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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240423BHJP
   H01G 4/232 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H01G4/30 201F
H01G4/30 201G
H01G4/232 B
H01G4/30 513
H01G4/30 516
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019142229
(22)【出願日】2019-08-01
(65)【公開番号】P2021027094
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】渥美 照夫
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 誉志紀
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-106883(JP,A)
【文献】特開2018-121010(JP,A)
【文献】特開2016-058719(JP,A)
【文献】特開2012-243998(JP,A)
【文献】特開2018-101751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01G 4/228- 4/252
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸方向に積層された複数の内部電極と、前記第1軸と直交する第2軸方向を向き、前記複数の内部電極のうちの少なくとも一部が引き出された端面と、前記第1軸方向を向いた主面とを有するセラミック素体と、
前記セラミック素体を水素から保護するように、面心立方格子構造のAl、ダイヤモンド構造のSi、体心立方格子構造のCr、六方最密構造のZn、斜方晶系構造のGa、ダイヤモンド構造のGe、面心立方格子構造のIn、体心立方格子構造のIn、α-Sn、β-Sn、体心立方格子構造のW、面心立方格子構造のPt、面心立方格子構造のAu、及び三方晶径構造のBiからなる群から選択される少なくとも1つの元素を主成分とし、前記端面の全領域を覆う保護層と、
前記保護層を介して前記端面を覆う外部電極と、
を具備し、
前記保護層及び前記外部電極は、前記端面から前記主面に延出し、
前記外部電極は、前記保護層と隣接する少なくとも1層の下地膜と、前記少なくとも1層の下地膜と隣接する少なくとも1層のメッキ膜とを有し、
前記保護層は、前記第2軸方向において前記少なくとも1層の下地膜よりも前記主面の内側に延出し、前記少なくとも1層の下地膜よりも前記主面の内側に延出した部分には、前記少なくとも1層のメッキ膜の端部が前記第1軸方向から直接的に接触している、
積層セラミック電子部品。
【請求項2】
請求項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記外部電極は、前記少なくとも1層の下地膜として、前記保護層と隣接する少なくとも1層のスパッタ膜を含む
積層セラミック電子部品。
【請求項3】
請求項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記外部電極は、前記少なくとも1層のメッキ膜と、前記少なくとも1層のスパッタ膜と、から構成される
積層セラミック電子部品。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記外部電極は、Ni、Cu、Pd、及びAgの少なくとも1つの元素を主成分とする
積層セラミック電子部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記セラミック素体は、前記第1軸及び前記第2軸と直交する第3軸方向を向いた側面を更に有し、
前記保護層及び前記外部電極は、前記端面から前記主面及び前記側面に延出している
積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部電極を備えた積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、積層セラミックコンデンサの製造工程には、外部電極を形成するためのメッキ工程が含まれる。このメッキ工程で発生する水素は、外部電極内に吸蔵されて残存しやすい。積層セラミックコンデンサでは、外部電極内の水素がセラミック素体内に拡散することによって、絶縁抵抗の低下などの不具合が発生する。
【0003】
これに対し、特許文献1,2には、外部電極内の水素による悪影響を抑制するための技術が開示されている。特許文献1に記載の技術では、外部電極内の水素を外部に逃がすための開口部が設けられる。また、特許文献2に記載の技術では、水素の拡散を防止するために、水素拡散係数の小さいTaNやTiNからなる保護層が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-110239号公報
【文献】特開2012-243998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の発明者は、新規な観点から選択した材料で保護層を構成することにより、外部電極内の水素による悪影響をより効果的に防止可能であることを見出した。このような保護層を用いることにより、外部電極内の水素の拡散による絶縁抵抗の低下などの不具合を効果的に抑制可能な積層セラミックコンデンサが得られる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、外部電極内の水素による悪影響を受けにくい積層セラミック電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品は、セラミック素体と、保護層と、外部電極と、を具備する。
上記セラミック素体は、第1軸方向に積層された複数の内部電極と、上記第1軸と直交する第2軸方向を向き、上記複数の内部電極のうちの少なくとも一部が引き出された端面と、を有する。
上記保護層は、上記セラミック素体を水素から保護するように、面心立方格子構造のAl、ダイヤモンド構造のSi、体心立方格子構造のCr、六方最密構造のZn、斜方晶系構造のGa、ダイヤモンド構造のGe、面心立方格子構造のIn、体心立方格子構造のIn、α-Sn、β-Sn、体心立方格子構造のW、面心立方格子構造のPt、面心立方格子構造のAu、及び三方晶径構造のBiからなる群から選択される少なくとも1つの元素を主成分とし、上記端面の全領域を覆う。
上記外部電極は、上記保護層を介して上記端面を覆う。
上記保護層及び上記外部電極は、上記端面から上記主面に延出している。
上記外部電極は、上記保護層と隣接する少なくとも1層の下地膜と、上記少なくとも1層の下地膜と隣接する少なくとも1層のメッキ膜とを有する。
上記保護層は、上記第2軸方向において上記少なくとも1層の下地膜よりも上記主面の内側に延出し、上記少なくとも1層の下地膜よりも上記主面の内側に延出した部分には、上記少なくとも1層のメッキ膜の端部が上記第1軸方向から直接的に接触している。
【0008】
本願の発明者は、保護層を、水素を遮蔽する構成とすることによって、水素の吸収による脆化を伴うことなく、水素を遮断可能であると考えた。これに対し、本願の発明者は、水素安定化エネルギE(H)を指標として水素を遮蔽する作用を有する元素を見出し、これらの元素を用いることで水素を遮蔽する保護層を実現した。
【0009】
上記外部電極は、上記少なくとも1層の下地膜として、上記保護層と隣接する少なくとも1層のスパッタ膜を含んでもよい。
上記外部電極は、上記少なくとも1層のメッキ膜と、上記少なくとも1層のスパッタ膜と、から構成されていてもよい。
上記外部電極は、Ni、Cu、Pd、及びAgの少なくとも1つの元素を主成分としてもよい。
上記セラミック素体は、上記第1軸及び上記第2軸と直交する第3軸方向を向いた側面を更に有してもよい。
上記保護層及び上記外部電極は、上記端面から上記主面及び上記側面に延出していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
外部電極内の水素による悪影響を受けにくい積層セラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
図2】上記積層セラミックコンデンサの図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3】上記積層セラミックコンデンサの図1のB-B'線に沿った断面図である。
図4】様々な元素について算出した水素安定化エネルギE(H)を示すグラフである。
図5】上記積層セラミックコンデンサの他の実施形態を示す断面図である。
図6】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
図7】ステップS01におけるセラミック素体の分解斜視図である。
図8】ステップS02で得られるセラミック素体の斜視図である。
図9】ステップS03を示す断面図である。
図10】ステップS04を示す断面図である。
図11】ステップS04を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図面には、適宜相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は全図において共通である。
【0013】
[積層セラミックコンデンサ10の基本構成]
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。図2は、積層セラミックコンデンサ10の図1のA-A'線に沿った断面図である。図3は、積層セラミックコンデンサ10の図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0014】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、保護層16と、を具備する。セラミック素体11の外面は、X軸方向を向いた第1及び第2端面E1,E2と、Y軸方向を向いた第1及び第2側面と、Z軸方向を向いた第1及び第2主面と、を有する。
【0015】
また、セラミック素体11には、バレル研磨などで面取りされることにより、第1及び第2端面E1,E2、第1及び第2側面、並びに第1及び第2主面を相互に接続する丸みを帯びた稜部が形成されている。なお、セラミック素体11では、面取りされず、各面を相互に直接接続する稜線が形成されていてもよい。
【0016】
保護層16は、セラミック素体11の第1及び第2端面E1,E2をそれぞれ覆っている。積層セラミックコンデンサ10では、保護層16が、セラミック素体11に対して外部電極14,15内に吸蔵された水素による悪影響が加わりにくくする機能を有する。本実施形態に係る保護層16の詳細については後述する。
【0017】
第1外部電極14は、セラミック素体11の第1端面E1を、保護層16を介して覆っている。第2外部電極15は、セラミック素体11の第2端面E2を、保護層16を介して覆っている。外部電極14,15は、セラミック素体11を挟んでX軸方向に対向し、積層セラミックコンデンサ10の端子として機能する。
【0018】
外部電極14,15は、セラミック素体11の端面E1,E2から主面及び側面に沿ってX軸方向内側にそれぞれ延出し、主面及び側面上において相互に離間している。これにより、外部電極14,15では、図2に示すX-Z平面に平行な断面、及びX-Y平面に平行な断面がいずれもU字状となっている。
【0019】
なお、外部電極14,15の形状は、図1,2に示すものに限定されない。例えば、外部電極14,15は、セラミック素体11の端面E1,E2から一方の主面のみに延び、X-Z平面に平行な断面がL字状となっていてもよい。また、外部電極14,15は、いずれの主面及び側面にも延出していなくてもよい。
【0020】
第1外部電極14は、下地膜141と、中間膜142と、表面膜143と、を含む3層構造を有する。下地膜141は、保護層16の外側に隣接し、第1外部電極14の最内層を構成する。表面膜143は、第1外部電極14の最外層を構成する。中間膜142は、下地膜141と表面膜143との間に位置する。
【0021】
第2外部電極15は、下地膜151と、中間膜152と、表面膜153と、を含む3層構造を有する。下地膜151は、保護層16の外側に隣接し、第2外部電極15の最内層を構成する。表面膜153は、第2外部電極15の最外層を構成する。中間膜152は、下地膜151と表面膜153との間に位置する。
【0022】
下地膜141,151は、例えば、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Pd(パラジウム)、及びAg(銀)の少なくとも1つの元素を主成分とする金属や合金で形成することができる。下地膜141,151は、例えば、スパッタリング法によって形成された少なくとも1層のスパッタ膜や、導電性金属ペーストを焼き付けた少なくとも1層の焼き付け膜などとして構成することができる。また、下地膜141,151は、スパッタ膜と焼き付け膜とが組み合わされて構成されていてもよい。
【0023】
中間膜142,152及び表面膜143,153は、例えば、Ni、Cu、Sn(錫)、Pd、及びAgの少なくとも1つの元素を主成分とする金属や合金で形成することができる。中間膜142,152及び表面膜143,153は、例えば、湿式メッキ法で形成されたメッキ膜として構成することができる。
【0024】
セラミック素体11は、誘電体セラミックスで形成されている。セラミック素体11は、誘電体セラミックスに覆われた複数の第1内部電極12及び第2内部電極13を有する。複数の内部電極12,13は、いずれもX-Y平面に沿って延びるシート状であり、Z軸方向に沿って交互に配置されている。
【0025】
つまり、セラミック素体11には、内部電極12,13がセラミック層を挟んでZ軸方向に対向する対向領域が形成されている。第1内部電極12は、対向領域から第1端面E1に引き出され、第1外部電極14に接続されている。第2内部電極13は、対向領域から第2端面E2に引き出され、第2外部電極15に接続されている。
【0026】
このような構成により、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間に電圧が印加されると、内部電極12,13の対向領域において複数のセラミック層に電圧が加わる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間の電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0027】
セラミック素体11では、内部電極12,13間の各セラミック層の容量を大きくするため、高誘電率の誘電体セラミックスが用いられる。高誘電率の誘電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)に代表される、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の材料が挙げられる。
【0028】
なお、誘電体セラミックスは、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸マグネシウム(MgTiO)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O)、ジルコン酸バリウム(BaZrO)、酸化チタン(TiO)などの組成系でもよい。
【0029】
[保護層16の詳細構成]
積層セラミックコンデンサ10は、外部電極14,15内に水素が吸蔵された状態になりやすい。特に、外部電極14,15には、中間膜142,152や表面膜143,153を、水素の発生を伴う湿式メッキ法(特に電解メッキ法)で形成する場合に、多くの水素が吸蔵されやすくなる。
【0030】
なお、外部電極14,15に吸蔵される水素は、メッキ工程で発生した水素に限らず、例えば、大気中の水蒸気などの水分に含まれる水素などであってもよい。また、外部電極14,15に吸蔵される水素は、水素原子や水素イオンや水素同位体など、水素のとりうるいずれの状態であってもよい。
【0031】
水素は、セラミック素体11を劣化させる作用の強い元素である。このため、外部電極14,15内に吸蔵された水素のセラミック素体11への拡散が内部電極12,13の対向領域まで進行すると、内部電極12,13間のセラミック層の絶縁抵抗が低下する。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、絶縁不良が発生しやすくなる。
【0032】
積層セラミックコンデンサ10では、外部電極14,15内に吸蔵された水素が端面E1,E2からセラミック素体11内に拡散することを防止するために保護層16が設けられる。つまり、保護層16は、セラミック素体11の端面E1,E2を覆うことで、外部電極14,15内の水素からセラミック素体11を保護する。
【0033】
より詳細に、保護層16は、水素を遮蔽する機能を有する。したがって、外部電極14,15内の水素は、保護層16によって遮蔽されるため、端面E1,E2からセラミック素体11への侵入が妨げられる。このため、積層セラミックコンデンサ10では、セラミック素体11内への水素の拡散が抑制される。
【0034】
また、保護層16は、水素を遮蔽する作用によって、水素を吸収しにくくなる。したがって、保護層16では、水素の吸収による脆化が生じにくく、つまり脆化に伴う電気抵抗の上昇や機械的強度の低下が生じにくい。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、保護層16の劣化による不具合が生じにくい。
【0035】
本実施形態では、保護層16における水素を遮蔽する機能を得るために、保護層16の主成分として水素を遮蔽する作用を有する元素を用いる。これに対し、本願の発明者は、水素安定化エネルギE(H)を指標として水素を遮蔽する作用を有する元素を見出した。各元素における水素安定化エネルギE(H)は、以下の式で定義される。
【0036】
E(H)=E(crystal)+1/2E(H)-E(crystal+H)
なお、E(crystal)は、各元素について経験的に安定とされる結晶構造のエネルギとして算出される。E(H)は、水素ガスのエネルギとして算出される。E(crystal+H)は、水素原子を挿入した結晶構造のエネルギとして算出される。
【0037】
上記の式中の「E(crystal)+1/2E(H)」は、水素が結晶中に吸蔵されていない状態を想定した結晶構造と水素との合計エネルギを表現している。したがって、水素が結晶中に吸蔵されていない状態の安定性の高い元素ほど、「E(crystal)+1/2E(H)」が小さくなる。
【0038】
これに対し、上記の式中のE(crystal+H)は、上記の状態とは反対に、水素が結晶中に吸蔵された状態を想定した水素を含む結晶構造のエネルギを表現している。したがって、水素が結晶中に吸蔵された状態の安定性が高い元素ほど、E(crystal+H)が小さくなる。
【0039】
つまり、水素安定化エネルギE(H)が大きい元素ほど、水素が結晶中に吸蔵された状態の安定性が高いことがわかる。反対に、水素安定化エネルギE(H)が小さい元素ほど、水素が結晶中に吸蔵されていない状態の安定性が高いことがわかる。なお、水素安定化エネルギE(H)のマイナスの値は、絶対値が大きいほど小さいものとしている。
【0040】
水素が結晶中に吸蔵されていない状態の安定性が高く、つまり水素安定化エネルギE(H)が小さい元素ほど、水素を遮蔽する作用が強くなる傾向があるものと考えられる。したがって、保護層16では、水素を遮蔽する機能を得るために、水素安定化エネルギE(H)が低い元素を主成分として用いる必要がある。
【0041】
上記の式を用いて、様々な元素について水素安定化エネルギE(H)を算出した。表1は、各元素についての水素安定化エネルギE(H)を示している。なお、表1には、経験的に安定とされる結晶構造が複数存在する元素について、それぞれの結晶構造ごとの水素安定化エネルギE(H)が示されている。また、表1に示す結晶構造について、「hcp」は六方最密構造を示し、「bcc」は体心立方格子を示し、「fcc」は面心立方格子を示している。
【0042】
【表1】
【0043】
図4は、表1に示す各元素について水素安定化エネルギE(H)をプロットしたグラフである。図4には、E(H)=-0.40[eV]の直線が示されている。本実施形態では、この直線より下の領域にプロットが存在する元素を保護層16の主成分とすることで、保護層16における水素を遮蔽する機能を確保することができる。
【0044】
つまり、積層セラミックコンデンサ10では、保護層16の主成分として、水素安定化エネルギE(H)が-0.40[eV]未満である元素、つまり具体的にはAl(アルミニウム)、Si(ケイ素)、Cr(クロム)、Zn(亜鉛)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)、In(インジウム)、Sn、W(タングステン)、Pt(白金)、Au(金)、及びBi(ビスマス)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を用いる。
【0045】
また、積層セラミックコンデンサ10では、外部電極14,15内の水素が、保護層16に遮蔽されて再び外部電極14,15中に戻される。したがって、保護層16を用いる構成では、水素を吸収して捕捉する保護層を用いる構成よりも外部電極14,15内に水素が長く留まりやすい。
【0046】
この点、積層セラミックコンデンサ10では、セラミック素体11の端面E1,E2の全領域に保護層16が設けられている。つまり、積層セラミックコンデンサ10では、水素が吸蔵された外部電極14,15とセラミック素体11の端面E1,E2とがその全領域において保護層16によって隔てられている。
【0047】
これにより、セラミック素体11では、端面E1,E2の全領域において水素の拡散を防止することができる。つまり、セラミック素体11では、内部電極12,13の対向領域に近い端面E1,E2の中央領域のみならず、内部電極12,13の対向領域から遠い端面E1,E2の外周領域からの水素の拡散も防止することができる。
【0048】
したがって、積層セラミックコンデンサ10では、外部電極14,15内に水素が長く留まっていても、セラミック素体11への水素の拡散が内部電極12,13の対向領域まで到達しにくい。このため、積層セラミックコンデンサ10では、外部電極14,15内の水素の影響による絶縁抵抗の低下を抑制することができる。
【0049】
また、積層セラミックコンデンサ10では、図2に示すように、保護層16がセラミック素体11の端面E1,E2から側面及び主面に接続する稜部まで回り込んでいることが好ましい。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、外部電極14,15内の水素が稜部からセラミック素体11内に拡散することを防止することができる。
【0050】
更に、積層セラミックコンデンサ10では、図5に示すように、保護層16がセラミック素体11の端面E1,E2から側面及び主面にまで延出していることが更に好ましい。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、外部電極14,15内の水素が側面及び主面からセラミック素体11内に拡散することを防止することができる。
【0051】
なお、積層セラミックコンデンサ10では、水素の拡散を防止する対象であるセラミック素体11に保護層16が直接設けられていることが重要である。具体的には、例えば、外部電極14,15の下地膜141,151と中間膜142,152との間に保護層16を配置する構成では上記の効果が充分に得られない。
【0052】
つまり、保護層16を下地膜141,151の外側に配置する構成では、下地膜141,151内に吸蔵された水素が、水素を遮蔽する機能を有する保護層16の内側に閉じ込められる。これにより、下地膜141,151内の水素が外部空間に逃げられなくなるため、セラミック素体11の端面E1,E2からの水素の拡散が促進されてしまう。
【0053】
[積層セラミックコンデンサ10の製造方法]
図6は、積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。図7~11は、積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、図6に沿って、図7~11を適宜参照しながら説明する。
【0054】
(ステップS01:セラミック素体作製)
ステップS01では、未焼成のセラミック素体11を作製する。未焼成のセラミック素体11は、図7に示すように、複数のセラミックシートをZ軸方向に積層して熱圧着することにより得られる。セラミックシートに予め所定のパターンの導電性ペーストを印刷しておくことにより、内部電極12,13を配置することができる。
【0055】
セラミックシートは、セラミックスラリーをシート状に成形した未焼成の誘電体グリーンシートである。セラミックシートは、例えば、ロールコーターやドクターブレードなどを用いてシート状に成形される。セラミックスラリーの成分は、所定の組成のセラミック素体11が得られるように調整される。
【0056】
(ステップS02:焼成)
ステップS02では、ステップS01で得られた未焼成のセラミック素体11を焼成する。これにより、セラミック素体11が焼結し、図8に示すセラミック素体11が得られる。セラミック素体11の焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。セラミック素体11の焼成条件は、適宜決定可能である。
【0057】
(ステップS03:保護層形成)
ステップS03では、ステップS02で得られたセラミック素体11の端面E1,E2に、図9に示すように保護層16を形成する。保護層16の形成には、水素の発生が伴う湿式メッキ法以外の方法を用いることができ、例えば、スパッタリング法や蒸着法などを用いることができる。
【0058】
(ステップS04:外部電極形成)
ステップS04では、ステップ03で保護層16が形成されたセラミック素体11に外部電極14,15を形成する。これにより、図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10が完成する。具体的に、ステップS04では、下地膜141,151と、中間膜142,152と、表面膜143,153と、を形成する。
【0059】
まず、図10に示すように、ステップS03で形成された保護層16を覆うようにセラミック素体11に下地膜141,151を形成する。下地膜141,151の形成には、例えば、スパッタリング法や、セラミック素体11に導電性金属ペーストを焼き付ける焼き付け法などを用いることができる。
【0060】
なお、保護層16の主成分を構成する元素がセラミック素体11に拡散しやすい性質を有する場合、保護層16を維持するために、外部電極14,15の形成には加熱プロセスを用いないことが好ましい。この観点から、下地膜141,151の形成には、焼き付け法ではなく、スパッタリング法などを用いることが好ましい。
【0061】
次に、図11に示すように、セラミック素体11に設けられた下地膜141,151上に中間膜142,152を形成する。更に、中間膜142,152上に表面膜143,153を設けることにより、図1,2に示す外部電極14,15が完成する。中間膜142,152及び表面膜143,153の形成には、例えば、湿式メッキ法を用いることができる。
【0062】
湿式メッキ法(特に電解メッキ法)では、その過程において水素が発生し、発生した水素が下地膜141,151や、中間膜142,152及び表面膜143,153自体に侵入する。しかしながら、保護層16で覆われたセラミック素体11では、端面E1,E2から内部への水素の侵入が妨げられる。
【0063】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0064】
例えば、本発明に係る外部電極の構成は、上記実施形態のような3層構造に限定されず、単層構造、2層構造、又は4層以上の構造であってもよい。本発明に係る保護層を設ける構成は外部電極に湿式メッキで形成されたメッキ膜を少なくとも1層含む場合に特に有効であるが、外部電極にはこのようなメッキ膜が含まれていなくてもよい。
【0065】
また、本発明は、積層セラミックコンデンサのみならず、外部電極を有する積層セラミック電子部品全般に適用可能である。本発明を適用可能な積層セラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサ以外に、例えば、チップバリスタ、チップサーミスタ、積層インダクタなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0066】
10…積層セラミックコンデンサ
11…セラミック素体
12,13…内部電極
14,15…外部電極
141,151…下地膜
142,152…中間膜
143,153…表面膜
16…保護層
E1,E2…端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11