(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】カット刃
(51)【国際特許分類】
B26D 1/06 20060101AFI20240423BHJP
B26D 1/00 20060101ALI20240423BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B26D1/06 Z
B26D1/00
C23C16/27
(21)【出願番号】P 2023566159
(86)(22)【出願日】2022-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2022040602
(87)【国際公開番号】W WO2023105988
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2021198093
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087985
【氏名又は名称】福井 宏司
(72)【発明者】
【氏名】中川 元気
(72)【発明者】
【氏名】田中 康博
(72)【発明者】
【氏名】松本 開
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-173193(JP,A)
【文献】特許第3054641(JP,B2)
【文献】特許第3134378(JP,B2)
【文献】特開2016-210190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 1/06
B26D 1/00
C23C 16/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外縁の少なくとも一部が刃先になっている板状であり、前記刃先を含み且つ前記刃先に近づくほど厚みが小さくなる刃側部分を有する基材と、
前記基材の表面のうち、少なくとも前記刃側部分の表面を覆う被膜と、を備え、
前記被膜の材質は、ダイヤモンドを含んでおり、
前記被膜は、前記刃側部分の表面に沿う膜本体と、前記膜本体の外面から突出する突起と、を有して
おり、
前記膜本体のうち前記刃先を覆う箇所の膜厚は、前記膜本体のうち前記刃先を除く前記刃側部分を覆う箇所の膜厚よりも大きくなっている
カット刃。
【請求項2】
外縁の少なくとも一部が刃先になっている板状であり、前記刃先を含み且つ前記刃先に近づくほど厚みが小さくなる刃側部分を有する基材と、
前記基材の表面のうち、少なくとも前記刃側部分の表面を覆う被膜と、を備え、
前記被膜の材質は、ダイヤモンドを含んでおり、
前記被膜は、前記刃側部分の表面に沿う膜本体と、前記膜本体の外面から突出する突起と、を有して
おり、
前記刃先は前記外縁に沿って延びており、
前記刃先に直交する断面において、前記膜本体の先端を挟んだ前記膜本体の外面同士がなす角のうち、前記基材が存在する側の角は、前記膜本体の先端に向かって段階的又は連続的に大きくなっている
カット刃。
【請求項3】
外縁の少なくとも一部が刃先になっている板状であり、前記刃先を含み且つ前記刃先に近づくほど厚みが小さくなる刃側部分を有する基材と、
前記基材の表面のうち、少なくとも前記刃側部分の表面を覆う被膜と、を備え、
前記被膜の材質は、ダイヤモンドを含んでおり、
前記被膜は、前記刃側部分の表面に沿う膜本体と、前記膜本体の外面から突出する突起と、を有して
おり、
前記刃先に直交する断面において、前記突起の外面は、曲線状になっている
カット刃。
【請求項4】
前記刃先に直交する断面において、
前記突起の外面は、円弧状になっており、
前記膜本体の外面に対する前記突起の接触角は、鋭角である
請求項3に記載のカット刃。
【請求項5】
外縁の少なくとも一部が刃先になっている板状であり、前記刃先を含み且つ前記刃先に近づくほど厚みが小さくなる刃側部分を有する基材と、
前記基材の表面のうち、少なくとも前記刃側部分の表面を覆う被膜と、を備え、
前記被膜の材質は、ダイヤモンドを含んでおり、
前記被膜は、前記刃側部分の表面に沿う膜本体と、前記膜本体の外面から突出する突起と、を有して
おり、
前記突起の突出量は、前記刃側部分の最大の厚みに対して、0.5%以上10%以下である
カット刃。
【請求項6】
すべての前記突起のうち、前記突起の突出量が前記刃側部分の最大の厚みに対して0.5%以上7%以下である前記突起の割合は、90%以上である
請求項5に記載のカット刃。
【請求項7】
外縁の少なくとも一部が刃先になっている板状であり、前記刃先を含み且つ前記刃先に近づくほど厚みが小さくなる刃側部分を有する基材と、
前記基材の表面のうち、少なくとも前記刃側部分の表面を覆う被膜と、を備え、
前記被膜の材質は、ダイヤモンドを含んでおり、
前記被膜は、前記刃側部分の表面に沿う膜本体と、前記膜本体の外面から突出する突起と、を有して
おり、
前記突起を複数有しており、
前記膜本体の外面における1平方ミリメートル当たり、前記突起の数は、3個以上100個以下である
カット刃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カット刃に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のカット刃は、四角形板状の基材を備えている。基材の外縁のうちの1辺は、刃先となっている。つまり、基材は、刃先に近づくほど厚みが小さくなる刃側部分を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のようなカット刃において、刃側部分の表面は平滑となることがある。刃側部分の表面が平滑であると、カット刃によって被切断物を切断する際に、刃側部分の表面に被切断物が密着して、カット刃から被切断物が離れにくくなる虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、外縁の少なくとも一部が刃先になっている板状であり、前記刃先を含み前記刃先に近づくほど厚みが小さくなる刃側部分を有する基材と、前記基材の表面のうち、少なくとも前記刃側部分の表面を覆う被膜と、を備え、前記被膜の材質は、ダイヤモンドを含んでおり、前記被膜は、前記刃側部分の表面に沿う膜本体と、前記膜本体の外面から突出する突起と、を有しているカット刃である。
【0006】
上記構成によれば、カット刃によって被切断物を切断する際に、突起が被切断物と接触するため、膜本体の突起の近傍は被切断物と接触しにくくなる。そのため、膜本体と被切断物との間に隙間が生じやすくなることにより、被膜全体と被切断物とが密着することを回避しやすくなる。よって、カット刃から被切断物が離れやすくなる。
【発明の効果】
【0007】
カット刃から被切断物が離れにくくなることを抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】
図2における3-3線に沿うカット刃の一部拡大断面図である。
【
図4】
図3における4-4線に沿うカット刃の一部拡大断面図である。
【
図5】同実施形態における突起の高さの分布を示すグラフである。
【
図6】同実施形態のカット刃の製造方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<カット刃の一実施形態>
以下、カット刃の一実施形態について説明する。なお、図面は理解を容易にするため構成要素を拡大して示している場合がある。構成要素の寸法比率は実際のものと、又は別の図中のものと異なる場合がある。
【0010】
(カット刃について)
図1に示すように、カット刃10は、基材20を備えている。基材20は、主面MFを有する板状である。なお、「主面」とは、板状の部材の表面のうち、最も面積の大きな面のことである。
図2に示すように、主面MFに直交する方向を向いて基材20を視たときに、基材20は長方形状である。
【0011】
ここで、
図1に示すように、主面MFに直交する方向を向いて基材20を視たときに、四角形の基材20の4つの辺のうちの長辺に沿う軸を、第1軸Xとする。また、主面MFに直交する方向を向いて基材20を視たときに、四角形の基材20の4つの辺のうちの短辺に沿う軸を、第2軸Yとする。さらに、主面MFに直交する方向に延びる軸を第3軸Zとする。そして、第1軸Xに沿う方向の一方を第1正方向X1とし、第1軸Xに沿う方向のうち第1正方向X1と反対方向を第1負方向X2とする。第2軸Yに沿う方向の一方を第2正方向Y1とし、第2軸Yに沿う方向のうち第2正方向Y1と反対方向を第2負方向Y2とする。第3軸Zに沿う方向の一方を第3正方向Z1とし、第3軸Zに沿う方向のうち第3正方向Z1と反対方向を第3負方向Z2とする。
【0012】
図2に示すように、基材20の外縁のうち、第2正方向Y1の端は、刃先23になっている。つまり、刃先23は、基材20の外縁に沿って直線状に延びている。具体的には、基材20は、基材20の第2正方向Y1の端の全域に刃先23を有している。そして、刃先23は、第1軸Xと平行である。また、基材20の外縁のうち、第2負方向Y2の端は、峰24になっている。具体的には、基材20は、刃先23とは反対側の端の全域に峰24を有している。峰24は、刃先23と同様に第1軸と平行である。
【0013】
基材20は、峰側部分21と、刃側部分22と、を有している。峰側部分21は、基材20のうちの峰24を含む部分である。第3軸Zに沿う方向を向いて基材20を視たときに、峰側部分21は、第1軸Xに沿う方向に長い長方形状である。峰側部分21の第3軸Zに沿う方向の寸法、つまり峰側部分21の厚みは、第1軸Xに沿う方向の全域、及び第2軸Yに沿う方向の全域に亘って同一である。
【0014】
刃側部分22は、基材20のうちの刃先23を含む部分である。刃側部分22の第1軸Xに沿う方向の寸法は、峰側部分21の第1軸Xに沿う方向の寸法と同一である。
図3に示すように、刃側部分22の表面のうち第3正方向Z1を向く面を第1基材面22Aとする。第1基材面22Aは、第2正方向Y1に向かうほど、第3負方向Z2側に位置するように傾斜している。また、刃側部分22の表面のうち第3負方向Z2を向く面を第2基材面22Bとする。第2基材面22Bは、第2正方向Y1に向かうほど、第3正方向Z1側に位置するように傾斜している。そのため、刃側部分22は、第2正方向Y1ほど第3軸Zに沿う方向の寸法、すなわち厚みが小さくなっている。つまり、刃側部分22とは、基材20のうちの刃先23を含む部分であり、且つ当該刃先23に向かうほど厚みが小さくなっている部分である。
【0015】
基材20の第1軸Xに沿う方向の寸法は、例えば100mm以上300mm以下である。基材20の第2軸Yに沿う方向の寸法は、例えば20mm以上30mm以下である。峰側部分21の第3軸Zに沿う方向の寸法は、例えば、0.05mm以上0.5mm以下である。
【0016】
基材20の材質は、超硬合金である。超硬合金は、硬質の金属炭化物の粉末が焼結されたものである。例えば、超硬合金は、炭化タングステンと結合剤であるコバルトとを混合して焼結したものである。
【0017】
図2に示すように、カット刃10は、被膜30を備えている。被膜30は、基材20の表面のうちの、刃側部分22の全面を覆っている。そのため、被膜30は、基材20の刃先23を覆っている。また、被膜30は、峰側部分21の表面のうち、第2正方向Y1の端を含む一部分を覆っている。被膜30の第2軸Yに沿う方向の寸法は、第1軸Xに沿う方向の全域に亘って略一定である。被膜30の材質は、ダイヤモンドを含んでいる。そのため、被膜30の材質は、基材20の材質である超硬合金よりも硬度が大きい。
【0018】
図3に示すように、被膜30は、膜本体31と、複数の突起32と、を有している。膜本体31は、基材20の表面に沿って広がっている。膜本体31は、以下のように特定される範囲である。先ず、特定するうえで必要な測定範囲を特定する。測定範囲は、刃先23の第1軸Xに沿う方向の中央を通り、且つ第1軸Xに直交する断面において、被膜30の縁の一部を除いた部分の範囲である。例えば、当該断面において、第2軸Yに沿う方向に被膜30が存在する範囲の長さを3等分した3つの範囲のうち、中央部分の範囲を、測定範囲とする。次に、測定範囲において、被膜30のうち最も厚みの小さい箇所を特定する。最も厚みの小さい箇所は、例えば、刃先23の第1軸Xに沿う方向の中央を通り、且つ第1軸Xに直交する断面の測定範囲において、基材20の表面に直交する被膜30の寸法が最も小さい箇所とする。次に、当該断面において、当該最も厚みの小さい箇所から基材20の表面に直交する方向において0.5μm外側に離れた特定点を特定する。そして、当該特定点を通り、且つ当該基材20の表面に平行な仮想線を引く。この場合、被膜30のうち、当該仮想線と基材20の表面とで囲まれた範囲が膜本体31である。
【0019】
上記のように定義された膜本体31の表面粗さRzは、0.5μm以下である。つまり、膜本体31は、基材20の表面に沿っており、膜本体31のうち、基材20の表面上に存在する箇所の膜厚は、略一定となっている。その一方で、膜本体31は、表面粗さRzが0.5μm以下という条件を満たす微細な凹凸を有することがある。なお、
図3及び
図4では、基材20の第1基材面22A及び第2基材面22B上に存在する膜本体31の膜厚T2は、均一なものとして図示している。
【0020】
膜本体31は、刃先23を覆っている。膜本体31のうち刃先23を覆う箇所の膜厚T1は、膜本体31のうち刃先23を除く刃側部分22を覆う箇所の膜厚T2よりも大きくなっている。膜厚T2は、刃側部分22のうち第1基材面22A及び第2基材面22Bを覆う箇所の厚みである。つまり、膜本体31の膜厚は、刃先23を覆う箇所が最も厚くなっている。具体的には、膜厚T1は、膜厚T2の2倍以上7倍以下となっている。なお、第1軸Xに直交する断面において、基材20の表面上の特定の点に対して仮想接線を引いたとする。このとき、当該仮想接線に直交する方向での膜本体31の寸法が、上記特定の点を覆う箇所の膜本体31の厚みである。ただし、刃先23を覆う箇所の膜本体31の膜厚T1は、刃先23から膜本体31の外面のうち第2正方向Y1側の最も離れた箇所までの距離である。つまり、膜厚T1は、刃先23から膜本体31の先端31Eまでの距離である。
【0021】
また、第1軸Xに直交する断面、すなわち刃先23に直交する断面において、膜本体31の先端31Eを挟んだ膜本体31の外面同士がなす角のうち、基材20が存在する側の角は、膜本体31の先端31Eに向かって段階的に大きくなっている。具体的には、膜本体31の外面は、第1傾斜面31Aと、第2傾斜面31Bと、第1先端面31Cと、第2先端面31Dと、を有している。第1傾斜面31Aは、膜本体31のうち第1基材面22Aを覆う箇所の外面である。第1傾斜面31Aの第2正方向Y1の端は、基材20の刃先23よりも第2正方向Y1側に位置している。第2傾斜面31Bは、膜本体31のうち第2基材面22Bを覆う箇所の外面である。第2傾斜面31Bの第2正方向Y1の端は、基材20の刃先23よりも第2正方向Y1側に位置している。
【0022】
第1先端面31Cは、膜本体31のうち刃先23を覆う箇所の外面である。第1先端面31Cは、膜本体31のうち刃先23を覆う箇所の先端31Eと第1傾斜面31Aとの間の部分である。
【0023】
第2先端面31Dは、膜本体31のうち刃先23を覆う箇所の外面である。第2先端面31Dは、膜本体31のうち刃先23を覆う箇所の先端31Eと第2傾斜面31Bとの間の部分である。
【0024】
第1傾斜面31Aを延長した仮想線L1と第2傾斜面31Bを延長した仮想線L2とがなす角のうち、基材20側の第1角θ1は、90度よりも小さくなっている。また、第1先端面31Cと第2先端面31Dとがなす角のうち、基材20側の第2角θ2の角度は、90度よりも小さくなっている。そして、第2角θ2は、第1角θ1よりも大きくなっている。
【0025】
突起32は、膜本体31の外面から突出している。つまり、突起32は、被膜30のうち、被膜30の表面粗さRzが0.5μmを超える箇所である。突起32は、半球状となっている。そのため、第1軸Xに直交する断面において、突起32の外面は曲線状になっている。特に、当該断面において、突起32の外面は、円弧状になっている。そして、膜本体31の外面に対する突起32の接触角θ3は、鋭角である。接触角θ3は、膜本体31の外面と突起32の外面における膜本体31との接触箇所における接線L3とのなす角のうち、突起32が存在する側の角である。なお、接線L3は、第1軸Xに直交する断面において、当該接触箇所を通るとともに、円弧状の突起32の外面を含む仮想円の中心と当該接触箇所とを結んだ線分に垂直な直線である。
【0026】
また、複数の突起32のうち、一部の突起32は、膜本体31の外面のうち、第1傾斜面31A及び第2傾斜面31B上に存在している。そして、複数の突起32のうち、一部の突起32は、第2軸Yに沿う方向での刃先23から膜本体31の先端31Eまでの範囲内に位置している。特に、第1傾斜面31A及び第2傾斜面31Bのうち、刃先23よりも第2正方向Y1側の範囲内に位置している。つまり、一部の突起32は、膜本体31の外面のうち、刃先23を通る第3軸Zに平行な境界線よりも、膜本体31の先端31Eが存在する側に位置している。
【0027】
複数の突起32は、膜本体31の外面の全体に分散している。そのため、
図4に示すように、複数の突起32のうち、一部の突起32は、第1軸Xに沿って、間隔を空けて並んでいる。すなわち、
図3に示すように、刃先23に沿って複数の突起32は、間隔を空けて並んでいる。また、膜本体31の外面における1平方ミリメートル当たり、突起32の数は、3個以上100個以下となっている。なお、膜本体31の外面における1平方ミリメートル当たりの突起32の数は、例えば以下のように測定する。先ず、顕微鏡により、膜本体31の外面における1平方ミリメートル当たりの範囲を、ランダムに5箇所観察する。次に、各範囲の突起32の数を算出する。そして、5箇所の範囲の突起32の数の平均値を、膜本体31の外面における1平方ミリメートル当たりの突起32の数とする。
【0028】
また、突起32の突出量は、刃側部分22の最大の厚みである基材厚みTBに対して、0.5%以上10%以下である。基材厚みTBは、峰側部分21の厚みと等しくなっている。なお、基材厚みTBは、峰側部分21と刃側部分22との接触箇所の第3軸Zに沿う方向の寸法である。突起32の突出量は、第1軸Xに直交する断面において、突起32のうち基材20の表面から当該表面に直交する方向に最も離れた箇所から当該表面までの距離である。
【0029】
さらに、すべての突起32のうち、突起32の突出量が基材厚みTBに対して0.5%以上7%以下である突起32の割合は、90%以上となっている。具体的には、
図5に示すように、基材厚みTBが0.1mmの実施例について、突起32の突出量を測定した。膜本体31の先端31Eから膜本体31の外面を沿って0.3mm、且つ第1軸Xに沿って70mmの範囲に存在する突起32の突出量をすべて測定した。その結果、すべての突起32の突出量が7μm以下であった。つまり、すべての突起32の突出量が基材厚みTBに対して0.5%以上7%以下であった。
【0030】
(カット刃の製造方法について)
次に、カット刃10の製造方法を説明する。
カット刃10の製造方法は、基材準備工程と、被膜形成工程と、を備えている。
【0031】
先ず基材準備工程を行う。基材準備工程では、主面MFを有する板状の板状部材を準備する。そして、主面MFに直交する方向に板状部材を視たときの板状部材の外縁の一部を機械加工により切削して、刃側部分22を有する基材20を形成する。
【0032】
次に、被膜形成工程を行う。被膜形成工程では、基材準備工程で準備した基材20の表面のうちの刃側部分22の表面を少なくとも含む一部分に、ダイヤモンドコーティングを行う。ダイヤモンドコーティングは、化学蒸着、いわゆるCVD(chemical vapor deposition)方式によって行う。
【0033】
具体的には、先ず、基材20の前処理を行う。基材20の前処理では、基材20の表面から薬液等により、結合剤であるコバルトを除去する。これにより、基材20の表面に、炭化タングステンの粒子を露出させる。
【0034】
次に、前処理をした基材20の表面に、ダイヤモンドの粒子を種付けする種付け処理を行う。種付け処理では、ダイヤモンドのナノ粒子と当該ナノ粒子より大きいダイヤモンドの粒子とを分散させた溶媒に、基材20を浸漬させる。これにより、基材20の表面における炭化タングステンに、ダイヤモンドの粒子を付着させる。
【0035】
次に、
図6に示す製膜装置50を用いて、ダイヤモンドコーティングを行う。製膜装置50は、反応ガスが流入されるチャンバ60を備えている。チャンバ60は、化学蒸着させるための反応空間61を有している。また、チャンバ60は、反応空間61に反応ガスを流入するための流入口62を有している。また、チャンバ60は、反応空間61から反応したガスを排気するための排気口63を有している。
【0036】
製膜装置50は、チャンバ60内の基材20を加熱する熱源80を備えている。熱源80は、フィラメントである。熱源80が基材20の刃先23側に位置するように基材20はチャンバ60内で保持される。
【0037】
製膜装置50において基材20をチャンバ60内に保持した状態で、反応ガスであるメタンと水素とを流入させる。そして、基材20を600~800℃で所定時間維持されるように熱源80を制御する。これにより、基材20の表面に付着したダイヤモンドの粒子が成長し、略均一にダイヤモンドコーティングがされることで、被膜30を製膜する。この際、種付け処理で付着させた粒子のうち、大きいダイヤモンド粒子が付着した箇所は、厚みが大きくなるように成長する。そのため、膜本体31の外面から突出する突起32が形成される。
【0038】
次に、被膜30のうち刃先23を覆う箇所について、先端31E、第1先端面31C及び第2先端面31Dを形成する。具体的には、被膜30のうち刃先23を覆う箇所について、イオンエッチングで加工する。このとき、イオンビームの出力等を制御する。これにより、第1軸Xに直交する断面において、膜本体31の先端31Eを挟んだ膜本体31の外面同士がなす角のうち、基材20が存在する側の角を、膜本体31の先端31Eに向かって段階的に大きくなるように形成する。このように、基材20に被膜30が形成されて、カット刃10が製造される。
【0039】
(実施形態の作用について)
上記実施形態のカット刃10を用いて、被切断物を切断する場合、カット刃10を第2軸Yに沿う方向に往復運動させる。そして、刃側部分22を被切断物に接触させることで、被切断物を切断する。ここで、刃側部分22の表面を覆う被膜30は、膜本体31に加えて、突起32を有している。そのため、被切断物には、突起32が接触する。突起32が接触すると、当該突起32の近傍の膜本体31の外面と被切断物との間には、隙間が生まれる。
【0040】
なお、カット刃10で被切断物を切断すると、被膜30の表面のうち、突起32の表面に、被切断物の一部が凝着する。一方で、膜本体31には、被切断物は凝着しない。つまり、カット刃10が被切断物から離れる際に、突起32が被切断物を押し退けている。
【0041】
(実施形態の効果について)
(1)上記実施形態によれば、カット刃10によって被切断物を切断する際に、突起32が被切断物と接触するため、膜本体31の外面のうち、当該突起32の近傍の箇所は、被切断物と接触しなくなる。そのため、膜本体31の外面と被切断物との間に隙間が生じることにより、被膜30の全体と被切断物とが密着することを回避できる。よって、カット刃10から被切断物が離れやすくなる。また、被膜30の一部である突起32は、ダイヤモンドを含んでいる。そのため、突起32が被切断物と接触しても、突起32が膜本体31から欠けたり割れたりしにくい。
【0042】
(2)上記実施形態によれば、膜本体31のうち刃先23を覆う箇所の膜厚T1は、膜本体31のうち刃先23を除く刃側部分22を覆う箇所の膜厚T2よりも大きくなっている。そのため、刃先23を覆う膜本体31の先端31Eの近傍が鋭利になりやすい。
【0043】
(3)上記実施形態によれば、膜厚T1は、膜厚T2の2倍以上となっている。そのため、カット刃10における基材20の刃先23近傍の強度を相当に向上させることができる。また、膜厚T1は、膜厚T2の7倍以下となっている。そのため、刃側部分22を覆う被膜30の外面は、過度に鋭利となっていない。よって、カット刃10の先端31Eが被切断物と衝突しても、欠けたり割れたりすることをより抑制できる。
【0044】
(4)上記実施形態によれば、第1軸Xに直交する断面において、膜本体31の先端31Eを挟んだ膜本体31の外面同士がなす角のうち、基材20が存在する側の角は、膜本体31の先端31Eに向かって段階的に大きくなっている。膜本体31の外面同士のなす角を変化させることで、カット刃10を第2軸Yに沿う方向に往復運動させて被切断物を切断する際に、膜本体31の先端31Eの近傍において、被切断物と接触しない箇所が生まれやすくなる。そのため、膜本体31の先端31Eの近傍が、被切断物と密着することを回避できる。
【0045】
(5)上記実施形態によれば、複数の突起32のうち、一部の突起32は、刃先23から膜本体31の先端31Eまでの範囲内に位置している。つまり、突起32が刃先23の近傍にも位置している。そのため、カット刃10で、相応に薄い被切断物を切断する場合でも、突起32がより被切断物と接触しやすい。よって、カット刃10は、被切断物を密着することをより確実に回避できる。
【0046】
(6)上記実施形態によれば、複数の突起32のうち、一部の突起32は、刃先23に沿って間隔を空けて並んでいる。カット刃10を第2軸Yに沿う方向に往復運動して被切断物を切断する際に、複数の突起32が被切断物と接触しやすい。この場合、複数の突起32間において、膜本体31と被切断物との間の空間を大きく得やすくなる。
【0047】
(7)上記実施形態によれば、第1軸Xに直交する断面において、突起32の外面は曲線状になっている。そのため、突起32が被切断物と接触しても、突起32が欠けたり割れたりすることをより抑制できる。また、突起32が被切断物と接触することで、被切断物に過度な傷等が発生しにくくなる。
【0048】
(8)上記実施形態によれば、膜本体31の外面に対する突起32の接触角θ3は、鋭角である。そのため、突起32が被切断物と接触しても、突起32が欠けたり割れたりすることをさらに抑制できる。また、突起32が被切断物と接触することで、被切断物に過度な傷等が発生しにくくなる。
【0049】
(9)上記実施形態によれば、突起32の突出量は、刃側部分22の最大の厚みである基材厚みTBに対して、0.5%以上10%以下である。突起32の突出量が、基材厚みTBに対して0.5%以上であるため、被切断物がカット刃10から離れやすくなるという効果を十分に発揮できる。また、突起32の突出量が、基材厚みTBに対して10%以下であるため、突起32が被切断物の表面に過度に傷をつけることを防げる。
【0050】
特に、本実施形態においては、基材厚みTB、すなわち、峰側部分21の第3軸Zに沿う方向の寸法は、例えば、0.05mm以上0.5mm以下である。つまり、基材20の第3軸Zに沿う方向の寸法は、相当に小さい。よって、突起32の突出量が過度に大きくなると、被切断物と接触した際に、基材20が歪んでしまう虞がある。上記実施形態によれば、突起32の突出量は、相応に小さいため、このような基材20の歪みの発生を防止できる。
【0051】
(9)上記実施形態によれば、すべての突起32のうち、突起32の突出量が基材厚みTBに対して0.5%以上7%以下である突起32の割合は、90%以上となっている。つまり、複数の突起32の大半は、基材厚みTBに対して、0.5%以上7%以下の突出量となっている。そのため、突起32の突出量が過度にばらつくことで、一部の突起32に負荷が偏ることを抑制できる。
【0052】
(10)上記実施形態によれば、膜本体31の外面における1平方ミリメートル当たり、突起32の数は、3個以上100個以下となっている。複数の突起32と被切断物とが接触することで、1平方ミリメートルの範囲において、膜本体31の大半で被切断物との間に空間が生まれやすい。また、1平方ミリメートルの範囲において、突起32の数が100個以下である。そのため、過度に突起32が多くなることで、被切断物に過度の傷等が発生しにくい。
【0053】
<その他の実施形態>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で組み合わせて実施することができる。
【0054】
・基材20の形状は、上記実施形態の例に限られない。例えば、基材20の形状は、第3軸Zに沿う方向から視たときに、正方形状や、第1軸Xに沿う方向よりも第2軸Yに沿う方向の寸法が長い長方形状であってもよい。また例えば、基材20の形状は、第3軸Zに沿う方向から視たときに、刃先23及び峰24の一方又は両方が、円弧状に延びていても、波状に延びていてもよい。
【0055】
・基材20は、所謂両刃に限られず、片刃であってもよい。さらに、刃先23は、所謂のこぎり刃であってもよい。この場合、刃先23は、基材20の外縁に沿って、曲線状に延びていてもよい。
【0056】
・基材20の材質は、上記実施形態の例に限られない。例えば、基材20の材質は、炭化チタンや、炭窒化チタン等を含む超硬合金であってもよい。また、基材20の材質は、超硬合金に限られず、鋼材や、セラミックスであってもよい。
【0057】
・基材20の大きさは、上記実施形態の例に限られない。基材20の第1軸Xに沿う方向の寸法は、100mmより小さくてもよいし、250mmより大きくてもよい。基材20の第2軸Yに沿う方向の寸法は、20mmより小さくてもよいし、30mmより大きくてもよい。また、峰側部分21の第3軸Zに沿う方向の寸法は、0.05mmより小さくてもよいし、0.5mmより大きくてもよい。
【0058】
・基材20のうち刃先23が存在する範囲は、上記実施形態の例に限らない。例えば、第3軸Zに沿う方向から視たときに、長方形の短辺に刃先23が位置していてもよいし、長方形の1辺のうちの一部に刃先23が位置していてもよい。
【0059】
・基材20の表面のうち、被膜30に覆われる範囲は、上記実施形態の例に限られない。被膜30は、少なくとも刃先23を覆っていればよい。例えば、被膜30が基材20の表面のすべてを覆っていてもよい。
【0060】
・膜本体31のうち刃先23を覆う箇所の膜厚T1は、膜本体31のうち刃先23を除く刃側部分22を覆う箇所の膜厚T2以下であってもよい。膜厚T1がより大きければ、刃側部分22を覆う被膜30がより鋭利となり、被切断物を切断しやすくなる。
【0061】
・第1軸Xに直交する断面において、膜本体31の先端31Eを挟んだ膜本体31の外面同士がなす角のうち、基材20が存在する側の角は、膜本体31の先端31Eに向かって連続的に大きくなっていてもよい。例えば、刃先23を覆う膜本体31の外面は、第1軸Xに直交する断面において、円弧状となっていてもよい。この場合、膜本体31の先端31Eを挟んだ膜本体31の外面同士がなす角のうち、基材20が存在する側の角は、膜本体31の先端31Eに向かうほど、連続的に大きくなる。これにより、膜本体31の先端31Eの近傍は、過度に鋭利とならないため、先端31Eの近傍が欠けたり割れたりすることが起きにくくなる。
【0062】
・第1軸Xに直交する断面において、第1角θ1の角度は、90度以上となっていてもよいし、第2角θ2の角度は、90度以上となっていてもよい。刃側部分22の形状や、被切断物に併せて、変更すればよい。
【0063】
・第1軸Xに直交する断面において、膜本体31の先端31Eを挟んだ膜本体31の外面同士がなす角のうち、基材20が存在する側の角は、膜本体31の先端31Eに向かって一定の大きさであってもよい。この場合であっても、被膜30の材質は、ダイヤモンドを含んでいるため、相応に、膜本体31の先端31Eの欠けや割れを防止できる。
【0064】
・膜本体31の外面における1平方ミリメートル当たり、突起32の数は、2個以下であってもよいし、101個以上であってもよい。突起32の近傍において、膜本体31の外面と被切断物との間に、十分な空間が得られればよい。
【0065】
・すべての突起32のうち、突起32の突出量が基材厚みTBに対して0.5%以上7%以下である突起32の割合は、90%未満であってもよい。また、突起32の突出量は、基材厚みTBに対して、0.5%未満であってもよいし、10%を超えていてもよい。つまり、基材厚みTBに対する突起32の突出量の大きさは、被切断物の種類等に併せて変更してもよい。例えば、被膜30の内部に内包物が存在する場合、突出量の大きい突起32が存在し得る。
【0066】
・突起32の形状は、上記実施形態の例に限られない。例えば、膜本体31の外面に対する突起32の接触角θ3は、直角であってもよいし、鈍角であってもよい。また例えば、第1軸Xに直交する断面において、突起32の外面は、直線状になっていてもよい。つまり、突起32が多角形状になっていてもよい。
【0067】
・複数の突起32は、刃先23に沿って間隔を空けて並んでいなくてもよい。例えば、複数の突起32は、刃先23に直交する方向にのみ、間隔を空けて並んでいてもよい。また例えば、刃先23に直交する方向及び刃先23に沿う方向のいずれにも位置をずらしながら、複数の突起32が並んでいてもよい。
【0068】
・突起32は、刃先23から膜本体31の先端31Eまでの範囲内に存在していなくてもよい。例えば、突起32は、膜本体31のうち、第1基材面22A及び第2基材面22Bを覆う範囲にのみ、存在していてもよい。また例えば、上述した製造方法において、被膜30のうち刃先23を覆う箇所についてのイオンエッチングを省略することにより、突起32の先端31Eの近傍に、突起32が存在していてもよい。
【0069】
・上記実施形態において、カット刃10は、上記実施形態による製造方法によって製造されるものに限られない。例えば、ダイヤモンドコーティングを行った後に、スパッタリング等によって、突起32を形成してもよい。
【符号の説明】
【0070】
10…カット刃
20…基材
21…峰側部分
22…刃側部分
23…刃先
30…被膜
31…膜本体
32…突起