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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】可変容量型過給機
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/00 20060101AFI20240423BHJP
   F01D 17/16 20060101ALI20240423BHJP
   F01D 25/24 20060101ALI20240423BHJP
   F01D 25/32 20060101ALI20240423BHJP
   F02B 37/24 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
F02B39/00 D
F01D17/16 A
F01D25/24 E
F01D25/32 C
F02B37/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023516352
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2022012684
(87)【国際公開番号】W WO2022224659
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2021071087
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】清水 有星
(72)【発明者】
【氏名】池田 健悟
(72)【発明者】
【氏名】淺川 貴男
(72)【発明者】
【氏名】柴山 隼人
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 健一
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 亮介
(72)【発明者】
【氏名】植田 隆文
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-331410(JP,A)
【文献】特開2006-257249(JP,A)
【文献】特開2009-74492(JP,A)
【文献】特開2009-180110(JP,A)
【文献】特開2009-228450(JP,A)
【文献】特開2012-102660(JP,A)
【文献】特開2015-63944(JP,A)
【文献】特開2017-89241(JP,A)
【文献】国際公開第2021/002056(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 17/16
F01D 25/24
F01D 25/32
F02B 37/24
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変容量型過給機であって、
タービン翼車と、
前記タービン翼車を収納するハウジングと、
前記ハウジング内に収納された可変ノズルユニットと、を備え、
前記可変ノズルユニットは、
前記タービン翼車に導入されるガスの流路上に配置されたノズルベーンと、前記ノズルベーンを回動可能に支持するノズルリングと、前記ノズルリングを挟んで前記ノズルベーンの反対側に配置され、前記ノズルベーンを回動させる駆動部と、を備え、
前記ハウジングは、前記駆動部を収納する駆動室と、前記駆動室内に連通する液体流路と、を備え、
前記駆動室は、前記駆動部の外周部に対向する内周対向面を備え、
前記液体流路の流路面の表面粗さは、前記内周対向面のうち、少なくとも前記液体流路に接続される領域の表面粗さよりも大きい、可変容量型過給機。
【請求項2】
前記液体流路の前記流路面の少なくとも一部は、前記内周対向面に面一に連続している、請求項1記載の可変容量型過給機。
【請求項3】
前記ハウジングは、前記タービン翼車の周りに形成されたスクロール流路を更に備え、
前記液体流路は、前記スクロール流路と前記駆動室とを連通可能に形成されている、請求項1または2記載の可変容量型過給機。
【請求項4】
前記ハウジングは、前記駆動室と前記スクロール流路との間に設けられると共に、前記ノズルリングの外周部に重なる内壁部を備え、
前記ノズルリングの前記外周部には、前記駆動室と前記スクロール流路との間の圧力差を低減するバランスホールが設けられており、
前記内壁部には、少なくとも一部分が前記バランスホールに重なるように前記液体流路が設けられている、請求項3記載の可変容量型過給機。
【請求項5】
前記液体流路は、前記タービン翼車の回転方向に沿った周方向の少なくとも二か所に設けられており、
一方の前記液体流路と他方の前記液体流路との間の位相角は8°以上で、且つ23°以下である、請求項1~4のいずれか一項記載の可変容量型過給機。
【請求項6】
前記液体流路の前記流路面と前記内周対向面とは親水面である、請求項1~5のいずれか一項記載の可変容量型過給機。
【請求項7】
前記バランスホールは、前記ノズルリングの周方向の複数個所に設けられている、請求項4記載の可変容量型過給機。
【請求項8】
前記複数のバランスホールは、前記ノズルリングの周方向で等間隔に設けられている、請求項7記載の可変容量型過給機。
【請求項9】
前記液体流路の流路断面は、前記ノズルリングの周方向の幅の全域が前記バランスホールの流路断面内に収まるように設けられている、請求項4記載の可変容量型過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、可変容量型過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可変ノズルユニットを備えた可変容量型過給機が知られている。可変ノズルユニットは、タービン翼車を通過する気体の流れを調整するノズルベーンと、ノズルベーンを駆動する駆動部と、を備えている。ノズルベーンは、ノズル軸を介してノズルリングに回転自在に取り付けられており、駆動部は、ノズル軸を回動することでノズルベーンを駆動する。可変容量型過給機のハウジングには、駆動部を収納する駆動室が設けられている。例えば、可変容量型過給機を寒冷地で使用する場合、駆動室内のガス中の水分が滞留して凍結すると、駆動部の動きを阻害する可能性がある。そこで、駆動室の下部に排水用の孔等を設けた可変容量型過給機が知られていた(特開2006-177318号公報、特開2009-74492号公報、特開2009-228450号公報、特開2012-102660号公報、特開2015-63944号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-177318号公報
【文献】特開2009-74492号公報
【文献】特開2009-228450号公報
【文献】特開2012-102660号公報
【文献】特開2015-63944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、駆動室に設ける孔等は他の構造部材との関係で狭い領域となり易く、その場合に、液体の十分な排出効果を得られず、水分の凍結によって駆動部の動きを阻害する可能性があった。
【0005】
本開示は、駆動室内の水等の液体の排出性を向上できる可変容量型過給機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、可変容量型過給機であって、タービン翼車と、タービン翼車を収納するハウジングと、ハウジング内に収納された可変ノズルユニットと、を備えている。可変ノズルユニットは、タービン翼車に導入されるガスの流路上に配置されたノズルベーンと、ノズルベーンを回動可能に支持するノズルリングと、ノズルリングを挟んでノズルベーンの反対側に配置され、ノズルベーンを回動させる駆動部と、を備えている。ハウジングは、駆動部を収納する駆動室と、駆動室内に連通する液体流路と、を備えている。駆動室は、駆動部の外周部に対向する内周対向面を備え、液体流路の流路面の表面粗さは、内周対向面のうち、少なくとも液体流路に接続される領域の表面粗さよりも大きい。
【0007】
上記の可変容量型過給機は駆動部を収納する駆動室を備えており、駆動室は、駆動部の外周部に対向する内周対向面を備えている。駆動室内のガス中に含まれる水等の液体は内周対向面上に滞留し易い。ハウジングには、この液体を排出するために駆動室内に連通する液体流路が設けられている。したがって、内周対向面のうち、液体流路に接続される領域が鉛直方向の下部となるように可変容量型過給機を車両等に搭載させることで、駆動室内に生じた液体を液体流路から排出させることができる。さらに、液体流路の流路面の表面粗さは、内周対向面のうち、液体流路に接続される領域の表面粗さよりも大きくなっている。可変容量型過給機のハウジングは金属製であり、ハウジングの表面、少なくとも駆動室の内周対向面及び液体流路の流路面は、実質的に親水面を形成している。親水面の場合、表面粗さが大きい方が水滴の接触角が小さくなり、狭い隙間を通過し易くなる。つまり、内周対向面に液体が滞留しても、その液体は表面粗さが大きい液体流路側に抜け易くなり、液体の排出性を向上できる。
【0008】
いくつかの態様において、液体流路の流路面の少なくとも一部は、内周対向面に面一に連続していてもよい。液体流路の流路面と内周対向面との間に段差無く面一に連続する部分が設けられていれば、段差に起因した液体の残留は生じ難くなり、液体の排出性を向上できる。
【0009】
いくつかの態様において、ハウジングは、タービン翼車の周りに形成されたスクロール流路を備えていてもよい。液体流路は、スクロール流路と駆動室とを連通可能に形成されていてもよい。スクロール流路に排出された液体は、タービン翼車の駆動により、速やかに蒸発等して消失するので、液体の排出性を向上できる。
【0010】
いくつかの態様において、ハウジングは、駆動室とスクロール流路との間に設けられると共に、ノズルリングの外周部に重なる内壁部を備えていてもよい。ノズルリングの外周部には、駆動室とスクロール流路との間の圧力差を低減するバランスホールが設けられていてもよい。内壁部には、少なくとも一部分がバランスホールに重なるように液体流路が設けられていてもよい。液体流路の少なくとも一部分がバランスホールに重なるように設けられていると、液体流路が、ノズルリングを避けながら駆動室内に連通する領域を広げ易くなり、液体の排出性を向上できる。
【0011】
いくつかの態様において、液体流路は、タービン翼車の回転方向に沿った周方向の少なくとも二か所に設けられており、一方の液体流路と他方の液体流路との間の位相角は8°以上で、且つ23°以下であってもよい。可変容量型過給機が搭載された車両等が、例えば勾配を有する傾斜地に停止している場合にも、駆動室内に滞留する液体はいずれかの液体流路から排出され易くなり、液体の排出性を向上できる。
【0012】
いくつかの態様において、液体流路の流路面と内周対向面とは親水面であってもよい。
【0013】
いくつかの態様において、バランスホールは、ノズルリングの周方向の複数個所に設けられていてもよく、複数のバランスホールは、ノズルリングの周方向で等間隔に設けられていてもよい。
【0014】
いくつかの態様において、液体流路の流路断面は、ノズルリングの周方向の幅の全域がバランスホールの流路断面内に収まるように設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、駆動室内の液体の排出性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態に係る可変容量型過給機の一例を示す断面図である。
図2図2は、図1の符号Aで示す領域の拡大図である。
図3図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、図3のIV-IV線に沿った図面である。
図5図5は、水滴の接触角と水滴の形状とを模式的に示す説明図であり、(a)の図は、平坦面上の水滴と接触角との関係を模式的に示す図であり、(b)の図は、親水面の場合の接触角と水滴の形状との関係を説明する図であり、(c)の図は、疎水面の場合の接触角と水滴の形状との関係を説明する図である。
図6図6は、可変容量型過給機が搭載された車両等の傾きとドレン流路の位置との関係を模式的に示し、(a)の図は実施形態に係るドレン流路の配置を示す説明図であり、(b)の図は比較形態に係るドレン流路の配置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
実施形態に係る可変容量型過給機1(図1参照)は、例えば、船舶や車両の内燃機関に適用されるものである。図1に示されるように、可変容量型過給機1は、タービン2とコンプレッサ3とを備えている。タービン2は、タービンハウジング4と、タービンハウジング4に収納されたタービン翼車6と、を備えている。タービンハウジング4は、タービン翼車6の周囲において周方向(タービン翼車6の回転方向)に延びるスクロール流路16を有している。コンプレッサ3は、コンプレッサハウジング5と、コンプレッサハウジング5に収納されたコンプレッサ翼車7と、を備えている。コンプレッサハウジング5は、コンプレッサ翼車7の周囲において周方向(コンプレッサ翼車7の回転方向)に延びるスクロール流路17を有している。
【0019】
タービン翼車6は回転軸14の一端に設けられており、コンプレッサ翼車7は回転軸14の他端に設けられている。タービンハウジング4とコンプレッサハウジング5との間には、軸受ハウジング13が設けられている。回転軸14は、軸受15を介して軸受ハウジング13に回転可能に支持されており、回転軸14、タービン翼車6及びコンプレッサ翼車7が一体の回転体12として回転軸線H周りに回転する。本実施形態に係る可変容量型過給機1のハウジング8は、タービンハウジング4、軸受ハウジング13及びコンプレッサハウジング5を備えて構成されている。
【0020】
タービンハウジング4には、排気ガス流入口(図示せず)及び排気ガス流出口10が設けられている。内燃機関(図示せず)から排出された排気ガスが、排気ガス流入口を通じてタービンハウジング4内に流入し、スクロール流路16を通じてタービン翼車6に流入し、タービン翼車6を回転させる。その後、排気ガスは、排気ガス流出口10を通じてタービンハウジング4外に流出する。
【0021】
コンプレッサハウジング5には、吸入口9及び吐出口(図示せず)が設けられている。上記のようにタービン翼車6が回転すると、回転軸14を介してコンプレッサ翼車7が回転する。回転するコンプレッサ翼車7は、吸入口9を通じて外部の空気を吸入し、圧縮して、スクロール流路17を通じて吐出口から吐出する。吐出口から吐出された圧縮空気は、前述の内燃機関に供給される。
【0022】
タービン2について説明する。タービン2は可変容量型タービンであり、スクロール流路16とタービン翼車6とを接続するガス流入路21を備えている。ガス流入路21は、タービン翼車6に導入される排気ガスの流路である。ガス流入路21上には、可動の複数のノズルベーン23が配置されている。複数のノズルベーン23は、回転軸線Hを中心とする円周上に配置されており、各ノズルベーン23は回転軸線Hに平行な軸線周りに回動する。ノズルベーン23が回動することで、タービン2に導入される排気ガスの流量に応じてガス流路の断面積が最適に調整される。ノズルベーン23を回動させるための駆動機構として、タービン2は可変ノズルユニット25を備えている。
【0023】
可変ノズルユニット25は、ハウジング8内に収納されている。具体的には、可変ノズルユニット25は、タービン翼車6に隣接した状態でタービンハウジング4の内側に嵌め込まれており、タービンハウジング4と軸受ハウジング13とで挟み込まれて固定されている。
【0024】
可変ノズルユニット25は、上述の複数のノズルベーン23と、ノズルベーン23を回転軸線H方向に挟む第1ノズルリング31(ノズルリングの一例)及び第2ノズルリング32と、を有している。第1ノズルリング31と第2ノズルリング32とは、それぞれ回転軸線Hを中心とするリング状を成しており、タービン翼車6を周方向(タービン翼車6の回転方向)に囲むように配置されている。第1ノズルリング31と第2ノズルリング32とは、連結ピン35によって所定の隙間を空けた状態で対向配置されている。第1ノズルリング31と第2ノズルリング32との間に形成される領域は、前述のガス流入路21となる。第2ノズルリング32はスクロール流路16(図1参照)に面しており、第2ノズルリング32がスクロール流路16の内壁の一部を形成している。第1ノズルリング31には、各ノズルベーン23の回動軸23aが貫通しており、第1ノズルリング31は各ノズルベーン23を片持ちで軸支している。本実施形態に係るノズルベーン23は円周上に等間隔に配置されているが、非等間隔に配置されていてもよい。第1ノズルリング31は、ノズルベーン23を回動可能に支持するノズルリングの一例である。
【0025】
可変ノズルユニット25は、ノズルベーン23を回動させる駆動部26を備えている。駆動部26は、第1ノズルリング31を挟んでノズルベーン23の反対側に配置されている。駆動部26は、駆動リング27と、複数のノズルリンク板28と、駆動リンク板29と、を備えている。駆動リング27は、外部から入力される力を、ノズルベーン23を回動させる駆動力としてノズルベーン23に伝達する部材である。駆動リング27は、回転軸線Hを中心とする円周上に延在するリング状をなす。駆動リング27は、ハウジング8に固定された支持部材に取り付けられており、支持部材によって回転軸線H周りに回動可能となるように支持されている。
【0026】
複数のノズルリンク板28は各ノズルベーン23の回動軸23aにそれぞれ取り付けられている。複数のノズルリンク板28は、駆動リング27の内側で円周上に等間隔に配置されている。駆動リンク板29は、ノズルリンク板28に並ぶように配置されている。駆動リンク板29は、外部からの駆動力を受けて傾動(回動)し、その傾動によって駆動リング27を回動させる。複数のノズルリンク板28は、駆動リング27の回動に追従して回動し、それぞれ回動軸23aを介してノズルベーン23を回動させる。つまり、駆動リンク板29及び駆動リング27は、協働してノズルリンク板28を回転させ、その回転によってノズルリンク板28を回転させる。
【0027】
図2に示されるように、ハウジング8は、駆動部26を収納する駆動室40を備えている。駆動室40は、タービンハウジング4と軸受ハウジング13との接続箇所に設けられており、駆動部26を囲む壁内面41を有する。駆動部26は、外周部27aを備えている。外周部27aは、回転するタービン翼車6の遠心方向(径方向)Daの外側の部分である。例えば、駆動リング27の外周端面は外周部27aの少なくとも一部となる。壁内面41のうち、駆動部26の外周部27aに対向する領域は内周対向面42である。例えば、内周対向面42は、タービン翼車6の回転軸線Hが水平となるように設置した状態で、駆動室40内で水等の液体Lが生じた場合に、液体Lが滞留する可能性ある領域の表面である。
【0028】
ハウジング8は、駆動室40とスクロール流路16との間に設けられた内壁部43を備えている。内壁部43は、第1ノズルリング31と協働して駆動室40とスクロール流路16とを仕切る。例えば、内壁部43は、タービンハウジング4内に設けられており、駆動室40の内周対向面42から内方(遠心方向Daとは逆方向)に向けて突出するように立設されている。例えば、内壁部43は、第1ノズルリング31の外周部31bの全周に沿うように円環状に設けられた壁である。
【0029】
ここで第1ノズルリング31の外周部31bと内壁部43との関係について説明する。第1ノズルリング31は、ノズルベーン23(図1参照)を回動自在に支持する本体部31aと、本体部31aから外方(遠心方向Da)に向けてフランジ状に張り出した薄肉の外周部31bと、を備えている。本体部31aと外周部31bとの間には段差部31cが形成されている。なお、例えば、段差部31cが無く、実質的に、本体部31aと外周部31bとが同一の板厚で連続していてもよい。
【0030】
第1ノズルリング31の外周部31bは、スクロール流路16側の第1の側面43aと、駆動室40側の第2の側面43bとを備えている。内壁部43は、第1の側面43aに重なっている。内壁部43の少なくとも一部は、段差部31cによって形成される隙間内に収まるように配置されている。
【0031】
図2図3及び図4に示されるように、内壁部43には、駆動室40とスクロール流路16とを連通するドレン流路44(液体流路の一例)が設けられている。ドレン流路44は、ガス中に含まれる水等の液体Lが駆動室40内に滞留した場合に、その液体Lを排出する機能を有する。ドレン流路44は、例えば、回転軸線H方向に延在するように設けることができる。ドレン流路44を回転軸線H方向に延在するように設けることで、製造し易くなる。また、ドレン流路44は、例えば、回転軸線H方向に対して斜めに傾斜する方向に延在するように設けることができる。ドレン流路44を回転軸線H方向に対して傾斜するように設けることで、排出性が向上する。例えば、ドレン流路44は、駆動室40に近い一方の端部よりも、スクロール流路16に近い他方の端部の方が低くなるように傾斜させてもよい。
【0032】
例えば、ドレン流路44は溝であり、流路断面は、外縁の一部が開放された形状であり、例えば半円状やU字状である。例えば、ドレン流路44は貫通孔であり、流路断面は、外縁の全周が閉鎖させた形状にすることもでき、例えば、円形、楕円形、その他の任意の形状であってもよい。
【0033】
例えば、ドレン流路44の流路面44aの一部は、駆動室40の内周対向面42に面一に連続している。駆動室40の内周対向面42に面一に連続する流路面44aを備えることで、内周対向面42上に滞留する液体Lがドレン流路44を通過して排出され易くなる。ドレン流路44の流路面44aは、例えば、内周対向面42に面一に連続する部分が無い構造であってもよい。この構造の場合、ドレン流路44の流路面44aと内周対向面42との間に段差を生じるが、少なくとも、内周対向面42上に滞留する液体Lの水位(液体Lの最下面から水面までの高さ)が段差を超えるまで高くなると、液体Lはドレン流路44を介して排出可能になる。
【0034】
ドレン流路44の流路面44aの表面粗さは、内周対向面42のうち、少なくともドレン流路44に接続される領域42aの表面粗さよりも大きい(図4参照)。なお、図4では、表面粗さをドットで表現しており、ドットが密な方が、表面粗さが大きいことを示している。また、内周対向面42のうち、ドレン流路44に接続される領域42aとは、ドレン流路44を内周対向面42側に延長した延長領域が内周対向面42上に重なる領域を意味する。ドレン流路44の流路面44aの表面粗さを内周対向面42の表面粗さよりも大きくすることで、内周対向面42上に滞留する液体Lの排出性を向上できる。この排出機能について、更に詳しく説明する。
【0035】
図5は、水滴Laが接する表面の性状と接触角との関係を示す図であり、(a)の図は平坦面(平滑面)Sf上の水滴Laの接触角を説明する図である。また、(b)の図は、表面が親水面の場合の接触角と水滴Laの形状との関係を概略的に示す図であり、(c)の図は、表面が疎水面の場合の接触角と水滴Laの形状との関係を概略的に示す図である。図5において、θは平坦面Sfでの接触角を示し、θwは平坦面Sfよりも表面粗さが大きい粗面Sgでの接触角を示している。粗面Sgの接触角θwは、以下のWenzelの式(1)にて求めることができる。ここでrは見かけの表面積に対する実際の表面積の割合を示し、「r=1」は平坦面Sfを意味し、「r>1」は表面粗さが平坦面Sfよりも大きいことを意味する。
【0036】
cosθw=rcosθ (1)
【0037】
図5に示されるように、親水面の場合、平坦面Sfでの接触角θは90°よりも小さく、平坦面Sfを基準にして表面粗さが大きくなるほど接触角θwは小さくなる。これに対し、疎水面の場合、平坦面Sfでの接触角θは90°よりも大きく、平坦面Sfを基準にして表面粗さが大きくなるほど接触角θwは大きくなる。ここで、接触角θwが小さい隙間ほど狭い隙間に浸入し、排出性は向上する。
【0038】
上記の知見を踏まえ、上記の可変容量型過給機1について検証する。まず、可変容量型過給機1のハウジング8は、基本的に金属製であり、ハウジング8の表面は親水面を形成する。つまり、表面粗さが大きくなるほど、接触角は小さくなり、狭い隙間に浸入し易くなる。可変容量型過給機1の場合、ドレン流路44の流路面44aの表面粗さは、内周対向面42のドレン流路44に接続される領域42aの表面粗さよりも大きくなっている。その結果、内周対向面42上に滞留する液体Lは、例えば、吸い込まれるようにドレン流路44の流路面44a内に移動することになり、ドレン流路44を介してスクロール流路16に排出される。
【0039】
次に、可変容量型過給機1の製造方法において、特にタービンハウジング4にドレン流路44を形成する方法について説明する。タービンハウジング4は、例えば排気ガス温度に応じ、ダクタイル鋳鉄、ニレジスト鋳鉄、鋳鋼系材料等を使用でき、シェルモールド法やコールドボックス法等の精密鋳造法を適用して製造することができる。ドレン流路44は、例えば、上記の方法で製造されたタービンハウジング4に切削加工(ドリル加工)等を施すことで形成される。この切削加工の際、ドレン流路44の流路面44aの表面粗さがタービンハウジング4の駆動室40の壁内面41の表面粗さ、特に内周対向面42の表面粗さよりも大きくなるように調整する。また、ドレン流路44を切削加工した後に、ドレン流路44の流路面44aの表面粗さが相対的に大きくなるように事後的に処理することも可能である。
【0040】
また、ドレン流路44を含むタービンハウジング4の全体を一般の鋳造法等で製造することもできる。この場合、精密鋳造法に比べてタービンハウジング4の表面粗さは大きくなる。そこで、ドレン流路44の流路面44aについては、鋳肌のまま残し、内周対向面42を機械加工や研磨加工することもできる。つまり、ドレン流路44の流路面44aの表面粗さの方が内周対向面42の表面粗さよりも大きくなるように機械加工や研磨加工することもできる。
【0041】
次に、図2及び図3を参照し、第1ノズルリング31に形成されるバランスホール33について説明する。バランスホール33は、駆動室40とスクロール流路16とを連通する溝あるいは貫通孔である。バランスホール33は、駆動室40とスクロール流路16との間に生じる圧力差を低減するという機能を有する。この機能について更に詳しく説明する。
【0042】
第1ノズルリング31(図1参照)は、皿ばね30aや遮熱板30b等を介して軸受ハウジング13に押圧され、所定の位置に保持されている。この状態において、スクロール流路16内の圧力が駆動室40内の圧力よりも大きくなり、その状態が維持されると、第1ノズルリング31を支える皿ばね30aの接触荷重が必要以上に大きくなり、皿ばね30aにクリープが発生する可能性がある。さらに、ノズルベーン23が、第1ノズルリング31に近づく方向にずれてしまう可能性がある。発明者の経験的な知見によれば、ノズルベーン23は、第1ノズルリング31よりも第2ノズルリング32に近い位置に配置されている方が流体性能はよい。したがって、ノズルベーン23と第2ノズルリング32との距離がノズルベーン23と第1ノズルリング31との距離よりも大きくなると性能を低下させる可能性がある。ここで、バランスホール33を設けることで、駆動室40とスクロール流路16との間に生じる圧力差を低減することができ、その結果、クリープの発生抑止と性能低下の抑制とを両立できる。
【0043】
バランスホール33は、例えば、第1ノズルリング31の周方向で等間隔(同位相)となる複数個所に設けられている。具体的には、複数のバランスホール33は、120°の位相となる3個所に設けられている。なお、バランスホール33は、単体あるいは周方向で不等間隔となる複数個所に設けてもよい。
【0044】
内壁部43に設けられたドレン流路44の少なくとも一部分は、回転軸線H方向から見て、バランスホール33に重なるように配置されている(図3参照)。例えば、ドレン流路44の流路断面は円弧が下側となる半円形状であり、バランスホール33は円弧が上側となる半円形状である。例えば、ドレン流路44の流路断面は、下部の一部分を除き、略全域がバランスホール33の流路断面内に収まるように重なっている。つまり、ドレン流路44の流路断面は、第1ノズルリング31の周方向の幅の全域がバランスホール33の流路断面内に収まるように重なっている。なお、ドレン流路44の少なくとも一部分がバランスホール33に重なるという意味は、タービン翼車6の回転方向を基準にした場合に、ドレン流路44とバランスホール33との位相が重なる状態と説明することもできる。例えば、バランスホール33の断面の面積は、ドレン流路44の流路断面の面積よりも大きい。例えば、バランスホール33の断面の面積とドレン流路44の流路断面の面積とは同一であってもよく、あるいは、ドレン流路44の流路断面の面積の方がバランスホール33の断面の面積よりも大きくてもよい。
【0045】
次に、図6を参照して、タービン翼車6の回転軸線H周りにおけるドレン流路44の配置について説明する。図6の(a)の図は、本実施形態に係るドレン流路44の配置の一例を示している。図6の(b)の図は、変形形態に係るドレン流路44A,44Bの配置の一例を示している。
【0046】
可変容量型過給機1のドレン流路44は単体で設けられている。可変容量型過給機1が搭載されている車両等が傾いて停止されると、図6の(a)図で示されるように、ドレン流路44は、鉛直軸からずれた位置となる。この場合、鉛直軸上の下端点Paに対するドレン流路44の位置ずれを、例えば、回転軸線H周りの回転角(位相角)α1で表現することができる。駆動室40内に滞留する液体Lは、下端点Paからの水位(喫水高さ)hがドレン流路44まで達すると、液体Lはドレン流路44から排出される。ここで、回転軸線Hからドレン流路44までの距離をrとすると、液体Lがドレン流路44から排出されるための水位hは、以下の式(2)となる。
【0047】
h=r-rcosα1 (2)
【0048】
次に、変形例に係るドレン流路44A,44Bについて説明する。変形例では、内壁部43の周方向に沿った複数個所にドレン流路44A,44Bが設けられている。変形例では、例えば、二個所にドレン流路44A,44Bが設けられている。可変容量型過給機1が搭載された車両等は、常に勾配の無い場所に停車されるとは限らず、最低でも15°程度の勾配を有する傾斜地に停車される可能性がある。この場合、複数のドレン流路44A,44Bを設けることで、いずれか一方のドレン流路44A,44Bは鉛直軸の下端点Paに近くなる。その結果、滞留する液体Lの水位hができるだけ低い位置にて排出することができる。
【0049】
また、例えば、複数のドレン流路44A,44B同士の相対的な位置関係を、回転軸線H周りの回転角(位相角)α2で表現することができる。具体的には、回転軸線Hと一方のドレン流路44Aとによって形成される第1の直線Lxと、回転軸線Hと他方のドレン流路44Bとによって形成される第2の直線Lyとを仮定する。ここで、回転軸線Hで交差する第1の直線Lxと第2の直線Lyとがなす角は、回転軸線H周りの回転角α2である。回転角α2は、8°以上で、且つ23°以下にすることができる。また、上述の通り、15°程度の勾配を有する傾斜地に停車される可能性があることを想定すると、回転角α2は、14°以上が望ましく、17°以下が望ましい。
【0050】
次に、上記の可変容量型過給機1の作用、効果について説明する。可変容量型過給機1は駆動部26を収納する駆動室40を備えており、駆動室40は、駆動部26の外周部27aに対向する内周対向面42を備えている。駆動室40内のガス中に含まれる水等の液体Lは内周対向面42上に滞留し易い。ハウジング8の内壁部43には、液体Lを排出するために駆動室40内に連通するドレン流路44が設けられている。したがって、内周対向面42のうち、ドレン流路44に接続される領域42aが鉛直方向の下部となるように可変容量型過給機1を車両等に搭載させることで、駆動室40内に生じた液体Lをドレン流路44から排出させることができる。
【0051】
さらに、ドレン流路44の流路面44aの表面粗さは、内周対向面42のうち、ドレン流路44に接続される領域42aの表面粗さよりも大きくなっている。ハウジング8は金属製であり、内周対向面42及びドレン流路44の流路面44aは、実質的に親水面を形成している。親水面の場合、表面粗さが大きい方が水滴の接触角が小さくなり、狭い隙間を通過し易くなる。つまり、内周対向面42に液体Lが滞留しても、その液体Lは表面粗さが大きいドレン流路44側に吸い寄せられるようにして抜け易くなり、液体Lの排出性を向上できる。
【0052】
駆動室40内に滞留する液体Lの排出性を向上することで、仮に液体Lが滞留していたとしても、その液体Lの水位を下げることができる。その結果、例えば、可変容量型過給機1を搭載した車両等が寒冷地で停車され、駆動室40内の液体Lが凍結したとしても、その凍結によって駆動部26の駆動、特に駆動部26の始動時において支障を来す虞を低減できる。
【0053】
また、ドレン流路44の流路面44aの少なくとも一部は、例えば、内周対向面42に面一に連続している。つまり、ドレン流路44の流路面44aと内周対向面42との間に段差無く面一に連続する部分が設けられることになり、その部分を介して液体Lは抜け易くなる。その結果、段差に起因した液体Lの残留は生じ難くなり、液体Lの排出性を向上できる。
【0054】
また、ドレン流路44は、スクロール流路16と駆動室40とを連通可能に形成されており、ドレン流路44を通過した液体Lはスクロール流路16に排出される。スクロール流路16に排出された液体Lは、タービン翼車6の駆動により、速やかに蒸発等して消失する。その結果、液体Lの排出性を向上できる。
【0055】
また、可変容量型過給機1は、第1ノズルリング31に設けられたバランスホール33を備えている。ドレン流路44の少なくとも一部分はバランスホール33に重なるように設けられている。その結果として、第1ノズルリング31を避けながらドレン流路44が駆動室40内に連通する領域を広げ易くなり、液体Lの排出性を向上できる。
【0056】
また、バランスホール33は、駆動室40とスクロール流路16との間の圧力差を低減する機能を有するが、バランスホール33の面積を大きくするとスクロール流路16内の圧力維持を不安定にする可能性がある。つまり、バランスホール33を適切な寸法で形成することは重要である。ここで、スクロール流路16と駆動室40とが連通可能となるようにドレン流路44を設けた場合、バランスホール33の形成は、ドレン流路44による影響も考慮に入れて慎重に行う必要がある。しかしながら、可変容量型過給機1では、ドレン流路44の少なくとも一部分がバランスホール33に重なるように配置されている。したがって、ドレン流路44がバランスホール33から独立して形成されている構造に比べ、ドレン流路44の影響も小さくなり、バランスホール33を適切に形成し易くなる。
【0057】
また、上記の変形例に係る可変容量型過給機1では、二つのドレン流路44A,44Bを備えており、一方のドレン流路44Aと他方のドレン流路44Bとの間の回転角(位相角)α2は8°以上で、且つ23°以下である。その結果、例えば、可変容量型過給機1が搭載された車両等が、勾配を有する傾斜地に停止している場合にも、駆動室40内に滞留する水等の液体Lはいずれかのドレン流路44A,44Bから排出され易くなり、液体Lの排出性を向上できる。
【0058】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 可変容量型過給機
8 ハウジング
6 タービン翼車
16 スクロール流路
21 ガス流入路
23 ノズルベーン
25 可変ノズルユニット
26 駆動部
27 駆動リング
27a 外周部
31 第1ノズルリング(ノズルリング)
33 バランスホール
40 駆動室
42 内周対向面
43 内壁部
44 ドレン流路(液体流路)
44a 流路面
42a ドレン流路に接続される領域
44A ドレン流路
44B ドレン流路
H 回転軸線
L 液体
図1
図2
図3
図4
図5
図6