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特許7477241不織布、不織布の使用、及び不織布を含むワイプ、ドライヤーシート、及びフェイスマスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】不織布、不織布の使用、及び不織布を含むワイプ、ドライヤーシート、及びフェイスマスク
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4258 20120101AFI20240423BHJP
   D04H 1/4391 20120101ALI20240423BHJP
   D01F 2/00 20060101ALI20240423BHJP
   A45D 44/22 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
D04H1/4258
D04H1/4391
D01F2/00 Z
A45D44/22 C
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021505742
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2019070035
(87)【国際公開番号】W WO2020025440
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】18186541.1
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507127314
【氏名又は名称】レンチング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリッチ、カタリーナ
(72)【発明者】
【氏名】アインツマン、ミルコ
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0056956(US,A1)
【文献】国際公開第2013/187404(WO,A1)
【文献】特表平10-501851(JP,A)
【文献】特表2001-501260(JP,A)
【文献】特表2002-506931(JP,A)
【文献】特開2007-046223(JP,A)
【文献】特表2012-501752(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0324926(US,A1)
【文献】国際公開第2008/046924(WO,A1)
【文献】特開2017-150110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D01F 2/00
A45D44/22
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体(2)の網目構造(1)を含み、
不織布(100、101)が乾燥状態で1.0%・m/g以上の比不透明度を有する、不織布であって、
前記成形体(2)は再生セルロース成形体(2)であり、ノード点(3)で材料的に相互結合して網目構造(1)を形成しており、
前記再生セルロース成形体(2)が、ノード点(3)間に延在するモノフィラメント領域(4)を含み、
前記モノフィラメント領域(4)の直径(7)は、その長さ方向の拡がり(lengthwise extension)(6)に沿って変動し、前記モノフィラメント領域(4)は、その長さ方向の拡がり(6)の少なくとも90%について、15μm以下の直径(7)を有する、
ことを特徴とする不織布。
【請求項2】
前記再生セルロース成形体(2)が、ノード点(3)間に延在するマルチフィラメント領域(5)であって、材料的に相互結合しかつ平行な、いくつかの(several)モノフィラメント領域(4)からなるマルチフィラメント領域(5)を含み、
前記マルチフィラメント領域(5)は、その長さ方向の拡がり(lengthwise extension)(8)の少なくとも90%について、100μm以下の直径(9)を有する、ことを特徴とする、
請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
前記再生セルロース成形体(2)が、目視できるフィラメント終端部を有しないエンドレスな網目構造(1)を形成することを特徴とする、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項4】
前記不織布(100、101)が、マット剤及び色剤を含まないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項5】
前記不織布(100、101)が、セルロースのみからなることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項6】
前記再生セルロース成形体(2)が、溶液紡糸セルロース成形体(2)であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項7】
前記モノフィラメント領域(4)が、中実の断面を有することを特徴とする、請求項6に記載の不織布。
【請求項8】
前記不織布(100、101)が、バインダー及び接着剤を含まないことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項9】
前記不織布(100、101)が、銅及び/又はニッケルを含まないことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項10】
前記不織布(100、101)の銅含有量が5ppm未満、及び/又はニッケル含有量が2ppm未満であることを特徴とする、請求項9に記載の不織布。
【請求項11】
前記モノフィラメント領域(4)が、その長さ方向の拡がり(6)の少なくとも90%について、10μm以下の直径(7)を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項12】
前記モノフィラメント領域(4)が、1μm以上8μm以下の平均直径(7)を有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項13】
乾燥状態における前記不織布(100,101)が、1.2%・m/g以上の比不透明度を有することを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項14】
前記不織布(100,101)の坪量が、70g/m上であることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項15】
前記不織布(100,101)が、特性改良及び表面改良物質若しくは特性改変及び表面改変物質、又はプロセス促進剤を、1質量%以下含有することを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項16】
前記再生セルロース成形体(2)の網目構造(1)が、いくつかの(several)相互結合した層を含むことを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の不織布。
【請求項17】
衛生製品の製造のための、及び、フィルター、産業製品、衣料、家具及び調度品(furnishings)、自動車、レジャー用品、又は学校及びオフィス用品の製造のための、請求項1~16のいずれか一項に記載の不織布(100、101)の使用。
【請求項18】
不透明度が1.0%・m/g以上である請求項1~16のいずれか一項に記載の不織布(100、101)を含むワイプ、フェイスマスク、又はドライヤーシート。
【請求項19】
前記不織布(100、101)が薬液(210,310,410)で含浸されていることを特徴とする、請求項18に記載のワイプ、フェイスマスク、又はドライヤーシート。
【請求項20】
前記薬液(210,310,410)が水性でない(non-water-based)ことを特徴とする、請求項19に記載のワイプ、フェイスマスク、又はドライヤーシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体(molded bodies)の網目構造を含む不織布であって、乾燥状態における比(specific)不透明度が1.0%・m2/g以上である不織布に関わる。さらに、本発明は、該不織布の使用、及び該不織布を含むワイプ、ドライヤーシート、及びフェイスマスクに関わる。
【背景技術】
【0002】
不織布はさまざまな用途に用いられている。その特異な性質及び生産コストの低さの点から、ワイプ、ウエットなワイプ、フェイスマスク、おむつ、及びその他などの衛生用途における単回使用用又は使い捨ての製品にとって、不織布は理想的な基材である。特に、ワイプとしての使用の分野において、消費者は、高い不透明度、十分な機械的強度、柔軟性、厚さ、及び高い吸水率の製品を求める。不透明度が不十分な不織布製品は、低い引裂耐性及び低い信頼性を伴う傾向があるため、高い不透明度は、最終顧客にとって特に重要である。しかしながら、それと同時に、低い坪量の製品への要求が着実に高まっている。この点に関して、高い不透明度により、引裂耐性及び信頼性の感覚を最終顧客に依然として届けつつ、坪量をさらに減少させることができる。
【0003】
ほとんどの場合、高い坪量の不織布は不透明度も高いが、低い坪量、特に約35g/m2よりも低い範囲の坪量で、なおかつ高い不透明度を有する不織布を製造することは、製造者にとって大きな課題である。
【0004】
単純な水流交絡による低坪量の不織布(EP 0473325 A1に示されている)は、その製造に多大な尽力が必要であり、後に高度に不規則な構造を示すことになり、それゆえに高度に不規則な不透明度を示すことになる。低坪量の場合、適切な改変及び添加物無しには、必要なあるいは所望の不透明度を得ることは不可能な場合が多い。
【0005】
例えば、先行技術(US 2017/0360622 A1、CN 107460787 A、CN 104556966 A)により、二酸化チタン又は酸化亜鉛といったマット剤を添加することによって、不織布の不透明度が増加することが知られている。しかしながら、そのようなマット剤はコストがかかり、また繊維の強度や柔軟性を著しく低下させてしまう。その上、それらの物質を繊維の中に取り込むためには、プロセス技術について増大した努力が必要である。
【0006】
さらに、例えば先行技術(US 3666545 A、WO 2010/028238 A1)には、熱可塑性合成ポリマーからメルトブローン(meltblown)又はスパンボンド(spunbond)プロセスによって得られるスパンボンド不織布が示されている。しかしながら、そのようなスパンボンド繊維を含む不織布は、強度及び安定性についての要求を満たすためには、多層構造である必要がある。この場合、所望の不透明度を有する不織布を得るために、種々の不織布の様々な層が、相互に結合又は融合し、各々に付加的なコーティングが施される。しかしながら、そのような不織布は、合成ポリマーのフィラメントのため、概して吸水能が低く、また多層構造またはコーティングされた層構造のため、柔軟性が低い。それに加えて、合成ポリマーを含む不織布は生分解性ではないので、使い捨ての又は単回使用用の製品にそれらを使用することは避けるべきである。
【0007】
不織布の不透明度を上げるための、先行技術(WO 2006/133037 A1、WO 2004/063434 A1)にあるまた別の手法は、断面を改変した繊維を使用することである。例えば、特定の形状のノズルを通して繊維を押出すことで、中空繊維のような断面改質された繊維を得ることが知られている。そのような繊維では、断面が中実の円形状である繊維と比べて高い不透明度を有するが、その製造法はプロセス技術として複雑なものとなり、それゆえ高コストとなる。さらに、合成ポリマーを用いた場合、そのような繊維の吸水率は低くなる。
【0008】
本発明に係る不織布は、セルロースを含む紡糸液から直接不織布を製造する方法によって、製造することができる。
【0009】
そのような方法は、先行技術により知られている(例えば、WO 98/26122 A1、WO 99/47733 A1、WO 98/07911 A1、 WO 97/01660 A1、WO 99/64649 A1、WO 05/106085 A1、EP 1 358 369 A1、 及びEP 2 013 390 A1)。
【0010】
上記方法における紡糸液の調製及び押出しは、リヨセルプロセス等の直接溶解プロセスで行われることが好ましい。その際には、セルロースがアミンオキサイド(好ましくはNMMO:N-メチルモルフォリンーN-オキサイド)の水溶液中に直接溶解されて、紡績可能な紡糸液が作られる。そして、その紡糸液は適切な紡糸口金から押出され、押出された紡糸液中に溶解したセルロースが凝固剤によって凝固して、成形体が形成される。アミンオキサイドの場合、水又は水とアミンオキサイドとの混合物が、凝固剤として特に適している。不織布の製造のための、リヨセルプロセスによるそのような紡糸液の調製については、例えばWO 98/26122 A1、US 7,067,444 B2、又はUS 8,012,565 B1に知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上より、本発明の目的は、製造が容易で、特別な改変無しに高い比(specific)不透明度を有し、坪量の低い不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、以下によって上記の目的を実現する:成形体が再生セルロース成形体であって、ノード点を通じて材料的に相互結合して網目構造を作り、ここで前記再生セルロース成形体はノード点間に延在するモノフィラメント領域を含んでおり、該モノフィラメント領域の直径はその長さ方向の拡がり(lengthwise extension)に沿って変動し、該モノフィラメント領域はその長さ方向の拡がりの少なくとも90%の部分について直径が15μm以下である。
【0013】
前記成形体が再生セルロース成形体であれば、生分解性の不織布が得られ、さらに、簡単で信頼性のあるプロセスによって費用対効果良く製造可能である。さらに、前記成形体がノード点を通じて材料的に相互結合して網目構造を作れば、低坪量と併せて高い引裂耐性を与える、特に寸法的に安定な不織布が得られる。有利なことに、前記再生セルロース成形体がノード点間に延在するモノフィラメント領域を含んでおり、該モノフィラメント領域の直径がその長さ方向の拡がりに沿って変動し、該モノフィラメント領域がその長さ方向の拡がりの少なくとも90%の部分について直径が15μm以下である場合には、不織布の不透明度はさらに著しく増加する。実際、直径が変動するモノフィラメント領域は、その凸凹な(irregular)表面のため、特に高く有利な光散乱性をもたらすことが可能であり、結果として不織布全体の不透明度を増加させることができる。微細な直径のモノフィラメント領域があることで、上記のように、面積当たり多数存在するモノフィラメントにより特に高い面積被覆率を確実とすることができ、そのことが不織布の均一な不透明度につながる。さらに、15μm以下の非常に微細な直径により体積の増加が可能となり、その結果、不透明度を損なうことなく坪量を低減することが可能となる。このようにして、坪量が低く、1.0%・m2/g以上という比不透明度を有する不織布を作製することができる。
【0014】
さらに、この点については、製造方法の特性のため、直径が15μmより大きい孤立したモノフィラメント領域が形成されることは避けられない。しかしながら、モノフィラメント領域が、その長さ方向の拡がりの少なくとも90%について15μm以下の直径を有する限り、このような外れ値が本発明に係る不織布の有利な特徴に対していかなる悪影響も及ぼすことはない。本発明の別の有利な構成においては、モノフィラメント領域は、その長さ方向の拡がりの少なくとも95%について15μm以下の直径を有していてもよい。
【0015】
一般的に、不織布における成形体間の「材料的な結合」とは、再生セルロース成形体のセルロース分子間の凝集結合(cohesive connection)を表す。そのような結合は、特に、押出後まだ完全には凝固していない成形体(又は押出された紡糸液)間の接触を通じて、あるいはこれら同士を接触させることによって、得ることができるが、この場合、セルロース分子が凝集(cohesion)により材料的な結合を形成する。
【0016】
一般的に、不織布の「不透明度」とは、光に対する不透明性又は不透過性の程度を表す。そのような不透明度は、通常、不織布の光透過率を測定することで判定されるものであり、不透明度[%]=100%-光透過率[%]である。
【0017】
ここで、不織布の比(specific)不透明度は、式(1)によって、不透明度[%]を坪量[g/m2]で規格化したものとして定義される:
比不透明度[%・m/g]=不透明度[%]/坪量[g/m]。 (1)
比不透明度を定めることにより、坪量増加に伴う不透明度増加への影響は規格化される。
【0018】
一般的に、不織布の不透明度は、常に、気温23℃(±2℃)、湿度50%(±5%)の状況で24時間経過した後の自然な水分含量の乾燥状態で測定される。
【0019】
さらに、前記再生セルロース成形体が、ノード点間に延在するマルチフィラメント領域であって、材料的に相互結合し、かつ本質的に平行ないくつかの(several)モノフィラメント領域からなるマルチフィラメント領域を含む場合には、上記のタイプの不織布は、その特性について有利に向上することができる。実際、マルチフィラメント形成へと結合されたそのようなモノフィラメント群は、不織布を安定化するのに寄与し、その強度を増加させる。さらに、マルチフィラメント領域が、その長さ方向の拡がり(lengthwise extension)の少なくとも90%について100μm以下の直径を有する場合には、不織布が、望ましくない目視でわかる厚い部分が本質的に無い、等質的な外観を有することを確実にする。このように、不織布中に成形体の網目構造を形成することができ、それは、構造及び強度のためのより厚いマルチフィラメント領域と、不透明度向上のためのより薄いモノフィラメント領域との両方を含む。この点に関して、そのような網目構造においては、成形体の直径は本質的にマルチモーダルな分布を示す。この点に関して、前記マルチフィラメント領域は、成形体の押出後に、2つ以上のモノフィラメントで形成される。このプロセスにおいて、まだ完全に凝固していない成形体同士が接触し、凝集(cohesion)により永続的な材料的結合を形成する。ゆえに、マルチフィラメント領域は、モノフィラメントを束ねたものではなく、単位同士が化学的及び物理的に不可分に結合したものである。
【0020】
前記プロセスにおいて、再生セルロース成形体が、目視できる繊維の終端がない本質的にエンドレスな網目構造を形成する場合には、アブレーションが少なく、より良い接触面を有する不織布が得られる。ゆえに、例えば肌あるいは面への接触性が向上する。
【0021】
さらに、前記不織布が、本質的にマット剤や色剤を含まない場合、本発明は特に有利であることが分かった。実際、二酸化チタン又は酸化亜鉛といった従来からのマット剤を使う際には、成形体の生産に非常に特殊なプロセス条件が必要となる。なぜなら、それらの剤は粒子を形成する傾向が非常に強いため紡糸液中に分散させることが非常に困難であるからである。さらに、マット剤の粒子は、成形体において不連続性を生じさせるため、成形体における脆性が増大し、強度は低下する。強度低下及び脆性増大のそれぞれによって、複雑かつ高コストな処理ステップが必要となるため、下流の処理産業にとっては、この点もまた問題になる。さらに、マット剤は高価で、不織布製造の費用対効果に悪影響を及ぼす。以上の理由から、本発明の別の目的は、マット剤及び他の色剤を使用することなく、不透明度の高い不織布を提供することである。この点に関して驚くべきことに、長さ方向の拡がりの少なくとも90%について15μm以下の直径を有するモノフィラメント領域を含む、再生セルロース成形体の網目構造を有する、本発明に記載の不織布は、マット剤を使うことなく非常に高い比不透明度を有する。ゆえに、費用対効果が高く生産が容易な不織布を提供することが可能である。
【0022】
本発明によれば、不織布は本質的にセルロースのみからなることが好ましい。そのような不織布は、特に合成ポリマー主体の不織布と比べて、生分解性に優れており有利である、生分解性に優れていることは、衛生商品のような使い捨ての又は単回使用用の製品における持続可能な使用という点で決定的に重要である。加えて、合成ポリマーと比較して、純粋にセルロース性の製品は、大きく増加した吸水能を有するが、このことは例えば衛生商品で必要とされる。このように、特にエコロジカル・フットプリントが小さい不織布を作製することが可能である。
【0023】
前記再生セルロース成形体が溶液紡糸(solution-spun)セルロース成形体である場合、前述の利点はさらに高まる。溶液紡糸成形体とは、セルロースを溶媒に直接(セルロースをあらかじめ化学的に変換することなく)溶解させて得られる紡糸液を紡糸口金から押出した後凝固させて作られる成形体のことを示す。この点に関して、成形体は、NMMO(N-メチルモルフォリンーN-オキサイド)が溶媒として用いられるリヨセルプロセスに沿って生産されることが好ましい。他の再生セルロース成形体(例えばビスコース)と比べて、溶液紡糸ルロース成形体は、例えば増大した強度を有するという利点を有する。特に、リヨセル成形体の場合、これらの利点は環境に優しく費用対効果の高い作製法で実現できる。
【0024】
吸水性及び強度といった不織布の特性は、モノフィラメント領域が、中実の、特に円形の(rounded)断面である場合に、さらに向上する。
【0025】
さらに驚くべきことに、前記不織布が本質的にバインダー又は接着剤を含まない場合には、比不透明度が非常に高い不織布が得られることが分かった。層構造がバインダー又は接着剤で貼り合わされている不織布とは異なり、本発明に係る不織布は、そのような物質の使用は不要である。特に、直接肌上に、あるいは敏感な部位で使用される不織布の場合には、当該不織布が、肌への刺激(irritation)又はアレルギー反応を引き起こす能力を有する可能性のある物質を含んでいないことが、決定的に重要である。接着剤及びバインダーは、特に、そのような刺激やアレルギー反応につながる能力があることが知られており、肌に接触する場合には避けるべきものである。以上のように、本発明によれば、刺激性やアレルギー性が低く、なおかつ不透明度を犠牲にすることのない肌に優しい不織布を作製することが可能である。
【0026】
それに加えて、銅又はニッケルのような金属のわずかな残留物が、不耐性反応につながる能力があることが知られているので、前記不織布が銅及び/又はニッケルを本質的に含まない場合には、刺激性やアレルギー性が低いという上述の利点は、さらに高まる。この点に関して特に、炎症のリスクを最小化するために、前記不織布における銅の含有量は5ppm未満であり、さらに/あるいはニッケルの含有量は2ppm未満である。
【0027】
該モノフィラメント領域がその長さ方向の拡がりの少なくとも90%について10μm以下の直径、さらには7μm以下の直径、を有する場合、前記不織布の比不透明度は、さらに向上する。10μm以下、あるいは別の好ましい実施形態では7μm以下、という非常に細いモノフィラメント領域の直径のため、特に有利な体積の増加及びそれに伴う坪量の減少が、不織布の比不透明度を低下させることなく実現される。
【0028】
モノフィラメント領域における平均直径が1μm以上8μm以下である場合、上記の利点はさらに高まる。この際、該モノフィラメント領域における直径の分布は狭いものとなり、そのことにより、一方では、安定して高い比不透明度が保証され、他方では、前記不織布における高い安定性及び強度が確実なものとなる。
【0029】
例として、前記不織布が、そのモノフィラメント領域において本発明で好ましいとされる直径を有している場合、前記不織布は、1.2%・m2/g以上の比不透明度を有し得、特に好ましい実施形態においては、1.5%・m2/g以上の比不透明度を有し得る。そのような高い比不透明度を有する不織布は、非常に低い坪量において既に良好な不透明度を実現し得る。
【0030】
この点で、前記不織布が70g/m2以下の坪量である場合に、本発明は特に有利である。また別の有利な実施形態においては、前記不織布の坪量は35g/m2以下であり、より好ましくは20g/m2以下である。このように、不透明度に優れる、特に軽量で繊細な不織布が得られる。
【0031】
加えて、前記不織布が 特性改良及び表面改良物質、又は特性改変及び表面改変物質、又はプロセス促進剤を1質量%以下の含有量で含む場合、特に0.5質量%未満の含有量で含む場合、には、前記不織布は有利になり得る。そのような剤は、例えば、柔軟仕上げ剤、帯電防止仕上げ剤、疎水性仕上げ剤、又は薬液と相互作用してそれにより例えば活性剤の放出を促進する仕上げ剤、などでもよい。そのような仕上げ剤は、例えば、脂肪族(fatty)アルコールエーテル硫酸塩、リン酸エステル、アルキルケテンダイマー、アルケニルコハク酸無水物、アミノポリシロキサン、エステルクアット、脂肪酸ポリグリコールエステル、硫酸アルミニウム、グリシジルエーテル、又はそれぞれと同様のタイプで同様に反応する物質、を含む群から選ばれる。
【0032】
本発明の様々な好ましい実施形態例による不織布は、多くの用途において特に有利である。例えば、低坪量で比不透明度が高いことは、前記不織布を以下の製品のいずれか、又は以下の用途のいずれかに用いる際に、特に有利である:
- ワイプ (例えば、乳児用、台所用、化粧用、衛生用、清掃用、つや出し用、埃用、工業用、掃除モップ用、等)、
- フィルター類 (例えば、空気フィルター、HVAC、エアコン、コーヒーフィルター、茶フィルター、フィルター袋、食品フィルター、タバコフィルター、油フィルター、フィルターカートリッジ、掃除機集塵袋、埃フィルター、液圧(hydraulic)フィルター、台所フィルター、HEVAC/HEPA/ULPAフィルター、呼吸保護マスク、等)、
- 吸収性の衛生製品(例えば、吸収性層、おむつ、生理ナプキン、パンティライナー、失禁用製品、タンポン、タオル、生理用パッド、水洗可能製品、パッド、授乳パッド、使い捨て下着、トレーニングパンツ、メイク落としパッド、洗面タオル、等)、
- 医療用途 (例えば、使い捨てのキャップ(帽子)、ガウン、マスク、及びオーバーシューズにおいて、創傷ケア、無菌包装、カバーストック(coverstock)、被覆(dressing)材料、使い捨て衣類、鼻ストリップ、使い捨て下着、ベッドシート、経皮的薬剤送達、白布(shroud)、アンダーレイ(underlay)、治療パック、熱パック、ストーマ袋(ostomy bag)、固定用テープ、保育器のマットレス、マットレスカバー、等)、
- ジオテキスタイル(地質織布) (例えば、植物保護カバー、アスファルトオーバーレイ、地山安定処理、含浸層、溝の内張り、植物カバー、雑草防除マット、温室用遮光、等)、
- 衣料 (例えば、不織布の芯地、衣類の断熱及び保護、ハンドバッグ部材、靴部材、ベルトのはめ込み(inlay)、産業用の帽子/靴、使い捨ての作業着、衣類及び靴用のバッグ、断熱、等)、
- 建設 (例えば、屋根ふき、断熱と遮音、ハウスラップ、屋根用フェルト、雑音の遮音、補強、シール材、制振材、等)、
- 自動車 (例えば、居住空間のフィルター、トランクの裏張り、リヤシェルフ、熱シールド、トランクの床カバー、フィルター、屋根の裏張り、装飾材、エアバッグ、マフラー下敷き(muffler underlays)、絶縁材、車体カバー、下敷き(underlays)、フロアマット、テープ、タフテッドカーペット、シートカバー、ドア裏張り、シャルムーズ、等)、
- 家具及び調度品(furnishings)(例えば、家具構造体、椅子の肘掛け及び背もたれの断熱材、枕の中材、埃カバー、クラッディング、エッジトリム、寝具構造体、キルト、スプリングラップ、マットレス部材、マットレス保護材、窓カーテン、壁装材(wall coverings)、カーペット下敷き、ランプシェード、シール、枕の中材、マットレス中材(mattress filling material)、使い捨てベッドカバー、カーテン、等)、
- 産業 (例えば、ケーブルの絶縁、絶縁テープ、遮音層、空調システム、電池のセパレーター、しみ抜き、食品包装、接着テープ、ソーセージの包装、チーズの包装、人工皮革、抄紙フェルト、一般的な包装、等)、
- レジャー及び旅行 (寝袋、テント、手荷物、ハンドバッグ、買い物袋、航空機シートのヘッドレスト、CDプロテクター、枕カバー、サンドウィッチの包装、等)、
- 学校及びオフィス (例えば、ブックカバー、封筒、地図、標識とペナント、旗、
紙幣、等)。
【0033】
加えて、本発明は、クレーム1から16のいずれかに記載の、不織布を含むワイプ、フェイスマスク、及びドライヤーシートにも有利である。それらのワイプ、フェイスマスク、及びドライヤーシートでは、比不透明度が1.0%・m2/g以上、また別の実施形態では1.2%・m2/g以上、非常に有利な実施形態においては1.5%・m2/g以上、と優れているため、有利である。それに加えて、それらのワイプ、フェイスマスク、及びドライヤーシートは、70g/m2以下、また別の実施形態では35g/m2以下、特に20g/m2以下、という坪量を有することができ、高い不透明度と低い坪量の製品が得られる。
【0034】
そのようなワイプは、例えば、衛生(hygiene)、医療、保健衛生(sanitary)の分野等、様々な用途において有利で、強度と吸水能の点でユーザーに高い信頼性の感覚をもたらすものである。また、坪量が低いことは、眼鏡、レンズ、双眼鏡といった計測機器又は光学機器のクリーニング等の繊細な用途にとって、特に適している。
【0035】
例えば、上記のフェイスマスクは、衛生(hygiene)の用途に有利であり得、低い坪量は、ユーザーの顔面の輪郭に対するマスクの良好な柔軟性及び適応性を与えることができ、また高い不透明度は、様々な薬剤、例えば顔の肌の美容的トリートメントのための様々な薬剤のための汎用の不透明基材を提供することができる。
【0036】
本発明に係るドライヤーシートは、洗濯物乾燥機での使用に適しており、比不透明度が高いため、高い信頼性が得られる。
【0037】
本発明に係るワイプ、フェイスマスク、及びドライヤーシートの上記の利点は、前記不織布が薬液(lotion)で含浸されている場合に、さらに高まる。実際、そのような薬液には、様々な用途用の活性剤を含ませることができ、従って、使用が容易な製品を与える。例えば、ワイプ又はフェイスマスクは、肌や表面に直接塗ることが可能なクレンジング薬液又は化粧水(care lotion)で含浸されてもよい。例えば、ドライヤーシートは、乾燥工程の間に放出されて洗濯物のコンディションを整える薬液で含浸されてもよい。
【0038】
有利なことに、上記の薬液は本質的に水性(water-based)ではない。なぜなら、水性の薬液に含まれる水分は、前記不織布に吸収されて、乾燥状態と比べて比不透明度を著しく低下させるであろうからである。好ましい薬液は、例えば、脂肪性(fat-based)又はワックス性(wax-based)であって、それにより比不透明度の高い乾いた製品を保証するものであってもよい。ワイプにおけるそのようなワックス性薬液は、例えば、つや出し剤(polish)の形で存在することができ、該つや出し剤は、つや出し(polish)工程の間に表面上に放出される。フェイスマスクにおける脂肪性薬液の場合、薬液は、例えば、肌に触れると体温により溶解し、肌上に放出される。ドライヤーシートの場合、ランドリーケアエージェントは、例えば、ワックス性薬液の形で存在することができ、該ワックス性薬液は、乾燥工程において、温度上昇により洗濯物へと放出される。
【0039】
本発明に係る不織布の製造のためには、最初に述べた、セルロースを含む紡糸液から不織布を直接的に製造する方法を用いることができる。この点に関して、該紡糸液は、好ましくは直接溶解プロセス、特にリヨセルプロセスで調製され、その後、紡糸口金から押出される。使われる溶媒は、特にNMMO又は他のアミンオキサイドの水溶液である。紡糸ドープ押出後のセルロースの凝固(precipitation)及び成形体の形成のために、特に水が凝固剤として使われる。
【0040】
本発明に係る不織布の製造方法において、本質的に以下の工程が行われる:
a)特に直接溶解プロセスによって、セルロースを含む紡糸液を調製する、
b)互いに近接したノズル穴を有する少なくとも1つの紡糸口金から紡糸液を押出する、
c)押出された紡糸液を、高速の空気流によって伸長し接触させる、
d)動く表面、特にベルトコンベヤー又はドラム、上で不織布を形成する、
e)不織布を洗浄する、そして
f)洗浄した不織布を乾燥する、
工程c)及び/又はd)において、押出された紡糸液に凝固剤が適用して、セルロースが溶解している紡糸液を少なくとも部分的に凝固させる。該紡糸液がリヨセルプロセスで調製される場合には、該凝固剤は水又はNMMOを含む水であることが好ましい。
【0041】
工程c)とd)の間に、成形体の網目構造を形成するよう相互結合した再生セルロース成形体が形成される。この点に関して、形成された成形体の形状と幾何学的構造は、(吹き付けられた)空気流の流速及び、凝固液(coagulation liquid)適用の量及び時間といったプロセスパラメータによって、相当程度制御できる。加えて、押出された紡糸液の各々のフィラメント間の材料的結合の形成は、凝固液の適用時間に強く影響される。例えば、先の方法と比べて、凝固液を紡糸口金の近傍で早めに適用すると、マルチフィラメントの生成が抑制されて、最終製品においてモノフィラメントの高い含有量が得られることが見出された。対照的に、成形体の凝固がより遅い時点で起こる、すなわち紡糸口金から離れた場所で起こる場合には、押出された紡糸液のフィラメントは吹き付けられた空気流中で互いに接触することができ、材料的に結合してマルチフィラメントになる、なぜなら、セルロースはまだ凝固しておらず、それゆえ、個々のフィラメントのセルロース分子同士の間での凝集によって、永続的な結合であって、例えば非破壊的なやり方ではもはや引きはがせない永続的な結合が形成されるからである。この凝集は、押出された紡糸液から生じるフィラメントが、なお溶媒を含んでおり完全に凝固していない場合に、特に起こり得る。その後、個々のフィラメント及び形成されたマルチフィラメントは、吹き付けられた空気流中において、又は工程d)で不織布ができる間に、互いに交差及び接触して、フィラメント間のノード点を形成する。そして、個々のフィラメント領域は、そのノード点により材料的に相互結合し、その結果、本発明に係る不織布の特徴である成形体の網目構造を形成する。ノード点における材料的な結合とは別に、フィラメントは、ノード点を形成することなく互いに交差及び重なり合うこともでき、そして、成形体の三次元網目構造を形成してもよい。
【0042】
押出された紡糸液が、吹き付けられた空気流中で増加した伸長をすることによって、第一に、より細かいフィラメントを形成することができ、第二に、フィラメント中のセルロース鎖は、空気流の方向により多く配向することができる。加えて、空気圧がより高いと又は空気流の流速がより速いと、吹き付けられた空気流中により大きな乱流が生じることがわかった。しかしながら、押出された紡糸ドープは、吹き付けられた空気流によって伸長している時点では、まだ凝固しておらずそれゆえ成形可能であるので、そのような大きな乱流は様々な直径のフィラメントをもたらす。ゆえに、このようにして形成されたモノフィラメント及びマルチフィラメント、又はフィラメント領域は、その長さ方向の拡がりに沿って変動する直径を持ち得る。加えて、吹き付けられた空気流がより速ければ、一般的にモノフィラメントの平均直径は減少する。より小さい直径を有するより繊細なモノフィラメントの製造、及び長さ方向の拡がりに沿って変動する直径は、いずれも不織布の比不透明度の増加をもたらす。
【0043】
吹き付けられる空気流の速度及び適用される凝固剤の量とは別に、ベルトコンベヤー又はドラムにおける不織布の離脱速度を変化させ、それにより前記不織布の坪量を制御することも可能である。驚くべきことに、離脱速度を大きくすることで、一方では、面積に関する生産アウトプットを増やすことができ、また他方では、坪量が低く比不透明度が高い不織布を得ることができる。後者は主に、前記不織布における、長さ方向の拡がりの90%について15μm以下の直径を有するモノフィラメント領域の寄与によるものである。このように、本方法は、不透明度に関する特に有利な特性を有する費用対効果のよい不織布を製造するのに用いることができる。
【0044】
本方法において、いくつかの(several)紡糸口金を連続してつなげることにより、多層の不織布を形成することも可能であり、そこでは、各層における再生セルロース成形体の網目構造は積み重なり、またその後に水流交絡を施すこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
以下、本発明の実施形態が、図面を参照して記載される。
図1】本発明に係る不織布の第一の実施形態の概略図である。
図2】本発明に係る不織布の別の実施形態の顕微鏡像である。
図3】実施例B1~B7の本発明に係る不織布の比不透明度を示す散布図である。
図4】比不透明度を決定するのに用いられる測定法の概略図である。
図5】モノフィラメント領域の直径を測定するための試料キャリアの部分破断した平面概略図である。
図6】ワイプの破断面図である。
図7】ドライヤーシートの破断面図である。
図8】フェイスマスクの部分破断した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、第一の実施形態による、再生セルロース成形体2の網目構造1を含む不織布100の概略図である。ノード点3において、成形体2は材料的に相互結合して網目構造1を形成している。網目構造1において、成形体2は、モノフィラメント領域4を含み、それぞれのモノフィラメント領域はノード点3とノード点3との間に延在している。モノフィラメント領域4とは別に、成形体2はまたマルチフィラメント領域5も含み、マルチフィラメント領域5は、モノフィラメント領域4と同様にノード点3とノード点3との間に延在し、あるいはノード点3で相互結合して、成形体2の網目構造1を形成する。ここで、代わりに、モノフィラメント領域4が、ノード点3において、別のモノフィラメント領域4又はマルチフィラメント領域5と結合することもできる。
【0047】
乾燥状態では、不織布100は、1.0%・m2/g以上の比不透明度を有する。他の実施形態では、プロセスのパラメータ及び坪量の範囲に応じて、比不透明度は1.2%・m2/gにまで増加させることができ、より好ましくは1.5%・m2/gにまで増加させることができる。一例として、図3は、x軸51が単位g/m2で坪量を表し、y軸52が単位[%・m2/g]で比不透明度を表す、散布図50を示す。ここで、直線53、54、及び55は、それぞれ、比不透明度1.0%・m2/g、1.2%・m2/g、及び1.5%・m2/gの下限を表す。また、縦方向の直線56、57、及び58は、それぞれ、坪量の境界値70g/m2、35g/m2、及び20g/m2を表す。各測定点60は、本発明の実施形態B1~B7を表す。測定点61、62、63、及び64のそれぞれは、比較測定V1~V4を表す。実施例の記載において、測定点60~64の詳細がより十分に説明される。
【0048】
図1の実施形態におけるモノフィラメント領域4は、その長さ方向の拡がり6に沿って様々に変動する直径7を有する。この点に関して、モノフィラメント4の直径7は、モノフィラメント領域4の長さ方向6の拡がりの少なくとも90%について、15μm以下である。ここで、モノフィラメント領域4は、その長さ方向の拡がり6に沿って、1μm~8μmの直径7の平均値を有する。
【0049】
また別の実施形態では、モノフィラメント領域4における直径7は、その長さ方向の拡がり6に沿った少なくとも90%について、10μm以下であり、特に有利な実施形態においては7μm以下である。押出された紡糸液を吹き付けられた高速の空気流及び乱流中で伸長することによって、成形体は、その長さ方向の拡がり6に沿って変動する直径7を得る。ゆえに、吹き付けられた空気流中でのいくつか(several)のフィラメントの結合によって形成されるマルチフィラメント領域5もまた、その長さ方向の拡がり8に沿って変動する直径9を有する。ここで、マルチフィラメント領域5は、その長さ方向の拡がり8の少なくとも90%について、100μm以下の直径を有する。
【0050】
マルチフィラメント領域5は、吹き付けられた空気流中での個々のフィラメントの材料的な結合の結果形成されるので、セルロース分子の凝固により本質的に互いに分離不能に結合しているいくつか(several)のモノフィラメント領域4から本質的に構成されている。ゆえに、マルチフィラメント領域5は、平行な複数のモノフィラメント領域4を撚ったもの(strand)ではなく、いくつか(several)のフィラメントの結合により作られた単一のマルチフィラメント領域5とみなすべきものである。
【0051】
図2は、本発明に係る不織布101の、250倍の電子顕微鏡像である。不織布101は、図1でも述べたように、ノード点3を通じて結合し、モノフィラメント領域4及びマルチフィラメント領域5からなる、セルロース成形体2の網目構造1を含む。
【0052】
図1及び図2の不織布100及び101における再生セルロース成形体2は、成形体2のフィラメント終端が見えないエンドレスな網目構造1を形成する。押出された紡糸液を吹き付けられた空気流中で伸長するプロセスにより、各フィラメントは相互に材料的に結合し、フィラメントのあらゆる終端部が他のフィラメントと結合してノード点3を形成する。このため、例えば図2の例示的な不織布101の顕微鏡像のように、未結合の終端部は確認されない。しかしながら、不織布100,101のさらなる後処理工程-例えば付加的な水流交絡プロセス-において、フィラメント終端部が網目構造1から解放されて、不織布中で非結合の状況で存在することを、排除はできない。
【0053】
不織布101の成形体2は、溶液紡糸セルロースの成形体2であって、リヨセルプロセスにより、セルロース、水、及びNMMOを含む紡糸液から作られる。セルロースが凝固して不織布101が洗浄されると、不可避な不純物以外はセルロースのみからなる本発明に係る不織布101が得られる。さらに不織布101は、マット剤及び色剤を含まないので、強度と安定性に優れている。加えて、不織布101は、接着剤又はバインダーを含まないので、不織布101の機械的柔軟性は悪影響を受けない。さらに、不織布101は、特に銅やニッケルといった、金属の残留物を含まないので、肌に耐容される。
【0054】
別の実施形態においては、不織布100、101はいくつかの相互結合層を含むことができるが、その詳細は図には示されていない。層同士の結合は、成形体2のセルロース分子同士の凝集による材料的なものであってもよく、又は、成形体2の機械的な絡み合いによる、形状による固定様式で及び/又は力による固定様式で結合してもよく、ここで機械的な絡み合いは、例えば水流交絡プロセスの結果である。
【0055】
本発明に係る不織布100は、ワイプ200、フェイスマスク300、及びドライヤーシート400の製造に特に適しており、その場合、前記不織布100の比不透明度は、1.0%gm-2以上である。
【0056】
一例として、図6に、上記本発明に係る不織布100を含むワイプ200を示す。この場合、不織布100は薬液210で含浸されており、薬液210は少なくとも部分的には不織布100に浸透して、浸透部分215を形成している。この場合、該薬液210は、水などの溶媒を含むことができるが、好ましくは油性、脂肪性、又はワックス性でそれにより本質的に水を含まない。そのようなワイプ200は、-薬液210に応じて-衛生(hygiene)の用途にも表面処理にも、等しく適したものとなりうる。
【0057】
図7に、上記本発明に係る不織布100を含むドライヤーシート400を示す。この場合もまた、薬液410が不織布100に付与されている。この場合、薬液410は不織布100の構造によって吸収されて、それを濡らすことができるが、その詳細は図には示されていない。特に、不織布100は、薬液410によって完全にあるいは部分的に湿らせることができる。好ましくは、薬液400は水性溶液を含まず、上昇した温度で、例えば洗濯物乾燥機の乾燥工程での上昇した温度によって、その中に収容された洗濯物に放出される。
【0058】
最後に、図8は、不織布100を基材として含み、その(ユーザーの顔に面した)内側が薬液310で覆われたフェイスマスク300を示す。この場合、該薬液310は、好ましくは、ユーザーの肌の温度によって不織布100から脱離して肌に向かって放出されるように構成されている。加えて、該フェイスマスク300は、ユーザーの顔に容易に適合するために、いくつかの(several)切り欠き部320を含む。
【0059】
実施例を説明するために、図3図4、及び図5を、以下説明する。
【実施例
【0060】
〈比不透明度の測定〉
分析対象の不織布から、10×10cmのランダム試料を切り出し、測定前に、23℃(±2℃)、相対湿度50%(±5%)で24時間コンディショニングする。該コンディショニングの後に、試料の重量を測り、g/m2を単位として坪量を求める。
【0061】
すべての測定のための測定装置としては、コニカミノルタ株式会社製分光光度計CM-600dは不透明度測定のための測定ヘッドアタッチメント(コニカミノルタ、非グレージング、プラスチック、CM-A180ターゲットマスク 8mm(プレート無し))を備え、黒色標準(コニカミノルタ株式会社、CM-A182 ゼロ校正ボックス)及び白色標準(コニカミノルタ、CM-A177)によって校正を行った。
【0062】
すべての校正測定及び不透明度測定に用いた測定装置セッティング及びソフトウエアは、表1に示されている。
【0063】
校正及び測定のための測定機器セットアップ
【表1】
【0064】
不透明度の決定には、黒色領域及び白色領域を備えた不透明度テストチャートを使用する(TQCテストチャート、フォーマットA4、art. no.VF2345)。
【0065】
試料からの反射の値は、該不透明度テストチャートの黒色領域及び白色領域の両方の上で測定される。図4は、本発明に係る不織布100から切り取り又は型取りによって取り出した試料70の模式図を示す。試料70の両辺71、72の長さは10cmである。測定点1~5が記録された位置73、74、75、76、及び77は、試料70の各角部及び中心である。
【0066】
まず、試料70は、不透明度テストチャート80の黒色領域81の上に配置され、黒色上試料の反射について、測定点1~5が測定される。続いて、試料70は、不透明度テストチャート80の白色領域82の上に配置され、測定点1~5を記録することを、白色上試料の反射について繰り返す。
【0067】
そして、測定点1,2,3,4、及び5についての試料の不透明度は、式(2)によってそれぞれ求めることができる:
不透明度[%]=100×黒色上反射/白色上反射、 (2)
ここで、黒色上反射とは、波長570nmにおける黒色の不透明度テストチャート背景上の試料の反射を表し、一方、白色上反射とは、波長570nmにおける白色の不透明度テストチャート背景上の試料の反射を表す。
【0068】
続いて、全5点にわたる不透明度の平均値が計算され、先記の(1)によって、その平均値を試料の坪量で割った値として定義される試料の比不透明度が決定される。
比不透明度[%・m/g]=不透明度[%」/坪量[g/m]。 (1)
【0069】
ここで、比不透明度は、試料の坪量当たりに規格化した不透明度を表す。
【0070】
〈顕微鏡によるモノフィラメント領域の直径の測定〉
モノフィラメント領域の直径の測定には、1cm×1cmのランダム試料90を不織布から取り出し、測定を行う前に、23℃(±2℃)、相対湿度50%(±5%)で24時間コンディショニングする。
【0071】
続いて、図5に示すように、試料90は、透明な試料キャリア91上に置かれて、カバーガラス92でカバーされる。カバーガラス92は、金属フレーム93(質量62.6g)を重しとして押しつけられる。ここで、金属フレーム93は、カバーガラス92を通して試料90を観察するための窓94を備えている。こうして、光学顕微鏡で倍率100倍の黒/白透過光で、試料90の試料像が記録される。
【0072】
試料像から1mm×1mmの正方形部分95が無作為に選ばれ、2つの対角線96、97が該正方形95中に引かれる。測定深度150μmにわたって対角線96、97によって横切られるモノフィラメント領域98は、相当径99(円相当径による)を決めることによって測定される。この目的のため、押しつけられた不織布の上面をゼロ点と定義する。150μmより薄い不織布は、この方法を用いることにより全厚みにわたってカバーされる。モノフィラメント領域が正方形の角で切断されている場合は、相当径99は円相当径によって、完全に測定することが可能である。
【0073】
上述した測定法は、他の2つの位置でも繰り返され、それら不織布位置におけるモノフィラメント領域98の全ての相当径99の平均値が決定される。マルチフィラメント領域及びノード点は、この測定においては考慮しない。
【0074】
〈実施例の説明〉
【0075】
以下において、本発明に係る不織布の7つの実施例(B1からB7)を示す。
【0076】
実施例として述べた不織布(B1からB7)は、以下の工程を含む以下の方法で作製された:
- セルロースを10%含むリヨセル紡糸液を、本文初頭に示した既知の手法で調製する;
- 該紡糸液が、紡糸口金の連続に配置された近接した複数の開口から押出され、吹き付けられた高速の空気流中で伸長される(この方法のプロセス-技術的な詳細については、冒頭に挙げた先行文献を参照);
- 伸長の間及び/又は伸長の後、凝固剤を適用することで、紡糸液の状態からセルロースは少なくとも部分的に凝固し、成形体を形成する;
- 最後に、成形体を動くベルトコンベヤー上に戴置し、その後、洗浄及び乾燥することによって、不織布が形成される。
【0077】
このようにして製造された不織布の、その不透明度に関する本発明に係る有利な特性を証明するために、プロセス中の吹き付けられる空気圧(吹き付けられる空気流の流速)及び凝固液の量を、参照例(B4)に対して様々に変化させた。特にベルトコンベヤーの速度の制御によって、坪量を調節することができた。実施例B1~B7の製造についてのパラメータを表2にまとめる。
【0078】
本発明に係る不織布の製造パラメータ
【表2】
【0079】
こうして得られた実施例B1からB7は100%セルロース製であり、すなわち、それぞれ、比不透明度が1%・m2/gより大きく、坪量が70g/m2より小さい再生リヨセル成形体である。
【0080】
一般的に、特に吹き付けられる空気流を制御すること(特に、圧力を変えることによる吹き付けられる空気流の速度の制御)によって、モノフィラメント領域における直径分布の変動を得ることができ、吹き付けられる空気流のより大きい速度又はより高い空気圧はより大きな伸長につながり、それによりモノフィラメント領域のより細かい平均直径につながることがわかった。また、押出された紡糸ドープに適用する凝固液の量を変えることによって、モノフィラメント領域の形成に影響を与え、また、それにより不織布の比不透明度に影響を与えることが可能であった。この点に関して、凝固液の量を増やすと、モノフィラメント領域の含有量が高くなり、それによって比不透明度は高くなった。
【0081】
表2中のパラメータ(空気圧と凝固液の量)は、参照例B4に対する係数として表示されている。この点について、平均坪量が25g/m2±10%であり、かつ平均比不透明度が1.6%・m2/g±10%である不織布が得られるように製造プラントを調整することによって、参照例B4の参照パラメータが決定された。
【0082】
B1~B7の不織布の比不透明度は、上記の測定法に沿って決定された。この過程において測定された値を表3に示す。
【0083】
本発明に係る不織布の測定値
【表3】
【0084】
〈比較例〉
実施例B1~B7の有利な特性を例証するため、表4に比較例V1~V4を示す。比較例の坪量と比不透明度は、上述の測定法で決定した。
【0085】
比較例の特性
【表4】
【0086】
比較例V1は、Sandler AGから入手したSawabond(登録商標)4138型の100%ポリプロピレン繊維の、カーディングされ、サーマルボンディングされた不織布である。この不織布は32g/m2という小さい坪量を有しているものの、測定においては、たった0.74%・m2/gという低い比不透明度を示した。
【0087】
比較例V2は、Lenzing AGから入手した100%リヨセルステープルファイバの、カーディングされ、水流交絡された不織布である。この不織布は、79.7g/m2という比較的高い坪量を有するが、依然として比0.88%・m2/gという低い比不透明度に達する。
【0088】
比較例V3は、旭化成(株)から入手したベンリーゼ(登録商標)SE384Gタイプの100%キュプラスパンボンド不織布である。40.5g/m2という坪量で、このスパンボンドはたった0.98%・m2/gという比不透明度に達することが可能である。
【0089】
比較例V4は、Berry Global Inc.のReemay(登録商標)2250タイプの100%ポリエステルスパンボンド不織布を示す。このポリエステルスパンボンド不織布は、19.0g/m2という小さい坪量で、1.51%・m2/gという良好な比不透明度を示す。
【0090】
図3の散布図50には、比較例V1~V4が、それぞれ測定値61、62、63、及び64として示されており、実施例B1~B7の測定値60との比較ができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8