパーバーに連結されると共に、後部を前記左右のフロントサイドメンバの何れか一方にブラケットを介して連結され、前部よりも後部を高位置とした斜状の姿勢で配設され、
前記インバータの後部には、前記インバータ内を冷却するための冷却水を貯留するコンデンスタンクが固定され、
前記コンデンスタンクは、下方に指向するピンが突設され、
前記ブラケットは、一側にピン孔が形成され、前記ピン孔に前記コンデンスタンクのピンが上方から挿入されている
ことを特徴とする車両のインバータ搭載構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のインバータ搭載構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車等の電動車両では、エンジンルーム内に搭載されたモータを動力源として走行しており、モータを駆動するために、バッテリからの供給される直流電力を交流電力に変換してモータに供給するインバータが備えられている。エンジンルーム内へのインバータの搭載構造としては、例えば特許文献1に記載の電動車両を挙げることができる。
【0003】
電動車両のエンジンルーム内にはモータジェネレータを収容したトランスアクスルハウジングが搭載され、その駆動力を車輪に伝達して走行する。インバータはトランスアクスルハウジング上に配設され、前後一対のブラケットを介してトランスアクスルハウジングに固定されると共に、電力ケーブルを介してモータジェネレータと接続されて電力の授受を行う。各ブラケットには切欠部が形成され、車両の前面衝突によりインバータに衝撃が入力されると、各ブラケットが切欠部の箇所で折り曲げられてインバータが略円弧状軌道を辿って後退移動し、これによりインバータの破損防止、及び電力ケーブルの破断防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第5712956号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両のエンジンルーム内にはブレーキブースターが備えられており、電動車両では、モータにより油圧を発生させる電動ブースターが備えられる場合もある(以下、両者をブレーキブースターと総称する)。ブレーキブースターは、エンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルに取り付けられ、エンジンルーム内に突出している。このようなブレーキブースターに対して、車両を前方から見た正面視でインバータが重なり合う位置に配設される場合がある。
【0006】
このレイアウトにおいて車両の前面衝突が発生した場合、フロントサイドメンバ等の変形を伴ってインバータに衝撃が入力されると、後方に位置変位したインバータがブレーキブースターに衝突し、ダッシュパネルを変形させて車室内の足元の空間を狭める可能性がある。そこで、このような現象を防止する対策が求められているが、目的が異なる上記した特許文献1の技術では解決できなかった。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、車両の前面衝突の際にインバータがブレーキブースターに衝突する事態を未然に防止することができる車両のインバータ搭載構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の車両のインバータ搭載構造は、互いの間に駆動ユニットが搭載されたエンジンルームを画成する左右のフロントサイドメンバと、前記左右のフロントサイドメンバの前部を連結するバンパービームと、前記エンジンルームの後側で前記左右のフロントサイドメンバを連結するダッシュパネルと、前記バンパービームの上方位置に配設されて前記左右のフロントサイドメンバの前部と連結されるアッパーバーと、前記エンジンルーム内で前記ダッシュパネルに取り付けられたブレーキブースターと、前記エンジンルーム内で前記ブレーキブースターのマスターシリンダの前方位置に配設されて、前記駆動ユニットを構成するモータとの間で電力を授受するインバータと、を備えた車両のインバータ搭載構造において、前記インバータが、前部を前記アッパーバーに連結されると共に、後部を前記左右のフロントサイドメンバの何れか一方にブラケットを介して連結され、前部よりも後部を高位置とした斜状の姿勢で配設されていることを特徴とする。
【0009】
このように構成した車両のインバータ搭載構造によれば、比較的軽度の前面衝突ではフロントサイドメンバに生じる圧壊が軽度なものとなり、アッパーバーが後方にほとんど位置変位しないため、インバータの前部が下方に位置変位し、それに伴いインバータの後部が上方に位置変位する。結果としてインバータの後部は、直後に位置する電動ブースターのマスターシリンダから上方に遠ざかり、互いに衝突が防止される。
【0010】
好ましくは、前記駆動ユニットが、前記インバータの下方に配設され、
前記ブラケットよりも前側位置には、前記フロントサイドメンバから延びて前記駆動ユニットを支持するマウントが設けられ、前記マウントが、前記インバータの前部よりも後側位置で、上下方向において前記インバータの前部よりも上方に位置して重なり合うオーバラップ領域を有していてもよい。
【0011】
この態様によれば、前面衝突によりフロントサイドメンバが圧壊し、アッパーバーが後方に位置変位すると、インバータも後方に位置変位する。このとき、インバータの下面はオーバラップ領域を形成しているマウントに接触して後方へと摺接する。結果としてインバータは後方への位置変位と共に、マウントに押し上げられて上方にも位置変位し、マスターシリンダへの衝突が防止される。
【0012】
好ましくは、前記マウントの前側に、上斜め後方に延びるガイド部が形成されていてもよい。
この態様によれば、インバータの下面は、マウントのガイド部上を後方へと円滑に摺接して所期の方向に案内される。
好ましくは、前記インバータの下面に、前記オーバラップ領域に対応してプロテクタが装着されていてもよい。
【0013】
この態様によれば、マウントがインバータの下面に激しく衝突した場合でも、その衝撃をプロテクタが受けてインバータの破損を防止する。
好ましくは、前記インバータの後部の下面に、車両前方から見た正面視で前記マスターシリンダと重なり合う領域に逃げ部が凹設されていてもよい。
この態様によれば、何らかの要因によりインバータの後部の上方への位置変位が十分に得られなかった場合でも、インバータが後方に位置変位したときに、マスターシリンダが逃げ部内に侵入してインバータの後部との衝突が防止される。
【0014】
好ましくは、前記ブラケットが、互いに連結された第1ブラケット及び第2ブラケットからなり、前記第2ブラケットが、前記インバータの後部と連結され、前記第1ブラケットが、上下方向に延びて前記フロントサイドメンバと連結される共に、前記マウントに対しても連結されていてもよい。
この態様によれば、インバータの後部は第1ブラケットを介してマウントに連結されることで、より確実にフロントサイドメンバ上から支持される。
【0015】
好ましくは、前記第1ブラケットが、前記第2ブラケットよりも強度が低い材料で製作されていてもよい。
この態様によれば、インバータの後部が上方に位置変位すると、第1及び第2ブラケットに引張り力が作用し、強度が低い材料で製作された第1ブラケットが容易に変形・破断する。従って、ブラケットに妨げられることなくインバータの後部が上方に位置変位する。
【0016】
好ましくは、前記第1ブラケットが、前記マウントとの連結箇所に強度を低下させた脆弱部が形成されていてもよい。
この態様によれば、インバータの後部が上方に位置変位すると、第1及び第2ブラケットに引張り力が作用し、脆弱部が形成された第1ブラケットが容易に変形・破断する。従って、ブラケットに妨げられることなくインバータの後部が上方に位置変位する。
【0017】
好ましくは、前記第1ブラケットが、前後一対の脚部を有し、前記フロントサイドメンバに対して前記一対の脚部を介して連結されていてもよい。
この態様によれば、インバータの後部が上方に位置変位すると、第1及び第2ブラケットに引張り力が作用し、脚部を有する第1ブラケットが容易に変形・破断する。従って、ブラケットに妨げられることなくインバータの後部が上方に位置変位する。
【0018】
好ましくは、前記インバータが、車両前方から見た正面視において、前記フロントサイドメンバ側よりも前記ブレーキブースター側を高位置とした斜状の姿勢で配設されていてもよい。
この態様によれば、水平姿勢の場合に比較してインバータを斜状の姿勢にすると、インバータのブレーキブースター側がより上方に位置し、一層マスターシリンダへの衝突を防止可能となる。
【0019】
好ましくは、前記インバータの後部に、前記インバータ内を冷却するための冷却水を貯留するコンデンスタンクが固定され、前記コンデンスタンクが、下方に指向するピンが突設され、前記ブラケットが、一側にピン孔が形成され、前記ピン孔に前記コンデンスタンクのピンが上方から挿入されていてもよい。
この態様によれば、ブラケットによりコンデンスタンクが下方から支持されると共に、コンデンスタンクの位置決めがなされる。そして、前面衝突の際には、後方に位置変位したインバータの後部と車体、例えばカウルトップ等との間にコンデンスタンクが挟み込まれて圧壊するため、インバータへの衝撃が緩和される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の車両のインバータ搭載構造によれば、車両の前面衝突の際にインバータがブレーキブースターに衝突する事態を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態のハイブリッド自動車のエンジンルームを示す平面図である。
図2】電動ブースターのマスターシリンダとインバータの後部との重なり状態を示す正面図である。
図3】インバータ、電動ブースター、マウントの位置関係を示す図1のIII-III線断面図である。
図4】車体に対するインバータの固定状態を示す左斜め前方から見た斜視図である。
図5】車体に対するインバータの後部の固定状態を示す右斜め後方から見た斜視図である。
図6】インバータの下面のプロテクタ及び逃げ部を示す底面図である。
図7】インバータ及びコンデンスタンクを示す左斜め後方から見た斜視図である。
図8】比較的軽度の前面衝突時の車両の変形状態を示す図である。
図9】比較的重度の前面衝突時の車両の変形状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をハイブリッド自動車のインバータ搭載構造に具体化した一実施形態を説明する。なお、以下の説明では、車両を基準として前後、左右及び上下方向を規定する。
図1~4に示すように、ハイブリッド自動車1(以下、単に車両と称する)の前部には左右一対のフロントサイドメンバ2R,2Lが前後方向に延設され、それらの間にエンジンルーム3が画成されている。エンジンルーム3の後側には、左右のフロントサイドメンバ2R,2Lを連結するようにダッシュパネル4が配設され、エンジンルーム3と車室5内とが区画されている。エンジンルーム3の前側において、左右のフロントサイドメンバ2R,2Lの前端はクラッシュボックス6を介してバンパービーム7により互いに連結されている。
【0023】
バンパービーム7の上方かつ若干後側の位置にはアッパーバー8が配設され、アッパーバー8の左右両端からは連結バー9が下方に延設されて、それぞれ左右のフロントサイドメンバ2R,2Lの前部に連結されている。また、アッパーバー8の左右両端からは後方斜め車体外側に向けてアッパーサイド10が延設され、これらのアッパーサイド10は後方に位置するダッシュパネル4に連結されている。
【0024】
エンジンルーム3内においてダッシュパネル4の左側位置には、ブレーキシステムを構成する電動ブースター12(本発明のブレーキブースターに相当)が取り付けられている。電動ブースター12は、運転者のブレーキ操作に応じて図示しないモータにより油圧を発生させる装置であり、モータを内蔵した本体部12aにマスターシリンダ12bを固定し、マスターシリンダ12b上にリザーバータンク12cを固定してなる。
【0025】
エンジンルーム3内には、内燃機関であるエンジン13、図示しないモータとジェネレータとを内蔵したトランスアクスル14、及び減速機15からなる駆動ユニット16が搭載される。図示はしないが、車両1の床下には走行用のバッテリが搭載されている。駆動ユニット16は、車体から3つのマウント23,34,35を介して支持されており、詳細は後述するが、その内の1つのマウント23は、左側のフロントサイドメンバ2L上に設けられている。
【0026】
駆動ユニット16の機能に関しては、本発明の要旨と直接関係ないため詳細な説明はしないが、エンジン13の駆動力、或いはバッテリから電力供給により力行制御されたトランスアクスル14のモータの駆動力が車軸17aを介して前輪17に伝達され、前輪17の回転に伴って車両1が走行する。また車両1の減速時には、前輪17からの駆動力がトランスアクスル14のジェネレータに伝達され、回生制御により発電された電力をバッテリに充電する。
【0027】
エンジンルーム3には、モータ及びジェネレータとの間で電力を授受するインバータ18が搭載されている。インバータ18は、バッテリからの直流電力の交流電力への変換及びジェネレータからの交流電力の直流電力への変換等を行う。エンジンルーム3内の他の機器の配置を考慮した結果、インバータ18はエンジンルーム3内の左側、換言すると、電動ブースター12の前側に配設されている。
【0028】
図3~6に示すように、全体としてインバータ18は前後方向に長い直方体状をなし、その前部18aはブラケットを介してアッパーバー8に連結され、後部18bはブラケットを介して左側のフロントサイドメンバ2L上に連結され、これによりエンジンルーム3内の所定位置で支持されている。前部18aのブラケットは、金属板を折曲形成して互いに連結された3枚のブラケット19からなり、アッパーバー8に対して2本のボルト20により締結されている。
【0029】
また後部18bのブラケットは、金属板を折曲形成して互いに連結された第1及び第2ブラケット21,22からなる。第1ブラケット21は、駆動ユニット16を支持しているフロントサイドメンバ2L上のマウント23の後方位置に配設されている。第1ブラケット21は、下方に開口するコ字状をなして上下方向に延びるメンバ側連結材21aの上面に、水平姿勢のマウント側連結材21bを溶接してなる。
【0030】
メンバ側連結材21aの前後一対の脚部21a1は、それぞれボルト24によりフロントサイドメンバ2L上に締結されている。このメンバ側連結材21aの上面からマウント側連結材21bは前方に延設され、マウント23上に重ねられてボルト25により締結されている。マウント側連結材21bの上面には第2ブラケット22の後部22bが重ねられてボルト26により締結され、この後部22bから第2ブラケット22は前方且つ上方に段差状に折曲されている。このため、第2ブラケット22の前部22aは後部22bよりも高位置に配設され、インバータ18の後部18bの下面に重ねられてボルト32により締結されている。
【0031】
結果として図3に示す側方視において、インバータ18の後部18bはフロントサイドメンバ2L上から第1及び第2ブラケット21,22を介して支持され、これらのブラケット21,22の介在によりフロントサイドメンバ2Lから上方に離間している。このためインバータ18は、アッパーバー8とほぼ同一高さに位置する前部18aに比較して、後部18bをより高位置とした斜状の姿勢で配設されている。
【0032】
第1ブラケット21をフロントサイドメンバ2Lに連結するだけでなく、マウント23に対しても連結しているのは、インバータ18の後部18bを確実に支持するためである。即ち、マウント23との連結により第1ブラケット21は前後方向に位置規制され、これによりインバータ18の後部18bも前後方向に移動規制されることから、後部18bに対する支持がより確実なものとなる。
【0033】
一方、後述する車両1の前面衝突の際にインバータ18の後部18bの上方への位置変位を許容するために、第1ブラケット21の強度は、意図的に第2ブラケット22の強度よりも低く設定されて変形・破断し易くなっている。具体的には、第1ブラケット21の素材の金属板(発明の材料に相当)は、第2ブラケット22の金属板よりも、板厚の減少や材質変更等により強度を低下させたものが使用されている。また、第1ブラケット21のメンバ側連結材21aが有する前後一対の長い脚部21a1は変形・破断し易い。さらにマウント側連結材21b(本発明のマウントとの連結箇所に相当)は、肉抜き孔21b1(本発明の脆弱部に相当)が貫設されて強度が低下している。これらの要因により、第1ブラケット21は衝撃が入力されたときに容易に変形・破断するようになっている。
【0034】
また、図2に示す正面視において、インバータ18の左側部18cはフロントサイドメンバ2L及びマウント23の直上に位置し、上記のように左側部18cの後部18bが第1及び第2ブラケット21,22により支持されている。そして、図3の側面視で示すように、前部18aを低位置とした斜状をなすインバータ18の姿勢により、インバータ18の前側約半分の領域は、上下方向においてマウント23と重なり合ってオーバラップ領域OLを形成している。図6に示すように、インバータ18の下面の左側部18cには、オーバラップ領域OLを形成している前側約半分の領域に対応して、金属板製のプロテクタ27がボルト28により装着されている。
【0035】
また図3,4に示すように、マウント23の前側にはリブ23aが一体形成され、リブ23aの前縁は、上斜め後方に向けて直線状に延びるガイド部23bを形成している。結果としてガイド部23bは、インバータ18のプロテクタ27に対して左右方向で一致し、かつオーバラップ領域OLを形成してプロテクタ27の後方に位置している。
図2に示す正面視では、インバータ18の後部18bの輪郭が破線で示されており、図1,2に示すように、インバータ18の右側部18dは電動ブースター12の直前に位置し、右側部18dの下部は、図2中にハッチングで示すように正面視でマスターシリンダ12bと重なり合っている。そして、インバータ18は、左側部18c(本発明のフロントサイドメンバ側に相当)に比較して右側部18d(本発明のブレーキブースター側に相当)をより高位置とした斜状の姿勢で配設されている。このため、水平姿勢の場合に比較してインバータ18の右側部18dがより上方に位置し、結果としてマスターシリンダ12bと重なり合うインバータ18の後部18bの面積が縮小している。
【0036】
加えて図2,3,6に示すように、インバータ18の下面の右側部18d、換言すると、正面視でマスターシリンダ12bと重なり合う領域には逃げ部29が凹設されている。逃げ部29は、インバータ18の下面の右側部18dの後側約半分に亘って形成されており、後部18bに向かって次第に深くなるスロープ状をなすと共に、後部18b及び右側方に開放された形状をなしている。
【0037】
一方、図3,6,7に示すように、インバータ18の後部18bには合成樹脂製のコンデンスタンク30が配設されて2本のボルト31により固定され、コンデンスタンク30の下面には、下方に指向するピン30aが突設されている。第2ブラケットの一側には、ピン孔22dが形成される。すなわち、第2ブラケット22の後部22bからは後方に向けてステー22cが延設され、ステー22cの先端部にはピン孔22dが貫設されている。コンデンスタンク30のピン30aは上方からステー22cのピン孔22dに挿入され、ステー22cによりコンデンスタンク30が下方から支持されると共に、コンデンスタンク30の位置決めがなされている。インバータ18の作動中には、コンデンスタンク30内に貯留された冷却水がインバータ18内を流通して冷却作用を奏する。前部18aよりも後部18bを高位置としたインバータ18の姿勢により、冷却水に含まれるエアはコンデンスタンク30へと導かれ、インバータ18内でのエア溜まりの発生が防止されている。
【0038】
次に、以上のように構成されたインバータ搭載構造による車両1の前面衝突時の作用を説明する。
まず、図2,3に示すように衝突前のインバータ18は、前部18aに比較して後部18bをより高位置とした前後方向に斜状をなす姿勢で配設されると共に、左側部18cに比較して右側部18dをより高位置とした左右方向に斜状をなす姿勢で配設されている。このため正面視においてインバータ18の後部18bは、僅かな面積で電動ブースター12のマスターシリンダ12bと重なり合っているだけであり、多少上方に位置変位するだけでマスターシリンダ12bとの重なり合いが解消される位置関係にある。加えて、インバータ18に形成された逃げ部29は後方に開放され、その開放位置は、正面視においてマスターシリンダ12bと対応している。
【0039】
このようなインバータ18の配設状態において、比較的軽度の前面衝突が発生した場合には、図8に示すように、衝撃が小さいことからバンパービーム7を介してクラッシュボックス6及びフロントサイドメンバ2R,2Lに生じる圧壊も軽度なものとなる。このときアッパーバー8は後方にほとんど位置変位しないため、インバータ18の前部18aは矢印F1方向の回転力を受けて下方に位置変位し、それに伴いインバータ18の後部18bが矢印F2方向の回転力を受けて上方に位置変位する。
【0040】
インバータ18の後部18bが上方に位置変位すると、第1及び第2ブラケット21,22に引張り力が作用する。第1ブラケット21は、低強度の材料の使用、変形・破断し易い脚部21a1を備えた形状、及び肉抜き孔21b1の形成等により意図的に強度を低下させているため、引張り力を受けて容易に変形・破断する。従って、ブラケット21,22に妨げられることなくインバータ18の後部18bは上方に位置変位して、直後に位置する電動ブースター12のマスターシリンダ12bから上方に遠ざかり、マスターシリンダ12bとの重なり合いが解消される。
【0041】
このように軽度な前面衝突ではインバータ18がほとんど後方に位置変位しないため、元々マスターシリンダ12bと衝突する可能性が低い上に、インバータ18の後部18bがマスターシリンダ12bから上方に遠ざかることで、より確実に衝突を防止できる。従って、マスターシリンダ12bへの衝突に起因して、ダッシュパネル4が変形して車室内の足元空間が狭められる事態を未然に防止することができる。
【0042】
また、比較的重度の前面衝突が発生した場合には、図9に示すように、上記に比較して衝撃が大きいことからフロントサイドメンバ2R,2Lがより大きく圧壊し、アッパーバー8が後方に位置変位し、それに伴ってインバータ18も後方に位置変位する。このときインバータ18の下面のプロテクタ27は、上下方向のオーバラップ領域OLを形成しているマウント23のガイド部23bと接触し、ガイド部23b上を後方へと摺接する。このためインバータ18は後方への位置変位と共に、ガイド部23bに押し上げられて上方にも位置変位する。
【0043】
マウント23のガイド部23bは、プロテクタ27と円滑に摺接することによりインバータ18を所期の方向(後方かつ上方)に案内する役割を果たし、金属板製のプロテクタ27もガイド部23bとの円滑な摺接に貢献する。また、プロテクタ27はインバータ18の保護機能も果たし、マウント23がインバータ18の下面に激しく衝突した場合でも、その衝撃をプロテクタ27が受けてインバータ18の破損を未然に防止する。
【0044】
そして、インバータ18の後部18bが上方に位置変位すると、第1及び第2ブラケット21,22に引張り力が作用する。上記と同じく、強度が低い第1ブラケット21は引張り力を受けて容易に変形・破断する。従って、ブラケット21,22に妨げられることなくインバータ18の後部18bが上方に位置変位し、正面視でのマスターシリンダ12bとの重なり合いが解消される。後方への位置変位によりインバータ18の後部18bはマスターシリンダ12bに達するが、その上下位置がマスターシリンダ12bよりも上側であることから、マスターシリンダ12bへのインバータ18の後部18bの衝突が防止される。
【0045】
従って、このように重度の前面衝突が発生した場合であっても、インバータ18の後部18bがマスターシリンダ12bに衝突する事態、ひいてはダッシュパネル4が変形して車室内の足元空間が狭められる事態を未然に防止することができる。なお、後方に位置変位したインバータ18の後部18bがマスターシリンダ12b上のリザーバータンク12cに衝突する可能性はあるものの、合成樹脂製のマスターシリンダ12bは強度が低い。従って、図9に示すようにマスターシリンダ12b上からマスターシリンダ12bが脱落したり、或いは、図示はしないが圧壊したりし、何れの場合もダッシュパネル4の変形やインバータ18の破損の要因にはならない。
【0046】
また、車両1の衝突状況等の何らかの要因により、マウント23を利用したインバータ18の後部18bの上方への位置変位が十分に得られない可能性もある。その場合には、図2に示す正面視において、インバータ18の後部18bとマスターシリンダ12bとが部分的に重なり合ったままとなる。しかしながら、インバータ18の下面には逃げ部29が形成されているため、インバータ18が後方に位置変位したとき、マスターシリンダ12bは逃げ部29内に侵入してインバータ18の後部18bとの衝突が防止される。よって、このような状況の場合でも、ダッシュパネル4の変形を防止することができる。
【0047】
一方、上記のように比較的重度の前面衝突時には、インバータ18の後部18bを上方に位置変位させてマスターシリンダ12bへの衝突を防止しているものの、このときのインバータ18は後方にも位置変位している。このため、例えばダッシュパネル4の上側に配置されたカウルトップ等にインバータ18の後部18bが衝突して破損する可能性もある。本実施形態では、インバータ18の後部18bに合成樹脂製のコンデンスタンク30を固定しているため、後方に位置変位したインバータ18の後部18bとカウルトップとの間にコンデンスタンク30が挟み込まれて圧壊する。このときのコンデンスタンクは緩衝材として機能し、インバータ18への衝撃を緩和して破損を防止できるという効果も得られる。
【0048】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、ハイブリッド自動車のインバータ搭載構造として具体化したが、モータと共にインバータ18をエンジンルーム3内に搭載した車両1であれば、これに限るものではなく、例えば、電気自動車や燃料電池自動車に適用してもよい。
【0049】
本出願は、2021年3月30日出願の日本特許出願2021-056697に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 ハイブリッド自動車(車両)
2R,2L フロントサイドメンバ
3 エンジンルーム
4 ダッシュパネル
7 バンパービーム
8 アッパーバー
12 電動ブースター(ブレーキブースター)
12b マスターシリンダ
16 駆動ユニット
18 インバータ
18a 前部
18b 後部
21 第1ブラケット(ブラケット)
21a1 脚部
21b1 肉抜き孔(脆弱部)
22 第2ブラケット(ブラケット)
22d ピン孔
23 マウント
23b ガイド部
27 プロテクタ
29 逃げ部
30 コンデンスタンク
30a ピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9