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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】木造建築物における梁の連結固定構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20240423BHJP
   E04B 1/26 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
E04B1/58 508L
E04B1/58 506L
E04B1/26 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024019297
(22)【出願日】2024-02-13
【審査請求日】2024-02-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504232974
【氏名又は名称】株式会社ダイドーハント
(73)【特許権者】
【識別番号】597032332
【氏名又は名称】株式会社栗山百造
(74)【代理人】
【識別番号】100077791
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 収二
(74)【代理人】
【識別番号】100117651
【弁理士】
【氏名又は名称】高垣 泰志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】永井 馨
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-193541(JP,A)
【文献】特開2012-87570(JP,A)
【文献】特開2007-303199(JP,A)
【文献】特開平3-21737(JP,A)
【文献】特開平8-270083(JP,A)
【文献】特開2000-282574(JP,A)
【文献】特開2000-213059(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104790536(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/26
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物の先に構築された先行部材に直交するX方向から梁を接続する構成において、先行構造部材に固着された連結金物のX方向に突出する縦板状の支持板に対して、梁の端面に切込み状に形成された受溝を外嵌させた状態で、梁の端部を貫通して水平方向に打ち込まれたドリフトピンを前記支持板の連結孔に挿通して成る構成であり、
前記梁(22)の梁成方向の上半部(22A)と下半部(22B)に関して、上半部に対応する上側連結金物(21A)と、下半部に対応する下側連結金物(21B)が先行部材(23)に固着され、両連結金物はそれぞれ該先行部材の側面からX方向に突出する上側支持板(24A)と下側支持板(24B)を備え、下側支持板(24B)の先端部に上側支持板(24A)の先端を超えてX方向に延びる延長板部(24C)を延設しており、
前記上側支持板(24A)は、上下方向に間隔をあけて複数の上側連結孔(26A)を列設し、前記下側支持板の延長板部(24C)は、上下方向に間隔をあけて複数の下側連結孔(26B)を列設すると共に、該延長板部の上端縁に支持凹部(27B)を形成しており、
前記梁(22)は、前記上側支持板(24A)と下側支持板(24B)に外嵌される受溝(32)と、該梁を水平方向に横断して挿着され前記支持凹部(27B)に係合される仮止め固定ピン(35)と、梁の水平方向に貫設され前記上側連結孔(26A)と下側連結孔(26B)にそれぞれ連通される上側ピン孔(33A)と下側ピン孔(33B)を設けており、
前記仮止め固定ピン(35)を前記支持凹部(27B)に係合することにより梁を先行部材に対して仮止め固定した状態で、前記上側ピン孔(33A)及び下側ピン孔(33B)に打ち込まれたドリフトピン(36)を前記上側連結孔(26A)及び下側連結孔(26B)に挿通することにより先行部材と梁が連結固定され、
前記梁(22)は、前記上側ピン孔(33A)と梁の端面(22a)の間に割裂容易部(37)を形成し、前記下側ピン孔(33B)と梁の端面(22a)の間に割裂困難部(38)を形成して成ることを特徴とする木造建築物における梁の連結固定構造。
【請求項2】
前記上側支持板(24A)に設けられた上側連結孔(26A)と前記梁(22)に設けられた上側ピン孔(33A)は、それぞれ上下方向に間隔をあけて列設された複数の孔により構成されると共に、複数の孔に複数のドリフトピン(36)が打ち込まれ、
前記下側支持板の延長板部(24C)に設けられた下側連結孔(26B)と前記梁(22)に設けられた下側ピン孔(33B)は、それぞれ上下方向に間隔をあけて列設された複数の孔により構成されると共に、複数の孔に複数のドリフトピン(36)が打ち込まれており、
前記複数の上側ピン孔(33A)のうち梁の端面(22a)に最も遠い上側ピン孔の中心と該端面の間の距離L1に対して、前記複数の下側ピン孔(33B)のうち梁の端面(22a)に最も近い下側ピン孔の中心と該端面の間の距離L2がL1<L2に形成されて成ることを特徴とする請求項1に記載の木造建築物における梁の連結固定構造。
【請求項3】
前記距離L1に対して、仮止め固定ピン(35)の中心と梁の端面(22a)の間の距離L3がL1<L3に形成されて成ることを特徴とする請求項2に記載の木造建築物における梁の連結固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物における柱や梁等の先に構築された先行部材に梁を接続するための連結固定構造に関し、特に、梁成の大きい梁を先行部材に対して好適に連結固定可能とするものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木造建築物の柱に直交するX方向から梁を接続する仕口部において、柱に固着された連結金物の柱側面からX方向に突出する縦板状の支持板に対して、梁の端面に切込み状に形成された受溝を外嵌させた状態で、梁の端部を貫通して水平方向に打ち込まれたドリフトピンを前記支持板の連結孔に挿通することにより、梁を柱に連結固定するものが公知である。
【0003】
図1ないし図4は、本出願人らが提供している連結金物1を使用することにより、梁2を柱3に対して直交するX方向から連結固定する方法を示している。この場合、梁2は、梁成Hを約240mm~約300mmとしており、通常の梁2が使用された木造住宅における仕口部を示している。
【0004】
先ず、図1及び図2に示すように、柱3の所定部位に連結金物1が取付固着される。連結金物1は、X方向に縦板状の支持板4と筒状の固着部5を連設しており、金物成、つまり、支持板4の上下寸法は、例えば約220mmである。固着部5は、上下方向に間隔をあけて複数本が設けられ、図例の場合、3本の固着部5が設けられている。
【0005】
前記支持板4は、複数の連結孔6を上下方向に間隔をあけて列設し、上縁部に支持凹部7を形成している。そして、前記固着部5は、水平方向に貫通する固着孔8を設けている。
【0006】
前記連結金物1を取付固着するため、柱3は、柱側面3aから有底の受孔9を穿設すると共に、該受孔9を横断するピン孔10を貫設している。
【0007】
そこで、図2に示すように、前記連結金物1は、前記固着部5を前記受孔9に挿入した状態で、前記ピン孔10に打ち込んだドリフトピン11を前記固着孔8に挿通させることにより、柱1に取付固着され、この状態で、柱側面3aからX方向に支持板4を突出させている。
【0008】
これに対して、梁2は、図2に示すように、前記支持板4に外嵌させられる受溝12を梁端面2aに切込み状に形成すると共に、該受溝12を含んで梁2を水平方向に貫通する孔により、受溝12を前記支持板4に外嵌させたとき、前記連通孔6に連通するピン孔13と、前記支持凹部7に連通する仮止め固定孔14を形成している。
【0009】
図4は、梁2を柱3に連結固定する方法を示している。図4(A)に示すように、予め梁2は、仮止め固定孔14に仮止め固定ピン15が挿着されており、該仮止め固定ピン15を連結金物1における支持板4の上方に臨ませた状態で、受溝12を支持板4に外嵌させ、梁端面2aを柱側面3aに沿わせて下降させられる。
【0010】
これにより、図4(B)に示すように、仮止め固定ピン15が支持板4の支持凹部7に係合することにより、梁2を仮止め状態で固定支持する。この状態で、支持板4の連結孔6と梁2のピン孔13が連通させられる。
【0011】
そこで、図4(C)及び図3に示すように、前記ピン孔13にドリフトピン16を打ち込んで連通孔6に挿通させることにより、梁2が連結金物1に固着され、その結果、梁2は、柱3に連結固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第6000327号公報
【文献】特許第6767785号公報
【文献】特許第6894092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上述のような梁成Hを約240mm~約300mmとした梁により構築される木造住宅の場合は、本出願人らが提供している連結金物を使用することにより特に問題を生じることはない。ところが、近年、例えば、自治体の公民館や、その他、大きな部屋を構築するための非住宅木造建築物においても、梁と柱の仕口部に連結金物を使用するニーズが高まっているが、例えば梁成を約420mm~約690mmとするような大型かつ大重量の梁が使用されるため、上述のような従来の連結金物では、梁を柱に連結固定したときの強度を十分に確保することができない。
【0014】
そこで、大型かつ大重量の梁を柱に連結固定する連結金物の構成に関して、(1)連結金物それ自体を大型化する第1案と、(2)従来と同型の連結金物を上下に並設する第2案を提案することができる。
【0015】
ところが、非住宅木造建築物における梁は、工場でプレカットされた梁が使用され、その梁成を30mm単位で相違する種々のものが提供されている現状を考慮する必要がある。従って、前記第1案は、梁成が最小寸法とされた梁と、梁成が最大寸法とされた梁の間において、複数サイズの連結金物により対応する必要があるので、適切でない。
【0016】
これに対して、前記第2案は、連結金物を柱に並設する際、連結金物の上下間隔を変更することにより、異なる梁成の梁に対応できる利点があり、適切である。
【0017】
このため、本発明は、連結金物を上下に並設する前記第2案を基本として構成するものであるが、更に、以下のような問題を解決する必要があることが知得された。
【0018】
図5ないし図8は、この点の問題を説明するための比較例を示している。
【0019】
梁2Mは、上述した従来技術の連結金物の金物成(例えば220mm)の2倍以上、例えば梁成を約440mm~約690mmとする大型で大重量の梁が使用されている。
【0020】
連結金物は、図1ないし図4に示した従来技術と同一の金物が使用されているが、梁2Mの梁成方向の上半部2Aと下半部2Bに関して、上半部2Aに対応する上側連結金物1Aと、下半部2Bに対応する下側連結金物1Bが柱3に並設される。
【0021】
前記上側連結金物1Aは、上側支持板4Aを柱側面3aから突出させ、下側連結金物1Bは、下側支持板4Bを柱側面3aから突出させるように構成されている。
【0022】
前記上側支持板4Aは、上下方向に間隔をあけて複数の上側連結孔6Aを列設し、上縁部に支持凹部7Aを形成している。前記下側支持板4Bは、上下方向に間隔をあけて複数の下側連結孔6Bを列設している。
【0023】
上側連結金物1A及び下側連結金物1Bは、上述の従来技術と同様に、筒状の固着部5を柱1の受孔9に挿入した状態で、ドリフトピン11を打ち込むことにより固着されるように構成されており、この点は、上述の従来技術と同様であるから、同一構成部分を同一符号で示すことにより図示している。
【0024】
これに対して、梁2Mは、梁成Hを約440mm~約690mmとする大型かつ大重量のものとされ、前記上側支持板4A及び下側支持板4Bの全体に外嵌させられる受溝12Mを梁端面2aから上半部2Aと下半部2Bを含んで切込み状に形成している。
【0025】
そして、梁2Mの上半部2Aは、受溝12Mを上側支持板4Aに外嵌させたとき、前記上側連結孔6Aに連通する上側ピン孔13Aと、前記支持凹部7Aに連通する仮止め固定孔14Aを貫設している。
【0026】
また、梁2Mの下半部2Bは、受溝12Mを下側支持板4Bに外嵌させたとき、前記下側連結孔6Bに連通する下側ピン孔13Bを貫設している。
【0027】
図8は、梁2Mを柱3に連結固定する方法を示している。図8(A)に示すように、予め梁2Mは、仮止め固定孔14Aに仮止め固定ピン15Aが挿着されており、該仮止め固定ピン15Aを上側連結金物1Aにおける上側支持板4Aの上方に臨ませた状態で、受溝12Mを上側支持板4A及び下側支持板4Bに外嵌させ、梁端面2aを柱側面3aに沿わせて下降させられる。
【0028】
これにより、図8(B)に示すように、仮止め固定ピン15Aが上側支持板4Aの支持凹部7Aに係合することにより、梁2Mを仮止め状態で固定支持する。
【0029】
ところが、大重量の梁2Mを下降させる際、例えば、作業者が手を放すことにより梁2Mを自重で落下させる等、仮止め固定ピン15Aが支持凹部7Aに衝撃を伴って当接させられたときは、図8(C)に示すように、梁2Mの木質が仮止め固定孔14Aと梁端面2aの間で亀裂17を生じる等、損傷するおそれがある。
【0030】
このような亀裂17が生じる原因は、梁2Mの上端と仮止め固定孔14Aの間の木質厚さTが前記のような衝撃に耐え得ないからである。
【0031】
その結果、梁2Mが所定位置よりも下方に位置ずれした状態で仮止め固定されるので、上側支持板4A及び下側支持板4Bの上側連結孔6A及び下側連結孔6Bに対して、梁2Mの上側ピン孔13A及び下側ピン孔13Bが正しく合致せず、下方に位置ずれしているので、ドリフトピン16を好適に打ち込むことができない。
【0032】
そればかりか、損傷した梁2Mは、取り替える必要があるが、プレカットにより提供される梁は、受注生産が通常であるから、納期までの長期間、建築作業の中断を強いられることになる。
【0033】
ところで、前記のような亀裂17を生じることはなく、上手く梁2Mを仮止め固定した状態で、上側ピン孔13A及び下側ピン孔13Bに打ち込んだドリフトピン16を上側支持板4A及び下側支持板4Bの上側連結孔6A及び下側連結孔6Bに挿通させ、図7に示すように、梁2Mを柱1に連結固定することができた場合でも、上側連結金物1Aと下側連結金物1Bが同一構成のものであるため、地震の発生時に、脆性的な破壊が生じるという問題がある。
【0034】
即ち、木造建築において相互に直交する柱と梁を連結金物により連結する場合、一般的には連結金物の降伏応力を高めるのが良いと考えられている。
【0035】
しかしながら、この場合、所定以上の応力が加えられると、梁の木質に割裂が生じるので、脆性的な破壊を招来する。このため、地震等が発生したときは、連結金物が全体的に高強度に形成されていても、木質の割裂による脆性的な破壊が瞬時に生じるおそれがある。
【0036】
図5ないし図8に基づいて上述した比較例の場合、梁2Mの上半部2Aの破壊強度は、ドリフトピン16が打ち込まれた上側ピン孔13Aと梁端面2aの間の木質量により定まり、下半部2Bの破壊強度は、ドリフトピン16が打ち込まれた下側ピン孔13Bと梁端面2aの間の木質量により定まる。そして、上半部2Aの破壊強度と下半部2Bの破壊強度がほぼ等しいものとされている。
【0037】
このため、地震等により梁2Mと柱1の間に所定以上の応力が加えられると、上側ピン孔13Aと梁端面2aの間の割裂による上半部2Aの破壊と、下側ピン孔13Bと梁端面2aの間の割裂による下半部2Bの破壊が同時に生起するおそれがある。
【0038】
本発明は、以上に鑑み、梁成が大きい大重量の梁に関して、柱に対する仮止め固定時に亀裂による損傷を生じるようなことがなく、しかも、柱に連結固定した状態において、上述のような脆性的な破壊を遅延させることができるように構成した柱と梁の連結固定構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0039】
そこで、上記課題を解決するために、本発明が手段として構成したところは、木造建築物の先に構築された先行部材に直交するX方向から梁を接続する仕口部において、先行部材に固着された連結金物のX方向に突出する縦板状の支持板に対して、梁の端面に切込み状に形成された受溝を外嵌させた状態で、梁の端部を貫通して水平方向に打ち込まれたドリフトピンを前記支持板の連結孔に挿通して成る構成であり、前記梁の梁成方向の上半部と下半部に関して、上半部に対応する上側連結金物と、下半部に対応する下側連結金物が先行部材に固着され、両連結金物はそれぞれ先行部材の側面からX方向に突出する上側支持板と下側支持板を備え、下側支持板の先端部に上側支持板の先端を超えてX方向に延びる延長板部を延設しており、前記上側支持板は、上下方向に間隔をあけて複数の上側連結孔を列設し、前記下側支持板の延長板部は、上下方向に間隔をあけて複数の下側連結孔を列設すると共に、該延長板部の上端縁に支持凹部を形成しており、前記梁は、前記上側支持板と下側支持板に外嵌される受溝と、梁を水平方向に横断して挿着され前記支持凹部に係合される仮止め固定ピンと、梁の水平方向に貫設され前記上側連結孔と下側連結孔にそれぞれ連通される上側ピン孔と下側ピン孔を設けており、前記仮止め固定ピンを前記支持凹部に係合することにより梁を先行部材に対して仮止め固定した状態で、前記上側ピン孔及び下側ピン孔に打ち込まれたドリフトピンを前記上側連結孔及び下側連結孔に挿通することにより先行部材と梁が連結固定され、前記梁は、前記上側ピン孔と梁の端面の間に割裂容易部を形成し、前記下側ピン孔と梁の端面の間に割裂困難部を形成して成る点にある。
【0040】
本発明の実施形態において、前記上側支持板に設けられた上側連結孔と前記梁に設けられた上側ピン孔は、それぞれ上下方向に間隔をあけて列設された複数の孔により構成されると共に、複数の孔に複数のドリフトピンが打ち込まれ、前記下側支持板の延長板部に設けられた下側連結孔と前記梁に設けられた下側ピン孔は、それぞれ上下方向に間隔をあけて列設された複数の孔により構成されると共に、複数の孔に複数のドリフトピンが打ち込まれており、前記複数の上側ピン孔のうち梁の端面から最も遠い上側ピン孔の中心と該端面の間の距離L1に対して、前記複数の下側ピン孔のうち梁の端面に最も近い下側ピン孔の中心と該端面の間の距離L2がL1<L2に形成されている。
【0041】
好ましくは、前記距離L1に対して、仮止め固定ピンの中心と梁の端面の間の距離L3がL1<L3に形成されている。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、梁成が大きい大型かつ大重量の梁22を柱等の先行部材23に連結固定する構成において、先行部材23に固着した上側連結金物21A及び下側連結金物21Bの上側支持板24A及び下側支持板24Bに対して、梁22の受溝23を外嵌させると共に下降することにより、仮止め固定ピン35を支持凹部27Bに係合させて梁22を仮止め固定支持するに際し、仮止め固定ピン35を挿着した仮止め固定孔34は、梁22の下半部22Bにおいて梁端面22aから十分な距離L3で離れた位置に設けられているので、仮止め固定ピン35が下側支持板24Bの支持凹部27Bに衝突して衝撃を生じたときでも、仮止め固定孔34の周囲で梁22の木質に亀裂を生じることはなく、梁22を損傷するおそれはない。
【0043】
そして、上側連結金物21A及び下側連結金物21Bを介して先行部材23に連結固定された梁22は、ドリフトピン31が打ち込まれた上側ピン孔33Aと下側ピン孔33Bの相互において、割裂容易部37と割裂困難部38を形成しているので、地震発生時における瞬時に倒壊するおそれのある脆性破壊を回避し、地震時における応力発生から破壊までの時間(持続時間)を稼ぐことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】従来技術を示しており、柱と連結金物を分離状態で示す斜視図である。
図2】従来技術に関して、柱に固着した連結金物と梁を分離状態で示す斜視図である。
図3】従来技術に関して、梁が柱に連結固定された状態を示す斜視図である。
図4】従来技術において柱に固着した連結金物に梁を固定する方法を示しており、(A)は梁の受溝を連結金物の支持板に外嵌させ下降する前の状態を示す断面図、(B)は梁を下降させて仮止め固定ピンを支持凹部に係合させることにより梁を仮止め固定した状態を示す断面図、(C)は梁のピン孔にドリフトピンを打ち込むことにより梁を連結金具に固着した状態を示す断面図である。
図5】本発明に対する比較例を示しており、柱と上側連結金物及び下側連結金物を分離状態で示す斜視図である。
図6】比較例に関して、柱に固着した上側連結金物及び下側連結金物と梁を分離状態で示す斜視図である。
図7】比較例に関して、梁が柱に連結固定された状態を示す斜視図である。
図8】比較例において柱に固着した上側連結金物及び下側連結金物に梁を固定する方法を示しており、(A)は梁の受溝を上側支持板及び下側支持板に外嵌させ下降する前の状態を示す断面図、(B)は梁を下降させて仮止め固定ピンを支持凹部に係合させることにより梁を仮止め固定した状態を示す断面図、(C)は仮止め固定ピンを挿通した梁の仮止め固定孔と梁端面の間に亀裂が生じた状態を示す断面図である。
図9】本発明の実施形態を示しており、柱と上側連結金物及び下側連結金物を分離状態で示す斜視図である。
図10】本発明の実施形態に関して、柱に固着した上側連結金物及び下側連結金物と梁を分離状態で示す斜視図である。
図11】本発明の実施形態に関して、柱に固着した上側連結金物及び下側連結金物と梁を分離状態で示す断面図である。
図12】本発明の実施形態において、梁の受溝を上側支持板及び下側支持板に外嵌させて下降し、仮止め固定ピンを支持凹部に係合させることにより梁を仮止め固定した状態を示す断面図である。
図13】本発明の実施形態において、梁が柱に連結固定された状態を示す斜視図である。
図14】地震発生時における本発明の実施形態の作用を示しており、(A)は柱と梁の変形状態を示す説明図、(B)は梁における上側ピン孔と梁端面の間に形成された割裂容易部と、下側ピン孔と梁端面の間に形成された割裂困難部により、脆性的な破壊が遅延する作用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図9ないし図14に基づいて本発明の好ましい実施形態を詳述する。
【0046】
本発明は、上述したような非住宅木造建築物に関して実施されるものであり、柱23に直交するX方向から連結固定される梁22は、例えば梁成Hを約420mm~約690mmとする大型かつ大重量のものとされている。
【0047】
尚、図示実施形態は、柱23に対して梁22を連結固定する構成を示しているが、柱に限らず、木造建築物において先に構築された先行部材、例えば、先に構築された梁に対して、梁22を連結固定する構造が含まれることを理解されたい。
【0048】
そこで、梁22の梁成方向の上半部22Aと下半部22Bに関して、上半部22Aに対応する上側連結金物21Aと、下半部22Bに対応する下側連結金物21Bが使用され、それぞれ柱23に並設される。尚、「上半部」と「下半部」は、梁成を上下に二分したものを図示しているが、厳格な意味ではなく、梁成方向に関して上側部分と下側部分を構成するものであれば良い。
【0049】
上側連結金物21Aは、図1ないし図4に示した従来技術の連結金物と概ね同様に構成され、X方向に縦板状の上側支持板24Aと筒状の固着部25Aを連設しており、金物成、つまり、上側支持板24Aの上下寸法は、例えば約220mmとされている。前記固着部25Aは、上下方向に間隔をあけて複数本が設けられ、図例の場合、3本の固着部25Aが設けられている。
【0050】
前記上側支持板24Aは、複数の上側連結孔26Aを上下方向に間隔をあけて列設しており、前記固着部25Aは、水平方向に貫通する固着孔28Aを設けている。尚、上側連結金物21Aの上側支持板24Aは、従来技術(図1ないし図4)の支持凹部7や、比較例(図5ないし図8)の支持凹部7Aを設ける必要はないので、図例の場合、上側支持板24Aの上縁部に凹部を設けていないが、この点は任意である。
【0051】
上側連結金物21Aを取付固着するため、柱23は、柱側面23aから有底の受孔29を穿設すると共に、該受孔29を横断するピン孔30を貫設している。これにより、上側連結金物21Aは、図10に示すように、前記固着部25Aを前記受孔29に挿入した状態で、前記ピン孔30に打ち込んだドリフトピン31を前記固着孔28Aに挿通させることにより、柱23に取付固着され、この状態で、上側支持板24Aを柱側面23aからX方向に突出させている。
【0052】
これに対して、下側連結金物21Bは、X方向に縦板状の下側支持板24Bと筒状の固着部25Bを連設し、下側支持板24Bの上下寸法を例えば約220mmとする点において上側連結金物21Aと同様に構成され、更に、固着部25Bを上下方向に間隔をあけて複数本、図例の場合は3本の固着部25Bを設けると共に、固着孔28Bを設けており、この点において上側連結金物21Aと同様に構成されているが、下記の点において上側連結金物21Aと相違する特徴を有している。
【0053】
即ち、下側連結金物21Bは、下側支持板24Bの先端部に上側支持板24Aの先端を超えてX方向に延びる延長板部24Cを延設している。そして、この延長板部24Cに複数の下側連結孔26Aを上下方向に間隔をあけて列設し、該延長板部24Cの上端縁に支持凹部27Bを設けている。
【0054】
下側連結金物21Bを取付固着するため、柱23は、柱側面23aから有底の受孔29を穿設すると共に、該受孔29を横断するピン孔30を貫設している。これにより、下側連結金物21Bは、図10に示すように、前記固着部25Bを前記受孔29に挿入した状態で、前記ピン孔30に打ち込んだドリフトピン31を前記固着孔28Bに挿通させることにより、柱23に取付固着され、この状態で、下側支持板24Bを柱側面23aからX方向に突出させている。
【0055】
柱23の上下方向に並設された上側連結金物21A及び下側連結金物21Bの上側支持板24A及び下側支持板24Bに対して、梁22は、前記上側支持板24A及び下側支持板24Bの全体に外嵌させられる受溝32を梁端面22aから上半部22Aと下半部22Bを含んで切込み状に形成している。
【0056】
そして、梁22の上半部22Aは、受溝32を上側支持板24Aに外嵌させたとき、前記上側連結孔26Aに連通する上側ピン孔33Aを列設している。これに対して、梁22の下半部22Bは、受溝32を下側支持板24Bに外嵌させたとき、前記下側連結孔26Bに連通する下側ピン孔33Aを列設しており、更に、前記支持凹部27Bに連通する仮止め固定孔34Bを貫設している。
【0057】
柱23に並設された上側連結金物21A及び下側連結金物21Bの上側支持板24A及び下側支持板24Bに対して、梁22を固着するときは、予め梁22の仮止め固定孔34に仮止め固定ピン35を挿着し、該仮止め固定ピン35が下側連結金物21Bにおける下側支持板24Bの上方に臨むようにして、受溝32を上側支持板24A及び下側支持板24Bに外嵌させ、梁端面22aを柱側面23aに沿わせて下降する。
【0058】
これにより、仮止め固定ピン35が下側支持板24Bの支持凹部27Bに係合することにより、梁22が仮止め状態で固定支持され、上側連結孔26A及び下側連結孔26Bに上側ピン孔33A及び下側ピン孔33Bが合致して連通するので、前記ピン孔33A、33Bにドリフトピン36を打ち込み、連通孔26A、26Bに挿通させると、梁22が上側連結金物21A及び下側連結金物21Bに固着され、柱23に対して連結固定される。
【0059】
(特徴的構成)
上側連結金物21A及び下側連結金物21Bの上側連結孔26A及び下側連結孔26Bに対応して梁22に設けられた複数の上側ピン孔33A及び複数の下側ピン孔33Bは、それぞれ複数の孔を鉛直線に沿って整列するように形成しても良いが、図示実施形態の場合、図11に示すように、上側の2個の孔に対して、下側の1個の孔が梁端面22aからの距離を小さくする位置に設けている。
【0060】
この際、複数の上側ピン孔33Aのうち、梁端面22aから最も遠い上側ピン孔33A(図示の上側2個のピン孔)の中心と該梁端面22aの間は、距離L1で表される。また、複数の下側ピン孔33Bのうち、梁端面22aも最も近い下側ピン孔33B(図示の最下位のピン孔)の中心と該梁端面22aの間は、距離L2で表される。そして、前記距離がL1<L2となるように構成されている。
【0061】
これにより、図13に示すように、ドリフトピン36を打ち込んで梁22を上側連結金物21A及び下側連結金物21Bに固着したとき、梁22の端部(受溝32の両側の板状部分)は、前記距離L1に相当する上側ピン孔33Aと梁端面22aの間の木質部分により割裂容易部37を形成する。これに対して、前記距離L2に相当する下側ピン孔33Bと梁端面22aの間の木質部分により割裂困難部38を形成する。尚、「容易」及び「困難」は、相対的な意味であることを理解されたい。
【0062】
更に、図11に示すように、梁22の仮止め固定ピン35を挿着した仮止め固定孔34は、梁の下半部22Bに設けられており、仮止め固定ピン35及び仮止め固定孔34の中心と梁端面22aの間の距離L3をL1<L3となるように構成されている。
【0063】
(作用)
柱33に固着した上側連結金物21A及び下側連結金物21Bの上側支持板24A及び下側支持板24Bに対して、梁22を固着するときは、上述のように仮止め固定ピン35を下側支持板24Bの支持凹部27Bに係合させることにより、梁22を仮止め固定支持した状態で、上側ピン孔33A及び下側ピン孔33Bにドリフトピン36を打ち込んで上側支持板24A及び下側支持板24Bの上側連結孔26A及び26Bに挿通させる。
【0064】
仮止め固定の際、例えば、作業者が手を放すことにより梁22を自重で落下させる等、仮止め固定ピン35が支持凹部27Bに衝撃を伴って当接させられたとき、仮止め固定ピン35を挿着した仮止め固定孔34は、梁22の下半部22Bにおいて梁端面22aから十分な距離L3で離れた位置に設けられているので、仮止め固定孔34の周囲で梁22の木質に亀裂を生じることはない。つまり、梁22が損傷することはない。
【0065】
ところで、例えば地震が発生したとき、図14(A)に示すように、柱33が左右に揺動し、柱33と梁22の連結部分に対して、引張方向と圧縮方向の応力を生じることになる。そこで、耐震性等の構造補強のためだけであれば、梁22と上側連結金物21A及び下側連結金物21Bの連結強度を増すように形成すれば良いが、その場合、強度の限界を超えたとき、両方の連結金物21A、21Bに挿通されたドリフトピンの周囲で梁22に割裂が同時に発生し、木造建築物の脆性的な破壊を招来するおそれがあり、危険度が増すことになる。
【0066】
この点に関して、本発明の実施形態によれば、上述のように、梁22には、割裂容易部37と割裂困難部38が形成されており、これにより、図14(B)に示すように、最初に上側ピン孔33Aから梁端面22aに向けて割裂容易部37に割裂39を発生させるように構成しているので、脆性破壊が回避され、地震時における応力発生から破壊までの時間(持続時間)を稼ぐことが可能となる。
【0067】
因みに、図示省略しているが、上側連結金物21Aと下側連結金物21Bを並設する構成によれば、上述の割裂容易部37と割裂困難部38に加えて、両金物21A、21Bの間において梁22の支持強度に強弱の差が含まれるように構成することができ、これにより、地震発生時に、下側支持板24Bによる梁22の支持が失われる前に、上側支持板24Aによる梁22の支持を失わせることができ、梁の脆性的な崩落を回避することが可能である。
【0068】
このような支持強度の強弱の差は、例えば、(1)上下寸法に関して上側支持板24Aを下側支持板24Bよりも短く形成すること、(2)上側支持板24Aの上側ピン孔33Aの数を下側支持板24Bの下側ピン孔33Bの数よりも少なく形成し、ドリフトピンの本数を少なくすること等により可能となる。
【符号の説明】
【0069】
(従来技術:図1ないし図4
1 連結金物
2 梁
2a 梁端面
3 柱(先行部材)
3a 柱側面
4 支持板
5 固着部
6 連結孔
7 支持凹部
8 固着孔
9 受孔
10 ピン孔
11 ドリフトピン
12 受溝
13 ピン孔
14 仮止め固定孔
15 仮止め固定ピン
16 ドリフトピン
(比較例:図5ないし図8
1A 上側連結金物
1B 下側連結金物
2M 梁
2A 上半部
2B 下半部
2a 梁端面
3 柱
3a 柱側面
4A 上側支持板
4B 下側支持板
5 固着部
6A 上側連結孔
6B 下側連結孔
7A 支持凹部
8 固着孔
9 受孔
10 ピン孔
11 ドリフトピン
12M 受溝
13A 上側ピン孔
13B 下側ピン孔
14A 仮止め固定孔
15A 仮止め固定ピン
16 ドリフトピン
17 亀裂
(本発明の実施形態:図9ないし図14
21A 上側連結金物
21B 下側連結金物
22 梁
22a 梁端面
22A 上半部
22B 下半部
23 柱
23a 柱側面
24A 上側支持板
24B 下側支持板
24C 延長板部
25A、25B 固着部
26A 上側連結孔
26B 下側連結孔
27B 支持凹部
28A、28B 固着孔
29 受孔
30 ピン孔
31 ドリフトピン
32 受溝
33A 上側ピン孔
33B 下側ピン孔
34 仮止め固定孔
35 仮止め固定ピン
36 ドリフトピン
37 割裂容易部
38 割裂困難部
39 割裂
【要約】
【課題】木造建築物における梁の連結固定構造であり、特に、梁成の大きい梁に関する連結固定構造を提供する。
【解決手段】梁(22)の梁成方向の上半部(22A)と下半部(22B)にそれぞれ対応する上側連結金物(21A)及び下側連結金物(21B)が先行部材(23)に固着されており、先行部材の側面から突出する両連結金物の上側支持板(24A)と下側支持板(24B)に梁の受溝(32)を外嵌させ、梁の下半部に設けた仮止め固定ピン(35)を下側支持板(24B)の支持凹部(27B)に係合して仮止め固定した状態で、梁に設けた上側ピン孔(33A)及び下側ピン孔(33B)に打ち込んだドリフトピン(36)を上側支持板(24A)及び下側支持板(24B)に挿通させるように構成されており、梁には、上側ピン孔と梁端面の間に割裂容易部(37)が形成され、下側ピン孔と梁端面の間に割裂困難部(38)が形成されている。
【選択図】図13
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14