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特許7477174そば様香味付与剤、そば様練り食品原料粉、及びそば様練り食品
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  • 特許-そば様香味付与剤、そば様練り食品原料粉、及びそば様練り食品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】そば様香味付与剤、そば様練り食品原料粉、及びそば様練り食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240423BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240423BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23L27/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021068033
(22)【出願日】2021-04-13
(65)【公開番号】P2022162924
(43)【公開日】2022-10-25
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000164689
【氏名又は名称】熊本製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】竹部 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山田 徹
(72)【発明者】
【氏名】松永 幸太郎
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-046782(JP,A)
【文献】特開平02-257842(JP,A)
【文献】特開2011-092153(JP,A)
【文献】特開2003-159017(JP,A)
【文献】特開2009-065932(JP,A)
【文献】特開2006-087316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
Google
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙焼玄米粉と小豆粉との重量割合を1:4~1:8とした混合粉よりなり、ソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で前記混合粉を添加することで同混合粉が添加された食用粉で調製される練り食品にそば様の香味を付与するためのそば様香味付与剤。
【請求項2】
焙焼玄米粉と小豆粉との重量割合を1:4~1:8とした混合粉よりなり、焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で含むそば様香味付与剤を、ソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に混合してなるそば様練り食品原料粉。
【請求項3】
0~24重量部の黒米粉と、
0~0.8重量部の黒ごま粉と、
0~10重量部の焙焼アマランサス粉と、
5~15重量部のヒエ粉と、
焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で含まれる請求項1に記載のそば様香味付与剤と、
をソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し混合してなるそば様練り食品原料粉。
【請求項4】
前記食用粉は、70重量%以上80重量%以下の小麦粉と、20重量%以上30重量%以下の大麦粉とにより構成したことを特徴とする請求項2又は3に記載のそば様練り食品原料粉。
【請求項5】
前記食用粉は、80重量%を超える量の小麦粉と、20重量%未満の大麦粉とにより構成すると共に、
黒米粉の添加量を8~24重量部とし、
黒ごま粉の添加量を0.4~0.8重量部としたことを特徴とする請求項3に記載のそば様練り食品原料粉。
【請求項6】
請求項2~5いずれか1項に記載のそば様練り食品原料粉に加水して混練してなるそば様練り食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そば様香味付与剤、そば様練り食品原料粉、及びそば様練り食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ソバはタデ科ソバ属の植物であり、その種子であるソバの実は古くから食用に供されている。
【0003】
収穫されたソバの実は、我が国では専ら製粉してそば粉とされる。そば粉は、加水して混練し不定形状やペースト状のそばがきとしたり、必要に応じて成形、例えば製麺することによりそば麺とするなど、その他様々な態様にて喫食に供される。なお以下の説明において、これらそば麺やそばがきの如くそば粉やそば粉を含む粉に加水して、練って得られた食品を総称してそば粉練り食品ともいう。
【0004】
そば粉練り食品は、口に運んだ際の上品で奥深いそば独特の香りが特徴であり、そば打ちを趣味や職業とする者のようにそばの取扱いに関し高度に洗練された技術を持つ者や、その味の違いを楽しむ食通に人気の食品である。
【0005】
しかし、そば粉練り食品は、一般のスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどでも乾麺や調理済み麺などとして長年に亘って提供されており、当然ながらごく身近な存在でもあって、これからも多くの人々を魅了する食品として親しまれ続けるものと考えられる。
【0006】
ところが、そば(特に、ソバの実の一部の構成成分)は、比較的メジャーなアレルゲンでもある。それゆえ、そばアレルギーの者は、アレルギー症状が出てしまうため、そばを含む食品は忌避せざるを得ない。
【0007】
そこで、そばアレルギーの者であっても、そば麺を喫食する感覚を楽しむことができるよう、そば粉やソバの実を用いることなくそば麺を模したそば麺様の食品が幾つか提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-217321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来のそば麺様の食品は見た目や食感をそば麺に似せるための技術であって、そばの香りや味については何ら着目てされておらず、喫食者はそば風の香味を楽しむことはできなかった。
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、ソバに由来しない食用粉に加水し混練して練り食品を製造するに際し、食用粉に混合して用いることで、同混合粉により調製される練り食品にそば様の香味を付与することのできるそば様香味付与剤を提供する。
【0011】
また本発明では、加水して混練することにより、そば粉やソバの実などソバに由来するアレルゲンは含まず、そば様の香味を有する練り食品を調製可能なそば様練り食品原料粉や、同原料粉を用いて調製したそば様練り食品についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係るそば様香味付与剤では、(1)焙焼玄米粉と小豆粉との重量割合を1:4~1:8とした混合粉よりなり、ソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で前記混合粉を添加することで同混合粉が添加された食用粉で調製される練り食品にそば様の香味を付与するためのそば様香味付与剤とした。
【0013】
また、本発明に係るそば様練り食品原料粉では、(2)焙焼玄米粉と小豆粉との重量割合を1:4~1:8とした混合粉よりなり、焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で含むそば様香味付与剤を、ソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に混合してなることとした。
【0014】
また、本発明に係るそば様練り食品原料粉では、(3)0~24重量部の黒米粉と、0~0.8重量部の黒ごま粉と、0~15重量部のヒエ粉と、0~10重量部の焙焼アマランサス粉と、焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で添加される(1)に記載のそば様香味付与剤と、をソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し混合してなることとした。
【0015】
また、本発明に係るそば様練り食品原料粉では、以下の点にも特徴を有する。
(4)前記食用粉は、70重量%以上80重量%以下の小麦粉と、20重量%以上30重量%以下の大麦粉とにより構成したこと。
(5)前記食用粉は、80重量%を超える量の小麦粉と、20重量%未満の大麦粉とにより構成すると共に、黒米粉の添加量を8~24重量部とし、黒ごま粉の添加量を0.4~0.8重量部としたこと。
【0016】
また、本発明に係るそば様練り食品では、(6)上記(2)~(5)のいずれか1つに記載のそば様練り食品原料粉に加水して混練してなることとした。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るそば様香味付与剤によれば、焙焼玄米粉と小豆粉との重量割合を1:4~1:8とした混合粉よりなり、ソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で前記混合粉を添加することで同混合粉が添加された食用粉で調製される練り食品にそば様の香味を付与するためのそば様香味付与剤としたため、ソバに由来しない食用粉に加水し混練して練り食品を製造するに際し、食用粉に混合して用いることで、同混合粉により調製される練り食品にそば様の香味を付与することのできるそば様香味付与剤を提供することができる。
【0018】
また、本発明に係るそば様練り食品原料粉によれば、焙焼玄米粉と小豆粉との重量割合を1:4~1:8とした混合粉よりなり、焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で含むそば様香味付与剤を、ソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に混合してなることとしたため、そば様の香味を有する練り食品を調製可能なそば様練り食品原料粉を提供することができる。
【0019】
また、本発明に係るそば様練り食品原料粉によれば、0~24重量部の黒米粉と、0~0.8重量部の黒ごま粉と、0~15重量部のヒエ粉と、0~10重量部の焙焼アマランサス粉と、焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で添加される前述のそば様香味付与剤と、をソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し混合してなることとしたため、加水して混練することにより、そば粉やソバの実などソバに由来するアレルゲンは含まず、そば様の香味を有し、更にはそば様の外観を呈する練り食品を調製可能なそば様練り食品原料粉を提供することができる。
【0020】
また、前記食用粉は、70重量%以上80重量%以下の小麦粉と、20重量%以上30重量%以下の大麦粉とにより構成すれば、二番粉(挽きぐるみ)から三番粉(藪)にて調製したそば粉練り食品の如き外観を呈するそば様練り食品原料粉とすることができる。
【0021】
また、前記食用粉は、80重量%を超える量の小麦粉と、20重量%未満の大麦粉とにより構成すると共に、黒米粉の添加量を8~24重量部とし、黒ごま粉の添加量を0.4~0.8重量部とすれば、一番粉(更科)から二番粉(挽きぐるみ)にて調製したそば粉練り食品の如き外観を呈するそば様練り食品原料粉とすることができる。
【0022】
また、本発明に係るそば様練り食品によれば、前述の本発明に係るそば様練り食品原料粉に加水して混練してなることとしたため、そば様の香味を有し、更にはそば様の外観を呈するそば様練り食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】そば様香味確認試験における各ドウの処方と官能評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、そば様香味付与剤に関するものであり、特に、食用粉に添加して練り食品を調製することで、この練り食品にそば粉を用いて調製した練り食品であるかのような香味を付与することのできるそば様香味付与剤に関するものである。
【0025】
具体的には、本実施形態に係るそば様香味付与剤は、焙焼玄米粉と小豆粉との重量割合を1:4~1:8とした混合粉よりなり、ソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で前記混合粉を添加することで同混合粉が添加された食用粉で調製される練り食品にそば様の香味を付与するためのそば様香味付与剤としている。
【0026】
ここで、そば様香味付与剤は、そば粉を含む練り食品が有するソバ由来の香味(芳香や食味)に似た香味を、ソバの実やそば粉を含まない練り食品に付与するための剤である。
【0027】
そば様香味付与剤は、焙焼玄米粉と小豆粉とにより構成される。焙焼玄米粉は、焙焼玄米を粉にしたものであり、16メッシュを通過する程度の粉であるのが望ましい。また、小豆粉は、小豆を粉にしたものであり、16メッシュを通過する程度の粉であるのが望ましい。
【0028】
そば様香味付与剤を構成する焙焼玄米粉と小豆粉との重量割合は、1:4~1:8の範囲とすべきである。このようなバランスにてそば様香味付与剤を構成することにより、後述の用法にて練り食品にそば様の香味を付与することが可能となる。
【0029】
そば様香味付与剤は、食用粉に添加して使用される。添加のタイミングは、食用粉に対し加水する前であっても、加水後であっても良い。
【0030】
そば様香味付与剤の添加対象となる食用粉は、そば様香味付与剤によって付与されたそば様の香味を喫食者が感じ取れない程に強い香味を有する食用粉ではなく、そば粉、焙焼玄米粉、小豆粉に該当しない食用粉であれば特に限定されるものではないが、食用穀物粉が好ましい。また、調製後のそば様香味が付与された練り食品の外観をそば粉練り食品の外観に似せる必要がないのであれば、食用粉の色味も特に限定されない。
【0031】
また食用粉は、単一の素材を用いて製粉されたものであっても良いし、複数の素材を用いて製粉したものや、複数の食用粉を混合したものであっても良い。食用粉は、例えば16メッシュを通過する程度の粉とすることができる。
【0032】
そば様香味付与剤は、100重量部の食用粉に対し焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で添加する。そば様香味付与剤の添加量が焙焼玄米粉に関し1.25重量部を下回る添加量となると、喫食時にそば様の香味を感じにくくなるため好ましくない。また、焙焼玄米粉に関し8.75重量部を超えるそば様香味付与剤の添加量となると、焙焼した穀物臭が強くなり、そばの香りとは離れてしまうため好ましくない。また、そば様香味付与剤の添加量が小豆粉に関し10重量部を下回る添加量となると、喫食時にそば様の香味を感じにくくなるため好ましくない。また、小豆粉に関し35重量部を超えるそば様香味付与剤の添加量となると、小豆由来のエグ味が強くなるため好ましくない。
【0033】
そして、本実施形態に係るそば様香味付与剤を100重量部の食用粉に対し上述の条件を満たすように添加し、加水した上で混練して生地を調製し、例えば必要に応じて製麺等の成形を施せば、そば無添加でありながらそば様の香味を有するそば様麺を、そば様練り食品の一態様として製造することができる。
【0034】
また本願では、加水して混練することにより、そば粉やソバの実などソバに由来するアレルゲンは含まず、そば様の香味を有する練り食品を調製可能なそば様練り食品原料粉を提供するものでもある。
【0035】
具体的には、焙焼玄米粉と小豆粉との重量割合を1:4~1:8とした混合粉よりなり、焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で含むそば様香味付与剤を、ソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に混合してなる。
【0036】
また別の本実施形態に係るそば様練り食品原料粉は、本実施形態に係るそば様香味付与剤を含むことでそば様の香味を有するのは勿論のこと、その他原料の適切な配合によって見た目の上でもそば粉練り食品に似たそば様練り食品を調製することも可能である。
【0037】
具体的に説明すると、本実施形態に係るそば様練り食品原料粉は、0~24重量部の黒米粉と、0~0.8重量部の黒ごま粉と、0~15重量部のヒエ粉と、0~10重量部の焙焼アマランサス粉と、焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で含まれる本実施形態に係るそば様香味付与剤と、をソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し混合してなる。
【0038】
黒米粉は、黒米を粉にしたものであり、16メッシュを通過する程度の粉であるのが望ましい。黒米粉の添加量は、100重量部の食用粉に対して0重量部以上24重量部以下の範囲内で調整することができる。黒米粉の添加量が24重量部を超えると黒くなりすぎて、蕎麦の色からかけ離れた不自然な色調となるため好ましくない。下限は0重量部でも良いが、0.1重量部以上添加することで、色合いをより良好にすることができる。
【0039】
黒ごま粉は、黒ごまを粉にしたものであり、16メッシュを通過する程度の粉であるのが望ましい。黒ごま粉の添加量は、100重量部の食用粉に対して0重量部以上0.8重量部以下の範囲内で調整することができる。黒ごま粉の添加量が0.8重量部を超えると黒ごまの味が強くなりすぎてそばの香味から離れてしまうため好ましくない。下限は0重量部でも良いが、0.01重量部以上添加することで、色合いをより良好にすることができる。
【0040】
ヒエ粉は、ヒエを粉にしたものであり、16メッシュを通過する程度の粉であるのが望ましい。ヒエ粉の添加量は、100重量部の食用粉に対して0重量部以上15重量部以下の範囲内で調整することができる。ヒエ粉を添加することで、食感における適度な崩壊感が付与することができるが、15重量部を超えると麺の食感に脆さが出てくるため好ましくない。
【0041】
焙焼アマランサス粉は、焙焼したアマランサスの子実(種子)を粉にしたものであり、16メッシュを通過する程度の粉であるのが望ましい。焙焼アマランサス粉の添加量は、100重量部の食用粉に対して0重量部以上10重量部以下の範囲内で調整することができる。焙焼アマランサス粉の添加は必須ではないものの、添加することでよりそばらしい風味を付与することができる。ただし、10重量部を超えると焙焼臭が強くなるため好ましくない。
【0042】
また、本実施形態に係るそば様練り食品原料粉には、前述のそば様香味付与剤が添加されている。そば様香味付与剤は、100重量部の食用粉に対し焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で添加する。
【0043】
そして、これらの黒米粉や黒ごま粉、ヒエ粉、そば様香味付与剤は、ソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し混合されることでそば様練り食品原料粉が調製される。
【0044】
このそば様練り食品原料粉の原料となる食用粉は、先に言及したそば様香味付与剤の添加対象となる食用粉と概ね同様であって、そば様香味付与剤によって付与されたそば様の香味を喫食者が感じ取れない程にマスキングしてしまう強い香味を有する食用粉ではなく、そば粉、焙焼玄米粉、小豆粉に該当しない食用粉であれば特に限定されるものではないが、調製後のそば様香味が付与された練り食品の外観をそば粉練り食品の外観に似せたものとすべく、食用粉の色味は白を基調とするもの、例えば小麦粉や大麦粉、米粉、またはこれに似た程度の色味を有する食用粉が好ましい。なお、食用粉は好ましくは食用穀物粉である。
【0045】
このような配合構成とした本実施形態に係るそば様練り食品原料粉によれば、加水して混練することにより、そば粉やソバの実などソバに由来するアレルゲンは含まず、そば様の香味を有する練り食品を調製可能なそば様練り食品原料粉を提供することができる。
【0046】
また、本実施形態に係るそば様練り食品原料粉は、その構成原料である食用粉に関し、例えば100重量部の食用粉の全量(100重量部)~9割(90重量部)を対象に70重量%以上80重量%以下の小麦粉と、20重量%以上30重量%以下の大麦粉とにより構成しても良い。このような構成とすることにより、二番粉(挽きぐるみ)から三番粉(藪)にて調製したそば粉練り食品の如く、比較的濃いめの色の外観を呈するそば様練り食品原料粉とすることができる。
【0047】
なお、100重量部の食用粉の全量を上記配合割合とするのではなく、例えば、90重量部を対象に小麦粉を70重量%(63重量部)、大麦粉を30重量%(27重量部)とした場合の残余10重量部については、そば様の香味や色味の双方が失われるものではなく、少なくともいずれかの特徴が発揮されるものであれば、特に限定されることなくその他食用粉を使用することができ、例えば先述した米粉などを採用することも可能である。また、触感やのど越しをそばに更に似せるために、適切な原料を使用することもできる。
【0048】
また、本実施形態に係るそば様練り食品原料粉は、その構成原料である食用粉に関し、例えば100重量部の食用粉の全量(100重量部)~9割(90重量部)を対象に80重量%を超える量の小麦粉と、20重量%未満の大麦粉とにより構成すると共に、黒米粉の添加量を8~24重量部とし、黒ごま粉の添加量を0.4~0.8重量部としても良い。このような構成とすることで、一番粉(更科)から二番粉(挽きぐるみ)にて調製したそば粉練り食品の如く、比較的白めの外観を呈するそば様練り食品原料粉とすることができる。なお、上記配合割合の対象を食用粉の全量としない場合の残余については、前述と同様、その他食用粉を採用することができる。
【0049】
また、本実施形態に係るそば様練り食品は、上述した本実施形態に係るそば様ねり食品原料粉に加水して混練してなることとしたため、そば麺やそばがきなど、各種そば粉練り食品に似た香味を有するそば様練り食品を提供することができる。なお加水の量は、そば様ねり食品原料粉(更に別の原料粉も混ぜて使用する場合は、その原料粉も合わせた粉)の重量の35~50重量%に相当する量を使用するのが一般的であるが、通常のそば粉を用いたそば打ちと同様に、上記水の添加量の範囲は必ずしも守られるべきものではなく、その時の天候や湿度、原料の状態などに応じて、使用する水の量を適宜調整しつつ、そば粉がそぼろ状となる程度の量を目安に使用する。
【0050】
ところで、うどん屋の如き一般的な麺屋では、うどん以外のメニューとして蕎麦を提供する場合があるが、茹で釜や調理器具はうどんと共用している場合も多い。
【0051】
しかしこのことは、調製されたうどん料理にそば由来のアレルゲンが混入し得ることを意味しており、そばアレルギーがあるためにうどんを選択したとしても、安心して食事できないこととなっていた。
【0052】
この点、本実施形態に係るそば様練り食品によれば、そば麺に似た香味を有しながらもそばフリーであることから、そばが食べたくても食べられなかった者にそばの美味しさを楽しむ機会を与えることができるのは勿論のこと、うどんが食べたいのに、その店でそばも提供されているからうどんが安心して食べられなかった者にとっても、その店で取り扱うそば麺を本実施形態に係るそば様練り食品とすることで、うどん料理にそば由来のアレルゲンが混入してしまうことを堅実に防止することができ、そばアレルギーを有する者にとって安心な食事環境を提供することができる。
【0053】
以下、本実施形態に係るそば様香味付与剤やそば様練り食品原料粉、そば様練り食品について、試験結果や実際の製造例を交えつつ更に説明する。
【0054】
〔1.そば様香味付与剤の調製〕
まず、そば様香味付与剤の調製を行った。具体的には、1.67重量部の焙焼玄米粉と10重量部の小豆粉とを混合(混合割合1:6)することで、本実施形態に係るそば様香味付与剤A1を得た。
【0055】
〔2.そば様香味確認試験〕
次に、そば様香味付与剤A1と、同そば様香味付与剤A1を基準として小豆粉の割合を変化させた2種のそば様香味付与剤A2,A3と、2種類の確認用サンプル剤X1,X2を用い、ドウ(生地)を調製してそばがきのように茹で官能評価に供することで、そば様香味の確認試験を行った。
【0056】
2種のそば様香味付与剤A2,A3は、1.25重量部の焙焼玄米粉と10重量部の小豆粉とを混合して1:8の割合としたものをそば様香味付与剤A2とし、2.50重量部の焙焼玄米粉と10重量部の小豆粉とを混合して1:4の割合としたものをそば様香味付与剤A3とした。
【0057】
また、2種類の確認用サンプル剤X1,X2は、1.00重量部の焙焼玄米粉と10重量部の小豆粉とを混合して1:10の割合としたものを確認用サンプル剤X1とし、3.00重量部の焙焼玄米粉と10重量部の小豆粉とを混合して1:3.33の割合としたものを確認用サンプル剤X2とした。
【0058】
また、各そば様香味付与剤や確認用サンプル剤は、食用粉としての100重量部の小麦粉に対し、小豆粉が5、10、20、30、35、40重量部となる量で添加し、混合粉がそぼろ状となる量の水を加えて混練し、それぞれのドウを調製した。すなわち、各処方に基づく本実施形態に係るそば様練り食品や、本実施形態に係るそば様練り食品には該当しない練り食品を調製し、官能評価を行った。社内にて長年にわたり各種麺用の粉の研究に携わる5名をパネリストとして選定し、同じくそばがきのように茹でたそば粉練り食品を基準として香りや味の観点から評価を行った。評価は、悪い(1点)、許容範囲(2点)、普通(3点)、良い(4点)の4段階評価とし、平均点が1点以上2点未満は悪い(×)、2点以上4点以下は良い(○)と評価とした。なお、5名の各パネリストは、官能試験に先立って行われた予備官能試験にて、評価の度合いがおおよそ揃うように訓練が行われている。各ドウの処方と官能評価結果を図1に示す。
【0059】
図1からも分かるように、官能試験の結果によれば、そば様香味付与剤A1,A2,A3のいずれにおいても、焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内での添加において、優れたそば様の香味が得られた。
【0060】
それに対し、小豆粉が5重量部となる添加量ではそば様の香味に乏しく、また、小豆粉が40重量部となる添加量では香味が強すぎてそばの香りや味からは遠ざかる結果となった。
【0061】
また、ドウ19~ドウ30までに示すように、焙焼玄米粉と小豆粉との配合バランスが1:10や1:3.3となった場合は、香味バランスが崩れてしまい、食用粉に対する添加量を変化させたとしても、そばの香りや味とは異なる香味に感じられる結果となった。
【0062】
これらそば様香味付与剤A1,A2,A3の結果から、焙焼玄米粉と小豆粉との重量割合を1:4~1:8とした混合粉よりなる本実施形態に係るそば様香味付与剤は、ソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)の一例としての小麦粉に対し、焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で前記混合粉を添加することで同混合粉が添加された食用粉で調製される練り食品にそば様の香味を付与できることが示された。
【0063】
〔3.そば様練り食品原料粉の調製〕
次に、本実施形態に係るそば様練り食品原料粉の調製を行った。ここでは、図1に示したドウ2の処方をベースとし、100重量部の食用粉に対して外割で黒米粉、黒ごま粉、焙焼アマランサス粉、ヒエ粉を添加して、そば様の香味を有し、見た目の上でもそば粉練り食品に似たそば様練り食品を製造できるそば様練り食品原料粉を調製した。
【0064】
具体的には、8重量部の黒米粉と、0.4重量部の黒ごま粉と、5重量部のヒエ粉と、5重量部の焙焼アマランサス粉と、11.67重量部のそば様香味付与剤と、をソバ等に由来しない100重量部の食用粉に対し混合してそば様練り食品原料粉を調製した。そば様香味付与剤は、1.67重量部の焙焼玄米粉と10重量部の小豆粉とを混合(混合比1:6)して調製したものである。食用粉は、100重量部の全部を小麦粉としたもの(そば様練り食品原料粉B1)、100重量部のうち全部を小麦粉と大麦粉との混合粉としたものであって80重量部を小麦粉とし20重量部を大麦粉としたもの(そば様練り食品原料粉B2)、100重量部のうち全部を小麦粉と大麦粉との混合粉としたものであって70重量部を小麦粉とし30重量部を大麦粉としたもの(そば様練り食品原料粉B3)、100重量部のうち90重量部を小麦粉とし残余10重量部をその他食用粉材料である米粉にて構成したもの(そば様練り食品原料粉B4)、100重量部のうち90重量部を小麦粉と大麦粉との混合粉とし残余10重量部をその他食用粉材料である米粉にて構成したものであって混合粉を72重量部の小麦粉と18重量部の大麦粉としたもの(そば様練り食品原料粉B5)、100重量部のうち90重量部を小麦粉と大麦粉との混合粉とし残余10重量部をその他食用粉材料である米粉にて構成したものであって混合粉を63重量部の小麦粉と27重量部の大麦粉としたもの(そば様練り食品原料粉B6)として、各そば様練り食品原料粉B1~B6を調製した。表1に各そば様練り食品原料粉B1~B6の配合を示す。
【表1】
【0065】
〔4.そば様練り食品の調製及び官能評価〕
次に、上記そば様練り食品原料粉B1~B6を用い、前述の〔2.そば様香味確認試験〕と同様に、ドウ(生地)を調製してそばがきのように茹でることでそば様練り食品を調製し、それぞれ官能評価を行った。
【0066】
その結果、いずれのそば様練り食品原料粉B1~B6にて調製したそばがき様食品(そば様練り食品)も、外観や香味の点において、そば粉を用いて調製した一般的なそばがき(そば粉練り食品)の範疇といえるものであった。
【0067】
〔5.各原料の量を変化させた際の香味や外観の確認試験〕
次に、黒米粉や黒ごま粉、ヒエ粉の量を変化させた際の香味や外観について確認試験を行った。ここでは、食用粉の色合いが最も白くなる(更科様の)そば様練り食品原料粉B1、大麦粉の色合いがやや感じられる食品原料粉B5、及び、食用粉の色合いが小麦粉の白から最も離れる食品原料粉B3をベースとし、香味や外観における各原料の許容範囲について検討した。
【0068】
また、各原料は、黒米粉は8重量部、黒ごま粉は0.4重量部、アマランサス粉は5重量部、ヒエ粉は5重量部を軸とし、各原料の量を0倍、2倍、3倍に調整した。評価は、社内にて長年にわたり各種麺用の粉の研究に携わる5名をパネリストとして選定し、同じくそばがきのように茹でたそば粉練り食品を基準とし、香りや味、色目の観点から評価を行った。評価は、悪い(1点)、許容範囲(2点)、普通(3点)、良い(4点)、かなり良い(5点)の5段階評価とし、平均点が1点以上2点未満は悪い(×)、2点以上~3点未満は許容範囲(△)、3点以上~4点以未満は普通(○)、4点以上~5点以下は良い(◎)の4段階評価とした。なお、5名の各パネリストは、官能試験に先立って行われた予備官能試験にて、評価の度合いがおおよそ揃うように訓練が行われている。
【表2】
【0069】
表2には、食用粉の色合いが最も白くなる(更科様の)そば様練り食品原料粉B1をベースとした際の香りや味、色目について評価した結果を示している。表2からも分かるように、そば様練り食品原料粉B1をベースとした場合、黒米粉、黒ごま粉、ヒエ粉について添加なし(0倍量)とすると、蕎麦らしい色目を得ることができなかった。ただし、焙焼アマランサス粉は添加なし(0倍量)であっても、大きな影響はなかった。
【0070】
また、添加上限について検討すると、黒米粉については3倍量にあたる24重量部が許容限界であり、黒ごま粉は2倍量にあたる0.8重量部、焙焼アマランサス粉は2倍量にあたる10重量部が、ヒエ粉は3倍量にあたる15重量部が、そば様練り食品原料粉B1をベースとした場合の許容限界であることが示された。
【0071】
次に、表3に大麦粉の色合いがやや感じられる食品原料粉B5をベースとした際の香りや味、色目について評価した結果を示す。
【表3】
【0072】
表3からも分かるように、そば様練り食品原料粉B5をベースとした場合、黒米粉、黒ごま粉、焙焼アマランサス粉、ヒエ粉について添加なし(0倍量)としても、蕎麦らしい色目を得ることが可能であることが示された。
【0073】
また、添加上限について検討すると、黒米粉については3倍量にあたる24重量部が許容限界であり、黒ごま粉は2倍量にあたる0.8重量部、焙焼アマランサス粉は2倍量にあたる10重量部が、ヒエ粉は3倍量にあたる15重量部が、そば様練り食品原料粉B5をベースとした場合の許容限界であることが示された。
【0074】
これら表2及び表3に示す結果より、その他食用粉材料が小麦粉に色合いに近くそば様の色目に影響を与えないのであれば、色合いとしては小麦粉もその他食用粉材料も概ね一体として見ることができるため、食用粉中の大麦粉の添加量を18重量%未満とした場合、更に余裕を見るのであれば20重量%未満とした場合には、黒米粉や黒ごま粉、ヒエ粉については、少なくとも1倍量以上の添加が望ましいと言える。
【0075】
すなわち、そば様練り食品原料粉は、食用粉中の大麦粉の割合を18重量%、例えば20重量%未満とした場合、8~24重量部の黒米粉と、0.4~0.8重量部の黒ごま粉と、0~10重量部の焙焼アマランサス粉と、0~15重量部のヒエ粉と、焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で含まれるそば様香味付与剤と、をソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し混合してなるのが好ましいと言える。
【0076】
次に、表4に食用粉の色合いが小麦粉の白から離れる食品原料粉B3をベースとした際の香りや味、色目について評価した結果を示す。
【表4】
【0077】
表4からも分かるように、そば様練り食品原料粉B3をベースとした場合も、食品原料粉B5をベースとした場合と同様に、黒米粉、黒ごま粉、焙焼アマランサス粉について添加なし(0倍量)としても、蕎麦らしい色目を得ることが可能であることが示された。また、その他についても同様の結果が得られた。
【0078】
これら表3及び表4に示す結果より、色目への影響が少ないその他食用粉材料であれば、食用粉中の大麦粉の添加量を18重量%以上とした場合、更に余裕を見るのであれば20重量%以上とした場合には、黒米粉や黒ごま粉について添加しない(0倍量)場合や、例えば100重量部の食用粉に対して0.1重量部程度の僅かな添加量とした場合であっても、良好な色目を呈することが可能なそば様練り食品原料粉とすることができることが示された。
【0079】
すなわち、そば様練り食品原料粉は、食用粉中の大麦粉の割合を20重量%以上30重量%以下とした場合、0~24重量部の黒米粉と、0~0.8重量部の黒ごま粉と、5~15重量部のヒエ粉と、0~10重量部の焙焼アマランサス粉と、焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で含まれるそば様香味付与剤と、をソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し混合してなるのが好ましいと言える。
【0080】
上述してきたように、本実施形態に係るそば様香味付与剤によれば、焙焼玄米粉と小豆粉との重量割合を1:4~1:8とした混合粉よりなり、ソバに由来しない100重量部の食用粉(ただし、焙焼玄米粉及び小豆粉を除く。)に対し焙焼玄米粉が1.25~8.75重量部、かつ、小豆粉が10~35重量部となる範囲内で前記混合粉を添加することで同混合粉が添加された食用粉で調製される練り食品にそば様の香味を付与するためのそば様香味付与剤としたため、ソバに由来しない食用粉に加水し混練して練り食品を製造するに際し、食用粉に混合して用いることで、同混合粉により調製される練り食品にそば様の香味を付与することのできるそば様香味付与剤を提供することができる。
【0081】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
図1