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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ダイヤモンド結晶
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20240423BHJP
   C01B 32/25 20170101ALI20240423BHJP
【FI】
C30B29/04 Z
C01B32/25
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018535086
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2018013131
(87)【国際公開番号】W WO2019186862
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-03-09
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】金 聖祐
(72)【発明者】
【氏名】藤居 大毅
(72)【発明者】
【氏名】木村 豊
(72)【発明者】
【氏名】小山 浩司
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】立木 林
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-183892(JP,A)
【文献】特開2017-214284(JP,A)
【文献】特開平9-20589(JP,A)
【文献】特開平6-263595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/04
C01B 32/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面方向の外形形状が方形状、円形状、又はオリフラ面が設けられた円形状であり、
前記方形状の一辺の寸法は8.0mm以上であり、前記円形状の直径は8.0mm以上であり、
厚みが0.3mm以上であり、
結合剤を含まない転位集中領域を複数有し、
前記複数の転位集中領域の間隔がそれぞれ10nm以上4000nm以下の範囲であり、
(400)面のFWHMの平均値が500秒以下であり、かつ(400)面のFWHMの標準偏差が10秒以上80秒以下であるダイヤモンド結晶。
【請求項2】
前記ダイヤモンド結晶の表面に於ける結晶主面の結晶方位が、(100)、(111)または(110である請求項1に記載のダイヤモンド結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド結晶は究極の半導体用材料として期待されている。その理由は、ダイヤモンド結晶が高熱伝導率、高い電子移動度と正孔移動度、高い絶縁破壊電界強度、低誘電損失、そして広いバンドギャップ等、半導体用材料として他に類を見ない、優れた特性を数多く備えている為である。バンドギャップは約5.5eVで、既存の半導体用材料中では極めて高い値を有する。特に近年では、広いバンドギャップを活かした紫外発光素子や、優れた高周波特性を持つ電界効果トランジスタ、放熱板等が開発されつつある。
【0003】
ダイヤモンド結晶を半導体用途に利用する事を考えると、数インチ径の大きさが必要となる。その理由は、Si等の半導体の製造ラインで使用される装置をダイヤモンド結晶にも適用させる場合、数インチ径未満の小型基板では適用が困難な為である。
【0004】
更にダイヤモンド結晶には、大きさに加えて高配向性が求められる。ダイヤモンド結晶には単結晶と多結晶が存在する。いわゆる多結晶のダイヤモンド結晶には、ダイヤモンド結晶の結晶粒子間に結晶粒界が存在する。この結晶粒界によりキャリアが散乱又はトラップされる為、数インチ径程度の大きさに形成出来たとしても、多結晶のダイヤモンドは電気的特性が劣るという課題がある。
【0005】
一方、単結晶のダイヤモンド結晶には、前記電気的特性の劣化は存在しない。しかし現状では、入手可能な単結晶のダイヤモンド結晶の大きさは高々5.0mm角程度に過ぎず、前述のように従来の半導体製造ラインに適応できない。すなわち、電子部品等の用途に応用するには小さすぎるという課題がある。
【0006】
そこで高配向性を有すると共に、大面積に形成可能なダイヤモンド結晶として、特許文献1が開示されている。
【0007】
特許文献1記載のダイヤモンド結晶は、方位(100)のSi基板上に気相合成によって形成されたダイヤモンド薄膜である。更に、その薄膜表面積の95%以上がダイヤモンドの(100)結晶面から構成され、隣接する(100)結晶面について、その結晶面方位を表すオイラー角{α,β,γ}の差{Δα,Δβ,Δγ}が|Δα|≦1°、|Δβ|≦1°、|Δγ|≦1°、を同時に満足する事を特徴としている。このようなダイヤモンド結晶の構造により、結晶粒界が少なくキャリアの移動度が高いと共に、大面積のダイヤモンド薄膜が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3549227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし引用文献1記載のダイヤモンド結晶では、結晶粒界を解消するには至っていなかった。従って、大面積化を実現したとしても、結晶粒界がある限りは半導体として使用可能な面積は、結晶粒界が存在しない面積内に限られる。そこで、真に半導体用途として大面積化を図るには、結晶粒界を解消する事が必須である。
【0010】
更に、結晶粒界を解消した上でダイヤモンド結晶の大型化を図るほどに、ダイヤモンド結晶に内在する転位の集中領域数も増加する。従って、大型化と共に、転位の集中領域の間隔とダイヤモンド結晶の配向性の関連性を、本出願人は検証した。
【0011】
なお転位集中領域とは、ダイヤモンド結晶の内部に向かって延在すると共に、ダイヤモンド結晶の厚み(ダイヤモンド結晶の成長方向)に亘って伸長する転位の集中領域を指す(参考として、特許第6269368号公報参照)。更にドメインとは、前記転位集中領域に囲まれた領域である。
【0012】
転位の集中領域数が増加すると、ダイヤモンド結晶全体から応力が開放され易くなる事を、本出願人は検証の上、見出した。しかし、各ドメインの幅が拡大すると転位の各集中領域の間隔も広がり、ダイヤモンド結晶全体に於ける転位の集中領域数が減少し、転位の集中領域箇所からダイヤモンド結晶の外部へと応力が逃げづらくなった。従って、応力によりダイヤモンド結晶全体の反り量が増大して、X線によるロッキングカーブ測定に於いて、ダイヤモンド(400)面からの回折ピークの半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)に対する反り量の影響力が大きくなり、前記FWHMの増加を招いてしまった。
【0013】
一方、ドメインの幅が小さいと、ダイヤモンド結晶全体の転位の集中領域数が増加する為、転位の集中領域箇所からダイヤモンド結晶外部へと応力が逃げ易くなり、ダイヤモンド結晶全体の反り量は小さくなった。しかし、各ドメインの幅が小さくなるに伴いダイヤモンド結晶全体のドメイン数は増加するので、今度はFWHMに対するドメイン毎の角度ずれの影響が大きくなり、やはり前記FWHMの増加を招いてしまった。
【0014】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、大面積に形成出来ると共に、高配向性として前記FWHMの低減を実現可能なダイヤモンド結晶の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題は、以下の本発明により解決される。即ち、本発明のダイヤモンド結晶は転位集中領域を有するバルク体の結晶であり、各転位集中領域の間隔が10nm以上4000nm以下であり、(400)面のFWHMの平均値が500秒以下である事を特徴とする。
【0016】
本発明のダイヤモンド結晶の一実施形態は、ダイヤモンド結晶の表面に於ける結晶主面の結晶方位が、(100)、(111)、(110)の何れかである事が好ましい。
【0017】
本発明のダイヤモンド結晶の他の実施形態は、平面方向の外形形状が方形状、円形状、又はオリフラ面が設けられた円形状であり、方形状の場合は一辺の寸法が8.0mm以上であり、円形状の場合は直径が8.0mm以上である事が好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のダイヤモンド結晶に依れば、結晶粒界が無く、転位集中領域を有しながらも、実用に耐えうる配向性として、ダイヤモンド結晶の表面の複数箇所で測定したFWHMの平均値が500秒以下で、且つ標準偏差で10秒以上80秒以下の様にバラツキが低減されたダイヤモンド結晶が、各転位集中領域の間隔の最適化により実現出来る。
【0019】
更にバルク体の結晶ながら転位集中領域を有し、一部分によっては結晶軸の方位が変わっている事を許容する事で、単結晶に比べて配向性の公差を大きく設定可能となり、より容易に大型のダイヤモンド結晶が形成可能となる。
【0020】
更に、ダイヤモンド結晶の表面に於ける結晶主面の結晶方位を、(100)、(111)、(110)の何れかとする事により、素子やデバイス形成、又はダイヤモンドの成長用下地基板などの用途で高い汎用性が得られる。
【0021】
更に前記各効果に加えて、平面方向の外形形状が方形状、円形状、又はオリフラ面が設けられた円形状であり、方形状の場合は一辺の寸法が8.0mm以上であり、円形状の場合は直径が8.0mm以上の大型のダイヤモンド結晶を、結晶粒界が無い結晶として実現する事が可能となる。従って、本発明のダイヤモンド結晶を半導体製造ラインに適応可能となり、電子部品等の用途にも使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のダイヤモンド結晶の実施形態及び実施例に於ける、TEM観察像である。
図2】本発明のダイヤモンド結晶の実施例に於ける、各転位集中領域の間隔とFWHM値(平均値)の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施の形態の第一の特徴は、ダイヤモンド結晶が転位集中領域を有するバルク体の結晶であり、各転位集中領域の間隔が10nm以上4000nm以下であり、(400)面のFWHMの平均値を500秒以下とした事である。
【0024】
この構成に依れば、結晶粒界が無く、転位集中領域を有しながらも、実用に耐えうる配向性として、ダイヤモンド結晶の表面の複数箇所で測定したFWHMの平均値が500秒以下で、且つ標準偏差で10秒以上80秒以下の様にバラツキが低減されたダイヤモンド結晶が、各転位集中領域の間隔の最適化により実現出来る。
【0025】
更にバルク体の結晶ながら転位集中領域を有し、一部分によっては結晶軸の方位が変わっている事を許容する事で、単結晶に比べて配向性の公差を大きく設定可能となり、より容易に大型のダイヤモンド結晶が形成可能となる。
【0026】
なお本明細書に於ける転位集中領域とは、ダイヤモンド結晶の内部に向かって延在すると共に、ダイヤモンド結晶の厚み(ダイヤモンド結晶の成長方向)に亘って伸長する転位の集中領域を指す。更にドメインとは、前記転位集中領域に囲まれた領域である。
【0027】
またFWHMとは、入射X線スリット幅を0.5mm×0.5mmとした時のX線ロッキングカーブ(XRC:X-ray Rocking Curve)測定に於いて、ダイヤモンドの(400)面からの回折ピークのFWHM値である。
【0028】
またバルク体の結晶とは、複数の転位集中領域を有し、各転位集中領域の間隔が10nm以上4000nm以下であり、転位集中領域に結合剤を含まず、転位集中領域を介して(より詳述すると、周囲を転位集中領域で囲まれて)形成される各ドメインが高配向性を有する1個の自立した結晶を指す。更に、高配向性を有すると共に、任意の結晶軸に着目した時に、一部分によっては結晶軸の方位が変わっている結晶を指す。
【0029】
なお前記結合剤とは、焼結助剤、結合材料を指す。焼結助剤としては、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の鉄族元素金属、炭酸カルシウム(CaCO3)等の炭酸塩を指す。また結合材料としては、例えばセラミックスを指し、セラミックスの一例として炭化珪素(SiC)等が挙げられる。
【0030】
なお前記高配向性とは、ダイヤモンド結晶の表面の複数箇所で測定したX線ロッキングカーブのFWHMの平均が500秒以下とする。より好ましくは更に、FWHMの標準偏差が10秒以上80秒以下とする。本発明に於ける高配向性の閾値として、FWHMの平均を500秒以下且つFWHMの標準偏差を10秒以上80秒以下に設定した理由は、結晶粒界が無く転位集中領域を有しながらも、半導体用途に要求される配向性を現す数値との本出願人の見解からである。
【0031】
なお前記自立した結晶とは、自らの形状を保持できるだけでなく、ハンドリングに不都合が生じない程度の強度を有する結晶を指す。
【0032】
本実施の形態の第二の特徴は、ダイヤモンド結晶の表面に於ける結晶主面の結晶方位が、(100)、(111)、(110)の何れかとした事である。
【0033】
この構成に依れば、ダイヤモンド結晶の表面に於ける結晶主面の結晶方位を、(100)、(111)、(110)の何れかとする事により、素子やデバイス形成、又はダイヤモンドの成長用下地基板などの用途で高い汎用性が得られる。
【0034】
本実施の形態の第三の特徴は、ダイヤモンド結晶の平面方向の外形形状が方形状、円形状、又はオリフラ(オリエンテーションフラット)面が設けられた円形状であり、方形状の場合は一辺の寸法が8.0mm以上であり、円形状の場合は直径が8.0mm以上とした事である。
【0035】
この構成に依れば、平面方向の外形形状が方形状、円形状、又はオリフラ面が設けられた円形状であり、方形状の場合は一辺の寸法が8.0mm以上であり、円形状の場合は直径が8.0mm以上の大型のダイヤモンド結晶を、結晶粒界が無い結晶として実現する事が可能となる。従って、本実施形態のダイヤモンド結晶を半導体製造ラインに適応可能となり、電子部品等の用途にも使用可能となる。
【0036】
なお、一辺の寸法又は直径が8.0mm以上のダイヤモンド結晶の表面に於けるX線ロッキングカーブのFWHMの平均及び標準偏差を測定する為に、本発明ではダイヤモンド結晶の表面に於けるFWHMの測定箇所を、互いに2.0mm間隔空けて測定する事とする。
【0037】
以下、本発明の実施形態に係るダイヤモンド結晶を、図1を参照して説明する。本実施形態のダイヤモンド結晶は、結晶粒界が無く、複数の転位集中領域を有するバルク体の結晶である。また窒素を1.0ppm以下含有する。
【0038】
図1は実施形態の一例として、各転位集中領域の間隔が10nm以上4000nm以下の数値範囲内であるダイヤモンド結晶1の一部分を、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察した観察像である。転位集中領域とは、ダイヤモンド結晶の内部に向かって延在すると共に、ダイヤモンド結晶の厚み(ダイヤモンド結晶の成長方向)方向に伸長する転位の集中領域を指す。図1の縦方向が、ダイヤモンド結晶1の厚み(成長方向)である。また引き出し番号2で示す比較的黒みがかった線状の各領域が、転位集中領域である。また、各転位集中領域の間隔は、図1中に矢印3で示す転位集中領域2間の間隔である。
【0039】
またバルク体の結晶とは、複数の転位集中領域を有し、各転位集中領域の間隔が10nm以上4000nm以下であり、転位集中領域に結合剤を含まず、転位集中領域を介して形成される各ドメインが高配向性を有する1個の自立した結晶を指す。転位集中領域を介して形成されるドメインをより詳述すると、周囲を転位集中領域で囲まれて形成されたドメインを指すものである。
【0040】
更に、バルク体の結晶は高配向性を有すると共に、任意の結晶軸に着目した時に、一部分によっては結晶軸の方位が変わっている結晶を指す。
【0041】
なお結合剤とは、焼結助剤、結合材料を指す。焼結助剤としては、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の鉄族元素金属、炭酸カルシウム(CaCO3)等の炭酸塩を指す。また結合材料としては、例えばセラミックスを指し、セラミックスの一例として炭化珪素(SiC)等が挙げられる。
【0042】
なお高配向性とは、ダイヤモンド結晶の表面の複数箇所で測定したX線ロッキングカーブのFWHMの平均が500秒以下とする。より好ましくは更に、FWHMの標準偏差が10秒以上80秒以下とする。FWHMとは、入射X線スリット幅を0.5mm×0.5mmとした時のX線ロッキングカーブ測定に於いて、ダイヤモンドの(400)面からの回折ピークのFWHM値である。この様に形成されたダイヤモンド結晶から、各転位集中領域の間隔と、FWHMの平均及び標準偏差との関連を、検証により見出した。
【0043】
なお、本実施形態に於ける高配向性の閾値として、FWHMの平均を500秒以下且つFWHMの標準偏差を10秒以上80秒以下に設定した理由は、結晶粒界が無く転位集中領域を有しながらも、半導体用途に要求される配向性を現す数値との本出願人の見解からである。
【0044】
各転位集中領域の間隔が10nm未満では、ダイヤモンド結晶は成長形成されない事が確認された。ダイヤモンド結晶が成長形成されなかった為、FWHMは計測出来なかった。一方、各転位集中領域の間隔が4000nm超では、FWHMの平均値が500秒超を示す事を、本出願人は検証の上確認した。
【0045】
ダイヤモンド結晶の表面の表面粗さRaは、半導体形成用途の場合、1nm未満に形成する事が好ましく、より好ましくは、原子レベルで平坦となる0.1nm以下に形成する事である。Raの測定は、表面粗さ測定機により行えば良い。
【0046】
なお自立した結晶とは、自らの形状を保持できるだけでなく、ハンドリングに不都合が生じない程度の強度を有する結晶を指す。このような強度を有するためには、厚みは0.3mm以上とするのが好ましい。またダイヤモンド結晶は極めて硬い材料なので、素子やデバイス形成後の劈開の容易性等を考慮すると、厚みの上限は3.0mm以下が好ましい。なお、素子やデバイス用途として最も使用頻度が高く、且つ自立した結晶の厚みとして、0.5mm以上0.7mm以下(500μm以上700μm以下)が最も好ましい。
【0047】
また、ダイヤモンド結晶の平面方向の外形形状は方形状、円形状、又はオリフラ面が設けられた円形状であり、方形状の場合は一辺の寸法が8.0mm以上であり、円形状の場合は直径が8.0mm以上とする。
【0048】
このダイヤモンド結晶に依れば、平面方向の外形形状が方形状、円形状、又はオリフラ面が設けられた円形状であり、方形状の場合は一辺の寸法が8.0mm以上であり、円形状の場合は直径が8.0mm以上の大型のダイヤモンド結晶を、結晶粒界が無い結晶として実現する事が可能となる。従って、本実施形態のダイヤモンド結晶を半導体製造ラインに適応可能となり、電子部品等の用途にも使用可能となる。
【0049】
なお、外形寸法の上限値は特に限定されないが、実用上の観点から8インチ(約203.2mm)以下の一辺又は直径が好ましい。
【0050】
更に、一辺の寸法又は直径が8.0mm以上のダイヤモンド結晶の表面に於けるX線ロッキングカーブのFWHMの平均及び標準偏差を測定する為に、ダイヤモンド結晶の表面に於けるFWHMの測定箇所を、互いに2.0mm間隔空けて測定する。
【0051】
更にダイヤモンド結晶の表面に於ける結晶主面の結晶方位は、(100)、(111)、(110)の何れかとする。
【0052】
この構成に依れば、ダイヤモンド結晶の表面に於ける結晶主面の結晶方位を、(100)、(111)、(110)の何れかとする事により、素子やデバイス形成、又はダイヤモンドの成長用下地基板などの用途で高い汎用性が得られる。
【0053】
以上、本実施形態に係るダイヤモンド結晶に依れば、結晶粒界が無く、転位集中領域を有しながらも、実用に耐えうる配向性として、ダイヤモンド結晶の表面の複数箇所で測定したFWHMの平均値が500秒以下で、且つ標準偏差で10秒以上80秒以下の様にバラツキが低減されたダイヤモンド結晶が、各転位集中領域の間隔の最適化により実現出来る。
【0054】
更にバルク体の結晶ながら転位集中領域を有し、一部分によっては結晶軸の方位が変わっている事を許容する事で、単結晶に比べて配向性の公差を大きく設定可能となり、より容易に大型のダイヤモンド結晶が形成可能となった。
【0055】
本実施形態に係るダイヤモンド結晶の製造方法は、各転位集中領域が10nm以上4000nm以下の間隔でダイヤモンド結晶が製造されれば、どの様な製造方法でも良い。特に、転位集中領域が入りやすい製法として、ダイヤモンド結晶以外の材料を結晶成長用の下地基板に用いたヘテロエピタキシャル成長法であれば、より好適である。成長形成されたダイヤモンド結晶から、各転位集中領域の間隔が10nm以上4000nm以下のダイヤモンド結晶を選別すれば良い。
【0056】
以下に本発明に係る実施例を説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例
【0057】
以下、本発明の実施例に係るダイヤモンド結晶を、図1図2を参照して説明する。
【0058】
最初に、ダイヤモンド結晶を成長させる為の下地基板としてMgO基板を用意した。MgO基板の平面方向の外形形状は、8.0mm角の方形状(四角形状)とした。そのMgO基板の片面に鏡面研磨を施し、表面粗さRaを10nmとした。その表面にイリジウム(Ir)単結晶膜を成膜し、そのIr単結晶膜の上に、ダイヤモンド結晶をヘテロエピタキシャル成長法で成長させた。
【0059】
次に、成長によって得られたダイヤモンド結晶に於いて、Ir単結晶膜最上面から約6.0μmの高さ位置で、FIB(集束イオンビーム)によりダイヤモンド結晶の一部を切り取り、複数の試料を得た。その試料の断面をTEM(20万倍)で観察した観察像の1つを、図1に例示する。このように複数の試料の断面に於いて、各転位集中領域の間隔をTEMで観察して測定した。TEMでの観察により、各転位集中領域の間隔が10nm以上4000nm以下の範囲の試料を、間隔値毎に選別した。
【0060】
次に得られた試料毎に、FWHMを試料表面の10箇所で測定し、そのFWHMの平均値と標準偏差を算出した。算出した結果として、各転位集中領域の間隔とFWHM値(平均値)の相関を示すグラフを、図2に示す。なお図2の横軸(各転位集中領域の間隔)は、対数目盛(基数10)である。
【0061】
各転位集中領域の間隔が図2内の左の間隔値から順に、10nm、100nm、500nm、1000nm、3000nm、4000nmに於ける各FWHMの平均値は、490秒、312秒、306秒、274秒、289秒、464秒であった。更に各FWHMの標準偏差は、76秒、45秒、25秒、56秒、14秒、53秒であった。
【0062】
(比較例)
実施例と同様なヘテロエピタキシャル成長法によりダイヤモンド結晶を成長させ、Ir単結晶膜最上面から約6.0μmの高さ位置で、FIBによりダイヤモンド結晶の一部を切り取り、複数の試料を得た。その試料の断面をTEM(20万倍)で観察し、各転位集中領域の間隔が4000nm超である5000nmの試料を選別した。
【0063】
次に得られた試料毎に、FWHMを試料表面の10箇所で測定し、そのFWHMの平均値を算出した。その結果、図2内の最も右側の前記間隔値が5000nmである試料のFWHMの平均値は、547秒であった。以上により、実施例に於ける各転位集中領域の間隔が4000nmである試料のFWHMの平均値が500秒以下になると共に、比較例に於ける各転位集中領域の間隔が5000nmである試料のFWHMの平均値が500秒超となる事が確認された。従って、本発明では各転位集中領域の間隔の上限値を4000nmとした。
【符号の説明】
【0064】
1 ダイヤモンド結晶
2 転位集中領域
3 各転位集中領域の間隔
図1
図2