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7477125高温・高せん断抵抗性を有する高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】高温・高せん断抵抗性を有する高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/04 20060101AFI20240423BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20240423BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240423BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20240423BHJP
   C08L 61/02 20060101ALI20240423BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20240423BHJP
   C08K 5/5313 20060101ALI20240423BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C09K21/04
C09K21/12
C08L77/00
C08L67/00
C08L61/02
C08K3/32
C08K5/5313
C08K3/22
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023521913
(86)(22)【出願日】2021-10-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 CN2021122972
(87)【国際公開番号】W WO2022078274
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】202011084963.6
(32)【優先日】2020-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518301235
【氏名又は名称】ジィァンスー リースーデェァ ニュー マテリアル カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】雷 華
(72)【発明者】
【氏名】李 金忠
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0032076(US,A1)
【文献】特表2015-505798(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102746608(CN,A)
【文献】特表2020-504188(JP,A)
【文献】特表2018-516288(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141708(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/147943(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/073683(WO,A1)
【文献】特表2015-507590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K21/00-21/14
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C01B25/00-25/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエチルホスフィン酸アルミニウム40重量%~99.9重量%と、ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩0.1重量%~50重量%と、無機亜リン酸アルミニウム0重量%~40重量%と、亜鉛含有熱安定性化合物0重量%~10重量%と、を成分として含み、
前記ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩の構造式は、次の式(I)で表されることを特徴とする高温・高せん断抵抗性を有する高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系。
【化1】
(I)
(ここで、xは~6の整数であり、n、y及びpは1~4の整数であり、MはCa、Mg、Al、Zn、Fe、Sn又はTiである。)
【請求項2】
前記ジエチルホスフィン酸アルミニウムの平均粒子径D50が10μm<D50<50μmを満たすことを特徴とする請求項1に記載の高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系。
【請求項3】
前記ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩の平均粒子径D50が10μm<D50<50μmを満たすことを特徴とする請求項1に記載の高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系。
【請求項4】
前記無機亜リン酸アルミニウムの平均粒子径D50が10μm<D50<50μmを満たすことを特徴とする請求項1に記載の高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系。
【請求項5】
前記亜鉛含有熱安定性化合物は、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛、スズ酸亜鉛のうちの少なくとも1種を含み、その平均粒子径D50が10μm<D50<50μmを満たすことを特徴とする請求項1に記載の高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系のガラス繊維強化材料における使用であって、
前記ガラス繊維強化材料はガラス繊維強化ナイロン、ガラス繊維強化ポリエステル又はガラス繊維強化POKであることを特徴とする使用。
【請求項7】
前記ガラス繊維強化材料におけるガラス繊維の割合は30質量%を超えることを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記ガラス繊維強化材料はガラス繊維強化ナイロン又はガラス繊維強化ポリエステルであり、前記ガラス繊維強化材料における前記高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系の割合は10質量%~30質量%であり、前記ガラス繊維強化材料の難燃等級がUL94V-0、0.4mmであることを特徴とする請求項6又は7に記載の使用。
【請求項9】
前記ガラス繊維強化材料はガラス繊維強化POKであり、前記ガラス繊維強化材料における前記高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系の割合は5質量%~20質量%であり、前記ガラス繊維強化材料の難燃等級がUL94 V-0、0.4mmであることを特徴とする請求項6又は7に記載の使用。
【請求項10】
前記ガラス繊維強化ナイロン中のナイロンは、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミドのうちの少なくとも1種を含み、
前記ガラス繊維強化ポリエステル中のポリエステルは、PBT、PETのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性材料の技術分野に関するものであり、具体的には、高温・高せん断抵抗性を有する高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系及びその使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチック(例えば、各種のナイロン、ポリエステルなど)は、良好な剛性と耐衝撃性、低反り性、高い寸法安定性、良好な外観性などの性能上の特徴があるため、電子・電気分野に広く応用されている。これらの分野に応用するには、材料に難燃性が要求されるが、ほとんどのエンジニアリングプラスチックは可燃性材料で、ガラス繊維と複合した場合、ガラス繊維の灯心効果により、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックはより燃焼しやすくなる。そのため、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックはこれらの分野に応用する場合、難燃化の課題を解決する必要があり、しかも、灯心効果の存在によりその難燃化がより難しくなる。
【0003】
現在、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックの難燃化には、ハロゲン難燃系とハロゲンフリー難燃系の2種類の基本的な難燃系が含まれている。ハロゲン難燃系は通常、臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとを組み合わせたものであり、大量の研究により、臭素系難燃剤を添加したガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックは燃焼時に濃い煙と臭化水素などの有害物質を発生し、人の窒息を引き起こすことが明らかになった。そのため、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックのための、安全で環境にやさしいハロゲンフリー難燃系を開発することが研究の焦点となり、近年、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックに応用する新規なハロゲンフリー難燃剤又は難燃系が出現した。
【0004】
文献の報道によると、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックに応用されるハロゲンフリー難燃剤は主に2種類の系を含む。1つは赤リンであり、もう1つはリン-窒素系難燃系である。赤リンについては、難燃化効果は良いが、以下の2つの問題に直面している。1つは赤リンの色であり、赤リンの応用範囲が色により制限され、通常、黒色製品にしか応用されておらず、もう1つは加工の過程でリン化水素などの猛毒物が発生しやすく、環境保護と安全上の問題をもたらすことである。このため、赤リンはガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックにとって最適なものではない。リン-窒素系難燃系については、これは高性能難燃系であり、高い難燃化効率を持ち、赤リンのいくつかの欠陥も回避されており、現在の研究の焦点である。現在最も活用されているのは、ジエチルホスフィン酸アルミニウムに基づくリン-窒素組成物系、例えば、ジエチルホスフィン酸アルミニウム-ポリリン酸メラミン(MPP)組成物系であり、このような組成物系は、高いリン含有量とリン-窒素の相乗作用により、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックを効率的に難燃化することができ、また、製品の色の問題もなく、さらに非常に高い分解温度を持ち、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックの高温加工過程においてリン化水素などの猛毒ガスが発生しない。しかし、ジエチルホスフィン酸アルミニウムに基づくリン-窒素組成物系でも、以下のいくつかの主な欠点が存在する。1つは、2つの成分が高温で一定の反応分解を起こし、少量の酸性ガスを発生させ、これらの酸性ガスは加工設備の金属部品に腐食をもたらし、その結果として、一定時間後に部品を交換する必要があり、コストの増加と生産効率の低下の問題をもたらすことである。もう1つは、窒素含有化合物MPPがある程度析出され、材料の射出成形においては、所定量の製品を射出成形した後、金型に沈殿物が発生し、これらの沈殿物の存在は製品の外観に悪影響を与え、この場合、作業を停止して金型を清掃する必要があり、これによっても、生産効率を下げることがあり、また、このような析出は製品の表面への難燃剤のマイグレーションを引き起こし、難燃剤の分布の不均一さや流失を招き、最終的に材料の難燃化が無効になり、安全上のリスクを引き起こすことである。
【0005】
リン酸-窒素系が応用上の問題に直面していることに基づいて、窒素を含まないジエチルホスフィン酸アルミニウム-亜リン酸アルミニウム組成物系が開発されており、この系は高い難燃性、高温耐性を有し、また自身の色が白色であって色についての問題がなく、現在も広範に応用されている。しかし、この系においても、以下のいくつかの問題が存在する。(1)せん断抵抗が弱く、ガラス繊維含有量が高い場合、せん断力が高くなるため、系は変色しやすく、これは難燃剤の応用範囲を制限する要素になる。(2)亜リン酸アルミニウムは溶解度があるので、難燃剤は吸湿しやすく、重合体に応用した場合、製品にも吸湿のリスクがあり、電気絶縁性能が影響を受ける。(3)亜リン酸アルミニウムは酸性が強く、重合体や加工設備にはまだ一定のマイナスの影響がある。(4)亜リン酸アルミニウムのリン含有量はまだわずかに低く、薄肉製品に対して難燃化効果が不安定であり、薄い製品ほど難燃化が難しく、難燃剤により高い難燃性が要求される。ジエチルホスフィン酸アルミニウム-亜リン酸アルミニウム組成物系のこれらの応用上の問題に対して、新規なハロゲンフリー難燃系の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックに応用される既存のジエチルホスフィン酸アルミニウムに基づく難燃組成物系の欠点を克服するために、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチック用の新規なハロゲンフリー難燃系を開発し、これに基づいてハロゲンフリー難燃性ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックを製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
当該分野に存在する欠点に対して、本発明は、従来の難燃系の欠陥を解決し、より高い難燃性、高温・高せん断抵抗性、低吸湿及び低酸性などの特徴を有する、高温・高せん断抵抗性を有する高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系を提供する。本発明の難燃系をガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックに用いて、電子・電気機器分野の部品や製品の製造に有用なハロゲンフリー難燃性ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチック材料を得ることができる。
【0008】
本発明は、ジエチルホスフィン酸アルミニウムを用いて、ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩、及び他の任意の相乗化合物と相乗的に作用させることにより、高温・高せん断抵抗性を有する相乗的難燃組成物系を形成するものであり、せん断に耐えることができず、吸湿性があり、より酸性が高いといった従来の難燃系の欠陥を解決する。該新規難燃系は、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックに好適に使用されて、優れた性能を有するハロゲンフリー難燃材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
高温・高せん断抵抗性を有する高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系であって、
ジエチルホスフィン酸アルミニウム40重量%~99.9重量%と、ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩及び/又は縮合二亜リン酸水素塩0.1重量%~50重量%と、無機亜リン酸アルミニウム0重量%~40重量%と、亜鉛含有熱安定性化合物0重量%~10重量%と、を成分として含み、
前記ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩、縮合二亜リン酸水素塩の構造式は、次の式(I)で表される。
【化1】
(I)
(ここで、xは0~6の整数であり、n、y及びpは1~4の整数であり、MはCa、Mg、Al、Zn、Fe、Sn又はTiである。xが0の場合は縮合二亜リン酸水素塩、xが1~6の整数の場合はポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩である。)
【0010】
該難燃組成物系は、各種ナイロン、ポリエステル、POK(ポリケトン)などの高ガラス繊維含有量強化エンジニアリングプラスチック、及び薄肉製品に特に適しており、厚さ0.4mmのUL94 V-0の難燃規格を達成し得る。
【0011】
本発明は、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックに応用されるハロゲンフリー難燃系が有する種々の欠陥を解決することを目的として、本発明者らが広範かつ深く検討したものである。従来のジエチルホスフィン酸アルミニウムに基づく難燃組成物系がガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックの難燃化に用いられる場合に存在する問題に対して、新規難燃系を検討した結果、ジエチルホスフィン酸アルミニウムとポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩又は縮合二亜リン酸水素塩、その他の任意の相乗化合物とを組み合わせることで、上記の問題を解決できることを見出した。ジエチルホスフィン酸アルミニウムの化学構造は、次の式で表される。
【化2】
【0012】
ジエチルホスフィン酸アルミニウムは、リン含有量が高く、難燃性に優れ、高い初期分解温度を有し、水溶性が低く、耐マイグレーション性を有し、吸湿性がないという特徴があり、現在、ナイロン、PBTなどのエンジニアリングプラスチック、特にガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックに多く応用されている。ジエチルホスフィン酸アルミニウムを単独で使用すると、析出の問題はないが、難燃性能が不足しているため、難燃化の要求を達成するには、相乗剤を配合する必要がある。現在、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックに応用される難燃系は、(1)ジエチルホスフィン酸アルミニウム-MPP系と、(2)ジエチルホスフィン酸アルミニウム-亜リン酸アルミニウム系の2種類の系を含む。
【0013】
ジエチルホスフィン酸アルミニウムは、MPPと配合して使用する場合、その分解温度が低くなり、加工中に酸性ガスとアンモニアガスを放出し、加工設備の金属部品を腐食してしまい、また、MPPのマイグレーション特性により、金型の表面に沈殿物が発生して、外観に悪影響を及ぼし、定期的に金型を掃除しなければならず、その結果として、生産効率の低下を招く。明らかに、MPPの存在はこれらの問題を引き起こす主因であり、MPPの使用を最小限に抑えるか、MPPを使用しないことが必要である。
【0014】
ジエチルホスフィン酸アルミニウムと亜リン酸アルミニウムを配合して使用する場合、亜リン酸アルミニウムの吸湿性、高温せん断に耐えないことや低いリン含有量のため、まだいくつかの問題が存在する。(1)せん断抵抗が弱く、ガラス繊維含有量が高い場合、系は変色しやすく、これは難燃剤の応用範囲を制限する。(2)亜リン酸アルミニウムは溶解度があるので、難燃剤は吸湿しやすく、重合体に応用した場合、製品にも吸湿のリスクがあり、電気絶縁性能が影響を受ける。(3)亜リン酸アルミニウムは酸性が強く、重合体や加工設備にはまだ一定のマイナスの影響がある。(4)亜リン酸アルミニウムのリン含有量はまだわずかに低く、薄肉製品に対して難燃化効果が不安定である。
【0015】
本発明者らは、検討をした結果、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが存在する上に、新規なポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩及び/又は縮合二亜リン酸水素塩相乗剤を選択することにより、有機リン酸アルミニウム構造を主とし良好な難燃特性を有する難燃系を形成できることを見出した。
【0016】
好ましい例として、前記縮合二亜リン酸水素塩は、金属Mの亜リン酸水素塩固形物(MはCa、Mg、Al、Zn、Fe、Sn又はTi)を、平均粒子径D50が10μm程度となるまで粉砕し、濃度85wt%以上の濃リン酸(HPO)1wt%~2wt%(金属Mの亜リン酸水素塩固形物の100質量%を基準に)と均一に混合した後、オーブンに入れ、低速等速又は勾配昇温により混合物を加熱し、昇温過程にわたって5℃/min以下の速度で材料の温度を常温から約5時間かけて290℃に昇温する製造方法によって製造される。反応により得られる固形物は縮合二亜リン酸水素塩であり、粉砕により平均粒子径が5~10μmに制御される。
【0017】
前記ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩の製造方法は、
亜リン酸と金属M(MはCa、Mg、Al、Zn、Fe、Sn又はTiである。)の亜リン酸水素塩を反応物として水に溶解し、反応物の質量に対して1%~5%の濃度、85wt%以上の濃リン酸(HPO)を加え、撹拌して均一に混合し、80~90℃で反応させるステップ(1)と、
ステップ(1)の反応により得られた原料を、150℃以下のベーク温度で、含水率が0.3wt%以下となるようにベークするステップ(2)と、
ステップ(2)でベークして得られた生成物を、不活性雰囲気又は真空下、200~300℃で脱水反応を行い、生成物の熱減量が2wt%に相当する温度が400℃を超えた時点で脱水反応を終了し、室温まで温度を下げて、排出して固形物を得るステップ(3)と、
ステップ(3)で得られた固形物を、洗浄後の水の伝導度が50μs/cm未満になるまで水洗し、含水率が0.3wt%未満になるまで水洗生成物を乾燥して、前記ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩化合物を得るステップ(4)と、を含む。
【0018】
前記ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩化合物とジエチルホスフィン酸アルミニウムとを配合する場合、ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩化合物を所望の粒子径に予め粉砕しておいてもよい。
【0019】
該ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩化合物は、亜リン酸アルミニウムに対して、より高いリン含有量、耐高温せん断作用、より低い吸湿性、及びより弱い酸性を有し、ジエチルホスフィン酸アルミニウムと相乗的に作用することができ、特に高ガラス繊維含有量強化製品及び薄肉製品に適している。
【0020】
更に検討した結果、ジエチルホスフィン酸アルミニウムとポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩との組成物系には、さらに亜リン酸アルミニウムを添加してもよく、このような場合にも、系は高難燃性を有し、系の性能を低下させることがない。
【0021】
さらに、上記のジエチルホスフィン酸アルミニウムとポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩との組成物系に、高温に耐えて析出しない亜鉛含有熱安定性化合物を少量導入することができ、このようにして、さらに耐腐食性を向上させ、また、析出の問題もなく難燃性を向上できることを見出した。亜鉛含有熱安定性化合物としては、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛等が含まれており、結晶水を含まないこれらの亜鉛塩熱安定性化合物は、分解温度が高く、水溶性が低く、マイグレーションして析出することはないため、有機リンアルミニウム構造と相乗することができ、難燃性を向上させ、しかも発煙抑制作用を有し、発煙密度を低減させることができる。
【0022】
好ましくは、前記ジエチルホスフィン酸アルミニウムの平均粒子径D50が、10μm<D50<50μmを満たす。
【0023】
好ましくは、前記ポリ/モノホスファイト縮合二亜リン酸水素塩の平均粒子径D50が、10μm<D50<50μmを満たす。
【0024】
好ましくは、前記無機亜リン酸アルミニウムの平均粒子径D50が、10μm<D50<50μmを満たす。
【0025】
好ましくは、前記亜鉛含有熱安定性化合物は、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛、スズ酸亜鉛のうちの少なくとも1種を含み、平均粒子径D50が10μm<D50<50μmを満たす。
【0026】
本発明はまた、ガラス繊維強化ナイロン、ガラス繊維強化ポリエステル又はガラス繊維強化POKであるガラス繊維強化材料における高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系の使用を提供する。
【0027】
前記高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系は、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックに難燃性を付与する機能的助剤であり、関連する基準の要求を達成するために、ガラス繊維強化材料系全体に占める重量百分率が5%~40%である。
【0028】
ハロゲンフリー難燃性ガラス繊維強化材料を製造するには、難燃系を材料に均一に分散させる必要もあり、ガラス繊維投入口と難燃剤粉体投入口を持つ二軸押出機を用いて、多種の成分を押出機にて溶融してブレンドし、押出造粒する。
【0029】
本発明の難燃剤系は、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックに適しており、ガラス繊維は系において材料の剛性などの力学的性能を高める作用を発揮するが、ガラス繊維は剛性成分で、加工の過程で難燃剤と強い摩擦を発生して、難燃剤に強いせん断力をかけ、このようなせん断力は難燃剤の分解を引き起こして、材料の変色や酸性化を引き起こし、深刻な場合は発泡、有害な気体の放出などの問題を招くことがある。ガラス繊維の含有量が高いほど、加工中に系に加えるせん断力が大きくなり、難燃剤の耐せん断作用に対する要求も高くなる。検討の結果、本発明の系は特に高ガラス繊維含有量(ガラス繊維強化材料中のガラス繊維の割合は30質量%を超える)のガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックに適しており、亜リン酸アルミニウム系に比べてより優位性がある。
【0030】
本発明の難燃剤系は、薄肉製品への使用に適している。高分子材料の難燃化に関しては、空気との接触面積が材料の燃焼性能に大きく影響するため、薄い製品ほど、空気との接触面積が大きく難燃化しにくく、ジエチルホスフィン酸アルミニウムと亜リン酸アルミニウムとの相乗系は、0.4mm厚さでは難燃化が不安定になる。一方、本発明の難燃系は、亜リン酸アルミニウムよりも相乗剤のリン含有量が高いため、より優れた難燃性を示し、0.4mmまでの薄さでもUL94 V0等級を達成することができる。
【0031】
前記ガラス繊維強化材料がガラス繊維強化ナイロン又はガラス繊維強化ポリエステルである場合、前記ガラス繊維強化材料に占める高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系の割合は10質量%~30質量%であり、前記ガラス繊維強化材料の難燃等級はUL94 V-0、0.4mmに達する。
【0032】
前記ガラス繊維強化材料がガラス繊維強化POKである場合、前記ガラス繊維強化材料に占める高難燃性ハロゲンフリー難燃組成物系の割合は5質量%~20質量%であり、前記ガラス繊維強化材料の難燃等級はUL94 V-0、0.4mmに達する。
【0033】
前記ガラス繊維強化ナイロン中のナイロンは、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミドのうちの少なくとも1種を含む。
【0034】
前記ガラス繊維強化ポリエステル中のポリエステルは、PBT、PETのうちの少なくとも1種を含む。
【0035】
従来技術と比較して、本発明の主な利点は次のとおりである。本発明によるジエチルホスフィン酸アルミニウムに基づく、高温・高せん断抵抗性を有する高難燃性ハロゲンフリー多成分難燃組成物系は、従来の難燃系の欠陥を解決し、ガラス繊維強化エンジニアリングプラスチックのハロゲンフリー難燃系として使用でき、高ガラス繊維含有量製品及び薄肉製品の難燃化の課題を解決し、電気・電子分野に応用する新規ハロゲンフリー難燃性ガラス繊維強化用の材料の製造に有用である。
【実施例
【0036】
以下、特定実施例を参照して、本発明をさらに説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するためには使用されない。以下の実施例では、特定の条件が示されていない操作方法は、通常、一般的な条件、又は製造者によって提案された条件に従ったものである。特に断らない限り、材料の添加量はすべて重量部を意味する。
【0037】
[モノホスファイト縮合二亜リン酸水素アルミニウムの製造方法]
モノホスファイト縮合二亜リン酸水素アルミニウムの分子構造は次の式で表される。
【化3】
【0038】
(製造過程)
亜リン酸82g(1mol)、亜リン酸水素アルミニウム540g(2mol)((HPOAl)、及び濃度85.1wt%の濃リン酸(HPO)12gを秤量して、水1500gに溶解し、よく撹拌して、均一に混合し、85℃で3時間反応させ、-0.08MPa、85℃で回転蒸発させ、水分を50wt%まで蒸発させた。材料をオーブンに移して、130℃まで昇温し、120min乾燥し、固形物の水分量を0.2wt%とし、水分を乾燥除去した固形物を高温真空オーブンに入れ、240℃で3時間加熱し、室温まで温度を下げ、材料を排出し、洗浄後の水の伝導度が50μs/cm未満になるまで材料を水洗して分離し、水分含量が0.08wt%となるまで130℃でベークし、材料を粉砕し、平均粒子径D50が40μm、収率が97.8%であった。次に、関連する試験及び応用を行った。
【0039】
[縮合二亜リン酸水素アルミニウムの製造方法]
亜リン酸水素アルミニウム((HPOAl)固形物を平均粒子径D50=9.2μmに粉砕し、濃度85.1wt%の濃リン酸(HPO)を540g、10.8g取って、均一に混合し、オーブンに入れ、まず、3℃/minの昇温速度で130℃まで昇温し、30min保持し、次に、2℃/minの速度で180℃まで昇温し、30min保持し、1℃/minで240℃まで昇温し、60min保持し、さらに、2℃/minの加熱速度で290℃まで昇温し、30min保持し、常温まで温度を下げ、固形物を粒子径D50=6.2μmに粉砕した。
【0040】
<実施例1>
難燃組成物系をガラス繊維強化ナイロンに用いて、以下のステップ及び試験方法により難燃剤の性能を考察した。
【0041】
1)ハロゲンフリー難燃剤系の配合
表1の配合比により、高速ミキサーに難燃組成物系の各成分を加えて、高速撹拌を開始し、10min撹拌し、ハロゲンフリー難燃系の配合を完了すると、材料を取り出して検出し、使用時まで保管した。
【0042】
2)材料の押出造粒
二軸押出機の各ゾーンの温度を所定の温度に設定し、温度が20minで安定化した後、ホッパーからナイロン系を加え、ガラス繊維投入口からガラス繊維を加え、難燃剤系粉体を粉体投入口から投入し、本体とフィーダを起動し、材料の押出造粒を行った。造粒した材料を送風システムによりサイロに送って、ベークした。
【0043】
3)材料の応用及び試験
ベークした材料を用いて、射出成形機にて各種試験標準に規定された標準試験片を射出成形し、関連する材料性能の試験を行った。主に次のパフォーマンス指標を重点とした。
【0044】
1、難燃性
UL94試験標準(試験片厚0.4mm)に準拠して試験した。UL94難燃性に基づいて、次の等級が付けられている。
V-0:1回の点火は10sを超えない継続燃焼。計5本の試験片を点火し、1本の試験片ごとに2回点火して、5本の試験片の10回点火の継続燃焼時間の合計は50s以下で、燃焼滴下がなく、試験片は完全に燃えておらず、点火が終わった後に、30s以上の試験片のくすぶり燃焼がない。
V-1:1回の点火は30sを超えない継続燃焼。計5本の試験片を点火し、1本の試験片ごとに2回点火して、5本の試験片の10回点火の継続燃焼時間の合計は250s以下で、燃焼滴下がなく、試験片は完全に燃えておらず、点火が終わった後に、60s以上の試験片のくすぶり燃焼がない。
V-2:燃焼滴下により綿を引火する以外、残りの基準はV-1と同じ。
ここでの試験は、V-0に達しているかどうかのみに注目し、達している場合はPASS、達していない場合はFAILと記す。
難燃性試験は厚さと関係があり、ここでは、最も薄い試験片の厚さについて調査し、試験片の厚さは0.4mmである。
【0045】
2、難燃剤の耐せん断特性
造粒による材料粒子を水に浸漬した後の水のpH値を間接的に試験することにより、耐せん断性を示す。その基本的な原理は次のとおりである。二軸押出機において、難燃剤はスクリューの高速回転とスクリューバレル内での推進に伴い、設備の部品や系中のガラス繊維と摩擦を起こし、強いせん断作用を受け、難燃剤は高温と強せん断の作用で分解しやすくなり、リン含有難燃剤が高温せん断作用で分解した化学物質は酸性を示し、これらの物質は外部にマイグレーションして水に溶け、これにより、粒子を浸漬した水は酸性を示し、酸性の強弱は水のpH値を試験することにより比較した。通常、せん断抵抗が弱いほど、粒子を浸漬した水の酸性が強く、pH値が低く、pH値が低いほど、材料の性能が低下し、設備の腐食を引き起こす可能性がある。本発明の目的は、ある条件下でpHが4を超えることであり、このような場合、難燃剤は高温・せん断抵抗性に優れていることが示された。
試験過程:粒子10gを水100gに分散させ、25℃で2時間保持し、粒子をろ過し、水のpH値を測定した。
【0046】
3、難燃剤の吸湿特性
混合した難燃剤試験片50gを秤量して、温度85℃、相対湿度85%に設定された恒温恒湿槽に入れ、48h後、試験片を取り出して、さらに重量を秤量した。増加重量は吸収した水分であり、これにより、吸水率を算出した。本発明の難燃系は、吸湿率が0.1%未満であることを目標とし、その際、難燃剤の吸湿率は低い。
【0047】
実施例の各材料及び配合比は表1、得られた材料の試験結果は表1に示す。
【0048】
<実施例2>
難燃剤系が3成分である以外、実施過程は実施例1と同様であり、難燃系の総量は一定であった。その他の材料及び配合比は表1、得られた材料の結果は表1に示される。
【0049】
<実施例3>
難燃剤系が3成分である以外、実施過程は実施例1と同様であり、難燃系の総量は一定であった。その他の材料及び配合比は表1、得られた材料の結果は表1に示される。
【0050】
<実施例4>
難燃剤系が4成分である以外、実施過程は実施例1と同様であり、難燃系の総量は一定であった。その他の材料及び配合比は表1、得られた材料の結果は表1に示される。
【0051】
<実施例5>
実施過程では、モノホスファイト縮合二亜リン酸水素アルミニウムを縮合二亜リン酸水素アルミニウムに置換した以外、残りは実施例1と同様であった。その他の材料及び配合比は表1、得られた材料の結果は表1に示される。
【0052】
<比較例1>
難燃系にジエチルホスフィン酸アルミニウムの1成分のみを使用する以外、実施過程は実施例1と同様であった。その他の材料及び配合比は表1、得られた材料の結果は表1に示される。
【0053】
<比較例2>
難燃系にジエチルホスフィン酸アルミニウムと亜リン酸アルミニウムとの組成物系のみを使用する以外、実施過程は実施例1と同様であった。その他の材料及び配合比は表1、得られた材料の結果は表1に示される。
【0054】
<比較例3>
難燃系にジエチルホスフィン酸アルミニウムとスズ酸亜鉛との組成物系のみを使用する以外、実施過程は実施例1と同様であった。その他の材料及び配合比は表1、得られた材料の結果は表1に示される。
【0055】
【表1】
【0056】
なお、当業者は、本発明の前述の説明を読んだ後に、本発明に様々な変更又は修正を加えることができ、これらの等価な形態も本願の添付の特許請求の範囲によって定義される範囲にも含まれる。