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特許7477171共振ずり測定装置及びその使用方法、並びに粘度計及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】共振ずり測定装置及びその使用方法、並びに粘度計及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20240423BHJP
   G01N 19/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G01N11/00 B
G01N19/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021018956
(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公開番号】P2022121948
(43)【公開日】2022-08-22
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】栗原 和枝
(72)【発明者】
【氏名】水上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 素洋
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/194734(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/037241(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0130980(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00ー13/04
G01N 19/00ー19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に配置された上部ディスク基板及び下部ディスク基板と、前記上部ディスク基板を横方向に揺動可能に支持する弾性部材と、前記上部ディスク基板を揺動させるために交流電圧が印加される駆動部材と、前記弾性部材のひずみを計測するためのひずみ計測手段と、前記ひずみ計測手段の応答電圧を検出する情報処理ユニットとを有する共振ずり測定装置であって、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間は試料挿入部を形成し、前記上部ディスク基板の前記下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離は、前記下部ディスク基板を上下方向に変位させることにより変更可能であり、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を計測する手段と、前記下部ディスク基板を上下方向に変位させる手段と、をに有し、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた際の接触の判定を、前記ひずみ計測手段からの共振時の出力の変化によって行うものであり前記試料挿入部に試料を挿入していない状態で前記駆動部材に印加される交流電圧の振幅Uinに対する、前記ひずみ計測手段の応答電圧の振幅Uoutの比Uout/Uinが低下したときを前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との接触状態と判定する、共振ずり測定装置。
【請求項2】
前記変位させる手段により前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた後、前記変位させる手段により前記下部ディスク基板を上下方向に変位させて、前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を広げて所定の距離に制御する、請求項1に記載の共振ずり測定装置。
【請求項3】
前記ひずみ計測手段からの共振時の出力の変化に基づいて、前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間に形成された前記試料挿入部に挿入された試料の粘弾性を測定する、請求項1又は2に記載の共振ずり測定装置。
【請求項4】
前記ひずみ計測手段からの共振時の出力の変化から求められる共振ずり曲線に基づいて、物理モデル解析により、前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間に形成された前記試料挿入部に挿入された試料の粘弾性を測定する、請求項3に記載の共振ずり測定装置。
【請求項5】
固定部材と、上部ユニットと、下部ユニットと、情報処理ユニットと、を備え、
前記上部ユニットは、圧電素子、前記圧電素子の前記下部ユニット側に配置された上部ディスク基板、前記圧電素子を前記固定部材に対して一方向に振動可能に支持する板バネ及び前記板バネの前記一方向の変位を検知する検知手段を有し、
前記下部ユニットは、下部ディスク基板、前記下部ディスク基板を固定する下部ディスクホルダ及び前記下部ディスク基板を固定した前記下部ディスクホルダを載置するステージを有し、
前記情報処理ユニットは、前記板バネの前記一方向の変位を検知する検知手段と電気的に接続されており、前記情報処理ユニットが、前記圧電素子に周波数を変化させながら交流電圧を印加することにより、前記上部ユニットの振動に伴う前記検知手段からの共振時の応答電圧を前記情報処理ユニットで測定する、粘度計であって、
前記ステージは、前記上部ユニットの前記上部ディスク基板の下面と、前記下部ユニットの前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更可能であるように、上下方向に変位可能であり、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間は試料挿入部を形成し、前記上部ディスク基板の前記下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を計測する手段と、前記ステージを上下方向に変位させる駆動系と、をに有し、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた際の接触の判定を、前記検知手段からの共振時の応答電圧の変化によって行うものであり、前記試料挿入部に試料を挿入していない状態で前記圧電素子に印加される交流電圧の振幅Uinに対する、前記検知手段の応答電圧の振幅Uoutの比Uout/Uinが低下したときを前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との接触状態と判定する、粘度計。
【請求項6】
前記駆動系により前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた後、前記駆動系により前記ステージを下方向に変位させて、前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を広げて所定の距離に制御する、請求項に記載の粘度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振ずり測定装置及びその使用方法、並びに粘度計及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、簡便に共振ずり挙動の測定が可能であり、密閉ユニットをコンパクトに容易に設けることが可能であり、製造費用を低く抑えることができる共振ずり測定装置を提案している(特許文献1)。
特許文献1に記載された共振ずり測定装置は、圧電素子、上部ディスク基板及びバネを有する上部ユニットと、下部ディスク基板を有する下部ユニットと、を備え、前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間が試料挿入部を形成し、前記圧電素子及び前記上部ディスク基板は、バネを介して固定機材に振動可能に接続され、ひずみゲージが前記バネに貼着され、前記圧電素子に周波数を変化させながら交流電圧を印加することにより、前記上部ユニットの振動に伴う前記ひずみゲージからの共振時の応答電圧を測定する、共振ずり測定装置である。
また、本発明者らは、特許文献1の発明を基に、例えば100μL以下というような微量の液体試料のバルク粘度を精度よく測定可能な粘度計及び粘度測定方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2020/194734号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の共振ずり測定装置では、上部ディスク基板の下面と下部ディスク基板の上面との間隔を制御するに際して、接触点から一定距離、モーターを用いて離すことで前記間隔を精密に制御していた。前記接触点の決定は、使用者がニュートンリングを観察して行っていた。
しかし、ニュートンリングを観察しての接触点の決定は使用者の熟練が必要であり、再現性のよい決定が困難であった。
【0005】
本発明は、上部ディスク基板の下面と下部ディスク基板の上面との間隔を制御するに際して、接触点の決定が容易な共振ずり測定装置及びその使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 上下に配置された上部ディスク基板及び下部ディスク基板と、前記上部ディスク基板を横方向に揺動可能に支持する弾性部材と、前記上部ディスク基板を揺動させるために交流電圧が印加される駆動部材と、前記弾性部材のひずみを計測するためのひずみ計測手段と、前記ひずみ計測手段の応答電圧を検出する情報処理ユニットとを有する共振ずり測定装置であって、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間は試料挿入部を形成し、前記上部ディスク基板の前記下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離は、前記下部ディスク基板を上下方向に変位させることにより変更可能であり、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を計測する手段と、前記下部ディスク基板を上下方向に変位させる手段と、をに有し、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた際の接触の判定を、前記ひずみ計測手段からの共振時の出力の変化によって行うものであり前記試料挿入部に試料を挿入していない状態で前記駆動部材に印加される交流電圧の振幅Uinに対する、前記ひずみ計測手段の応答電圧の振幅Uoutの比Uout/Uinが低下したときを前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との接触状態と判定する、共振ずり測定装置。
[2] 前記変位させる手段により前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた後、前記変位させる手段により前記下部ディスク基板を上下方向に変位させて、前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を広げて所定の距離に制御する、[1]に記載の共振ずり測定装置。
[3] 前記ひずみ計測手段からの共振時の出力の変化に基づいて、前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間に形成された前記試料挿入部に挿入された試料の粘弾性を測定する、[1]又は[2]に記載の共振ずり測定装置。
[4] 前記ひずみ計測手段からの共振時の出力の変化から求められる共振ずり曲線に基づいて、物理モデル解析により、前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間に形成された前記試料挿入部に挿入された試料の粘弾性を測定する、[3]に記載の共振ずり測定装置。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の共振ずり測定装置の使用方法であって、 前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた際の接触の判定を、前記ひずみ計測手段からの共振時の応答電圧の変化によって行い、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた後、前記下部ディスク基板を上下方向に変位させて、前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を広げて所定の距離に制御することを特徴とする、
共振ずり測定装置の使用方法。
[6] 固定部材と、上部ユニットと、下部ユニットと、情報処理ユニットと、を備え、
前記上部ユニットは、圧電素子、前記圧電素子の前記下部ユニット側に配置された上部ディスク基板、前記圧電素子を前記固定部材に対して一方向に振動可能に支持する板バネ及び前記板バネの前記一方向の変位を検知する検知手段を有し、
前記下部ユニットは、下部ディスク基板、前記下部ディスク基板を固定する下部ディスクホルダ及び前記下部ディスク基板を固定した前記下部ディスクホルダを載置するステージを有し、
前記情報処理ユニットは、前記板バネの前記一方向の変位を検知する検知手段と電気的に接続されており、前記情報処理ユニットが、前記圧電素子に周波数を変化させながら交流電圧を印加することにより、前記上部ユニットの振動に伴う前記検知手段からの共振時の応答電圧を前記情報処理ユニットで測定する、粘度計であって、
前記ステージは、前記上部ユニットの前記上部ディスク基板の下面と、前記下部ユニットの前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更可能であるように、上下方向に変位可能であり、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間は試料挿入部を形成し、前記上部ディスク基板の前記下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を計測する手段と、前記ステージを上下方向に変位させる駆動系と、をに有し、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた際の接触の判定を、前記検知手段からの共振時の応答電圧の変化によって行うものであり、前記試料挿入部に試料を挿入していない状態で前記圧電素子に印加される交流電圧の振幅Uinに対する、前記検知手段の応答電圧の振幅Uoutの比Uout/Uinが低下したときを前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との接触状態と判定する、粘度計。
[7] 前記駆動系により前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた後、前記ステージを下方向に変位させて、前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を広げて所定の距離に制御する、[6]に記載の粘度計。
[8] 前記上部ディスク基板の下面と、前記下部ディスク基板の上面との間の距離が、0.1~1000μmである、[6]又は[7]に記載の粘度計。
[9] 測定可能な試料の粘度が0.1~60000mPa・sである、[6]~[8]のいずれかに記載の粘度計。
[10] 測定可能な試料の体積が1~100μLである、[6]~[9]のいずれかに記載の粘度計。
[11] 測定可能な試料が粒子を含む、[6]~[10]のいずれかに記載の粘度計。
[12] 測定可能な試料が、電解液、生物の体液及び液状の薬剤からなる群から選択されるいずれか1種である、[6]~[11]のいずれかに記載の粘度計。
[13] [6]~[12]のいずれかに記載の粘度計の使用方法であって、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた際の接触の判定を、前記検知手段からの共振時の応答電圧の変化によって行い、
前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を変更して前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面とを接触させた後、前記ステージを下方向に変位させて、前記上部ディスク基板の下面と前記下部ディスク基板の上面との間の距離を広げて所定の距離に制御することを特徴とする、
粘度計の使用方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上部ディスク基板の下面と下部ディスク基板の上面との間隔を制御するに際して、接触点の決定が容易な共振ずり測定装置及びその使用方法を提供することができる。
さらに本発明の第1の実施形態の共振ずり測定装置は、簡便に共振ずり挙動の測定が可能であり、密閉ユニットをコンパクトに容易に設けることが可能であり、製造費用を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態の共振ずり測定装置を示す概略構成図である。
図2図1に示す共振ずり測定装置の共振ずり曲線の解析に用いた物理モデルを示す概略図である。
図3図3は、上部ディスク基板の下面と下部ディスク基板の上面とを1μm/sで接近させた場合の、交流電圧(すなわち印加電圧)の周波数(横軸)と、応答電圧の振幅Uoutと印加電圧の振幅Uinの比(Uout/Uin)(縦軸)と、の関係を示すグラフである。
図4図4は、本発明の第2の実施形態の粘度計を示す概略構成図である。
図5図5は、図4に示す粘度計の試料挿入部の近傍の拡大図である。
図6図6は、図4に示す粘度計の共振曲線の解析に用いた物理モデルを示す概略図である。
図7図7は、上部ディスク基板の下面と下部ディスク基板の上面とを1μm/sで接近させた場合の、交流電圧(すなわち印加電圧)の周波数(横軸)と、応答電圧の振幅Uoutと印加電圧の振幅Uinの比(Uout/Uin)(縦軸)と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
「~」を用いて表す数値範囲は、「~」の前後の数値をその範囲に含む。
【0010】
[第1の実施形態:共振ずり測定装置]
本発明の第1の実施形態の共振ずり測定装置を、適宜、図を参照しながら説明する。 図1は、本発明の第1の実施形態の共振ずり測定装置101を示す概略構成図である。 本実施形態の共振ずり測定装置101は、上部ディスクホルダ113、上部ディスク基板116、上部ディスク基板116を横方向に揺動可能に保持する弾性部材117を有する上部ユニット110及び上部ディスク基板を揺動させるための駆動部材115と、下部ディスク基板114及び下部ディスクホルダ112を有する下部ユニット111と、駆動部材115と電気的に接続された情報処理ユニット140と、を備え、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間が試料挿入部121を形成し、駆動部材115、上部ディスクホルダ113及び上部ディスク基板116は、弾性部材117を介して固定機材130に横方向に揺動可能に保持され、弾性部材117のひずみを計測するためのひずみ計測手段119が弾性部材117に貼着されている。
共振ずり測定装置101は、重力の向きを基準として、上部ディスク基板116が上方となるようにかつ、下部ディスク基板114が下方となるように、配置される。
【0011】
ひずみ計測手段119は、情報処理ユニット140と電気的に接続されている。
情報処理ユニット140は、駆動部材115に、周波数を変化させながら、上部ユニット110の共振周波数を含む周辺の周波数に合わせて、正弦波の交流電圧を印加することにより、上部ユニット110の振動に伴うひずみ計測手段119からの共振時の応答電圧を測定する。これにより、上部ユニット110の共振ずり曲線を得ることができる。
【0012】
共振ずり測定装置101においては、ひずみ計測手段119が板バネ形状の弾性部材117に貼着されている。上部ユニット110及び下部ユニット111は密閉された容器内に設置されており、装置内の圧力を制御することが可能である。
【0013】
試料挿入部とは、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の、試料を送入可能な空間をいう。
【0014】
弾性部材117は、駆動部材115及び上部ディスク基板116を固定機材130から吊り下げる。弾性部材117は、駆動部材115及び上部ディスク基板116を水平方向に振動させることができる、例えば、垂直方向に設けられた一対の板バネである。
弾性部材117が板バネである場合、膜形状の試料挿入部121の両方の面、すなわち、上部ディスク基板116の下面及び下部ディスク基板114の上面に対して、略垂直に配置される。
【0015】
弾性部材117が板バネである場合のバネ定数は、通常、1000N/m程度であるが、上部ユニット110の振動の振幅と、測定する試料の性質に対して適宜設定され、これに限られない。
【0016】
上部ディスク基板116の下面及び下部ディスク基板114の上面は、測定試料と直接接触する。本実施形態では、上部ディスク基板116の下面側及び下部ディスク基板114の上面側に、厚さ3μm程度までへき開した雲母シートを用いている。上部ディスク基板116の下面及び下部ディスク基板114の上面は、球面、平面、円柱面等が用いられる。上部ディスク基板116及び下部ディスク基板114は、平板同士でもよいが、平板を平行に設置するのは必ずしも容易ではない。本実施形態の共振ずり測定装置101では、取付けの容易さから、上部ディスク基板116の下面、及び、下部ディスク基板114の上面を円柱の側面とし、二つの半円柱を直交させて配置する組合せが選択されている。
【0017】
上部ディスク基板116の下面側及び下部ディスク基板114の上面側には金属やセラミック、高分子など多様な材料が使用可能であり、雲母に限らない。また、本実施形態の共振ずり測定装置101では、へき開した雲母シートを半円柱形の石英レンズ(曲率半径R=20mm)上にエポキシ樹脂で貼り付けたものを、上部ディスク基板116及び下部ディスク基板114としており、上部ディスク基板116及び下部ディスク基板114の二つの半円柱を直交させて配置している。上部ディスク基板116の下面及び下部ディスク基板114の上面は、球面、平面、円柱面等が用いられる。上部ディスク基板116及び下部ディスク基板114は、平板同士でもよいが、平板を平行に設置するのは必ずしも容易ではない。取付けの容易さからは、上部ディスク基板116の下面を球面とし、下部ディスク基板114の上面を平面とする組合せが選択される。また、容易に精密測定が可能な観点からは、上部ディスク基板116及び下部ディスク基板114として、二つの半円柱を直交させて配置することが好ましい。
【0018】
駆動部材115は、例えば、外側の電極が4分割された4分割ピエゾチューブからなる圧電素子である。
駆動部材115が4分割ピエゾチューブからなる圧電素子である場合、適当な振幅・周波数の電圧を、対向する電極と内側の電極にかけることにより、上部ディスク基板116を有する上部ユニット110を、左右に振動させることができる。このとき、試料挿入部121に固体、液体、液晶などの微量試料を挟み、駆動部材115に、上部ユニット110の共振周波数を含む周辺の周波数に合わせて、正弦波の交流電圧を印加することにより、微量試料にずり変形を生じさせるとともに、上部ユニット110を左右に振動させ、弾性部材117(板バネ)に貼着されたひずみ計測手段119によって、この振幅の大きさを交流電圧(すなわち印加電圧)の周波数を変えて測定することで共振ずり曲線が得られる。
【0019】
試料挿入部121は、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間に挟まれた空間であり、略膜形状である。上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の距離Dは、共振ずり測定の目的に沿って、例えば、0nm~2mmの範囲で、適宜設定することができる。なお、平面と球面及び直交する半円柱面間において、距離Dは、上限の表面の最接近部分の距離として定義される。
【0020】
固体表面間の液体の潤滑性の評価の目的では、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の距離Dは、例えば、0.1~100nmの範囲に設定することができ、0.1~60nmが好ましく、0.1~40nmがより好ましい。
【0021】
上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の距離Dは、試料挿入部121に試料を挟んだ状態で、微調整できるものであることが好ましい。上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の距離Dを、対照試験のため、0nm、すなわち、接触した状態に設定できることが好ましい。
【0022】
また、液体試料の粘弾性の測定の目的では、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の距離Dは、例えば、0.1nm~2mmの範囲に設定することができ、0.1nm~1000μmが好ましく、0.1nm~500μmがより好ましい。この場合も、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の距離Dを、対照試験のため、0nm、すなわち、接触した状態に設定できることが好ましい。
【0023】
上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の距離Dを狭くすることにより、必要試料量を少なくすることができる。例えば、従来の市販の粘度計の典型的な必要試料量は数mLであり、微量測定が可能な粘度計としても、少なくとも100μLであるのに対して、本実施形態の共振ずり測定装置101では、必要試料量は20μL程度である。
【0024】
共振ずり測定装置101は、さらに、駆動部材115と電気的に接続された情報処理ユニット140を備える。ひずみ計測手段119も情報処理ユニット140と電気的に接続されている。情報処理ユニット140が、駆動部材115に周波数fを変化させながら正弦波の交流電圧を印加することにより、上部ユニット110の振動に伴うひずみ計測手段119からの共振時の応答電圧を測定する構成とする。
【0025】
駆動部材115の駆動手段としての情報処理ユニット140は、交流電圧を駆動部材115に印加し、ひずみ計測手段119からの応答電圧を検出する。情報処理ユニット140は、前記交流電圧(すなわち、印加電圧)の振幅Uinとともに、前記応答電圧の振幅Uoutを検出することができる。前記振幅Uoutの減衰曲線をフーリエ変換し、共振ずり曲線を得ることもできる。前記応答電圧の振幅Uoutを、前記距離Dの変化と共に計測することで、共振ずり曲線を得ることもできる。
【0026】
共振ずり測定装置101は、共振時の交流電圧(すなわち、印加電圧)の振幅及び共振時の応答電圧の振幅に基づいて、試料挿入部121に挿入された試料の粘弾性項を測定することができる。
【0027】
共振ずり測定装置101は、前記周波数に対応する交流電圧(すなわち、印加電圧)の振幅及び応答電圧の振幅から求められる共振ずり曲線に基づいて、試料挿入部121に挿入された試料の粘弾性項を測定することができる。
【0028】
共振ずり測定装置101の下部ユニット111において、下部ディスク基板114は下部ディスクホルダ112に固定され、下部ディスクホルダ112は、水平保持部材122に接続されている。水平保持部材122は、例えば、水平バネであり、垂直力測定用カンチレバーの働きをして、下部ディスク基板114の垂直方向の変位を制御できる構成となっている。
【0029】
すなわち、下部ユニット111は2枚の水平保持部材122を介してパルスモータと差動バネから構成される駆動系123に接続され、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の距離Dを1nm以下の分解能で制御できる。
【0030】
また、共振ずり測定装置101において、距離Dは、表面に垂直に入射させた白色光の銀蒸着面間での多重反射により生じた等色次数干渉縞(FECO;Fringes of Equal Chromatic Order)の解析から0.1nmの分解能で決定することができる。パルスモータによる“駆動距離”と“表面間距離の変化”の差(ΔD)として水平保持部材122(水平バネ)の曲がりを決定し、前記水平バネのバネ定数Kを掛けて荷重Lを求める(L=K・ΔD)。これ以外にも、下部ユニット下面からの反射光を用いた干渉計による距離決定法であるツインパス法を用いて、ΔD及びLを決定することもできる。
【0031】
本実施形態の共振ずり測定装置101では、距離Dは、空気中で、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との距離Dをゼロにした状態(すなわち、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とを接触させた状態)から、駆動系123によって上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の距離Dを拡大することによって、調節する。
【0032】
上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との接触位置は、試料挿入部121に試料を挿入していない状態で、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とを接近させた場合の、駆動部材115(4分割ピエゾチューブからなる圧電素子)に印加する交流電圧(すなわち、印加電圧)の周波数(横軸)に対して、応答電圧の振幅Uoutと印加電圧の振幅Uinの比(Uout/Uin)(縦軸)を表したグラフの変化により判定する。具体的には、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とが離れており空気中表面分離(Air Separation(AS)状態にある場合、Uout/Uinにピークが観測されるが、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とが接触して固体接触(Solid Contact(SC)状態になると、Uout/Uinが低下するとともにほぼ一定値となり、ピークが観測されなくなることにより判定できる。
【0033】
上部ユニット110として、上部ディスク基板116は、上部ディスクホルダ113を介して駆動部材115(4分割ピエゾチューブからなる圧電素子)に固定されている。また、上部ディスク基板116及び上部ディスクホルダ113は、駆動部材115を介して弾性部材117(2枚の板バネ)に接続されている。前記4分割ピエゾチューブの対向する二つの電極に逆位相の正弦波形電圧(振幅Uin、周波数f)を印加し、上部ディスク基板116の下面を水平方向に振動させ、前記板バネの先端部の振動変位(Δx)をひずみ計測手段119により出力電圧Uoutとして測定することができる。角周波数ω(=2πf)を掃引して出力電圧Uoutを測定し共振ずり曲線(Uout/Uin vs ω)を得る。空気中で、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間が離れた状態空気中分離、Air Separation(AS))では、上部ユニット110の質量(m)、バネ定数(k)により決定される周波数(ωAS)に共振ピークが観察される。
【0034】
空気中で、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とを接触させた滑りのない状態(固体接触、Solid Contact(SC))では、上部ユニット110に、下部ディスク基板114、下部ディスクホルダ112及び水平保持部材122(水平バネ)から構成される下部ユニット111の質量(m)、並びに水平保持部材122(水平バネ)の横方向のバネ定数(k)が加わり、共振ピークは高周波数へとシフトする(ωSC)。これら、ASピーク及びSCピークは、それぞれ摩擦なし、滑りなしの状態に対応する。これらのピークを参照として、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の試料挿入部121に液体試料を挟んだ状態で測定される共振ピークの振幅と周波数より液体試料の特性を評価できる。典型的には、ASピーク周波数ωASは195rad/s(31Hz)付近、SCピークの周波数ωSCは350rad/s(56Hz)付近に観測される。ただし、共振ピークはセッティングごとに変化する場合があるため、セッティング毎にASピーク及びSCピークを測定する。
【0035】
図2は、図1に示される共振ずり測定装置101の、共振ずり曲線の解析に用いた物理モデルを示す概略図である。上部ユニット110のパラメータとして粘性項b、弾性項k、有効質量mを考える。試料液体部としては粘性項b、弾性項kを考える。下部ユニット111のパラメータとして粘性項b、弾性項k、有効質量mを考える。これらのパラメータを用いて上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面の運動方程式はそれぞれ以下のように表すことができる。
【0036】
【数1】
【0037】
【数2】
【0038】
ここで、xは、上部ディスク基板116の下面の水平方向の変位であり、xは、下部ディスク基板114の上面の水平方向の変位であり、αは、xとひずみ計測手段119(ひずみゲージ)で測定される、弾性部材117(垂直方向に設けられた板形状のバネ)の変位xmeasuredを関係づけるパラメータ(x=α・xmeasured)を表し、Fexp(iωt)は駆動部材115(圧電素子)からの外力を表す。xとxの定常解をそれぞれ、x=Xexp(iωt+φ)、x=Xexp(iωt+φ)とし、式(1)及び式(2)の連立微分方程式を解くことで、振幅(X,X)及び位相項(φ,φ)の解析解が得られる。Xの解より共振ずり曲線(Uout/Uin vs ω)の理論式は以下のように表される。
【0039】
【数3】
【0040】
ここで、B=b/α+b、B=b+b、K=k/α+k、K=k+kである。ここで、αは実測により得られたα=1に固定する。m1は上部ユニットの質量の実測値を用いる。式(3)中のb2、k2、b3、k3、m2をゼロとして、空気中分離(AS)の共振ずり曲線をフィッティングし、上部ユニット110のパラメータk、bを決定する。
【0041】
また、x=xとして式(3)の試料部のパラメータ(k,b)の項を消去した式で固体接触(SC)の共振ずり曲線をフィッティングし、下部ユニット111のパラメータb、kを決定する。上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との間の試料挿入部121に試料を挟んだ状態で測定した共振ずり曲線のフィッティングにより試料部のパラメータ(b,k)を決定する。装置定数Cは、下部ユニット111の寄与のない空気中分離(AS)及び下部ユニット111の寄与のある個体接触(SC)のそれぞれの共振ずり曲線のフィッティングにより決定することができる。
【0042】
[第2の実施形態:粘度計]
以下、本発明の第2の実施形態の粘度計を、適宜、図を参照しながら説明する。
図4は、本発明に係る粘度計を示す概略構成図である。図5は、図4に示す粘度計の試料挿入部の近傍を拡大した図である。なお、図5において、図4で説明済みのものと同じ構成要素には、同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
本発明の第2の実施形態の粘度計は、例えば100μL以下というような微量の液体試料のバルク粘度を精度よく測定可能な粘度計である。
【0043】
粘度計201は、固定部材231と、上部ユニット210と、下部ユニット211と、情報処理ユニット250とを備える。
【0044】
上部ユニット210は、圧電素子215、圧電素子215の下方に固定された上部ディスク基板216、圧電素子215を固定部材231に対して一方向に振動可能に支持する板バネ217、及び板バネ217の一方向の変位を検知する検知手段219を有する。
上部ディスク基板216は上部ディスクホルダ213を介して、圧電素子215の下部ユニット211側に配置されている。
【0045】
下部ユニット211は、下部ディスク基板214及び下部ディスク基板214を固定する下部ディスクホルダ212が、ステージ224上に載置されている。
ステージ224は、駆動系223により一定の方向に変位可能であり、上部ディスク基板216の下面と、下部ディスク基板214の上面との間の距離(以下、「距離D」という場合がある。)を可変としている。
距離Dが可変なので、下部ディスク基板214の上に試料を乗せる場合にも有用である。
上部ユニット210と下部ユニット211とは、鉛直方向に上下に配置することが好ましい。この場合において、板バネ217は鉛直方向と平行であり、前記駆動系223は、ステージ224を鉛直方向に変位可能である。
上部ディスク基板216の下面は、図4及び図5に示すとおり、上部ユニット210と下部ユニット211とを鉛直方向に上下に配置した場合において、下部ディスク基板214に対向する面である。下部ディスク基板214の上面は、図4及び図5に示すとおり、上部ユニット210と下部ユニット211とを鉛直方向に上下に配置した場合に、上部ディスク基板216に対向する面である。
【0046】
情報処理ユニット250は、検知手段219(ひずみゲージ)と、信号ケーブル253を介して接続されている。
【0047】
粘度計201は、さらに、圧電素子駆動ユニット225を有することが好ましい。
圧電素子駆動ユニット225は、関数発生器と増幅器からなる。圧電素子駆動ユニット4は、圧電素子215に電気ケーブル218を介して交流電圧を印加し、圧電素子215を振動させる。また、圧電素子駆動ユニット225は、情報処理ユニット250と信号ケーブル(図示せず)で接続され、圧電素子215に印加する交流電圧の周波数等の情報を送るようにしてもよい。
【0048】
板バネ217の一方向の変位を検知する検知手段219は、例えば、ひずみゲージ、静電容量計又はレーザー変位計である。
前記ひずみゲージは、板バネ217の表面に1つ以上を配置することが好ましい。
前記静電容量計及び前記レーザー変位計は、非接触で板バネ217の一方向の変位(振幅)を計測できるように配置することが好ましい。
板バネ217の一方向の変位を検知する検知手段219としてひずみゲージを用いると、粘度計の構造を簡素化でき、生産性も向上できる。
【0049】
本発明の第2の実施形態の粘度計201において、取り付けが容易となるように、上部ディスク基板216の下面は、曲率半径Rの球面であり、下部ディスク基板214の上面は平面である。上部ディスク基板216の下面及び下部ディスク基板214の上面は、それぞれ独立に、球面、円柱面、平面、又は球面及び円柱面以外の曲面を用いてもよい。上部ディスク基板216及び下部ディスク基板214は、平板同士でもよいが、平板を平行に設置するのは必ずしも容易ではない。その困難さを避けるためには、上部ディスク基板216及び下部ディスク基板214として、二つの半円柱を直交させて配置することが考えられる。さらに取り付けが容易な配置として、上部ディスク基板216の下面を球面とし、下部ディスク基板214の上面を平面とする組み合わせが選択される。
上部ディスク基板216の下面及び下部ディスク基板の上面の一方又は両方を曲面(球面、円柱面、平面、又は球面及び円柱面以外の曲面を包含する)とする場合の曲率半径Rは、特に限定されないが、例えば、1~1000mmの範囲内とすることができる。液体試料の粘度によって、曲率半径Rを変更してもよい。例えば、低粘度の液体試料では曲率半径Rを大きくする方が好ましく、高粘度の液体試料では曲率半径Rを小さくする方が好ましい。
【0050】
上部ディスク基板216及び下部ディスク基板214は、それぞれ独立に、石英、シリカ、ガラス、合成樹脂又はマイカ等の材料により構成できるが、これらに限定されるものではなく測定液体中で安定な広範な材料が使用可能である。
【0051】
本発明の第2の実施形態の粘度計201においては、上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面との間の距離Dが固定され、粘度を簡易に測定することが可能である。
【0052】
本発明の第2の実施形態の粘度計201において、距離Dが十分に大きな値に固定すると、液体のバルク粘度の測定の目的に好適に用いることができる。
【0053】
本発明の第2の実施形態の粘度計において、距離Dは、0.1~1000μmの範囲に調整できることが好ましい。
本発明の第2の実施形態の粘度計201を使用して試料の粘度を測定する場合の距離Dは、0.1~1000μmが好ましく、0.5~500μmがより好ましく、1~100μmがさらに好ましく、2~50μmがいっそう好ましく、5~20μmがよりいっそう好ましい。
【0054】
表面間の距離Dの測定にはニュートンリング、レーザー変位計又は静電容量計をはじめとする様々な距離計測手段を用いることができる。また、表面間の距離Dの設定は、接触位置から、駆動系により距離Dを拡大することで変化させることができる。
本実施形態の粘度計201では、距離Dは、空気中で、上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面との距離Dをゼロにした状態から、駆動系223によって上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面との間の距離Dを拡大することによって、調節する。
【0055】
上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面との接触位置は、試料挿入部221に試料を挿入していない状態で、上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面とを接近させた場合の、圧電素子215に印加する交流電圧(すなわち、印加電圧)の周波数(横軸)に対して、応答電圧の振幅Uoutと印加電圧の振幅Uinの比(Uout/Uin)(縦軸)を表したグラフの変化により判定する。具体的には、上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面とが離れており空気中表面分離(AS)状態にある場合、Uout/Uinにピークが観測されるが、上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面とが接触して固体接触(SC)状態になると、Uout/Uinが低下するとともにほぼ一定値となり、ピークが観測されなくなることにより判定できる。
【0056】
本発明の第2の実施形態の粘度計201は、圧電素子215に印加する交流電圧の振幅及び共振時の応答電圧の振幅に基づいて、試料挿入部221に挿入された試料の粘度を測定することができる。
【0057】
本発明の第2の実施形態の粘度計201を用いて試料の粘度を測定する場合、より正確な測定結果が得られることから、試料の粘度ηは、0.1~60000mPa・sが好ましく、0.5~10000mPa・sがより好ましい。
【0058】
本発明の第2の実施形態の粘度計201を用いて試料の粘度を測定する場合、より正確な測定結果が得られることから、試料の体積Vは、1~100μLが好ましく、1~50μLがより好ましく、1~20μLがさらに好ましく、5~20μLがいっそう好ましく、5~10μLがよりいっそう好ましい。このように、従来の市販の粘度計の典型的な必要試料量は数mLであり、微量測定が可能な粘度計としても、少なくとも100μLであるのに対して、超微量での測定が可能である。
【0059】
本発明の第2の実施形態の粘度計201を用いて試料の粘度を測定する場合、試料は粒子を含んでもよい。従来の粘度計では、粒子を含む試料の粘度測定ができないものがある。
粒子の粒子径は、上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面との間の距離Dを調整することができる範囲内であれば特に限定されないが、距離Dの1/2以下が好ましく、1/4以下がより好ましい。例えば、距離Dが20μmであるとき、粒子の粒径は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。本発明の第2の実施形態の粘度計201では、上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面との間の距離Dを調整することにより、例えば、5μm以上の粒子が含まれる試料の粘度測定にも対応させることができる。なお、粒子の粒子径としては、最小フェレ径を用いる。
【0060】
本発明の第2の実施形態の粘度計201を用いて試料の粘度を測定する場合、測定対象の試料は、液体であれば特に限定されない。試料の液体は、純物質であってもよいし、混合物であってもよい。また、試料の液体が混合物である場合、真の溶液、コロイド溶液又は分散液等でもよい。
本発明の第2の実施形態の粘度計201の測定可能な試料としては、例えば、電解液、生物の体液又は液状の薬剤が挙げられる。
前記電解液としては、例えば、電解コンデンサの電解液、電池の電解液又はイオン液体が挙げられる。前記電池の電解液としては、例えば、リチウムイオン電池の電解液が挙げられる。特に電池の電解液は、充放電の繰返しに伴う粘度増加は性能劣化の指標であり、事故防止のためにも粘度測定が重要である。ところが、実電池内の電解液の回収が困難且つ危険であり、回収できる量は100μL程度である。そのため、微量試料の粘度測定が可能な本発明の第2の実施形態の粘度計201は有用である。
前記生物の体液としては、例えば、血液、リンパ液、組織液又は体腔液が挙げられる。特に血液は、高血糖症又は高コレステロール血症等での粘度増加が見られるため、これらの疾患の検査等のために粘度測定が重要である。そのため、より低侵襲で赤血球等の粒子を含む微量試料の粘度測定が可能な本発明の第2の実施形態の粘度計201は有用である。
前記液状の薬剤としては、例えば、リポソーム懸濁液等の分散液、免疫グロブリン製剤や抗体医薬品等の溶液又はω-3脂肪酸等の液体が挙げられる。特にリポソーム懸濁液等のドラッグデリバリーシステム(DDS)の分子設計最適化指標として重要である。そのため、リポソーム等の粒子を含む微量試料の粘度測定が可能な本発明の第2の実施形態の粘度計201は有用である。
【0061】
本発明の第2の実施形態の粘度計201を用いて試料の粘度を測定する場合において、上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面との間の空隙(試料挿入部221)に試料を配置し、圧電素子駆動ユニット225により圧電素子215に周波数を変化させながら交流電圧(印加電圧の振幅Uin)を印加することにより、上部ユニット210の振動に伴う板バネ217の一方向の変位を検知する検知手段219からの共振時の応答電圧(応答電圧の振幅Uout)を情報処理ユニット250で測定し、試料の粘度を測定することが好ましい。
【0062】
情報処理ユニット250においては、板バネ217の一方向の変位を検知する検知手段219からの共振時の応答電圧から、(応答電圧の振幅Uout)/(印加電圧の振幅Uin)のピーク強度比を算出し、さらに、ピーク強度比と粘度との関係を表す曲線の式により、ピーク強度比を粘度に変換する処理を行うことが好ましい。
【0063】
本発明の第2の実施形態の粘度計201は、後述の実施例に示されるように、前記周波数に対する交流電圧(すなわち印加電圧)の振幅及び応答電圧の振幅から求められる共振曲線に基づいて、試料挿入部221に挿入された試料の粘度を測定することができる。
【0064】
図6は、図4に示す粘度計の、共振曲線の解析に用いた物理モデルを示す概略図である。上部ユニット210のパラメータとして粘性項b、弾性項k、有効質量mを考える。試料液体部としては粘性項b、弾性項kを考える。これらのパラメータを用いて上部ディスク基板216の下面の運動方程式は以下のように表すことができる。
【0065】
【数4】
【0066】
ここで、xは、上部ディスク基板216の下面の水平方向の変位であり、Fexp(iωt)は圧電素子215からの外力を表す。xの定常解を、x=Xexp(iωt+φ)として、式(4)の微分方程式を解くことで、振幅(X)の解析解が得られる。Xの解より共振曲線(Uout/Uin vs ω)の理論式は以下のように表される。
【0067】
【数5】
【0068】
は上部ユニットの質量の実測値を用いる。式(5)中のb、kをゼロとして、空気中分離(AS)の共振曲線をフィッティングし、上部ユニット210のパラメータk、b、装置定数Cを決定する。
【0069】
上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面との間の試料挿入部221に試料を挟んだ状態で測定した共振曲線のフィッティングにより、試料部のパラメータ(b、k)を決定する。
【0070】
なお、粘性パラメータb(Ns/m)と、粘度η(N/m・s=Pa・s)との関係は、一定の関数で表されることが好ましい。特に、b=C’・ηのような線形関数で表されることがより好ましい。
【実施例
【0071】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は後述する実施例に限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
図1で示される、変位計測手段としてひずみ計測手段119(ひずみゲージ)を備える本発明の第1の実施形態の共振ずり測定装置101を用いて、空気中で、駆動部材115(圧電素子)に周波数fを変化させながら正弦波の交流電圧Uinを印加することにより、上部ユニット110の振動に伴うひずみ計測手段119(ひずみゲージ)からの応答電圧Uoutを測定した。
図3は、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とが離れている空気中表面分離(AS)状態、および上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とが接触して固体接触(SC)状態にある場合の、駆動部材115(圧電素子)に印加する交流電圧(すなわち、印加電圧)の周波数f(横軸)に対して、応答電圧の振幅Uoutと印加電圧の振幅Uinの比(Uout/Uin)(縦軸)を表したグラフである。上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とが離れており空気中表面分離(AS)状態にある場合、Uout/Uinにはピークが観測されるが、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とが接触して固体接触(SC)状態になると、Uout/Uinが低下するとともにほぼ一定値となり、ピークが観測されなくなる。
また、図示しないが、時間を横軸、Uout/Uinを縦軸にとった場合、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面との接触時から、Uout/Uinがほぼ一定値となる。
【0073】
[実施例2]
図4で示される、変位計測手段として検知手段219(ひずみゲージ)を備える本発明の第2の実施形態の粘度計201を用いて、空気中で、圧電素子215に周波数fを変化させながら正弦波の交流電圧Uinを印加することにより、上部ユニット210の振動に伴う検知手段219(ひずみゲージ)からの応答電圧Uoutを測定した。
図7は、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とが離れている空気中表面分離(AS)状態、および上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とが接触して固体接触(SC)状態にある場合の、圧電素子215に印加する交流電圧Uin(すなわち、印加電圧)の周波数f(横軸)に対して、応答電圧の振幅Uoutと印加電圧の振幅Uinの比(Uout/Uin)(縦軸)を表したグラフである。上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面とが離れており空気中表面分離(AS)状態にある場合、Uout/Uinにはピークが観測されるが、上部ディスク基板116の下面と下部ディスク基板114の上面とが接触して固体接触(SC)状態になると、Uout/Uinが低下するとともにほぼ一定値となり、ピークが観測されなくなる。
また、図示しないが、時間を横軸、Uout/Uinを縦軸にとった場合、上部ディスク基板216の下面と下部ディスク基板214の上面との接触時から、Uout/Uinがほぼ一定値となる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の第1の実施形態の共振ずり測定装置は、液体試料、液晶試料等の粘弾性測定、潤滑度測定、摩擦測定、樹脂の粘弾性測定等の用途に利用可能である。
【0075】
本発明の第2の実施形態の粘度計は、既存の粘度計では実現されていない50μL以下の極微量の液体の粘度が測定可能である。そのため、試料が極めて高価であったり、試料の製造に手間がかかったり、多量の試料を準備することが技術的に困難であったりする場合であっても、本発明の第2の実施形態の粘度計で試料の粘度を測定でき、微量試料の粘度評価ニーズに応えることができる。
【符号の説明】
【0076】
101…共振ずり測定装置、110…上部ユニット、111…下部ユニット、112…下部ディスクホルダ、113…上部ディスクホルダ、114…下部ディスク基板、115…駆動部材、116…上部ディスク基板、117…弾性部材、118,118a,118b…電気ケーブル、119…ひずみ計測手段、120…静電容量計、121…試料挿入部、122…水平保持部材、123…駆動系、130…固定機材、140…情報処理ユニット、201…粘度計、210…上部ユニット、211…下部ユニット、212…下部ディスクホルダ、213…上部ディスクホルダ、214…下部ディスク基板、215…圧電素子、216…上部ディスク基板、217…板バネ、218…電気ケーブル、219…検知手段、221…試料挿入部、224…ステージ、225…圧電素子駆動ユニット、231…固定部材、253…信号ケーブル、250…情報処理ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7