(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】乾留熱分解油化システム、及び乾留熱分解油化方法
(51)【国際特許分類】
C10G 1/10 20060101AFI20240423BHJP
C08J 11/12 20060101ALI20240423BHJP
C10B 53/07 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C10G1/10 ZAB
C08J11/12
C10B53/07
(21)【出願番号】P 2023206173
(22)【出願日】2023-12-06
【審査請求日】2023-12-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516209636
【氏名又は名称】株式会社エムエスケイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 茂樹
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-314754(JP,A)
【文献】特開2009-233627(JP,A)
【文献】特開2012-001568(JP,A)
【文献】特開2003-277767(JP,A)
【文献】特開2010-013577(JP,A)
【文献】特開2012-001700(JP,A)
【文献】特開平08-110024(JP,A)
【文献】特開昭59-203683(JP,A)
【文献】特開2000-290661(JP,A)
【文献】特開平05-086372(JP,A)
【文献】特開2000-273461(JP,A)
【文献】特表2021-522399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/10
C10B 53/07
C08J 11/12
B09B 3/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直下方に位置する底部、前記底部から鉛直上方に隆起する隆起部、及び前記底部に配され、少なくとも前記隆起部を被覆する被覆材を有し、乾留熱分解される被処理物を収容する乾留釜と、
前記乾留釜を加熱し、前記被処理物を残渣とガスとに分解する熱分解部と、
前記ガスを冷却し、前記ガスに含まれる油分を凝縮させる冷却部と、
前記残渣から異物を取り除く異物除去部とを具備する乾留熱分解油化システムであって、
前記異物除去部は、
磁選機と電磁分離機とを備え、
第1段階として前記磁選機を用いて、
乾留後の乾留釜から回収された残渣に含まれる鉄線を取り除き、
第2段階として前記電磁分離機を用いて、
鉄線が取り除かれた残渣を粉砕された粒子から磁性体を回収することを特徴とする乾留熱分解油化システム。
【請求項2】
鉛直下方に位置する底部、前記底部から鉛直上方に隆起する隆起部、及び前記底部に配され、少なくとも前記隆起部を被覆する被覆材を有する乾留釜に収容された被処理物を加熱し、前記被処理物を残渣とガスとに分解する熱分解工程と、
前記ガスを冷却し、前記ガスに含まれる油分を凝縮させる冷却工程と、
前記残渣から異物を取り除く異物除去工程とを含む、
乾留熱分解油化方法であって、
前記異物除去工程は、
第1段階として、
磁選機によって乾留後の乾留釜から回収された残渣に含まれる鉄線を取り除き、
第2段階として、
粉砕機によって鉄線が取り除かれた残渣を粉砕して粒子とし、
電磁分離機によって前記粉砕された粒子から磁性体を回収することを特徴とする乾留熱分解油化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾留熱分解油化システム、及び乾留熱分解油化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃タイヤ又はプラスチック等の廃棄物を加熱してガスと残渣とに分解し、得られたガスを冷却、凝縮することにより得られた油分を回収する乾留熱分解油化システムが従来から知られている(特許文献1)。
【0003】
上記したような乾留熱分解油化システムにおいては、例えば、廃タイヤを収容する乾留釜を熱分解炉により加熱することによって、当該廃タイヤを炭化物と乾留ガスとに分解する。炭化物は例えば活性炭として再利用され、乾留ガスは冷却、凝縮されることにより油として回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたような乾留熱分解油化システムは、乾留後の乾留釜に残留する残渣が乾留釜に固着することによって、残渣を乾留釜から回収することが困難となる場合がある。また、当該残渣には廃タイヤ由来の磁性体等の異物が含まれる。このため、当該残渣を再利用できない場合がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、乾留後の乾留釜に残留する残渣を容易に回収することができ、且つ、当該残渣の再利用を可能にする、乾留熱分解油化システム、及び乾留熱分解油化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様によれば、鉛直下方に位置する底部、前記底部から鉛直上方に隆起する隆起部、及び前記底部に配され、少なくとも前記隆起部を被覆する被覆材を有し、乾留熱分解される被処理物を収容する乾留釜と、前記乾留釜を加熱し、前記被処理物を残渣とガスとに分解する熱分解部と、前記ガスを冷却し、前記ガスに含まれる油分を凝縮させる冷却部と、前記残渣から異物を取り除く異物除去部と、を具備する乾留熱分解油化システムであって、
前記異物除去部は、
磁選機と電磁分離機とを備え、
第1段階として前記磁選機を用いて、
乾留後の乾留釜から回収された残渣に含まれる鉄線を取り除き、
第2段階として前記電磁分離機を用いて、
鉄線が取り除かれた残渣を粉砕された粒子から磁性体を回収することを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、鉛直下方に位置する底部、前記底部から鉛直上方に隆起する隆起部、及び前記底部に配され、少なくとも前記隆起部を被覆する被覆材を有する乾留釜に収容された被処理物を加熱し、前記被処理物を残渣とガスとに分解する熱分解工程と、前記ガスを冷却し、前記ガスに含まれる油分を凝縮させる冷却工程と、前記残渣から異物を取り除く異物除去工程と、を含む乾留熱分解油化方法であって、
前記異物除去工程は、
第1段階として、
磁選機によって乾留後の乾留釜から回収された残渣に含まれる鉄線を取り除き、
第2段階として、
粉砕機によって鉄線が取り除かれた残渣を粉砕して粒子とし、
電磁分離機によって前記粉砕された粒子から磁性体を回収することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、乾留後の乾留釜に残留する残渣を容易に回収することができ、且つ、当該残渣の再利用を可能にする、乾留熱分解油化システム、及び乾留熱分解油化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】乾留熱分解油化システムの構成例を説明するための説明図である。
【
図3】乾留熱分解油化方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について説明する。なお、図面において各部の寸法及び縮尺は、実際と相違する。また、図面は、理解を容易にするために模式的に示すことがある。さらに、本発明の範囲は、本発明を特に限定する旨の記載がない限り、以下に例示する形態に限られない。
【0012】
1.実施形態
[乾留熱分解油化システムの構成]
図1は、本実施形態に係る乾留熱分解油化システム(以下、単に“油化システム100”という。)の構成例を説明するための説明図である。
【0013】
油化システム100は、
図1に示されように、乾留釜1、熱分解部2、冷却部3、ろ過部4、中継タンク5、少量燃料タンク6、操作盤7、磁選装置8(異物除去部)、及び反転装置9を有する。
【0014】
図2は、乾留釜1及び熱分解部2の断面図である。
図2の説明では、相互に直交するX軸、Y軸およびZ軸を規定する。X軸、Y軸及びZ軸は、相互に直交する3軸方向である。
図2に例示される通り、任意の地点からみてX軸に沿う一方向をX1方向と表記し、X1方向と反対の方向をX2方向と表記する。X軸方向は、X1方向及びX2方向の両方向を含む方向である。同様に、任意の地点からY軸に沿って相互に反対の方向をY1方向及びY2方向と表記する。Y軸方向は、Y1方向及びY2方向の両方向を含む方向である。また、任意の地点からZ軸に沿って相互に反対の方向をZ1方向(鉛直下方)及びZ2方向(鉛直上方)と表記する。Z軸方向は、Z1方向及びZ2方向の両方向を含む方向である。さらに、X軸とY軸とを含むX-Y平面は水平面に相当する。Z軸は鉛直方向に沿う軸線である。
【0015】
乾留釜1は、乾留釜本体11と、蓋12と、被覆材18とを有する。乾留釜本体11は、
図2に示されるように、熱分解部2の外装23に収容される。乾留釜本体11は、廃タイヤ(被処理物)を収容し、底部111を有する。底部111は、乾留釜1が外装23に収容された状態において底部25とZ軸方向に対向し、乾留釜本体11の鉛直下方に位置する。底部111は、隆起部112を有する。隆起部112は、底部111のX軸方向中央に設けられ、Z2方向に隆起する。隆起部112は、
図2に示されるように、熱分解部2の隆起部26とZ軸方向に対向する。
【0016】
本実施形態に係る乾留釜1は、交換可能な大型のカートリッジ式の乾留油化釜である。これにより、廃タイヤをチップ化する必要がなくなり、廃タイヤをそのまま乾留釜1に投入して乾留熱分解することができる。
【0017】
本実施形態では、
図2に示されるように、乾留釜1が外装23に収容されることにより、外装23のZ軸回りの内周面と乾留釜本体11のZ軸回りの内周面との間、及び底部111のZ1方向を向く外面と底部25のZ2方向を向く内面との間に流路27が形成される。流路27は、バーナ21からの熱風の流路として機能し、煙道28に連通する。
【0018】
バーナ21からの熱風は火室22に流入し、火室22から複数の貫通孔24を介して流路27に流入する。流路27に流入した熱風は煙道28に誘導され、熱分解部2の外に逃がされる。バーナ21からの熱風が上記したように流れることによって、乾留釜1が加熱される。ここで、本実施形態に係る乾留釜1は
図2に示されるように隆起部112を有することで底部111のZ2方向を向く表面の表面積が、隆起部112が設けられない場合と比較して大きくなる。これにより、隆起部112が設けられない場合と比較して、廃タイヤを効率的に加熱することができる。なお、
図2では、バーナ21からの熱風の流れを実線矢印で示す。
【0019】
蓋12は、乾留釜本体11をZ1方向に覆い、タール分離器13と、隔壁14と、取出し路16と、取出し路16の端部に設けられたメイングローブバルブ17とを有する。
【0020】
タール分離器13は、複数の有孔板を有する。複数の有孔板は、Z軸方向に間隔をあけて設けられる。複数の有孔板各々の複数の貫通孔は、Z軸方向に見て互いに重ならないように配される。
【0021】
隔壁14は、蓋12の裏面とタール分離器13とを連結する。隔壁14は、タール分離器13に流入しない、乾留釜本体11からのガスの取出し路16へ流入を阻害し、蓋12の裏面から落下した油滴をタール分離器13に導く機能を有する。タール分離器13を通過し、ガス室15に流入したガスは、取出し路16に誘導される。当該ガスは、取出し路16を介して冷却部3に流入する。
【0022】
被覆材18は、
図2に示されるように底部111に設けられ、少なくとも隆起部112をZ1方向に被覆する。被覆材18は、同図に示される構成に限定されず、底部111のZ2方向を向く内面の全面を被覆してもよい。被覆材18は、典型的には金属製の金網であるがこれに限られず、乾留後の乾留釜1に残る残渣が底部111に固着することを阻害可能であれば、その構成及び形状等は特に制限されない。
【0023】
被覆材18を構成する材料も特に制限されないが、バーナ21からの熱を乾留釜本体11に収容された廃タイヤに効率的に伝える観点から、熱伝導性の高い材料からなることが好ましい。具体的には、被覆材18は、例えば、鉄からなる。
【0024】
熱分解部2は、
図2に示されるように、外装23と、底部25と、複数の貫通孔24と、隆起部26と、バーナ21と、火室22とを有する。熱分解部2は、乾留釜1に収容された廃タイヤを加熱することにより、廃タイヤを残渣とガスとに分解する。
【0025】
外装23は、断熱材からなる円筒状の筒体であり、乾留釜1の乾留釜本体11を収容する。底部25は、外装23内に設けられ、円盤状に構成される。底部25は外装23の内周面と一体的に構成される。複数の貫通孔24の各々は、
図2に示されるように、X軸方向に間隔をおいて設けられ、底部25をZ軸方向に貫通する。隆起部26は、底部25のX軸方向中央からZ2方向に隆起し、底部25と一体的に構成される。火室22は、底部25と、バーナ21と、外装23の鉛直下方の部分とで画定される空間である。
【0026】
図1に戻り、冷却部3は、1次冷却器31と、2次冷却器32と、油水分離槽34とを有する。冷却部3は、熱分解部2から流入したガスを冷却し、当該ガスに含まれる油分を凝縮させ油とする。
【0027】
1次冷却器31は、複数の水管(図示略)を有する、当該複数の水管は、熱分解部2から流入したガスを冷却し、当該ガスに含まれる油分を凝縮させ油とする。1次冷却器31は、当該油を油水分離槽34に送る。
【0028】
2次冷却器32は、複数の水管(図示略)を有する、当該複数の水管は、1次冷却器31から流入したガスを冷却し、1次冷却器31により凝縮しきれなかった当該ガスに含まれる油分を凝縮させ油とする。2次冷却器32は、当該油を油水分離槽34に送る。
【0029】
油水分離槽34は、1次冷却器31及び2次冷却器32から送られた油に含まれる水分を分離し、除去する。油水分離槽34は、水分が除去された油をろ過部4に送る。
【0030】
ろ過部4は、ろ過装置41と、予備ろ過装置42とを有する。ろ過装置41は、油水分離槽34から送られた油をろ過し、当該油に含まれる多量のカーボン粒子を取り除く。ろ過装置41は、カーボン粒子が取り除かれた油を中継タンク5に送る。予備ろ過装置42は、ろ過装置41と同様に構成され、ろ過装置41と同様の機能を有する。予備ろ過装置42は、ろ過装置41のろ過性能が低下した場合に、ろ過装置41のバックアップとして用いられる。
【0031】
中継タンク5は、ろ過部4から送られた油を一時的に貯めるバッファタンクとして機能し、当該油を少量燃料タンク6及び貯蔵タンク(図示略)に送る。
【0032】
少量燃料タンク6は、中継タンク5から送られた油を一時的に貯めるバッファタンクとして機能し、当該油をバーナ21に供給する。バーナ21は、少量燃料タンク6から供給された油を、乾留釜1を加熱する燃料として利用する。
【0033】
操作盤7は、熱分解部2及びバーナ21と電気的に接続され、バーナ21を制御する。具体的には、例えば、操作盤7は、乾留釜1内に設けられた温度センサ(図示略)と電気的に接続される。操作盤7は、温度センサからの検出信号に基づいて、加熱された廃タイヤの温度を検出し、当該温度が所定の温度範囲となるようにバーナ21の加熱量を調節する。
【0034】
磁選装置8は、磁選機81、電磁分離機82及び粉砕機83を有する。磁選機81は、乾留後の乾留釜1内に残る残渣から鉄線を取り除き、当該残渣を鉄線と第1炭化物とに分別する。鉄線は、回収され、例えば製鉄材料として有効利用される。第1炭化物は、回収され、粉砕機83に供給される。第1炭化物は、乾留後の乾留釜1から回収された残渣から鉄線が取り除かれた炭化物であり、廃タイヤ由来の磁性体を含む。
【0035】
粉砕機83は、第1炭化物を粉砕し、第1炭化物を粒径が例えば30μm又は60μmの粒子とする。当該粒子は、電磁分離機82に供給される。電磁分離機82は、粒径が例えば30μm又は60μmの粒子から磁性体を取り除き、当該粒子を磁性体と第2炭化物とに分別する。第2炭化物は回収され、例えばカーボンブラック又は活性炭の原料として有効利用される。第2炭化物は、第1炭化物から磁性体が取り除かれた炭化物の粒子である。
【0036】
反転装置9は、
図1に示されるように、乾留後の乾留釜1を左右から挟持し、乾留釜1を180°反転させる。これにより、乾留後の乾留釜1内に残る残渣が磁選機81に供給される。
【0037】
以上の説明から理解される通り、本実施形態に係る油化システム100は、鉛直下方に位置する底部111、底部111から鉛直上方に隆起する隆起部112、及び底部111に配され、少なくとも隆起部112を被覆する被覆材18を有し、乾留熱分解される廃タイヤを収容する乾留釜1と、乾留釜1を加熱し、廃タイヤを残渣とガスとに分解する熱分解部2と、当該ガスを冷却し、当該ガスに含まれる油分を凝縮させる冷却部3と、当該残渣から異物を取り除く磁選装置8と、を具備する。
【0038】
上記態様によれば、乾留釜1の底部111に被覆材18が設けられることにより、底部111に残渣が固着することが防止される。これにより、乾留後の乾留釜1から残渣を回収することが容易となる。また、残渣に含まれる異物が磁選装置8により取り除かれるため、異物が取り除かれた残渣である炭化物を例えばカーボンブラック又は活性炭の原料として再利用することが可能となる。従って、本発明によれば、油化システム100が、被覆材18を有する乾留釜1と磁選装置8とを備えることにより、乾留後の乾留釜1に残留する残渣を容易に回収することができ、且つ、当該残渣の再利用が可能となる。
【0039】
[乾留熱分解油化方法]
次に、本実施形態に係る乾留熱分解油化方法の一例について、
図3を適宜参照しながら説明する。
図3は、油化システム100が実行する乾留熱分解油化方法の一例を示すフローチャートである。油化システム100は、
図3に例示されるように、熱分解工程(ステップSt1)と、冷却工程(ステップSt2)と、ろ過工程(ステップSt3)と、磁選工程(ステップSt4)と、を実行する。
【0040】
(ステップSt1:熱分解工程)
油化システム100の作業者は、乾留釜1に廃タイヤを投入し、廃タイヤが投入された乾留釜1を熱分解部2にセットする。次いで、当該操作者は、操作盤7を操作することによってバーナ21を点火させ、熱分解部2が乾留釜1を例えば500℃以上700℃以下に加熱するようにバーナ21の加熱量を制御する。
【0041】
これにより、乾留釜1に投入された廃タイヤは、例えば400℃以上500℃以下に加熱され、ガスと残渣とに熱分解される。ガスは、鉛直上方に上昇し、タール分離器13の複数の多孔板を通過して蓋12の裏面に達する。蓋12の裏面にガスが達すると、ガスは冷却され油滴となり、タール分離器13に落下する。このとき、ガスはタール分離器13の複数の多孔板を通過することにより、ガスに含まれるタール等の不純物が多孔板に付着することにより除去され、ガス室15へは当該不純物の少ないガスが送られる。また、多孔板に付着したタール等の不純物は上記したタール分離器13に落下した油滴により洗い流され、乾留釜1内に落下する。このような、ガスの上昇、不純物の除去、及び油滴の落下が繰り返され、タール等の不純物の少ない油分を含むガスが取出し路16に流入する。本実施形態では、操作盤7が乾留釜1に投入された廃タイヤの加熱温度を例えば400℃以上500℃以下に制御することによって、廃タイヤから油分を数時間で除去することができる。
【0042】
(ステップSt2:冷却工程)
取出し路16に流入した、タール等の不純物の少ない油分を含むガスは、1次冷却器31に流入し、冷却される。1次冷却器31に流入したガスに含まれる油分は、1次冷却器31により凝縮され油となり、油水分離槽34に送られる。1次冷却器31により凝縮しきれなかった油分を含むガスは、1次冷却器31から2次冷却器32に流入し、さらに冷却される。当該油分は2次冷却器32により凝縮され油となり、油水分離槽34に送られる。油水分離槽34は、1次冷却器31及び2次冷却器32から送られた油に含まれる水分を分離し、除去する。油水分離槽34は、水分が除去された油をろ過部4に送る。
【0043】
(ステップSt3:ろ過工程)
冷却部3からろ過部4に送られた油は、ろ過装置41を通過することによりカーボン粒子等の不純物が除去される。ろ過装置41により当該不純物が除去された油は、中継タンク5に供給され、一時貯留される。中継タンク5に貯留された油は、貯蔵タンク及び少量燃料タンク6に供給される。貯蔵タンクに供給された油は貯留され、例えば、廃プラスチック熱分解油2種(A重油1種2号相当)として再利用される。
【0044】
(ステップSt4:磁選工程(異物除去工程))
次に、油化システム100の作業者は、乾留後の乾留釜1を熱分解部2から取出し、当該乾留釜1を反転装置9にセットする。反転装置9は、
図2に示されるように、乾留釜1を180℃反転させ、乾留後の乾留釜1に残る残渣を磁選機81に投入する。ステップSt4では、乾留釜1が180℃反転することによって、乾留後の乾留釜1に残留する残渣が重力落下し、当該残渣を底部111に残すことなく磁選機81に投入することができる。特に、本実施形態では、
図2に示されるように、乾留釜1の底部111に被覆材18が設けられることで残渣が底部111に固着することが防止されるため、乾留後の乾留釜1に残る残渣が磁選機81に円滑に投入される。
【0045】
磁選機81は、乾留後の乾留釜1から供給された残渣から鉄線を取り除く。磁選機81が残渣から鉄線を取り除くことにより得られる第1炭化物は、粉砕機83に供給される。
【0046】
粉砕機83は、第1炭化物を粉砕し、第1炭化物を粒径が例えば30μm又は60μmの粒子とする。当該粒子は、電磁分離機82に供給される。電磁分離機82は、粒径が例えば30μm又は60μmの粒子から磁性体を取り除き、当該粒子を磁性体と第2炭化物とに分別する。第2炭化物は回収され、例えばカーボンブラック又は活性炭の原料として有効利用される。
【0047】
上述の通り、ステップSt4においては、乾留後の乾留釜1から回収された残渣に含まれる鉄線が磁選機81により取り除かれる。これにより、当該鉄線を再利用することができる。さらに、鉄線が取り除かれた残渣である第1炭化物に含まれる磁性体が電磁分離機82により取り除かれるため、鉄線及び磁性体が取り除かれた残渣である第2炭化物も再利用することができる。
即ち、油化システム100が上記ステップSt1~3に加えてステップSt4を実行することにより、乾留後の乾留釜1から回収された残渣から鉄線及び磁性体が取り除かれる。これにより、鉄線及び磁性体が取り除かれた残渣である第2炭化物を例えばカーボンブラック又は活性炭の原料として再利用でき、さらに、取り除いた鉄線も再利用することができる。
【0048】
以上の説明の通り、本実施形態に係る乾留熱分解油化方法では、鉛直下方に位置する底部111、底部111から鉛直上方に隆起する隆起部112、及び底部111に配され、少なくとも隆起部112を被覆する被覆材18を有する乾留釜1に収容された廃タイヤを加熱し、廃タイヤを残渣とガスとに分解する熱分解工程(ステップSt1)と、当該ガスを冷却し、当該ガスに含まれる油分を凝縮させる冷却工程(ステップSt2)と、当該残渣から異物を取り除く磁選工程(ステップSt4)と、が実行される。
【0049】
上記態様によれば、乾留釜1の底部111に被覆材18が設けられることにより、底部111に残渣が固着することが防止される。これにより、乾留後の乾留釜1から残渣を回収することが容易となる。また、残渣に含まれる鉄線及び磁性体が磁選工程(ステップSt4)により取り除かれるため、鉄線及び磁性体が取り除かれた残渣である炭化物を例えばカーボンブラック又は活性炭の原料として再利用することができる。従って、本発明の乾留熱分解油化方法によれば、乾留釜1の底部111に被覆材18が設けられ、且つ、磁選工程(ステップSt4)が実行されることによって、乾留後の乾留釜1に残留する残渣を容易に回収することができ、且つ、当該残渣の再利用が可能となる。
【0050】
2.補足
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0051】
例えば、上記実施形態で例示された乾留熱分解油化システム及び乾留熱分解油化方法では、被処理物として廃タイヤを乾留熱分解するがこれに限られず、廃タイヤとは異なる被処理物を乾留熱分解してもよく、本発明の用途は特に制限されない。
【0052】
さらに、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的又は例示的なものであって限定的ではない。つまり、本発明は、上記の効果とともに、又は上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0053】
3.付記
以上に例示した形態から以下の態様が把握される。
【0054】
本発明のひとつの態様(態様1)に係る乾留熱分解油化システムは、鉛直下方に位置する底部、前記底部から鉛直上方に隆起する隆起部、及び前記底部に配され、少なくとも前記隆起部を被覆する被覆材を有し、乾留熱分解される被処理物を収容する乾留釜と、前記乾留釜を加熱し、前記被処理物を残渣とガスとに分解する熱分解部と、前記ガスを冷却し、前記ガスに含まれる油分を凝縮させる冷却部と、前記残渣から異物を取り除く異物除去部と、を具備する。
【0055】
態様1によれば、乾留釜の底部に被覆材が設けられることにより、当該底部に残渣が固着することが防止される。これにより、乾留後の乾留釜から残渣を回収することが容易となる。また、残渣に含まれる異物が異物除去部により取り除かれるため、異物が取り除かれた残渣を再利用することができる。従って、態様1によれば、乾留熱分解油化システムが、被覆材を有する乾留釜と、異物除去部とを備えることにより、乾留後の乾留釜に残留する残渣を容易に回収することができ、且つ、当該残渣の再利用が可能となる。
【0056】
態様1の具体例(態様2)によれば、前記異物除去部は、前記残渣から磁性体を取り除く磁選装置である。態様2によれば、残渣に含まれる磁性体が磁選装置により取り除かれるため、磁性体が取り除かれた残渣を再利用することができる。
【0057】
態様2の具体例(態様3)によれば、前記磁選装置は、磁選機と、電磁分離機とを含み、前記磁選機は、前記残渣から鉄線を取り除き、前記電磁分離機は、前記鉄線が取り除かれた残渣から磁性体を取り除く。
態様3によれば、乾留後の乾留釜から回収された残渣に含まれる鉄線が磁選機により取り除かれる。これにより、当該鉄線を再利用することができる。さらに、鉄線が取り除かれた残渣に含まれる磁性体が電磁分離機により取り除かれるため、鉄線及び磁性体が取り除かれた残渣も再利用することができる。即ち、態様3によれば、乾留後の乾留釜から回収された残渣から鉄線及び磁性体が取り除かれる。これにより、鉄線及び磁性体が取り除かれた残渣を再利用でき、さらに、取り除いた鉄線も再利用することができる。
【0058】
態様1~3のいずれかの具体例(態様4)によれば、前記被覆材は、金属製の金網である。
【0059】
本発明のひとつの態様(態様5)に係る乾留熱分解油化方法は、鉛直下方に位置する底部、前記底部から鉛直上方に隆起する隆起部、及び前記底部に配され、少なくとも前記隆起部を被覆する被覆材を有する乾留釜に収容された被処理物を加熱し、前記被処理物を残渣とガスとに分解する熱分解工程と、前記ガスを冷却し、前記ガスに含まれる油分を凝縮させる冷却工程と、前記残渣から異物を取り除く異物除去工程と、を含む。
【0060】
態様5によれば、乾留釜の底部に被覆材が設けられることにより、当該底部に残渣が固着することが防止される。これにより、乾留後の乾留釜から残渣を回収することが容易となる。また、残渣に含まれる異物が異物除去部により取り除かれるため、異物が取り除かれた残渣を再利用することができる。従って、態様5によれば、乾留釜の底部に被覆材が設けられ、且つ、異物除去工程が実行されることによって、乾留後の乾留釜に残留する残渣を容易に回収することができ、且つ、当該残渣の再利用が可能となる。
【0061】
態様5の具体例(態様6)によれば、前記異物除去工程では、前記残渣から磁性体が取り除かれる。これにより、磁性体が取り除かれた残渣を再利用することができる。
【0062】
態様6の具体例(態様7)によれば、前記異物除去工程では、前記残渣から鉄線が取り除かれ、前記鉄線が取り除かれた残渣から磁性体が取り除かれる。
態様7によれば、乾留後の乾留釜から回収された残渣に含まれる鉄線が取り除かれる。これにより、当該鉄線を再利用することができる。さらに、鉄線が取り除かれた残渣に含まれる磁性体が取り除かれるため、鉄線及び磁性体が取り除かれた残渣も再利用することができる。即ち、態様7によれば、乾留後の乾留釜から回収された残渣から鉄線及び磁性体が取り除かれる。これにより、鉄線及び磁性体が取り除かれた残渣を再利用でき、さらに、取り除いた鉄線も再利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…乾留釜
2…熱分解部
3…冷却部
8…磁選装置(異物除去部)
18…被覆材
81…磁選機
82…電磁分離機
100…乾留熱分解油化システム
111…乾留釜の底部
112…乾留釜の隆起部
【要約】 (修正有)
【課題】乾留後の乾留釜に残留する残渣を容易に回収することができ、且つ、当該残渣の再利用を可能にする、乾留熱分解油化システム及び乾留熱分解油化方法を提供すること。
【解決手段】乾留熱分解油化システムは、鉛直下方に位置する底部、前記底部から鉛直上方に隆起する隆起部、及び前記底部に配され、少なくとも前記隆起部を被覆する被覆材を有し、乾留熱分解される被処理物を収容する乾留釜1と、前記乾留釜を加熱し、前記被処理物を残渣とガスとに分解する熱分解部2と、前記ガスを冷却し、前記ガスに含まれる油分を凝縮させる冷却部3と、前記残渣から異物を取り除く異物除去部8と、を具備することを特徴とする。
【選択図】
図1