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特許7477117血液検体の分析方法、血液検体分析用試薬及び試薬キット、並びに血液検体分析装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】血液検体の分析方法、血液検体分析用試薬及び試薬キット、並びに血液検体分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/86 20060101AFI20240423BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G01N33/86
G01N33/483 C
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022101231
(22)【出願日】2022-06-23
(62)【分割の表示】P 2016090860の分割
【原出願日】2016-04-28
(65)【公開番号】P2022123129
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2022-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】嶋 緑倫
(72)【発明者】
【氏名】野上 恵嗣
(72)【発明者】
【氏名】松本 智子
(72)【発明者】
【氏名】篠原 翔
(72)【発明者】
【氏名】新井 信夫
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0268483(US,A1)
【文献】国際公開第2016/012729(WO,A1)
【文献】特表2008-531692(JP,A)
【文献】国際公開第2015/171116(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/019145(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0045518(US,A1)
【文献】特表2017-523411(JP,A)
【文献】Douglas B. Kell、外1名,The simultaneous occurrence of both hypercoagulability and hypofibrinolysis in blood and serum durin,Integrative Biology,2015年,Vol.7,pp. 24-52
【文献】Vance G Nielsen,Corn trypsin inhibitor decreases tissue-type plasminogen activator-mediated fibrinolysis of human pl,Blood Coagulation & Fibrinolysis,2009年,Vol.20,No.3,pp. 191-6
【文献】Shima M.、外3名,Towards standardization of clot waveform analysis and recommendations for its clinical applications.,Journal of Thrombosis and Haemostasis,2013年,Vol.11,pp. 1417-1420
【文献】Marcus D Lance,A general review of major global coagulation assays:thrombelastography, thrombin generation test and,Thrombosis Journal,2015年,Vol.13,No.1
【文献】Solano C.、外3名,A study of atypical APTT derivative curves on the ACL TOP coagulation analyser.,International Journal of Laboratory Hematology,2011年,Vol.33,pp. 67-78
【文献】Robbie L A.、外3名,The roles of alpha 2-antiplasmin and plasminogen activator inhibitor 1 (PAI-1) in the inhibition of,Thromb Haemost,1993年,Vol.70,No.2,pp.301-6
【文献】Vance G. Nielsen,Beyond cell based models of coagulation: Analyses of coagulation with clot “lifespan” resistance-time relationships,Thrombosis Research,2008年,Vol.122,No.2,pp.145-152
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体と、線溶系の活性化剤と、活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬と、カルシウムイオンとを含む測定試料に光を照射して得られる光学的情報に基づいて凝固波形を取得する工程と、
取得した凝固波形を微分して得られる波形に基づいて、凝固波形の微分に関する複数のパラメータの値を取得する工程と、
取得した複数の前記パラメータの値に基づいて、前記血液検体の線溶系の異常の原因に関する情報を取得する工程と
を含む、血液検体の分析方法。
【請求項2】
光を照射して光学的情報を取得する測定時間が500秒以下である請求項1に記載の血液検体の分析方法。
【請求項3】
凝固波形の微分に関するパラメータが、以下からなる群より選択される請求項1又は2に記載の血液検体の分析方法:
- 最大線溶速度(|max 1|)、
- 傾きI、
- 傾きII、
- FL時間、
- 凝固波形を微分して得られる波形において凝固の終点と線溶の終点との間で波形の曲線と時間軸とで囲まれた領域の面積、及び
- 凝固波形を微分して得られる波形において測定開始時から線溶速度が最大となるまでの時間。
【請求項4】
凝固波形の微分に関するパラメータが、以下からなる群より選択される請求項1又は2に記載の血液検体の分析方法:
- 最大線溶速度、
- 凝固波形を微分して得られる波形において、線溶開始後の速度が最大値となる時点と線溶の終点との間で前記波形の曲線上の所定の2点を結んだ直線であって、前記波形の曲線に対して相関係数が0.95以上となる直線の傾き、
- 線溶の開始点から終点までの時間、
- 凝固波形を微分して得られる波形の曲線と時間軸とで囲まれた領域に関する値、及び
- 凝固波形を微分して得られる波形において所定の時点から線溶開始後の速度が最大値となる時点までの時間。
【請求項5】
光学的情報が、連続的又は断続的に測定された散乱光量、透過度又は吸光度であり、凝固波形が、散乱光量、透過度又は吸光度の経時的変化を表す波形である請求項1~4のいずれか1項に記載の血液検体の分析方法。
【請求項6】
複数の前記パラメータの値と、各パラメータに対応する正常範囲とを比較し、
前記正常範囲から外れたパラメータの値に基づいて、線溶系の異常の原因に関する情報を取得する、請求項1~5のいずれか1項に記載の血液検体の分析方法。
【請求項7】
線溶系の異常の原因に関する情報が、α2-アンチプラスミン(α2AP)の欠乏、プラスミノゲンアクチベータインヒビター-1(PAI-1)の欠乏、及びプラスミノゲンの欠乏のいずれであるかについての情報である、請求項1~5のいずれか1項に記載の血液検体の分析方法。
【請求項8】
凝固波形の微分に関するパラメータとして|max 1|の値を取得している場合は、|max 1|の値と第1の正常範囲とを比較し、
|max 1|の値が第1の正常範囲を上回るとき、線溶系の異常の原因がα2APの欠乏であるという情報を取得し、|max 1|の値が第1の正常範囲を下回るとき、血液検体の線溶系の異常の原因がプラスミノゲンの欠乏であるという情報を取得する
請求項7に記載の血液検体の分析方法。
【請求項9】
凝固波形の微分に関するパラメータとして傾きIの値を取得している場合は、傾きIの値と第2の正常範囲とを比較し、
傾きIが第2の正常範囲を上回るとき、線溶系の異常の原因がα2APの欠乏であるという情報を取得し、傾きIの値が第2の正常範囲を下回るとき、線溶系の異常の原因がPAI-1の欠乏であるという情報を取得する
請求項7に記載の血液検体の分析方法。
【請求項10】
凝固波形の微分に関するパラメータとして傾きIIの値を取得している場合は、傾きIIの値と第3の正常範囲とを比較し、
傾きIIの値が第3の正常範囲を上回るとき、線溶系の異常の原因がα2APの欠乏であるという情報を取得し、傾きIIの値が第3の正常範囲を下回るとき、線溶系の異常の原因がPAI-1又はプラスミノゲンの欠乏であるという情報を取得する
請求項7に記載の血液検体の分析方法。
【請求項11】
凝固波形の微分に関するパラメータとしてFL時間の値を取得している場合は、FL時間の値と第4の正常範囲とを比較し、
FL時間の値が第4の正常範囲を上回るとき、線溶系の異常の原因がPAI-1の欠乏であるという情報を取得し、FL時間の値が第4の正常範囲を下回るとき、線溶系の異常の原因がα2APの欠乏であるという情報を取得する
請求項7に記載の血液検体の分析方法。
【請求項12】
凝固波形の微分に関するパラメータとして、凝固波形を微分して得られる波形において凝固の終点と線溶の終点との間で波形の曲線と時間軸とで囲まれた領域の面積の値を取得している場合は、前記面積の値と第5の正常範囲とを比較し、
前記面積の値が第5の正常範囲を上回るとき、血液検体の線溶系の原因がα2-AP又はPAI-1の欠乏であるという情報を取得する
請求項7に記載の血液検体の分析方法。
【請求項13】
凝固波形の微分に関するパラメータとして、凝固波形を微分して得られる波形において測定開始時から線溶速度が最大となるまでの時間の値を取得している場合は、前記時間の値と第6の正常範囲とを比較し、
前記時間の値が第6の正常範囲を上回るとき、線溶系の異常の原因がPAI-1又はプラスミノゲンの欠乏であるという情報を取得する
請求項7に記載の血液検体の分析方法。
【請求項14】
凝固波形の微分に関するパラメータとして|max 1|及び傾きIの値を取得し、
傾きIの値と第2の正常範囲とを比較し、傾きIの値が第2の正常範囲を上回るとき、血液検体がα2AP欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得し、傾きIの値が第2の正常範囲を下回るとき、|max 1|と第1の正常範囲とを比較し、
|max 1|の値が第1の正常範囲を下回るとき、血液検体がプラスミノゲン欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得し、|max 1|の値が第1の正常範囲内か又はこれを上回るとき、血液検体がPAI-1欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得する
請求項1~7のいずれか1項に記載の血液検体の分析方法。
【請求項15】
線溶系の活性化剤と、活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬とを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の血液検体の分析方法に用いられる血液検体分析用試薬。
【請求項16】
第1試薬と、第2試薬とを含む血液検体分析用試薬キットであって、
前記第1試薬が、活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬を含み、且つ前記第2試薬が、線溶系の活性化剤及びカルシウムイオンを含むか、又は
前記第1試薬が、活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬及び線溶系の活性化剤を含み、且つ前記第2試薬が、カルシウムイオンを含む、
請求項1~14のいずれか1項に記載の血液検体の分析方法に用いられる血液検体分析用試薬キット。
【請求項17】
第1試薬と、第2試薬と、第3試薬とを含む血液検体分析用試薬キットであって、
前記第1試薬が、活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬を含み、前記第2試薬が、線溶系の活性化剤を含み、前記第3試薬が、カルシウムイオンを含む、
請求項1~14のいずれか1項に記載の血液検体の分析方法に用いられる血液検体分析用試薬キット。
【請求項18】
血液検体と、線溶系の活性化剤と、活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬と、カルシウムイオンとを含む測定試料を調製する測定試料調製部と、
調製された測定試料に光を照射して得られる光学的情報に基づいて凝固波形を取得する情報取得部と、
制御部と
を備え、
前記制御部が、
前記測定試料を調製するように前記測定試料調製部を制御し、
前記凝固波形を微分して得られる波形に基づいて、凝固波形の微分に関する複数のパラメータの値を取得し、取得した複数の前記パラメータの値に基づいて、前記血液検体の線溶系の異常の原因に関する情報を出力する、
血液検体分析装置。
【請求項19】
光を照射して光学的情報を取得する測定時間が500秒以下である請求項18に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体の分析方法に関する。また、本発明は、血液検体分析用試薬及び試薬キットに関する。さらに、本発明は、血液検体分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内では、止血又は何らかの病的要因によって血管内や組織に血栓(フィブリン塊)が生じると、これを除去するために線溶反応が起こる。線溶反応では、プラスミノゲンアクチベータ(PA)及びプラスミンを介する線溶系が主たる役割を果たす。具体的には、プラスミンの前駆体であるプラスミノゲンがPAにより活性化されてプラスミンとなり、このプラスミンが血栓中のフィブリンを分解して血栓が除去される。生体内には線溶系を制御する因子も存在する。例えば、プラスミノゲンアクチベータインヒビター(PAI)は、PAによるプラスミノゲンの活性化を阻害する。α2-アンチプラスミン(α2AP;α2-プラスミンインヒビターとも呼ばれる)は、フィブリン上でのプラスミンの酵素活性を抑制的に制御する。
【0003】
線溶系に異常があると、出血傾向又は血栓形成が助長される。例えば、PAIの一種であるPAI-1を欠乏している患者では出血傾向が見られる。α2APを欠乏している患者では、外傷を受けた後に一旦は止血するものの、血栓の溶解が早すぎて再出血するという出血傾向が見られる。また、プラスミノゲン異常症又は欠乏症の患者ではプラスミノゲンの活性が低下しており、線溶系が十分に機能しないので血栓症が生じる危険性がある。
【0004】
線溶系の検査では主に、関連する因子の抗原量(蛋白量)の測定と活性の測定が行われる。例えば、プラスミノゲンの活性の測定では、検体中のプラスミノゲンをストレプトキナーゼで活性化させた後、発色性合成基質と反応させて、遊離した色素の量からプラスミノゲンの活性が測定される。検量線を用いることで、活性値からプラスミノゲンの蛋白量を算出することもできる。また、特許文献1には、トロンビン及びプラスミンのそれぞれに特異的な2種類の蛍光合成基質と、組織型プラスミノゲンアクチベータと、組織因子とを血漿に添加して反応させ、トロンビン及びプラスミンの生成量及び生成速度を、分解された蛍光合成基質から生じる蛍光強度に基づいて測定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2013/0065260号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の線溶系の検査では、合成基質に対する酵素活性を測定しているに過ぎず、生体内で生じる線溶反応の状態を反映しているとは言い難い。また、特許文献1に記載されるトロンビンとプラスミンの同時生成試験は、凝固と線溶を包括的に分析できるが、この分析も合成基質に対する酵素活性に基づいている。また、結果を得るまでに2~4時間と長時間を要する。そのため、生体内で生じる線溶反応により近い状態を短時間に分析することを可能にする手段の開発が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、血液の凝固から線溶までの一連の過程を凝固波形によって分析するという新規なアプローチにより、生体内で生じる線溶反応により近い状態を短時間に分析できることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
本発明の第1の態様は、血液検体の分析方法を提供する。この分析方法は、線溶系の活性化剤の存在下で血液検体を凝固させて凝固波形を取得する工程と、取得した凝固波形に基づいて、血液検体の線溶能に関する情報を取得する工程とを含む。
【0009】
本発明の第2の態様は、線溶系の活性化剤と、凝固時間測定用試薬とを含む、血液検体分析用試薬を提供する。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1試薬と、第2試薬とを含む血液検体分析用試薬キットを提供する。この試薬キットにおいて、第1試薬は凝固系の活性化剤を含み、且つ第2試薬は線溶系の活性化剤及びカルシウムイオンを含むか、又は、第1試薬は凝固系の活性化剤及び線溶系の活性化剤を含み、且つ第2試薬はカルシウムイオンを含む。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1試薬と、第2試薬と、第3試薬とを含む血液検体分析用試薬キットを提供する。この試薬キットにおいて、第1試薬は凝固系の活性化剤を含み、第2試薬は線溶系の活性化剤を含み、第3試薬はカルシウムイオンを含む。
【0012】
本発明の第5の態様は、血液検体分析装置を提供する。この装置は、血液検体と、線溶系の活性化剤と、凝固時間測定用試薬と、カルシウムイオンとを含む測定試料を調製する測定試料調製部と、調製された測定試料から凝固波形を取得する情報取得部と、制御部とを備える。この制御部は、血液検体と、線溶系の活性化剤と、凝固時間測定用試薬と、カルシウムイオンとから測定試料を調製するように測定試料調製部を制御し、凝固波形に基づいて、血液検体の線溶能に関する情報を出力する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、凝固波形に基づいて血液検体の線溶に関する情報を取得することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】正常血漿と線溶系の活性化剤と凝固時間測定用試薬とカルシウムイオンとを含む測定試料の透過度を測定して得られる凝固波形の一例である。
図1B図1Aの凝固波形を1次微分して得られる速度の波形の一例である。
図2】凝固波形の微分に関するパラメータとしての面積の一例を示す図である。
図3A】正常血漿及びα2AP欠乏血漿(30%α2AP)のそれぞれから調製した測定試料の透過度を測定して得られる凝固波形である。
図3B図3Aの凝固波形を1次微分して得られる速度の波形である。
図4A】正常血漿及びPAI-1欠乏血漿(30%PAI-1)のそれぞれから調製した測定試料の透過度を測定して得られる凝固波形である。
図4B図4Aの凝固波形を1次微分して得られる速度の波形である。
図5A】正常血漿及びプラスミノゲン欠乏血漿(10%Pg)のそれぞれから調製した測定試料の透過度を測定して得られる凝固波形である。
図5B】正常血漿及びプラスミノゲン欠乏血漿(30%Pg)のそれぞれから調製した測定試料の透過度を測定して得られる凝固波形である。
図5C図5Aの凝固波形を1次微分して得られる速度の波形である。
図5D図5Bの凝固波形を1次微分して得られる速度の波形である。
図6】血液分析用試薬の外観の一例を示す図である。
図7A】血液分析用試薬キットの外観の一例を示す図である。
図7B】血液分析用試薬キットの外観の一例を示す図である。
図8】血液検体分析装置の外観の構成を示す斜視図である。
図9】血液検体分析装置の測定部の内部を上側から見た場合の平面図である。
図10】血液検体分析装置の測定部の構成を示す図である。
図11】測定装置が備えるランプユニットの構成を示す図である。
図12A】測定装置が備える検出部の構成を示す図である。
図12B】測定装置が備える検出部の構成を示す図である。
図12C】測定装置が備える検出部の構成を示す図である。
図12D】測定装置が備える検出部の構成を示す図である。
図13】血液検体分析装置の制御装置の機能構成を示す図である。
図14】血液検体分析装置の制御装置のハードウェア構成を示す図である。
図15】血液検体分析装置による血液検体の測定処理を示すフローチャートである。
図16】血液検体分析装置による血液検体の分析処理を示すフローチャートである。
図17】血液検体分析装置による血液検体の分析処理を示すフローチャートである。
図18】血液検体分析装置による血液検体の分析処理を示すフローチャートである。
図19】血液検体分析装置による分析結果を表示する画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.血液検体の分析方法]
第1の態様に係る血液検体の分析方法(以下、単に「方法」ともいう)では、まず、線溶系の活性化剤の存在下で血液検体を凝固させて凝固波形を取得する。凝固波形は、例えば、血液検体と、線溶系の活性化剤と、凝固時間測定用試薬と、カルシウムイオンとを含む測定試料から取得できる。
【0016】
血液検体としては全血及び血漿が挙げられるが、好ましくは血漿である。血液検体には、凝固検査に通常用いられる公知の抗凝固剤が添加されていてもよい。そのような抗凝固剤としては、例えばクエン酸3ナトリウムが挙げられる。測定試料の調製前に、あらかじめ血液検体を凝固反応に適した温度(例えば36℃以上38℃以下)まで加温してもよい。
【0017】
線溶系の活性化剤は、プラスミノゲンを活性化する物質であれば特に限定されない。そのような活性化剤としては、例えば、組織型プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)、ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(u-PA)、ストレプトキナーゼなどが挙げられる。これらの線溶系の活性化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。t-PA、u-PA及びストレプトキナーゼは、天然由来のタンパク質であってもよいし、組換え型タンパク質であってもよい。血栓溶解剤として市販されているt-PA又はu-PAを用いてもよい。好ましい実施形態では、線溶系の活性化剤としてt-PAを用いる。
【0018】
本実施形態の方法では、生体内で生じる線溶反応により近い状態を分析するために、測定試料において凝固が完了してから線溶が開始することが好ましい。そのためには、測定試料中の線溶系の活性化剤の終濃度を適切に調整すればよい。そのような終濃度は、測定試料の凝固波形を取得することでルーチンに決定できる。例えば、線溶系の活性化剤としてt-PAを用いる場合、測定試料中のt-PAの終濃度は0.1μg/mL以上10μg/mL以下、好ましくは0.3μg/mL以上5μg/mL以下、より好ましくは0.5μg/mL以上3μg/mL以下であればよい。
【0019】
本実施形態の方法では、血液検体を凝固させるために凝固時間測定用試薬が用いられる。凝固時間測定用試薬は、当該技術において公知の測定原理に基づく凝固時間を測定するための試薬であればよい。例えば、プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間、希釈プロトロンビン時間、希釈活性化部分トロンボプラスチン時間、カオリン凝固時間、希釈ラッセル蛇毒時間、トロンビン時間、及び希釈トロンビン時間の少なくとも1種を測定するための試薬が挙げられる。市販の凝固時間測定用試薬及び試薬キットを用いてもよい。
【0020】
凝固時間測定用試薬は、凝固系の活性化剤を含むことが好ましい。凝固系の活性化剤は、凝固系に関与するいずれかの凝固因子を活性化する物質であればよい。凝固系の活性化剤としては、例えば、エラグ酸、シリカ、カオリン、セライト、組織因子、トロンビン及び蛇毒などが挙げられる。エラグ酸は、金属イオンとキレートを形成した状態にあってもよい。組織因子は、ウサギ脳又はヒト胎盤由来の組織因子であってもよいし、組み換え型組織因子であってもよい。蛇毒としては、ラッセル蛇毒、テキスタリン蛇毒及びエカリン蛇毒などが挙げられる。これらの凝固系の活性化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。通常、市販の凝固時間測定用試薬及び試薬キットには、測定する凝固時間の種類に応じて、いずれかの凝固系の活性化剤が含まれている。
【0021】
測定試料中の凝固系の活性化剤の終濃度は、凝固系の活性化剤の種類に応じて適宜決定できる。凝固系の活性化剤がエラグ酸である場合、測定試料中のエラグ酸の終濃度は、通常3.5μM以上150μM以下、好ましくは10μM以上50μM以下である。凝固系の活性化剤が組織因子である場合、測定試料中の組織因子の終濃度は、通常0.4μg/mL以上0.7μg/mL以下、好ましくは0.5μg/mL以上0.6μg/mL以下である。
【0022】
リン脂質は凝固反応を促進するので、凝固時間測定用試薬はリン脂質をさらに含んでいてもよい。リン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)及びホスファチジルセリン(PS)が挙げられる。本実施形態では、凝固時間測定用試薬に、PE、PC及びPSから選択される1種、好ましくは2種、より好ましくは全種のリン脂質を添加できる。リン脂質は、天然由来リン脂質であってもよいし、合成リン脂質であってもよい。それらの中でも、合成リン脂質又は純度99%以上に精製された天然由来リン脂質が好ましい。PE、PC及びPSの脂肪酸側鎖は特に限定されないが、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸などが挙げられる。それらの中でもオレイン酸が好ましい。本実施形態では、リン脂質は、適切な溶媒に溶解された液体の形態にあることが好ましい。
【0023】
測定試料中のリン脂質の終濃度は、リン脂質の種類に応じて適宜決定できる。リン脂質がPEである場合、測定試料中のリン脂質の終濃度は、通常1μg/mL以上150μg/mL以下、好ましくは5μg/mL以上50μg/mL以下である。リン脂質がPCである場合、測定試料中のリン脂質の終濃度は、通常1μg/mL以上100μg/mL以下、好ましくは5μg/mL以上80μg/mL以下である。リン脂質がPSである場合、測定試料中のリン脂質の終濃度は、通常0.1μg/mL以上50μg/mL以下、好ましくは1μg/mL以上10μg/mL以下である。2種類以上のリン脂質を用いる場合は、測定試料における各リン脂質の濃度の合計が、通常5μg/mL以上400μg/mL以下、好ましくは20μg/mL以上100μg/mL以下であればよい。
【0024】
本実施形態では、リン脂質及び凝固系の活性化剤を含む凝固時間測定用試薬を用いることが好ましい。そのような凝固時間測定用試薬としては、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)測定用試薬が挙げられる。この場合、凝固系の活性化剤は、内因系凝固経路の接触因子を活性化する物質が好ましく、例えば、エラグ酸、シリカ、カオリン及びセライトが挙げられる。
【0025】
カルシウムイオンは、測定試料中で血液凝固を開始させるために必要となる。本実施形態では、カルシウムイオンを含む水溶液を測定試料の調製に用いることにより、測定試料にカルシウムイオンが提供される。カルシウムイオンを含む水溶液としては、カルシウム塩の水溶液が好ましく、例えば、塩化カルシウム水溶液、乳酸カルシウム水溶液などが挙げられる。測定試料中のカルシウムイオン含有量は、凝固を生じさせるのに十分な量であればよく、例えば、塩化カルシウムの濃度で表して、通常2mM以上20 mM以下、好ましくは4mM以上10 mM以下である。以下、カルシウムイオンを含む水溶液を「カルシウム溶液」とも呼ぶ。
【0026】
カルシウム溶液を添加すると凝固が開始するので、測定試料の調製においては、カルシウム溶液は最後に添加することが好ましい。測定試料の調製手順は、次のとおりである。まず、血液検体と線溶系の活性化剤と凝固時間測定用試薬とを混合し、次に、得られた混合物とカルシウム溶液とを混合することにより調製できる。あるいは、まず、血液検体と凝固時間測定用試薬とを混合し、次に、得られた混合物と線溶系の活性化剤とカルシウム溶液とを混合することにより、測定試料を調製してもよい。市販のプロトロンビン時間(PT)測定用試薬を用いる場合、該試薬は組織因子及びカルシウムイオンを含むので、血液検体と線溶系の活性化剤とPT測定用試薬とを混合することにより測定試料を調製できる。いずれの手順により測定試料を調製するかは、用いる凝固時間測定用試薬に応じて決定すればよい。
【0027】
本実施形態では、カルシウム溶液の添加前に、上記の混合物を凝固反応に適した条件下でインキュベートしてもよい。例えば、35℃以上40℃以下の温度にて2分以上5分以下の時間でインキュベートする条件が挙げられる。測定試料の調製は、用手法で行ってもよいし、全自動測定装置により行ってもよい。そのような装置としては、例えば、全自動血液凝固測定装置のCSシリーズ(シスメックス株式会社)などが挙げられる。
【0028】
リン脂質及び凝固系の活性化剤を含む凝固時間測定用試薬を用いる場合は、次のようにして、測定試料を調製することが好ましい。まず、血液検体と、リン脂質及び凝固系の活性化剤を含む凝固時間測定用試薬とを混合する。次に、得られた混合物と、線溶系の活性化剤を含むカルシウム溶液とを混合する。この場合、カルシウム溶液に線溶系の活性化剤があらかじめ添加されている。
【0029】
本実施形態の方法では、上記のようにして調製した測定試料について、凝固波形を測定する。凝固波形とは、血液検体の凝固の進行に伴って生じる該検体の光学的特性又は物理的特性の経時的変化を表す波形である。本実施形態において、凝固波形は、光学的測定法により取得してもよいし、物理的測定法により取得してもよい。光学的測定法としては、例えば、測定試料に光を照射して透過度などの光学的情報を取得する方法が挙げられる。物理的測定法としては、例えば、スチールボールを用いて測定試料の粘度などの物理的情報を取得する方法が挙げられる。測定は、全自動測定装置により行ってもよい。例えば、全自動血液凝固測定装置のCSシリーズ(シスメックス株式会社)は透過度などの光学的情報を測定でき、全自動血液凝固線溶測定装置のSTA Compact(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)は粘度などの物理的情報を測定できる。
【0030】
測定条件は特に限定されないが、光学的情報又は物理的情報の取得は、測定試料を調製した時(具体的にはカルシウム溶液を添加した時)から線溶の完了時までの間、連続的又は断続的に行うことが好ましい。凝固から線溶までの一連の過程において連続的又は断続的に測定された光学的情報又は物理的情報に基づけば、該過程の任意の時点又は時間において、後述の凝固波形の微分に関するパラメータを取得することが可能となる。
【0031】
測定時間は、通常10秒以上1800秒以下、好ましくは15秒以上500秒以下の範囲から決定すればよい。なお、本実施形態の方法では、正常血漿(健常者から得た血漿)を血液検体として用いた場合、通常、測定試料の調製時から400秒以内に線溶が完了する。
【0032】
凝固波形は、測定試料に光を照射して得られる光学的情報から取得されることが好ましい。そのような光学的情報としては、例えば、連続的又は断続的に測定された散乱光量、透過度及び吸光度などが挙げられる。この場合、凝固波形は、散乱光量、透過度又は吸光度の経時的変化を表す波形である。測定試料に照射する光は、凝固時間の測定に通常用いられる光であればよく、例えば、波長が660 nm近傍、好ましくは660 nmの光が挙げられる。光源は特に限定されないが、例えば、発光ダイオード、ハロゲンランプなどが挙げられる。
【0033】
本実施形態で取得される凝固波形には、凝固波形の曲線自体、及び凝固波形を構成する各プロットのデータが含まれる。凝固波形を構成する各プロットのデータとしては、測定開始点からの時間及びその時点における測定試料の光学的特性又は物理的特性の測定値が挙げられる。
【0034】
ここで、図1Aを参照して、本実施形態の方法で得られる凝固波形の一例について説明する。図1Aに示される凝固波形において、a点は測定開始点であり、b点はフィブリン析出点(凝固の開始点)であり、c点は凝固の終点である。一般的な凝固時間測定法では、フィブリンが析出するまでの時間を凝固時間としている。図1Aでは、a-b間の時間が凝固時間を表す。凝固時間測定用試薬の作用により凝固が進行するので、図1Aのaからcに示されるように、測定試料の透過度は低下する。しかし、測定試料は線溶系の活性化剤を含んでいるので、フィブリン塊が形成されると線溶反応が始まる。図1Aを参照して、d点は線溶の開始点であり、e点は線溶開始後に速度が最大となる点であり、f点は線溶の終点であり、g点は測定の終点である。図1Aのd-f間のように、線溶反応によりフィブリン塊が分解されるので、測定試料の透過度は再び上昇する。
【0035】
本実施形態では、凝固波形に基づいて、凝固波形の微分に関するパラメータを少なくとも1つ取得することが好ましい。そのようなパラメータは、凝固波形を1次微分して得られる凝固及び線溶の速度の波形(以下、「速度の波形」という)に関する値であればよい。ここで、図1Bを参照して、速度の波形について説明する。図1Aの凝固波形を1次微分すると、図1Bに示される凝固及び線溶の速度を示す波形が得られる。図1Bでは、凝固速度(a-c間の速度)が正の値となるように波形が表示されているが、凝固の速度が負の値となるように表示してもよい。すなわち、縦軸の正負が図1Bとは反転した波形を取得してもよい。図1Bのa点~g点はそれぞれ図1Aのa点~g点に対応する。図1Bにおいて、凝固の終点であるc点は、上昇した速度が0となる点である。線溶の開始点であるd点は、凝固の完了後に速度が0に最も近くなる点である。e点は、図1Aと同様、線溶開始後の速度(d-f間の速度)の最大値となる点である。以下、線溶開始後の速度を「線溶速度」ともいう。線溶の終点であるf点は、線溶速度が最大となった後、速度が0に最も近くなる点である。
【0036】
凝固波形の微分に関するパラメータとしては、例えば、|max 1|、傾きI、傾きII、FL時間、面積、線溶速度が最大となるまでの時間などが挙げられるが、これらに限定されない。本実施形態の代表的なパラメータについて説明する。「|max 1|」とは、速度の波形において、線溶開始後の速度の最大値の絶対値である。以下、|max 1|を「最大線溶速度」又は「最大速度」ともいう。「傾きI」とは、速度の波形において、線溶の終点と波形の曲線上の所定の点とを結んだ直線であって、波形の曲線に対して相関係数(R2)が0.95以上となる直線の傾きの値の絶対値である。「傾きII」とは、速度の波形において、線溶開始後に速度が最大となる点と波形の曲線上の所定の点とを結んだ直線であって、波形の曲線に対して相関係数(R2)が0.95以上となる直線の傾きの値の絶対値である。「FL時間」とは、速度の波形において、線溶の開始点から終点までの時間の値である。図1Bに、|max 1|、傾きIの直線、傾きIIの直線及びFL時間の例を示す。「面積」とは、速度の波形において、凝固の終点と線溶の終点との間で波形の曲線と横軸(時間を示す軸)とで囲まれた領域の面積の値である。面積の一例を図2に示す。図2を参照して、パラメータとしての面積は、灰色で示される領域の面積の値である。なお、図2では、縦軸(速度)が負の部分を拡大している。「線溶速度が最大となるまでの時間」とは、速度の波形において、測定開始時から、線溶開始後の速度が最大値となる時までの時間である。図1Bを参照して、線溶速度が最大となるまでの時間はa-e間の時間である。
【0037】
本実施形態において、取得するパラメータの数は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。また、凝固波形の微分に関するパラメータは、2つ以上のパラメータを組み合わせて得られる値であってもよく、例えば、|max 1|、傾きI、傾きII、FL時間、面積、及び線溶速度が最大となるまでの時間から選択される少なくとも2つの値の和、差、積、比などが挙げられる。
【0038】
本発明の方法では、取得した凝固波形に基づいて、血液検体の線溶能に関する情報を取得する。凝固波形に基づいて、凝固波形の微分に関するパラメータを取得している場合は、取得したパラメータの値に基づいて、血液検体の線溶能に関する情報を取得することが好ましい。血液検体の線溶能に関する情報としては、例えば、線溶系の異常の有無についての情報、線溶能が亢進しているか否かについての情報、線溶能が低下しているか否かについての情報などが挙げられる。
【0039】
血液検体の線溶能に関する情報の取得は、取得したパラメータの値と、各パラメータに対応する正常範囲とを比較し、比較結果に基づいて行うことが好ましい。例えば、|max 1|を取得している場合は、|max 1|の値と第1の正常範囲とを比較する。傾きIを取得している場合は、傾きIの値と第2の正常範囲とを比較する。傾きIIを取得している場合は、傾きIIの値と第3の正常範囲とを比較する。FL時間を取得している場合は、FL時間の値と第4の正常範囲とを比較する。面積を取得している場合は、面積の値と第5の正常範囲とを比較する。線溶速度が最大となるまでの時間を取得している場合は、その時間の値と第6の正常範囲とを比較する。比較の結果、取得した凝固波形の微分に関するパラメータの値の少なくとも1つが、そのパラメータに対応する正常範囲から外れるとき、血液検体の線溶能に関する情報として、血液検体の線溶系に異常があるという情報を取得できる。
【0040】
本明細書において、パラメータの値が正常範囲から外れることは、パラメータの値が正常範囲を上回るか又は下回ることをいう。パラメータの値が正常範囲を上回ることは、パラメータの値が正常範囲の上限値よりも大きいことをいう。パラメータの値が正常範囲を下回ることは、パラメータの値が正常範囲の下限値よりも小さいことをいう。
【0041】
正常範囲は、特に限定されないが、例えば、各パラメータについて健常者の血液検体が示し得る値の範囲が挙げられる。そのような正常範囲は、例えば、複数の健常者から得た血漿から測定試料を調製し、これらの測定試料から凝固波形の微分に関する各種パラメータの値を取得してデータを蓄積することにより設定できる。健常者の血液検体が示し得る値にばらつきがほとんどない場合は、上記の比較において、正常範囲に代えて、所定のカットオフ値を用いてもよい。そのようなカットオフ値として、例えば、健常者の血液検体及び線溶系に異常のある患者の血液検体から各パラメータの値を取得して、健常者と患者とを明確に区別可能な値を用いてもよい。
【0042】
従来の線溶系の検査では、線溶系の異常の有無を見出すことはできるが、その異常の原因までは特定できなかった。これに対して、本実施形態の方法では、血液検体における線溶系に異常があるとの情報を得た場合に、その異常の原因が、α2APの欠乏、PAI-1の欠乏、及びプラスミノゲンの欠乏のいずれであるかについての情報をさらに取得できる。具体的には、いずれのパラメータの値が、そのパラメータに対応する正常範囲を上回るか又は下回るかに応じて、線溶系の異常の原因を推定することができる。
【0043】
例えば、凝固波形の微分に関するパラメータの値として、|max 1|、傾きI、傾きII、FL時間、面積、及び線溶速度が最大となるまでの時間のいずれか1つを取得している場合、以下のようにして、線溶系の異常の原因についての情報を取得できる:
・|max 1|の値と第1の正常範囲とを比較して、|max 1|の値が第1の正常範囲を上回るとき、線溶系の異常の原因がα2APの欠乏であるという情報を取得できる。一方、|max 1|の値が第1の正常範囲を下回るとき、線溶系の異常の原因がプラスミノゲンの欠乏であるという情報を取得できる。
・傾きIと第2の正常範囲とを比較して、傾きIの値が第2の正常範囲を上回るとき、線溶系の異常の原因がα2APの欠乏であるという情報を取得できる。一方、傾きIの値が第2の正常範囲を下回るとき、線溶系の異常の原因がPAI-1の欠乏であるという情報を取得できる。
・傾きIIと第3の正常範囲とを比較して、傾きIIの値が第3の正常範囲を上回るとき、線溶系の異常の原因がα2APの欠乏であるという情報を取得できる。一方、傾きIIの値が第3の正常範囲を下回るとき、線溶系の異常の原因がPAI-1又はプラスミノゲンの欠乏であるという情報を取得できる。
・FL時間の値と第4の正常範囲とを比較して、FL時間の値が第4の正常範囲を上回るとき、線溶系の異常の原因がPAI-1の欠乏であるという情報を取得できる。一方、FL時間の値が第4の正常範囲を下回るとき、線溶系の異常の原因がα2APの欠乏であるという情報を取得できる。
・面積の値と第5の正常範囲とを比較して、面積の値が、第5の正常範囲を上回るとき、血液検体の線溶系の原因がα2-AP又はPAI-1の欠乏であるという情報を取得できる。
・線溶速度が最大となるまでの時間と第6の正常範囲とを比較して、該時間の値が、第6の正常範囲を上回るとき、線溶系の異常の原因がPAI-1又はプラスミノゲンの欠乏であるという情報を取得できる。
【0044】
本実施形態では、血液検体が、α2AP欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得してもよい。そのような情報は、次のようにして取得できる。まず、凝固波形の微分に関するパラメータとして、|max 1|、傾きI、傾きII及びFL時間の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ又は3つ、より好ましくは全ての値を取得する。そして、|max 1|の値を取得している場合は|max 1|の値と第1の正常範囲とを比較し、傾きIの値を取得している場合は傾きIの値と第2の正常範囲とを比較し、傾きIIの値を取得している場合は傾きIIの値と第3の正常範囲とを比較し、FL時間の値を取得している場合はFL時間の値と第4の正常範囲とを比較する。比較の結果、|max 1|、傾きI及び傾きIIのうち、取得している値の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは全ての値が各値に対応する正常範囲を上回るとき、且つ/又は、FL時間の値が第4の正常範囲を下回るとき、血液検体がα2AP欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得できる。
【0045】
本実施形態では、血液検体が、PAI-1欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得してもよい。そのような情報は、次のようにして取得できる。まず、凝固波形の微分に関するパラメータとして、傾きI及びFL時間の少なくとも1つ、好ましくは全ての値を取得する。そして、傾きIの値を取得している場合は傾きIの値と第2の正常範囲とを比較し、FL時間の値を取得している場合はFL時間の値と第4の正常範囲とを比較する。比較の結果、傾きIの値が第2の正常範囲を下回るとき、且つ/又は、FL時間の値が第4の正常範囲を上回るとき、血液検体がPAI-1欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得できる。
【0046】
本実施形態では、血液検体が、プラスミノゲン欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得してもよい。そのような情報は、次のようにして取得できる。まず、凝固波形の微分に関するパラメータとして、|max 1|及び線溶速度が最大となるまでの時間の値を取得する。そして、|max 1|の値と第1の正常範囲とを比較し、線溶速度が最大となるまでの時間の値と第6の正常範囲とを比較する。比較の結果、|max 1|の値が第1の正常範囲を下回り、且つ、線溶速度が最大となるまでの時間の値が第6の正常範囲を上回るとき、血液検体がプラスミノゲン欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得できる。
【0047】
本実施形態では、血液検体が、α2AP欠乏、PAI-1欠乏及びプラスミノゲン欠乏のいずれの疑いがあるかについての情報を取得してもよい。そのような情報は、次のようにして取得できる。まず、凝固波形の微分に関するパラメータとして、|max 1|及び傾きIの値を取得する。次に、傾きIの値と第2の正常範囲とを比較する。比較の結果、傾きIの値が第2の正常範囲を上回るとき、血液検体がα2AP欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得できる。傾きIの値が第2の正常範囲を下回る場合は、|max 1|と第1の正常範囲とを比較する。|max 1|の値が第1の正常範囲を下回るとき、血液検体がプラスミノゲン欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得できる。一方、|max 1|の値が第1の正常範囲内か又はこれを上回るとき、血液検体がPAI-1欠乏の疑いのある検体であるという情報を取得できる。なお、傾きIの値に代えて、傾きIIの値を用いてもよい。
【0048】
[2.血液検体分析用試薬]
本発明の範囲には、血液検体分析用試薬も含まれる(以下、単に「試薬」ともいう)。第2の態様の試薬は、線溶系の活性化剤と、凝固時間測定用試薬とを含む。第2の態様の試薬は、上記の血液検体の分析方法のために用いられることが好ましい。図6を参照して、第1容器111に血液分析用試薬が収容されている。なお、線溶系の活性化剤及び凝固時間測定用試薬については、上記の血液検体の分析方法について述べたことと同じである。
【0049】
試薬の形態は、固体(粉末、結晶、顆粒など)であってもよいし、液体であってもよいが、好ましくは液体である。溶媒は、凝固及び線溶を妨げないかぎり特に限定されないが、例えば、水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。
【0050】
試薬中の線溶系の活性化剤の濃度は、測定試料における終濃度を上記の血液検体の分析方法で述べた範囲に調整可能であるかぎり、特に限定されない。全自動凝固時間測定装置により測定試料を調製する場合、該装置が吸引可能な試薬量を考慮して、試薬中の線溶系の活性化剤の濃度を決定できる。例えば、線溶系の活性化剤としてt-PAを用いる場合、試薬中のt-PAの濃度は0.1μg/mL以上10μg/mL以下、好ましくは0.3μg/mL以上5μg/mL以下、より好ましくは0.5μg/mL以上3μg/mL以下であればよい。
【0051】
第2の態様の試薬は、凝固系の活性化剤をさらに含んでいてもよい。凝固系の活性化剤の種類及び濃度は、測定する凝固時間の種類に応じて適宜決定できる。なお、凝固系の活性化剤については、上記の血液検体の分析方法について述べたことと同じである。
【0052】
第2の態様の試薬は、リン脂質をさらに含んでいてもよい。試薬中のリン脂質の濃度は、測定試料における終濃度を上記の血液検体の分析方法で述べた範囲に調整可能であるかぎり、特に限定されない。なお、リン脂質については、上記の血液検体の分析方法について述べたことと同じである。
【0053】
第2の態様の試薬は、実質的にカルシウムイオンを含まない。凝固時間測定試薬がPT時間を測定するための試薬である場合は、本実施形態の試薬は、線溶系の活性化剤及び組織因子とともにカルシウムイオンを含んでいてもよい。
【0054】
凝固時間測定試薬がAPTT時間を測定するための試薬である場合は、第2の態様の試薬は、線溶系の活性化剤、リン脂質及び凝固系の活性化剤を含んでいてもよい。この場合、凝固系の活性化剤としては、内因系凝固経路の接触因子を活性化する物質が好ましく、例えば、エラグ酸、シリカ、カオリン及びセライトが挙げられる。
【0055】
本発明の範囲には、線溶系の活性化剤及び凝固時間測定用試薬を、血液検体分析用試薬の製造のために使用することも含まれる。すなわち、本発明は、血液検体分析用試薬の製造のための、線溶系の活性化剤及び凝固時間測定用試薬の使用にも関する。血液検体分析用試薬の製造のために、リン脂質及び/又は凝固系の活性化剤をさらに使用してもよい。
【0056】
[3.血液検体分析用試薬キット]
本発明の範囲には、血液検体分析用試薬キットも含まれる(以下、単に「試薬キット」ともいう)。第3の態様の試薬キットは、第1試薬と、第2試薬とを含む。本実施形態では、第1試薬が凝固系の活性化剤を含み、第2試薬がカルシウムイオンを含む。線溶系の活性化剤は、第1試薬又は第2試薬に含まれていればよい。例えば、第1試薬が凝固系の活性化剤を含み、且つ第2試薬が線溶系の活性化剤及びカルシウムイオンを含む。あるいは、第1試薬が凝固系の活性化剤及び線溶系の活性化剤を含み、且つ第2試薬がカルシウムイオンを含む。なお、第1試薬は、実質的にカルシウムイオンを含まない。図7Aを参照して、第1容器111に第1試薬が収容され、第2容器112に第2試薬が収容されている。
【0057】
第4の態様の試薬キットは、第1試薬と、第2試薬と、第3試薬とを含む。本実施形態では、第1試薬が凝固系の活性化剤を含み、第2試薬が線溶系の活性化剤を含み、第3試薬がカルシウムイオンを含む。なお、第1試薬及び第2試薬は、実質的にカルシウムイオンを含まない。図7Bを参照して、第1容器111に第1試薬が収容され、第2容器112に第2試薬が収容され、第3容器113に第3試薬が収容されている。
【0058】
本実施形態では、上記の各種試薬を収容した容器を箱に梱包して、ユーザに提供してもよい。この箱には、試薬キットの添付文書を同梱していてもよい。添付文書には、例えば、試薬キットの構成、血液検体の分析方法のプロトコールなどが記載されることが好ましい。
【0059】
第3及び第4の態様の試薬キットは、上記の血液検体の分析方法のために用いられることが好ましい。線溶系の活性化剤、凝固系の活性化剤及びカルシウムイオンについては、上記の血液検体の分析方法について述べたことと同じである。
【0060】
第3及び第4の態様の試薬キットに含まれる各試薬の形態は、固体(粉末、結晶、顆粒など)であってもよいし、液体であってもよいが、好ましくは液体である。溶媒については、上記の血液検体分析用試薬について述べたことと同じである。
【0061】
第3及び第4の態様の試薬キットにおいて、第1試薬は、リン脂質をさらに含んでいてもよい。試薬中のリン脂質の濃度は、測定試料における終濃度を上記の血液検体の分析方法で述べた範囲に調整可能であるかぎり、特に限定されない。なお、リン脂質については、上記の血液検体の分析方法について述べたことと同じである。
【0062】
APTTの測定原理に基づいて血液検体を分析する場合は、凝固系の活性化剤及びリン脂質を含む第1試薬と、線溶系の活性化剤及びカルシウムイオンを含む第2試薬とを含む第3の態様の試薬キットを用いることが好ましい。
【0063】
本発明の範囲には、上記の各種試薬を、血液検体分析用試薬キットの製造のために使用することも含まれる。すなわち、本発明は、血液検体分析用試薬キットの製造のための、第1試薬及び第2試薬の使用であって、第1試薬が凝固系の活性化剤を含み、且つ第2試薬が線溶系の活性化剤及びカルシウムイオンを含むか、又は、第1試薬が凝固系の活性化剤及び線溶系の活性化剤を含み、且つ第2試薬がカルシウムイオンを含む、使用にも関する。
【0064】
また、本発明は、血液検体分析用試薬キットの製造のための、第1試薬、第2試薬及び第3試薬の使用であって、第1試薬が凝固系の活性化剤を含み、第2試薬が線溶系の活性化剤を含み、第3試薬がカルシウムイオンを含む、使用にも関する。
【0065】
[4.血液検体分析装置]
以下に、第5の態様の血液検体分析装置の一例を、図面を参照して説明する。しかし、本実施形態はこの例のみに限定されない。図8に示されるように、血液検体分析装置10は、測定試料の調製及び測定を行う測定装置50と、測定装置50により取得された測定データを分析すると共に測定装置50に指示を与える制御装置40とを備える。測定装置50は、測定試料からの光学的情報を取得する測定部20と、測定部20の前方に配置された検体搬送部30とを備える。
【0066】
測定部20には、蓋20a及び20bと、カバー20cと、電源ボタン20dが設けられている。ユーザは、蓋20aを開けて、試薬テーブル11及び12(図9参照)に設置されている試薬容器103を新たな試薬容器103と交換したり、また、別の試薬容器103を新たに追加したりすることができる。試薬容器103には、収容する試薬の種類と、試薬に付与されたシリアルナンバーからなる試薬IDとを含むバーコードが印刷されたバーコードラベル103aが貼付されている。
【0067】
ユーザは、蓋20bを開けて、ランプユニット27(図9参照)を交換できる。また、ユーザは、カバー20cを開けて、ピアサ17a(図9参照)を交換できる。検体搬送部30は、検体ラック102に支持された検体容器101を、ピアサ17aによる吸引位置まで搬送する。検体容器101は、ゴム製の蓋101aにより密封されている。
【0068】
血液検体分析装置10を使用する場合、ユーザは、まず、測定部20の電源ボタン20dを押して測定部20を起動させ、制御装置40の電源ボタン439を押して制御装置40を起動させる。制御装置40が起動すると、表示部41にログオン画面が表示される。ユーザは、ログオン画面にユーザ名及びパスワードを入力して制御装置40にログオンし、血液検体分析装置10の使用を開始する。
【0069】
(測定装置の構成)
測定装置50の構成について、以下に説明する。測定部20は、図9に示されるように、試薬テーブル11及び12と、キュベットテーブル13と、バーコードリーダ14と、キュベット供給部15と、キャッチャ16と、検体分注アーム17と、試薬分注アーム18と、緊急検体セット部19と、光ファイバ21と、検出部22と、キュベット移送部23と、加温部24と、廃棄口25と、流体部26と、ランプユニット27とを備えている。
【0070】
(測定試料調製部)
試薬テーブル11及び12とキュベットテーブル13は、それぞれ、円環形状を有し、回転可能に構成されている。試薬テーブル11及び12は試薬収納部に相当し、ここには試薬容器103が載せ置かれる。試薬テーブル11及び12に載せ置かれた試薬容器103のバーコードは、バーコードリーダ14により読み取られる。バーコードから読み取られた情報(試薬の種類、試薬ID)は、制御装置40に入力され、ハードディスク434(図14参照)に格納される。
【0071】
本実施形態の分析装置では、試薬テーブル11及び/又は12には、凝固時間測定用試薬、線溶系の活性化剤を含む溶液、カルシウム溶液などがそれぞれ収容された試薬容器103が載せ置かれる。あるいは、上記の血液分析用試薬又は血液分析用試薬キットの各試薬がそれぞれ収容された試薬容器103が載せ置かれてもよい。また、試薬テーブル11及び/又は12に、対照検体として正常血漿が収容された試薬容器103が載せ置かれてもよい。
【0072】
キュベットテーブル13には、キュベット104を支持可能な複数の孔からなる支持部13aが形成されている。ユーザによってキュベット供給部15に投入された新しいキュベット104は、キュベット供給部15により順次移送され、キャッチャ16によりキュベットテーブル13の支持部13aに設置される。
【0073】
検体分注アーム17と試薬分注アーム18には、それぞれ、上下移動及び回転移動できるようステッピングモータが接続されている。検体分注アーム17の先端には、検体容器101の蓋101aを穿刺できるよう先端が鋭利に形成されたピアサ17aが設置されている。試薬分注アーム18の先端にはピペット18aが設置されている。ピペット18aの先端は、ピアサ17aと異なり平坦に形成されている。また、ピペット18aには、静電容量式の液面検知センサ213(図10参照)が接続されている。
【0074】
検体搬送部30(図8参照)によって検体容器101が所定位置に搬送されると、ピアサ17aが、検体分注アーム17の回転移動により検体容器101の真上に位置付けられる。そして、検体分注アーム17が下方向に移動され、ピアサ17aが検体容器101の蓋101aを貫通し、検体容器101に収容されている血液検体が、ピアサ17aにより吸引される。緊急を要する血液検体が緊急検体セット部19にセットされている場合、ピアサ17aは、検体搬送部3から供給される検体に割り込んで、緊急を要する血液検体を吸引する。ピアサ17aにより吸引された血液検体は、キュベットテーブル13上の空のキュベット104に吐出される。
【0075】
血液検体が吐出されたキュベット104は、キュベット移送部23のキャッチャ23aにより、キュベットテーブル13の支持部13aから、加温部24の支持部24aに移送される。加温部24は、支持部24aに設置されたキュベット104に収容されている血液検体を、所定の温度(例えば36~38℃)で一定時間加温する。加温部24による血液検体の加温が終了すると、このキュベット104は、キャッチャ23aによって再び把持される。そして、このキュベット104は、キャッチャ23aにより把持されたまま所定位置に位置付けられ、この状態で、ピペット18aにより吸引された試薬がキュベット104内に吐出される。
【0076】
ピペット18aによる試薬の分注では、まず、試薬テーブル11及び12が回転され、測定項目に対応する試薬を収容する試薬容器103が、ピペット18aによる吸引位置に搬送される。そして、原点位置を検知するためのセンサに基づいて、ピペット18aの上下方向の位置が原点位置に位置付けられた後、液面検知センサ213によりピペット18aの下端が試薬の液面に接触するまで、ピペット18aが下降される。ピペット18aの下端が試薬の液面に接触すると、必要な量の試薬を吸引できる程度に、さらにピペット18aが下降される。そして、ピペット18aの下降が停止され、ピペット18aにより試薬が吸引される。ピペット18aにより吸引された試薬は、キャッチャ23aによって把持されたキュベット104に吐出される。そして、キャッチャ23aの振動機能により、キュベット104内の血液検体と試薬が攪拌される。これにより、測定試料の調製が行われる。その後、測定試料を収容するキュベット104は、キャッチャ23aにより、検出部22の支持部22aに移送される。
【0077】
(情報取得部)
ランプユニット27は、検出部22による光学的信号の検出に用いられる複数種類の波長の光を供給する。図11を参照して、ランプユニット27の構成の一例を説明する。ランプユニット27は光源に相当し、ハロゲンランプ27aと、ランプケース27bと、集光レンズ27c~27eと、円盤形状のフィルター部27fと、モータ27gと、光透過型のセンサ27hと、光ファイバカプラ27iとを備える。
【0078】
図9を参照して、ランプユニット27からの光は、光ファイバ21を介して、検出部22に供給される。検出部22には、穴状の支持部22aが複数設けられており、各支持部22aには、キュベット104が挿入可能となっている。各支持部22aには、それぞれ、光ファイバ21の端部が装着され、支持部22aに支持されたキュベット104に光ファイバ21からの光が照射可能となっている。検出部22は、光ファイバ21を介して、ランプユニット27から供給される光をキュベット104に照射し、キュベット104を透過する光(又はキュベット104からの散乱光)の光量を検出する。
【0079】
図12A~Dを参照して、検出部22に配された複数の支持部22aのうちの一つの構成の例を示すが、他の支持部22aも同様の構成を有する。図12Aを参照して、検出部22には、光ファイバ21の先端が挿入される円形の穴22bが形成される。さらに、検出部22には、穴22bを支持部22aに連通させる円形の連通孔22cが形成されている。穴22bの径は、連通孔22cの径よりも大きい。穴22bの端部には、光ファイバ21からの光を集光するレンズ22dが配置されている。さらに、支持部22a内壁面には、連通孔22cに対向する位置に孔22fが形成される。この孔22fの奥に、光検出器22gが配置されている。光検出器22gは受光部に相当し、受光光量に応じた電気信号を出力する。レンズ22dを透過した光は、連通孔22c、支持部22a及び孔22fを介して、光検出器22gの受光面に集光される。光ファイバ21は、端部が穴22bに挿入された状態で、板ばね22eによって抜け止めされる。
【0080】
図12Bを参照して、支持部22aにキュベット104が支持されると、レンズ22dによって集光された光は、キュベット104およびキュベット104に収容された試料を透過して、光検出器22gに入射する。試料において血液凝固反応が進むと、試料の濁度が上昇する。これに伴い、試料を透過する光の光量(透過光量)が減少し、光検出器22gの検出信号のレベルが低下する。
【0081】
図12Cを参照して、散乱光を用いる場合の検出部22の構成を説明する。支持部22aの内側面において、連通孔22cと同じ高さの位置に、孔22hが設けられる。この孔22hの奥に、光検出器22iが配置される。支持部22aにキュベット104が挿入され、光ファイバ21から光が出射されると、キュベット104内の測定試料によって散乱された光が、孔22hを介して光検出器22iに照射される。この例では、光検出器22iからの検出信号は、測定試料による散乱光の強度を示す。また、図12Dに示されるように、測定試料を透過する透過光と、測定試料により散乱される散乱光との両方を検出できるようにしてもよい。
【0082】
上記のように、検出部22は、ランプユニット27から供給される光をキュベット104に照射し、測定試料からの光学的情報を取得する。取得された光学的情報は、制御装置40に送信される。制御装置40は、光学的情報に基づいて分析を行い、分析結果を表示部41に表示する。
【0083】
測定終了後、不要となったキュベット104は、キュベットテーブル13により搬送され、キャッチャ16により廃棄口25に廃棄される。なお、測定動作の際に、ピアサ17aとピペット18aは、流体部26から供給される洗浄液などの液体により、適宜洗浄される。
【0084】
測定装置のハードウェア構成について、以下に説明する。図10に示されるように、測定部20は、制御部200と、ステッピングモータ部211と、ロータリーエンコーダ部212と、液面検知センサ213と、センサ部214と、機構部215と、光学的情報取得部216と、バーコードリーダ14とを含む。
【0085】
図10を参照して、制御部200は、CPU201と、メモリ202と、通信インターフェース203と、I/Oインターフェース204を含んでいる。CPU201は、メモリ202に記憶されているコンピュータプログラムを実行する。メモリ202は、ROM、RAM、ハードディスクなどからなる。また、CPU201は、通信インターフェース203を介して、検体搬送部30を駆動させると共に、制御装置40との間で指示信号及びデータの送受信を行う。また、CPU201は、I/Oインターフェース204を介して、測定部20内の各部を制御すると共に、各部から出力された信号を受信する。
【0086】
ステッピングモータ部211は、試薬テーブル11及び12と、キュベットテーブル13と、キャッチャ16と、検体分注アーム17と、試薬分注アーム18と、キュベット移送部23を、それぞれ駆動するためのステッピングモータを含んでいる。ロータリーエンコーダ部212は、ステッピングモータ部211に含まれる各ステッピングモータの回転変位量に応じたパルス信号を出力するロータリーエンコーダを含んでいる。
【0087】
液面検知センサ213は、試薬分注アーム18の先端に設置されたピペット18aに接続されており、ピペット18aの下端が試薬の液面に接触したことを検知する。センサ部214は、ピペット18aの上下方向の位置が原点位置に位置付けられたことを検知するセンサと、電源ボタン20dが押されたことを検知するセンサを含んでいる。機構部215は、キュベット供給部15と、緊急検体セット部19と、加温部24と、流体部26を駆動するための機構と、ピアサ17aとピペット18aによる分注動作が可能となるようピアサ17aとピペット18aに圧力を供給する空圧源を含んでいる。光学的情報取得部216は、図9を参照して、少なくとも、ランプユニット27と、光ファイバ21と、検出部22とを含む。
【0088】
(制御部)
制御装置40(制御部)の構成について、以下に説明する。図8に示されるように、制御装置40は、表示部41と、入力部42と、コンピュータ本体43とから構成されている。ユーザが、入力部42を介して血液検体の測定開始指示を入力すると、制御装置40は、測定開始指示を測定部20に送信して測定を開始させる。制御装置40は、測定部20から光学的情報を受信する。そして、制御装置40のプロセッサは、光学的情報に基づいて、凝固波形の微分に関するパラメータを算出する。また、制御装置40のプロセッサは、光学的情報に基づいて凝固時間を算出してもよい。そして、制御装置40のプロセッサは、血液検体の分析のためのコンピュータプログラムを実行する。よって、制御装置40は、血液検体の分析のためのコンピュータシステムとしても機能する。
【0089】
制御装置40の機能構成について、図13に示されるように、制御装置40は、取得部401と、記憶部402と、算出部403と、判定部404と、出力部405とを備える。取得部401は、測定部20と、ネットワークを介して通信可能に接続されている。出力部404は、表示部41と通信可能に接続されている。
【0090】
取得部401は、測定部20から送信された光学的情報を取得する。記憶部402は、凝固波形の微分に関する各種パラメータの値を算出するための式、各種パラメータに対応する正常範囲又は所定のカットオフ値などを記憶する。また、記憶部402は、凝固時間を算出するための式を記憶していてもよい。算出部403は、取得部401で取得された情報を用いて、記憶部402に記憶された式に従って各種パラメータの値を算出する。判定部404は、算出部403によって算出されたパラメータの値が、記憶部402に記憶された該パラメータに対応する正常範囲から外れるか否かを判定する。出力部405は、算出部403によって算出されたパラメータの値を、血液検体についての参考情報として出力する。
【0091】
図14に示されるように、制御装置40のコンピュータ本体43は、CPU431と、ROM432と、RAM433と、ハードディスク434と、読出装置435と、入出力インターフェース436と、通信インターフェース437と、画像出力インターフェース438と、電源ボタン439とを備える。CPU431、ROM432、RAM433、ハードディスク434、読出装置435、入出力インターフェース436、通信インターフェース437、画像出力インターフェース438及び電源ボタン439は、バス440によって通信可能に接続されている。
【0092】
CPU431は、ROM432に記憶されているコンピュータプログラム及びRAM433にロードされたコンピュータプログラムを実行する。CPU431がアプリケーションプログラムを実行することにより、上述した各機能ブロックが実現される。これにより、コンピュータシステムが、血液検体分析装置の端末として機能する。
【0093】
ROM432は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM432には、CPU431によって実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。
【0094】
RAM433は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM433は、ROM432及びハードディスク434に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM433は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU431の作業領域としても利用される。
【0095】
ハードディスク434は、オペレーティングシステム、CPU431に実行させるためのアプリケーションプログラム(血液検体の分析のためのコンピュータプログラム)などのコンピュータプログラム、当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータ、及び制御装置40の設定内容がインストールされている。
【0096】
読出装置435は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、DVD-ROMドライブなどによって構成されている。読出装置435は、CD、DVDなどの可搬型記録媒体441に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。
【0097】
入出力インターフェース436は、例えば、USB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェース436には、キーボード、マウスなどの入力部42が接続されている。ユーザは入力部42を介して指示を入力し、入出力インターフェース436は、入力部42を介して入力された信号を受け付ける。
【0098】
通信インターフェース437は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェースなどである。制御装置40は、通信インターフェース437により、プリンタへの印刷データの送信が可能である。通信インターフェース437は測定部20に接続されており、CPU431は、通信インターフェース437を介して、測定部20との間で指示信号及びデータの送受信を行う。
【0099】
画像出力インターフェース438は、LCD、CRTなどで構成される表示部41に接続されている。画像出力インターフェース438は、画像データに応じた映像信号を表示部41に出力し、表示部41は、画像出力インターフェース438から出力された映像信号に基づいて画像を表示する。
【0100】
図10を参照して、測定動作の際、測定部20のCPU201は、検出部22(図9参照)から出力された検出信号をデジタル化したデータ(光学的情報)を、メモリ202に一時格納する。メモリ202の記憶領域は、支持部22a毎にエリア分割される。各エリアには、対応する支持部22aに支持されたキュベット104に対して所定波長の光を照射したときに取得されるデータ(光学的情報)が、順次格納される。こうして、所定の測定時間にわたって順次、データがメモリ202に格納される。測定時間が経過すると、CPU201は、メモリ202に対するデータの格納を中止し、格納したデータを、通信インターフェース203を介して制御装置40に送信する。制御装置40は、受信したデータを処理して解析を行い、解析結果を表示部41に表示する。
【0101】
(情報取得部の変形例)
凝固波形は、血液の凝固及び線溶による粘度の変化などの物理的情報に基づいて測定されてもよい。凝固波形を粘度の変化に基づいて測定する場合、検出部22は、高周波発信コイルと、高周波受信コイルと、高周波発信コイルと高周波受信コイルとの間にある、スチールボールを収容したキュベットを載置するキュベット載置部と、キュベット載置部の両端に設けられた電磁石とを備える。キュベット内のスチールボールは、電磁石が発生する磁力によって左右に振幅運動する。この振幅運動は、粘度が増加するほど減少する。測定試料の凝固が始まると、測定試料の粘度が増加するため、スチールボールの振幅が減少する。したがって、検出部22は、高周波発信コイルが発信する高周波を高周波受信コイルが受信することによって、振幅の変化を検知する。また、制御装置40は、検知された振幅の変化に基づき、凝固時間を算出する。
【0102】
(血液検体分析装置の処理手順)
測定部20における処理は、主として測定部20のCPU201の制御の下で行われ、制御装置40における処理は、主として制御装置40のCPU431の制御の下で行われる。ユーザにより入力された測定開始指示を制御装置40から受信すると、測定部20は測定処理を開始する。図15を参照して、測定処理が開始されると、測定部20は、検体搬送部により搬送された検体容器101から所定量の血液検体を吸引し、これを、キュベットテーブル13上の空のキュベット104に分注する。なお、対照検体として正常血漿も測定する場合、測定部20は、試薬収容部に収容された正常血漿が入った試薬容器103から所定量の正常血漿を吸引し、これを空のキュベット104に分注する。測定部20は、検体が分注されたキュベット104を加温部24に移送して、キュベット104内の血漿を所定温度(例えば37℃)に加温する。その後、測定部20は、キュベット104に凝固時間測定用試薬、線溶系の活性化剤及びカルシウム溶液を添加して、測定試料を調製する(ステップS11)。
【0103】
測定部20は、各種試薬が添加されたキュベット104を検出部22に移送し、キュベット104に光を照射して測定試料を測定する(ステップS12)。測定部20は、キュベット104にカルシウム溶液を添加した時点から時間の計測を開始する。この測定では、波長660 nmの光に基づくデータ(散乱光量又は透過光量)が、測定時間の間、順次、メモリ202に格納される。このとき、データは、カルシウム溶液の添加時点からの経過時間に対応付けられた状態でメモリ202に格納される。そして、測定時間が経過すると、測定部20は、測定を中止し、メモリ202に格納された測定結果(データ)を制御装置40に送信する(ステップS13)。これにより、制御装置40が測定部20から測定結果(データ)を受信すると(ステップS21:YES)、制御装置40は、受信した測定結果に対して分析処理を実行する(ステップS22)。すなわち、制御装置40は、測定試料について、凝固波形から、凝固波形の微分に関するパラメータを算出する。なお、制御装置40は、測定試料の凝固時間及び凝固波形も算出してもよい。分析処理を行った後、制御装置40は、分析結果の表示処理を実行する(ステップS23)。
【0104】
(血液検体の線溶能に関する情報の取得の処理手順)
図16を参照して、凝固波形の微分に関するパラメータを1つ用いる場合の処理のフローを説明する。ここでは、測定試料からの光学的情報から、凝固波形の微分に関するパラメータの値として傾きIの値を取得し、取得した値と、第2の正常範囲とを比較して血液検体の線溶能に関する情報を取得する場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。この例では、傾きIに代えて、他のパラメータの値を取得して判定を行ってもよい。
【0105】
ステップS101において、制御装置40の取得部401は、測定部20から受信したデータ(散乱光量又は透過光量)に基づいて、光学的情報(散乱光強度、又は透過度もしくは吸光度)を取得する。ステップS102において、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固波形を取得し、記憶部402に記憶された凝固波形の微分に関するパラメータを算出するための式に従って傾きIの値を算出する。なお、凝固時間及び凝固波形は後述の判定の処理には利用されないが、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固時間及び凝固波形をさらに算出してもよい。
【0106】
ステップS103において、判定部404は、算出部403で算出された傾きIの値が、記憶部402に記憶された第2の正常範囲から外れるか否かを判定する。ここで、傾きIの値が第2の正常範囲から外れるとき、処理はステップS104に進行する。ステップS104において、判定部404は、血液検体の線溶能に関する情報として、血液検体の線溶系に異常があるとの判定結果を出力部405に送信する。一方、傾きIの値が第2の正常範囲から外れないとき(すなわち、傾きIの値が第2の正常範囲内のとき)、処理はステップS105に進行する。ステップS105において、判定部404は、血液検体の線溶系に異常がないとの判定結果を出力部405に送信する。なお、他のパラメータの値を用いる場合は、その値と、そのパラメータに対応する正常範囲とを比較する。
【0107】
ステップS106において、出力部405は、判定結果を出力し、表示部41に表示させたり、プリンタに印刷させたりする。あるいは、音声で出力してもよい。これにより、判定結果を、血液検体についての参考情報としてユーザに提供できる。
【0108】
図17を参照して、凝固波形の微分に関するパラメータを1つ用いて、線溶系の異常の原因に関する情報をさらに取得する場合の処理のフローを説明する。ここでは、測定試料からの光学的情報から、凝固波形の微分に関するパラメータの値として傾きIの値を取得し、取得した値と、第2の正常範囲とを比較して線溶系の異常の原因に関する情報を取得する場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。この例では、傾きIに代えて、他のパラメータの値を取得して判定を行ってもよい。
【0109】
ステップS201、S202、S203及びS204については、それぞれ上記のステップS101、S102、S103及びS105について述べたことと同様である。ステップS203において、傾きIの値が第2の正常範囲から外れるとき、処理はステップS205に進行する。ステップS205において、判定部404は、傾きIの値が第2の正常範囲を上回るか否かを判定する。ここで、傾きIの値が第2の正常範囲を上回らないとき(すなわち、傾きIの値が第2の正常範囲を下回るとき)、処理はステップS206に進行する。ステップS206において、判定部404は、血液検体の線溶能に関する情報として、血液検体の線溶系に異常があるとの判定結果とともに、その異常の原因がPAI-1欠乏であるとの判定結果を出力部405に送信する。一方、傾きIの値が第2の正常範囲を上回るとき、処理はステップS207に進行する。ステップS207において、判定部404は、血液検体の線溶能に関する情報として、血液検体の線溶系に異常があるとの判定結果とともに、その異常の原因がα2AP欠乏であるとの判定結果を出力部405に送信する。なお、他のパラメータの値を用いる場合は、その値と、そのパラメータに対応する正常範囲とを比較する。この場合、ステップS205における判定基準とその結果については、上記の血液検体の分析方法について述べたことを参照して決定できる。
【0110】
図18を参照して、凝固波形の微分に関するパラメータを2つ用いる場合の処理のフローを説明する。ここでは、凝固波形の微分に関するパラメータの値として|max 1|及び傾きIの値に基づいて、血液検体が、α2AP欠乏、PAI-1欠乏及びプラスミノゲン欠乏のいずれの疑いがあるかについての情報を取得する場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。
【0111】
ステップS301については、上記のステップS101について述べたことと同様である。ステップS302において、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固波形を取得し、記憶部402に記憶された凝固波形の微分に関するパラメータを算出するための式に従って|max 1|及び傾きIの値を算出する。算出部403は、凝固時間及び凝固波形をさらに算出してもよい。
【0112】
ステップS303において、判定部404は、傾きIの値が第2の正常範囲を上回るか否かを判定する。ここで、傾きIの値が第2の正常範囲を上回るとき、処理はステップS304に進行する。ステップS304において、判定部404は、血液検体の線溶能に関する情報として、血液検体の線溶系に異常があるとの判定結果とともに、その異常の原因がα2AP欠乏であるとの判定結果を出力部405に送信する。一方、傾きIの値が第2の正常範囲を上回らないとき、処理はステップS305に進行する。
【0113】
ステップS305において、判定部404は、傾きIの値が第2の正常範囲を下回るか否かを判定する。ここで、傾きIの値が第2の正常範囲を下回らないとき(すなわち、傾きIの値が第2の正常範囲内のとき)、処理はステップS306に進行する。ステップS306において、判定部404は、血液検体の線溶能に関する情報として、血液検体の線溶系に異常がないとの判定結果を出力部405に送信する。一方、傾きIの値が第2の正常範囲を下回るとき、処理はステップS307に進行する。
【0114】
ステップS307において、判定部404は、|max 1|の値が第1の正常範囲を下回るか否かを判定する。ここで、傾きIの値が第2の正常範囲を下回らないとき(すなわち、|max 1|の値が第1の正常範囲内か又はこれを上回るとき)、処理はステップS308に進行する。ステップS308において、判定部404は、血液検体の線溶能に関する情報として、血液検体の線溶系に異常があるとの判定結果とともに、その異常の原因がPAI-1欠乏であるとの判定結果を出力部405に送信する。一方、|max 1|の値が第1の正常範囲を下回るとき、処理はステップS309に進行する。ステップS309において、判定部404は、血液検体の線溶能に関する情報として、血液検体の線溶系に異常があるとの判定結果とともに、その異常の原因がプラスミノゲン(Pg)欠乏であるとの判定結果を出力部405に送信する。
【0115】
分析結果を表示する画面の一例として、図19を参照して、線溶系の活性化剤、APTT測定用試薬及びカルシウム溶液を用いて血液検体の凝固から線溶までの一連の過程を分析した結果を表示する画面について説明する。画面D1は、検体番号を表示する領域D11と、測定項目名を表示する領域D12と、詳細画面を表示させるためのボタンD13と、測定日時を表示するための領域D14と、測定結果を表示する領域D15と、分析情報を表示する領域D16と、凝固波形及びそれを微分したグラフを表示する領域D17を含む。
【0116】
領域D15には、測定項目と測定値が表示される。領域D15において、「APTT sec」は、活性化部分トロンボプラスチン時間である。領域D15には、傾きI、傾きII、|Max 1|などの凝固波形の微分に関するパラメータの値が表示されてもよい。
【0117】
領域D16には、分析項目と参考情報が表示される。領域D16において、「Index」は、判定に用いた凝固波形の微分に関するパラメータの値である。「正常範囲(参考)」は、判定に用いたパラメータ値に対応する正常範囲である。「判定(参考)」は、血液検体分析装置による判定結果である。図19では、血液検体が、α2APを欠乏した検体である疑いがあることを示す。なお、線溶系の異常の診断は、この判定結果だけでなく、他の検査結果などの情報も考慮して行われることが望ましい。よって、本実施形態に係る血液検体分析装置による判定結果及び正常範囲が参考情報であることを示すために、「(参考)」と表示している。図19では、判定結果を「α2AP欠乏の疑い」という文字で表示しているが、フラグなどの記号や図形標識で表示してもよい。あるいは、判定結果を音声で出力してもよい。
【0118】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0119】
実施例1: α2-アンチプラスミン(α2AP)欠損検体の分析
(1)試薬及び測定装置
凝固時間測定用試薬として、APTT測定試薬のAPTT-SLA(シスメックス株式会社)を用いた。カルシウムイオンを含む水溶液として、20 mM塩化カルシウム液(シスメックス株式会社)を用いた。本実施例では、この20 mM塩化カルシウム液に、線溶系の活性化剤として組織型プラスミノゲンアクチベータ(製品名「アクチバシン」、協和発酵キリン株式会社)を終濃度0.625μg/mL(10.09 nM)となるように添加した。測定試料の凝固波形データは、全自動血液凝固測定装置(製品名「CS-2000i」、シスメックス株式会社)を用いて取得した。
【0120】
(2)被検血漿
正常血漿(自家調製)とα2AP欠乏血漿(Affinity Biological社)とを、体積比で表して10:0、3:7、1:9及び0:10の比率で混合して、被検血漿を得た。被検血漿中の正常血漿の比率に応じて、調製した被検血漿をそれぞれ100%α2AP、30%α2AP、10%α2AP、及び0%α2APと呼ぶ。
【0121】
(3)測定
各被検血漿(50μL)を反応キュベットに分注し、37℃で1分間加温した。ここに、予め37℃で加温したAPTT試薬(50μL)を添加して混合し、37℃で3分間反応させた。反応後、混合物にt-PA含有20 mM塩化カルシウム液(50μL)を添加して混合し、測定試料(t-PA終濃度0.21μg/mL)を得た。測定試料の透過度を、上記の塩化カルシウム液を添加した時点から500秒間連続的に測定した。
【0122】
(4)分析及び結果
透過度の経時的変化をプロットして凝固波形を得た。また、凝固波形のデータを1次微分して、速度の波形データを得た。これらのうち、100%α2AP及び30%α2APの凝固波形及び速度の波形をそれぞれ図3A及びBに示す。図3Bでは、縦軸(速度)が負の部分を拡大して示している。各波形データより、表1に示すパラメータを取得した。表1中、|max 1|の値とともに示されている時間は、測定の開始から線溶速度が最大となるまでの時間である。
【0123】
【表1】
【0124】
図3Aの凝固波形に示されるように、100%α2AP及び30%α2APのいずれにおいても、凝固により透過度が低下した後、しばらく経過してから透過度が上昇した。このような波形の変化は10%α2AP及び0%α2APでも認められた。このことから、被検血漿の凝固が完了してから線溶が開始したことがわかる。図3B及び表1に示されるように、被検血漿中のα2AP欠乏血漿の割合が多いほど、|max 1|、傾きI、傾きII及び面積の値が高くなる傾向が認められた。一方で、被検血漿中のα2AP欠乏血漿の割合が多いほど、FL時間が短くなる傾向が認められた。
【0125】
以上より、α2AP欠乏血漿を含む被検血漿から取得された凝固波形の微分に関するパラメータは、正常血漿から取得されたパラメータとは異なっており、特徴的な傾向があることが認められた。よって、本実施形態の分析方法によって、被検血漿に線溶系の異常があるか否かを分析できることが示唆された。また、例えば、正常血漿から得られた凝固波形の微分に関するパラメータの値をカットオフ値として用いることにより、線溶系の異常の原因がα2APであるか否かを判定することもできる。
【0126】
実施例2: プラスミノゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1)欠損検体の分析
(1)試薬、測定装置及び測定
凝固時間測定用試薬、線溶系の活性化剤及び測定装置は、実施例1と同じ試薬及び装置を用いた。また、血液検体として後述の被検血漿を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、測定試料を調製して凝固波形データを測定した。
【0127】
(2)被検血漿
正常血漿(自家調製)とPAI-1欠乏血漿(Affinity Biological社)とを、体積比で表して10:0、9:1、7:3、3:7、1:9及び0:10の比率で混合して、被検血漿を得た。被検血漿中の正常血漿の比率に応じて、調製した被検血漿をそれぞれ100%PAI-1、90%PAI-1、70%PAI-1、30%PAI-1、10%PAI-1及び0%PAI-1と呼ぶ。なお、100%PAI-1及び0%PAI-1は2つずつ調製した。
【0128】
(3)分析及び結果
透過度の経時的変化をプロットして凝固波形を得た。また、凝固波形のデータを1次微分して、速度の波形データを得た。これらのうち、100%PAI-1及び30%PAI-1の凝固波形及び速度の波形をそれぞれ図4A及びBに示す。図4Bでは、縦軸(速度)が負の部分を拡大して示している。各波形データより、表2に示すパラメータを取得した。表2中、|max 1|の値とともに示されている時間は、測定の開始から線溶速度が最大となるまでの時間である。
【0129】
【表2】
【0130】
図4Aの凝固波形に示されるように、100%PAI-1及び30%PAI-1のいずれにおいても、凝固により透過度が低下した後、しばらく経過してから透過度が上昇した。このような波形の変化は残りの被検血漿でも認められた。このことから、被検血漿の凝固が完了してから線溶が開始したことがわかる。図4B及び表2に示されるように、被検血漿中のPAI-1欠乏血漿の割合が多いほど、FL時間が長くなる傾向が認められた。また、面積の値も、被検血漿中のPAI-1欠乏血漿の割合が多いほど、高くなっているように見受けられた。一方で、被検血漿中のPAI-1欠乏血漿の割合が多いほど、傾きI及び傾きIIの値が低くなる傾向が認められた。|max 1|の値については、被検血漿の間で大きな変化は認められなかったが、線溶速度が最大となるまでの時間は、被検血漿中のPAI-1欠乏血漿の割合が多いほど、長くなっていた。
【0131】
以上より、PAI-1欠乏血漿を含む被検血漿から取得された凝固波形の微分に関するパラメータは、正常血漿から取得されたパラメータとは異なっており、特徴的な傾向があることが認められた。よって、本実施形態の分析方法によって、被検血漿に線溶系の異常があるか否かを分析できることが示唆された。また、例えば、正常血漿から得られた凝固波形の微分に関するパラメータの値をカットオフ値として用いることにより、線溶系の異常の原因がPAI-1であるか否かを判定することもできる。
【0132】
実施例3: プラスミノゲン(Pg)欠損検体の分析
(1)試薬、測定装置及び測定
凝固時間測定用試薬、線溶系の活性化剤及び測定装置は、実施例1と同じ試薬及び装置を用いた。また、血液検体として後述の被検血漿を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、測定試料を調製して凝固波形データを測定した。
【0133】
(2)被検血漿
正常血漿(自家調製)とPg欠乏血漿(Affinity Biological社)とを、体積比で表して10:0、3:7、1:9及び0:10の比率で混合して、被検血漿を得た。被検血漿中の正常血漿の比率に応じて、調製した被検血漿をそれぞれ100%Pg、30%Pg、10%Pg及び0%Pgと呼ぶ。
【0134】
(3)分析及び結果
透過度の経時的変化をプロットして凝固波形を得た。また、凝固波形のデータを1次微分して、速度の波形データを得た。これらのうち、100%Pg、30%Pg及び10%Pgの凝固波形を図5及びBに示す。また、100%Pg、30%Pg及び10%Pgの速度の波形を図5C及びDに示す。図5C及びDでは、縦軸(速度)が負の部分を拡大して示している。各波形データより、表3に示すパラメータを取得した。表3中、|max 1|の値とともに示されている時間は、測定の開始から線溶速度が最大となるまでの時間である。また、表3中、「-」はパラメータを取得できなかったことを示す。
【0135】
【表3】
【0136】
図5A及びBの凝固波形に示されるように、100%Pgでは、凝固により透過度が低下した後、しばらく経過してから透過度が上昇した。図5Aに示されるように、10%Pgでは、凝固により透過度が低下した後、透過度はほとんど上昇しなかった。このような波形の変化は0%Pgでも認められた。図5Bに示されるように、30%Pgでは、凝固により透過度が低下した後、透過度は上昇したが、測定時間中に透過度が100%に戻ることはなかった。したがって、30%Pg、10%Pg及び0%Pgでは線溶の終点を決定できず、FL時間は取得できなかった。そのような凝固波形はPg欠乏血漿に特有であるので、凝固波形から、線溶系の異常及びその原因がPgであることを分析できることが示唆される。
【0137】
図5Cに示されるように、10%Pgでは、凝固が完了した後は速度に変化がほとんど認められなかった。このような波形の変化は0%Pgでも認められた。したがって、10%Pg及び0%Pgでは、|max 1|、面積、傾きI及び傾きIIの値は取得できなかった。図5Dに示されるように、30%Pgでは、100%Pgに比べて、|max 1|及び傾きIIの値が低くなる傾向が認められた。一方、30%Pgでは、100%Pgに比べて、線溶速度が最大となるまでの時間が長くなる傾向が認められた。図5C及びDより、Pg欠乏血漿では、速度の波形において線溶によるピークが消失する傾向にあることがわかる。したがって、Pg欠乏検体では、傾きI及び傾きIIの値は0に近づくと予測される。すなわち、Pg欠乏検体では、正常血漿に比べて、傾きI及び傾きIIの値が低下することが予測される。このように、Pg欠乏血漿を含む被検血漿から取得された凝固波形の微分に関するパラメータは、正常血漿から取得されたパラメータとは異なっており、特徴的な傾向があることが認められた。そのような1次微分の波形はPg欠乏血漿に特有であるので、1次微分の波形から、線溶系の異常及びその原因がPgであることを分析できることが示唆される。
【0138】
以上のことから、本実施形態の分析方法によって、被検血漿に線溶系の異常があるか否かを分析できることが示唆された。また、例えば、正常血漿から得られた凝固波形の微分に関するパラメータの値をカットオフ値として用いることにより、線溶系の異常の原因がPgであるか否かを判定することもできる。
【符号の説明】
【0139】
10 血液検体分析装置
11、12 試薬テーブル(試薬収容部)
20 測定部
22g、22i 光検出器(受光部)
27 ランプユニット(光源)
30 検体搬送部
40 制御装置(制御部)
41 表示部
42 入力部
43 コンピュータ本体
50 測定装置(測定試料調製部及び情報取得部)
111 第1容器
112 第2容器
113 第3容器
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19