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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物および半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/62 20060101AFI20240423BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240423BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240423BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20240423BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C08G59/62 ZAB
C08L63/00 C
C08K3/013
H01L23/30 R
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023551185
(86)(22)【出願日】2023-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2023006237
(87)【国際公開番号】W WO2023162975
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2022029262
(32)【優先日】2022-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】岩井 正寛
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐介
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201639(JP,A)
【文献】特開2014-141688(JP,A)
【文献】特開2019-147921(JP,A)
【文献】特開2007-002070(JP,A)
【文献】特開2009-046576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 63/00-63/10
C08K 3/00-13/08
H01L 23/29
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、
(B)植物由来原料であるカルダノールを含むフェノール類(b1)から得られたフェノール硬化剤を含む硬化剤と、
を含み、
エポキシ樹脂(A)は、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、およびジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種であり、
前記フェノール硬化剤が、下記式(3)で表され、下記Qが異なる4つの構造単位を含むノボラック型のバイオマス変性フェノール樹脂である、封止用樹脂組成物。
【化1】
(式(3)中、Qは下記式で表される不飽和炭素鎖の二重結合にフェノール類(b2)が付加した構造を備え、
【化2】
前記フェノール類(b2)は、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール、ナフトール、ハロゲン化フェノール、p-フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、および多価フェノールから選択される少なくとも1種である。)
【請求項2】
硬化剤(B)は、石油由来原料から得られたフェノール硬化剤を含む、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂(A)は、石油由来原料から得られたエポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
さらに硬化促進剤(C)を含む、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項5】
さらに無機充填剤(D)を含む、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項6】
以下の条件で測定されるスパイラルフロー長が、100cm以上250cm以下である、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
(条件)
EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で前記封止用樹脂組成物を注入して測定した流動長を前記スパイラルフロー長とする。
【請求項7】
175℃におけるゲルタイムが10秒以上60秒以下である、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の封止用樹脂組成物の硬化物。
【請求項9】
バイオマス度が5%以上95%以下である、請求項に記載の硬化物。
【請求項10】
半導体素子と、
請求項に記載の硬化物からなる、前記半導体素子を封止する封止材と、
を備える、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用樹脂組成物および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体パッケージ等を封止するための材料として、熱硬化性の樹脂組成物(封止用樹脂組成物)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、自動車用に用いられるエンジンコントロールユニットや自動変速機コントロールユニットなどの電子装置において、当該電子装置が備える電子部品と、当該電子部品が実装された基板と、当該基板に接続された端子とを一括封止するために用いられる封止樹脂が記載されている。
【0004】
近年では、化石資源を使用する樹脂は、資源枯渇や炭酸ガス排出といった地球環境への影響が懸念されるようになり、材料の開発にも植物由来原料のようなバイオマス資源の活用が検討されるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/056728号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非化石資源を活用する観点からは、植物由来原料を用いて得られた樹脂等を用い、高いバイオマス度を有する組成物とすることが好ましい。しかしながら、バイオマス度を上げると、流動性、硬化性、電気信頼性等の物性が低下することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、植物由来原料から得られたフェノール硬化剤を用いるとともに所定の配合とすることによりバイオマス度を上げながらも、これらの物性を改善することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0008】
[1](A)エポキシ樹脂と、
(B)植物由来原料から得られたフェノール硬化剤を含む硬化剤と、
を含む、封止用樹脂組成物。
[2] 植物由来原料から得られた前記フェノール硬化剤が、植物原料由来の不飽和炭素鎖含有フェノール類で変性されたバイオマス変性フェノール樹脂である、[1]に記載の封止用樹脂組成物。
[3] 硬化剤(B)は、石油由来原料から得られたフェノール硬化剤を含む、[1]または[2]に記載の封止用樹脂組成物。
[4] エポキシ樹脂(A)は、石油由来原料から得られたエポキシ樹脂を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
[5] エポキシ樹脂(A)は、植物由来原料から得られたフェノール類をエポキシ化したエポキシ樹脂を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
[6] さらに硬化促進剤(C)を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
[7] さらに無機充填剤(D)を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
[8] 以下の条件で測定されるスパイラルフロー長が、100cm以上250cm以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
(条件)
EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で前記封止用樹脂組成物を注入して測定した流動長を前記スパイラルフロー長とする。
[9] 175℃におけるゲルタイムが10秒以上60秒以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の封止用樹脂組成物の硬化物。
[11] バイオマス度が5%以上95%以下である、[10]に記載の硬化物。
[12] 半導体素子と、
[10]または[11]に記載の硬化物からなる、前記半導体素子を封止する封止材と、
を備える、半導体装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の封止用樹脂組成物によれば、植物由来原料を用いており地球環境に優しく、さらに流動性、硬化性、電気信頼性などの実用性に優れた封止材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態における半導体装置の構成を示す断面図である。
図2】実施形態における半導体装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、例えば「1~10」は特に断りがなければ「1以上」から「10以下」を表す。
【0012】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)と、植物由来原料から得られたフェノール硬化剤(B1)を含む硬化剤(B)と、を含む。
本実施形態において、植物由来のフェノール硬化剤(B1)およびエポキシ樹脂(A)に含まれる後述する植物由来エポキシ樹脂(A2)は、植物由来のフェノール類から得ることができる。
【0013】
[植物由来のフェノール類]
植物由来のフェノール類の具体例としては、例えば、フェノール(ヒドロキシベンゼン);カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンのようなベンゼンジオール(ジヒドロキシベンゼン);
ヒドロキシノール、フロログルシノール、ピロガノールのようなベンゼントリオール(トリヒドロキシベンゼン);
カシューオイル、カルダノールのような不飽和炭素鎖含有フェノール類;
カルドール、2-メチルカルドール、アナカルド酸のような飽和炭素鎖含有フェノール類;
o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,4,6-トリメチルフェノール、5-イソプロピル-2メチルフェノール、4-イソプロピルフェノール、4-シクロへキシルフェノール、4-フェニルフェノール、3-ペンタデシルフェノール、3-ペンタデシルフェノールモノエン、3-ペンタデシルフェノールジエン、3-ペンタデシルフェノールトリエン、カテコールモノアルキルエーテル、ヒドロキノンモノアルキルエーテル、4-ヒドロキシフェニル酢酸メチル、1-ナフトール、2-ナフトール、ビスフェノールA、2,6-ジメトキシフェノール、リグニン、4,4’-ビフェノール、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオール等が挙げられる。
【0014】
また、誘導体としては、例えば、塩、水和物、溶媒和物等が挙げられる。
なお、環式化合物には、主成分以外に、不純物としての非バイオマス由来の化合物やその他の成分が含まれていてもよい。
【0015】
植物由来のフェノール類の製造方法は、例えば、植物に含まれる混合糖からヒドロキシ安息香酸類を含む原料を得る工程1を経て、次いで生物学的反応又は化学的反応によりヒドロキシ安息香酸類から脱炭酸させる工程2を経て、植物由来のフェノール類を得る方法等が挙げられる。
【0016】
工程1の方法は、例えば、Biotechnology and Bioengineering 76巻,376項、2001年に記載の方法やWO2015/156271に記載の方法等が挙げられる。
【0017】
工程2の方法は、例えば、生物学的反応としてWO2012/063860や化学的反応として酸性化合物との脱炭酸反応等が挙げられる。
【0018】
[エポキシ樹脂(A)]
エポキシ樹脂(A)は、1分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物であり、モノマー、オリゴマーおよびポリマーのいずれであってもよい。
【0019】
エポキシ樹脂(A)は、具体的には、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上である。
【0020】
金属部材との密着性を向上する観点から、エポキシ樹脂(A)は、好ましくは、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型多官能エポキシ樹脂、オルソクレゾール型二官能エポキシ樹脂、ビフェニル型二官能エポキシ樹脂およびビスフェノール型二官能エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上である。
【0021】
同様の観点から、エポキシ樹脂(A)は、好ましくは、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂および3,3',5,5'-テトラメチルビフェニルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上である。
【0022】
エポキシ樹脂(A)は、石油由来原料から得られたエポキシ樹脂(A1)を含むことができる。エポキシ樹脂(A1)としては、上述のエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0023】
本実施形態においては、バイオマス度を向上する観点から、植物由来原料から得られたフェノールをエポキシ化したエポキシ樹脂(A2)を含むことが好ましい。植物由来エポキシ樹脂(A2)は、例えば、前記植物由来のフェノール類又は植物由来のフェノール硬化剤(B1)などの植物由来のフェノール水酸基を有する化合物をエピクロロヒドリン等と反応させ、フェノール水酸基をフェノールグリシジルエーテル基に置換する工程等により得られる。
【0024】
封止用樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の含有量は、成形時に好適な流動性を得て充填性や成形性の向上を図る観点から、封止用樹脂組成物全体に対して、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上である。
【0025】
また、封止用樹脂組成物を用いて得られる装置の信頼性を向上する観点から、封止用樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、さらにより好ましくは10質量%以下である。
【0026】
エポキシ樹脂(A)がエポキシ樹脂(A1)および植物由来のエポキシ樹脂(A2)を含む場合、エポキシ樹脂(A1)とエポキシ樹脂(A2)との比(A1:A2)は、好ましくは10:90~90:10、より好ましくは20:80~80:20とすることができる。
【0027】
[硬化剤(B)]
硬化剤(B)は、植物由来原料から得られたフェノール硬化剤(B1)を含む。
植物由来のフェノール硬化剤(B1)は、例えば、前記植物由来のフェノール類を植物由来又は石油由来のアルデヒド類と酸性触媒下で反応させる工程により得られる。
【0028】
植物由来のフェノール硬化剤(B1)としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニル骨格含有フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミンやベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、トリスフェノールメタン型フェノール樹脂、バイオマス変性フェノール樹脂等を挙げることができる。本実施形態においては、植物由来のフェノール硬化剤(B1)として、バイオマス変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0029】
(バイオマス変性フェノール樹脂)
バイオマス変性フェノール樹脂は、本発明の効果を奏する範囲で公知のバイオマス変性フェノール樹脂を用いることができるが、植物原料由来の不飽和炭素鎖含有フェノール類で変性されたバイオマス変性フェノール樹脂であることが好ましい。
【0030】
上記バイオマス変性フェノール樹脂は、例えば、バイオマス誘導体、フェノール類およびアルデヒド類を反応させる工程により得ることができる。このバイオマス誘導体は、例えば、植物原料由来の不飽和炭素鎖含有フェノール類の不飽和炭素鎖の二重結合にフェノール類を付加反応させる付加反応工程により得ることができる。
【0031】
上記植物原料としては、不飽和炭素鎖含有フェノール類であれば、特に限定されないが、例えば、ケイ皮酸、シンナムアルデヒド、コーヒー酸、フェルラ酸、クマル酸やこれらの誘導体等の、植物由来の不飽和カルボン酸;カルダノール、カードル、メチルカードルおよびアナカルド酸等のカシューナット殻液(カシュー油)、ウルシオール、ラッコールおよびチチオール等のウルシ抽出物やこれらの精製物等の、植物由来のフェノール性水酸基かつ不飽和アルキル基含有フェノール類;等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本実施形態において、植物原料として、不飽和炭素鎖含有フェノール類を使用することにより、バイオマス変性フェノール樹脂中のバイオマス変性率を高めることができ、その硬化物の耐熱性を向上させることができる。また、フェノール性水酸基かつ不飽和アルキル基含有フェノール類を使用することにより、高いバイオマス導入率でありながら反応性に優れるバイオマス変性フェノール樹脂を実現できる。また、他の動植物油脂と異なりエステル基のような易分解性の官能基が無いため、バイオマス変性フェノール樹脂の硬化物で構成された成形物は耐熱性に優れたものとすることができる。
【0033】
コストの観点から、カシュー油を含む植物原料を使用することができる。上記カシュー油は、カシューナッツの殻に含まれる油状の液体であり、アナカルド酸、カルドール、2-メチルカルドール、カルダノールなどを含むものである。この中でも、上記カシュー油として、カルダノール、カルドール、および2-メチルカルドールからなる群から選択される一種以上を含むことができる。また、カルダノール等のカシュー油の精製物を使用してもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これにより、上記バイオマス変性フェノール樹脂はカシュー変性フェノール樹脂を含むことができる。
【0034】
また、上記フェノール性水酸基かつ不飽和アルキル基含有フェノール類としては、例えば、下記の一般式(1)で表されるフェノール化合物を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
【化1】
【0036】
式(1)中、Rは、炭素数10以上の直鎖不飽和炭化水素基を表す。ただし、フェノール性水酸基を有するベンゼン環に結合する水素原子は置換基により置換されてもよい。また、Rは、オルト位、メタ位、パラ位のいずれでもよく、1個以上もよく、2個以上でもよく、3個以上でもよい。
また、上記式(1)中のRは炭素数10以上の直鎖不飽和炭化水素基を表し、炭素数10~20の直鎖不飽和炭化水素基が好ましく、炭素数12~20の直鎖不飽和炭化水素基が好ましく、炭素数12~18の直鎖不飽和炭化水素基がより好ましい。直鎖不飽和炭化水素基の炭素数が上記範囲の上限値以下である場合、有機溶剤で希釈しやすくなる。一方、直鎖不飽和炭化水素基の炭素数が上記下限値以上である場合、柔軟性が向上しやすくなる。この直鎖不飽和炭化水素基は、二重結合を1個以上有していればよく、2個有していてもよく、3個有していてもよい。
【0037】
フェノール性水酸基を有するベンゼン環に結合する水素原子を置換する置換基としては、特に限定されないが、たとえば、アセチル基、メチル基、水酸基等が挙げられる。
【0038】
上記(1)で表されるフェノール化合物としては、具体的には、3-ドデセニルフェノール、3-トリデセニルフェノール、3-ペンタデセニルフェノール、5-トリデセニルレゾルシノール、5-ペンタデセニルレゾルシノール、メタ位に炭素数15の直鎖不飽和炭化水素基を有するフェノールであるカルダノール、メタ位に炭素数15の直鎖不飽和炭化水素基及び水酸基を有するカルドール、メタ位に炭素数15の直鎖不飽和炭化水素基及び水酸基、オルソ位にメチル基を有するフェノールである2-メチルカルドール等が挙げられる。本実施形態においてはカルダノールが好ましく用いられる。
【0039】
カルダノールは、カシューナッツの殻に含まれる成分であり、フェノール部分と炭素数15の直鎖状炭化水素部分からなる、式(2)で表される構造を有する化合物である。カルダノールには、その直鎖状炭化水素部分Rにおいて不飽和結合数の異なる4種類が存在し、通常、これらの4成分の混合物である。すなわち、下記式(2)に記載した、3-ペンタデシルフェノール、3-ペンタデシルフェノールモノエン、3-ペンタデシルフェノールジエン、および3-ペンタデシルフェノールトリエンの混合物である。カシューナッツ殻液から抽出および精製して得られた、カルダノールを主成分とするカシューオイルを用いることができる。
【0040】
【化2】
【0041】
上記付加反応工程は、例えば、酸性触媒の存在下で、加熱処理することにより、植物原料由来の不飽和炭素鎖含有フェノール類の不飽和炭素鎖の二重結合に、フェノール類を付加反応させることにより、バイオマス誘導体を得ることができる。これにより、不飽和炭素鎖含有フェノール類中に残存する不飽和炭素鎖の二重結合を低減させることができる。
【0042】
酸性触媒としては、特に限定されないが、例えば、蓚酸、酢酸などの有機カルボン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機スルホン酸、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸などのアルキル硫酸、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化亜鉛、三フッ化ホウ素、塩化第二スズ、塩化アンチモン、塩化ガリウム、臭化ガリウムなどのルイス酸塩酸、硫酸などの無機酸などが挙げられる。この中でも、パラトルエンスルホン酸等の有機スルホン酸や硫酸等の無機酸を用いることができる。
また、上記付加反応工程における反応温度は、植物原料に応じて適切に選択できるが、例えば、100℃~200℃としてもよく、好ましくは120℃~180℃としてもよい。なお、上記付加反応工程における反応時間は、特に制限はなく、反応条件に応じて適宜決定すればよいが、例えば、1時間~8時間としてもよい。
【0043】
本実施形態のバイオマス誘導体の製造方法において、必要に応じて酸性触媒を中和除去してもよいし、酸性触媒がバイオマス誘導体中にそのまま残存していてもかまわない。また、加工後の製品形態に合わせて、その後、余分な未反応のフェノール類を除去してもかまわないし、未反応のフェノール類がバイオマス誘導体中に残存していてもよい。
【0044】
上記付加反応工程に使用するフェノール類としては、例えば、フェノール環数は1核体、2核体または3核体などのいずれでもよく、フェノール性水酸基数は、1個でも2個以上でもよい。
上記フェノール類の一例としては、特に限定されないが、例えば、フェノール;オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール等のクレゾール;2、3-キシレノール、2、4-キシレノール、2、5-キシレノール、2、6-キシレノール、3、5-キシレノール等のキシレノール;2,3,5-トリメチルフェノール、2-エチルフェノール、4-エチルフェノール、2-イソプロピルフェノール、4-イソプロピルフェノール、n-ブチルフェノール、イソブチルフェノール、tert-ブチルフェノール、ヘキシルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、クミルフェノール、アリルフェノール等のアルキルフェノール;1-ナフトール、2-ナフトール等のナフトール;フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p-フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体;レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン、ナフタレン等の多価フェノール;などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、フェノール類は、フェノール、クレゾール、キシレノールおよびアルキルフェノールからなる群より選ばれた1種以上を含ことができ、安価な観点から、フェノールを用いることができる。
【0045】
本実施形態において、バイオマス変性フェノール樹脂を得る工程は、得られたバイオマス誘導体、フェノール類およびアルデヒド類を反応させる工程を含み、これにより、バイオマス誘導体、フェノール類およびアルデヒド類が反応してなるバイオマス変性フェノール樹脂を含む反応溶液を得ることができる。
【0046】
ノボラック型のバイオマス変性フェノール樹脂を製造する場合、反応溶液を得る工程は、酸性条件下で行うことができる。このとき、公知の有機酸または無機酸等の酸性触媒を用いることができる。一方、レゾール型のバイオマス変性フェノール樹脂を製造する場合、反応溶液を得る工程は、アルカリ性条件下で行うことができる。このとき、アルカリ性触媒を用いることができる。ここでは、一例として、ノボラック型フェノール樹脂を製造する方法について説明する。この中でも、強度の観点から、ノボラック型のバイオマス変性フェノール樹脂を用いることができる。
【0047】
カルダノールを用いて得られたノボラック型のバイオマス変性フェノール樹脂は、下記式(3)で示される構造単位を有する。
【0048】
【化3】
【0049】
式(3)中、Qは前記式(2)のRの不飽和炭素鎖の二重結合に前記フェノール類が付加した構造を備える。
【0050】
上記バイオマス変性フェノール樹脂を得る工程に用いるアルデヒド類としては、特に限定されないが、例えば、ホルマリンやパラホルムアルデヒド等のホルムアルデヒド;トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒド類は単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。この中でも、アルデヒド類は、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドを含むことができ、生産性および安価な観点から、ホルマリンまたはパラホルムアルデヒドを用いることができる。
【0051】
上記バイオマス変性フェノール樹脂を得る工程に用いるフェノール類としては、上記付加反応工程で説明したフェノール類を使用することができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、各工程で使用するフェノール類は同種でも異種でもよい。
【0052】
ノボラック型のバイオマス変性フェノール樹脂を合成する際に用いる酸性触媒としては、特に限定するものではないが、例えば、蓚酸、塩酸、硫酸、ジエチル硫酸、パラトルエンスルホン酸等の酸類、酢酸亜鉛等の金属塩類が挙げられ、これらを単独または2種類以上併用して使用できる。酸性触媒の使用量としては特に限定されないが、バイオマス変性フェノール樹脂全体に対して、0.1質量%以上、10質量%以下とすることができる。
【0053】
本実施形態における反応溶媒としては、水を用いてもよいが、有機溶剤を用いてもよい。有機溶剤としては、非極性溶媒を用いて非水系を用いることができる。有機溶剤の一例としては、例えば、アルコール類、ケトン類、芳香族類で、アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等で、ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等で、芳香族類としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
また、反応温度は、例えば、40℃~120℃としてもよく、好ましくは60℃~110℃としてもよい。なお、反応時間は、特に制限はなく、出発原料の種類、配合モル比、触媒の使用量及び種類、反応条件に応じて適宜決定すればよい。
以上により、バイオマス変性フェノール樹脂を含む反応溶液を得ることができる。
【0055】
また、本実施形態において、反応溶液を中和する中和工程を行ってもよい。
また、必要に応じて、上記の反応後に、脱モノマー工程により未反応モノマー(例えば、未反応のフェノール類)を除去する工程を追加してよい。
また、脱水工程を行ってもよい。脱水工程は、脱モノマー工程と同時に行ってもよい。脱水方法としては、減圧脱水を用いてもよいが、常圧脱水を用いてもよい。減圧脱水時の真空度は、例えば、110torr以下としてもよく、さらに好ましくは80torr以下としてもよい。これにより、脱水時間を短縮することができ、樹脂特性のばらつきの少ない安定的なバイオマス変性フェノール樹脂を得ることができる。また、このような脱水工程によりバイオマス変性フェノール樹脂中の水分を5重量%以下とすることができる。これらの方法により水分を十分に除去することができるが、更に除去するために、真空乾燥機や薄膜蒸発装置などの公知の水分除去装置を使用する工程と組み合わせてもよい。
以上により、バイオマス変性フェノール樹脂を回収することができ、植物由来のフェノール硬化剤(B1)として用いることができる。
【0056】
植物由来のフェノール硬化剤(B1)は、石油由来のフェノール硬化剤に比べてイオン性不純物などの不純物が多く含まれる。それが1つの要因となってバイオマス度を上げると、流動性、硬化性、電気信頼性等の物性が低下すると考えられる。本実施形態においては、植物由来原料から得られたフェノール硬化剤を用いるとともに所定の配合とすることによりバイオマス度を上げながらも、これらの物性を改善することができる。
【0057】
硬化剤(B)は、植物由来のフェノール硬化剤(B1)とともに、石油由来原料から得られたフェノール硬化剤(B2)を含んでいてもよい。
【0058】
フェノール樹脂(B2)は、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール、α-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のフェノール類とホルムアルデヒドやケトン類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂、上記したフェノール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂などのフェノールアラルキル樹脂、トリスフェニルメタン骨格を有するフェノール樹脂などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
硬化剤(B)が、植物由来のフェノール硬化剤(B1)と石油由来のフェノール硬化剤(B2)とを含む場合、本実施形態の封止樹脂組成物の硬化体のバイオマス度が所定の範囲(5%以上95%以下)となるように用いることができ、例えば、硬化剤(B)全体(100質量%)に対して、フェノール硬化剤(B2)を好ましくは0.5質量%以上50質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下となる量で含むことができる。
【0060】
本実施形態の封止樹脂組成物において、硬化剤(B)とエポキシ樹脂(A)との配合量は、本発明の効果の観点から、硬化剤(B)中の活性基の合計1当量に対して、エポキシ樹脂中のエポキシ基が0.8~1.2当量となる割合であることが好ましい。ここで、硬化剤(B)中の活性基とは、樹脂構造中に有するアリールカルボニルオキシ基及びフェノール性水酸基を指す。
【0061】
本実施形態の組成物において、硬化剤(B)は、封止樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.2質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上7質量%以下の量で用いられる。
硬化剤(B)を上記範囲で含むことにより、得られる硬化物はより優れた誘電特性を有することができ、低誘電正接にさらに優れる。
【0062】
[硬化促進剤(C)]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、硬化促進剤(C)を含むことができる。
【0063】
硬化促進剤(C)は、たとえば、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン、2-メチルイミダゾール等が例示されるアミジンや3級アミン、上記アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物;2,3-ジヒドロキシナフタレン等のポリヒドロキシナフタレン化合物から選択される1種類または2種類以上を含むことができる。これらの中でも、硬化性を向上させる観点からはリン原子含有化合物を含むことがより好ましい。また、成形性と硬化性のバランスを向上させる観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましい。
【0064】
封止用樹脂組成物中の硬化促進剤(C)の含有量は、封止用樹脂組成物の硬化特性を向上する観点から、封止用樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。
【0065】
また、封止用樹脂組成物の成形時に好ましい流動性を得る観点から、封止用樹脂組成物中の硬化促進剤(C)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して、好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0066】
[無機充填剤(D)]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、無機充填材(D)を含むことができる。
【0067】
無機充填材(D)として、一般的に半導体封止用樹脂組成物等に使用されているものを用いることができる。また、無機充填材(D)は表面処理がなされているものであってもよい。
【0068】
無機充填材(D)の具体例として、溶融シリカ等、結晶シリカ、非晶質二酸化珪素等のシリカ;アルミナ;タルク;酸化チタン;窒化珪素;窒化アルミニウムが挙げられる。これらの無機充填材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機充填材(D)は、汎用性に優れている観点から、好ましくはシリカを含む。シリカの形状としては、球状シリカ、破砕シリカ等が挙げられる。
【0069】
無機充填材(D)の平均径(D50)は、成形性および密着性を向上する観点から、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、また、好ましくは80μm以下であり、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下である。
【0070】
ここで、無機充填材(D)の粒径分布は、市販のレーザー回折式粒度分布測定装置(たとえば、島津製作所社製、SALD-7000)を用いて粒子の粒度分布を体積基準で測定することにより取得することができる。
【0071】
また、無機充填材(D)の最大粒径は、成形性および密着性を向上する観点から、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは20μm以上であり、また、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは80μm以下である。
【0072】
また、無機充填材(D)の比表面積は、成形性および密着性を向上する観点から、好ましくは1m/g以上であり、より好ましくは3m/g以上であり、また、好ましくは20m/g以下であり、より好ましくは10m/g以下である。
【0073】
封止用樹脂組成物中の無機充填材(D)の含有量は、封止用樹脂組成物を用いて形成される封止材の低吸湿性および低熱膨張性を向上させ、得られる半導体装置の耐湿信頼性や耐リフロー性をより効果的に向上させる観点から、封止用樹脂組成物全体に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上である。
【0074】
また、封止用樹脂組成物の成形時における流動性や充填性をより効果的に向上させる観点から、封止用樹脂組成物中の無機充填材(D)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対してたとえば97質量%以下であってもよく、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下である。
【0075】
[その他の成分]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、上述した成分以外の成分を含んでもよく、たとえばシランカップリング剤、流動性付与剤、離型剤、イオン捕捉剤、低応力成分、難燃剤、着色剤、酸化防止剤等の各種添加剤を適宜配合することができる。
【0076】
<封止用樹脂組成物>
本実施形態の封止用樹脂組成物は、常温(25℃)で固体であり、その形状は封止用樹脂組成物の成形方法等に応じて選択することができ、たとえばタブレット状;粉末状、顆粒状等の粒子状;シート状が挙げられる。
【0077】
また、封止用樹脂組成物の製造方法については、たとえば、上述した各成分を、公知の手段で混合し、さらにロール、ニーダーまたは押出機等の混練機で溶融混練し、冷却した後に粉砕する方法により得ることができる。また、粉砕後、成形して粒子状またはシート状の封止用樹脂組成物を得てもよい。たとえば、タブレット状に打錠成形して粒子状の封止用樹脂組成物を得てもよい。また、たとえば真空押し出し機によってシート状の封止用樹脂組成物を得てもよい。また得られた封止用樹脂組成物について、適宜分散度や流動性等を調整してもよい。
【0078】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、流動性に優れており、以下の条件で測定されるスパイラルフロー長が、100cm以上250cm以下、好ましくは100cm以上220cm以下、より好ましくは120cm以上200cm以下、さらに好ましくは155cm以上180cm以下である、
これにより、封止用樹脂組成物の成形性に優れる。
(条件)
EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で前記封止用樹脂組成物を注入して測定した流動長を前記スパイラルフロー長とする。
【0079】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、硬化性に優れており、175℃におけるゲルタイムが、10秒以上60秒以下、好ましくは20秒以上50秒以下、より好ましくは32秒以上45秒以下である。
これにより、封止用樹脂組成物の充填性に優れ、未充填部分の発生を抑制することができる。
ゲルタイムの測定は、175℃に加熱した熱板上で樹脂組成物を溶融した後、へらで練りながらタックフリーになるまでの時間(ゲルタイム)を測定することによりおこなうことができる。
【0080】
本実施形態の封止樹脂組成物を175℃、2分の条件で硬化させたときの硬化物の、室温25℃における曲げ強度が、80MPa以上、好ましくは100MPa以上、より好ましくは110MPa以上とすることができる。上限値は特に限定されないが、300MPa以下である。
【0081】
本実施形態の封止樹脂組成物を175℃、2分の条件で硬化させたときの硬化物の、室温25℃における曲げ弾性率が、10000MPa以上、好ましくは12000MPa以上、より好ましくは13000MPa以上とすることができる。上限値は特に限定されないが、30000MPa以下である。
本実施形態の封止樹脂組成物は、当該組成物から得られる前記硬化物の曲げ強度または曲げ弾性率が上記範囲にあることにより、機械的強度に優れた硬化物を提供することができる。
本実施形態では、例えば封止樹脂組成物中に含まれる各成分の種類や配合量、封止樹脂組成物の調製方法等を適切に選択することにより、上記特性を制御することが可能である。
【0082】
<硬化物>
本実施形態の封止用樹脂組成物を硬化することにより、植物由来原料から得られ、地球環境に優しい硬化物を得ることができる。当該硬化体のバイオマス度を5%以上95%以下とすることができる。
【0083】
[用途]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、各種電子部品の封止材として用いることができ、例えば、電子部品が実装されている回路基板、磁石が固定されるローターコア(国際公開WO2012/029278等参考)、コイル等が絶縁加工されるステータコア(特開2020-094092等参考)、車載用電子制御ユニット(国際公開WO2016/139985等参考)、半導体装置等の封止材として使用することができる。
【0084】
ローターコアについて説明する。ローターコアに設けられた穴部に永久磁石を挿入し、穴部と永久磁石との間に樹脂組成物を充填することにより、永久磁石をローターコアに固定する。この樹脂組成物を充填する工程において、本発明の方法で得られたタブレット使用することができる。本発明のタブレットを封止材として使用することにより、ローターコアの大型化や複数同時生産が可能となる。
【0085】
ステータコアについて説明する。ステータコアには複数のティースを有しており、複数のティースにはコイルが巻回されている。この時、コイルをステータコアから絶縁する必要があり、封用樹脂組成物を介在させることで絶縁させることができる。この樹脂組成物を介在させる工程において、本発明の樹脂組成物を適用することができる。本発明のタブレットを封止材として使用することにより、ステータコアの大型化や複数同時生産が可能となる。
【0086】
車載用電子制御ユニットについて説明する。車載用電子制御ユニットとして、電子部品等を搭載した基板を樹脂組成物により封止したものが検討されている。この樹脂組成物により封止させる工程において、本発明の樹脂組成物を適用することができる。本発明のタブレットを封止材として使用することにより、車載用電子制御ユニットの大型化や複数同時生産が可能となる。
【0087】
半導体装置について説明する。半導体装置は、上述した本実施形態における封止用樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されているものである。半導体素子の具体例としては、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、固体撮像素子等が挙げられる。半導体素子は、好ましくは、受光素子および発光素子(発光ダイオード等)等の光半導体素子を除く、いわゆる、光の入出を伴わない素子である。
【0088】
半導体装置の基材は、たとえば、インターポーザ等の配線基板、またはリードフレームである。また、半導体素子は、ワイヤボンディングまたはフリップチップ接続等により、基材に電気的に接続される。
【0089】
封止用樹脂組成物を用いた封止成形により半導体素子を封止して得られる半導体装置としては、たとえば、MAP(Mold Array Package)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、CSP(Chip Size Package)、QFN(Quad Flat Non-leaded Package)、SON(Small Outline Non-leaded Package)、BGA(Ball Grid Array)、LF-BGA(Lead Flame BGA)、FCBGA(Flip Chip BGA)、MAPBGA(Molded Array Process BGA)、eWLB(Embedded Wafer-Level BGA)、Fan-In型eWLB、Fan-Out型eWLBなどの種類が挙げられる。
以下、図面を参照してさらに具体的に説明する。
【0090】
図1および図2は、いずれも、半導体装置の構成を示す断面図である。なお、本実施形態において、半導体装置の構成は、図1および図2に示すものには限られない。
まず、図1に示した半導体装置100は、基板30上に搭載された半導体素子20と、半導体素子20を封止してなる封止材50と、を備えている。
封止材50は、上述した本実施形態における封止用樹脂組成物を硬化して得られる硬化物により構成されている。
【0091】
また、図1には、基板30が回路基板である場合が例示されている。この場合、図1に示すように、基板30のうちの半導体素子20を搭載する一面とは反対側の他面には、たとえば複数の半田ボール60が形成される。半導体素子20は、基板30上に搭載され、かつワイヤ40を介して基板30と電気的に接続される。一方で、半導体素子20は、基板30に対してフリップチップ実装されていてもよい。ここで、ワイヤ40としては、限定されないが、たとえば、Ag線、Ni線、Cu線、Au線、Al線が挙げられ、好ましくは、ワイヤ40はAg、NiまたはCuあるいはこれらの1種以上を含む合金で構成される。
【0092】
封止材50は、たとえば半導体素子20のうちの基板30と対向する一面とは反対側の他面を覆うように半導体素子20を封止する。図1に示す例においては、半導体素子20の上記他面と側面を覆うように封止材50が形成されている。
【0093】
本実施形態において、封止材50は、上述の封止用樹脂組成物の硬化物により構成される。このため、半導体装置100においては、封止材50とワイヤ40との密着性に優れており、これにより、半導体装置100は信頼性に優れるものである。
封止材50は、たとえば封止用樹脂組成物をトランスファー成形法または圧縮成形法等の公知の方法を用いて封止成形することにより形成することができる。
【0094】
図2は、本実施形態における半導体装置100の構成を示す断面図であって、図1とは異なる例を示すものである。図2に示す半導体装置100は、基板30としてリードフレームを使用している。この場合、半導体素子20は、たとえば基板30のうちのダイパッド32上に搭載され、かつワイヤ40を介してアウターリード34へ電気的に接続される。また、封止材50は、図1に示す例と同様にして、本実施形態における封止用樹脂組成物の硬化物により構成される。
【0095】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例
【0096】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
[合成例1]
バイオマス変性フェノール樹脂(植物由来のフェノール硬化剤(B1))の合成
フェノール1500質量部とカシューオイル(東北化工社製、LB-7000)500質量部を混合し、酸触媒として三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体30質量部を添加し、120℃で6時間、反応を行った。その後、水酸化カルシウム100質量部を添加して中和後、濾過し触媒の除去を行って、バイオマス誘導体を含む反応物を得た。得られたバイオマス誘導体と未反応フェノールとを含んだ反応物2000質量部に、37%ホルマリン水溶液711質量部を混合し、触媒として蓚酸20質量部を添加し、100℃で2時間反応させた。続いて反応混合物の温度が130℃になるまで常圧蒸留で脱水した。その後、未反応フェノールを除去するために反応混合物の温度が170℃になるまで減圧蒸留を行った。続いて0.9kPaのまま水蒸気を吹き込み、水蒸気蒸留により未反応のフェノールを蒸留除去し、バイオマス変性フェノール樹脂1560質量部を得た。得られた樹脂の軟化点は83℃、遊離フェノールは0.1%で、未反応フェノール類を除いたバイオマス含有率は31%であった。また、NMRより求めたアルキル鎖不飽和結合水素に由来するピークの割合は、炭素原子に結合した水素に由来するピークの積算値合計に対して、0.1%以下であった。
【0098】
[比較例1、実施例1~5]
表1に記載された各成分を記載された量比で混合し、混合物を得た。混合は、常温でヘンシェルミキサーを用いて行った。
その後、その混合物を、70~100℃でロール混練し、混練物を得た。得られた混練物を冷却し、その後、粉砕し、封止用樹脂組成物を得た。
表1に記載の各成分は以下の通り。
【0099】
(無機充填材)
・無機充填剤1:溶融球状シリカ(デンカ社製、製品名:FB-950、平均粒径D50=24μm)
・無機充填材2:微粉シリカ(アドマテックス社製、製品名:SO-C2、平均粒径D50=0.6μm)
【0100】
・エポキシ樹脂1:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製、EPICLON-N660)
・エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、YX4000)
・エポキシ樹脂3:フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製、NC-2000)
・エポキシ樹脂4:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製、NC-3000)
【0101】
(フェノール硬化剤)
・硬化剤1(フェノール硬化剤(B1)):ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製、PR-HF-3)
・硬化剤2(フェノール硬化剤(B2)):合成例1で得られたバイオマス変性フェノール樹脂
【0102】
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィン
・シランカップリング剤:下記式(S1)で表されるN-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(ダウ東レ社製、CF-4083)
【0103】
【化4】
【0104】
・着色剤:カーボンブラック(東海カーボン社製)
・離型剤:グリセリントリモンタン酸エステル(クラリアントケミカルズ社製、Licolub)
・イオン捕捉剤:ハイドロキシタルサイト(協和化学工業社製、DHA-4A)
・低応力剤:エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル(ダウ東レ、FZ-3730)
【0105】
[バイオマス度]
合成例1で得られたバイオマス変性フェノール樹脂をC-NMR(日本電子社製JNM-ECA400)にてC13、C14のピーク値を測定して、これらの比率からフェノール樹脂のバイオマス比率を算出した。そこから封止用樹脂におけるバイオマス度と無機物を除いた有機成分中におけるバイオマス割合を配合量から算出した。
【0106】
[スパイラルフロー(SF)]
実施例および比較例の封止用樹脂組成物を用いてスパイラルフロー試験を行った。
試験は、低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で封止用樹脂組成物を注入し、流動長を測定することにより行った。数値が大きいほど、流動性が良好であることを示す。
【0107】
[ゲルタイム(GT)]
175℃に加熱した熱板上で実施例および比較例の封止用樹脂組成物をそれぞれ溶融後、へらで練りながら硬化するまでの時間(単位:秒)を測定した。
【0108】
[機械的強度の評価(曲げ強度および曲げ弾性率)]
封止用樹脂組成物を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS-30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力10.0MPa、硬化時間120秒の条件で金型に注入成形した。これにより、幅10mm、厚み4mm、長さ80mmの成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間の条件で後硬化させた。これにより、機械的強度の評価用の試験片を作製した。そして、試験片の常温(25℃)における曲げ強度(N/mm)および曲げ弾性率(N/mm)を、JIS K 6911に準拠して測定した。
【0109】
[電気信頼性]
電気信頼性を、耐湿信頼性(HAST)および高温保管特性(HTSL)により評価した。測定法を以下に示す。
耐湿信頼性(HAST):低圧トランスファー成形機(第一精工社製、GP-ELF)を用いて、金型温度175℃、注入圧力7.4MPa、硬化時間105秒間の条件で、エポキシ樹脂組成物を注入して半導体素子(シリコンチップ)が搭載されたリードフレーム等を封止成形し、16ピンSOP(半導体素子はHAST用標準品TEG9を使用し、半導体素子とリードフレームのインナーリード部とは25μm径の金線でボンディングされている。)なる半導体装置を作製した。得られた半導体装置について、IEC68-2-66に準拠してHAST(Highly Accelerated temperature and humidity Stress Test)試験を実施した。試験条件は130℃、85%RH、印加電圧20V、240時間処理とした。半導体装置1個当り4つの端子について回路のオープン不良の有無を観察し、5個の半導体装置で合計20回路を観察して不良回路の個数を測定した。不良数が0個のものを○とし、不良数が1~5個のものを×とした。比較例1および実施例1~5で得られた封止用樹脂組成物は不良数が0個と良好な結果を示した。
【0110】
高温保管特性(HTSL):低圧トランスファー成形機(第1精工株式会社製、GP-ELF)を用いて、金型温度180℃、注入圧力6.9±0.17MPa、90秒の条件で、半導体封止用樹脂組成物を注入して半導体素子(シリコンチップ)が搭載されたリードフレームなどを封止成形し、16ピン型DIP(Dual Inline Package、42アロイ製リードフレーム、サイズは7mm×11.5mm×厚さ1.8mm、半導体素子は5×9mm×厚さ0.35mm。半導体素子は、表面に厚さ5μmの酸化層を形成し、さらにその上にラインアンドスペース10μmのアルミ配線パターンを形成したものであり、素子上のアルミ配線パッド部とリードフレームパッド部とは25μm径の金線でボンディングされている)なる半導体装置を作製した。ポストキュアとして175℃で4時間加熱処理した半導体装置10個の初期抵抗値を測定し、175℃1000時間の高温保管処理を行った。高温処理後に半導体装置の抵抗値を測定し、初期抵抗値の130%となった半導体装置を不良とし、不良半導体装置の個数が0個のとき○、不良半導体装置の個数が1~10個のとき×と表示した。比較例1および実施例1~5の半導体封止用樹脂組成物を用いて得られた半導体装置は0/10と良好な信頼性を示した。
【0111】
【表1】
【0112】
表1に記載のように、本発明に係る実施例の封止用樹脂組成物は、植物由来原料から得られたフェノール硬化剤を含むことにより、流動性に優れ、さらに硬化性、電気信頼性に優れた硬化物が得られた。また、硬化性および機械的物性は、従来の石油由来のフェノール硬化剤のみを含む封止用樹脂組成物と同等であった。さらに、植物由来原料を用いており地球環境に優しい封止用樹脂組成物、当該組成物からなる封止材を備える半導体装置を提供することができた。
【0113】
この出願は、2022年2月28日に出願された日本出願特願2022-029262号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0114】
20 半導体素子
30 基板
32 ダイパッド
34 アウターリード
40 ワイヤ
50 封止材
60 半田ボール
100 半導体装置
図1
図2