(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂、および金属板コーティング用組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 63/42 20060101AFI20240423BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20240423BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240423BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20240423BHJP
C09D 161/00 20060101ALI20240423BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C08G63/42
B32B15/09 A
B32B27/36
C08G18/42 044
C09D161/00
C09D167/00
(21)【出願番号】P 2023562789
(86)(22)【出願日】2023-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2023004996
(87)【国際公開番号】W WO2023157840
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2022022129
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡島 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】神田 良輔
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 英人
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107200833(CN,A)
【文献】特開2020-094134(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244797(WO,A1)
【文献】特開2016-065123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08G
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を共重合成分とし、次の(i)~(iii)の条件を満たすポリエステル樹脂。
(i)ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分のうち、フラン骨格を有する多価カルボン酸成分を10モル%以上有する。
(ii)ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分として、側鎖を有する
炭素数が6以下の非環式脂肪族
二価アルコールを50~90モル%含有し、かつ脂環骨格を有する多価アルコールを10~50モル%含有する。
(iii)酸価が70eq/t以上、400eq/t以下である。
【請求項2】
還元粘度が0.2~0.8dl/g、ガラス転移温度が30℃以上であり、融点を有さない、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記脂環骨格を有する多価アルコールの脂環骨格を構成する炭素数が6以上である、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分のうち、フラン骨格を有する多価カルボン酸成分以外に、芳香族多価カルボン酸、脂肪族多価カルボン酸および脂環族多価カルボン酸から選ばれる少なくとも1種の多価カルボン酸成分を5モル%以上有する請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
金属板コーティング用である請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のポリエステル樹脂と硬化剤とを含み、前記ポリエステル樹脂/硬化剤=98/2~50/50(質量比)の割合で含有する金属板コーティング用組成物。
【請求項7】
硬化剤がアミノ樹脂、フェノール樹脂およびイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種の硬化剤である、請求項6に記載の金属板コーティング用組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載のポリエステル樹脂と硬化剤との反応物を含む層を有する積層体。
【請求項9】
請求項6に記載の金属板コーティング用組成物が金属板表面に積層された塗装金属板。
【請求項10】
請求項9に記載の塗装金属板を構成材料として含む缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル樹脂、および金属板コーティング用組成物に関する。より詳しくは、フランジカルボン酸を共重合成分として有するポリエステル樹脂を主成分として、特に硬化性に優れ、なおかつ加工性、耐デント性にも優れた金属板コーティング用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は塗料、コーティング剤および接着剤等に用いられる樹脂組成物の原料として広く使用されている。ポリエステル樹脂は一般に多価カルボン酸と多価アルコールから構成される。多価カルボン酸と多価アルコールの選択と組合せ、分子量の高低は自由にコントロールでき、得られるポリエステル樹脂は塗料用途や接着剤用途をはじめ、様々な用途で使用されている。
【0003】
また、飲料缶、食品缶等の金属缶には食品による金属の腐食防止(耐食性)、内容物のフレーバー、風味を損なわない(フレーバー性)ために有機樹脂によるコーティングがなされている。これらコーティングには加工性、耐食性、金属素材に対する密着性等が要求される。
【0004】
特許文献1には、テレフタル酸70~95モル%を含有する芳香族ジカルボン酸80~100モル%および芳香族ジカルボン酸以外の多塩基酸0~20モル%からなる酸成分と、2-メチル-1,3プロパンジオールと1,4-シクロヘキサンジメタノールを必須成分とし2-メチル-1,3プロパンジオールの含有量が25~50モル%であるグリコール成分とを反応させて得られるポリエステル樹脂であって、テレフタル酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールの合計重量が前記ポリエステル樹脂の45~65重量%の範囲である缶塗料用ポリエステル樹脂が、加工性と耐汚染性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、最近の缶形状の多様化に伴い缶塗料に求められる性能もより厳しくなってきている中で、特許文献1の缶塗料用ポリエステルは、加工性や硬化性が満足できるものではないという問題点があった。本発明の課題は、優れた硬化性、更には加工性、耐レトルト性、耐デント性を有するポリエステル樹脂、及びこれを用いたコーティング用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明の完成に至った。すなわち本発明は、以下の[1]~[10]の構成を有するものである。
[1] 多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を共重合成分とし、次の(i)~(iii)の条件を満たすポリエステル樹脂。
(i)ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分のうち、フラン骨格を有する多価カルボン酸成分を10モル%以上有する。
(ii)ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分が2種以上である。
(iii)酸価が70eq/t以上、400eq/t以下である。
[2] 還元粘度が0.2~0.8dl/g、ガラス転移温度が10℃以上であり、融点を有さないことを特徴とする前記[1]に記載のポリエステル樹脂。
[3] ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分が、側鎖を有する脂肪族多価アルコールを50~90モル%含有し、かつ脂環骨格を有する多価アルコールを10~50モル%含有する、前記[1]または[2]に記載のポリエステル樹脂。
[4] 前記側鎖を有する脂肪族多価アルコールの炭素数が6以下であり、かつ前記脂環骨格を有する多価アルコールの脂環骨格を構成する炭素数が6以上である、前記[3]に記載のポリエステル樹脂。
[5] ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分のうち、フラン骨格を有する多価カルボン酸成分以外に、芳香族多価カルボン酸、脂肪族多価カルボン酸および脂環族多価カルボン酸から選ばれる少なくとも1種の多価カルボン酸成分を5モル%以上有する前記[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
[6] 金属板コーティング用である前記[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
[7] 前記[1]~[6]のいずれかに記載のポリエステル樹脂と硬化剤とを含み、前記ポリエステル樹脂/硬化剤=98/2~50/50(質量比)の割合で含有することを特徴とする金属板コーティング用組成物。
[8] 硬化剤がフェノール樹脂およびイソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種の硬化剤である前記[7]に記載の金属板コーティング用組成物。
[9] 前記[1]~[6]のいずれかに記載のポリエステル樹脂と硬化剤との反応物を含む層を有する積層体。
[10] 前記[7]または[8]に記載の金属板コーティング用組成物が金属板表面に積層された塗装金属板。
[11] 前記[10]に記載の塗装金属板を構成材料として含む缶。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル樹脂は非常に高い硬化性を持ち、なおかつ得られる塗膜は加工性に優れ、耐レトルト性、耐デント性にも優れるため、缶塗料やプレコートメタル塗料等の金属板コーティング用材料に好適である。加えて、当該樹脂が非石油由来成分を含有することにより、二酸化炭素増加抑制等の環境問題の解決に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリエステル樹脂は、次の(i)~(iii)の要件を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂である。
【0011】
<要件(i)>
要件(i)について説明する。本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分のうち、フラン骨格を有する多価カルボン酸成分を10モル%以上有することが必要である。好ましくは15モル%以上であり、より好ましくは20モル%以上であり、さらに好ましくは30モル%以上である。上記下限値以上とすることで、ポリエステル樹脂の運動性が向上し、また極性も高くなることで硬化剤との反応性が向上し、ポリエステル樹脂の硬化性が向上する。また、低温でも十分な塗膜性能を得られることから塗装工程のエネルギー削減にも寄与ができる。さらに非石油成分由来による環境負荷の低減への寄与が大きくなる。また、ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分のうち、フラン骨格を有する多価カルボン酸成分は95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることがさらに好ましい。上記上限値以下とすることで、ポリエステル樹脂の柔軟性が向上し、耐デント性を向上させることができる。
【0012】
フラン骨格を有する多価カルボン酸成分としては、フラン構造が化合物の構造中に含まれている成分であればよく、特に制限はないが、例えばフランジカルボン酸が挙げられる。具体的には、2,5-フランジカルボン酸が挙げられる。また、ポリエステル樹脂の製造においてはこれらの誘導体を原料として用いてもよく、誘導体としては炭素数1~4のアルキルエステルが挙げられ、中でもメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、イソプロピルエステルなどが好ましく、更に好ましくはメチルエステルである。これらのフラン骨格を有するカルボン酸及び/又はその誘導体は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して使用しても良い。
【0013】
<要件(ii)>
要件(ii)について説明する。本発明のポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分は2種以上であることが必要である。多価アルコール成分が2種以上であることで、ポリエステル樹脂の柔軟性および運動性が向上し、加工性が向上する。特に側鎖を有する脂肪族多価アルコールと脂環骨格を有する多価アルコールとを組み合わせて用いることで、ポリエステル樹脂に適度な屈曲性が付与され、硬化性の向上と合わせて、加工性を向上させ、さらには溶解性が向上し塗料として安定性を向上させることができる。
【0014】
<要件(iii)>
要件(iii)について説明する。本発明のポリエステル樹脂の酸価は、70eq/t以上が必要であり、好ましくは75eq/t以上であり、より好ましくは80eq/t以上であり、さらに好ましくは85eq/t以上である。上記下限値以上とすることで、耐水性を低下させることなく、基材に対する密着性や硬化剤との反応性、特にフェノール硬化剤との反応性が良好となり、硬化性が向上したり、イソシアネート硬化剤を使用する場合、耐デント性が良好となる。また、400eq/t以下であること必要であり、好ましくは370eq/t以下であり、より好ましくは350eq/t以下であり、さらに好ましくは300eq/t以下である。上記上限値を超えると、酸価を付与するカルボン酸無水物基を有する化合物の未反応物が多くなり、加工性および/または耐デント性が低下したり、耐レトルト性および/または耐内容物性が低下することがある。
【0015】
<ポリエステル樹脂>
本発明のポリエステル樹脂には、任意の方法で酸価を付与してもよい。酸価を付与することにより、架橋剤や硬化剤との反応性が向上することによる硬化性の向上、缶用金属材料との密着性改良等の効果が得られる場合がある。酸価を付与する方法としては重縮合後期に多価カルボン酸無水物を付加する解重合方法、プレポリマー(オリゴマー)の段階でこれを高酸価とし、次いでこれを重縮合し、酸価を有するポリエステル樹脂を得る方法などがあるが、操作の容易さ、目標とする酸価を得易いことから前者の解重合方法が好ましい。
【0016】
このような解重合方法での酸付加に用いられる多価カルボン酸無水物としては無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリト酸、無水ピロメリト酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート等が挙げられる。好ましくは無水トリメリト酸である。
【0017】
前記の酸付加に用いられる多価カルボン酸無水物は、カルボン酸モノ無水物とカルボン酸ポリ無水物をそれぞれ単独で使用することもできるし、併用して使用することもできる。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は30℃以上であることが好ましく、より好ましくは35℃以上であり、さらに好ましくは40℃以上であり、特に好ましくは45℃以上である。上記下限値未満であると耐デント性に加えて、耐レトルト性および/または耐内容物性が不良となることがある。ガラス転移温度(Tg)の上限は特にはないが、通常130℃以下であり、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは90℃以下であり、特に好ましくは70℃以下である。なお、本発明におけるTgは、JIS K 7121-1987に規定されているTigとほぼ一致するが、厳密には実施例に記載の方法により決定した値とする。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は共重合成分及びその比率を変更することにより調整することができる。例えば、ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分として、芳香族ポリカルボン酸や脂環族ポリカルボン酸の共重合比率を高くすることによりTgが高くなる傾向があり、またポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分として、脂環族多価アルコールや、主鎖の炭素数が3以下の脂肪族多価アルコールの共重合比率を高くすることによりTgが高くなる傾向にある。一方、ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分として脂肪族ポリカルボン酸の共重合比率を高くすることによりTgが低くなる傾向があり、またポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分として主鎖の炭素数が4以上の脂肪族多価アルコールの共重合比率を高くすることによりTgが低くなる傾向にある。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂の還元粘度は、0.2~0.8dl/gが好ましく、0.25~0.75dl/gがより好ましく、0.3~0.7dl/gがさらに好ましく、0.35~0.6dl/gが特に好ましい。還元粘度が0.2dl/g未満では硬化性が不十分となり、また塗膜の強靭性が不足して、加工性が低下する恐れがある。一方、還元粘度が0.8dl/gを超えると溶剤溶解性が低下し、塗料安定性が低下したり、塗装作業性が低下することがある。還元粘度はポリエステル樹脂の重合時間、温度、重合時の減圧の程度(減圧重合の場合)を変化させることで調整することができる。なお、本発明における還元粘度は、実施例に記載の方法により決定した値とする。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂は融点を有さないことが好ましい。具体的には、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、-100℃~250℃まで20℃/分で昇温し、該昇温過程に明確な融解ピークを示さないことが好ましい。融点を示さないことで、溶剤へ溶解した際の安定性が向上する。ポリエステル樹脂が融点を示し結晶性を有する場合、溶剤溶解性および/または塗料安定性が低下し、加工性および/または耐デント性が低下することがある。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂は、前記のとおり、多価カルボン酸成分としてフラン骨格を有する多価カルボン酸成分を10モル%以上有する。本発明のポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分のうち、フラン骨格を有する多価カルボン酸成分以外に、芳香族多価カルボン酸、脂肪族多価カルボン酸および脂環族多価カルボン酸から選ばれる少なくとも1種以上の多価カルボン酸成分を5モル%以上有することが好ましく、10%モル以上有することがより好ましく、20モル%以上有することがさらに好ましく、30モル%以上有することが特に好ましい。上記下限値以上とすることで、ポリエステル樹脂の溶解性が向上し、作業性が良好となる。
【0023】
フラン骨格を有する多価カルボン酸成分以外の多価カルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5-〔4-スルホフェノキシ〕イソフタル酸およびこれらのアルカリ金属塩等の芳香族多価カルボン酸成分、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族多価カルボン酸成分、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸、2,5-ノルボルナンジカルボン酸等の脂環族多価カルボン酸成分が挙げられる。これらを1種または2種以上使用することができる。なかでも、反応性や耐水性、耐熱性の観点から芳香族多価カルボン酸成分が好ましく、とりわけテレフタル酸やイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分は、上記<要件(ii)>のとおり、異なる2種以上の成分で構成される。特に側鎖を有する脂肪族多価アルコールと脂環骨格を有する多価アルコールとを組み合わせて用いることで、ポリエステル樹脂に適度な屈曲性が付与され、硬化性の向上と合わせて、加工性を向上させ、さらには溶解性が向上し塗料として安定性を向上させることができる。
【0025】
側鎖を有する脂肪族多価アルコールとしては例えば、1,2-プロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、4-プロピル-1,8-オクタンジオール等が挙げられる。側鎖を有する脂肪族多価アルコールは、炭素数が6以下であることが好ましい。炭素数6以下とすることで樹脂の凝集力を低下させることなくポリエステル樹脂に屈曲性を与えることができ、加工性と耐レトルト性が向上する。とりわけ、炭素数が6以下の側鎖を有する脂肪族多価アルコールとして2-メチル-1,3-プロパンジオールが好ましい。本発明のポリエステル樹脂を構成する全多価アルコール成分中、側鎖を有する脂肪族多価アルコールは、50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは55モル%以上であり、さらに好ましくは60モル%以上である。また、85モル%以下が好ましく、80モル%以下がより好ましい。上記範囲内とすることで加工性および/または耐デント性が良好となる。
【0026】
脂環骨格を有する多価アルコールとしては例えば、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水添加ビスフェノール類などが挙げられる。脂環骨格を有する多価アルコールの脂環骨格を構成する炭素数は6以上であることが好ましい。脂環骨格の炭素数が6以上であると、樹脂の屈曲性が向上し、加工性と耐デント性が向上する。とりわけ、炭素数が6以上の脂環骨格を有する多価アルコールとして1,4-シクロヘキサンジメタノールを使用することが好ましい。本発明のポリエステル樹脂を構成する全多価アルコール成分中、脂環骨格を有する多価アルコールは、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上がより好ましい。また、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましい。上記未満であると耐デント性、耐レトルト性および/または耐内容物性が低下することがあり、上記を超えると加工性および/または耐デント性が低下したり、ポリエステル樹脂の結晶性が高くなり溶剤溶解性および/または塗料安定性が低下することがある。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、側鎖を有する脂肪族多価アルコールおよび脂環骨格を有する多価アルコール以外の多価アルコール成分を有していてもよく、例えばエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール等の直鎖脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルグリコール類が挙げられ、これらの中から2種またはそれ以上を選び使用できる。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂において、多価カルボン酸成分および/または多価アルコール成分に3官能以上の成分を共重合しても良い。3官能以上の多価カルボン酸成分としては、例えばトリメリト酸、ピロメリト酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等が挙げられ、3官能以上の多価アルコール成分としてはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、α-メチルグルコシド等が挙げられる。これらを使用することにより、硬化させた時の架橋密度が上がり、加工性を向上させることができる。とりわけ、硬化させた時の架橋密度及び加工性の観点から、トリメリト酸またはトリメチロールプロパンを使用することが好ましい。
【0029】
3官能以上の多価カルボン酸成分および/または多価アルコール成分を共重合する場合、共重合比率は、多価カルボン酸成分または多価アルコール成分中、好ましくは0.1~5モル%であり、より好ましくは0.1~4モル%であり、さらに好ましくは0.1~3モル%であり、特に好ましくは0.1~2モル%である。上記上限値を越えるとポリエステル樹脂の可とう性が失われ加工性および/または耐デント性が低下したり、ポリエステルの重合時にゲル化することがある。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂には、任意の方法で酸価を付与してもよい。酸価を付与することにより、硬化剤との硬化性の向上、缶用金属材料との密着性改良等の効果が得られる場合がある。酸価を付与する方法としては重縮合後期に多価カルボン酸無水物を付加する解重合方法、プレポリマー(オリゴマー)の段階でこれを高酸価とし、次いでこれを重縮合し、酸価を有するポリエステル樹脂を得る方法等があるが、操作の容易さ、目標とする酸価を得易いことから前者の解重合方法が好ましい。
【0031】
このような解重合方法での酸付加に用いられる多価カルボン酸無水物としては無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリト酸、無水ピロメリト酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート等が挙げられる。好ましくは無水トリメリト酸である。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂を製造する際には、重合触媒として、例えば、テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンオキシアセチルアセトネートなどのチタン化合物、三酸化アンチモン、トリブトキシアンチモンなどのアンチモン化合物、酸化ゲルマニウム、テトラ-n-ブトキシゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、その他、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、コバルト、アルミニウムなどの酢酸塩などを使用することが出来る。これらの触媒は1種、または2種以上を併用することができる。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂を製造する重合縮合反応の方法としては、特に限定されないが、例えば、1)多価カルボン酸と多価アルコールを任意の触媒存在下で加熱し、脱水エステル化工程を経て、脱多価アルコール・重縮合反応を行う方法、2)多価カルボン酸のアルコールエステル体と多価アルコールを任意の触媒存在下で加熱、エステル交換反応を経て、脱多価アルコール・重縮合反応を行う方法、などがある。前記1)2)の方法において、多価カルボン酸成分の一部またはすべてを酸無水物に置換しても良い。また、使用目的および要求される各種の特性により種々の添加剤、安定剤等、他の熱可塑性樹脂本来の性質を損なわない程度に添加しても差し支えない。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂には必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤安定剤などを使用しても良い。酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系として、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,1,3-トリ(4-ヒドロキシ-2-メチル-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,1-ビス(3-t-ブチル-6-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-ベンゼンプロパノイック酸、ペンタエリトリトールテトラキス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられ、また、燐系として、特に限定されないが、例えば、3,9-ビス(p-ノニルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(オクタデシロキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、トリ(モノノニルフェニル)フォスファイト、トリフェノキシフォスフィン、イソデシルフォスファイトが挙げられる。これらを単独に、または複合して使用できる。添加量は、ポリエステル樹脂の質量基準で、0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。0.1質量%未満だと熱劣化防止効果に乏しくなることがある。5質量%を超えると、色調に悪影響を与える場合がある。
【0035】
<金属板コーティング用組成物>
本発明の金属板コーティング用組成物は、本発明のポリエステル樹脂を含有する組成物であり、さらに硬化剤を含有することが好ましい。ポリエステル樹脂と硬化剤の割合は、ポリエステル樹脂/硬化剤=98/2~50/50(質量比)の割合で含有することが好ましく、95/5~60/40(質量比)の割合がより好ましく、92/8~70/30(質量比)の割合がさらに好ましく、90/10~75/25(質量比)の割合が特に好ましい。ポリエステル樹脂98質量部に対し、硬化剤量が2質量部未満だと十分な硬化性が得られず、加工性、耐レトルト性、耐内容物性および/または耐デント性が低下することがある。ポリエステル樹脂50質量部に対し、硬化剤量が50質量部を超えると、未反応の硬化剤成分が残存し、耐デント性や耐レトルト性、耐内容物性が低下することがある。
【0036】
<硬化剤>
本発明の金属板コーティング用組成物を構成する硬化剤は、本発明のポリエステル樹脂と反応し架橋構造を形成するものであれば特に限定されないが、イソシアネート化合物、フェノール樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂等挙げることができる。なかでも衛生性や加工性の点からフェノール樹脂、イソシアネート化合物であることが好ましい。さらにはブロックイソシアネート化合物であることがさらに好ましい。
【0037】
前記イソシアネート化合物としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジシソシアネート、キシレン-1,4-ジイソシアネート、キシレン-1,3-ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、2-ニトロジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、2,2’-ジフェニルプロパン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ナフチレン-1,4-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシジフェニル-4,4’-ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ポリメチレンポリイソシアネート、クルードトリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、デカメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート等のジイソシアネート、及び前記イソシアネートのビウレット体、ウレトジオン変性体、カルボジイミド変性体、イソシアヌレート変性体、ウレトンイミン変性体、ポリオールとのアダクト体、これらの混合変性体が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を選び使用することができる。また、イソシアネート化合物と、ポリオール、ポリアミン等の含活性水素化合物とからなるプレポリマー、変性体、誘導体、混合物等のウレタン前駆体の形で用いることもできる。
【0038】
前記イソシアネート化合物としては、イソシアネート化合物の末端NCO基をブロック化処理したブロックイソシアネート化合物を使用することが好ましい。ブロック剤としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール等のフェノール系化合物、2-ヒドロキシピリジン、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール,n-ブタノール、イソブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール系化合物、マロン酸ジチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミド等の酸アミド系化合物、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム等のラクタム系化合物、イミダゾール、2-メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、尿素、チオ尿素、エチレン尿素等の尿素系化合物、ホルムアミドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン、カルバゾール、エチレンイミン、ポリエチレンイミン等のアミン系化合物が挙げられる。これらは1種またはそれ以上を混合して使用することができる。
【0039】
このようなブロック剤とイソシアネート硬化剤成分の反応は、例えば20~200℃で、必要に応じて、公知の不活性溶剤や触媒を使用して行うことができる。ブロック剤は末端イソシアネート基に対して0.7~1.5倍モル量を使用するのが好ましい。
【0040】
フェノール樹脂としては、フェノール化合物から合成されるレゾール型フェノール樹脂であることが好ましい。例えば3官能以上のフェノール化合物として、フェノール、m-クレゾール、m-エチルフェノール、3,5-キシレノール、m-メトキシフェノール、ビスフェノール-A、ビスフェノール-Fなどが挙げられる。2官能のフェノール化合物として、o-クレゾール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノールなどが挙げられる。これらはフェノール化合物1分子当たりに2個以上のメチロール化が可能な官能基を有しており、ホルムアルデヒド等によるメチロール化によって合成することができる。これらを1種、または2種以上混合し使用できる。
【0041】
これら3官能以上のフェノール化合物と2官能のフェノール化合物の配合比率は、要求される塗膜(硬化膜)に応じて任意に配合されるが、1/99~100/0(質量部)であることが好ましい。例えば、塗膜に硬さ、耐酸性を必要とするときは3官能以上のフェノール化合物を30質量部超とすることが好ましく、塗膜に可撓性を必要とし、加工後の残留応力を低くしたい場合は3官能以上のフェノール化合物を50質量部未満とすることが好ましい。
【0042】
これらフェノール化合物をフェノール樹脂とする際に用いるホルムアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドまたはトリオキサンが挙げられ、1種または2種以上混合して使用できる。
【0043】
メチロール化されたフェノール樹脂のメチロール基の一部をアルキルエーテル化するのに用いられるアルコールとしては、炭素原子数1~8個、好ましくは1~4個の一価のアルコールを使用することができ、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、イソプロパノール、イソブタノール、tert-ブタノールなどを挙げることができ、ポリエステル樹脂との相容性、反応硬化性の点からn-ブタノールが好ましい。
【0044】
前記フェノール樹脂はポリエステル樹脂との反応性、相容性の点よりフェノール核1核当たりのアルコキシメチル基を平均して0.3個以上、好ましくは0.5~3個有する。0.3個未満だとポリエステル樹脂との硬化性が乏しくなり加工性が低下することがある。
【0045】
これら3官能以上のフェノール化合物および2官能のフェノール化合物のフェノール化合物の混合されたフェノール樹脂を得る方法としては、ホルムアルデヒド類によりフェノール樹脂化する前に任意の比率で混合しておく方法や、3官能以上のフェノール化合物および2官能のフェノール化合物を各々別途にフェノール樹脂化し、これを任意の混合比率で混ぜたものを使用しても良い。
【0046】
アミノ樹脂としては、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド、などのアミノ成分と、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒドなどのアルデヒド成分との反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。このメチロール化アミノ樹脂のメチロール基を炭素原子数1~6のアルコールによってエーテル化したものも上記アミノ樹脂に含まれる。これらを単独或いは2種以上を併用して使用できる。ベンゾグアナミンまたはメラミンを使用したアミノ樹脂が好ましい。
【0047】
ベンゾグアナミンを使用したアミノ樹脂としては、メチロール化ベンゾグアナミン樹脂のメチロール基の一部又は全部を、メチルアルコールによってエーテル化したメチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチルアルコールによってブチルエーテル化したブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、或いはメチルアルコールとブチルアルコールとの両者によってエーテル化したメチルエーテル、ブチルエーテルとの混合エーテル化ベンゾグアナミン樹脂が好ましい。上記、ブチルアルコールとしてはイソブチルアルコール、n-ブチルアルコールが好ましい。
【0048】
メラミンを使用したアミノ樹脂としては、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基の一部又は全部を、メチルアルコールによってエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルアルコールによってブチルエーテル化したブチルエーテル化メラミン樹脂、或いはメチルアルコールとブチルアルコールとの両者によってエーテル化したメチルエーテル、ブチルエーテルとの混合エーテル化メラミン樹脂が好ましい。
【0049】
<添加剤>
本発明の金属板コーティング用組成物には、さらに触媒を含有することが好ましい。触媒を含有することで、硬化膜の性能を向上させることができる。触媒としては、硬化剤がフェノール樹脂、およびアミノ樹脂の場合、例えば硫酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、樟脳スルホン酸、リン酸及びこれらをアミンブロック(アミンを添加し一部中和している)したもの等が挙げられ、これらの中から1種、又は2種以上を併用することができる。ポリエステル樹脂との相容性、衛生性の面からドデシルベンゼンスルホン酸、及びこの中和物が好ましい。硬化剤がイソシアネート化合物の場合、例えばオクチル酸第一錫、ジブチル錫ジラウリレート等の有機スズ化合物、トリエチルアミン、亜鉛化合物、アルミニウム化合物などが挙げられ、これらの中から1種、又は2種以上を併用することができる。
【0050】
本発明の金属板コーティング用組成物には、要求特性に合わせて、酸化チタン、シリカなどの公知の無機顔料、リン酸およびそのエステル化物、表面平滑剤、消泡剤、分散剤、潤滑剤等の公知の添加剤を配合することができる。特に潤滑剤はDI缶やDR(またはDRD)缶等の成形時に必要とされる塗膜の潤滑性を付与するために重要であり、例えばポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックス、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、ラノリン系ワックス、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス、及びカルナバろう等を好適な潤滑剤の例として挙げることができる。潤滑剤は、1種または2種以上を混合し使用することができる。
【0051】
本発明の金属板コーティング用組成物には、公知の有機溶剤に溶解された状態で塗料化することができる。塗料化に使用する有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノアセテート、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ソルベッソ等が挙げられる。これらから、溶解性、蒸発速度等を考慮して、1種または2種以上を選択し、使用される。
【0052】
本発明の金属板コーティング用組成物には、塗膜の可撓性、密着性付与などの改質を目的としたその他の樹脂を配合することができる。その他の樹脂の例としては、エチレン-重合性不飽和カルボン酸共重合体、及びエチレン-重合性カルボン酸共重合体アイオノマーを挙げることができ、これらから選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を配合することにより塗膜の可撓性および/または密着性を付与できる場合がある。
【0053】
本発明の金属板コーティング用組成物は、各種公知の基材に適用できる。基材としては、特に限定されず、例えば、チンフリースチール板、ブリキ、ボンデ鋼板、亜鉛メッキ鋼板、アルミ及びステンレス等が挙げられる。これらの金属素材からなる金属板にはあらかじめリン酸処理、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、その他の防錆処理剤による防食処理、塗膜の密着性向上を目的とした表面処理を施したものを使用しても良い。
【0054】
基材への塗工方法も特に限定されず、例えば、バーコーター、カーテンフロー、ロールコート、ディッピング、スプレー及び刷毛塗り等が挙げられる。なお、塗工量としては、 特に限定されず、乾燥後の塗膜の厚みで通常は1~30μm程度、好ましくは5~15μ m程度で調整される。
【0055】
塗膜の焼付条件は通常、約100~300℃の範囲で約5秒~約30分の程度であり、さらには約150~250℃の範囲で、約20秒~約15分の程度である事が好ましい。
【0056】
本発明の金属板コーティング用組成物は、金属板表面に積層し、塗装金属板として好適に使用できる。塗装金属板は缶の構成材料として適用でき、塗装金属板を構成材料として含む缶としては、飲料缶、缶詰用缶、その蓋またはキャップが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。種々の特性の評価は下記の方法に従った。単に部とあるのは質量部を示し、%とあるのは質量%を示す。
【0058】
<ポリエステル樹脂>
(1)樹脂組成の測定
ポリエステル樹脂の試料を、重クロロホルムに溶解し、VARIAN社製 核磁気共鳴(NMR)装置400-MRを用いて、1H-NMR分析を行った。その積分値比より、モル比を求めた。
【0059】
(2)還元粘度(ηsp/c、単位:dl/g)の測定
ポリエステル樹脂の試料0.1gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25ccに溶解し、30℃で測定した。
【0060】
(3)ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)の測定
示差走査型熱量計(SII社、DSC-200)により測定した。ポリエステル樹脂の試料5mgをアルミニウム製の抑え蓋型容器に入れて密封し、液体窒素を用いて-50℃まで冷却し、次いで250℃まで20℃/分にて昇温させた。この過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前のベースラインと、吸熱ピークに向かう接線との交点の温度をもって、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)とした。また融解熱の最大ピーク温度を融点(Tm、単位:℃)とした。融解熱の最大ピークが観測されなかった場合は、融点なし(表1では「-」で表記)とした。
【0061】
(4)酸価の測定
ポリエステル樹脂の試料0.2gを40mlのクロロホルムに溶解し、0.01Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、ポリエステル樹脂106gあたりの当量(eq/t)を求めた。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
【0062】
<金属板コーティング用組成物の作製>
表2の配合に従い、ポリエステル樹脂、硬化剤および触媒をシクロヘキサノン/ソルベッソ-150=1/1(質量比)で固形分約35質量%となるように溶解し、金属板コーティング用組成物を得た。
【0063】
(5)硬化性の評価
ポリエステル樹脂の硬化性の評価は、銅箔上に金属板コーティング用組成物を乾燥後の厚みが10μmとなるよう塗布し、焼付条件200℃(PMT:基材到達最高温度)×10分間または焼付条件190℃(PMT:基材到達最高温度)×30秒間として硬化焼付を行い、縦10cm、横2.5cmの大きさにしたサンプルのTHF(テトラヒドロフラン)浸漬前質量を(X)、60mlのTHFに25℃、1時間浸した後、100℃、10分乾燥させた後のサンプルの質量をTHF浸漬後質量(Y)とし、下記式により求めた。
ゲル分率(質量%)=〔{(Y)-銅箔質量}/{(X)-銅箔質量}〕×100
(判定)
○:ゲル分率が85質量%以上
△:ゲル分率が76質量%以上85質量%未満
×:ゲル分率が76質量%未満
【0064】
<試験片の作製>
ブリキ板(JIS G 3303(2008) SPTE、70mm×150mm×0.3mm)の片面にバーコーターで、前記金属板コーティング用組成物を乾燥後の膜厚が10±2μmになるように塗装し、焼付条件200℃(PMT:基材到達最高温度)×10分間または焼付条件190℃(PMT:基材到達最高温度)×30秒間として硬化焼き付けを行い、これを試験片とした(以下、試験片という)。
【0065】
(6)加工性の評価
前記試験片を、硬化膜が外側となる方向に180°折り曲げ加工を施し、折り曲げ部に発生する硬化膜の割れについて、通電値を測定することにより評価した。なお、折り曲げ加工は、間に何も挟み込まず(いわゆる0T)に折り曲げた。アルミ板製の電極(幅20mm、奥行き50mm、厚さ0.5mm)の上に1%NaCl水溶液に浸したスポンジ(幅20mm、奥行き50mm、厚さ10mm)を載せたものを用意し、スポンジの20mmの辺と平行になるように試験片の折り曲げ部の中央部付近をスポンジに接触させた。アルミ板電極と試験片の裏面の非塗装部との間に5.0Vの直流電圧をかけ、通電値を測定した。通電値が小さい方が折り曲げ特性が良好であることを意味する。
(判定)
〇:0.5mA未満
△:0.5mA以上2.0mA未満
×:2.0mA以上
【0066】
(7)耐レトルト性の評価
前記試験片を立ててステンレスカップに入れ、これにイオン交換水を試験片の半分の高さになるまで注ぎ、これをレトルト試験機(トミー工業(株)製 ES-315)の圧力釜の中に設置し、125℃×30分のレトルト処理を行なった。処理後の評価は一般的に硬化膜に対してより厳しい条件にさらされることになると思われる蒸気接触部分で行い、硬化膜の白化、ブリスターの状態を目視で以下のように判定した。
(判定)
○:良好(白化、ブリスターともになし/わずかに白化はあるがブリスターはない)
△:若干の白化および/または若干のブリスターがある
×:著しい白化および/または著しいブリスターがある
【0067】
(8)耐デント性の評価
デュポン衝撃試験器を用い、(7)で示したレトルト処理を行った試験片の塗装面を下にし、その試験片の蒸気接触部分の非塗装面に直径1/2インチの球頭の打撃ポンチを押し当て、その上から1kgの重りを50cmの高さから落下させ衝撃を加えた。次いでアルミ板製の電極(幅20mm、奥行き50mm、厚さ0.5mm)の上に1質量%NaCl水溶液に浸したスポンジ(幅20mm、奥行き50mm、厚さ10mm)を載せたものを用意し、衝撃を加えた試験片の凸部分をスポンジに接触させ、アルミ板電極と試験片の裏面の非塗装部との間に5.0Vの直流電圧をかけ、通電値を測定した。通電値が小さい方が折り曲げ特性が良好であることを意味する。
(判定)
〇:0.5mA未満
△:0.5mA以上2.0mA未満
×:2.0mA以上
【0068】
ポリエステル樹脂の合成例
ポリエステル樹脂(合成例1)の合成
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した3Lフラスコに、2,5-フランジカルボン酸250質量部、イソフタル酸427質量部、無水トリメリト酸8質量部、2-メチル-1,3-プロパンジオール622質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール219質量部、触媒としてテトラ-n-ブチルチタネート(以下、TBTと略記する場合がある)0.3質量部(全多価カルボン酸成分に対して0.02モル%)を仕込み、160℃から235℃まで4時間かけて昇温しながらエステル化反応を行った。次いで、系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧して初期重合を行うとともに温度を250℃まで昇温し、さらに1mmHg以下の真空下で80分間後期重合を行った。目標分子量に達したらこれを窒素雰囲気下で220℃に冷却した。次いで無水トリメリト酸8質量部を投入し、窒素雰囲気下、200~230℃、30分攪拌を継続し、ポリエステル樹脂(合成例1)を得た。得られたポリエステル樹脂の還元粘度は0.52dl/g、酸価は110eq/t、ガラス転移温度(Tg)は53℃であり、融点は観測されなかった。
【0069】
ポリエステル樹脂(合成例2)、(比較合成例1)~(比較合成例5)の合成
(合成例1)と同様に、ただし仕込み組成を変更して、樹脂組成が表1に示されるようなポリエステル樹脂(合成例2)、(比較合成例1)~(比較合成例5)を製造した。
【0070】
【0071】
得られたポリエステル樹脂を使用して金属板コーティング用組成物を作成し、硬化性、加工性、耐レトルト性、耐デント性の評価を実施した。金属板コーティング用組成物の配合、および評価結果を表2に示す。
【0072】
硬化剤としては以下のものを用いた。
Phenodur PR521:オルネクス社製、フェノール硬化剤
Desmodur BL 2078/2:住化コベストロウレタン社製、イソホロンジイソシアネート系ブロックイソシアネート
【0073】
硬化触媒としては以下のものを用いた。
Nacure5076:King Industries社製、ドデシルベンゼンスルホン酸
K-KAT XK-626:King Industries社製、非スズ系ウレタン硬化触媒
【0074】
【0075】
表2で明らかなように、硬化剤としてフェノール樹脂を用いた実施例1、2では、フラン骨格を有さないポリエステル樹脂を用いた比較例1、2と比べて、硬化性が良好となり、加工性/耐レトルト性、耐デント性も向上した。比較例3ではポリエステル樹脂の酸価が低いため、フェノール樹脂との反応性が劣り、硬化性が不十分であった。また、比較例4ではポリエステル樹脂の酸価が高いため、加工性/耐レトルト性/耐デント性が不十分であった。硬化剤としてイソシアネート系硬化剤を用いた実施例3、4では、硬化性に優れ、加工性/耐レトルト性/耐デント性いずれも良好であった。これに対して、フラン骨格を有さないポリエステル樹脂を用いた比較例5では、硬化性/耐デントが不十分であった。比較例6ではポリエステル樹脂の酸価が低いため、イソシアネート硬化剤との反応性が劣り、塗膜強度が弱くなったために耐デント性が不十分であった。また、グリコールを一種類のみ使用したポリエステル樹脂を用いた比較例7では、ポリエステル樹脂が融点を示しかつ溶剤への溶解性が不十分であり、溶剤に溶かすことができず、塗膜性能を評価できなかった。このように、本発明のポリエステル樹脂を使用した金属板コーティング用組成物は、硬化剤との反応性に優れ、得られた硬化膜(塗膜)は、その加工性、耐レトルト性、耐デント性のいずれもが優れている。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明品は、硬化性、加工性、耐レトルト性、耐デント性に優れたポリエステル樹脂、及びこれを含有する金属板コーティング用組成物、塗装金属板であり、食品および飲料用金属缶や、プレコートメタル塗装に使用される金属板コーティング用組成物の主剤として好適である。