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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】遠隔管理システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/34 20100101AFI20240423BHJP
   A01K 11/00 20060101ALI20240423BHJP
   A01K 15/02 20060101ALI20240423BHJP
   G16Y 40/10 20200101ALI20240423BHJP
   H04L 67/12 20220101ALI20240423BHJP
   H04L 67/52 20220101ALI20240423BHJP
【FI】
G01S19/34
A01K11/00 D
A01K15/02 J
G16Y40/10
H04L67/12
H04L67/52
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022013862
(22)【出願日】2022-02-01
(65)【公開番号】P2023112229
(43)【公開日】2023-08-14
【審査請求日】2022-02-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513083624
【氏名又は名称】M・S・K株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】522044113
【氏名又は名称】株式会社アクシスリンク
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】水野 尚淑
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】古屋野 浩志
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-222519(JP,A)
【文献】特開2019-152638(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0108893(KR,A)
【文献】国際公開第2017/183328(WO,A1)
【文献】特開2012-115314(JP,A)
【文献】特開2012-208111(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099407(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 1/00- 3/00
A01K 11/00-29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理する牛の首輪に取り付けられる管理タグと、
上記管理タグの外部の、画像表示装置が接続された管理用のコンピュータと、
上記牛の頭部に取り付けられるバンドに少なくとも前方の空間を撮影することができるように取り付けられる少なくとも一つの、ビデオカメラまたはデジタルカメラからなるカメラと、
を有し、
上記管理タグは、GPS受信機と、上記コンピュータと双方向通信可能な通信装置と、上記GPS受信機および上記通信装置の動作を制御し、上記GPS受信機で受信されるGPS信号より上記牛の位置データを取得し、当該位置データを上記通信装置から外部に送信するとともに、上記コンピュータにおいて生成される仮想フェンスにより囲まれた管理エリアの地図情報がインターネットを通じて上記通信装置に送信され、上記通信装置から送られて格納される処理装置と、上記牛に少なくとも電気刺激からなる忌避刺激を印加する忌避刺激印加装置と、上記GPS受信機、上記通信装置、上記処理装置および上記忌避刺激印加装置に電力を供給する、電池からなる電源とを有し、上記電源のオン/オフにより上記処理装置をオン/オフし、上記処理装置からの制御信号により上記GPS受信機、上記通信装置および上記忌避刺激印加装置のオン/オフを制御するように構成され、
上記管理タグが取り付けられた上記首輪は上記牛の首に上記管理タグの上記忌避刺激印加装置の電気刺激印加端子が上記首に接触するようにはめられ、
上記地図情報は上記コンピュータが有する、設定しようとする管理エリアを含む地域の地図情報データベース、インターネットを介してダウンロードされる、設定しようとする管理エリアを含む地域の地図情報データベースまたはインターネットを介してダウンロードされる、設定しようとする管理エリアを含む地域の衛星画像データベースを用いて生成され、
上記コンピュータに接続された上記画像表示装置の画面に、上記管理エリアの画像および上記管理エリア内の上記牛の位置が表示されるようになっており、
上記処理装置において、格納された上記地図情報に基づいて上記牛が上記仮想フェンスに到達したこと、または、上記仮想フェンスに予め決められた距離以上近づいたことを検出したときに上記忌避刺激印加装置により上記牛に上記忌避刺激を印加するように構成され、
上記牛の頭部に取り付けられた上記バンドに取り付けられる上記カメラによる撮影画像は上記牛の位置データと一緒に上記処理装置に送られ、上記処理装置において、上記カメラで撮影することにより得られる上記管理エリアの撮影画像と上記牛に対して危険な場所を示す複数の画像が蓄積された画像データベースの当該画像とが比較され、上記撮影画像が上記牛に対して危険な場所を示す画像を含むと判定されたときに上記管理エリアに上記牛に対して危険な場所があると判断するように構成され、当該危険な場所の撮影画像および位置データが上記通信装置を介して上記コンピュータに送られるように構成された遠隔管理システム。
【請求項2】
上記牛に取り付けられる放射線測定器をさらに有し、当該放射線測定器により上記位置データと関連付けて放射線測定を行うことができるように構成されている請求項1記載の遠隔管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遠隔管理システムおよび管理タグに関し、例えば、牛等の家畜やその他の各種哺乳類の位置、動き等を離れた位置から把握し管理するのに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
牛等の家畜を放牧地に放牧する場合、放牧された家畜から離れた位置からリアルタイムで家畜の位置を把握するシステムとして、放牧家畜遠隔管理システムが知られている(特許文献1参照)。この放牧家畜遠隔管理システムでは、例えば、牛に首輪を取り付けて放牧地に放牧する。この首輪は、GPS衛星からの電波を受信し、現在位置等のデータを出力するGPS受信機、このGPS受信機からのデータから所望のデータを抽出し、この抽出したデータに予め設定されている牛の識別コードを付加した移動位置信号(牛位置データ)にして送出する位置データ生成部、この位置データ生成部からの牛位置データを送信する無線機およびこれらに電力を供給する電源部を備えている。電源部は、GPS受信機に対しては、10分から20分毎に一度電力を供給する。従って、首輪の無線機から、10分から20分毎に牛位置データが送信される。監視センター側では、GPS衛星からの電波に基づいて自らの位置を求めるとともに牛位置データを受信し、監視センターの画像処理装置が牛位置データの受信時刻に一致する自らの位置との差に基づいて、画面上における放牧地の地図の各画像の位置を移動させて、牛位置データに基づく点画像を地図上に表示する。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された放牧家畜遠隔管理システムでは、GPS受信機に対しては10分から20分毎に一度電力を供給するようにしているためGPS受信機の消費電力の低減を図ることができるものの、位置データ生成部および無線機には本体の電源がオンになっている間常時、電力を供給しているため、電源部の電池はかなり容量の大きいものが必要と考えられ、必然的に電源部の重量はかなり大きくならざるを得ず、従って首輪の重量はかなり大きくなると考えられる。このため、牛に大きな負担を掛けることになり、無用のストレスを与えるおそれが高い。しかも、このような大容量の電池を用いたとしても、GPS受信機、位置データ生成部および無線機全体の電力消費量が大きいため、電池を頻繁に交換しなければならず、交換の手間が掛かると考えられる。
【0004】
このような背景の下、本出願人は、特許文献1に記載された放牧家畜遠隔管理システムの課題を解決するために、新たな遠隔管理システムおよび遠隔管理方法ならびにそれらに用いられる管理タグを提案した(特許文献2参照)。この遠隔管理システムは、被管理対象物に取り付けられる、GPS受信機、通信装置、GPS受信機で受信されるGPS信号より被管理対象物の位置データを取得し、この位置データを通信装置から外部に送信する処理装置および電池からなる電源を有する管理タグを用い、この管理タグにより電源、GPS受信機および通信装置のオン/オフのタイミングを位置データを適切に取得することができ、かつ電力消費ができるだけ少なくなるように制御する。この遠隔管理システムによれば、放牧地に放牧される牛等の家畜に代表される動物や人間等の各種の被管理対象物の位置や動き等を遠隔でニアタイムで正確に把握し管理することができるとともに、管理タグの電力消費量の大幅な低減を図ることができ、それによって管理タグに取り付けられる電池の容量の低減による管理タグの軽量化および電池の交換頻度の大幅な減少を図ることができる。
【0005】
一方、牧柵を設置せずに家畜を放牧する技術(無牧柵放牧)がヨーロッパで報告されている。ノルウェーの、牧柵を設置せずに牛、ヤギ、ヒツジを放牧する技術(ノーフェンス(あるいは仮想フェンス) 放牧技術)がインターネット上に公開されている(非特許文献1参照)。その仕組みは、人工衛星の通信端末をネックベルトに装着し、人工衛星により家畜の位置を確認する技術である。すなわち、GPSを活用した家畜の位置管理技術である。現在、自動車で日常的に利用されているナビゲーションシステムと同様の仕組みで、人工衛星からの電波を受信して現在地を特定するものである。この技術は、GPS端末機を首に付けた家畜が放牧地のどこに居るのか遠隔地でリアルタイムに把握できるシステムであり、省力的かつ確実に放牧地の家畜の頭数や位置を常時確認できる。さらに、GPS端末機から家畜に何らかの信号(電気的な刺激等)を送り、放牧地内の特定範囲内に家畜を留めておくことも可能である。すなわち、放牧地の境界線上に通常は牧柵を設置するが、ノーフェンス技術では境界線に家畜が近づくとGPS受信機に何らかの信号が送られて家畜がそれを感じとり、境界線に近づかないようすることができる。こうすることによって、例えば放牧地の境界線を越えないようにできるし、崖からの転落や隣地への侵入防止が可能になる。
【0006】
また、ノーフェンス技術としては、複数のGPS座標を用いて牛等の動物が閉じ込められる領域を規定し、動物にハウジングで受信機を取り付けてその位置信号を受信し、動物の生理学的状態を少なくとも一つのセンサーによりモニターし、上記の位置信号に基づいて、動物が、上記の複数のGPS座標で規定される領域から予め決められた距離以内にいるかどうかを受信機との電気通信によりプロセッサで決定し、動物が、上記の予め決められた領域から予め決められた距離以内にいると決定されたら電気通信によりハウジングに取り付けられた少なくとも一つの刺激装置により動物に刺激を与えるようにした、動物を制御およびモニターするシステムおよび方法も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-160820号公報
【文献】特許第6644449号公報
【文献】米国特許出願公開第2014/0352632号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】[令和2年9月27日検索]、インターネット〈URL:https://www.nofence.no/en 〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載された遠隔管理システムでは、牛等が管理エリアの外に出てしまうのを防止することができない。
【0010】
また、非特許文献1あるいは特許文献3に記載されたノーフェンス技術では、動物を留める領域を決めてから時間が経過すると、自然災害等によりその領域内にその動物に対して危険な場所が発生することがあるため、動物がその場所に立ち入ってしまい、怪我等をしてしまうおそれがある。
【0011】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、放牧地に放牧される牛等の家畜に代表される各種の被管理哺乳類の位置や動き等を遠隔で正確に把握し管理することができるとともに、ノーフェンスで予め決められた管理エリア内では被管理哺乳類は自律的に行動することができる一方、管理エリアから被管理哺乳類が出てしまうのを未然に防止することができ、しかも管理エリアの設定を容易に行うことができ、さらには管理エリアの状況をカメラによる撮影で観察することができ、それによって例えば、管理エリアの設定時には存在しなかった被管理哺乳類に対して危険な場所が自然災害等の何らかの理由で管理エリアに発生した場合においてもその危険な場所を避けるように迅速に管理エリアの再設定を行うことができ、被管理哺乳類の事故等を未然に防止することができる遠隔管理システムおよびそれに用いられる管理タグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明は、
被管理哺乳類に取り付けられる、GPS受信機と、外部のコンピュータと双方向通信可能な通信装置と、上記GPS受信機および上記通信装置の動作を制御し、上記GPS受信機で受信されるGPS信号より上記被管理哺乳類の位置データを取得し、当該位置データを上記通信装置から外部に送信するとともに、上記コンピュータにおいて生成される仮想フェンスにより囲まれた管理エリアの地図情報が上記通信装置を介して送られて格納される処理装置と、上記被管理哺乳類に忌避刺激を印加する忌避刺激印加装置と、上記GPS受信機、上記通信装置、上記処理装置および上記忌避刺激印加装置に電力を供給する、電池からなる電源とを有し、上記電源のオン/オフにより上記処理装置をオン/オフし、上記処理装置からの制御信号により上記GPS受信機、上記通信装置および上記忌避刺激印加装置のオン/オフを制御する管理タグと、
上記被管理哺乳類に少なくとも前方の空間を撮影することができるように取り付けられる少なくとも一つのカメラと、
を有し、
上記処理装置において、格納された上記地図情報に基づいて上記被管理哺乳類が上記仮想フェンスに到達したこと、または、上記仮想フェンスに予め決められた距離以上近づいたことを検出したときに上記忌避刺激印加装置により上記被管理哺乳類に忌避刺激を印加するように構成され、
上記被管理哺乳類に取り付けられる上記カメラで撮影することにより上記管理エリアの状況の観察を行う遠隔管理システムである。
【0013】
この遠隔管理システムにおいては、被管理哺乳類に取り付けられるカメラによる撮影で管理エリアの状況の観察を行うことにより、管理エリアあるいは管理エリア内の他の被管理哺乳類に何らかの変化が生じているか否かをリアルタイムで確認することができ、異常が生じている場合にはそれを把握することができる。例えば、管理エリアを設定してから長時間経過すると、地震、台風、集中豪雨、竜巻等の自然災害あるいは事故等により、管理エリアの設定時には存在しなかった穴(地面や道路等の陥没等によるもの)、地割れ、倒木、土砂崩れ、崖崩れ、水溜まり、瓦礫等が発生することがあり、それらの中には被管理哺乳類に対して危険な場所となり得るものがあることから、そのような危険な場所に被管理哺乳類が立ち入らないようにするために管理エリアの再設定を検討する必要が生じる場合がある。この場合、管理エリアの状況の観察の結果に基づいて管理エリアの再設定を行うか否かを判断することができる。すなわち、管理エリアの状況の観察の結果、管理エリアに被管理哺乳類に対して上述のような危険な場所があると判断されたときには、この危険な場所を含まないように管理エリアの再設定を行うことができる。管理エリアに危険な場所があるか否かの判断は、この遠隔管理システムの管理者がカメラによる撮影画像を見ながら自ら行ってもよいし、従来公知の画像認識技術を使って自動的に行ってもよい。前者の場合には、撮影画像に基づいて管理者が管理エリアに被管理哺乳類に対して危険な場所があるか否かを判断することができる。後者の場合、画像認識技術としては、例えば、テンプレートマッチングを用いることができる。すなわち、処理装置において、カメラで撮影することにより得られる撮影画像と被管理哺乳類に対して危険な場所を示す複数の画像が蓄積された画像データベースの当該画像とが比較され、撮影画像が被管理哺乳類に対して危険な場所を示す画像を含むと判定されたときに管理エリアに被管理哺乳類に対して危険な場所があると判断することができる。この場合、危険な場所を示す画像がテンプレート画像となる。あるいは、撮影画像の特徴と画像データベースの画像の特徴とを比較することで求められる類似度に基づいて撮影画像が被管理哺乳類に対して危険な場所を示す画像を含むか否かを判定するようにしてもよく、その特徴としては例えばSURF(Speeded Up Robust Features)特徴が用いられる。撮影画像と画像データベースの画像との比較あるいは撮影画像の特徴と画像データベースの画像の特徴との比較は、画像データベースをクラウドサーバーに格納し、撮影画像をクラウドサーバーに送ってクラウドサーバー上で行うようにしてもよい。この場合、比較の結果が処理装置に送られ、最終的に通信装置を介して外部のコンピュータに送られるようにすることができる。画像認識技術はAI(人工知能)を用いたものであってもよく、ディープラーニングで危険な場所を学習させることにより、撮影画像が被管理哺乳類に対して危険な場所を示す画像を含むか否かを容易に判定することができる。撮影画像が被管理哺乳類に対して危険な場所を示す画像を含むと判定されたときには、そのことが管理者に通報されるようにしてもよい。こうして管理エリアに危険な場所があることが分かった場合には、この危険な場所を含まないように管理エリアの再設定を行うことができる。必要に応じて、管理エリアの状況の観察の結果、管理エリアに被管理哺乳類に対して危険な場所があると判断されたとき、被管理哺乳類に忌避刺激を印加するようにしてもよい。こうすることで、管理エリアの再設定を行う前に、被管理哺乳類が危険な場所に近づかないようにすることができる。
【0014】
少なくとも前方の空間を撮影することができるように被管理哺乳類に取り付けられる少なくとも一つのカメラは、イメージセンサを用いたものである限り、基本的にはどのようなものであってもよいが、例えば、動画の撮影または連続撮影(連写)が可能なカメラ、例えばビデオカメラまたはデジタルカメラである。カメラはAIカメラであってもよい。複数のカメラを用いることにより、前方の空間に加えて、左右の空間あるいは後方の空間を撮影することが可能となる。被管理哺乳類に対するカメラの取り付け位置は、被管理哺乳類の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0015】
コンピュータにおいて生成される仮想フェンスにより囲まれた管理エリアの地図情報の生成方法は特に限定されず、必要に応じて選択される。例えば、コンピュータが有する、設定しようとする管理エリアを含む地域の地図情報データベースを用いて作成されたり、インターネットを介してダウンロードされる、設定しようとする管理エリアを含む地域の地図情報データベースあるいは衛星画像データベース(地図情報データベースの一種と考えることができる)を用いて生成される。
【0016】
この遠隔管理システムは、必要に応じて、被管理哺乳類に取り付けられる放射線測定器をさらに有する。この放射線測定器を被管理哺乳類に取り付けて管理エリア内で行動させることにより位置データと関連付けて放射線測定を行うことができ、管理エリアの放射線量の分布を測定することができ、放射線マップ(放射線量等分布マップ)を作成することができる。測定された放射線量が予め決められた値以上であるときには、その領域は被管理哺乳類に危険な場所と判断され、そのことが管理者に通報されるようにしてもよい。通報を受けた管理者は、その領域を避けるように行動させるために、管理エリアの再設定を行い、あるいは、被管理哺乳類に忌避信号を印加してそこに近づかないようにすることができる。必要に応じて、その領域が被管理哺乳類に危険な場所と判断されたときに、被管理哺乳類に忌避信号が印加されるようにしてもよい。被管理哺乳類に対する放射線測定器の取り付け位置は、被管理哺乳類の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0017】
管理タグの構成要素であるGPS受信機、通信装置、処理装置、忌避刺激印加装置および電源の構成は特に限定されず、それぞれ個別素子で構成してもよいし、いずれか二つ以上を一体に構成したものを用いてもよく、必要に応じて選ばれる。例えば、通信装置および処理装置をワンチップ化してもよい。また、必要に応じて、これらの構成要素の一つまたは二つ以上を管理タグ本体から離し、有線または無線で接続するようにしてもよい。この遠隔管理システムにおいては、GPS受信機は、管理タグの電力消費量を抑えるために、好適にはコールドスタートの状態で使用される。そして、この遠隔管理システムにおいては、管理タグは、時刻t1 に上記電源をオンとし、次いで上記時刻t1 から10ミリ秒以内の時刻t2 にコールドスタートの状態で上記GPS受信機をオンとして計測を開始し、上記GPS信号より最初の位置データを取得した後の時刻t3 に上記GPS受信機をオフとし、次いで上記時刻t3 または上記時刻t3 の前後の時刻t4 に上記通信装置をオンとして上記位置データを上記通信装置から送信し、次いで時刻t5 に上記通信装置をオフとし、次いで時刻t6 に上記電源をスリープ状態としてこのスリープ状態を時刻t7 まで継続し、上記時刻t1 から上記時刻t7 までの動作を繰り返し行うように構成される。必要に応じて、管理タグは、好適には、時刻t1 に上記電源をオンとし、上記時刻t1 から10ミリ秒以内の時刻t2 に上記GPS受信機をオンとして計測を開始し、上記GPS信号より最初の位置データを取得した直後の時刻t3 に上記GPS受信機をオフとし、上記時刻t3 または上記時刻t3 の前後の時刻t4 に上記通信装置をオンとして上記位置データを上記通信装置から送信し、上記時刻t3 または上記時刻t4 から5秒以内の時刻t5 に上記通信装置をオフとし、上記時刻t5 から1秒以内の時刻t6 に上記電源をスリープ状態としてこのスリープ状態を時刻t7 まで1秒以上継続し、上記時刻t1 から上記時刻t6 までの時間を5分以内とし、上記時刻t1 から上記時刻t7 までの動作を繰り返し行うように構成される。管理タグの電力消費量をより一層抑える観点より、時刻t1 から時刻t2 までの時間、時刻t2 から時刻t3 までの時間、時刻t3 または時刻t4 から時刻t5 までの時間はできるだけ短くするのが望ましい。好適には、時刻t1 から時刻t2 までの時間は10マイクロ秒以内、より好適には5マイクロ秒以内、時刻t2 から時刻t3 までの時間は5分以内、好適には3分以内、より好適には1分以内で可能な限り短くし、時刻t3 または時刻t4 から時刻t5 までの時間は4秒以内であり、時刻t1 から時刻t6 までの時間は1分以内である。管理タグの電力消費量のさらなる低減を図る観点より、管理タグは、好適には、時刻t1 に上記電源をオンとし、次いで上記時刻t1 から5マイクロ秒以内の時刻t2 にコールドスタートの状態で上記GPS受信機をオンとして計測を開始し、上記GPS信号より最初の位置情報を取得した後であって上記時刻t2 から1秒以上50秒以内の時刻t3 に上記GPS受信機をオフとし、上記時刻t3 に上記通信装置をオンとして通信を開始し、上記位置情報を上記通信装置から送信できた場合もできなかった場合も通信開始後1秒以内に通信を終了して上記時刻t3 から4秒以内の時刻t5 に上記通信装置をオフとし、次いで上記時刻t5 から1秒以内の時刻t6 に上記電源をスリープ状態としてこのスリープ状態を上記時刻t6 から1分以上の時刻t7 まで継続し、上記時刻t1 から上記時刻t6 までの時間を1分以内とし、上記時刻t1 から上記時刻t7 までの動作を繰り返し行うように構成される。
【0018】
電源を構成する電池は特に限定されず、必要に応じて電池の種類、電池容量、個数等が選ばれる。
【0019】
忌避刺激は、被管理哺乳類の種類等に応じて適宜選択され、例えば、電気刺激、音響刺激、光学刺激、振動刺激および臭い刺激からなる群より選ばれた少なくとも一つ、あるいは、これらの任意の二つ以上を組み合わせたものであるが、これに限定されるものではなく、他の刺激であってもよい。電気刺激は、例えば、被管理哺乳類が嫌う電圧値および/またはパルス幅あるいは周期のパルス高電圧等であり、被管理哺乳類の体性感覚に訴えるものである。音響刺激は、例えば、被管理哺乳類が嫌う天敵の鳴き声やアブ等の羽根のある昆虫の羽音等であり、被管理哺乳類の聴覚に訴えるものである。光学刺激は、例えば、被管理哺乳類が嫌う波長帯および/または強さの光(例えば、LEDライトの光等)あるいは点滅光等であり、被管理哺乳類の視覚に訴えるものである。振動刺激は、例えば、被管理哺乳類が嫌う振動数および/または強さの振動(例えば、超音波振動等)等であり、被管理哺乳類の体性感覚に訴えるものである。臭い刺激は、例えば、被管理哺乳類が嫌う臭い(例えば、被管理哺乳類が嫌う天敵の臭い等)であり、被管理哺乳類の嗅覚に訴えるものである。
【0020】
典型的には、通信装置と外部のコンピュータとはインターネットを介して双方向通信可能であるが、これに限定されるものではなく、インターネット以外の手法を用いて双方向通信可能としてもよい。
【0021】
この遠隔管理システムの一つの例では、管理タグの通信装置から送信される位置データを受信する中継機およびこの中継機から転送される位置データを受信し、被管理哺乳類の管理を行う管理センターをさらに有する。被管理哺乳類の位置データは複数の中継機を経由して管理センターに受信されることもあるし、中継機からさらに、インターネット等の電気通信回線(無線または有線)を経由して管理センターに受信されることもある。あるいは、被管理哺乳類の位置データは、通信装置から直接、管理センターのコンピュータに接続された画像表示装置に送信されるようにしてもよい。この遠隔管理システムの他の例では、中継機を設けず、管理タグから直接、位置データを受信し、被管理哺乳類の管理を行う管理センターをさらに有する。管理センターには、典型的には、コンピュータおよびこれに接続された画像表示装置が設けられ、この画像表示装置の画面に管理エリアの画像および管理エリア内の被管理哺乳類の位置が表示される。中継機は、管理エリア全体で被管理哺乳類の遠隔管理が可能となるように、管理エリア内に一つまたは複数設置される。
【0022】
被管理哺乳類は基本的にはどのようなものであってもよい。哺乳類は大きく分けて、人(ヒト)以外の哺乳類と人(ヒト)とからなる。人(ヒト)以外の哺乳類は、例えば、家畜、家畜以外の動物である。人(ヒト)以外の哺乳類は、具体的には、例えば、牛(乳牛、肉牛を含む)、水牛、ジャワ牛、バッファロー、バンテーン、ヤク、ヒツジ、ヤギ、アンテロープ、シカ、ガゼル、キリン、ラクダ、アルパカ、リャマ、グアナコ、ビクーニャ、マメジカ、ネズミジカ等の脊椎動物偶蹄類(反芻動物)やウマ、ロバ等の脊椎動物奇蹄類等であるが、これに限定されるものではない。被管理哺乳類への管理タグの取り付けは、被管理哺乳類の種類や状況等に応じて行うことができる。例えば、被管理哺乳類が家畜である場合、管理タグは、家畜の首にはめられる首輪等に取り付けられたり、耳、胴体、足首等に取り付けられる。
【0023】
また、この発明は、
被管理哺乳類に取り付けられる管理タグであって、
GPS受信機と、外部のコンピュータと双方向通信可能な通信装置と、上記GPS受信機および上記通信装置の動作を制御し、上記GPS受信機で受信されるGPS信号より上記被管理哺乳類の位置データを取得し、当該位置データを上記通信装置から外部に送信するとともに、上記コンピュータにおいて生成される仮想フェンスにより囲まれた管理エリアの地図情報が上記通信装置を介して送られて格納される処理装置と、上記被管理哺乳類に忌避刺激を印加する忌避刺激印加装置と、上記GPS受信機、上記通信装置、上記処理装置および上記忌避刺激印加装置に電力を供給する、電池からなる電源とを有し、
上記電源のオン/オフにより上記処理装置をオン/オフし、上記処理装置からの制御信号により上記GPS受信機、上記通信装置および上記忌避刺激印加装置のオン/オフを制御するように構成され、
上記処理装置において、格納された上記地図情報に基づいて上記被管理哺乳類が上記仮想フェンスに到達したこと、もしくは、上記仮想フェンスに予め決められた距離以上近づいたことを検出したときに上記忌避刺激印加装置により上記被管理哺乳類に忌避刺激を印加するように構成され、
上記被管理哺乳類に少なくとも前方の空間を撮影することができるように取り付けられる少なくとも一つのカメラで撮影することにより上記管理エリアの状況の観察を行い、上記処理装置において、上記カメラで撮影することにより得られる撮影画像と上記被管理哺乳類に対して危険な場所を示す複数の画像が蓄積された画像データベースの当該画像とが比較され、上記撮影画像が上記被管理哺乳類に対して危険な場所を示す画像を含むと判定されたときに上記管理エリアに上記被管理哺乳類に対して危険な場所があると判断するように構成されていることを特徴とするものである。
【0024】
この管理タグの発明においては、その性質に反しない限り、上記の遠隔管理システムの発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、管理タグを装着した被管理哺乳類が予め決められた管理エリアの境界の仮想フェンスに到達したとき、または、仮想フェンスに予め決められた距離以上近づいたときに忌避刺激が印加されるようになっているので、管理エリアの境界を越える被管理哺乳類の移動をノーフェンスで制限することができ、しかもこの際、被管理哺乳類が管理エリアの仮想フェンスに到達したこと等の検出は外部のコンピュータに頼らず、言い換えれば外部のコンピュータとの間で常時通信を行わないでも被管理哺乳類に装着された管理タグ自体で行うことができ、さらに、GPS信号を取得して被管理哺乳類の位置データを取得することができるため、被管理哺乳類の位置や動き等を遠隔で正確に把握し管理することができ、しかも管理エリアの設定を容易に行うことができ、さらには管理エリアの状況をカメラによる撮影で容易に観察することができ、それによって例えば、管理エリアの設定時には存在しなかった被管理哺乳類に対して危険な場所が自然災害等の何らかの理由で管理エリアに発生した場合においてもその危険な場所を避けるように迅速に管理エリアの再設定を行うことができることから、被管理哺乳類の事故等を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】この発明の一実施の形態による遠隔管理システムの全体構成を示す略線図である。
図2】この発明の一実施の形態による遠隔管理システムにおいて用いられる管理タグを示す略線図である。
図3】この発明の一実施の形態による遠隔管理システムにおいて被管理哺乳類が牛である場合に忌避刺激として用いられるパルス高電圧の波形の例を示す略線図である。
図4】この発明の一実施の形態による遠隔管理システムにおいてカメラにより探索される危険な場所の第1の例を示す略線図である。
図5】この発明の一実施の形態による遠隔管理システムにおいてカメラにより探索される危険な場所の第2の例を示す略線図である。
図6】この発明の一実施の形態による遠隔管理システムにおいてカメラにより探索される危険な場所の第3の例を示す略線図である。
図7】この発明の一実施の形態による遠隔管理システムにおける管理タグのGPS受信機、処理装置および通信装置への電力の供給方法を示す略線図である。
図8】この発明の一実施の形態による遠隔管理システムにより管理を行う管理エリアの一例を示す略線図である。
図9】この発明の一実施の形態による遠隔管理システムにおいて危険な場所の探索の結果、再設定を行った後の管理エリアの一例を示す略線図である。
図10】この発明の一実施の形態による遠隔管理システムにおいて被管理哺乳類としての牛の首に管理タグ付き首輪をはめ、頭部にカメラを取り付けた状態を示す略線図である。
図11】この発明の一実施の形態による遠隔管理システムにおいて被管理哺乳類としての牛の首にはめられる管理タグ付き首輪を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」と言う。)について説明する。
【0028】
〈一実施の形態〉
[遠隔管理システム]
図1は一実施の形態による遠隔管理システムの全体構成を示す。
【0029】
図1に示すように、この遠隔管理システムにおいては、被管理哺乳類10に管理タグ20が取り付けられる。被管理哺乳類10は一つまたは複数あり、複数の場合はそれぞれの被管理哺乳類10に一つの管理タグ20が取り付けられる。各管理タグ20には識別コードが付与されており、この識別コードにより管理タグ20が取り付けられた被管理哺乳類10の識別が可能になっている。被管理哺乳類10は既に述べた通りである。被管理哺乳類10に管理タグ20を取り付ける位置や取り付け方は被管理哺乳類10の種類、性状等に応じて適宜選択することができる。例えば、被管理哺乳類10が牛等の家畜である場合、管理タグ20は好適には家畜の首にはめられる首輪に取り付けられ、首輪に別体として取り付けられる場合もあるし首輪に一体に設けられる場合もある。管理タグ20は、破損や冠水等を防止するために、典型的には、容器、取り分け密閉容器、好適には防水性の容器に収納される。
【0030】
後に詳述するが、管理タグ20はGPS受信機、処理装置(プロセッサ)、通信装置および被管理哺乳類10に忌避刺激を印加する忌避刺激印加装置を有し、全球測位衛星システムを構成する複数のGPS衛星30から送られるGPS信号をGPS受信機により受信し、処理装置においてこのGPS信号より被管理哺乳類10の位置データを取得し、こうして取得した位置データを通信装置により外部に送信する。こうして管理タグ20の通信装置から送信された位置データは中継機40により受信され、内蔵のメモリ(図示せず)に記録される。中継機40は、管理エリア全体をカバーするように一つまたは複数設置する。そして、中継機40のメモリに記録された位置データは、無線または有線により管理センター50に送信され、管理センター50に備えられた管理用のコンピュータ50aにより受信される。このコンピュータ50aは、設定しようとする管理エリアを含む地域の地図情報データベースを有し、あるいはインターネットを介して設定しようとする管理エリアを含む地域の地図情報データベースをダウンロードし、あるいはインターネットを介して設定しようとする管理エリアを含む地域の衛星画像データベースをダウンロードし、この地図情報データベースあるいは衛星画像データベースに基づいて、仮想フェンスにより囲まれた管理エリアの地図情報を生成することができるようになっている。そして、このコンピュータ50aに接続された画像表示装置の画面に、仮想フェンスにより囲まれた管理エリアの画像および管理エリア内の被管理哺乳類10の位置が表示されるようになっている。管理タグ20はまた、通信装置を介して、管理センター50に備えられたコンピュータ50aとインターネットを通じて双方向通信可能となっている。そして、上述のように生成された、仮想フェンスにより囲まれた管理エリアの地図情報がインターネットを通じて管理タグ20の通信装置に送信され、処理装置に格納されるようになっている。そして、処理装置に予め組み込まれたプログラムにより、被管理哺乳類10が管理エリア内を移動して仮想フェンスに到達したとき、または、仮想フェンスに予め決められた距離以上近づいたときに忌避刺激印加装置により被管理哺乳類10に忌避刺激が印加されるようになっている。その結果、被管理哺乳類10が仮想フェンスを越えて管理エリアから出てしまうのを防止することができる。被管理哺乳類10が仮想フェンスに到達し、あるいは仮想フェンスに予め決められた距離以上近づいたこと、それらの地点、忌避刺激が印加されたこと等は、通信装置によりインターネットを通じてコンピュータ50aに送信され、画像表示装置の画面に表示されるとともに記録される。GPS衛星30としては、最も好適には、最大で数cmの測位精度を得ることができる準天頂衛星システム「みちびき」の準天頂衛星が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0031】
図2は管理タグ20の詳細を示す。図2に示すように、この管理タグ20は、基板20a上にGPS受信機21、処理装置22、通信装置23、忌避刺激印加装置24、電源を構成する電池25、電源レギュレータ26、電源レギュレータ27および電源レギュレータ28を有する。処理装置22のGND端子、電源レギュレータ26のGND端子、電源レギュレータ27のGND端子および電源レギュレータ28のGND端子は電池25の負極と接続され、処理装置22のVCC端子、電源レギュレータ26のVCC端子、電源レギュレータ27のVCC端子および電源レギュレータ28のVCC端子はスイッチ29を介して電池25の正極と接続されている。スイッチ29が閉じた状態では、処理装置22のGND端子およびVCC端子間、電源レギュレータ26のGND端子およびVCC端子間、電源レギュレータ27のGND端子およびVCC端子間および電源レギュレータ28のGND端子およびVCC端子間に電池25の電圧がそれぞれ印加される。GPS受信機21のGND端子およびVCC端子間には、電源レギュレータ26により昇圧もしくは降圧および安定化された電圧が印加されるようになっている。また、通信装置22のGND端子およびVCC端子間には、電源レギュレータ27により昇圧もしくは降圧および安定化された電圧が印加されるようになっている。忌避刺激印加装置24のGND端子およびVCC端子間には、電源レギュレータ28により昇圧もしくは降圧および安定化された電圧が印加されるようになっている。電源レギュレータ26、電源レギュレータ27および電源レギュレータ28への電力の供給、従ってGPS受信機22、通信装置24および忌避刺激印加装置24への電力の供給は、処理装置22のCTR端子から送出される制御信号により制御されるようになっている。この制御方法の詳細は後述する。また、電池25に接続されたスイッチ29のオン/オフは、ボタン等によりマニュアルで行うことができる。GPS受信機21のデータ入出力端子RDおよびSDはそれぞれ処理装置22のデータ入出力端子RDおよびSDと接続されている。通信装置23のデータ入出力端子RDおよびSDはそれぞれ処理装置22のデータ入出力端子RDおよびSDと接続されている。電池25は、一つであっても複数であってもよく、一次電池であっても二次電池であってもよく、管理タグ20の用途等によって必要に応じて選ばれる。管理タグ20の軽量性を重視する用途では、電池25として例えば単三電池3本または4本が用いられ、管理タグ20が低消費電力であることによりこの場合でも長期間に亘って管理タグ20を使用し続けることができる。管理タグ20は、例えば、防水性の容器、例えばプラスチック製のカプセル等に収納されて使用される。
【0032】
忌避刺激印加装置24は、忌避刺激の種類に応じて構成される。忌避刺激として電気刺激を用いる場合、忌避刺激印加装置24は、例えば、パルス高電圧を発生させるための昇圧回路(トランス)、パルス高電圧を被管理哺乳類10の刺激部位に印加するための印加端子、さらには、この印加端子を管理タグ20の外部に引き出す場合は引き出しケーブル等により構成される。例えば、被管理哺乳類10が牛の場合、5000~9000Vのパルス高電圧を1~15msの周期で繰り返し印加する。パルス高電圧の波形の例を図3A、BおよびCに示す。図3A、BおよびCに示す波形は順に電圧が低下しており、図3Aはショック強、図3Bはショック中、図3Cはショック弱の波形である。図3Aに示す波形のピーク電圧は例えば7500~8500V程度(例えば8000V)、図3Bに示す波形のピーク電圧は例えば6000~7000V程度(例えば6500V)、図3Cに示す波形のピーク電圧は例えば5000~5800V程度(例えば5500V)であり、いずれの波形もパルス幅は例えば0.1~0.3ms程度(例えば0.2ms)、パルス間隔(周期)は例えば1~5ms程度(例えば2ms)である。忌避刺激として音響刺激を用いる場合、忌避刺激印加装置24は、例えば、被管理哺乳類10の天敵の鳴き声や昆虫の羽音を記録したレコーダー、このレコーダーに記録された鳴き声や昆虫の羽音を被管理哺乳類10の耳の付近に流すスピーカー、さらには、このスピーカーを管理タグ20の外部に引き出す場合は引き出しケーブル等により構成される。忌避刺激として光学刺激を用いる場合、忌避刺激印加装置24は、例えば、被管理哺乳類10が嫌う波長帯および/または強さの光あるいは点滅光を被管理哺乳類10の目の付近で発光させる光源、例えば発光ダイオード(LED)、さらには、光源を管理タグ20の外部に引き出す場合は引き出しケーブル等により構成される。忌避刺激として振動刺激を用いる場合、忌避刺激印加装置24は、例えば、被管理哺乳類10が嫌う振動数および/または強さの振動を発生する振動装置、この振動装置が発生する振動を被管理哺乳類10の刺激部位(振動を感じやすい体表部分)に印加するための印加端子、さらには、この印加端子を管理タグ20の外部に引き出す場合は引き出しケーブル等により構成される。忌避刺激として臭い刺激を用いる場合、忌避刺激印加装置24は、例えば、被管理哺乳類10が嫌う臭いを被管理哺乳類10の鼻の付近で発生させる臭い発生装置、さらには、この臭い発生装置を管理タグ20の外部に引き出す場合は引き出しケーブル等により構成される。これらの電気刺激、音響刺激、光学刺激、振動刺激および臭い刺激からなる群のうちの二つ以上を組み合わせる場合は、忌避刺激印加装置24として上記の5種類のもののうちの二つ以上を組み合わせる。
【0033】
一方、被管理哺乳類10には、少なくとも前方の空間を撮影することができるように少なくとも一つのカメラ60が取り付けられる。カメラ60は、被管理哺乳類10の種類等に応じて選択されるが、例えば、市販のデジタルビデオカメラあるいはデジタルカメラ(例えば、連続撮影が可能なもの)を用いることができる。カメラ60で撮影した撮影画像は画像信号として有線または無線で処理装置22のメモリに送られて格納される。処理装置22のメモリには、管理エリアで発生する可能性がある、被管理哺乳類10に対して危険と考えられる複数の場所の画像が蓄積された画像データベースが格納されている。そして、処理装置22において撮影画像と画像データベースの画像との比較が行われ、撮影画像に危険な場所を示す画像が含まれているかどうかの判定が行われる。あるいは、被管理哺乳類10に対して危険と考えられる複数の場所の画像が蓄積された画像データベースをクラウドサーバーに格納しておき、そのクラウドサーバーにカメラ60で撮影した撮影画像を送信し、そのクラウドサーバー上で撮影画像と画像データベースの画像との比較が行われ、撮影画像に危険な場所を示す画像が含まれているかどうかの判定が行われようにしてもよい。撮影画像に危険な場所を示す画像が含まれていると判定された場合には管理者にアラーム等により通報されるようにする。
【0034】
被管理哺乳類10に対して危険な場所を示す画像の例について説明する。ここでは、危険な場所の例として穴、倒木および瓦礫について説明する。図4A、BおよびCは陥没等により地面に深い穴が形成された第1の例を示す。図5A、BおよびCは地面に倒木がある第2の例を示す。図6A、BおよびCは地面に瓦礫が存在している第3の例を示す。このように、同じ種類の危険な場所であっても、複数のバリエーションを用意することが望ましい。
【0035】
[遠隔管理システムの動作方法]
遠隔管理を行う一つまたは複数の被管理哺乳類10に管理タグ20およびカメラ60を装着する。例えば、被管理哺乳類10が牛等の家畜である場合には、その首にはめる首輪等に管理タグ20を取り付ける。管理タグ20の装着方法は特に限定されないが、例えば、家畜の首にはめた時の首輪の上部あるいは下部にバンド等により管理タグ20を固定する。この場合、管理タグ20の忌避刺激印加装置24の忌避刺激を印加する端子は忌避刺激の種類に応じて被管理哺乳類10の刺激部位付近に位置するようにする。また、カメラ60は、被管理哺乳類10が牛等の家畜である場合には、バンド等によりその頭部に取り付ける。
【0036】
スイッチ29を閉じて管理タグ20(本体)の電源をオンとする。それによって、処理装置22がオンとなり、遠隔管理システムの動作が開始する。具体的には、処理装置22のCTR端子から送出される制御信号により、GPS受信機21および通信装置23の電源のオン/オフを制御する。カメラ60の電源のオン/オフは管理タグ20の電源のオン/オフと連動するようにしてもよいし、手動でオン/オフを行うようにしてもよい。
【0037】
GPS受信機21、処理装置22および通信装置23の電源のオン/オフのタイミングを図7に示す。図7に示すように、時刻t1 に電源をオンとする。時刻t1 から10ミリ秒以内、好適には例えば5ミリ秒以内の時刻t2 にコールドスタートの状態でGPS受信機22をオンとして計測を開始する。計測を開始するとGPS信号が取得される。取得されたGPS信号は処理装置22に送られ、被管理哺乳類10の位置データが求められる。GPS信号より最初の位置データを取得した直後の時刻t3 にGPS受信機21をオフとする。時刻t3 に通信装置23をオンとして処理装置22により取得された位置データを通信装置23から送信する。時刻t3 から5秒以内の時刻t5 に通信装置23をオフとする。時刻t5 から10ミリ秒以内、好適には例えば5ミリ秒以内の時刻t6 にスリープ状態としてこのスリープ状態を時刻t7 まで1秒以上、好適には1分以上継続する。そして、時刻t1 から時刻t6 までの時間を10分以内、好適には5分以内、より好適には1分以内とし、時刻t1 から時刻t7 までの動作を繰り返し行う。好適には、時刻t1 に電源をオンとし、次いで時刻t1 から5マイクロ秒以内の時刻t2 にコールドスタートの状態でGPS受信機21をオンとして計測を開始し、GPS信号より最初の位置データを取得した後であって時刻t2 から1秒以上50秒以内の時刻t3 にGPS受信機21をオフとし、時刻t3 に通信装置23をオンとして通信を開始し、位置データを通信装置23から送信できた場合もできなかった場合も通信開始後1秒以内に通信を終了して時刻t3 から4秒以内の時刻t5 に通信装置23をオフとし、次いで時刻t5 から1秒以内の時刻t6 に電源をスリープ状態としてこのスリープ状態を時刻t6 から1分以上の時刻t7 まで継続し、時刻t1 から時刻t6 までの時間を1分以内とし、時刻t1 から時刻t7 までの動作を繰り返し行う。これらの動作は、処理装置22に組み込まれた所定のプログラムに従って実行される。
【0038】
上述のようにして通信装置23から送信された被管理哺乳類10の位置データは中継機40に送信され、この中継機40から管理センター50のコンピュータ50aに送信される。被管理哺乳類10の位置データは複数の中継機40を経由することもあるし、中継機40からさらに、インターネット等の電気通信回線(無線または有線)を経由することもある。あるいは、被管理哺乳類10の位置データは、通信装置23から直接、管理センター50のコンピュータ50aに送信されるようにしてもよい。こうして管理センター50のコンピュータ50aに受信された位置データは、このコンピュータ50aに接続された画像表示装置の画面に表示された管理エリアの画像上に表示される。必要に応じて、特定の被管理哺乳類10に注目し、管理エリア内におけるこの被管理哺乳類10の移動軌跡を調べることができる。好適には、地図上に被管理哺乳類10の位置を示す。
【0039】
管理エリア内を移動する被管理哺乳類10が仮想フェンスに到達したとき、あるいは、仮想フェンスに予め決められた距離以上近づいたとき、それが処理装置22により検出される。その結果、管理タグ20の忌避刺激印加装置24により忌避刺激が被管理哺乳類10の刺激部位に印加される。こうして印加される忌避刺激により被管理哺乳類10は仮想フェンスから離れる。このため、被管理哺乳類10が仮想フェンスを越えて管理エリア外に移動するのを未然に防止することができる。既に述べたように、被管理哺乳類10が仮想フェンスに到達したこと等、それらの地点、忌避刺激が印加されたこと等は、通信装置23によりコンピュータ50aに送信され、画像表示装置の画面に管理エリアとともに表示され、メモリ等に記録される。
【0040】
管理エリアの一例を図8に示す。図8に示すように、仮想フェンス71により囲まれた領域が管理エリア72を示す。図8には一例として管理エリア72が長方形である場合を示したが、管理エリア72の形状および大きさ(広さ)は必要に応じて選ばれる。例えば牛を放牧する場合は、放牧に適した高原に管理エリア72を設定する。
【0041】
一方、被管理哺乳類10に取り付けられたカメラ60により被管理哺乳類10の前方の空間の撮影が行われ、被管理哺乳類10の移動に伴って撮影される場所が変化する。例えば、カメラ60による撮影画像は被管理哺乳類10の位置データと一緒に管理タグ20の処理装置22に通信により送られ、危険な場所を示す画像が多数蓄積された画像データベースの画像との比較が行われる。この比較の結果、撮影画像に危険な場所が含まれていると判定されたときは、そのことが管理者に通報されるとともに、その撮影画像および位置データが送られる。管理者は、この通報を受けてその撮影画像を分析し、必要に応じて現地に出向いて状況を観察する。その結果、その場所が被管理哺乳類10にとって危険な場所であると判断した場合は、その危険な場所を避けるように仮想フェンスを定め、管理エリアの再設定を行う。管理エリアの再設定は、管理エリアを設定したときと同様に行うことができる。一例を図9に示す。すなわち、図9に示すように、管理エリア72内に危険な場所73(×で示す)が発見された場合、この危険な場所73を囲むように仮想フェンス71を作成し直し、管理エリア72の再設定を行う。こうして管理エリア72の再設定を行うことにより、被管理哺乳類10が危険な場所73の周りの仮想フェンス71に到達したとき、あるいは、この仮想フェンス71に予め決められた距離以上近づいたとき、それが処理装置22により検出される。その結果、管理タグ20の忌避刺激印加装置24により忌避刺激が被管理哺乳類10の刺激部位に印加される。こうして印加される忌避刺激により被管理哺乳類10は仮想フェンス71から離れ、危険な場所に立ち入ることが防止される。被管理哺乳類10に対して危険な場所が発見された場合には、そのまま放置すると被管理哺乳類10がその危険な場所に立ち入ってしまうおそれがあるため、必要に応じて、処理装置22にコンピュータ50aから信号を送って忌避刺激印加装置24を起動させて忌避刺激が被管理哺乳類10の刺激部位に印加されるようにしてもよい。こうすることで、管理エリア72の再設定が行われるまでの間に被管理哺乳類10が危険な場所に立ち入ることが防止される。
【0042】
一例として、牛に管理タグ20およびカメラ60を取り付ける具体的な方法について説明する。図10は、牛81の首輪82に管理タグ20を取り付けた様子を示す。図11は首輪82および管理タグ20の詳細を示す。図10および図11に示すように、管理する牛81の首81aに、管理タグ20を取り付けた首輪82を、管理タグ20の忌避刺激印加装置24の電気刺激印加端子24aが首81aに接触するようにはめる。こうすることで、牛81の首81aに電気刺激としてパルス高電圧を印加することができる。図10に示すように、カメラ60は、牛81の頭部81bに取り付けられるバンド83のカメラ固定具(図示せず)に前方の空間を撮影することができるように取り付ける。
【0043】
この一実施の形態による遠隔管理システムによれば、次のような種々の利点を得ることができる。すなわち、遠隔管理を行う被管理哺乳類10に管理タグ20を装着するだけで管理エリア内の位置データを実用的な範囲でニアタイムで取得することができる。このため、被管理哺乳類10の位置や動き等を十分に実用的な範囲で把握することができ、被管理哺乳類10を良好に管理することができる。また、管理タグ20を装着した被管理哺乳類10が予め決められた管理エリアの境界の仮想フェンスに到達したとき、または、仮想フェンスに予め決められた距離以上近づいたときに忌避刺激が印加されるようになっているので、管理エリアの境界を越える被管理哺乳類10の移動をノーフェンスで制限することができ、しかもこの際、被管理哺乳類10が管理エリアの仮想フェンスに到達したこと等およびその後の忌避刺激の印加は、外部のコンピュータ50aに頼らず、言い換えれば外部のコンピュータ50aとの間で通信を行わないでも被管理哺乳類10に装着された管理タグ20自体で行うことができる。すなわち、各被管理哺乳類10は自分に課せられた制約の中で自律的に行動することができる。また、例えば、放牧地に被管理哺乳類10として個体種と改良種とが混在する場合、それらの一方を管理エリア内に収容することにより、両者の交雑を防止することができる。また、管理タグ20の消費電力の大幅な低減を図ることができるため、電池25として容量が小さいものを用いても長期間に亘って管理タグ20を使用し続けることができ、電池25の交換頻度の大幅な低減を図ることができる。また、電池25として容量が小さいものを用いることができるので、電池25の軽量化を図ることができ、ひいては管理タグ20の軽量化を図ることができる。このため、例えば牛等の家畜の首輪に管理タグ20を取り付けても、首輪の重量増加が少ないため、家畜に生じる負担は殆どなく、無用のストレスを与えるおそれがない。さらに、被管理哺乳類10の前方の空間を撮影することができるように取り付けられたカメラ60により管理エリアの撮影が可能であるため、撮影画像により管理エリアあるいは管理エリア内の他の被管理哺乳類10の状況を観察することができる。そして、管理エリア内に何らかの原因で危険な場所が発生したことを発見した場合、その危険な場所を避けるように管理エリアの再設定を行うことができる。
【0044】
この遠隔管理システムは、牛の放牧等に適用すると極めて好適である。すなわち、この遠隔管理システムでは、仮想フェンスを自由にしかも容易に作ることができる。例えば、放牧している牛の群に、治療や投薬あるいは人工授精等何らかの処置をしなければならない牛がいれば、その1頭のみに有効な仮想フェンスを作り、管理タグ20の忌避刺激印加装置24によりその牛に忌避刺激を印加することで誘導して牛舎や放牧地の捕獲施設に追い込むことができるようになる。このため、例えば、遠隔地(例えば海外から)のコンピュータ50a上で放牧している牛の行動確認や頭数確認が常時できるようになり、省力的かつ効率的に牛の管理ができると同時に、人件費や飼養管理のコストの大幅削減を期待することができる。そうなれば、現在、わが国の畜産が抱える農家の高齢化に伴う離農戸数の増加、担い手や後継者不足、農村地域の衰退、生産コストの低減等の解決に少なからず貢献すると期待される。このようなノーフェンス技術をより充実した多機能な肉用牛の放牧システムにするためには、放牧地における牛の行動追跡の精度の向上と行動と生理機能との関係の解明が必要である。例えば、体調の悪い牛の行動特性、さらには病気ごとの行動特性が識別できるようになれば管理の精度は向上する。また、発情や分娩を発見できれば生産性向上が期待できる。また、人工衛星を使った一連の畜産関連技術の開発においては、地理情報システム(GIS)を活用した草地の収量予測や栽培管理等の研究もすでに進んでいる。また、牛の生体情報の収集に関する技術開発も盛んに行われており、発情発見補助装置(歩数計等)、分娩監視装置等がすでに実用化されている。これらの技術を統合すれば、さらに効率的で精密な牛の飼養管理が牛舎でも放牧地でも可能なると期待される。
【0045】
以上、この発明の一実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0046】
例えば、上述の一実施の形態において挙げた数値、構成、構造、形状等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構成、構造、形状等を用いてもよい。
【0047】
また、上述の一実施の形態においては、仮想フェンスにより囲まれた管理エリアの地図情報を生成するコンピュータとして管理センター50に備えられた管理用のコンピュータ50aを用いているが、管理センター50の外部のコンピュータを用いてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…被管理哺乳類、20…管理タグ、20a…基板、21…GPS受信機、22…処理装置、23…通信装置、24…忌避刺激印加装置、25…電池、26、27、28…電源レギュレータ、29…スイッチ、30…GPS衛星、40…中継機、50…管理センター、50a…コンピュータ、60…カメラ、71…仮想フェンス、72…管理エリア、81…牛
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11