(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ターボチャージャー用の新規オーステナイト合金
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240423BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240423BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20240423BHJP
B22D 25/02 20060101ALI20240423BHJP
F02B 39/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/58
C21D6/00 101H
B22D25/02 C
C21D6/00 101F
F02B39/00 C
F02B39/00 U
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019187347
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-10-11
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500124378
【氏名又は名称】ボーグワーナー インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルド・シャール
(72)【発明者】
【氏名】インゴ・ディートリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・キーファー
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル・フィッシュ
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03561953(US,A)
【文献】国際公開第2017/164344(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0131595(US,A1)
【文献】特表2014-517152(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106244940(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/58
C21D 6/00
B22D 25/02
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成
を有して構成される鉄ベースオーステナイト合金を含む内燃機関用のターボチャージャーハウジングであって、前記ターボチャージャーハウジングは、鉄ベースオーステナイト合金から鋳造される、ターボチャージャーハウジング:
0.2~0.6
質量%のC、
17~25
質量%のCr、
8~13
質量%のMn、
2~6
質量%のNi、
0.5~3
質量%のSi、
0.2~1
質量%のNb、
0.2~1
質量%のV、
0.2~1.5
質量%のMo;
選択的に下記量の以下の元素のうち、1つ以上:
0.01~0.6
質量%
のN、
0.01~3質量%のW、
0.01~0.1
質量%のB、
0.01~0.5
質量%のCu、
0.01~0.3
質量%のCe;
選択的に、総量が3
質量%未満である他の元素(不純物);及び
残量としてのFe。
【請求項2】
前記鉄ベースオーステナイト合金は:
0.3~0.5
質量%のC、
19~23
質量%のCr、
9~12
質量%のMn、
3~5
質量%のNi、
1.0~2.2
質量%のSi、
0.3~0.7
質量%のNb、
0.2~0.8
質量%のV、及び
0.2~0.8
質量%のMoを含有する、請求項1に記載のターボチャージャーハウジング。
【請求項3】
前記鉄ベースオーステナイト合金は、以下の元素のうちの1つ以上を以下の量で含有する、請求項1または2に記載のターボチャージャーハウジング:
0.01~0.6
質量%のN
0.5~2
質量%のW、
0.01~0.05
質量%のB、
0.1~0.3
質量%のCu、
0.1~0.2
質量%のCe。
【請求項4】
Nの含有量は0.1~0.5質量%である、請求項1~3のいずれか1項記載のターボチャージャーハウジング。
【請求項5】
前記鉄ベースオーステナイト合金は、1550℃未満
の溶融温度を有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載のターボチャージャーハウジング。
【請求項6】
前記鉄ベースオーステナイト合金の溶融温度は、1450℃~1520℃である、請求項5載のターボチャージャーハウジング。
【請求項7】
前記鉄ベースオーステナイト合金は、0.01~0.05
質量%のBを含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載のターボチャージャーハウジング。
【請求項8】
前記鉄ベースオーステナイト合金は、0.5
質量%未満のWを含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載のターボチャージャーハウジング。
【請求項9】
排気ガスまたは圧縮空気と接触する前記ターボチャージャーハウジングの内面は、100未満の表面粗度Rzを有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載のターボチャージャーハウジング。
【請求項10】
前記鉄ベースオーステナイト合金は、樹枝状炭化物析出物を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載のターボチャージャーハウジング。
【請求項11】
前記鉄ベースオーステナイト合金は、4%未満
のシグマ相を有する、請求項1~
10のいずれか一項に記載のターボチャージャーハウジング。
【請求項12】
前記鉄ベースオーステナイト合金は、2%未満のシグマ相を有する、請求項11に記載のターボチャージャーハウジング。
【請求項13】
前記鉄ベースオーステナイト合金の微細構造は、2~4の平均粒径(ASTM E112-12に従って測定)を有する、請求項1~
12のいずれか一項に記載のターボチャージャーハウジング。
【請求項14】
前記鉄ベースオーステナイト合金は、以下の組成で構成され、前記鉄ベースオーステナイト合金は、1550℃未満
の範囲の溶融温度を有する、請求項1~
13いずれか一項に記載のターボチャージャーハウジング:
0.3~0.5
質量%のC、
19~23
質量%のCr、
9~12
質量%のMn、
3~5
質量%のNi、
1.0~2.2
質量%のSi、
0.3~0.7
質量%のNb、
0.2~0.8
質量%のV、
0.2~0.8
質量%のMo、
0.1~0.5
質量%のN;
選択的に下記量の以下の元素のうち、1つ以上:
0.5~2
質量%のW、
0.01~0.05
質量%のB、
0.1~0.3
質量%のCu、
0.1~0.2
質量%のCe;
選択的に、総量が3
質量%未満である他の元素(不純物);及び
残量としてのFe。
【請求項15】
前記鉄ベースオーステナイト合金は、1450℃~1550℃の範囲の溶融温度を有する、請求項14に記載のターボチャージャーハウジング。
【請求項16】
請求項1~
15のいず-れか一項に記載のターボチャージャーハウジングを製造する
方法であって、
a)以下の組成の元素を溶融混合するステップ:
0.2~0.6
質量%のC、
17~25
質量%のCr、
8~13
質量%のMn、
2~6
質量%のNi、
0.5~3
質量%のSi、
0.2~1
質量%のNb、
0.2~1
質量%のV、
0.2~1.5
質量%のMo;
選択的に下記量の以下の元素のうち、1つ以上:
0.01~0.6
質量%
のN、
0.01~3
質量%のW、
0.01~0.1
質量%のB、
0.01~0.5
質量%のCu、
0.01~0.3
質量%のCe;
選択的に、総量が3
質量%未満である他の元素(不純物);及び
残量としてのFe;
b)溶融物をターボチャージャーハウジングとして鋳造するステップを含む、方法。
【請求項17】
Nの含有量は0.1~0.5質量%である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記ターボチャージャーハウジングは、熱処理
を少なくとも
1時間行った後、最高80℃/hの速度で冷却する、請求項
17に記載の
方法。
【請求項19】
前記熱処理は1000℃~1060℃のサーマルエージングである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
鋳造がインベストメント鋳造または砂型鋳造
である、請求項
16乃至19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
排気ガスまたは圧縮空気と接触している前記ターボチャージャーハウジングの内面は、前記内面上の酸化物層を少なくとも部分的に除去するための切除手順(ablating procedure)を経ない、請求項
16~20のいずれか一項に記載の
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄ベースオーステナイト合金を含む内燃機関用のターボチャージャーハウジングに関する。本発明はさらに、このようなターボチャージャーハウジングを製造する工程に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガスターボチャージャーは、ピストンエンジンの動力を増加させることを目的とするシステムである。排気ガスターボチャージャーでは、動力を増加させるために排気ガスのエネルギーが使用される。動力の増大は、作動行程当たりの混合物の処理量の増大の結果である。ターボチャージャーは、本質的に、シャフトとコンプレッサーとを備えた排気ガスタービンで構成され、ここで、エンジンの吸気管に配置されたコンプレッサーがシャフトに接続され、排気ガスタービンのケーシングに配置されたブレードホイール及びコンプレッサーが回転する。可変タービン幾何形状を有するターボチャージャーの場合、調整ブレードがブレード軸受リングに回転可能に追加で取り付けられ、調整ブレードは、ターボチャージャーのタービンケーシングに配置された調整リングによって移動する。
【0003】
ターボチャージャー構成要素に使用される材料は、極めて高い要求を満たさなければならない。さらに、これらの要求は構成要素ごとに異なり、すなわち、ブレードホイールに対する要求はタービンハウジングに対する要求と大幅に異なる。このため、現代のターボチャージャーでは、ターボチャージャーの異なる部品に使用される材料は、それぞれの作業に最適化された異なる材料から製造される。
【0004】
例えば、ターボチャージャーハウジングは、高い排気ガス温度に曝されるので、その構成要素の材料は、耐熱性及び耐食性を有しなければならない。同時に、周囲温度~最高約1050℃の作動温度でのターボチャージャーハウジングの寸法安全性が優れていなければならない。さらに、ハウジングは機械的負荷に曝されている間、急激な温度変化に曝されるので、熱機械的疲労に対して十分な耐性を有しなければならない。最後に、ハウジングはターボチャージャーの非常に大きな質量部分を構成するので、材料コストも重要な考慮事項である。
【0005】
従来技術において、非常に高温のターボチャージャーハウジングに使用された材料には、比較的に高いニッケル含有量を有するオーステナイト鉄ベース合金が含まれていた。20重量%以上の高いニッケル含有量は、このタイプの用途のために一般的に使用されるオーステナイト鉄ベース合金において一般的である(例えば、ドイツのEisenwerk Hasenclever&Sohn GmbHから入手可能なDIN EN 10295に従う鋼1.4848)。ニッケルはオーステナイト構造を安定化させ、そのような合金が高い熱安全性を有することを可能にする。欠点は、ニッケルの材料コストが非常に高く、さらに、変動が大きいので、長期的なコスト計画が困難になるということである。
【0006】
これらの問題に対処するために、従来技術には、比較的低いニッケル含有量を有するオーステナイトタービンハウジング合金が提案された。国際公開公報WO2012/158332A2号は、10重量%未満、特に1重量%未満のニッケルを有する合金を含む鉄ベースターボチャージャーハウジングを開示している。このような材料から製造されたタービンハウジングは、ニッケルが含有されていないか、またはニッケルの量が比較的少ないため、価格の変動がわずかであり、材料コストが比較的低い。その例として、国際公開公報WO2012/158332A2号は、以下の元素で構成されたターボチャージャーハウジングを提案した:0.25~0.35重量%のC、15~16.5重量%のCr、15~17重量%のMn、0.5~1.2重量%のSi、0.5~1.2重量%のNb、2~3重量%のW、0.2~0.4重量%のN、残りとしてのFe。国際公開公報WO2012/158332A2号の合金は、鋼1.4848(DIN EN 10295に従う)のような標準ニッケル含有ハウジング合金の適切な代替品を表すことができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様において、本開示は、以下の組成で構成される鉄ベースオーステナイト合金を含む内燃機関用のターボチャージャーハウジングに関するものであり、ここで、ターボチャージャーハウジングは、鉄ベースオーステナイト合金から鋳造される:
約0.2~約0.6重量%のC、
約17~約25重量%のCr、
約8~約13重量%のMn、
約2~約6重量%のNi、
約0.5~約3重量%のSi、
約0.2~約1重量%のNb、
約0.2~約1重量%のV、
約0.2~約1.5重量%のMo、
約0.01~約0.6重量%のN;
選択的に下記量の以下の元素のうち、1つ以上:
約0.01~約3重量%のW、
約0.01~約0.1重量%のB、
約0.01~約0.5重量%のCu、
約0.01~約0.3重量%のCe;
選択的に、総量が約3重量%未満である他の元素(不純物);及び
残量としてのFe。
【0008】
別の態様において、本開示は、先行項のいずれか一項に定義されているように、ターボチャージャーハウジングを製造する工程に関するものであり、以下を含む:a)以下の組成の元素を溶融混合するステップ:
約0.2~約0.6重量%のC、
約17~約25重量%のCr、
約8~約13重量%のMn、
約2~約6重量%のNi、
約0.5~約3重量%のSi、
約0.2~約1重量%のNb、
約0.2~約1重量%のV、
約0.2~約1.5重量%のMo、
約0.01~約0.6重量%のN;
選択的に下記量の以下の元素のうち、1つ以上:
約0.01~約3重量%のW、
約0.01~約0.1重量%のB、
約0.01~約0.5重量%のCu、
約0.01~約0.3重量%のCe;
選択的に、総量が約3重量%未満である他の元素(不純物);及び
残量としてのFe;
並びに、b)溶融物をターボチャージャーハウジングとして鋳造するステップ。
【0009】
上記の合金から製造されたターボチャージャーハウジングには、非常に優れた熱機械的疲労(TMF)性能及び非常に優れた耐酸化性が付与され得る。
【0010】
さらに、これらの合金から製造されたターボチャージャーハウジングは、鋳造状態で特に滑らかな表面を有し得る。タービンハウジングの内面に滑らかな表面を提供すれば、(排気)ガスの摩擦が減少するので、ターボチャージャーの効率が向上する。また、これらは鋳造された後の処理が少なくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施例1による合金のV2aエッチングされたオーステナイト形態を示す。
【
図3A】実施例1及び比較例1による合金の機械的性能を示す。
【
図3B】実施例1及び比較例1による合金の機械的性能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最も広い態様において、本開示は、以下の元素を以下の量で含む鉄ベースオーステナイト合金を含む内燃機関用のターボチャージャーハウジングに関するものである:
約0.2~約0.6重量%、特に約0.3~約0.5重量%のC、
約17~約25重量%、特に約19~約23重量%のCr、
約8~約13重量%、特に約9~約12重量%のMn、
約2~約6重量%、特に約3~約5重量%のNi、
約0.5~約3重量%、特に約1.0~約2.2重量%のSi、
約0.2~約1重量%、特に約0.3~約0.7重量%のNb、
約0.2~約1重量%、特に約0.2~約0.8重量%のV、及び
約0.2~約1.5重量%、特に約0.2~約0.8重量%のMo。
【0013】
選択的に、鉄ベースオーステナイト合金は、以下の元素のうちの1つ以上を以下の量で含み得る:
約0.01~約0.6重量%、特に約0.1~約0.5重量%のN、
約0.01~約3重量%、特に約0.5~約2重量%のW、
約0.01~約0.1重量%、特に約0.01~約0.05重量%のB、
約0.01~約0.5重量%、特に約0.1~約0.3重量%のCu、及び
約0.01~約0.3重量%、特に約0.1~約0.2重量%のCe。
【0014】
選択的に、鉄ベースオーステナイト合金は、総量が約3重量%未満(不純物)、特に約2重量%未満、より具体的には約1重量%未満である他の元素を含み得る。総量が約3重量%未満(または以下)である他の元素(不純物)を言及する場合、Feは合金の残りを形成すると理解されるべきである。
【0015】
ターボチャージャーハウジングは、鉄ベースオーステナイト合金から鋳造され得る。
【0016】
本発明によるオーステナイト鉄ベース合金は、Feに加えて、元素C、Cr、Mn、Ni、Si、Nb、V、Mo、及びNを含有するという事実を特徴とする。鉄ベース合金に添加された元素は、その内部に、または上記鉄ベース合金から形成されたターボチャージャーハウジング内に、元の形態で、すなわち元素形態で、例えば、含有物または析出相の形態で、またはその派生物の形態で、すなわち、対応する元素の化合物の形態で、例えば、鉄ベース合金の製造時、またはそれから製造されたターボチャージャーハウジングを形成するときに形成される金属炭化物または金属窒化物として存在し得る。それぞれの元素の存在は、原子吸光分析(AAO)などの従来の分析方法により、鉄ベース合金とターボチャージャーハウジングとの両方で検出され得る。
【0017】
理論に拘束されることなく、上記の元素は、本発明の合金に以下のように寄与する。以下の説明は、決して包括的及び/または限定的であることを意図しない。
【0018】
炭素(C)は、機械的強度も大幅に向上させる強力なオーステナイト形成剤であり得る。これはまた、合金溶融物の流動特性を改善させることもできる。これが約0.2重量%未満の量で存在する場合、合金溶融物は低い流動性を有し得る。これにより、本開示による鉄ベース合金の製造が困難になり得る。炭素含有量が約0.6重量%を超えると、粗粒黒鉛粒子が形成され、これは、伸度特性に悪影響を与え得る。約0.25~約0.5重量%、具体的には、約0.3~約0.45重量%の量のCを使用することが、特に有利であり得る。
【0019】
クロム(Cr)は、強力な炭化物形成体であり得、そして材料の耐温度性、特に高温強度及び高温寸法安全性を増加させることができる。Crはさらに、合金の酸化に対する耐性を促進し得るCr含有酸化物表面層を形成する能力を有することができる。耐酸化性は、約17重量%を使用すれば十分であり得る。約23重量%を超える高濃度では、クロム元素がフェライト安定剤として作用することができ、これは、オーステナイト鉄ベース合金の安全性に不利な影響を与えるか、またはオーステナイト構造の形成を妨げることができる。約19~約22.5重量%、具体的には、約20~約22重量%の量のCrを使用することが、特に有利であり得る。
【0020】
マンガン(Mn)は、本開示の合金の硬化性及び引張強度を増加させることができるが、増加の程度は炭素よりも少ない。マンガンはまた、浸炭中に炭素浸透率を増加させることができ、穏やかな脱酸素剤として作用することができる。しかし、高すぎる炭素及び高すぎるマンガンを使用すると、脆化が起こり得る。したがって、Mnの範囲を約8重量%~約13重量%、特に約8.5~約12重量%、具体的には約9.5~約11.5重量%の間に設定することが有利であり得る。
【0021】
ニッケル(Ni)は、強力なオーステナイト安定剤であり得る。さらに、Niは、合金の延性、靭性、及び耐食性を増加させることができる。しかし、Niは高価であり、Niの価格変動は予測できない。したがって、Niの範囲を約2重量%~約6重量%、特に約2.5~約5.0重量%、具体的には約3.0~約4.0重量%の間に設定することが有利であり得る。
【0022】
ケイ素(Si)は、合金溶融物の流動性を改善させることができ、さらに、材料の表面上に不動態化酸化物層を形成して、その耐酸化性を増加させることができる。しかし、大量に使用すると、Siは不安定化シグマ相(destabilizing sigma phase)の形成を促進することができる。シグマ相は、高硬度の脆性の金属間相である。シグマ相は、原子半径がごく僅かな差で整合する体心立方金属と面心立方金属が互いに衝突するときに生じる。このタイプのシグマ相は、脆化効果を有し、Crの鉄マトリックスを枯渇させることができるので、望ましくない。したがって、Siの範囲を約0.5重量%~約3重量%、特に約1.4~約2.3重量%、具体的には約1.6~約2.2重量%の間に設定することが有利であり得る。
【0023】
ニオブ(Nb)は、本開示による合金のオーステナイト構造の安定化に寄与することができる炭化物形成体であり得る。しかし、ケイ素と同様に、Nbの量が多くなると、オーステナイト鉄ベース合金におけるシグマ相の形成を促進することができる。したがって、Nbの範囲を約0.2重量%~約1重量%、特に約0.3~約0.8重量%、具体的には約0.4~約0.6重量%の間に設定することが有利であり得る。
【0024】
バナジウム(V)は、表面平滑性を提供することができる。さらに、Vは、粒径を精密にするために使用され得る。Vは、熱処理工程中に結晶粒成長の速度を減少させ、結晶粒粗大化が始まる温度を上昇させることができるので、合金の強度及び靭性を向上させることができる。しかし、Vの量が多くなると、炭化物が過剰に形成されるので、合金の硬化性が減少し得る。したがって、Vの範囲を約0.2重量%~約1重量%、特に約0.25~約0.8重量%、具体的には約0.3~約0.6重量%の間に設定することが有利であり得る。
【0025】
モリブデン(Mo)は、高温における合金材料の耐クリープ性を向上させることができる。しかし、Moの量が多くなると、オーステナイト鉄ベース合金におけるシグマ相の形成を促進することができる。したがって、Moの範囲を約0.2重量%~約1.5重量%、特に約0.25~約1.0重量%、具体的には約0.3~約0.6重量%の間に設定することが有利であり得る。
【0026】
有利には、鉄ベースオーステナイト合金は、約0.3~約0.5重量%のC、約19~約23重量%のCr、約9~約12重量%のMn、約3~約5重量%のNi、約1.0~約2.2重量%Si、約0.3~約0.7重量%のNb、約0.2~約0.8重量%のV、約0.2~約0.8重量%のMoを含有することができ、Nを使用する場合には、約0.01~約0.6重量%のN、特に約0.1~約0.5重量%のNを含有することができる。
【0027】
上述のように、本開示による合金は、選択的に他の元素、特にW、B、N、Cu、またはCeのうち、1つ以上も含み得る。
【0028】
特に、合金にBを約0.01~約0.1重量%、より具体的には約0.01重量%~約0.05重量%、及び特に約0.01~約0.02重量%の量で含めることが有利であり得る。このような量は、ターボチャージャーハウジング内への穴をあけるのに必要なトルクを減少させるのに有利であり得る。
【0029】
選択的に使用され得るが、鉄ベースオーステナイト合金は、0.5重量%未満、より具体的には0.2重量%未満、特に約0.05重量%未満のWを含有することが有利であり得る。
【0030】
窒素(N)も、選択的に使用され得る。Nは、Mnがオーステナイト鉄ベース合金に対して有する安定化効果を促進させることができる。したがって、マンガンと窒素との組み合わせが特に望ましい。窒素は、ニッケルと同様に、耐熱性、特に高温酸化及び耐食性に有利な影響を与えることができる強力なガンマ生成元素である。しかし、大量に使用すると、Nが合金を脆化させることができ、ガス放出によって鋳造が困難になり得る。したがって、Nの範囲を約0.01重量%~約0.6重量%の間に設定することが有利であり得る。
【0031】
有利には、鉄ベースオーステナイト合金は、約0.1重量%未満のS、より具体的には約0.06重量%未満のS、特に約0.04重量%未満のSを含有することができる。
【0032】
有利には、鉄ベースオーステナイト合金は、約0.1重量%未満のP、より具体的には約0.07重量%未満のP、特に約0.07重量%未満のPを含有することができる。
【0033】
有利には、鉄ベースオーステナイト合金は、約4%未満、より具体的には約3%未満、特に約2%未満のシグマ相を有し得る。当業者は、例えば、合金サンプルを形態学的に分析して、このようなシグマ相を容易に確認することができる。この場合に、%に対する言及は、形態学的サンプルの所定の表面積を占めるシグマ相の面積%を指す。
【0034】
有利には、鉄ベースオーステナイト合金は、約2~約4の平均結晶粒度を有する微細構造を有し得る(ASTM E112-12に従って測定)。代案的に、平均結晶粒度は、約2~約4であり得る(ISO 643に従って測定)。
【0035】
有利には、鉄ベースオーステナイト合金は、以下の機械的特性のうち、1つ以上、特にすべてを有し得る:
Rm:>620MPa
Rp0.2:>350MPa
伸度:>5%
硬度:240~300HB
熱膨張係数:16.5~19.5 -1/K(20~900℃)
700℃での耐熱性:Rm>385Mpa及びRp0.2>245MPa
800℃での耐熱性:Rm>240Mpa及びRp0.2>175MPa
900℃での耐熱性:Rm>150Mpa及びRp0.2>125MPa
1000℃での耐熱性:Rm>70Mpa及びRp0.2>50MPa
【0036】
有利には、鉄ベースオーステナイト合金は、以下の組成で構成され得る:
約0.3~約0.5重量%のC、
約19~約23重量%のCr、
約9~約12重量%のMn、
約3~約5重量%のNi、
約1.0~約2.2重量%のSi、
約0.3~約0.7重量%のNb、
約0.2~約0.8重量%のV、
約0.2~約0.8重量%のMo;
選択的に下記量の以下の元素のうち、1つ以上:
約0.1~約0.5重量%のN、
約0.5~約2重量%のW、
約0.01~約0.05重量%のB、
約0.1~約0.3重量%のCu、
約0.1~約0.2重量%のCe;
選択的に、総量が約3重量%未満である他の元素(不純物);及び
残量としてのFe。
【0037】
有利には、鉄ベースオーステナイト合金は、以下の組成で構成され得る:
約0.3~約0.5重量%のC、
約19~約23重量%のCr、
約9~約12重量%のMn、
約3~約5重量%のNi、
約1.0~約2.2重量%のSi、
約0.3~約0.7重量%のNb、
約0.2~約0.8重量%のV、
約0.2~約0.8重量%のMo、
約0.1~約0.5重量%のN;
選択的に下記量の以下の元素のうち、1つ以上:
約0.5~約2重量%のW、
約0.01~約0.05重量%のB、
約0.1~約0.3重量%のCu、
約0.1~約0.2重量%のCe;
選択的に、総量が約3重量%未満である他の元素(不純物);及び
残量としてのFe。
【0038】
有利には、鉄ベースオーステナイト合金は、約1550℃未満、より具体的には約1450~約1530℃の範囲、特に約1450℃~約1525℃の範囲の溶融温度を有し得る。本発明者らは、驚くべきことに、本開示の合金の溶融温度が従来のニッケル含有オーステナイト鋼及び国際公開公報WO2012/158332 A2号に開示された合金との両方の溶融温度と比較して実質的に減少し得ることを見出した。これらのオーステナイト鋼は、約1600℃~約1650℃の溶融温度を有する。したがって、本開示のこの実施形態による合金を、より低い温度で鋳造することができ、この合金は鋳造工程中により少なく酸化し得る。このため、ハウジングがこのような合金から鋳造される場合、ターボチャージャーハウジングの滑らかな表面を得ることがさらに促進され得る。
【0039】
有利には、ターボチャージャーハウジングは比較的滑らかな内面を有することができ、特にターボチャージャーハウジングの内面は約100未満、より具体的には約80未満、特に約60未満の表面粗度Rzを有することができる。表面粗度Rzは、DIN 4768:1990-05に従って決定され得る。
【0040】
本開示の別の態様では、前述の実施形態のうち、いずれか1つで定義されたような合金を使用してターボチャージャーハウジングを製造する工程が提供される。より具体的には、当該工程に関して、ターボチャージャーハウジングを製造する工程が提供され、以下を含む
a)以下の組成の元素を溶融混合するステップ:
約0.2~約0.6重量%のC、
約17~約25重量%のCr、
約8~約13重量%のMn、
約2~約6重量%のNi、
約0.5~約3重量%のSi、
約0.2~約1重量%のNb、
約0.2~約1重量%のV、
約0.2~約1.5重量%のMo;
選択的に下記量の以下の元素のうち、1つ以上:
約0.01~約0.6重量%、特に約0.1~約0.5重量%のN、
約0.01~約3重量%のW、
約0.01~約0.1重量%のB、
約0.01~約0.5重量%のCu、
約0.01~約0.3重量%のCe;
選択的に、総量が約3重量%未満である他の元素(不純物);及び
残量としてのFe;
b)溶融物をターボチャージャーハウジングとして鋳造するステップ。
【0041】
有利には、本開示による工程は、ターボチャージャーハウジングを熱処理するステップを含み得る。このような熱処理の適切な例は、約1000℃~約1060℃、特に約1010℃~約1050℃で、約2~約6時間の熱老化後、最高約80℃/h、特に約60~約80℃/hの速度で冷却させることを含む。冷却は、約500℃~約700℃、特に約550℃~約650℃の温度に到達するまで続けられ得る。その後、例えば、空冷によって、合金が周囲温度に到逹するようにすることができる。
【0042】
合金材料及びそれから製造された物品を製造するための適切で例示的な工程は、以下の文献に示されており、これらのすべてはその全文が参照により組み込まれる:米国特許第4,608,094A号、米国特許第4,532,974A号及び米国特許第4,191,094A号。
【0043】
有利には、本開示による工程における鋳造は、インベストメント鋳造または砂型鋳造工程であり得る。
【0044】
有利には、本開示による工程は、排気ガスまたは圧縮空気と接触しているターボチャージャーハウジングの内面が、上記内面上の酸化物層を少なくとも部分的に除去するための切除手順(ablating procedure)を経ない工程であり得る。
【0045】
図1は、本発明による排気ガスターボチャージャーの部分断面斜視図を示す。
図1で言及された構成要素は以下の通りである。
1 ターボチャージャー
2 タービンケーシング
3 コンプレッサーケーシング
4 タービンロータ
5 調整リング
6 ブレード軸受リング
7 調整ブレード
8 回転軸
9 供給ダクト
10 軸方向接続片
11 作動装置
12 制御ケーシング
13 案内ブレード7用の自由空間
14 タペット部材
15 タービンケーシング2の環状部分
16 スペーサ/スペーサカム
17 コンプレッサーロータ
18 案内格子
28 軸受ケーシング
R 回転軸線
【0046】
図1は、タービンケーシング2、及び軸受ケーシング28を介してタービンケイジング2に接続されているコンプレッサーケーシング3とを有するターボチャージャー1を示している。ケーシング2、3及び28は、回転軸線Rに沿って配置される。タービンケーシングは、ブレード軸受リング6及び半径方向外側の案内格子18の配置を示すために部分的に断面で示されており、案内格子18は、上記リングによって形成され、円周にわたって分布されかつ回転軸8を有する複数の調整ブレード7を有する。このようにして、調整ブレード7の位置に応じてより大きいか、より小さいノズル断面が形成され、エンジンからの排気ガスにより、回転軸線Rの中心に位置決めされたタービンロータ4に多少とも作用し、上記排気ガスは、タービンロータ4を使用して同一のシャフトに着座されたコンプレッサーロータ17を駆動するために、供給ダクト9を介して供給されかつ中央の接続片10を介して放出される。調整ブレード7の運動または位置を制御するために、作動装置11が設けられる。作動装置は、任意の所望の方法で設計することができるが、1つの選択例は、制御ケーシング12を有し、制御ケーシング12は、それに締結されたタペット部材14の制御運動を制御して、ブレード軸受リング6の背後に配置された調整リング5における上記タペット部材の運動を、上記調整リングの僅かな回転運動に変換する。調整ブレード7のための自由空間13は、ブレード軸受リング6とタービンケーシング2の環状部分15との間に形成される。この自由空間13を確保することができるように、ブレード軸受リング6は、スペーサ16を有する。
図1において、タービンケーシング2とコンプレッサーケーシング3との両方は、独立してまたは一緒に、本開示によるタービンハウジングを表すことができる。
【0047】
本開示の合金の性能特性、特に酸化及び熱衝撃に対する優れた耐性、並びに合金から製造された鋳造物の平滑性を考慮すると、本発明の合金をマニホールド、特に内燃機関用のマニホールドで使用することも考慮される。したがって、これまでターボチャージャーハウジングに関して言及した場合、その箇所は、マニホールド、特に内燃機関用のマニホールドに対して同様に適用されると理解すべきである。
【実施例1】
【0048】
ターボチャージャーハウジングは、約1498℃の鋳造温度を使用する従来の砂型鋳造工程によって製造された。鋳造工程に使用される鉄ベースオーステナイト合金は、不純物を除いて、以下の元素を含有した:
約0.3~約0.45重量%のC、
約20~約22重量%のCr、
約9.5~約11.5重量%のMn、
約3~約4重量%のNi、
約1.2~約2重量%のSi、
約0.4~約0.6重量%のNb、
約0.3~約0.6重量%のV、
約0.3~約0.6重量%のMo、
約0.15~約0.35重量%のN;
残量としてのFe。
【0049】
図2は、実施例1による合金のV2aエッチングされたオーステナイト形態を示す。
【0050】
比較実施例1
ターボチャージャーハウジングは、約1550℃の鋳造温度を使用する従来の砂型鋳造工程によって製造された。鋳造工程に使用された鉄ベースオーステナイト合金は、国際公開公報WO2012/158332A2号の実施例に開示された合金に該当する。これは、不純物を除いて、以下の元素を含有した:
約0.25~約0.35重量%のC、
約15~約16.5重量%のCr、
約15~約17重量%のMn、
約0.5~約1.2重量%のSi、
約0.5~約1.2重量%のNb、
約2~約3重量%のW、
約0.2~約0.4重量%のN、
残量としてのFe。
【0051】
実施例1及び比較例1による合金のハウジング及び試験サンプルに対して、一連の比較試験を行った。
【0052】
1.機械的性能
両方の合金の機械的性能(引張強度、降伏強度及びE-モジュラス)は、許容可能であり、特に950~1000℃の作動温度でターボチャージャーハウジングに適した範囲内であることがわかった。しかし、実施例1の合金は、作動温度での伸度に関して実質的に改善された性能を有していた:実施例1の伸度は、比較例1の約70~80%と比較して僅か約45%であった。作動温度での優れた伸度は、TMF性能に肯定的に寄与すると期待できる。
【0053】
【0054】
2.耐酸化性
合金のサンプルを1000℃(約16時間)及び1020℃(約8時間)の24時間温度サイクルで、シミュレートされた排気ガス(85%N2及び15%CO2)に曝すことによって合金の耐酸化性を試験した。全体の曝す時間は、15日/サイクル(360時間)であった。サンプルをアルゴンでフラッシングしながら、サンプルを周囲温度まで冷却させた。酸化度は、サンプルの重量変化を測定することにより決定された。
【0055】
実施例1の、酸化による重量損失は、比較例1の重量損失よりも約60%少ないことが見出された。
【0056】
試験サンプルの断面切断に対するさらなる調査によって、実施例1の酸化深さは僅か約159μmであり、表面は比較的平滑であることが明らかになった。比較例1は、約341μmの酸化深さを示し、表面は比較的粗く見えた。
【0057】
3.熱衝撃試験
実施例1による合金から製造されたターボチャージャーハウジングに対して熱衝撃試験を行った。試験条件は、以下の通りであった:温度980℃(970~995℃)及び持続時間300h/1800サイクル(サイクル時間300秒)。その後、ハウジングの酸化、スケーリング及び微細亀裂に関して検査した。ハウジングは、試験に合格し、承認された市販のターボチャージャーハウジングに匹敵するレベルで行われた。
【0058】
4.表面平滑性
実施例1及び2によるターボチャージャーハウジングは、鋳造状態での表面平滑性に関して比較された。比較例1によるハウジングと比較して、実施例1によるハウジングでは、ターボチャージャーハウジングの表面平滑性が実質的に改善された。
【実施例2】
【0059】
ターボチャージャーハウジングは、実施例1のものと類似の鋳造温度を使用する従来の砂型鋳造工程によって製造された。鋳造工程に使用される鉄ベースオーステナイト合金は、不純物を除いて、以下の元素を含有した:
約0.3~約0.45重量%のC、
約20~約22重量%のCr、
約9.5~約11.5重量%のMn、
約3~約4重量%のNi、
約1.6~約2.1重量%のSi、
約0.4~約0.6重量%のNb、
約0.3~約0.6重量%のV、
約0.3~約0.6重量%のMo、
約0.1~約0.25重量%のN;
残量としてのFe。
【0060】
同様に、合金はよく機能し、かつ部分的には実施例1の合金よりも良好した(
図4に示した特性を参照されたい)。
【0061】
本発明は、例示的に説明されており、使用された用語は限定するよりも説明する性格を持つものと意図していることを理解すべきであろう。現在、当業者に明らかであるように、上記の教示に照らして、本発明の多くの修正及び変更が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内で、本発明は、具体的に説明したものとは別の方法で実施できることを理解すべきである。