(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】入れ子式油圧シリンダ
(51)【国際特許分類】
F15B 15/14 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
F15B15/14 350
F15B15/14 380B
F15B15/14 340Z
(21)【出願番号】P 2020566583
(86)(22)【出願日】2019-05-28
(86)【国際出願番号】 AU2019050527
(87)【国際公開番号】W WO2019227146
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-16
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】513146549
【氏名又は名称】フリップ スクリーン オーストラリア プロプライエタリー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Flip Screen Australia Pty Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】ターンブル、サム
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-104405(JP,U)
【文献】米国特許第06019026(US,A)
【文献】特開平07-010495(JP,A)
【文献】実公昭50-026862(JP,Y1)
【文献】実開平06-004407(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/00-15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部及び当該第1端部とは反対の第2端部を有する円筒状外側ハウジング(10)と、
前記円筒状外側ハウジング(10)の内側においてピストンロッドアセンブリのように機能する油圧シリンダと、を含む油圧シリンダアセンブリであって、
前記油圧シリンダは、前記円筒状外側ハウジングの外側に位置する第1端部と、前記円筒状外側ハウジングの内側に位置する第2端部とを有する円筒状中空ロッド(1)を含んでおり、前記円筒状中空ロッド(1)の第2端部は、前記円筒状外側ハウジング(10)の内部において長手方向に摺動可能な第1ピストンを備えており、
前
記円筒状外側ハウジング(10)の第2端部は、前記円筒状中空ロッド(1)を長手方向に摺動可能に案内する第
1グランドを備えており、
前記円筒状中空ロッド(1)は、長手方向に摺動可能な第2ピストン(2)と内部ロッド(4)とを内蔵しており、前記円筒状中空ロッド(1)の第2端部は、前記内部ロッド(4)を長手方向に摺動可能に案内する第
2グランド(3)を備えており、
前記円筒状外側ハウジング(10)は、前記第1ピストンと前記円筒状外側ハウジング(10)の第1端部との間に第1チャンバ(6)を画定するとともに、前記第1ピストンと前記円筒状外側ハウジング(10)の第2端部との間に前記円筒状中空ロッド(1)を包囲する第2チャンバ(8)を画定しており、
前記円筒状中空ロッド(1)は、前記第2ピストン(2)と前記円筒状中空ロッド(1)の第1端部との間に第3チャンバ(7)を画定しており、前記第2ピストン(2)と前記円筒状中空ロッド(1)の第2端部との間に前記内部ロッド(4)を包囲する第4チャンバ(9)を画定しており、
前記円筒状中空ロッド(1)の前記第3チャンバ(7)を加圧したときに、前記内部ロッド(4)が前記円筒状外側ハウジング(10)の前記第1チャンバ(6)内に進入して油圧流体を押しのけて、前記円筒状外側ハウジング(10)の前記第1チャンバ(6)内の圧力を増加させるように構成された、油圧シリンダアセンブリ。
【請求項2】
前記円筒状中空ロッド(1)は、前記円筒状外側ハウジング(10)の外側で前記円筒状中空ロッド(1)の第1端部の近傍において前記第3チャンバ(7)に連通する油圧ポート(11)と、前記円筒状外側ハウジング(10)の内側で前記円筒状中空ロッド(1)の第2端部の近傍において前記第2チャンバ(8)と前記第4チャンバ(9)とを連通させる追加的油圧ポートと、を含む、請求項1に記載の油圧シリンダアセンブリ。
【請求項3】
前記円筒状中空ロッド(1)内の前記第2ピストン(2)は、前記円筒状中空ロッド(1)の前記第3チャンバ(7)に接する面を有しており、当該面の面積は、前記円筒状外側ハウジング(10)の第1チャンバ(6)に接する前記内部ロッド(4)の先端面の面積よりも大きい、請求項
1又は2に記載の油圧シリンダアセンブリ。
【請求項4】
前記
円筒状外側ハウジング(10)は、その外周に繊維材料のカバー(14)を有する、請求項1~
3のいずれか1つに記載の油圧シリンダアセンブリ。
【請求項5】
前記繊維材料は、炭素繊維又はナノチューブ繊維である、請求項
4に記載の油圧シリンダアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダに関し、より具体的には、ピストンロッドとして機能する同軸円筒状中空ロッドを内部に配置した入れ子構造(intrascopic arrangement)により、従来型の油圧シリンダの範囲を超えた分野における用途において、力、速度、圧力、及び流量を多様に変化させることが可能な油圧シリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧シリンダは、様々な産業用途において直線運動制御を行うために広く使用されている。これらのシリンダは、円筒状の金属ケースと、当該ケース内で前後に移動するピストンロッドアセンブリとで構成されている。ピストンとロッドのアセンブリにより、シリンダケース内の空間が、例えば前方チャンバ及び後方チャンバなどの2つの別個のチャンバに分割されている。単一ロッドシリンダの場合、これらの2つの空間は、それぞれロッド端空間(前方チャンバ)及びキャップ端空間(後方チャンバ)と呼ばれ、当該ロッド端空間において、ロッド端は、ロッドが突出するシリンダの端部であり、当該キャップ端空間において、キャップ端は、ロッドを有さない。
【0003】
これらの空間が加圧されると、加圧流体による静圧(hydrostatic forces)が、流体を含む容器の表面に作用する。したがって、ピストンロッドアセンブリに作用する力により、当該アセンブリを移動させて、シリンダケースからロッドを延出させたり、当該シリンダケース内に当該ロッドを後退させたりすることができる。シリンダロッドには外部負荷を取り付けることができ、ピストンロッドアセンブリが移動すると、当該負荷に力が作用して当該負荷を直線経路に沿って移動させる。後退した状態のシリンダにおいて、キャップ端を出た流れは、ポートを介して流出した後、シリンダポートを介して油圧回路の残りの部分に戻る。ピストンがストロークの終わりに到達したとき、又はピストンがエンドキャップに接触したとき、シリンダは停止する。通常、ピストンの両側にはシリンダクッションスピア(cylinder cushion spear)及びカラーが取り付けられており、これによって、ピストンが後退中にエンドキャップに接触する前、又はピストンが延出中に他端に到達する前に、当該ピストンを容易に減速させることができる。
【0004】
したがって、後方チャンバ及び前方チャンバを有する従来の複動式油圧シリンダ(double acting hydraulic cylinders)は、シリンダケースの内面の範囲内でピストンロッドアセンブリを延出及び後退させることによって、本質的に機能する。通常、ピストンロッドアセンブリが延出する速度は、後退するときの速度よりも速い。これは、ピストンロッドアセンブリが異なる速度で両方向に移動することを意味する。この違いの理由は、ポンプが特定量の流体を押すと、当該流体がバルブを通って後端又は前端に移動することを考慮すれば理解できるであろう。実際は、後方チャンバにおいてピストンを押して延出させるためには、前方チャンバにおいてピストンを押して後退させる場合と比較してより多くの流体量が必要になる。したがって、シリンダの後方部に支配的な圧力が導入されると、ロッドがゆっくりと延び、同様の圧力がシリンダの前方部に加えられると、当該ロッドはより速く後退する。
【0005】
延出中又は後退中にピストンロッドアセンブリの速度を制御する必要がある場合、流体の流れを制御することによりこれを達成することができる。一般的な方法は、後方又は前方のチャンバのバルブと流入口/流出口との間の油圧回路に流量制御装置を設置することである。
【0006】
従来技術の文献において、マルチパワーシリンダを作製するための多くの試みが報告されているが、これらは全て外的な解決策を含むものであった。本書に開示される発明は、独立型の油圧シリンダ及び制御装置に完全に組み込まれた解決策である。外部増圧器(external intensifier)、高圧の二次油圧ライン、又は他の妥協をする必要はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の油圧シリンダは、油圧ポンプ及びバルブにより供給される圧力及び流量に依存するため、その操作性はかなり制限される。通常のシリンダは、圧力及び流量の供給が制限されているため、より大きい力が必要な場合には機能しない場合がある。より大きい力が必要な用途においては、小さいシリンダをより大きいシリンダに交換する必要がある。シリンダを大きくすると、その延出及び後退により時間がかかると考えられる。したがって、要求される力の広い範囲で機能することが可能な効率的且つコンパクトな油圧シリンダが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に開示されるような複数のシリンダを互いに入り込ませた入れ子式構造は、従来の油圧回路により供給される圧力よりも高い圧力を生成することができる。これにより、シリンダをシリンダポンプに変換することができる。
【0009】
本発明の入れ子式シリンダは、小型シリンダと同様に迅速に機能することができ、さらに、必要に応じて強大な力を生成することも可能である。ほとんどの用途において、油圧シリンダは、その潜在能力のうちのごく一部のみを使用するが、その能力は、時折ピーク負荷を生成するのに十分に大きいものでなければならない。本発明のシリンダは、小型化、軽量化、及び高速化が可能であるが、必要に応じて大きい力を生成することも可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の入れ子式油圧シリンダは、従来の油圧シリンダが使用される様々な用途において、標準的な油圧シリンダでは不十分な場合に使用可能である。本発明は、同じサイズの従来の油圧シリンダでは不可能なレベルの増圧、変速、負荷の切り替え、力の切り替え、及び力の増強を行うために主に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態における本発明の入れ子式油圧シリンダを示す断面図である。
【0012】
【
図2】第2実施形態における本発明の入れ子式油圧シリンダを示す断面図である。
【0013】
【
図3】本発明の油圧シリンダのプロトタイプの試験結果を示す図である。
【0014】
【図面における符号の説明】
【0015】
1 円筒状中空ロッド
2 ピストン
3 ピストングランド
4 内部ロッド
5 シリンダベース
6 チャンバ
7 チャンバ
8 チャンバ
9 チャンバ
10 シリンダ
11 油圧ポート
12 油圧ポート
13 油圧ポート
14 ファイバ
15 中空ロッド
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記背景技術及び先行技術で提起された課題に対処する本発明の好ましい実施形態の詳細を、進歩性とともに以下で詳細に説明する。本発明には、これらの実施形態に加えて、本書で説明する重要な進歩性を有する他の潜在的な実施形態が存在しうるため、特許の範囲及び目的は限定されない。
【0017】
本発明の入れ子式油圧シリンダは、2つの油圧シリンダを1つに組み合わせたものとして想定されており、その外側ケース、すなわち外側ハウジングは標準的なシリンダと実質的に類似している。したがって、この概念において、外側シリンダの内部における逆向きの相対的に小さい油圧シリンダは、従来の油圧シリンダのピストンロッドアセンブリのように機能する。このような構成により、従来の油圧シリンダに見られるような2つのチャンバ(前側チャンバ及び後側チャンバ)を上回る数のチャンバを有することが可能になり、これに付随してより多くの油圧ポートを有することができる。上記構成においては、チャンバのうちの1つに圧力が加えられると、その内部ロッドが反対側のチャンバ内に延びてその内容物を押しのけ、内部の圧力を劇的に増大させる。この押しのけ作用により、実質的には、変形ロッド(すなわち、外側シリンダ内における逆向きの相対的に小さいシリンダ)の所与のストローク内で複数回作動可能な内部ポンプが構成される。
【0018】
上記概念は完全に「新規」なものであり、我々の知る限り、これまでどこにも報告されていない。さらに、本発明の特徴を、以下の例において可能な実施形態として説明する。<実施例>
【0019】
図1は、本発明の一実施形態を示しており、「円筒状中空ロッド」1と呼ばれる相対的に小さいシリンダが、従来の油圧シリンダの外側ケースに多少なりとも類似した外側シリンダ10及びベース5の内部において、従来の油圧シリンダのロッドのように機能する。この装置と従来の油圧シリンダとの違いは、
図1に示す実施形態が、4つのチャンバ6、7、8、及び9に対応する複数の流体用ポート11、12、及び13を有する点である。相対的に小さい内側シリンダ1のロッド端は、中空であり、ピストン2と、グランド3と、内部ロッド4とを含む。外側シリンダ10は、従来の複動式シリンダ(double acting cylinder)と同様である。チャンバ7に圧力が加えられると、内部ロッド4がチャンバ6内に延びて、その内容物を押しのけて、チャンバ内の圧力を劇的に増大させる。この押しのけ作用により、実質的には、ロッド1の所与のストローク内で複数回作動可能な内部ポンプが構成される。
【0020】
チャンバ6に圧力を導入した後、チャンバ7に圧力を導入することにより、ロッド4が、圧力が加えられている圧力チャンバ6を体積変化させて、当該チャンバ内の圧力を増大させる。シリンダ10は、同じ穴径の従来シリンダの場合と比較して、ロッド1を介して伝達される力を増加させる。
【0021】
チャンバ6が、システム圧力又は所定圧で最大力ポテンシャル(maximum force potential)に到達した後、チャンバ7に圧力を導入することにより、ロッド4は、チャンバ6内の流体を押しのけて、油圧供給源又は「システム圧力」により導入された圧力よりもチャンバ6内の圧力を増大させる。これにより、入れ子式シリンダは、通常サイズのシリンダ、及び制限のない圧力供給が不可能な油圧システムにおいてこれまで達成できなかった力を生成することができる。
【0022】
互いに組み合わされた油圧シリンダの概念は、多くの異なる実施形態において実施可能である。
図2には、内部ロッド4が中空ロッド15内で摺動する、本発明の他の実施形態が示されている。
【0023】
図2に示す本実施形態においては、チャンバ6に圧力が加えられ、続いてチャンバ7に圧力が加えられると、ピストン2が、チャンバ6内にロッド4を押し込んだ後、チャンバ6内に中空ロッド15を押し込むことにより、複数の速度及び力を生成する。
【0024】
したがって、従来型の油圧シリンダが、油圧ポンプ、バルブ、及び外部増圧器により供給される圧力及び流れに依存するのに対し、本発明の入れ子式シリンダは、従来型油圧回路により供給される圧力よりも高い独自の圧力を生成することができる。これにより、シリンダをシリンダ/ポンプに変換することができる。
【0025】
座屈強度及びバンド強度(band strength)は、油圧シリンダの製造における2つの大きな課題であるが、これらの課題は、本発明において内部ロッド1を幅広及び中空にすることにより解決することができる。なお、
図1に示すロッド4及び後部ブロック5が衝突しないように注意が払われる。
【0026】
油圧シリンダにおける他の課題は、外側シリンダ10(
図1)の湾曲(bowing)、すなわち膨張であるが、これは、本発明の入れ子式油圧シリンダの外側シリンダ10に対して、繊維材料、すなわち炭素繊維又はナノチューブ繊維の追加カバー14を設けることにより防止することができる。
【本発明を実施する最良モード、及び産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の産業上の利用可能性を示すために、
図1に示す設計に従って実験室規模のシリンダのプロトタイプを製造した。シリンダのチャンバ6及び7には、所定の外圧でチャンバ6のポートを介して流体が流入したときのこれらのチャンバ内の圧力を監視するのに適した圧力計が装備された。
図3に示すように、チャンバ6への供給圧力に対するチャンバ6及び7内の圧力が観察された。
図4には、入れ子構造により増大したこのシリンダ内の圧力を、チャンバ6内で観察された圧力として示すグラフが示されている。当該グラフにおいて、約50バールの比較的低い圧力で、135バールもの高い圧力を得られることが分かる。